特許第5955180号(P5955180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955180ステッチプレッサを備えた横編機及びその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955180
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ステッチプレッサを備えた横編機及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 15/00 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   D04B15/00 101
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-209148(P2012-209148)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-62347(P2014-62347A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100117097
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 充浩
(72)【発明者】
【氏名】森 淳
【審査官】 田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−008841(JP,A)
【文献】 特開2012−117188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針床に沿って往復移動しながら編針に選択的な編成動作を行わせるキャリッジに搭載され、ヤーンキャリアの給糸口から給糸された編糸によって編成される編地を押圧可能とするフィンガが、前記キャリッジの移動中に、前記編地を押圧するセット位置と前記編地から離反するリセット位置とに切り換えられるステッチプレッサを備えた横編機において、
前記フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことを検出するリセット位置検出手段と、
前記フィンガの先端部の復帰状態を検出する復帰状態検出手段と、
前記リセット位置検出手段によって前記フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことが検出された状態で、前記復帰状態検出手段によって前記フィンガの先端部が復帰していないことが検出されたときにのみ、前記フィンガの先端部に不具合が生じていると判定する判定手段と、
を備えていることを特徴とするステッチプレッサを備えた横編機。
【請求項2】
前記判定手段は、前記キャリッジが反転する際に前記フィンガの先端部に不具合が生じていると判定されると、前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口とが干渉していると判断し、当該両者の干渉を回避する干渉回避動作を行わせる干渉回避動作手段を備えている請求項1に記載のステッチプレッサを備えた横編機。
【請求項3】
前記干渉回避動作手段としては、前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口との干渉を前記キャリッジの移動ストロークの延長によって回避するストローク延長手段が適用されている請求項2に記載のステッチプレッサを備えた横編機。
【請求項4】
前記干渉回避動作手段は、前記判定手段によって前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口との干渉が前記キャリッジの移動方向の同一箇所で間欠的に又は連続して判定されたときに当該箇所でのそれ以降の前記キャリッジの移動ストロークを延長させている請求項2に記載のステッチプレッサを備えた横編機。
【請求項5】
前記干渉回避動作手段としては、前記ヤーンキャリアを自力で移動させる駆動部を有し、かつ前記駆動部により前記ヤーンキャリアを前記キャリッジの進行していた方向とは逆の方向へ自力で移動させて前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口との干渉を回避するヤーンキャリア移動手段が適用されている請求項2に記載のステッチプレッサを備えた横編機。
【請求項6】
前記復帰状態検出手段は、
2位置間で揺動自在に支持され、かつ当該2位置のうちの一方の位置側に付勢された揺動片と、
前記揺動片が前記一方の位置にあるときは、前記フィンガの先端部が復帰していないことを検出し、前記フィンガの先端部が前記揺動片に当接して当該揺動片が前記一方の位置から他方の位置へ揺動したときに前記フィンガの先端部がリセット位置に復帰していることを検出する検出部と
を備えている請求項2〜請求項5のいずれか1つに記載のステッチプレッサを備えた横編機。
【請求項7】
