特許第5955377号(P5955377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955377核融合炉環境の液体リチウム保持方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955377
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】核融合炉環境の液体リチウム保持方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G21B 1/11 20060101AFI20160707BHJP
   G21B 1/17 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   G21B1/00 D
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-502565(P2014-502565)
(86)(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公表番号】特表2014-514551(P2014-514551A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】US2012023517
(87)【国際公開番号】WO2012134630
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2014年5月28日
(31)【優先権主張番号】13/078,729
(32)【優先日】2011年4月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ウィーバー, トマス リーマン
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−207000(JP,A)
【文献】 特開2003−270372(JP,A)
【文献】 特開2009−175051(JP,A)
【文献】 特開2003−130979(JP,A)
【文献】 特開2003−130998(JP,A)
【文献】 特開2003−130977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21B 1/00−1/25
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを安定化させるために、チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持する方法であって、該方法は、
耐熱開放気泡多孔質材料から製造される複数のタイル(200)を、前記チャンバの前記内壁の前記表面上に実装することと、
前記タイル(200)に前記液体リチウムを流すこと(270)と、
前記液体リチウムが、前記チャンバ(100)の内部に面しているタイル(200)の外表面(220)に達することができるように、前記タイル内部の網目構造全体に前記液体リチウムを循環させることと、
前記タイル(200)から循環した液体リチウムを排出することと、を含み、
前記複数のタイル(200)のそれぞれは、入力プレナム(260)と出力プレナム(280)を含み、
前記液体リチウムは、前記入力プレナム(260)を介して前記タイル(200)に注入され、前記出力プレナム(280)を介して前記タイル(200)から排出され
前記チャンバが核融合炉に採用される、方法。
【請求項2】
前記耐熱開放気泡多孔質材料はセラミック材料である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記耐熱開放気泡多孔質材料は金属発泡体である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記複数のタイル(200)のそれぞれは前記タイル(200)の内部に複数の開放気泡を含み、
前記液体リチウムは前記複数の開放気泡を介してタイル(200)の内部全体を循環する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記タイル(200)は一定の気泡率を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記タイル(200)は多様な気泡率を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記入力プレナム(260)は中空の金属片である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記出力プレナム(280)は中空の金属片である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記タイル(200)内部の前記網目構造を循環する前記液体リチウムの流量が時間と共に変動する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
