(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955258
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】燃料噴射装置及びディーゼル機関
(51)【国際特許分類】
F02M 61/10 20060101AFI20160707BHJP
F02M 61/12 20060101ALI20160707BHJP
F02M 61/18 20060101ALI20160707BHJP
F02M 61/14 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
F02M61/10 Q
F02M61/12
F02M61/18 350B
F02M61/14 320A
F02M61/18 350Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-74209(P2013-74209)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-199021(P2014-199021A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2016年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】柳 潤
(72)【発明者】
【氏名】國弘 信幸
【審査官】
二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−236887(JP,A)
【文献】
特開2002−242798(JP,A)
【文献】
特開2010−512484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/10
F02M 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に燃料供給路が形成され、先端部に燃料噴射孔が形成されるハウジングと、
前記ハウジングの内部に配置され、燃料油圧に応じて前記燃料供給路を開閉するニードル弁と、
前記ニードル弁の先端に設けられ、外周面が前記ハウジングの内周面と接触して摺動するスプール弁と、
前記ハウジングの内周面において前記燃料噴射孔と異なる位置に形成され、前記燃料供給路に連通する溝部と、
を備え、
前記スプール弁には燃料油が流通する燃料油導入空間が形成され、
前記燃料供給路の開放時に、前記燃料油導入空間が前記溝部と連通し、かつ、前記燃料油導入空間が前記燃料噴射孔と連通する位置に移動し、
前記燃料供給路の閉鎖時に、前記スプール弁の外周面が前記燃料噴射孔に面し、前記燃料油導入空間が前記燃料噴射孔と連通しない位置に移動する燃料噴射装置。
【請求項2】
前記スプール弁の上部外周面が、前記燃料供給路の開閉動作において、常に前記ハウジングの内周面に接触している請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記燃料油導入空間は、前記スプール弁にて環状に形成される請求項1又は2に記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
前記燃料噴射孔は、前記ハウジングにて軸方向に上段燃料噴射孔と下段燃料噴射孔が設けられ、
前記スプール弁内部に、前記スプール弁の下方の空間に燃料を供給する第2燃料供給路が形成され、
前記燃料供給路の開放時に、前記燃料油導入空間が前記溝部と連通し、かつ、前記燃料油導入空間が前記上段燃料噴射孔と連通する位置に移動するとともに前記スプール弁の下方の空間は、前記溝部と連通し、かつ、前記スプール弁の下方の空間が前記下段燃料噴射孔と連通する請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
前記溝部は、前記ハウジングの内周面にて複数本形成され、複数本の前記溝部は、均等の間隔で前記ハウジングの内周面に設けられる請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
