(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955197
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
D04B1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-240282(P2012-240282)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-88645(P2014-88645A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
(72)【発明者】
【氏名】仲 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】北野 宗男
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
英国特許出願公開第00239261(GB,A)
【文献】
特開昭50−148652(JP,A)
【文献】
米国特許第03884053(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床と、針床の長手方向の上方で前後方向に異なるトラック上に設けられてコース方向に移動可能な少なくとも3つ以上の給糸口を備える横編機を用い、 ベース編地の編糸間にインレイする編糸を備える編地の編成方法において、
前方側から後方側にかけて異なるトラック上に位置する第1〜第3給糸口を設け、ベース編地は第1と第3の2つの給糸口を用い、それらの中間に位置する第2給糸口はコース方向への移動と停止により、コース方向に延びる編糸を配置すると共に、
前記2つの給糸口を用いてベース編地を編成することで第2給糸口の編糸は、第1給糸口を用いて編成したベース編地のシンカーループの後側と、第3給糸口を用いて編成したベース編地のシンカーループの前側を通過し、コース方向に渡るシンカーループに対して交差しながらインレイすることを特徴とする編地の編成方法。
【請求項2】
ベース編地の編成の際に少なくとも複数コースの間、前記第2給糸口を同じ位置に停止させ、第2給糸口から給糸される編糸がベース編地のコース方向に渡るシンカーループに対して直交するように配置することを特徴とする請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項3】
ベース編地の編成の途中で、少なくとも前記第2給糸口の停止位置を次のニット編成を行う前にコース方向に移動し、第2給糸口から給糸される編糸がベース編地のコース方向に渡るシンカーループに対して傾斜するように配置することを特徴とする請求項1に記載の編地の編成方法。
【請求項4】
前記第2給糸口から給糸される編糸を用いてベース編地のコース方向への編成を行い、ベース編地の一部としてコース方向に編目を配置することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の編地の編成方法。
【請求項5】
前記第2給糸口から給糸される編糸を用いてベース編地のコース方向に並ぶ編目列の編目に対しコース方向へのインレイを行い、該編糸を該編目の前側と後側に挿通させてコース方向に配置することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コース方向に編成するベース編地にインレイした編糸を備えた編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、横編機を用いてベース編地の一部に織物のようにコース方向に渡るシンカーループに対し、前後に交差させてインレイした編糸を配置する編地は、専用装置を用いてインレイした編糸の動きを制御することで編成することが出来た。(特許文献1 参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61―6904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記文献1では、横編機で経糸と緯糸を交差させた様に、コース方向の編糸に対してインレイさせた編糸で編地間に織物風の領域を形成した布地例を
図3に示している。しかしながら、その編成には経糸専用装置を用いる必要がある。