プラズマを安定化させるために、チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するシステムであって、該システムは、
耐熱開放気泡多孔質材料から製造される複数のタイル(200)と、
前記チャンバの内壁(240)の表面に前記複数のタイル(200)が実装されている前記チャンバと、を含み、
前記タイル(200)によって、液体リチウムが前記タイル(200)に流入することが可能であり、
前記タイル(200)によってさらに、前記液体リチウムが前記チャンバ(100)の内部に面しているタイル(200)の外表面(220)に達するように、前記タイル(200)内部の網目構造全体に前記液体リチウムを循環させることが可能であり、
前記タイル(200)によってさらに、前記循環した液体リチウムを前記タイル(200)から排出させることが可能であり、
前記複数のタイル(200)のそれぞれは、入力プレナム(260)と出力プレナム(280)とを含み、
前記液体リチウムは、前記入力プレナム(260)を介して前記タイル(200)に注入され、前記出力プレナム(280)を介して前記タイル(200)から排出され
前記チャンバが核融合炉に採用される、システム。
【請求項11】
前記耐熱開放気泡多孔質材料はセラミック材料である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記耐熱開放気泡多孔質材料は金属発泡体である、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記複数のタイル(200)のそれぞれは前記タイル(200)の内部に複数の開放気泡を含み、
前記複数の開放気泡によって、前記液体リチウムを、前記タイル(200)の内部全体を循環させることが可能である、請求項10〜12のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本開示は複合形状構造体に関する。具体的には、核融合炉環境の液体リチウム(Li)第一壁用の複合形状構造体に関する。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、核融合炉環境の液体リチウム第一壁用の複合形状構造体のための装置、システム、及び方法に関する。一又は複数の実施形態では、反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するための開示された方法は、反応炉チャンバの内壁の表面上に少なくとも1つのタイルを実装することを含む。少なくとも1つのタイルは耐高温開放気泡多孔質材料から製造される。開示されている方法はさらに、少なくとも1つのタイルに液体リチウムを流すことを含む。加えて、この方法は、液体リチウムが反応炉チャンバの内側に対向するタイル(複数可)の外表面に達するように、液体リチウムをタイル内部の網目構造で循環させることを含む。また、この方法は循環した液体リチウムをタイルから排出することを含む。
【0003】
本開示の一又は複数の実施形態では、反応炉チャンバは核融合炉に使用される。タイルは、限定しないが、不規則な形状及び規則的な形状を含む、様々な形状で製造されることがある。加えて、タイルは、限定しないが、様々なタイプのセラミック材料及び金属発泡体を含む、様々な耐高温多孔質材料から製造されることがある。
【0004】
少なくとも1つの実施形態では、少なくとも1つのタイルはタイル内部に少なくとも1つの開放気泡を含む。液体リチウムは開放気泡を経由してタイル内部を循環する。一又は複数の実施形態では、少なくとも1つのタイルは一定の気泡率を有する。幾つかの実施形態では、少なくとも1つのタイルは多様な気泡率を有する。
【0005】
一又は複数の実施形態では、少なくとも1つのタイルは入力プレナムを有し、液体リチウムは入力プレナムを介してタイル内へ注入される。少なくとも1つの実施形態では、少なくとも1つのタイルは出力プレナムを有し、液体リチウムは出力プレナムを介してタイル外へ排出される。幾つかの実施形態では、入力プレナム及び/又は出力プレナムはそれぞれ中空の金属片である。一又は複数の実施形態では、少なくとも1つのタイルの網目構造内を循環する液体リチウムの流量は時間と共に変動する。加えて、幾つかの実施形態では、液体リチウムの循環流量はタイルによって異なる。
【0006】
少なくとも1つの実施形態では、反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するためのシステムは、少なくとも1つのタイル及び1つの反応炉チャンバを含む。少なくとも1つの実施形態では、少なくとも1つのタイルは耐高温開放気泡多孔質材料から製造される。幾つかの実施形態では、少なくとも1つのタイルは、反応炉チャンバの内壁の表面上に実装される。少なくとも1つの実施形態では、少なくとも1つのタイルにより液体リチウムはタイル内に流入することができる。加えて、このタイルにより、液体リチウムが反応炉チャンバの内側に対向するタイルの外表面に達するように、液体リチウムをタイル内部の網目構造で循環させることができる。さらには、このタイルにより、循環した液体リチウムはタイルから排出可能となる。
【0007】
