特許第5955469号(P5955469)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955469
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】坑井掘削用プラグ
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/26 20060101AFI20160707BHJP
   E21B 33/12 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   E21B43/26
   E21B33/12
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-543843(P2015-543843)
(86)(22)【出願日】2014年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2014077831
(87)【国際公開番号】WO2015060246
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2016年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-220223(P2013-220223)
(32)【優先日】2013年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大倉正之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋健夫
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0277989(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0205266(US,A1)
【文献】 特開昭64−001892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00−49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグであって、マンドレルまたは該部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、曲折部分を有しており、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmである
ことを特徴とする坑井掘削用プラグ。
【請求項2】
マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材が、スリップ、ウエッジ、1対のリング状固定部材、及び、拡径可能な環状のゴム部材からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項3】
1対のリング状固定部材が、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる拡径可能な環状のゴム部材を圧縮状態のまま固定することができるものである請求項2記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項4】
少なくとも1つのスリップとウエッジとの組み合わせが、1対のリング状固定部材の間に置かれる請求項2または3記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項5】
分解性材料から形成されるマンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材が、分解性材料と金属または無機物との複合材により形成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項6】
マンドレルが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項7】
分解性材料から形成されるマンドレルが、軸方向に沿う中空部を有する請求項6記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項8】
分解性材料から形成されるマンドレルと、分解性材料から形成されるマンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とが一体に形成されている請求項6または7記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項9】
一体成形により一体に形成されている請求項8記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項10】
機械加工により一体に形成されている請求項8記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項11】
曲折部分が、凸部、段部、フランジ部、溝部、ねじ山及びねじ底からなる群より選ばれる少なくとも1つである請求項1乃至10のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項12】
曲折部分が、更にテーパー部を有し、テーパー部の高さが1mm以上である請求項11記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項13】
分解性材料が、脂肪族ポリエステルである請求項1乃至12のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項14】
脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸である請求項13記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項15】
ポリグリコール酸が、重量平均分子量が180000〜300000、かつ、温度270℃、せん断速度122sec-1で測定した溶融粘度が700〜2000Pa・sである請求項14記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項16】
分解性材料が、強化材を含有する請求項1乃至15のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項17】
マンドレルが、ポリグリコール酸から形成される請求項1乃至16のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項18】
分解性材料から形成されるマンドレルが、外周面にラチェット機構のかみ合い部を備え、該かみ合い部の曲率半径が0.5〜50mmである請求項1乃至17のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項19】
分解性材料から形成されるマンドレルが、外周面に雄ねじ構造を備え、1対のリング状固定部材の一方は、該雄ねじ構造と対向する雌ねじ構造をその内周面に備え、かつ、前記1対のリング状固定部材の一方が、前記マンドレルの軸方向に摺動することができない状態に固定されている請求項1乃至18のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグ。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれか1項に記載の坑井掘削用プラグを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に、坑井掘削用プラグの一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油または天然ガス等の炭化水素資源を産出するために行う坑井掘削において使用する坑井掘削用プラグ、及び坑井掘削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油または天然ガス等の炭化水素資源は、多孔質で浸透性の地下層を有する井戸(油井またはガス井。総称して「坑井」ということがある。)を通じて採掘され生産されてきた。エネルギー消費の増大に伴い、坑井の高深度化が進み、世界では深度9000mを超える掘削の記録もあり、日本においても6000mを超える高深度坑井がある。採掘が続けられる坑井において、時間経過とともに浸透性が低下してきた地下層や、さらには元々浸透性が十分ではない地下層から、継続して炭化水素資源を効率よく採掘するために、生産層を刺激(stimulate)することが行われ、刺激方法としては、酸処理や破砕方法が知られている(特許文献1)。酸処理は、塩酸やフッ化水素等の強酸の混合物を生産層に注入し、岩盤の反応成分(炭酸塩、粘土鉱物、ケイ酸塩等)を溶解させることによって、生産層の浸透性を増加させる方法であるが、強酸の使用に伴う諸問題が指摘され、また種々の対策を含めてコストの増大が指摘されている。そこで、流体圧を利用して生産層に亀裂(フラクチャ、fracture)を形成させる方法(「フラクチャリング法」または「水圧破砕法」ともいう。)が注目されている。
【0003】
水圧破砕法は、水圧等の流体圧(以下、単に「水圧」ということがある。)により生産層に亀裂を発生させる方法であり、一般に、垂直な孔を掘削し、続けて、垂直な孔を曲げて、地下数千mの地層内に水平な孔を掘削した後、それらの坑井孔(坑井を形成するために設ける孔を意味し、「ダウンホール」ということもある。)内にフラクチャリング流体を高圧で送り込み、高深度地下の生産層(石油または天然ガス等の炭化水素資源を産出する層)に水圧によって亀裂(フラクチャ)を生じさせ、該フラクチャを通して炭化水素資源を採取するための生産層の刺激方法である。水圧破砕法は、いわゆるシェールオイル(頁岩中で熟成した油)、シェールガス等の非在来型資源の開発においても、有効性が注目されている。
