(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
予め設定された変速特性に従って自動的に変速する自動変速モードと、運転者の変速操作に応じて変速する手動変速モードとを含む複数の変速モードを選択的に切り換え可能な自動変速機の変速制御装置であって、
エンジンが所定の回転数を超えて過回転しているか否かを判定する判定手段と、
前記エンジンにダメージが生じる可能性の有無を判定するための指標値を取得する取得手段と、
前記判定手段により前記エンジンが過回転していると判定された場合に、選択されている前記変速モード、及び前記取得手段により取得された前記指標値に基づいて、前記エンジンが過回転していると判定されてから自動的にアップシフトを行うまでの遅延時間を設定する設定手段と、
前記設定手段により設定された遅延時間が経過したときに自動的にアップシフトを行う変速制御手段と、を備え、
前記取得手段は、前記指標値として用いられる前記エンジンの潤滑油温度を検出する油温センサであり、
前記設定手段は、前記エンジンの潤滑油温度が所定値以上である場合、又は、前記手動変速モード以外の変速モードが選択されている場合に、前記遅延時間をゼロに設定し、前記エンジンの潤滑油温度が前記所定値よりも低く、かつ、前記手動変速モードが選択されている場合に、前記エンジンの潤滑油温度が低くなるほど前記遅延時間が長くなるように、前記遅延時間を設定することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
前記判定手段は、自動変速機の出力軸回転数が、該自動変速機のギア比毎に、該ギア比と対応して設定されている過回転防止回転数を超えているか否かを判定することにより、前記エンジンが過回転しているか否かを判定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した自動シフトアップモードでは、運転者により手動変速モードが選択されていても、エンジンが過回転しないように自動的にアップシフトされるため、例えば、コーナーリング中にアップシフトするような状況においては、運転者に違和感を与えるおそれがある。より具体的には、例えば屈曲路を積極的に走行しているような場面で、コーナーリング中にエンジンの回転数が上限回転数に達し、アップシフトが行われると、駆動力の急激な変化が生じてしまう。このような状況では、運転者がコーナーを抜けるまでは同じギア比(ギア段)で走行したいと思っていたとしても、その意思に反して自動的にアップシフトが行われ、駆動力が変化するため、運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0007】
一方、自動シフトアップ禁止モードでは、運転者の意思にかかわらず自動的にアップシフトすることがないため、より運転者の意思に沿った変速が可能となる。しかしながら、自動シフトアップ禁止モードでは、エンジンが過回転の状態になったとしてもアップシフトが行われないため、エンジンの回転数が上限回転数付近で保持される。より詳細には、エンジン回転数が予め設定されている上限回転数に達した場合にはエンジン側で燃料の供給が停止(フューエルカット)されるが、自動変速機側でアップシフトが行われないため、エンジン回転数が若干下がったところで燃料供給が再開されてエンジン回転数が再び上昇する。そして、燃料供給の停止及び復帰が繰り返され、エンジンの回転数は上限回転数付近で保持される。
【0008】
手動変速モードで積極的に走行しているときに、例えばエンジンが高温になっている状態で、エンジン回転数が上限回転数付近で保持されると、エンジンにとって非常に厳しい運転状態となる。このような運転状態が長時間にわたって続くと、エンジンの信頼性・耐久性に悪影響を与えるおそれ、すなわち、エンジンにダメージを与えるおそれが生じ得る。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、エンジンにダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能な自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、予め設定された変速特性に従って自動的に変速する自動変速モードと、運転者の変速操作に応じて変速する手動変速モードとを含む複数の変速モードを選択的に切り換え可能な自動変速機の変速制御装置であって、エンジンが所定の回転数を超えて過回転しているか否かを判定する判定手段と、エンジンにダメージが生じる可能性の有無を判定するための指標値を取得する取得手段と、判定手段によりエンジンが過回転していると判定された場合に、選択されている変速モード、及び取得手段により取得された指標値に基づいて、エンジンが過回転していると判定されてから自動的にアップシフトを行うまでの遅延時間を設定する設定手段と、設定手段により設定された遅延時間が経過したときに自動的にアップシフトを行う変速制御手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置によれば、エンジンが過回転していると判定されたときに、選択されている変速モード及びエンジンにダメージが生じる可能性の有無を判定するための指標値に基づいて遅延時間が設定され、該遅延時間経過後にアップシフトが実行される。