特許第5955228号(P5955228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955228置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造を有する化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955228
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造を有する化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20160707BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160707BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C07D471/04 103S
   C07D471/04CSP
   C07D471/04 103H
   C07D471/04 103Z
   H05B33/22 B
   H05B33/14 B
   C09K11/06 690
【請求項の数】8
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2012-553608(P2012-553608)
(86)(22)【出願日】2012年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2012000206
(87)【国際公開番号】WO2012098849
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-7458(P2011-7458)
(32)【優先日】2011年1月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100150968
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 悠有子
(72)【発明者】
【氏名】横山 紀昌
(72)【発明者】
【氏名】神田 大三
(72)【発明者】
【氏名】林 秀一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英治
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/053019(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/114690(WO,A1)
【文献】 特開2006−080271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 471/04
C09K 11/06
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物。
【化1】
(1)
(式中、Ar、Arは同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、Arが置換芳香族炭化水素基、置換芳香族複素環基、または置換縮合多環芳香族基である場合の置換基は芳香族複素環基ではないものとする。〜R17は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、W、X、Y、Zは炭素原子または窒素原子を表す。ここでW、X、Y、Zはそのいずれか1つのみが窒素原子であるものとし、この場合の窒素原子はR14〜R17の水素原子もしくは置換基を有さないものとする。)
【請求項2】
下記一般式(1’)で表される、請求項1記載の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物。
【化2】
(1’)
(式中、Ar、Arは同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、Arが置換芳香族炭化水素基、置換芳香族複素環基、または置換縮合多環芳香族基である場合の置換基は芳香族複素環基ではないものとする。〜R17は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、W、X、Y、Zは炭素原子または窒素原子を表す。ここでW、X、Y、Zはそのいずれか1つのみが窒素原子であるものとし、この場合の窒素原子はR14〜R17の水素原子もしくは置換基を有さないものとする。)
【請求項3】
下記一般式(1’’)で表される、請求項1記載の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物。
【化3】
(1’’)
(式中、Ar、Arは同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、Arが置換芳香族炭化水素基、置換芳香族複素環基、または置換縮合多環芳香族基である場合の置換基は芳香族複素環基ではないものとする。〜R17は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、W、X、Y、Zは炭素原子または窒素原子を表す。ここでW、X、Y、Zはそのいずれか1つのみが窒素原子であるものとし、この場合の窒素原子はR14〜R17の水素原子もしくは置換基を有さないものとする。)
【請求項4】
一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、下記一般式(1)で表される置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物が、少なくとも1つの有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化4】
(1)
(式中、Ar、Arは同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、Arが置換芳香族炭化水素基、置換芳香族複素環基、または置換縮合多環芳香族基である場合の置換基は芳香族複素環基ではないものとする。〜R17は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、W、X、Y、Zは炭素原子または窒素原子を表す。ここでW、X、Y、Zはそのいずれか1つのみが窒素原子であるものとし、この場合の窒素原子はR14〜R17の水素原子もしくは置換基を有さないものとする。)
【請求項5】