前記溝部と前記燃料噴射孔とは、前記燃料噴射孔の口径以上の間隔に保たれて形成されている請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の燃料噴射装置をシリンダヘッドに備えることを特徴とするディーゼル機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル機関等の内燃機関に用いられる燃料噴射装置及びディーゼル機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射装置は、ディーゼル機関等の内燃機関のシリンダヘッドに設けられ、燃料噴射装置のハウジングの先端部が燃焼室内に突出している。ハウジングの先端部には、燃料噴射孔が形成され、ハウジングの内部には、ニードル弁が設置されている。ニードル弁は、ハウジング内に供給される燃料油の油圧によって弁座から離れて開弁し、燃料噴射孔に燃料油が供給される。その結果、燃料噴射孔から燃料油が燃焼室内へ噴射する。燃焼室では、燃料油が空気と混合し着火することで火炎が形成され、燃焼室全体に火炎が広がっていく。
特許文献1には、弁のシャフトの先端に、噴霧器内の中心穴内に嵌合する二つの筒状部分を有するカットオフ部材が設けられることが記載されている。二つの筒状部材は、下側に位置する第一の筒状部分及び上側に位置する第二の筒状部分からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−512484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された燃料噴射器は、上側に位置する第二の群のノズル穴に対して、カットオフ部材の第二の筒状部分の外周面と、噴霧器の軸芯に形成された中心穴の内周面との間の通路を介して、燃料油を供給する。一方、弁棒が閉塞位置にあるときには、第二の筒状部分の周囲が中心穴内に嵌合することで、第二の群のノズル穴への燃料供給が遮断される。
【0005】
ところで、特許文献1に記載された燃料噴射器では、第一の筒状部分と第二の筒状部分の間に環状の凹部が形成されている。しかし、弁棒が閉塞位置にあるとき、環状の凹部は、第二の群のノズル穴と連通している。そのため、弁を閉鎖しているときであっても、環状の凹部に溜まった燃料油が第二のノズル穴を伝ってしまい、燃焼室に燃料油が供給されるという後垂れが発生する。すなわち、環状の凹部が形成されていることによって、燃料噴射器のサックボリュームが増加する。
【0006】
また、特許文献1に記載された燃料噴射器では、弁棒が開放位置にあるとき、第二の筒状部分は、中心穴との嵌合が外れ、第一の筒状部分のみが中心穴内に嵌合している。そのため、弁棒のシャフトのスライドが不安定になりやすい。そして、弁棒が閉塞位置へ移動する際、第二の筒状部分が中心穴の内周面と接触して嵌合するため、シャフトが損傷しやすくなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、弁の閉鎖時に燃焼室に供給される燃料油の量を低減することが可能な燃料噴射装置及びディーゼル機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の燃料噴射装置及びディーゼル機関は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る燃料噴射装置は、内部に燃料供給路が形成され、先端部に燃料噴射孔が形成されるハウジングと、前記ハウジングの内部に配置され、燃料油圧に応じて前記燃料供給路を開閉するニードル弁と、前記ニードル弁の先端に設けられ、外周面が前記ハウジングの内周面と接触して摺動するスプール弁と、前記ハウジングの内周面において前記燃料噴射孔と異なる位置に形成され、前記燃料供給路に連通する溝部とを備え、前記スプール弁には燃料油が流通する燃料油導入空間が形成され、前記燃料供給路の開放時に、前記燃料油導入空間が前記溝部と連通し、かつ、前記燃料油導入空間が前記燃料噴射孔と連通する位置に移動し、前記燃料供給路の閉鎖時に、前記スプール弁の外周面が前記燃料噴射孔に面し、前記燃料油導入空間が前記燃料噴射孔と連通しない位置に移動する。
【0009】
この構成によれば、燃料供給路の開放時、溝部から導入される燃料油がスプール弁の燃料油導入空間を介して燃料噴射孔から噴射する。一方、燃料供給路の閉鎖時、ニードル弁の外周面が燃料噴射孔に面しつつ、燃料油導入空間は、燃料噴射孔には連通していないことから、噴射孔は、燃料導入空間から燃料が供給されることが無い。そのため、ニードル弁が閉鎖しているときに、燃料油導入空間に溜まった燃料油が燃料噴射孔を伝って、燃焼室に燃料油が供給されるという後垂れが生じない。
【0010】
上記発明において、前記スプール弁の上部外周面が、前記燃料供給路の開閉動作において、常に前記ハウジングの内周面に接触することが望ましい。
【0011】