そのため、例えば、自動変速モードが選択されているときには、遅延時間をゼロ又は短時間に設定し、手動変速モードが選択されているときには、遅延時間を可能な範囲で(すなわちエンジンにダメージを与えない範囲で)長く設定することができる。よって、エンジンが過回転していると判定されたときに、運転者が通常の走行を望んでいる自動変速モードでは遅滞なくアップシフトを行い、運転者が積極的な走行を望んでいる手動変速モードでは、エンジンにダメージを与えない範囲でアップシフトを禁止するとともに、エンジンにダメージを与える可能性が生じると推測されるときにはアップシフトを実行するように制御することができる。その結果、エンジンにダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能となる。
【0012】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、運転者による、自動変速モードと手動変速モードとを選択的に切り換える操作を受付けるモード選択手段と、運転者による変速操作を受付ける変速操作手段とを備え、上記複数の変速モードは、モード選択手段により自動変速モードが選択されている状態において、変速操作手段により運転者による変速操作が受付けられた場合に、一時的に手動変速モードに切り換わる、一時的手動変速モードをさらに含むことが好ましい。
【0013】
例えば、自動変速モードで走行しているときに前車との車間距離が縮まった場合等、一時的にダウンシフトしてエンジンブレーキを増したい場合がある。このような場合に、変速操作手段を操作して、一時的に手動で変速ができる一時的手動変速モードに移行可能な構成とすることにより、運転者の使い勝手を向上することができる。本発明に係る自動変速機の変速制御装置によれば、自動変速モード及び手動変速モードに加えて、一時的手動変速モードにおいても、エンジンが過回転していると判定されたときに、変速モード及び指標値に基づいて遅延時間が設定され、該遅延時間経過後にアップシフトが実行される。そのため、一時的手動変速モードにおいても、エンジンにダメージを与えることなく、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能となる。
【0014】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、取得手段が、上記指標値として用いられるエンジンの潤滑油温度を検出する油温センサであり、設定手段が、エンジンの潤滑油温度が所定値以上である場合、又は、手動変速モード以外の変速モードが選択されている場合に、遅延時間をゼロに設定し、エンジンの潤滑油温度が所定値よりも低く、かつ、手動変速モードが選択されている場合に、エンジンの潤滑油温度が低くなるほど遅延時間が長くなるように、遅延時間を設定することが好ましい。
【0015】
エンジンが高回転で回っている場合、エンジンの温度が高いほど、エンジンには厳しい環境となる。この場合、上記指標値として、エンジン温度と高い相関を有する潤滑油温度を採用することにより、的確に、エンジンにダメージが生じる可能性の有無を判定することができる。また、この場合、エンジンが過回転していると判定されたときに、手動変速モードでは、エンジンの潤滑油温度が所定値よりも低い場合に、エンジンの潤滑油温度が低くなるほど遅延時間が長くなるように設定される。また、エンジンの潤滑油の温度が上記所定値以上のときには、遅延時間がゼロに設定される。そのため、潤滑油の温度が所定値以上に高く、エンジンに厳しい運転状態(すなわち高回転が続くとエンジンにダメージを与えるおそれがある運転状態)では、遅延時間をゼロに設定して遅滞なくアップシフトを実行することができる。一方、潤滑油の温度が上記所定値よりも低い温度領域では、潤滑油の温度に応じて(すなわちエンジンに対する厳しさに応じて)、高回転が続いてもエンジンにダメージを与えない範囲で、可能な限り長く遅延時間を設定してアップシフトを遅らせることができる。よって、エンジンにダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能となる。
【0016】
また、エンジン回転数が上限回転数を超えることなく、自動的にアップシフトされることが望まれている手動変速モード以外の変速モードでは、潤滑油の温度にかかわらず、遅延時間がゼロに設定され、エンジンが過回転していると判断されたときに、遅滞なくアップシフトが実行される。よって、手動変速モード以外の変速モードを選択している運転者の意思に沿った変速を行うことができる。
