特許第5955247号(P5955247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955247放射性セシウムの除去方法及び放射性セシウム除去用の親水性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955247
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】放射性セシウムの除去方法及び放射性セシウム除去用の親水性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20160707BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20160707BHJP
   B01J 20/12 20060101ALI20160707BHJP
   C01B 33/40 20060101ALI20160707BHJP
   C08L 75/00 20060101ALI20160707BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20160707BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20160707BHJP
   C01D 17/00 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   G21F9/12 501J
   G21F9/12 501G
   G21F9/28 Z
   B01J20/12 A
   B01J20/12 B
   C01B33/40
   C08L75/00
   C08K3/34
   C08G18/65
   !C01D17/00
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-37343(P2013-37343)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-163893(P2014-163893A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−146674(JP,A)
【文献】 特開昭52−060847(JP,A)
【文献】 特開2013−002865(JP,A)
【文献】 特開2004−136158(JP,A)
【文献】 特開2004−050171(JP,A)
【文献】 特開2002−128859(JP,A)
【文献】 特開2004−041873(JP,A)
【文献】 特開2013−212487(JP,A)
【文献】 特表2006−502136(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129478(WO,A1)
【文献】 特許第5675583(JP,B2)
【文献】 米国特許第03801616(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0147703(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
B01J 20/12
C01B 33/40
C08G 18/65
C08K 3/34
C08L 75/00
G21F 9/28
C01D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃液及び/又は放射性固形物中に存在する放射性セシウムを、親水性樹脂と粘土鉱物とを含んでなる親水性樹脂組成物を用いて除去処理する放射性セシウムの除去方法であって、
上記親水性樹脂組成物は、親水性セグメントを20〜80質量%の範囲で有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂を含み、且つ、
該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、粘土鉱物が1〜180質量部の割合で分散されてなることを特徴とする放射性セシウムの除去方法。
【請求項2】
前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項1に記載の放射性セシウムの除去方法。
【請求項3】
前記親水性樹脂が、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として形成された樹脂である請求項1又は2に記載の放射性セシウムの除去方法。
【請求項4】
前記粘土鉱物が、層構造を有する、パイロフィライト、カオリナイト、雲母、スメクタイト(モンモリロナイト)、バーミキュライトからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射性セシウムの除去方法。
【請求項5】
液中及び/又は固形物中の放射性セシウムを固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂と粘土鉱物とを含み、
該親水性樹脂が、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントを20〜80質量%の範囲で有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、