【0004】
水圧等の流体圧によって形成された亀裂(フラクチャ)は、水圧がなくなれば直ちに地層圧により閉塞されてしまう。亀裂(フラクチャ)の閉塞を防ぐために、フラクチャリング流体(すなわち、フラクチャリングに使用する坑井処理流体)にプロパント(proppant)を含有させて、坑井孔内に送り込み、亀裂(フラクチャ)にプロパントを配置することが行われている。フラクチャリング流体に含有させるプロパントとしては、無機または有機材料が使用されるが、できるだけ長期間、高温高圧の高深度地下の環境内で、フラクチャの閉塞を防ぐことが可能であることから、従来、シリカ、アルミナその他の無機物粒子が使用され、砂粒、例えば20/40メッシュの砂などが汎用されている。
【0005】
フラクチャリング流体等の坑井処理流体としては、水ベース、油ベース、エマルジョンの各種のタイプが用いられる。坑井処理流体には、プロパントを、坑井孔内のフラクチャを生じさせる場所まで運搬し得る機能が求められるので、通常は所定の粘度を有し、プロパントの分散性が良好であるとともに、後処理の容易性、環境負荷の小ささなどが求められる。また、フラクチャリング流体には、プロパントの間に、シェールオイル、シェールガス等が通過できる流路を形成することを目的として、チャネラント(channelant)を含有させることもある。したがって、坑井処理流体には、プロパントのほかに、チャネラント、ゲル化剤、スケール防止剤、岩石等を溶解するための酸、摩擦低減剤など、種々の添加剤が使用される。
【0006】
フラクチャリング流体を使用して、高深度地下の生産層(シェールオイル等の石油またはシェールガス等の天然ガスなどの炭化水素資源を産出する層)に水圧によって亀裂(フラクチャ)を生じさせるためには、通常、以下の方法が採用されている。すなわち、地下数千mの地層内に掘削した坑井孔(ダウンホール)に対して、坑井孔の先端部から順次、目止めをしながら、所定区画を部分的に閉塞し、その閉塞した区画内にフラクチャリング流体を高圧で送入して、生産層に亀裂を生じさせるフラクチャリングを行う。次いで、次の所定区画(通常は、先行する区画より手前、すなわち地上側の区画)を閉塞してフラクチャリングを行う。以下、この工程を必要な目止めとフラクチャリングが完了するまで繰り返し実施する。
【0007】
新たな坑井の掘削だけでなく、既に形成された坑井孔の所望の区画について、再度フラクチャリングによる生産層の刺激を行うこともある。その際も同様に、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングなどを行う操作を繰り返すことがある。また、坑井の仕上げを行うために、坑井孔を閉塞して下部からの流体を遮断し、その上部の仕上げを行った後、閉塞の解除を行うこともある。
【0008】
坑井孔の先端部から順次、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングなどを行う方法としては、種々の方法が知られており、例えば、特許文献2〜特許文献4には、坑井孔の閉塞や固定を行うことができる坑井掘削用プラグ(「フラックプラグ」、「ブリッジプラグ」または「パッカー」等と称することもある。)が開示されている。
【0009】
特許文献2には、坑井掘削用のダウンホールプラグ(以下、単に「プラグ」ということがある。)が開示されており、具体的には、軸方向に中空部を有するマンドレル(本体)、マンドレルの軸方向と直交する外周面上に、軸方向に沿って、リングまたは環状部材(annular member)、第1の円錐状部材(conical member)及びスリップ(slip)、エラストマーまたはゴム等から形成される可鍛性要素(malleable element)、第2の円錐状部材及びスリップ、並びに、回り止め機構(anti-rotation feature)を備えるプラグが開示されている。この坑井掘削用のダウンホールプラグによる坑井孔の封鎖は、以下のとおりである。すなわち、マンドレルをその軸方向に移動することにより、リングまたは環状部材と回り止め機構との間隙が縮小することに伴い、スリップが円錐状部材の傾斜面に当接し、円錐状部材に沿って進むことで、外方に放射状に拡大して坑井孔の内壁に当接して坑井孔に固定されること、及び、可鍛性要素が拡径変形して坑井孔の内壁に当接して坑井孔を封鎖することによる。マンドレルには、軸方向の中空部が存在し、これにボール等をセットすることにより、坑井孔を封鎖することができる。プラグを形成する材料として、金属材料(アルミニウム、スチール、ステンレス鋼等)、繊維、木、複合材及びプラスチックなどが広く例示され、好ましくは、炭素繊維等の強化材を含有する複合材、特に、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の重合体を含有する複合材であること、マンドレルがアルミニウムまたは複合材料で形成されることが記載されている。一方、ボール等は、先に説明した材料のほかに、温度、圧力、pH(酸、塩基)等により分解する材料を使用できることが記載されている。
【0010】
特許文献3には、各パッカーが、隣接パッカーに、分離可能に接続されている坑井掘削用のパッカー集合体(assembly)が開示されている。特許文献3には、軸方向に中空部を有するマンドレル、マンドレルの軸方向と直交する外周面上に、軸方向に沿って、スリップ、スリップウエッジ(slip wedge)、弾性パッカー要素(resilient packer element)、及び押出リミッタ(extrusion limiter)等を備えるパッカーが記載されている。
【0011】
坑井掘削用のダウンホールプラグは、坑井が完成するまで順次坑井内に配置されるが、シェールオイル等の石油またはシェールガス等の天然ガス(以下、総称して「石油や天然ガス」または「石油及び/または天然ガス」ということがある。)などの生産が開始される段階では、これらを除去する必要がある。プラグは、通常、使用後に閉塞を解除して回収できるように設計されていないため、破砕、穿孔その他の方法で、破壊されたり、小片化されたりすることによって除去されるが、破砕や穿孔等には多くの経費と時間を費やす必要があった。また、使用後に回収できるように特殊に設計されたプラグ(retrievable plug)もあるが、プラグは高深度地下に置かれたものであるため、そのすべてを回収するには多くの経費と時間を要していた。
【0012】
特許文献4には、坑井内の環境に曝されるときに分解する分解性材料を含有する使い捨て型のダウンホールツール(ダウンホールプラグ等を意味する。)またはその部材が開示されており、生分解性材料として、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルなど分解性重合体が開示されている。さらに、特許文献4には、軸方向に流通孔(flow bore)を有する円筒状本体部品(tubular body element)と、該円筒状本体部品の軸方向と直交する外周面上に、軸方向に沿って、上部シーリング要素、中心シーリング要素及び下部シーリング要素から成るパッカー要素集合体(packer element assembly)と、スリップ及び機械的スリップ本体(mechanical slip body)との組み合わせが記載されている。また、円筒状本体部品の流通孔には、ボールをセットすることにより、流体の一方向のみの流れを許容するようにすることが開示されている。しかしながら、特許文献4には、ダウンホールツールまたはその部材のいずれについて、分解性材料を含有する材料を使用するのかについての開示はみられない。
【0013】
エネルギー資源の確保及び環境保護等の要求の高まりのもと、特に、非在来型資源の採掘が広がる中で、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっている。坑井掘削用プラグ(ダウンホールツール等)は、フラクチャリングを実施する高深度地下まで、ワイヤ状物(string、stinger、cable等といわれることもある。)を使用して、移送され、マンドレルやマンドレルの外周面に取り付けられる諸部材を相対的に移動させて坑井孔を閉塞し、高圧の流体を使用するフラクチャリングを実施している間は、高圧流体の圧力に抗して坑井孔の閉塞を維持する必要がある。すなわち、坑井掘削用プラグであるダウンホールツール及びダウンホールツール部材には、移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリング中の閉塞の維持に際して負荷される高い荷重に対する十分な抵抗力が求められている。例えば、坑井孔の閉塞及びフラクチャリング中の閉塞の維持に際しては、概ね45kN(約10,000ポンド重に相当する。)以上の負荷がかかる。そこで、坑井掘削用プラグであるダウンホールツール及びダウンホールツール部材には、例えば、通常温度66℃(華氏約150度に相当する。)に達し、場合によっては、温度100℃を超えることもあるような坑井内の環境下において、フラクチャリングに伴う諸操作において破損を生じない機械的特性(強度や伸度等に関する引張特性及び/または圧縮特性)を有することが望まれていた。
【0014】
特に、マンドレルやマンドレルの外周面に取り付けられる諸部材、すなわち坑井掘削用プラグであるダウンホールツールまたはその部材の一部または全部として、フラクチャリング終了後に分解することによりその除去を可能とするために、分解性材料、例えば、分解性の樹脂材料を使用する場合には、フラクチャリングに伴う諸操作が完了するまでの間、坑井掘削用プラグとしては、坑井内の環境下において破損を生じない所要の機械的特性(引張特性及び/または圧縮特性)を有し得るものであることが必要である。