一又は複数の実施形態では、反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するためのタイルが開示されている。少なくとも1つの実施形態では、タイルは耐高温開放気泡多孔質材料から製造される。幾つかの実施形態では、タイルは、液体リチウムをタイル内部で循環させるため、タイル内部に少なくとも1つの開放気泡を含む。
【0008】
特徴、機能、及び利点は、本発明の種々の実施形態において単独で達成することができるか、又は他の実施形態において組み合わせることができる。
【0009】
本開示の上記及び他の特徴、態様、及び利点に対する理解は、後述の説明、特許請求の範囲、及び添付図面を参照することにより深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の少なくとも1つの実施形態による、トロイダル核融合炉の内部の図解である。
図2】本開示の少なくとも1つの実施形態による、反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するための1つのタイルの上面図を示している。
図3】本開示の少なくとも1つの実施形態による、互いに隣接するように実装される図2のタイル4個構成の上面図を示している。
図4】本開示の少なくとも1つの実施形態による、一様な気泡率を有する反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するための1つのタイルの側面断面図を示している。
図5】本開示の少なくとも1つの実施形態による、図4のタイルの上面断面図を示している。
図6】本開示の少なくとも1つの実施形態による、一様でない気泡率を有する反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するための1つのタイルの上面断面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書に開示した方法及び装置は、複合形状構造体のための作動システムを提供する。特に、本システムは核融合炉環境の液体リチウム第一壁用の複合形状構造体に関する。具体的には、開示されているシステムは、核融合エネルギー炉内で液体リチウムを保持する耐高温、高気泡率の開放気泡材料を使用し、これによって複合形状を有する炉内部表面の損傷を低減する。例えば、ボーイング剛性絶縁(BRI)材料は、高温耐性と良好な材料互換性を有する開放気泡多孔質セラミックであるが、開示されているシステムで使用することができる。加えて、開示されているシステムはまた、トリチウム増殖を目的とするリチウムへの高中性子束照射を提供する。
【0012】
BRI材料は、セラミックファイバーを独自に組み合わせた、多孔質のセラミック製ファイバー絶縁材料で、熱伝導度がきわめて低く、低密度で高多孔質の材料を形成するように焼結されている。加えて、BRI材料は、高い引張強度ときわめて優れた寸法安定性を示す。具体的には、BRIは、二酸化ケイ素(SiO)ファイバーと酸化アルミニウム(Al)ファイバーの組合せ、及び二酸化ケイ素ファイバーと酸化アルミニウムファイバーの融合と焼結に役立つホウ素含有粉末から製造される。BRI材料の絶縁能の優位性は、二酸化ケイ素ファイバーと酸化アルミニウムファイバーの方向性によって提供される。BRI材料は、きわめて低い熱伝導度を、特に厚み方向に対して示す。BRIの組成及びBRIの製造方法のさらに詳細な説明は、米国特許第6,716,782号に開示されており、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0013】
核融合エネルギー反応炉内のプラズマ制御の維持には、幾つかの困難があることが知られている。中でも、プラズマは高い電力密度で不安定になることがある。液体リチウムは反応炉容器内のプラズマの安定に役立つことが知られている。プラズマはほとんどが陽イオンと負の電子で構成されており、反応壁付近のプラズマのアウターシースはプラズマのコア部分よりも温度が低い。シースの中では、イオンは、コア部分のイオンよりも、プラズマから電子を捕捉して中性原子になる確率が高い。中性原子は磁場によって閉じ込めることができないため、プラズマを閉じ込める磁場を横切り、反応炉容器の壁に衝突する確率が高くなる。このプロセスで、中性原子はエネルギーの一部をプラズマから壁に運ぶため、プラズマシースをわずかに冷却し、壁をわずかに加熱する。核融合プラズマでは、中性原子の大部分は水素であるが、核融合反応によって作られるヘリウム及び反応炉構造物への偶発的なプラズマの衝突によって構造物から破砕されて飛び出すことがある重元素(不純物)など、他の物質が存在することがある。壁が耐高温セラミック又は金属で作られている場合、中性原子は短時間だけ壁に張り付いた後、プラズマシースの中に戻る。しかしながら、壁からプラズマシースに再び入る原子はプラズマシースと比べてきわめて温度が低いため、シース内のプラズマ温度を大幅に下げる結果となる。通常、プラズマシースはプラズマコアよりも温度が低いが、シースの温度が下がりすぎると、プラズマコアとシースとの間の温度差によって、プラズマの不安定性が増す。反応炉内壁のリチウムは内部に戻る中性原子を吸収し、これを放出しない傾向がある。壁に接触する中性原子を吸収し保持することによって、リチウムは、原子が冷えた原子となってプラズマシースに戻るのを防ぎ、シースを高温に保ち、プラズマ全体がより安定化するのを助ける。
