特許第5955322号(P5955322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955322
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】抗C−MET抗体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160707BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20160707BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20160707BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20160707BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20160707BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20160707BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20160707BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20160707BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C07K16/28
   A61K9/127
   A61K45/00
   A61K39/395 L
   G01N33/574 D
【請求項の数】18
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2013-527228(P2013-527228)
(86)(22)【出願日】2011年8月30日
(65)【公表番号】特表2013-543375(P2013-543375A)
(43)【公表日】2013年12月5日
(86)【国際出願番号】US2011049763
(87)【国際公開番号】WO2012030842
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年8月15日
(31)【優先権主張番号】61/402,788
(32)【優先日】2010年9月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
(73)【特許権者】
【識別番号】513051128
【氏名又は名称】リァン,チ−ミン
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(72)【発明者】
【氏名】ウ,ハン−チャン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,レイ−ミン
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/059654(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/007427(WO,A1)
【文献】 特表2009−532026(JP,A)
【文献】 特表2000−510825(JP,A)
【文献】 Cancer Research, 15-APR-2010, Vol.70, 8_Supplement, Abstract 2448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 16/00−16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離された抗c−Met抗体であって、
配列識別番号14の相補性決定領域1、配列識別番号16の相補性決定領域2及び配列識別番号25の相補性決定領域3を有する可変重鎖領域と、配列識別番号35の相補性決定領域1、配列識別番号37の相補性決定領域2及び配列識別番号46の相補性決定領域3を有する可変軽鎖領域とを備えていることを特徴とする単離された抗体
【請求項2】
哺乳類生細胞の表面上でc−Metに結合すると、前記哺乳類生細胞によって取り込まれることを特徴とする請求項1に記載の単離された抗体。
【請求項3】
単鎖Fv(scFv)、IgG、Fab、(Fab’)2 又は(scFv’)2 であることを特徴とする請求項1又は2に記載の単離された抗体。
【請求項4】
標識化されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の単離された抗体。
【請求項5】
抗癌剤に抱合されていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の単離された抗体。
【請求項6】
表面及び内部空間を備えている脂質ナノ粒子であって、前記内部空間に抗癌剤を含み、請求項1乃至のいずれか一項に記載の単離された抗体が、前記脂質ナノ粒子の前記表面に付着していることを特徴とする脂質ナノ粒子。
【請求項7】
前記脂質ナノ粒子が表面にc−Metを発現する細胞と接触すると、前記抗体は、前記表面のc−Metに結合し、前記脂質ナノ粒子が取り込まれることを特徴とする請求項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項8】
薬学的に許容可能な担体と、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の単離された抗体、又は請求項若しくはに記載の脂質ナノ粒子と
を含むことを特徴とする組成物。
【請求項9】
非経口投与用の製剤としてなることを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項10】
静脈内、髄腔内、又は脳室内投与用の製剤としてなることを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項11】
癌を有する対象を処理する方法で用いる薬剤を製造するための請求項1乃至3のいずれかに記載の単離された抗体の使用法であって
前記抗体は、抗癌剤に抱合されていることを特徴とする使用法
【請求項12】
前記抗体は癌細胞内に取り込まれることを特徴とする請求項11に記載の使用法
【請求項13】
前記癌は肺癌であることを特徴とする請求項11に記載の使用法
【請求項14】
癌を有する対象を処理する方法で用いる薬剤を製造するための請求項6又は7に記載の脂質ナノ粒子の使用法。
【請求項15】
前記癌は肺癌であることを特徴とする請求項14に記載の使用法。
【請求項16】
対象内の癌細胞を検出する方法において、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の抗体を、癌の疑いがある前記対象の細胞にインビトロで接触させ、
前記細胞に結合した前記抗体を検出する
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の抗体のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むことを特徴とする単離された核酸。
【請求項18】
請求項17に記載の核酸を含有することを特徴とする組み換え型宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
肺癌は、米国において男女を問わず癌関連の死亡の主な原因である。米国では2009年に、約219,000人の新しい肺癌患者が診断され、この疾患のために160,000人の患者が死亡したと推定されている。肺癌には2つの周知の形態、小細胞肺癌(SCLC)及び非小細胞肺癌(NSCLC)があり、NSCLCが肺癌の略80%を占める。NSCLCを有する患者の5年間の生存率は約16パーセントである。外科的切除及び放射線療法と組み合わせた化学療法が、様々な段階のNSCLCに適用されるが、予後は依然として良くなく、再発は、初期治療の後、約10%に達する。
【0002】
肝細胞増殖因子の受容体であるc−Metは、受容体型チロシンキナーゼ(RTK)のサブファミリーに属する。通常の生理機能では、HGF/c−Met経路は、細胞の増殖、生存、運動性及び創傷治癒を含む種々の生物学的機能に関与する(バーチメイアー(Birchmeier)等著,2003年)。しかしながら、遺伝子の増幅、変異及び過剰発現を含む異常なc−Metの活性化が、血液悪性腫瘍及び大型固形腫瘍を伴う臨床例に報告されている。c−Metの活性化は、癌細胞の増殖、移動及び浸潤を引き起こし、HGFが内皮細胞の増殖及び移動を直接的に刺激するため、腫瘍血管の血管形成を促進することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7749485号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
更に、過剰発現したc−Metは、脳、結腸直腸、胃(gastric)、肺、頭頸部、及び胃(stomach)の癌を有する患者に頻繁に観察されている。乏しい臨床転帰が、c−Metの上昇と明瞭な相互関係にあり、c−Metの過剰発現がこれらの癌の種類における腫瘍進行の否定的な予後因子であることを示唆している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
c−Metに結合する抗体、並びに関連する組成物及び使用方法を本明細書に開示する。使用方法には、癌療法及び診断が含まれるが、限定するものではない。ある実施形態では、本発明の抗体は、哺乳類細胞の表面抗原(例えば、癌細胞の表面抗原)に結合する。本抗体はまた、細胞に結合すると取り込まれ得る。本抗体によって標的とされ得る細胞には、例えば、肺、腎臓、肝臓、胃、胸及び脳の癌腫等の癌腫が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】c−Metタンパク質に結合しファージディスプレイされたscFvの選択及び識別に関し、ファージディスプレイされたヒトナイーブscFvライブラリを使用してc−Met−Fcタンパク質に結合したファージを選択した(バイオパニング)ことを示す図である。
図1B】c−Metタンパク質に結合しファージディスプレイされたscFvの選択及び識別に関し、無作為に選択したファージクローンをELISAによりスクリーニングして様々な結合を明らかにしたことを示す図である。
図1C】c−Metタンパク質に結合しファージディスプレイされたscFvの選択及び識別に関し、2つの異なる力価を有し、選択されたc−Met−Fcタンパク質に結合したファージクローンのELISAによる比較結果を示す図である。
図1D】c−Metタンパク質に結合しファージディスプレイされたscFvの選択及び識別に関し、ファージクローンの相対的なc−Met結合親和性を、c−Metを過剰発現する293T細胞を用いてフローサイトメトリーにより評価したことを示す図である。
図1E】c−Metタンパク質に結合しファージディスプレイされたscFvの選択及び識別に関し、免疫蛍光染色によるファージクローンの結合特異性の判定結果をスケールバー50μmで示す図である。
図2】抗c−MetのscFvとc−Metに結合したHGFとの競合結果を示す図である。Aは、ファージディスプレイされた抗c−MetのscFvであるPC1、PC20及びPC21を使用して、H1993細胞上に発現したc−MetへのHGFの結合を阻害したことをELISAにより示しており、Bは、抗c−MetのscFvであるS1、S20及びS21によるc−Metタンパク質に結合したHGFの用量依存的阻害を競合的ELISAを用いて示しており、Cは、ヒトIgG1のFcドメインをc−Met932 及びc−Met567 のカルボキシル末端に融合させたヒトc−Metタンパク質のドメインを概略的に示しており、Dは、抗c−MetのscFvのエピトープをELISAを使用して識別した結果を示しており、Eは、癌細胞におけるHGFとの抗c−MetのscFvの拮抗効果の判定結果を示している。
図3】共焦点顕微鏡を使用して抗c−MetのscFvの取込みを分析した結果を示す図である。Aは、H1993細胞を、抗c−MetのscFvであるS1及びS20と共に4℃(a及びb)又は37℃(c及びd)で30分間別個に培養し、取り込まれたS20が低倍率で細胞のほとんどに観察され(e)、矢印は細胞内に取り込まれたscFvを示しており、Bは、細胞内へのS20の取込みがc−Met媒介のエンドサイトーシスを通じて生じ、c−Met野生型細胞(a)及びノックダウンH460細胞(MET−KD)(c)を37℃で30分間S20と共に培養し、細胞に取り込まれた豊富なS20がより高倍率の範囲で示されている(b)。
図4】Ms20がヒト肺癌細胞系へのリポソームドキソルビシンの結合及び取込みを向上させたことを示す図である。Aは、薬物と共に37℃で4時間培養したMs20−LD及びLDの肺癌細胞系内への取込みの研究結果を示しており、Bは、癌細胞表面上のc−Metの発現レベルを、Ms20−QDを使用してフローサイトメトリー分析によって判定したことを示しており、Cは、リポソーム薬へのH1993の結合結果を示しており、Dは、リポソーム薬の取り込み動態を示しており、Eは、37℃で指定期間培養した後の共焦点顕微鏡で見たH1993細胞によるMs20−LD及びLDの取り込み結果を示しており、ドキソルビシンはMs20−LDとの2時間の培養により細胞質及び核質中に分散しており、Ms20−LDとの8時間の培養後、ドキソルビシンは主に細胞核中に蓄積し、ドキソルビシンは、LDで処置した細胞中で非常に弱く検出可能であり、下のパネルは、細胞膜(緑色、擬似色)及び核(青色)染色を合成したドキソルビシン信号(赤色)の画像をスケールバー50μmで示している。
図5】Ms20媒介性リポソームがドキソルビシン誘発の細胞毒性効果を向上させたことを示す図である。Aは、様々な濃度のMs20−LD及びLDで処置したヒト肺癌細胞系のインビトロ細胞毒性アッセイの結果を示しており、Bは、IC50比率を計算してLDに対するMs20−LDの細胞毒性の増強を解析した結果を示しており、Cは、2.5μg/mlのMs20−LD及びLDで0、24、48及び72時間夫々処置した後のH1993細胞のウエスタンブロット分析の結果を示している。
図6】ヒト肺癌異種移植片における抗c−MetのscFvの腫瘍ホーミング能力の識別結果を示す図である。Aは、ヒト肺癌H460異種移植片を有するSCIDマウスにPC20及び対照ファージ(Con−P)を夫々静脈内注入した結果を示しており、Bは、ホーミングアッセイにおける免疫組織化学的染色によるPC20の局在化の試験結果を示しており、Cは、400pmoleのMs20−QD(量子ドット)(右)又はQD(左)を静脈内注入した後のH1993ヒト肺腫瘍を有するSCIDマウスのインビボ画像を示しており、NIR蛍光画像を注入の6時間後に取得し(上パネル)、赤色の円は腫瘍の位置を示しており、腫瘍領域の信号強度をIVISソフトウェアによって定量化したことを示しており(下パネル)、Dは、Ms20−QD及びQDの組織分布を注入の24時間後に判定し、マウスを屠殺し、解剖した器官のNIR画像を取得し(上パネル)、腫瘍及び器官の信号強度をIVISソフトウェアによって測定した(下パネル)ことを示している。
図7】ヒト肺癌異種移植片におけるMs20−LDの処置効果を示す図である。Aは、Ms20−LD、LD又はPBSを投与した、H460由来の肺癌を有するマウスの腫瘍体積を示しており、Bは、各群の体重を示しており、Cは、処置を終了した際の腫瘍重量を示しており、Dは、Cに図示された分析結果の代表画像を示しており、Eは、腫瘍組織の腫瘍血管の調査結果を示しており、Fは、TUNELアッセイを使用した、腫瘍領域におけるアポトーシス細胞の分析結果をエラーバーSE* 、P<0.05で示している。
図8】可溶性c−Met932 −Fcタンパク質及び抗c−MetのscFvの精製結果を示す図である。Aは、クマシーブルー染色(左パネル)及び抗c−Metポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロット分析(右パネル)をレーン1の全培養培地、レーン2のタンパク質Gフロースルー及びレーン3の精製された可溶性c−Met932 −Fcタンパク質で示しており、Bは、可溶性抗c−MetのscFvを、ファージ感染した大腸菌HB2151のペリプラズム抽出物から精製し、ウエスタンブロット分析は、可溶性scFvが抗Eタグ抗体(下パネル)によって認識されたことを示している。
図9A】種々のヒト癌細胞系及び血管内皮細胞(HUVEC)に結合する抗c−MetのscFvの調査に関し、種々のヒト癌細胞系に対する抗c−MetのscFvであるS1又はS2によるELISA結果を示す図である。
図9B】種々のヒト癌細胞系及び血管内皮細胞(HUVEC)に結合する抗c−MetのscFvの調査に関し、フローサイトメトリーによって分析した抗c−MetのscFvのHUVECへの結合結果を示す図である。
図10】ヒト肺癌細胞上で内因性c−Metに特異的に結合した抗c−MetのscFvを示す図である。Aは、ウエスタンブロット分析が、レンチウイルスでの感染による、H460細胞(MET−KD H460細胞)中のc−Metの下方制御により、c−Met shRNAが発現したことを示しており、Bは、c−Met野生型細胞及びノックダウンH460細胞に結合する抗c−MetのscFvのFACS分析結果を示している。
図11】Ms20抱合型リポソームドキソルビシン(Ms20−LD)の合成結果を示す図である。Aは、カルボキシル末端にFlagタグ、ヘキサヒスチジン及びシステイン残基を含有するscFvタンパク質(Ms20)を発現する原核生物ベクターpFHC−S20の構築を概略的に示しており、Bは、Ni+NTAセファロース及びタンパク質Aアガロースクロマトグラフィーを使用して精製されたMs20のSDS−PAGE分析及びクマシーブルー染色の結果を示しており、PPEはペリプラズム抽出物を意味し、FLはフロースルーを意味し、Cは、概略モデルがマレイミド−PEG−DSPE組み込み型LDを用いた還元Ms20の抱合手順を示しており、Dは、セファロース4Bゲル濾過による精製後のMs20抱合型LDに対するSDS−PAGE分析及び硝酸銀染色を、レーン3〜8のマレイミド−PEG−DSPEへの抱合後のMs20(上バンド)で示している。
