(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるようなキセノンフラッシュランプを使用した熱処理装置においては、極めて高いエネルギーを有するフラッシュ光を瞬間的に半導体ウェハーの表面に照射するため、一瞬で半導体ウェハーの表面温度が急速に上昇する。その結果、半導体ウェハーの表面に急激な熱膨張が生じて変形し、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーがサセプタ上で振動、或いは跳躍する現象が生じていた。そして、半導体ウェハーの振動(或いは、跳躍)に伴うサセプタとの摺動や気流の乱れにより、チャンバー内にパーティクルが発生し、それが半導体ウェハーに付着するという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フラッシュ光照射にともなって基板に付着するパーティクルを低減することができる熱処理装置および熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて基板を保持する保持手段と、前記保持手段に保持された基板を所定の予備加熱温度に加熱する予備加熱手段と、前記保持手段に保持された基板の一方面にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、前記チャンバー内に不活性ガスを供給するガス供給手段と、前記チャンバー内の雰囲気を排気する排気手段と、
前記保持手段に保持された基板を前記予備加熱手段によって予備加熱する前に前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、前記保持手段に保持された基板にフラッシュ光が照射されて前記一方面の温度が最高温度に到達した後に所定の温度にまで降温したときに、前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させる流量制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記流量制御手段は、前記基板の前記一方面の温度が他方面の温度と等しくなったときに、前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記流量制御手段は、前記基板の前記一方面の温度が前記一方面に注入された不純物の拡散および不活性化が生じない温度にまで降温したときに、前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1の発明に係る熱処理装置において、前記流量制御手段は、前記基板の前記一方面の温度が前記予備加熱温度にまで降温したときに、前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記流量制御手段は、前記基板の前記一方面の温度が前記所定の温度にまで降温したときに、前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を前記チャンバーから基板を搬出するときと等しい流量に増加させることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて基板を保持する保持手段と、前記保持手段に保持された基板を所定の予備加熱温度に加熱する予備加熱手段と、前記保持手段に保持された基板の一方面にフラッシュ光を照射するフラッシュランプと、前記チャンバー内に不活性ガスを供給するガス供給手段と、前記チャンバー内の雰囲気を排気する排気手段と、
前記保持手段に保持された基板を前記予備加熱手段によって予備加熱する前に前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、前記保持手段に保持された基板にフラッシュ光が照射されてから前記チャンバーから当該基板が搬出されるまでの間に、前記ガス供給手段から前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加して前記チャンバーから前記基板が搬出されるまで流量を維持する流量制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、チャンバー内に収容した基板を所定の予備加熱温度に加熱する予備加熱工程と、前記予備加熱温度に加熱された前記基板の一方面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ光照射工程と、
前記予備加熱工程の前に前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、前記基板にフラッシュ光が照射されて前記一方面の温度が最高温度に到達した後に所定の温度にまで降温したときに、前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させる流量制御工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項7の発明に係る熱処理方法において、前記流量制御工程では、前記基板の前記一方面の温度が他方面の温度と等しくなったときに、前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させることを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、請求項7の発明に係る熱処理方法において、前記流量制御工程では、前記基板の前記一方面の温度が前記一方面に注入された不純物の拡散および不活性化が生じない温度にまで降温したときに、前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させることを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、請求項7の発明に係る熱処理方法において、前記流量制御工程では、前記基板の前記一方面の温度が前記予備加熱温度にまで降温したときに、前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させることを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、請求項7から請求項10のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記流量制御工程では、前記基板の前記一方面の温度が前記所定の温度にまで降温したときに、前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を前記チャンバーから基板を搬出するときと等しい流量に増加させることを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、チャンバー内に収容した基板を所定の予備加熱温度に加熱する予備加熱工程と、前記予備加熱温度に加熱された前記基板の一方面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射するフラッシュ光照射工程と、
前記予備加熱工程の前に前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、前記基板にフラッシュ光が照射されてから前記チャンバーから当該基板が搬出されるまでの間に、前記チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加して前記チャンバーから前記基板が搬出されるまで流量を維持する流量制御工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1から請求項5の発明によれば、
