特許第5955177号(P5955177)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955177ポリビニルアルコール系樹脂が付与された多孔シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955177
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系樹脂が付与された多孔シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20160707BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20160707BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160707BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20160707BHJP
   H01M 2/16 20060101ALN20160707BHJP
   H01G 9/02 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   B05D7/24 302M
   B05D7/00 B
   B32B27/30 102
   B32B5/18
   !H01M2/16 P
   !H01M2/16 L
   !H01G9/02 301
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-206485(P2012-206485)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-61458(P2014-61458A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】趙 泰衡
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 達郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−196143(JP,A)
【文献】 特開平07−068683(JP,A)
【文献】 特開平09−131964(JP,A)
【文献】 特開2008−103092(JP,A)
【文献】 特開平02−007226(JP,A)
【文献】 特開平10−024667(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0258362(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B29D 9/00
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ケン化度が82モル%よりも大きいポリビニルアルコール系樹脂を良溶媒に溶解させて、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を調製する工程、
(2)多孔シートに、ポリビニルアルコール系樹脂量が3%以上であるように、前記ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与する工程、
(3)前記ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シート中の前記良溶媒の一部又は全部を、前記ポリビニルアルコール系樹脂の貧溶媒に置換する工程、
(4)前記置換工程に供した後の多孔シートから、前記良溶媒及び前記貧溶媒、または、前記貧溶媒を除去する工程、
を含むことを特徴とする、ポリビニルアルコール系樹脂が付与された多孔シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂が付与された多孔シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、不織布や織物あるいは編物などの布帛、通気性多孔フィルムや通気性発泡体などの素材から構成した多孔シートは、例えば、アルカリ電池やリチウム電池あるいはキャパシター等の電気化学素子用セパレータ、気体や液体の濾過材料、貼付剤用基材やプラスター剤用基材などの医療用材料、芯地などの衣料材料、化粧水等を保持したスキンケアシートやタオルあるいはオムツなどの衛生材料、バイオリアクターや細胞培養基材などバイオサイエンス材料など、様々な産業資材用途に使用できることが知られている。
そして、前記多孔シートが高極性液体に対する親和性に優れている場合(例えば親水性に優れている場合など)には、例えば、電気化学素子用セパレータなどの保液性や吸液性が求められるような産業資材用途に有用である。
【0003】
高極性液体に対する親和性に優れる多孔シートを製造する方法として、例えば、特開平06−196143号公報(以降、特許文献1、と称する)には、不織布(多孔シートに相当)に完全鹸化あるいは部分鹸化のポリビニルアルコール樹脂を付与する方法が開示されており、前記ポリビニルアルコール樹脂が付与された不織布は、アルカリ電池用セパレータとして有用であることが開示されている。
なお、特許文献1には、ポリビニルアルコール樹脂により不織布の開孔が閉塞されるのを防いで、セパレータの多孔性を保持して通気性を優れたものとするために、ポリビニルアルコール樹脂の希釈溶液を不織布へ付与する、あるいは、ポリビニルアルコール樹脂溶液を付与した不織布から余分な前記溶液を除く必要があることが開示されている。
また、特許文献1には、不織布に付与するポリビニルアルコール樹脂の添加量が3%以上であると、アルカリ電池用セパレータのガス透過性に障害が生じるとの知見が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−196143号公報(特許請求の範囲、0010、0012、0015など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、通気性と高極性液体に対する親和性に優れる多孔シートを調製するために、特許文献1が開示する方法をもとに、ポリビニルアルコール系樹脂が付与された多孔シート(以降、親和性多孔シート、と称することがある)を製造した。
