(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955241
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】編糸の解れ止め方法
(51)【国際特許分類】
D04B 1/06 20060101AFI20160707BHJP
D04B 1/10 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
D04B1/06
D04B1/10
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-27964(P2013-27964)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156669(P2014-156669A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】由井 学
(72)【発明者】
【氏名】仲 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】坪井 真澄
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−199156(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/073491(WO,A1)
【文献】
特開2001−055651(JP,A)
【文献】
特開2003−041461(JP,A)
【文献】
特開平07−324259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
針幹の一側に目移し用の羽根を有する複数の編針が列設されると共に、歯口を介して前後に対向される少なくとも一対の針床と、歯口に第一編糸と第二編糸の各々を給糸する第一給糸口及び第二給糸口とを備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、編地の編成途中で、編糸を切り替えることで生じる編糸余端部を処理する編糸の解れ止め方法において、
各針床において、各編針が羽根を有する側を羽根側、羽根のない側を逆羽根側とするとき、
一方の針床に係止される既編成編地部の編目のうち、前記第一編糸又は第二編糸により編成された特定編目を他方の針床に目移しすると共に、第二給糸口を一方の針床の逆羽根側に移動させて第二編糸を前記特定編目から引き出し、一方の針床に第一新規編目を形成する工程αと、
他方の針床に目移しされた前記特定編目に連続する第二新規編目を前記第二編糸で形成する工程βと、
前記第二新規編目を対向する針床の第一新規編目に重ねる工程γとを備えることを特徴とする編糸の解れ止め方法。
【請求項2】
前記工程βにおいて、第二新規編目の形成は、第二給糸口を逆羽根側に移動させて行うことを特徴とする請求項1に記載の編糸の解れ止め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて編地を編成する際、編地の編成途中で編糸を切り替えることで生じる編糸余端部を処理する編糸の解れ止め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボーダー柄やインターシャ柄などを有する編地では、編地の編成途中で編糸の切り替えが行われる。この編糸が切り替わる部分には、切り替え前の編糸で編成された編地部に切り替え後の編糸を導入する糸入れ部と、切り替え前の編糸で編成された編地部の終端からその編糸を引き出す糸出し部とがあり、これら糸入れ部及び糸出し部で編糸が解れ出さないようにする必要がある。本出願人は、この解れ止めを横編機に行わせる編糸の解れ止め方法を提案している(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この解れ止め方法は、糸入れの場合で説明すると、
図3に示すように、次のように行われる。
[S1] 切り替え前の編糸(第一編糸1)で前針床(FB)に編成されたベース編地部10の特定編目12を後針床(BB)に目移ししながら、切り替え後の編糸(第二編糸2)を例えば右行給糸して特定編目12から引き出し、FBの編針に第一新規編目21を形成する。この第一新規編目21が第一編糸1と第二編糸2で編成されるベース編地部10と柄編地部20の境界となる。
[S2] 第二給糸口4で第二編糸2を左行給糸し、特定編目12に連続する第二新規編目23の形成と、第二新規編目23に隣接する掛け目25の形成をBBで行う。