【0014】
現在、実験では、液体リチウムは、ほぼ垂直な側壁の直上にあるチャネル(すなわち、チャネルはトーラス型反応炉容器の中間部分となる「赤道部」の直上に位置する)から反応炉容器の側壁内側に沿って緩やかに流れる。重力により、液体リチウムは所定の位置に留まることなく、チャネルから炉の側壁を流れ落ち、別のチャネルとリチウムを取り除くために炉のさらに下方に配置されたドレーンによって集められる。この特有の方法は、重力によってリチウムがチャネルから炉の底部まで流れ落ちるため、炉の赤道部から底部の大部分までの側壁を覆うことができる。しかし、この方法では明らかに炉の赤道部より上方の側壁を覆うことはできない。反応炉の最も低い部分では、液体リチウムは液溜り内及び粗い水平スクリーン上でも使用されるが、いずれも方法でも上壁で効果的に適用することはできない。開示したシステムでは、液体リチウムを反応炉容器の内壁の全表面に保持することができる。
【0015】
反応炉壁上でリチウムを使用することのさらなる利点は、これが低原子番号(低Z)の物質であるという点にある。反応炉壁の鋼鉄から鉄などの高原子番号(高Z)の物質がプラズマに入ると、その原子はプラズマ中のイオンから運動エネルギーを吸収することによって電子的に励起されることがある。典型的には、励起された高Z物質は、電磁エネルギー(光子)の形でエネルギーを放出して余分なエネルギーを失う。プラズマはほとんどの波長の電磁エネルギーに対して透過性があるため、励起された高Z物質によって放出された大部分の光子はプラズマから逃れて、反応炉の壁に吸収される。最終的な影響はプラズマからの全体的なエネルギー損失で、放射冷却と呼ばれている。プラズマの温度は低下し、反応炉壁の温度は上昇する。これは核融合炉反応を維持するために必要な反応とは反対の反応となる。リチウムなどの低Z物質は電子の数が少ないため、エネルギーを放射しうる方法はきわめて少なく、結果的に低Z物質はプラズマの放射冷却を引き起こすことが比較的少ない。
【0016】
核融合炉壁の内側でリチウムを使用するさらなる利点は、反応炉の燃料となる2つの元素のうちの1つであるトリチウムは自然界では非常に希少であるが、核融合炉によって生成される高エネルギー中性子線束にリチウムを曝露することによって効率的に作り出すことができる。したがって、反応炉内で中性子線束が最も強いプラズマの近傍領域にリチウムを配置することができるならば、リチウムからトリチウムの生成は効率的になりうる。液体リチウムは炉内の他の物質の原子に結合しやすい傾向があるため、反応炉内でのリチウムの循環は、反応炉内に純粋なリチウムを導入する効果的な方法をもたらし、リチウム内でトリチウムを生成し、反応炉からトリチウム化リチウムを汲み出し、これをリチウムからトリチウムを抽出する化学処理システムに通すことによって反応炉からトリチウムを取り除くことができ、このようにして反応炉の燃料となるトリチウム及び反応炉を再度循環させることができるきれいなリチウムを供給することができる。
【0017】
本開示のシステムは、重力及び電磁力に抗して反応炉容器の壁の所定の位置に液体リチウムを保持することができる開放気泡多孔質材料を利用する。加えて、プラズマから不純物を吸収するため、この材料によってシステム全体から液体リチウムをゆっくりと汲み上げることができる。本開示システムの操作中、きれいなリチウムは最初システムに汲み上げられて反応炉壁内側に入り、ここでプラズマに曝露される。この位置で、きれいなリチウムはプラズマから不純物を吸収する。不純物で汚染されたリチウムは反応炉から取り出され、リチウムからプラズマ不純物を取り除くため処理される。リチウムから不純物が取り除かれた後、きれいになったリチウムはシステムに戻され再循環される。
【0018】
実験用トカマク及び他の型式の核融合エネルギー実験装置内部のプラズマに曝露される液体リチウム表面は、プラズマの安定化を支援し、プラズマが内部の高温を保つのに役立つことが示されている。しかしながら、これらの反応炉容器は典型的には、計測器、真空ポンプ用ポート、及び磁気コイルなどの種々のアイテム用の不連続部分及び開口部を多数有すると同時に、きわめて複雑な形状を有するように構築されていることに注意しなければならない。現在、不連続部分及び開口部をすべて有する反応炉容器の壁の内側に液体リチウムを保持し、重力及び電磁力の影響に抗してリチウムを保持する効果的な方法は提案されていない。本開示は、不連続部分を備え、且つ反応炉壁表面の向き、重力及び電磁力の影響にかかわりなく、反応炉壁の所定の位置にゆっくり流れる液体リチウムを保つことができる方法を教示する。
【0019】
