特許第5955314号(P5955314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955314
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】熱安定性スクロースホスホリラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/12 20060101AFI20160707BHJP
   C12N 11/08 20060101ALI20160707BHJP
   C12P 19/02 20060101ALI20160707BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160707BHJP
   C12R 1/01 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   C12N9/12
   C12N11/08 C
   C12P19/02
   C12N15/00 AZNA
   C12N9/12
   C12R1:01
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-503071(P2013-503071)
(86)(22)【出願日】2011年4月1日
(65)【公表番号】特表2013-523138(P2013-523138A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011055139
(87)【国際公開番号】WO2011124538
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2014年2月6日
(31)【優先権主張番号】11154339.3
(32)【優先日】2011年2月14日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】10194409.8
(32)【優先日】2010年12月9日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】10167989.2
(32)【優先日】2010年6月30日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】1005754.5
(32)【優先日】2010年4月6日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500454046
【氏名又は名称】ウニベルズィタイト・ヘント
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セルドッベル,アン
(72)【発明者】
【氏名】デスメット,トム
(72)【発明者】
【氏名】スータルト,ウィム
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−195255(JP,A)
【文献】 Database Genbank [online], Accession No. AF543301, Definition: Bifidobacterium adolescentis sucrose phosphorylase (sucP) gene, complete cds, 09-NOV-2004 uploaded, retrieved on 06-FEB-2015, retrieved from URL: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF543301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/00−9/99
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウムアドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)由来のスクロースホスホリラーゼを含む生体触媒であって、
前記スクロースホスホリラーゼは、少なくとも60℃の温度で少なくとも16時間の間酵素的に活性であることを特徴とし、
前記スクロースホスホリラーゼは固定される、および/または変異される、および/または基質の連続存在下にある、および/または架橋酵素凝集体(CLEA)の一部であり、
前記スクロースホスホリラーゼは、Q331、R393N、Q460E/E485H、D445P/D446G、D445P/D446T、R393N/Q460E/E485H、R393N/Q460E/E485H/D445P/D446T、および/またはR393N/Q460E/E485H/D445P/D446T/Q331Eという変異体を含有する、生体触媒。
【請求項2】
前記スクロースホスホリラーゼは、エポキシ活性化酵素担体上に固定される、請求項1に記載の生体触媒。
【請求項3】
前記スクロースホスホリラーゼは、ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502からのスクロースホスホリラーゼ遺伝子によってエンコードされる、請求項1または2に記載の生体触媒。
【請求項4】
前記エポキシ活性化酵素担体はR−O−R’という構造を備え、式中、Rは高度に多孔性のメタクリルポリマーマトリックスであり、R’はエポキシ基である、請求項2または3に記載の生体触媒。
【請求項5】
前記基質はスクロースである、請求項1から4のいずれかに記載の生体触媒。
【請求項6】
少なくとも60℃の温度でスクロースを変換するための、請求項1から5のいずれかに記載の生体触媒の使用。
【請求項7】
前記温度は少なくとも65℃である、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
記変換は、アルファ−D−グルコース−1−リン酸およびフルクトースへのスクロースの加リン酸分解である、請求項6または7に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、高温での炭水化物変換で生体触媒として有用なビフィドバクテリウムアドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)由来のスクロースホスホリラーゼに関する。実際に、本発明の生体触媒は、少なくとも60℃の温度で少なくとも16時間の間、および1週間から2週間までの間酵素的に活性である。本発明の生体触媒は、a)酵素固定用担体上に固定される、またはb)架橋酵素凝集体(CLEA)の一部である、および/またはc)変異を受けている、および/またはd)基質の連続存在下で酵素的に活性である。
【背景技術】
【0002】