基板を予備加熱する前にチャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、基板にフラッシュ光が照射されて一方面の温度が最高温度に到達した後に所定の温度にまで降温したときに、チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させるため、基板の面内温度分布が不均一となることに起因した悪影響を抑制しつつ、フラッシュ光照射にともなって発生するパーティクルを効果的に排出して基板に付着するパーティクルを低減することができる。
【0022】
特に、請求項5の発明によれば、基板の一方面の温度が所定の温度にまで降温したときに、チャンバー内に供給する不活性ガスの流量をチャンバーから基板を搬出するときと等しい流量に増加させるため、基板の搬出時にガス流速が変化してパーティクルが巻き上がることが防止され、基板に付着するパーティクルをさらに低減することができる。
【0023】
また、請求項6の発明によれば、
基板を予備加熱する前にチャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、基板にフラッシュ光が照射されてからチャンバーから当該基板が搬出されるまでの間に、チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加してチャンバーから基板が搬出されるまで流量を維持するため、基板の搬出時にガス流速が変化してパーティクルが巻き上がることが防止され、フラッシュ光照射にともなって基板に付着するパーティクルを低減することができる。
【0024】
請求項7から請求項11の発明によれば、
予備加熱工程の前にチャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、基板にフラッシュ光が照射されて一方面の温度が最高温度に到達した後に所定の温度にまで降温したときに、チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加させるため、基板の面内温度分布が不均一となることに起因した悪影響を抑制しつつ、フラッシュ光照射にともなって発生するパーティクルを効果的に排出して基板に付着するパーティクルを低減することができる。
【0025】
特に、請求項11の発明によれば、基板の一方面の温度が所定の温度にまで降温したときに、チャンバー内に供給する不活性ガスの流量をチャンバーから基板を搬出するときと等しい流量に増加させるため、基板の搬出時にガス流速が変化してパーティクルが巻き上がることが防止され、基板に付着するパーティクルをさらに低減することができる。
【0026】
また、請求項12の発明によれば、
予備加熱工程の前にチャンバー内に供給する不活性ガスの流量を減少させるとともに、基板にフラッシュ光が照射されてからチャンバーから当該基板が搬出されるまでの間に、チャンバー内に供給する不活性ガスの流量を増加してチャンバーから基板が搬出されるまで流量を維持するため、基板の搬出時にガス流速が変化してパーティクルが巻き上がることが防止され、フラッシュ光照射にともなって基板に付着するパーティクルを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。本実施形態の熱処理装置1は、基板としてφ300mmの円板形状のシリコン半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。熱処理装置1に搬入される前の半導体ウェハーWには不純物が注入されており、熱処理装置1による加熱処理によって注入された不純物の活性化処理が実行される。
【0030】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、シャッター機構2と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、シャッター機構2、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0031】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0032】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0033】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。
【0034】
チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。また、反射リング68,69の内周面は電解ニッケルメッキによって鏡面とされている。
【0035】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0036】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガス(本実施形態では不活性ガスとしての窒素ガス(N
2))を供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は窒素ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84および流量調整バルブ80が介挿されている。バルブ84が開放されると、窒素ガス供給源85から緩衝空間82に窒素ガスが送給される。ガス供給管83を流れる窒素ガスの流量は流量調整バルブ80によって調整される。緩衝空間82に流入した窒素ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。
【0037】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、窒素ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0038】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0039】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。また、
図3は保持部7を上面から見た平面図であり、
図4は保持部7を側方から見た側面図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプター74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプター74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0040】
基台リング71は円環形状の石英部材である。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(
図1参照)。円環形状を有する基台リング71の上面に、その周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。なお、基台リング71の形状は、円環形状から一部が欠落した円弧状であっても良い。
【0041】
平板状のサセプター74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。サセプター74は石英にて形成された略円形の平板状部材である。サセプター74の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、サセプター74は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。サセプター74の上面には複数個(本実施形態では5個)のガイドピン76が立設されている。5個のガイドピン76はサセプター74の外周円と同心円の周上に沿って設けられている。5個のガイドピン76を配置した円の径は半導体ウェハーWの径よりも若干大きい。各ガイドピン76も石英にて形成されている。なお、ガイドピン76は、サセプター74と一体に石英のインゴットから加工するようにしても良いし、別途に加工したものをサセプター74に溶接等によって取り付けるようにしても良い。
