(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記離脱防止部における、前記第2部材の軸方向の相対移動の許容量としては、前記第1および第2部材間に潤滑油を通すことができ、かつ、前記スラスト軸受に含まれる軌道輪と前記第2部材とが接触しない範囲内の値が定められる、請求項1または2に記載のスラスト軸受用保持器。
前記第1部材には、前記第1開口部からの前記転動体の脱落を防止するための脱落防止部がさらに設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載のスラスト軸受用保持器。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0029】
<実施の形態1>
はじめに、本発明の実施の形態1に係るスラスト軸受の概略構成について説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態1に係るスラスト軸受1の一部を拡大して示す断面図である。
図2は、スラスト軸受1に含まれる保持器20の全体を示す平面図である。
図3は、
図2のIII−III線に沿った保持器20の断面図である。
【0031】
図1を参照して、本実施の形態に係るスラスト軸受1は、複数のころ(たとえば針状ころ)10と、保持器20と、軌道輪31、32とを含む。スラスト軸受1は、スラスト方向すなわち軸方向の荷重を受ける。スラスト軸受1は、自動車用トランスミッション、トルクコンバータ、カーエアコン用コンプレッサー等において、スラスト荷重が負荷される箇所に用いられる。
【0032】
軸受稼働中において、スラスト軸受1に含まれる保持器20は、
図2および
図3に示した回転軸線3を中心に回転する。保持器20の軸方向は、
図1および
図3に示す矢印A1の方向および逆の方向に相当する。保持器20の径方向は、
図1および
図3に示す矢印A2の方向およびその逆の方向に相当する。矢印A2は、回転軸線3と垂直であって回転軸線3から外径側に向く方向を示し、その逆の方向は、回転軸線3と垂直であって回転軸線3から内径側に向く方向を示す。
図3の回転軸線3より紙面右側においては、矢印A2は、図中の矢印A2とは逆の方向を指す。なお、
図1に示したスラスト軸受1の一部は、ころ10および軌道輪31、32を、
図2に示した保持器20に組み合わせた状態において、
図2に示したI−I線に沿って切断した場合の断面に相当する。
【0033】
以下の説明において、説明の容易のために、矢印A1の方を「軸方向下側」、その逆の方を「軸方向上側」ともいう。また、矢印A2の方向を「外径方向」、その逆の方向を「内径方向」ともいう。
【0034】
本実施の形態において、保持器20は、軸方向に組み合わせられた第1保持部材21および第2保持部材22を含む。第1保持部材21の軸方向下側に軌道輪31が設けられ、第2保持部材22の軸方向上側に軌道輪32が設けられている。保持器20によって保持されるころ10は、軌道輪31、32の軌道面310、320を転動する。
【0035】
次に、保持器20を構成する第1および第2保持部材21、22それぞれについて説明する。
図4は、本発明の実施の形態1における第1保持部材21の平面図であり、
図5は、本発明の実施の形態1における第2保持部材22の平面図である。
【0036】
図4を参照して、第1保持部材21は、円板部40と、鍔部44と、突出部46とを含む。円板部40は、円板状であり、径方向の中央に穴4が設けられている。穴4は、板厚方向すなわち軸方向に貫通する貫通穴である。穴4には、スラスト軸受1によって支持される回転軸(図示せず)が配置される。
【0037】
円板部40の形状としては、径方向に真直ぐに延びる平板形状である。また、円板部40には、板厚方向すなわち軸方向に貫通するようにして、複数のポケット45が周方向に間隔を開けて設けられている。なお、ころ10は、第2保持部材22と重ねられた状態で収容されるため、第1保持部材21単体では、ポケット45は、ころ10を受け入れ可能な開口部を表わす。
【0038】
円板部40は、径の異なる一対の環状部41、42と、径方向に延びる複数の柱部43とを含む。柱部43は、ポケット45を形成するように周方向に間隔を開けて設けられている。一対の環状部41、42は、柱部43における周方向の間隔を維持するように設けられている。以下の説明において、外径側に位置する環状部41を「外径部41」、内径側に位置する環状部42を「内径部42」という。
【0039】
図3および
図4を参照して、外径部41の内径面411は、ポケット45の外径側の壁面を構成する。また、内径部42の内径面421は、穴4を構成し、内径部42の外径面422は、ポケット45の内径側の壁面を構成する。
【0040】