該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、粘土鉱物が1〜180質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項6】
前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントである請求項5に記載の放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【請求項7】
前記粘土鉱物が、層構造を有する、パイロフィライト、カオリナイト、雲母、スメクタイト(モンモリロナイト)、バーミキュライトの群から選ばれる少なくとも1種である請求項5又は6に記載の放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントや使用済核燃料施設から生ずる放射性廃液及び/又は放射性固形物中の放射性セシウムの除去方法、及び放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く普及している原子炉発電プラントにおいては、原子炉中での核分裂により相当な量の放射性副産物の生成を伴う。これら放射性副産物の主なものは、放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性セリウム等の極めて危険な放射性同位元素を含む核分裂生成物及び活性元素である。これらの中で、放射性セシウムは融点が28.4℃と常温付近で液状を示す金属の一つであり、非常に外部放出され易いものである。その対象となる放射性セシウムは、比較的に短半減期のセシウム134(半減期:2年)、長半減期のセシウム137(半減期:30年)が主なものである。中でも特にセシウム137は、半減期が長いだけでなく、高エネルギーの放射線を放出し、且つ、アルカリ金属であるため、水への溶解性が大きいという性質を有している。さらに、放射性セシウムは、呼吸や皮膚からも人体に吸収されやすく、ほぼ全身に均一に分散されるため、人間への健康被害は深刻である。
【0003】
このため、世界中で稼働している原子炉から不慮の事由等により偶発的に放射性セシウムが放出された場合は、原子炉で働く労働者や近隣の住民に対する放射能汚染のみならず、空気により運ばれる放射性セシウムにより汚染された食品や水から人間や動物へと濃縮されて、より大きな放射能汚染を引き起こすことが懸念される。この点についての危険性は、チェルノブイリ原子力発電所の事故により明らかに実証済である。
【0004】
ここで、原子炉内での核分裂によって生成した放射性セシウムの除去処理方法としては、無機イオン交換体や選択性イオン交換樹脂による吸着法、重金属と可溶性フェロシアン化物又はフェロシアン化物塩併用による共沈法、セシウム沈殿試薬による化学処理法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述の処理方法は、いずれも循環ポンプや浄化槽さらには各吸着剤を内蔵した充填槽などの大掛かりな設備を必要とし、さらに、それらを稼働させるための多大なエネルギーを必要とする。このため、2011年3月11日に発生した日本国の福島第一原発事故のように電源が断たれた場合には、これらの設備が稼働できなくなるので、この場合は、放射性セシウムによる汚染の危険度が増大する。そして、原子炉の暴走事故により周辺地域へ拡散した放射性セシウムに対しての除去方法が極めて困難な状況に陥り、放射能汚染を拡大しかねない状況となることが懸念される。したがって、電源が断たれたような事態が生じた場合においても対応が可能な放射性セシウムの除去処理技術の一刻も早い開発が望まれ、このような技術が開発されれば極めて有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−118596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来技術の問題点を解決し、簡単且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせず、しかも、除去した放射性セシウムを固体内部に取り込んで安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な、新規な放射性セシウムの除去技術を提供することにある。また、本発明の目的は、特に、上記した技術に有用な、放射性セシウムを固定化できる機能を有し、さらに、簡便に除去処理することを実現可能にできる親水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、放射性廃液及び/又は放射性固形物中に存在する放射性セシウムを、親水性樹脂と粘土鉱物とを含んでなる親水性樹脂組成物を用いて除去処理する放射性セシウムの除去方法であって、上記親水性樹脂組成物は、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性樹脂を含み、且つ、該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、粘土鉱物が1〜180質量部の割合で分散されてなることを特徴とする放射性セシウムの除去方法を提供する。
【0009】
