(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンと無段変速機と駆動用モータとを有し、駆動用モータで駆動輪を駆動もしくは回生制動しているときに駆動輪と無段変速機との間を解放可能なクラッチを設けたハイブリッド車両において、
前記クラッチを解放しているときに前記エンジンを停止するエンジン停止手段と、
該エンジン停止手段が前記エンジンを停止することに併せて前記無段変速機の変速比を維持し、前記エンジンを停止している間はその変速比を維持する変速比維持手段と、
前記エンジンに駆動され前記無段変速機に油圧を供給する機械式オイルポンプと、を備え、
前記変速比維持手段は、前記エンジン停止手段が前記エンジンを停止しているときは、電動モータで駆動される電動式オイルポンプにより前記無段変速機に油圧を供給して前記無段変速機の変速比を維持することを特徴とするハイブリッド車両。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施例1〕
図1は、実施例1のハイブリッド車両の駆動系およびその全体制御システムを示す概略系統図である。
図1のハイブリッド車両は、エンジン1および電動モータ2を動力源として搭載され、エンジン1は、スタータモータ3により始動する。エンジン1は、Vベルト式の無段変速機4を介して駆動輪5に適宜切り離し可能に駆動結合する。
【0014】
無段変速機4のバリエータCVTは、プライマリプーリ6と、セカンダリプーリ7と、これらプーリ6,7間に掛け渡したVベルト8(無端可撓部材)とからなるVベルト式無段変速機構である。尚、Vベルト8は複数のエレメントを無端ベルトによって束ねる構成を採用したが、チェーン方式等であってもよく特に限定しない。プライマリプーリ6はトルクコンバータT/Cを介してエンジン1のクランクシャフトに結合し、セカンダリプーリ7はクラッチCLおよびファイナルギヤ組9を順次介して駆動輪5に結合する。尚、本実施例にあっては、動力伝達経路を断接する要素(クラッチやブレーキ等)を総称してクラッチと記載する。
図1は、動力伝達経路を概念的に示すものであり、後述する副変速機31内に設けられたハイクラッチH/C,リバースブレーキR/B及びローブレーキL/Bを、総称してクラッチCLと記載している。クラッチCLが締結状態のとき、エンジン1からの動力はトルクコンバータT/Cを経てプライマリプーリ6へ入力され、その後Vベルト8、セカンダリプーリ7、クラッチCLおよびファイナルギヤ組9を順次経て駆動輪5に達し、ハイブリッド車両の走行に供される。
【0015】
エンジン動力伝達中、プライマリプーリ6のプーリV溝幅を小さくしつつ、セカンダリプーリ7のプーリV溝幅を大きくすることで、Vベルト8とプライマリプーリ6との巻き掛け円弧径を大きくすると同時にセカンダリプーリ7との巻き掛け円弧径を小さくする。これにより、バリエータCVTはHigh側プーリ比(High側変速比)へのアップシフトを行う。High側変速比へのアップシフトを限界まで行った場合、変速比は最高変速比に設定される。
【0016】
逆にプライマリプーリ6のプーリV溝幅を大きくしつつ、セカンダリプーリ7のプーリV溝幅を小さくすることで、Vベルト8とプライマリプーリ6との巻き掛け円弧径を小さくすると同時にセカンダリプーリ7との巻き掛け円弧径を大きくする。これにより、バリエータCVTはLow側プーリ比(Low側変速比)へのダウンシフトを行う。Low側変速比へのダウンシフトを限界まで行った場合、変速は最低変速比に設定される。
【0017】
バリエータCVTは、プライマリプーリ6の回転数を検出するプライマリ回転数センサ6aと、セカンダリプーリ7の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ7aとを有し、これら両回転数センサにより検出された回転数に基づいて実変速比を算出し、この実変速比が目標変速比となるように各プーリの油圧制御等が行われる。
【0018】
電動モータ2はファイナルギヤ組11を介して駆動輪5に常時結合され、この電動モータ2は、バッテリ12の電力によりインバータ13を介して駆動される。
インバータ13は、バッテリ12の直流電力を交流電力に変換して電動モータ2へ供給すると共に、電動モータ2への供給電力を加減することにより、電動モータ2を駆動力制御および回転方向制御する。
なお電動モータ2は、上記のモータ駆動のほかに発電機としても機能し、回生制動の用にも供する。この回生制動時はインバータ13が、電動モータ2に回生制動力分の発電負荷をかけることにより、電動モータ2を発電機として作用させ、電動モータ2の発電電力をバッテリ12に蓄電する。
【0019】
実施例1のハイブリッド車両は、クラッチCLを解放すると共にエンジン1を停止させた状態で電動モータ2を駆動もしくは回生することで、電動モータ2の動力のみがファイナルギヤ組11を経て駆動輪5に達し、電動モータ2のみによる電気走行モード(EVモード)で走行を行う。この間、クラッチCLを解放することで、停止状態のエンジン1及びバリエータCVTのフリクションを低減し、EV走行中の無駄な電力消費を抑制する。
【0020】
上記のEVモードによる走行状態において、エンジン1をスタータモータ3により始動させると共にクラッチCLを締結させると、エンジン1からの動力がトルクコンバータT/C、プライマリプーリ6、Vベルト8、セカンダリプーリ7、クラッチCLおよびファイナルギヤ組9を順次経て駆動輪5に達するようになり、ハイブリッド車両はエンジン1および電動モータ2によるハイブリッド走行モード(HEVモード)で走行する。
【0021】
ハイブリッド車両を上記の走行状態から停車させる、もしくは、この停車状態に保つに際しては、駆動輪5と共に回転するブレーキディスク14をキャリパ15により挟圧して制動することで目的を達する。キャリパ15は、運転者が踏み込むブレーキペダル16の踏力に応動する負圧式ブレーキブースタ17による倍力下で、ブレーキペダル踏力対応のブレーキ液圧を出力するマスタシリンダ18に接続されている。マスタシリンダ18により発生したブレーキ液圧によりキャリパ15を作動させてブレーキディスク14の制動を行う。ハイブリッド車両はEVモードおよびHEVモードのいずれにおいても、運転者がアクセルペダル19を踏み込んで指令する駆動力指令に応じたトルクで車輪5を駆動し、運転者の要求に応じた駆動力をもって走行する。
【0022】
ハイブリッドコントローラ21は、ハイブリッド車両の走行モード選択と、エンジン1の出力制御と、電動モータ2の回転方向制御および出力制御と、バリエータCVTの変速制御と、副変速機31の変速制御及びクラッチCLの締結、解放制御と、バッテリ12の充放電制御とを実行する。このとき、ハイブリッドコントローラ21は、対応するエンジンコントローラ22、モータコントローラ23、変速機コントローラ24、およびバッテリコントローラ25を介してこれら制御を行う。
【0023】
ハイブリッドコントローラ21には、ブレーキペダル16を踏み込む制動時にOFFからONに切り替わる常開スイッチであるブレーキスイッチ26からの信号と、アクセルペダル踏み込み量(アクセルペダル開度)APOを検出するアクセルペダル開度センサ27からの信号とが入力される。ハイブリッドコントローラ21は更に、エンジンコントローラ22、モータコントローラ23、変速機コントローラ24、およびバッテリコントローラ25との間で、内部情報のやり取りを行う。
【0024】
エンジンコントローラ22は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答して、エンジン1を出力制御し、モータコントローラ23は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答してインバータ13を介し電動モータ2の回転方向制御および出力制御を行う。変速機コントローラ24は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答し、エンジン駆動される機械式オイルポンプO/P(もしくはポンプ用モータに駆動される電動式オイルポンプEO/P)からのオイルを媒体として、バリエータCVT(Vベルト式無段変速機構CVT)の変速制御および副変速機31の変速制御及びクラッチCLの締結、解放制御を行う。バッテリコントローラ25は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答し、バッテリ12の充放電制御を行う。
【0025】
