特許第5955345号(P5955345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955345蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955345
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造
(51)【国際特許分類】
   F01D 25/26 20060101AFI20160707BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20160707BHJP
   F01D 25/24 20060101ALI20160707BHJP
   F01D 11/00 20060101ALI20160707BHJP
   F16J 15/46 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   F01D25/26 E
   F01D25/00 M
   F01D25/24 P
   F01D11/00
   F16J15/46
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-12609(P2014-12609)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-140685(P2015-140685A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年3月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】今井 俊爾
【審査官】 橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−169607(JP,A)
【文献】 特開平5−5403(JP,A)
【文献】 特開2009−47123(JP,A)
【文献】 実開平5−19501(JP,U)
【文献】 実開昭55−52501(JP,U)
【文献】 特開平9−324602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D1/00−15/12
23/00−25/36
F16J15/16−15/3296
15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にタービンロータを回転自在に収容する内側ケースと、
前記内側ケースを収容し、前記内側ケースの外側の面との間に流体が流通可能な空間部を形成する外側ケースと、
前記内側ケースの外側の面及び前記外側ケースの内側の面の何れか一方の面から前記空間部内へ突出されて該面の周方向に環状に形成された突起部と、
前記外側の面及び前記内側の面の何れか他方の面から前記空間部内へ延びて該面の周方向に環状に形成され、該空間部を前記タービンロータの軸方向一方側の前記突起部を含まない第1空間部と他方側の前記突起部を含む第2空間部に仕切るとともに、前記第1空間部及び前記第2空間部内の流体の圧力差により前記タービンロータの軸方向に撓み変形可能な仕切板と、を備え、
前記仕切板は、前記流体の圧力差を受けて前記第2空間部側へ撓むと前記突起部に接触する
ことを特徴とする蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造。
【請求項2】
前記仕切板は、少なくとも先端部の前記タービンロータの軸方向の厚さが該タービンロータの径方向外側へ延びるに従って薄くなるように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造。
【請求項3】
前記外側ケースは、前記内側ケースに前記流体を供給する流体供給流路を含み、
前記内側ケースは、前記流体供給流路から供給された流体を前記タービンロータに導いて該タービンロータを駆動させる駆動流路を含み、
前記駆動流路と第1空間部とが接続流路を介して連通している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造。
【請求項4】
前記突起部の前記仕切板側に対向する側面には、前記突起部よりも線膨張率の大きい材料で形成された環状シール部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1及至3の何れか一項に記載の蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蒸気タービンを含む熱機関内の蒸気室間をシールする流体シール構造に係る。
【背景技術】
【0002】
熱機関の一例である蒸気タービンは、一般的に、タービンロータを収容する内側ケースと、この内側ケースを収容する外側ケースとを備えている。蒸気タービンは、高圧蒸気を外側ケースに設けられた蒸気入口部から内側ケース内に導入される。内側ケース内では、導入された高圧蒸気を高速で噴出し、この蒸気力によりタービンロータの多段段落に回転力を与えて、タービンロータを回転させる。多段段落で回転力を与えた高圧蒸気は、多段段落の上流側から下流側に移動するに従って温度及び圧力を下げながら排気口から流出さる。
