特許第5955370号(P5955370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955370
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】金属接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/00 20060101AFI20160707BHJP
   B23K 1/005 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 1/002 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 1/16 20060101ALI20160707BHJP
   B23K 101/18 20060101ALN20160707BHJP
   B23K 103/20 20060101ALN20160707BHJP
【FI】
   B23K1/00 310A
   B23K1/00 L
   B23K1/005 A
   B23K1/002
   B23K1/19 Z
   B23K1/16 Z
   B23K101:18
   B23K103:20
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-219989(P2014-219989)
(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公開番号】特開2016-83694(P2016-83694A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2015年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛
(72)【発明者】
【氏名】今村 美速
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05709338(US,A)
【文献】 特開平08−293670(JP,A)
【文献】 特開2000−068637(JP,A)
【文献】 特開2005−329417(JP,A)
【文献】 特開2006−326631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00 − 1/20
B23K 31/00 − 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属部材と第2の金属部材とで継手を形成する工程と、
前記継手の継ぎ目に、ろう材を用いたブレーズ接合により、断続的にろう付け接合部を形成する工程と、
前記ろう付け接合部間にはんだ接合部が充填されるように、前記ろう材よりも融点が低いはんだを用いて前記ろう付け接合部間にはんだ接合部を形成する工程と、
を有する金属接合体の製造方法。
【請求項2】
前記ろう材を用いたブレーズ接合として、レーザブレージング又はMIGブレージングにより、前記ろう付け接合部を形成する請求項に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項3】
前記はんだとしてワイヤ状のはんだを用い、該ワイヤ状のはんだを前記継手に供給しながら、前記ワイヤ状のはんだにレーザビームを照射することにより、前記はんだ接合部を形成する請求項1又は2に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項4】
前記ろう付け接合部を形成する工程により、前記継手の継ぎ目に断続的に形成されたろう付け接合部の間に、前記はんだを配置し、該はんだにレーザビームを照射することにより、前記はんだ接合部を形成する請求項1又は2に記載の金属接合体の製造方法。
【請求項5】
前記ろう付け接合部を形成する工程により、前記継手の継ぎ目に断続的に形成されたろう付け接合部の間に、前記はんだを配置し、誘導加熱により加熱して前記はんだを溶融させることにより、前記はんだ接合部を形成する請求項1又は2に記載の金属接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属接合体製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、継手の継ぎ目にろう付け接合部とはんだ接合部とを有する金属接合体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体におけるルーフパネルとルーフサイドレールとの接合などのルーフ部材の接合には、一般的にスポット接合による手法が用いられている。ルーフパネル及びルーフサイドレールなどの複数の部材の接合により、車体においては一般的に、その形状からモヒカン部と称される、断面凹状の接合部を有することが多い。この接合部の美観の観点から、通常、スポット溶接痕をルーフモール部材で覆うという措置がとられている。