本発明の好ましい形態としては、前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること;前記親水性樹脂が、少なくとも1個の活性水素基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として形成された樹脂であること;前記粘土鉱物が、層構造を有する、パイロフィライト、カオリナイト、雲母、スメクタイト(モンモリロナイト)、バーミキュライトからなる群から選ばれる少なくとも1種であること、が挙げられる。
【0010】
本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性セシウムを固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂と粘土鉱物とを含み、該親水性樹脂が、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として反応させて得られた、親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントとを有してなる、水及び温水に不溶解性の樹脂であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対し、少なくとも、粘土鉱物が1〜180質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0011】
さらに本発明では、別の実施形態として、液中及び/又は固形物中の放射性セシウムを固定できる機能を示す親水性樹脂組成物であって、親水性樹脂と粘土鉱物とを含み、該親水性樹脂が、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させて得られた、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、該親水性樹脂100質量部に対して、少なくとも、粘土鉱物が1〜180質量部の割合で分散されていることを特徴とする放射性セシウムの除去用の親水性樹脂組成物を提供する。
【0012】
上記したいずれかの本発明の親水性樹脂組成物の好ましい形態としては、前記親水性セグメントが、ポリエチレンオキサイドセグメントであること;前記粘土鉱物が、層構造を有する、パイロフィライト、カオリナイト、雲母、スメクタイト(モンモリロナイト)、バーミキュライトの群から選ばれる少なくとも1種であること、が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液中や固形物中に存在している放射性セシウムを、簡便に且つ低コストで処理でき、さらには電力等のエネルギー源を必要とせず、しかも、除去した放射性セシウムを固体内部に取り組んで安定的に固定化することができ、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能である、新規な放射性セシウムの除去技術が提供される。本発明によれば、放射性セシウムを固定化できる機能を有し、これを除去処理することを実現可能にでき、その主成分が樹脂組成物であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能な新規な親水性樹脂組成物が提供される。本発明の顕著な効果は、その構造中に、親水性セグメントと、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを分子鎖中に有する親水性樹脂に、粘土鉱物を分散させてなる親水性樹脂組成物を利用するという極めて簡便な方法で達成され、特に、該樹脂組成物によって形成される樹脂製フィルム等の耐水性や表面の耐ブロッキング性(耐くっつき性)の実現が可能になるので、処理方法の多様化にも対応できるという利点がある。上記した親水性樹脂は、例えば、有機ポリイソシアネートと、高分子量親水性ポリオール及び/又はポリアミン(以下「親水性成分」という)と、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応させることで得られ、より具体的には、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水溶液中のセシウム濃度の変化と、実施例1〜3の親水性樹脂組成物からなるフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
図2】水溶液中のセシウム濃度の変化と、比較例1〜2の非親水性樹脂組成物からなるフィルムの浸漬時間との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明で使用する親水性樹脂組成物は、親水性樹脂に粘土鉱物を分散させた組成物からなり、該親水性樹脂は親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントを有していることを特徴とする。すなわち、本発明で使用する親水性樹脂は、その構造中に、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントを有しているものであればよい。具体的には、親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントとを有する親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる親水性樹脂が挙げられる。これらの樹脂中における親水性セグメントは、親水性樹脂の合成時に鎖延長剤を使用しない場合は、それぞれランダムに、ウレタン結合、ウレア結合又はウレタン−ウレア結合等で結合されている。親水性樹脂の合成時に鎖延長を使用する場合には、上記の結合とともに、これらの結合の間に鎖延長剤の残基である短鎖が存在した構造になる。