【0003】
ところで、特許文献1には、高中圧段を備える蒸気タービンが開示されている。この蒸気タービンは、特許文献1に記載されているように、高圧段落と中圧段落との間に高中圧一体ダミー環を備え、高中圧一体ダミー環と外側ケース(外車室)との間に環状仕切板が設けられている。この環状仕切板によって、内側ケース(内車室)が高温の中圧蒸気から隔離保護され、内側ケースの熱応力低減や、内側ケースを固定するボルト応力の低減等を実現することができる。
【0004】
なお、内側ケースは、周縁部に水平方向に延びる合わせ面を有して上下に2分割可能な構造を有し、上下の各部分の合わせ面同士を接触させた状態でこれらを複数のボルトで締結することで、上下の各部分が一体的に固定されるようになっている。外側ケースも内側ケースと同様に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−284905(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように高圧蒸気が多段段落を通って排気口に流出する蒸気タービンの場合、多段段落を通過した高圧蒸気の一部は、乱流となって排気口側に流れずに外側ケースと内側ケースとの間の空間部に流れる場合がある。この多段段落を通過した低温蒸気が空間部を流れると、外側ケースはタービンロータの軸方向に沿って冷却される。一方、排気口と反対側から空間部に高圧蒸気が流れると、外側ケースはタービンロータの軸方向に沿って高温状態になる。このため、外側ケースは、タービンロータの軸方向において温度差が生じ、特に、高温の蒸気に接する外側ケースの部分と温度が低下した蒸気が接する外側ケースの部分とでは、より大きな温度差が発生する。従って、温度が急激に低下する位置の周辺に設けられ外側ケースの上下の各部分を締結するボルトの締結力は弱くなる虞がある。
【0007】
そこで、特許文献1に記載された仕切板を空間部内に設け、この仕切板によって空間部を仕切ることが考えられる。この仕切板によって、低温蒸気の流れを完全に遮断することができれば、外側ケースの急激な温度変化を防止することができる。しかしながら、蒸気タービンの組立時において、仕切板の両側の空間部同士を気密にするように仕切板を設けても、蒸気タービンの運転時には蒸気タービン内の温度は高温になり、また場所によって温度差が生じるので、仕切板と外側ケースとの間や仕切板と内側ケースとの間に隙間が生じる虞がある。従って、低温蒸気が上流側の空間部に流れて、外側ケースの上下の各部分を締結するボルトの締結力が弱くなる虞が生じる。
【0008】
よって、空間部に仕切板を設けた場合に、蒸気タービンの運転時に隙間が生じることなく、仕切板によって仕切られた一対の空間部間を気密にできるシール構造の開発が望まれている。
【0009】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも幾つかの実施形態は、熱機関の運転時において、仕切板によって仕切られた一対の空間部間を気密にできる蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の幾つかの実施形態に係わる蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造は、
内部にタービンロータを回転自在に収容する内側ケースと、
前記内側ケースを収容し、前記内側ケースの外側の面との間に流体が流通可能な空間部を形成する外側ケースと、
前記内側ケースの外側の面及び前記外側ケースの内側の面の何れか一方の面から前記空間部内へ突出されて該面の周方向に環状に形成された突起部と、
前記外側の面及び前記内側の面の何れか他方の面から前記空間部内へ延びて該面の周方向に環状に形成され、該空間部を前記タービンロータの軸方向一方側の前記突起部を含まない第1空間部と他方側の前記突起部を含む第2空間部に仕切るとともに、前記第1空間部及び前記第2空間部内の流体の圧力差により前記タービンロータの軸方向に撓み変形可能な仕切板と、を備え、
前記仕切板は、前記流体の圧力差を受けて前記第2空間部側へ撓むと前記突起部に接触するように構成される。
【0011】
上記蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造によれば、熱機関の運転時に、第1空間部及び第2空間部内の各流体に圧力差が生じ、この圧力差が、突起部を含まない第1空間部側の圧力が突起部を含む第2空間部側の圧力よりも大きいときの圧力差である場合には、仕切板はタービンロータの軸方向の第2空間部側に撓んで仕切板が突起部に接触する。このため、仕切板と突起部との間の隙間がなくなる。このため、タービンロータの軸方向他方側の第2空間部を流れる流体が軸方向一方側の第1空間部側に流れようとしても、仕切板によって第1空間部側への流体の流れを確実に遮断することができる。よって、熱機関の運転時に仕切板によって仕切られた一対の第1空間部及び第2空間部間を気密にできる蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造を実現できる。
