特許第5955553号(P5955553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5955553-アルコール飲料及びその製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955553
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】アルコール飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/00 20060101AFI20160707BHJP
   C12C 11/02 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C12G3/00
   C12C11/02
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-288658(P2011-288658)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-135635(P2013-135635A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平澤 亮一
(72)【発明者】
【氏名】小杉 隆之
(72)【発明者】
【氏名】蛸井 潔
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 向井伸彦,各種醸造用酵母によるビール醸造の可能性,日本造醸造協会誌,2002年 2月15日,Vol. 97, No. 2,pp. 99-105,p. 101、第3表、第1図参照
【文献】 中山繁喜,他,ワイン酵母を用いたビール製造,岩手県工業技術センター研究報告,1999年 8月,第6号,第163、164頁,全文
【文献】 蛸井潔,他,ビール醸造におけるテルペンアルコール代謝の意義−Citraホップの香気特性の解析−,日本味と匂学会誌,2009年12月,Vol. 16, No. 3,pp. 641-644,全文
【文献】 蛸井潔,他,ビール中の香気成分間の相互作用の解析,日本味と匂学会誌,2010年12月,Vol. 17, No. 3,pp. 503-506,全文
【文献】 蛸井潔,他,Nelson Sauvinホップの新規な香気成分の同定,日本味と匂学会誌,2007年12月,Vol. 14, No. 3,pp. 463-466,全文
【文献】 蛸井潔,他,Nelson Sauvinホップの新規香気成分とその相互作用による香気のエンハンス,日本味と匂学会誌,2008年12月,Vol. 15, No. 3,pp. 579-582,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
CiNii
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源及び窒素源を含む原料を使用して発酵前液を調製し、前記発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行い、アルコール飲料を製造する方法であって、
前記原料は、乾燥重量あたりのゲラニオール含有量が10.0μg/g以上であるホップを含み、
前記酵母としてワイン酵母のみを使用し、アルコール含有量が1〜8体積%であり、ゲラニオール含有量に対するβ−シトロネロール含有量の比率が0.8〜1.2であって、前記ゲラニオール含有量と前記β−シトロネロール含有量との合計が10.0μg/L以上である前記アルコール飲料を製造する
ことを特徴とするアルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記ホップは、ネルソン種ホップ及び/又はシトラ種ホップである
ことを特徴とする請求項1に記載されたアルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記原料は、前記原料あたり10重量%以上、50重量%未満の麦芽を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載されたアルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料及びその製造方法に関し、特に、ワイン酵母を使用したアルコール飲料の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1には、高濃度のアルコールに耐える酵母としてワイン酵母を使用してアルコール発酵を行い、さらに使用済みウイスキー又はワインたる内での熟成を行って、アルコール含有量が比較的高いビールを製造することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、工業用酵母とスパーリングワイン酵母又はシャンパン酵母とを共存させたアルコール発酵を行うことが記載されている。特許文献3には、下面ビール酵母と、当該下面ビール酵母以外の醸造用酵母とを含む複数種の酵母を使用してアルコール発酵を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−236467号公報