【0015】
高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグ、及び、坑井掘削方法を提供することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2003−533619号公報(米国特許出願公開第2003/0060375号明細書対応)
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0277989号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0183391号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0205266号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグを提供することにある。さらに、本発明の課題は、該坑井掘削用プラグを使用する坑井掘削方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグには、坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングに際して、マンドレルまたは該部材の曲折部分に、高い応力集中が生じることを見いだし、更に研究を重ねた結果、マンドレルまたは該部材における曲折部分の形状を制御することによって、課題を解決することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明の第1の側面によれば、(1)マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグであって、マンドレルまたは該部材の少なくとも1つが、
分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmである
ことを特徴とする坑井掘削用プラグが提供される。
【0020】
また、本発明の第1の側面によれば、発明の具体的な態様として、以下(2)〜(19)の坑井掘削用プラグが提供される。
【0021】
(2)マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材が、スリップ、ウエッジ、1対のリング状固定部材、及び、拡径可能な環状のゴム部材からなる群より選ばれる少なくとも1つである前記(1)の坑井掘削用プラグ。
(3)1対のリング状固定部材が、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる拡径可能な環状のゴム部材を圧縮状態のまま固定することができるものである前記(2)の坑井掘削用プラグ。
(4)少なくとも1つのスリップとウエッジとの組み合わせが、1対のリング状固定部材の間に置かれる前記(2)または(3)の坑井掘削用プラグ。
(5)分解性材料から形成されるマンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材が、分解性材料と金属または無機物との複合材により形成される前記(1)〜(4)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
(6)マンドレルが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmである前記(1)〜(5)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
(7)分解性材料から形成されるマンドレルが、軸方向に沿う中空部を有する前記(6)の坑井掘削用プラグ。
(8)分解性材料から形成されるマンドレルと、分解性材料から形成されるマンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とが一体に形成されている前記(6)または(7)の坑井掘削用プラグ。
(9)一体成形により一体に形成されている前記(8)の坑井掘削用プラグ。
(10)機械加工により一体に形成されている前記(8)の坑井掘削用プラグ。
(11)曲折部分が、凸部、段部、フランジ部、溝部、ねじ山及びねじ底からなる群より選ばれる少なくとも1つである前記(1)〜(10)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
(12)曲折部分が、更にテーパー部を有し、テーパー部の高さが1mm以上である前記(11)の坑井掘削用プラグ。
(13)分解性材料が、脂肪族ポリエステルである前記(1)〜(12)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
(14)脂肪族ポリエステルが、ポリグリコール酸である前記(13)の坑井掘削用プラグ。
(15)ポリグリコール酸が、重量平均分子量が180000〜300000、かつ、温度270℃、せん断速度122sec-1で測定した溶融粘度が700〜2000Pa・sである前記(14)の坑井掘削用プラグ。
(16)分解性材料が、強化材を含有する前記(1)〜(15)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
(17)マンドレルが、ポリグリコール酸から形成される前記(1)〜(16)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
(18)分解性材料から形成されるマンドレルが、外周面にラチェット機構のかみ合い部を備え、該かみ合い部の曲率半径が0.5〜50mmである前記(1)〜(17)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
(19)分解性材料から形成されるマンドレルが、外周面に雄ねじ構造を備え、1対のリング状固定部材の一方が、該雄ねじ構造と対向する雌ねじ構造をその内周面に備え、かつ、前記1対のリング状固定部材の一方は、前記マンドレルの軸方向に摺動することができない状態に固定されている前記(1)〜(18)のいずれかの坑井掘削用プラグ。
【0022】
さらに、本発明の第2の側面によれば、(20)前記(1)〜(19)のいずれかの坑井掘削用プラグを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に、坑井掘削用プラグの一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1の側面によれば、マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグであって、マンドレルまたは該部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とする坑井掘削用プラグであることによって、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグが提供されるという効果が奏される。
【0024】
また、本発明の第2の側面によれば、前記の坑井掘削用プラグを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に、坑井掘削用プラグの一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法であることによって、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削方法が提供されるという効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本発明の坑井掘削用プラグの一具体例を示す概略の正面断面図である。
図1B図1Aの坑井掘削用プラグの拡径可能な環状のゴム部材が拡径した状態を示す概略の正面断面図である。
図2】フランジ部を有するマンドレルの模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグであって、マンドレルまたは該部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とする坑井掘削用プラグに関する。以下、図1A及び図1Bを参照しながら説明する。
【0027】
I.坑井掘削用プラグ
1.マンドレル
本発明の坑井掘削用プラグは、マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグである。本発明の坑井掘削用プラグが備えるマンドレル1は、通常「芯金」とも称されるものであって、断面が略円形状で、断面の直径に対して長さが十分大きく、本発明の坑井掘削用プラグの強度を基本的に担保する部材である。本発明の坑井掘削用プラグに備えられるマンドレル1は、断面の直径が、坑井孔の大きさに応じて適宜選択され(坑井孔の内径より僅かに小さいことにより、坑井孔内を移動可能であり、一方、後述するように拡径可能な環状ゴム部材5の拡径等により坑井孔の閉塞が可能となる程度の径の差を有する。)、その長さは、断面の直径に対して、例えば5〜20倍程度であるが、これに限定されるものではない。通常、マンドレル1の断面の直径は、5〜30cm程度の範囲である。
【0028】
〔中空部〕
