(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955338
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ベーカリー生地を製造するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A21D 6/00 20060101AFI20160707BHJP
A21C 1/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
A21D6/00
A21C1/00 Z
【請求項の数】14
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-550809(P2013-550809)
(86)(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公表番号】特表2014-507941(P2014-507941A)
(43)【公表日】2014年4月3日
(86)【国際出願番号】EP2012000401
(87)【国際公開番号】WO2012104057
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】11000742.4
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513175642
【氏名又は名称】ハーベー・ファインメカニーク ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】HB−Feinmechanik GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】エンドラス、ボニファツ
【審査官】
川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−093069(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0022917(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 6/00
A21C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機によってベーカリー生地を製造するための方法であって、
粉体状の生地素材を押出機に導入して調製液で湿潤させ、
前記押出機内において生地を混練し、
成形ツールを介して前記生地を前記押出機から排出することを含み、
前記押出機の入口領域に設けられたノズル手段によって、前記押出機への導入前に、10〜100バールの高圧下で前記生地素材に前記調製液を吹き付けて前記生地素材のタンパク質を水和させ、前記生地素材の前記タンパク質によってグルテンネットワークを形成させてスターター生地を調製し、
前記押出機内において、O2含有ガスを混合しながら、混練部材によって前記スターター生地を混練して前記生地素材中の溶存酸素含有率を5〜300ppmとし、
少なくとも1つのガス抜き部にて前記混練した生地から前記O2含有ガスを除去し、前記酸素含有率を20〜30%減少させる方法。
【請求項2】
請求項1において、前記O2含有ガスを周囲圧力よりも高い第1の圧力で前記押出機に導入する方法。
【請求項3】
請求項2において、前記押出機の混練部において前記ガスを混合するために、前記スターター生地を前記第1の圧力とは異なる第2の圧力で混練する方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、前記押出機内において、前記スターター生地を複数の混練部において繰り返し混練し、前記混練部間に少なくとも1つの高圧の圧力部を配置する方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、前記押出機は反対方向に駆動される2つの押出軸を有する方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、ハウジング及び/又は押出軸を温度調節する方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、前記調製液を30〜80バールの圧力で前記生地素材に吹き付け、前記生地素材のタンパク質の水和を生じさせる方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項において、前記押出機の出口の前の低圧部において周囲圧力よりも低い圧力に設定する方法。
【請求項9】
請求項8において、前記低圧部と前記出口との間の最終混練部内で混練を行う方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項において、前記押出機から排出された直後に前記生地を分割する方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項において、前記生地を前記押出機から焼き型に直接押出すか、生地シートに成形し、ラミネート設備に供給する方法。