【0005】
本発明は、経糸専用装置を用いることなく、汎用的な横編機で編成したコース方向の編糸に対してインレイさせた編糸を備えた編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも前後一対の針床と、針床の長手方向の上方で前後方向に異なるトラック上に設けられて
コース方向に移動可能な少なくとも3つ以上の給糸口を備える横編機を用い、ベース編地の編糸間にインレイする編糸を備える編地の編成方法において、前方側から後方側にかけて異なるトラック上に位置する第1〜第3給糸口
を設け、ベース編地は第1と第3の2つの給糸口を用い、それらの中間に位置する第2給糸口は
コース方向への移動と停止により、コース方向に延びる編糸を配置すると共に、前記2つの給糸口を用いてベース編地を編成することで第2給糸口の編糸は、第1給糸口を用いて編成したベース編地のシンカーループの後側と、第3給糸口を用いて編成したベース編地のシンカーループの前側を通過し、コース方向に渡るシンカーループに対して交差しながらインレイすることを特徴とする。
【0007】
本発明では、ベース編地の編成の際に少なくとも複数コースの間、前記第2給糸口を同じ位置に停止させ、第2給糸口から給糸される編糸がベース編地のコース方向に渡るシンカーループに対して直交するように配置することを特徴とする。
【0008】
また本発明では、ベース編地の編成の途中で、少なくとも前記第2給糸口の停止位置を次のニット編成を行う前にコース方向に移動し、第2給糸口から給糸される編糸がベース編地のコース方向に渡るシンカーループに対して傾斜するように配置することを特徴とする。
【0009】
また本発明では、前記第2給糸口から給糸される編糸を用いてベース編地のコース方向への編成を行い、ベース編地の一部としてコース方向に編目を配置することを特徴とする。
【0010】
また本発明では、第2給糸口から給糸される編糸を用いてベース編地のコース方向に並ぶ編目列の編目に対しコース方向へのインレイを行い、該編糸を該編目の前側と後側に挿通させてコース方向に配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、編地の編成にあたり横編機の経糸専用装置は不要である。汎用的な横編機の仕様変更や専用装置の追加なども行うことなく、ベース編地のそれぞれベース編地のシンカーループに対してインレイさせた編糸を備えた編地を編成することができる。インレイさせた編糸がベース編地のシンカーループに対し、後側と前側を通過するために第1と第3の給糸口の位置は、第2給糸口に対してそれぞれ前側と後側となっている。第2給糸口と、第1と第3の各給糸口との給糸位置の違いを利用して編成を行うことで、編目の目移しなく前後に交差することができる。
【0012】
前記「インレイ」とは、コース方向に渡るシンカーループに対し直交する方向などに向けて編糸の前後に挿通を繰り返しながら編糸を交差させて配置することを示す。また「コース方向にインレイ」では、公知のインレイ編成を示し、コース方向に並ぶ編目列の編目に対して前後に挿通を繰り返しながら編糸をコース方向に配置することを示すため、これら2つのインレイされる編糸の方向は異なる。
【0013】
本発明によれば、少なくとも複数コースの間、第2給糸口を同じ位置に停止させることで、第2給糸口から給糸される編糸を、ベース編地のシンカーループに対して直交させることができ、直線的な編糸を配置することが出来る。
【0014】
また本発明によれば、ベース編地の編成の途中で、少なくとも第2給糸口の停止位置を次のニット編成を行う前にコース方向に移動し、ベース編地に対し第2給糸口の編糸の位置をずらしながら編成することを繰り返し、第2給糸口から給糸される編糸を傾斜させることができる。
【0015】
更にまた本発明によれば、前記第2給糸口から給糸される編糸を用いて、ベース編地の編目に対しニット編成によりベース編地の一部としてコース方向への編成を行い、編目を配置することができる。つまり他の給糸口と同様に扱うことができる。
【0016】
本発明によれば、前記第2給糸口から給糸される編糸を用いて、ベース編地のコース方向へのインレイ編成を行い、編糸がベース編地のコース方向に並ぶ編目列の編目の前側と後側を挿通してコース方向に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態1としての編地10のループ図である。