前記した有機層が電子輸送層であり、上記一般式(1)で表される化合物が、該電子輸送層中に、少なくとも一つの構成材料として用いられていることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記した有機層が正孔阻止層であり、上記一般式(1)で表される化合物が、該正孔阻止層中に、少なくとも一つの構成材料として用いられていることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記した有機層が発光層であり、上記一般式(1)で表される化合物が、該発光層中に、少なくとも一つの構成材料として用いられていることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記した有機層が電子注入層であり、上記一般式(1)で表される化合物が、該電子注入層中に、少なくとも一つの構成材料として用いられていることを特徴とする請求項4記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の表示装置に好適な自発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子(以後、有機EL素子と略称する)に適した化合物と該化合物を用いた有機EL素子に関するものであリ、詳しくは置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物と、該化合物を用いた有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は自己発光性素子であるため、液晶素子にくらべて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であるため、活発な研究がなされてきた。
【0003】
1987年にイーストマン・コダック社のC.W.Tangらは各種の役割を各材料に分担した積層構造素子を開発することにより有機材料を用いた有機EL素子を実用的なものにした。彼らは電子を輸送することのできる蛍光体と正孔を輸送することのできる有機物とを積層し、両方の電荷を蛍光体の層の中に注入して発光させることにより、10V以下の電圧で1000cd/m以上の高輝度を得た(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
現在まで、有機EL素子の実用化のために多くの改良がなされ、各種の役割をさらに細分化して、基板上に順次に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極を設けた電界発光素子によって高効率と耐久性が達成されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、発光効率のさらなる向上を目的として三重項励起子の利用が試みられ、燐光発光体の利用が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
発光層は、一般的にホスト材料と称される電荷輸送性の化合物に、蛍光体や燐光発光体をドープして作製することもできる。上記の非特許文献1および2に記載されているように、有機EL素子における有機材料の選択は、その素子の効率や耐久性など諸特性に大きな影響を与える。
【0007】
有機EL素子においては、両電極から注入された電荷が発光層で再結合して発光が得られるが、電子の移動速度より正孔の移動速度が速いため、正孔の一部が発光層を通り抜けてしまうことによる効率低下が問題となる。そのため電子の移動速度の速い電子輸送材料が求められている。
【0008】
代表的な発光材料であるトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(以後、Alqと略称する)は電子輸送材料としても一般的に用いられるが、電子の移動度が遅く、また、仕事関数が5.6eVなので正孔阻止性能が十分とは言えない。
【0009】
正孔の一部が発光層を通り抜けてしまうことを防ぎ、発光層での電荷再結合の確率を向上させる方策には、正孔阻止層を挿入する方法がある。正孔阻止材料としてはこれまでに、トリアゾール誘導体(例えば、特許文献3参照)やバソクプロイン(以後、BCPと略称する)、アルミニウムの混合配位子錯体[アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノレート(以後、BAlqと略称する)](例えば、非特許文献2参照)などが提案されている。
【0010】
一方、正孔阻止性に優れた電子輸送材料として、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(以後、TAZと略称する)が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
TAZは仕事関数が6.6eVと大きく正孔阻止能力が高いために、真空蒸着や塗布などによって作製される蛍光発光層や燐光発光層の、陰極側に積層する電子輸送性の正孔阻止層として使用され、有機EL素子の高効率化に寄与している(例えば、非特許文献3参照)。
【0012】
しかし、電子輸送性が低いことがTAZにおける大きな課題であり、より電子輸送性の高い電子輸送材料と組み合わせて、有機EL素子を作製することが必要であった(例えば、非特許文献4参照)。
【0013】
また、BCPにおいても仕事関数が6.7eVと大きく正孔阻止能力が高いものの、ガラス転移点(Tg)が83℃と低いことから、薄膜の安定性に乏しく、正孔阻止層として十分に機能しているとは言えない。
【0014】
いずれの材料も膜安定性が不足しており、もしくは正孔を阻止する機能が不十分である。有機EL素子の素子特性を改善させるために、電子の注入・輸送性能と正孔阻止能力に優れ、薄膜状態での安定性が高い有機化合物が求められている。
【0015】
これらを改良した化合物として、アントラセン環構造とベンズイミダゾール環構造を有する化合物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0016】
しかしながら、これらの化合物を電子注入層または/および電子輸送層に用いた素子では、発光効率などの改良はされているものの、まだ十分とはいえず、低駆動電圧化や、さらなる高発光効率化、特に高電流効率化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平8−48656号公報
【特許文献2】特許第3194657号公報
【特許文献3】特許第2734341号公報
【特許文献4】WO2003/060956号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】応用物理学会第9回講習会予稿集55〜61ページ(2001)
【非特許文献2】応用物理学会第9回講習会予稿集23〜31ページ(2001)
【非特許文献3】第50回応用物理学関係連合講演会28p−A−6講演予稿集1413ページ(2003)
【非特許文献4】応用物理学会有機分子・バイオエレクトロニクス分科会会誌11巻1号13〜19ページ(2000)
【非特許文献5】J.Chem.Soc.,Perkin Trans.1,1505(1999)
