【実施例】
【0027】
実施例1:エポキシ活性化酵素担体またはCLEA技術を介してSPaseを固定する
材料および方法
SPaseの固定のための材料
アミノエポキシ(EC−HFA)セパビーズ(登録商標)支持体は、Resindion S.R.L(三菱化学株式会社)によって提供された。
【0028】
CLEAの材料
t−ブチルアルコール、グルタルアルデヒド、および水素化ホウ素ナトリウムはそれぞれ、Aldrich-Chemie、Fisher、およびAcrosから購入された。すべての他の試薬はSigma-Aldrichから購入された。
【0029】
SPaseの発現および精製
構成発現プラスミドpCXshP34_BaSPを用いて形質転換した大腸菌XL10−Gold細胞を、100mg l
-1のアンピシリンを補ったLB媒質を含有する37℃の1lの振とうされたフラスコ中で培養した。8時間の発現の後、遠心分離(7000rpm、4℃、20分)によって細胞を採取し、溶解緩衝液NPI−10(Qiagen)中に懸濁し、音波処理で破壊した。細胞残屑は遠心分離(12000rpm、4℃、30分)で除去した。供給者(Qiagen)が記載するように、ニッケルニトリロ三酢酸(Ni−NTA)金属アフィニティクロマトグラフィによってN末端6−His標識付けタンパク質を精製した。
【0030】
CLEAのための酵素産生
ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のSPase遺伝子を、構成的プロモータP34[De Mey et al. 2007, BCM Biotechnol.: 34]の制御下で、大腸菌XL10−Gold中で組換え体として発現させた。形質転換された細胞を、100mg l
-1のアンピシリンで補ったLB媒質を用いて、37℃の1lの振とうフラスコ中で培養した。8時間の発現の後、遠心分離(7000rpm、4℃、20分)によって細胞を採取した。EasyLyse Bacterial Protein Extraction Solution (Epicentre)を用いて、凍結ペレットの酵素溶解によって粗精製の酵素調製物を調製した。細胞残屑は遠心分離(12000rpm、4℃、30分)で除去した。粗精製の酵素調製物を、60分間の60℃での培養によって熱で精製した。変性したタンパク質は、遠心分離(12000rpm、4℃、15分)で除去した。
【0031】
担体上の固定手順の最適化
固定プロセスを最適化するため、いくつかの条件(pH、温度、および緩衝液)を試験した。各々の条件毎に、0.1gのセパビーズ(登録商標)EC−HFAを5mlの精製SPase溶液(0.8U ml
-1または5ng ml
-1)に加え、それぞれ48時間および22時間、150rpmで静かに撹拌した。固定物(immobilizate)をpH7.0の100mMのリン酸緩衝液で激しく洗浄した。洗浄ステップおよび固定後の上澄み液を保存して、固定手順の間に失われた酵素活性の量を定めた。固定酵素の活性(U
imm)と添加された遊離酵素の活性(U
free)との差から固定収率(Y)を定めた。固定酵素の活性(U
imm)と、上澄み液(U
SN)および洗浄緩衝液(U
wash)中の非共有結合酵素中の残余の活性によって低下した添加遊離酵素の活性(U
free)との差が活性に結合された酵素収率(Y
act)を定めた。
【0032】
すべての場合において、支持体の代わりに対応量の不活性湿性アガロースを加えて、全く同じ酵素濃度および条件を有する参照懸濁液を調製した。すべての場合において、固定の間はこの参照物の活性を完全に保全した。
【0033】
残余のエポキシ基のブロッキング
固定プロセスの終わりに、固定された支持体をpH8.5(25℃)の5mlの3Mグリシン溶液で24時間処理して、残余のエポキシ基を不活性化し、固定酵素を安定化した(Mateo et al., 2003)。この処理の後、次に、固定されたSPaseを過量の100mMのリン酸緩衝液で洗浄して、担体に非共有結合したタンパク質を排除した。
【0034】
セパビーズ(登録商標)EC−HFAの負荷能力
260Uまでの異なる量のSPaseを5mlの最適な緩衝液中の0.1gの支持体に与えた。YおよびY
actを定めた。
【0035】
CLEA産生