第1保持部材21の構造上の特徴については後に詳述する。
【0041】
図5を参照して、第2保持部材22は、円板部50を含む。円板部50は、円板状であり、径方向の中央に穴5が設けられている。穴5も、第1保持部材21の穴4と同様に、板厚方向すなわち軸方向に貫通する貫通穴である。穴5には、スラスト軸受1によって支持される回転軸(図示せず)が配置される。円板部50には、板厚方向すなわち軸方向に貫通するようにして、複数のポケット55が周方向に間隔を開けて設けられている。なお、第1保持部材21のポケット45と同様に、第2保持部材22単体では、ポケット55は、ころ10を受け入れ可能な開口部を表わす。ポケット45としての開口部とポケット55としての開口部とが重なり合ってはじめて、ころ10を収容するポケットとして機能する。
【0042】
円板部50は、径の異なる一対の環状部51、52と、径方向に延びる複数の柱部53とを含む。柱部53は、ポケット55を形成するように周方向に間隔を開けて設けられている。一対の環状部51、52は、柱部53における周方向の間隔を維持するように設けられている。以下の説明において、外径側に位置する環状部51を「外径部51」、内径側に位置する環状部52を「内径部52」という。
【0043】
図3および
図5を参照して、外径部51の内径面511は、ポケット55の外径側の壁面を構成する。また、内径部52の内径面521は、穴5を構成し、内径部52の外径面522は、ポケット55の内径側の壁面を構成する。ポケット55の径方向の長さL2は、
図4で示した第1保持部材21におけるポケット45の径方向の長さL1よりも長い。
【0044】
円板部50は、ポケット55を含む位置で軸方向に切断した場合、内径部52および外径部51はともに径方向に真直ぐに延びる平板形状である。柱部53を含む位置で軸方向に切断した場合は、径方向の中央部分が軸方向上側に折り曲げられた形状である。
【0045】
具体的には、第2保持部材22の柱部53は、外径部51および内径部52からそれぞれ内径部52側および外径部51側に向かって径方向に沿って延びる一対の平坦部531、532と、一対の平坦部531、532それぞれの端部から連なって軸方向に傾斜して延びる一対の傾斜部533、534と、一対の傾斜部533、534の両端部同士を連結するように径方向に延びる連結部535とを含む。このような第2保持部材22の形状を、断面略V字形状ともいう。
【0046】
第2保持部材22の形状をこのような形状とすることで、第2保持部材22の軸方向の長さを大きく確保することができる。これにより、柱部53の柱幅を確保することができる。また、このような構成においては、連結部535において、軸方向上側へのころ10の脱落を防止できる。つまり、ポケット55を挟む連結部535間の寸法をころ径より小さくすることで、軸方向上側へのころ10の脱落を適切に防止できる。
【0047】
次に、
図6〜9を用いて、第1保持部材21の具体的な構造例について詳細に説明する。
図6は、本発明の実施の形態1における第1保持部材21の一部を示す図である。
図7は、
図6のVII−VII線に沿った第1保持部材21の拡大断面図である。
図8は、第1保持部材21の一部を示す斜視図であり、突出部が設けられていない部分を示す。
図9は、第1保持部材の一部を示す斜視図であり、突出部が設けられた部分を示す。
【0048】
図6および
図8を参照して、周方向に隣り合うポケット45間においては、柱部43が配置される。すなわち、周方向に隣り合うポケット45はそれぞれ、柱部43によって周方向に間隔が開けられる。各柱部43は、内径側の周方向の間隔が最も狭く、外径側に近づくにつれて、その周方向の間隔が広くなっていく形状である。また、周方向に隣り合ってポケット45を形成する柱部43の側壁面431、432は、径方向に沿って真直ぐに延びるように構成されている。すなわち、
図7中の長さL3で示されるポケット45を構成する両側壁面431、432の周方向の間隔は、径方向の位置において等しく構成されている。
【0049】
本実施の形態では、
図7の長さL3がころ径よりも小さくなるように、ポケット45の両側側面431、432が形成される。これにより、ポケット45に収容されたころ10の、ポケット45が位置する軸方向下側への脱落を適切に防止できる。なお、第1保持部材21に設けられる脱落防止部の他の構成例については後述する。
【0050】
図8および
図9を参照して、第1保持部材21の鍔部44は、円板部40の外径側の端部401から板厚方向すなわち軸方向に延びる。具体的には、鍔部44は、円板部40のうち、外径部41の外径側の端部401から軸方向上側に真直ぐに延びるように設けられている。また、鍔部44は、周方向に連なって、円環状に設けられている。内径部42側には、鍔部は設けられていない。