【非特許文献6】J.Org.Chem.,60,7508(1995)
【非特許文献7】Synth.Commun.,11,513(1981)
【非特許文献8】Synthesis,1(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、高効率、高耐久性の有機EL素子用の材料として、電子の注入・輸送性能に優れ、正孔阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高い優れた特性を有する有機化合物を提供し、さらにこの化合物を用いて、高効率、高耐久性の有機EL素子を提供することにある。
【0020】
本発明が提供しようとする有機化合物が具備すべき物理的な特性としては、(1)電子の注入特性がよいこと、(2)電子の移動速度が速いこと、(3)正孔阻止能力に優れること、(4)薄膜状態が安定であること(5)耐熱性に優れていることをあげることができる。また、本発明が提供しようとする有機EL素子が具備すべき物理的な特性としては、(1)発光効率および電力効率が高いこと、(2)発光開始電圧が低いこと、(3)実用駆動電圧が低いことをあげることができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そこで本発明者らは上記の目的を達成するために、電子親和性であるピリジン環の窒素原子が金属に配位する能力を有していること、ピリドインドール環構造が高い電子輸送能力を有していること、ピリジン環やピリドインドール環構造が耐熱性に優れているということなどに着目して、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物を設計して化学合成し、該化合物を用いて種々の有機EL素子を試作し、素子の特性評価を鋭意行なった結果、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明は、一般式(1)で表される置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物である。
【0023】
【化1】
(1)
【0024】
(式中、Ar、Arは同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R〜R17は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、W、X、Y、Zは炭素原子または窒素原子を表す。ここでW、X、Y、Zはそのいずれか1つのみが窒素原子であるものとし、この場合の窒素原子はR14〜R17の水素原子もしくは置換基を有さないものとする。)
【0025】
また、本発明は、下記一般式(1’)で表される置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物である。
【0026】
【化2】
(1’)
【0027】
(式中、Ar、Arは同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R〜R17は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、W、X、Y、Zは炭素原子または窒素原子を表す。ここでW、X、Y、Zはそのいずれか1つのみが窒素原子であるものとし、この場合の窒素原子はR14〜R17の水素原子もしくは置換基を有さないものとする。)
【0028】
また、本発明は、下記一般式(1’’)で表される置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物である。
【0029】
【化3】
(1’’)
【0030】
(式中、Ar、Arは同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、R〜R17は、同一でも異なってもよく、水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、W、X、Y、Zは炭素原子または窒素原子を表す。ここでW、X、Y、Zはそのいずれか1つのみが窒素原子であるものとし、この場合の窒素原子はR14〜R17の水素原子もしくは置換基を有さないものとする。)
【0031】
また、本発明は、一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機EL素子において、前記有機層の少なくとも一層が前記一般式(1)、一般式(1’)または一般式(1’’)で表される置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物を含む、有機EL素子である。
【0032】
一般式(1)、(1’)または(1’’)中のAr、Arで表される、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」の「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、具体的にフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、アントリル基、アセナフテニル基、フェナントリル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、トリアジニル基、ピリミジル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基のような基をあげることができる。
【0033】
一般式(1)、(1’)または(1’’)中のAr、Arで表される、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、具体的に重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、水酸基、ニトロ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基で置換されたジアルキルアミノ基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、スチリル基、ピリジル基、ピリドインドリル基、キノリル基、ベンゾチアゾリル基のような基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。
【0034】
一般式(1)、(1’)または(1’’)中のArとしては、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」が好ましく、特に、置換もしくは無置換の、フェニル基、ナフチル基、アントリル基もしくはフルオレニル基が好ましい。
一般式(1)、(1’)または(1’’)中のArとしては、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」が好ましく、特に、置換もしくは無置換のフェニル基が好ましい。