【0006】
しかしながら、製造した親和性多孔シートは通気性に優れるものの、なお高極性液体に対する親和性に劣ることがあり、保液性や吸液性が求められるような産業資材用途に使用した際の性能に劣るものであった。この理由として、親和性多孔シートに付与されているポリビニルアルコール系樹脂が少ないためであると考えられた。
【0007】
一方、高極性液体に対する親和性を向上させるため多孔シートに付与するポリビニルアルコール系樹脂を多くした場合には、親和性多孔シートの表面に皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が、部分的または全体的に存在するものであった。

そして、親和性多孔シートの表面に皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が、部分的に存在している場合には、親和性多孔シートの表面上の構造が不均一化するという問題が生じるものであった。そして、表面上の構造が不均一化した親和性多孔シートを、例えば、電気化学素子用セパレータとして使用した場合、前記電気化学素子用セパレータを用いてなる電気化学素は微小短絡を発生し易いものであった。
また、親和性多孔シートの表面に皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が、全体的に存在している場合には、親和性多孔シートの通気性が低下するという問題が生じるものであった。そして、通気性が低下した親和性多孔シートを、例えば、電気化学素子用セパレータとして使用した場合、前記電気化学素子用セパレータを用いてなる電気化学素は充放電容量が低下し易いものであった。
【0008】
そのため、高極性液体に対する親和性に優れ、多孔シートが通気性の低下および表面上の構造が不均一化するのを防いで、親和性多孔シートを製造することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
「(1)ケン化度が82モル%よりも大きいポリビニルアルコール系樹脂を良溶媒に溶解させて、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を調製する工程、
(2)多孔シートに、ポリビニルアルコール系樹脂量が3%以上であるように、前記ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与する工程、
(3)前記ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シート中の前記良溶媒の一部又は全部を、前記ポリビニルアルコール系樹脂の貧溶媒に置換する工程、
(4)前記置換工程に供した後の多孔シートから、前記良溶媒及び前記貧溶媒、または、前記貧溶媒を除去する工程、
を含むことを特徴とする、ポリビニルアルコール系樹脂が付与された多孔シートの製造方法。」
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明者らは、親和性多孔シートの製造方法において、多孔シートにケン化度が82モル%よりも大きいポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与すること、ならびに、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シート中の前記良溶媒の一部又は全部を、ポリビニルアルコール系樹脂の貧溶媒に置換することによって、高極性液体に対する親和性に優れ、多孔シートが通気性の低下および表面上の構造が不均一化するのを防いで、親和性多孔シートを製造できることを見出した。
【0011】
この理由は完全には明らかになっていないが、ケン化度が82モル%よりも大きいポリビニルアルコール系樹脂を採用すると共に、多孔シートに付与したポリビニルアルコール系樹脂溶液を構成している良溶媒の一部又は全部を、貧溶媒によって置換することによって、ポリビニルアルコール系樹脂が前記貧溶媒中へ分散するようにして存在するものとなり、製造された親和性多孔シートに皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が形成されるのを防止できると考えられる。
そのため、高極性液体に対する親和性に優れる親和性多孔シートを製造するために、多孔シートに付与するポリビニルアルコール系樹脂を多くした場合であっても、多孔シートの表面にポリビニルアルコール系樹脂が皮膜状に存在するのを防ぐことができるため、多孔シートが通気性の低下および表面上の構造が不均一化するのを防いで、親和性多孔シートを製造できると考えられる。
【0012】
更に、ポリビニルアルコール系樹脂が付与された量が多い多孔シートは高極性液体に対する親和性に優れると共に、ケン化度が高いポリビニルアルコール系樹脂は高極性液体に対する親和性に優れることから、高極性液体に対する親和性に優れる親和性多孔シートを製造できると考えられる。

そのため、本発明によれば、高極性液体に対する親和性に優れ、多孔シートが通気性の低下および表面上の構造が不均一化するのを防いで、親和性多孔シートを製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で製造した、親和性多孔シートの表面の、電子顕微鏡写真である。
図2】比較例1で製造した、不織布の表面の、電子顕微鏡写真である。
図3】比較例2で製造した、親和性多孔シートの表面の、電子顕微鏡写真である。
図4】比較例3で製造した、親和性多孔シートの表面の、電子顕微鏡写真である。