【0003】
一方、このようなルーフモール部材を省略する、いわゆるモヒカンレス構造に対応するため、ルーフ部材とその周辺の部材とを点接合ではなく、連続的に接合するという方法も検討されており、入熱量が比較的小さいレーザブレージングによる接合の実用化が検討されている。また、低い入熱でのMIGブレージングによる接合も検討されている。
【0004】
前記レーザブレージングによる接合として、例えば特許文献1には、レーザによるブレージング継手における接合強度の低下を抑制し、継手強度の安定化を可能とすべくなされたレーザブレージング方法に関する発明が開示されている。また、例えば特許文献2には、車体の部材をMIG溶接にて接合する手法が開示されている。
【0005】
上述のブレージング接合方法では、スポット溶接のように溶接後に溶接用シーラーで隙間を埋める必要がなくなるというメリットがある。しかし、ブレージング接合方法では、通常の溶接と比較して熱歪みが小さくなるものの、精度よく構造体を組み立てることは困難であった。
このため、ブレージング接合において、被接合材であるルーフ部材の構造自体を熱歪みの出にくい構造にする技術(特許文献3参照)や、溶接ビードを形成する方向を検討する技術(特許文献4参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−59009号公報
【特許文献2】特開2010−12484号公報
【特許文献3】特開2013−147146号公報
【特許文献4】特開2009−56508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3に開示された技術では、構造体のデザインの制約が出てくる場合がある。また、特許文献4に開示されたような技術を採用しても、熱歪みの吸収が十分でない場合がある。
【0008】
そこで本発明は、シール性に優れると共に熱歪みが少ない金属接合体製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明に係る金属接合体の製造方法は、第1の金属部材と第2の金属部材とで継手を形成する工程と、前記継手の継ぎ目に、ろう材を用いたブレーズ接合により、断続的にろう付け接合部を形成する工程と、前記ろう付け接合部間にはんだ接合部が充填されるように、前記ろう材よりも融点が低いはんだを用いて前記ろう付け接合部間にはんだ接合部を形成する工程と、を有する。
前記ろう材を用いたブレーズ接合として、レーザブレージング又はMIGブレージングにより、前記ろう付け接合部を形成してもよい。
前記はんだとしてワイヤ状のはんだを用い、該ワイヤ状のはんだを前記継手に供給しながら、前記ワイヤ状のはんだにレーザビームを照射することにより、前記はんだ接合部を形成してもよい。
前記ろう付け接合部を形成する工程により、前記継手の継ぎ目に断続的に形成されたろう付け接合部の間に、前記はんだを配置し、該はんだにレーザビームを照射することにより、前記はんだ接合部を形成してもよい。
前記ろう付け接合部を形成する工程により、前記継手の継ぎ目に断続的に形成されたろう付け接合部の間に、前記はんだを配置し、誘導加熱により加熱して前記はんだを溶融させることにより、前記はんだ接合部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シール性に優れると共に熱歪みが少ない金属接合体製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る金属接合体が車体に供される例を説明するための当該車体におけるルーフパネル側の概略構造を示す図である。
図2図1中のA−A線断面における拡大斜視図である。
図3A】本発明の実施形態に係る金属接合体における第1の金属部材と第2の金属部材との接合部の構成例を示し、ろう付け接合部がステッチ状に形成された構成例を示す、図2相当の斜視図である。
図3B】本発明の実施形態の金属接合体における第1の金属部材と第2の金属部材との接合部の構成例を示し、ろう付け接合部が点状に形成された構成例を示す、図2相当の斜視図である。
図3C】本発明の実施形態の金属接合体における第1の金属部材と第2の金属部材との接合部の構成例を示し、ろう付け接合部の表面がはんだで覆われた構成例を示す、図2相当の斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る金属接合体の製造方法の第1例を説明するための図である。
図5】本発明の実施形態に係る金属接合体の製造方法の第2例を説明するための図である。