【特許文献2】欧州特許第1520006号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/084618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、本発明の発明者らは、従来にない香味を有するアルコール飲料の製造について、独自の視点で鋭意検討を重ねてきた。
【0006】
本発明は、発明者らによる検討により得られた独自の知見に基づいて為されたものであり、従来にない香味を有するアルコール飲料及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るアルコール飲料の製造方法は、炭素源及び窒素源を含む原料を使用して発酵前液を調製し、前記発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行い、アルコール飲料を製造する方法であって、前記酵母としてワイン酵母のみを使用し、アルコール含有量が1〜8体積%の前記アルコール飲料を製造することを特徴とする。本発明によれば、従来にない香味を有するアルコール飲料の製造方法を提供することができる。
【0008】
また、前記方法において、ゲラニオール含有量に対するβ−シトロネロール含有量の比率が0.8〜1.2であって、前記ゲラニオール含有量と前記β−シトロネロール含有量との合計が10.0μg/L以上である前記アルコール飲料を製造することとしてもよい。
【0009】
また、前記方法において、前記原料は、乾燥重量あたりのゲラニオール含有量が10.0μg/g以上であるホップを含むこととしてもよい。また、前記方法において、前記原料は、ネルソン種ホップ及び/又はシトラ種ホップを含むこととしてもよい。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るアルコール飲料は、上記いずれかにの方法により製造され、アルコール含有量が1〜8体積%であることを特徴とする。本発明によれば、従来にない香味を有するアルコール飲料を提供することができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係るアルコール飲料は、アルコール含有量が1〜8体積%であり、ゲラニオール含有量に対するβ−シトロネロール含有量の比率が0.8〜1.2であり、前記ゲラニオール含有量と前記β−シトロネロール含有量との合計が10.0μg/L以上であることを特徴とする。本発明によれば、従来にない香味を有するアルコール飲料を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来にない香味を有するアルコール飲料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る実施例において、アルコール飲料のゲラニオール含有量及びβ−シトロネロール含有量を測定した結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0015】
本実施形態に係るアルコール飲料の製造方法(以下、「本方法」という。)は、炭素源及び窒素源を含む原料を使用して発酵前液を調製し、当該発酵前液に酵母を添加してアルコール発酵を行い、アルコール飲料を製造する方法であって、当該酵母としてワイン酵母のみを使用し、アルコール含有量が1〜8体積%の当該アルコール飲料を製造する方法である。
【0016】
原料に含まれる炭素源及び窒素源は、酵母が資化可能なものであれば特に限られない。すなわち、炭素源は、例えば、酵母が資化可能な糖類である。また、窒素源は、例えば、酵母が資化可能なアミノ酸及び/又はペプチドである。
【0017】
原料は、ホップを含むこととしてもよい。すなわち、原料は、例えば、乾燥重量あたりのゲラニオール(Geraniol)含有量が10.0μg/g以上であるホップを含むこととしてもよい。ゲラニオールを豊富に含むホップを使用することにより、当該ホップの使用とワイン酵母の使用との相乗効果により、アルコール飲料に対し、柑橘系のフレーバーを含む好ましい香味を効果的に付与することができる。
【0018】
また、原料は、ネルソン種ホップ及び/又はシトラ種ホップを含むこととしてもよい。この場合もまた、ネルソン種ホップ及び/又はシトラ種ホップの使用とワイン酵母の使用との相乗効果により、アルコール飲料に対し、柑橘系のフレーバーを含む好ましい香味を効果的に付与することができる。さらに、ネルソン種ホップ及び/又はシトラ種ホップは、乾燥重量あたりのゲラニオール含有量が10.0μg/g以上であることとしてもよい。