この構成によれば、燃料供給路の開閉動作によって、スプール弁の外周面がハウジングの内周面と接触して摺動する際、スプール弁のうち燃料油導入空間の上部に位置する外周面が常にハウジングの内周面に接触している。また、燃料供給路の開放時、燃料油が溝部からスプール弁の燃料油導入空間に導入される。その結果、ニードル弁は、スプール弁に凹状の燃料油導入空間が形成されている場合でも、燃料油導入空間の上部の外周面によって、ハウジングに支持されているため、ニードル弁の挙動が安定化する。また、スプール弁の外周面がハウジングの内周面に常に接触しているため、接触と非接触が繰り返されることによる損傷が発生しにくい。
【0012】
上記発明において、前記燃料油導入空間は、前記スプール弁にて環状に形成されてもよい。
【0013】
この構成によれば、ハウジングにおいて燃料噴射孔が溝部と異なる位置に設けられており、かつ、燃料油導入空間がスプール弁の外周にて環状に形成されているため、燃料油が溝部から燃料油導入空間を介して噴射孔から噴射するまでの燃料油の流路抵抗は、ニードル弁の回転位置に関わらず一定である。すなわち、ニードル弁が軸線回りに回転した場合でも、燃料油の流路抵抗が変化せず、燃料油を安定して噴射できる。
【0014】
これに対して、ハウジングに溝部を形成せず、例えばニードル弁のシャフトに軸方向に沿って溝を形成したり、スプール弁に軸方向に貫通孔を形成したりして、燃料油導入空間に燃料を供給する参考例が考えられる。しかし、この参考例の場合、ニードル弁の回転位置に応じて、燃料油導入空間に燃料油が導入される位置が、燃料噴射孔に近づいたり遠ざかったりするため、燃料油が燃料噴射孔から噴射するまでの流路抵抗が変化する。一方、本発明では、燃料油導入空間に燃料油が導入される位置(ハウジングに形成された溝部の位置)と燃料噴射孔の位置が一定であるため、燃料油の流路抵抗が変化しない。
【0015】
上記発明において、前記燃料噴射孔は、前記ハウジングにて軸方向に上段燃料噴射孔と下段燃料噴射孔が設けられ、前記スプール弁内部に、前記スプール弁の下方の空間に燃料を供給する
第2燃料供給路が形成され、前記燃料供給路の開放時に、前記燃料油導入空間が前記溝部と連通し、かつ、前記燃料油導入空間が前記上段燃料噴射孔と連通する位置に移動するとともに前記スプール弁の下方の空間は、前記溝部と連通し、かつ、前記スプール弁の下方の空間が前記下段燃料噴射孔と連通してもよい。
【0016】
この構成によれば、燃料供給路の開放時に、溝部から導入される燃料油は、燃料油導入空間を介して上段燃料噴射孔から噴射し、同時に、スプール弁の下方の空間を介して下段燃料噴射孔から噴射する。燃料油導入空間とスプール弁の下方の空間とは、ハウジングの内周面に形成された溝部を介して連通していることから、上段燃料噴射孔と下段燃料噴射孔とから噴射される燃料油について、流路抵抗と噴射圧力を均一に維持できる。
【0017】
上記発明において、前記溝部は、前記ハウジングの内周面にて複数本形成され、複数本の前記溝部は、均等の間隔で前記ハウジングの内周面に設けられてもよい。
【0018】
この構成によれば、溝部に導入される燃料油によって、ニードル弁が反力を受ける際、溝部が均等に設けられているため、ニードル弁の位置の偏りが生じにくい。したがって、スプール弁がハウジングの内周面に押し付けられて、摺動面が損傷する可能性を低減できる。
【0019】
上記発明において、前記溝部と前記燃料噴射孔とは、前記燃料噴射孔の口径以上の間隔に保たれて形成されてもよい。
【0020】
この構成によれば、ニードル弁の閉鎖時にて、前記溝部と前記燃料噴射孔との間で、燃料油がハウジングの内周面とスプール弁の外周面との隙間を通って燃料噴射孔から流出する可能性を低減できる。
【0021】
本発明に係るディーゼル機関は、上述の燃料噴射装置をシリンダヘッドに備える。
【0022】
この構成によれば、ディーゼル機関のシリンダヘッドに燃料噴射装置が備えられ、燃料噴射装置は、燃料供給路の開放時、溝部から導入される燃料油がスプール弁の燃料油導入空間を介して燃料噴射孔から噴射する。一方、燃料供給路の閉鎖時、ニードル弁の外周面が燃料噴射孔に面しつつ、燃料油導入空間は、燃料噴射孔には連通していないことから、噴射孔は、燃料導入空間から燃料が供給されることが無い。そのため、ニードル弁が閉鎖しているときに、燃料油導入空間に溜まった燃料油が燃料噴射孔を伝って、燃焼室に燃料油が供給されるという後垂れが生じない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、弁の閉鎖時に燃焼室に供給される燃料油の量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置を示す概略図及び縦断面図であり、ニードル弁の閉弁時を示す。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置を示す縦断面図であり、ニードル弁の開弁時を示す。