[S3〜S4] 再度、第二編糸2を右行給糸し(S3)、掛け目25をBBからFBの対向する編針に目移しする(S4)。
[S5〜S6] 第二編糸2を左行給糸(S5)・右行給糸させることで蹴り返し、FBに目移しされた掛け目25にタック27を行い、第一新規編目21の右側に係止されているベース編地部10の編目列に繋がる新たな編目列を第二編糸2で編成する(S6)。
[S7] 第一給糸口3から給糸した第一編糸1で第一新規編目21の左側に隣接する編目までベース編地部10を編成し、第二新規編目23をFBに目移しして第一新規編目21に重ねる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/119272号
図8〜
図10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、解れ止め処理を適切に行えるものの、編糸の種類(素材や太さなど)や両編糸で編成される柄によっては糸入れ・糸出し前後の境界端部で、第二編糸の編目が第一編糸の編地側に飛び出したように見える滲みが生じる場合がある。また、掛け目やタックを行う必要上、編成工程数も多く、より効率的な解れ止め方法の開発が要望されている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、掛け目やタックを行うことなく、簡素な工程で十分な解れ止め効果を発揮する編糸の解れ止め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の編糸の解れ止め方法は、針幹の一側に目移し用の羽根を有する複数の編針が列設されると共に、歯口を介して前後に対向される少なくとも一対の針床と、歯口に第一編糸と第二編糸の各々を給糸する第一給糸口及び第二給糸口とを備え、前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、編地の編成途中で、編糸を切り替えることで生じる編糸余端部を処理する方法に係る。各針床において、各編針が羽根を有する側を羽根側、羽根のない側を逆羽根側とするとき、以下の工程α〜工程γを備える。
工程α:一方の針床に係止される既編成編地部の編目のうち、前記第一編糸又は第二編糸により編成された特定編目を他方の針床に目移しすると共に、第二給糸口を一方の針床の逆羽根側に移動させて第二編糸を前記特定編目から引き出し、一方の針床に第一新規編目を形成する。
工程β:他方の針床に目移しされた前記特定編目に連続する第二新規編目を前記第二編糸で形成する。
工程γ:前記第二新規編目を対向する針床の第一新規編目に重ねる。
上記既編成編地部は第一編糸又は第二編糸で編成された特定編目を含んでいればよく、第三編糸、第四編糸…などの更なる他の編糸で編成された編目を含んでいても構わない。但し、糸入れ又は糸出しでの編糸の切り替えは、第一編糸と第二編糸との相互の切り替えは勿論、第二編糸と他の編糸との相互の切り替えの場合も含む。
【0008】
本発明の編糸の解れ止め方法では、前記工程βにおいて、第二新規編目の形成は、第二給糸口を逆羽根側に移動させて行うことが好ましい。なお、この第二新規編目の形成は、第二給糸口を羽根側に移動させて行っても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明の編糸の解れ止め方法は次の効果を奏する。
【0010】
(1)逆羽根方向に第二編糸を給糸して特定編目に対して割増やしを行って第一新規編目を形成することで、さらに特定編目に対して第二編糸で第二新規編目を形成した際、第一新規編目のいずれのシンカーループも特定編目の編糸に巻き付かせて絡み部を形成することができる。よって、掛け目やタックを行わなくても十分に第二編糸の解れ止めを行うことができる。
【0011】
(2)第二編糸の編目が第一編糸の編地側に飛び出したように見える滲みを目立たなくすることができる。従来技術(
図3)で行われている掛け目25やタック27は、上記第一新規編目21(本発明の第一新規編目に相当)よりも一段ずれた他のコースに形成されているため、糸入れ・糸出しの境界端部の編目となる第一新規編目21が他のコース側に引っ張られ、滲みの要因になっていたと考えられる。これに対し、本発明では、第一・第二の両新規編目が重ねられると共に、両新規編目からずれた他のコースに掛け目やタックが行われないため、上記滲みが抑制できる。
【0012】
(3)掛け目やタックを行わないため、編成効率に優れる。
【0013】