pH7の4mlの熱精製酵素に対してかき混ぜながら6mlのt−ブチルアルコールを添加することによってSPaseの凝集体を調製した。30分後、異なる濃度のグルタルアルデヒド溶液を添加して(25%v/v)酵素凝集体を架橋し、混合物を15、30、60、または120分間撹拌状態に保った。形成されたイミン結合の還元は、pH10の0.1Mの重炭酸ナトリウム緩衝液中に1mg ml
-1の水素化ホウ素ナトリウムを含有する10mlの溶液を添加することによって達成された。15分後、別の10mlを添加し、15分間反応させた。最終的に、CLEAを遠心分離(12000rpmで15分)することによって分離し、pH7の0.1Mのリン酸緩衝液で5回洗浄した。すべてのステップは4℃で750rpmでサーモシェーカ(Eppendorf)中で行なった。固定収率は、元の酵素溶液中に存在するCLEA調製物中に検出される活性の比率として規定される。
【0036】
遊離酵素活性アッセイ
2つの方法を用いて遊離SPaseの活性(37℃)を定めた。大部分は連続的な共役酵素アッセイを説明し、アッセイでは、スクロースからのα−D−G1Pおよび無機リン酸の産生がホスホグルコムターゼ(PGM)およびグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6P−DH)の存在下でNAD
+の還元に共役する(Koga et al., 1991; Silverstein et al., 1967)。アッセイ溶液は、pH7.0の50mMのトリス緩衝液、1mMのEDTA、5mMのMgSO
4、1mMのβ−NAD、5μMのG−1、6−PP、0.6UのPGM、および0.6UのG6P−DH最終濃度を含有した。基質は、最終濃度としてpH7.0の100mMのリン酸緩衝液中の100mMのスクロースからなった。340nmでの吸収率の増加は、37℃で平衡させた分光光度計で記録された。SPase活性の1単位は、1μモルα−D−G1P分
-1を放出した酵素の量として規定された。
【0037】
用いた第2の方法は、不連続ビシンコニン酸(BCA)アッセイであった。SPase活性の1単位は、BCA法(Waffenschmidt and Jaenicke, 1987)で測定した還元糖の放出という観点で表わした。遊離酵素を100mMのスクロースおよびpH7.0の100mMのリン酸緩衝液中で37℃で培養した。ある時間に、BCAアッセイによる還元糖放出を測定するために、試料を取出し、加熱によって不活性化した。
【0038】
タンパク質濃度は、標準としてウシ血清アルブミンを用いて、BCAタンパク質アッセイ(Pierce)に従って測定した。
【0039】
固定酵素活性アッセイ
固定SPaseの活性は、100mMのスクロースおよびpH7.0の100mMのリン酸緩衝液からなる40mlの基質溶液に、洗浄した合計量の固定酵素(0.1g)を添加することによって定めた。37℃で常時振とうすることによって(750rpm)、サーモシェーカ(Eppendorf)中で混合物を培養した。ある時間に、BCAアッセイによる還元糖放出を測定するために、試料を取出し、加熱によって不活性化した。
【0040】
CLEA活性アッセイ
SPaseの加リン酸分解活性は、ビシンコニン酸(BCA)法を用いて非還元基質スクロースからの還元糖フルクトースの放出を測定することによって定めた[Waffenschmidt and Jaenicke, 1987]。等間隔で不活性化試料によって(95℃で5分)不連続に反応を分析した。SPaseの活性の1単位(U)は、37℃のpH7の100mMのリン酸緩衝液中の100mMのスクロースからの1μモルのフルクトースの放出に対応する。ホスファターゼの活性を定めるため、試料を、グルコースオキシダーゼ/ベルオキシダーゼアッセイ[Werner et al. 1970, Z. Anal. Chem: 224]を用いて(SPaseによって生成されるα−グルコース−1−リン酸からの)グルコースの放出についても分析した。ホスファターゼの活性の1単位(U)は、37℃のpH7の100mMのリン酸緩衝液中の100mMのスクロースからの1μモルのグルコースの放出に対応する。ホスファターゼの活性を検出すると、これをBCA法によって得た値から減算して正味のSPaseの活性を算出した。タンパク質濃度は、標準としてウシ血清アルブミンを用いてPierceからのタンパク質アッセイキットを用いて測定した。