図2(a)は、実施例1のハイブリッド車両の駆動系およびその全体制御システムを示す概略系統図であり、
図2(b)は、実施例1のハイブリッド車両の駆動系における無段変速機4に内蔵された副変速機31内におけるクラッチCL(具体的には、H/C, R/B, L/B)の締結論理図である。
図2(a)に示すように、副変速機31は、複合サンギヤ31s-1および31s-2と、インナピニオン31pinと、アウタピニオン31poutと、リングギヤ31rと、ピニオン31pin, 31poutを回転自在に支持したキャリア31cとからなるラビニョオ型プラネタリギヤセットで構成する。
【0026】
複合サンギヤ31s-1および31s-2のうち、サンギヤ31s-1は入力回転メンバとして作用するようセカンダリプーリ7に結合し、サンギヤ31s-2はセカンダリプーリ7に対し同軸に配置するが自由に回転し得るようにする。
【0027】
サンギヤ31s-1にインナピニオン31pinを噛合させ、このインナピニオン31pinおよびサンギヤ31s-2をそれぞれアウタピニオン31poutに噛合させる。
アウタピニオン31poutはリングギヤ31rの内周に噛合させ、キャリア31cを出力回転メンバとして作用するようファイナルギヤ組9に結合する。
キャリア31cとリングギヤ31rとをクラッチCLであるハイクラッチH/Cにより適宜結合可能となし、リングギヤ31rをクラッチCLであるリバースブレーキR/Bにより適宜固定可能となし、サンギヤ31s-2をクラッチCLであるローブレーキL/Bにより適宜固定可能となす。
【0028】
副変速機31は、ハイクラッチH/C、リバースブレーキR/BおよびローブレーキL/Bを、
図2(b)に○印により示す組み合わせで締結させ、それ以外を
図2(b)に×印で示すように解放させることにより前進第1速、第2速、後退の変速段を選択することができる。ハイクラッチH/C、リバースブレーキR/BおよびローブレーキL/Bを全て解放すると、副変速機31は動力伝達を行わない中立状態であり、この状態でローブレーキL/Bを締結すると、副変速機31は前進第1速選択(減速)状態となり、ハイクラッチH/Cを締結すると、副変速機31は前進第2速選択(直結)状態となり、リバースブレーキR/Bを締結すると、副変速機31は後退選択(逆転)状態となる。
【0029】
図2(a)の無段変速機4は、全てのクラッチCL(H/C, R/B, L/B)を解放して副変速機31を中立状態にすることで、バリエータCVT(セカンダリプーリ7)と駆動輪5との間を切り離すことができる。
【0030】
図2(a)の無段変速機4は、エンジン駆動される機械式オイルポンプO/Pもしくはポンプ用モータに駆動される電動式オイルポンプEO/Pからのオイルを作動媒体として制御されるもので、変速機コントローラ24がライン圧ソレノイド35、ロックアップソレノイド36、プライマリプーリ圧ソレノイド37-1、セカンダリプーリ圧ソレノイド37-2、ローブレーキ圧ソレノイド38、ハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧ソレノイド39およびスイッチバルブ41を介し、バリエータCVTの当該制御を以下のように制御する。尚、変速機コントローラ24には、
図1につき前述した信号に加えて、車速VSPを検出する車速センサ32からの信号、および車両加減速度Gを検出する加速度センサ33からの信号を入力する。
【0031】
ライン圧ソレノイド35は、変速機コントローラ24からの指令に応動し、機械式オイルポンプO/Pからのオイルを車両要求駆動力対応のライン圧PLに調圧する。また、機械式オイルポンプO/Pとライン圧ソレノイド35との間には電動式オイルポンプEO/Pが接続されており、変速機コントローラ24からの指令に応動してポンプ吐出圧を供給する。
【0032】
ロックアップソレノイド36は、変速機コントローラ24からのロックアップ指令に応動し、ライン圧PLを適宜トルクコンバータT/Cに向かわせることで、トルクコンバータT/Cを所要に応じて入出力要素間が直結されたロックアップ状態にする。
【0033】
プライマリプーリ圧ソレノイド37-1は、変速機コントローラ24からのCVT変速比指令に応動してライン圧PLをプライマリプーリ圧に調圧し、これをプライマリプーリ6へ供給することにより、プライマリプーリ6のV溝幅と、セカンダリプーリ7のV溝幅とを、CVT変速比が変速機コントローラ24からの指令に一致するよう制御して変速機コントローラ24からのCVT変速比指令を実現する。
セカンダリプーリ圧ソレノイド37-2は、変速機コントローラ24からのクランプ力指令に応じてライン圧PLをセカンダリプーリ圧に調圧し、これをセカンダリプーリ7に供給することにより、セカンダリプーリ7がVベルト8をスリップしないよう挟圧する。
ローブレーキ圧ソレノイド38は、変速機コントローラ24が副変速機31の第1速選択指令を発しているとき、ライン圧PLをローブレーキ圧としてローブレーキL/Bに供給することによりこれを締結させ、第1速選択指令を実現する。
ハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧ソレノイド39は、変速機コントローラ24が副変速機31の第2速選択指令または後退選択指令を発しているとき、ライン圧PLをハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧としてスイッチバルブ41に供給する。
【0034】
実施例1の電動式オイルポンプEO/Pの最大吐出能力は、機械式オイルポンプO/Pに比べて小さく設定されており、バリエータCVTを変速させる程度の吐出能力は有しておらず、変速比を維持する程度の吐出能力、もしくは潤滑油を供給する程度の吐出能力を確保することで、電動式オイルポンプEO/Pのモータ及びポンプの小型化を図っている。
【0035】
第2速選択指令時はスイッチバルブ41が、ソレノイド39からのライン圧PLをハイクラッチ圧としてハイクラッチH/Cに向かわせ、これを締結することで副変速機31の第2速選択指令を実現する。
後退選択指令時はスイッチバルブ41が、ソレノイド39からのライン圧PLをリバースブレーキ圧としてリバースブレーキR/Bに向かわせ、これを締結することで副変速機31の後退選択指令を実現する。
【0036】
〔変速制御処理について〕
次に変速制御処理について説明する。
図3は実施例1の変速機コントローラ24に格納される変速マップの一例である。変速機コントローラ24は、この変速マップを参照しながら、車両の運転状態(実施例1では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセルペダル開度APO)に応じて、無段変速機4を制御する。この変速マップでは、無段変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。無段変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが無段変速機4の変速比(バリエータCVTの変速比に副変速機31の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。
【0037】
この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセルペダル開度APO毎に変速線が設定されており、無段変速機4の変速はアクセルペダル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、
図3には簡単のため、全負荷線(アクセルペダル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線(アクセルペダル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線(アクセルペダル開度APO=0/8のときの変速線)のみが示されている。
【0038】
無段変速機4が低速モードのときは、無段変速機4はバリエータCVTの変速比を最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータCVTの変速比を最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。このとき、無段変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、無段変速機4が高速モードのときは、無段変速機4はバリエータCVTの変速比を最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータCVTの変速比を最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。このとき、無段変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0039】