(4)工程βにおける第二新規編目の形成を、第二給糸口を逆羽根側に移動させて行う本発明の解れ止め方法によれば、第二給糸口を羽根側に移動させて第二新規編目の形成を行う場合に比べて、糸入れ・糸出しの境界部における見栄えを向上させることができる。第二給糸口を逆羽根側に移動させて形成した第二新規編目を第一新規編目に重ねることで、第一新規編目の傾きを目立たなくすることができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係る編糸の解れ止め方法を示す編成工程図である。
【
図2】(A)は実施形態1の解れ止め方法を用いて編成された編地の写真、(B)は従来の編糸の解れ止め方法を用いて編成された編地の写真である。
【
図3】従来の編糸の解れ止め方法を示す編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1に基づいて、ベース編地部の途中に柄編地部を有する編地を編成する際、ベース編地部から柄編地部に編糸が切り替わる部分を例にして、本発明の実施形態に係る編糸の解れ止め方法を説明する。この編成には、左右方向に延び、かつ前後方向に互いに対向する一対の針床を備え、前後の針床間で編目の目移しが可能であると共に、少なくとも一方の針床がラッキング可能な2枚ベッド横編機を用いる。
【0016】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に示す編糸の解れ止め方法に係る編成工程図である。図示しない第一給糸口から給糸される第一編糸1(細線)でベース編地部10を編成し、その編幅方向の途中で第二給糸口4から給糸される第二編糸2(太線)を糸入れして、ベース編地部10の内部に帯状の柄編地部20を有する編地を編成する。糸入れを行う場合、ベース編地部10が既編成編地部に相当する。第一編糸1と第二編糸2とは、色や種類の異なる編糸を利用することができる。この編糸1,2の切り替え時に生じる第二編糸2の編糸余端部29に対する解れ止めの編成手順を例として説明する。
図1の左側にある枠で囲んだ『S+数字』は編成工程の番号を、FBは前針床を、BBは後針床を示し、A〜F、a〜fの黒点は編針を示す。
【0017】
各針床には図示しないべら針が列設されている。べら針は、針幹の先端部に設けられたフックをべらの揺動により開閉する編針で、針幹の一側に目移し用の羽根が設けられている。本例では、
図1における針床をFBの側から見たとき、FBの編針の右側(BBの編針の左側)に目移し用の羽根が設けられており、以下の説明では、FB側を基準とし、
図1の右側を羽根側、左側を逆羽根側とする。なお、図ではFBとBBの各編針を互いに真正面に対向するように示しているが、実際は各編針のフックを対向する針床における編針の針幹と羽根との間に挿入できるよう、BBの各フックはFBのフックよりも若干図の右側にずれて配置されている。
【0018】
S0は、第一給糸口を用いて第一編糸1でFBにベース編地部10が編成され、第二給糸口4を右側に移動させて第二編糸2を歯口に右行給糸した状態を示している。
【0019】
S1では、FBの編針Cに係止された編目を特定編目12として選択し、この特定編目12に続けて柄編地部20の開始端となる編目を編成していく。まず、第二給糸口4を特定編目12よりも右側に移動させて、その後左側に蹴り返しながら特定編目12において割増やしを行う。割増やしは、特許第2604653号公報などに示される編成手法の一つで、具体的には、特定編目12をBBの編針cに目移ししながら第二編糸2を特定編目12から引き出して、FBの編針Cに第一新規編目21を形成する(工程α)。本例では、第二編糸2の給糸を右行給糸により開始したため左側への蹴り返しを行っているが、当初から第二編糸2を左行給糸する場合は、そのまま上記割増やしを行えばよい。
【0020】
S2では、一旦第二給糸口4を特定編目12(第一新規編目21)よりも右側にまで移動させる。この移動は続くS3で第二編糸2を特定編目12よりも右側から左行給糸するための予備手順であり、必須ではない。
【0021】
S3では、第二給糸口4を蹴り返して左側に移動させ、特定編目12のウェール方向に連続する第二新規編目23を形成する(工程β)。つまり、BBの編針cには、第二新規編目23が係止されることになる。この第二新規編目23の編成により、第一新規編目21の両シンカーループは、特定編目12を構成する第一編糸1に対して、
図1の紙面奥側と手前側との間に渡ることで巻き付いた状態に保持される。
【0022】
S4では、第二新規編目23をFBの編針Cに目移しして、第一新規編目21と重ねる(工程γ)。以降は、第二編糸でFBの編針Cを含む編針Cよりも右側に柄編地部を所定コース編成し、第一編糸でFBの編針Bまでベース編地部を編成することを所定コース分行えばよい(図示略)。その際、ベース編地部と柄編地部とのウェール方向に延びる境界において、一方の編地部を編成する編糸で他方の編地部の編目を係止する編針にタックを編成するなどして両編地部を接合する。