【0042】
基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプター74の周縁部の下面とが溶接によって固着される。すなわち、サセプター74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されており、保持部7は石英の一体成形部材となる。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、略円板形状のサセプター74は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプター74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。半導体ウェハーWは、5個のガイドピン76によって形成される円の内側に載置されることにより、水平方向の位置ずれが防止される。なお、ガイドピン76の個数は5個に限定されるものではなく、半導体ウェハーWの位置ずれを防止できる数であれば良い。
【0043】
また、
図2および
図3に示すように、サセプター74には、上下に貫通して開口部78および切り欠き部77が形成されている。切り欠き部77は、熱電対を使用した接触式温度計130のプローブ先端部を通すために設けられている。一方、開口部78は、放射温度計120がサセプター74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。さらに、サセプター74には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0044】
図5は、移載機構10の平面図である。また、
図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(
図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(
図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0045】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプター74に穿設された貫通孔79(
図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプター74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0046】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0047】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0048】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。
【0049】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0050】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4の内部には複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLが内蔵されている。複数のハロゲンランプHLはチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行う。
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。本実施形態では、上下2段に各20本ずつのハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0051】
また、
図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0052】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段の各ハロゲンランプHLの長手方向と下段の各ハロゲンランプHLの長手方向とが直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0053】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0054】
また、
図1に示すように、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4およびチャンバー6の側方にシャッター機構2を備える。シャッター機構2は、シャッター板21およびスライド駆動機構22を備える。シャッター板21は、ハロゲン光に対して不透明な板であり、例えばチタン(Ti)にて形成されている。スライド駆動機構22は、シャッター板21を水平方向に沿ってスライド移動させ、ハロゲン加熱部4と保持部7との間の遮光位置にシャッター板21を挿脱する。スライド駆動機構22がシャッター板21を前進させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置(
図1の二点鎖線位置)にシャッター板21が挿入され、下側チャンバー窓64と複数のハロゲンランプHLとが遮断される。これによって、複数のハロゲンランプHLから熱処理空間65の保持部7へと向かう光は遮光される。逆に、スライド駆動機構22がシャッター板21を後退させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置からシャッター板21が退出して下側チャンバー窓64の下方が開放される。
【0055】
また、制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0056】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0057】
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWはイオン注入法により表面に不純物(イオン)が添加されたシリコンの半導体基板である。その不純物の活性化が熱処理装置1によるフラッシュ光照射加熱処理(アニール)により実行される。
図8は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。以下に示す半導体ウェハーWの処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することによって進行する。
【0058】
まず、給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89,192が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される(ステップS1)。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に不活性ガスとして窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0059】