副変速機31の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる無段変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる無段変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、無段変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にあるときは、無段変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0040】
また、この変速マップ上には副変速機31の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータCVTの変速比が小さいほど副変速機31への入力トルクが小さくなり、副変速機31を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0041】
そして、無段変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、変速機コントローラ24はバリエータCVTと副変速機31の両方で協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切換えを行う。
【0042】
〔モード切り替え制御について〕
図4は実施例1のハイブリッド車両の走行モードが設定されたモードマップである。
図4のモードマップでは、縦軸の0より上はアクセルペダル開度に応じて設定され、0より下についてはブレーキスイッチ26のオン・オフ状態に応じて設定されている。アクセルペダル19が踏み込まれたEV力行領域にあっては、力行車速VSPXまでEVモードによる力行領域が設定されている。尚、この力行車速VSPXの詳細については後述する。また、アクセルペダル19がほとんど踏み込まれていない状態(例えば、1/8よりも十分に小さなアクセルペダル開度)を表す領域には、力行車速VSPXよりも更に高車速の所定車速VSP1までEVモードによる力行領域が設定されている。この所定車速VSP1以下の領域はアクセルペダル19が踏み込まれた状態ではほとんど選択されることはない。
一方、HEVモードによる走行中にアクセルペダル19を解放してコースティング(惰性)走行へ移行した場合や、HEVモードによる力行状態からブレーキペダル16を踏み込んで車両を制動する場合、電動モータ2による回生制動によって車両の運動エネルギーを電力に変換し、これをバッテリ12に蓄電しておくことでエネルギー効率の向上を図る(HEV回生状態)。
【0043】
ところでHEVモードのまま回生制動(HEV回生状態)を行うときは、クラッチCLが締結状態であるため、エンジン1の逆駆動力(エンジンブレーキ)分および無段変速機4のフリクション分だけ回生制動エネルギーの低下を招くこととなり、エネルギー回生効率が悪い。
そのため、HEVモードによる走行中に回生制動が開始され、所定車速VSP1を下回ると、クラッチCLの解放によりエンジン1およびバリエータCVTを駆動輪5から切り離してEVモードによる走行へと移行する。これによりEV回生状態とし、エンジン1および無段変速機4によるフリクションを低減し、その分だけエネルギー回生量を稼げるようにする。
【0044】
また、EVモードにより走行する際には、燃費の観点からコースティング走行中に実行されていたエンジン1への燃料噴射の中止(フューエルカット)がクラッチCLの解放時も継続されるよう、エンジン1への燃料噴射の再開(フューエルリカバー)を禁止することでエンジン1を停止させる。
【0045】
〔EVモードにおける変速比維持について〕
次に、EVモードにおける変速比維持について説明する。例えば
図4のモードマップ内に記載された矢印(a)に示すように、HEV回生領域からブレーキ操作によって減速し、EV回生領域に入ることでEV回生状態となると、クラッチCLを解放し、エンジン1を停止させる。その後、
図4の矢印(b)に示すように、アクセルペダル19を踏み込むことで要求駆動力が所定以上となると、HEV力行領域に移行する。同様に、例えば
図4の矢印(c)に示すように、アクセルペダル19が踏みこまれたHEV力行領域からブレーキ操作によってEV回生領域に入ることでEV回生状態となると、クラッチCLを解放し、エンジン1を停止させる。その後、
図4の矢印(d)に示すように、アクセルペダル19を踏み込むことで要求駆動力が所定以上となると、HEV力行領域に移行する。このときは、エンジン1をスタータモータ3により再始動させると共に、クラッチCLを締結してEVモードからHEVモードへ切り替える。
【0046】
このように、アクセルペダル19を解放した後に、再踏み込みする運転を行った場合や、主としてそのような運転を余儀なくされる走行環境下で車両を使用する場合、もしくはブレーキペダル16を踏み込んで減速している状態であって車両停止前にブレーキを放し、アクセルペダル19を踏み込むといった場合(以下、チェンジマインドと記載する。)には、必然的にEVモードからHEVモードへの切り替えが行われる。
【0047】
ここで、EVモードによる走行時にバリエータCVTに油圧を供給しない場合の変速比の変化について説明する。
図5は実施例1のバリエータにおける力の作用反作用を表す概略図である。実施例1のバリエータCVTは、セカンダリプーリ7のプーリ室内にセカンダリプーリ溝幅が狭くなる方向に押圧するセカンダリスプリングSEC_SPRが収装されている。
よって、プライマリプーリ6内の油圧やセカンダリプーリ7内の油圧が抜け落ちると、セカンダリスプリングSEC_SPRによるセカンダリ推力Fsecが支配的となり、セカンダリプーリ溝幅を狭くする力が作用する。これに伴ってVベルト8に張力fsが発生し(以下、セカンダリ張力と記載する。)、Vベルト8がセカンダリプーリ7側に引っ張られることでプライマリプーリ6の溝幅が広くなる力が作用する。
基本的に、クラッチCLは解放指令が出力されているものの、実際には油等の引き摺りが発生することで、各プーリに微小回転が生じており、この状態で
図5に示すような力が作用すると、バリエータCVTの変速比はLow側に変速するLow戻りが生じる。例え、各プーリが回転していない場合であっても、Vベルト8がプーリ溝内を径方向に移動する縦滑りによって、やはりバリエータCVTの変速比はLow側に変速する。
【0048】
すなわち、EVモードで走行する際、バリエータCVTに何ら油圧を供給しない場合には、経過時間や油圧の抜け具合によって変速比が徐々にLow側に変速する。セカンダリ推力Fsecの大きさによっては、最終的には最Low変速比まで変速する場合もある。EVモードでの走行中は、エンジン1が停止し、かつ、クラッチCLが解放された状態となっているので、バリエータCVTの回転も停止、もしくは極めて低い回転数になっている。このため、プライマリ回転数やセカンダリ回転数を検知することができず、EVモードで走行中に実際の変速比を検出することはできない。
【0049】
そうすると、チェンジマインドに伴ってEVモードからHEVモードへのモード切り替え要求が出力された場合、まず、エンジン1を始動してバリエータCVTを回転させ、変速比を検知し、変速制御を行ってからクラッチCLの締結を行う必要があり、モード切り替えに時間がかかるという問題がある。
【0050】
また、例えば、HEVモードからEVモードに切り替える際に、事前に最Low変速比に変速させておくことで、予め変速比を認識しておき、検知過程を排除することも考えられる。しかしながら、この場合はEVモードに切り替える前にLow側に変速させる必要があり、素早くEVモードに切り替えることができず、燃費の向上を図りにくい。
【0051】
更に、最Low変速比に変速させると、比較的高車速側でEVモードからHEVモードに切り替える場合、駆動輪側の回転数と同期を図るためには、エンジン回転数を上昇させる必要があり、エンジン回転数の上昇時間だけ運転者の加速要求に対して遅れとなってしまう。エンジン回転数を同期する前にクラッチCLを一気に締結すると、加速要求を出力しているにも関わらず引きショックを発生してしまい、運転者に違和感となる。