【0041】
最適なpHおよび温度の判定
遊離および固定酵素に対するpHの影響を4.5から8.0の間で検討した。酵素の活性は、100mMのリン酸緩衝液中で37℃でBCAアッセイを用いて測定した。
【0042】
遊離および固定酵素の熱活性を、BCAアッセイによって、pH7.0の100mMのリン酸緩衝液中でそれぞれ30−70℃および30−80℃の範囲に亘って比較した。
【0043】
スクロースについての速度論的パラメータ(kinetic parameter)
不連続アッセイを用いて最適なpHの100mMのリン酸緩衝液中で最適温度で初期速度測定を行なった。加リン酸分解方向の見かけの速度論的パラメータは、α−D−G1Pおよび還元糖の放出を測定することによって定めた。スクロース濃度を1.5−40mMの範囲で変化させた一方で、リン酸の濃度を見かけのK
m値である約5−10倍の飽和濃度で一定に保った。初期速度に対するミカエリス−メンテン式の非線形フィッティングから速度論的パラメータを得た。
【0044】
熱安定性アッセイ
pH7.0の100mMのリン酸緩衝液中に遊離および固定酵素を置き、Thermoblock (Stuart SBH130D)中で異なる温度で培養した。ある時間に試料を取出し、BCA法を用いて残余の活性を定めた。
【0045】
異なる濃度の酵素を不活性化することによって、熱安定性に対するSPase濃度の影響を定めた。
【0046】
CLEAの安定性アッセイ
SPaseの熱安定性を定めるため、可溶性のまたは固定された酵素を60℃の水浴中でpH7の100mMのリン酸緩衝液中で培養した。等間隔で試料を不活性化し、BCA法を用いて残余の活性を分析した。SPaseCLEAの再使用可能性を評価するため、60℃で1時間のいくつかの反応サイクルの間生体触媒を用いた。遠心分離(12000rpmで15分)によって酵素を回収し、pH7の0.1Mのリン酸緩衝液で5回洗浄した。
【0047】
実験設計およびデータ分析
すべての統計的分析は統計ソフトウェア環境R(Gentleman & Ihaka, 1997)を用いて行なった。
【0048】
結果
組換えHis標識付けSPase(担体)の産生および精製
ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のSPase遺伝子はpCXhP34ベクターにクローニングされ、前述したような大腸菌XL10−Gold中に組換え的に発現された(Aerts et al., 2010)。化学酵素的細胞溶解の後、約29U mg
-1の特異的なSPase活性を有する粗精製の酵素調製物を得た。
【0049】
組換え型酵素は金属結合親和性を与えるGly-Gly-Ser-His
6-Gly-Met-Ala-Serという配列を有するN末端融合ペプチドを担持する。したがって、SPaseは、ニッケルニトリロ三酢酸(Ni−NTA)金属マトリックスに対するアフィニティクロマトグラフィによって精製することができる。精製生体触媒はクーマシー染色SDS−PAGE中の単一のタンパク質のバンドとして移動した。セントリコン中で緩衝液を交換した後、45%の精製収率および(161U mg
-1に対する)特異的活性の5.5倍の増大を判定することができた。
【0050】
組換え型His標識付けSPaseの特徴付け
His
6−SPaseの加リン酸分解活性アッセイは、それぞれ最適なpHおよび温度である6.5および58℃を明らかにした。
【0051】
スクロースの速度論的パラメータK
Mおよびk
catは58℃およびpH6.5でそれぞれ6.8±1.2mMおよび207±17s
-1であるとわかった。
【0052】
この高い最適温度のために、酵素の熱安定性を調べることも興味深かった。粗精製の酵素調製物についての初期実験は、SPaseが、70℃で30分間pH6.5のリン酸緩衝液中で培養すると、初期活性の70%超を保持することを示した。これに対し、精製酵素調製物(0.46U ml
-1)はそれらの条件下でその活性の50%しか保持しなかった(
図1)。この差は、SPaseが粗精製の酵素調製物中に存在するエフェクタによって安定化されているかもしれないことを示唆する。さらに、精製SPaseの安定性は酵素濃度に強く依存することがわかった一方で、これは粗精製の酵素調製物については当てはまらない(