【0016】
本発明における「親水性樹脂」とは、その分子中に親水性基を有しているが、水や温水等には不溶解性の樹脂を意味しており、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、セルロース誘導体等の水溶性樹脂とは区別されるものである。その詳細については後述する。
【0017】
さらに、本発明の親水性樹脂は、その構造中にポリシロキサンセグメントを有するものである。このような構成とすることで、当該樹脂を樹脂フィルムやシート等の形態で用いた場合に、その耐水性や表面の耐ブロッキング性(耐くっつき性)が向上するという、より有益な効果が得られ、前記した所期の目的をより良好に達成することが可能になる。ここで、樹脂分子中に導入されるポリシロキサンセグメントは、本来、疎水性(撥水性)であるが、特定範囲の量のポリシロキサンセグメントを構造中に導入させた場合、その樹脂は、「環境応答性」があるものになることが知られている(高分子論文集、第48巻[第4号]、227(1991))。上記論文でいう樹脂に「環境応答性」があるとは、乾燥した状態では、樹脂表面は完全にポリシロキサンセグメントで覆われるが、樹脂を水中に浸漬した場合には、ポリシロキサンセグメントが樹脂中に埋没してしまう現象のことである。
【0018】
本発明では、使用する樹脂の構造中にポリシロキサンセグメントを導入することで、樹脂に表れるこの「環境応答性」の現象を放射性セシウムの除去処理に利用し、当該処理をより有効なものにする。本発明で用いる親水性樹脂は、その構造中に存在する親水性セグメントにより優れた吸水性を示し、イオン化した放射性セシウムを速やかに取り込むことができ、その除去処理に有効なものである。しかし、本発明者らの検討によれば、使用する親水性樹脂の構造上の特徴がこの点のみである場合は、その実用化において下記の課題があった。放射性セシウムの除去処理に際しては、例えば、使用する樹脂組成物をフィルム状としたり、基材に塗布してシート状等の形態にして利用し、これらを、放射性セシウムを含有する廃液に浸漬させたり、放射性セシウムを含有する固形物の覆いとするといったことが必要になる。そのような場合には使用する樹脂フィルム等に、上記した放射性セシウムの除去処理に対する耐久性が求められるが、親水性セグメントのみを有する構造の樹脂を用いた場合は、その使用状態によっては耐久性が十分とは言い難い。本発明者らは、この問題に対して鋭意検討した結果、使用する親水性樹脂の分子中(構造中)に、更にポリシロキサンセグメントを導入することで、その耐水性や表面の耐ブロッキング性能(耐くっつき性)を向上させることができることを見出した。すなわち、樹脂の構造を本発明で規定する親水性樹脂のようにすることで、上記したような使用形態とした場合であっても、樹脂フィルム等が十分な耐水機能等を示し、より有効な放射性セシウムの除去処理を行うことができる樹脂構成となる。
【0019】
さらに、本発明では、上記機能を示す親水性樹脂とともに、粘土鉱物が分散されている親水性樹脂組成物を用いて除去処理を行っているため、分散した粘土鉱物により、より速やかに且つ効率よく放射性セシウムが定着され、固定化されたと考えられる。
【0020】
本発明で使用する粘土鉱物は、中でも結晶性の層状構造を有する粘土鉱物を用いることが好ましい。粘土鉱物は、ケイ酸塩鉱物の蛇紋石・カンラン石が熱水作用等を受けて分解し、板状結晶が積み重なったものに、結晶の隙間に水が侵入したり大きな圧力を受け続け、徐々に粘土化したものであるが、総じて柔らかく、その層状構造の違いによって、或いは層状構造の間に挟み込む物質によって、様々な種類の粘土鉱物があることが知られている。そして、先の福島第一原発事故を受けて行われた土壌への放射能汚染に対する調査などにおいて、土壌中の放射性セシウムが粘土鉱物に吸着することや、2:1型粘土鉱物に放射性セシウムが強く固定されることなどが報告されている。本発明においても、放射性セシウムが吸着しやすく固定されやすい粘土鉱物を使用することが有効であるので、2:1型粘土鉱物に分類されているものを使用することが好ましい。2:1型粘土鉱物に分類される具体的なものとしては、パイロフィライト(Pyrophylite)、雲母(Mica)、スメクタイト(Smectite)、バーミキュライト(Vermiculite)等が挙げられるが、1:1型粘土鉱物に分類されるカオリナイト(Kaolinite)等も使用できる。粘土鉱物の主成分は層状ケイ酸塩鉱物であり、例えば、2:1型粘土鉱物では、ケイ素と酸素からなるケイ素四面体シートが、アルミニウムと酸素からなるアルミニウム八面体シートを持つ層を一単位とし、これらの層が積み重なってできており、ケイ素四面体シートのケイ素の一部がアルミニウムと置き換わるといったことに起因してシートが負電荷を持ち、その負電荷を、ナトリウム、カリウム、カルシウム等が中和する構造をしている。このため、粘土鉱物では、金属陽イオン(アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム等)と、ケイ酸が連結した面が層状に形成されており、これらの金属陽イオンは、水溶液中で他の陽イオンと互いに入れ替わる性質がある。
