(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係る作業車両の実施の一形態である農業用のトラクタ1について、添付の図面を参照して説明する。
【0015】
図1に示すように、トラクタ1は、機体に連結した作業機にPTO軸を介して動力を伝達可能な作業車両である。トラクタ1の機体2の前後には、前輪3及び後輪4がそれぞれ配置される。機体2の前部には、トラクタ1の動力源であるエンジン5が搭載され、当該エンジン5はボンネット6により覆われる。エンジン5には、当該エンジン5を始動・停止するためのエンジン始動・停止手段7が設けられる(
図3参照)。当該エンジン始動・停止手段7は、具体的には、例えばエンジン5への燃料供給経路に設けられる燃料供給弁を開閉するためのアクチュエータであるソレノイド等により構成される。エンジン始動・停止手段7は、制御装置40に電気的に接続される。
【0016】
図1に示すように、機体2の後部には操縦部8が設けられる。当該操縦部8には、ステアリングハンドル9が設けられ、当該ステアリングハンドル9の後方にはユーザー(オペレータ)が着座する着座シート10が設けられる。ステアリングハンドル9の近傍には、電源スイッチ11、ミッドPTOスイッチ12、リアPTOスイッチ13、ボスPTOスイッチ26及びオーバーライドスイッチ14等が設けられる(
図3参照)。また、ステアリングハンドル9の下方には、機体操作具15(
図1参照)が設けられる。
【0017】
エンジン5の後方にはクラッチハウジングが配設され、当該クラッチハウジングの後方にはミッションケース17が配設される。そして、エンジン5の動力が、前記クラッチハウジングに収容された主クラッチや、ミッションケース17に収容された変速装置を経て、後輪4に伝達されると同時に、四輪駆動・前輪増速駆動切換機構を介して前輪3に伝達されるように構成されている。
【0018】
ミッションケース17の後面には、リアPTO軸21が後ろ向きに突出するように設けられる。また、ミッションケース17の底部には、前向きに突出するミッドPTO軸22が配設される。リアPTO軸21は、破砕作業機やロータリ作業機等の、機体2の後方に連結された作業機(不図示)にエンジン5からの動力を伝達するためのものである。ミッドPTO軸22は、芝刈り用のモア作業機23等の、機体2の中央下方に装着されたミッド作業機や、除雪機29等の、機体2の前部に装着されたフロント作業機に(
図2参照)、エンジン5からの動力を伝達するためのものである。そして、当該エンジン5の動力が、前記クラッチハウジングに収容された主動軸等を介して、リアPTO軸21と、ミッドPTO軸22と、に伝達されるように構成されている。
【0019】
図1又は
図2に示すように、前輪3及び後輪4の間にはミッド作業機(例えば、モア作業機23)が装着可能に構成されており、機体2の前部にはフロント作業機(例えば、除雪機29)が装着可能に構成されている。
【0020】
図1に示すように、モア作業機23の上部にはギアボックス27が配置されている。モア作業機23は、伝動軸28を介してミッドPTO軸22に接続され、伝動軸28がギアボックス27に連結されることによって、モア作業機23がミッドPTO軸22に接続される。
図2に示すように、除雪機29の後部にはギアボックス30が配置されている。除雪機29は、シャフト(六角シャフト)36を介してミッドPTO軸22に接続され、シャフト36がギアボックス30に連結されることによって、除雪機29がミッドPTO軸22に接続される。ミッドPTO軸22(ギアボックス27)には、前記フロント作業機(除雪機29)及び前記ミッド作業機(モア作業機23)が択一的に接続可能に構成されている。
【0021】
図2に示すように、機体2の下部には、回転センサ37が設けられている。回転センサ37は、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機(除雪機29)が接続されているか否かを検出するためのセンサである。回転センサ37は、除雪機29がシャフト36を介してミッドPTO軸22に接続されたときに、シャフト36の近傍に存在するように配置されている。回転センサ37は、シャフト36の回転パルスを検出することによって、シャフト36の回転を検出する。
【0022】
前記主動軸からミッドPTO軸22への動力伝達経路の中途部、すなわちエンジン5とミッドPTO軸22との間には、ミッドPTOクラッチ24が配置される(
図3参照)。ミッドPTOクラッチ24は、例えば電磁クラッチにより構成され、ミッドPTO軸22への動力の伝達又は遮断がPTOソレノイド25により切り換えられるものである。すなわち、PTOソレノイド25に通電を行うことにより、ミッドPTOクラッチ24が伝達状態(「接」)となり、PTOソレノイド25への通電を停止することにより、ミッドPTOクラッチ24が遮断状態(「断」)となる。PTOソレノイド25は、制御装置40に電気的に接続される。
【0023】
同様に、前記主動軸からリアPTO軸21への動力伝達経路の中途部、すなわちエンジン5とリアPTO軸21との間には、リアPTOクラッチ(不図示)が配置される。