針床に沿って往復移動しながら編針に選択的な編成動作を行わせるキャリッジに搭載され、ヤーンキャリアの給糸口から給糸された編糸によって編成される編地を押圧可能とするフィンガが、前記キャリッジの移動中に、前記編地を押圧するセット位置と前記編地から離反するリセット位置とに切り換えられるステッチプレッサを備えた横編機の制御方法において、
前記フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことを検出した後、前記フィンガの先端部の復帰状態を検出する復帰状態検出手段によって前記フィンガの先端部が復帰していないことが検出されたときにのみ、前記フィンガの先端部に不具合が生じていると判定することを特徴とするステッチプレッサを備えた横編機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリッジとともに移動し、編地を押圧するセット位置と編地から離反するリセット位置とにフィンガを切換えるステッチプレッサを備えた横編機及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯口を挟んで前後の針床が逆V字状に対向する横編機においては、歯口で編成中の編地をステッチプレッサによって押圧することが行われている。このステッチプレッサは、大略的に略L字状を呈し、針床に沿って往復移動しながら編針に選択的な編成動作を行わせるキャリッジに搭載されている。そして、ステッチプレッサは、基端部にて片持ち支持されて先端が延び、かつヤーンキャリアの給糸口から給糸された編糸によって編成される編地を押圧可能とするフィンガを備え、このフィンガが、キャリッジの移動中に、編地を押圧するセット位置と編地から離反するリセット位置とに切り換えられる。
【0003】
ところで、多数のヤーンキャリアを使用する編成では、これらのヤーンキャリアが密集して停止することがある。その場合、密集するヤーンキャリア同士が針床の前後方向で重なり合っていると、キャリッジを反転させる際にセット位置からリセット位置に切り換えられるフィンガの移動軌跡に各ヤーンキャリアの給糸口が干渉するおそれがある。また、横編機の使用者によっては、給糸口を下降させて糸喰いし易く歯口に近付けた状態でヤーンキャリアを使用することがあり、この場合においても、フィンガの移動軌跡に各ヤーンキャリアの給糸口が干渉するおそれがある。
このような状態では、いずれの場合も、キャリッジを反転させる際にフィンガとヤーンキャリアの給糸口との引っ掛かりが危惧され、両者が引っ掛かった状態でキャリッジを反転させると、フィンガの先端部が曲がってしまう。
【0004】
そこで、従来より、編地の編成データに基づいて各ヤーンキャリアの停止位置を記憶しておき、キャリッジを反転させる際にリセット位置に切換えたフィンガと各ヤーンキャリアの給糸口とが干渉する可能性があると判定されれば、キャリッジの移動ストロークを延長させて両者の干渉を回避してから、キャリッジを反転させるようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4977603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フィンガが、基端部にて片持ち支持されて先端部を延ばす構造となるため、先端部に経年変化による曲がりなどの不具合が生じるおそれがあり、このような不具合は非常に確認し難いものであった。特に、フィンガと各ヤーンキャリアの給糸口との干渉状態を編地の編成データに基づいて判断しているものでは、この両者の干渉状態を実際に確認できないため、フィンガの先端部に不具合を生じていても、そのまま知らずに使用することもあった。
【0007】
本発明の目的は、フィンガの先端部で生じる不具合を簡単に確認することができ、先端部に不具合を生じたままでのフィンガの使用を確実に防止することができるステッチプレッサを備えた横編機及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、針床に沿って往復移動しながら編針に選択的な編成動作を行わせるキャリッジに搭載され、ヤーンキャリアの給糸口から給糸された編糸によって編成される編地を押圧可能とするフィンガが、前記キャリッジの移動中に、前記編地を押圧するセット位置と前記編地から離反するリセット位置とに切り換えられるステッチプレッサを備えた横編機を前提とする。そして、前記フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことを検出するリセット位置検出手段と、前記フィンガの先端部の復帰状態を検出する復帰状態検出手段と、前記リセット位置検出手段によって前記フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことが検出された状態で、前記復帰状態検出手段によって前記フィンガの先端部が復帰していないことが検出されたときにのみ、前記フィンガの先端部に不具合が生じていると判定する判定手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