図12】Ms20−QDを使用したFACS分析による、ヒト肺癌細胞系におけるc−Met発現の識別結果を示す図である。Aは、ヒト肺癌細胞系を4℃で1時間、10μMのMs20−QD及びQDと共に培養し、FACS分析を実行して結合活性を評価した結果を示しており、Bは、H1993細胞を37℃で30分間50nMのMs20−QDと共に培養し、H1993細胞によるMs20−QDの結合及び取り込みを、共焦点顕微鏡法により調べた結果をスケールバー50μmで示している。
【発明を実施するための形態】
【0007】
定義
以下の記載において、細胞培養の分野で従来使用される多くの用語を広く利用している。本明細書、請求項、及びこのような用語に与えられる範囲の明確且つ一貫した理解をもたらすために、以下の定義を提示する。
【0008】
本明細書に使用される際、「c−Met」は、肝細胞増殖因子(HGF)に結合することができる受容体型チロシンキナーゼの要素を意味し、「肝細胞増殖因子受容体」(HGFR)又は「met癌原遺伝子」とも呼ばれる。用語「c−Met」は、c−Metタンパク質のあらゆる天然のアイソフォームを意味する。c−Metのアミノ酸配列は公知であり、ジェンバンク(GenBank)の受託番号NP_000236.2及びNP_001120972.1として見出され得る。
【0009】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」又は「タンパク質」は、隣接する残基のα−アミノ基及びカルボキシ基間のペプチド結合によって互いに連結された線系列のアミノ酸残基を意味し、本明細書に互換的に使用されている。更にアミノ酸は、20個の「標準的な」遺伝子コード可能なアミノ酸に加えてアミノ酸類似体を含む。
【0010】
「抗体」は、抗原結合タンパク質を独立して含有する組成物、又は調製物として複数の抗原結合タンパク質を含有する組成物であり、免疫グロブリン遺伝子若しくは免疫グロブリン遺伝子のフラグメントによって遺伝子コード可能な1又は複数のポリペプチド、又はファージディスプレイライブラリから得られるか若しくはファージディスプレイライブラリに由来するCDRを含む1又は複数のポリペプチドを有し、対象の抗原に結合する組成物を包含する。軽鎖は、κ又はλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、β又はεとして分類され、順番に免疫グロブリンのクラスであるIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEを夫々定義している。
【0011】
抗体の一例として、夫々の組が1つの「軽」鎖及び1つの「重」鎖を有する2組のポリペプチド鎖から構成される四量体の構造単位を有する抗体がある。各鎖のN末端部分が、抗原結合を媒介する可変領域を画定する。可変軽鎖(VL )及び可変重鎖(VH )という用語は夫々、軽鎖及び重鎖を意味する。
【0012】
「抗体」はまた、単一のポリペプチドとして共に結合された重鎖及び軽鎖を含む単鎖抗体も包含する。
【0013】
上述したように、「抗体」は、完全な免疫グロブリン、及び抗体の抗原結合フラグメントを包含する。従って、本明細書に使用される際の用語「抗体」は、全抗体の修飾によって生成可能であるか、又は組み換えDNA法を使用してデノボ合成可能である抗体の抗原結合部分を含む。一例として、Fab’、Fab’2 又はscFvがあるが、これらに限定されない。
【0014】
単鎖Fv(「scFv」)ポリペプチドは、直接的に結合されるか又はペプチドをコードするリンカーによって結合されるVH 及びVL コード配列を含む核酸から発現され得る共有結合したVH ::VL ヘテロ二量体である。抗体V領域由来の軽鎖及び重鎖のポリペプチド鎖を、抗原結合部位の構造と略同様の3次元構造に折り畳むscFv分子へと変換するために、多くの構造が利用可能である。scFvは、二重特異性抗体に加えて、三重特異性抗体又は四重特異性抗体として存在してもよい。
【0015】
尚、種々の抗体フラグメントが完全な抗体の消化に関して定義されるが、当業者は、このようなフラグメントが、化学的に又は組み換えDNA法を利用してデノボ合成可能であることを理解する。
【0016】
用語「抗体」は、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を包含し、更にあらゆるクラスの抗体をも包含する(例えば、IgM、IgG及びそれらのサブクラス)。「抗体」は更にハイブリッド抗体、異種抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、及び抗原結合を保持するそれらの機能フラグメントを包含する。抗体は、他の部分に抱合されてもよく、及び/又は、支持体(例えば、固体支持体)、例えばポリスチレンプレート、ビーズ、試験紙等に結合されてもよい。
【0017】
免疫グロブリンの軽鎖又は重鎖の可変領域は、相補性決定領域又は「CDR」とも称される3つの超可変領域によって遮断される「フレームワーク」領域(FR)から構成されている。フレームワーク領域及びCDRの範囲は、本技術分野では公知であるデータベースに基づいて決定され得る。例えば、www.vbase2.orgのV Base参照。異なる軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で相対的に保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち構成の軽鎖及び重鎖が組み合わされたフレームワーク領域は、CDRを配置し整列するように機能する。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合に関与する。本開示によって提供される全てのCDR及びフレームワーク領域は、別段の指定がない限りV Baseに従って決定される。
【0018】
「抗c−Met抗体」は、c−Metに、好ましくは高い親和性で特異的に結合する抗体を意味する。c−Metに特異的な抗体は、c−Metに関連のない他の抗原に対してc−Metとの結合のように結合しない。
【0019】
抗体に関して使用される際の用語「高い親和性」とは、親和性(KD )の値が10-6M以下、10-7M未満、10-8M未満であり、一又は複数の標的に特異的に結合する(「認識する」)抗体を意味する。より低いKD 値はより高い結合親和性(すなわち、より強い結合)に相当し、10-7のKD 値は、10-6のKD 値よりも高い結合親和性を示す。
【0020】
「抗原結合部位」又は「結合部分」は、免疫反応性抗原結合に関与する抗体分子の一部(例えば、免疫グロブリン分子のフラグメント又はscFv)を意味する。抗原結合部位は、重(「H」)鎖及び/又は軽(「L」)鎖のN末端可変(「V」)領域のアミノ酸残基によって形成される。重鎖及び軽鎖のV領域内の3つの高度に分岐したストレッチが、「フレームワーク領域」又は「FR」として公知の更に保存された隣接するストレッチ間に挿入される「超可変領域」と称される。従って、用語「FR」は、免疫グロブリンの超可変領域の間に超可変領域に隣接して天然に見出されるアミノ酸配列を意味する。四量体抗体分子では、軽鎖の3つの超可変領域及び重鎖の3つの可変領域が、抗原結合の「表面」を形成するために3次元空間で互い相対的に配置されている。この表面は、標的である抗原の認識及び結合を媒介する。重鎖及び/又は軽鎖の夫々の3つの超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」と称される。
【0021】
「エピトープ」は、抗体が結合する抗原上の部位(例えば、c−MetのSema又はPSIドメイン上の部位)である。エピトープは、タンパク質の折り畳み(例えば、3つ折り)により並置される連続したアミノ酸又は非連続のアミノ酸の両方から形成され得る。
【0022】
「S21抗体」又は「クローン21由来の抗体」は、クローンS21若しくはクローン21によって発現される抗体、又は他の方法で合成されるが、クローンS21によって発現される抗体と同一のCDR及び任意には同一のフレームワーク領域を有する抗体を意味する。同様に、抗体S1(クローン1)及び抗体S20(クローン20)等は、一若しくは複数の対応するクローンによって発現される抗体、並びに/又は他の方法で合成されるが、参照される抗体と同一のCDR及び任意には同一のフレームワーク領域を有する抗体を意味する。これらの抗体のCDRを以下の表1に示している。
【0023】
用語「対象」、「個体」及び「患者」は、治療を評価される、及び/又は治療される哺乳動物を意味し、本明細書に互換的に使用されている。一実施形態では、哺乳動物はヒトである。従って、用語「対象」、「個体」及び「患者」は、癌(例えば、肺癌、卵巣又は前立腺の腺癌、乳癌等)を有する個体を包含する。対象は、ヒトであってもよいが、他の哺乳動物、特にはヒト疾患の実験モデルとして有用な哺乳動物、例えば、マウス、ラット等も含む。
【0024】
本明細書に使用される際、用語「治療」、「治療する」等は、効果を得る目的で、薬剤を投与すること、又は処置(例えば、放射線、外科的処置等)を行うことを意味する。効果は、疾患若しくはその症状を完全若しくは部分的に防止するという意味で予防的であってもよく、並びに/又は疾患及び/若しくはその疾患の症状の部分的若しくは完全な治癒という意味で治療的であってもよい。「治療」は、本明細書に使用される際、哺乳動物、特にはヒトにおけるあらゆる増殖性成長のあらゆる治療を含み、(a)(例えば、原発性疾患と関連するか、又は原発性疾患によって引き起こされる可能性のある疾患を含む)疾患の傾向があるが、まだ疾患を有すると診断されてはいない対象に疾患若しくは疾患の症状が発生することを防止すること、(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発達を停止させること、及び(c)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退行をもたらすことを含む。腫瘍(例えば、癌)の治療では、治療薬が、腫瘍細胞の転移を直接的に減少させることができる。
【0025】
用語「細胞培養」又は「培養」は、人工的な生体外環境における細胞の維持を意味する。しかしながら、「細胞培養」は、一般的な用語であり、個別の細胞だけでなく、組織又は器官の培養も包含して使用され得ることを理解すべきである。
【0026】
用語「腫瘍」は、本明細書に使用される際、悪性又は良性に関わらず、全ての腫瘍性の細胞成長及び増殖、並びに全ての前癌状態の細胞及び組織を意味する。
【0027】
用語「癌」、「新生物」及び「腫瘍」は、自発的な未制御の増殖を示し、その結果、細胞増殖に対する制御の著しい損失によって特徴付けられる異常増殖の表現型を表す細胞を意味し、本明細書に互換的に使用されている。一般的に、本出願における検出、分析、分類又は治療の対象細胞には、前癌状態(例えば、良性)、悪性、転移前状態、転移性及び非転移性の細胞が含まれる。癌の例には、肺癌、腎臓癌(例えば、腎癌)、胃癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、脾臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿道癌、甲状腺癌、癌腫、黒色腫、頭頸部癌及び結腸癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
癌の性質に応じて適切な患者試料を得る。本明細書に使用される際、用語「癌性組織試料」は、癌性腫瘍から得られた任意の細胞を意味する。固形腫瘍の場合、外科的に除去された腫瘍に由来する組織試料は通常、従来技術により検査するために得られて調製される。或いは、リンパ液、血液若しくは血清試料等の体液試料、又は癌性器官浸出液等の浸出液試料(例えば、胸部からの浸出液)を分析する試料として収集し使用することができる。白血病の場合、リンパ球又は白血病細胞を得て、適切に調製する。同様に、任意の転移した癌の場合、細胞は、体液、例えばリンパ液、血液、血清又はその末端感染器官若しくは浸出液から取り出されてもよい。
【0029】
癌の「病状」は、患者の健康を損なう全ての現象を含む。これには、異常又は制御不能な細胞増殖又は細胞転移、隣接する細胞の正常機能の妨害、サイトカイン又は他の分泌産物の異常なレベルでの放出、炎症性又は免疫学的反応の抑制又は悪化、周辺組織又は末端組織又は器官、例えばリンパ節等の新生組織形成、前悪性化、悪性化、浸潤が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
用語「診断」は、分子状態又は病理学的状態、疾患又は症状の識別、例えば乳癌、前立腺癌又は他の種類の癌の分子のサブタイプの識別を意味して本明細書に使用される。
【0031】
用語「予後」は、肺、結腸、皮膚又は食道の癌のような腫瘍性疾患の再発、転移拡散及び薬物耐性を含む、癌に起因する死亡又は進行の可能性の予測を意味して本明細書に使用される。用語「予測」は、観察、経験又は科学的理由に基づいて予想するか又は推測する行為を意味して本明細書に使用される。一実施例では、医師は、患者が原発性腫瘍の外科的除去及び/又は化学療法の後、癌の再発なしに一定期間生存する可能性を予測することができる。
【0032】
本明細書に使用される際、「相関する」又は「と相関する」という用語及び同様の用語は、事象が数字、データセット等を含む場合の2つの事象間の統計的関連を意味する。例えば、事象が数字を伴うとき、(本明細書では「直接相関」とも称される)正相関は、一方が増加するにつれて、もう一方も同様に増加することを意味する。(本明細書では「逆相関」とも称される)負相関は、一方が増加するにつれて、もう一方が減少することを意味する。
【0033】
用語「単離された」とは、化合物が、本来化合物に付随する構成要素のうちの全て又は一部から分離していることを意味すべく意図している。「単離された」はまた、製造中(例えば、化学的合成、組み換え発現、培養培地等)に化合物に付随する構成要素のうちの全て又は一部から分離した化合物(例えば、タンパク質)の状態も意味する。
【0034】
「生体試料」は、個体から得られた様々な試料の種類を包含する。この定義は、生体起源の血液及び他の液体試料、固形組織試料、例えば生検標本若しくは組織培養又は生検標本若しくは組織培養に由来する細胞、並びにその後代等を包含する。この定義はまた、試料の調達後に任意の方法、例えば、試薬での処理、洗浄又は癌細胞等の特定の細胞集団の増強によって操作された試料も含む。この定義は更に、特定の種類の分子、例えば核酸、ポリペプチド等が豊富な試料も含む。用語「生体試料」は、臨床試料を包含し、外科的切除によって得られた組織、生検によって得られた組織、培養液中の細胞、細胞上清、細胞溶解物、組織試料、器官、骨髄、血液、血漿、血清等も含む。「生体試料」には、患者の癌細胞から得られた試料、例えば、患者の癌細胞から得られたポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを含む試料(例えば、ポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを含む細胞溶解物又は他の細胞抽出物)、並びに患者由来の癌細胞を含む試料が含まれる。患者由来の癌細胞を含む生体試料には、非癌性細胞も含まれ得る。
【0035】
c−Metに特異的に結合する抗体、並びに関連する組成物及びその使用方法を本明細書に開示する。使用方法は、癌療法及び診断を包含する。
【0036】
本抗体は、クローン1、20又は21由来の抗体のVH の少なくとも1つ、2つ又は3つ全てのCDRを含む。本抗体は更に、クローン1、20又は21由来の抗体のVL の少なくとも1つ、2つ又は3つ全てのCDRを含む抗体も包含する。各VH 又はVL のCDRは独立して選択され得る。或いは、本抗体は、c−Metと結合すべく、クローン1、20又は21由来の抗体と競合する(例えば、クローン1、20又は21由来の抗体と同一のエピトープに結合する)。
【0037】
本開示の抗体はまた、クローン1、20又は21由来の抗体のVH の全てのCDR及び/又はVL の全てのCDRを含んでもよい。本抗体は、クローン1、20又は21由来の抗体のVH の全長を含んでもよい。本抗体はまた、クローン1、20又は21由来の抗体のVL の全長を含んでもよい。
【0038】
本抗体は、単鎖Fv(scFv)、Fab、(Fab’)2 、(ScFv)2 等であってもよい。本抗体は、IgG(例えば、IgG2 )若しくは任意の他のアイソタイプであってもよく、又は二重特異性抗体であってもよい。
【0039】
本抗体は、血清半減期(例えばPEG)、エンドサイトーシス等を改善する抗癌剤、標識、部分等に抱合されてもよい。本抗体はまた、薬学的に許容可能な賦形剤の形態で(例えば、単位投与量製剤で)あってもよい。本開示は更に、本明細書に記載の抗体から選択される1つ以上の異なる抗体、及び/又はこれらの抗体に由来する1つ以上のCDRを含む抗体、及び/又はこれらの抗体の変異体若しくは誘導体を含む1つ以上の抗体を含む組成物を提供する。組成物は、クローン1、20又は21等の1つ以上の抗体を含むことができる。
【0040】
本開示の方法は、本明細書に開示されている1つ以上の本発明の抗体を、本発明の抗体によって結合される抗原を発現する癌を有する対象を治療するために効果的な量で投与する方法を含む。本開示によって提供される抗体は、癌の診断及び予後にも使用可能である。
【0041】
本明細書に提供されている核酸は、本明細書に記載されている1つ以上の抗体をコードする。このような核酸を含む宿主細胞、及び本発明の抗体を(例えば、分泌によって)生成する宿主細胞が本明細書に更に提供されている。キットが、本発明の抗体を含有する組成物を調製するために、又は本発明の方法を実行するために更に提供されている。
【0042】
抗体
好ましい抗体は、癌細胞の細胞表面に露出可能な膜受容体であるc−Metに高い親和性を有する。癌細胞には、例えば、肺癌細胞由来の癌細胞(例えば、H1993又はH441)及びその他の癌細胞が含まれる。本発明の抗体には、抗原、例えば哺乳類生細胞の表面の抗原に結合する際に、例えば受容体媒介性エンドサイトーシス等のエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれるような抗体が含まれる。
【0043】