【0023】
以上の方法により解れ止めを行った編地の一例を
図2(A)に示す。白地に見える箇所が第一編糸1で編成されたベース編地部10であり、黒地に見える短冊状の箇所が第二編糸2で編成された柄編地部20の一部である。この柄編地部20の左下角部が第二編糸2の糸入れ部となるが、その角部を構成する第二編糸2の編目がベース編地部10側に殆ど突出していない。これは、
図1の第一新規編目21と第二新規編目23とを重ねることで、柄編地部20の最初のコース上で解れ止めが行われており、掛け目やタックを用いていないため、柄編地部20の左下角部の編目がベース編地部10側に引っ張られることがないからと考えられる。これに対し、特許文献1に記載の方法により柄編地部20の糸入れ部の解れ止めを行った場合、
図2(B)に示すように、柄編地部20の左下角部を構成する第二編糸2の編目がベース編地部10側に突出していることがわかる。
【0024】
このように、本例の解れ止め方法によれば、掛け目やタックを行わなくても確実にかつ効率的に第二編糸2の解れ止めを行うことができる。特に、工程βにおける第二新規編目23の形成を、第二編糸2の左行給糸により行うことで、第二編糸2を右行給糸して第二新規編目23の形成を行う場合に比べて、糸入れの境界部における見栄えを向上させることができる。第二編糸2の左行給糸により形成した第二新規編目23を第一新規編目21に重ねることで、第一新規編目21の傾きを目立たなくすることができるからである。
【0025】
<実施形態2>
実施形態1では、第一編糸で編成したベース編地部に対して第二編糸を糸入れして柄編地部を編成する場合の編糸余端部の処理方法について説明した。これに対し、柄編地部を編成し終えた第二編糸を糸出しして、さらに第一編糸によるベース編地部の編成を続ける場合の編糸余端部の処理にも本発明の解れ止め方法を適用することができる。糸出しを行う場合、柄編地部が既編成編地部に相当する。
【0026】
例えば、
図2(A)の柄編地部の左上角部で第二編糸2の糸出しを行う場合、FBで第二編糸2を左行給糸し、柄編地部20の最終コースを編幅方向終端(左端)の一目手前まで編成する。この最終コースよりも1コース前のコースにおける柄編地部20の編幅方向終端(左端)の編目を特定編目とし、この特定編目をBBの対向する編針に目移ししながら第二編糸2を左行給糸して割増やしを行う。具体的には、特定編目から第二編糸2を引き出した第一新規編目を、特定編目が目移しされたBBの編針に対向するFBの編針に形成する。次にBBの編針に係止された特定編目に対して第二編糸2を右行給糸又は左行給糸して、特定編目のウェール方向に連続する第二新規編目を形成する。そして、この第二新規編目を第一新規編目に重ねればよい。
【0027】
この糸出しにおける編糸余端部の処理においても、同じ第二編糸2で形成された第一・第二新規編目は互いに重ねられ、かつこの重ねられた両新規編目は柄編地部20の最終コースを構成するため、柄編地部20の最終コースにおける編幅方向終端の編目がベース編地部10側に突出するように見えることがない。
図2(A)における柄編地部20の左上角部を見れば、その角部を構成する第二編糸2の編目がベース編地部10側に殆ど突出していないことがわかる。これに対し、特許文献1に係る解れ止め方法を用いた糸出しによる編糸余端部の処理箇所は、
図2(B)の柄編地部20の左上角部を構成する編目を見れば、ベース編地部10側に突出していることがわかる。
【0028】
<実施形態3>
実施形態1では工程βにおいて、第二給糸口を
図1の左側に移動させて第二新規編目の形成を行ったが、第二給糸口を右側に移動させて第二新規編目の形成を行っても良い。この場合、実施形態1におけるS2からS3の間で行った第二給糸口4の蹴り返しを行う必要がなく、より効率的に解れ止めを行うことができる。
【0029】
なお、以上の各実施形態では、べら針を用いた編成例について説明を行ったが、コンパウンドニードルなど、針幹の一側に羽根を有する編針を備える横編機であれば、同様に本発明に係る解れ止め方法を行うことができる。その他、用いる横編機は4枚ベッドであっても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 第一編糸 10 ベース編地部 12 特定編目
2 第二編糸 20 柄編地部
21 第一新規編目 23 第二新規編目 25 掛け目
27 タック 29 編糸余端部
3 第一給糸口 4 第二給糸口