【0052】
仮に、EVモードの状態であっても、常時バリエータCVTの変速比を変速マップに応じて変速させておけば、どのタイミングでEVモードからHEVモードへの切り替えが起こったとしても、クラッチCLに相対回転が生じていないため、素早くモードを切り替えられる。しかし、非回転状態のバリエータCVTを強制的に変速させるには電動式オイルポンプEO/Pの出力として非常に大きな出力を要求することとなり、エネルギー消費量の増大に加えて大型化に伴う車両搭載性の悪化を招くおそれがある。
【0053】
そこで、実施例1ではHEVモードによる減速中にEVモード(EV回生状態)に切り替える要求がなされたときは、その時点における無段変速機4の変速比を所定変速比として維持するべく、電動式オイルポンプEO/Pを作動させることとした。
【0054】
〔変速比維持方法について〕
ここで、HEVモードからEVモードへの切り替え時に所定変速比に維持する方法について説明する。
図6は
図5のバリエータにおける力の作用反作用の関係と、変速比維持に必要な油圧の関係とを表す特性図である。セカンダリスプリングSEC_SPRによってセカンダリ推力Fsecが発生すると、変速比に応じたセカンダリ張力fsが発生する。このとき、プライマリプーリ6に着目すると、プーリとVベルト8との摺動抵抗(以下、変速抵抗Frと記載する。)がVベルト8の移動を妨げる方向に常時作用する。
セカンダリスプリングSEC_SPRのセット荷重は、全ての変速比領域において摺動抵抗Frに打ち勝つ大きさに設定されている。このとき、プライマリプーリ6に所定の油圧を発生させて張力fpを発生させる。この張力fpの大きさは、プーリ間張力差(|fs-fp|)が変速抵抗Frよりも小さくなる値となるように所定の油圧を供給する。例えば、
図6の太い実線に示すように、どの変速比領域においてもセカンダリスプリングSEC_SPRの取り得る張力範囲内となるような値を設定すると、プーリ間張力差は変速抵抗Frより小さく設定できるため、比較的低い所定油圧を供給するだけで変速比を維持することができる。
【0055】
〔変速比維持制御処理〕
図7は実施例1のEVモードにおける変速比維持制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、EVモード中で、かつ、電動式オイルポンプEO/Pが作動中か否かを判断し、EVモードではない(HEVモードである)、もしくは電動式オイルポンプEO/Pが非作動状態と判断した場合はステップS10に進み、それ以外の場合はステップS2に進む。
ステップS2では、EVモードを継続的に選択する要求が有るか否かを判断し、継続的にEVモードを選択する場合はステップS3に進み、それ以外の場合はステップS13に進む。
【0056】
ステップS3では、電動式オイルポンプEO/Pの作動時間が、予め設定された連続作動許容時間(例えば3分)以上か否かを判断し、連続作動許容時間未満であればステップS4に進み、電動式オイルポンプEO/Pの作動時間が連続作動許容時間以上の場合はステップS13に進んで電動式オイルポンプEO/Pを非作動とする(電動式オイルポンプEO/Pが高温になっていると判断して電動式オイルポンプEO/Pの作動を禁止する)と共に、EVモードに代えてHEVモードを選択する。この場合、電動式オイルポンプEO/Pの代わりに機械式オイルポンプO/Pが作動することになる。そして、ステップS14に進み、変速マップに設定された変速線通りに変速比制御される。
【0057】
ステップS10では、EVモードへの遷移要求があるか否かを判断し、HEVモードからEVモードへの遷移要求がある場合はステップS11に進み、それ以外の場合はステップS13に進んでHEVモードを選択する。この場合、機械式オイルポンプO/Pが作動しているため、電動式オイルポンプEO/Pは非作動とされる。そして、ステップS14に進み、変速マップに設定された変速線通りに変速比制御される。
【0058】
ステップS11では、電動式オイルポンプEO/Pが過去に連続作動許容時間以上、連続作動した結果、停止しているのではなく、単にHEVモードによって停止している状態か否かを判断し、HEVモードによって停止している状態と判断した場合にはステップS4に進み、EVモードを選択して電動式オイルポンプEO/Pの作動を継続する。これに併せて、セカンダリプーリ圧ソレノイド37-2を閉じると共にプライマリプーリ圧ソレノイド37-1の開度を制御して、電動式オイルポンプEO/Pからの油圧がセカンダリプーリ7内に供給されることなくプライマリプーリ6内にのみ供給されるようにし、EVモード中の変速比をHEVモードからEVモードに切り替えるときの変速比に維持する(ステップS5)。
【0059】
ここで、HEVモードからEVモードに切り替えるとき、すなわち、モード遷移中における所定変速比の詳細について説明する。
図8は、実施例1のモード遷移中の変速比維持の詳細を表すタイムチャートである。HEVモードで走行中の時刻t(A)において、EVモードへの切り替え要求がなされると、クラッチCLには解放指令が出力されることで締結容量が0となるように制御される。また、エンジン1はフューエルカットリカバー制御の禁止によってエンジン停止が行われる。これに伴い、セカンダリ回転数、プライマリ回転数及びエンジン回転数は、時刻t(A)から惰性回転しつつ徐々に回転数が低下し、最終的に時刻t(B)において停止する。この回転数の低下によって、機械式オイルポンプO/Pの吐出量が低下することにより油圧が低下し、セカンダリスプリングSEC_SPRのセット荷重によってLow戻りが生じ、バリエータCVTの変速比は徐々にLow側に変化する。
【0060】
このとき、遷移中の時刻t(A)からt(B)の間、すなわち、プライマリプーリ6もセカンダリプーリ7もまだ回転している状態にあっては、回転数に基づいてバリエータCVTの変速比を検出できる。よって、変速比を維持するタイミング、もしくは維持される所定変速比は、HEVモードからEVモードへの遷移中であって変速比を認識できる状態で適宜設定されればよく、モード切り替えの指令が出力された直後等に限定されるものではない。
【0061】
ステップS12では、電動式オイルポンプEO/Pが連続作動許容時間以上作動したことによって停止した後、電動式オイルポンプEO/Pの冷却に必要な所定時間(例えば1分)が経過したか否かを判断し、経過していると判断した場合には電動式オイルポンプEO/Pの作動が可能なことから、ステップS4に進んでEVモードを選択し、電動式オイルポンプEO/Pを作動する。一方、必要な所定時間が経過していないと判断した場合には、電動オイルポンプEO/Pの作動ができないことから、ステップS13へ進み、EVモードへの遷移要求があったとしてもHEVモードを選択しつつ電動式オイルポンプEO/Pを非作動状態とし、ステップS14において、通常通り変速比が制御状態とされる。これにより、EVモードからHEVモードに切り替えられることがなくなり、機械式オイルポンプO/Pによって常に油圧は確保されるため、引きショック等を発生することがない。
【0062】
〔車両停止前チェンジマインド時の変速比維持制御処理による作用〕
上記フローチャートに基づく作用について説明する。まず、減速中にHEVモードからEVモードに切り替えられ、その後、車両停止することなく途中でアクセルペダル19が踏みこまれ(チェンジマインド)、再度HEVモードに切り替えられる場面について説明する。
(比較例に基づく作用)
比較例として電動式オイルポンプEO/Pを常時非作動の場合、もしくは電動式オイルポンプEO/Pを備えていないユニットの場合に、HEVモードからEVモードに遷移した後、チェンジマインドによりHEVモードに遷移した場合の問題について説明する。
図9は比較例のハイブリッド車両においてEVモード時に油圧が発生しない場合におけるタイムチャートである。最初の走行状態は、アクセルペダル19を解放し、ブレーキペダル16を踏み込んだHEVモードにおける減速状態である。
【0063】
時刻t1において、車速VSPがモードマップにおいてEV回生領域が設定された車速まで低下するため、HEV回生状態からEV回生状態に切り替えられる。これにより、クラッチCLは解放され、エンジン1は停止し、それに伴って機械式オイルポンプO/Pの油圧も0となる。よって、バリエータCVTの変速比は、セカンダリスプリングSEC_SPRのクランプ力によって最Low変速比に向けて徐々に変化していく(Low戻り)。
【0064】