また、前記判定手段は、前記キャリッジが反転する際に前記フィンガの先端部に不具合が生じていると判定されると、前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口とが干渉していると判断し、当該両者の干渉を回避する干渉回避動作を行わせる干渉回避動作手段を備えていてもよい。
【0010】
また、前記干渉回避動作手段として、前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口との干渉を前記キャリッジの移動ストロークの延長によって回避するストローク延長手段が適用されていてもよい。
【0011】
また、前記干渉回避動作手段は、前記判定手段によって前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口との干渉が前記キャリッジの移動方向の同一箇所で間欠的に又は連続して判定されたときに当該箇所でのそれ以降の前記キャリッジの移動ストロークを延長させていてもよい。
【0012】
これに対し、前記干渉回避動作手段として、前記ヤーンキャリアを自力で移動させる駆動部を有し、かつ前記駆動部により前記ヤーンキャリアを前記キャリッジの進行していた方向とは逆の方向へ自力で移動させて前記フィンガと前記ヤーンキャリアの給糸口との干渉を回避するヤーンキャリア移動手段が適用されていてもよい。
【0013】
更に、前記復帰状態検出手段は、2位置間で揺動自在に支持され、かつ当該2位置のうちの一方の位置側に付勢された揺動片と、前記揺動片が前記一方の位置にあるときは、前記フィンガの先端部が復帰していないことを検出し、前記フィンガの先端部が前記揺動片に当接して当該揺動片が前記一方の位置から他方の位置へ揺動したときに前記フィンガの先端部がリセット位置に復帰していることを検出する検出部と、を備えていてもよい。
【0014】
また、前記目的を達成するため、本発明では、針床に沿って往復移動しながら編針に選択的な編成動作を行わせるキャリッジに搭載され、ヤーンキャリアの給糸口から給糸された編糸によって編成される編地を押圧可能とするフィンガが、前記キャリッジの移動中に、前記編地を押圧するセット位置と前記編地から離反するリセット位置とに切り換えられるステッチプレッサを備えた横編機の制御方法を前提とする。そして、前記フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことを検出した後、前記フィンガの先端部の復帰状態を検出する復帰状態検出手段によって前記フィンガの先端部が復帰していないことが検出されたときにのみ、前記フィンガの先端部に不具合が生じていると判定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことが検出された状態で、当該フィンガの先端部が復帰していないことが検出されたときにのみ、フィンガの先端部に不具合が生じていると判定することで、フィンガの先端部での曲がりなどの不具合を簡単に確認することができ、先端部に不具合を生じたままでのフィンガの使用を確実に防止することができる。
【0016】
また、キャリッジが反転する際にフィンガの先端部に不具合が生じていると判定されれば、フィンガとヤーンキャリアの給糸口とが干渉していると判断し、当該両者の干渉を回避する干渉回避動作を行わせることで、両者が実際に干渉しているか否かの検出結果に基づいて当該両者の干渉状態が確実に把握され、判定精度を高めることができる。
しかも、フィンガとヤーンキャリアの給糸口とが干渉していないと判定されれば、干渉回避動作を行う必要がない。これにより、編成データによりフィンガとヤーンキャリアの給糸口とが干渉する可能性に基づいてキャリッジの移動ストロークを過分に延長させたものに比して1コース当たりのキャリッジの移動ストロークが短縮され、編成効率を向上させることができる。
【0017】
また、干渉回避動作手段としてストローク延長手段を適用し、フィンガとヤーンキャリアの給糸口との干渉をキャリッジの移動ストロークの延長によって回避することで、キャリッジの移動ストロークを順方向へそのまま延長させるだけでフィンガとヤーンキャリアの給糸口との干渉を簡単に回避させることができる。
【0018】
また、フィンガとヤーンキャリアの給糸口との干渉がキャリッジの移動方向の同一箇所で間欠的に又は連続して判定されたきに当該箇所でのそれ以降のキャリッジの移動ストロークを延長させることで、同一箇所でキャリッジの移動ストロークをその都度延長させる違和感をなくし、キャリッジを反転位置までスムーズに移動させることができる。
【0019】
これに対し、干渉回避動作手段としてヤーンキャリア移動手段を適用し、ヤーンキャリアをキャリッジの進行していた方向とは逆の方向へ駆動部により自力で移動させてフィンガとヤーンキャリアの給糸口との干渉を回避することで、1コース当たりのキャリッジの移動ストロークを延長させてフィンガと給糸口との干渉を回避する必要がなく、さらなる編成効率の向上を図ることができる。
【0020】
更に、フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことを検出した状態で、当該フィンガの先端部が当接した揺動片が2位置のうちの一方の位置から他方の位置へ揺動したときにフィンガの先端部がリセット位置に復帰しているか否かを検出部で検出することで、揺動片と検出部とからなる簡単な構造で復帰状態検出手段を構成することができる。