【0017】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、取得手段が、上記指標値として用いられるエンジンの潤滑油温度を検出する油温センサであり、設定手段が、エンジンの潤滑油温度が所定値以上である場合、又は、手動変速モード以外の変速モードが選択されている場合に、遅延時間をゼロに設定し、エンジンの潤滑油温度が所定値よりも低く、かつ、手動変速モードが選択されている場合に、遅延時間を最大限許容可能な時間に設定することが好ましい。
【0018】
上述したように、エンジンが高回転で回っている場合、エンジンの温度(潤滑油の温度)が高いほど、エンジンには厳しい環境となる。この場合、エンジンが過回転していると判定されたときに、手動変速モードでは、エンジンの潤滑油の温度が所定値よりも低い場合に、遅延時間が最大限許容可能な時間に設定される。また、エンジンの潤滑油の温度が上記所定値以上のときには、遅延時間がゼロに設定される。そのため、潤滑油の温度が所定値以上に高く、エンジンに厳しい運転状態では、遅延時間をゼロに設定して遅滞なくアップシフトを実行することができる。一方、潤滑油の温度が上記所定値よりも低い温度領域では、高回転が続いてもエンジンにダメージを与えない最大限許容可能な時間を遅延時間として設定して、できる限りアップシフトを遅らせることができる。よって、エンジンにダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能となる。
【0019】
また、手動変速モード以外の変速モードでは、潤滑油の温度にかかわらず、遅延時間がゼロに設定され、エンジンが過回転していると判断されたときに、遅滞なくアップシフトが実行される。よって、手動変速モード以外の変速モードを選択している運転者の意思に沿った変速を行うことができる。
【0020】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置では、判定手段が、自動変速機の出力軸回転数が、該自動変速機のギア比毎に、該ギア比と対応して設定されている過回転防止回転数を超えているか否かを判定することにより、エンジンが過回転しているか否かを判定することが好ましい。
【0021】
この場合、過回転防止回転数がギア比に対応して予め設定されており、自動変速機の出力軸回転数が当該過回転防止回転数を超えているか否かによって、エンジンが所定の回転数を超えて過回転しているか否かが判定される。よって、エンジンが過回転しているか否かを自動変速機側でリアルタイムに判定することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エンジンにダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0025】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る自動変速機の変速制御装置1の構成について説明する。
図1は、自動変速機の変速制御装置1が適用されたパワーユニットの構成を示すブロック図である。
【0026】
パワーユニットを構成するエンジン10は、例えば、水平対向型の4気筒ガソリンエンジンなどである。エンジン10のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサ11が取り付けられている。クランク角センサ11としては、例えば電磁ピックアップ式のものなどが用いられる。
【0027】
また、エンジン10には、該エンジン10の潤滑油(エンジンオイル)の温度(以下、単に「油温」ともいう)Toを検出するための油温センサ12が取り付けられている。油温センサ12としては、例えばサーミスターなどが用いられる。油温センサ12により検出された油温Toは、後述するトランスミッション制御装置(以下「TCU」ともいう)50において、エンジン10にダメージが生じる可能性の有無を判定するための指標値として用いられる。すなわち、油温センサ12は、特許請求の範囲に記載の取得手段として機能する。クランク角センサ11及び油温センサ12等は、エンジン制御装置(以下「ECU」ともいう)40に接続されている。
【0028】
ECU40は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。ECU40には、上述したクランク角センサ11や油温センサ12に加えて、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダル開度センサ13、及びエンジン10の吸入空気量を検出するエアフローメータ等の各種センサが接続されている。