【請求項12】
各押出軸に沿ってガスを生地に混合する混練部材が少なくとも1つの混練部に配置された、反対方向に駆動される少なくとも2つの押出軸と、
ガスを除去し、前記生地中の前記ガス所定の含有率とするための少なくとも1つのガス抜き部と、
成形ツールを備え、前記生地を排出するため少なくとも1つの出口と、
を備えた押出機を有する、ベーカリー生地を製造する装置であって、
前記押出機の入口領域にノズル手段が設けられ、前記押出機への導入前に前記ノズル手段によって10〜100バールの高圧下で生地素材に調製液を吹き付けて、スターター生地を形成し、
前記装置は、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法を実施するために設計及び設定され、前記押出機内において、O2含有ガスを混合しながら、混練部材によって前記スターター生地を混練して前記生地素材中の溶存酸素含有率を5〜300ppmとし、前記少なくとも1つのガス抜き部に沿って前記混練した生地から前記O2含有ガスを除去し、前記酸素含有量を20〜30%減少させる装置。
【請求項13】
請求項12において、混練部材を備えた複数の混練部が設けられ、少なくとも1つの高圧の圧力部が前記混練部間に設けられている装置。
【請求項14】
請求項13において、前記圧力部へ圧力流体を導入する供給ラインが設けられ、前記押出機内において圧力を部分的に上昇させる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機によってベーカリー生地を製造するための方法に関する。また、本発明は、押出軸に沿ってガスを生地に混合するための混練部材が少なくとも1つの混練部に配置された、少なくとも2つの押出軸と、ガスを除去し、生地に占めるガスを所定の含有率とするための少なくとも1つのガス抜き部と、成形ツールを備え、生地を排出するための少なくとも1つの出口と、を備えた押出機を有するベーカリー生地を製造するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なベーカリー生地であるトースト用生地の製造は、通常は非連続的なバッチプロセスによって行われる。具体的には、最初に生地を大きな容器内で混練する。次に、秤量手段を使用して生地を分割し、ラウンダーによって処理した後に一次発酵キャビネットに放置してグルテンネットワークと細孔構造をさらに成長させる。その後、生地を焼く前に伸ばす。生地内の細孔構造の伸長作用を抑えるために、焼き型用の生地部分を4つに分割して巻き、巻いた状態で焼き型に入れる。このような4分割法では、最終製品において不均一な細孔構造(shadowy formation)が観察される。
【0003】
特許文献1には、生地製造装置及び対応する方法が開示されている。特許文献1に開示された装置では、生地製品を製造するために、小麦粉を液体成分とは別に押出機に導入する。押出機内において生地を混練し、最終パスタ生地として排出する。
【0004】
パスタ生地の製造の場合には、調理後に「アルデンテ」となる堅いパスタを得るために、生地はガスを含まず、できるだけ密度の高いものとする。導入されたガスは真空部によって除去する。
【0005】
一方、ベーカリー生地、特にトースト用ベーカリー生地は、ベーキング工程によって細孔構造を有するベーカリー製品が得られるように製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第0 919 127 B1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、所定の細孔構造を有するベーカリー製品を製造することができるベーカリー製品用のベーカリー生地を効率的に製造することができる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記目的は、請求項1の特徴を備える方法及び請求項12の特徴を備える装置によって達成される。本発明の好適な実施形態は各従属請求項に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、押出機によってベーカリー生地を製造するための方法であって、
前記押出機への導入時に、粉体状の生地素材、特に穀粉にノズル手段によって圧力下で調製液を吹き付けて前記生地素材を湿潤させてスターター生地を調製し、
前記押出機内において、O
2含有ガスを混合しながら、混練部材によって前記スターター生地を混練し、
少なくとも1つのガス抜き部にて前記混練した生地から前記O
2含有ガスを除去し、