時刻t2において、運転者がチェンジマインドにより減速状態からアクセルペダル19の踏み込みを開始し、加速要求を行う。そして、時刻t3において、アクセルペダル開度APOがモードマップにおいてHEV力行が設定された領域まで大きくなると、EVモード(EV回生状態)からHEVモード(HEV力行状態)に切り替えられる。
【0065】
このとき、クラッチCLの出力側回転数(車速に応じた値)が比較的高い状態にある一方で、バリエータCVTの変速比は最Low変速比まで変化している。よって、エンジン始動後であって、かつ、クラッチCLを締結する直前において、プライマリ回転数がバリエータCVTにより減速され、セカンダリ回転数がプライマリ回転数に対して低い回転数になるため、セカンダリ回転数が出力側回転数よりも低い回転数となってしまう。この状態でクラッチCLを締結すると、セカンダリ回転数が出力側回転数に連れまわって上昇し、これに伴ってプライマリ回転数(エンジン回転数)がオーバーレブ状態となり、運転者に違和感を与えるおそれがある。また、セカンダリ回転数がクラッチCLの出力側回転数より低い状態から完全締結状態に移行するため、駆動輪には引きショックが発生する。すなわち、運転者はアクセルペダル19を踏み込んで加速要求をしているのに、エンジン回転数が過剰に吹け上がり、更に引きショックが生じるため、非常に大きな違和感となる。
【0066】
(実施例1に基づく作用)
次に、実施例1について説明する。
図10は実施例1のハイブリッド車両においてEVモード時に電動式オイルポンプEO/Pを作動させて油圧を発生させる場合におけるタイムチャートである。最初の走行状態は、アクセルペダル19を解放し、ブレーキペダル16を踏み込んだHEVモードにおける減速状態である。
【0067】
時刻t11において、車速VSPがモードマップにおいてEV回生が設定された領域まで低下するため、HEV回生状態からEV回生状態に切り替えられる。これにより、クラッチCLは解放され、エンジン1は停止し、それに伴って機械式オイルポンプO/Pの油圧も0となる。このとき、電動式オイルポンプEO/Pを作動させるため、ある程度の油圧が確保され、プライマリプーリ6に所定の油圧を発生させて、バリエータCVTの変速比をHEVモードからEVモードに切り替えたときの変速比に維持する。
【0068】
時刻t21において、運転者がチェンジマインドにより減速状態からアクセルペダル19の踏み込みを開始し、加速要求を行う。そして、時刻t31において、アクセルペダル開度APOがモードマップにおいてHEV力行が設定された領域まで大きくなると、EV回生状態からHEV力行状態に切り替えられる。
【0069】
このとき、クラッチCLの出力側回転数(車速に応じた値)が比較的高い状態にある一方で、バリエータCVTの変速比はHEVモードからEVモードに切り替えたときの変速比に維持されている。HEVモードからEVモードに切り替えたときの変速比は、基本的にコースト走行状態で切り替わっているため、
図3に示す変速マップに示すように、コースト線に沿った変速比が設定されている。よって、
図4の矢印(a)における車速においてHEVモードからEVモードに切り替えられる場合は、バリエータCVTの変速比が最High変速比か1よりもHigh側の変速比の状態で切り替えられる。
【0070】
また、
図4の矢印(c)における車速においてHEVモードからEVモードに切り替えられる場合、HEVモードによる走行中にアクセルペダル19を踏みこんでいると、モード切り替え直前の変速比が最Low変速比付近にある場合を想定し得る。ここで、EVモードへの切り替えに伴ってクラッチCLを解放するに当たり、「ブレーキペダル16踏み込み時間が所定時間以上(例えば2秒以上)経過していること」を解放条件としている。よって、アクセルペダル19が解放されることで
図3の高速モード最High線が選択され、変速比を最Low変速比付近から最High変速比に向けてアップシフトする際、クラッチ解放条件によって変速時間が確保されることになり、変速比は最High変速比もしくは最High変速比付近(少なくとも1よりHigh側の変速比)に変速され、この変速比が維持される。
【0071】
よって、エンジン再始動時において、エンジン完爆に伴ってエンジン回転数が一旦吹け上がると、この回転数がバリエータCVTにより増速され、セカンダリ回転数を上昇させるため、セカンダリ回転数は出力側回転数より高い状態となる。この状態から完全締結状態に移行するため、駆動輪5に引きショックが発生することがない。すなわち、運転者はアクセルペダル19を踏み込んで加速要求をすると、エンジン回転数が過剰に吹け上がることなく引きショックを回避し、HEVモードに切り替えられる。
【0072】
また、
図3に示すように、極低車速になると、最High変速比のままではエンジン1がアイドリング回転数を下回ってしまいエンジンストールを招くため、コースト線は、車速低下に伴って最Low変速比に向けてダウンシフトするように設定されている。このように極低車速領域において、一旦大きくアクセルペダル19を踏み込んだHEVモードから、車速が上昇する前に突然ブレーキペダル16を踏み込んでEVモードへの切り替えが行われる場面では、維持される変速比はバリエータCVTの変速比が1よりもLow側となるおそれがある。しかしながら、このような特殊な場合には、次回にクラッチCLを完全締結する前に、一旦バリエータCVTをHigh側にアップシフトすることで引きショックを抑制すればよく、特に問題はない。
【0073】
尚、
図3の変速マップに示すように、アクセルペダル19を解放した状態で設定される目標変速比は、基本的に高速モード最High線に沿った最High変速比である。しかし、上述したように、仮にHEVモード時に最Low変速比が設定されていたとすると、EVモードへの切り替え時にクラッチ解放条件に設定された所定時間(例えば2秒)だけ最High変速比に向けて変速を行ったとしても、最High変速比まで変速できない場合がある。このときに最低限達成される変速比を、所定変速比と定義する。
【0074】
今、HEVモードからEVモードに切り替えられ、バリエータCVTが所定変速比に維持されている状態を想定する。この状態で、運転者がアクセルペダル19を緩やかに踏み込み、EVモードのEV力行状態のまま車速が上昇し、
図4のモードマップに示す力行車速VSPXに到達すると、EVモードからHEVモードへのモード切り替え要求が出力される。このとき、エンジン再始動によりエンジン完爆に伴ってエンジン回転数が一旦吹け上がると、この回転数は、所定変速比によりセカンダリ回転数を上昇させる。このとき、力行車速VSPXは、上昇したセカンダリ回転数がクラッチCLの出力側回転数以上の回転数となる車速域に設定されている。つまり、EV力行領域が設定された力行車速VSPXは、バリエータCVTが維持し得るいずれの変速比であっても、HEVモードに切り替える際、エンジン回転数が過剰に吹け上がることなく引きショックを回避してHEVモードに切り替えることができる車速に設定されている。
【0075】
〔車両停止を含む変速比維持制御処理による作用〕
図11は車両停止を含む変速比維持制御を行った場合のタイムチャートである。ここでは、比較例としてEVモード中はLow戻りによるできなりの変速比とし、EVモードに切り替えられてから所定時間が経過すると、自動的に最Low変速比まで変速するものを例示する。
【0076】
(比較例に基づく作用)
最初の走行状態は、アクセルペダル19を解放し、ブレーキペダル16を踏み込んだHEVモードにおける減速状態である。
【0077】
時刻t11において、車速VSPがモードマップにおいてEV回生領域が設定された車速まで低下するため、HEVモード(HEV回生状態)からEVモード(EV回生状態)に切り替えられる。これにより、クラッチCLは解放され、エンジン1は停止し、それに伴って機械式オイルポンプO/Pの油圧も0となる。よって、バリエータCVTの変速比は、最Low変速比に向けて徐々に変化していく。
【0078】
時刻t12において、車両停止したとしても、EVモードであるため、特に変速比制御等が行われることはない。そして、時刻t13において、運転者がアクセルペダル19の踏み込みを開始し、加速要求を行う。そして、時刻t14において、車速VSPがモードマップにおいてHEV力行が設定された力行車速VSPXまで大きくなると、EVモード(EV回生状態)からHEVモード(HEV力行状態)に切り替えられる。
【0079】
