特許第5955474号(P5955474)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955474炭化水素資源回収用ボールシーラーならびにその製造方法及びそれを用いる坑井の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955474
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】炭化水素資源回収用ボールシーラーならびにその製造方法及びそれを用いる坑井の処理方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 4/18 20060101AFI20160707BHJP
   C09K 8/70 20060101ALI20160707BHJP
   E21B 43/16 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   E21B4/18
   C09K8/70
   E21B43/16
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-554755(P2015-554755)
(86)(22)【出願日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2014083152
(87)【国際公開番号】WO2015098597
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年3月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-268415(P2013-268415)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健夫
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/183363(WO,A1)
【文献】 米国特許第4102401(US,A)
【文献】 米国特許第4407368(US,A)
【文献】 米国特許第4505334(US,A)
【文献】 米国特許第4410387(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0101334(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0169935(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0036592(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0029886(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0169449(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0312858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 4/18
C09K 8/70
E21B 43/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一層が分解性の脂肪族ポリエステル樹脂からなる球形の芯体を、該脂肪族ポリエステル樹脂よりも大なる耐衝撃性を有する樹脂材料で被覆してなり、直径が約25mm(1インチ)以上であることを特徴とする、炭化水素資源回収用ボールシーラー。
【請求項2】
前記分解性の脂肪族ポリエステル樹脂がフィラーにより強化された脂肪族ポリエステル樹脂である請求項1に記載のボールシーラー。
【請求項3】
前記分解性の脂肪族ポリエステル樹脂がポリグリコール酸樹脂である請求項1または2に記載のボールシーラー。
【請求項4】
前記分解性の脂肪族ポリエステル樹脂がフィラーにより強化されたポリ乳酸である請求項2に記載のボールシーラー。
【請求項5】
前記被覆樹脂材料が分解性の脂肪族ポリエステル樹脂からなる請求項1〜4のいずれかに記載のボールシーラー。
【請求項6】
前記被覆樹脂材料がポリ乳酸からなる請求項5に記載のボールシーラー。
【請求項7】
前記被覆樹脂材料がエラストマーからなる請求項1〜4のいずれかに記載のボールシーラー。
【請求項8】
前記被覆樹脂材料がエラストマーとポリグリコール酸樹脂との混合物からなる請求項1〜4のいずれかに記載のボールシーラー。
【請求項9】
前記球形の芯体が外側芯体と内側芯体との二層構造を有し、外側芯体が前記分解性の脂肪族ポリエステル樹脂からなり、内側芯体がポリグリコール酸樹脂以外の分解性材料からなる請求項1〜8のいずれかに記載のボールシーラー。
【請求項10】
少なくとも一層が分解性の脂肪族ポリエステル樹脂からなる球形の芯体を、該脂肪族ポリエステル樹脂よりも大なる耐衝撃性を有する樹脂材料で被覆して、約25mm(1インチ)以上の直径を有する球体を形成することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の炭化水素資源回収用ボールシーラーの製造方法。
【請求項11】
前記球形の芯体が外側芯体と内側芯体との二層構造を有し、金型キャビティ内のほぼ中央に球形の内側芯体を支持ピンで配設し、この状態で上記内側芯体の周囲に外側芯体樹脂を射出成型し、該外側芯体樹脂の射出完了と同期して支持ピンを金型キャビティの壁面まで後退させてから外側芯体樹脂を硬化させることにより前記球形の芯体を形成する工程を含む請求項10に記載のボールシーラーの製造方法。
【請求項12】