本発明の坑井掘削用プラグに備えられるマンドレル1は、中実のものでもよいが、フラクチャリング初期の流路確保、マンドレルの重量の軽減、マンドレルの分解速度の制御などの観点から、マンドレル1が、軸方向に沿う中空部を少なくとも一部に有する中空マンドレルであることが好ましい(すなわち、中空部は、マンドレル1を軸方向に沿って貫通してもよいし、マンドレル1を軸方向に沿って貫通しないものでもよい。)。また、流体を用いて坑井掘削用プラグ坑井内に押し込み移送する場合には、マンドレル1が、軸方向に沿う中空部を有することが好ましい。マンドレル1が軸方向に沿う中空部を有するものである場合、マンドレル1の断面形状は、マンドレル1の直径(外径)及び中空部の外径(マンドレル1の内径に相当する。)を画成する2つの同心円で形成される円環状である。2つの同心円の径の比率、すなわち、マンドレル1の直径に対する中空部の外径の比率が0.7以下であることが好ましい。この比率の大小は、マンドレル1の直径に対する中空マンドレル1の肉厚の比率の大小と相反する関係にあるので、その比率の上限値を定めることは、中空マンドレルの肉厚の好ましい下限値を定めることに相当するということができる。中空マンドレルの肉厚が薄すぎると、坑井掘削用プラグを坑井孔内に配置したり、坑井孔の閉塞やフラクチャリングを行うときに、中空マンドレルの強度(特に引張強度)が不足して、極端な場合には坑井掘削用プラグが損傷することがある。したがって、マンドレル1の直径に対する中空部の外径の比率は、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0029】
マンドレル1の直径及び/または中空部の外径は、マンドレル1の軸方向に沿って均一でもよいが、軸方向に沿って変化するものでもよい。すなわち、マンドレル1の外径が軸方向に沿って変化することによって、マンドレル1の外周面に凸部、段部、フランジ部、凹部(溝部)、更にはねじ部(通常は雄ねじ構造である。)や後述するラチェット機構のかみ合い部などの曲折部分を有するものとしてもよい。また、中空部の外径(中空のマンドレル1の内径)が軸方向に沿って変化することによって、マンドレル1の内周面に凸部、段部、溝部、更にはねじ部(雄ねじ構造または雌ねじ構造)などの曲折部分を有するものとしてもよい。さらに、曲折部分は、テーパー部を有するものとすることもできる。
【0030】
マンドレル1の外周面及び/または内周面に有する凸部、段部、フランジ部や凹部(溝部)は、坑井掘削用プラグを坑井内で移送する際の支承部位として利用することもでき、また、マンドレル1の外周面及び/または内周面に、別部材を取り付けたり固定したりするための部位として利用することもできる。また、マンドレル1が中空部を有する場合、流体の流れを制御するために使用するボールを保持する座面とすることができる。さらに、マンドレル1の外周面には、マンドレル1の軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材の内周面と共同して、該部材のマンドレルの軸方向に沿う一方向への移動を許容し、反対方向への移動を規制する複数のかみ合い部を形成して、マンドレルの軸方向に直交するリング状のラチェット機構を構成するようにしてもよい。
【0031】
〔マンドレルを形成する材料〕
本発明の坑井掘削用プラグに備えられるマンドレル1を形成する材料は、特に限定されず、従来、坑井掘削用プラグに備えられるマンドレルを形成する材料として使用されている材料を使用することができる。例えば、金属材料(アルミニウム、スチール、ステンレス鋼等)、繊維、木、複合材及び樹脂などを挙げることができ、具体的には、炭素繊維等の強化材を含有する複合材、特に、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の重合体を含有する複合材などを挙げることができる。本発明の坑井掘削用プラグは、フラクチャリングを行った後には、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグであることから、マンドレル1が分解性材料から形成されるものであることが好ましい。
【0032】
〔分解性材料〕
本発明の坑井掘削用プラグにおいて、マンドレル1が分解性材料から形成されるものである場合、分解性材料としては、生分解性、加水分解性を有する分解性材料、更に他の何らかの方法によって化学的に分解することができる分解性材料を使用することができる。
【0033】
なお、従来坑井掘削用プラグに備えられるマンドレルとして汎用されているアルミニウム等の金属材料のように、大きな機械的な力を加えることにより、破壊、崩壊等物理的に分解する材料は、本発明の坑井掘削用プラグに備えられるマンドレル1を形成する分解性材料には該当しない。ただし、後述する分解性樹脂と金属材料との複合材にみられるように、重合度の低下等により本来の樹脂が有した強度が低下して脆くなった結果、極めて小さい機械的力を加えることによって簡単に崩壊し、形状を失うような材料は、前記の分解性材料に該当する。
【0034】
本発明の坑井掘削用プラグにおいて、マンドレル1が分解性材料から形成されるものである場合、後に詳述するように、好ましくは、所定温度以上の水によって分解する加水分解性材料である。また、分解性材料が、脂肪族ポリエステルであることがより好ましく、ポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある。)であることが更に好ましい。すなわち、マンドレル1が、PGAから形成される坑井掘削用プラグが望ましいものである。さらに、分解性材料が、強化材を含有するものでもよく、他の配合成分を含有するものとすることもできる。
【0035】
〔曲折部分の曲率半径〕
本発明の坑井掘削用プラグにおいて、マンドレル1が分解性材料から形成されるものである場合、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行う観点から、マンドレル1における曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであるものとすることができる。本発明の坑井掘削用プラグは、マンドレル1における曲折部分の曲率半径が上記の範囲であることにより、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグである。すなわち、分解性材料から形成されるマンドレル1における曲折部分の曲率半径が小さすぎると、該曲折部分が、坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングに負荷される高圧力により破損するおそれがある。分解性材料から形成されるマンドレル1における曲折部分の曲率半径が大きすぎると、移行部(曲折部分を形成するためにマンドレル1の外径または内径が漸次変化する箇所)が長くなりすぎて所望の形状及び位置の曲折部分を形成できない場合がある。
【0036】
2.マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材
本発明の坑井掘削用プラグは、マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグである。すなわち、坑井掘削用プラグにおいて、該プラグの移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを効率的かつ確実に行うため、更に、取扱い性を改善するためなどの目的で、通常、マンドレルの外周面上に種々の部材が取り付けられる。それら種々の部材としては、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材、マンドレルの軸方向に沿う外周面上に取り付けられる部材、及び、マンドレルの軸方向に対してその他の方向に沿う外周面上に取り付けられる部材などがある。本発明は、マンドレル、または、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材(以下、「外周面上取付部材」ということがある。)の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とするものとすることができる。
【0037】
本発明の坑井掘削用プラグは、外周面上取付部材について上記した特徴を有することにより、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグである。
【0038】
外周面上取付部材としては、従来、坑井掘削用プラグにおいて使用されている部材であれば特に限定されず、スリップ、ウエッジ、1対のリング状固定部材、及び、拡径可能な環状のゴム部材からなる群より選ばれる少なくとも1つが好ましく挙げられる。なお、これらの部材としては、それぞれの部材をマンドレルに取り付けるための取付部材を含む意味で部材と称するものである。
【0039】
〔スリップ及びウエッジ〕
スリップ2a、2bとウエッジ3a、3bとの組み合わせ(図1A図1Bにおいては、スリップ2aとウエッジ3aとの組み合わせ、及び、スリップ2bとウエッジ3bとの組み合わせとして、2つのスリップとウエッジとの組み合わせが示されているが、坑井掘削用プラグに備えられるスリップとウエッジとの組み合わせは1つでもよいし、複数でもよい。)は、プラグと坑井孔との固定を行う手段として、坑井掘削用プラグにおいてそれ自体周知のものである。すなわち、金属、無機物、樹脂等の材料により形成されるスリップ2a、2bが、樹脂複合材等の材料により形成されるウエッジ3a、3bの斜面の上面に摺動可能に接触して置かれ、ウエッジ3a、3bが、マンドレル1の軸方向の力が加えられて移動することによって、スリップ2a、2bがウエッジ3a、3bの斜面の上面に乗り上げてマンドレル1の軸方向と直交する外方に移動し、該スリップ2a、2bのマンドレル1の軸方向と直交する最外方の周面が、坑井孔の内壁Hに当接して、プラグと坑井孔の内壁Hとの固定を行う。スリップ2a、2bには、プラグと坑井孔との間の空間の閉塞(シール)を一層確実なものとするために、坑井孔の内壁Hとの当接部に、1以上の凸部、段部、溝部、粗面(ギザギザ)などの曲折部分が設けられることがある。また、スリップ2a、2bは、予めマンドレル1の軸方向に直交する円周方向において所定の数に分割されているものでもよいし、図1に示すように、予め所定の数に分割されてはおらず、軸方向に沿う一端部から他端部に向かい途中で終了する切れ目を有するものでもよい。なお、この場合は、ウエッジ3a、3bにマンドレル1の軸方向の力が加えられて、ウエッジ3a、3bがスリップ2a、2bの下面に進入することにより、スリップ2a、2bが、前記の切れ目及びその延長線に沿って割られて分割し、次いで各分割片がマンドレル1の軸方向と直交する外方に移動するが、それ自体は周知の構造である。