【
図2】本発明の実施形態1として示す編地10の編成図である。
【
図3】本発明の実施形態1として示す編地10を編成する際の給糸口の前後関係を示す針床上方からみたレールの概略図である。
【
図4】本発明の実施形態2としての編地20のループ図である。
【
図5】本発明の実施形態3としての編地30のループ図である。
【
図6】本発明の実施形態4としての編地40のループ図である。
【
図7】本発明の実施形態1としての編地10を一部に含んだ編地の写真の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態1として編地10の編成について説明を行う。使用する横編機は、前後一対の針床を備えた2枚ベッド横編機で2つのカムシステムを備えており、前方側から後方側にかけて異なるトラック上に位置する3つの給糸口4,5,6を、図示しないキャリッジで連行して編成する。この3つの給糸口は同じ物である。勿論これら3つの給糸口4,5,6は本発明での最小単位の構成となるため、実施形態で示す給糸口間の前後関係を考慮して他の給糸口を加えれば、編成可能な編地のバリエーションを大幅に増やすことが出来る。
【0019】
説明の便宜上、編成される編地は天竺とし、編成図では針数を実際の編成よりも少なくしている。編地は天竺以外のリブ組織やガーター組織などを用いて編成しても良い。
図7は実施形態1としての編地10を一部に含んだ編地の写真の図である。第2給糸口5から給糸される編糸2をウェール方向に配置し、コース方向には公知なインレイ編成を行うことで、格子状の柄を編成している。この時、第2給糸口5に相当する複数の給糸口を加えて編成している。
【0020】
図1は実施形態1としての編地10のループ図である。
図1や他の図面においても、中線は第1給糸口4から給糸された編糸1を、細線は第3給糸口6から給糸された編糸3を、太線は第2給糸口5から給糸された編糸2を示す。またA〜Fは各ウェール方向の編目の列を示し、L1〜L6はコース方向の編目のラインを示す。
図2は編地10の編成図である。
図3は、実施形態1として示す編地10を編成する際の給糸口の前後関係を示す針床上方からみたレールの概略図である。4本の転換レール7上の異なるトラックに並ぶ3つの給糸口4,5,6を示す。前側(F)から後側(B)に向けて並んでいる。
【0021】
編地10は、ベース編地8を編成するための給糸口4、6が同じ編糸1,3を給糸して天竺編成し、給糸口5からはそれらとは異なる編糸2を給糸する。編糸2は、C列とD列の編目間であるシンカーループに対してラインL2,4では前側に、ラインL3,5では後側に配置され、前後に交差させながら織物のようにインレイしている。
【0022】
図2では、図中の左欄の「S+数字」は工程番号を示す。また、図中の中欄のA〜Fは針床の編針を、○は編目を、Vはタック目を、黒点は編針を示す。さらに、図中の右欄における左右方向の矢印は編成方向を、矢印の2つに分割したエリアはカムシステムを示し、矢印前側は先行、後側は後行のカムシステムを示す。そのエリアでの数字は給糸口を、Kはニット編成を、Tはタック編成を示す。また、針床の編針位置を示すA〜Fは
図1のループ図にも対応し、編目の左横に示すラインL1〜6と合せて左下端部の編目をA−1、右上端部の編目をF−6として各編目の表現にも使用している。
【0023】
編地10の編成工程を、
図2の編成図で説明する。S1では紙面右方向に第1給糸口4,と第2給糸口5を移動させる。第1給糸口4を先行させて編針A〜Fでニット編成し(
図1のL1、以降L1と示す)、第2給糸口5を後行のカムシステムを用いて編針Cでタック編成を行う (L1)。これは、糸入れされた編糸2の始端部を固定して安定させる為であり、必ずしもタックを行う必要はない。また、給糸口5の停止位置は、編幅内であり編針の上昇時に編針と干渉しない編針Cと編針Dの間が良い。仮にその位置から左右にずれたとしても、編糸2を挟む編目C−1と編目D−1を編成する際に、それらの編針C,Dに干渉しなければよく、編成前に給糸口5の位置を補正したり、干渉する位置の編針Cまたは編針Dをミス編成させても良い。
【0024】
S2では、左側に位置する給糸口6を用いて編針A〜Fでニット編成する