図2)。
【0053】
固定プロセスの最適化
固定緩衝液の温度、pH、およびイオン強度を含む多数の要因が固定プロセスの効率に影響を及ぼす可能性がある(Clark, D. S., Trends Biotechnol. 1994: 439)。ここで、セパビーズ(登録商標)EC−HFAへのSPaseの固定に対するこれらのパラメータの効果を完全な要因計画によって調査した。すべての実験でリン酸緩衝液を用い、リン酸濃度を変えることによってその強度を変更した。スクリープロットは、温度が固定収率に影響せず、したがってこのパラメータがすべての連続実験で25℃の固定値に設定されることを明らかにした。独立変数pHおよびリン酸濃度の影響を、一般化線形モデルを用いて、中央複合計画(CCD)に従ってさらに評価した。最適値はpH7.15およびリン酸濃度0.04Mであるとわかり、その結果、固定収率が71.9%と予測された。
【0054】
固定プロセスの評価
最適な条件でセパビーズ(登録商標)EC−HFAにSPaseを固定する際、酵素の合計吸着は22時間以内に達成された(上澄み液中での活性の完全な喪失)。グラム当り25ngのタンパク質支持体(40U g
-1の支持体)で、28U g
-1の回収を得た(70%の収率)。酵素の約10%を洗浄ステップの間に除去し、こうして非共有結合させるため、固定酵素が、最適以下の立体配座および/または拡散上の問題のために、その活性の約22%を失うと仮定することができる。洗浄ステップの間の活性の喪失は、固定時間を長くすることによって回避できなかった。
【0055】
セパビーズ(登録商標)EC−HFAへの固定の間の500mMのスクロースの存在は固定の効率に影響しなかった。反応の終わりでの遊離エポキシ基のブロッキングも固定効率に影響しなかった(Mateo et al., 2003)。
【0056】
セパビーズ(登録商標)の負荷能力
セパビーズ(登録商標)EC−HFAの最大負荷能力を定めるため、(161U mg
-1の特異的活性を有する)異なる量の酵素を固定のために与えた。各々の場合に、上澄み液、洗浄緩衝液、および固定生体触媒の活性を定めた(
図3)。1グラムのセパビーズ(登録商標)EC−HFA当り16mgのタンパク質を与えると、最大負荷能力にほぼ達し、約530U g
-1の支持体となった。しかしながらこれは高くついた:結合した酵素の35%を洗浄ステップの間に失い、共有結合した酵素の30%しか活性でなかった。最も可能性が高かったのは、より多くの量の酵素が結合すると拡散上の問題が悪化することである。
【0057】
固定酵素の性質
検討は、固定酵素の活性および安定性がその可溶性の対応物の活性および安定性と異なるかもしれないまたは異ならないかもしれないことを示した(Clark, 1994; Mateo et al., 2007)。本発明では、セパビーズ(登録商標)、特にセパビーズ(登録商標)EC−HFAに対して固定されたSPaseの性質を遊離酵素の性質と比較した。
【0058】
固定酵素の活性についての最適なpHおよび温度はそれぞれ、遊離酵素の6.5および58℃と比較して、6.0および65℃であるとわかった(
図4および
図5)。さらに、固定酵素はより広いpH範囲で活性であり、このことは高い動作安定性を示す。しかしながら、熱安定性に対する影響の評価はそれほど単純明快ではなかった。60℃での16時間の培養の後、固定SPaseはその活性の65%を保持する一方で、これは遊離酵素についてはその濃度に応じて異なる。到達できた最大残余活性は80%である。しかしながら、これは20U ml
-1の酵素濃度を必要とし、これは実際にはあまり現実的でない。これに対し、固定酵素の安定性は0−800U g
-1の範囲で一定である。さらに、スクロース(500mM)の存在下での固定により、その残余の活性を75%にさらに増すことができ、これは固定収率に影響しない。
【0059】
最終的に、固定SPaseの速度論的パラメータを65℃およびpH6.0に定めた。スクロースについてのk
catおよびK
Mはそれぞれ、310±24s
-1および9.4±1.3mMであるとわかった。固定SPaseのK
Mは遊離酵素よりも僅かに高く、このことは固定が拡散の制限を生じることを示唆する。これに対し、k