このとき、クラッチCLの出力側回転数(車速に応じた値)が比較的高い状態にある一方で、バリエータCVTの変速比は最Low変速比まで変化している。よって、エンジン始動後であって、かつ、クラッチCLを締結する直前において、プライマリ回転数がバリエータCVTにより減速されるため、セカンダリ回転数が出力側回転数よりも低い回転数となってしまう。この状態でクラッチCLを締結すると、セカンダリ回転数が出力側回転数に連れまわって上昇し、これに伴ってプライマリ回転数(エンジン回転数)がオーバーレブ状態となり、運転者に違和感を与えるおそれがある。また、セカンダリ回転数がクラッチCLの出力側回転数より低い状態から完全締結状態に移行するため、駆動輪には引きショックが発生する。すなわち、運転者はアクセルペダル19を踏み込んで加速要求をしているのに、エンジン回転数が過剰に吹け上がり、更に引きショックが生じるため、非常に大きな違和感となる。
【0080】
(実施例1に基づく作用)
次に、実施例1について説明する。
時刻t11において、車速VSPがモードマップにおいてEV回生領域が設定された車速まで低下するため、HEVモード(HEV回生状態)からEVモード(EV回生状態)に切り替えられる。これにより、クラッチCLは解放され、エンジン1は停止し、それに伴って機械式オイルポンプO/Pの油圧も0となる。このとき、電動式オイルポンプEO/Pを作動させるため、ある程度の油圧が確保され、プライマリプーリ6に所定の油圧を発生させて、バリエータCVTの変速比をHEVモードからEVモードに切り替えたときの変速比に維持する。
【0081】
時刻t12において、車両停止したとしても、EVモードであるため、継続的に電動式オイルポンプEO/Pが駆動され、変速比の維持が継続される。そして、時刻t13において、運転者がアクセルペダル19の踏み込みを開始し、加速要求を行う。そして、時刻t14において、車速VSPがモードマップにおいてHEV力行領域が設定された力行車速VSPXまで大きくなると、EVモード(EV回生状態)からHEVモード(HEV力行状態)に切り替えられる。
【0082】
このとき、クラッチCLの出力側回転数(車速に応じた値)が比較的高い状態にある一方で、バリエータCVTの変速比はHEVモードからEVモードに切り替えたときの変速比に維持されている。HEVモードからEVモードに切り替えたときの変速比は、基本的にコースト走行状態で切り替わっているため、
図3に示す変速マップに示すように、コースト線に沿った変速比が設定されている。よって、
図4の矢印(a)における車速においてHEVモードからEVモードに切り替えられる場合は、バリエータCVTの変速比が最High変速比か1よりもHigh側の変速比の状態で切り替えられる。
【0083】
また、
図4の矢印(c)における車速においてHEVモードからEVモードに切り替えられる場合、HEVモードによる走行中にアクセルペダル19を踏みこんでいると、モード切り替え直前の変速比が最Low変速比付近にある場合を想定し得る。ここで、EVモードへの切り替えに伴ってクラッチCLを解放するに当たり、「ブレーキペダル16踏み込み時間が2秒以上経過していること」を解放条件としている。よって、アクセルペダル19が解放されることで
図3の高速モード最High線が選択され、変速比を最Low変速比付近から最High変速比に向けてアップシフトする際、クラッチ解放条件によって変速時間が確保されることになり、変速比は最High変速比もしくは最High変速比付近(少なくとも1よりHigh側の変速比)に変速され、この変速比が維持される。
【0084】
よって、エンジン再始動時において、エンジン完爆に伴ってエンジン回転数が一旦吹け上がると、この回転数がバリエータCVTにより増速され、セカンダリ回転数を上昇させるため、セカンダリ回転数は出力側回転数より高い状態となる。この状態から完全締結状態に移行するため、駆動輪5に引きショックが発生することがない。すなわち、運転者はアクセルペダル19を踏み込んで加速要求をすると、エンジン回転数が過剰に吹け上がることなく引きショックを回避し、HEVモードに切り替えられる。尚、クラッチCLの締結時にバリエータCVTにダウンシフトが必要な場合には、変速制御によりダウンシフトを実行しながらクラッチCLを締結することで、運転者の要求駆動力を達成できる。
【0085】
〔電動式オイルポンプ作動処理について〕
次に、HEVモードからEVモードへの切り替え要求があり、電動式オイルポンプEO/Pを作動する際の作動処理について説明する。
図12は実施例1の電動式オイルポンプ作動処理を表すフローチャートである。
ステップS21では、HEVモードからEVモードへの遷移要求を出力する。
ステップS22では、エンジン1をON(作動状態)からOFF(停止状態)に切り替える。具体的には、燃料噴射を停止する。
ステップS23では、ライン圧が所定値未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS27に進んで電動式オイルポンプEO/Pの作動指令を出力する。
ステップS24では、機械式オイルポンプO/Pの吐出圧が所定値未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS27に進んで電動式オイルポンプEO/Pの作動指令を出力する。
ステップS25では、エンジン回転数が所定値未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS27に進んで電動式オイルポンプEO/Pの作動指令を出力する。
ステップS26では、機械式オイルポンプO/Pの回転数が所定値未満か否かを判断し、所定値未満のときはステップS27に進んで電動式オイルポンプEO/Pの作動指令を出力する。
【0086】
図13は実施例1の電動式オイルポンプ作動処理を表すタイムチャートである。すなわち、電動式オイルポンプEO/Pを作動するにあたり、実際にライン圧が低下、もしくは機械式オイルポンプO/Pの吐出圧が低下、もしくは機械式オイルポンプO/Pの駆動源であるエンジン回転数が低下、もしくは機械式オイルポンプO/Pの回転数が低下のいずれかの条件が満たされた時は、変速比を維持するための油圧を確保するために電動式オイルポンプEO/Pを作動すべきと判断する。これにより、電動式オイルポンプEO/Pが不要に駆動されることがなく、電力消費を抑制できる。尚、電動式オイルポンプEO/Pに作動指令を出力してから実際に吐出圧が立ち上がるまでの間には応答遅れがあるため、ライン圧が瞬間的に0まで低下するシーンが想定されるが、一瞬の低下によってバリエータCVTの変速比が急激にLow側に変化することはないため、大きな問題はない。
【0087】
〔電動式オイルポンプ停止処理について〕
次に、EVモードからHEVモードへの切り替え要求があり、電動式オイルポンプEO/Pを停止する際の停止処理について説明する。
図14は実施例1の電動式オイルポンプ停止処理を表すフローチャートである。
ステップS31では、EVモードからHEVモードへの遷移要求を出力する。
ステップS32では、エンジン1をOFF(停止状態)からON(作動状態)に切り替える。具体的には、スタータモータを駆動し、燃料噴射を再開する。
ステップS33では、ライン圧が所定値以上か否かを判断し、所定値以上のときはステップS37に進んで電動式オイルポンプEO/Pの非作動指令を出力する。
ステップS34では、機械式オイルポンプO/Pの吐出圧が所定値以上か否かを判断し、所定値以上のときはステップS37に進んで電動式オイルポンプEO/Pの非作動指令を出力する。
ステップS35では、エンジン回転数が所定値以上か否かを判断し、所定値以上のときはステップS37に進んで電動式オイルポンプEO/Pの非作動指令を出力する。
ステップS36では、機械式オイルポンプO/Pの回転数が所定値以上か否かを判断し、所定値以上のときはステップS37に進んで電動式オイルポンプEO/Pの非作動指令を出力する。
【0088】
図15は実施例1の電動式オイルポンプ停止処理を表すタイムチャートである。すなわち、電動式オイルポンプEO/Pを停止するにあたり、実際にライン圧が確保、もしくは機械式オイルポンプO/Pの吐出圧が確保、もしくは機械式オイルポンプO/Pの駆動源であるエンジン回転数が確保、もしくは機械式オイルポンプO/Pの回転数が確保のいずれかの条件が満たされた時は、変速比を維持している状態から変速可能な状態となっており、電動式オイルポンプEO/Pを非作動すべきと判断する。これにより、電動式オイルポンプEO/Pが不要に駆動されることがなく、電力消費を抑制できる。また、油圧が確保された状態で電動式オイルポンプEO/Pに非作動指令を出力するため、ライン圧が瞬間的に0まで低下するようなことがなく、応答性を確保した変速比制御を実現できる。
【0089】
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果が得られる。