本発明の抗体には、c−Metのエピトープに、クローン1、20又は21由来の抗体と競合的に結合する抗体が含まれる。特定の抗体が別の抗体と同一のエピトープを認識する能力は、1つの抗体が、第2の抗体の抗原との結合を競合的に阻害する能力によって決定され得る(例えば、競合的結合アッセイによって決定され得る)。クローン1、20又は21由来の抗体と同一のエピトープに結合する本発明の抗体も本明細書に意図されている。
【0044】
多くの競合的結合アッセイのうち任意のものを使用して、同一の抗原に結合する2つの抗体間の競合を測定することができる。例えば、サンドイッチELISAアッセイを、このために使用することができる。交差反応をアッセイする手段は当業者に周知である(例えば、ダウベンコ(Dowbenko)等著,「ジャーナル・オブ・ウィルス(J.Virol.)」,1988年,62巻,p.4703−4711参照)。
【0045】
1つの抗体は、抗原との第2の抗体の結合が、第1の抗体の存在下で競合的結合を評価するために使用される複数のアッセイのうち任意のアッセイを使用して少なくとも30%、通常少なくとも約40%、50%、60%又は75%、多くの場合少なくとも約90%低減される場合、第2の抗体の結合を競合的に阻害するとみなされる。
【0046】
これは、(例えば表面プラズモン共鳴を使用して)固体支持体に付着した1つ以上の単離された標的抗原(例えばc−Metの全長又はフラグメント)を準備し、抗体が標的に結合する能力、又は標的と結合すべく本明細書に記載の抗体と競合する能力をアッセイすることによって確認され得る。
【0047】
抗c−Met抗体(例えば、クローン1及び20)によって結合されるエピトープは、c−Metのリガンド(例えば、肝細胞増殖因子)の結合部位に存在する。肝細胞増殖因子の結合部位は、およそ残基位置25〜567のc−Metの連続したアミノ酸配列内にある。エピトープはまた、SEMA又はPSIドメイン内の位置によって記述され得る。
【0048】
或いは、抗c−Met抗体(例えば、クローン21)によって結合されるエピトープは、およそ残基位置567〜およそ残基位置932のc−Metの連続したアミノ酸配列内にある。エピトープはまた、c−MetのIgG様ドメイン内の位置によって記述され得る。
【0049】
上記で使用したc−Metの残基位置番号は、ジェンバンク(GenBank)受託番号NP_000236.2又はUniProt受託番号P08581に記載の配列に基づいている。
【0050】
c−Metと同様のエピトープを共有する抗原が、本発明の抗体の結合標的であってもよい。本発明の抗体は、c−Metに結合すると、c−Metタンパク質を発現する細胞によって取り込まれ得る。
【0051】
抗c−Met抗体が親和性を有するエピトープは、細胞表面が露出し、多くの癌細胞、特には細胞の原形質膜に溶媒接触可能である。エピトープは、細胞が生存しているときに本発明の抗体に接触可能である。例えば、エピトープは、肺、腎臓、肝臓、胃、胸及び脳等に由来する癌細胞に存在し得る。抗c−Met抗体が親和性を有する癌細胞は、c−Met発現癌細胞を含む任意の癌であり得る。
【0052】
上述したように、本発明の抗体は、クローン1、20又は21等に由来する抗体のうち1つ以上と競合する抗体を包含する。更に、本抗体は、約1×10-6MのKD を有する抗体と同程度であるか又はより大きいc−Metとの結合親和性を有し得る。c−Metに対する本開示の抗体のKD は、約1×10-6M〜約1×10-7M、約1×10-7M〜約1×10-8、約1×10-8M〜約1×10-9Mの範囲内であってもよい。例えば、本開示の抗体のKD は、約5×10-9M〜約2×10-8Mの間であってもよい。
【0053】
本発明の抗体の例には、同一の結合特異性を有し、少なくとも2つのCDRを含み、CDRが夫々独立して少なくとも約80%、少なくとも約87%、少なくとも約93%、少なくとも約94%又は最大で100%のアミノ酸配列の同一性を以下の表1に示されている抗体のVH のCDRのアミノ酸配列(例えば、クローン21のVH のCDR1)と共有する抗体が包含される。本発明の抗体は更に、表1に示されている夫々の抗体の任意のVH のCDRに由来する3つ全てのCDRを含むことが可能であり、本発明の抗体のVH の夫々のCDRは、表1に示されている単一の抗体から選択され、VH の夫々のCDRは独立して、少なくとも約80%、少なくとも約87%、少なくとも約93%、少なくとも約94%又は最大で100%のアミノ酸配列同一性を表1に示されている抗体のVH のCDRのアミノ酸配列と共有する。例えば、本発明の抗体の重鎖は、クローン21のVH の2つのCDR又はVH の3つ全てのCDRを含むことができる。或いは、重鎖は、クローン21のVH の2つのCDR又はVH の3つ全てのCDRを含んでもよい。
【0054】
軽鎖についても同様に、本発明の抗体は、同一の結合特異性を有し、少なくとも2つのCDRを含むことが可能であり、CDRは夫々独立して表1に示されている夫々の抗体のVL のCDR(例えば、クローン21のVL のCDR1)のアミノ酸配列と、少なくとも約80%、少なくとも約87%、少なくとも約93%、少なくとも約94%又は最大で100%のアミノ酸配列の同一性を有する。本発明の抗体は更に、表1に示されている抗体のうち任意の抗体に由来するVL の3つ全てのCDRを含んでもよく、VL の各CDRは独立して、少なくとも約80%、少なくとも約87%、少なくとも約93%、少なくとも約94%又は最大で100%のアミノ酸配列の同一性を表1に示されている抗体のVL のCDRのアミノ酸配列と共有する。例えば、本発明の抗体の軽鎖は、クローン21のVL の2つのCDR又はVL の3つ全てのCDRを含有することができる。或いは、軽鎖は、クローン21のVL の2つのCDR又はVL の3つ全てのCDRを含んでもよい。
【0055】
任意には、抗体は、表1に提示されている重鎖又は軽鎖の対応するフレームワーク配列のいずれかで同一の(すなわち、100%同一性を有する)フレームワーク配列(FR)、類似のフレームワーク配列(FR)又は異なるフレームワーク配列(FR)を含んでもよい。フレームワーク配列が類似している場合、フレームワークは、以下の表1に示されている抗体のいずれかにおける対応するフレームワーク配列に、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約90%、少なくとも約93%、少なくとも約96%、少なくとも約98%又は最大で100%の同一性を有する。
【0056】
従って、本開示の抗体は、表1に示されているVH 又はVL の配列の全長と、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は最大で100%のアミノ酸配列の同一性を有するVH の全長及び/又はVL の全長の配列を含むことができる。例えば、本発明の抗体は、クローン21のVH の全長及び/又はVL の全長を含んでもよい。或いは、本発明の抗体は、クローン20のVH の全長及び/又はVL の全長を含んでもよい。
【0057】
抗体の製造方法
本明細書に提供されている情報を使用して、本開示の抗c−Met抗体を、当業者に周知の標準的な技術を使用して調製する。例えば、本明細書に提供されているポリペプチド配列(例えば、表1参照)を使用して、抗体をコードする適切な核酸配列を決定し、次にその核酸配列を使用してc−Metに特異的な1つ以上の抗体を発現することができる。一又は複数の核酸配列は、当業者に周知の標準的な方法に従って種々の発現システムに対する特定のコドン「選好」を反映するように最適化され得る。
【0058】
提供された配列情報を使用して、当業者に公知の多数の標準的な方法に従って核酸を合成することができる。オリゴヌクレオチド合成は、市販の固相オリゴヌクレオチド合成器で行われるか、又は、例えば固相ホスホラミダイトトリエステル法を使用して手作業で合成されることが好ましい。
【0059】
本発明の抗体をコードする核酸を合成すると、標準的な方法に従って核酸を増幅する及び/又はクローニングすることができる。このような結果を達成するための分子クローニング技術は本技術分野で公知である。組み換え核酸の構築に適した幅広い種類のクローニング及びインビトロ増幅方法が当業者に公知である。
【0060】
本開示の抗体をコードする天然又は合成の核酸の発現は、抗体をコードする核酸をプロモーターに(構成的又は誘導的のいずれかで)操作可能に結合し、その構築物を発現ベクターに組み込むことによって達成され得る。ベクターは、原核生物、真核生物又は両方における複製及び統合に好適であり得る。標準的なクローニングベクターは、抗体をコードする核酸の発現の制御に有用な転写・翻訳ターミネーター、開始配列並びにプロモーターを含む。ベクターは任意には、少なくとも1つの独立した終結配列、真核生物及び原核生物の両方でカセットの複製を可能にする配列、すなわちシャトルベクター、並びに原核生物系及び真核生物系の両方に対する選択マーカーを含む一般的な発現カセットを含む。
【0061】
クローニングされた核酸を高レベルに発現するためには、転写を指示するための強力なプロモーター、翻訳を開始するためのリボソーム結合部分、及び転写・翻訳ターミネーターを典型的には含む発現プラスミドを構築することが一般的である。大腸菌内で形質転換されるDNAベクターに選択マーカーを含むことも有用である。このようなマーカーの例には、アンピシリン、テトラサイクリン又はクロラムフェニコールに対する耐性を特定する遺伝子が含まれる。抗体を発現するための発現系には、例えば、大腸菌、バチルス属菌及びサルモネラが使用可能である。大腸菌系も使用され得る。
【0062】
抗体(例えば、scFv)のC末端又はN末端でタグ(例えば、ヘキサヒスチジン)の付加を可能にする発現ベクター内に一又は複数の抗体遺伝子をサブクローニングして精製を促進することも可能である。哺乳類細胞に遺伝子をトランスフェクトし発現する方法は、本技術分野では公知である。細胞を核酸で形質導入する際に、例えば、ベクターの宿主領域内で、核酸を含むウイルスベクターを細胞と共に培養することを伴う場合がある。組織又は血液試料由来の細胞系及び培養細胞を含む本開示で使用される細胞の培養は、本技術分野において周知である。
【0063】
本発明の抗体のための核酸を単離してクローニングすると、当業者に公知の種々の組み換え技術によって作られた細胞に核酸を発現することができる。このような細胞の例には、細菌、酵母、糸状菌、昆虫(例えば、バキュロウイルスベクターを用いる昆虫)及び哺乳類細胞が含まれる。
【0064】
本発明の抗体の単離及び精製は、本技術分野で公知の方法に従って達成され得る。例えば、タンパク質は、構成的に及び/若しくは誘導の際にタンパク質を発現するように遺伝子操作された細胞の溶解物から単離され得るか、又は免疫親和性精製(又はタンパク質G若しくはタンパク質Aを使用する沈殿)、非特異的に結合された物質を除去するための洗浄、及び特異的に結合した抗体の溶出によって合成反応混合物から単離され得る。単離した抗体を、透析、及びタンパク質精製方法に通常採用される他の方法によって更に精製することができる。一実施形態では、金属キレートクロマトグラフィー法を使用して抗体を単離してもよい。本開示の抗体は、上述したように単離を促進するために修飾されてもよい。
【0065】
本発明の抗体は、(例えば、他のポリペプチドを含まない)略純粋の形態又は単離された形態で調製されてもよい。タンパク質は、存在し得る他の構成成分(例えば、他のポリペプチド又は他の宿主細胞の構成成分)と比較して、ポリペプチドが豊富な組成物に存在してもよい。抗体が、他の発現タンパク質を略含まない組成物中に存在するように、例えば、組成物の90%未満、通常は60%未満、更に通常では50%未満が他の発現タンパク質から構成されているように精製された抗体が準備されてもよい。
【0066】
本開示は更に、本発明の抗体を生成する細胞を提供する。細胞は、生体外で抗体を再生する能力があるハイブリッド細胞又は「ハイブリドーマ」(例えば、IgG等のモノクローナル抗体)であってもよい。
【0067】
ハイブリドーマの生成を回避する抗体分子の抗原結合領域の組み換えDNA型を作製するための技術も本明細書に意図されている。DNAは、例えば、細菌(例えばバクテリオファージ)、酵母、昆虫又は哺乳動物の発現系にクローニングされる。好適な技術の一例として、発現抗体(例えば、Fab又はscFv)を(細菌の細胞膜と細胞壁との間の)ペリプラズム空間に移動させるか、又は分泌させるリーダー配列を有するバクテリオファージλベクター系が使用される。c−Metに結合するために、多くの機能フラグメント(例えば、scFv)を迅速に生成することができる。
【0068】
修飾
本開示は、所望の特性を与えるように、例えば、対象における特定の種類の組織及び/又は細胞への送達の促進、血清半減期の増加、抗癌活性の補足等を行うように修飾された抗体及び核酸を包含する。本開示の抗体は、修飾の有無に関わらず提供されることができ、ヒト抗体、ヒト化抗体及びキメラ抗体を含む。本発明の抗体を修飾する一方法は、別のタンパク質及び/又は薬物又は担体分子等の1つ以上の更なる要素を抗体のN末端及び/又はC末端で抱合(例えば、結合)することである。
【0069】
抱合体で修飾された本発明の抗体は、更なる所望の特徴を与えるために抱合体の第2の分子の性質を利用しながら、所望の結合特異性を保持する。例えば、本発明の抗体は、溶解性、保存又は他の取扱特性、細胞透過性、半減期、免疫原生の減少を補助して、特定の細胞(例えば、神経細胞、白血球、腫瘍細胞等)又は細胞の位置(例えば、リソソーム、エンドソーム、ミトコンドリア等)、組織又は他の身体位置(例えば、血液、神経組織、特定の器官等)を標的化することによって放出及び/又は分配を制御する第2の分子に抱合されてもよい。他の例には、アッセイ、追跡等のための染料、フルオロフォア又は他の検出可能な標識若しくは受容体分子の抱合が含まれる。より具体的には、本発明の抗体は、(例えば、還元末端又は非還元末端のいずれかで)ペプチド、ポリペプチド、染料、フルオロフォア、核酸、炭水化物、抗癌剤、脂質等の第2の分子に、N−オレオイル、脂肪族アミン、例えばドデシルアミン、オレオイルアミン等のN脂肪族アシル基を含む脂質分子の付着物として抱合され得る。
【0070】
例えば、抗体が細胞内に取り込まれ得ることを考慮すると、本開示の抗体又は核酸は、細胞内への送達効率を増加させるか又は減少させるために更に修飾されてもよい。遺伝子送達方法も、本発明の抗体を細胞内に発現する核酸を送達するために本明細書に意図されている。抗体の細胞取り込み(例えば、エンドサイトーシス)の効率は、ペプチド又はタンパク質への結合によって増加させるか又は減少させることができる。例えば、所与の抗体は、別の抗体等、エンドサイトーシス機構によってより容易に取り込まれる標的受容体又は巨大分子のリガンドに結合され得る。抱合体のペイロードは、エンドサイトーシス小胞がリソソームと融合する際に酸加水分解又は酵素活性によって放出され得る。細胞取り込みを減少させるために、抱合体は、細胞の表面に抗体を保持するリガンドを含んでもよく、それによって、細胞取り込みの制御として有用であるか、又は場合によっては1つの細胞型における取り込みを減少させながら他の型で増加させ得る。
【0071】
抱合された抗体の他の特性には、抱合体が、非抱合抗体と比較して毒性を減少させる特性が含まれる。別の特性は、抱合体が、ある種類の細胞又は器官(例えば、癌性細胞又は癌性組織)を非抱合抗体より効率的に標的化することができるということである。
【0072】
更なる例には、抗体と関連して補完する、増強する、高まる又は相乗的に動作する1つ以上の分子と抱合された抗体が含まれる。抗体は、例えば、癌の部位へ送達して細胞の殺滅又はクリアランスを更に促進するために、付加された抗癌剤、例えば、抗増殖部分(例えばVEGF拮抗薬、例えば抗VEGF抗体)、毒素(例えばドキソルビシン、リシン、緑膿菌外毒素A等)、放射性核種(例えばホウ素中性子捕捉のための90Y、131 I、177 L、10B等)、抗癌剤及び/又はオリゴヌクレオチド(例えば、siRNA)を有してもよい。
【0073】
抗体含有リポソーム
例えば、抗体は、共有結合的又は非共有結合的な修飾によって脂質ナノ粒子(例えば、リポソーム)に調合されてもよい。抗体は、例えば直接的にFc領域を介して脂質ナノ粒子の表面に付着されてもよい。抗体はまた、脂質ナノ粒子の表面にリンカーを介して移植されたポリマーの末端に共有結合的に付着されてもよい。このような抱合型脂質ナノ粒子は、本明細書では「免疫リポソーム」と称される。
【0074】
本開示の抗体(例えば、S20)をコードする遺伝子は、作製されたC末端でシステインと融合され得る。このシステイン融合タンパク質は次に、C末端のシステインを通じてリポソームの外面で部位特異的な抱合を介してマレイミド修飾PEG鎖に特異的に結合され得る。免疫リポソームは、1つ以上の抗癌剤、例えば小分子、ペプチド及び/又は核酸(例えば、siRNA)、又は本技術分野で公知の任意のもので充填され得る。リポソームは、例えば、ドキソルビシン等の抗癌剤を含有してもよい。免疫リポソーム内の本発明の抗体は、免疫リポソームが、癌細胞の表面でc−Metに特異的に結合することを可能にする標的化部分として機能することができる。リポソーム及び免疫リポソーム等の脂質ナノ粒子を作製して充填する方法は、本技術分野では公知である。例えば、米国特許第7749485号明細書及び米国特許出願公開第2007/0031484号明細書を参照し、それらの開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0075】
本開示の抗体は、改善された薬物動態プロファイルを与えるために、任意には(例えば、ペグ化、高グリコシル化等によって)修飾されてもよい。血清半減期を向上することができる修飾が該当する。本発明の抗体を、1つ以上のポリ(エチレングリコール)(PEG)分子部分を含むように「ペグ化」してもよい。タンパク質のペグ化に好適な方法及び試薬は、本技術分野で周知であり、米国特許第5849860号明細書に見出されることができ、その開示が参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
本発明の抗体が源から単離される場合、本発明のタンパク質は、精製を促進する部分、例えば特異的結合対の要素、例えばビオチン(ビオチン−アビジン特異的結合対の要素)、レシチン等に抱合されてもよい。本発明のタンパク質はまた、ポリスチレンプレート又はビーズ、電磁ビーズ、試験紙、膜等を含むが、これらに限定されない固体支持体に結合(例えば固定化)されてもよい。