金型キャビティ内のほぼ中央に前記球形の芯体を支持ピンで配設し、この状態で上記芯体の周囲に被覆樹脂材料を射出成型し、該被覆樹脂材料の射出完了と同期して支持ピンを金型キャビティの壁面まで後退させてから被覆樹脂材料を硬化させることによりボールシーラーを形成する工程を含む請求項10または11に記載のボールシーラーの製造方法。
【請求項13】
地層中に形成した坑井に内挿された長尺フラックスリーブの内部に設けた開口を有するボール座に、作業流体とともにフラックボールを供給して、所定位置に配置されたボール座の開口を封ずることによりシール部を形成して作業流体を遮断し、シール部の直上のフラックスリーブ壁に設けた開口より作業流体を噴出させることにより、開口に隣接する坑井内壁を掘削して穿孔を形成するフラクチャリングサイクルを含み、その後フラックボールをその場で分解させる方法であり、フラックボールとして請求項1〜9のいずれかに記載のボールシーラーを用いることを特徴とする坑井の処理方法。
【請求項14】
長尺フラックスリーブ内の延長方向下流側から上流側に向かう所定間隔に、開口径が次第に増大する複数のボール座を設け、作業流体とともに、次第に増大する直径を有するフラックボールを順次供給し、シール部の形成および穿孔の形成を含むフラクチャリングサイクルを、下流側から順次行う方法であり、前記複数のフラックボールの少なくとも一部として請求項1〜9のいずれかに記載のボールシーラーを用いることを特徴とする坑井の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油およびガスをはじめとする炭化水素資源の回収のためのダウンホール(あるいは坑井)の形成あるいは補修用のツールの一種としてのボールシーラー、特にこのようなツールとしてのフラックプラグあるいはフラックスリーブ(水圧破砕用栓体あるいは管体)の形成に適したボールシーラー(所謂、フラックボール)ならびにその製造方法及びそれを用いる坑井の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油およびガスをはじめとする炭化水素資源(以下、代表的に、「石油」と称することがある)を含む地層(formation)からの炭化水素資源の回収のためにはダウンホール(坑井)が設けられるが、その形成、補修あるいは資源回収の促進のための、フラックプラグ、ブリッジプラグ、ボールシーラー、目止めプラグ、パッカー等のツール(以下、包括的に「ダウンホールツール」と称する)は、使用後に地上に回収することなく、そのままダウンホール中で崩壊させるか、落下させることにより処分することが多くある(そのようなダウンホールツールあるいはその使用態様の例示は、例えば特許文献1〜6にみられる)。したがって、そのような一時使用のツールについては、その全体あるいは崩壊促進のための結合部を構成する部材(ダウンホールツール用部材)を、分解性のポリマーにより形成することも推奨されている。そのような分解性ポリマーの例としては、でんぷんあるいはデキストリン等の多糖類;キチン、キトサン等の動物性蛋白ポリマー;ポリ乳酸(PLA,代表的にポリL−乳酸(PLLA))、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ酪酸、ポリ吉草酸等の脂肪族ポリエステル;更にはポリアミノ酸、ポリエチレンオキサイド等が挙げられている(特許文献1および2)。また、ポリスチレン等の剛性樹脂からなるフラックボールを用い、フラクチャリング後に、ディーゼル油などのパッドと称する流体をフラックボール上に流入させて、フラクチャリング後のボールの分解を促進する提案もなされている(特許文献3)。
【0003】
形成されたダウンホールを通じて周辺の地層から炭化水素資源(代表的に「石油」)を回収するためには、水圧ないし水流破砕法(hydraulic fracturing)が採用されることが多い。
【0004】
従来、上述したような、ダウンホールツールの一例としてのボールシーラーは、水圧破砕法において、地層に穿孔ガン(perforating gun)等を用いて形成した石油を回収するための穿孔(perforations)への過剰な作業水の流入を抑制するための目止め材(パーフォレーションボールとも称される)として、直接に穿孔を目止めする用途が多かった(例えば、特許文献4および5)。このような用途に用いられるボールシーラーとしては、必要に応じて不定形な穿孔への追随変形によるシール性を向上するためにゴム質表面層で被覆した、ナイロン、フェノール樹脂等の非分解性樹脂あるいはアルミニウム等の非分解性材料からなり、直径が16〜32mm(5/8インチ〜1.25インチ、特許文献4第2欄46〜48行)というように比較的小さいものが用いられてきた。また不定形な穿孔への追随変形性を向上するために、3層以上の積層構造を有するパーフォレーションボールも提案されている(特許文献5)。
【0005】
しかしながら、最近では水圧破砕法において用いるフラックプラグあるいはフラックスリーブ(水圧破砕用栓体あるいは管体)を構成する部材の一部として、より大きな直径のボールシーラーを用いることも提案されている。より具体的には、形成されたダウンホールの所定位置に中央に開口を有するボール座(受け)とともに前記開口を閉塞するためのボールシーラーを内蔵したフラックプラグを配置することにより区画した作業領域に高圧水流を導入し、ダウンホールに直行する方向に水流を作用させ地層を破砕して石油を回収するための穿孔(perforations)を形成する(たとえば特許文献1〜3)。
【0006】
あるいはダウンホール中に、複数のボール座(受け)を離間して内蔵・配置した管体(フラックスリーブ)を内挿し、このフラックスリーブ内において、逐次、ボール座へのボールシーラーの供給・配置→高圧水流を導入した地層の破砕による穿孔の形成作業を連続して行なう方法も提案されている(例えば、特許文献6および3)。
【0007】