【
図7】
図2又は
図10のE−E線で切断した横断面図であり、縦溝の一例を示す。
【
図8】
図2又は
図10のE−E線で切断した横断面図であり、縦溝の他の例を示す。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る燃料噴射装置を示す縦断面図であり、ニードル弁の閉弁時を示す。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る燃料噴射装置を示す縦断面図であり、ニードル弁の開弁時を示す。
【
図11】
図9のC−C線で切断した横断面図である。
【
図12】
図9のD−D線で切断した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置10について説明する。燃料噴射装置10は、例えば2サイクル型の船舶用大型ディーゼル機関等の内燃機関に適用される。
燃料噴射装置10は、円筒形状を有するハウジング14が内燃機関のシリンダヘッド12に設置される。
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料噴射装置を示す概略図及び縦断面図であり、ニードル弁26の閉弁時を示す。
図2は、ニードル弁26の
開弁時を示す。
【0026】
図1に示すように、油ポンプ38は、油路36を介して、シリンダ34に接続される。シリンダ34は、油路32の一端と接続され、油路32の他端は、ハウジング14に形成された燃料供給路18と接続される。シリンダ34の内部には、カム42によって往復動するピストン40が設けられる。油ポンプ38からシリンダ34に燃料油が供給され、シリンダ34内の燃料油は、ピストン40の上昇によって燃料供給路18に供給される。
【0027】
ハウジング14は、先端部14aに複数の燃料噴射孔が設けられる。先端部14aは、シリンダヘッド12の下面12aから燃焼室11内に突出している。ハウジング14は、軸線上に沿って円筒状の中心穴21が内部に形成され、中心穴21内にはニードル弁26が収納されている。なお、例として、ハウジング14内部の中心穴21は円筒状としたが、これに限られず、例えば角筒状であってもよい。
【0028】
ハウジング14の上部から下部に向けて燃料供給路18が形成され、燃料供給路18は、チャンバー20に連通している。チャンバー20の下面は、弁座22が形成され、弁座22の内側に燃料供給路24が形成されている。ニードル弁26の上方にはコイルばね30が設置され、コイルばね30の弾性力がニードル弁26の上面に付勢されている。これによって、燃料供給路18に燃料油が供給されないときは、ニードル弁26の円錐面28が弁座22に押し付けられ、チャンバー20の下方に設けられた燃料供給路24を閉鎖している。燃料供給路18に供給される燃料油の油圧に応じて、ニードル弁26が上方へ移動し、燃料供給路18と燃料供給路24とが連通する。
【0029】
ニードル弁26の先端には、スプール弁44が形成されている。スプール弁44の軸線上には、燃料供給孔440が設けられている。燃料供給孔440は、燃料供給路24と、スプール弁44よりも下方に形成される空間25とを連通させる。スプール弁44は、上側に位置する上部大径部442と、上部大径部442から離隔して下側に位置する下部大径部444とを備える。上部大径部442と下部大径部444との間には、小径部446が形成されている。上部大径部442、下部大径部444及び小径部446は、例えば円筒状である。なお、上部大径部442、下部大径部444及び小径部446は、ハウジング14の内部の中心穴21の形状と併せて、角筒状であってもよい。
【0030】
上部大径部442及び下部大径部444は、ハウジング14の中心穴21内に嵌合し、中心穴21の内周面に沿ってスライドする。ニードル弁26が燃料供給路24を閉鎖しているとき、
図1、
図3及び
図4に示すように、上部大径部442は上側の燃料噴射孔16a,16bを閉鎖し、下部大径部444は下側の燃料噴射孔16c,16dを閉鎖する。
【0031】
上部大径部442と下部大径部444との間の小径部446に相当する位置には、環状の燃料油導入空間27が形成される。燃料油導入空間27は、スプール弁44の外周面よりも中心側に向かって凹状に形成され、燃料油が流通する。ニードル弁26が燃料供給路24を開放し、燃料供給路18と燃料供給路24とが連通しているとき、
図2及び
図5に示すように、燃料油導入空間27は、上側の燃料噴射孔16a,16bと面して、燃料油導入空間27と燃料噴射孔16a,16bとが連通する。また、スプール弁44よりも下方に形成される空間25は、
図2及び