【0029】
ECU40では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、エンジン回転数Ne、吸入空気量、アクセルペダル開度、及び油温To等の各種情報が取得される。そして、ECU40は、取得した吸入空気量やエンジン回転数Ne等の各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、及び各種デバイス等を制御することによりエンジン10を総合的に制御する。また、ECU40は、エンジン10の回転数Neが上限回転数(レブリミット)を超えた場合等、所定の条件が満足された場合にエンジン10に対する燃料供給を停止(以下「フューエルカット」ともいう)する。
【0030】
ECU40は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車内通信回線45を通してTCU50と通信可能に接続されている。ECU40で取得されたエンジン10の油温To、回転数Ne、及びアクセルペダル開度等は、この車内通信回線45を介してTCU50に送信される。
【0031】
エンジン10の出力軸には、エンジン10からの駆動力を変換して出力する自動変速機20が接続されている。自動変速機20は、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ、及び、変速ギア列と油圧機構を含むトランスミッション部を有して構成され、油圧機構により自動変速可能に構成された有段自動変速機である。なお、自動変速機20としては、例えば、チェーン式等の無段変速機(CVT)等を用いることもできる。エンジン10から入力された駆動力は、自動変速機20で変換された後、自動変速機20の出力軸からディファレンシャルギヤ、ドライブシャフト等(図示省略)を介して車両の駆動輪に伝達される。
【0032】
自動変速機20の出力軸近傍には、該出力軸の回転数を検出するための出力軸回転センサ21が取り付けられている。また、自動変速機20には、シフトレバー(セレクトレバー)30と連動して動くように接続され、該シフトレバー30の選択位置を検出するレンジスイッチ22が取り付けられている。出力軸回転センサ21及びレンジスイッチ22等は、TCU50に接続されている。
【0033】
車両のフロア(センターコンソール)等には、運転者による、自動変速モード(「D」レンジ)と手動変速モード(「M」レンジ)とを択一的に切り換える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)30が設けられている。シフトレバー30の選択位置は、上述したレンジスイッチ22により検出される。シフトレバー30は、特許請求の範囲に記載のモード選択手段として機能する。なお、シフトレバー30では、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り換えることができる。
【0034】
シフトレバー30には、該シフトレバー30が「M」レンジ側に位置するとき、すなわち手動変速モードが選択されたときにオンになり、シフトレバー30が「D」レンジ側に位置するとき、すなわち自動変速モードが選択されたときにオフになるMレンジスイッチ31が組み込まれている。
【0035】
ステアリングホイールの後側には、運転者による変速操作(変速要求)を受付けるための+パドルスイッチ32及び−パドルスイッチ33が設けられている。+パドルスイッチ32は手動でアップシフトする際に用いられ、−パドルスイッチ33は手動でダウンシフトする際に用いられる。+パドルスイッチ32及び−パドルスイッチ33それぞれは、特許請求の範囲に記載の変速操作手段として機能する。なお、パドルスイッチ32,33に代えて、シフトレバーを「M」レンジの中立位置から前後に操作して変速操作を行う構成(シーケンシャルシフト)としてもよい。
【0036】
自動変速機20は、シフトレバー30、及びパドルスイッチ32,33を操作することにより選択的に切り換えることができる3つの変速モード、すなわち、自動変速モード、手動変速モード(以下「マニュアルモード」ともいう)、及び一時的手動変速モード(以下「テンポラリマニュアルモード」ともいう)を備えている。
【0037】
より具体的には、自動変速モードは、シフトレバー30を「D」レンジに操作することにより選択され、予め設定された変速特性に従って自動的に変速するモードである。手動変速モードは、シフトレバー30を「M」レンジに操作することにより選択され、運転者の変速操作(パドルスイッチ32,33の操作)に応じて変速するモードである。また、テンポラリマニュアルモードは、自動変速モードが選択されている状態(すなわち「D」レンジが選択されている状態)において、運転者による変速操作(パドルスイッチ32,33の操作)が受付けられた場合に、所定の解除条件が成立するまで、一時的にマニュアルモードに移行するモードである。