このような、フラックプラグあるいはフラックスリーブの一部を構成するボールシーラー(あるいはフラックボールとも称される)は、例えば直径が、約25〜100mm(1〜4インチ)というように、一般に上述した穿孔の直接目止め材としてのパーフォレーションボールと同等の直径のものに加えて、より大きな直径のものが要求される場合が多い。また、フラックボールには、その使用態様に起因して、パーフォレーションボールとは異なる耐変形性が要求される。すなわち、地層の水圧破砕処理(フラクチャリング)においては、7〜70MPa(1000〜10000psi)というような高水圧がフラックボールに作用するので、このような高水圧に耐えて、ボール座との間でのシール性を確保するために破損あるいは過大な変形を起こさないための剛性が要求される。特に、特許文献3及び6に示されるように、ダウンホールに挿入したスリーブ(円筒管)にできるだけ多くのフラクチャリングゾーンを形成するためには、隣接するシール部を形成するシート座の開口径およびフラックボール径の差はできるだけ小さくする必要があり、1個のシール部を形成するボールとシート座とのシール幅(重なり、半径の差)も極めて抑制する必要がある。当然に、フラックボールには、パーフォレーションボールの変形性とは全く反する、耐変形性(剛性)が要求されるわけである。このような理由により、従来は、金属製のフラックボールが主流であったが、フラクチャリング後の回収の手間を省くための樹脂製のフラックボールの使用の提案(上述の特許文献3)もなされているわけである。
【0008】
これに対し、本発明者らは、必要に応じて強化材を配合して剛性(耐変形性)を向上した脂肪族ポリエステル樹脂を少なくとも一部として含む分解性の樹脂製フラックボールが、少なくとも従来の水圧破砕法には使用可能であるとの知見を得た。しかしながら、より一層の生産性の向上を得るには問題があることが判明した。すなわち、所定の大きさのフラックボールを、地上から1000〜2000mにも達する深さの対応するボール座に供給し配置するためには、フラックボールを高圧水流によりある程度の時間をかけて搬送する必要がある。この時間は、高圧水流の流速に完全に依存するわけであり、従来の約4m/秒(例えば4.5インチ管に対して流量15バレル/分)以下の流束に対しては、上述した分解性樹脂を含むフラックボールでも対応できるが、より高速の高圧水流を適用した場合には、フラックボールにクラックが発生し、シール性が損なわれる恐れがあることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US2005/0205266A明細書
【特許文献2】US2005/0205265A明細書
【特許文献3】US2012/0181032A明細書
【特許文献4】US7647964B明細書
【特許文献5】US2009/0101334A明細書
【特許文献6】US2010/0132959A明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術事情に鑑み、本発明の主要な目的は、分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂を少なくとも一部として含む比較的大径で且つ耐衝撃性の向上した炭化水素資源回収用ボールシーラーを与えることにある。
本発明の更なる目的は、上記炭化水素資源回収用ボールシーラーを、比較的簡単な工程により、良好な寸法精度で形成し得る製造方法ならびに該炭化水素資源回収用ボールシーラーを用いる坑井の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の炭化水素資源回収用ボールシーラーは、少なくとも一層が分解性の脂肪族ポリエステル樹脂からなる球形の芯体を、該脂肪族ポリエステル樹脂よりも大なる耐衝撃性を有する樹脂材料で被覆してなり、直径が約25mm(1インチ)以上であることを特徴とするものである。好ましい態様によれば、前記分解性の脂肪族ポリエステル樹脂として、ポリグリコール酸樹脂を用いる。
【0012】
また本発明のボールシーラーの製造方法は、上記の炭化水素資源回収用ボールシーラーを製造するものであり、少なくとも一層が分解性の脂肪族ポリエステル樹脂からなる球形の芯体を、該脂肪族ポリエステル樹脂よりも大なる耐衝撃性を有する樹脂材料で被覆して、約25mm(1インチ)以上の直径を与えることを特徴とするものである。好ましい態様によれば、前記球形の芯体あるいはその内部を構成する内側芯体をインサートとして配置して、被覆樹脂あるいは外側芯体樹脂の射出成型を行う少なくとも1回のインサート射出成型工程を含む方法により、前記ボールシーラーを形成する。
【0013】
また、本発明の坑井の処理方法は、地層中に形成した坑井に内挿された長尺フラックスリーブの内部に設けた開口を有するボール座に、作業流体とともにフラックボールを供給して、所定位置に配置されたボール座の開口を封ずることによりシール部を形成して作業流体を遮断し、シール部の直上のフラックスリーブ壁に設けた開口より作業流体を噴出させることにより、開口に隣接する坑井内壁を掘削して穿孔を形成するフラクチャリングサイクルを含み、その後フラックボールをその場で分解させる方法であり、フラックボールとして前記本発明のボールシーラーを用いることを特徴とするものである。好ましい態様によれば、長尺フラックスリーブ内の延長方向下流側から上流側に向かう所定間隔に、開口径が次第に増大する複数のボール座を設け、作業流体とともに、次第に増大する直径を有する複数のフラックボールを順次供給し、シール部の形成および穿孔の形成を含むフラクチャリングサイクルを、下流側から上流側へ向けて順次行う方法であり、前記複数のフラックボールの少なくとも一部として前記本発明のボールシーラーを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のボールシーラー(フラックボール)の一態様の模式断面図。