図6に示すように、下側の燃料噴射孔16c,16dと面して、空間25と燃料噴射孔16c,16dとが連通する。なお、燃料油導入空間27は、環状であればよく、円環状に限定されるものではない。
【0032】
4個の燃料噴射孔16a〜16dは、ハウジング14の軸方向の異なる位置に設けられた二つの噴射孔列A及びにBに分けて配置される。上方の噴射孔列Aは、燃料噴射孔16aと16bで構成され、下方の噴射孔列Bは、燃料噴射孔16cと16dで構成される。各燃料噴射孔16a〜16dは、
図3〜
図6に示すように、例えば、ハウジング14の軸線に対して放射方向に向けて形成されている。なお、燃料噴射孔は4個に限定されず、例えば、上方の噴射孔列Aに3個、下方の噴射孔列Bに3個の燃料噴射孔が形成されてもよいし、上方の噴射孔列Aと下方の噴射孔列Bとに形成される燃料噴射孔の個数が一致しなくてもよい。
【0033】
ハウジング14の中心穴21の内周面には、軸方向に沿って縦溝23が形成される。ハウジング14において、縦溝23は、
図3及び
図5に示すように、燃料噴射孔16a,16bと異なる位置に設けられる。縦溝23は、ニードル弁26の上下位置に関わらず、燃料供給路24及び環状の燃料油導入空間27に対して、常に連通するような長さで形成される。これにより、ニードル弁26が燃料供給路24を閉鎖しているときにも燃料油が燃料油導入空間27に満たされている。
【0034】
縦溝23は、
図7及び
図8に示すように、ハウジング14の内周面にて複数本形成されてもよい。複数本の縦溝23は、均等の間隔でハウジングの内周面に設けられる。例えば、
図7に示すように、2本など偶数の縦溝23が設けられる場合、2本の縦溝23は相対する位置に向かい合わせて形成される。また、
図8に示すように、3本など奇数の縦溝23が設けられる場合、各縦溝23は等間隔で設けられる。ニードル弁26は、縦溝23に加圧されて導入される燃料油によって、反力を受ける。このとき、縦溝23が均等に設けられているため、ニードル弁26の位置の偏りが生じにくい。したがって、スプール弁44がハウジング14の内周面に押し付けられて、摺動面が損傷したり固着(スティック)したりする可能性を低減できる。
【0035】
縦溝23と各燃料噴射孔16a,16bとの距離Lは、
図3及び
図5に示すように、噴射孔の口径d以上の間隔に保たれて形成されることが望ましい。これにより、特に、ニードル弁26の閉鎖時にて、縦溝23と燃料噴射孔16a,16bとの間で、燃料油がハウジング14の内周面とスプール弁44の外周面との隙間を通って燃料噴射孔16a,16bから流出する可能性を低減できる。
【0036】
次に、本実施形態に係る燃料噴射装置10の動作について説明する。
油路32から燃料供給路18に燃料油が供給されないとき、ニードル弁26は弁座22に着座し、燃料供給路24を閉鎖している。
油路32から燃料供給路18に燃料油が供給されると、燃料油の油圧に応じて、コイルばね30の弾性力に抗してニードル弁26が上昇し、燃料供給路24が開放される。すなわち、燃料油の油圧が一定の油圧以上となるまではニードル弁26は上昇せず、燃料供給路24は閉鎖されている。
これによって、燃料油は、燃料供給路18と燃料供給路24から燃料供給孔440を通って、下方の空間25に到達する。また、燃料油は、別の経路で、すなわち、燃料供給路18と燃料供給路24から縦溝23を通って燃料油導入空間27に到達する。
【0037】
ニードル弁26の上昇及び下降と合わせて、ニードル弁26と一体のスプール弁44も上昇及び下降する。スプール弁44の位置に応じて、噴射孔列A及び噴射孔列Bが開閉する。ニードル弁26が上昇し、ニードル弁26が開弁するときに、燃料油導入空間27は、縦溝23と連通し、かつ、燃料油導入空間27が噴射孔列Aの燃料噴射孔16a,16bと連通する位置に移動する。また、スプール弁44の下部大径部444は、噴射孔列Bの燃料噴射孔16c,16dを開放する。したがって、スプール弁44が上昇すると、噴射孔列A及び噴射孔列Bのすべての噴射孔16a〜16dが開放される。
【0038】
一方、油路32から燃料油の供給がなくなると、ニードル弁26は下降して弁座22に着座し、燃料供給路24が閉鎖される。ニードル弁26が弁座22に着座しているとき、噴射孔列A及び噴射孔列Bのすべての噴射孔16a〜16dが、スプール弁44の外周面、すなわち、上部大径部442又は下部大径部444によって閉塞されている。このとき、燃料油導入空間27は、燃料噴射孔16a〜16dと連通しない位置に移動している。
【0039】
本実施形態によれば、ニードル弁26の開弁時、縦溝23から導入される燃料油がスプール弁44の燃料油導入空間27を介して燃料噴射孔16a,16bから噴射する。同時に、燃料供給孔440を通って、下方の空間25に到達した燃料油は、スプール弁44の下方の空間25を介して燃料噴射孔16c,16dから噴射する。