【0040】
〔1対のリング状固定部材〕
ウエッジ3a、3bにマンドレル1の軸方向の力を加え移動させることができるように、少なくとも1つのスリップ2a、2bとウエッジ3a、3bとの組み合わせが、1対のリング状固定部材4a、4bの間に置かれることが好ましい。すなわち、1対のリング状固定部材4a、4bは、マンドレル1の外周面上においてマンドレル1の軸方向に沿って摺動が可能で、相互の間隔を変更することができるように構成されており、ウエッジ3a、3bの軸方向に沿う端部に、直接または間接的に当接することにより、これらにマンドレル1の軸方向の力を加えることができるように構成されている。1対のリング状固定部材4a、4bの各々の形状や大きさは、上記した機能を果たすことができる限り、特に制限されないが、ウエッジ3a、3bに対して、マンドレル1の軸方向の力を有効に加えることができる観点から、1対のリング状固定部材4a、4bのウエッジ3a、3bに当接する側の各々の端面を平面状とすることが好ましい。1対のリング状固定部材4a、4bの各々のリング状固定部材は、マンドレル1の外周面を完全に取り囲む円環状のものが好ましいが、周方向に切れ目や変形箇所を有するものでもよい。また、円環を周方向に分離した形状のものとして、所望により円環を形成するようにしたものでもよい。1対のリング状固定部材4a、4bの各々のリング状固定部材は、複数のリングを軸方向に隣接して置くことにより、幅広の(マンドレル1の軸方向の長さが大きい。)リング状固定部材とすることもできる。
【0041】
1対のリング状固定部材4a、4bは、同じまたは類似の組成及び形状や構造を有するものでもよいし、組成及び形状や構造が異なるものでもよい。例えば、各々のリング状固定部材は、マンドレル1の軸方向の長さや外径が異なるものでもよい。また例えば、1対のリング状固定部材4a、4bの一方のリング状固定部材を、所望によりマンドレル1に対して摺動することができない状態に構成することができる。この場合、1対のリング状固定部材4a、4bの他方のリング状固定部材がマンドレル1の外周面上を摺動することによって、1対のリング状固定部材4a、4bの各々のリング状固定部材が、ウエッジ3a、3bの軸方向に沿う端部にそれぞれ当接する。1対のリング状固定部材4a、4bの一方のリング状固定部材を、所望によりマンドレル1に対して摺動することができない状態にする構成は、特に制限されない。例えば、i)マンドレル1と、1対のリング状固定部材4a、4bの一方のリング状固定部材とが一体に形成されているものとする(この場合は、当該リング状固定部材は、マンドレル1に対して常時摺動することができない。)、ii)ドッグクラッチ等のクラッチ構造やはめ合い構造を利用するものとする(この場合は、マンドレル1に対して摺動する状態と摺動することができない状態とを切り替えることができる。)、iii)分解性材料から形成されるマンドレルが、外周面に雄ねじ構造を備え、1対のリング状固定部材の一方が、該雄ねじ構造と対向する雌ねじ構造をその内周面に備え、かつ、前記1対のリング状固定部材の一方は、前記マンドレルの軸方向に摺動することができない状態に固定されている、などの構成とすることができる。マンドレル1と、1対のリング状固定部材4a、4bの一方のリング状固定部材とが一体に形成されている坑井掘削用プラグとしては、一体成形により形成される坑井掘削用プラグ、または、機械加工により形成される坑井掘削用プラグが提供される。
【0042】
坑井掘削用プラグは、1対のリング状固定部材4a、4bを複数対備えるものでもよい。この場合、スリップ2a、2bとウエッジ3a、3bとの組み合わせ、及び/または、後に詳述する拡径可能な環状のゴム部材5の、それぞれの1つ以上を別々にまたは組み合わせて、複数対のリング状固定部材4a、4bの間の位置に置かれるようにすることもできる。
【0043】
〔拡径可能な環状のゴム部材〕
坑井掘削用プラグは、マンドレル1の軸方向と直交する外周面上であって、1対のリング状固定部材4a、4bの間の位置に、少なくとも1つの拡径可能な環状のゴム部材5を備えるものとすることができる。好ましくは、先に説明した1対のリング状固定部材4a、4bが、マンドレル1の軸方向に直交する外周面上に取り付けられる拡径可能な環状のゴム部材5を圧縮状態のまま固定するものとすることができる。すなわち、拡径可能な環状のゴム部材5は、1対のリング状固定部材4a、4bに直接または間接的に当接することにより、マンドレル1の外周面上においてマンドレル1の軸方向の力を伝達され、その結果、マンドレル1の軸方向に圧縮され、軸方向の距離が縮小(縮径)することに伴い、マンドレル1の軸方向に直交する方向に拡径する。該環状のゴム部材5は、拡径して、軸方向に直交する方向の外方部が坑井孔の内壁Hと当接するとともに、軸方向に直交する方向の内方部がマンドレル1の外周面に当接することにより、プラグと坑井孔との間の空間を閉塞(シール)するものである。拡径可能な環状のゴム部材5は、1対のリング状固定部材4a、4bによって圧縮状態のまま固定され、フラクチャリングが遂行されている間、坑井孔の内壁Hと当接状態を維持することができ、プラグと坑井孔とのシールを維持する機能を有するものである。
【0044】
拡径可能な環状のゴム部材5は、上記した機能を有するものである限り、その材料、形状及び構造に制限はない。例えば、マンドレル1の軸方向に直交する周方向の断面が逆U字形の形状を有する環状のゴム部材5とすることにより、U字の先端部分がマンドレル1の軸方向に圧縮されるのに伴って逆U字形の頂点部に向かうように拡径することができる。拡径可能な環状のゴム部材5は、拡径したときに坑井孔の内壁Hに当接してプラグと坑井孔との間の空間を閉塞(シール)するとともに、拡径しないときにはプラグと坑井孔との間に空隙が存在するものであることから、マンドレル1の軸方向の長さが、マンドレル1の長さに対して、好ましくは10〜70%、より好ましくは15〜65%であり、これにより、本発明の坑井掘削用プラグは、十分なシール機能とを有するとともに、シール後には坑井孔とプラグとの固定補助の機能を果たすことができる。
【0045】
坑井掘削用プラグは、拡径可能な環状のゴム部材5を複数備えることができ、これによりプラグと坑井孔との間の空間を複数の位置で閉塞(シール)することができ、また、坑井孔とプラグとの固定補助の機能をより確実に果たすことができる。坑井掘削用プラグが、拡径可能な環状のゴム部材5を複数備える場合、複数の拡径可能な環状のゴム部材5の組成、形状または構造、マンドレル1の軸方向における位置、1対のリング状固定部材4a、4bとの相対的位置関係は、適宜選択することができる。
【0046】
拡径可能な環状のゴム部材5は、高深度地下の高温高圧の環境下において、フラクチャリングに伴う一層の高圧やフラクチャリング流体との接触によっても、シール機能の喪失が生じないことが求められるので、通常、耐熱、耐油及び耐水性に優れたゴム材料が好ましく、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム等が使用されることが多い。また、拡径可能な環状のゴム部材5は、例えば、積層ゴムなど複数のゴム部材から形成される構造のゴムであってもよいし、他の部材を積層した構造のものでもよい。さらに、拡径したときにプラグと坑井孔との間の空間の閉塞(シール)や坑井孔とプラグとの固定補助を一層確実なものとするために、坑井孔の内壁Hとの当接部に、1以上の凸部、段部、溝部、粗面(ギザギザ)などの曲折部分を設けてもよい。
【0047】
〔マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材を形成する材料〕
本発明の坑井掘削用プラグに備えられる外周面上取付部材を形成する材料は、特に限定されず、従来、坑井掘削用プラグに備えられる該部材を形成する材料として使用されている材料を使用することができる。例えば、金属材料(アルミニウム、スチール、ステンレス鋼等)、繊維、木、複合材及び樹脂などを挙げることができ、具体的には、炭素繊維等の強化材を含有する複合材、特に、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の重合体を含有する複合材などを挙げることができる。本発明の坑井掘削用プラグは、フラクチャリングを行った後には、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグであることから、先にマンドレルについて説明したと同様に、外周面上取付部材の少なくとも1つが分解性材料から形成されるものであることが好ましい。
【0048】
〔分解性材料〕
本発明の坑井掘削用プラグにおいて、外周面上取付部材の少なくとも1つを形成する分解性材料としては、先にマンドレルに説明したと同様に、生分解性、加水分解性を有する分解性材料、更に他の何らかの方法によって化学的に分解することができる分解性材料を使用することができる。
【0049】
〔曲折部分の曲率半径〕