図2】本発明のボールシーラー(フラックボール)の他の一態様の模式断面図。
図3】本発明法の一態様によるフラックボール製造の中間段階における金型の模式断面図。
図4】本発明のボールシーラー(フラックボール)を内蔵するフラックスリーブを用いて行なうフラクチャリング作業の一例を説明するためのフラックスリーブを内挿した坑井(ダウンホール)の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、その好適な実施形態に即して、詳細に説明する。
上述したように、本発明の炭化水素資源回収用ボールシーラーは、少なくとも一層が分解性の脂肪族ポリエステル樹脂からなる球形の芯体を、該脂肪族ポリエステル樹脂よりも大なる耐衝撃性を有する樹脂材料で被覆してなり、直径が約25mm(1インチ)以上であることを特徴とする。
【0016】
なお、本明細書において、「分解性(disintegratable)」の由来する「分解(disintegration)」の語は、本発明のボールシーラー(フラック・ボール)を構成する各種材料が、地層の熱も加味したフラッキング後のフラックボールの環境温度(通常0〜200℃)及び周囲流体条件において有意に変化して、その結果フラック・ボールの物理的特性が有意に劣化して、対応するボール・シートに対するシール機能を維持しなくなるような各種の過程をさすものであり、その過程は、脂肪族ポリエステルについて一般的に知られる(生)分解((bio)degradation)に限らず、分解(disintegration), 溶解(dissolution)および 剥離(delamination)を含むものであるが、これらに限定されない。
【0017】
図1は、本発明のボールシーラー(フラックボール)の最も基本的な態様の模式断面図であり、フラックボール1は、単一の樹脂材料からなる芯体2を、芯体2よりも耐衝撃性の高い樹脂材料層3で被覆してなる。図2は別の態様を示し、フラックボール1Aは、外側芯体2aと内側芯体2bの2層構造を有する芯体2Aを、外側芯体2aよりも耐衝撃性の高い樹脂材料層3で被覆してなる。
【0018】
図1の芯体2あるいは図2の外側芯体2aを構成する樹脂材料は、少なくともフラック流体温度(通常、10〜121℃)において、圧縮強度(ASTM−D695)が、30MPa以上、好ましくは50MPa以上、更に好ましくは70MPa以上であることを要求され、また、引張強度(ASTM−D882)が、10MPa以上、好ましくは30MPa以上、更に好ましくは50MPa以上であることを要求される。このような機械的強度は、ポリグリコ−ル酸(PGA)樹脂であればそれ単独でも実現できるが、ポリ乳酸等の他の脂肪族ポリエステル樹脂の場合は、短繊維、無機充填材等のフィラーの配合により補強することが好ましい。この効果はPGA樹脂についても同様であり、特に高い機械的強度が好ましい場合には、フィラーの配合が好ましい。本発明においては、被覆層3により衝撃強度が改善されるため、芯体2(あるいは2a)の衝撃強度は特に規制する必要はないが、一般的にASTM−D256によるVノッチ付きアイゾット衝撃強度が、10〜100J/m程度のものが用いられる。
【0019】
好ましい脂肪族ポリエステル樹脂としてのポリグリコール酸樹脂(PGA樹脂)は、熱可塑性樹脂では最高レベルの圧縮強度をはじめとする初期力学強度が優れ、また短繊維補強材を配合した材料にすることにより、水中での厚み減少速度の抑制効果が大きいという特徴も有する。ポリグリコール酸樹脂(PGA樹脂)としては、繰り返し単位としてグリコール酸単位(−OCH−CO−)のみからなるグリコール酸単独重合体(すなわちポリグリコ−ル酸(PGA))に加えて、他の単量体(コモノマー)単位、好ましくは乳酸等のヒドロキシルカルボン酸単位、を50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは10重量%以下、の割合で含むグリコール酸共重合体を含む。他の単量体単位を含む共重合体とすることにより、ポリグリコ−ル酸樹脂の加水分解速度、結晶性等をある程度調整することができる。
【0020】
ポリグリコ−ル酸樹脂としては、重量平均分子量が7万以上、好ましくは10万〜50万、のものを用いる。重量平均分子量が7万未満のものでは、フラックボールに必要な初期力学強度特性が損なわれる。他方、重量平均分子量が50万を超えると、成型加工性が悪くなるため好ましくない。また射出成形特性を考慮して、融点プラス50℃の温度(ポリグリコール酸単独の場合は270℃)で、剪断速度120秒−1の条件で測定した溶融粘度(JIS・K7199)が、20〜2000Pa・s、特に200〜1500Pa・s、の範囲のものが好ましく用いられる。
【0021】
芯体2(図1)あるいは外側芯体2a(図2)を構成するPGA樹脂は、単独で用いるのが通常であるが、その分解性等の制御の目的で、他の脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、エラストマー等のその他の熱可塑性樹脂を配合することもできる。但し、その添加量は、ポリグリコール酸樹脂がその特徴とする剛性(耐圧縮強度)ならびに直線的厚み減少速度特性を示すのに必要なマトリクス樹脂として存在することを妨げない量、より具体的には30重量%未満に抑えるべきであり、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満である。
【0022】
(フィラー)