スクロースホスホリラーゼ(SPase)は、α−D−グルコース−1−リン酸(α−D−G1P)およびフルクトースへのスクロースの可逆加リン酸分解を触媒する。この酵素は乳酸菌およびビフィドバクテリウム属に主に見られ、その中で効率的なエネルギ代謝に寄与する(Lee et al., 2006)。実際、産生されたリン酸グリコシルを、キナーゼによる一層の活性化なしに解糖を通じて異化することができ、この結果、加水分解性酵素の作用と比較して、ATP分子を1つ節約する。SPaseは正式にはグリコシルトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.7)として分類されるものの、これはグリコシドヒドロラーゼファミリー13に属し(Henrissat, 1991)、グリコシダーゼを保持する典型的な二重置換メカニズム(double displacement mechanism)に従う(Goedl and Nidetzky, 2009)。ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来の酵素の結晶構造が決定され、その触媒アミノ酸はAsp192(求核剤)およびGlu232(酸/塩基)であることが示されている(Sprogoe et al., 2004)。
【0003】
SPaseについては多数の実際的な適用例が開発されている(Birnberg and Brenner, 1984; Tedokon et al., 1992)。酵素の広い受容体特異性により、これを、α−D−G1P(Goedl et al., 2007)および多数のグリコシル化化合物(Kitao et al., 1995)の産生に用いることができる。工業規模では、主に微生物汚染を回避するために、好ましくは60℃以上でそのような炭水化物変換を行なう。残念ながら、好熱生物におけるそのようなSPase酵素は未だ同定されていない。これまでに報告された最も高い最適温度はビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のSPase酵素についての48℃である(van den Broek et al., 2004)。
【0004】
酵素の熱安定性は、いくつかの方法で、最も注目すべきことには変異導入または固定によって(Unsworth et al., 2007)、さらに増すことができる。たとえばストレプトコッカスミュータンス由来のSPaseの熱安定性は、8個のアミノ酸変異の導入によって約20倍増した(Fujii et al., 2006)。また、Fujii他へのUS2008/0206822も、ストレプトコッカスミュータンス、ストレプトコッカスニューモニア、ストレプトコッカスソブライナス(sorbinus)、ストレプトコッカスミティス、ロイコノストックメセンテロイデス、オエノコッカスオエニ、ラクトバシラスアシドフィルス、およびリステリアモノサイトゲネスに由来するSPaseの熱安定性を向上させるための変異に基づく方法を開示する。しかしながら、これらの酵素改変体(variant)の安定性は依然として非常に低いために、工業プロセスにおいてそれらを活用できない。これに代えて、共有結合固定が酵素の固定化(rigidification)に非常に効率的な方策であることが示されている。その目的のためには、セパビーズ(Sepabeads、登録商標)などのエポキシ活性化合成担体が特に有用である(Hilterhaus et al., 2008; Katchalski-Katzir and Kraemer, 2000; Mateo et al., 2007)。エポキシ活性化支持体は、タンパク質の表面の異なる求核基(Lys, His, Cys, Tyrなど)と反応することができ、強力な共有結合を生成する。この点において、Lopez-Gallego et al. (J. biotech 2004: 219)は、アミノエポキシセパビーズを用いて固定され、45℃で10時間後に30%の活性低下を示すアシラーゼを開示する。架橋酵素凝集体(CLEA)の形成に基づく酵素の固定のための代替的な方法がSheldon et al. (Biocatal Biotransformation 2005)に記載されている。たとえば、Zhao et al. (J. Mol. Catalysis 2008: 7)は、60℃で24時間後にその活性の28%を失うCLEA技術を用いて固定されるシュードモナスリパーゼを開示する。他方で、Pimental and Ferreira (Appl. Biochem. Biotechnol. 1991: 37)は、ロイコノストックメセンテロイデス由来のSPaseがいくつかの支持体への共有結合によって固定された場合に熱安定性の向上が得られなかったことを実証した。
【0005】
このように、特定の酵素の熱安定性をどのように向上することができるか、向上することができるか否か、および/またはどの程度向上することができるかは依然として不明である。この点において、たとえば、WO2008/034158には、固定がうまくいくと期待して特定の酵素について具体的な固定方法を選ぶことはできないと示されている。さらに一般的には、さまざまな方法をスクリーニングすることによって任意の酵素の成功裡の固定を発見しなければならず、広範な実験によって最適な結果を得なければならないと合意されている。
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、産業上必要とされるような高い温度での炭水化物変換の適用に有用なSPase酵素などの生体触媒を開発するさらなる必要性が存在する。本発明は、ビフィドバクテリウムアドレセンティスまたはその改変体(変異体)由来のスクロースホスホリラーゼを備え、業界での使用で驚く程に好ましい性質を実証する生体触媒を開示する。たとえば、それらは60℃以上の温度で酵素活性の大部分を保持する、および/または、それらは基質の存在下で2週間連続して活性を示した後でも活性の喪失を示しすらしない。架橋酵素凝集体(CLEA)の場合、本発明のスクロースホスホリラーゼの最適温度は、可溶性酵素の最適温度よりも17℃高かった。さらに、CLEA固定酵素は例外的な熱安定性および動作安定性を示し、60℃で1週間の培養後にその全活性を保持する。当該生体触媒の再生利用により、少なくとも10回の連続反応での使用が可能になり、これはそのグリコシル化活性の商業上の潜在的価値を劇的に増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】反応混合物中0.46U ml-1のSPaseを用いた、pH6.5の0.1Mのリン酸緩衝液中での60℃(●)、65℃(黒下向き三角)、70℃(○)、および75℃(×)での培養の、精製SPaseの安定性に対する温度の影響の図である。
図2】反応混合物中の異なるSPase濃度を用いた、pH6.5の0.1Mのリン酸緩衝液中での70℃での30分間の培養の、精製(黒)および粗精製(灰色)酵素調製物の熱安定性に対するSPase濃度の影響の図である。
図3】セパビーズ(登録商標)EC−HFAおよびEC−EPの負荷能力(loading capacity)、酵素の負荷が異なるセパビーズ(登録商標)EC−HFA(○)およびEC−EP(●)の酵素的活性、セパビーズ(登録商標)EC−HFA(□)およびEC−EP(■)の、活性に結合された酵素の図である。
図4】ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来の遊離(○)および固定SPase(●)の活性に対するpHの影響の図である。
図5】ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来の遊離(○)および固定(●)SPaseの熱活性の図である。
図6】熱安定性に対するSPase濃度の影響、60℃での16時間の培養後の、遊離(黒下向き三角)酵素およびスクロースの不在(●)または存在(○)下で固定された固定酵素の残効の図である。