本発明の坑井掘削用プラグにおいて、外周面上取付部材の少なくとも1つが分解性材料から形成されるものである場合、分解性材料から形成される外周面上取付部材の曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行う観点から、外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであるものとすることができる。本発明の坑井掘削用プラグは、外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径が上記の範囲であることにより、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削用プラグである。すなわち、分解性材料から形成される外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径が小さすぎると、該曲折部分が、坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングに負荷される高圧力により破損するおそれがある。分解性材料から形成される外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径が大きすぎると、移行部(曲折部分を形成するために外周面上取付部材の外径が漸次変化する箇所)が長くなりすぎて所望の形状及び位置の曲折部分を形成できない場合がある。
【0050】
3.分解性材料
本発明のマンドレルと、外周面上取付部材とを備える坑井掘削用プラグは、マンドレルまたは外周面上取付部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とする。分解性材料について、以下詳述する。
【0051】
本発明のマンドレルまたは外周面上取付部材の少なくとも1つを形成する分解性材料とは、例えば、フラクチャリング流体が使用される土壌中の微生物によって分解される生分解性、または、フラクチャリング流体中の溶媒、特に、水によって、更に所望により酸またはアルカリによって分解する加水分解性を有する分解性材料などがあるが、更に他の何らかの方法によって化学的に分解することができる分解性材料であってもよい。好ましくは、所定温度以上の水によって分解する加水分解性材料である。なお、先に説明したように、従来坑井掘削用プラグにおいて汎用されているアルミニウム等の金属材料など、大きな機械的な力を加えることにより破壊、崩壊等物理的に分解する材料は、分解性材料には該当しないが、後述する分解性樹脂と金属材料との複合材にみられるように、重合度の低下等により本来の樹脂が有した強度が低下して脆くなった結果、極めて小さい機械的力を加えることによって簡単に崩壊し、形状を失うような材料は、前記の分解性材料に該当する。
【0052】
〔分解性樹脂〕
本発明のマンドレルまたは外周面上取付部材の少なくとも1つを形成する分解性材料としては、高深度地下の高温高圧の環境において所期の強度を有すると同時に、分解性に優れることが求められことから、分解性樹脂が好ましい。分解性樹脂とは、先に説明したように生分解性、加水分解性、更にその他の方法によって化学的に分解することができる樹脂を意味する。分解性樹脂としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−ε−カプロラクトン等の脂肪族ポリエステルやポリビニルアルコール(ケン化度80〜95モル%程度の部分ケン化ポリビニルアルコールなど)などが挙げられるが、より好ましくは脂肪族ポリエステルである。すなわち、分解性材料は、脂肪族ポリエステルであることが好ましい。分解性樹脂は、単独でまたは2種以上をブレンド等により組み合わせて使用することもできる。また、分解性材料から形成される外周面上取付部材が、拡径可能な環状のゴム部材である場合は、分解性材料として、例えば、脂肪族ポリエステル系ゴム、ポリウレタンゴム、天然ゴム、ポリイソプレン、アクリルゴム、脂肪族ポリエステルゴム、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー等の分解性ゴムを使用することができる。
【0053】
〔脂肪族ポリエステル〕
脂肪族ポリエステルは、例えば、オキシカルボン酸及び/またはラクトンの単独重合または共重合、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとのエステル化反応、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族ジオールと、オキシカルボン酸及び/またはラクトンとの共重合により得られる脂肪族ポリエステルであり、温度20〜100℃程度の水に速やかに溶解するものが好ましい。
【0054】
オキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等の炭素数2〜8の脂肪族ヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。ラクトンとしては、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の炭素数3〜10のラクトンなどが挙げられる。
【0055】
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の炭素数2〜8の脂肪族飽和ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等の炭素数4〜8の脂肪族不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の炭素数2〜6のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等の炭素数2〜4のポリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0056】
これらのポリエステルを形成する成分は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。また、分解性樹脂としての性質を失わない限り、テレフタル酸等の芳香族であるポリエステルを形成する成分を組み合わせて使用することもできる。
【0057】
特に好ましい分解性樹脂である脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(以下、「PLA」ということがある。)やPGA等のヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル;ポリ−ε−カプロラクトン(以下、「PCL」ということがある。)等のラクトン系脂肪族ポリエステル;ポリエチレンサクシネートやポリブチレンサクシネート等のジオール・ジカルボン酸系脂肪族ポリエステル;これらの共重合体、例えば、グリコール酸・乳酸共重合体(以下、「PGLA」ということがある。);並びに、これらの混合物;などが挙げられる。また、ポリエチレンアジペート/テレフタレート等の芳香族成分を組み合わせて使用する脂肪族ポリエステルを挙げることもできる。
【0058】
マンドレルまたは外周面上取付部材に求められる強度や分解性の観点から、脂肪族ポリエステルが、PGA、PLA及びPGLAからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが最も好ましく、PGAが更に好ましい。なお、PGAとしては、グリコール酸の単独重合体のほかに、グリコール酸繰り返し単位を50質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上であり、とりわけ好ましくは99.5質量%以上有する共重合体を包含する。また、PLAとしては、L−乳酸またはD−乳酸の単独重合体のほかに、L−乳酸またはD−乳酸の繰り返し単位を50質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上有する共重合体を包含し、また、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の混合により得られるステレオコンプレックス型ポリ乳酸でもよい。PGLAとしては、グリコール酸繰り返し単位と乳酸繰り返し単位の比率(質量比)が、99:1〜1:99、好ましくは90:10〜10:90、より好ましくは80:20〜20:80である共重合体を使用することができる。
【0059】
(溶融粘度)
脂肪族ポリエステル、好ましくはPGA、PLAまたはPGLAとしては、溶融粘度が通常50〜5000Pa・s、好ましくは150〜3000Pa・s、より好ましくは300〜1500Pa・sであるものを使用することができる。溶融粘度は、温度240℃、せん断速度122sec-1において測定するものである。溶融粘度が小さすぎると、坑井掘削用プラグに備えられるマンドレルに求められる強度が不足する場合がある。溶融粘度が大きすぎると、例えば、マンドレルを製造するために高い溶融温度が必要となり、脂肪族ポリエステルが熱劣化するおそれがあったり、分解性が不十分となったりすることがある。前記の溶融粘度は、キャピラリー(直径1mmφ×長さ10mm)を装着したキャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製の「キャピログラフ1−C」)を使用して、試料約20gを所定温度(240℃)にて5分間保持した後、せん断速度122sec-1の条件で測定を行うものである。
【0060】