【0077】
抗体がアッセイで検出される場合、本発明のタンパク質は、検出可能な標識、例えば放射性同位体(例えば125 I、35S等)、検出可能な生成物を生成する酵素(例えばルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)、蛍光タンパク質、発色タンパク質、染料(例えばフルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン等)、蛍光発光金属、例えば、EDTA等の金属キレート基を通じてタンパク質に付着された152 Eu又はランタニド系の他のもの、化学発光化合物、例えばルミノール、イソルミノール、アクリジニウム塩等、生物発光化合物、例えばルシフェリン、蛍光タンパク質等を含み得る。間接的な標識は、本発明のタンパク質に特異的な抗体を含んでおり、該抗体は、二次抗体、及び例えばビオチン−アビジン等の特異的結合対の要素を介して検出される。
【0078】
本発明の抗体を修飾するために使用される上述した要素はいずれも、リンカー、例えば可動性リンカーを介して抗体に結合され得る。存在する場合、リンカー分子は一般的に、抗体及び結合した担体を抗体と担体との間である程度柔軟に移動させるために十分な長さを有する。リンカー分子は一般的に、約6〜50原子長である。リンカー分子は、例えばアリールアセチレン、2〜10モノマー単位を含むエチレングリコールオリゴマー、ジアミン、アミノ酸又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0079】
リンカーがペプチドである場合、リンカーは、例えば4個のアミノ酸〜10個のアミノ酸、5個のアミノ酸〜9個のアミノ酸、6個のアミノ酸〜8個のアミノ酸又は7個のアミノ酸〜8個のアミノ酸を含む、1個のアミノ酸(例えば、Gly)〜20個以上のアミノ酸、2個のアミノ酸〜15個のアミノ酸、3個のアミノ酸〜12個のアミノ酸等の様々な長さのうち任意の好適なものであってもよく、1、2、3、4、5、6又は7個のアミノ酸であってもよい。
【0080】
可動性リンカーには、グリシンポリマー(G)n 、(例えば、nが少なくとも1の整数である(GS)n 、GSGGSn (配列番号1)、及びGGGSn (配列番号2)を含む)グリシン−セリンポリマー、グリシン−アラニンポリマー、アラニン−セリンポリマー、並びに本技術分野では公知の他の可動性リンカーが含まれる。グリシン及びグリシン−セリンポリマーは、比較的構造化されていないアミノ酸が対象である場合に使用可能であり、構成要素間の中間の連結手段として機能することができる。可動性リンカーの例には、GGSG(配列番号3)、GGSGG(配列番号4)、GSGSG(配列番号5)、GSGGG(配列番号6)、GGGSG(配列番号7)、GSSSG(配列番号8)等が挙げられるが、これらに限定されない。上述した任意の要素に抱合されるペプチドの設計には、リンカーが、可動性リンカー、及び可動性が低い構造を与える1つ以上の部分を含むことができるように、完全に又は部分的に可動性であるリンカーが含まれることを当業者は理解する。
【0081】
ヒト改変抗体
本開示の抗体は、免疫グロブリン、例えばヒトIgGの形態であってもよい。例えば、scFvの形態である本開示の抗体は、ヒト定常領域(例えば、Fc領域)に結合されてヒト免疫グロブリン、例えば完全なIgG免疫グロブリンにされ得る。
【0082】
Fc領域
c−Metに結合する本開示の抗体はFc領域を含むことができる。Fc領域は、(例えば、免疫グロブリンの任意のクラス又はサブクラスに由来する)ヒト又は他の動物に見られる天然に存在するアイソフォームであり、任意には変化した機能を有するように更に修飾され得る。Fc領域が非ヒトのものであり、CDR及び/又はFR領域がヒトのものである場合、抗体はキメラ抗体として表現され得る。Fc領域は、例えば細胞媒介性の細胞毒性の開始、又は補体活性(例えば、C1q結合又は補体依存性細胞毒性)の活性化、細胞表面受容体の下方制御等の増加したエフェクター機能を有するように1つ以上のアミノ酸残基位置で修飾され得る。本開示の抗体として使用可能なFc改変体の詳細は、例えば、米国特許第7416727号明細書、米国特許第7371826号明細書、米国特許第7335742号明細書、米国特許第7355008号明細書、米国特許第7521542号明細書、及び米国特許第7632497号明細書に見出されることができ、それらの開示が参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
組成物
本発明の組成物は、抗体及び/又は抗体をコードする核酸を含んでおり、抗体は、c−Metを発現する癌細胞に結合し、癌細胞により取り込まれる。本開示の組成物は、癌を有する対象(例えば、ヒト)を治療する際に使用され、疾患のあらゆる段階での治療に好適であり得る。
【0084】
1つ、2つ又はそれ以上の異なる抗体を含む組成物を薬学的組成物として準備し、組成物を必要とする哺乳動物(例えば、ヒト)に投与することができる。本明細書に意図されている組成物は、1つ、2つ、3つ又はそれ以上の異なる本開示の抗体(及び/又は抗体をコードする核酸)を含むことができる。例えば、組成物は、クローン1、2及び3のうち1つ以上を含むことができる。組成物は任意には、このような抗体由来の1つ以上のCDRを含有する抗体、及び/又はこのような抗体の変異体若しくは誘導体を含有する1つ以上の抗体を更に含んでもよい。
【0085】
本開示の組成物の例には、表1に開示されている抗体のうち任意のものが含まれる。組成物が2つ以上の抗体を含有する場合、各抗体は、同一の若しくは異なるエピトープ又は異なる抗原上のエピトープに特異的であり得る。例えば、組成物は、c−Metのエピトープに特異的な少なくとも1つの抗体、及びEGFR等、別の細胞表面抗原に特異的な別の抗体を含むことができる。組成物はまた、二重特異性、多重特異性の抗体、又は抗体をコードする核酸を含んでもよい。
【0086】
本開示の抗体は、独立して、及び/又は(例えば、二重特異性又は多重特異性の抗体を形成するために)互いに組み合わせて、及び/又は他の公知の抗癌剤(例えば、癌治療のための抗体)と組み合わせて使用され得る。例えば、リポソーム等の組成物は2つ以上の抗体を含むことができ、該抗体のうち少なくとも1つは本開示の抗体である。上述したように、リポソームは、本発明の抗体とは異なる1つ以上の抗体を含んでもよい。このようなリポソームは、本発明の抗体のエピトープに加えて別のエピトープに特異的であるように二重特異性、多重特異性等であってもよい。
【0087】
組み合わせは、単一の製剤で行われてもよく、又はキットにおける別個の製剤で行われてもよく、別個の製剤は単一の抗体又は2つの抗体を含んでもよい。キットのこのような別個の製剤は、投与の前に組み合わされてもよく、又は別々の注入によって投与されてもよい。
【0088】
本発明の薬学的組成物は、水溶液、多くの場合食塩水等の溶液であり得る薬学的に許容可能な賦形剤中に含有されることが可能であり、又は粉末形態で提供されてもよい。本発明の組成物は、他の構成成分、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、グルコース、スクロース、マグネシウム、炭酸塩等を含んでもよい。組成物は、生理学的状態に近づけるために必要に応じて薬学的に許容可能な補助物質を含んでもよく、例えばpH調節・緩衝剤、毒性調節剤、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等を含んでもよい。
【0089】
例えば薬学的に許容可能な塩の形態である本発明の抗体は、以下に述べる方法に使用するために、経口、局所又は非経口投与用の製剤とされ得る。ある実施形態では、例えば、抗体が液体注入物質として投与される場合、抗体の製剤は、即座に使用可能な調剤の形態として、又は薬学的に許容可能な担体及び賦形剤から構成される再構築可能な保存安定性を有する粉末若しくは液体として提供される。
【0090】
本開示の組成物は、治療有効量の本発明の抗体、及び必要に応じて任意の他の適合性がある構成成分を含むことができる。「治療有効量」とは、単回投与、或いは同一の若しくは異なる抗体又は組成物の連続投与の一部としての個体への投与が対象の癌性細胞の増殖及び/又は転移を減少させるために効果的であることを意味する。抗体のこのような治療有効量及び細胞増殖への影響には、1つ以上の他の治療法(例えば免疫療法、化学療法、放射線療法等)と併用して協働的及び/又は相乗的な阻害が含まれる。以下に記載するように、治療有効量は、投与計画及び対象の状態の診断分析(例えば、c−Metに特異的な抗体を使用した細胞表面のエピトープの有無の監視)等に関連して調節され得る。
【0091】
量及び用量
薬学的製剤内の抗体の濃度は、約0.1重量%未満、通常は又は少なくとも約2重量%から20重量%〜50重量%を超える程度で変わることが可能であり、選択される具体的な投与形態及び患者の必要性に応じて主に液量、粘度等によって選択される。結果として得られる組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、ゲル、クリーム、ローション、軟膏、エアロゾル等の形態であってもよい。
【0092】
更に、好適な用量及び投与計画は、所望の増殖阻害及び免疫抑制反応に影響を及ぼすことが公知である抗癌剤又は免疫抑制剤との比較によって決定され得る。このような投与量には、著しい副作用なしに細胞増殖の阻害をもたらす低用量での投与量が含まれる。ある化合物の適正量及び好適な投与により、本開示の化合物は、広範な細胞内効果を、例えば細胞増殖の部分的な阻害から本質的に完全な阻害までをもたらすことができる。投与治療は、単回投与計画又は(例えば、変化量又は維持量を含む)多回投与計画であってもよい。以下に示されているように、本発明の組成物は、他の薬剤との併用で投与されてもよく、従って、用量及び計画は、対象の必要性に適合するようにこの点に関して同様に変化し得る。
【0093】
組み合わせ療法
幅広い種類の癌療法のうちの任意の療法を本発明の抗体を有する組成物に組み合わせることができる。例えば、化学療法治療又は生体応答修飾物質治療に使用される薬剤は、免疫リポソーム等、抗体を含む薬学的組成物中に存在してもよい。本発明の抗体との組み合わせで使用され得る薬剤を以下に簡単に説明する。
【0094】
化学療法剤は、癌細胞の増殖を減少させる非ペプチド性(すなわち、非タンパク質性)化合物であり、細胞毒性剤及び細胞増殖抑制剤を包含する。化学療法剤の非限定的な例には、アルキル化剤、ニトロソウレア、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、植物性(例えば、ビンカ)アルカロイド、核酸、例えば阻害性核酸(例えば、siRNA)及びステロイドホルモンが挙げられる。
【0095】
代謝拮抗剤には、例えば、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体及びアデノシンデアミナーゼ阻害剤が挙げられる。
【0096】
好適な天然産物及びそれらの誘導体(例えば、ビンカアルカロイド、抗腫瘍抗生物質、酵素、リンフォカイン、及びエピポドフィロトキシン)は、抗癌剤として使用可能である。例えば、タキサン、例えばパクリタキセル及び任意の活性なタキサン誘導体又はプロドラッグがある。
【0097】
他の抗増殖細胞毒性剤は、ナベルビン(navelbene)、CPT−11、アナストラゾール(anastrazole)、レトラゾール(letrazole)、カペシタビン、ラロキサフィン(reloxafine)、シクロホスファミド、イフォスアミド(ifosamide)及びドロロキサフィン(droloxafine)である。抗増殖活性を有する微小管作用剤も使用に好適である。ホルモン調整剤及びステロイド(合成類似体を含む)が使用に好適である。
【0098】
治療方法
本開示の抗体を投与することによって癌細胞の増殖を減少させるための方法を更に本明細書に開示する。癌を有する対象、癌を有する疑いのある対象、又は癌が発達する危険性のある対象が、本明細書に開示されている治療法及び診断に意図されている。
【0099】
本方法は、治療有効量の抗c−Met抗体を、抗c−Met抗体を必要とする患者に投与することを伴う。抗体の投与により、患者における癌細胞増殖の阻害、腫瘍重量の減少、転移の減少及び/又は臨床転帰の改善が可能になる。
【0100】
本方法は、哺乳動物の対象、特にはヒトにおける(癌予防及び診断後の癌療法を含む)種々の癌療法に使用される。腫瘍を有する対象、腫瘍を有する疑いのある対象、又は腫瘍が発達する危険性のある対象が、本明細書に記載の治療法に意図されている。
【0101】
関連する実施形態では、治療される対象は、c−Metを発現(例えば、過剰発現)する細胞を保有する。c−Metは、癌細胞の表面に発現し、対応する非癌性細胞より高いレベルで存在することが多い。本態様は、本開示の方法との関連において、c−Metを発現するか又は呈する細胞が、本開示の抗体での治療に適用可能であるという点で有益である。本抗体は、例えば抗原の存在が検出不可能な時点で治療を開始する場合に対象に投与されることが可能であるが、制限することを意図するものではない。抗体療法を、疾患症状の最初の兆候が見られる前、可能性のある疾患の最初の兆候が見られた時点、又は疾患の診断の前若しくは後に開始することも可能である。
【0102】
例えば、本開示の方法によって阻害され得る癌には、腺癌を含む癌腫、特には肺癌(非小細胞及び小細胞)が含まれるが、これらに限定されない。治療可能な他の癌には、脳、結腸直腸、胃(gastric)、頭頸部、胃(stomach)、腎臓、肝臓及び胸における癌性増殖に由来する癌が含まれる。
【0103】
癌の種類
本方法は、幅広い種類の癌、特には新生血管の形成を伴う癌及び転移性癌を治療するか又は予防するという点において有用である。本開示の方法を使用する治療に適用可能な癌の例を以下に提供する。
【0104】
本明細書に開示されている方法による治療に適用可能な癌腫には、食道癌、肝細胞癌、基底細胞癌(皮膚癌の形態)、扁平上皮癌(種々の組織)、移行上皮癌(膀胱の悪性新生物)を含む膀胱癌、気管支癌、結腸癌、結腸直腸癌、胃癌、肺の小細胞癌及び非小細胞癌を含む肺癌、副腎皮質癌、甲状腺癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、腎細胞癌、原位置の腺管癌又は胆管癌、絨毛癌、精上皮癌、胎生癌種、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、子宮癌、精巣癌、骨原性癌、上皮癌、並びに鼻咽頭癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0105】
本明細書に開示されている方法による治療に適用可能な肉腫には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、脊索腫、骨原性肉腫、骨肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、及び他の軟部組織肉腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
本明細書に開示されている方法による治療に適用可能な他の固形腫瘍には、膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0107】
本明細書に開示されている方法による治療に適用可能な他の癌には、異型髄膜腫(脳)、島細胞癌(膵臓)、髄様癌(甲状腺)、間葉腫(腸)、肝細胞癌(肝臓)、肝芽腫(肝臓)、明細胞癌(腎臓)、及び神経線維腫縦隔が含まれる。
【0108】
本明細書に開示されている方法を使用する治療に適用可能な更なる例示的な癌には、神経外胚葉及び上皮由来の癌が含まれるが、これらに限定されない。神経外胚葉由来の癌の例には、ユーイング肉腫、脊髄腫瘍、脳腫瘍、幼児のテント上原始神経外胚葉性腫瘍、管状嚢胞癌、粘液管状紡錘細胞癌、腎腫瘍、縦隔腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、並びに青年及び若年成人の肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。上皮由来の癌の例には、小細胞肺癌、胸、眼水晶体、結腸、膵臓、腎臓、肝臓、卵巣及び気管支上皮の癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0109】
他の癌療法との組み合わせ
抗c−Met抗体の治療的投与は、更なる標準的な抗癌治療法との併用であってもよく、又は併用でなくてもよい治療計画の一部としての投与を含むことができる。更なる標準的な抗癌治療法は、(例えば、以下に更に記載されているような)免疫療法、化学療法剤及び外科手術を含むが、これらに限定されない。
【0110】
更に、抗癌治療法が、例えば外科手術、放射線療法、化学療法剤の投与等であり得る場合、抗c−Met抗体の治療的投与は、抗癌治療法での対象の治療後の治療であってもよい。本開示の線維状タンパク質を使用する癌療法は、免疫療法と組み合わせて使用され得る。他の実施例では、線維状タンパク質は、1つ以上の化学療法剤(例えば、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン及びプレドニゾン(CHOP))との組み合わせ、及び/又は放射線治療との組み合わせ、及び/又は外科的処置(例えば、腫瘍を除去するための外科手術の前又は後)との組み合わせで投与され得る。線維状タンパク質を外科的処置との併用で使用する場合、線維状タンパク質は、癌性細胞を除去するための外科手術の前、その時、又はその後に投与されることができ、全身に又は手術部位に局所的に投与されてもよい。線維状タンパク質単独又は上述した組み合わせを、(例えば静脈経路によって、例えば非経口投与によって)全身に投与することができ、又は局所的に(例えば局所腫瘍部位に、例えば、(例えば固形腫瘍内への、リンパ腫若しくは白血病における関連するリンパ節内への)腫瘍内投与、固形腫瘍を与える血管内への投与により)投与することができる。
【0111】