【0019】
使用するホップの形態は特に限られず、保存や輸送等の目的に応じて適切に加工された任意の形態のものを使用することができる。すなわち、例えば、乾燥させたホップの球果を圧縮して得られるプレスホップ、乾燥させたホップの球果を粉砕して得られるホップパウダー、当該ホップパウダーをペレット状に圧縮成形して得られるホップペレットを使用することができる。
【0020】
原料は、麦芽を含むこととしてもよい。この場合、原料に含まれる炭素源及び窒素源の一部又は全部として、麦芽に含まれる炭素源及び窒素源を使用することとなる。麦芽としては、大麦麦芽及び/又は小麦麦芽を好ましく使用することができる。大麦麦芽及び小麦麦芽は、それぞれ大麦及び小麦を発芽させることにより得られる。
【0021】
原料が麦芽を含む場合、当該原料あたりの麦芽の比率は特に限られないが、例えば、5〜90重量%であることとしてもよく、10重量%以上、50重量%未満であることが好ましい。原料あたりの麦芽の比率が10重量%以上、50重量%未満である場合には、例えば、ワイン酵母によるアルコール発酵において、好ましくない香味成分(例えば、4−Vinylguaiacol)の生成を効果的に抑制することができる。
【0022】
発酵前液は、炭素源及び窒素源を含む原料と水(好ましくは湯)とを混合することにより調製する。原料がホップを含む場合には、例えば、まず、当該ホップ以外の原料の全部又は一部と水とを混合し、次いで、得られた混合液に当該ホップを添加し、さらに煮沸することにより、発酵前液を調製することとしてもよい。
【0023】
原料が麦芽を含む場合には、例えば、当該麦芽と水とを混合し、糖化を行うことにより、発酵前液を調製することとしてもよい。糖化は、例えば、麦芽と水とを混合して得られた混合液を、当該麦芽に含まれる消化酵素(例えば、デンプン分解酵素、タンパク質分解酵素)が働く温度(例えば、30〜80℃)に維持することにより行う。
【0024】
アルコール発酵は、上述のようにして調製された発酵前液に、酵母としてワイン酵母のみを添加することにより開始する。そして、ワイン酵母を含む発酵液を所定の温度(例えば、0〜40℃)で所定の時間(例えば、1〜14日)保持することによりアルコール発酵を行う。
【0025】
ワイン酵母は、ワイン、スパークリングワイン、シャンパン、その他あらゆるワインの製造において醸造に使用される酵母であれば特に限られない。すなわち、本発明において、ワイン酵母は、いわゆるワイン発酵用酵母のみならず、例えば、いわゆるスパークリングワイン発酵用酵母又はシャンパン発酵用酵母であることとしてもよい。
【0026】
ワイン酵母は、例えば、ブドウ、マスト(must)又はワインから単離された酵母であることとしてもよい。また、ワイン酵母は、例えば、ハイブリダイゼーション又は遺伝子操作により作出されたものであることとしてもよい。
【0027】
具体的に、ワイン酵母としては、例えば、CROSS EVOLUTION(商標)(Lallemand社)、AMH(商標)(Lallemand社)、BDX(Lallemand社)、BGY(Lallemand社)、CSM(Lallemand社)、ICV D47(Lallemand社)、M1(Lallemand社)、M2(Lallemand社)、RP15(Lallemand社)、SIMI WHITE(Lallemand社)、SYRAH(Lallemand社)、T306(Lallemand社)、71B(Lallemand社)、BA11(Lallemand社)、BM45(Lallemand社)、BM4X4(Lallemand社)、BRL97(Lallemand社)、CLOS(Lallemand社)、CY3079 Bourgogne Blanc(Lallemand社)、DV10(Lallemand社)、EC1118(商標) Prise de Mousse(Lallemand社)、ICV−D21(Lallemand社)、ICV−D80(Lallemand社)、ICV−D254(Lallemand社)、ICV−GRE(Lallemand社)、ICV−Opale(Lallemand社)、QA23(Lallemand社)、R2(Lallemand社)、RA17(Lallemand社)、RC212 Bourgogne Rouge(Lallemand社)、Rhone 2056(Lallemand社)、L2226(Lallemand社)、Rhone 4600(Lallemand社)、R−HST(Lallemand社)、T73(Lallemand社)、V1116(K1)(Lallemand社)、W15(Lallemand社)、L2323(Lallemand社)、43(Lallemand社)、GHM(Lallemand社)、SVG(Lallemand社)、VRB(Lallemand社)、CM(Lallemand社)、BC(Lallemand社)、CEG(Lallemand社)、CS2(Lallemand社)、228(Lallemand社)、Level2TD(Lallemand社)、AWRI 