【0040】
一方、ニードル弁26の閉弁時、ニードル弁26の外周面(上部大径部442及び下部大径部444)が燃料噴射孔16a〜16dに面しつつ、燃料油導入空間27は、燃料噴射孔16a〜16dには連通していないことから、噴射孔16a〜16dは、燃料導入空間から燃料が供給されることが無い。そのため、ニードル弁26が閉鎖しているときに、燃料油導入空間27に溜まった燃料油が燃料噴射孔16a〜16dを伝って、燃焼室に燃料油が供給されるという後垂れが生じない。
【0041】
スプール弁44のうち燃料油導入空間27の上部に位置する外周面442a、すなわち、上部大径部442の外周面442aが、ニードル弁26の開閉動作において、常にハウジング14の中心穴21の内周面に接触している。
【0042】
これにより、ニードル弁26の開閉動作によって、スプール弁44の外周面がハウジング14の中心穴21の内周面と接触して摺動する際、上部大径部442の外周面442aが常にハウジング14の中心穴21の内周面に接触している。また、ニードル弁26の開弁時、燃料油が縦溝23から燃料油導入空間27に導入される。その結果、ニードル弁26は、スプール弁44に凹状の燃料油導入空間27が形成されている場合でも、上部大径部442の外周面442aによって、ハウジング14に支持されているため、ニードル弁26の挙動が安定化する。また、スプール弁44の外周面がハウジング14の中心穴21の内周面に常に接触しているため、接触と非接触が繰り返されることによる損傷が発生しにくい。
【0043】
また、燃料油導入空間27は、
図5に示すように、スプール弁44の外周にて環状に形成されている。
これにより、ハウジング14において燃料噴射孔16a〜16dが縦溝23と異なる位置に設けられており、かつ、燃料油導入空間27がスプール弁44の外周にて環状に形成されているため、燃料油が縦溝23から燃料油導入空間27を介して噴射孔から噴射するまでの燃料油の流路抵抗は、ニードル弁26の回転位置に関わらず一定である。すなわち、ニードル弁26が軸線回りに回転した場合でも、燃料油の流路抵抗が変化せず、燃料油を安定して噴射できる。
【0044】
これに対して、ハウジング14に縦溝23を形成せず、例えばニードル弁26のシャフトに軸方向に沿って溝を形成したり、スプール弁44に軸方向に貫通孔を形成したりして、燃料油導入空間27に燃料を供給する参考例が考えられる。しかし、この参考例の場合、ニードル弁26の回転位置に応じて、燃料油導入空間27に燃料油が導入される位置が、燃料噴射孔16a〜16dに近づいたり遠ざかったりするため、燃料油が燃料噴射孔16a〜16dから噴射するまでの流路抵抗が変化する。一方、本実施形態では、燃料油導入空間27に燃料油が導入される位置(ハウジング14に形成された縦溝23の位置)と燃料噴射孔16a〜16dの位置が一定であるため、燃料油の流路抵抗が変化しない。
【0045】
[第2実施形態]
次に、
図9〜
図14を参照して、本発明の第2実施形態に係る燃料噴射装置10について説明する。
第1実施形態と本実施形態では、縦溝が異なり、他の構成は同一であるため、重複する説明は省略する。
上述した第1実施形態において、ニードル弁26の開弁時に、縦溝23は、スプール弁44の下方の空間25と連通していない。この場合、上方の噴射孔列Aの燃料噴射孔16a,16bへの燃料油の経路と、下方の噴射孔列Bの燃料噴射孔16c,16dへの燃料油の経路が分かれている。そのため、流路抵抗が両者で異なっている。
【0046】
本実施形態では、
図10及び
図14に示すように、縦溝29が、ニードル弁26の開弁時においても、スプール弁44の下方の空間25と連通する位置まで形成されている。
【0047】
本実施形態によれば、ニードル弁26の開弁時に、縦溝29から導入される燃料油は、燃料油導入空間27を介して上段の燃料噴射孔16a,16bから噴射し、同時に、スプール弁44の下方の空間25を介して下段燃料噴射孔16c,16dから噴射する。
【0048】
燃料油導入空間27とスプール弁の下方の空間25とは、ハウジング14の内周面に形成された縦溝29を介して連通していることから、上段の燃料噴射孔16a,16bと下段の燃料噴射孔16c,16dとから噴射される燃料油について、流路抵抗と噴射圧力を均一に維持できる。
【符号の説明】
【0049】
10 燃料噴射装置
11 燃焼室
12 シリンダヘッド
14 ハウジング
16a,16b,16c,16d 燃料噴射孔
18,24 燃料供給路
23 縦溝(溝部)
26 ニードル弁
27 燃料油導入空間
44 スプール弁