【0024】
なお、「PTOクラッチ」は、本実施形態のような電磁クラッチに限定するものではなく、例えば多版式のクラッチや油圧式のクラッチ等であってもよい。また、「アクチュエータ」は、本実施形態のようなソレノイドに限定するものではなく、他の電動アクチュエータ等であってもよい。
【0025】
電源スイッチ11は、トラクタの電源スイッチであり、例えばキースイッチ等により構成される。電源スイッチ11は、制御装置40に電気的に接続される。
【0026】
ミッドPTOスイッチ12は、ミッドPTOクラッチ24の状態を伝達状態又は遮断状態の何れかに人為的に選択するための操作具である。ミッドPTOスイッチ12は、制御装置40に電気的に接続される。ミッドPTOスイッチ12のON状態はミッドPTOクラッチ24の伝達状態(「接」)に対応し、OFF状態は当該ミッドPTOクラッチ24の遮断状態(「断」)に対応している。
【0027】
図4に示すように、本実施形態のミッドPTOスイッチ12とオーバーライドスイッチ14は、一つの操作具12aでON/OFF操作可能としている。オーバーライドスイッチ14は、機体2の後進時においてもミッドPTO軸22を駆動可能としたい場合に、ユーザーがON操作するものである。具体的には、本実施形態のミッドPTOスイッチ12とオーバーライドスイッチ14の操作具12aは、
図4に示すように、その突出量を三段階に切り換えることが可能となっている(x<y<z)。つまり、三つのポジションに切り換えることが可能となっている。突出量が最小(x)となるポジションとしたとき(
図4(a)参照)、ミッドPTOスイッチ12がOFFとなるとともにオーバーライドスイッチ14がOFFとなる。突出量が最大(z)となるポジションとしたとき(
図4(c)参照)、ミッドPTOスイッチ12がONとなるとともにオーバーライドスイッチ14がONとなる。突出量が最小と最大の中間(y)となるポジションとしたとき(
図4(b)参照)、ミッドPTOスイッチ12がONとなるとともにオーバーライドスイッチ14がOFFとなる。ただし、本発明に係る「オーバーライドスイッチ」は、ミッドPTOスイッチ12とは別体で、別途設ける構成とし、それぞれ別々に操作する構成としてもよい。
【0028】
図3に示すように、オーバーライドランプ18は、オーバーライドスイッチ14がON操作されている間点灯するランプである。オーバーライドランプ18は制御装置40に電気的に接続される。
【0029】
リアPTOスイッチ13は、前記リアPTOクラッチの状態を伝達状態又は遮断状態の何れかに人為的に選択するための操作具である。リアPTOスイッチ13は、制御装置40に電気的に接続される。リアPTOスイッチ13のON状態は前記リアPTOクラッチの伝達状態(「接」)に対応し、OFF状態は当該リアPTOクラッチの遮断状態(「断」)に対応している。
【0030】
ボスPTOスイッチ26は、ミッドPTOクラッチ24及び前記リアPTOクラッチの状態を伝達状態又は遮断状態の何れかに人為的に選択するための操作具である。ボスPTOスイッチ26は、制御装置40に電気的に接続される。ボスPTOスイッチ26のON状態はミッドPTOクラッチ24及び前記リアPTOクラッチの伝達状態(「接」)に対応し、OFF状態はミッドPTOクラッチ24及び当該リアPTOクラッチの遮断状態(「断」)に対応している。
【0031】
図1に示す機体操作具15は、機体2を走行させるときにユーザーが人為操作する操作具である。本実施形態の機体操作具15は、ペダルにより構成される。トラクタ1においては、機体操作具15により機体2を前後進させることが可能であり、機体操作具15が前進側に操作されることによって機体2が前進し、後進側に操作されることによって機体2が後進し、中立位置に操作されることによって機体2が停止する。ただし、「機体操作具」は、ペダルの如き構成のものに限定するものではなく、例えばレバー等により構成してもよい。機体操作具15には、機体操作具15の回動角を検出するポテンショメータ38が接続されている(
図3参照)。
【0032】
図3に示すように、トラクタ1には前述した制御装置40が搭載される。当該制御装置40は、エンジン始動・停止手段7を制御したり、アクチュエータとしてのPTOソレノイド25を制御したりするものである。制御装置40は、前述したエンジン始動・停止手段7、PTOソレノイド25、オーバーライドランプ18、電源スイッチ11、ミッドPTOスイッチ12、オーバーライドスイッチ14、リアPTOスイッチ13、回転センサ37及びポテンショメータ38と電気的に接続される。
【0033】