図7】セパビーズ(登録商標)EC−HFAの図である。
図8】架橋酵素凝集体(CLEA)の産生のための一般的スキームの図である。
図9】元の酵素溶液中に存在するCLEA調製物中に検出される活性の比率として固定収率が規定される、ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のSPaseの固定収率に対する架橋率(●)および反応時間(○)の影響の図である。
図10】ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来の可溶性(○)および固定(●)SPaseの活性に対するpHの影響であって、反応が37℃の0.1Mのリン酸緩衝液中の0.1Mスクロースを用いて行なわれた、図である。
図11】ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来の可溶性(○)および固定(●)SPaseの活性に対する温度の影響であって、反応がpH7の0.1Mのリン酸緩衝液中の0.1Mスクロースを用いて行なわれた、図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の説明
本発明は、ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼを備える生体触媒であって、当該スクロースホスホリラーゼは、1)(変異を受けたおよび/または担体上に固定された場合は)少なくとも16時間の間、2)(CLEAの一部としては)少なくとも1週間、および/または3)基質の存在下では少なくとも2週間の間連続的に、少なくとも60℃の温度で酵素的に活性であることを特徴とする生体触媒に関する。したがって、本発明のスクロースホスホリラーゼは変異を受けた、および/または固定される、および/または基質の連続存在下にある。好ましくは、本発明の当該スクロースホスホリラーゼは、1)エポキシ活性化酵素担体などの担体上に固定される、または2)架橋によって固定される、たとえば本発明の当該スクロースホスホリラーゼは架橋酵素凝集体(CLEA)の一部である、および/または3)特異的な残基が変異を受ける、および/または4)基質の連続存在下にある。これに代えて、当該スクロースホスホリラーゼは、封入によってなど(たとえば封入体)、スクロースホスホリラーゼの取込みによって固定される。
【0009】
他に定義しなければ、技術的および科学的用語を含む、発明を開示するのに用いるすべての用語は、この発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するような意味を有する。さらなる案内により、用語の定義は、本発明の教示をより十分に認めるように含まれる。
【0010】
「生体触媒」という用語は酵素を意味し、特に、たとえば担体に結合される、好ましくは共有結合されるなどで固定される、および生化学的反応を開始させるまたはその速度を変更する、ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼを意味する。この「生化学的反応」は炭水化物の任意の変換を指す。そのような変換の例は、アルファ−D−グルコース−1−リン酸およびフルクトースへのスクロースの可逆加リン酸分解などの、結果として遊離単糖およびC1−リン酸化単糖を生じる、無機リン酸の助けによる二糖の破壊である。この加リン酸分解の可逆性により、本発明の生体触媒をグリコシド結合の合成にも用いることができる。このように、本発明の生体触媒はさまざまな炭水化物および非炭水化物受容体に向けて広い活性を表わすので、本発明の生体触媒は、対応のオリゴ糖類およびグリコシド配糖体の合成をそれぞれ可能にする(Goedl et al. Biocat Biotrans 2010: 10)。非炭水化物受容体の重要な例は、脂肪族アルコール、芳香族アルコールおよび糖アルコール、アスコルビン酸およびコウジ酸、フラノン、ならびにカテキンを含む。カルボキシル基(たとえば酢酸およびコーヒー酸)ですら付着点として用いることができ、その結果エーテル結合の代わりにエステルを得る。最近、2−O−(α−D−グルコピラノシル)−sn−グリセロールの産生のための非常に効率的なプロセスが記載された(Goedl et al. Angew Chem Int Ed Engl 2008: 10086およびWO2008/034158)。正しい条件下では競争加水分解反応を完全に抑制することができ、その結果、ほぼ定量的な収率が得られる。この生成物を化粧品処方で保湿剤として用いることができる。
【0011】
「ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼ」という用語は、ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼ遺伝子によってエンコードされるタンパク質を指し、具体的にはSprogoe et al. (2004)が記載するような酵素を指す。より具体的には、この用語は、DSM20083およびATTC15703と同義の、Reuter (1963)が記載するようなビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のスクロースホスホリラーゼ遺伝子によってエンコードされるスクロースホスホリラーゼを指す。
【0012】
本発明はこのように、ビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼを含む生体触媒であって、当該スクロースホスホリラーゼは少なくとも60℃の温度で少なくとも16時間の間酵素的に活性であることを特徴とする生体触媒に関する。本発明の当該スクロースホスホリラーゼは好ましくは、固定される、および/または変異を受けている、および/または基質の連続存在下にある。発明の1つの局面では、当該ホスホリラーゼは、エポキシ活性化酵素担体上に固定される、または架橋酵素凝集体(CLEA)の一部である。発明の1つの局面では、当該スクロースホスホリラーゼは、ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のスクロースホスホリラーゼ遺伝子によってエンコードされる。本発明のスクロースホスホリラーゼは、その安定性を増し、多くて5%、10%もしくは20%、好ましくは多くて30%、より好ましくは多くて40%、かつ最も好ましくは多くて50%まではスクロースホスホリラーゼ活性を低下させない、少なくとも1つの変異体(すなわち、欠失、置換、または付加、またはその任意の組合せ)をさらに含有してもよい。換言すると、本発明のスクロースホスホリラーゼは、少なくとも1つの欠失、置換、または付加、またはその任意の組合せをさらに含有してもよく、スクロースホスホリラーゼ活性は少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または100%に保持される。さらなる具体的な実施形態では、本発明のスクロースホスホリラーゼはこのように、少なくとも1つの欠失、置換、または付加、またはその任意の組合せをさらに含有してもよく、これは多くて50%スクロースホスホリラーゼ活性を低下させない。