また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。チャンバー6内に供給される窒素ガスの流量は制御部3の制御下にて流量調整バルブ80によって調整されており、半導体ウェハーWの搬入時には例えば40リットル/分とされる。
【0060】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して不純物注入後の半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される(ステップS2)。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には40リットル/分の流量にて窒素ガスが供給されているため、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0061】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプター74の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。
【0062】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプター74に受け渡されて水平姿勢に保持される。半導体ウェハーWは、パターン形成がなされて不純物が注入された表面を上面としてサセプター74に保持される。また、半導体ウェハーWは、サセプター74の上面にて5個のガイドピン76の内側に保持される。サセプター74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0063】
また、半導体ウェハーWの搬入が完了し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖された時点でチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量が減少するように制御部3が流量調整バルブ80を制御する(ステップS3)。半導体ウェハーWの搬入が完了した後の窒素ガスの供給流量は例えば20リットル/分とされる。
【0064】
半導体ウェハーWが搬入されてチャンバー6への窒素ガスの供給流量が減少された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される(ステップS4)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプター74を透過して半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)から照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWの温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0065】
図9は、半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。時刻t0にチャンバー6に対する給排気が開始され、時刻t1に室温の半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される。そして、半導体ウェハーWがサセプター74に載置された後、制御部3が時刻t2に40本のハロゲンランプHLを点灯させてハロゲン光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱温度T1にまで昇温している。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに注入された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし800℃程度、好ましくは350℃ないし600℃程度とされる(本実施の形態では600℃)。
【0066】
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、半導体ウェハーWの温度が接触式温度計130によって測定されている。すなわち、熱電対を内蔵する接触式温度計130がサセプター74に保持された半導体ウェハーWの下面に切り欠き部77を介して接触して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、接触式温度計130による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御している。なお、ハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWを昇温するときには、放射温度計120による温度測定は行わない。これは、ハロゲンランプHLから照射されるハロゲン光が放射温度計120に外乱光として入射し、正確な温度測定ができないためである。
【0067】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、接触式温度計130によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時刻t3にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を制御して半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0068】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。さらに、チャンバー側部61に装着された反射リング69の内周面は鏡面とされているため、この反射リング69の内周面によって半導体ウェハーWの周縁部に向けて反射する光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布をより均一なものとすることができる。
【0069】
次に、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時刻t4にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射することによる加熱処理を実行する(ステップS5)。フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。なお、半導体ウェハーWの温度が室温から予備加熱温度T1に到達するまでの時間(時刻t2から時刻t3までの時間)および予備加熱温度T1に到達してからフラッシュランプFLが発光するまでの時間(時刻t3から時刻t4までの時間)はいずれも数秒程度である。
【0070】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予め蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに注入された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。目標温度T2は注入された不純物の活性化が達成される1000℃以上1400℃以下であり、本実施形態では1100℃としている。
【0071】
このように、熱処理装置1では、半導体ウェハーWの表面温度を極めて短時間で昇降することができるため、半導体ウェハーWに注入された不純物の熱による拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、不純物の活性化に必要な時間はその熱拡散に必要な時間に比較して極めて短いため、0.1ミリセカンドないし100ミリセカンド程度の拡散が生じない短時間であっても活性化は完了する。
【0072】