【0021】
また、フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことを検出した状態で、当該フィンガの先端部が復帰していないと検出されたときにのみ、フィンガの先端部に不具合が生じていると判定することで、フィンガの先端部での曲がりなどの不具合を簡単に確認して不具合を生じたままでのフィンガの使用を確実に防止し得るステッチプレッサを備えた横編機の制御方法を提供することができる。
なお、ステッチプレッサを備えた横編機の制御方法については、これに限らず、ステッチプレッサを備えた横編機の構成を含む範囲についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態に係るステッチプレッサを備えた横編機の概略的な構成を示す正面図である。
図2】横編機の歯口付近の縦断側面図である。
図3】歯口上方の糸道レール付近の縦断側面図である。
図4】横編機の前後のキャリッジを概略的に示す平面図である。
図5】歯口付近でのステッチプレッサのフィンガの移動軌跡を示す縦断側面図である。
図6】ステッチプレッサ機構の平面図である。
図7】ステッチプレッサ機構の斜視図であって、(a)はフィンガの基端部をセット位置に切り換えた状態を示し、(b)はフィンガの基端部をリセット位置に切り換えた状態を示している。
図8】コントローラによる各キャリッジ及び各ステッチプレッサ機構の制御手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参考にして本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る編地プレッサを備えた横編機の概略的な構成を示し、図2図1の横編機の歯口付近の縦断側面図を示している。
【0024】
図1及び図2において、横編機1は、歯口10を挟んで逆V字状に対向する前後の針床11a,11bを備えている。前後の針床11a,11bには、それぞれキャリッジ12が設けられ、歯口10の部分では前後のキャリッジ12をブリッジ13で連結している。各キャリッジ12は、図示しないサーボモータにより駆動され、針床11a,11bの長手方向(図1では左右方向)に往復移動する。
【0025】
図3は歯口10の上方の糸道レール付近の縦断側面図を示している。この図3において、歯口10の上方には、複数の糸道レール14(図3では3つのみ示す)が、針床11a,11bの長手方向に沿って架設されている。糸道レール14には、歯口10に編糸2を供給するヤーンキャリア15が走行可能に支持されている。また、糸道レール14には、ヤーンキャリア15を走行させるトラックが2つずつ形成されている。各ヤーンキャリア15の下側には、編糸21を編針2に供給するための給糸口151がそれぞれ設けられている。また、各給糸口151は、歯口10の中央付近に集められ、前後の針床11a,11bから歯口10に進出する編針2のいずれにも編糸21を供給可能としている。このとき、異なる糸道レール14を走行するヤーンキャリア15間では、給糸口151が相互に接触しない位置に配置され、給糸口151が干渉して走行の障害となるのを避けている。
【0026】
ブリッジ13は、糸道レール14に跨るように設けられ、単数又は複数のヤーンキャリア15を選択して連行する。各ヤーンキャリア15には、編糸コーン16から天ばね17などの給糸機構を介して、編糸21が供給される。
【0027】
編針2は、針床11a,11bの長手方向に多数列設され、キャリッジ12にそれぞれ2つ搭載される選針機構およびカム機構等のシステム25によって選択的に編成動作が行われる。なお、各キャリッジにそれぞれ1つ又は3つ以上のシステムが搭載されていてもよいのはいうまでもない。
【0028】
各システム25による編成動作は、編針2の先端のフックを歯口10に進出させて、ヤーンキャリア15の給糸口151から給糸される編糸21を針床11a,11bに引き込むことを繰り返して行われる。前後のキャリッジ12は、複数のヤーンキャリア15を連行して編地22を編成する。編地22の編成は、予め作成される編成データを入力したコントローラ4による制御に従って行われ、編地22が歯口10の下方に編成される。キャリッジ12及び編針2のシステム25による動作も、編成データに基づいてコントローラ4により自動的に行われ、キャリッジ12が移動する移動ストロークも編成データ等に基づいて最適化されている。また、ヤーンキャリア15は、編み端22a付近で、編地22の編幅の外方に待機している。ヤーンキャリア15の待機位置は、ヤーンキャリア15をキャリッジ12が連行した後で、連行から解放した編地22の編幅の外方付近であり、コントローラ4に記憶されている。更に、複数のヤーンキャリア15が停止位置において重なり合って停止することがあり、このような状況を横編機1のモニタ(図示せず)に表示して各ヤーンキャリア15の位置補正を促すことも行われる。また、各キャリッジ12の移動方向は、編地22の編幅の外方付近でサーボモータの回転方向を切り換えることで反転される。