catの値は遊離酵素よりも高い。したがって、固定によって生じる活性の喪失は、より高い最適温度(58℃と比較した65℃)で達成されるより高い基質のターンオーバーによって補われる(
図6)。
【0060】
変換プロセスにおける遊離酵素の動作安定性
SPaseの粗精製の酵素調製物について60℃で変換反応を行なって、基質の存在下での酵素の動作安定性を定めた。1単位のSPaseを、pH7の100mMのリン酸緩衝液中100mMのスクロースを含有する40mlの基質溶液と混合した。反応速度は24時間まで一定であることがわかり、このことは、酵素がこれらのプロセス条件下で安定していることを示す。
【0061】
セパビーズ(登録商標)に対して固定されたSPを用いた固定床反応器中での連続プロセス
セパビーズ(登録商標)EC−HFAに対して固定されたSPaseを含有する固定層反応器中で連続プロセスを行なった。pH7で60℃の400mMのリン酸中400mMのスクロースの基質溶液を、24分の滞留時間に対応する0.75ml分
-1の流量でカラムを通して注入した。69%の変換度を達成することができ、これは179.5g l
-1 時
-1の生産性に対応する。驚くべきことに、変換率は2週間まで一定のままであることがわかり、このことは、固定SPaseの注目すべき動作安定性を強調した。
【0062】
SPase(CLEA)の産生および精製
ビフィドバクテリウムアドレセンティスLMG10502由来のSPase遺伝子を大腸菌XL10−Gold中で組換え的に発現させた。化学酵素的細胞溶解の後、37℃で、約13U mg
-1の特異的SPase活性を有する粗精製の酵素調製物を得た。SPaseは大部分の内因性大腸菌タンパク質よりも安定しているので、熱処理によって部分的に酵素を精製することができた(表1)。このように、すべてのホスファターゼ活性を除去した。これは、そうしなければ、SPaseによって生じるα−グルコース−1−リン酸(G1P)を劣化させるであろう。
【0063】
60℃での1時間の培養の後、特異的活性は29U mg
-1に増し、可溶性タンパク質の濃度は2.6から1.2mg ml
-1に下降する。後者は完全に汚染タンパク質の喪失によるものである。というのも、これらの条件下ではSPase活性の低下は観察されないからである。培養の時間が長くなっても特異的活性がさらに増すという結果にはならない。
【0064】
【表1】
【0065】
基質としてpH7の100mMのリン酸緩衝液中100mMのスクロースを用いて37℃でアッセイを行なった。SPaseの活性はフルクトースの放出に対応する一方で、ホスファターゼの活性は(SPaseによって形成されるα−グルコース−1−リン酸からの)グルコースの放出に対応する。
【0066】
SPaseCLEAの産生
CLEAの調製での第1のステップは酵素の凝集からなり、これは塩、有機溶媒、または非イオン性ポリマーの添加によって達成できる[Cao et al., 2000, Org. Lett.: 1361)]。添加剤の選択は重要である。なぜなら、これは三次元構造が僅かに異なる酵素を生じる結果になり得るからである。硫酸アンモニウムはタンパク質精製に最も広く用いられる沈殿剤であるが、SPaseについては満足のいく結果を与えなかった。この酵素を凝集させて遠心分離が難しいゼラチン状の懸濁液を生成するには、塩の高い濃度が必要である(〜70%w/v)。したがって、沈殿は、代わりにt−ブタノールを用いて行なった。60%(v/v)の溶媒濃度の結果、遠心分離後の上澄み液からSPase活性が完全に除去された。活性を失わずに沈殿物をリン酸緩衝液中に再溶解することができ、このことは、凝集手順がタンパク質の構造的完全性を損なわないことを示す。
【0067】
第2のステップで、凝集した酵素の分子を化学的に架橋して固定生体触媒を得る。その目的には、グルタルアルデヒド(GA)を一般的に用いる。というのも、これは2つの酵素分子からリシン残基を有するイミン結合を形成することができる2つのアルデヒド基を含有するからである(
図8)。固定収率は架橋ステップの培養時間およびGA/タンパク質比に強く依存することが周知である[Wilson et al., 2009, Process Biochem: 322]。したがって、これらのパラメータはSPaseのCLEAの産生のために最適化されている(