図6】本発明の実施形態に係る金属接合体の製造方法の第3例を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態に係る金属接合体の製造方法の第4例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、自動車における車体の部材を例示して説明するが、本発明は、シール性に優れ、熱歪みの少ない金属接合体製造方法の提供を目的とすることから、車体の部材以外の用途にも広く適用し得り、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明の実施形態に係る金属接合体について説明する。
本実施形態の金属接合体は、第1の金属部材と第2の金属部材とで継手が形成され、その継手の継ぎ目に、ろう材で断続的に設けられたろう付け接合部と、前記ろう材よりも融点が低いはんだで前記ろう付け接合部間に充填されたはんだ接合部とが形成されているものである。
【0015】
以下、本実施形態の金属接合体が自動車の車体の構成部に適用される場合を例示し、その金属接合体における第1の金属部材及び第2の金属部材がそれぞれ車体におけるルーフパネル及びルーフサイドレールである場合を例に、図1図3を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る金属接合体が車体1に供される例を説明するための当該車体1におけるルーフパネル2側の概略構造を示す図である。図2は、図1中のA−A線断面における拡大斜視図である。図3A〜Cは、本実施形態に係る金属接合体における第1の金属部材と第2の金属部材との接合部の構成例を示す、図2に対応する斜視図である。
【0017】
まず、本実施形態に係る金属接合体が供される車体の構成例を図1及び図2を参照しながら説明する。
図1に示されるように、自動車の車体1は、車体1の屋根を構成するルーフパネル(第1の金属部材)2、及び図1中の矢印Wで表される車体幅方向の両サイドに設けられたルーフサイドレール(第2の金属部材)3を有している。ルーフサイドレール3は、車体1の左右両サイドに一対で、図1中の矢印Lで表される車体前後方向に沿って設けられている。
【0018】
図2に示されるように、ルーフサイドレール3は、サイドアウタパネル4、ルーフレインフォース5及びサイドインナパネル6を備えて構成されている。
サイドアウタパネル4は、ルーフレインフォース5よりも車体外側に配置され、サイドインナパネル6は、ルーフレインフォース5よりも車体内側に配置されている。サイドアウタパネル4とルーフレインフォース5とで閉断面が形成されていると共に、サイドインナパネル6とルーフレインフォース5とで閉断面が形成されている。
なお、ルーフパネル2は好適には鋼板材又はアルミニウム系合金材で形成され、サイドアウタパネル4、ルーフレインフォース5及びサイドインナパネル6は、いずれも好適には鋼板材で形成される。
【0019】
サイドアウタパネル4、ルーフレインフォース5及びサイドインナパネル6はいずれもそれぞれ、本体部4a、5a、6aと、本体部4a、5a、6aの内端部から車体幅方向Wの内側へ屈曲された内側フランジ部4b、5b、6bと、本体部4a、5a、6aの外端部から斜め下方外向きに屈曲された外側フランジ部4c、5c、6cとを備えている。サイドアウタパネル4の本体部4aは、ルーフレインフォース5の本体部5aを車体外側から覆うことが可能な膨らみを有して形成されている。ルーフレインフォース5の本体部5aは、断面がやや開いたハット状に形成され、サイドインナパネル6の本体部6aと対向するように配置されている。サイドインナパネル6の本体部6aは、車体内側に凸となるように屈曲して形成されている。
【0020】
サイドアウタパネル4、ルーフレインフォース5及びサイドインナパネル6のそれぞれの内側フランジ部4b、5b、6bは、重ね合わされて接合されている。同様に、サイドアウタパネル4、ルーフレインフォース5及びサイドインナパネル6のそれぞれの外側フランジ部4c、5c、6cは、重ね合わされて接合されている。各内側フランジ部4b、5b、6b及び各外側フランジ部4c、5c、6cが接合されていることにより、ルーフサイドレール3には、車体前後方向Lに沿って閉断面が延在する。各内側フランジ部4b、5b、6b及び各外側フランジ部4c、5c、6cの接合手法は、特に限定されず、例えば、スポット溶接などが採用され得る。
【0021】
ルーフパネル2は、車体1の屋根部分となる本体部2aと、本体部2aの端部から車体内側に屈曲した屈曲部2bとを備える。このルーフパネル2の屈曲部2bは、サイドアウタパネル4の本体部4aにおける内側フランジ部4bからの立ち上がり部分に沿って重なるように形成されている。そして、第1の金属部材であるルーフパネル2と第2の金属部材であるルーフサイドレール3(サイドアウタパネル4)とで継手が形成され、その継手の継ぎ目に接合部12を有する。継手の形状は特に限定されないが、本実施形態では、フレア継手が形成されている。
【0022】