【0021】
ここで、粘土鉱物の陽イオンにおけるイオン交換の優先順位は下記の通りである。
<イオン交換順位>
セシウム(Cs)>ルビジウム(Rb)>NH4>バリウム(Ba)>ストロンチウム(Sr)>ナトリウム(Na)>カルシウム(Ca)>鉄(Fe)>アルミニウム(Al)>マグネシウム(Mg)>リチウム(Li)
【0022】
上記したようにセシウムやストロンチウムのイオン交換順位は高く、先に述べたように、このことに起因すると考えられる粘土鉱物に、放射性セシウムイオンが強く吸着することは公知である。そして、粘土鉱物の持つこの特性を放射性セシウム等の放射性物質の除去に利用することについての検討も行われ始めている。本発明では、親水性樹脂に、上記の粘土鉱物を分散して含んでなる親水性樹脂組成物を用いることで、放射性セシウムを、より効率よく、簡便に経済的に除去処理することを可能にする新たな技術を提供する。
【0023】
本発明を特徴づける親水性樹脂組成物は、親水性樹脂を含んでなるが、該親水性樹脂は、親水性成分を構成単位とする親水性セグメントと、ポリシロキサンセグメントとを有することを特徴とし、先に述べたように、水及び温水に不溶解性を示すものである。具体的には、親水性セグメントを有し、且つ、構造中の主鎖及び/又は側鎖にポリシロキサンセグメントを有する、親水性ポリウレタン樹脂、親水性ポリウレア樹脂、親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。以下、本発明を特徴づける親水性樹脂の合成に用いる化合物について説明する。
【0024】
親水性セグメントとポリシロキサンセグメントとを有する本発明の親水性樹脂は、有機ポリイソシアネートと、親水性成分である高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンと、少なくとも1個の活性水素含有基とポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物とを反応して得られる。このように、本発明の親水性樹脂は、少なくとも1個の活性水素含有基と、ポリシロキサンセグメントとを同一分子内に有する化合物を原料の一部として得られるが、この際に用いる、本発明の親水性樹脂分子中にポリシロキサンセグメントを導入するために使用可能な具体的なポリシロキサン化合物としては、例えば、分子中に1個又は2個以上の反応性基、具体的には、アミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基等を有するポリシロキサン化合物が挙げられる。上記のような反応性基を有するポリシロキサン化合物の好ましい例としては、例えば、下記の如き化合物が挙げられる。なお、以下の化合物において、低級アルキレン基とは、炭素数が1〜8程度のものをいう。
【0025】
アミノ変性ポリシロキサン化合物
【0026】
エポキシ変性ポリシロキサン化合物
【0027】
アルコール変性ポリシロキサン化合物
【0028】
メルカプト変性ポリシロキサン化合物
【0029】
カルボキシル変性ポリシロキサン化合物
【0030】
以上のような活性水素含有基を有するポリシロキサン化合物中では、特にポリシロキサンポリオール及びポリシロキサンポリアミンが有用である。なお、列記した化合物は、いずれも本発明において使用する好ましい化合物であって、本発明はこれらの例示の化合物に限定されるものではない。従って、上述の例示の化合物のみならず、その他、現在市販されており、市場から容易に入手し得る化合物は、いずれも本発明において使用することができる。
【0031】
本発明で使用する親水性樹脂の合成に用いる親水性成分としては、例えば、末端に、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の親水性基を有する、重量平均分子量(GPCで測定した標準ポリスチレン換算値、以下、同様)が400〜8,000の範囲の高分子量の親水性ポリオール及び/又はポリアミンが好ましい。より具体的には、例えば、末端が水酸基で、親水性を有するポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール共重合ポリオール、ポリエチレングリコールアジペートポリオール、ポリエチレングリコールサクシネートポリオール、ポリエチレングリコール/ポリε−ラクトン共重合ポリオール、ポリエチレングリコール/ポリバレロラクトン共重合ポリオール等が挙げられる。
【0032】
また、末端がアミノ基で、親水性を有するポリアミンとしては、例えば、ポリエチレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドジアミン、ポリエチレンオキサイドトリアミン、ポリエチレンオキサイドプロピレンオキサイドトリアミン等が挙げられる。その他の親水性成分としては、カルボキシル基やビニル基を有するエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0033】
本発明では、使用する親水性樹脂に耐水性を付与するため、上記の親水性成分とともに、親水鎖を有しない他のポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸等を併用することも可能である。
【0034】