【0051】
本実施の形態では、第1保持部材21に、軸方向に組み合わせられた第2保持部材22の相対移動を許容しつつ、第2保持部材の離脱を防止するための離脱防止部が設けられる。具体的には、第1保持部材21と第2保持部材22とは、第1保持部材21の鍔部44から延在して設けられた突出部46により、第2保持部材22の軸方向の相対移動を許容しつつ、組み合わせられる。つまり、第1保持部材21と第2保持部材22とは、加締めにより完全固定されず、所定量の遊びをもって組み合わせられる。突出部46は、鍔部44からポケット45が位置する側、ここでは内径方向へ突出される。
【0052】
図1、
図4および
図9に示されるように、本実施の形態では、突出部46は、鍔部44の全周において局所的に設けられており、たとえば4つのステーキングを含む。なお、
図4および
図9には、第1保持部材21単体にも突出部46としてのステーキングが示されているが、ステーキングは、組み立て時に、第1保持部材21に第2保持部材22が重ねられた状態で形成されてもよい。具体的な加工例については後述する。
【0053】
各突出部46は、該当する箇所の鍔部44の軸方向の端部441を、内径側に向かって径方向に突出させるようにして設けられている。この場合、鍔部44の軸方向の端部441を内径側に真直ぐに押し込み、端部441に相当する箇所の外径面442を凹ませて、凹ませた分内径側に内径面443を突出させるようにして設けられている。内径面443と突出部46の内径面461とのなす角度は、90°<θ<180°であってたとえば135°程度である。突出部46が設けられた内径面461および外径面462は、軸方向上側から見た場合に、円弧状である。4つのステーキングはそれぞれ、周方向におおよそ90°間隔で設けられている。
【0054】
このような第1保持部材21の構成によれば、突出部46の内径面461が第2保持部材22の外径部51の上端部と当接し引っ掛かることで、第2保持部材22が、軸方向上側へ離脱することを防止することができる。突出部46は、第2保持部材22との軸方向の移動の許容量がたとえば0.10mmとなるように、鍔部44における所定の位置より所定の突出角度で突出される。なお、第2保持部材22との軸方向の移動の許容量は、両者間に油を通すことができ、かつ、第2保持部材22が軌道輪32と接触しない範囲で、スラスト軸受1および/またはころ径のサイズに応じて定められる。ころ径が小さい場合を考慮すると、具体的には、たとえば0.01mm以上0.10mm以下の範囲内の値が採用され得る。
【0055】
なお、突出部46を形成するステーキングについては、必要に応じて任意の数および位置が採用され得る。ただし、ステーキングは複数設けられ、より好ましくは、少なくとも3つ設けられる。また、ステーキングは、それぞれの間隔が等しくなる位置に施されることが望ましい。たとえば3つのステーキングが形成される場合、それぞれの間隔は周方向に120°とされる。
【0056】
また、ステーキングを構成する内径面および外径面において、円弧状を形成せずに、軸方向上側から見た場合に、複数の直線から構成されるようにしてもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、鍔部44は、第1保持部材21の全周に設けられることとしたが、突出部46が設けられる位置を含む複数の位置に局所的に設けることとしてもよい。
【0058】
ここで、本実施の形態における保持器20ところ10とを構成として含んだ保持器付きころ2の加工工程の一例について説明する。
【0059】
保持器20を構成する2つの保持部材21、22は、各々、次のように加工される。まず、帯材からブランク抜きされた一枚の鋼板を、たとえばトランスファープレス、または、順送プレスによりプレス成形する。プレス成形後の鋼板に対し、ポケット45、55を形成するためのポケット抜きの処理を行う。続いて、バリ取りなどの所定の処理が行われ、プレス成形された鋼板の熱処理(浸炭または軟窒化)を施すことで、第1および第2保持部材21、22が完成する。つまり、
図4に示した突出部46が存在しない状態の第1保持部材21と、
図5に示した第2保持部材22とが製造される。
【0060】
製造された第1および第2保持部材21、22の、重ね合わせられたポケット45、55に複数のころ10を組み入れる。その状態で、第1保持部材21の鍔部44における所定の4箇所にステーキングを施すことにより、保持器付きころ2が完成される。
【0061】
なお、上記加工例では、第1および第2保持部材21、22を組み合わせた後に、第1保持部材21に突出部46としてのステーキングを施すこととして説明したが、両部材を組み合わせる前に第1保持部材21にステーキングを施してもよい。その場合、第1保持部材21にステーキングを設けた後、熱処理を実施する。そして、熱処理済の第2保持部材22を第1保持部材21上にセットすることで、保持器20を組み立てることができる。