これまでに、核融合プラズマに隣接する液体リチウムを用いた実験では、液体リチウムの壁を構築する方法ではなく、リチウムがプラズマに及ぼす影響に焦点が合わされてきた。そのため、液体リチウム−水素プラズマ相互作用の実験を促進するため、4種類の特別な方法が用いられてきた。これら4つのアプローチは以下の通りである。(1)トロイダル型反応炉容器の底部のトレイに配置される液体リチウムの液溜り、(2)炉容器の底部に水平に配置される液体リチウムで濡れた金属スクリーン、(3)帯状部分の上部から帯状部分の底部まで内表面に沿って流れ落ちる液体リチウムを有する反応炉容器の中央平面付近に配置されたバンド、及び(4)炉容器底部の液溜りから炉の内壁を液体リチウムが絶えず再被覆するように物理的に回転される球形及び円筒形反応炉容器内へのプラズマ閉じ込め。
【0020】
最初に挙げた2つの方法では、反応炉底部の小さな領域に対してリチウムの表面を作り出すだけで限界がある。第3の方法は反応炉中央付近の帯状部分を覆うだけで、被覆された帯状部分を維持するためには高い流量が必要となる。高い流量により、反応炉の操作に要する汲み上げ力が高まるので、反応炉が生み出すエネルギーを減じる結果となる。第4の方法は、プラズマ閉じ込めに最も効果的な形状の磁場を有するトロイダル型容器では容易には採用できない。これらの容器の建設には剛体材料が使用されるため、トロイダル型容器の壁を持続的に回転することは不可能である。加えて、第4の方法は、反応炉容器の内側部分が絶えず動くことが必要で、真空ポンプ用ポート、センサー、及び磁気コイルなど、容器壁内になければならないその他の装置の配置および使用を妨げる。
【0021】
本開示は、重力及び電磁力に抗して液体リチウムを所定の場所に留め、プラズマから不純物を取り除くためシステム全体を通してゆっくりと液体プラズマを汲み上げるため、耐高温の開放気泡スポンジ様材料(例えば、ボーイング剛性絶縁(BRI)材料)から製造されるタイルを採用する。この方法には複数の利点がある。第1の利点は、タイルが小さなサイズで製造できることで、これにより反応炉容器の内面が複雑な形状であっても、トロイダル型容器の内面は液体リチウムで満たされたタイルのモザイクでタイル張りができる。第2の利点は、反応炉容器内にプラズマが存在する場合に、タイルが曝露される高温にタイルの材料(例えば、開放気泡を有する多孔質のセラミック)が耐えられることである。第3の利点は、タイルの材料(例えば、開放気泡を有する多孔質のセラミック)がリチウムの腐食作用に耐性があることである。第4の利点は、タイルの構成が調整可能なことで、液体リチウムの保持力及び流量に対して最適な細孔の大きさ及び/又は開放チャネルを作ることができることである。
【0022】
さらに、第5の利点は、プラズマ崩壊によりプラズマがタイルに激しく衝突してリチウムの外表面が蒸発するような場合でも、タイルの高い透過性によってさらに多くのリチウムをタイル表面に排出させることができる。第6の利点は、タイル自体がプラズマの衝突によって部分的にはがれた場合でも、タイルの深さによってタイルが機能し続けるため、交換が必要になるまでタイルは数回のプラズマ衝突に耐えることができる。第7の利点は、タイルの一部がプラズマによって剥離した場合でも、タイルが作られる材料の大部分は低原子量元素であるため、高原子量金属の材料よりもプラズマに及ぼす悪影響が少なくなることである。第8の利点は、タイルの一部が剥離した場合でも、剥離したタイルの部分は、単純に液体リチウムで満たされた空間となる。このように、反応炉容器の壁に液体リチウムを保持するように、耐高温多孔質材料から作られるタイルの本開示システムによる使用は多くの利点を有する。
【0023】
下記の説明には、システムのさらに徹底した説明を提供するために、多数の詳細事項が記載されている。しかしながら、当業者には、開示されたシステムをこれらの具体的な詳細事項なしで実行可能であることが明らかであろう。その他の場合では、システムを不必要にわかりにくくしないために、よく知られる特徴については詳細に説明していない。
【0024】
図1は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、核融合炉100の内部を図解したものである。この図では、核融合炉100がトーラス型であることがわかる。本開示のシステムは種々の型式及び形状の核融合炉で使用可能であることに注意しなければならない。核融合炉100の第一壁は、耐高温多孔質材料から製造される小さなタイル110で裏打ちされている。このような小さなタイル110により、液体リチウムは反応炉容器100の壁表面を覆うことができる。液体リチウムは反応炉容器100内部のプラズマの安定化に役立ち、プラズマ内部の高温維持に有効である。
【0025】
図2は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するための1つのタイル200の上面図を示している。タイル200は、耐高温開放気泡多孔質材料で作られており、反応炉容器壁240上に実装される。この図では、タイル200が入力プレナム260及び出力プレナム280を含むことが示されている。入力プレナム260及び出力プレナム280は共に、単一中空の非多孔質材料片(例えば、金属)である。
【0026】