【0035】
一般式(1)、(1’)または(1’’)中のR〜R17で表される、「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」の「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、具体的にフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、アントリル基、アセナフテニル基、フェナントリル基、フルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、トリアジニル基、ピリミジル基、フラニル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基のような基をあげることができる。
ここで、R〜Rで表される、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」として、置換もしくは無置換のピリジル基が好ましく、電子注入特性の向上が期待できる。
【0036】
一般式(1)、(1’)または(1’’)中のR〜R17で表される、「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、具体的に重水素原子、フッ素原子、塩素原子、トリフルオロメチル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ピリドインドリル基のような基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていてもよい。
【0037】
一般式(1)、(1’)または(1’’)中のR〜R17で表される、「炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては、具体的にメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、t−ヘキシル基のような基をあげることができる。
【0038】
本発明の一般式(1)、(1’)または(1’’)で表される、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物におけるビピリジル基として、耐熱性の観点からは[2,3’]ビピリジル基が好ましい。
【0039】
本発明の一般式(1)、(1’)または(1’’)で表される、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物は新規な化合物であり、従来の電子輸送材料より電子の移動が速く、優れた正孔の阻止能力を有し、かつ薄膜状態が安定である。
【0040】
本発明の一般式(1)、(1’)または(1’’)で表される、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物は、有機EL素子の電子注入層および/または電子輸送層の構成材料として使用することができる。従来の材料に比べて電子の注入・移動速度の高い材料を用いることにより、電子輸送層から発光層への電子輸送効率が向上して、発光効率が向上すると共に、駆動電圧が低下して、有機EL素子の耐久性が向上するという作用を有する。
【0041】
本発明の一般式(1)、(1’)または(1’’)で表される、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物は、有機EL素子の正孔阻止層の構成材料としても使用することができる。優れた正孔の阻止能力と共に従来の材料に比べて電子輸送性に優れ、かつ薄膜状態の安定性の高い材料を用いることにより、高い発光効率を有しながら、駆動電圧が低下し、電流耐性が改善されて、有機EL素子の最大発光輝度が向上するという作用を有する。
【0042】
本発明の一般式(1)、(1’)または(1’’)で表される、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物は、有機EL素子の発光層の構成材料としても使用することができる。従来の材料に比べて電子輸送性に優れ、かつバンドギャップの広い本発明の材料を発光層のホスト材料として用い、ドーパントと呼ばれている蛍光発光体や燐光発光体を担持させて、発光層として用いることにより、駆動電圧が低下し、発光効率が改善された有機EL素子を実現できるという作用を有する。
【0043】
本発明の有機EL素子は、従来の電子輸送材料より電子の移動が速く、優れた正孔の阻止能力を有し、かつ薄膜状態が安定な、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物を用いているため、高効率、高耐久性を実現することが可能となった。
【発明の効果】
【0044】
本発明の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物は、有機EL素子の電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層あるいは発光層の構成材料として有用であり、正孔阻止能力に優れ、薄膜状態が安定である。本発明の有機EL素子は発光効率および電力効率が高く、このことにより素子の実用駆動電圧を低くさせることができる。発光開始電圧を低くさせ、耐久性を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明実施例1の化合物(化合物2)の H−NMRチャート図である。
図2】本発明実施例2の化合物(化合物8)の H−NMRチャート図である。
図3】実施例5〜6、比較例1のEL素子構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物は、新規な化合物であり、これらの化合物は例えば、以下のように合成できる。まず、相当するハロゲノアニリノピリジンをパラジウム触媒による環化反応を行うことによって相当するピリドインドール誘導体を合成し(例えば、非特許文献5参照)、種々の芳香族炭化水素化合物、縮合多環芳香族化合物または芳香族複素環化合物のハライドとのUllmann反応やBuchward−Hartwig反応などの縮合反応を行うことによって、相当する5位がアリール基で置換されたピリドインドール誘導体を合成することができる。この相当する5位がアリール基で置換されたピリドインドール誘導体をN−ブロモスクシンイミドなどによるブロモ化を行うことによって、相当するブロモ体を合成し、続いて、この相当するブロモ体をビス(ピナコラト)ジボロンなどによるボロン酸エステル化を行うことによって、相当するボロン酸エステル体を合成し(例えば、非特許文献6参照)、さらに、この相当するボロン酸エステル体とビピリジル基を有する種々のハロゲノフェニレンとをSuzukiカップリングなどのクロスカップリング反応(例えば、非特許文献7参照)を行うことによって、置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物を合成することができる。ここで、ビピリジル基を有する種々のハロゲノフェニレンは、相当するアルデヒドとアセチルピリジンを塩基の存在下で縮合させ、さらに、相当するピリジニウムヨウ化物と反応させることによって合成することができる(例えば、非特許文献8参照)。