【0012】
幾つかの実施形態では、
前記仕切板は、少なくとも先端部のタービンロータ軸方向の厚さが径方向外側へ延びるに従って薄くなるように形成されているように構成される。
【0013】
この場合、仕切板の少なくとも先端部は、先細状に形成されているので、仕切板の曲げ剛性は先端側に進むに従って弱くなる。このため、仕切板にタービンロータ軸方向のうち突起部側を向く力が作用すると、仕切板の先端部は、仕切板のタービンロータ径方向内側の端部を支点として突起部側へ撓む。このため、仕切板の少なくとも先端部を確実に突起部に接触させることができる。よって、熱機関の運転時に仕切板によって仕切られた一対の第1空間部及び第2空間部間をより確実に気密にすることができる。
【0014】
幾つかの実施形態では、
前記外側ケースは、前記内側ケースに前記流体を供給する流体供給流路を含み、
前記内側ケースは、前記流体供給流路から供給された流体を前記タービンロータに導いて該タービンロータを駆動させる駆動流路を含み、
前記駆動流路と第1空間部とが接続流路を介して連通しているように構成される。
【0015】
この場合、接続流路を介して駆動流路を流れる流体を第1空間部に供給することができる。ここで、駆動流路を流れる流体によってタービンロータに回転力を与えるので、駆動流路は、流体をより高圧にするように構成されている。このため、駆動流路を流れる流体を第1空間部に導入することで、第1空間部内の流体圧力をより高くすることができる。従って、第1空間部及び第2空間部間の流体の圧力差をさらに増大させることができ、仕切板をより容易に突起部に接触させることができる。よって、熱機関の運転時に仕切板によって仕切られた一対の第1空間部及び第2空間部間を気密にできる蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造を実現できる。
【0016】
一実施形態において、
前記突起部の前記仕切板側に対向する側面には、前記突起部よりも線膨張率の大きい材料で形成された環状シール部材が設けられているように構成される。
【0017】
この場合、仕切板が突起部側へ撓んで環状シール部材に接触すると、環状シール部材が変形する。そして、さらに仕切板が突起部側へ撓むと、環状シール部材を変形させたままで仕切板が突起部に接触する。このため、仕切板は突起部の他に環状シール部材と接触するので、一対の空間部間の気密性をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態によれば、熱機関の運転時において、仕切板によって仕切られた一対の空間部間を気密にできる蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】流体シール構造の構成例を示す蒸気タービンの部分断面図である。
図2】一実施形態に係わる蒸気タービンの内部構造図ある。
図3】一実施形態に係わるシールリングを含む内側ケースの概略斜視図である。
図4】一実施形態に係わるシールリングの作用を説明するための蒸気タービンの部分断面図である。
図5】一実施形態に係わる他のシールリングの部分断面図である。
図6】同図(a)は一実施形態に係わる他のシールリングの部分断面図であり、同図(b)は他のシールリングの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に従って本発明の蒸気タービンを含む熱機関の流体シール構造の実施形態について説明する。本実施形態では、熱機関のうち蒸気タービンを例にして以下説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0021】
蒸気タービンの流体シール構造1は、図1(部分断面図)及び図2(内部構造図)に示すように、内部にタービンロータ2を回転自在に収容する内側ケース10と、内側ケース10を収容し、内側ケース10の外側の面10aとの間に蒸気が流通可能な空間部4を形成する外側ケース20と、外側ケース20の内側の面20aから空間部4内へ突出して内側の面20aの周方向に環状に形成された突起部30と、内側ケース10の外側の面10aから空間部4内へ延びて外側の面10aの周方向に環状に形成され、空間部4をタービンロータ2の軸方向一方側の第1空間部4aと他方側の第2空間部4bに仕切るとともに、第1空間部4a及び第2空間部4b内の蒸気の圧力差によりタービンロータ2の軸方向に撓み変形可能な仕切板40と、を有して構成される。
【0022】
幾つかの実施形態では、内側ケース10は、金属製(例えば、Cr鋳鋼)であり、タービンロータ2の動翼列3(図1参照)と合わさる静翼列11(図1参照)がタービンロータ2の軸方向に延在している。以下、動翼列3と静翼列11を合わせて、「高圧段落6」と記す。動翼列3と静翼列11との間には高温高圧蒸気の流通が可能な駆動流路50(図1参照)が形成されている。この駆動流路50に高温高圧蒸気が流れると、動翼列3が高温高圧蒸気の流れを受け止めてタービンロータ2を回転させる。
【0023】