【0062】
このように、本実施の形態の保持器20は、2つの保持部材21、22を組み合わせた状態においても周方向への回転が可能であることから、第1および第2保持部材21、22を突出部46によって組み合わせた後にころ10を組み入れることも可能である。したがって、
図2に示したような保持器20単体を製品として提供することもできる。
【0063】
または、保持器20ところ10と一対の軌道輪31、32の一方とを組み合わせた二位一体、あるいは、保持器20ところ10と一対の軌道輪31、32とを組み合わせた三位一体のスラスト軸受を提供してもよい。保持器20と軌道輪31、32とを非分離とするための構造としては、公知の技術が採用され得る。なお、スラスト軸受1におけるポケット45、55に収容されたころ10について、保持器20から露出した側には、軌道輪31、32に代えて、例えば、軌道面を有するハウジング(図示せず)を設けることにしてもよい。
【0064】
本実施の形態において、第1保持部材21の厚みは、従来のW型保持器の板厚以上であって、ころ径の50%未満である。従来のW型保持器の厚みは、0.09≦板厚/ころ径≦0.2の設定であるところ、第1保持部材21の板厚は、0.2≦板厚/ころ径≦0.4の範囲で設定される。このような第1保持部材21の板厚は、いわゆる一枚板の保持器の厚みに相当している。したがって、従来のW型保持器の板厚を採用した2枚合わせ型の保持器よりもさらに強度を高めることができる。一方で、第1保持部材21の板厚の上限を50%未満とすることで、スラスト軸受1内の流路面積を確保し、通油性が低下することも防止できる。
【0065】
第1保持部材21の厚みが肉厚であると、ロール加締めなどによる完全固定は行いにくい。これに対し、本実施の形態では、第1保持部材21に設けられた突出部46により第2保持部材22の離脱を防止するに留めるため、第1保持部材21の厚みをこのように肉厚とすることもできる。
【0066】
なお、本実施の形態では、第1保持部材21の厚みが第2保持部材22よりも肉厚であることとしたが、第2保持部材22の厚みを第1保持部材21よりも肉厚としてもよい。または、同じ厚みであってもよい。第2保持部材22の厚みを第1保持部材21よりも肉厚とする場合には、第2保持部材22における、第1保持部材21の突出部46と係合される箇所に凹部(図示せず)を設けてもよい。つまり、第2保持部材22の外径部51の外径側の端部(外径面512)を径方向内側に凹ませてもよい。これにより、第1保持部材21の鍔部44を本実施の形態よりも高くすることなく、突出部46と第2保持部材22の外径部51とが係合可能とされる。
【0067】
上述のような保持器20の構成によれば、2つの保持部材21、22が加締めではなく突出部46により不分離とされる。したがって、ポケット45、55にころ10を収容していない状態では、
図10に示されるように、保持部材21、22は互いに周方向に回転可能である。ころ10をポケット45、55に収容してはじめて、保持部材21、22の周方向への回転が規制される。ただし、ころ10を収容したとしても、軸方向への遊びが許容されるため、両者は微小な相対移動が許容される。したがって、柱部43、53が位置する区間における空間内だけでなく、外径部41、51間や内径部42、52間における2つの保持部材21、22に生じ得る微小な隙間においても油が潤滑される。よって、本実施の形態で示したような断面形状を有する一般的な2枚合わせ型の保持器、具体的には、2つの保持部材の外径部および内径部においてそれぞれ面接触される構成の一般的な保持器よりも、流路面積を増やすことができる。
【0068】
潤滑油の通油性の向上について、
図11を参照してより詳細に説明する。
図11は、保持器20内における潤滑油の流れを模式的に示す断面図である。なお、
図11は、理解の容易のために、第2保持部材22を軸方向上側に移動させた場合に第1および第2保持部材21、22間に生じる隙間を誇張して大きく示している。
【0069】
潤滑油は、軌道輪31、32(ここでは図示せず)間の油路を通って矢印Faのように保持器20の方へ流れる。本実施の形態では、矢印Faの方向から流入してきた潤滑油は、軸方向の断面において柱部43、53が存在する区間(ポケット45、55が径方向に存在しない区間)においては、内径側から外径側に、第1および第2の保持部材21、22間を通り抜ける。
【0070】
