【0012】
最初に、本願発明のエレベータ重量物用揚重方法の技術的概要について、簡単に説明する。本願発明のエレベータ重量物用揚重方法は、建屋に設備された昇降路を昇降する乗りかごを利用して新設用のエレベータ機器の重量物
を建屋の搬入階から積載し
て昇降路内を経由して上方の作業階床面へ運搬した後、昇降路頂部の機械室に設けた揚重装置を用いて重量物を昇降路内に搬送してから機械室内に揚重するものである。具体的に云えば、搬入階から乗りかご内に重量物を積載させて作業階ま
で乗りかごを上昇運転させて停止後
に重量物
を作業階床面へ運搬する運搬ステップと、
乗りかごを下方の作業階下階側に下げて乗りかごの天井を作業足場として乗りかごを固定した後に乗りかごに固定されたメインロープを外す処理を含み、重量物を運搬した作業階で昇降路内に向けて昇降路内に設けられたエレベータガイドレール間に固定された支持材上と作業階床面上とで水平に支持される分割組立式の揚重用ガイドレールを取付けるレール取付けステップと、機械室床部に揚重装置の部材及び重量物を通過可能な寸法の開口部を
巻上機支持台間に穿設して形成する開口形成ステップと、機械室内に揚重装置を設置する設置ステップと、
揚重装置に設けられた電動ウインチと重量物とを機械室床部の開口部を通してウインチロープで固定する処理を含み、揚重装置を用いて重量物を揚重用ガイドレールに案内させて作業階床面から昇降路内へ搬送する搬送ステップと、揚重装置を用いて重量物を機械室床部の開口部を通して機械室内へと揚重する揚重ステップと、を
逐次行うものである。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1に係るエレベータ巻上機用揚重方法の要所で適用されるエレベータの概略構成を一部縦方向で断面にして示した図である。ここでは、エレベータ巻上機用揚重方法として、上述したエレベータ重量物用揚重方法の場合と同様なレール取付けステップ、開口形成ステップ、及び設置ステップを経た搬送ステップにおいて、揚重装置2を用いて台車9付き巻上機8を搬送路6内に搬送した様子を示しており、この後の揚重ステップで機械室1床部の開口部5を通して機械室1内へと台車9付き巻上機8を揚重する。具体的に説明すれば、ここでは後文で説明する運搬ステップにおいて、エレベータのリニューアル工事で必要とされる新設用の台車9付き巻上機8を予め乗りかごを利用して搬入階から乗りかご内に台車9付き巻上機8を積載させて作業階11まで乗りかごを上昇運転させて停止した後、台車9付き巻上機8を作業階11床面へ運搬した状態を想定している。そこで、
図1では、前提となるレール取付けステップでエレベータガイドレール7間に固定された支持材12上と作業階11床面上とで水平に支持されるように揚重用ガイドレール10を取付け、開口形成ステップで機械室1床部に開口部5を形成すると共に、設置ステップで機械室1内に揚重装置2を設置した後、運搬ステップで揚重装置2に取り付けられた電動ウインチ3と台車9付き巻上機8とを開口部5を通してウインチロープ4で固定してから電動ウインチ3を駆動させて台車9付き巻上機8をレール10に案内させて作業階11床面から昇降路6内へ運搬した様子を示している。引き続く揚重ステップでは、更に電動ウインチ3を駆動させて台車9付き巻上機8を開口部5を通して機械室1内へと揚重する。
【0015】
図2は、
図1に示したエレベータの概略構成の細部構造である支持材12及び揚重用ガイドレール10を一部縦方向で断面にして示した図である。また、
図3は、支持材12及び揚重用ガイドレール10の配置状態を上方から一部平面方向で断面にして示した図である。これらの各図は、揚重用ガイドレール10の支持材12に対する組み付け構造を説明するものである。
【0016】
図2を参照すれば、レール取付けステップにおいて、作業階下階15に到達した乗りかご14を下方の作業階下階15側に下げ、その天井を示すかご上14aを作業足場として作業者が乗り込んで乗りかご14を固定した後、乗りかご14に固定されたメインロープを外してから作業口14b近傍で揚重用ガイドレール10をエレベータガイドレール7間の支持材12上と作業階11床面上とにおいて水平となるように設置する様子を示している。このとき、作業員は、かご上14aで揚重用ガイドレール10を支持するための支持材12を対向するエレベータガイドレール7間に固定した上、この支持材12上に揚重用ガイドレール10を作業階11床面上との間で水平に支持されるように固定する。
【0017】
ここでの揚重用ガイドレール10は、