成形ツールを介して前記生地を前記押出機から排出する方法を提供する。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、前記方法は押出機を使用して連続的に行い、前記方法の開始時に、ノズル手段から圧力下で調製液を吹き付けることによってスターター生地を調製する。スターター生地の調製は、押出機への導入直前に行うか、特に生地の混練を行う前に押出機の導入領域内において直接行う。
【0011】
そのため、押出機の導入部には仮の生地が既に存在し、その後の押出機による最終生地への処理時に必要となる機械的エネルギーを減少させることができる。これにより、熱に敏感な生地の熱応力を大きく減少させることができる。また、押出機は全体として短い長さを有するように設計することができ、よりコンパクトかつより安価なものとすることができる。さらに、スターター生地のガス吸収が向上し、生地素材中において水和及びタンパク質によるグルテンネットワークの形成が生じる。
【0012】
押出機内における入口から出口への生地の搬送時には、少なくとも1つの脱ガス部において生地中に占めるO
2含有ガス(特に空気)の割合が所定の値に設定される。特に、生地中のO
2含有ガスの含有率の設定は、対応する圧力の設定によって行うことができる。
【0013】
最初は高い酸素含有量に設定される。その結果、生地中において酸化によってグルテンネットワークが迅速かつ良好に形成される。特に、酸素は、生地素材中の溶存酸素含有率が5〜300ppm、特に10〜30ppmとなるように導入する。
【0014】
グルテンネットワークが形成された後、押出機内において生地中の酸素含有率を好ましくは20〜30%減少させる。これにより、グルテンネットワークを形成するさらなる反応が大きく抑制される。また、酸素を減少させることにより、生地の特性は弾性から可塑性に変化する。これは、生地の容易な押出し並びに正確な分割に特に有利である。
【0015】
本発明の一態様は、生地の機械的処理性に重要である生地の可塑性を、生地中の酸素含有率を具体的に制御することによって設定することを特徴とする。
【0016】
上述したようにして得られた生地を押出機の出口において成形ツールを介して押出すことにより、ベーキング工程に直接又は短い放置時間後に供給することができる既成生地を得ることができる。特に、押出機の出口に設けられた成形ツールには、生地を連続的に引き出すための引出手段又は切断手段を設け、切断手段により均一な密度を有する可塑性の生地を出口において分割することができる。
【0017】
生地素材としては、特に、セモリナ等の穀粉又は他の粉体を使用することができる。調製液としては水を使用し、必要に応じて塩、糖、油又は他の添加物を添加することができる。また、複数の添加物を別々に添加することもできる。グルテンネットワークの形成時に生じる酸化の向上及びより正確な制御のために、アスコルビン酸を好ましくは生地に対して10〜100ppmの割合で添加することが特に有利である。生地の風味及び色を向上させるために、押出機の処理室内において他の調製液又は液体成分を添加することができる。
【0018】
本発明に係る方法の好適な実施形態では、O
2含有ガスは周囲圧力よりも高い第1の圧力で押出機に導入する。また、押出機の混練部においてガスを混合するために、スターター生地を第1の圧力とは異なる、特に第1の圧力よりも低い第2の圧力で混練することが有利である。O
2含有ガスとしては、特に、周囲空気又は所定の酸素含有量を有する専用処理ガスを使用することができる。押出軸上において放射状に突出するフィンガー形状の混練部材により、既に粘り気のあるスターター生地を混練すると共に押出機の出口に向けて搬送する。その際に、さらなるガスが生地に均一に導入される。混練部における圧力をスターター生地の調製時の圧力よりも低下させることにより、生地内部の気泡が膨張・拡大する。このようにして拡大した気泡は混練部においてより容易に分割することができ、生地内におけるガスの分布がより良好となり、酸化を促進することができる。場合によっては、各混練部において圧力を上昇させることも有用である。押出機の処理室内における部分的な圧力設定は、放射状に突出するハウジング壁及び/又は小さな搬送スクリューピッチによって実施することができる。このようにして、押出軸上において生地を限定的に通過させる過密領域を生じさせることができる。特に、入口領域は、周囲圧力と比較して0.5〜5バール高い圧力を設定できるように圧力室として設計する。
【0019】
本発明によれば、押出機内において、スターター生地を複数の混練部において繰り返し混練し、混練部間に少なくとも1つの高圧の圧力部を配置することによって特に良好かつ微細なガスの分布を生じさせることができる。特に、生地中の拡大したガス細孔をさらに縮小・分割することができるように、生地を低圧で混練する少なくとも2つの混練部を設ける。混練部よりも高い圧力に設定される圧力部を2つの混練部間に配置することにより、ガス体積の減少によって細孔構造が安定化する。基本的に、圧力部内においても混練部材による混練を行うことができる。ただし、圧力部内においては押出軸による搬送のみを行うことが好ましい。圧力部の後段の低圧の混練部において、ガス細孔の体積が膨張し、生地中においてガスはさらに微細に分布する。O