【0047】
本発明の一般式(1)、(1’)または(1’’)で表される置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明は、これらの化合物に限定されるものではない。
【0048】
【化4】
(化合物2)
【0049】
【化5】
(化合物3)
【0050】
【化6】
(化合物4)
【0051】
【化7】
(化合物5)
【0052】
【化8】
(化合物6)
【0053】
【化9】
(化合物7)
【0054】
【化10】
(化合物8)
【0055】
【化11】
(化合物9)
【0056】
【化12】
(化合物10)
【0057】
【化13】
(化合物11)
【0058】
【化14】
(化合物12)
【0059】
【化15】
(化合物13)
【0060】
【化16】
(化合物14)
【0061】
【化17】
(化合物15)
【0062】
【化18】
(化合物16)
【0063】
【化19】
(化合物17)
【0064】
【化20】
(化合物18)
【0065】
【化21】
(化合物19)
【0066】
【化22】
(化合物20)
【0067】
【化23】
(化合物21)
【0068】
【化24】
(化合物22)
【0069】
【化25】
(化合物23)
【0070】
【化26】
(化合物24)
【0071】
【化27】
(化合物25)
【0072】
【化28】
(化合物26)
【0073】
【化29】
(化合物27)
【0074】
【化30】
(化合物28)
【0075】
【化31】
(化合物29)
【0076】
【化32】
(化合物30)
【0077】
【化33】
(化合物31)
【0078】
【化34】
(化合物32)
【0079】
【化35】
(化合物33)
【0080】
【化36】
(化合物34)
【0081】
【化37】
(化合物35)
【0082】
【化38】
(化合物36)
【0083】
【化39】
(化合物37)
【0084】
【化40】
(化合物38)
【0085】
【化41】
(化合物39)
【0086】
【化42】
(化合物40)
【0087】
【化43】
(化合物41)
【0088】
【化44】
(化合物42)
【0089】
【化45】
(化合物43)
【0090】
【化46】
(化合物44)
【0091】
【化47】
(化合物45)
【0092】
【化48】
(化合物46)
【0093】
【化49】
(化合物47)
【0094】
【化50】
(化合物48)
【0095】
【化51】
(化合物49)
【0096】
【化52】
(化合物50)
【0097】
【化53】
(化合物51)
【0098】
【化54】
(化合物52)
【0099】
【化55】
(化合物53)
【0100】
【化56】
(化合物54)
【0101】
【化57】
(化合物55)
【0102】
【化58】
(化合物56)
【0103】
【化59】
(化合物57)
【0104】
【化60】
(化合物58)
【0105】
【化61】
(化合物59)
【0106】
【化62】
(化合物60)
【0107】
【化63】
(化合物61)
【0108】
【化64】
(化合物62)
【0109】
【化65】
(化合物63)
【0110】
【化66】
(化合物64)
【0111】
【化67】
(化合物65)
【0112】
【化68】
(化合物66)
【0113】
【化69】
(化合物67)
【0114】
【化70】
(化合物68)
【0115】
【化71】
(化合物69)
【0116】
【化72】
(化合物70)
【0117】
【化73】
(化合物71)
【0118】
【化74】
(化合物72)
【0119】
【化75】
(化合物73)
【0120】
【化76】
(化合物74)
【0121】
【化77】
(化合物75)
【0122】
【化78】
(化合物76)
【0123】
【化79】
(化合物77)
【0124】
【化80】
(化合物78)
【0125】
【化81】
(化合物79)
【0126】
【化82】
(化合物80)
【0127】
【化83】
(化合物81)
【0128】
【化84】
(化合物82)
【0129】
【化85】
(化合物83)
【0130】
【化86】
(化合物84)
【0131】
【化87】
(化合物85)
【0132】
【化88】
(化合物86)
【0133】
【化89】
(化合物87)
【0134】
【化90】
(化合物88)
【0135】
【化91】
(化合物89)
【0136】
【化92】
(化合物90)
【0137】
【化93】
(化合物91)
【0138】
【化94】
(化合物92)
【0139】
【化95】
(化合物93)
【0140】
【化96】
(化合物94)
【0141】
【化97】
(化合物95)
【0142】
【化98】
(化合物96)
【0143】
【化99】
(化合物97)
【0144】
【化100】
(化合物98)
【0145】
【化101】
(化合物99)
【0146】
【化102】
(化合物100)
【0147】
【化103】
(化合物101)
【0148】
これらの化合物の精製はカラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによって行った。化合物の同定は、NMR分析によって行なった。物性値として、融点、ガラス転移点(Tg)と仕事関数の測定を行った。融点は蒸着性の指標となるものであり、ガラス転移点(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となるものであり、仕事関数は正孔阻止能力の指標となるものである。
【0149】
融点とガラス転移点(Tg)は、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100S)によって測定した。
【0150】
また仕事関数は、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC−3型)を用いて測定した。
【0151】
本発明の有機EL素子の構造としては、基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、陰極からなるもの、また、陽極と正孔輸送層の間に正孔注入層を有するもの、電子輸送層と陰極の間に電子注入層を有するもの、発光層と正孔輸送層の間に電子阻止層を有するものがあげられる。これらの多層構造においては有機層を何層か省略することが可能であり、例えば、基板上に順次に、陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陰極を有する構成とすることもできる。