【0029】
図4は横編機1の前後のキャリッジ12を概略的に示す平面図であって、各キャリッジ12には、2つのシステム25にそれぞれ対応する先行及び後行のステッチプレッサ機構3が搭載されている。この各ステッチプレッサ機構3は、略L字状を呈するステッチプレッサ31と、ステッチプレッサ31を駆動させる駆動機構32とを備えている。ステッチプレッサ31は、前後方向へ延びるアーム311と、このアーム311の一端に基端部315が一体的に連結され、当該基端部315より当該アーム311と直交するキャリッジ12の移動方向後方向きに先端316が延びるフィンガ312とを備えている。駆動機構32は、矩形枠状の筐体30に取り付けられたステッピングモータ321と、このステッピングモータ321の駆動軸に連結され、アーム311を2位置間で駆動するリンク機構322とを備えている。なお、アーム311をステッピングモータ321の駆動軸に連結されたカムや溝カムなどによって駆動させることで、フィンガをセット位置とリセット位置とに移動させてもよい。
【0030】
図5は歯口10付近でのステッチプレッサ31のフィンガ312の移動軌跡を示す縦断側面図であって、ステッチプレッサ31のフィンガ312(312a〜312e)は、歯口10内で編地22を押圧するときのセット位置と編地22から離反するリセット位置との2位置間で円弧状の移動軌跡を描いて移動する。アーム311は、セット位置からリセット位置までの間で給糸口151と接触しないように配置されている。
【0031】
図6はステッチプレッサ機構3の平面図、図7はステッチプレッサ機構3の斜視図をそれぞれ示している。ステッチプレッサ31の基端部315は、ステッピングモータ321の駆動によりリンク機構322を介して駆動し、ヤーンキャリア15の給糸口151から給糸された編糸2によって編成される編地22をフィンガ312で押圧するセット位置(図7の(a)で示す位置)と、編地22から離反するリセット位置(図7の(b)で示す位置)とに切り換えられる。このとき、ステッチプレッサ31のフィンガ312の基端部315がセット位置に切り換えられたことはセット位置センサ313により検出され、リセット位置に切り換えられたことは、リセット位置検出手段としてのリセット位置センサ314により検出される。これらの位置センサ313,314は、近接センサよりなり、フィンガ312の基端部315をセット位置とリセット位置との間でアーム311を介して揺動させるリンク機構322の揺動片323の動きで検出している。なお、ステッチプレッサ31のフィンガ312の基端部315がリセット位置に切り換えられたことが、リセット位置への切換スイッチの切換えにより検出されていたり、ステッピングモータに対するリセット位置への切換用のパルス信号の出力又は指令によって検出されていてもよい。
【0032】
更に、各ステッチプレッサ機構3は、フィンガ312の基端部315をリセット位置に切り換えたときに当該フィンガ312の先端316がリセット位置(図6及び図7の(b)に示す位置)に復帰しているか否かを検出する復帰状態検出手段33と、この復帰状態検出手段33の検出結果に基づいてフィンガ312がヤーンキャリア15の給糸口151と干渉していると判定する判定手段34と、この判定手段34によってフィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151とが干渉していると判定されたときに当該両者312,151の干渉を回避する干渉回避動作を行わせる干渉回避動作手段35とを備えている。この場合、復帰状態検出手段33による、フィンガ312の先端316がリセット位置に復帰しているか否かの検出は、キャリッジ12が編地22の編幅の外方に抜けて反転するために停止したときに、リセット位置センサ314によるフィンガ312の基端部315の検出と同時に行われる。
【0033】
復帰状態検出手段33は、長手方向略中間部が筐体30に支持されて2位置間で揺動する揺動片331と、この揺動片331が2位置のうちの非検出位置(図7の(a)に示す位置)から検出位置(図7の(b)に示す位置)へ揺動したときにフィンガ312の先端316がリセット位置に復帰していることを検出する検出部333とを備えている。揺動片331は、その長手方向一端側(図6及び図7では上端側)に錘332を備え、この錘332によって非検出位置側に付勢されている。そして、検出部333は、近接センサよりなり、揺動片331の一端の錘332が当接していれば、フィンガ312の先端316がリセット位置に復帰していないことが検出される一方、フィンガ312の基端部315をリセット位置に切り換えたときに当該フィンガ312の先端316が揺動片331の他端(図6及び図7では下端)に当接すれば、錘332の付勢力に抗して検出位置へ揺動する揺動片331の一端の錘332が検出部333から離反することで、フィンガ312の先端316がリセット位置に復帰していることが検出される。これにより、揺動片331と検出部333とからなる簡単な構造で復帰状態検出手段33を構成することができる。
なお、揺動片331が、錘332に代えてコイルスプリングなどによって非検出位置側に付勢されていてもよく、この場合には、キャリッジの振動に対して信頼性が高く、より好適である。