【0038】
自動変速機20の変速制御は、TCU50によって実行される。TCU50には、上述した出力軸回転センサ21、レンジスイッチ22、Mレンジスイッチ31、及びパドルスイッチ32,33等が接続されている。また、TCU50は、車内通信回線45を通して、ECU40から送信されたエンジン10の油温To、回転数Ne、及びアクセルペダル開度等を受信する。TCU50は、取得された出力軸回転数(車速)、アクセルペダル開度、シフトレバー30のシフトポジション(レンジスイッチ22の状態)、Mレンジスイッチの状態、及びパドルスイッチ32,33の操作信号等の各種情報に基づいて、自動変速機20の変速制御を行う。
【0039】
また、TCU50は、エンジン10にダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うために、エンジン10が所定の回転数を超えて過回転しているか否かを判定し、エンジン10が過回転していると判定したときに、選択されている変速モード及びエンジン10の油温Toに基づいて自動的にアップシフト(以下「オートアップシフト」ともいう)を実行する際の遅延時間(以下「ディレイ時間」ともいう)を設定し、該ディレイ時間経過後にオートアップシフトを実行する。
【0040】
そのため、TCU50は、過回転判定部51、ディレイ時間設定部52、及び変速制御部53を機能的に有している。TCU50は、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び入出力I/F等を有して構成されている。TCU50では、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、過回転判定部51、ディレイ時間設定部52、及び変速制御部53の各機能が実現される。
【0041】
過回転判定部51は、エンジン10が所定の回転数(例えば7000rpm)を超えて過回転(オーバーレブ)しているか否かを判定する。より具体的には、TCU50のROM等には、自動変速機20のギア比(ギア段)毎に、該ギア比と対応させて設定された過回転防止回転数が予め記憶されており、過回転判定部51は、自動変速機20の出力軸回転数が、判断時のギア比に対応した過回転防止回転数を超えているか否かを定期的(例えば10ms毎)に判定することにより、エンジン10が過回転しているか否かを判定する。すなわち、過回転判定部51は、特許請求の範囲に記載の判定手段として機能する。過回転判定部51による判定結果は、ディレイ時間設定部52に出力される。
【0042】
ディレイ時間設定部52は、過回転判定部51によりエンジン10が過回転していると判定された場合に、選択されている変速モード、及びエンジン10の油温Toに基づいて、エンジン10が過回転していると判定されてからオートアップシフトを行うまでのディレイ時間を設定する。すなわち、設定部52は、特許請求の範囲に記載の設定手段として機能する。
【0043】
より具体的には、ディレイ時間設定部52は、エンジン10の油温Toが所定値(例えば120℃)以上である場合、及び、自動変速モード又はテンポラリマニュアルモード(すなわちマニュアルモード以外の変速モード)が選択されている場合に、ディレイ時間をゼロに設定する。また、ディレイ時間設定部52は、エンジン10の油温Toが上記所定値よりも低く、かつ、マニュアルモードが選択されている場合に、エンジン10の油温Toが低くなるほどディレイ時間が長くなるように、該ディレイ時間を設定する。
【0044】
ここで、オートアップシフトのディレイ時間の設定の仕方について説明する。TCU50のROMには、マニュアルモード及びテンポラリマニュアルモードそれぞれについて、エンジン10の油温Toとディレイ時間との関係を定めたテーブル(ディレイ時間テーブル)が記憶されており、エンジン10の油温Toに基づいてこのディレイ時間テーブルが検索されることによりオートアップシフトのディレイ時間が設定される。
【0045】
ここで、ディレイ時間テーブルの一例を
図2に示す。
図2において、横軸はエンジン10の油温To(℃)であり、縦軸はオートアップシフトのディレイ時間(秒)である。マニュアルモードのディレイ時間テーブルは、
図2に実線で示されるように、油温Toが40℃以下の領域ではディレイ時間が100秒に設定されており、油温Toが40℃〜120℃の範囲内では油温Toの上昇に伴ってディレイ時間が100秒からゼロ秒に減少するように設定されている。また、油温Toが120℃以上の領域ではディレイ時間がゼロ秒に固定されるように設定されている。
【0046】
一方、テンポラリマニュアルモードのディレイ時間テーブルは、
図2に破線で示されるように、本実施形態では、油温Toにかかわらず、ディレイ時間がゼロ秒に設定されている。なお、ディレイ時間設定部52により設定されたディレイ時間は変速制御部53に出力される。