上記親水性樹脂の合成に用いられる有機ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタン樹脂の合成における公知のものがいずれも使用でき、特に制限されない。好ましいものとしては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略)、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアナート(以下、水素添加MDIと略)、イソホロンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート等、或いはこれらの有機ポリイソシアネートと低分子量のポリオールやポリアミンを末端イソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等も使用することができる。
【0035】
また、上記親水性樹脂を合成する際に、必要に応じて使用される鎖延長剤としては、例えば、低分子ジオールやジアミン等の従来公知の鎖延長剤がいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0036】
以上のような原料成分を反応して得られる、親水性セグメント及びポリシロキサンセグメントを分子鎖中に有する親水性樹脂は、重量平均分子量が、3,000〜800,000の範囲であるものが好ましい。更に好ましい重量平均分子量は、5,000〜500,000の範囲である。
【0037】
本発明の放射性セシウムの除去方法に好適な親水性樹脂中のポリシロキサンセグメントの含有量は、0.1〜12質量%の範囲、特に好適には0.5〜10質量%の範囲である。ポリシロキサンセグメントの含有量が0.1質量%未満では、本発明の目的である耐水性や表面の耐ブロッキング性の発現が十分であるとは言い難く、一方、12質量%を超えるとポリシロキサンセグメントによる撥水性が強くなり、吸水性能を低下させる傾向があるので好ましくない。
【0038】
また、本発明の放射性セシウムの除去方法に好適な親水性樹脂の親水性セグメントの含有量は、20〜80質量%の範囲、更に好ましくは30〜70質量%の範囲である。親水性セグメントの含有量が20質量%未満では、吸水性能が低下するおそれがあり、一方、80質量%を超えると耐水性に劣るようになるので好ましくない。
【0039】
本発明の放射性セシウムの除去方法に好適な本発明の親水性樹脂組成物は、上記した親水性樹脂に粘土鉱物を分散させることによって得られる。具体的には、例えば、上述した親水性樹脂に粘土鉱物と分散溶媒を入れ、所定の分散機によって分散操作を行うことで製造することができる。上記で使用する分散機としては、通常顔料分散に用いる分散機であれば問題なく使用することができる。例えば、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、パールミル(以上、アイリッヒ社製)、サンドミル、ビスコミル、アトライターミル、バスケットミル、湿式ジェットミル(以上、ジーナス社製)等があるが、分散性と経済性を鑑みて設定するのが好ましい。また、メディアとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、ステンレスビーズ等を用いることができる。
【0040】
本発明の親水性樹脂組成物における親水性樹脂と粘土鉱物との分散割合は、親水性樹脂100質量部に対して粘土鉱物を1〜180質量部で配合してなるものを用いる。粘土鉱物が1質量部未満では、放射性セシウムの除去が不十分であり、180質量部を超えると組成物の機械物性が弱くなるとともに、耐水性に劣るようになり、放射能汚染水中で形状を保てなくなる。より好ましくは、親水性樹脂100質量部に対して粘土鉱物を10〜120質量部の割合で配合してなるものを用いるとよい。さらに、本発明で用いる粘土鉱物としては、セシウムの吸着性の高さから、その粒径が30μm以下のものを用いることが好ましい。
【0041】
本発明の放射性セシウムの除去方法を実施するにあたっては、上記した構成からなる本発明の親水性樹脂組成物を下記のような形態で使用することが好ましい。すなわち、本発明の親水性樹脂組成物の溶液を、離型紙や離型フィルム等に、乾燥後の厚みが5〜200μm、好ましくは10〜100μmとなるように塗布し、乾燥炉で乾燥させて得られるフィルム状としたものが挙げられる。この場合は、使用時に離型紙や離型フィルム等から剥離し、放射性セシウムの除去フィルムとして使用する。また、その他、各種基材に、先に説明した原料から得られる樹脂溶液を塗布又は含浸して使用してもよい。この場合の基材としては、金属、ガラス、木材、繊維、各種プラスチック等が使用できる。
【0042】
上記のようにして得られた、本発明の親水性樹脂組成物製のフィルム又は各種基材に塗布したシート等を、放射性廃液や、放射性固形物を予め水で除染した廃液などに浸漬することにより、これらの液中に存在する放射性セシウムを除去することができる。また、放射能で汚染された固形物等に対しては、本発明のフィルムやシートで固形物等を覆うことにより、放射性セシウムの拡散を防ぐことができる。
【0043】
本発明の親水性樹脂組成物製のフィルムやシートは水には溶けないため、除染後に、容易にその廃液から取りだすことができる。このように、本発明によれば、放射性セシウムを除去する場合に、特別な設備も電力も必要とせず簡単に且つ低コストで除染ができる。さらには、吸水した水分を乾燥させ120〜220℃に加熱すれば、樹脂が軟化して体積の収縮が起こり放射性廃棄物のさらなる減容化の効果も期待できる。