【0152】
前記発光層、前記正孔輸送層、前記電子輸送層においては、それぞれが2層以上積層された構造であってもよい。
【0153】
本発明の有機EL素子の陽極としては、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料が用いられる。本発明の有機EL素子の正孔注入層として、銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物のほか、スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体、分子中にトリフェニルアミン構造を3個以上、単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するアリールアミン化合物などのトリフェニルアミン3量体および4量体、ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物や塗布型の高分子材料を用いることができる。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0154】
本発明の有機EL素子の正孔輸送層として、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)−ベンジジン(以後、TPDと略称する)やN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(α−ナフチル)−ベンジジン(以後、NPDと略称する)、N,N,N’,N’−テトラビフェニリルベンジジンなどのベンジジン誘導体、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(以後、TAPCと略称する)、種々のトリフェニルアミン3量体および4量体などを用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。また、正孔の注入・輸送層として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以後、PEDOTと略称する)/ポリ(スチレンスルフォネート)(以後、PSSと略称する)などの塗布型の高分子材料を用いることができる。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0155】
また、正孔注入層あるいは正孔輸送層において、該層に通常使用される材料に対し、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモンなどをPドーピングしたものや、TPDの構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることができる。
【0156】
本発明の有機EL素子の電子阻止層として、4,4’,4’’−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(以後、TCTAと略称する)、9,9−ビス[4−(カルバゾール−9−イル)フェニル]フルオレン、1,3−ビス(カルバゾール−9−イル)ベンゼン(以後、mCPと略称する)、2,2−ビス(4−カルバゾール−9−イルフェニル)アダマンタン(以後、Ad−Czと略称する)などのカルバゾール誘導体、9−[4−(カルバゾール−9−イル)フェニル]−9−[4−(トリフェニルシリル)フェニル]−9H−フルオレンに代表されるトリフェニルシリル基とトリアリールアミン構造を有する化合物などの電子阻止作用を有する化合物を用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0157】
本発明の有機EL素子の発光層として、本発明の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物のほか、Alqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体の他、各種の金属錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などを用いることができる。また、発光層をホスト材料とドーパント材料とで構成してもよく、ホスト材料として前記発光材料に加え、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを用いることができる。また、ドーパント材料としては、キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレンおよびそれらの誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体などを用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。
【0158】
また、発光材料として燐光性の発光材料を使用することも可能である。燐光性の発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。Ir(ppy)などの緑色の燐光発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、BtpIr(acac)などの赤色の燐光発光体などが用いられ、このときのホスト材料としては正孔注入・輸送性のホスト材料として、4,4’−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル(以後、CBPと略称する)やTCTA、mCPなどのカルバゾール誘導体などを用いることができる。電子輸送性のホスト材料として、p−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(以後、UGH2と略称する)や2,2’,2’’−(1,3,5−フェニレン)−トリス(1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール)(以後、TPBIと略称する)などを用いることができる。
【0159】
燐光性の発光材料のホスト材料へのドープは濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1〜30重量パーセントの範囲で、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0160】
これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0161】