ホスホリラーゼの活性は、Koga et al. (1991)およびSilverstein et al. (1967)が記載するような共役酵素アッセイ、またはWaffenschmidt and Jaenicke (1987)が記載するような不連続ビシンコニン酸(Bicinchonic Acid)アッセイなどの当該技術分野で公知の任意の方法で測定することができる。酵素の活性に影響しない付加の例は、精製目的のための配列Gly-Gly-Ser-His6-Gly-Met-Ala-Ser(=His標識)を有するペプチドの酵素へのN末端融合である。当業者は、多くて5%、10%もしくは20%、好ましくは多くて30%、より好ましくは多くて40%、かつ最も好ましくは多くて50%まではスクロースホスホリラーゼ活性を低下させない、C末端親和性標識もしくは他の親和性標識、または欠失、または好ましくは同類置換である置換、またはその任意の組合せが本発明のさらなる実施形態であることを理解する。本発明は以上で規定するような生体触媒であって、当該スクロースホスホリラーゼがQ331E、R393N、Q460E/E485H、D445P/D446G、D445P/D446T、R393N/Q460E/E485H、R393N/Q460E/E485H/D445P/D446T、R393N/Q460E/E485H/D445P/D446T/Q331Eという変異体(すなわち置換)を含有する、生体触媒にさらに関する。この酵素変異体は、野生型酵素と比較して少なくとも16について増大した残効および安定性を有することがわかっている。変異体、またはR393N/Q460E/E485H/D445P/D446T/Q331Eという変異を有する酵素改変体は、60℃で少なくとも16時間完全に安定している(すなわち活性の喪失がない)。
【0013】
「少なくとも60℃の温度で少なくとも16時間の間酵素的に活性」という用語は、−周知の方法を用いて−16、17、18、19、20、21、22、23、24時間、または2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日以上の間、常に60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75℃またはそれよりも高い温度で一定のかつ測定可能なホスホリラーゼ活性を指す。「活性」という用語は、可溶性の遊離天然野生型酵素の活性と比較して、または基質の連続的な存在がない場合の酵素の活性と比較して、「完全に活性」もしくは「その活性の100%を保持する」もしくは「活性を失わない」ことを指すか、または多くて50%低下したスクロースホスホリラーゼ活性(すなわち、可溶性の遊離天然野生型酵素の活性と比較して、もしくはその基質の連続的な存在がない場合の酵素の活性と比較して、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%低下した活性)を指す。
【0014】
「エポキシ活性化担体」という用語は、酵素を共有結合する−およびしたがって固定する−ことができ、かつR−O−R’という式を有する基を備え、式中、Rが任意の多孔性マトリックス材料、好ましくは高度に多孔性のメタクリルポリマーマトリックス球形ビーズであり、R’が少なくともエポキシ基、すなわち2個の隣接する炭素原子に一重結合で結合し、こうして三員環のエポキシ環を形成する酸素原子からなる基、を含有する、酵素担体を指す。特定の実施形態では、本発明は、以上で規定するような生体触媒であって、当該アミノエポキシ含有酵素担体が−官能基として−図7に示すような構造を備える、生体触媒に関する。
【0015】
より特定的なかつ好ましい実施形態では、本発明は以上で規定するような生体触媒であって、当該エポキシ活性化担体がセパビーズ(登録商標)EC−HFAである、生体触媒に関する。
【0016】
「架橋酵素凝集体(CLEA)の一部である」という用語は基本的に、Sheldon et al. (2005)が記載するような担体を含有しない固定酵素調製物を指す。その結果、酵素の活性は希釈されず、依然として高度に安定化される。CLEAは、1)酵素を沈殿させること、2)たとえばグルタルアルデヒド溶液を加えてこの混合物を撹拌することによって酵素沈殿物を架橋すること、3)たとえば重炭酸ナトリウム緩衝液および水素化ホウ素ナトリウムを加えることによって架橋酵素をさらに還元すること、および最終的に4)結果的に得られたCLEAを遠心分離しかつ洗浄することによって、調製することができる。
【0017】
本発明はさらに、産業上必要な上昇した温度で以上で規定するような炭水化物を変換するための、以上で規定するような生体触媒の用法にさらに関する。このように、本発明の生体触媒は、低減された微生物汚染のリスク、より低い粘度、向上した変換率、ならびに向上した基質および生成物の可溶性などの多数のプロセス上の利点を与える。「上昇した温度」という用語は、少なくとも約60℃またはそれより高い温度、すなわち、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75℃、またはさらにより高い温度を意味する。特定的な実施形態では、本発明は、以上で規定するような用法であって、当該温度が少なくとも60℃、好ましくは少なくとも65℃である用法に関する。換言すると、本発明は、以上で規定するような生体触媒を用いて以上で規定するような炭水化物を変換するプロセスであって、当該プロセスは、本発明の酵素を少なくとも60℃および好ましくは少なくとも65℃の温度でその基質に接触させるステップを少なくとも備える、プロセスに関する。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施形態は、以上で規定されるような用法またはプロセスであって、当該炭水化物の変換は、少なくとも60℃および好ましくは少なくとも65℃の温度でのアルファ−D−グルコース−1−リン酸およびフルクトースへのスクロースの加リン酸分解である、用法またはプロセスに関する。
【0019】
別の実施形態では、本発明は、以上で規定するような生体触媒を用いて以上で規定するような炭水化物を変換するプロセスまたは以上で規定するような用法もしくはプロセスであって、当該炭水化物の変換は、少なくとも60℃および好ましくは少なくとも65℃の温度でのアルファ−D−グルコース−1−リン酸およびフルクトースへのスクロースの加リン酸分解であり、そのような酵素の基質が連続的に存在する、プロセスまたは用法もしくはプロセスに関する。たとえば、本発明は、少なくとも1/4、1/2、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、またはさらに長い日にちの間、少なくとも60℃−および好ましくは少なくとも65℃−の温度でグルコース−1−リン酸を連続的に合成するための、スクロースが連続的に存在する状態での以上で規定するような本発明の触媒の用法に関する。
【0020】
別の実施形態では、本発明は、以上で規定するような生体触媒(CLEA)を用いて以上で規定するような炭水化物を変換するプロセスまたは以上で規定するような用法もしくはプロセスであって、当該炭水化物の変換は、少なくとも60℃および好ましくは少なくとも65℃の温度でのアルファ−D−グルコース−1−リン酸およびフルクトースへのスクロースの加リン酸分解である、プロセスまたは用法に関する。
【0021】