【実施例】
【0044】
次に具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の各例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0045】
[製造例1](ポリシロキサンセグメントを有する親水性ポリウレタン樹脂の合成)
【0046】
撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器を窒素置換し、該容器内で、下記構造のポリジメチルシロキサンポリオール(分子量3,200)8部、ポリエチレングリコール(分子量2,040)142部、エチレングリコール8部を、150部のメチルエチルケトン(以下、MEKと略す)と140部のジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)との混合溶剤中に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、52部の水素添加MDIを50部のMEKに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、50部のMEKを加え、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0047】
【0048】
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で410dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した親水性樹脂製フィルムは、破断強度が24.5MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は105℃であった。
【0049】
[製造例2](ポリシロキサンセグメントを有する親水性ポリウレア樹脂の合成)
【0050】
製造例1で使用したと同様の反応容器中に、下記構造のポリジメチルシロキサンジアミン(分子量3,880)5部、ポリエチレンオキサイドジアミン(「ジェファーミンED」(商品名)、ハンツマン社製;分子量2,000)145部、プロピレンジアミン8部を、DMF180部に溶解し、内温を10〜20℃でよく撹拌しながら、47部の水素添加MDIを100部のDMFに溶解した溶液を徐々に滴下して反応させた。滴下終了後、次第に内温を上昇させ、50℃に達したところで更に6時間反応させた後、100部のDMFを加え、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレア樹脂溶液を得た。
【0051】
【0052】
上記で得た樹脂溶液は固形分35%で、250dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成した親水性樹脂製フィルムは、破断強度が27.6MPa、破断伸度が310%であり、熱軟化温度は145℃であった。
【0053】
[製造例3](ポリシロキサンセグメントを有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂の合成)
製造例2で使用したと同様の反応容器中に、製造例2で使用したポリジメチルシロキサンジアミン(分子量3,880)5部、ポリエチレングリコール(分子量2,040)145部及び1,3−ブチレングリコール8部を、74部のトルエン及び197部のMEK混合溶剤中に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、42部の水素添加MDIを100部のMEKに溶解したものを徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させて、本発明で規定する構造を有する親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂溶液を得た。
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で200dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この溶液から形成した親水性樹脂製フィルムは、破断強度が14.7MPa、破断伸度は450%、熱軟化温度は90℃であった。
【0054】
[製造例4](比較例で使用する非親水性ポリウレタン樹脂の合成例)
製造例1で使用したと同様の反応容器を窒素置換し、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と1,4−ブタンジオール15部とを、250部のDMF中に溶解した。そして、60℃でよく撹拌しながら、62部の水素添加MDIを100部のMEKに溶解したものを徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、MEK71部を加え、比較例で用いる非親水性樹脂溶液を得た。
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で320dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から得られた非親水性樹脂製フィルムは、破断強度が45MPa、破断伸度が480%であり、熱軟化温度は110℃であった。