(1−1)エンジン1とバリエータCVT(無段変速機)と電動モータ2(駆動用モータ)とを有し、電動モータ2で駆動輪5を駆動もしくは回生制動しているときに駆動輪5とバリエータCVTとの間を解放可能なクラッチCLを設けたハイブリッド車両において、クラッチCLを解放しているときにエンジン1を停止するハイブリッドコントローラ24(以下、コントローラと記載する。)と、を備え、コントローラは、エンジン1を停止しているときにバリエータCVTの変速比を維持することとした。
よって、HEVモードからEVモードに素早く切り替えることができ、燃費の改善を図ることができる。また、EVモードからHEVモードに切り替える際にも、変速比を維持しているため、Low戻りの抑制により過度のエンジン回転数上昇を招くことがなく、運転者に与える違和感を抑制できる。
【0090】
(2−2)エンジン1に駆動されバリエータCVTに油圧を供給する機械式オイルポンプO/Pを備え、コントローラは、EVモードによりエンジンを停止しているときは、電動式オイルポンプEO/PによりバリエータCVTに油圧を供給してバリエータCVTの変速比を維持することとした。
よって、HEVモードからEVモードに素早く切り替えることができ、燃費の改善を図ることができる。また、EVモードからHEVモードに切り替える際にも、変速比が最Low側に変速していないため、過度のエンジン回転数上昇を招くことがなく、運転者に与える違和感を抑制できる。また、クラッチCLの入力側回転数が出力側回転数よりも高い状態を維持できるため、クラッチCLの締結による引きショック等を回避しつつ素早いモード切り替えを達成できる。また、必要な油圧を最小限に抑えることができ、安価で小型な電動式オイルポンプEO/Pを採用できる。尚、「HEVモードからEVモードに切り替えたとき」とは、HEVモードからEVモードへの切り替え指令タイミングとクラッチCLの解放タイミングとが同じ場合は切り替え指令タイミングでよい。切り替え指令タイミングより後にクラッチCLが解放される場合には、どちらかのタイミングの変速比を維持することとすればよい。例えば、切り替え指令タイミングからある程度変速比をHigh側に変速したい場合には、クラッチ解放タイミングにおける変速比を維持することが好ましい場合がある。
【0091】
(3−3)バリエータCVTは、プライマリプーリ6と、セカンダリプーリ7と、両プーリ間に架け渡されたベルト8(無端可撓部材)と、セカンダリプーリ7のクランプ力を発生させるセカンダリスプリングSEC_SPR(弾性体)と、を有し、コントローラは、プライマリプーリ6に一定圧を供給することで変速比を維持することとした。
すなわち、一定圧を供給し、セカンダリスプリングSEC_SPRに基づく張力と、ベルト8と各プーリ6,7との間の摺動抵抗とを利用することでベルトとプーリとの関係を固定することができるため、電動式オイルポンプEO/Pを作動させる際、簡単な制御で変速比を維持することができる。
【0092】
(4−4)コントローラは、セカンダリスプリングSEC_SPRによりベルト8に生じるセカンダリ張力と、一定圧によりベルト8に生じるプライマリ張力との差の絶対値が、各プーリ6,7とベルト8との間に生じる摺動抵抗により生じる抵抗張力よりも小さくなるように一定圧を供給する。
よって、必要最低限の油圧供給により変速比を維持することができ、電動式オイルポンプEO/Pに要求する吐出能力が小さくなるため、電動式オイルポンプEO/Pの小型化を図ることができる。
【0093】
(5−5)コントローラは、EVモードのまま停車したときは、停車中も維持された変速比の維持を継続する。
すなわち、車両が停車するとき、停車後の発進性を考慮してバリエータCVTの変速比を最Low変速比に戻しておくことが一般的である。しかしながら、EVモードによる発進前に最Low変速比に戻してしまうと、EVモードで発進した後、車速が上昇してEVモードからHEVモードへの切り替えが行われる際、対応するクラッチCLを締結すると、エンジン回転数の上昇によってセカンダリ回転数がクラッチCLの出力側回転数よりも低い状態となり、クラッチCLの締結によってエンジン回転数が過剰に吹き上がることで、運転者に違和感を与えるおそれがある。
これに対し、HEVモードからEVモードへの切り替え時の変速比を維持しておくことで、セカンダリ回転数がクラッチCLの出力側回転数より高い状態から完全締結状態に移行することができ、駆動輪には引きショックが発生することがない。すなわち、運転者はアクセルペダル19を踏み込んで加速要求をすると、エンジン回転数が過剰に吹け上がることなく、引きショックが生じることもないままHEVモードに切り替えられる。尚、クラッチCLの締結時にバリエータCVTにダウンシフトが必要な場合には、変速制御によりダウンシフトを実行しながらクラッチCLを締結することで、運転者の要求駆動力を達成できる。
【0094】
(6−6)コントローラは、機械式オイルポンプO/Pを油圧源とする油圧回路のライン圧が所定圧未満、機械式オイルポンプO/Pの吐出圧が所定圧未満、エンジン1の回転数が所定回転数未満、機械式オイルポンプO/Pの回転数が所定回転数未満のいずれか1つが成立したときは、電動式オイルポンプEO/Pの作動を開始する。
これにより、電動式オイルポンプEO/Pが不要に駆動されることがなく、電力消費を抑制できる。
【0095】
(7−9)コントローラは、機械式オイルポンプO/Pを油圧源とする油圧回路のライン圧が所定圧以上、機械式オイルポンプO/Pの吐出圧が所定圧以上、エンジン1の回転数が所定回転数以上、機械式オイルポンプO/Pの回転数が所定回転数以上のいずれか1つが成立したときは、電動式オイルポンプEO/Pの作動を停止することとした。
これにより、電動式オイルポンプEO/Pが不要に駆動されることがなく、電力消費を抑制できる。また、油圧が確保された状態で電動式オイルポンプEO/Pに非作動指令を出力するため、ライン圧が瞬間的に0まで低下するようなことがなく、応答性を確保した変速比制御を実現できる。
【0096】
(8−10)所定の条件が成立した時は、電動式オイルポンプEO/Pの作動を禁止するステップS11(電動式オイルポンプ作動禁止手段)を有し、コントローラは、電動式オイルポンプEO/Pの作動が禁止されているときは、EVモードを選択すべき運転状態であってもEVモードを禁止してHEVモードを選択することとした。
これにより、EVモードからHEVモードに切り替えられることがなくなり、機械式オイルポンプO/Pによって常に油圧は確保されるため、電動式オイルポンプEO/Pの作動が得られず変速比を維持できないといった問題を回避することができ、引きショック等を発生することがない。
【0097】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
図16は実施例2の電動式オイルポンプ作動処理を表すフローチャートである。実施例1では、実際の油圧回路内の油圧状態を検知して電動式オイルポンプEO/Pの作動開始を判断した。これに対し、実施例2ではHEVモードからEVモードへの遷移要求が有った場合には、ステップS210に示すように、即座に電動式オイルポンプEO/Pの作動を行い、その後、ステップS22にてエンジン1をONからOFFに切り替える点が異なる。言い換えると、エンジン1の停止前に電動式オイルポンプEO/Pを作動する。
【0098】
図17は実施例2の電動式オイルポンプ作動処理を表すタイムチャートである。このように、エンジン1の停止前に電動式オイルポンプEO/Pを作動するため、作動指令から実際に電動式オイルポンプEO/Pが吐出圧を出力するのに応答遅れがあったとしても、ライン圧が大きく低下するような状態を回避できる。
【0099】
以上説明したように、実施例2にあっては下記の作用効果が得られる。
(9−7)コントローラは、HEVモードからEVモードへの切り替え指令が出力されたときに電動式オイルポンプEO/Pを作動させることとした。
よって、機械式オイルポンプO/Pの作動が停止する前に電動式オイルポンプEO/Pの作動を開始できるため、ライン圧が大きく低下するような事態を回避でき、安定した変速比制御を実現できる。
【0100】
〔実施例3〕
次に、実施例3について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