フィラー(芯体補強材)の好ましい例としての短繊維補強材としては、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維等の無機繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、鋼、真鍮等の金属繊維状物;アラミド繊維、ケナフ繊維、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維状物質のうち、溶融成型に適した組成物を与えるように、短径(D)が0.1〜1000μm、より好ましくは1〜100μm、特に好ましくは5〜20μm、アスペクト比(L/D)が、2〜1000、より好ましくは、3〜300、特に好ましくは3〜150、であるものが用いられる。、通常ミルドファイバーあるいはチョップドファイバーと称されるものが好ましく用いられる。
【0023】
補強材として機能する他のフィラーとしては、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、フェライト、クレー、ガラス粉、酸化亜鉛、炭酸ニッケル、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0024】
補強材を配合する場合は、芯体2(図1)あるいは外側芯体2a(図2)を構成する樹脂100重量部当り、2〜100重量部、より好ましくは10〜90重量部、特に好ましくは20〜80重量部、の割合で配合することが好ましい。2重量部未満では配合効果が乏しく、100重量部を超えると、溶融混練により補強材を均一に分散させることが困難となる恐れがある。
【0025】
図1の単層芯体構造に比べて、図2の複層芯体構造が通常好まれる。その理由の第1は,内側と外側で別の材料を用いることが可能なことである。芯体2に要求される高い機械的強度は、特にその表層(図2の例においては、外側芯体2a)においてであり、本発明においては、必要に応じてフィラーを配合した分解性の脂肪族ポリエステル樹脂、好ましくは、PGA樹脂が用いられる。これに対し、機械的要求強度の低い内側芯体2bについては、PGA樹脂よりは一般的な他の(生)分解性樹脂、例えばポリ乳酸(PLA,代表的にポリL−乳酸(PLLA))、ポリ酪酸、ポリ吉草酸等のPGA樹脂以外の脂肪族ポリエステル;でんぷんあるいはデキストリン等の多糖類;キチン、キトサン等の動物性蛋白ポリマー;更にはポリアミノ酸、ポリエチレンオキサイド等で形成してもよい。あるいは、これら分解性樹脂をバインダーとして用い、補強効果はほとんどなく増量材としてのフィラーを比較的多量に配合した分解性材料、自然界に悪影響の少ない分解性非樹脂材料を用いることもできる。なお、芯体が単層あるいは複層(図2)のいずれの場合であっても、単層芯体2(図1)あるいは内側芯体2b(図2)としては、フラックボール全体としての圧縮強度で代表される機械強度を保持するように配慮した上で、中空状の球形芯体を用いてもよい。
【0026】
本発明のフラックボールは、上述した単層芯体2(図1)あるいは複層芯体2A(図2)を、それらを構成する必要に応じてフィラーを配合した分解性の脂肪族ポリエステル樹脂よりも大なる耐衝撃強度を有する樹脂材料からなる樹脂層3で被覆してなる。
使用時の搬送速度にあわせて、十分な耐衝撃性を有する被覆層材料を選択して用いることが好ましい。
被覆層材料に要求される耐衝撃性の指標としては、ASTM−D256によるVノッチ付きアイゾット衝撃強度が用いられる。
すなわち、使用温度、シートの形状により求められるボール被覆層材料の耐衝撃性は異なり得るが、Vノッチ付きのアイゾット強度として20J/m以上が好ましく、50J/m以上がより好ましく、100J/m以上が特に好ましい。試験強度を最大で、500J/mとしたため、アイゾット衝撃試験で「破壊せず」の場合は、上記を超える衝撃強度を有するものと解される。また被覆層3材料は、芯体2(または外側芯体2a)材料に比べて、10J/m以上、特に30J/m以上、高い衝撃強度を有することが好ましい。
【0027】
被覆樹脂層3に要求される耐衝撃性ないしは衝撃緩和特性は、芯体2あるいはその表層2aを構成する分解性の脂肪族ポリエステル樹脂との相対的関係によっても変化し得る。例えば、硬度(圧縮強度)が大であり優れた芯体構成材料であるPGA樹脂は、その硬度のゆえに、耐衝撃強度が低い傾向を有するが、PGA樹脂に比べて、相対的に柔軟性のあるポリ乳酸等のPGA樹脂以外の脂肪族ポリエステル樹脂は、PGA樹脂からなる芯体に対して、衝撃緩和性のある被覆樹脂層3の構成材料となり得る。特に耐衝撃グレードが好ましい。
【0028】
典型的な耐衝撃樹脂材料としてゴムあるいはエラストマーがあるが、これらは単独では過剰な弾性変形性を有するので、寸法安定性を要求されるフラックボールの表層材料としては、例えば0.05〜10mm、というようなごく限定的な厚さでのみ用いられる。耐変形性と、耐衝撃性を兼ね備えた被覆層3樹脂材料として、脂肪族ポリエステル(好ましくはPGA樹脂)とエラストマーとの混合物、特に1〜30重量%、好ましくは2〜20重量%、と比較的少量のエラストマーを配合した脂肪族ポリエステル樹脂との混合物が好ましく用いられる。エラストマーの具体例としては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル樹脂系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、アミド系エラストマー、アクリルゴム系コアシェル型エラストマーなどがある。なかでも脂肪族ポリエステルとの相溶性の良いポリエステル・ハードセグメントとポリエーテルまたはポリエステル・ソフトセグメントとの組合せからなるポリエステル系エラストマーが最も好ましく、その市販品の例としては、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテルとのブロック共重合体であるデュポン社製「ハイトレル」、生分解性のポリブチレンアジペート・テレフタレートブロック共重合体であるBASF社製「エコフレックス」等がある。
