【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に説明するようにして製造した、実施例1−8および比較例2−3の親和性多孔シート、および、比較例1の不織布の物性は、以下の測定方法に供することで求めた。
【0048】
(電子顕微鏡写真による表面の測定方法)
実施例1で製造した親和性多孔シートの表面の電子顕微鏡写真を撮影し、
図1に図示した。
また、比較例1で製造した不織布の表面の電子顕微鏡写真を撮影し、
図2に図示した。
そして、比較例2で製造した親和性多孔シートの表面の電子顕微鏡写真を撮影し、
図3に図示した。
最後に、比較例3で製造した親和性多孔シートの表面の電子顕微鏡写真を撮影し、
図4に図示した。
【0049】
(動的接触角の測定方法)
実施例1の親和性多孔シートから採取した試験片、および、比較例1の不織布から採取した試験片を、動的接触角の測定装置(Fibro system ab社製、型番:DAT1100)に供することで動的接触角を測定した。
つまり、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを等体積混合してなる高極性液体の混合溶液を、各試験片の表面上に滴下することで乗せてから0.3秒後に、前記混合溶液の液滴が前記表面に対して成す角度を測定した。
なお、動的接触角が低い値を示すほど、試験片は高極性液体に対する親和性に優れていることを意味する。
【0050】
(ガーレ値の測定方法)
実施例1−8および比較例2−3のポリビニルアルコール樹脂が付与された不織布から採取した各試験片、および、比較例1の不織布から採取した試験片を、JIS P 8117:2009(紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法)に規定されている方法に供することで、ガーレ値を測定した。
なお、ガーレ値が100秒以上の試験片は通気性に劣ることを意味しており、ガーレ値が低いほど試験片は通気性に優れていることを意味する。
【0051】
(実施例1)
芯成分がポリプロピレン(融点:170℃)、鞘部がポリエチレン(融点:135℃)の芯鞘型複合繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:5mm)67質量%と、ポリプロピレン極細繊維(融点:160℃、繊維径:0.02dtex、繊維長:2mm)33質量%とを混合し、湿式抄造法により繊維ウェブを調製した。そして、前記繊維ウェブを表面温度が130℃に調整されたホットロールプレス装置へ供した後、カレンダー装置へ供して厚さを調整することで、不織布(厚さ:25μm、目付:10g/m
2)を調製した。
次いで、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:96モル%以上、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=5:95)を調製した。
ドクターブレード(隙間:60μm)法を用いて、上述のようにして調製した不織布へポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した。
そして、前記ポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であるエタノールを満たした浴槽中に浸漬した。なお、純水とエタノールとは互いに混和するものであった。
最後に、前記浴槽中から不織布を引き上げた後に40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水及びエタノールを除去して、不織布とポリビニルアルコール樹脂を含んでいる親和性多孔シート(厚さ:30μm、目付:12.7g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.7g/m
2、動的接触角:22.9度、ガーレ値:3.8秒)を製造した。
また、
図1の電子顕微鏡写真から、実施例1の親和性多孔シートの表面には、ポリビニルアルコール樹脂が多孔状に分散して存在しており、表面にポリビニルアルコール系樹脂が皮膜状に形成されていないことが判明した。
【0052】
(比較例1)
芯成分がポリプロピレン(融点:170℃)、鞘部がポリエチレン(融点:135℃)の芯鞘型複合繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:5mm)67質量%と、ポリプロピレン極細繊維(融点:160℃、繊維径:0.02dtex、繊維長:2mm)33質量%とを混合し、湿式抄造法により繊維ウェブを調製した。そして、前記繊維ウェブを表面温度が130℃に調整されたホットロールプレス装置へ供した後、ロールカレンダーによって厚さを調整することで、不織布(厚さ:25μm、目付:10g/m
2、動的接触角:37.1度、ガーレ値:1秒未満)を調製した。
【0053】
(比較例2)
実施例1で調製したポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、エタノールを満たした浴槽中に浸漬することなく40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水を除去したこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:26μm、目付:12.5g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.5g/m
2、ガーレ値:1秒)を製造した。
また、
図3の電子顕微鏡写真から、比較例2の親和性多孔シートの表面には、皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が部分的に存在していることが判明した。
【0054】
(比較例3)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:78モル%−82モル%、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:28μm、目付:13.2g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:3.2g/m
2、ガーレ値:890秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。
また、
図4の電子顕微鏡写真から、比較例3の親和性多孔シートの表面には、皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が全体的に存在していることが判明した。
【0055】
以上の結果から、本発明の製造方法によって、高極性液体に対する親和性に優れ、多孔シートが通気性の低下および表面上の構造が不均一化するのを防いで、親和性多孔シートを製造できることが判明した。
【0056】
(実施例2)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:96モル%以上、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて調製した、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=2.5:97.5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:27μm、目付:11.4g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:1.4g/m
2、ガーレ値:1.2秒)を製造した。
【0057】
(実施例3)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:96モル%以上、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=7.5:92.5)を調製した。
ドクターブレード(隙間:120μm)法を用いて、実施例1で調製した不織布へポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した。
そして、前記ポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、エタノールを満たした浴槽中に浸漬した。
最後に、前記浴槽中から不織布を引き上げた後に40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水及びエタノールを除去した後、表面温度が70℃に調整されたカレンダー装置へ供して厚さを調整することで、親和性多孔シート(厚さ:45μm、目付:22.6g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:12.6g/m
2、ガーレ値:46.2秒)を調製した。
【0058】