より具体的には、矢印Faの方向から流入され潤滑油は、矢印Fbのように第2保持部材22のポケット55の内径側の流路から流入されるだけでなく、第1保持部材21の内径部42と第2保持部材22の内径部52との間を矢印Fcのように通る。つまり、第1保持部材21の内径部42における軸方向上側の面423(第2保持部材22の内径部52と対向する面)と、第2保持部材22の内径部52における軸方向下側の面523(第1保持部材の内径部42と対向する面)との間にも潤滑油膜が形成される。
【0071】
このような、柱部43、53が位置する区間においては、2つの保持部材21、22に挟まれる空間を矢印Fdのように通る。潤滑油は、矢印Feのように第2保持部材22のポケット55の外径側の流路から流出されるとともに、第1保持部材21の外径部41と第2保持部材22の外径部51との間にも流れる。つまり、第1保持部材21の外径部41における軸方向上側の面413(第2保持部材22の外径部51と対向する面)と、第2保持部材22の外径部51における軸方向下側の面513(第1保持部材の外径部41と対向する面)との間にも潤滑油膜が形成される。第1保持部材21の外径部41と第2保持部材22の外径部51との間を流れてきた潤滑油は、さらに、矢印Ffで示されるように、第2保持部材22における外径部51の端部(外径面512)と第1保持部材21における鍔部44の内径面443との間を通り抜け、突出部46の内径面461側から排出される。
【0072】
ここで、一般的な2枚合わせ型の保持器における2つの保持部材の組み合わせ方法について簡単に説明する。通常、2つの保持部材は、一方の保持部材に設けられた鍔部を、他方の保持部材に加締めて係合させる。より具体的には、たとえば、一方の保持部材の外径側に鍔部が設けられている場合、鍔部を内径側に加締めて他方の保持部材の外径側の端部を包み込んで完全固定させる。つまり、軸方向における2つの保持部材間には隙間や遊びが存在しないように密着される。両者が密着されて固定されるため、両保持部材のポケットにころが収容された状態で保持器が組み立てることになる。仮にころを収容していない状態で2つの保持部材を加締めにより完全固定した場合、軸方向に隙間や遊びがないため周方向への相互移動(回転)は生じ得ない。したがって、一般的な2枚合わせ型の保持器の場合、2つの保持部材が完全に固定された係合部分、すなわち加締めにより2つの保持部材が密着される部分にまで潤滑油を通すことは困難である。
【0073】
これに対し、本実施の形態の保持器2によれば、2つの保持部材21、22は、軸方向への相対移動を許容して組み合わせられるため、保持器20内を、内径側から外径側へ途切れることなく潤滑油を通すことが可能となる。そのため、軸受内の流路面積を大きくすることができ、通油性を向上させることができる。また、加締めにより両者を完全密着する構成ではないため、両者の係合箇所にも潤滑油を流すことができる。その結果、ゴミなどの異物が、2つの保持部材21、22の係合箇所(重なり合う箇所)に滞留することを防止することができる。これにより、保持器20の寿命を延ばすこともできる。
【0074】
さらに、突出部46はステーキングにより第1および第2保持部材21、22を非分離とするため、金型精度など高度な技術が必要な従来の加締めに比べて、製造面で容易化が図れる。
【0075】
なお、通油性をさらに向上させるために、第1保持部材21の鍔部44に切欠きを設けてもよい。
図12は、鍔部44に切欠きが設けられた場合の第1保持部材21の一部を示す図である。
図12を参照して、鍔部44は、軸方向の高さが低い部分47を有している。軸方向の高さが低い部分47に相当する切欠き部は、突出部46が設けられていない区間の一部に設けられる。切欠き部47は、隣り合う突出部46間に1つずつ設けられてもよいし、全周において1箇所にのみ設けられてもよい。第1保持部材21の鍔部44の一部に切欠きを設けることで、異物の滞留をより効果的に防止することが可能となる。
【0076】
あるいは、鍔部44に一部貫通孔を設けることで、通油性をさらに確保してもよい。
【0077】
また、第1保持部材21に鍔部44および突出部46を設ける構成としたが、第1保持部材21ではなく第2保持部材22に鍔部(図示せず)および突出部(図示せず)を設けてもよい。つまり、離脱防止部は、第2保持部材22に設けられてもよい。この場合、鍔部は、第2保持部材22の外径部51の端部512より軸方向下側に延びるように設けられる。突出部は、鍔部の軸方向下側の端部からポケット55が位置する側に向かって突出するように設けられる。なお、この場合、特許請求の範囲における第1部材および第2部材は、それぞれ第2保持部材および第1保持部材と読み替えられればよい。
【0078】
また、実施の形態1では、突出部46はステーキングにより形成されることとして説明したが、軸方向への遊びを許容しつつ第2保持部材22を係合する構成であれば、ステーキングに限定されない。ステーキング以外の構成例について、以下、実施の形態1の変形例1、2として説明する。なお、実施の形態1の第1保持部材21と同じ構成については