内側ケース10は、周縁部に水平方向に延びる合わせ面(図示せず)を有して上下に2分割可能に構成され、内側ケース10の下側部分にタービンロータ2が設置されている。内側ケース10は、この下側部分上に上側部分が載置され、下側部分と上側部分との合わせ面同士を接触させた状態でこれらを複数のボルトで締結することで、内側ケース10の下側部分と上側部分とが一体化されて固定されている。内側ケース10の外側の面10aには、図1及び図3(概略斜視図)に示すように、タービンロータ2の径方向外側へ突出して外側の面10aの周方向に環状に形成された仕切坂40が形成されている。仕切坂40は、内側ケース10と一体成型される。仕切板40の詳細については、後述する。
【0024】
幾つかの実施形態では、外側ケース20は金属製であり(例えば、Cr−Mo鋳鋼)、内側ケース10と同様に、周縁部に水平方向に延びる合わせ面(図示せず)を有して上下に2分割可能に構成されている。外側ケース20は、この下側部分上に上側部分が載置され、下側部分と上側部分との合わせ面同士を接触させた状態でこれらを複数のボルトで締結することで、外側ケース20の下側部分と上側部分とが一体化されて固定されている。
【0025】
外側ケース20は、図1及び図2に示すように、内側ケース10を収容した状態で、外側ケース20の内側の面20aと内側ケース10の外側の面10aとの間に蒸気の流通が可能な空間部4が形成されている。外側ケース20の上部には、高温高圧蒸気を導入するための高圧蒸気入口部21が設けられ、高圧蒸気入口部21は、流体供給通路22を介して内側ケース10の駆動流路50に連通している。このため、高温高圧蒸気は、高圧蒸気入口部21及び流体供給通路22を通って駆動流路50に供給される。高圧蒸気入口部21よりもタービンロータ2の軸方向右側には、中圧の蒸気から回転動力を取り出す中圧段落7が設けられ、中圧段落7には高温高圧蒸気S3が空間部4を介して供給されるようになっている。
【0026】
また、高圧段落6よりもタービンロータ2の軸方向左側には、駆動流路50から排出された低温蒸気を排出させるための排気口8(図2参照)が設けられている。なお、駆動流路50から排出された低温蒸気は空間部4を通って排気口8から排出された後、再熱加熱器(不図示)で加熱される。
【0027】
幾つかの実施形態では、突起部30は、高圧段落6の静翼列11が形成された内側ケース10の外側の面10aに面する外側ケース20の内側の面20aに形成されている。突起部30は、外側ケース20の内側の面20aに周方向に環状に形成され、外側ケース20と一体成型される。突起部30は断面視において長方形状に形成されている。なお、突起部30の断面形状は長方形状に限るものではなく、台形状でもよい。
【0028】
突起部30は、図1及び図4(部分断面図)に示すように、仕切板40のタービンロータ2の軸方向位置よりも僅かにタービンロータ2の軸方向左側の位置に配置されている。つまり、突起部30は、第2空間部4b内に突出している。このため、仕切板40が撓んでいない場合には、仕切板40の先端部と突起部30との間には隙間31が形成される。従って、外側ケース20の組立作業時に、仕切板40と突起部30とが接触した状態にする必要はなく、組み立て作業を容易にすることができる。
【0029】
この突起部30に接触可能な仕切板40は、金属製(例えば、Cr鋳鋼)であって弾性を有し、内側ケース10と一体成型される。仕切板40は、その厚さ(タービンロータ2の軸方向厚さ)が内側ケース10の外面からタービンロータ2の径方向外側へ延びるに従って薄くなっている。このため、仕切板40のタービンロータ2の軸方向から高温高圧蒸気による圧力Pが作用したときの曲げ剛性を弱くすることができる。よって、仕切板40の側面にタービンロータ2の軸方向に向く圧力Pの作用時に、仕切板40をタービンロータ2の軸方向に容易に撓ませることができる。
【0030】
なお、仕切板40は内側ケース10の外側の面10aから先細になるように形成されたものに限るものではなく、図5に示すように、仕切板40の先端側の先細になる程度が根元側の先細になる程度よりも大きくなるようにしてもよい。
【0031】
以上説明したように、幾つかの実施形態に係わる蒸気タービンの流体シール構造1によれば、図1及び図2に示すように、高温高圧蒸気S1(例えば、500℃〜600℃、170〜240kg/cm2)が高温蒸気入口部21に供給されると、高温高圧蒸気S1は内側ケース10内を通って高圧段落6の駆動流路50に高速で導入される。高速の高温高圧蒸気S1が駆動流路50を流れると、高温高圧蒸気S1は高圧段落6の動翼列3に回転力を与えるとともに、次第に温度及び圧力が低下してゆく。この温度が低下した蒸気S2(例えば、300〜400℃、35〜60kg/cm2)は、大部分が空間部4を通って排気口8から排出されて再加熱される。
【0032】
しかしながら、温度が低下した蒸気S2の一部は空間部4において乱流となって排気口8側に向かわずに外側ケース20と内側ケース10との間の空間部4に流れるものがある。この空間部4に温度が低下した蒸気S2が流れると、外側ケース20はタービンロータ2の軸方向に沿って冷却される。
【0033】