図18は実施例3の電動式オイルポンプ停止処理を表すフローチャートである。実施例1では、実際の油圧回路内の油圧状態を検知して電動式オイルポンプEO/Pの停止を判断した。これに対し、実施例3ではEVモードからHEVモードへの遷移要求が有った場合には、ステップS310に示すように、即座に電動式オイルポンプEO/Pの非作動指令を行い、その後、ステップS32にてエンジン1をOFFからONに切り替える点が異なる。言い換えると、エンジン1の作動前に電動式オイルポンプEO/Pを停止する。
【0101】
図19は実施例3の電動式オイルポンプ停止処理を表すタイムチャートである。このように、エンジン1の作動前に電動式オイルポンプEO/Pの作動を停止するため、エンジン始動タイミングの遅れや、それに伴う機械式オイルポンプO/Pの吐出圧発生遅れ等によってライン圧が低下する場面があるものの、電動式オイルポンプEO/Pを素早く停止させることができ、電力消費を抑制できるものである。
【0102】
以上説明したように、実施例3にあっては下記の作用効果が得られる。
(10−8)コントローラは、EVモードからHEVモードへの切り替え指令が出力されたときに電動式オイルポンプEO/Pの作動を停止することとした。
よって、機械式オイルポンプO/Pの作動開始に合わせて電動式オイルポンプEO/Pを停止することができ、無駄な電力消費を抑制できる。
【0103】
〔実施例4〕
次に、実施例4について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
図20は実施例4のバリエータと油圧制御を行うソレノイドを表す概略説明図である。実施例1では、エンジン1が停止して機械式オイルポンプO/Pが停止しているときに、バリエータCVTの変速比を所定変速比に維持する際、変速比維持手段として、電動式オイルポンプEO/Pを作動させてピストン油室に油圧を供給することでバリエータCVTの変速比を維持することとした。これに対し、実施例4では、エンジン1が停止して機械式オイルポンプO/Pが停止しているときに、バリエータCVTの変速比を所定変速比に維持する際、変速比維持手段として、プライマリプーリ圧ソレノイド37-1及びセカンダリプーリ圧ソレノイド37-2を全閉にしてプライマリプーリ6及びセカンダリプーリ7のピストン油室を密封し、変速比を維持するものである。これにより、電動式オイルポンプEO/Pを備えることなく変速比を維持することができ、低コスト化を図ることができる。
【0104】
尚、
図6を参照して説明したように、セカンダリプーリ内にはセカンダリスプリングSEC_SPRが備えられ、この張力が確保できる。よって、プーリ間張力差が変速抵抗以下となるように(
図6の太線参照)プライマリプーリ圧ソレノイド37-1のみを全閉とすることで、変速比を維持することとしてもよい。
【0105】
また、プライマリプーリ圧ソレノイド37-1やセカンダリプーリ圧ソレノイド37-2が全閉とすることができない方式の油圧制御弁である場合には、全閉できる制御弁を別途追加することでピストン油圧を密封することとしてもよい。
【0106】
〔実施例5〕
次に、実施例5について説明する。基本的な構成は実施例4と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
図21は実施例5のバリエータと油圧制御を行うソレノイドを表す概略説明図である。実施例4では、エンジン1が停止して機械式オイルポンプO/Pが停止しているときに、バリエータCVTの変速比を所定変速比に維持する際、変速比維持手段として、プライマリプーリ圧ソレノイド37-1及びセカンダリプーリ圧ソレノイド37-2を全閉にしてプライマリプーリ6及びセカンダリプーリ7のピストン油室を密封し、変速比を維持した。これに対し、実施例5では、変速比維持手段として、プライマリプーリ圧ソレノイド37-1とプライマリプーリ6との間の油路上及びセカンダリプーリ圧ソレノイド37-2とセカンダリプーリ7との間の油路上に、それぞれ個別に全閉可能な制御弁51-1,52-1と、アキュムレータ52-1,52-2を設けた点が異なる。
【0107】
HEVモードでの走行中、制御弁51-1,52-1を制御し、アキュムレータ52-1,52-2内に油圧を蓄圧しておく。そして、EVモードに切り替わり、エンジン1が停止して機械式オイルポンプO/Pが停止しているときに、バリエータCVTの変速比を所定変速比に維持する際、変速比維持手段として、プライマリ圧ソレノイド37-1及びセカンダリ圧ソレノイド37-2を全閉とし、プライマリプーリ6とセカンダリプーリ7のピストン油圧を密封するとともに、制御弁51-1,51-2を開弁し、アキュムレータ52-1,52-2に蓄圧した油圧をプライマリプーリ6とセカンダリプーリ7のピストン油室に供給する。これにより、密封が不完全で油漏れがあったとしても、アキュムレータ52-1,52-2により漏れ分を補償でき、安定的に変速比を所定変速比に維持することができる。
【0108】
〔実施例6〕
次に、実施例6について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
図22は実施例6のバリエータを表す概略説明図である。実施例1では、エンジン1が停止して機械式オイルポンプO/Pが停止しているときに、バリエータCVTの変速比を所定変速比に維持する際、変速比維持手段として、電動式オイルポンプEO/Pを作動させてバリエータCVTの変速比を維持することとした。これに対し、実施例6では、変速比維持手段として、セカンダリプーリ7に推力を発生させるセカンダリスプリングSEC_SPRだけでなく、プライマリプーリ6にも推力を発生させるためのプライマリスプリングPRI_SPRを備えたものである。
【0109】
すなわち、
図6において説明したように、プーリ間張力差の絶対値が変速抵抗Fr以下となるようにプライマリプーリ推力を発生させると、変速比は変速抵抗Frによって維持できる。よって、プライマリスプリングPRI_SPRの張力fpを、セカンダリスプリングSEC_SPRの張力fsよりも大きく設定すると共に、張力差の絶対値(|fs−fp|)が変速抵抗Fr以下となるようにプライマリスプリングPRI_SPRの張力を設定する。これにより、エンジン1が停止して機械式オイルポンプO/Pが停止しているときに、制御弁等を作動させることなくスプリング力によってバリエータCVTの変速比を所定変速比に維持することができる。
【0110】
(他の実施例)
以上、本願発明を各実施例に基づいて説明したが、上記構成に限られず、他の構成であっても本願発明に含まれる。
実施例では、EVモード中に変速比を所定変速比に維持することとしたが、電動式オイルポンプの吐出能力を高め、EVモード中も変速比を走行状態に応じて変更する構成としてもよい。この場合、バリエータCVTを回転させることなく変速させてもよいし、バリエータCVTを回転する必要がある場合は、クラッチCLをスリップ締結することでバリエータCVTを回転させてもよい。
【0111】
実施例ではスタータモータ3によりエンジン再始動を行う構成を示したが、他の構成であっても構わない。具体的には、近年、アイドリングストップ機能付き車両であって、オルタネータをモータ・ジェネレータに置き換え、このモータ・ジェネレータにオルタネータ機能を加えてエンジン始動機能を付加することにより、アイドリングストップからのエンジン再始動時に、スタータモータではなく、このモータ・ジェネレータによりエンジン再始動を行う技術が実用化されている。本願発明も上記のようなモータ・ジェネレータによりエンジン再始動を行う構成としてもよい。
【0112】
また、実施例では、モードマップ内での判断に関し、縦軸の負の領域についてブレーキスイッチ26のONもしくはOFFに基づいて判断したが、これに限定されるものではなく、ブレーキペダル16のストロークセンサの出力値に基づいて判断する、もしくはマスタシリンダ圧等を検出するブレーキ液圧センサの出力値に基づいて判断するようにしてもよい。
【0113】
更にまた、実施例では、セカンダリプーリ圧ソレノイド37-2を設けた例を示したが、このセカンダリプーリ圧ソレノイド37-2を設けず、ライン圧ソレノイド35によって調圧されたライン圧PLをセカンダリプーリ7へ直接供給するようにしてもよい。
この場合、
図7のステップS5にて変速比を所定変速比に維持する際、プライマリプーリ6内に油圧を供給することに伴いセカンダリプーリ7内にも油圧が供給されることになるが、一般的にセカンダリプーリの受圧面積<プライマリプーリの受圧面積として設定されるため、電動式オイルポンプEO/Pの吐出圧が極端に大きくない限り、
図6に示した張力の関係は成立し(張力の大小関係が変わることはない)、プライマリプーリ6内にのみ油圧を供給する場合と同様に変速比を所定変速比に維持することができる。