2含有ガスの良好な分布によって均一かつ迅速な酸化が生じる。また、その後に酸素を除去することにより、複数の気泡コアが生地に残る。生地の発酵中に放出されたCO
2はかなりの部分が気泡コア中に拡散し、ベーカリー製品の所定の細孔構造が得られる。細孔構造は、気泡コアの数が多い場合には非常に微細となり、気泡コアの数が少ない場合には粗大なものとなる(例えば、チャパタ生地に望ましい構造)。
【0020】
生地を処理するための押出機のハウジング内部の部分的な圧力設定は、この部分におけるスクリュー形の押出軸セグメントのピッチを対応させて設計することによって実現することができる。スクリューピッチが小さい場合には搬送速度が減少し、押出軸セグメントを対応して設計することにより、圧力が上昇する。本発明によれば、圧力流体を押出機に導入することによって圧力を上昇させることが特に好ましい。特に、圧力流体は周囲空気等のガスであってもよく、圧力下において少なくとも1つの供給ラインを介して押出機の中間部分に供給する。
【0021】
基本的に、特に一方向に駆動される複数の押出軸を有する押出機を使用することができる。ただし、生地を処理する場合には、押出機は反対方向に駆動される2つの押出軸を有することが特に有用である。2つの押出軸を有する異方向押出機では、押出機内において生地を特に穏やかに調製・搬送することができる。これにより、過剰量の機械的エネルギー及び熱が生地に導入されることを防止することができる。生地が過熱されると、タンパク質分子がダメージを受け、所望のグルテンネットワークが得られない場合がある。
【0022】
本発明によれば、ハウジング及び/又は押出軸を温度調節、特に冷却することが特に有利である。そのために、冷却流体が通過する冷却路をハウジング又は押出軸に組み込むことができる。本発明によれば、特に、30℃を超える温度まで生地を加熱しないようにする。ただし、原則として、例えば所定の部分において所定の温度上昇が望ましい場合には適切な流路に加熱流体を通過させることもできる。
【0023】
本発明によれば、スターター生地を調製するために、調製液を高圧(特に10〜100バール)で生地素材に吹き付け、生地素材のタンパク質の水和を生じさせる。水和はグルテンネットワークの形成のために必須の工程である。調製液を好ましくは30〜80バールの高圧で吹き付けることにより、生地素材を湿潤させると共に生地の形成に有利な強い機械的衝撃を与えることができる。機械的衝撃は液体によってのみ生じさせるため、スターター生地に大きな熱応力が生じることはなく、本発明に係る方法を穏やかかつ非常に迅速に行うことができる。押出機の入口領域に1又は複数のノズルを設け、スターター生地の形成のための所定の衝撃を与えることができる。
【0024】
本発明によれば、最終生地に所定の細孔構造を生じさせるために、押出機の出口の前の低圧部を周囲圧力よりも低い圧力に設定する。特に、低圧部と出口との間において最終混練部内で混練を行う。周囲圧力(約1000ミリバールの室内又は大気圧力)よりも低い圧力の低圧部内において混練を行うことにより、CO
2含有ガスは除去され、所望の可塑性及び密度を有する生地が得られる。ただし、押出機から排出された後も生地中には気泡コアが残っている。その後の発酵及びベーキング工程により、非常に微細な細孔構造を有する最終ベーカリー製品を得ることができる。特に、パン生地(トースト用生地)の場合には、非常に微細な細孔構造は不可欠な品質特性である。
【0025】
従来のトースト用生地の製造では、特別な工程に従って生地を伸ばし、巻き、通常は4つに分割してトースト焼き型に入れるが、本発明の方法によれば最終生地をすぐに処理することができる。特に、本発明によれば、生地を押出機から型に直接押出し、切断手段によって分割することができる。本発明に係る方法は、パン生地、特にトースト用生地に非常に適しているが、ピザ、ペストリー、パイ生地又はクロワッサン生地等のあらゆるベーカリー生地に適用することができる。また、生地を生地シートに成形し、ラミネート設備に供給することもできる。
【0026】
本発明に係るベーカリー生地を製造するための装置は、押出機の入口領域にノズル手段が設けられ、スターター生地を形成するために、ノズル手段によって圧力下で生地素材に調製液を吹き付けることができることを特徴とする。本発明に係る装置により、特に上述した利点を有する本発明に係る方法を実施することができる。
【0027】
本発明に係る装置の有利な実施形態では、混練部材を備えた複数の混練部を設け、少なくとも1つの高圧の圧力部を混練部間に設ける。上述したように、少なくとも1つの前段の混練部及び少なくとも1つの後段の混練部における対応する低い圧力設定により、生地内におけるガスの所定の分布を得ることができる。
【0028】
本発明においては、圧力部への供給ラインを設けることが特に好ましく、その供給ラインは、押出機内において圧力を部分的に上昇させるために圧力流体を導入することができる。