【0029】
短繊維補強材の配合は、被覆層の耐衝撃性の改善のために好ましく、補強材を配合した被覆層全量に対しての補強材の配合量が1〜50重量%となるように配合することが好ましい。
【0030】
上記した芯体2、外側芯体2a、内側芯体2bあるいは被覆層3を構成する樹脂材料には、上述したフィラー(補強材)に加えて、本発明の目的に反しない範囲で、必要に応じて熱安定剤、光安定剤、可塑剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、分解促進剤、分解遅延剤等の各種添加剤を添加することもできる。
【0031】
本発明のフラックボールは、被覆層3も含めて、全体として直径が、約25mm(1インチ)以上、好ましくは約38mm(1.5インチ)以上、の球体として形成される。(なお、直径の上限は、一般に約127mm(5インチ)以下、好ましくは約114mm(4.5インチ)以下である。)芯体2あるいは芯体2Aの直径は、芯体2(あるいは2A)および被覆層3の材質によっても、相当に変化するが、例えばフラックボール直径の80〜99.9%、好ましくは90〜99.9%程度で、20mm以上、好ましくは25mm以上となる。
【0032】
残りは被覆層であり、その厚みも、材質と耐衝撃強度の改善の要求程度により大幅に変わり得るが、0.05〜20mm、好ましくは0.1〜10mmと大幅に変化する。
【0033】
上述したような大径のフラックボールを、要求される高い寸法精度で形成するためには、少なくとも一つの工程で、WO2014/024827A明細書(参照として本願明細書に包含させる)に開示の方法に準じて開発された、インサートを用いる射出成型を行う方法が好ましい。
【0034】
すなわち、例えば直径が、1インチにも達する単層芯体2を、例えば射出により一体成型するに際しては、一般の熱可塑性樹脂にもみられる射出成型後の熱収縮および程度は異なるにせよ一般的に結晶性である脂肪族ポリエステル樹脂結晶化に伴う収縮により引けが発生して、高い寸法精度で得難い。したがって、外側芯体2aと内側芯体2bとに同一樹脂材料を用いるにせよ、異質樹脂材料を設けるにせよ、内側芯体2bをインサートした本発明の成形方法により芯体2Aを形成すれば問題となる外側芯体2aの寸法精度の低減は著しく軽減可能となる。
【0035】
インサート成型法を用いた本発明の方法による、PGA樹脂からなる外側芯体2aを含む複層芯体の製造の態様を図3を参照して説明する。
図3は、本発明法の一態様の中間段階における金型10の模式断面図である。上型10aと下型10bからなる金型10の開放状態において、キャビティ11内に配置された球形の内側芯体12(図2の2b)は、上型10aと下型10bとが境界面10cを介して接合された金型の閉鎖状態において、図示のように上下方向から突出する複数の支持ピン13により保持される。この状態で、金型のランナー14及びゲート15を通って、キャビティ11内に、溶融したPGA樹脂が射出され、その射出完了と同期して(すなわち射出完了の直前またはこれとほぼ同時に)、複数の支持ピン13の先端を、それぞれの図示した芯体支持位置から矢示方向に後退させ、射出完了時には、金型の内面10sの位置までの後退をほぼ完了させる。
【0036】
その後、金型内で成形体を冷却し結晶化させる。金型温度については融点未満の任意の温度が使用できるが、冷却速度と結晶化速度の観点から50〜150℃とすることが好ましい。50℃未満であると冷却が早くなり過ぎ、射出時に樹脂が均一に行き渡らない、成形体内側に対して外側の結晶化度が小さくなり物性の均一性が損なわれるなどの問題がある。150℃以上であると結晶化速度が遅いため冷却に長時間を要する。
【0037】
その後、金型を開放して、形成された積層成形体を取り出す。必要に応じて、あら熱をとるために成形体を水冷してもよい。また必要に応じて100〜200℃で数分〜数時間熱処理をすることで、残留ひずみの除去や結晶化度の均一化を行なうことができる。さらに必要に応じて、ゲート15に対応する若干の凹凸や支持ピン13対応部に残存し得る若干の凹凸、境界面10cに対応する分割線の凹凸を研磨等により除去して、平滑面に仕上げることもできる。
【0038】
支持ピン13の数は、上型10aと下型10bの各々に対して、3〜20、特に3〜12本程度、設けることが好ましい。支持ピンは、いずれも、球形芯体の中心から上方及び下方にそれぞれ、好ましくは中心角θとして90°の広がりの範囲内に、先端が接するように配置することが好ましい。支持ピンとしては、断面が0.5〜15mm程度の円形あるいは弱楕円形である棒状体が好ましく用いられる。
【0039】
かくして、球形の内側芯体2b上に、上記したPGA樹脂からなる外側芯体2a層を形成した、フラックボールの芯体2Aが得られる。内側芯体2bの材質は、PGA樹脂でもよいが、上述したように、機械的要求強度の低い内側芯体2bについては、任意の分解性材料が用いられる。
【0040】
上述したように、被覆樹脂層3の厚さは、その材質あるいは芯体2あるいは外側芯体2aの材質および強度により、0.05〜20mmと大幅に変化し得る。このうち、1mm程度までの厚さについては、構成樹脂材料を適当な溶剤あるいは分散媒と組わせて得た溶液あるいは分散液状の塗料を用いて浸漬塗布あるいは噴霧塗布→硬化の繰り返し、等の方法により形成してもよいが、1mmを超える被覆層3を均質な厚みで形成するためには、やはり上述の図3を参照して説明したインサート―射出成型法を用いて、芯体2あるいは2Aをインサートとして射出成型により形成することが好ましい。
【0041】