【0034】
判定手段34は、コントローラ4に設けられ、フィンガ312の基端部315のリセット位置への切換えがリセット位置センサ314により検出されているにもかかわらず復帰状態検出手段33によってフィンガ312の先端316のリセット位置への復帰状態が検出されないときにのみ、フィンガ312がヤーンキャリア15の給糸口151と干渉していると判定する。また、干渉回避動作手段35は、コントローラ4に設けられ、フィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151との干渉をキャリッジ12の順方向への移動ストロークの延長によって回避するストローク延長手段を適用している。このストローク延長手段による制御は、編成データに基づいてコントローラ4により自動的に行われ、後行のステッチプレッサ31のフィンガ312の先端316が編地22の編幅の外方に抜けてから各ヤーンキャリア15の給糸口151と干渉しない位置まで所定量(例えば20〜30mm程度)だけキャリッジ12の移動ストロークを延長する。なお、ストローク延長手段による制御が、復帰状態検出手段によってフィンガの先端のリセット位置への復帰状態が検出されるまでキャリッジの移動ストロークを延長させて、フィンガの先端のリセット位置への復帰状態が検出された時点でキャリッジを反転させるものであってもよい。
【0035】
ここで、コントローラ4による各キャリッジ12及び各ステッチプレッサ機構3の制御手順を図8に基づいて説明する。各キャリッジ12の2つのシステム25を用いて先行及び後行のステッチプレッサ機構3を使用するものとする。
【0036】
ステップS1で、横編機1を起動して各部の初期設定を行ってから、編成する編地22についての編成データを読込む。編成データは、たとえば各種ディスクなどの記録媒体を介して、あるいはLAN(Local Area Network)などを介するデータ通信で、記憶部に読込まれる。
【0037】
ステップS2で、次に編成するコースの準備を行い、ステップS3で、次のコースが最終コースであるか否かを判断する。最終コースでなければ、ステップS4で、次のコースでステッチプレッサ31を使用するか否かを編成データに基づいて判断する。先行及び後行のステッチプレッサ31を使用するときは、次のコースでは現在のコースで使用中の各ステッチプレッサ31をリセット動作する必要があるため、ステップS5で、後行のステッチプレッサ31のフィンガ312の先端316が編地22の編幅の外方に抜けると同時にフィンガ312の基端部315をリセット位置に切り換える。このフィンガ312の基端部315のリセット位置への切り換えは、リセット位置センサ314により確認する。なお、先行のシステム25のみにより編地22の編成を行ったときは、先行のステッチプレッサ31の先端316が編地22の編幅の外方に抜けると同時にフィンガ312の基端部315をリセット位置に切り換えればよい。
【0038】
ステップS6で、フィンガ312の先端316がリセット位置に復帰しているか否かを検出部333で検出する。この検出によって、フィンガ312の先端316がリセット位置に復帰していないことが検出されたときにのみ、ステップS7で、フィンガ312がヤーンキャリア15の給糸口151と干渉していると判定する。これにより、フィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151とが実際に干渉しているか否かの検出結果に基づいて当該両者312,151の干渉状態が確実に把握され、判定精度を高めることができる。
【0039】
ステップS7の判定によって、フィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151とが干渉していると判定されたときに、ステップS8で、後行のステッチプレッサ31のフィンガ312の先端316が編地22の編幅の外方に抜けてから各ヤーンキャリア15の給糸口151と干渉しない位置まで所定量(例えば20〜30mm程度)だけキャリッジ12の移動ストロークをそのまま順方向に延長する干渉回避動作を行ってから、ステップS9で、キャリッジ12を反転させる。これにより、フィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151との干渉を、キャリッジ12の移動ストロークを延長させるだけで、簡単に回避することができる。
【0040】
一方、ステップS6の検出によって、フィンガ312の先端316がリセット位置に復帰していることが検出されれば、ステップS10で、フィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151とが非干渉であると判定し、ステップS9で、キャリッジ12の移動ストロークを延長せずに、編地22の編幅の外方に抜けた位置でキャリッジ12を反転させる。これにより、編成データにより両者312,151が干渉する可能性に基づいてキャリッジの移動ストロークを必要以上に延長させたものに比して、1コース当たりのキャリッジ12の移動ストロークが20〜30mm程度短縮され、編成効率を向上させることができる。しかも、ヤーンキャリア15の給糸口151と干渉しない編地22の編幅内でフィンガ312の基端部315をリセット位置に切り換えても先端316のリセット位置への復帰が検出されないときに、判定手段34によってフィンガ312の先端316に曲がりなどの不具合が生じていると簡単に判定することもでき、先端316に不具合を生じたままでのフィンガ312の使用を確実に防止することができる。