【0047】
変速制御部53は、エンジン10が過回転を開始してから、ディレイ時間設定部52により設定されたディレイ時間が経過したか否かを判定し、該ディレイ時間が経過したときに、自動変速機20の油圧機構を駆動して、オートアップシフトを行う。すなわち、変速制御部53は、特許請求の範囲に記載の変速制御手段として機能する。
【0048】
ここで、
図3,4,5を参照しつつ、オートアップシフトのタイミングチャートの例について説明する。
図3は、自動変速モード、テンポラリマニュアルモード、又は、マニュアルモードで高油温(例えば120℃以上)の時、すなわち、ディレイ時間がゼロに設定された場合における、オートアップシフトのタイミングチャートである。
図4は、マニュアルモードで平常油温(例えば40℃以上120℃未満)の時、すなわち、ディレイ時間が短時間(例えば数秒)に設定された場合における、オートアップシフトのタイミングチャートである。また、
図5は、マニュアルモードで低油温(例えば40℃未満)の時、すなわち、ディレイ時間が最大値(例えば100秒)に設定された場合における、オートアップシフトのタイミングチャートである。
【0049】
なお、
図3,4,5の横軸は時刻であり、縦軸は、上段から、エンジン回転数Ne(rpm)、自動変速機20の出力軸回転数(rpm)、自動変速機20のギア段(オートアップシフト信号)である。
【0050】
まず、
図3に示されるように、自動変速モード、テンポラリマニュアルモード、又は、マニュアルモードで高油温(例えば120℃以上)の時には、自動変速機20の出力軸回転数が上昇し、時刻t1で過回転防止回転数を超えると、ディレイ時間にゼロ秒が設定される。よって、遅延なくオートアップシフト信号が出力され、油圧機構が駆動されてオートアップシフトが行われる。その結果、エンジン10はオーバーレブすることなく、エンジン回転数Neが低下する。
【0051】
次に、
図4に示されるように、マニュアルモードで、平常油温(例えば40℃以上120℃未満)の時には、自動変速機20の出力軸回転数が上昇し、時刻t1で過回転防止回転数を超えると、ディレイ時間に例えば0〜100秒が油温Toに応じて設定される。よって、ディレイ時間が経過するまで(時刻t1〜t2の間)オートアップシフトが実行されない。なお、この間、エンジン10側ではフューエルカットが断続的に実行され、エンジン回転数Neがレブリミット付近で保持される。そして、ディレイ時間経過したときに(時刻t2)オートアップシフト信号が出力され、油圧機構が駆動されてオートアップシフトが行われる。その結果、エンジン10の回転数Neが低下する
【0052】
続いて、
図5に示されるように、マニュアルモードで、低油温(例えば40℃未満)の時には、自動変速機20の出力軸回転数が上昇し、時刻t1で過回転防止回転数を超えると、ディレイ時間に最大値(例えば100秒)が設定される。よって、設定されたディレイ時間が経過するまでオートアップシフトが実行されない。なお、この間、エンジン10側ではフューエルカットが断続的に実行され、エンジン回転数Neがレブリミット付近で保持される。
【0053】
次に、
図6を参照しつつ、自動変速機の変速制御装置1の動作について説明する。
図6は、自動変速機の変速制御装置1によるオートアップシフト遅延処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU50において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0054】
まず、ステップS100では、予めギア比(ギア段)毎に設定されてROM等に記憶されている過回転防止回転数の中から、判断時のギア比に対応した過回転防止回転数が抽出されるとともに、自動変速機20の出力軸回転数が、抽出された過回転防止回転数以上であるか否か、すなわち、エンジン10が過回転しているか否かについての判断が行われる。
【0055】
ここで、出力軸回転数が過回転防止回転数未満であると判定された場合、すなわちエンジン10が過回転していないと判定された場合には、ステップS102において、出力軸回転数が過回転防止回転数以上になってからの経過時間を計測するためのディレイタイマがクリア(すなわちタイマ値がゼロにセット)された後、本処理から一旦抜ける。一方、出力軸回転数が過回転防止回転数以上であると判定されたときには、ステップS104に処理が移行する(
図3の時刻t1、
図4の時刻t1〜t2、
図5の時刻t1〜参照)。
【0056】