図5】実施例1に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図6】比較例1に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図7】比較例2に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図8】比較例3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図9】実施例2に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図10】実施例3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図11】実施例4に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図12】実施例5に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図13】実施例6に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図14】実施例7に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
図15】実施例8に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなる、リチウムイオン二次電池における電圧の挙動と充放電容量を測定した結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の「ケン化度が82モル%よりも大きいポリビニルアルコール系樹脂を良溶媒に溶解させて、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を調製する工程」について説明する。
【0015】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール単位[−CH(OH)−CH−]を含むポリマーであるか、あるいは、その誘導体である限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール樹脂若しくはビニルアルコール共重合体(例えば、エチレンビニルアルコールなど)、あるいは、ポリビニルアセタールを例示することができる。そして、ポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、重合度100〜10000、好ましくは300〜5000、より好ましくは500〜3500のポリビニルアルコール樹脂を用いることができる。
【0016】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が82モル%以下である場合には、調製された親和性多孔シートの高極性液体に対する親和性が劣る傾向があると共に、多孔シートの表面に皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が、全体的に存在して、親和性多孔シートの通気性が低下する。
そのため、使用するポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は82モル%よりも大きい必要があり、85モル%以上100モル%以下であるのが好ましく、90モル%以上100モル%以下であるのがより好ましく、95モル%以上100モル%以下であるのが最も好ましい。
【0017】
本発明でいう良溶媒とは、本発明で使用するポリビニルアルコール系樹脂を溶解することができる溶媒のことを意味する。また、ポリビニルアルコール系樹脂を溶解することができる溶媒とは、25℃の前記溶媒100gに対してポリビニルアルコール系樹脂を1gよりも多く飽和して溶解できる溶媒をいう。
【0018】
本発明で使用する良溶媒の種類は、限定されるものではなく使用するポリビニルアルコール系樹脂に合わせて適宜選択することができ、例えば、ケン化度が82モル%よりも大きいポリビニルアルコール樹脂の良溶媒として、例えば、純水(例えば、JISK0557に規定のA1−A4グレードの水など)、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等を挙げることができる。また、良溶媒は単体あるいは混合して使用することができる。
【0019】
ポリビニルアルコール系樹脂溶液に溶解しているポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、適宜調整するものであり限定されるものではないが、前記濃度は1質量%〜15質量%であるのが好ましく、2質量%〜12.5質量%であるのがより好ましく、3質量%〜10質量%であるのがより好ましく、4質量%〜7.5質量%であるのが最も好ましい。なお前記百分率は、ポリビニルアルコール系樹脂溶液の質量に占める、ポリビニルアルコール系樹脂の質量の割合を、百分率に換算することで求めることができる。
【0020】
また、ポリビニルアルコール系樹脂が良溶媒へ溶解し切れずに固体で存在してなるポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いると、親和性多孔シートにポリビニルアルコール系樹脂が凝集した部分が生じ易くなり、表面上の構造が不均一化した親和性多孔シートとなる傾向がある。
そのため、ポリビニルアルコール系樹脂が良溶媒へ完全に溶解してなるポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いるのが好ましい。なお、本発明に係るポリビニルアルコール系樹脂を溶解させる際の、良溶媒の温度は適宜調整するものであるが、例えば、60℃〜100℃の範囲とすることができる。
【0021】
多孔シートに機能性を付与する場合には、ポリビニルアルコール系樹脂溶液に、例えば、後述する有機ポリマー、無機粒子、活性炭やカーボンブラック、色素、難燃剤、防虫剤、芳香剤、脱臭剤、触媒、界面活性剤などを混合してもよい。
【0022】