特に好ましい脂肪族ポリエステルであるPGAとしては、例えば固化押出成形により成形を行う際に割れが生じにくいなどの成形性等の観点から、重量平均分子量が180000〜300000、かつ、温度270℃、せん断速度122sec-1で測定した溶融粘度が700〜2000Pa・sであるPGAがより好適である。中でも好ましいPGAは、重量平均分子量が190000〜240000、かつ、温度270℃、せん断速度122sec-1で測定した溶融粘度が800〜1200Pa・sであるPGAである。溶融粘度は、先に説明した方法に準じて(測定温度を270℃とする。)測定する。前記の重量平均分子量は、10mgのPGAの試料を、トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に、溶解させて10mLとした後、メンブレンフィルタ―で濾過して得た試料溶液の10μlを使用して、下記条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定するものである。
<GPC測定条件>
装置:株式会社島津製作所製のShimazu LC−9A
カラム:昭和電工株式会社製のHFIP−806M 2本(直列接続)+プレカラム:HFIP−LG 1本
カラム温度:40℃
溶離液:トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIP溶液
流速:1mL/分
検出器:示差屈折率計
分子量校正:分子量の異なる標準分子量のポリメタクリル酸メチル5種(POLYMER LABORATORIES Ltd.製)を用いて作成した分子量の検量線データを使用。
【0061】
〔他の配合成分〕
分解性材料、好ましくは分解性樹脂、より好ましくは脂肪族ポリエステル、更に好ましくはPGAには、本発明の目的を阻害しない範囲で、更に他の配合成分として、樹脂材料(分解性材料が分解性樹脂である場合は、他の樹脂)や、安定剤、分解促進剤または分解抑制剤、強化材等の各種添加剤を含有させ、または配合してもよい。分解性材料が、強化材を含有することが好ましく、この場合、分解性材料は、複合材ということができる。分解性材料が、分解性樹脂である場合は、いわゆる強化樹脂である。強化樹脂から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材は、好ましくは、強化材を含有する脂肪族ポリエステルから形成されるものである。
【0062】
〔強化材〕
強化材としては、従来、機械的強度や耐熱性の向上を目的として樹脂材料等の強化材として使用されている材料を使用することができ、繊維状強化材や、粒状または粉末状強化材を使用することができる。強化材は、分解性樹脂等の分解性材料100質量部に対して、通常150質量部以下、好ましくは10〜100質量部の範囲で含有させることができる。
【0063】
繊維状強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維等の無機繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、鋼、真鍮等の金属繊維状物;アラミド繊維、ケナフ繊維、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維状物質;などが挙げられる。繊維状強化材としては、長さが10mm以下、より好ましくは1〜6mm、更に好ましくは1.5〜4mmである短繊維が好ましく、また、無機繊維状物が好ましく使用され、ガラス繊維が特に好ましい。
【0064】
粒状または粉末状強化材としては、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、フェライト、クレー、ガラス粉、酸化亜鉛、炭酸ニッケル、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等を用いることができる。強化材は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。強化材は、必要に応じて、集束剤または表面処理剤により処理されていてもよい。
【0065】
〔複合材〕
分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材としては、分解性材料と金属または無機物との複合材により形成されるものとすることができる。具体的には、PGAを始めとする分解性樹脂等の分解性材料からなる母材に、所定形状の窪み等の凹部を設け、該凹部の形状に合致する形状の金属(金属片等)または無機物をはめ込んで、これらを接着剤で固定したり、金属片や無機物と母材が固定状態を維持できるように針金、繊維等を巻きつけて固定したりしてなるものが挙げられる。
【0066】
4.曲折部分の曲率半径
本発明のマンドレルと、外周面上取付部材とを備える坑井掘削用プラグは、マンドレルまたは外周面上取付部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とする。すなわち、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmである。以下、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材の少なくとも1つの曲折部分の曲率半径について詳述する。
【0067】
先に説明したように、坑井掘削用プラグに備えられるマンドレル、または外周面上取付部材、例えば、スリップ、ウエッジ、1対のリング状固定部材や、拡径可能な環状のゴム部材などには、凸部、段部、フランジ部、溝部等の曲折部分が設けられていることがある。さらに、これらの曲折部分は、マンドレルの外周面及び外周面上取付部材の内周面に、該部材のマンドレルの軸方向に沿う一方向への移動を許容し、反対方向への移動を規制する複数のかみ合い部を形成する、マンドレルの軸方向に直交するリング状のラチェット機構を構成するものとすることができる。また、外周面上取付部材、該外周面上取付部材をマンドレルに取り付けるための取付部材、またはマンドレルには、ねじ部(雄ねじ構造または雌ねじ構造)が設けられていることがあり、ねじ部にはいうまでもなく、ねじ山及びねじ底の曲折部分がある。したがって、本発明の坑井掘削用プラグは、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材における凸部、段部、フランジ部、溝部、ねじ山及びねじ底等の曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることに特徴を有する。また、分解性材料から形成されるマンドレルが、外周面にラチェット機構のかみ合い部を備え、該かみ合い部の曲率半径が0.5〜50mmであるものとすることもできる。
【0068】
すなわち、本発明のマンドレルと、外周面上取付部材とを備える坑井掘削用プラグは、マンドレルと外周面上取付部材とが共同して、坑井孔を閉塞し、フラクチャリングを可能とする。したがって、坑井掘削用プラグに備えられるマンドレルと外周面上取付部材には、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができるために、坑井内の環境下において破損を生じない所要の機械的特性(引張特性及び/または圧縮特性)を有し得るものであることが求められる。例えば、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングに際しては、閉塞空間に数トン程度の圧力がかかり、外周面上取付部材には、高圧力に対応する引張圧力及び/または圧縮圧力がかかる。特に、凸部、段部、溝部、ねじ山及びねじ底、更にはフランジ部やラチェット機構のかみ合い部等の曲折部分には、応力集中が生じ、一層大きな引張圧力及び/または圧縮圧力がかかる。
【0069】
本発明の坑井掘削用プラグは、フラクチャリング終了後における、マンドレルまたは外周面上取付部材の除去や流路の確保を容易にするために、マンドレルまたは外周面上取付部材の少なくとも一部が、分解性材料から形成される。脂肪族ポリエステル等の分解性樹脂等の分解性材料は、従来、坑井掘削用プラグを形成する材料として使用されてきたアルミニウム等の金属材料と比較すると、坑井内の環境下における機械的特性が小さい場合が多い。しかしながら、本発明においては、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることによって、坑井内の環境下において破損を生じない所要の機械的特性(引張特性及び/または圧縮特性)を有することができる。なお、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径とは、曲折部分が曲率半径の異なる複数の曲面から構成されているものである場合は、曲折部分における最小の曲率半径を意味する。
【0070】
坑井内の環境下において破損を生じない所要の機械的特性(引張特性及び/または圧縮特性)を確実に有することにより、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行う観点から、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材における曲折部分の曲率半径は、好ましくは1〜40mm、より好ましくは3〜36mm、更に好ましくは5〜32mmの範囲である。
【0071】
なお、本発明の坑井掘削用プラグにおいて、分解性材料から形成されるマンドレルまたは分解性材料から形成される外周面上取付部材が、複数の曲折部分を有するものである場合、すべての曲折部分について、曲率半径が0.5〜50mmであるものとしてもよいが、坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングにおいて、より大きな荷重が負荷される曲折部分の曲率半径を前記の範囲であるものとしてもよい。
【0072】