図3に示されるように、左右に平行して延在する走行レール10aを所定の間隔で連結材10bにより連結固定すると共に、走行レール10aの昇降路6側の端部に台車9付き巻上機8の台車9が当接されて位置決めされて停止されるための係止部としてのストッパ10cを設置した分割組立式の構造となっており、作業員がかご上14aを作業足場として各部をそれぞれ組立てるように設置する。揚重用ガイドレール10の設置が終了した後、作業者は乗りかご14のかご上14aに設置される作業口14bから乗りかご14内に乗り込み、乗りかご14を経由して作業階下階15床へ移動する。
【0018】
図4は、実施例1のエレベータ巻上機用揚重方法で揚重対象とする台車9付き巻上機8の揚重状態を示した図であり、同図(a)は揚重前の昇降路6内での支持状態に関する図、同図(b)は機械室1に配備された揚重装置2を用いた揚重後の吊り上げ状態に関する図である。
図4(a)を参照すれば、ここでは搬送ステップにおいて、
図1に示したように作業階11で作業員が揚重装置2に設けられた電動ウインチ3と台車9付き巻上機8とをウインチロープ4で固定してから電動ウインチ3を駆動することで台車9付き巻上機8を揚重用ガイドレール10に案内させて作業階11床面から昇降路6内へ搬送する際、台車9が揚重用ガイドレール10の走行レール10a上を走行して巻上機8を昇降路6内に搬送する様子を示しており、このときに台車9が揚重用ガイドレール10に設けられたストッパ10cに当接して位置決めされて停止する。台車9自体は、フレーム9a相互間をヒンジ9bにより結合すると共に、両端側のフレーム9aの下方側に車輪9cが設けられて中央部のフレーム9aが巻上機8に固定される構造であり、搬送ステップでの昇降路6内への搬送時には
図4(a)に示されるように車輪9cが走行レール10a上を走行するが、揚重ステップでの機械室1内への揚重時には
図4(b)に示されるようにヒンジ9bによって両端側のフレーム9aが自重で折り畳まれて機械室1床部の開口部5を通過可能な構成となっている。
【0019】
即ち、
図4(a)に示される搬送ステップでの昇降路6内への搬送時には、フレーム9aが平面状の形状を維持しながら台車9がストッパ10cに当接して位置決められることで、機械室1床部の開口部5の鉛直方向直下で停止する。また、
図4(b)に示される揚重ステップでの機械室1内への揚重時には、更に電動ウインチ3を駆動することで巻上機8が台車9と一緒に吊り上げられるが、このときに台車9の両端側のフレーム9aがヒンジ9bにより自重で底部に設けた車輪9cが対向するように折り畳まれてコンパクトな形状となり、機械室1床部に設置されている巻上機支持台13間に設けられた開口部5を通過して機械室1内へと揚重される。その後に台車9の両端側のフレーム9aの折り畳みが元の平面状に戻されて巻上機支持台13上に車輪9cが載置され、所定の位置決めが行われて車輪9cをロックした時点で巻上機8の機械室1内への設置が完了する。この後は、電動ウインチ3及びウインチロープ4が台車9付き巻上機8及び揚重装置2から取り外され、巻上機支持台13上の台車9付き巻上機8以外は通常の場合、機械室1から撤去される。
【0020】
図5は、実施例1のエレベータ巻上機用揚重方法を適用する場合の前提となる初期的なエレベータの乗りかご14を利用した台車9付き巻上機8の運搬を説明するために一部縦方向で断面にして示した運搬経路の概略図である。
図5を参照すれば、ここでは上述した運搬ステップにおいて、エレベータのリニューアル工事で必要とされる新設用の台車9付き巻上機8を乗りかご14を利用して建屋の搬入階16床面から乗りかご14内に積載し、乗りかご14を作業階11まで上昇運転させることで昇降路6内に搬入させ、作業階11で停止して乗りかご14から台車9付き巻上機8を作業階11床面へ運搬した様子を示している。尚、
図5中に示される乗りかご14に取り付けられたメインロープ17は、
図2を参照して説明したレール取付けステップにおいて、乗りかご14を下方の作業階下階15側に下げて固定した後に乗りかご14から取り外される。
【0021】
図6は、実施例1に係るエレベータ巻上機用揚重方法により建屋の昇降路6を経由して機械室1内へと揚重される台車9付き巻上機8の揚重作業手順(
図5を参照して説明した運搬を含む)を示したフローチャートである。台車9付き巻上機8の揚重作業手順では、まず運搬ステップとして、エレベータのリニューアル工事で新設する台車9付き巻上機8を建屋の搬入階16から建屋に搬入(ステップS1)して乗りかご14内に積載した後、乗りかご14をリニューアル工事する作業階11とする例えば最上階まで上昇運転して揚重(ステップS2)し、最上階床面に運搬する。因みに、ここでの運搬はリニューアル工事するエレベータ以外のエレベータの乗りかご14を利用して最上階(作業階11)まで揚重するようにしても良い。