796(AB Mauri社)、AWRI 350(AB Mauri社)、AWRI R2(AB Mauri社)、BP 725(AB Mauri社)、Cru−Blanc(AB Mauri社)、Elagance(AB Mauri社)、EP2(AB Mauri社)、Maurivin B(AB Mauri社)、Maurivin PDM(AB Mauri社)、Primeur(AB Mauri社)、Sauvignon L3(AB Mauri社)、UCD 522(AB Mauri社)、ブドウ酒用 きょうかい1号(日本醸造協会)、ブドウ酒用 きょうかい3号(日本醸造協会)及びブドウ酒用 きょうかい4号(日本醸造協会)からなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよい。
【0028】
発酵開始時の発酵液におけるワイン酵母数は適宜調節することができ、例えば、1×10cells/mL〜3×10cells/mLの範囲内であることとしてもよく、1×10cells/mL〜3×10cells/mLの範囲内であることが好ましい。
【0029】
本方法においては、アルコール発酵に続いて、さらに熟成を行うこととしてもよい。熟成は、アルコール発酵後の発酵液をさらに所定の温度で所定の時間だけ維持することにより行う。この熟成により、発酵液中の不溶物を沈殿させて濁りを取り除き、香味を向上させることができる。
【0030】
本実施形態に係るアルコール飲料(以下、「本飲料」という。)は、上述した本方法により好ましく製造される。すなわち、本飲料は、例えば、本方法により製造され、アルコール含有量が1〜8体積%のアルコール飲料である。
【0031】
また、本飲料は、アルコール含有量が1〜8体積%であり、ゲラニオール含有量に対するβ−シトロネロール(Citronellol)含有量の比率(以下、「C/G比率」という。)が0.8〜1.2であり、当該ゲラニオール含有量と当該β−シトロネロール含有量との合計(以下、「GC合計量」という。)が10.0μg/L以上であることとしてもよい。
【0032】
ここで、本発明の発明者らは、従来にない香味を実現するために、独自の視点で鋭意検討を重ねた結果、アルコール飲料のC/G比率が0.8〜1.2であり、且つそのGC合計量が10.0μg/L以上であることにより、当該アルコール飲料は、好ましい柑橘系のフレーバーを含む従来にない香味を有することを見出した。
【0033】
この従来にない香味は、特に、上述した特定のホップを使用して調製された発酵前液に、酵母としてワイン酵母のみを添加してアルコール発酵を行うことにより、効果的に達成される。
【0034】
特定のホップとしては、上述のとおり、乾燥重量あたりのゲラニオール含有量が10.0μg/g以上であるホップを使用することとしてもよく、ネルソン種ホップ及び/又はシトラ種ホップを使用することとしてもよい。なお、ホップにはβ−シトロネロールの前駆化合物が含まれており、酵母が当該前駆化合物を代謝することによりβ−シトロネロールが生成される。
【0035】
なお、本飲料のC/G比率は、0.9〜1.2であることとしてもよく、0.9〜1.1であることとしてもよい。
【0036】
本飲料は、発泡性アルコール飲料であることとしてもよい。発泡性アルコール飲料は、泡立ち特性及び泡持ち特性を含む泡特性を有するアルコール飲料である。すなわち、発泡性アルコール飲料は、例えば、炭酸ガスを含有する飲料であって、グラス等の容器に注いだ際に液面上部に泡の層が形成される泡立ち特性と、その形成された泡が一定時間以上保たれる泡持ち特性とを有するアルコール飲料である。
【0037】
具体的に、発泡性アルコール飲料は、例えば、ビール又は発泡酒(ビールに比べて少ない量の麦芽を使用して製造される発泡性アルコール飲料)であることとしてもよい。また、発泡性アルコール飲料は、例えば、ビール又は発泡酒と、蒸留酒等の他のアルコール飲料とを混合して得られる発泡性アルコール飲料であることとしてもよい。
【0038】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0039】
[アルコール飲料の製造]
大麦麦芽及びホップを含む原料を使用した。原料あたりの大麦麦芽の重量比率は40重量%であった。ホップとしては、ネルソン種ホップであるNelson Sauvinホップ(実施例1)又はシトラ種ホップであるCitraホップ(実施例2)を使用した。
【0040】