制御装置40は、回転センサ37の検出結果に基づいて、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機(除雪機29)が接続されているか否かを判定する。詳細には、制御装置40は、回転センサ37から、シャフト36の回転数が所定の範囲内の値である旨の情報を所定の期間受信した場合には、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていると判定して、それ以外の場合には、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていないと判定する。なお、前記所定の範囲及び所定の期間は、ミッドPTO軸22の最小回転数・最大回転数等を考慮して、適宜決定される。このように、トラクタ1においては、制御装置40がミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されているか否かを判定するための要件を厳格にすることによって、制御装置40がミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されているか否かを精度よく判定することが可能となる。
【0034】
制御装置40は、ポテンショメータ38の検出結果に基づいて、機体操作具15が前進側、後進側、及び中立位置、のうちのいずれに操作されているかを判定する。なお、機体操作具15に、公知のバックスイッチを設けて、制御装置40は、当該バックスイッチの検出結果に基づいて、機体操作具15が後進側へ操作されているか否かを判定するように構成してもよい。
【0035】
以下では、制御装置40により実行される制御フロー100について、
図5を参照して説明する。
図5に示すように、制御フロー100は、ステップS101〜ステップS108により構成される。
【0036】
電源スイッチ11がONにされるとともにエンジン5が始動されたとき、制御装置40は制御フロー100を開始する(START)。
【0037】
制御装置40は、機体操作具15が後進側に操作されているか否かを判定する(ステップS101)。
【0038】
制御装置40は機体操作具15が後進側に操作されたと判定した場合(機体2を後進させるための信号(機体2の後進信号)を受信した場合)(ステップS101,Yes)、続いて、ミッドPTOスイッチ12がONであるか否かを判定する(ステップS102)。
【0039】
ミッドPTOスイッチ12がOFFの場合(ステップS102,No)、制御装置40は、エンジン5を稼動状態に保持するようにエンジン始動・停止手段7を制御するとともに、ミッドPTOクラッチ24が遮断状態となるようにPTOソレノイド25を制御する(ステップS105)。すなわち、機体操作具15の後進側への操作が検出された場合(機体2の後進信号を受信した場合)には、原則的に、エンジン5を停止させずにミッドPTOクラッチ24を「断」として、後進時にミッドPTO軸22が駆動することを防止するのである。
【0040】
ミッドPTOスイッチ12がONの場合(ステップS102,Yes)、制御装置40は、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機(除雪機29)が接続されているか否かを判定する(ステップS103)。詳細には、制御装置40は、回転センサ37から、シャフト36の回転数が所定の範囲内の値である旨の情報を所定の期間受信したか否かを判定する。
【0041】
制御装置40はミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていると判定した場合(ステップS103,Yes)、エンジン5を稼動状態に保持するようにエンジン始動・停止手段7を制御するとともに、ミッドPTOクラッチ24が伝達状態となるようにPTOソレノイド25を制御する(ステップS106)。この場合、制御装置40は、オーバーライドスイッチ14がONであるかOFFであるかに関係なく、エンジン5を稼動状態に保持するとともに、ミッドPTOクラッチ24を伝達状態に保持する。すなわち、機体2の後進時においてユーザーがミッドPTO軸22を駆動させることを望んでいる場合と判断し、後進時においても例外的にミッドPTO軸22を駆動させるべく、エンジン5の稼動状態を保持しつつ、ミッドPTOクラッチ24を「接」とする。これにより、トラクタ1においては、ミッドPTO軸22にモア作業機23が接続されておらず、除雪機29が接続されている場合で、ユーザーがオーバーライドスイッチ14をONに操作することを忘れて、機体操作具15を後進側へ操作したときに、エンジン5が停止することを回避でき、かつ、ミッドPTOクラッチ24の伝達状態を維持できる。これにより、作業性を向上させることが可能となる。
【0042】
制御装置40はミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていないと判定した場合(ステップS103,No)、オーバーライドスイッチ14がONであるか否かを判定する(ステップS104)。
【0043】
オーバーライドスイッチ14がONである場合(ステップS104,Yes)、制御装置40は、エンジン5を稼動状態に保持するようにエンジン始動・停止手段7を制御するとともに、ミッドPTOクラッチ24が伝達状態となるようにPTOソレノイド25を制御する(ステップS107)。すなわち、機体2の後進時においてユーザーがミッドPTO軸22を駆動させることを望んでいる場合と判断し、後進時においても例外的にミッドPTO軸22を駆動させるべく、エンジン5の稼動状態を保持しつつ、ミッドPTOクラッチ24を「接」とするとともに、オーバーライドランプ18を点灯させる。