幅広い種類の癌療法のうち任意の癌療法を、本明細書に記載の線維状タンパク質治療と組み合わせて使用することができる。このような癌療法には、外科手術(例えば、癌性組織の外科的除去)、放射線療法、骨髄移植、化学療法治療、生体応答修飾物質治療、及び前述の療法の組み合わせが含まれる。
【0112】
放射線療法には、光線等の外部印加源又は埋め込まれた小型の放射能源から放射されたX線又はγ線が含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
化学療法剤は、癌細胞の増殖を減少させる非ペプチド性(すなわち、非タンパク質性)化合物であり、細胞毒性剤及び細胞増殖抑制剤を包含する。化学療法剤の非限定的な例には、アルキル化剤、ニトロソウレア、代謝拮抗剤、抗腫瘍抗生物質、植物性(ビンカ)アルカロイド、及びステロイドホルモンが挙げられる。
【0114】
細胞増殖を減少させるべく機能する薬剤は、本技術分野で公知であり、幅広く使用されている。このような薬剤には、アルキル化剤、例えばナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、エチレンイミン誘導体、スルホン酸アルキル及びトリアゼンが挙げられ、メクロレタミン、シクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標))、メルファラン(L−サルコリシン)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、セムスチン(メチル−CCNU)、ストレプトゾシン、クロロゾトシン、ウラシルマスタード、クロルメチン、イホスファミド、クロラムブシル、ピポブロマン、トリエチレンメラミン、トリエチレンチオホスホルアミン、ブスルファン、ダカルバジン及びテモゾロミドが含まれるが、これらに限定されない。
【0115】
代謝拮抗剤には、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体及びアデノシンデアミナーゼ阻害剤が挙げられ、シタラビン(CYTOSAR−U)、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル(5−FU)、フロクスウリジン(FudR)、6−チオグアニン、6−メルカプトプリン(6−MP)、ペントスタチン、5−フルオロウラシル(5−FU)、メトトレキサート、10−プロパルギル−5,8−ジデアザ葉酸(PDDF、CB3717)、5,8−ジデアザテトラヒドロ葉酸(DDATHF)、ロイコボリン、リン酸フルダラビン、ペントスタチン及びゲムシタビンが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
好適な天然産物及びそれらの誘導体(例えば、ビンカアルカロイド、抗腫瘍抗生物質、酵素、リンフォカイン及びエピポドフィロトキシン)には、Ara−C、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、ドセタキセル(TAXOTERE(登録商標))、デオキシコホルマイシン、マイトマイシン−C、L−アスパラギナーゼ、アザチオプリン、ブレキナル、アルカロイド、例えばビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、ビンデシン等、ポドフィロトキシン、例えばエトポシド、テニポシド等、抗生物質、例えばアントラサイクリン、塩酸ダウノルビシン(ダウノマイシン、ルビドマイシン、セルビジン)、イダルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン及びモルホリノ誘導体等、フェノキゾンビスシクロペプチド(phenoxizone biscyclopeptide)、例えばダクチノマイシン、塩基性グリコペプチド、例えばブレオマイシン、アントラキノングリコシド、例えばプリカマイシン(ミトラマイシン)、アントラセンジオン、例えばミトキサントロン、アジリノピロロインドールジオン(azirinopyrrolo indoledione)、例えばマイトマイシン、大環状免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、FK−506(タクロリムス、プログラフ)、ラパマイシン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
他の抗増殖細胞毒性剤は、ナベルビン(navelbene)、CPT−11、アナストラゾール(anastrazole)、レトラゾール(letrazole)、カペシタビン、ラロキサフィン(reloxafine)、シクロホスファミド、イフォスアミド(ifosamide)、及びドロロキサフィン(droloxafine)である。
【0118】
抗増殖活性を有する微小管作用剤も、使用に好適であり、アロコルヒチン(NSC406042)、ハリコンドリンB(NSC609395)、コルヒチン(NSC757)、コルヒチン誘導体(例えば、NSC33410)、ドルスタチン10(NSC376128)、メイタンシン(NSC153858)、リゾキシン(NSC332598)、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、TAXOL(登録商標)誘導体、ドセタキセル(TAXOTERE(登録商標))、チオコルヒチン(NSC361792)、トリチルシステリン(tritylcysterin)、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、エポチロンA、エポチロンBを含むがこれらに限定されない天然エポチロン又は合成エポチロン、ディスコデルモリド、エストラムスチン、ノコダゾール等が含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
使用に好適なホルモン調整剤及びステロイド(合成類似体を含む)には、副腎皮質ステロイド、例えばプレドニゾン、デキサメタゾン等、エストロゲン及びプロゲスチン、例えばカプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、エストラジオール、クロミフェン、タモキシフェン等、並びに副腎皮質抑制剤、例えばアミノグルテチミド、17α−エチニルエストラジオール、ジエチルスチルベストロール、テストステロン、フルオキシメステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、テストラクトン、メチルプレドニゾロン、メチル−テストステロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、クロロトリアニセン、ヒドロキシプロゲステロン、アミノグルテチミド、エストラムスチン、酢酸メドロキシプロゲステロン、ロイプロリド、フルタミド(ドロゲニル)、トレミフェン(フェアストン)、及びZOLADEX(登録商標)が挙げられるが、これらに限定されない。エストロゲンは増殖及び分化を刺激し、従って、エストロゲン受容体に結合する化合物は、この活性を妨害するために使用される。コルチコステロイドは、T細胞の増殖を阻害することができる。
【0120】
他の化学療法剤は、金属錯体、例えばシスプラチン(シス−DDP)、カルボプラチン等、尿素、例えばヒドロキシウレア、及びヒドラジン、例えばN−メチルヒドラジン、エピドフィロトキシン(epidophyllotoxin)、トポイソメラーゼ阻害剤、プロカルバジン、ミトキサントロン、ロイコボリン、テガフール等が挙げられる。他の対象の抗増殖剤には、免疫抑制剤、例えばミコフェノール酸、サリドマイド、デスオキシスペルグアリン(desoxyspergualin)、アザスポリン、エフルノミド、ミゾリビン、アザスピラン(SKF105685)、IRESSA(登録商標)(ZD1839、4−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノ)−7−メトキシ−6−(3−(4−モルホリニル)プロポキシ)キナゾリン)等が挙げられる。
【0121】
「タキサン」には、パクリタキセル、及びあらゆる活性なタキサン誘導体又はプロドラッグが含まれる。「パクリタキセル」(例えばドセタキセル、TAXOL、TAXOTERE(ドセタキセルの製剤)、パクリタキセルの10−デスアセチル類似体及びパクリタキセルの3′N−デスベンゾイル−3′N−t−ブトキシカルボニル類似体等の類似体、製剤並びに誘導体を含むとして本明細書では理解されるものとする)は、当業者に公知である技術を利用して容易に調製され得る。
【0122】
パクリタキセルとは、一般的な化学的に利用可能なパクリタキセルの形態を意味するだけでなく、類似体及び誘導体(例えば、上述したTAXOTERETMドセタキセル)並びにパクリタキセル抱合体(例えばパクリタキセル−PEG、パクリタキセル−デキストラン又はパクリタキセル−キシロース)も意味すると理解されるものとする。
【0123】
本開示の方法に従って個体を治療する際に、非悪性細胞のための救出剤との併用で高用量計画を使用することが望ましい場合がある。このような治療では、シトロボラム因子、葉酸誘導体又はロイコボリン等、非悪性細胞を救出する能力があるあらゆる薬剤が採用可能である。このような救出剤は、当業者に周知である。救出剤には、本発明の化合物の、細胞機能を調整する能力を妨げない救出剤が含まれる。
【0124】
投与の経路
抗c−Met抗体の投与は、腫瘍内、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸入)、経皮(すなわち局所)、経粘膜、腹腔内、動脈内及び直腸内投与を含む身体の様々な部分に種々の方法により達成され得る。他の好適な経路には、錠剤、固形剤、粉末、液体、エアロゾルの形態での組成物の経口、経鼻、鼻咽頭、非経口、経腸、胃内、局所、経皮、皮下、筋肉内への投与、腫瘍内への病巣内注入、腫瘍に隣接した病巣内注入、静脈内注入及び動脈内注入が含まれる。投与は、別の賦形剤の有無に関係なく局所的に又は全身に行われ得る。投与はまた、対象の腫瘍部位で又はその周囲で徐放モードで行われてもよい。
【0125】
本開示の製剤を、該製剤を必要とする対象又は宿主、例えば患者に投与する種々の好適な方法が利用可能であること、及び特定の製剤を投与するために2以上の経路が使用されてもよいが、1つの特定の経路は別の経路より更に迅速且つ効果的な反応をもたらし得ることを当業者は理解する。
【0126】
「治療有効量」という用語は、所望の効果を適切な利益/危険性の比率でもたらし、任意の医学的な治療に適用可能な量を意味する。治療有効量は、治療される疾患若しくは症状、投与される特定の標的化された構築物、対象の大きさ又は疾患若しくは症状の重症度等の要因に応じて変化し得る。当業者は、過度の実験を必要とすることなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定し得る。
【0127】
例示的な実施によると、タンパク質は、以下に更に詳細に記載されているように、組成物の一部として投与されてもよい。組成物は、粉末、クリーム、ゲル、軟膏(salve)、軟膏(ointment)、溶液、錠剤、カプセル、スプレー及びパッチを含む種々の形態であってもよい。組成物を患者に与えるために、ビヒクル及び担体の使用が可能である。このような担体には、可溶化剤、希釈剤及び分散媒が含まれる。これらの担体は、生体適合性があり、薬学的に許容可能であり、更に線維状タンパク質の治療特性を変化させることはない。賦形剤、アジュバント及び他の成分も組成物に含まれ得る。
【0128】
用量
本方法では、有効量の抗c−Met抗体を、抗c−Met抗体を必要とする対象に投与する。投与される量は、投与の目標、治療される個体の健康及び身体状態、年齢、治療される個体の分類群(例えば、ヒト、非ヒト霊長類等)、所望の分解程度、抗c−Met抗体の組成物の製剤、治療する臨床医による医学的状況の評価並びに他の関連する要因に応じて変化する。量は、日常的な試験を通じて決定され得る比較的広い範囲内に収まることが予測される。例えば、癌の転移を阻害するために用いられる抗c−Met抗体の量は、対象に不可逆的に毒性となり得るおよその量(すなわち、最大耐量)を超えない。他の事例では、量は、毒性閾値付近であるか又は毒性閾値を遥かに下回るが、免疫効果的な濃度範囲内にあるか又は閾値用量と同程度に低い。
【0129】
個別の用量は一般的には、対象に測定可能な効果をもたらすのに必要な量を下回ることはなく、その副産物の抗c−Met抗体の吸収、分散、代謝及び排出(「ADME」)についての薬物動態及び薬理学に基づいて、ひいては対象内での組成物の体内動態に基づいて決定され得る。これには、投与経路及び投与量の検討が含まれ、(作用が主として局所効果に必要とされる場所に直接的に適用される)局所、(消化管の一部に保持される場合、全身又は局所の効果のために消化管を介して適用される)腸内、又は(全身又は局所の効果のために、消化管以外の経路によって適用される)非経口への適用のために調整され得る。例えば、抗c−Met抗体の投与は一般的には、注射により、多くの場合静脈注射、筋肉注射、腫瘍内注入又はそれらの組み合わせにより行われる。
【0130】
抗c−Met抗体は、注入又は局所注入によって投与されることができ、例えば、約75mg/時間〜約375mg/時間、約100mg/時間〜約350mg/時間、約150mg/時間〜約350mg/時間、約200mg/時間〜約300mg/時間、約225mg/時間〜約275mg/時間を含む約50mg/時間〜約400mg/時間の速度での注入によって投与されることができる。例示的な注入速度により、例えば約1mg/m2 /日〜約9mg/m2 /日、約2mg/m2 /日〜約8mg/m2 /日、約3mg/m2 /日〜約7mg/m2 /日、約4mg/m2 /日〜約6mg/m2 /日、約4.5mg/m2 /日〜約5.5mg/m2 /日を含む約0.5mg/m2 /日〜約10mg/m2 /日の所望の治療用量を達成することができる。(例えば、注入による)投与は、所望の期間に亘って繰り返されることができ、例えば、約1日〜約5日の期間、又は数日毎に1回、例えば約5日毎に1回、約1ヶ月、約2ヶ月等に亘って繰り返されてもよい。他の治療的処置、例えば癌性細胞を除去するための外科的処置の前、その時又はその後に抗c−Met抗体を投与することもできる。抗c−Met抗体は組み合わせ療法の一部として投与されることもでき、その場合、(以下に更に詳細に記載されているように)免疫療法、癌化学療法又は放射線療法のうち少なくとも1つが対象に施される。
【0131】
対象内における抗c−Met抗体及びその対応する生物活性の体内動態は一般的には、対象の標的に存在する抗c−Met抗体の画分に対して測定される。例えば、一旦投与された抗c−Met抗体は、癌細胞及び癌性組織の物質を濃縮する糖抱合体又は他の生物学的標的と共に蓄積し得る。従って、抗c−Met抗体が経時的に対象の標的内に蓄積するように投与される投与計画は、個別用量を減らし得るための計画の一部となり得る。これは、例えば、生体内ではよりゆっくりと排出される抗c−Met抗体の用量が、インビトロアッセイから計算された有効濃度と比較して低減され得ることを意味する(例えば、生体外における有効量はmM濃度に近いのに対し、生体内ではmM濃度よりも低い)。
【0132】
一例として、用量又は投与計画の有効量は、細胞移動を阻害するための所与の抗c−Met抗体のIC50から測定される。「IC50」は、生体外での50%の阻害に必要な薬物の濃度を意味する。或いは、有効量は、所与の抗c−Met抗体の濃度のEC50から測定されてもよい。「EC50」は、生体内での最大効果の50%を得るために必要な血漿濃度を表す。関連する実施形態では、投与量はED50(有効投与量)に基づいて決定され得る。
【0133】
一般的に、本開示の抗c−Met抗体に関して、有効量は通常、計算したIC50の200倍を上回ることはない。一般的には、投与される抗c−Met抗体の量は、計算したIC50の約200倍未満、約150倍未満、約100倍未満であり、多くの実施形態では、約75倍未満、約60倍、50倍、45倍、40倍、35倍、30倍、25倍、20倍、15倍、10倍未満であり、約8倍未満又は2倍未満でもある。一実施形態では、有効量は、計算したIC50の約1倍〜50倍であり、時には計算したIC50の約2倍〜40倍、約3倍〜30倍、又は約4倍〜20倍である。他の実施形態では、有効量は計算したIC50と同一であり、ある実施形態では、有効量は計算したIC50を超える量である。
【0134】
有効量は、計算したEC50の100倍を上回ることはない。例えば、投与される抗c−Met抗体の量は、計算したEC50の約100倍未満、約50倍未満、約40倍、35倍、30倍又は25倍未満であり、多くの実施形態では、約20倍未満、約15倍未満であり、約10倍、9倍、8倍、7倍、6倍、5倍、4倍、3倍、2倍又は1倍未満でもある。有効量は、計算したEC50の約1倍〜30倍であってもよく、時には計算したEC50の約1倍〜20倍又は約1倍〜10倍である。有効量はまた、計算したEC50と同一であるか、又は計算したEC50を上回ってもよい。IC50は、生体外での細胞移動/浸潤の阻害によって計算され得る。手順は、本技術分野で公知の方法又は以下の実施例に記載の方法によって実行され得る。
【0135】
用量及び/又は用量計画の有効量は、アッセイ、安全性・段階的増加・用量範囲試験、個別の臨床医−患者の関係、並びにインビトロアッセイ及びインビボアッセイから経験的に容易に決定され得る。
【0136】
診断方法
本開示は、対象内の生体試料又は対象から単離した試料でc−Met(例えば、全長又はフラグメント)を検出する方法を提供する。本方法は、診断目的及び予後目的の両方に有用である。本発明の方法では一般的に、細胞を含む試料を本開示の抗体と接触させて、抗体を試料内の細胞に結合させる。細胞は生体外に存在してもよく、その場合、細胞は、癌細胞を有する疑いのある対象、癌治療を受けている対象、又は治療に対する脆弱性の検査を受けている対象から得た生体試料中に存在する。細胞は生体内に存在してもよく、例えば、細胞は、癌細胞を有する疑いのある対象、治療を受けている対象、又は治療に対する脆弱性の検査を受けている対象内に存在する。
【0137】
抗体は、癌性細胞を有する対象又は癌性細胞を有する疑いのある対象の生体試料中でc−Metを発現する細胞を、免疫診断技術を利用して検出するために使用され得る。このような診断は、以下に開示されている治療に適用可能な患者を識別するために、及び/又は治療に対する応答を監視するために有用であり得る。