本発明の炭化水素資源回収用ボールシーラー(フラックボール)の一つの好ましい利用態様は、長尺のフラックスリーブに内蔵される複数の直径を有するフラックボールの少なくとも一部として用いることである。そのような長尺フラックスリーブを用いるフラクチャリング作業を図4を参照して説明する。図4は、地層Fに形成したダウンホール(坑井)Dに内挿されたフラックスリーブ10の部分断面図であり、その先端方向からn番目の位置Snに配置したボール座Bsnと、m(>n)番目の位置に配置したボール座Bsmとを図示している。このフラックスリーブを用いてフラクチャリングを行う場合、スリーブ内のX方向に沿って導入される水流に乗って、比較的小なる径のボール1nが供給され、ボール座Bsn上に配置されると、その水圧によりボール座Bsnの先端が下流のストッパ2nの位置まで移動する。これによりボール座Bsnの後端により覆われていたフラッシュ口3nが露出し、このフラッシュ口3nを通って噴出した高圧水流により、位置Snの地層中に石油回収用の穿孔4nが形成される。次いで、より上流のSm位置においては、ボール1nより大径のボール1mが供給されて、上記のフラクチャリング作業が継続される。一連のフラクチャリング作業の後に、…Bsn、…Bsm、…等の位置に残されたフラックボール…1n、…1m、…は、地層の熱及び周囲流体の作用下におけるその構成樹脂の分解特性に応じて、所定期間後に分解・消失する。
【0042】
すなわち、このような態様で用いられるフラックスリーブには、中間チューブを継ぎ足すことにより形成される、数百〜数千mにも達するような長尺なものが要求される場合があり、このような長尺のフラックスリーブによる一連のフラクチャリング操作を連続的に行なうためには、小は直径が約12.7mm(0.5インチ)程度から、大は直径が約127mm(5インチ)にも達する異なる直径の数多くのフラックボールの組が必要とされる場合がある。したがって、本発明の好ましい応用態様の一つは、約12.7mm(0.5インチ)〜約127mm(5インチ)mmの範囲内で、異なる直径を有する複数のフラックボールの組であって、その少なくとも一部で一以上、好ましくは半数以上は、直径が約25mm(1インチ)以上であって、積層構造を有する本発明のフラックボールを含むものである。残りの小径側フラックボールは、好ましくはポリグリコール酸樹脂等の脂肪族ポリエステルからなる単層の芯体を、そのままあるいは本発明の被覆樹脂で被覆してなる成形ボールが用いられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。以下の例を含めて、本明細書中に記載した特性値は、下記の方法による測定値を基準とするものである。
【0044】
<耐衝撃強度>
ASTM−D−256に準拠して、Vノッチ付きのアイゾット衝撃試験片を作製し、衝撃強度を測定した。
【0045】
<ローディング試験>
坑井内に挿入したフラックスリーブ中に配置したボール座に高圧水流に乗せてフラックボールを着座(ローディング)させる時のフラックボールの耐久性の模擬試験として、内径4.5インチの竪型スチール管内に、試験ボールの直径より0.25インチ小さい開口を有するボール座(ボール受け面の水平に対する角度は60°)を設置して、50バーレル/分(水流速度として約8m/s)の水流とともに試験ボールを供給して、ローディング試験を行った。1試験ボールに付き3回の試験を行い、3個のボールのうち、1個もクラックが発生しない場合をOKとして、評価した。
【0046】
[芯体製造例1]
WO2014/024827A明細書の実施例1と実質的に同じ方法で直径1.5インチのPGA製積層芯体を得た。
すなわち、ポリグリコール酸(PGA)(溶融粘度:600Pa・s@270℃、120秒−1、Vノッチ付きアイゾット衝撃強度:27J/m;(株)クレハ製)を射出成型機(山城精機製作所製「SAV−100−75」)に供給し、シリンダー温度250℃で溶融混練し、100℃に設定した金型(通常の水平接合面を有する射出成型用割型)により直径0.5インチ(約13mm)のPGAボールを作製した。次いで、図3に示すような竪型インサート射出成型用金型10の下型10bの断面積1.5mmの円柱状の支持ピン13の3本の上に、上記で作製した0.5インチのPGAボール12を最内層芯体として配置し、同様な支持ピン13の3本を備えた上型10aの降下により閉型し、形成されるキャビティ11のほぼ中央にPGAボール芯体12を保持した。図3に示すようなこの状態で、金型温度を100℃に設定し、上記と同じPGAを竪型射出成型機に供給し、シリンダー温度250℃で溶融混練して、上記金型の直径1.5インチのキャビティ11中に射出し、その完了とほぼ同時に、上下型の支持ピン13を、金型の内面位置まで後退させた。射出完了後、100℃の金型中に保持したままでの35秒間の冷却の後、金型を開いて、インサート成形による直径1.5インチのPGA製積層ボール芯体1を得た。
【0047】
[芯体製造例2]
PGAの代わりに、通常グレードポリ乳酸(PLLA1、ネイチャーワークス社製「4032D」、ノッチ付きアイゾット衝撃強度:16J/m)と粉末タルクフィラー(日本タルク(株)製「ミクロエースL−1」;平均粒径5μm)との重量比で70/30の混合物(ノッチ付きアイゾット衝撃強度:15J/m)を用いること以外は、芯体製造例1と同様にして、直径1.5インチの積層ボール芯体2を得た。
【0048】
(実施例1)
上記芯体製造例1で得られた直径1.5インチのPGA製積層ボール芯体1をインサートとし、内径2インチの金型を用い、PGA単独の代わりに、PGAとポリブチレンテレフタレートとポリエーテルとのブロック共重合体(デュポン社製「ハイトレル」、Vノッチ付きアイゾット衝撃強度:破壊せず;「エラストマー1」と称する)との重量比で90/10の混合物(ノッチ付きアイゾット衝撃強度:50J/m)を用いることにより、ほぼ芯体製造例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチのエラストマー配合PGA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0049】