【0022】
次に、レール取付けステップとして、作業者が最上階(作業階11)から乗りかご14のかご上14aに乗り込み、乗りかご14を下降運転させて下方の最上階下階(作業階下階15)側へ下げ、乗りかご14をワイヤー等で昇降路6に固定された器具等に吊下げ固定した後、乗りかご14を吊持しているメインロープ17を取り外す(ステップS3)工程を行った後、作業足場とする乗りかご14のかご上14aから作業員が揚重用ガイドレール10を昇降路6内に向けてエレベータガイドレール7間に固定された支持材12上と最上階(作業階11)床面上とで水平に支持されるように設置した後、作業者が昇降路6から最上階下階(作業階下階15)へ出る(ステップS4)工程を行う。更に、機械室1からリニューアル工事前のエレベータを構成する巻上機や制御盤等の撤去可能な既設の構成部品を撤去するための機械室1機器を撤去(ステップS5)する工程を行う。
【0023】
引き続き、開口形成ステップとして、機械室1の床に揚重用の開口部5(揚重装置2の部材及び巻上機8を通過可能な寸法)を巻上機支持台13間に穿設して設け、設置ステップとして、門型雇を含む揚重装置2を機械室1に設置する(ステップS6)工程を行う。更に、搬送ステップとして、揚重装置2の門型雇に電動ウインチ3を取付け、ウインチロープ4の先端を機械室1床の開口部5を通して最上階(作業階11)床面まで運搬された新設する台車9付き巻上機8に固定する(ステップS7)工程を行った後、電動ウインチ3を駆動して台車9付き巻上機8を揚重用ガイドレール10上に沿って昇降路6内へ搬送させて取り込み、揚重ステップとして、更に電動ウインチ3を駆動して台車9付き巻上機8を開口部5を通して機械室1まで揚重する(ステップS8)工程を行うことにより、台車9付き巻上機8の揚重作業を終了する。
【0024】
実施例1に係るエレベータ巻上機用揚重方法によれば、運搬ステップで台車9付き巻上機8を搬入階16から乗りかご14に積載して上昇運転させて作業階11で停止した後に作業階11床面へ運搬し、設置ステップで機械室1に設置した揚重装置2を用いて搬送ステップで揚重装置2に取り付けた電動ウインチ3と台車9付き巻上機8とを開口部5を通してウインチロープ4を用いて固定した状態で乗りかご14よりも上方に設置された揚重用ガイドレール10に案内させて台車9付き巻上機8を昇降路6内に搬送してから揚重ステップで開口部5を通して機械室1へ揚重するため、乗りかご14のかご室を解体したり、改造する必要がなく、全体の作業工数を低減させて台車9付き巻上機8を容易に作業階11から昇降路6内へ搬送して機械室1へ揚重できる他、追加部品も不要となってリニューアル工事のコストを抑えることができるようになる。
【0025】
また、レール取付けステップで使用する揚重用ガイドレール10が走行レール10a、連結材10b、及びストッパ10cによる分割組立式の構成であり、部品単体を軽量化することができ、作業足場とする乗りかご14のかご上14aで容易に設置できるため、揚重用ガイドレール10を設置するための専用の作業台の設置が不要となる他、揚重用ガイドレール10が支持材12上と作業階11床上との間で水平に支持され、台車9付き巻上機8の台車9における車輪9cをガイドするガイドレール10aを持つため、台車9付き巻上機8を昇降路6内へ安定状態を保ったまま搬送して取り込むことができる。更に、搬送ステップで台車9付き巻上機8を昇降路6内へ搬送して取り込み、揚重ステップで開口部5を通して機械室1内に揚重する際、作業員が昇降路6内にいる必要がないため、昇降路6内の作業階11の上下階相当位置に同時に複数の作業員を待機させることが無く、作業員の安全を確保することが可能となる。加えて、台車9付き巻上機8における台車9のフレーム9a相互間がヒンジ9bで連結され、揚重時は両端側のフレーム9aが折り畳まれて機械室1床の開口部5を通過するため、機械室1の開口部5を既存の巻上機支持台13の間で最小の寸法で形成することができ、穿孔工事が効率化され、しかも巻上機支持台13を撤去する必要がないために揚重作業を短期間で行うことができる。
【0026】
尚、上述した実施例1に係るエレベータ巻上機用揚重方法では、リニューアル工事時に新設するエレベータ機器の重量物として、巻上機8を揚重対象として台車9に取り付けた構成を説明したが、巻上機8以外の重量物を台車9に取り付けて揚重対象としても良く、その場合には最初に説明したエレベータ重量物用揚重方法となるため、本発明は実施例1で開示して説明したエレベータ巻上機用揚重方法に限定されない。