例えば電気化学素子用セパレータとして使用可能な親和性多孔シートを製造する場合には、親和性多孔シートに耐熱性を付与するため無機粒子を混合したポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いる、あるいは、親和性多孔シートにシャットダウン性能を付与するためポリオレフィン系樹脂などの低融点を備える樹脂粒子を混合したポリビニルアルコール系樹脂溶液を用いるのが好ましい。
【0023】
なお、無機粒子の種類として、例えば、酸化鉄、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、アルミナ−シリカ複合酸化物、MgO、Y、CaO、TiO、SnO、BaTiO、ZrO、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの金属酸化物;Al(OH)、Mg(OH)、Zr(OH)などの金属水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物などを例示することができる。
【0024】
次いで、本発明の「多孔シートに、前記ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与する工程」について説明する。
【0025】
多孔シートにポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与する方法は限定されるものではなく、適宜選択できるが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂溶液の浴中に多孔シートを浸漬する方法、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を多孔シートに散布あるいは塗布する方法などを挙げることができる。
【0026】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を多孔シートに散布する方法として、例えば、スプレー等を用いた手段を採用することができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を多孔シートに塗布する方法として、例えば、エアーナイフコータ、ブレードコータ、バーコータ、カーテンコータ、グラビアロール及びトランスファロールコータ、ロールコータ、Uコンマコータ、AKKUコータ、マイクログラビアコータ、リバースロールコータ、4本あるいは5本ロールコータ、ディップコータ、ロッドコータ、キスコータ、ゲートロールコータ、スクイズコータ、スライドコータ、ダイコータ等を用いた手段を採用することができる。
【0027】
多孔シートに付与するポリビニルアルコール系樹脂溶液の質量は、最終的に製造される親和性多孔シートに求められる高極性液体に対する親和性の程度によって異なるため、限定されるものではなく、良溶媒に溶解しているポリビニルアルコール系樹脂の濃度やポリビニルアルコール系樹脂のケン化度などによって適宜調整する。
【0028】
本発明で用いる多孔シートは、例えば、不織布や織物あるいは編物などの布帛、通気性多孔フィルムや通気性発泡体などの素材から構成することができる。また、これらの素材は単体で多孔シートとして使用できるが、複数の素材を積層するなど組み合わせて多孔シートとして使用することもできる。
【0029】
多孔シートを構成する成分は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の有機ポリマーからなることができる。
なお、これらの有機ポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機ポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。
更には、有機ポリマーを混ぜ合わせたものでも良く、特に限定されるものではない。
【0030】
多孔シートが布帛から構成されている場合、布帛を構成する繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0031】
布帛を構成する繊維は、一種類あるいは複数種類の樹脂成分から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂成分を含んでなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの複合繊維を使用することができる。
【0032】
前記布帛が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を、織るあるいは編むことで多孔シートを調製することができる。
【0033】
布帛が不織布である場合、不織布を製造可能な繊維ウェブの調製方法として、例えば、乾式法、湿式法などを用いることができる。特に、繊維分布や開孔が均一であることによって、様々な産業資材用途(例えば、電気化学素子用セパレータなど)に有用な不織布を製造することができることから、湿式法を用いて繊維ウェブを調製するのが好ましい。
【0034】
繊維ウエブを構成する繊維同士を絡合および/または一体化して不織布にする方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維同士をバインダで一体化する方法、あるいは、繊維ウエブが熱可塑性樹脂を備える繊維を含んでいる場合には、繊維ウエブを加熱処理することで前記熱可塑性樹脂を溶融して、繊維同士を一体化する方法を挙げることができる。なお、繊維ウエブを加熱処理する方法として、例えば、カレンダーロールにより加熱加圧する方法、熱風乾燥機により加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して熱可塑性樹脂繊維を溶融させる方法などを用いることができる。
また、直接紡糸法を用いて紡糸された繊維を捕集することで、不織布を調製してもよい。
【0035】