(実施例2)
実施例1において、被覆材料として、PGA/エラストマー1の重量比で90/10の混合物の代わりに、耐衝撃グレードポリ乳酸(PLLA2、ネイチャーワークス社製「3801X」、重量平均分子量26万、融点170℃、ノッチ付きアイゾット衝撃強度:144J/m)を用いる以外は、実施例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチのPLLA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0050】
(実施例3)
実施例1において、被覆材料として、PGA/エラストマー1の重量比で90/10の混合物の代わりに、生分解性のポリブチレンアジペート・テレフタレートブロック共重合体(BASF社製「エコフレクス」;ノッチ付きアイゾット衝撃強度:破壊せず(>500J/m;「エラストマー2」と称する)を用いる以外は、実施例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチの被覆層付きフラックボールを製造した。
【0051】
(実施例4)
実施例1において、被覆材料として、PGA/エラストマー1の重量比で90/10の混合物の代わりに、PGAとガラスファイバー(GF)(オーウェンスコーニング社製「GL−HF」,短径10μm、繊維長3mm)との重量比で70/30の混合物(ノッチ付きアイゾット衝撃強度:115J/m)を用いることにより、ほぼ芯体製造例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチのGF繊維強化PGA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0052】
(実施例5)
実施例1において、被覆材料として、PGA/エラストマー1の重量比で90/10の混合物の代わりに、PGAとアラミド繊維(帝人(株)製「テクノーラ」、短径12μm、長さ3mm)との重量比で90/10の混合物(ノッチ付きアイゾット衝撃強度:120J/m)を用いることにより、ほぼ芯体製造例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチのアラミド繊維強化PGA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0053】
(実施例6)
実施例2において、PGA芯体の代わりに、芯体製造例2で得られたフィラー配合通常グレードPLLA製芯体を用いる以外は、実施例2と同様にして最終直径2インチの耐衝撃グレードPLLA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0054】
(実施例7)
実施例1において、被覆材料として、PGA/エラストマー1の重量比で90/10の混合物の代わりに、PGAと実施例4で用いたGFと実施例1で用いたエラストマー1との、重量比で66/30/4の混合物(ノッチ付きアイゾット衝撃強度:68J/m)を用いる以外は、実施例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチのGFおよびエラストマー配合PGA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0055】
(実施例8)
芯体製造例1により得られた直径1.5インチのPGA積層芯体を内側芯体として用いて、更にPGAのインサート成形を行い、厚さ0.25インチのPGA製外側芯体を有する、直径2.0インチの積層芯体を得、これを直径1.5インチのPGA製積層ボール芯体1の代わりにインサートとして用い、さらに実施例2で用いた耐衝撃グレードPLLA2を用いる以外は、実施例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2.5インチの耐衝撃性PLLA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、被覆材料として、PGA/エラストマー1の重量比で90/10の混合物の代わりに、PGAを単独で用いる以外は、実施例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチのPGA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、被覆材料として、PGA/エラストマー1の重量比で90/10の混合物の代わりに、芯体製造例2で用いた通常グレードPLLA1(ノッチ付きアイゾット衝撃強度:16J/m)を被覆層形成材として用いる以外は、実施例1と同様にしてインサート射出成型を行うことにより、最終直径2インチの通常グレードPLLA製被覆層付きフラックボールを製造した。
【0058】
このようにして得られた耐衝撃性改善被覆層を有する実施例1〜8の被覆フラックボールは、いずれも上述した各3回のローディングテストで、1回もクラックを生ずることはなかった、これに対し、剛性の高いPGAを主成分とする被覆層を有する比較例1〜2のフラックボールはローディングテストにおいて3回中少なくとも1回のクラックを生じた。
【0059】
上記実施例、比較例の概要をまとめて、次表1に示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0060】
上述したように本発明によれば、炭化水素資源の回収汎用される水圧破砕法(hydraulic fracturing)に使用するに適した大径で且つフラクチャリング後の分解性を維持しつつ、高流速ローディングに耐える耐衝撃性のボールシーラー、ならびにその効率的な製造方法、及びこれを用いる坑井の処理方法(フラクチャリング法)が提供される。
図1
図2
図3
図4