図1および
図9等と同じ符号を付してある。したがって、これらについての説明はここでは繰返さない。
【0079】
(変形例1)
図13は、本発明の実施の形態1の変形例1における第1保持部材21Aの一部を示す斜視図であり、
図14は、当該変形例1における第1保持部材21Aの一部を示す断面図である。
図14には、本変形例の突出部46Aが設けられた位置で軸方向に切断された場合における第1保持部材21Aの断面が示されている。
【0080】
図13および
図14を参照して、第1保持部材21Aは、鍔部44からポケッ45が位置する側に向かって径方向に突出する突出部46Aを有する。突出部46Aは、円環状に連なる鍔部44の一部を折り曲げる折り曲げ爪である。
【0081】
本発明の実施の形態1の変形例1において、突出部46Aとしての折り曲げ爪は、鍔部44の一部について、軸方向の一方側の端部441を内径側に向かって折り曲げるようにして形成されている。突出部46Aは、径方向に真直ぐに延びるように折り曲げられ、形成されている。すなわち、突出部46Aは、軸方向の一方側の端部441を内径側におおよそ90°折り曲げるようにして設けられている。
【0082】
突出部46Aの軸方向下側の面と、第2保持部材22の外径部51の軸方向上側の面とは面接触されるが、軸方向への相対移動が許容されているため、これらの面においても微小な隙間が生じ得る。したがって、突出部46Aと第2保持部材22の外径部51とが接触する面の間からも、潤滑油が排出される。その結果、折り曲げ爪としての突出部46Aが第1保持部材21に設けられた場合であっても、実施の形態1で示した突出部46を設けた場合と同様の効果を生じさせることができる。
【0083】
なお、この突出部46Aとしての折り曲げ爪の数および間隔も、実施の形態1のステーキング(突出部46)と同様であってよい。
【0084】
また、本変形例においても、第1保持部材21Aの鍔部44に、
図12に示したような切欠きを設けてもよい。
【0085】
また、実施の形態1における突出部46であるステーキングと本変形例における突出部46Aである折り曲げ爪とを併用してもよい。すなわち、例えば、180°対向する位置に一対のステーキングを設け、このステーキングと周方向に90°間隔を開けて、180°対向する位置に一対の折り曲げ爪を設ける構成としてもよい。
【0086】
(変形例2)
図15は、本発明の実施の形態1の変形例2における第1保持部材21Bの一部を示す斜視図であり、
図16は、当該変形例2における第1保持部材21Bの一部を示す断面図である。
図16には、本変形例の突出部46Bが設けられた位置で軸方向に切断された場合における第1保持部材21Bの断面が示されている。
【0087】
図15および
図16を参照して、第1保持部材21Bは、鍔部44からポケット45が位置する側の径方向に向けて突出する突出部46Bを有する。突出部46Bは、円環状に連なる鍔部44を内径側に傾けた形状のフォーリングである。
【0088】
本発明の実施の形態1の変形例2において、突出部46Bとしてのフォーリングは、鍔部44の軸方向の端部441を円環状に内径側に傾斜させた形状である。すなわち、突出部46Bは、鍔部44の軸方向上側の端部441を内径側に90°未満の角度であってたとえば45°程度の角度で円周方向の全域に亘って折り曲げるようにして設けられている。フォーリングとしての突出部46Bが第1保持部材21に設けられた場合も、潤滑油は、上記実施の形態1で示した突出部46が設けられた場合と同様の流れで排出される。
【0089】
なお、本変形例においても、第1保持部材21Bの鍔部44に、
図12に示したような切欠きを設けてもよい。
【0090】
<実施の形態2>
次に、本発明の実施の形態2に係るスラスト軸受について説明する。なお、
図1で示した実施の形態1のスラスト軸受1と同じ構成については
図1と同じ符号を付してある。したがって、これらについての説明はここでは繰返さない。
【0091】
図17は、本発明の実施の形態2に係るスラスト軸受1Aの一部を拡大して示す断面図である。
【0092】
図17を参照して、スラスト軸受1Aは、実施の形態1における保持器20に代えて、保持器20Aを備える。保持器20Aは、第1保持部材21と第2保持部材22Aとを含む。第2保持部材22Aは、実施の形態1の第2保持部材22と異なり、柱部53Aを含む位置における軸方向の断面形状が略直線状である。このような形状であっても、第1保持部材21の鍔部44から内径側に突出した突出部46により、第2保持部材22Aの軸方向への微小な移動を許容しつつ両者が係合される。
図17では、ステーキングにより形成される突出部46を示しているが、第2保持部材22の離脱を防止するための構成としては、上記変形例1、2で示したような折り曲げ爪またはフォーリングであってもよい。