一方、高圧蒸気入口部21よりもタービンロータ2の軸方向右側には、前述したように中圧段落7が設けられ、この中圧段落7には空間部4を介して高温高圧蒸気S3が供給されている。このため、この高温高圧蒸気S3によって、高圧蒸気入口部21よりもタービンロータ2の軸方向右側の外側ケース20は高温状態になる。従って、外側ケース20はタービンロータ2の軸方向の異なる位置において温度差が発生し、特に、高温の蒸気に接する外側ケース20の部分と温度が低下した蒸気S2が接する外側ケース20の部分とでは、より大きな温度差が発生する。従って、温度が急激に変化する外側ケース20の部分のうち、温度が上昇した外側ケース20の部分は伸び、温度が低下した外側ケース20の部分は収縮して、外側ケース20の上側部分と下側部分を締結固定するボルトの締結力が弱くなる虞が生じる。
【0034】
しかしながら、本実施形態では、空間部4内に配置された仕切板40よりもタービンロータ2の軸方向右側の空間部4(以下、「第1空間部4a」と記す。)内の高温高圧蒸気S3と、タービンロータ2の軸方向左側の空間部(以下、「第2空間部4b」と記す。)内の低温低圧蒸気S2との圧力差が所定値を超えると、仕切板40が突起部30側へ撓んで仕切板40の先端部が突起部30に気密に接触する。
【0035】
従って、第1空間部4aと第2空間部4bとが遮断されて、低温低圧蒸気S2が第1空間部4aに流入するのを阻止することができる。このため、第1空間部4aには高温高圧蒸気S3のみしか流れないので、高温高圧蒸気S3が接する外側ケース20のタービンロータ2の軸方向の温度差を比較的に小さくすることができる。また、第2空間部4bには低温低圧蒸気S2のみしか流れないので、この低温低圧蒸気S2が接する外側ケース20のタービンロータ2の軸方向の温度差を比較的に小さくすることができる。つまり、第1空間部4a及び第2空間部4bのそれぞれにおいて接する外側ケース20のタービンロータ2の軸方向の温度勾配の急変を防止することができる。よって、外側ケース20の上側部分と下側部分を締結固定する固定用のボルトが緩む虞を防止することができる。
【0036】
なお、第1空間部4aのタービンロータ2の軸方向長さは、第2空間部4bのそれと比較して長いので、第1空間部4aにおける第2空間部4b側の端の外側ケース20の温度と、低温低圧蒸気S2が接する外側ケース20の温度との差は比較的に小さい。このため、第1空間部4aと第2空間部4bが隣接する位置の外側ケース20に配置されたボルトが緩む虞はない。
【0037】
次に、例示的な実施形態の個別的内容について図1図6(a)、図6(b)を参照しながら説明する。図1に示す例示的な実施形態では、内側ケース10には、駆動流路50と第1空間部4aとを連通する接続流路12が設けられている。この接続流路12は、駆動流路50を流れる高圧蒸気を第1空間部4aに供給して第1空間部4a内の圧力を調整することができる。接続流路12の数は、第1空間部4a内に必要な圧力に応じて選定される。よって、接続流路12によって、第1空間部4a内の圧力設定を任意に行うことができ、第1空間部4a内の蒸気にさらされる外側ケース20及び内側ケース10の材質や肉厚の最適設計を行うことができる。
【0038】
図6に示す例示的な実施形態では、図6(a)に示すように、突起部30の仕切板40側に対向する側面30aには、突起部30よりも線膨張率の大きい材料(例えば、オーステナイト系ステンレス鋼やインコネル等)で形成された環状シール部材60が設けられている。この環状シール部材60は、突起部30の側面30aに設けられた環状溝30b内に装着される。環状シール部材60は、軸方向一端側から他端側へ進むに従って外径が大きくなるように円錐台状の側面60aを有して環状に形成されている。
【0039】
環状シール部材60は、帯状に形成されたシール本体61と、シール本体61の両端部を連結して環状に形成するソケット62とを有してなる。環状シール部材60は、仕切板40と非接触状態では、環状シール部材60の軸方向一端部が環状溝30bから突出し、仕切板40との接触時には環状シール部材60の軸方向他端側へ撓む。このため、仕切板40が突起部30に接触すると、仕切板40は突起部30の他に環状シール部材60とも接触した状態になるので、第1空間部4a(図4参照)と第2空間部4b(図4参照)との間の気密性をより向上させることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。例えば、本発明は蒸気タービンのみならず、ガスタービンにも適用でき、また上述した各種実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 蒸気タービンの流体シール構造
2 タービンロータ
3 動翼列
4 空間部
4a 第1空間部
4b 第2空間部
6 高圧段落
7 中圧段落
8 排気口
10 内側ケース
10a 外側の面
11 静翼列
12 接続流路
20 外側ケース
20a 内側の面
21 高圧蒸気入口部
30 突起部
30a、60a 側面
30b 環状溝
31 隙間
40 仕切板
50 駆動流路
60 環状シール部材
61 シール本体
62 ソケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6