次に第1の金属部材2であるルーフパネル2と第2の金属部材3であるルーフサイドレール3(サイドアウタパネル4)との接合部12の構成例について、図2及び図3A〜Cを参照しながら説明する。
【0023】
前述したように、本発明に係る金属接合体11は、車体1の構成部材以外の用途にも広く適用可能であることから、以下の説明では、ルーフパネル2及びルーフサイドレール3(サイドアウタパネル4)をそれぞれ第1の金属部材2及び第2の金属部材3と一般化して称する。
なお、上述では、サイドアウタパネル4、ルーフレインフォース5及びサイドインナパネル6を含むルーフサイドレール3を第2の金属部材3と称したが、サイドアウタパネル4が第1の金属部材2であるルーフパネル2と接合する部材であることから、サイドアウタパネル4を第2の金属部材と称してもよいこととする。
【0024】
図2に示されるように、本実施形態の金属接合体11は、第1の金属部材2と第2の金属部材3とのフレア継手の継ぎ目に、ろう材で断続的に設けられたろう付け接合部14と、ろう材よりも融点が低いはんだでろう付け接合部14間に充填されたはんだ接合部16とを有する。
【0025】
ろう付け接合部14は、ろう材を用いたブレーズ接合により形成することができる。断続的なろう付け接合部14の形態としては、図2に示される形態以外にも、例えば、図3Aに示されるように、図2に示されるろう付け接合部14よりも数が多く、ステッチ状に形成されたろう付け接合部24とすることができる。このステッチ状のろう付け接合部24に伴い、図3Aに示される金属接合体21における接合部22は、図2に示される金属接合体11における接合部12に比べて、ろう付け接合部24間が短く、その各ろう付け接合部24の間に、はんだ接合部16よりも短いはんだ接合部26を有している。この金属接合体21では、ステッチ状のろう付け接合部24を有することから、接合強度を高め易い。
【0026】
また、例えば図3B及び図3Cに示される金属接合体31、41のように、これらの金属接合体31、41における接合部32、42では、1つ当たりのろう付け接合部34、44の大きさが小さく、点状に形成されたろう付け接合部34、44とすることもできる。さらに、図示しないが、点状のろう付け接合部34、44と、上述のステッチ状のろう付け接合部24とを組み合わせて、接合部を構成することも可能である。
【0027】
このように、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手に断続的にろう付け接合部14、24、34、44を設けることで、元々低いブレーズ接合の入熱量を更に低くすることができる。ろう付けによるブレーズ接合の方法として、MIGスポット溶接、レーザスポット溶接が好適に用いられる。
【0028】
第1の金属部材2と第2の金属部材3との接合部12、22、32、42の端は、ろう付け接合部14、24、34、44で構成されていることが好ましく、第1の金属部材2と第2の金属部材3とで形成される継手の端部に、ろう付け接合部14、24、34、44が配置されることがより好ましい。このように構成することで、第1の金属部材2と第2の金属部材3との接合強度をより高めることが可能となる。
【0029】
継手の継ぎ目において、断続的に設けられるろう付け接合部14、24、34、44の数、大きさ、及び配置位置などは特に限定されず、第1の金属部材2と第2の金属部材3とを確実に接合できるように適宜設定される。
【0030】
ろう付け接合部14、24、34、44に用いられるろう材の素材は、特に限定されず、第1の金属部材2と第2の金属部材3とを接合可能なものであればよい。ろう材の素材は、従来からろう付けで用いられているろう材の中から、第1の金属部材2及び第2の金属部材3の素材などに応じて適宜選択して用いることができる。
【0031】
例えば、第1の金属部材2及び第2の金属部材3が共にアルミニウム系合金材である場合、それらのろう付け接合に用いられるろう材(溶加材)としては、JIS又はAA規格で規定される4043及び4047のほか、1000系、5000系の溶加材を適用することができる。この場合のろう付け接合に用いられるろう材(溶加材)としては、ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ(FCW)が適宜用いられる。
【0032】
また、例えば第1の金属部材2及び第2の金属部材3が共に鋼材である場合、それらのろう付け接合に用いられるろう材(溶加材)としては、Cu系の溶加材を用いることができる。この場合もろう付け接合に用いられるろう材(溶加材)として、フラックスコアードワイヤ(FCW)が施工性の面で好ましい。
【0033】