【0138】
好適な免疫診断技術には、インビトロ(撮像)方法及びインビボ(撮像)方法の両方が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。例えば、抗c−Met抗体を検出可能に標識化し、c−Metの細胞表面での発現によって特徴付けられる癌であって、本技術分野で利用可能な撮像方法を使用して検出される検出可能に標識化された抗体に結合される癌を有する疑いのある対象に投与することができる。
【0139】
本明細書に使用されている用語「インビボ撮像」とは、完全な生きている哺乳動物内の抗体(例えば、検出可能に標識化されたクローン21)の存在を検出する方法を意味する。蛍光抗体及びルシフェラーゼ抱合抗体等の光学的に検出可能なタンパク質は、インビボ撮像によって検出され得る。生きている動物内の蛍光タンパク質のインビボ撮像は、例えば、ホフマン(Hoffman)著,「細胞死及び細胞分化(Cell Death and Differentiation)」,2002年,9巻,p.786−789に記載されている。インビボ撮像を使用して哺乳動物の2次元画像及び3次元画像を提供することができる。電荷結合素子カメラ、CMOS又は3次元断層撮像を使用してインビボ撮像を行ってもよい。例えば、バーデット ジェイイー(Burdette JE)著,「分子内分泌学のジャーナル(Journal of Mol.Endocrin.)」,2008年,40巻,p.253−261は、コンピュータ断層撮像、磁気共鳴画像法、超音波検査、陽電子放出断層撮像、単光子放出コンピュータ断層撮像(SPECT)等の利用を検討している。上述した方法等の多くのインビボ撮像方法からの情報により、対象における癌細胞の情報が与えられる。
【0140】
方法がインビトロ方法である場合、生体試料は、癌細胞が存在し得るあらゆる生体試料であってもよく、(全血、血清等を含む)血液試料、組織、全細胞(例えば、完全な細胞)、及び組織又は細胞抽出物が含まれるが、これらに限定されない。例えば、アッセイは、生細胞又は組織学的組織試料内の細胞上でのc−Metの検出を伴ってもよい。
【0141】
特には検出は、生細胞の細胞外表面上で評価され得る。例えば、組織試料は、(例えばホルマリン処理によって)固定されてもよく、支持体(例えばパラフィン)に埋め込まれるか、又は未固定組織を凍結させて提供されてもよい。
【0142】
アッセイは、競合、直接反応又はサンドイッチ型アッセイ等、幅広い種類の形態で行われ得る。アッセイの例には、ウエスタンブロット、凝集試験、酵素結合免疫測定アッセイ(ELISA)等の酵素標的化・媒介性免疫アッセイ、ビオチン/アビジン型アッセイ、放射免疫アッセイ、免疫電気泳動法、免疫沈降法等が含まれる。反応には一般的に、抗体に抱合された検出可能な標識が含まれる。標識には、蛍光、化学発光、放射能、酵素及び/若しくは染料分子、又は、試料中の抗原と、抗原と反応する一又は複数の抗体との複合体の形成を検出するための他の方法等が挙げられる。
【0143】
固体支持体を使用する場合、抗体が固体支持体に十分に固定されるように、まず、固体支持体を通常、好適な結合条件下で固相構成要素と反応させる。時には、より良好な結合特性を有するタンパク質、又は抗体の結合活性若しくは特異性を著しく損失することなく支持体上への抗体の固定化を提供するタンパク質に抗体をまず結合させることによって支持体への固定を強化することができる。好適な結合タンパク質には、ウシ血清アルブミン(BSA)を含む血清アルブミン等の巨大分子、キーホールリンペットヘモシアニン、免疫グロブリン分子、チログロブリン、オボアルブミン、及び当業者に周知の他のタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。抗体を支持体に結合するために使用可能な他の分子には、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマー等が挙げられるが、抗体を固定するために使用される分子が、抗原に特異的に結合する抗体の能力に悪影響を及ぼさないことを条件とする。このような分子、及びこのような分子を抗体に結合する方法は当業者に周知である。
【0144】
ELISA法を使用することが可能であり、その場合、マイクロタイタープレートのウェルを本発明の抗体でコーティングする。次に、c−Metを含むか、又はc−Metを含む疑いのある生体試料をコーティングされたウェルに添加する。抗体結合を可能にするための十分な培養期間の後、一又は複数のプレートを洗浄して非結合部分を除去し、検出可能に標的化した二次結合分子を添加してもよい。二次結合分子を任意の捕捉した抗原と反応させ、プレートを洗浄し、本技術分野で周知の方法を使用して二次結合分子の有無を検出する。
【0145】
所望であれば、生体試料中の結合されたc−Metの有無を、抗体リガンドに向けられた抗体を含む二次結合剤を使用して容易に検出することができる。例えば、当業者に公知である方法を使用して、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ又はウレアーゼ等の検出可能な酵素標識に容易に抱合することができる多くの抗ウシ免疫グロブリン(Ig)分子が本技術分野では公知である。次に、適切な酵素基質が、検出可能な信号を生成するために使用される。別の関連する実施形態では、競合型ELISA技術が、当業者に公知の方法を使用して採用され得る。
【0146】
アッセイは、抗体及び抗原が沈殿条件下で複合体を形成するように溶液中で行われてもよい。抗体がコーティングされた粒子を、好適な結合条件下で標的抗原を含む疑いのある生体試料と接触させて、洗浄及び/又は遠心分離を使用して沈殿させて試料から分離することができる粒子−抗体−抗原の複合凝集体を形成することが可能である。例えば、上述した免疫診断法のような多くの標準的な方法のうち任意の方法を使用して反応混合物を分析して、抗体−抗原の複合体の有無を判断することができる。
【0147】
或いは、生細胞中の細胞取り込みについてのアッセイは、癌性細胞を確実に識別する別の診断技術であってもよい。本発明の抗体は、c−Metを発現する細胞によって特異的に取り込まれるため、該細胞に抗体を取り込ませることが可能であり、取り込まれない抗体は洗い流され得る(例えば、酸洗浄)。取り込まれた抗体は、細胞に含まれる抗体の標識を介して検出可能である(例えば、FACS、分光計、放射性同位体計数等)。
【0148】
本明細書に記載の診断アッセイは、対象が、抗体に基づく治療にある程度適用可能な癌を有するか否かの判断のため、及び対象における治療の進行の監視のために使用され得る。前記診断アッセイは、他の組み合わせ治療の経過を評価するためにも使用され得る。従って、診断アッセイにより、臨床医による治療法の選択及び治療計画が提示され得る。
【0149】
本開示の抗体を含む、上述したアッセイの試薬は、上述した免疫アッセイを行うために、好適な説明書及び他の必要な試薬と共にキットで提供されてもよい。キットは、使用される特定の免疫アッセイに応じて好適な標識及び他のパッケージ化された試薬及び物質(すなわち、洗浄緩衝液等)を含んでもよい。上述したアッセイ等の標準的な免疫アッセイはこれらのキットを使用して行われ得る。
【0150】
キット及びシステム
上述したように、本方法を行うために使用されるキット及びシステムが更に提供される。例えば、キット及びシステムは、抗c−Met抗体(例えば、クローン20又はクローン21)、抗c−Met抗体をコードする核酸(特には、上述した本発明の任意の抗体の重鎖及び/又は軽鎖のCDRをコードする核酸)、又は抗c−Met抗体を含む細胞等、本明細書に記載の組成物の一又は複数を含むことができる。キットの他の任意の構成要素には、本発明の抗体を投与するため、及び/又は診断アッセイを行うための緩衝液等が含まれる。キットの組み換え核酸は、核酸の定常領域への連結を促進するために、制限部位、多重クローニング部位、プライマー部位等を含んでもよい。キットの種々の構成要素は別個の容器内に備えられてもよく、又はある適合性構成要素は、所望であれば単一の容器内で事前に混合されてもよい。
【0151】
本方法を行うためのキット及びシステムは、本明細書に記載されている抗体の構成要素を含む1つ以上の薬学的製剤を含んでもよい。このようにして、キットには、1つ以上の単位投与量として単一の薬学的組成物が含まれてもよい。キットはまた、2つ以上の別個の薬学的組成物を含んでもよい。
【0152】
上述した構成要素に加えて、キットは、本方法を行うための説明書を更に含んでもよい。これらの説明書は、キット内に種々の形態で備えられてもよく、説明書の一又は複数がキット内に又はキット上に備えられてもよい。これらの説明書が備えられ得る1つの形態は、好適な媒体又は基材上の印刷情報であり、例えば、情報が印刷される一又は複数の紙片、キットの包装体の中若しくは上、又は添付文書等の印刷情報である。更なる別の手段は、情報が記録されているコンピュータ可読媒体であり、例えば、ディスケット、CD等である。存在し得る更なる別の手段は、離れた場所で情報にアクセスするためにインターネットを介して使用可能なウェブサイトのアドレスである。あらゆる簡便な手段をキット内に設けることが可能である。
【0153】
キットは、細胞増殖性疾患を患う宿主を治療する際に使用され得る。キットには、c−Metに特異的な抗体を含む薬学的組成物と、対象内の癌細胞の増殖を阻害することによって癌症状を患う宿主を治療する方法における薬学的組成物の効果的な使用のための説明書とが含まれる。このような説明書には、適切な取扱特性、投与計画及び投与の方法等が含まれるだけでなく、対象をc−Met関連疾患に関して任意でスクリーニングするための説明書をも含まれ得る。この態様は、癌の種類及び成長段階に応じた治療の時期及び期間を含む、本開示の抗体を用いた治療に対する対象の反応性の可能性をキットの使用者が判断することを支援する。従って、別の実施形態では、キットは、細胞外でアクセス可能な癌細胞の表面上でc−Metのエピトープを検出するための抗体又は他の試薬を更に含んでもよい。別の実施形態では、キットには、フルオロフォア等の検出可能な標識との抱合体を含む抗体が含まれる。
【0154】
本明細書に採用される用語「システム」は、本方法を行うために共に組み合わされ、単一の又は異なる組成物中に存在する、本明細書に記載の抗体及び1つ以上の第2の治療剤の集合体を意味する。例えば、共に組み合わせられて対象に投与され、別個に得られた、c−Metに特異的な抗体及び化学療法剤の投与形態は本開示に係るシステムである。
【0155】
以下の実施例は、本発明を作製して使用する方法の全ての開示及び説明を当業者に提供するために提示されており、本発明としてみなされるものの範囲を制限することを意図するものではない。
【0156】
実験的方法
細胞系及び培養
PC3(前立腺癌)、H1993、H460、H441、A549及びCL1−5を含むヒト肺癌細胞を、37℃で5%のCO2 を含む加湿雰囲気下で10%のFBS(Invitrogen社)を含有するRPMI1640中で増殖させた。SAS(口腔癌)、HCT116(結腸癌)、Mahlavu(肝臓癌)、NPC−TW04(鼻咽頭癌)(リー(Lee)等著,「癌研究(Cancer Res)」,2004年,64巻,p.8002−8008)、PaCa(膵臓癌)、U2OS(骨肉腫)及び293Tを10%のFBSと共にDMEM上で増殖させた。A498(腎細胞癌)をMEM中で培養した。MDA−MB231(乳癌)を、10%のCO2 雰囲気下で50%のDMEMと混合したF12培地で培養した。CL1−5は、シュー(Chu)等著,「アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・セル・アンド・モレキュラー・バイオロジー(Am J Respir Cell Mol Biol)」,1997年,17巻,p.353−360によって確立された。Mahlavu(肝臓癌)は、シャオ エム(Hsiao M)博士(GRC,アカデミア シニカ(Academia Sinica),台湾)から寄贈された。他の細胞系をアメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)から入手した。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)及びヒト正常鼻粘膜(NNM)細胞の調製は、過去の研究(リー(Lee)等著,「癌研究(Cancer Res)」,2007年,67巻,p.10958−10965、及びリー(Lee)等著,「癌研究(Cancer Res)」,2004年,64巻,p.8002−8008に記載されている。
【0157】
ファージディスプレイされたヒトナイーブscFvライブラリの構築
簡単に言うと、SuperscriptIII逆転写酵素(Invitrogen社)を使用してオリゴdTプライマーによって7個の個別のヒト脾細胞の試料のmRNA混合物からcDNAを合成した。VH 及びVL の遺伝子を、PCRによってPfuUltraポリメラーゼ(EMD Biosciences社)を使用して特異的プライマーで増幅した(マークス(Marks)等著,1991年)。PCR産物を、核酸精製キット(Qiagene社)を使用してアガロースゲルから単離して精製した。VH 及びVL 遺伝子コード領域を夫々、(GGGGS)3 アミノ酸残基をコードするDNAフラグメントによって5’(SfiI)及び3’(NotI)末端に特異的制限酵素部位を含むプライマーを使用してPCRによって集めた。集めた生成物を、SfiI及びNotI(NEB社)によって制限酵素で消化させ、続いてpCANTAB−5Eファージミドベクター(GE Healthcare社)に連結させた。ヒトscFv遺伝子含有pCANTAB−5Eベクターを、コンピテントTG1大腸菌細胞内へ電気泳動させた。電気泳動後、TG1大腸菌細胞を回収し、100μg/mlのアンピシリン及び2%のグルコース(2YT−AG)を含有する2YT培地(BD社)で培養を継続した。TG1細胞をM13KO7ファージによって救出し、次にscFvを提示するファージ粒子を培養培地で生成した。
【0158】
ライブラリバイオパニングによるファージディスプレイされた抗c−MetのscFvの選択
特異的な抗c−MetのscFvを提示するファージの選択を、タンパク質Gダイナビーズ(Invitrogen社)によって行った。c−Met−Fc組み換えタンパク質(R&D社)を、室温(RT)で1時間タンパク質Gダイナビーズと共に培養した。scFvライブラリ(2×109 個の要素)を、タンパク質Gダイナビーズ中で非特異的結合に関してサブトラクトし、続いて4℃で1時間ダイナビーズに固定したc−Met−Fcと共に培養した。非結合ファージを、PBSTで4回洗浄することにより除去した。c−Met−Fcに結合したファージを、37℃で30分間、大腸菌TG1細胞で感染させることによって回収した。感染した細胞の一部を連続希釈して力価を判定し、その他の部分をM13KO7ヘルパーファージ(NEB社)によって救出した。救出したファージの力価を判定した後、次の回のバイオパニングを行った。4回目及び5回目のバイオパニングでは、ファージクローンを無作為に選択してELISAスクリーニングのために培養した。
【0159】
c−Metを過剰発現する293T細胞への選択されたファージクローンの結合特異性の評価
免疫蛍光染色アッセイのために、293T細胞を80%の密集度までカバースリップ上で増殖させた。pEF−c−Met発現ベクターでの細胞のトランスフェクションを、製造業者の説明書に従ってリポフェクトアミン2000(Invitrogen社)を使用して行った。トランスフェクションの48時間後、細胞を、4℃で30分間1×1010のファージ力価で、選択された抗c−Metファージ又は対照ファージと共に培養した。細胞をPBSで2回洗浄した後、細胞を4%のパラホルムアルデヒドによって固定し、0.1%のTritonX−100で透過処理して3%のBSAでブロッキングした。細胞をウサギ抗myc抗体(Sigma−Aldrich社)及びマウス抗M13ファージ抗体を使用してプローブし、続いてローダミン標識化ヤギ抗ウサギIgG及びFITC標識化抗マウスIgGで夫々染色した。核をDAPIで染色した。蛍光画像を倒立型蛍光顕微鏡(Zeiss社製のAxiovert200M)によって捕捉した。
【0160】
フローサイトメトリー分析のために、上述したように、293T細胞を80%の密集度まで増殖させ、pEF−c−Met発現ベクターでトランスフェクトした。48時間後、トランスフェクトした細胞を0.05%のトリプシン−EDTAによって採取し、FACS緩衝液(1%のウシ胎児血清を含有するPBS)中で4℃で1時間1×1010のファージ力価によって、選択したファージ又は対照ファージと共に培養した。FACS緩衝液で細胞を洗浄した後、細胞を4℃で1時間マウス抗M13ファージ抗体と共に培養し、続いて4℃で30分間R−フィコエリトリン抱合型ヤギ抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch社)と共に培養した。分析をFACSCantoII(BD社)を使用して行い、蛍光強度をFACSDivaソフトウェア(BD社)によって測定して結合親和性を定量的に比較した。
【0161】
可溶性scFvの発現及び精製
抗c−MetのscFvファージクローン1、20及び21を大腸菌株HB2151に個別に感染させ、細菌のペリプラズム抽出物を調製した。可溶性scFvを、製造業者の説明書に従ってタンパク質Lアガロースカラム(Thermo Scientific社)によってペリプラズム抽出物中で精製した。精製したscFvをPBSと共に完全に透析し、還元SDS−PAGE、続いてクマシーブルー染色及びウエスタンブロット分析によって抗Eタグ抗体(GE Healthcare社)を使用してプローブすることにより分析した。
【0162】
ヒトc−Met遺伝子をコードする哺乳類発現ベクターの構築