本発明は、本発明の生体触媒を産生する方法にさらに関し、方法は、
−以上で規定するようなビフィドバクテリウムアドレセンティスからスクロースホスホリラーゼを精製して、精製スクロースホスホリラーゼの溶液を得るステップと、
−精製スクロースホスホリラーゼの当該溶液に以上で規定するようなエポキシ活性化担体を加えて固定スクロースホスホリラーゼを得るステップと、
−当該固定スクロースホスホリラーゼを洗浄するステップと、
−スクロースホスホリラーゼに結合していない、当該エポキシ活性化担体上の残余のエポキシ基を不活性化するステップと、
−当該固定スクロースホスホリラーゼを洗浄するステップとを備える。
【0022】
精製ステップは、たとえば、ニッケルニトリロ三酢酸金属マトリックスに対するアフィニティクロマトグラフィによる精製などの、当業者に公知の任意の方法によって行なうことができる。−たとえば−精製すべき酵素を組換えの態様で産生する場合にこの方法を選んでもよい。したがって、本発明はさらに、以上で規定するような方法であって、すべてのステップの前に、以上で規定するようなビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼのエンコードを行なう遺伝子を用いて宿主生物を形質転換するステップと、当該宿主生物中で当該ホスホリラーゼを発現させるステップとが先行する、方法を開示する。一例として、以上で規定するスクロースホスホリラーゼをクローニングするベクターは、ベクターpCXh34ベクターであり得、宿主生物は、(Aerts et al., 2010)が記載するような大腸菌XL10−Goldであり得る。「精製スクロースホスホリラーゼの当該溶液を以上で規定するようなエポキシ活性化担体に加えて固定スクロースホスホリラーゼを得る」ステップ、または−換言すると−固定ステップは、完全な要因計画などの任意の最適化方法を用いて最適化することができる。というのも、多くの要因は、固定緩衝液の温度、pH、およびイオン強度を含む固定プロセスの効率に影響を及ぼし得ることが知られているからである。優先的には、固定ステップは25℃で行なわれ、固定緩衝液はpH7.15を有し、0.04Mのリン酸濃度を含有する。
【0023】
したがって、本発明は、以上で規定するような方法であって、精製スクロースホスホリラーゼの溶液にエポキシ活性化担体を加えるステップが、pHが7.15で0.04Mのリン酸濃度を含有する固定緩衝液中で行なわれる、方法にさらに関する。
【0024】
上述のような洗浄ステップは、たとえば、100mMのリン酸緩衝液を用いて行なうことができる。「スクロースホスホリラーゼに結合していない、当該エポキシ活性化担体上の残余のエポキシ基を不活性化する」ステップは、たとえば、pH8.5(25℃)の5mlの3Mグリシン溶液を用いて24時間、固定された支持体を処理することによって行なうことができる。次に、過量の100mMのリン酸緩衝液を用いて固定スクロースホスホリラーゼを洗浄することができる。
【0025】
本発明はさらに、本発明の生体触媒を産生する方法に関し、方法は、
−以上で規定するようなビフィドバクテリウムアドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼを精製して精製スクロースホスホリラーゼの溶液を得るステップと、
−たとえば塩、有機溶媒、または非イオン性ポリマーの添加によって達成可能な、酵素を凝集させるステップと、
−凝集した酵素分子を化学的に架橋して固定生体触媒を得るステップとを備える。
【0026】
次に、以下の非限定的実施例によって本発明を例示する。
【実施例】
【0027】
実施例1:エポキシ活性化酵素担体またはCLEA技術を介してSPaseを固定する
材料および方法
SPaseの固定のための材料
アミノエポキシ(EC−HFA)セパビーズ(登録商標)支持体は、Resindion S.R.L(三菱化学株式会社)によって提供された。
【0028】
CLEAの材料
t−ブチルアルコール、グルタルアルデヒド、および水素化ホウ素ナトリウムはそれぞれ、Aldrich-Chemie、Fisher、およびAcrosから購入された。すべての他の試薬はSigma-Aldrichから購入された。
【0029】
SPaseの発現および精製
構成発現プラスミドpCXshP34_BaSPを用いて形質転換した大腸菌XL10−Gold細胞を、100mg l-1のアンピシリンを補ったLB媒質を含有する37℃の1lの振とうされたフラスコ中で培養した。8時間の発現の後、遠心分離(7000rpm、4℃、20分)によって細胞を採取し、溶解緩衝液NPI−10(Qiagen)中に懸濁し、音波処理で破壊した。細胞残屑は遠心分離(12000rpm、4℃、30分)で除去した。供給者(Qiagen)が記載するように、ニッケルニトリロ三酢酸(Ni−NTA)金属アフィニティクロマトグラフィによってN末端6−His標識付けタンパク質を精製した。
【0030】
CLEAのための酵素産生
ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のSPase遺伝子を、構成的プロモータP34[De Mey et al. 2007, BCM Biotechnol.: 34]の制御下で、大腸菌XL10−Gold中で組換え体として発現させた。形質転換された細胞を、100mg l-1のアンピシリンで補ったLB媒質を用いて、37℃の1lの振とうフラスコ中で培養した。8時間の発現の後、遠心分離(7000rpm、4℃、20分)によって細胞を採取した。EasyLyse Bacterial Protein Extraction Solution (Epicentre)を用いて、凍結ペレットの酵素溶解によって粗精製の酵素調製物を調製した。細胞残屑は遠心分離(12000rpm、4℃、30分)で除去した。粗精製の酵素調製物を、60分間の60℃での培養によって熱で精製した。変性したタンパク質は、遠心分離(12000rpm、4℃、15分)で除去した。
【0031】
担体上の固定手順の最適化
固定プロセスを最適化するため、いくつかの条件(pH、温度、および緩衝液)を試験した。各々の条件毎に、0.1gのセパビーズ(登録商標)EC−HFAを5mlの精製SPase溶液(0.8U ml-1または5ng ml-1)に加え、それぞれ48時間および22時間、150rpmで静かに撹拌した。固定物(immobilizate)をpH7.0の100mMのリン酸緩衝液で激しく洗浄した。洗浄ステップおよび固定後の上澄み液を保存して、固定手順の間に失われた酵素活性の量を定めた。固定酵素の活性(Uimm)と添加された遊離酵素の活性(Ufree)との差から固定収率(Y)を定めた。固定酵素の活性(Uimm)と、上澄み液(USN)および洗浄緩衝液(Uwash)中の非共有結合酵素中の残余の活性によって低下した添加遊離酵素の活性(Ufree)との差が活性に結合された酵素収率(Yact)を定めた。
【0032】
すべての場合において、支持体の代わりに対応量の不活性湿性アガロースを加えて、全く同じ酵素濃度および条件を有する参照懸濁液を調製した。すべての場合において、固定の間はこの参照物の活性を完全に保全した。
【0033】
残余のエポキシ基のブロッキング