続いて、フラッシュランプFLによるフラッシュ光照射の直後にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量が増加するように制御部3が流量調整バルブ80を制御する(ステップS6)。より詳細には、フラッシュ光照射によって処理温度T2にまで昇温した半導体ウェハーWの表面の温度が裏面温度と等しくなった時点にて、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を増加する。
【0073】
図10は、フラッシュ光照射時における半導体ウェハーWの表面および裏面の温度変化を示す図である。同図において、半導体ウェハーWの表面の温度変化を実線にて示し、裏面の温度変化を一点鎖線にて示している。時刻t4のフラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面温度が予備加熱温度T1から時刻t45には最高温度である処理温度T2に到達する。その後、半導体ウェハーWの表面温度は、表面から裏面への熱伝導によって急速に降温する。
【0074】
一方、半導体ウェハーWの裏面温度は、表面からの熱伝導によって予備加熱温度T1から徐々に昇温する。このように、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短いフラッシュ光を照射したときには、半導体ウェハーWの表面のみが先行して急速に昇温した後に急速に降温し、裏面は遅れて徐々に昇温する。そして、時刻t46に半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなるのである。表裏面の温度が等しくなった時刻t46以降は、半導体ウェハーWの厚さ方向での熱伝導は生じないため、半導体ウェハーWの全体の温度が予備加熱温度T1にまで徐々に降温する。なお、φ300mmのシリコンの半導体ウェハーW(規格により厚さは0.775mmに標準化されている)であれば、フラッシュ光の照射を開始した時刻t4から表裏面の温度が等しくなる時刻t46までの時間は約15ミリセカンド程度である。
【0075】
本実施形態においては、時刻t4のフラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面温度が最高温度である処理温度T2に到達した後に降温して裏面温度と等しくなった時刻t46に、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に増加している。表裏面の温度が等しくなる時刻t46における半導体ウェハーWの表面温度(=裏面温度)は処理温度T2よりも相当に低く、この温度では表面に注入された不純物の拡散および不活性化は生じない。
【0076】
フラッシュ加熱処理が終了してチャンバー6への窒素ガスの供給流量が増加された後、所定時間が経過した時刻t5にハロゲンランプHLが消灯する(ステップS7)。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1からの降温を開始する。また、ハロゲンランプHLが消灯するのと同時に、シャッター機構2がシャッター板21をハロゲン加熱部4とチャンバー6との間の遮光位置に挿入する(ステップS8)。ハロゲンランプHLが消灯しても、すぐにフィラメントや管壁の温度が低下するものではなく、暫時高温のフィラメントおよび管壁から輻射熱が放射され続け、これが半導体ウェハーWの降温を妨げる。シャッター板21が挿入されることによって、消灯直後のハロゲンランプHLから熱処理空間65に放射される輻射熱が遮断されることとなり、半導体ウェハーWの降温速度を高めることができる。
【0077】
また、シャッター板21が遮光位置に挿入された時点で放射温度計120による温度測定を開始する。すなわち、保持部7に保持された半導体ウェハーWの下面からサセプター74の開口部78を介して放射された赤外光の強度を放射温度計120が測定して降温中の半導体ウェハーWの温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。
【0078】
消灯直後の高温のハロゲンランプHLからは多少の放射光が放射され続けるのであるが、放射温度計120はシャッター板21が遮光位置に挿入されているときに半導体ウェハーWの温度測定を行うため、ハロゲンランプHLからチャンバー6内の熱処理空間65へと向かう放射光は遮光される。従って、放射温度計120は外乱光の影響を受けることなく、サセプター74に保持された半導体ウェハーWの温度を正確に測定することができる。
【0079】
制御部3は、放射温度計120によって測定される半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプター74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプター74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され(ステップS9)、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0080】
搬送開口部66が開放されて半導体ウェハーWが搬出されるときのチャンバー6への窒素ガス供給流量は40リットル/分である。すなわち、フラッシュ光照射後に半導体ウェハーWの表裏面温度が等しくなった時刻t46にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に増加し、そのまま半導体ウェハーWをチャンバー6から搬出するまで窒素ガスの供給流量を維持しているのである。
【0081】
図11は、チャンバー6に供給する窒素ガスの流量の変化を示す図である。本実施形態においては、チャンバー6に半導体ウェハーWが搬入されるよりも前の時刻t0に40リットル/分の流量(大流量)にて窒素ガスの供給が開始される。搬送開口部66が開放されて半導体ウェハーWがチャンバー6に搬入される時刻t1にも、窒素ガスの供給流量は40リットル/分に維持されており、これによって搬送開口部66からの外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0082】
半導体ウェハーWの搬入が完了し、搬送開口部66が閉鎖された時刻t16にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量が20リットル/分(小流量)に減少される。そして、20リットル/分の流量にてチャンバー6に窒素ガスが供給され続け、その窒素ガス流が形成されている雰囲気中にて半導体ウェハーWの予備加熱およびフラッシュ加熱が行われる。半導体ウェハーWの加熱処理を行うときには、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量が少なくされているため、窒素ガス流が半導体ウェハーWの温度分布に与える影響は小さく、加熱処理時の半導体ウェハーWの面内温度分布を均一にすることができる。また、予備加熱段階での半導体ウェハーWの昇温レートが低下することもなく、エネルギー消費効率の悪化を防止することもできる。
【0083】
時刻t4にフラッシュ光照射が実行され、これによって半導体ウェハーWの表面温度が最高温度である処理温度T2に到達した後に降温して裏面温度と等しくなった時刻t46に、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に再び増加する。フラッシュ光照射時には、半導体ウェハーWの表面に急激な熱膨張が生じて変形し、半導体ウェハーWがサセプター74上で振動または跳躍することに起因してパーティクルが発生する。本実施形態では、フラッシュ光照射の直後(時刻t4から時刻t46までの時間は約15ミリセカンド)にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に増加しているため、発生したパーティクルは効率良くチャンバー6から排出され半導体ウェハーWに付着することが防止される。その結果、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWに付着するパーティクルを低減することができる。