(L2)。S3では、左方に向けた一編成コースで先行に給糸口4を、後行に給糸口6を用い、編針F〜Aでベース編地8をニット編成する (L3,4)。編目列としては2段分完成するが、編糸2に対し、ベース編地のシンカーループがその編目C−3と編目D−3の間では前側に配置され、編目C−4と編目D−4の間では後側に配置される。編糸2は、編目を形成することなく、編目C,D間のシンカーループとなるベース編地8の一方の編糸1と他方の編糸3の前後に直交するように配置を変えて絡みながらウェール方向にインレイする。
【0025】
S4では、更に給糸口4,6を用い、右方に向けた一編成コースで先行に給糸口4を、後行に給糸口6を用い、編針A〜Fでニット編成する(L5,6)。S3を左右逆にした編成となり、S3同様にベース編地8のシンカーループが編糸2に対して後側と前側に配置される。つまり給糸口5を同じ停止位置に複数コースの間留めることで、編糸2がウェール方向に連続してベース編地8の一部に配置される。S4以降については、S3とS4を繰り返せばよい。なお、この繰り返しは必須ではなく、毎コースで前後にならなくても良い。
【0026】
本発明では、2カムシステムを用いており、一編成コースで先行と後行で2つの給糸口を用いて編成するため空コースが少なく高効率で編成できる。また効率は落ちるが1カムシステムでの編成も可能である。
【0027】
図4は実施形態2としての編地20のループ図である。本実施形態についても実施形態1との異なる工程のみを説明する。ラインL1、L2の編成時には第2給糸口5を編針C,D間に停止させ、ラインL3、L4の編成時にはその編成前に第2給糸口5を移動して編針D,E間に停止させる。同様にしてラインL5、L6の編成時には第2給糸口5を編針E,F間に停止させることで、編糸2がベース編地8のコース方向に渡るシンカーループに対して傾斜するようになる。階段状ではあるが、ウェール方向に延びる編糸2の段数とコース方向に移動する目数分の組合せで角度も調整できる。
【0028】
図5は実施形態3としての編地30のループ図である。本実施形態についても実施形態1との異なる工程のみを説明する。まず、ラインL1では、他の実施形態とは異なり、第2給糸口5を用いて編針A,B,Cでニット編成して編目を形成し、編針C,D間に停止させる。編針D,E,Fでは第1給糸口4を用いてニット編成する。ラインL2〜ラインL5の途中となる編目C−5までは第1給糸口4と第3給糸口6を用いて編成する。その後、停止していた第2給糸口5を用いて再びラインL5の編針D,Eでニット編成して編目を形成し、編針E,F間に停止させる。編目C−5まで編成していた第1給糸口4は続けて編針D,Eをミス編成した後、編針Fで編目を形成してラインL5を完成させる。ラインL6は、第3給糸口6を用いて編成する。この編成では、第2給糸口5をコース方向に配置している。
【0029】
図6は実施形態4としての編地40のループ図である。基本的な編成は実施形態1と同様のため、異なる工程のみを説明する。実施形態1と同様にラインL1からL4で編針Cと編針Dの間に編糸2を配置した後、編目E−4を後針床に目移しし、ラインL5を編成する前に第2給糸口を編針Fと編針Gの間まで移動させる。後針床に目移しした編目E−4を再び前針床に目移しし、ラインL5、L6の編成を行う。編糸2は、ベース編地8のコース方向に並ぶ編目列の編目に対しコース方向へのインレイを行い、該編糸を前記編目の前側と後側に挿通されコース方向に配置される。ラインL4の編成は公知のインレイ編成となる。この編成では、同一の編糸2を用いて縦方向のインレイと横方向のインレイが組み合わさった階段状の編成が可能となる。
【0030】
各実施形態では、編糸2を給糸する第2給糸口5が1つではあったが、
図7で示すように、編糸2を複数必要な場合には、ベース編地8を編成する第1給糸口4と第3給糸口6の中間に位置する給糸口であれば追加して使用しても良い。また給糸口は、キャリッジで連行する以外の自走式タイプでも良い。更にまた、各実施形態では、編糸2はベース編地8のシンカーループに対して直交や傾斜した状態で配置されたり、ベース編地8の編目の前後に編糸2を交差させるインレイ編成やベース編地8の編目の一部として編糸2をコース方向にニット編成することを示したが、これらを組み合わせて編成しても良い。
【符号の説明】
【0031】
10,20,30,40 編地
1,2,3 編目
4,5,6
給糸口
8 ベース編地