固定プロセスの終わりに、固定された支持体をpH8.5(25℃)の5mlの3Mグリシン溶液で24時間処理して、残余のエポキシ基を不活性化し、固定酵素を安定化した(Mateo et al., 2003)。この処理の後、次に、固定されたSPaseを過量の100mMのリン酸緩衝液で洗浄して、担体に非共有結合したタンパク質を排除した。
【0034】
セパビーズ(登録商標)EC−HFAの負荷能力
260Uまでの異なる量のSPaseを5mlの最適な緩衝液中の0.1gの支持体に与えた。YおよびYactを定めた。
【0035】
CLEA産生
pH7の4mlの熱精製酵素に対してかき混ぜながら6mlのt−ブチルアルコールを添加することによってSPaseの凝集体を調製した。30分後、異なる濃度のグルタルアルデヒド溶液を添加して(25%v/v)酵素凝集体を架橋し、混合物を15、30、60、または120分間撹拌状態に保った。形成されたイミン結合の還元は、pH10の0.1Mの重炭酸ナトリウム緩衝液中に1mg ml-1の水素化ホウ素ナトリウムを含有する10mlの溶液を添加することによって達成された。15分後、別の10mlを添加し、15分間反応させた。最終的に、CLEAを遠心分離(12000rpmで15分)することによって分離し、pH7の0.1Mのリン酸緩衝液で5回洗浄した。すべてのステップは4℃で750rpmでサーモシェーカ(Eppendorf)中で行なった。固定収率は、元の酵素溶液中に存在するCLEA調製物中に検出される活性の比率として規定される。
【0036】
遊離酵素活性アッセイ
2つの方法を用いて遊離SPaseの活性(37℃)を定めた。大部分は連続的な共役酵素アッセイを説明し、アッセイでは、スクロースからのα−D−G1Pおよび無機リン酸の産生がホスホグルコムターゼ(PGM)およびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6P−DH)の存在下でNAD+の還元に共役する(Koga et al., 1991; Silverstein et al., 1967)。アッセイ溶液は、pH7.0の50mMのトリス緩衝液、1mMのEDTA、5mMのMgSO4、1mMのβ−NAD、5μMのG−1、6−PP、0.6UのPGM、および0.6UのG6P−DH最終濃度を含有した。基質は、最終濃度としてpH7.0の100mMのリン酸緩衝液中の100mMのスクロースからなった。340nmでの吸収率の増加は、37℃で平衡させた分光光度計で記録された。SPase活性の1単位は、1μモルα−D−G1P分-1を放出した酵素の量として規定された。
【0037】
用いた第2の方法は、不連続ビシンコニン酸(BCA)アッセイであった。SPase活性の1単位は、BCA法(Waffenschmidt and Jaenicke, 1987)で測定した還元糖の放出という観点で表わした。遊離酵素を100mMのスクロースおよびpH7.0の100mMのリン酸緩衝液中で37℃で培養した。ある時間に、BCAアッセイによる還元糖放出を測定するために、試料を取出し、加熱によって不活性化した。
【0038】
タンパク質濃度は、標準としてウシ血清アルブミンを用いて、BCAタンパク質アッセイ(Pierce)に従って測定した。
【0039】
固定酵素活性アッセイ
固定SPaseの活性は、100mMのスクロースおよびpH7.0の100mMのリン酸緩衝液からなる40mlの基質溶液に、洗浄した合計量の固定酵素(0.1g)を添加することによって定めた。37℃で常時振とうすることによって(750rpm)、サーモシェーカ(Eppendorf)中で混合物を培養した。ある時間に、BCAアッセイによる還元糖放出を測定するために、試料を取出し、加熱によって不活性化した。
【0040】
CLEA活性アッセイ
SPaseの加リン酸分解活性は、ビシンコニン酸(BCA)法を用いて非還元基質スクロースからの還元糖フルクトースの放出を測定することによって定めた[Waffenschmidt and Jaenicke, 1987]。等間隔で不活性化試料によって(95℃で5分)不連続に反応を分析した。SPaseの活性の1単位(U)は、37℃のpH7の100mMのリン酸緩衝液中の100mMのスクロースからの1μモルのフルクトースの放出に対応する。ホスファターゼの活性を定めるため、試料を、グルコースオキシダーゼ/ベルオキシダーゼアッセイ[Werner et al. 1970, Z. Anal. Chem: 224]を用いて(SPaseによって生成されるα−グルコース−1−リン酸からの)グルコースの放出についても分析した。ホスファターゼの活性の1単位(U)は、37℃のpH7の100mMのリン酸緩衝液中の100mMのスクロースからの1μモルのグルコースの放出に対応する。ホスファターゼの活性を検出すると、これをBCA法によって得た値から減算して正味のSPaseの活性を算出した。タンパク質濃度は、標準としてウシ血清アルブミンを用いてPierceからのタンパク質アッセイキットを用いて測定した。
【0041】
最適なpHおよび温度の判定
遊離および固定酵素に対するpHの影響を4.5から8.0の間で検討した。酵素の活性は、100mMのリン酸緩衝液中で37℃でBCAアッセイを用いて測定した。
【0042】
遊離および固定酵素の熱活性を、BCAアッセイによって、pH7.0の100mMのリン酸緩衝液中でそれぞれ30−70℃および30−80℃の範囲に亘って比較した。
【0043】
スクロースについての速度論的パラメータ(kinetic parameter)
不連続アッセイを用いて最適なpHの100mMのリン酸緩衝液中で最適温度で初期速度測定を行なった。加リン酸分解方向の見かけの速度論的パラメータは、α−D−G1Pおよび還元糖の放出を測定することによって定めた。スクロース濃度を1.5−40mMの範囲で変化させた一方で、リン酸の濃度を見かけのKm値である約5−10倍の飽和濃度で一定に保った。初期速度に対するミカエリス−メンテン式の非線形フィッティングから速度論的パラメータを得た。
【0044】
熱安定性アッセイ
pH7.0の100mMのリン酸緩衝液中に遊離および固定酵素を置き、Thermoblock (Stuart SBH130D)中で異なる温度で培養した。ある時間に試料を取出し、BCA法を用いて残余の活性を定めた。
【0045】
異なる濃度の酵素を不活性化することによって、熱安定性に対するSPase濃度の影響を定めた。
【0046】
CLEAの安定性アッセイ
SPaseの熱安定性を定めるため、可溶性のまたは固定された酵素を60℃の水浴中でpH7の100mMのリン酸緩衝液中で培養した。等間隔で試料を不活性化し、BCA法を用いて残余の活性を分析した。SPaseCLEAの再使用可能性を評価するため、60℃で1時間のいくつかの反応サイクルの間生体触媒を用いた。遠心分離(12000rpmで15分)によって酵素を回収し、pH7の0.1Mのリン酸緩衝液で5回洗浄した。
【0047】
実験設計およびデータ分析
すべての統計的分析は統計ソフトウェア環境R(Gentleman & Ihaka, 1997)を用いて行なった。
【0048】
結果
組換えHis標識付けSPase(担体)の産生および精製
ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のSPase遺伝子はpCXhP34ベクターにクローニングされ、前述したような大腸菌XL10−Gold中に組換え的に発現された(Aerts et al., 2010)。化学酵素的細胞溶解の後、約29U mg-1の特異的なSPase活性を有する粗精製の酵素調製物を得た。