本発明の有機EL素子の正孔阻止層として、本発明の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物のほか、バソクプロイン(以後、BCPと略称する)などのフェナントロリン誘導体や、BAlqなどのキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種の希土類錯体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体など、正孔阻止作用を有する化合物を用いることができる。これらの材料は電子輸送層の材料を兼ねてもよい。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0162】
本発明の有機EL素子の電子輸送層として、本発明の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物のほか、Alq、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体のほか、各種金属錯体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、カルボジイミド誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体などを用いることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、他の材料とともに混合して成膜した単層として使用してもよく、単独で成膜した層同士、混合して成膜した層同士、または単独で成膜した層と混合して成膜した層の積層構造としてもよい。これらの材料は蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0163】
本発明の有機EL素子の電子注入層として、本発明の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物のほか、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩、フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、酸化アルミニウムなどの金属酸化物などを用いることができるが、電子輸送層と陰極の好ましい選択においては、これを省略することができる。
【0164】
さらに、電子注入層あるいは電子輸送層において、該層に通常使用される材料に対し、さらに、セシウムなどの金属をNドーピングしたものを用いることができる。
【0165】
本発明の有機EL素子の陰極として、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料や、マグネシウム銀合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金が電極材料として用いられる。
【0166】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0167】
(8−[4−{6−(ナフタレン−2−イル)−[2,2’]ビピリジン−4−イル}−フェニル]−5−フェニル−5H−ピリド[4,3−b]インドール(化合物2)の合成)
反応容器に2’−アセトナフトン16.1g、ヨウ素24.2g、ピリジン72mlを加えて加熱し、100℃で3時間攪拌した。室温まで冷却し、水170mlを加えた後、再結晶による精製を行った。70℃で12時間減圧乾燥することによって、1−{2−(ナフタレン−2−イル)−2−オキソエチル}ピリジニウムヨウ化物31.3g(収率88%)の褐色粉体を得た。
【0168】
予め、反応容器に4−ブロモベンズアルデヒド15.4g、2−アセチルピリジン10.1g、メタノール140mlを加え、攪拌しながら−5℃に冷却した後、3%(wt/wt)NaOHメタノール溶液140mlを滴下し、さらに、2日間攪拌して調製した溶液に、得られた1−{2−(ナフタレン−2−イル)−2−オキソエチル}ピリジニウムヨウ化物31.3g、酢酸アンモニウム80.3g、メタノール180mlを加えて加熱し、55℃で2日間攪拌した。室温まで冷却し、析出する粗製物をろ過によって採取し、メタノールで洗浄した。70℃で12時間減圧乾燥することによって、4−(4−ブロモフェニル)−6−(ナフタレン−2−イル)−[2,2’]ビピリジン14.3g(収率39%)の灰色粉体を得た。
【0169】
得られた4−(4−ブロモフェニル)−6−(ナフタレン−2−イル)−[2,2’]ビピリジン3.6g、8−ブロモ−5−フェニル−5H−ピリド[4,3−b]インドール3.7g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.3g、2M炭酸カリウム水溶液12.5ml、トルエン30ml、エタノール7mlを窒素置換した反応容器に加え、攪拌しながら3時間加熱還流した。室温まで冷却し、析出する粗製物をろ過によって採取した。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:NHシリカゲル、溶離液:トルエン)によって精製し、8−[4−{6−(ナフタレン−2−イル)−[2,2’]ビピリジン−4−イル}−フェニル]−5−フェニル−5H−ピリド[4,3−b]インドール(化合物2)3.1g(収率61%)の白色粉体を得た。
【0170】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。H−NMR測定結果を図1に示した。
【0171】
H−NMR(CDCl)で以下の28個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=9.48(1H)、8.75−8.80(3H)、8.69(1H)、8.56(1H)、8.51(1H)、8.41(1H)、8.22(1H)、8.00−8.05(4H)、7.88−7.95(4H)、7.81(1H)、7.67(2H)、7.52−7.62(6H)、7.38(1H)、7.33(1H)。
【実施例2】
【0172】
(8−[4−{6−(ビフェニル−4−イル)−[2,2’]ビピリジニル−4−イル}−フェニル]−5−フェニル−5H−ピリド[4,3−b]インドール(化合物8)の合成)
実施例1と同様に行って、4−アセチルビフェニルから6−(ビフェニル−4−イル)−4−(4−ブロモフェニル)−[2,2’]ビピリジンを合成した。得られた6−(ビフェニル−4−イル)−4−(4−ブロモフェニル)−[2,2’]ビピリジン3.7g、8−ブロモ−5−フェニル−5H−ピリド[4,3−b]インドール3.3g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.3g、2M炭酸カリウム水溶液12ml、トルエン30ml、エタノール7mlを窒素置換した反応容器に加え、攪拌しながら3時間加熱還流した。室温まで冷却し、析出する粗製物をろ過によって採取した。粗製物をカラムクロマトグラフ(担体:NHシリカゲル、溶離液:トルエン)によって精製し、8−[4−{6−(ビフェニル−4−イル)−[2,2’]ビピリジニル−4−イル}−フェニル]−5−フェニル−5H−ピリド[4,3−b]インドール(化合物8)1.7g(収率34%)の白色粉体を得た。