多孔シートが前述した通気性多孔フィルムや通気性発泡体である場合、例えば、溶融状態の樹脂を型に流し込み成型、発泡処理するなど、公知の方法へ供することで多孔シートを調製することができる。
【0036】
多孔シートの目付、厚さなどの諸特性は、特に限定されるべきものではなく、適宜調整するのが好ましいが、多孔シートの目付は、0.5〜999g/mであることができ、2〜500g/mであるのが好ましい。電気化学素子用セパレータを調製可能な多孔シートの場合、その目付は1〜100g/mであるのが好ましく、5〜20g/mであるのがより好ましく、8〜15g/mであるのがより好ましく、10〜12g/mであるのが最も好ましい。
多孔シートの厚さは、0.5μm〜9.9cmであることができ、電気化学素子用セパレータを調製可能な多孔シートの場合、その厚さは1〜200μmであるのが好ましく、10〜40μmであるのがより好ましく、15〜30μmであるのがより好ましく、20〜25μmであるのが最も好ましい。
なお、本発明では、目付とは面積1mあたりの質量をいい、厚さとは厚さ測定器(デジマチック標準外側マイクロメータ(MCC−MJ/PJ)1/1000mm(株)ミツトヨ)により計測した、500g荷重時測定値の5点の厚さの算術平均値をいう。
【0037】
続いて、「ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シート中の前記良溶媒の一部又は全部を、前記ポリビニルアルコール系樹脂の貧溶媒に置換する工程」について説明する。なお、本発明でいう貧溶媒とは、本発明で使用するポリビニルアルコール系樹脂を溶解しない溶媒のことを意味する。また、ポリビニルアルコール系樹脂を溶解しない溶媒とは、25℃の前記溶媒100gに対してポリビニルアルコール系樹脂を1g以下しか飽和して溶解しない溶媒をいう。
【0038】
本発明で使用する貧溶媒の種類は、限定されるものではなく適宜選択することができ、例えば、ケン化度が82モル%よりも大きいポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒として、例えば、メタノール、エタノール等を挙げることができる。また、貧溶媒は単体あるいは混合して使用することができる。
【0039】
また、ポリビニルアルコール系樹脂の良溶媒と互いに混和する貧溶媒を用いると、多孔シートに存在しているポリビニルアルコール系樹脂溶液を構成している良溶媒を、貧溶媒によって効率よく置換することができ好ましい。
【0040】
ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シート中の良溶媒の一部又は全部を、ポリビニルアルコール系樹脂の貧溶媒に置換する方法は限定されるものではなく、適宜選択できるが、例えば、貧溶媒の浴中にポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シートを浸漬する方法、貧溶媒をポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シートに散布あるいは塗布する方法などを挙げることができる。また、前記散布あるいは塗布方法は、上述した手段を採用することができる。
【0041】
そして、前記多孔シートに付与する貧溶媒の質量は、多孔シートに付与されているポリビニルアルコール系樹脂のケン化度や質量あるいは良溶媒の質量などによって、適宜調整する。
【0042】
なお、ポリビニルアルコール系樹脂溶液を付与した多孔シート中の良溶媒を、ポリビニルアルコール系樹脂の貧溶媒に置換する際の、貧溶媒の温度は適宜調整するものであるが、例えば、−10℃〜60℃の範囲とすることができる。
【0043】
最後に、「前記置換工程に供した後の多孔シートから、前記良溶媒及び前記貧溶媒、または、前記貧溶媒を除去する工程」について説明する。
【0044】
前記除去する方法は適宜調整でき、例えば、前記置換した後の多孔シートを、室温(25℃)に放置する方法、減圧条件下に曝す方法、良溶媒及び/又は貧溶媒が揮発可能な温度以上の雰囲気下に曝す方法、あるいは、加熱装置へ供する方法を挙げることができる。
【0045】
加熱装置として、例えば、近赤外線ヒータ、遠赤外線ヒータ、ハロゲンヒータなどの加熱により良溶媒及び/又は貧溶媒を除去する方法、あるいは、送風などにより良溶媒及び/又は貧溶媒を除去する方法、あるいは、加熱と送風を組み合わせた方法を使用することができる。
なお、加熱温度は適宜調整するが、多孔シートを構成している有機ポリマーが溶融して親和性多孔シートの表面が不均一化するのを防止できるように、前記加熱温度は良溶媒及び/又は貧溶媒が揮発可能な温度以上、多孔シートを構成している有機ポリマーの融点よりも低い温度であるのが好ましい。
【0046】
本発明の親和性多孔シートの製造方法によって、高極性液体に対する親和性に優れ、多孔シートが通気性の低下および表面上の構造が不均一化するのを防いで、親和性多孔シートを製造できる。
そのため、本発明の親和性多孔シートの製造方法によって、例えば、アルカリ電池やリチウム電池およびキャパシター等の電気化学素子用セパレータ、気体や液体の濾過材料、貼付剤用基材やプラスター剤用基材などの医療用材料、芯地などの衣料材料、化粧水等を保持したスキンケアシートやタオルあるいはオムツなどの衛生材料、バイオリアクターや細胞培養基材などバイオサイエンス材料など、様々な産業資材用途に有用な親和性多孔シートを製造することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、以下に説明するようにして製造した、実施例1−8および比較例2−3の親和性多孔シート、および、比較例1の不織布の物性は、以下の測定方法に供することで求めた。
【0048】
(電子顕微鏡写真による表面の測定方法)
実施例1で製造した親和性多孔シートの表面の電子顕微鏡写真を撮影し、図1に図示した。
また、比較例1で製造した不織布の表面の電子顕微鏡写真を撮影し、図2に図示した。
そして、比較例2で製造した親和性多孔シートの表面の電子顕微鏡写真を撮影し、図3に図示した。