【0049】
組換え型酵素は金属結合親和性を与えるGly-Gly-Ser-His6-Gly-Met-Ala-Serという配列を有するN末端融合ペプチドを担持する。したがって、SPaseは、ニッケルニトリロ三酢酸(Ni−NTA)金属マトリックスに対するアフィニティクロマトグラフィによって精製することができる。精製生体触媒はクーマシー染色SDS−PAGE中の単一のタンパク質のバンドとして移動した。セントリコン中で緩衝液を交換した後、45%の精製収率および(161U mg-1に対する)特異的活性の5.5倍の増大を判定することができた。
【0050】
組換え型His標識付けSPaseの特徴付け
His6−SPaseの加リン酸分解活性アッセイは、それぞれ最適なpHおよび温度である6.5および58℃を明らかにした。
【0051】
スクロースの速度論的パラメータKMおよびkcatは58℃およびpH6.5でそれぞれ6.8±1.2mMおよび207±17s-1であるとわかった。
【0052】
この高い最適温度のために、酵素の熱安定性を調べることも興味深かった。粗精製の酵素調製物についての初期実験は、SPaseが、70℃で30分間pH6.5のリン酸緩衝液中で培養すると、初期活性の70%超を保持することを示した。これに対し、精製酵素調製物(0.46U ml-1)はそれらの条件下でその活性の50%しか保持しなかった(図1)。この差は、SPaseが粗精製の酵素調製物中に存在するエフェクタによって安定化されているかもしれないことを示唆する。さらに、精製SPaseの安定性は酵素濃度に強く依存することがわかった一方で、これは粗精製の酵素調製物については当てはまらない(図2)。
【0053】
固定プロセスの最適化
固定緩衝液の温度、pH、およびイオン強度を含む多数の要因が固定プロセスの効率に影響を及ぼす可能性がある(Clark, D. S., Trends Biotechnol. 1994: 439)。ここで、セパビーズ(登録商標)EC−HFAへのSPaseの固定に対するこれらのパラメータの効果を完全な要因計画によって調査した。すべての実験でリン酸緩衝液を用い、リン酸濃度を変えることによってその強度を変更した。スクリープロットは、温度が固定収率に影響せず、したがってこのパラメータがすべての連続実験で25℃の固定値に設定されることを明らかにした。独立変数pHおよびリン酸濃度の影響を、一般化線形モデルを用いて、中央複合計画(CCD)に従ってさらに評価した。最適値はpH7.15およびリン酸濃度0.04Mであるとわかり、その結果、固定収率が71.9%と予測された。
【0054】
固定プロセスの評価
最適な条件でセパビーズ(登録商標)EC−HFAにSPaseを固定する際、酵素の合計吸着は22時間以内に達成された(上澄み液中での活性の完全な喪失)。グラム当り25ngのタンパク質支持体(40U g-1の支持体)で、28U g-1の回収を得た(70%の収率)。酵素の約10%を洗浄ステップの間に除去し、こうして非共有結合させるため、固定酵素が、最適以下の立体配座および/または拡散上の問題のために、その活性の約22%を失うと仮定することができる。洗浄ステップの間の活性の喪失は、固定時間を長くすることによって回避できなかった。
【0055】
セパビーズ(登録商標)EC−HFAへの固定の間の500mMのスクロースの存在は固定の効率に影響しなかった。反応の終わりでの遊離エポキシ基のブロッキングも固定効率に影響しなかった(Mateo et al., 2003)。
【0056】
セパビーズ(登録商標)の負荷能力
セパビーズ(登録商標)EC−HFAの最大負荷能力を定めるため、(161U mg-1の特異的活性を有する)異なる量の酵素を固定のために与えた。各々の場合に、上澄み液、洗浄緩衝液、および固定生体触媒の活性を定めた(図3)。1グラムのセパビーズ(登録商標)EC−HFA当り16mgのタンパク質を与えると、最大負荷能力にほぼ達し、約530U g-1の支持体となった。しかしながらこれは高くついた:結合した酵素の35%を洗浄ステップの間に失い、共有結合した酵素の30%しか活性でなかった。最も可能性が高かったのは、より多くの量の酵素が結合すると拡散上の問題が悪化することである。
【0057】
固定酵素の性質
検討は、固定酵素の活性および安定性がその可溶性の対応物の活性および安定性と異なるかもしれないまたは異ならないかもしれないことを示した(Clark, 1994; Mateo et al., 2007)。本発明では、セパビーズ(登録商標)、特にセパビーズ(登録商標)EC−HFAに対して固定されたSPaseの性質を遊離酵素の性質と比較した。
【0058】
固定酵素の活性についての最適なpHおよび温度はそれぞれ、遊離酵素の6.5および58℃と比較して、6.0および65℃であるとわかった(図4および図5)。さらに、固定酵素はより広いpH範囲で活性であり、このことは高い動作安定性を示す。しかしながら、熱安定性に対する影響の評価はそれほど単純明快ではなかった。60℃での16時間の培養の後、固定SPaseはその活性の65%を保持する一方で、これは遊離酵素についてはその濃度に応じて異なる。到達できた最大残余活性は80%である。しかしながら、これは20U ml-1の酵素濃度を必要とし、これは実際にはあまり現実的でない。これに対し、固定酵素の安定性は0−800U g-1の範囲で一定である。さらに、スクロース(500mM)の存在下での固定により、その残余の活性を75%にさらに増すことができ、これは固定収率に影響しない。
【0059】
最終的に、固定SPaseの速度論的パラメータを65℃およびpH6.0に定めた。スクロースについてのkcatおよびKMはそれぞれ、310±24s-1および9.4±1.3mMであるとわかった。固定SPaseのKMは遊離酵素よりも僅かに高く、このことは固定が拡散の制限を生じることを示唆する。これに対し、kcatの値は遊離酵素よりも高い。したがって、固定によって生じる活性の喪失は、より高い最適温度(58℃と比較した65℃)で達成されるより高い基質のターンオーバーによって補われる(図6)。
【0060】
変換プロセスにおける遊離酵素の動作安定性
SPaseの粗精製の酵素調製物について60℃で変換反応を行なって、基質の存在下での酵素の動作安定性を定めた。1単位のSPaseを、pH7の100mMのリン酸緩衝液中100mMのスクロースを含有する40mlの基質溶液と混合した。反応速度は24時間まで一定であることがわかり、このことは、酵素がこれらのプロセス条件下で安定していることを示す。
【0061】
セパビーズ(登録商標)に対して固定されたSPを用いた固定床反応器中での連続プロセス
セパビーズ(登録商標)EC−HFAに対して固定されたSPaseを含有する固定層反応器中で連続プロセスを行なった。pH7で60℃の400mMのリン酸中400mMのスクロースの基質溶液を、24分の滞留時間に対応する0.75ml分-1の流量でカラムを通して注入した。69%の変換度を達成することができ、これは179.5g l-1-1の生産性に対応する。驚くべきことに、変換率は2週間まで一定のままであることがわかり、このことは、固定SPaseの注目すべき動作安定性を強調した。
【0062】
SPase(CLEA)の産生および精製
ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のSPase遺伝子を大腸菌XL10−Gold中で組換え的に発現させた。化学酵素的細胞溶解の後、37℃で、約13U mg-1の特異的SPase活性を有する粗精製の酵素調製物を得た。SPaseは大部分の内因性大腸菌タンパク質よりも安定しているので、熱処理によって部分的に酵素を精製することができた(表1)。このように、すべてのホスファターゼ活性を除去した。これは、そうしなければ、SPaseによって生じるα−グルコース−1−リン酸(G1P)を劣化させるであろう。
【0063】
60℃での1時間の培養の後、特異的活性は29U mg-1に増し、可溶性タンパク質の濃度は2.6から1.2mg ml-1に下降する。後者は完全に汚染タンパク質の喪失によるものである。というのも、これらの条件下ではSPase活性の低下は観察されないからである。培養の時間が長くなっても特異的活性がさらに増すという結果にはならない。
【0064】
【表1】
【0065】
基質としてpH7の100mMのリン酸緩衝液中100mMのスクロースを用いて37℃でアッセイを行なった。SPaseの活性はフルクトースの放出に対応する一方で、ホスファターゼの活性は(SPaseによって形成されるα−グルコース−1−リン酸からの)グルコースの放出に対応する。
【0066】
SPaseCLEAの産生
CLEAの調製での第1のステップは酵素の凝集からなり、これは塩、有機溶媒、または非イオン性ポリマーの添加によって達成できる[Cao et al., 2000, Org. Lett.: 1361)]。添加剤の選択は重要である。なぜなら、これは三次元構造が僅かに異なる酵素を生じる結果になり得るからである。硫酸アンモニウムはタンパク質精製に最も広く用いられる沈殿剤であるが、SPaseについては満足のいく結果を与えなかった。この酵素を凝集させて遠心分離が難しいゼラチン状の懸濁液を生成するには、塩の高い濃度が必要である(〜70%w/v)。したがって、沈殿は、代わりにt−ブタノールを用いて行なった。60%(v/v)の溶媒濃度の結果、遠心分離後の上澄み液からSPase活性が完全に除去された。活性を失わずに沈殿物をリン酸緩衝液中に再溶解することができ、このことは、凝集手順がタンパク質の構造的完全性を損なわないことを示す。
【0067】
第2のステップで、凝集した酵素の分子を化学的に架橋して固定生体触媒を得る。その目的には、グルタルアルデヒド(GA)を一般的に用いる。というのも、これは2つの酵素分子からリシン残基を有するイミン結合を形成することができる2つのアルデヒド基を含有するからである(図8)。固定収率は架橋ステップの培養時間およびGA/タンパク質比に強く依存することが周知である[Wilson et al., 2009, Process Biochem: 322]。したがって、これらのパラメータはSPaseのCLEAの産生のために最適化されている(図9)。0.17mg mg-1のGA/タンパク質比で1時間の培養時間で31%の最大固定収率を達成することができた。より高い比およびより長い培養時間の結果、触媒活性がかなり低下したが、これは、グルタルアルデヒドが次に活性部位における残基と反応し始めるためである可能性が最も高い。
【0068】
SPaseCLEAの特徴付け
CLEAの性質を天然SPaseの性質と比較した。固定酵素の加リン酸分解活性に最適なpHおよび温度はそれぞれ、可溶性酵素についての6.5および58℃と比較して、6.0および75℃であるとわかった(図10および図11)。このように、架橋の結果、その最適温度が印象深い17℃増大した酵素を生じる。さらに、固定酵素はより広いpH範囲で活性であり、このことはより高い動作安定性を示す。
【0069】
SPase調製物の熱安定性を定めるため、酵素を60℃で培養して、その残余の活性をいくつかの時点で測定した。1週間の培養後にCLEAが完全な活性を保持していることがわかった一方で、遊離酵素は僅か16時間の培養後にその活性の20%を緩める。したがって、生体触媒の安定性は架橋プロセスによって劇的に向上する。工業的な炭水化物変換は好ましくは60℃で行なわれるので、これらのCLEAの性質は疑いなく高経済価値の新規プロセスの開発を可能にするであろう。
【0070】
固定の主な利点の1つは、これが再生利用可能な酵素調製物をもたらすことであり、これはしばしばその工業的潜在性の重要な決定要因である。CLEAは、本発明で用いてきたように、濾過または遠心分離によって容易に再生利用可能である[Cao et al. 2003: Curr. Opin. Biotechnol: 387]。高速(12000rpm)での遠心分離が、CLEAの沈殿および上澄み液からの加リン酸分解活性の完全な除去に必要であるとわかった。これらの条件下での生体触媒の機械的安定性を評価するため、間に完全な洗浄を介在させつつ、60℃で1時間のいくつかの反応サイクルを行なった。10サイクルの後、活性の喪失を検出することができず、このことは、新しい酵素調製物の優れた動作安定性を明らかにした。
【0071】
SPaseCLEAを用いたG1Pの産生
産生プロセスでのSPaseCLEAの効率を評価するため、最大変換までのG1Pへのスクロースの加リン酸分解を60℃およびpH7でモニタした。反応は、1Mのスクロースおよび無機リン酸を含有する溶液中で500UのCLEAを用いて行なった。約20時間後に変換が終了し、0.7MのG1Pが産生した。これは、5.63の平衡定数(Keq)に対応し、これは、他のグリコシドホスホリラーゼよりも僅かに高い[Nidetzky et al. 2000, Biochel J.: 649]。
【0072】
CLEAの例外的な機械的および熱的安定性に鑑みて、この反応を1週間の間に少なくとも7回繰返すことができる。そのようにして、依然として完全に活性であろう1kg超のG1Pを僅か約50mgのタンパク質を用いて産生する。これが、上昇した温度でのSPaseを用いた産生プロセスについての第1の報告である。
【0073】
実施例2:SPaseを突然変異させてその安定性をさらに増大させる
材料、方法、および結果
高忠実度PCRによって変異を導入し、その後でDpnI(New England Biolabs)による消化を行なった。野生型酵素について説明したように、酵素改変体が産生し、精製された。60℃で16時間、85μg/mlの酵素を培養することによってそれらの熱安定性をアッセイして、その後、残余の活性を定めた。酵素改変体は、野生型の活性の少なくとも80%に対応する活性を表わし、このことは、それらの増した安定性が活性を犠牲にしなかったことを例示する。
【0074】
表2に見られるように、R393N、Q460E/E485H、D445P/D446TもしくはD445/D446G、またはQ331Eという突然変異体を導入することにより、酵素の安定性がかなり増す。さらに、これらの突然変異体のすべてを組合せる結果、60℃で16時間、完全に安定した酵素改変体を生じる。
【0075】
【表2】
【0076】
参考文献
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
図7
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図2
図3
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]