ステップS104では、ディレイタイマの値がインクリメント(1だけ増加)される。次に、ステップS106では、ディレイタイマが、ディレイ時間テーブルから求められたディレイ時間以上になったか否かについての判断が行われる。なお、ディレイ時間テーブルからディレイ時間を求める方法については、上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。ここで、ディレイタイマがディレイ時間未満である場合、すなわちディレイ時間がまだ経過していない場合には、オートアップシフトが実行されることなく、本処理から一旦抜ける(
図4の時刻t1〜t2、
図5の時刻t1〜参照)。一方、ディレイタイマがディレイ時間以上になった場合、すなわちディレイ時間が経過したときには、ステップS108に処理が移行する(
図3の時刻t1、
図4の時刻t2参照)。
【0057】
ステップS108では、TCU50からオートアップシフト信号が出力されて、自動変速機20の油圧機構が駆動され、オートアップシフトが実行される。その後、本処理から抜ける(
図3の時刻t1、
図4の時刻t2参照)。
【0058】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、エンジン10が過回転していると判定されたときに、選択されている変速モード及びエンジン10の油温Toに基づいてディレイ時間が設定され、該ディレイ時間経過後にオートアップシフトが実行される。具体的には、本実施形態によれば、エンジン10が過回転していると判定されたときに、運転者が積極的な走行を望んでいるマニュアルモードでは、エンジン10の油温Toが所定値(例えば120℃)よりも低い場合に、エンジン10の油温Toが低くなるほどディレイ時間が長くなるように設定される。また、エンジン10の油温Toが上記所定値以上のときには、ディレイ時間がゼロ秒に設定される。そのため、油温Toが所定値以上に高く、エンジン10に厳しい運転状態(すなわち高回転が続くとエンジン10にダメージを与えるおそれがある運転状態)では、ディレイ時間をゼロ秒に設定して遅滞なくオートアップシフトを実行することができる。一方、油温Toが上記所定値よりも低い温度領域では、油温Toに応じて(すなわちエンジン10に対する厳しさに応じて)、高回転が続いてもエンジン10にダメージを与えない範囲で、可能な限りディレイ時間を長く設定してオートアップシフトを遅らせることができる。よって、エンジン10にダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能となる。
【0059】
また、エンジン回転数Neが上限回転数を超えることなく自動変速機20がオートアップシフトされることが望まれている自動変速モード及びテンポラリマニュアルモードでは、エンジン10の油温Toにかかわらず、ディレイ時間がゼロ秒に設定され、エンジン10が過回転していると判断されたときに、遅滞なくオートアップシフトが実行される。よって、自動変速モード又はテンポラリマニュアルモードを選択している運転者の意思に沿った変速を行うことができる。
【0060】
以上のように、本実施形態によれば、マニュアルモードとテンポラリマニュアルモードとによって、オートアップシフトのディレイ時間を切り換えることによって、運転者の違和感を無くすことができる。すなわち、マニュアルモード(「M」レンジ)で走行しているときには、エンジン10を保護しつつ、コーナー等で自動的にアップシフトが行われることによる駆動力変化を生じさせることなく走行することが可能になる。一方、テンポラリマニュアルモードでは、自動的にアップシフトを実行することにより、エンジン回転数が高回転で保持されてしまうことによる違和感を無くすことができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、エンジン10にダメージが生じる可能性の有無を判定するための指標値として、エンジン温度と高い相関を有する潤滑油の温度Toを採用しているため、エンジン10にダメージが生じる可能性の有無を的確に判定することができる。よって、エンジン10にダメージを与えてしまうような状況、すなわち信頼性上厳しい運転状態では確実にオートアップシフトを実行するとともに、信頼性に余裕がある運転状態では、可能な限りオートアップシフトを止めることで、運転者の意思に沿った変速を行うことができる。
【0062】
さらに、本実施形態によれば、過回転防止回転数がギア比に応じて予め設定されており、自動変速機20の出力軸回転数が当該過回転防止回転数を超えているか否かによって、エンジン10が所定の回転数を超えて過回転しているか否かが判定される。よって、TCU50で検出している自動変速機20の出力軸回転数を用いて、エンジン10が過回転しているか否かをTCU50側でリアルタイムに判定することができる。
【0063】
上記実施形態では、ディレイ時間を設定する際に、油温Toとディレイ時間との関係を定めたテーブル(ディレイ時間テーブル)を用いたが、このようなテーブルを用いることなくディレイ時間を設定することもできる。続いて、
図7を参照しつつ、テーブルを用いないディレイ時間の設定方法について説明する。ここで、