最後に、比較例3で製造した親和性多孔シートの表面の電子顕微鏡写真を撮影し、図4に図示した。
【0049】
(動的接触角の測定方法)
実施例1の親和性多孔シートから採取した試験片、および、比較例1の不織布から採取した試験片を、動的接触角の測定装置(Fibro system ab社製、型番:DAT1100)に供することで動的接触角を測定した。
つまり、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを等体積混合してなる高極性液体の混合溶液を、各試験片の表面上に滴下することで乗せてから0.3秒後に、前記混合溶液の液滴が前記表面に対して成す角度を測定した。
なお、動的接触角が低い値を示すほど、試験片は高極性液体に対する親和性に優れていることを意味する。
【0050】
(ガーレ値の測定方法)
実施例1−8および比較例2−3のポリビニルアルコール樹脂が付与された不織布から採取した各試験片、および、比較例1の不織布から採取した試験片を、JIS P 8117:2009(紙及び板紙−透気度試験方法−ガーレー試験機法)に規定されている方法に供することで、ガーレ値を測定した。
なお、ガーレ値が100秒以上の試験片は通気性に劣ることを意味しており、ガーレ値が低いほど試験片は通気性に優れていることを意味する。
【0051】
(実施例1)
芯成分がポリプロピレン(融点:170℃)、鞘部がポリエチレン(融点:135℃)の芯鞘型複合繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:5mm)67質量%と、ポリプロピレン極細繊維(融点:160℃、繊維径:0.02dtex、繊維長:2mm)33質量%とを混合し、湿式抄造法により繊維ウェブを調製した。そして、前記繊維ウェブを表面温度が130℃に調整されたホットロールプレス装置へ供した後、カレンダー装置へ供して厚さを調整することで、不織布(厚さ:25μm、目付:10g/m)を調製した。

次いで、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:96モル%以上、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=5:95)を調製した。

ドクターブレード(隙間:60μm)法を用いて、上述のようにして調製した不織布へポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した。
そして、前記ポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であるエタノールを満たした浴槽中に浸漬した。なお、純水とエタノールとは互いに混和するものであった。

最後に、前記浴槽中から不織布を引き上げた後に40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水及びエタノールを除去して、不織布とポリビニルアルコール樹脂を含んでいる親和性多孔シート(厚さ:30μm、目付:12.7g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.7g/m、動的接触角:22.9度、ガーレ値:3.8秒)を製造した。

また、図1の電子顕微鏡写真から、実施例1の親和性多孔シートの表面には、ポリビニルアルコール樹脂が多孔状に分散して存在しており、表面にポリビニルアルコール系樹脂が皮膜状に形成されていないことが判明した。
【0052】
(比較例1)
芯成分がポリプロピレン(融点:170℃)、鞘部がポリエチレン(融点:135℃)の芯鞘型複合繊維(繊度:0.8dtex、繊維長:5mm)67質量%と、ポリプロピレン極細繊維(融点:160℃、繊維径:0.02dtex、繊維長:2mm)33質量%とを混合し、湿式抄造法により繊維ウェブを調製した。そして、前記繊維ウェブを表面温度が130℃に調整されたホットロールプレス装置へ供した後、ロールカレンダーによって厚さを調整することで、不織布(厚さ:25μm、目付:10g/m、動的接触角:37.1度、ガーレ値:1秒未満)を調製した。
【0053】
(比較例2)
実施例1で調製したポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、エタノールを満たした浴槽中に浸漬することなく40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水を除去したこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:26μm、目付:12.5g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.5g/m、ガーレ値:1秒)を製造した。

また、図3の電子顕微鏡写真から、比較例2の親和性多孔シートの表面には、皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が部分的に存在していることが判明した。
【0054】
(比較例3)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:78モル%−82モル%、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:28μm、目付:13.2g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:3.2g/m、ガーレ値:890秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。

また、図4の電子顕微鏡写真から、比較例3の親和性多孔シートの表面には、皮膜状のポリビニルアルコール系樹脂が全体的に存在していることが判明した。
【0055】
以上の結果から、本発明の製造方法によって、高極性液体に対する親和性に優れ、多孔シートが通気性の低下および表面上の構造が不均一化するのを防いで、親和性多孔シートを製造できることが判明した。