さらに、本実施形態の金属接合体11、21、31、41は、ろう付け接合部14、24、34、44と、後述するはんだ接合部16、26、36、46とにより、シール性を高め易いことから、第1の金属部材2と第2の金属部材3とが融点の異なる異種材である場合にも好適である。例えば、アルミニウム系合金材と鋼材との接合の場合、それらのろう付け接合に用いられるろう材(溶加材)として、4043に加えて、Si:1.5〜2.5質量%、Ti:0.15〜0.25質量%、残部が実質的にAlからなるアルミニウム合金を皮材とし、芯材にフラックスを充填するフラックスコアードワイヤが好適に用いられる。なお、フラックスの種類は、特に限定されるものではないが、接合強度の観点から、フッ化アルミニウム(AlF)やフッ化セシウム(CsF)を主成分とするフラックスが好適である。具体的には、MIG溶接を行う場合は、主成分としてAlF:7〜15質量%、残部が実質的にKAlF(フッ化カリウムアルミニウム)系フラックスとし、レーザ溶接を行う場合は、主成分としてCsF:20〜60質量%を含有し、残部が実質的にKAlF(フッ化カリウムアルミニウム)系フラックスとするのが好適である。
【0034】
図2及び図3A〜Cに示されるように、断続的に設けられたろう付け接合部14、24、34、44の間には、はんだ接合部16、26、36、46が充填されている。
このはんだ接合部16、26、36、46により、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手の全体が金属で接合されることとなる。その結果、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手の隙間に溶接用シーラーを別途充填する必要なく、第1の金属部材2と第2の金属部材3との接合強度を高めることが可能となる。
【0035】
はんだ接合部がろう付け接合部間に充填されていることとは、継手方向(車体前後方向L)の平面視において、はんだ接合部が、1つのろう付け接合部からその次のろう付け接合部まで連続して設けられていることをいう。
ろう付け接合部14、24、34、44が断続的に形成された後に、はんだ接合部16、26、36、46を形成することで隙間に効率よく充填される。
【0036】
はんだ接合部16、26、36、46には、ろう付け接合部14、24、34、44に用いられるろう材よりも融点が低いはんだが用いられる。ろう材の融点が480〜560℃程度であるのに対して、はんだの融点は、180〜430℃程度であり、ろう材の融点よりも低い。このため、線状に連続したはんだ接合部16、26、36、46を形成しても、ろう材でブレーズ接合する場合に比べて、入熱量が著しく減少する。
はんだ接合部16、26、36、46に用いられるはんだの素材は、特に限定されず、例えば、Sn-Ag-Cu系、Sn-Zn系、Zn-Sn系、Zn-Si系など各種はんだを用いることができる。はんだは、ソリッドワイヤ、フラックスコアードワイヤ(FCW)が適宜用いられる。フラックスコアードワイヤの場合は、上記はんだ合金を皮材として、芯材のフラックスにはトリエタノールアミン(低温域:180〜260℃)、塩化第一錫(中温域:260〜370℃)、塩化亜鉛(高温域:370〜430℃)を用いることが好ましい。
【0037】
はんだ接合部16、26、36、46の形成方法は、特に限定されない。例えば、継手にワイヤ状のはんだを供給しつつレーザ溶接を行う方法、若しくは継手の所定位置にはんだを配置し、レーザ溶接又は誘導加熱によりはんだを溶融して接合する方法が好適である。これらのはんだ接合部16、26、36、46の形成方法は、接合スピードが格段に速くなり、これにより、金属接合体の生産性を高めることが可能となる。
【0038】
また、前述の通り、はんだ接合部16、26、36、46を設ける前に、ブレーズ接合により、ろう付け接合部14、24、34、44を部分的に設けることが好ましい。これにより、はんだ接合の際の熱による歪みを生じ難くすることが可能となる。
【0039】
はんだは研磨性が良好なため、はんだ接合部16、26、36、46は、研磨されていることが好ましい。研磨されたはんだ接合部16、26、36、46は、接合部分が目立たなく、美麗な外観となる点で好ましい。この観点から、図3Cに示されるように、はんだ接合部46は、ろう付け接合部44の表面を覆うように設けられていることが好ましく、継手の継ぎ目の略全体に亘って設けられていることがより好ましい。なお、図2に示される比較的間隔が長く形成されたろう付け接合部14や、図3Aに示されるステッチ状のろう付け接合部24の表面が、はんだ接合部14、24で用いられるはんだで覆われていてもよい。
【0040】
被接合材である第1の金属部材2及び第2の金属部材3の素材は、上述の通り、種々の組み合わせが可能である。被接合材の素材としては、例えば、アルミニウム系合金材、鋼材が好適に用いられる。
アルミニウム系合金材としては、JIS又はAA規格で規定される5082等の5000系合金、6022及び6011等の6000系合金、3104等の3000系合金、7000系合金、並びに2000系合金などを適宜用いることができる。