図7は、自動変速機の変速制御装置1によるディレイ時間設定処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理はTCU50(ディレイ時間設定部52)において所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
【0064】
ステップS200では、エンジン10の油温Toが所定値(例えば120℃)以上であるか否かについての判断が行われる。ここで、油温Toが所定値以上の高温である場合には、ステップS202において、ディレイ時間にゼロ秒が設定された後、本処理から一旦抜ける。一方、油温Toが上記所定値よりも低い場合には、ステップS204に処理が移行する。
【0065】
ステップS204では、自動変速機20の変速モードがマニュアルモード又はテンポラリマニュアルモードであるか否かについての判断が行われる。ここで、変速モードがマニュアルモードでもテンポラリマニュアルモードでもない場合、すなわち自動変速モードである場合には、ステップS206において、ディレイ時間にゼロ秒が設定された後、本処理から一旦抜ける。一方、変速モードがマニュアルモードとテンポラリマニュアルモードのいずれかであるときには、ステップS208に処理が移行する。
【0066】
ステップS208では、変速モードがマニュアルモードであるか否かについての判断が行われる。ここで、変速モードがマニュアルモードでない場合、すなわちテンポラリマニュアルモードである場合には、ステップS210において、ディレイ時間にゼロ秒が設定された後、本処理から一旦抜ける。一方、変速モードがマニュアルモードであるときには、ステップS212に処理が移行する。
【0067】
ステップS212では、ディレイ時間に最大値、すなわち最大限許容可能な時間(例えば100秒)が設定される。その後、本処理から抜ける。
【0068】
このようにして設定されたディレイ時間は、上述したオートアップシフト遅延処理のステップS106において、ディレイタイマと比較されるテーブル検索値に代えて用いることができる。
【0069】
本実施形態によれば、エンジン10が過回転していると判定されたときに、マニュアルモードでは、エンジン10の油温Toが所定値(例えば120℃)よりも低い場合に、ディレイ時間が最大限許容可能な時間(例えば100秒)に設定される。また、エンジン10の油温Toが上記所定値以上のときには、ディレイ時間がゼロ秒に設定される。そのため、油温Toが所定値以上に高く、エンジン10に厳しい運転状態では、ディレイ時間をゼロ秒に設定して遅滞なくオートアップシフトを実行することができる。一方、油温Toが上記所定値よりも低い温度領域では、高回転が続いてもエンジンにダメージを与えない最大限許容可能な時間をディレイ時間として設定して、できる限りオートアップシフトを遅らせることができる。よって、エンジン10にダメージを与えることなく、可能な限り、運転者の意思に沿った変速を行うことが可能となる。
【0070】
また、マニュアルモード以外の変速モード(自動変速モード及びはテンポラリマニュアルモード)では、エンジン10の油温Toにかかわらず、ディレイ時間がゼロ秒に設定され、エンジン10が過回転していると判断されたときに、遅滞なくオートアップシフトが実行される。よって、マニュアルモード以外の変速モード(自動変速モード又はテンポラリマニュアルモード)を選択している運転者の意思に沿った変速を行うことができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、ディレイ時間を設定する際に、テーブルの検索処理(補間計算等を含む)が不要なため、TCU50の処理負荷を軽減し、処理速度を向上させることができる。
【0072】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、エンジンにダメージを与えるか否かを判定するための指標値として油温を用いたが、油温に代えて、又は加えて、例えば、水温、油圧、高回転持続時間の積算値等を用いてもよい。また、エンジンの使用年数(車両の走行距離)等を考慮してディレイ時間を補正する構成としてもよい。
【0073】
また、上記実施形態で示したディレイ時間テーブルは一例であり、油温Toとディレイ時間との関係は任意に設定することができる。また、上記実施形態では、テンポラリマニュアルモードのディレイ時間を油温Toにかかわらずゼロに設定したが、マニュアルモードのディレイ時間を超えない範囲でディレイ(数秒程度)を持たせてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、エンジン10を制御するECU40と、自動変速機20を制御するTCU50とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。