全ヒトc−MetcDNA(NM_001127500.1)を、SuperscriptIII逆転写酵素を使用して特異的プライマーによってHepG2細胞の全RNAから合成し、次にPCRの鋳型として使用した。c−Metの全長をコードするDNAをPCRによってPfuUltra酵素を用いて増幅し、インフレームでmycタグエピトープpEFベクター(Invitrogen社)と連結させ、pEF−c−Met−mycを生成した。c−Metのアミノ酸残基1〜932及び1〜567をコードするDNAフラグメントをPCRによって増幅してpEFベクターにクローニングし、pEF−c−MetF932 及びpEF−c−MetF567 を夫々作製した。ヒトIgG1 のFcのコード領域をヒト脾細胞cDNAライブラリから得て、続いてc−MetF932 及びc−MetF567 のカルボキシル末端にインフレームでクローニングし、pEF−c−MetF932 −Fc及びpEF−c−MetF567 −Fcを夫々生成した。
【0163】
c−Met切断型組み換えタンパク質の生成及び精製
c−MetF932 −Fc及びc−MetF567 −Fc融合タンパク質を、リポフェクトアミン2000を使用してpEF−c−MetF932 −Fc又はc−MetF567 −Fcと共に一過性にトランスフェクトした293T細胞の培養上清から調製した。トランスフェクションの72時間後、濾過した上清を1mlのタンパク質Gアガロースカラム(GE Healthcare社)に適用した。PBSで洗浄した後、結合したタンパク質をpH2.8の0.1Mグリシン−HClで溶出し、続いてpH9.1の1Mトリス−HClで中和した。溶出液をPBSと共に完全に透析し、Amicon Ultra−4遠心式フィルター(カットオフ10kDa、Millipore社)を使用して濃縮した。
【0164】
共焦点顕微鏡によって見られる抗c−MetのscFvの取込み
H1993、H460及びc−MetノックダウンH460の細胞をカバースリップに播種し、80%の密集度まで増殖させた。細胞を、4℃及び37℃で30分間抗c−MetのscFvであるS1又はS20と共に培養した。PBSで2回洗浄した後、細胞を、4%のパラホルムアルデヒドによって固定し、3%のBSAを添加することによってブロッキングした。細胞を抗Flag抗体(Sigma−Aldrich社)により染色し、次いでFITC標識化ヤギ抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch社)及びDAPI(Invitrogen社)を使用してプローブした。全ての蛍光画像を共焦点顕微鏡(Leica社製のTCS−SP5)により得た。
【0165】
抗c−MetのscFv20−cys(Ms20)を生成するための原核生物発現ベクターの構築
Eタグ及びpIII DNAフラグメントをNotI−EcoRI酵素消化を介してpCANTAB−5Eから除去し、FLAGタグ、ヘキサヒスチジン及びシステイン残基をコードして合成されたDNAフラグメントをNotI−EcoRI部位を通じて挿入することによって原核生物発現ベクターであるpFHCを生成した。pCANTAB−5E−S20から消化した抗c−MetのS20遺伝子を、NcoI−NotI部位を介してpFHCベクターに連結させた。構築したベクターを大腸菌BL21(Novagen)内に形質転換して、カルボキシル末端にヘキサヒスチジン及びシステインを含むscFvを発現させた。
【0166】
抗c−MetのscFv20−cys(Ms20)の発現及び精製
大腸菌BL21の単一コロニーを、100μg/mlのアンピシリン(TB−A)を含有するTerrific Broth(TB、MDBio社,台湾)に植え付け、30℃で一晩培養した。一晩の培養物の1/50体積希釈物を、30℃で新鮮な2.5リットルのTB−A中でOD600が0.5に達するまで増殖させた。培養IPTGを最終濃度0.4mMまで添加して0.4MのスクロースをTB−Aに直接溶解することによって培養を開始した。培養を、30℃で16時間250rpmで振動させながら継続した。
【0167】
上清を30分間20,000×gでの遠心分離によって除去し、次いで細菌ペレットを低温の200mlのTES緩衝液(10mMトリス、20%スクロース及び1mMのEDTA、pH8.0、EMD Biosciences社)中に再懸濁し、4℃で1時間穏やかに攪拌しながら培養した。浸透圧衝撃画分を、30分間22,000×gでの遠心分離によって収集した。氷冷の5mMのMgSO4 中で1時間穏やかに振動させながらペレットを培養することによってペリプラズム抽出物を得た。
【0168】
Ms20を最大限回収するために、浸透圧衝撃画分及びペリプラズム抽出物を組み合わせ、組み合わせた試料に、0.5Mの最終濃度までNaClを添加し、0.5mMの最終濃度までイミダゾールを添加した。5mlのNi+ −NTAセファロースカラム(GE Healthcare社)を15mlの結合緩衝液(20mMトリス、0.5MのNaCl及び5mMイミダゾール、pH7.9)で平衡化し、続いて試料を充填した。結合したMs20を溶出緩衝液(20mMトリス、0.5MのNaCl及び1Mイミダゾール、pH7.9)で溶出した。溶出液を2回交換して4℃でPBSに対して完全に透析した。透析後、試料をタンパク質Aアガロースカラム(2ml)(GE Healthcare社)で再精製した。再精製したMs20を2回交換して、HEPES緩衝液(20mMのHEPES、150mMのNaCl及び1mMのEDTA、pH7.0)に対して透析し、次いで10kDaのカットオフ管(Millipore社製のAmicon Ultra)によって濃縮した。
【0169】
結合動態の測定
抗c−MetのscFvの親和性及び動態をSRP in BIAcore X(GE Healthcare社)によって測定した。BIAcoreフローセルでは、30μg/mlのc−MetF932 −Fcタンパク質をEDC−及びNHS−活性化CM5センサーチップに結合させ、続いて製造業者の指示に従ってエタノールアミンでブロッキングした。結合相及び解離相を夫々、濃度5〜200nMの範囲内のscFvを使用して30μl/分の連続フロー下で3分間及び5分間監視した。再生緩衝液(0.2MのNaCl、10mMのグリシン、pH2.7)の注入によって再生を行った。結合定数を決定するために、BIAevaluationソフトウェア(GE Healthcare社)を使用してセンサグラムを試料1:1相互作用モデルに全体的に適合させた。
【0170】
競合的結合アッセイ
scFvの阻害効果を監視するために、c−MetF932 −Fcタンパク質を96ウェルプレートにコーティングし、非特異的結合剤をPBS中の3%のBSAでブロッキングした。種々の濃度の抗c−MetのscFv又は正常マウスIgGを加えた1nMのヒトHGF(R&D社)をウェルに適用させた。c−Metに結合したHGFの量をヤギ抗ヒトHGF(R&D社)を使用して決定し、HRP標識化マウス抗ヤギIgG(Jackson ImmunoResearch社)及びH2 2 を加えたOPD基質(Sigma)を培養した。吸光度を、マイクロプレートリーダーを使用して490nmで測定した。阻害パーセンテージを以下の式によって計算した。[(競合物質なしで結合したHGFの吸光度)−(競合物質ありで結合したHGFの吸光度)]/(競合物質なしで結合したHGFの吸光度)×100%。
【0171】
Ms20標的化リポソームドキソルビシン(Ms20−LD)の構築
精製されたMs20が抱合のためにチオール基を確実に還元させるべく、2mMのTCEP(トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン、Sigma−Aldrich社)を室温で2時間N2 の雰囲気下で処理し、Ms20の分子間ジスルフィド結合を還元した。還元したMs20を、HEPES緩衝液により溶出したHiTrapG−25カラム(GE Healthcare社)によって脱塩した。マレイミド−カルボキシルポリエチレングリコール(Mr 2,000)誘導ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(マレイミド−PEG−DSPE、NOF Corporation,日本)のペグ化リポソームドキソルビシンへの取り込み(リー(Lee)等著,2004年、ロー(Lo)等著,2008年)を以下に説明する。マレイミド−PEG−DSPEをHEPES緩衝液中に溶解し、リポソームリン脂質の0.5モル%でLDに添加し、混合物を60℃で1時間穏やかに振動させながら培養した。還元したMs20を、抱合化のために4℃で一晩マレイミド−PEG−DSPEを挿入したLDと共に培養し、1個のリポソーム中に約60個のMs20分子を生成した。2−メルカプトエタノール(2mMの最終濃度)を使用して未反応マレイミド基を不活性化させた後、セファロース4B(GE Healthcare社)ゲル濾過クロマトグラフィーを使用して、放出された遊離薬物、非抱合scFv及び組み込まれなかった抱合体を除去した。溶出液の画分中のドキソルビシン濃度を、蛍光分光計(Molecular Devices社製のSpectra Max M5)を使用してλEx/Em =485/590nmで測定した。Ms20−LD画分を還元SDS−PAGEによって分離し、抱合効率の推定のために硝酸銀で染色した。
【0172】
ヒト肺癌細胞へのMs20−LD結合の識別
細胞を90%の密集度まで12ウェルプレート上で増殖させた。平板培養された細胞を、4℃で1時間LD又はMs20−LD(0.625−10μg/mlのドキソルビシン)の連続希釈物と共に培養した。培養後、細胞をPBSで洗浄し、200μlの1%Triton X−100で溶解した。ドキソルビシンを抽出するために、300μlのIPA(イソプロパノール中の0.75NのHCl)を溶解物に添加し、30分間振動させた。溶解物を12,000rpmで5分間遠心分離した後、ドキソルビシンについて、λEx/Em =485/590nmで蛍光分光計によって上清を測定した。ドキソルビシンの濃度を、標準曲線を使用して内挿法によって計算した。
【0173】
ヒト癌細胞によるMs20−LDの取り込み
腫瘍細胞を12ウェルプレート上で90%の密集度まで増殖させ、完全培養培地中の2.5μg/mlのMs20−LD又はLDを添加し、培養を37℃で指定時間継続した。細胞をPBSで洗浄した後、細胞表面上のMs20−LD及びLDを10分間pH2.8の0.1Mのグリシンによって除去した。細胞によるドキソルビシンの取り込み量を上述したように検出した。
【0174】
Ms20−LDの細胞取り込みについての共焦点顕微鏡分析
H1993細胞を中程度の密集度までカバースリップ上で増殖させた。細胞を、37℃で種々の期間2.5μg/mlのMs20−LD又はLDを含む完全培養培地で培養した。PBSで2回洗浄した後、細胞を4%のパラホルムアルデヒドで固定し、3%のBSAを添加することによりブロッキングした。細胞膜及び核を夫々、Alexa Fluor647抱合化コムギ胚芽凝集素(Invitrogen社)及びDAPI(Invitrogen社)で染色した。細胞内ドキソルビシンをλEx/Em =485/590nmで蛍光により検出した。全ての蛍光画像をレーザー走査共焦点顕微鏡(Leica社製のTCS−SP5)により捕捉し、LAS AFソフトウェア(Leica社)で分析した。
【0175】
細胞生存率アッセイ
細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たり3,000個で播種し、37℃で24時間種々の濃度(0〜20μg/ml)で培養培地(10%FBS)においてMS20−LD又はLDと共に培養した。過剰な薬物を除去した後、細胞をPBSで1回洗浄し、37℃で48時間培養培地で培養を継続した。細胞生存率をMTT(Invitrogen社)アッセイにより検出した。細胞を、37℃で2.5時間0.1mg/mlのMTTを含有する培養培地で培養した。次に、ホルマザンの結晶をDMSO(Sigma−Aldrich社)中に溶解し、吸光度をマイクロプレートリーダー(BioRad社製のModel680)を使用して540nmで測定した。各アッセイを3回繰り返した。データは、未処置の対照細胞と比較した生存細胞の割合として提示された。
【0176】
インビトロ細胞アポトーシス研究
H1993細胞を24ウェルプレート上に播種して一晩接着させ、次いで10%のFBSを含有するRPMI1640中で2.5μg/mlのMs20−LD又はLDと共に個別に培養した。24、48及び72時間薬物と共に培養した後、細胞を溶解緩衝液(Cell Signaling社)から採取し、ウエスタンブロットアッセイに供した。ウサギ抗切断型カスパーゼ9(Asp315)、ウサギ抗切断型カスパーゼ3(Asp175)、ウサギ抗PARP(全てCell Signaling社から購入)及びマウス抗α−チューブリン(Sigma−Aldrich社)の抗体を使用した。化学発光信号を、BioSpectrum600撮像システム(UVP社)を使用して検出し、VisionWorksLS ソフトウェア(UVP社)で定量化した。
【0177】
scFv抱合型量子ドット(QD)の合成
Qdot705及びQdot800ITKアミノPEG量子ドット(Invitrogen社)を夫々、インビトロ細胞結合及びインビボ撮像のために本研究に使用した。リガンド抱合型QDの合成手順を過去の報告書(カイ(Cai)及びチェン(Chen)著,「ネイチャー・プロトコル(Nat Protoc)」,2008年,3巻,p.89−96)から修正した。簡単に言うと、QDをスルホ−SMCC(スルホシクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸塩、Pierce)と抱合してQD上にマレイミド活性化表面を生成し、遊離スルホ−SMCCをNAP−10脱塩カラム(GE Healthcare社)によって除去した。Ms20をTCEPによって還元してカルボキシ末端に活性化チオール基を生じさせ、続いて4℃で一晩マレイミド官能化QDと共に培養した。Ms20抱合型QDを、HEPES緩衝液で溶出したセファロース4Bゲル濾過クロマトグラフィーを使用して精製した。QDの濃度を蛍光分光計で調べ、標準曲線を使用して内挿法によって計算した。
【0178】
ヒト腫瘍異種移植片のインビボ蛍光撮像
6匹の12週齢のSCID雄性マウスに2×106 個のH1993細胞を皮下移植した。腫瘍寸法が約300mm3 に達すると、マウスを無作為に2つの群に分け(各群に3匹のマウス)、400pmoleのMs20−QD又はQDを夫々静脈内注入した。マウスがイソフルラン麻酔下にある間、Xenogen社のIVIS200撮像システム(励起:525/50nm、放出:832/65nm)を使用して指定時間に蛍光画像を撮像した。撮像期間の最後にマウスを頸椎脱臼によって屠殺した。器官及び腫瘍をマウスから摘出して蛍光撮像に供した。Ms20−QDの腫瘍の蓄積をQDの蓄積と定量的に比較するために、蛍光強度を、Living imageソフトウェア(Xenogen社)を使用して背景を引き出すことによって計算した。
【0179】
インビボファージ標的化アッセイのための動物モデル
6匹のSCIDマウス(6週齢)に5×106 個の肺癌細胞を注入した。腫瘍が約300mm3 に達すると、マウスを無作為に2つの群(各群に3匹のマウス)に分け、2×109 コロニー形成単位(cfu)の抗c−MetのscFvファージクローン20又は対照ファージを静脈内注入した。50mlのPBSで灌流した後、器官及び腫瘍組織を除去し、低温PBSで洗浄して計量した。腫瘍組織に結合したファージを、TG1を増殖させることにより回収し、溶出したファージに対する力価を測定した。
【0180】
ヒト腫瘍を有するマウスの標的ファージの組織分布を、Super Sensitive Polymer−HRP IHC Detection System(BioGenex社)を使用して免疫組織学により評価した。パラフィンを埋め込んだ組織標本をマウス抗M13抗体で染色し、SuperEnhancer試薬及びポリマー西洋ワサビペルオキシダーゼ標識化抗マウスIgGと共に培養した。PBST(PBS中の0.1%のTween20)で洗浄した後、区分を0.01%のH2 2 を加えた3,3’−ジアミノ−ベンジジン(DAB)溶液に浸漬してPBSTで洗浄した。組織区分を、ヘマトキシリンで対比染色し、PBS中の50%グリセロールと共に載置し、正立顕微鏡を使用して調べた(Zeiss社製のAxioplan 2 Imaging MOT)。動物の世話に関しては、アカデミア シニカ(Academia Sinica),台北市,台湾の指針に従った。
【0181】
scFv標的化療法による抗腫瘍効果の測定のための動物モデル
H460由来の肺癌異種移植片(約75mm3 )を有するSCIDマウスに、Ms20−LD、LD又は等量のPBSを4mg/kgの総ドキソルビシン用量(1mg/kg、週1回)で尾静脈に静脈内注入した。腫瘍をキャリパーで毎週2回測定し、薬物毒性の症状としての体重減少に関して日常的に観察した。腫瘍体積を、長さ×(幅)2 ×0.52の式に従って計算した。
【0182】
末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼ媒介のdUTP切断末端標識(TUNEL)アッセイ
処置したマウスから腫瘍を除去し、液体窒素中でO.C.T化合物(Tissue−Tek)に埋め込んだ。凍結した腫瘍組織区分を調製し、製造業者の説明書(Roche Diagnostics社)に従ってTUNEL試薬で処理し、DAPIによって対比染色した。全区分を、TissueFAXS System顕微鏡(TissueGnostics社)を使用して走査した。DAPIを全細胞の識別についてのマスターチャネルとして設定することにより、細胞の反応性をMetaMorphソフトウェア(Molecular Devices社)によって定量化した。
【0183】
腫瘍血管の染色
凍結腫瘍組織から区分を調製した。区分を1%のパラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄し、正常ウマ血清(Vector Laboratories社)中でブロッキングし、ラット抗マウスCD31(BD社)と共に培養した。0.1%のTween20を含有するPBSで洗浄した後、区分をAlexaFluor594抱合型抗IgG(Invitrogen社)で浸漬した。区分をTissueFAXS System顕微鏡によって走査し、蛍光画像をMetaMorphによって分析した。
【0184】
実施例1
c−Metに結合するファージディスプレイされたscFvの識別