【0044】
オーバーライドスイッチ14がOFFである場合(ステップS104,No)、制御装置40は、エンジン5を停止するようにエンジン始動・停止手段7を制御するとともに、ミッドPTOクラッチ24が遮断状態となるようにPTOソレノイド25を制御する(ステップS108)。なお、この場合、制御装置40は、エンジン5を稼動状態に保持するようにエンジン始動・停止手段7を制御するとともに、ミッドPTOクラッチ24が遮断状態となるようにPTOソレノイド25を制御してもよい。
【0045】
なお、制御装置40は、エンジン5が稼動され、かつ、ボスPTOスイッチ26がONの状態(ミッドPTOクラッチ24及び前記リアPTOクラッチが伝達状態である状態)で、機体操作具15により機体2が後進するように操作された場合で、回転センサ37の検出結果に基づいてミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていると判定したときには、エンジン5の稼動、並びにミッドPTOクラッチ24及び前記リアPTOクラッチの伝達状態を継続させてもよい。
【0046】
また、制御装置40は、エンジン5が稼動され、かつ、ボスPTOスイッチ26がONの状態(ミッドPTOクラッチ24及び前記リアPTOクラッチが伝達状態である状態)で、機体操作具15により機体2が後進するように操作された場合で、回転センサ37の検出結果に基づいてミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていないと判定したときにおいて、オーバーライドスイッチ14がONであるときには、エンジン5の稼動、並びにミッドPTOクラッチ24及び前記リアPTOクラッチの伝達状態を継続させて、オーバーライドスイッチ14がOFFであるときには、ミッドPTOクラッチ24及び前記リアPTOクラッチを遮断状態にしてもよい。
【0047】
なお、本実施形態においては、「作業車両」は農業用のトラクタ1であるものとしたが、本発明はこれに限定するものではなく、建設作業用のトラクタ等の、機体に作業機を装着可能な作業車両としてもよい。
【0048】
以上のように、トラクタ1は、フロント作業機及びミッド作業機を択一的に接続可能なミッドPTO軸22と、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されているか否かを検出するための回転センサ37と、エンジン5が稼動され、かつ、ミッドPTO軸22のミッドPTOクラッチ24が伝達状態である状態で、機体2の後進信号を受信した場合(機体操作具15により機体2が後進するように操作された場合)で、回転センサ37の検出結果に基づいてミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていると判定したときには、エンジン5の稼動、及びミッドPTOクラッチ24の伝達状態を継続させる制御装置40と、を具備する。
【0049】
これによると、ミッドPTO軸22に前記ミッド作業機が接続されておらず、前記フロント作業機が接続されている場合で、ユーザーがオーバーライドスイッチ14をONに操作することを忘れて、機体操作具15を後進側へ操作したときに、エンジン5が停止することを回避でき、かつ、ミッドPTOクラッチ24の伝達状態を維持できる。これにより、作業性を向上させることが可能となる。
【0050】
また、トラクタ1においては、前記フロント作業機は、シャフト36を介してミッドPTO軸22に接続可能であり、回転センサ37は、ミッドPTO軸22に接続されたシャフト36の回転を検出し、制御装置40は、回転センサ37から、シャフト36の回転数が所定の範囲内の値である旨の情報を所定の期間受信した場合には、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていると判定して、それ以外の場合には、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていないと判定する。
【0051】
これによると、制御装置40が、ミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されているか否かを精度よく判定することが可能となる。
【0052】
また、トラクタ1においては、オーバーライドスイッチ14を具備し、制御装置40は、エンジン5が稼動され、かつ、ミッドPTOクラッチ24が伝達状態である状態で、機体2の後進信号を受信した場合(機体操作具15により機体2が後進するように操作された場合)で、回転センサ37の検出結果に基づいてミッドPTO軸22に前記フロント作業機が接続されていないと判定したときにおいて、オーバーライドスイッチ14がONであるときには、エンジン5の稼動、及びミッドPTOクラッチ24の伝達状態を継続させて、オーバーライドスイッチ14がOFFであるときには、ミッドPTOクラッチ24を遮断状態にする。
【0053】
これによると、オーバーライドスイッチ14がONに操作されることによって、前記ミッド作業機を駆動させた状態で、機体2を後進させることが可能となる。