Nelson Sauvinホップの乾燥重量あたりのゲラニオール含有量は18.3(μg/g−乾燥ホップ)であり、Citraホップの乾燥重量あたりのゲラニオール含有量は52.4(μg/g−乾燥ホップ)であった。ホップのゲラニオール含有量は、公知の文献(KIYOSHI TAKOI et al., Biotransformation of Hop-Derived Monoterpene Alcohols by Lager Yeast and Their Contribution to the Flavor of Hopped BeerJ. Agric. Food Chem. 2010, 58, 5050-5058)に記載の方法により測定した。
【0041】
具体的に、まず、粉砕した大麦麦芽に50℃の湯を加え、得られた混合液を65℃で維持することにより、糖化を行った。糖化後の混合液から大麦麦芽の穀皮を除去し、Nelson Sauvinホップ又はCitraホップを添加し、煮沸を行った。煮沸後の混合液を冷却して、使用されたホップの種類が異なる2種類の発酵前液を得た。
【0042】
次に、上発酵前液に、酵母としてワイン酵母のみを添加してアルコール発酵を行った。ワイン酵母としては、EC−1118を使用した。アルコール発酵後、さらに貯酒を行った。そして、最終的に、アルコール含有量が5体積%であり、使用されたホップの種類が異なる2種類の発泡性アルコール飲料を得た。
【0043】
また、比較例1として、ホップとしてネルソン種及びシトラ種以外の種類のホップであるHHTホップを使用し、且つ酵母として下面発酵ビール酵母のみを使用した以外は上述の実施例1、2と同様にして、アルコール含有量が5体積%である発泡性アルコール飲料を製造した。なお、HHTホップの乾燥重量あたりのゲラニオール含有量は6.3(μg/g−乾燥ホップ)であった。
【0044】
また、比較例2として、酵母として下面発酵ビール酵母のみを使用した以外は上述の実施例2と同様にして、アルコール含有量が5体積%である発泡性アルコール飲料を製造した。また、比較例3として、ホップとしてHHTホップを使用した以外は上述の実施例1、2と同様にして、アルコール含有量が5体積%である発泡性アルコール飲料を製造した。
【0045】
そして、上述のようにして製造された5種類の発泡性アルコール飲料の各々について、ゲラニオール含有量及びβ−シトロネロール含有量の測定と、熟練したパネラー8人による官能検査とを行った。発泡性アルコール飲料のゲラニオール含有量及びβ−シトロネロール含有量は、公知の文献(KIYOSHI TAKOI et al., J. Agric. Food Chem. 2010, 58, 5050-5058及びKiyoshi Takoi et al., J. Inst. Brew. 116(3), 251-260, 2010)に記載の方法により測定した。
【0046】
[結果]
図1には、実施例1,2及び比較例1〜3において使用された酵母の種類及びホップの種類と、ゲラニオール含有量及びβ−シトロネロール含有量を測定した結果とを示す。
【0047】
図1に示すように、実施例1においては、C/G比率が0.94であり、GC合計量が18.4μg/Lであった。また、実施例2においては、C/G比率が1.01であり、GC合計量が33.0μg/Lであった。
【0048】
そして、官能検査において、実施例1、2で製造された発泡性アルコール飲料は、いずれも好ましい柑橘系のフレーバーを含む従来にない香味を有し、フルーティーな香りと、まろやかな甘味とを兼ね備え、総合的にバランスのよい香味を有していると評価された。
【0049】
一方、比較例1及び比較例2においては、G/C比率がそれぞれ1.49及び1.87であり、実施例1、2のそれに比べて顕著に大きかった。また、比較例1及び比較例3においては、GC合計量がそれぞれ8.4μg/L及び9.1μg/Lであり、実施例1、2のそれに比べて小さかった。
【0050】
そして、官能検査において、比較例1〜3で製造された発泡性アルコール飲料は、柑橘系のフレーバー、フルーティーな香り及び甘味のうち1つ以上が弱く、総合的に香味のバランスが悪いと評価された。
【0051】
このように、実施例1、2に係る発泡性アルコール飲料は、好ましい柑橘系のフレーバーを含む従来にない優れた香味を有することが確認された。そして、これら実施例1、2に係る発泡性アルコール飲料に特有の香味は、例えば、そのC/G比率が0.8〜1.2であり、且つGC合計量が10.0μg/L以上であることにより達成されるものと考えられた。
【0052】
なお、結果を図示しない他の試験において、原料あたりの大麦麦芽の重量比率を70重量%としたこと以外は上述の実施例1、2と同様にして発泡性アルコール飲料を製造したところ、当該発泡性アルコール飲料は、上述の実施例1、2で製造した発泡性アルコール飲料に比べて、好ましくない香味が強いという官能検査結果が得られた。この好ましくない香味は、例えば、発泡性アルコール飲料における4−Vinylguaiacolの含有量が比較的大きいことに起因するものと考えられた。
図1