【0041】
この場合、判定手段34によって、フィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151との干渉がキャリッジ12の移動方向の同一箇所で間欠的に又は連続して判定されたときは、当該箇所でのそれ以降のキャリッジ12の移動ストロークを延長させていてもよい。これにより、同一箇所でキャリッジ12の移動ストロークをキャリッジ12が編地22の編幅の外方に抜けて停止している状態からその都度延長させてキャリッジ12の動きをギクシャクさせる違和感をなくし、延長された反転位置までキャリッジ12をスムーズに移動させることができる。
なお、給糸口151を下降させた状態でヤーンキャリア15を使用する場合には、同一箇所に限らず他の箇所にキャリッジ12が停止した際にもフィンガ312と給糸口151とが干渉するおそれがある。このため、キャリッジ12が編地22の編幅の外方に抜けた位置以外で両者312,151の干渉が多発するときは、不具合があると判断して横編機1のモニタなどに調整を促す表示を行うことも可能である。
【0042】
更に、コントローラ4によるキャリッジ12及びステッチプレッサ機構3の制御手順によれば、フィンガ312の先端316での曲がりなどの不具合を簡単に確認して不具合を生じたままでのフィンガ312の使用を確実に防止し得るステッチプレッサ31を備えた横編機1の制御方法を提供することができる。しかも、キャリッジ12の移動ストロークを不要に延長させることなく短縮して編成効率を向上させ得るステッチプレッサ31を備えた横編機1の制御方法も提供することができる。
【0043】
なお、本実施の形態では、干渉回避動作手段35として、キャリッジ12の移動ストロークを延長するストローク延長手段を適用したが、ヤーンキャリアを自力で移動させる駆動部を有し、この駆動部によりヤーンキャリアをキャリッジの進行していた方向とは逆の方向へ自力で移動させてフィンガとの干渉を回避した後に元の位置まで移動させて戻すヤーンキャリア移動手段が適用されていてもよい。この場合には、1コース当たりのキャリッジの移動ストロークを延長する必要がなく、さらなる編成効率の向上を図ることが可能となる。
【0044】
また、本実施の形態では、復帰状態検出手段33を、長手方向一端側に錘332を有する揺動片331と近接センサよりなる検出部333とで構成したが、錘に代えてスプリングなどによって揺動片が非検出位置側に付勢されていてもよい。また、一端が筐体に揺動自在に支持され、かつ非検出位置側に付勢された他端に対しフィンガの先端が当接して検出位置に揺動する揺動片が用いられていてもよい。また、フィンガの先端がリセット位置に復帰していることを当該先端との当接により通電する当接片により検出する復帰状態検出手段であってもよい。更に、フィンガの先端がリセット位置に復帰していることを近接センサやCCDカメラによる画像解析により検出する復帰状態検出手段であってもよい。
【0045】
また、本実施の形態では、フィンガ312の先端316を揺動片331の他端に当接させて当該フィンガ312の先端316の復帰状態を検出したが、先端よりも若干基端寄りとなるフィンガの先端部を揺動片の他端に当接させて当該フィンガの先端部の復帰状態が検出されていてもよい。
【0046】
また、本実施の形態では、各キャリッジ12を編地22の編幅の外方付近で反転させる場合についてのみ述べたが、編地に柄などを編成するに当たって各キャリッジを編地の編幅内で反転させる際にもフィンガの先端部とヤーンキャリアの給糸口との干渉が考えられるので、編地の編幅内でキャリッジを反転させる場合にもコントローラによる同様の制御が行われるのはいうまでもない。
【0047】
更に、本実施の形態では、フィンガ312とヤーンキャリア15の給糸口151とが干渉していると判定されたときに、キャリッジ12の移動ストロークを延長させる干渉回避動作を行ったが、この干渉回避動作はフィンガと給糸口との干渉を回避するための付加的な動作であり、フィンガの基端部がリセット位置に切り換えられたことが検出された状態で、当該フィンガの先端部が復帰していないことが検出されたときにのみ、フィンガの先端部に曲がりなどの不具合が生じていると判定されさえすればよい。
【符号の説明】
【0048】
1 横編機
11a,11b 針床
12 キャリッジ
15 ヤーンキャリア
151 給糸口
2 編針
21 編糸
22 編地
31 ステッチプレッサ
312 フィンガ
314 リセット位置センサ
315 基端部
316 先端
33 復帰状態検出手段
331 揺動片
333 検出部
34 判定手段
35 干渉回避動作手段、ストローク延長手段
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8