【0056】
(実施例2)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:96モル%以上、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて調製した、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=2.5:97.5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:27μm、目付:11.4g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:1.4g/m、ガーレ値:1.2秒)を製造した。
【0057】
(実施例3)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:96モル%以上、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=7.5:92.5)を調製した。

ドクターブレード(隙間:120μm)法を用いて、実施例1で調製した不織布へポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した。
そして、前記ポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、エタノールを満たした浴槽中に浸漬した。
最後に、前記浴槽中から不織布を引き上げた後に40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水及びエタノールを除去した後、表面温度が70℃に調整されたカレンダー装置へ供して厚さを調整することで、親和性多孔シート(厚さ:45μm、目付:22.6g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:12.6g/m、ガーレ値:46.2秒)を調製した。
【0058】
(実施例4)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:900−1100、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:29μm、目付:12.9g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.9g/m、ガーレ値:3.2秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。
【0059】
(実施例5)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:500、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:31μm、目付:12.6g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.6g/m、ガーレ値:2.8秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。
【0060】
(実施例6)
実施例1で使用したポリビニルアルコール樹脂の代わりに、ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:3100−3900、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:29μm、目付:13.1g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:3.1g/m、ガーレ値:10.2秒)を製造した。
なお、エタノールは前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であった。
【0061】
(実施例7)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:86モル%−90モル%、平均重合度:3100−3900、和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解させて、ポリビニルアルコール樹脂水溶液(ポリビニルアルコール樹脂質量:純水質量=7.5:92.5)を調製した。

ドクターブレード(隙間:100μm)法を用いて、実施例1で調製した不織布へポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した。
そして、前記ポリビニルアルコール樹脂水溶液を付与した不織布を、前記ポリビニルアルコール樹脂の貧溶媒であるエタノールを満たした浴槽中に浸漬した。
最後に、前記浴槽中から不織布を引き上げた後に40℃の雰囲気下に静置することで、前記不織布中から純水及びエタノールを除去した後、表面温度が70℃に調整されたカレンダー装置へ供して厚さを調整することで、親和性多孔シート(厚さ:38μm、目付:18.1g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:8.1g/m、ガーレ値:97秒)を製造した。
【0062】
(実施例8)
湿式法を用いて調製した、ポリエチレンテレフタレート繊維の不織布(融点:260℃、厚さ:21μm、目付:10g/m)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、親和性多孔シート(厚さ:25μm、目付:12.4g/m、ポリビニルアルコール樹脂の付与質量:2.4g/m、ガーレ値:4.5秒)を製造した。
【0063】
上述のようにして製造した、実施例1−8および比較例2−3の親和性多孔シート、および、比較例1の不織布の各々から直径16mmの円形の試験片を各々採取し、試験片を用いて以下の方法でリチウム二次電池を作製した。
【0064】
(リチウムイオン二次電池の作製)