【0055】
[製造例5](比較例で使用する非親水性ポリウレタン−ポリウレア樹脂の合成例)
製造例1とで使用したと同様の反応容器に、平均分子量約2,000のポリブチレンアジペート150部と、ヘキサメチレンジアミン18部とを、DMF200部に溶解した。そして、内温を20〜30℃でよく撹拌しながら、60部の水素添加MDIを100部のMEKに溶解した溶液を徐々に滴下した。滴下終了後、80℃で6時間反応させた後、MEK123部を加え、比較例で用いる非親水性樹脂溶液を得た。
上記で得た樹脂溶液は、固形分35%で、250dPa・s(25℃)の粘度を有していた。また、この樹脂溶液から形成した親水性樹脂製フィルムは、破断強度が14.7MPa、破断伸度が450%であり、熱軟化温度は121℃であった。
【0056】
以上のようにして得られた製造例1〜5の各樹脂の重量平均分子量、ポリシロキサンセグメント含有量は下表1のとおりであった。
【0057】
<実施例1〜3、比較例1〜2>
製造例1〜5で得た各樹脂溶液と、粘土鉱物(主成分:モンモリロナイト、商品名「クニピア」、クニミネ工業(株)製)とを、表2に示した配合(質量基準で表示)で高密度アルミナボール(3.5g/ml)を使用して、ボールミルにて24時間分散した。そして分散後の内容物を、ポリエステル樹脂製の200メッツュのふるいを通して取り出して、樹脂溶液中に粘土鉱物が分散されてなる各樹脂組成物を得た。
【0058】
【0059】
[評価]
(樹脂フィルムの作製)
上記した実施例1〜3及び比較例1、2で得た各樹脂組成物をそれぞれ用い、下記のようにして各樹脂製フィルムを作製した。具体的には、離型紙上に、上記各樹脂組成物を塗布した後、110℃で3分加熱乾燥して溶剤を揮散させて、約20μmの厚さの各樹脂製フィルムを作製した。次に、このようにして得た各樹脂製フィルムを用い、以下の項目を評価した。
【0060】
<耐ブロッキング性(耐くっつき性)>
実施例及び比較例の各樹脂組成物で形成した各樹脂製フィルムについて、それぞれフィルム面同士を重ね合わせた後、0.29MPaの荷重を掛け、40℃で1日放置した。その後、重ね合わせたフィルム同士のブロッキング性を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:ブロッキング性なし
△:僅かにブロッキング性あり
×:ブロッキング性あり
【0061】
<耐水性>
実施例及び比較例の各樹脂組成物で形成した厚さ20μmの各樹脂製フィルムを、縦5cm×横1cmの形状に切り、25℃の水中に12時間浸漬し、浸漬フィルムの縦方向の膨張係数を測定し、耐水性を評価した。なお、膨張係数(膨張率)は、以下の方法で算出し、膨張係数が200%以下は○、200%超は×として、耐水性を評価した。得られた結果を表3に示した。
膨張係数(%)=(試験後の縦の長さ/試験前の縦の長さ)×100
【0062】
【0063】
<セシウム除去に対する評価>
実施例及び比較例の各樹脂組成物で形成した各樹脂製フィルムを用い、下記の方法で、液中のセシウムイオンの除去に対する効果を評価した。
【0064】
(評価試験用セシウム溶液の作製)
評価試験用のセシウム溶液は、イオン交換処理した純水に塩化セシウムを、セシウムイオン濃度が100mg/L(100ppm)となるよう溶解し、調整した。なお、セシウムイオンが除去できれば、当然に放射性セシウムの除去ができる。
【0065】
(実施例1〜3の親水性樹脂組成物についての評価結果)
実施例1〜3の各親水性樹脂組成物で形成した樹脂製フィルム20gを、それぞれ、先に評価試験用に調製したイオン濃度100ppmのセシウム溶液100ml中に静置浸漬し(25℃)、経過時間毎に、溶液中のセシウムイオン濃度をイオンクロマトグラフ(東ソー製;IC2001)で測定し、得られた結果を表4に示した。表4中に、経過時間毎の溶液中におけるセシウムイオンの除去率を合わせて記載した。また、得られた経時変化の結果を図1に示した。
【0066】
【0067】
(比較例1、2の樹脂組成物についての評価結果)
比較例1と比較例2の各非親水性樹脂組成物で形成した樹脂製フィルム20gを用いた以外は、実施例と同様にして、経過時間毎に溶液中のセシウムイオン濃度を測定し、その除去率を求めた。得られた結果を、実施例の場合と同様にして、表5と図2に示した。
【0068】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の活用例としては、放射性廃液や放射性固形物中の放射性セシウムを、簡単且つ低コストで、さらには電力等のエネルギー源を必要とせずに除去できるため、この新しい放射性セシウムの除去方法を実施することで、近時、問題となっている放射性物質を、簡便に、経済的に除去することが可能にできるので、その実用価値は極めて高い。特に本発明では、使用する親水性セグメントを有する親水性樹脂の構造中に、ポリシロキサンセグメントを導入することで、これを用いて形成した樹脂製フィルム等に対し、耐水性や表面の耐ブロッキング性(耐くっつき性)の実現がもたらされるので、除去処理の実用性をより高めることができる。さらに、本発明では、特有の構造を有する親水性樹脂に粘土鉱物を含んでなる親水性樹脂組成物に、除去した放射性セシウムを取り込んで安定的に固定化することができることに加えて、樹脂組成物であることから、必要に応じて放射性廃棄物の減容化も可能であるので、処理後に生じる放射性廃棄物における問題が軽減されるので、その利用が期待される。
図1
図2