本システムの動作時には、入力プレナム260を通ってタイル200にきれいな液体リチウムが注入される。液体リチウムは入力プレナム260に印加される圧力、及び/又は出力プレナム280の位置に存在する真空によって、タイル200の入力プレナム260に流れ込む。タイル200の入力プレナム260に圧力を印加するシステムに採用される種々の型式のポンプには、限定しないが、プロペラポンプ、遠心ポンプ、及びピストンポンプが含まれる。きれいな液体リチウムは、タイル200の本体250全体にわたる開放気泡又はチャネルからなる内部の網目構造を循環する。きれいな液体リチウムは、タイル200の開放気泡に浸透し、高温で希薄なプラズマ230を封じ込める反応炉容器内の空洞に面したタイル200の多孔質外表面220に到達する。タイル200の本体250内で液体リチウムの流れる方向は矢印270で示されている。
【0027】
タイル200の多孔質外表面220の上に存在するきれいな液体リチウムは、プラズマ230の不純物を吸収する。新たに不純物を含んだこの液体リチウムは、出力プレナム280を経由してタイル200から取り除かれる。タイル200から不純物を含んだ液体リチウムが取り除かれた後、液体リチウムから不純物を取り除くため、この液体リチウムは処理される。その結果きれいにされた液体リチウムはシステムに再循環される。
【0028】
代替的な実施形態では、タイル200は図2に描かれているような入力プレナム260及び/又は出力プレナム280を明確に含まないことがあるが、その代わり、液体リチウムをタイル200に注入する及び/又はタイル200から排出するための少なくとも1つの開放気泡又はチャネルをタイル内部に有することに注意しなければならない。
【0029】
図3は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、図2のタイル310を4個互いに隣接するように実装した構成300の上面図を示している。この図では、タイル310が反応炉容器壁330の曲面に沿って互いに隣接するように実装可能であることが示されている。この構成でタイル310を実装する場合には、プラズマ320を含む反応炉容器内の空洞に面したタイル310の多孔質の外表面340が曲面を形成することが示されている。
【0030】
図4は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、一様な気泡率を有する反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するための1つのタイル410の側面断面図を示している。この図では、タイル410が入力プレナム430及び出力プレナム440を有することが示されている。タイル410はまた、一様な気泡率420を有するように製造されることが示されている。加えて、タイル410の本体内で液体リチウムの流れる方向はこの図の矢印450で示されている。
【0031】
図5は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、図4のタイル410の上面断面図を示している。この図は単純に、一様な気泡率420を有するタイル410の別の断面図を示している。加えて、幾つかの実施形態では、タイル410の側面領域510、520は、入力プレナム430及び出力プレナム440の製造に使用される同一の非多孔質材料で製造されることに注意しなければならない。
【0032】
図6は、本開示の少なくとも1つの実施形態による、一様でない気泡率を有する反応炉チャンバの内壁の表面に液体リチウムを保持するための1つのタイル610の上面断面図を示している。この図では、タイル610が入力プレナム630及び出力プレナム640を有することが示されている。タイル610は、一様な気泡率620を有するように製造されることが示されている。この図では、タイル610の本体の気泡率は、プラズマ670に面したタイル610の外表面660から入力及び出力プレナム630、640まで、徐々に減少することが示されている。またこの図では、矢印650はタイル610の本体内で液体リチウムの流れる方向を示している。
【0033】
特定の例示的実施形態及び方法を本明細書に開示したが、前述の開示内容から、当業者には、本開示の精神及び範囲から逸脱することなくこのような実施形態及び方法に変更及び修正を加えることが可能であることは明らかであろう。その他多数の実施例があり、各実施例はその詳細事項においてのみ他と異なる。したがって、本開示は添付の請求項及び適用法の規則及び原理によって要求される範囲にのみ制限されることを目的としたものである。
【符号の説明】
【0034】
100 核融合炉
110 タイル
200 タイル
220 多孔質外表面
230 プラズマ
240 反応炉容器壁
250 タイルの本体
260 入力プレナム
270 液体リチウムの流れる方向
280 出力プレナム
300 タイル4個を隣接させた構成
310 タイル
320 プラズマ
330 反応炉容器壁
340 多孔質外表面
410 タイル
420 一様な気泡率
430 入力プレナム
440 出力プレナム
450 液体リチウムの流れる方向
510 タイルの側面領域
520 タイルの側面領域
610 タイル
620 一様な気泡率
630 入力プレナム
640 出力プレナム
650 液体リチウムの流れる方向
660 外表面
670 プラズマ
図1
図2
図3
図4
図5
図6