図9)。0.17mg mg
-1のGA/タンパク質比で1時間の培養時間で31%の最大固定収率を達成することができた。より高い比およびより長い培養時間の結果、触媒活性がかなり低下したが、これは、グルタルアルデヒドが次に活性部位における残基と反応し始めるためである可能性が最も高い。
【0068】
SPaseCLEAの特徴付け
CLEAの性質を天然SPaseの性質と比較した。固定酵素の加リン酸分解活性に最適なpHおよび温度はそれぞれ、可溶性酵素についての6.5および58℃と比較して、6.0および75℃であるとわかった(
図10および
図11)。このように、架橋の結果、その最適温度が印象深い17℃増大した酵素を生じる。さらに、固定酵素はより広いpH範囲で活性であり、このことはより高い動作安定性を示す。
【0069】
SPase調製物の熱安定性を定めるため、酵素を60℃で培養して、その残余の活性をいくつかの時点で測定した。1週間の培養後にCLEAが完全な活性を保持していることがわかった一方で、遊離酵素は僅か16時間の培養後にその活性の20%を緩める。したがって、生体触媒の安定性は架橋プロセスによって劇的に向上する。工業的な炭水化物変換は好ましくは60℃で行なわれるので、これらのCLEAの性質は疑いなく高経済価値の新規プロセスの開発を可能にするであろう。
【0070】
固定の主な利点の1つは、これが再生利用可能な酵素調製物をもたらすことであり、これはしばしばその工業的潜在性の重要な決定要因である。CLEAは、本発明で用いてきたように、濾過または遠心分離によって容易に再生利用可能である[Cao et al. 2003: Curr. Opin. Biotechnol: 387]。高速(12000rpm)での遠心分離が、CLEAの沈殿および上澄み液からの加リン酸分解活性の完全な除去に必要であるとわかった。これらの条件下での生体触媒の機械的安定性を評価するため、間に完全な洗浄を介在させつつ、60℃で1時間のいくつかの反応サイクルを行なった。10サイクルの後、活性の喪失を検出することができず、このことは、新しい酵素調製物の優れた動作安定性を明らかにした。
【0071】
SPaseCLEAを用いたG1Pの産生
産生プロセスでのSPaseCLEAの効率を評価するため、最大変換までのG1Pへのスクロースの加リン酸分解を60℃およびpH7でモニタした。反応は、1Mのスクロースおよび無機リン酸を含有する溶液中で500UのCLEAを用いて行なった。約20時間後に変換が終了し、0.7MのG1Pが産生した。これは、5.63の平衡定数(K
eq)に対応し、これは、他のグリコシドホスホリラーゼよりも僅かに高い[Nidetzky et al. 2000, Biochel J.: 649]。
【0072】
CLEAの例外的な機械的および熱的安定性に鑑みて、この反応を1週間の間に少なくとも7回繰返すことができる。そのようにして、依然として完全に活性であろう1kg超のG1Pを僅か約50mgのタンパク質を用いて産生する。これが、上昇した温度でのSPaseを用いた産生プロセスについての第1の報告である。
【0073】
実施例2:SPaseを突然変異させてその安定性をさらに増大させる
材料、方法、および結果
高忠実度PCRによって変異を導入し、その後でDpnI(New England Biolabs)による消化を行なった。野生型酵素について説明したように、酵素改変体が産生し、精製された。60℃で16時間、85μg/mlの酵素を培養することによってそれらの熱安定性をアッセイして、その後、残余の活性を定めた。酵素改変体は、野生型の活性の少なくとも80%に対応する活性を表わし、このことは、それらの増した安定性が活性を犠牲にしなかったことを例示する。
【0074】
表2に見られるように、R393N、Q460E/E485H、D445P/D446TもしくはD445/D446G、またはQ331Eという突然変異体を導入することにより、酵素の安定性がかなり増す。さらに、これらの突然変異体のすべてを組合せる結果、60℃で16時間、完全に安定した酵素改変体を生じる。
【0075】
【表2】
【0076】
参考文献
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】