【0093】
なお、第2保持部材22Aにも、軌道輪32側へのころ10の脱落を防止するための機構を設けることとしてよい。第2保持部材22Aの軸方向上側の面530Aは、ころ10の転動軸心よりも軌道輪32側(軸方向上側)に位置されることとする。そうすることで、本実施の形態においても、保持器20Aところ10とを組み合わせた保持器付きころ2Aとして提供することもできる。
【0094】
この場合、たとえば、周方向に隣り合う柱部53A間の寸法が、軸方向下側の面530B側よりも、軸方向上側の面530A側の方が狭くなるように形成される。典型的には、軸方向下側における柱部43間の寸法はころ径よりも大きく、軸方向上側における柱部43間の寸法はころ径よりも小さい。このような機構としては、たとえば後述する脱落防止部の変形例3または4が採用され得る。
【0095】
あるいは、
図17に示したように、第1保持部材21および第2保持部材22Aが軸方向に重ね合わせられる形態ではなく、従来の箱型の保持器(たとえば上記特開平8−20037号公報の
図1に示される保持器)のように、軸方向における両者の柱部43、53A間に空間を有する形態であってもよい。
【0096】
その場合、第2保持部材22Aの軸方向下側の面530Bも、ころ10の転動軸心よりも軌道輪32側(軸方向上側)に位置され、第1保持部材21の鍔部44が、
図17に示した構成のものより軸方向に長く形成される。また、第2保持部材22Aにおいて、ころ10の軌道輪32側への脱落を防止する機構が設けられる。具体的には、第1保持部材21の脱落防止部の構成と同様に、第2保持部材22Aにおけるポケット55の両側側面がころ10の径よりも小さく形成されていればよい。
【0097】
このような構成の場合、
図17に示したような直線状の第2保持部材22Aであったとしても、柱部53Aがころ10の転動軸心よりも軌道輪32側に配置されるため、柱部53Aの幅(周方向の長さ)を確保できる。その結果、実施の形態1で示したような、断面略V字形状の第2保持部材22を含む保持器2よりも、保持器2Aの柱部43、53Aの強度を適切に確保できる。
【0098】
また、このような構成であっても、第1保持部材21と第2保持部材22Aとが軸方向の遊びを許容して突出部46により係合される。ここで、上記文献に示されるような従来の箱型の保持器では、2つの部材の軸方向に折り曲げられた部分が径方向に強く押し当てられるため、係合部分、すなわち完全に密着される面間にまで潤滑油を通すことは困難である。これに対し、本形態によれば、スラスト軸受1Aの稼働中に、突出部46により第2保持部材22の外径部51が引っ掛かる部分(係合部分)においても隙間が生じ得る。したがって、第1保持部材21と第2保持部材22との係合部分にも潤滑油を通すことが可能となる。
【0099】
<実施の形態3>
次に、本発明の実施の形態3に係るスラスト軸受について説明する。なお、
図1で示した実施の形態1のスラスト軸受1と同じ構成については
図1と同じ符号を付してある。したがって、これらについての説明はここでは繰返さない。
【0100】
図18は、本発明の実施の形態3に係るスラスト軸受1Bの一部を拡大して示す断面図である。
図19は、本発明の実施の形態3における第1保持部材21Cの一部を示す斜視図である。
【0101】
図18および
図19を参照して、スラスト軸受1Bは、実施の形態1における保持器20に代えて、保持器20Bを備える。保持器20Bは、第1保持部材21Cと第2保持部材22とを含む。第1保持部材21Cは、実施の形態1の第1保持部材21と異なり、円板部40の内径側の端部402に鍔部44Aが設けられている。第1保持部材21Cでは、鍔部44Aが、円板部40の内径側の端部402から軸方向(上側)に延びて設けられている。本実施の形態では、突出部46Cは、鍔部44Aからポケット45が位置する側、ここでは、外径方向に突出する。
図18では、突出部46Cとしてステーキングが施された例を示しているが、変形例1、2で示したような折り曲げ爪あるいはフォーリングなどを離脱防止機構として採用してもよい。なお、外径側には、鍔部は設けられていない。
【0102】
本実施の形態においても、保持器20Bところ10とを備えた保持器付きころ2Bを製品として提供することもできる。
【0103】
<脱落防止部の他の例>
以上説明した各実施の形態では、第1保持部材からのころ(転動体)の脱落を防止するために、周方向に隣り合って形成されたポケットをころ径よりも小さく形成する例について説明した。しかしながら、ころの脱落防止部の構成(抜け止め形状)としては、次のような構成であってもよい。なお、脱落防止部の他の例の説明においては、実施の形態1において