また、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材における曲折部分が、凸部、段部、フランジ部、ラチェット機構のかみ合い部、溝部、ねじ山及びねじ底からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、曲折部分が、更にテーパー部を有する場合は、大きな荷重の負荷を軽減できる場合があることから、テーパー部の高さが1mm以上であることが好ましいことがあり、より好ましくは2〜50mm、更に好ましくは3〜45mm、特に好ましくは5〜40mmの範囲である。ここで、テーパー部とは、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材における曲折部分における最小の曲率半径を有する箇所を除く部分のマンドレル軸方向に沿う長さをいう。
【0073】
図2は、分解性樹脂であるPGAから形成した、曲折部分としてフランジ部〔厚み(A):30mm)を有するマンドレルの一具体例の模式図である。この具体例においては、丸棒状(パイプ状)のマンドレルの下方に径が大きい丸棒状のフランジ部が、曲率半径Rmm、かつ、テーパー部の高さTmmのテーパー部を経て接続された形状となっている。上部の丸棒状の最上端を固定して、フランジ部に45kNの荷重を加える(フラクチャリング時に負荷される圧力に起因する引張力に相当する。)。曲率半径R(単位:mm)とテーパー部の高さT(単位:mm)とを変化させて、フランジ部にかかる引張応力(単位:MPa)を測定した結果を、表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1から、曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであるNo.1〜No.4のフランジ部に負荷される最大応力は82MPa以下であった。温度66℃(華氏150度)におけるPGAの応力が約90MPaであることから、このフランジ部を有するPGAから形成したマンドレルは、温度66℃の環境下において、坑井掘削用プラグのフランジ部に45kNの荷重が負荷されても破損に至らないものであることが推察された。
【0076】
特に、曲折部分の曲率半径が10、20または30mmであるNo.2〜No.4のフランジ部に負荷される最大応力は36MPa以下であって、温度149℃におけるPGAの応力約40MPa以下であることから、このフランジ部を有するマンドレルは、高深度の高温の環境下において、坑井掘削用プラグが受ける圧力でも破損に至らないものであることが推察された。中でも、更にテーパー部の高さが10または20mmであるNo.3及びNo.4のフランジ部に負荷される最大応力は31MPa以下と更に小さいことから、このフランジ部を有するマンドレルは、より高深度のより高温の環境下においても、確実に坑井掘削用プラグが受ける圧力に抗し得るものであることが推察された。
【0077】
5.坑井掘削用プラグ
本発明の坑井掘削用プラグは、マンドレルと、外周面上取付部材とを備える坑井掘削用プラグであって、マンドレルまたは該部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とする坑井掘削用プラグである。本発明の坑井掘削用プラグは、更に、通常坑井掘削用プラグに備えられることがあるその他の部材を備えることができる。例えば、マンドレルが、軸方向に沿う中空部を有する場合、中空部に置かれ、流体の流れを制御するボール(金属、樹脂等の材料から形成され、分解性材料から形成されてもよい。)を備えることができる。また、坑井掘削用プラグのマンドレル、外周面上取付部材、更には前記のその他の部材を、それぞれまたは他の部材に結合したり開放したりするための部材、例えば、回転止め部材などを備えることができる。本発明のマンドレルと、外周面上取付部材とを備える坑井掘削用プラグは、そのすべてを分解性材料から形成されるものとすることもできる。
【0078】
〔坑井孔の閉塞〕
本発明の坑井掘削用プラグは、先に説明したように、例えば、1対のリング状固定部材にマンドレルの軸方向の力を加えることにより、拡径可能な環状のゴム部材にマンドレルの軸方向の力を伝達し、その結果、拡径可能な環状のゴム部材がマンドレルの軸方向に圧縮されて、軸方向の距離が縮小(縮径)することに伴い、拡径可能な環状のゴム部材が、マンドレルの軸方向と直交する方向に拡径する。該環状のゴム部材は、拡径して、軸方向に直交する方向の外方部が坑井孔の内壁と当接するとともに、軸方向に直交する方向の内方部がマンドレルの外周面に当接することにより、プラグと坑井孔との間の空間を閉塞(シール)することができる(坑井孔の閉塞)。また、スリップがウエッジの斜面の上面に乗り上げてマンドレルの軸方向と直交する外方に移動し、該スリップのマンドレルの軸方向と直交する最外方の周面が、坑井孔の内壁と当接して、プラグを坑井孔の所定位置に固定することができる。次いで、プラグと坑井孔との間の空間を閉塞(シール)した状態で、フラクチャリングを行うことができる。
【0079】
〔坑井掘削用プラグの分解〕
本発明の坑井掘削用プラグは、所定の諸区画のフラクチャリングが終了した後、通常は、坑井の掘削が終了して坑井が完成し、石油や天然ガス等の生産を開始するときに、生分解、加水分解または更に他の何らかの方法による化学的な分解により、分解性材料から形成されるマンドレルまたは外周面上取付部材の少なくとも1つを、所望によっては更に分解性材料から形成されるマンドレルを、容易に分解して除去することができるとともに、炭化水素資源の採掘を効率的に行うことができる。したがって、本発明の坑井掘削用プラグによれば、従来、坑井完成後に、坑井内に残置されていた多数の坑井掘削用プラグを除去、回収したり、破砕、穿孔その他の方法によって、破壊したり、小片化したりするために要していた多くの経費と時間が不要となるので、坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる。
【0080】
II.坑井掘削用プラグの製造方法
本発明の坑井掘削用プラグは、マンドレルと、外周面上取付部材とを備える坑井掘削用プラグであって、マンドレルまたは該部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とする坑井掘削用プラグを製造することができる限り、その製造方法は限定されない。例えば、射出成形、押出成形(固化押出成形を含む。)、遠心成形、圧縮成形その他の公知の成形方法により、坑井掘削用プラグに備えられる各部材を成形し、得られた各部材を、必要に応じて切削加工や穿孔等の機械加工した後に、それ自体公知の方法によって組み合わせて、坑井掘削用プラグを得ることができる。
【0081】
本発明の坑井掘削用プラグが、分解性材料から形成されるマンドレルと、分解性材料から形成される外周面上取付部材とが一体に形成されている坑井掘削用プラグである場合、射出成形、押出成形(固化押出成形を含む。)、遠心成形等の成形方法による一体成形により、または、切削加工等の機械加工により、分解性材料から形成されるマンドレルと、分解性材料から形成される外周面上取付部材とを一体に形成することが好ましい。
【0082】
III.坑井掘削方法
本発明のマンドレルと、外周面上取付部材とを備える坑井掘削用プラグを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に、坑井掘削用プラグの一部または全部が分解される坑井掘削方法によれば、所定の諸区画のフラクチャリングが終了し、または、坑井の掘削が終了して坑井が完成し、石油や天然ガス等の生産を開始するときには、生分解、加水分解または更に他の何らかの方法による化学的な分解により、外周面上取付部材の少なくとも1つ、所望によっては更に分解性材料から形成されるマンドレルを、容易に分解して除去することができるとともに、炭化水素資源の採掘を効率的に行うことができる。この結果、本発明の坑井掘削方法によれば、従来、坑井完成後に、坑井内に残置されていた多数の坑井掘削用プラグを除去、回収したり、破砕、穿孔その他の方法によって、破壊したり、小片化したりするために要していた多くの経費と時間が不要となるので、坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、マンドレルと、マンドレルの軸方向に直交する外周面上に取り付けられる部材とを備える坑井掘削用プラグであって、マンドレルまたは該部材の少なくとも1つが、分解性材料から形成され、かつ、その曲折部分の曲率半径が0.5〜50mmであることを特徴とする坑井掘削用プラグであることによって、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削プラグを提供することができるので、産業上の利用可能性が高い。
【0084】
また、本発明は、前記の坑井掘削用プラグを使用して、坑井孔の目止め処理を行った後に、坑井掘削用プラグの一部または全部が分解されることを特徴とする坑井掘削方法であることにより、高深度化など採掘条件がますます過酷かつ多様なものとなっているもとで、曲折部分にかかる大荷重の負荷を軽減して、確実に坑井内における移送、坑井孔の閉塞及びフラクチャリングを行うことができ、かつ、その除去や流路の確保を容易にすることにより坑井掘削の経費軽減や工程短縮ができる坑井掘削方法を提供することができるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0085】
1 : マンドレル
2a、2b: スリップ
3a、3b: ウエッジ
4a、4b: リング状固定部材
5 : 拡径可能な環状のゴム部材
H : 坑井孔の内壁
A : フランジ部の厚み
R : 曲率半径
T : テーパー部の高さ
図1A
図1B
図2