鋼材としては、裸鋼板(めっきのない鋼板)のほか、GA鋼板及びGI鋼板等の亜鉛めっき鋼板、並びにアルミめっき鋼板などを適宜用いることができ、鋼材の母材も普通鋼から高張力鋼といった高強度のものも用いることができる。
さらにこれらの被接合材の形態として、板状の部材のほか、押出材、並びに板状部材と押出材の組み合わせの被接合材を用いることができる。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態の金属接合体11、21、31、41は、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手の継ぎ目に、ろう付け接合部14、24、34、44と、そのろう付け接合部間に充填されたはんだ接合部16、26、36、46とが形成されている。そのため、接合強度が高く、シール性に優れると共に、熱歪みが極めて少ない金属接合体11、21、31、41を得ることができる。
また、ろう付け接合部44の表面がはんだ接合部46に用いられるはんだで覆われている構成をとることで、より美麗なビードを形成することができる。そして、はんだは、研磨性及び研削性が優れているため、継手の継ぎ目を目立たなくすることができ、デザイン性に優れた金属接合体41を得ることも可能となる。
【0042】
次に、本実施形態に係る金属接合体の製造方法について説明する。以下では、上述の金属接合体11、21、31、41の説明と重複するため、被金属材の構造例や各種素材の説明等を省略する。
【0043】
本実施形態に係る金属接合体の製造方法は、第1の金属部材と第2の金属部材とで継手を形成する工程(以下、「継手形成工程」と称することがある。)と、継手の継ぎ目に、ろう材を用いたブレーズ接合により、断続的にろう付け接合部を形成する工程(以下、「ろう付け工程」と称することがある。)と、ろう付け接合部の間にはんだ接合部が充填されるように前記ろう材よりも融点が低いはんだでろう付け接合部間に充填しながら接合し、はんだ接合部を形成する工程(以下、「はんだ接合工程」と称することがある。)と、を有する。
【0044】
本実施形態の金属接合体の製造方法では、ろう付け工程とはんだ接合工程とは、どちらを先に行ってもよく、また、同時進行的に行ってもよい。好ましくは、ろう付け接合工程により、断続的にろう付け接合部を形成した後に、はんだ接合工程により、ろう付け接合部間にはんだ接合部を形成する。
【0045】
前記継手形成工程では、第1の金属部材と、第2の金属部材とを合わせて、継手を形成する。本実施形態では、前述したように、フレア継手を例示している。ここで、第1の金属部材と第2の金属部材とは、同種の金属材料で形成されていてもよく、融点の異なる異種の金属材料で形成されていてもよい。また、第1の金属部材と第2の金属部材とが同種の金属材料で形成されている場合、これらは同一組成の金属材料であってもよく、同種であるが組成が異なる金属材料であってもよい。
【0046】
さらに、第1の金属部材及び第2の金属部材は板状であってもよく、その一方又は両方が各種形状に成形されていてもよい。第1の金属部材及び第2の金属部材に、予め成形されている部材を用いる場合、その成形方法は特に限定されるものではなく、プレス成形品や押出成形品の他、鋳物などでもよく、種々の成形品を用いることができる。
【0047】
前記ろう付け工程では、ろう材を用いたブレーズ接合として、レーザブレージング又はMIGブレージングにより、ろう付け接合部を形成することができる。
【0048】
前記はんだ接合工程では、継手にワイヤ状のはんだを供給しながら、そのワイヤ状のはんだにレーザビームを照射することにより、はんだ接合部を形成することができる。
また、前記ろう付け工程で継手の継ぎ目に断続的に形成されたろう付け接合部の間に、はんだを配置し、そのはんだにレーザビームを照射することにより、はんだ接合部を形成することもできる。
さらには、前記ろう付け工程で継手の継ぎ目に断続的に形成されたろう付け接合部の間に、はんだを配置し、誘導加熱により加熱してはんだを溶融させることにより、はんだ接合部を形成することもできる。
【0049】
ろう付け工程及びはんだ接合工程について、図4図7を参照しながら具体的に説明する。図4図7は、金属接合体の製造方法の代表例を説明する図であり、以下に説明する代表例の製造方法は、上述の実施形態に係る各金属接合体11、21、31、41の製造に適用できる。
なお、図4図7では、ルーフサイドレール(第2の金属部材)3について、サイドアウタパネル、ルーフレインフォース及びサイドインナパネルを示さずに簡略化して、1つの第2の金属部材3として表している。また、その第2の金属部材3及びルーフパネル(第1の金属部材)2の形状も簡略化して表している。
【0050】