図6に示した第1保持部材21との違いについてのみ説明する。
【0104】
図20は、転動体の脱落防止部の変形例1を示す第1保持部材21Dの部分平面図である。
図21は、
図20に示すXXI−XXI線に沿った第1保持部材21Dの拡大断面図である。
【0105】
図20および
図21を参照して、第1保持部材21Dに設けられる脱落防止部は、ポケット45Aを構成する隣り合う柱部43Aの両側壁面431A、432Aにおいて、径方向の中央部においてそれぞれ対向する側壁面432A、431A側に向かって突出した突起爪61、62を備える。この突起爪61、62間の周方向の間隔が、ころ径よりも小さく構成されている。突起爪61、62間の周方向の間隔は、
図6に示されたポケット45を形成する隣り合う柱部43における両側壁面431、432の間隔、すなわち
図7に示した長さL3と等しい長さであってよい。
【0106】
このような突起爪61、62は、ポケット45Aを打ち抜いて形成する際にこのような形状となるように打ち抜くことで形成されてよい。
【0107】
図22は、転動体の脱落防止部の変形例2を示す第1保持部材21Eの部分平面図である。
図23は、
図22に示すXXIII−XXIII線に沿った第1保持部材21Eの拡大断面図である。
【0108】
図22および
図23を参照して、第1保持部材21Eに設けられる脱落防止部は、ポケット45Bを構成する周方向に隣り合う柱部43Bにおいて、板厚方向の一方側の面のうち、両側壁面431B、432Bに近い部分について、カシメ加工を行う。このカシメ加工により、径方向の中央部においてそれぞれ対向する側壁面432B、431B側に向かって突出させるようにして、突起爪63、64を設ける。この突起爪63、64間の周方向の間隔が、ころ径よりも小さく構成されている。突起爪63、64間の周方向の間隔は、
図7に示した長さL3と等しい長さであってよい。
【0109】
図24は、転動体の脱落防止部の変形例3を示す第1保持部材21Fの部分平面図である。
図25は、
図24に示すXXV−XXV線に沿った第1保持部材21Fの拡大断面図である。
【0110】
図24および
図25を参照して、第1保持部材21Fに設けられる脱落防止部は、ポケット45Cを構成する周方向に隣り合う柱部43Cにおいて、両側壁面431C、432Cの面押し加工を行って形成される。具体的には、板厚方向の一方側の面に近い側から両側壁面431C、432Cを斜め方向に面押しし、この面押し加工により、径方向の中央部においてそれぞれ対向する側壁面432C、431C側に向かって肉を盛るようにして突出させ、突起爪65、66を設ける。この突起爪65、66間の周方向の間隔が、ころ径よりも小さく構成されている。突起爪65、66間の周方向の間隔は、
図7に示した長さL3と等しい長さであってよい。
【0111】
図26は、転動体の脱落防止部の変形例4を示す第1保持部材21Gの部分平面図である。
図27は、
図26に示すXXVII−XXVII線に沿った第1保持部材21Gの拡大断面図である。
【0112】
図26および
図27を参照して、第1保持部材21Gに設けられる脱落防止部は、ポケット45Dを構成する周方向に隣り合う柱部43Dにおいて、両側壁面431D、432Dのバニシ加工を行って形成される。この場合、板厚方向の一方側の面に近い側から両側壁面432D、431Dを垂直な方向に工具を押し進めて、このバニシ加工により、径方向に間隔を開けてそれぞれ対向する側壁面431D、432D側に向かって肉を盛るようにして突出させ、突起爪67、68を設ける。この突起爪67、68間の周方向の間隔が、ころ径よりも小さく構成されている。突起爪67、68間の周方向の間隔は、
図7に示した長さL3と等しい長さであってよい。
【0113】
脱落防止部の変形例1〜4の構成を、実施の形態2で示した第2保持部材22A(
図17)に適用してもよい。
【0114】
以上説明した各実施の形態では、第1保持部材において、鍔部の端部からポケットが位置する側に向かって径方向に突出する突出部を係合片として設けることで、第2保持部材の離脱を防止することとした。しかしながら、第2保持部材の軸方向への移動が許容されつつ、第2保持部材の第1保持部材からの離脱が防止されれば、突出部が形成される位置は鍔部の端部に限定されない。また、離脱防止部として、突出部以外の構成を採用してもよい。
【0115】
上記各実施の形態では、転動体はころとして説明したが、玉であってもよい。また、各環状部は環状に連なっておらず、たとえば径方向に一部切断された形状であってもよい。また、回転軸が配置される穴は貫通穴に限定されない。
【0116】
上記各実施の形態および変形例等は、適宜組み合わせてもよい。
【0117】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。