(1)正極の作製
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)粉末90質量%と、アセチレンブラック5質量%と、ポリフッカビニリデン(PVdF)5質量%をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させ、スラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ20μmのアルミ箔上に塗工し、温度140℃で30分間乾燥した後にプレスして、正極を得た。
(2)負極の作製
負極活物質として天然黒鉛粉末90質量%と、PVdF10質量%をNMP中に分散させてスラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ15μmの銅箔上に塗工し、温度140℃で30分間減圧乾燥した後にプレスして、負極を得た。
(3)非水電解液
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を等体積混合してなる混合溶液に、LiPFを1.0mol/Lとなるように溶解させた非水電解液[1mol/L、LiPF−EC/DEC(体積比1:1);キシダ化学(株)製]を用意した。
(4)電池の作製
上記正極、負極、非水電解液を用いて、採取した試験片を正極と負極の間にセパレータとして配置し、リチウムイオン二次電池(2032型コインセル)を作製した。
【0065】
上述のようにして作成した、リチウムイオン二次電池(2032型コインセル)を以下の測定方法へ供することで、実施例1−8および比較例1−3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして用いてなる、リチウムイオン二次電池の電池性能を評価した。
【0066】
(充放電安定性の測定方法)
作製した各リチウムイオン二次電池を以下の充放電条件1で充放電した。

・充放電条件1
充電条件:0.2Cで定電流定電圧(3−4.2Vの電圧範囲)充電
放電条件:0.2Cで定電流放電
【0067】
充放電条件1における充放電を行っている間の、リチウムイオン二次電池の電圧(V)の挙動と充放電容量(mAh/g)を測定した。実施例1−8および比較例1−3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池における、電圧(V)の挙動と充放電容量(mAh/g)を測定した結果をまとめたグラフを、図5図15に各々図示する。
なお各グラフにおいて、右肩上がりのグラフ線は充電時における電圧(V)の挙動と充電容量(mAh/g)を示すものであり、右肩下がりのグラフ線は放電時における電圧(V)の挙動と放電容量(mAh/g)を示すものである。
【0068】
充放電安定性の測定を行った結果、実施例1−8に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充電時に微小短絡を生じることなく充放電を安定して行えると共に、放電容量が高くて実用性に富むものであった。
一方、比較例1−2に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充電中に電極間で微小短絡が発生したことに起因してリチウムイオン二次電池の電圧が連続的に上昇及び下降を繰り返す現象が発生した。そのため、比較例1−2に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充電時に微小短絡を生じるものであり、充放電を安定して行えるものではなかった。
また、比較例3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充放電容量が低いものであった。そのため、比較例3に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充放電容量が低くて実用性に乏しいものであった。
【0069】
(高率放電特性の測定方法)
実施例1−8で作製した各リチウムイオン二次電池を、以下の充放電条件2−4で充放電して、充放電条件2−4における各リチウムイオン二次電池の放電容量を測定した。

・充放電条件2
充電条件:0.2Cで定電流充電
放電条件:0.2Cで定電流放電
・充放電条件3
充電条件:0.2Cで定電流充電
放電条件:1Cで定電流放電
・充放電条件4
充電条件:0.2Cで定電流充電
放電条件:4Cで定電流放電
【0070】
充放電条件2−4における実施例1−8で作製した各リチウムイオン二次電池の放電容量を容量維持率(%)に換算して、表1にまとめた。
なお、容量維持率(%)は、充放電条件2におけるリチウムイオン二次電池の放電容量に占める、充放電条件3と充放電条件4におけるリチウムイオン二次電池の放電容量の割合を、百分率に換算することで求めた。
【0071】
【表1】
【0072】
容量維持率の測定を行った結果、実施例1−8に係る試験片を電気化学素子用セパレータとして使用してなるリチウムイオン二次電池は、充放電条件3−4などの高率放電を行った際でも放電容量が大きく容量維持率が高いものであった。

また、以上の結果から、本発明の製造方法によって、充電時に微小短絡を生じることなく充放電を安定して行えると共に、放電容量が高くて実用性に富み、更に、高率放電を行った際でも放電容量が大きく容量維持率に優れる電気化学素子用セパレータを製造できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、例えば、アルカリ電池やリチウム電池あるいはキャパシター等の電気化学素子用セパレータ、気体や液体の濾過材料、貼付剤用基材やプラスター剤用基材などの医療用材料、芯地などの衣料材料、化粧水等を保持したスキンケアシートやタオルあるいはオムツなどの衛生材料、バイオリアクターや細胞培養基材などバイオサイエンス材料など、様々な産業資材用途に有用な親和性多孔シートを製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15