(実施例4)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:29μm、目付:12.9g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.9g/m
2、ガーレ値:3.2秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。
【0059】
(実施例5)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:500、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:31μm、目付:12.6g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.6g/m
2、ガーレ値:2.8秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。
【0060】
(実施例6)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:3100−3900、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:29μm、目付:13.1g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:3.1g/m
2、ガーレ値:10.2秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。
【0061】
(実施例7)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:3100−3900、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=7.5:92.5)を調製した。
ドクターブレード(隙間:100μm)法を用いて、実施例1で調製した不織布へポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した。
そして、前記ポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であるエタノールを満たした浴槽中に浸漬した。
最後に、前記浴槽中から不織布を引き上げた後に40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水及びエタノールを除去した後、表面温度が70℃に調整されたカレンダー装置へ供して厚さを調整することで、親和性多孔シート(厚さ:38μm、目付:18.1g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:8.1g/m
2、ガーレ値:97秒)を製造した。
【0062】
(実施例8)
湿式法を用いて調製した、ポリエチレンテレフタレート繊維の不織布(融点:260℃、厚さ:21μm、目付:10g/m
2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:25μm、目付:12.4g/m
2、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.4g/m
2、ガーレ値:4.5秒)を製造した。
【0063】
上述のようにして製造した、実施例1−8および比較例2−3の親和性多孔シート、および、比較例1の不織布の各々から直径16mmの円形の試験片を各々採取し、試験片を用いて以下の方法でリチウム二次電池を作製した。
【0064】
(リチウムイオン二次電池の作製)
(1)正極の作製
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO
2)粉末90質量%と、アセチレンブラック5質量%と、ポリフッカビニリデン(PVdF)5質量%をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させ、スラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ20μmのアルミ箔上に塗工し、温度140℃で30分間乾燥した後にプレスして、正極を得た。
(2)負極の作製
負極活物質として天然黒鉛粉末90質量%と、PVdF10質量%をNMP中に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ15μmの銅箔上に塗工し、温度140℃で30分間減圧乾燥した後にプレスして、負極を得た。
(3)非水電解液
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を等体積混合してなる混合溶液に、LiPF
6を1.0mol/Lとなるように溶解させた非水電解液[1mol/L、LiPF
6−EC/DEC(体積比1:1);キシダ化学(株)製]を用意した。
(4)電池の作製
上記正極、負極、非水電解液を用いて、採取した試験片を正極と負極の間にセパレータとして配置し、リチウムイオン二次電池(2032型コインセル)を作製した。
【0065】
上述のようにして作成した、リチウムイオン二次電池(2032型コインセル)を以下の測定方法へ供することで、実施例1−8および比較例1−3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして用いてなる、リチウムイオン二次電池の電池性能を評価した。
【0066】
(充放電安定性の測定方法)
作製した各リチウムイオン二次電池を以下の充放電条件1で充放電した。
・充放電条件1
充電条件:0.2Cで定電流定電圧(3−4.2Vの電圧範囲)充電
放電条件:0.2Cで定電流放電
【0067】
充放電条件1における充放電を行っている間の、リチウムイオン二次電池の電圧(V)の挙動と充放電容量(mAh/g)を測定した。実施例1−8および比較例1−3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池における、電圧(V)の挙動と充放電容量(mAh/g)を測定した結果をまとめたグラフを、
図5−
図15に各々図示する。
なお各グラフにおいて、右肩上がりのグラフ線は充電時における電圧(V)の挙動と充電容量(mAh/g)を示すものであり、右肩下がりのグラフ線は放電時における電圧(V)の挙動と放電容量(mAh/g)を示すものである。
【0068】
充放電安定性の測定を行った結果、実施例1−8に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充電時に微小短絡を生じることなく充放電を安定して行えると共に、放電容量が高くて実用性に富むものであった。
一方、比較例1−2に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充電中に電極間で微小短絡が発生したことに起因してリチウムイオン二次電池の電圧が連続的に上昇及び下降を繰り返す現象が発生した。そのため、比較例1−2に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充電時に微小短絡を生じるものであり、充放電を安定して行えるものではなかった。
また、比較例3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充放電容量が低いものであった。そのため、比較例3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充放電容量が低くて実用性に乏しいものであった。
【0069】
(高率放電特性の測定方法)
実施例1−8で作製した各リチウムイオン二次電池を、以下の充放電条件2−4で充放電して、充放電条件2−4における各リチウムイオン二次電池の放電容量を測定した。
・充放電条件2
充電条件:0.2Cで定電流充電
放電条件:0.2Cで定電流放電
・充放電条件3
充電条件:0.2Cで定電流充電
放電条件:1Cで定電流放電
・充放電条件4
充電条件:0.2Cで定電流充電
放電条件:4Cで定電流放電
【0070】
充放電条件2−4における実施例1−8で作製した各リチウムイオン二次電池の放電容量を容量維持率(%)に換算して、表1にまとめた。
なお、容量維持率(%)は、充放電条件2におけるリチウムイオン二次電池の放電容量に占める、充放電条件3と充放電条件4におけるリチウムイオン二次電池の放電容量の割合を、百分率に換算することで求めた。
【0071】
【表1】
【0072】
容量維持率の測定を行った結果、実施例1−8に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充放電条件3−4などの高率放電を行った際でも放電容量が大きく容量維持率が高いものであった。
また、以上の結果から、本発明の製造方法によって、充電時に微小短絡を生じることなく充放電を安定して行えると共に、放電容量が高くて実用性に富み、更に、高率放電を行った際でも放電容量が大きく容量維持率に優れる電気化学素子用セパレータを製造できることが判明した。