【0173】
得られた白色粉体についてNMRを使用して構造を同定した。H−NMR測定結果を図2に示した。
【0174】
H−NMR(CDCl3)で以下の30個の水素のシグナルを検出した。δ(ppm)=9.49(1H)、8.74(3H)、8.57(1H)、8.51(1H)、8.33(2H)、8.12(1H)、8.00(2H)、7.95−8.05(3H)、7.80(3H)、7.65−7.75(4H)、7.60(2H)、7.55(2H)、7.50(2H)、7.35−7.43(2H)、7.34(1H)。
【実施例3】
【0175】
本発明の化合物について、高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100S)によって融点とガラス転移点を求めた。
融点 ガラス転移点
本発明実施例1の化合物 255℃ 122℃
本発明実施例2の化合物 246℃ 128℃
【0176】
本発明の化合物は100℃以上のガラス転移点を有している。このことは、本発明の化合物において薄膜状態が安定であることを示すものである。
【実施例4】
【0177】
本発明の化合物を用いて、ITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製して、大気中光電子分光装置(理研計器製、AC−3型)で仕事関数を測定した。
仕事関数
本発明実施例1の化合物 6.06eV
本発明実施例2の化合物 6.15eV
【0178】
このように本発明の化合物はNPD、TPDなどの一般的な正孔輸送材料がもつ仕事関数5.4eVより深い値を有しており、大きな正孔阻止能力を有している。
【実施例5】
【0179】
有機EL素子は、図3に示すような、ガラス基板1上に透明陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、正孔阻止層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極(アルミニウム電極)9の順に蒸着して作製した。
【0180】
具体的には、膜厚150nmのITOを成膜したガラス基板1を有機溶媒で洗浄した後に、酸素プラズマ処理にて表面を洗浄した。その後、このITO電極付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け0.001Pa以下まで減圧した。続いて、透明陽極2を覆うように正孔注入層3として、下記構造式の化合物102を蒸着速度6nm/minで膜厚20nmとなるように形成した。この正孔注入層3の上に、正孔輸送層4として下記構造式の化合物103を蒸着速度6nm/minで膜厚40nmとなるように形成した。この正孔輸送層4の上に、発光層5として下記構造式の化合物104と下記構造式の化合物105を、蒸着速度比が化合物104:化合物105=5:95となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚30nmとなるように形成した。この発光層5の上に、正孔阻止層兼電子輸送層6および7として本発明実施例1の化合物(化合物2)を蒸着速度6nm/minで膜厚30nmとなるように形成した。この正孔阻止層兼電子輸送層6および7の上に、電子注入層8としてフッ化リチウムを蒸着速度0.6nm/minで膜厚0.5nmとなるように形成した。最後に、アルミニウムを膜厚150nmとなるように蒸着して陰極9を形成した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
【0181】
本発明の実施例1の化合物(化合物2)を使用して作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0182】
【化104】
(化合物102)
【0183】
【化105】
(化合物103)
【0184】
【化106】
(化合物104)
【0185】
【化107】
(化合物105)
【実施例6】
【0186】
実施例5における正孔阻止層兼電子輸送層6および7の材料として、本発明実施例1の化合物(化合物2)を本発明実施例2の化合物(化合物8)に代え、実施例5と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。
作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0187】
[比較例1]
比較のために、実施例5における正孔阻止層兼電子輸送層6および7の材料を電子輸送層7としての下記構造式の化合物106(例えば、特許文献4参照)に代え、実施例5と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表1にまとめて示した。
【0188】
【化108】
(化合物106)
【0189】
【表1】
【0190】
表1に示す様に、電流密度10mA/cm時における駆動電圧は、前記構造式の化合物106を用いた比較例1の5.95Vに対して実施例5では4.33V、実施例6では5.24Vと低電圧化し、さらに、電流密度10mA/cm時における輝度、発光効率、電力効率のいずれも大きく向上した。
【0191】
発光開始電圧を測定した結果を以下に示した。
有機EL素子 化合物 発光開始電圧[V]
実施例5 化合物2 2.7
実施例6 化合物8 2.9
比較例1 化合物106 3.1
その結果、前記構造式の化合物106を使用した比較例1に対し、実施例5および6では発光開始電圧を低電圧化していることが分かる。
【0192】
このように本発明の有機EL素子は、一般的な電子輸送材料として用いられている前記構造式の化合物106を用いた素子と比較して、発光効率および電力効率に優れており、さらに、実用駆動電圧の顕著な低下が達成できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0193】
本発明の置換されたビピリジル基とピリドインドール環構造がフェニレン基を介して連結した化合物は、電子の注入特性がよく、正孔阻止能力に優れており、薄膜状態が安定であるため、有機EL素子用の化合物として優れている。該化合物を用いて有機EL素子を作製することにより、高い効率を得ることができると共に、駆動電圧を低下させることができ、耐久性を改善させることができる。例えば、家庭電化製品や照明の用途への展開が可能となった。
【符号の説明】
【0194】
1 ガラス基板
2 透明陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
図1
図2
図3