c−Met結合scFvを選択するために、2×109 の要素を含む、ファージディスプレイされたヒトナイーブscFvライブラリを構築した。c−Met抱合ダイナビーズによってc−Met結合ファージを選択する前に、まずダイナビーズ結合ファージをライブラリから除去した。5回の親和性選択の後、5回目のファージ回収は1回目のファージ回収の約1000倍に増加した(図1A)。59個のファージクローンを無作為に選択し、ELISAによってc−Met結合について試験した。14個のファージクローンがc−Met−Fcタンパク質に対して優れた結合活性を有することがわかった(A490 >0.2)。対照ファージ(Con−P)を陰性対照として使用した。c−Metに特異的に結合したが、VEGFR2及びBSA対照タンパク質には結合しなかった16個のクローンを識別した(図1B)。全16個のクローンの配列を決定することによって、3つの固有の抗c−Metファージクローンを識別した(PC1、PC20及びPC21)。以下の表1参照。
【0185】
【表1】
【0186】
H ドメイン及びVL ドメインの両方に対する相補性決定領域1〜3(CDR1〜3)及びフレームワーク領域1〜4(FW1〜4)を上記の表1に示している。VドメインのファミリーをVBASE2データベース(www.vbase2.org)によって配列した。
【0187】
3つのファージクローンの特異性及び結合親和性を調べるために、同一のファージ力価を使用して競合的ELISAを行った。PC1は、PC20又はPC21のいずれよりも強力なc−Met結合親和性を有した(図1C)。3つのクローンを、ヒトc−Metを異所的に発現する293T細胞を使用してフローサイトメトリー及び免疫蛍光アッセイによって細胞表面のc−Metへの結合について評価した。ファージ粒子及び外因性c−Metの抗M13及び抗myc抗体による夫々の検出に続いて、ファージ粒子をc−Metを過剰発現する293T細胞と共に培養した。図1Eの代表画像は、c−Met−mycで共局在化された抗c−Metファージを表しており、c−Metを発現した細胞に対する結合特異性を示している。3つ全てのクローンは、過剰発現したc−Metを有する293T細胞に結合したが、293T細胞には結合しなかった(図1D及び図1E)。しかしながら、同様に、細胞c−Metに対するPC1の結合能力は、PC20及びPC21の結合能力より高かった。続いて、抗c−MetのscFvの動態定数を調査するために、c−Met932 −Fc組み換えタンパク質と、PC1、PC20及びPC21に夫々対応するS1、S20及びS21と称される可溶性抗c−MetのscFvとを生成した。可溶性c−Met932 −Fcタンパク質を、異所的にc−Met932 −Fcを発現する293T細胞の培養培地からタンパク質Gセファロースカラムを通して精製した(図8)。可溶性抗c−MetのscFvを、ファージ感染させた大腸菌HB2151のペリプラズム抽出物からタンパク質Lアガロースクロマトグラフィーによって精製し、タンパク質重量マーカーに対応して30kDaの周囲に局在化され、精製された抗c−MetのscFvタンパク質(S1、S20及びS21)を表すクマシーブルー染色によって評価した(図8の上パネル、パネルB)。
【0188】
c−Met932 −Fcタンパク質に対する各可溶性scFvの結合動態定数(Kon及びKoff )並びに親和性をSurfacePlasmonResonance(SPR)によって測定した。c−Met932 −Fcに対する各可溶性scFvのKd 値は、6.82〜14.9nMの範囲内であった。以下の表2参照。
【0189】
【表2】
【0190】
精製されたscFvを使用してBIAcoreのSRPによりKon及びKoff を測定し、Kd をBIAevaluationソフトウェアにより計算した。
【0191】
実施例2
ヒト癌及びVEGF刺激した内皮細胞に結合した抗c−MetのscFv
内因性c−Metに対する抗c−MetのscFvの結合活性をELISAにより癌細胞で分析した(図9A)。対照抗体と比較して、抗c−MetのS1及びS20のいずれも、SKOV3、Mahlavu、SAS、PC3、MDA−MB−231、HCT116、Paca−2、NPC−TW04、H1993の細胞を含む複数の種類のヒト癌細胞系に結合することがわかった。しかしながら、scFvは、A498、U2OS及びNNMの細胞とは反応しなかった。正常マウスIgGを対照抗体として使用した。FACS分析を実行して、抗c−MetのscFvの両方が、VEGFで刺激したHUVECにも結合したことを検証した。抗CD31抗体及び対照scFvを夫々、陽性対照及び陰性対照として使用した(図9B)。
【0192】
抗c−MetのscFvがヒト癌細胞上で内因性c−Metに特異的に結合することを更に確認するために、H460細胞及びc−MetノックダウンH460細胞をS1又はS20のいずれかの抗c−MetのscFvで染色し、FACS分析を実行した(図10、パネルB)。いずれのscFvもH460細胞に結合することができるが、scFvの結合活性はc−MetノックダウンH460細胞で劇的に減少した。β−チューブリンは陰性対照として機能し、*bkgは図10のパネルAにおける背景信号とみなす。
【0193】
実施例3
抗c−MetのscFvによる癌細胞に結合するHGFの競合
3つの抗c−MetのscFvがHGFのc−Metへの結合を阻害するか否かを検査するために、ヒト肺癌細胞系H1993を選択して競合的ELISAを行った(ルッターバッハ ビー(Lutterbach B)等著,「癌研究(Cancer Res)」,2007年,67巻,p.2081−2088。対照ファージ(Con−P)は、同一条件下で結合に影響を及ぼさなかった。競合物質なしでのH1993細胞へのHGFの結合を100%とみなした。H1993は、高レベルのc−Metを発現することが知られている。H1993細胞をファージクローンの存在下でHGFと共に培養した場合、H1993細胞へのHGFの結合は抗c−MetのscFvであるPC1によって90%を上回って減少した。PC20は、c−MetへのHGFの結合を50%を上回って阻害した(図2、パネルA)。異なる濃度の可溶性scFvによるHGFの競合的阻害も検査した。正常マウスIgG(NMIgG)を陰性対照として使用した。競合物質なしの固定化したc−Metタンパク質へのHGFの結合を100%とみなした。図2のパネルBに示されているように、c−MetへのHGFの結合活性は、S1及びS20によって用量依存的に阻害されたが、S21によってはごく僅かに阻害されただけであった。c−MetへのHGFの結合に対するIC50は、S1及びS20に関して夫々27.4nM及び249.5nMであった(図2、パネルB)。
【0194】
従って、c−MetのHGF結合ドメイン内に局在化された抗c−MetのscFvの結合エピトープを調査した。抗c−MetのscFvの結合能力を、c−Metの全細胞外ドメインを含むc−Met932 −Fcタンパク質、並びに、いずれもHGF結合領域として定義されているSema及びPSIドメインを含むc−Met567 −Fcタンパク質に関して調査した(図2、パネルC)。c−Met組み換えタンパク質をタイターウェルに固定化し、抗c−MetのscFvと共に培養した。抗c−Metポリクローナル抗体及び抗Eタグ抗体を夫々、陽性対照及び陰性対照として使用した。図2のパネルDに示されているように、S21では、c−Met932 −Fcに対する結合特性と比較してc−Met567 −Fcに対する結合活性が大幅に減少した。c−Met932 −Fcに対するS1の結合強度は、c−Met567 −Fcに対する結合強度と同様であった。S20は、c−Met932 −Fcに対する効率より低い効率でc−Met567 −Fcに結合した。これらの結果は、S1及びS20の結合エピトープがc−MetのHGF結合領域内に位置している一方、S21はIg様ドメインを通じてc−Metを認識していることを示している(図2、パネルD)。
【0195】
抗c−MetのscFvであるS1が優れた競合能力を示したため、S1が、癌細胞におけるc−Metを活性化するHGFに拮抗するか否かを調べた。A549細胞を37℃で15分間HGF及びS1共に共処理した。全細胞溶解物を、抗チロシンリン酸化c−Met抗体及びc−Metβ鎖(c−Met)に対する抗体を使用してウエスタンブロットに供した。リン酸化されたc−Metの定量化は、発光強度に基づき全c−Metで正規化された。HGF誘発されたc−Metのリン酸化は、S1によって抑制され、S1処理なしの癌細胞と比較してc−Metのリン酸化を65.7%阻害した(図2、パネルE)。
【0196】
実施例4
共焦点顕微鏡を使用した抗c−MetのscFvの取込みの検査
抗体の取込み能力は、抗体媒介型リポソーム薬の開発にとって重要である(サプラ(Sapra)及びアラン(Allen)著,「癌研究(Cancer Res)」,2002年,62巻,p.7190−7194。抗c−MetのscFvであるS1及びS20の取込み研究をH1993細胞で37℃で行った。scFvを抗Eタグ抗体で検出し、続いて細胞を固定して透過した後にFITC標識化二次抗体と共に培養した。細胞核をDAPIで染色した。共焦点顕微鏡は、scFvが4℃で細胞膜に結合し(図3A、a及びb)、scFvの取込みにより37℃で細胞質内で蛍光信号が発せられたことを示した(図3、パネルA、c及びd)。S20で処理したH1993細胞における蛍光信号の量はS1で処理した細胞より高く、S20の取込み能力がS1の取込み能力より優れていることを示唆している。低倍率では、S20の取込みがほとんどの癌細胞に観察された(図3、パネルA、e)。
【0197】
更に、S20の取り込みが細胞表面上でのc−Metの発現に依存するか否かを検証するために、取込み実験をH460細胞及びc−MetノックダウンH460細胞中で実行した。共焦点顕微鏡では、H460細胞の細胞質内にS20の蛍光信号が示された(図3、パネルB、a及びb)が、c−MetノックダウンH460細胞には示されなかった(図3、パネルB、c)。これらの結果は、抗c−MetのscFvであるS20が、c−Metを発現した癌細胞における特異的な取込みを表したことを示している。このように、S20を抗体媒介型の細胞内薬物送達の開発に使用することができる。
【0198】
実施例5
薬物結合、細胞内送達及び細胞毒性を向上させたMs20抱合型ナノ粒子
S20が、c−Metを発現する腫瘍細胞においてリポソーム薬物送達を促進するか否かを調べるために、C末端でシステインと融合させたS20遺伝子をコードする細菌発現ベクターを作製し、本明細書ではMs20と称されるこのS20−システイン融合タンパク質を続いて生成した(図11、パネルA及びB)。部位特異的な抱合体Ms20を、ドキソルビシンを含有するリポソームの外面でそのc末端システインを通じて、マレイミド修飾したPEG鎖に特異的に結合させ、Ms20抱合型リポソームドキソルビシン(Ms20−LD)を生成した(図11、パネルC及びD)。
【0199】
Ms20抱合型リポソームが癌細胞への薬物送達を増加させるか否かを説明するために、複数のヒト肺癌細胞系を37℃でMs20−LD及びLDを用いて処理した。酸性のグリシン緩衝液で洗浄して、表面に結合したリポソーム薬物を除去した後、取り込んだドキソルビシンを定量化した。ドキソルビシンの細胞取り込みは、Ms20−LDでの処理によってH1993、H441及びA549の細胞では略上昇したが、H520及びCL1−5の細胞では有意な変化はなかった(図4、パネルA)。c−Met発現へのMs20−LD取り込みの依存性を更に検証するために、夫々の細胞系における相対c−Met発現を、Ms20標識化量子ドット(Ms20−QD)を使用してフローサイトメトリーによって比較した(図4、パネルB)。興味深いことに、H520及びCL1−5の細胞は、最低量のc−Metのみを発現したことがわかり(図4、パネルB)、これは、Ms20−LDの取り込みが乏しいことに相当する(図4、パネルA)。この発見は、腫瘍細胞によるMs20−LDの取り込みが細胞表面でのc−Metの発現レベルに依存していたことを示唆している。
【0200】
Ms20が実際に、腫瘍細胞上でLDの結合効率を改善する能力があったことを検証するために、H1993細胞を4℃で1時間種々の濃度のMs20−LD及び非標的化LD(LD)と共に別個に培養した。リポソーム薬物の結合活性を、細胞を溶解した後に蛍光によって定量化した。H1993細胞へのMs20−LDの結合は、LDと比較して薬物の濃度に応じて13〜26倍大幅に増加した(図4、パネルC)。同様の結果が、同一の実験条件下でH460細胞について観察された。Ms20が癌細胞への細胞内薬物送達を向上させたことを確認するために、H1993細胞を複数の経過時点でMs20−LD及びLDと共に培養した。取り込まれなかったリポソーム薬物を表面から除去した後、細胞内ドキソルビシン取り込みを測定した。Ms20は、非抱合型LDと比較して各時点で癌細胞への薬物送達を著しく向上させた(図4、パネルD)。
【0201】
Ms20がLDの細胞毒性を増強したか否かを更に評価するために、Ms20−LDの細胞毒性効果を、MTTアッセイを使用してヒト肺癌細胞に関して調べた(図5、パネルA)。細胞生存率を生細胞のパーセンテージとして計算した。赤色の点線は平均50%の生存率を意味する。各点は4回の実験の平均を表す。Ms20−LDは、LDと比較して、癌細胞への薬物細胞毒性を著しく増強させ、H1993及びH441の細胞で最大半数阻害濃度(IC50)を6倍減少させた(図5、パネルB)。切断PARP、切断カスパーゼ9及び切断カスパーゼ3等のアポトーシスマーカーの発現も、Ms20−LDで処理したH1993細胞で高められた(図5、パネルC)。α−チューブリンを充填対照としてプローブした。デンシトメトリーを使用して、未処理細胞と比較して切断されたPARPの倍増を測定し、α−チューブリンによって正規化した(下)。
【0202】
実施例6
抗c−MetのscFvのインビボ腫瘍ホーミング及び撮像
抗c−MetのscFvの生体内での腫瘍ホーミング能力を調査するために、H460由来の肺腫瘍異種移植片を有するマウスに抗c−MetのscFvであるPC20又は対照ファージを静脈内注入した。腫瘍から回収したPC20の力価は、内臓由来のものより高かった。実験を2回行い、同一の結果が得られた。灌流後、結合ファージを回収して腫瘍質量及び正常器官から判定した。結果は、抗c−MetのscFvであるPC20が正常器官より遥かに効率的に腫瘍にホーミングしたことを示した(図6、パネルA)。対照ファージはこのようなホーミング能力を示さなかった。更に、抗c−MetのscFvであるPC20の組織分布を、抗ファージ抗体を使用し組織区分を免疫染色して調査した。PC20ファージは、PC20で処置したマウスに由来する脳、肺及び心臓等の正常器官の組織より腫瘍組織内で選択的に局在化する一方、対照ファージは腫瘍及び正常器官の組織中に検出されなかったことがわかった(図6、パネルB)。
【0203】
抗c−MetのscFvであるS20が腫瘍撮像アッセイに適用可能であるか否かを検査するために、Ms20抱合型量子ドット(Ms20−QD)又は非抱合型量子ドット(QD)を、H1993由来の肺腫瘍異種移植片を有するマウスに注入した。注入の6時間後、Ms20−QDで処置したマウスの腫瘍組織中に観察された近赤外(NIR)蛍光信号強度がQDで処置したマウスより5.2倍高かった(図6、パネルC)。注入の24時間後、マウスを屠殺して解剖し、Ms20−QDの組織分布を調べた。代表画像は、3回の独立した実験の結果である。図6のパネルDに示されているように、Ms20−QDは、正常器官とは対照的に、腫瘍中に顕著に且つ選択的に蓄積されている。Ms20−QDは、QDより5.4倍効果的に腫瘍を標的化した。これらの結果は、抗c−MetのscFvが腫瘍の画像化における使用に好適であることを示唆している。
【0204】
実施例7
ヒト肺癌異種移植片におけるMs20−LDの治療効果
Ms20が抗癌剤の化学療法効果を改善することができるか否かを評価するために、標的化した薬物送達システムを、Ms20をペグ化したリポソームドキソルビシン(Ms20−LD)と結合させることによって形成した。H460異種移植片(約75mm3 )を有するSCIDマウスに、4mg/kgの総ドキソルビシン用量(週1回の間隔で1mg/kg)でリポソーム薬物を静脈内注入した。H460由来の肺癌を有するマウスに、Ms20−LD、LD、及びPBSを投与した。LD群及び対照PBS群のマウスの腫瘍寸法は夫々、Ms20−LD群のものよりも1.9倍及び4.4倍大きかった(n=8)**、P<0.01。グラフの点は平均腫瘍体積を表す。Ms20−LDを投与したマウスの腫瘍は、LD単独を投与したマウスの腫瘍より体積が小さいことがわかった(P<0.01)(図7、パネルA)。LD群の腫瘍寸法は、25日目までにMs20−LDの腫瘍寸法より1.9倍まで徐々に増加した。Ms20−LD群及びLD群は、治療期間中体重に著しい変化がなかった(図7、パネルB)。治療の終わりまでに、LDで治療したマウスの0.73g及びPBS緩衝液を注入したマウスの1.8gと比較すると、Ms20−LDで治療したマウスの最終平均腫瘍重量は0.31gであった(図7、パネルC及びD)。従って、腫瘍重量は、LD群よりMs20−LD群で低かった(n=8)、P<0.05。更に、各群の腫瘍組織を抗CD31抗体によって調べて、腫瘍血管及び末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTP切断末端標識(TUNEL)アッセイを検出してアポトーシス細胞を識別した。区分を、自動化細胞取得(TissueGnostics社)を使用して分析し、CD31陽性及びTUNEL陽性領域を、MetaMorphソフトウェア(Molecular Devices社)を使用して定量化した。図7のパネルEに示されているように、Ms20−LD治療群のCD31陽性領域では、LD治療群より大きく減少した。従って、Ms20−LD群におけるCD31陽性内皮の量はLD群より低かった。Ms20−LD治療群におけるアポトーシス細胞の数は、
LD治療群より2倍多かった(図7、パネルF)。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
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図5
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図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]