図4は、本実施形態に係る金属接合体の製造方法の第1例の説明図であり、上述の実施形態に係る金属接合体11の場合を例示する図である。図4に示されるように、第1例の製造方法では、ろう付け接合部14とはんだ接合部16とをタンデムで行う。すなわち、本例の製造方法では、ろう付け接合部14の形成とはんだ接合部16の形成を同時進行的に行い、一本の接合部12を形成する。より好ましくは、継手の継ぎ目に、ろう付け接合部14に用いるワイヤ状のろう材13を供給しつつ、そのろう材13の供給に続けて、ろう材13の後から追うように、はんだ接合部16に用いるワイヤ状のはんだ15を供給する。
【0051】
本例の製造方法におけるろう付け工程では、ワイヤ状のろう材13を用いたブレーズ接合として、継手にワイヤ状のろう材13を供給しながら、溶接トーチ7を用いたMIGスポット溶接(MIGブレージング)でろう付け接合部14を形成する。MIGスポット溶接の手法として、通常のMIG溶接、CMT(Cold Metal Transfer)溶接のどちらを採用してもよい。
【0052】
本例の製造方法におけるはんだ接合工程では、継手の継ぎ目におけるろう付け接合部14間にはんだ接合部16が形成されるように、ろう付け接合部14に続いて、ワイヤ状のはんだ15を供給しながら、そのはんだ15にレーザビーム8を照射して、はんだ接合部16を形成する。
【0053】
はんだ接合工程で用いられるレーザビーム8には、ファイバーレーザ、ディスクレーザ、半導体レーザ、YAGレーザ、COレーザ等の各種方式を用いることができる。また、スキャナーを用いたリモート方式を用いると、極めて高速に効率よく接合することができる。レーザ接合を行う場合は、はんだに対してレーザビーム8をデフォーカスして行うことが好ましい。これにより、はんだのみでなく被接合材も加熱されるため、はんだの回りが良くなり、接合強度を高めることが可能となる。
【0054】
図5は、本実施形態に係る金属接合体の製造方法の第2例の説明図であり、上述の実施形態に係る金属接合体11の場合を例示する図である。図5に示されるように、本例の製造方法においては、ろう付け接合部14及びはんだ接合部16共に、レーザビームを照射して形成する方法である。より具体的には、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手にワイヤ状のろう材13を供給しながら、ろう材13に第1のレーザビーム8aを照射して、ろう付け接合部14を形成する。また、ろう付け接合部14に続けて、継手にワイヤ状のはんだ15を供給しながら、はんだ15に第2のレーザビーム8bを照射して、はんだ接合部16を形成する。レーザビーム8a、8bは、上記と同様にデフォーカスする方が好ましい。
【0055】
図6は、本実施形態に係る金属接合体の製造方法の第3例の説明図である。図6に示されるように、本例の製造方法においては、まず、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手の継ぎ目における所定位置に線状のろう材23及び線状のはんだ25を配置する。次に継手の継ぎ目における所定位置にろう材23及びはんだ25を配置した状態で、ろう材23及びはんだ25にそれぞれ第1のレーザビーム8a及び第2のレーザビーム8bを照射する。これにより、ろう材23及びはんだ25がレーザビームにより溶けて、ろう付け接合部及びはんだ接合部が形成される。
【0056】
第3例の製造方法では、施工条件に合わせてワイヤ(ワイヤ状のろう材やはんだ)を供給するようなワイヤの供給装置を設けなくてもよいため、より簡素な設備で金属接合体を製造することができる。
また、本例の製造方法では、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手の継ぎ目における所定位置にろう材23及びはんだ25を配置した状態で、レーザビーム8a、8bを照射すればよいため、この製造方法でもろう付け接合部及びはんだ接合部を同時進行的に形成することが可能となる。これにより、金属接合体の生産性を高めることが可能となる。
【0057】
図7は、本実施形態に係る金属接合体の製造方法の第4例の説明図である。図7に示されるように、本例の製造方法においては、第1の金属部材2と第2の金属部材3との継手の継ぎ目にろう付け接合部14を形成した後、線状のはんだ25をろう付け接合14間に配置し、誘導加熱器9によりはんだ25を加熱して溶かし、はんだ接合部を形成する。なお、図7では、ろう付け接合部14がすでに形成された状態を表しているが、このろう付け接合部14は、本例におけるはんだ接合部の形成と同様に、線状のろう材と誘導加熱器9を用いて形成することができ、また、上記第1〜第3例の製造方法と同様の方法で形成することもできる。
【0058】
第4例の製造方法では、簡易な誘導加熱器9により、接合箇所を一括して加熱し、はんだ接合部25を形成することができ、生産性をより高めることが可能となる。
【0059】
以上の各例の製造方法において、ろう付け接合部を形成した後、そのろう付け接合の上にワイヤ状のはんだを供給しながら、又はろう付け接合部の上にはんだを配置して、上述のようにレーザビームを照射してはんだを溶かし、はんだ接合部を形成することも可能である。このようにすることで、ろう付け接合部の表面をはんだで覆うことができ、美麗なビードを形成することができる(図3C参照)。さらにこのはんだ接合部を形成した後、そのはんだ接合部の表面を研磨することで、より美麗な外観を得ることが可能である。
【0060】
以上の製造方法において、溶接やレーザの条件は特に限定されず、第1の金属部材2及び第2の金属部材3の形状、寸法、構造及び素材等に応じて適宜設定し得る。
【0061】
アルミニウム系合金材とアルミニウム系合金材との接合、又は鋼材と鋼材との接合の場合、ろう付け接合部の形成をMIGスポット溶接で行う際の条件としては、例えば溶接電流は60〜120Aの範囲(好適な一例として90A)、電圧は10〜30Vの範囲(好適な一例として19V)で設定可能である。また、この場合において、ろう付け接合部の形成をレーザビーム(レーザスポット溶接)にて行う際の条件としては、例えば電力1〜5kW程度(好適な一例として3.5kW)、ビーム径0.5〜5mm程度(好適な一例として2mm)の範囲で設定可能である。さらにこの場合において、はんだ接合部をレーザビームにて行う際の条件としては、電力1〜5kW程度(好適な一例として1.5kW)、送り速度1〜5m/m程度(好適な一例として2m/m)、ビーム径0.5〜5mm程度(好適な一例として2mm)の範囲で設定可能である。
【0062】
アルミニウム系合金材と鋼材との異材接合の場合に、ろう付け接合部の形成をMIGスポット溶接で行う際の条件としては、例えば溶接電流は50〜110Aの範囲(好適な一例として80A)、電圧は10〜30Vの範囲(好適な一例として17V)で設定可能である。また、この場合において、ろう付け接合部の形成をレーザビーム(レーザスポット溶接)にて行う際の条件としては、例えば電力1〜5kW程度(好適な一例として3kW)、ビーム径0.5〜5mm程度(好適な一例として2mm)の範囲で設定可能である。さらにこの場合において、はんだ接合部をレーザビームにて行う際の条件としては、電力1〜5kW程度(好適な一例として1.5kW)、送り速度1〜5m/m程度(好適な一例として2m/m)、ビーム径0.5〜5mm程度(好適な一例として2mm)の範囲で設定可能である。
【0063】
以上詳述したように、本実施形態の金属接合体の製造方法では、第1の金属部材と第2の金属部材との継手の継ぎ目に、ろう付け工程によりろう付け接合部を形成すると共に、はんだ接合工程により、継ぎ目におけるろう付け接合部間にはんだ接合部を形成する。この製造方法では、ブレージング接合でろう材を用いて部分的に点止めし、その点止めによるろう付け接合部間をろう材より融点の低いはんだで補充しているため、熱歪みが極めて少なく、接合強度及びシール性の高い金属接合体を得ることが可能となる。
また、本実施形態の製造方法では、レーザビームを用いてはんだ接合部を形成するため、低入熱で高速の接合ができるため、接合時間が短縮されるとともに、歪の手直しも少なく、金属接合体の生産性を飛躍的に向上することが可能となる。
【0064】
なお、本実施形態に係る金属接合体及び金属接合体の製造方法は、上述した構成に変えて、次のような構成をとることも可能である。
・上記実施形態では、第1の金属部材2と第2の金属部材3とで形成される継手形状が、フレア継手である場合を例示したが、当該継手形状はこれに限定されない。例えば、本発明に係る金属接合体においては、第1の金属部材と第2の金属部材との継手形状として、突合せ継手、重ね継手、角継手、へり継手、T字継手などの継手形状を適用することも可能である。
・上記実施形態では、自動車の車体におけるルーフ部材に用いられる金属接合体を例示したが、自動車におけるドアやフェンダーなどの部材にも本発明に係る金属接合体を適用することができる。また、自動車産業のみならず、建設産業、造船産業、鉄道産業、航空宇宙産業など種々の産業分野における金属接合に、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 車体
2 ルーフパネル(第1の金属部材)
3 ルーフサイドレール(第2の金属部材)
4 サイドアウタパネル
5 ルーフレインフォース
6 サイドインナパネル
11、21、31、41 金属接合体
12、22、32、42 接合部
13、23 ろう材
14、24、34、44 ろう付け接合部
15、25 はんだ
16、26、36、46 はんだ接合部
7 溶接トーチ
8、8a、8b レーザービーム
9 誘導加熱器
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7