【0084】
その一方、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量が多くなると、窒素ガス流が半導体ウェハーWの温度分布に与える影響が大きくなり、面内温度分布の均一性が損なわれることとなる。仮に、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を半導体ウェハーWの搬入時から搬出時まで一貫して40リットル/分に維持したとすると、予備加熱時およびフラッシュ加熱時の半導体ウェハーWの面内温度分布が不均一となり、処理結果に悪影響を与える。
【0085】
そこで、本実施形態においては、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWの表面温度が最高温度である処理温度T2から降温して裏面温度と等しくなった時刻t46にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に増加している。半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなる時刻t46における表面温度は、処理温度T2よりも相当に低く、表面に注入された不純物の挙動に影響を与えない温度である。このような温度にまで半導体ウェハーWの表面温度が降温していれば、窒素ガス流によって面内温度分布が不均一になったとしても問題はなく、処理結果にも影響を与えない。すなわち、半導体ウェハーWの表面温度が処理温度T2から降温して裏面温度と等しくなった時刻t46にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に増加することにより、面内温度分布が不均一となることに起因した悪影響を抑制しつつ、半導体ウェハーWに付着するパーティクルを低減することができるのである。なお、一般に、予備加熱温度T1および処理温度T2は、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなった時点で温度分布が乱れたとしても注入された不純物の挙動に影響を与えないような値に設定されている。
【0086】
その後、半導体ウェハーWがチャンバー6から搬出される時刻t7までチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量は40リットル/分に維持される。すなわち、半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなる時刻t46に増加したチャンバー6への窒素ガスの供給流量を半導体ウェハーWが搬出される時刻t7まで一定値に維持するのである。
【0087】
従来より、搬送開口部66を開放しての半導体ウェハーWの搬入・搬出時に、搬送開口部66からの外部雰囲気の巻き込み防止のために窒素ガス供給流量を増加させることは行われてきた。しかし、半導体ウェハーWの搬出時には、チャンバー6内に半導体ウェハーWが存在している状態にて窒素ガスの流量が増加することとなるため、窒素ガス流の流速変化によってチャンバー6内のパーティクルが巻き上がり、それが半導体ウェハーに付着するおそれがあった。
【0088】
本実施形態においては、半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなる時刻t46に増加したチャンバー6への窒素ガスの供給流量を半導体ウェハーWが搬出される時刻t7まで一定に維持しているため、半導体ウェハーWの搬出時にも窒素ガス流の流速は変化しない。その結果、半導体ウェハーWの搬出時にチャンバー6内にパーティクルが巻き上がることはなく、そのようなパーティクルが半導体ウェハーWに付着するのを防止することができる。
【0089】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなる時刻t46に窒素ガスの供給流量を増加するようにしてたが、半導体ウェハーWの表面温度が表面に注入された不純物の拡散および不活性化が生じない温度にまで降温したときに、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を増加するようにしても良い。このようにしても、半導体ウェハーWの面内温度分布が不均一となることに起因した悪影響を抑制しつつ、半導体ウェハーWに付着するパーティクルを低減することができる。
【0090】
また、フラッシュ光照射後に半導体ウェハーWの表面温度が予備加熱温度T1にまで降温したときに、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を増加するようにしても良い。半導体ウェハーWの表面温度が予備加熱温度T1にまで降温するのは、表裏面の温度が等しくなる時刻t46よりも後であるが、フラッシュ光照射時に発生したパーティクルが半導体ウェハーWに付着するまでに多少の時間を要する。このため、半導体ウェハーWの表面温度が予備加熱温度T1にまで降温したときに、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を増加するようにしても、半導体ウェハーWの面内温度分布が不均一となることに起因した悪影響を抑制しつつ、半導体ウェハーWに付着するパーティクルを低減することができる。
【0091】
要するに、半導体ウェハーWにフラッシュ光が照射されて表面の温度が最高温度である処理温度T2に到達した後に、注入された不純物の挙動に影響を与えない所定の温度にまで降温したときに、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を増加すれば良い。なお、実際には、フラッシュ光照射を開始してから半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなるまでの時間に比較して流量調整バルブ80の応答には相応の時間を要する。このため、フラッシュ光照射と同時或いはフラッシュ光照射よりも若干前に窒素ガスの供給流量を増加するように制御部3が流量調整バルブ80に制御信号を与えたとしても問題は無い。
【0092】
また、チャンバー6に供給する窒素ガスの流量変化は
図12に示すようなものであっても良い。
図12に示す例においても、時刻t0にチャンバー6への窒素ガスの供給を開始してから時刻t16に搬送開口部66が閉鎖されまでは40リットル/分の流量で供給し、その後20リットル/分に流量を減少して半導体ウェハーWの予備加熱処理およびフラッシュ光照射を行う点は
図11と同様である。
図12に示す例では、時刻t4にフラッシュ光照射が行われてから数秒程度が経過した時刻t48にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に再び増加している。そして、半導体ウェハーWがチャンバー6から搬出される時刻t7までチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量は40リットル/分に維持される。すなわち、半導体ウェハーWにフラッシュ光が照射されてからチャンバー6から半導体ウェハーWが搬出されるまでの間のいずれかの時点で、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を増加し、半導体ウェハーWが搬出されるまで窒素ガスの供給流量を一定に維持するのである。このようにしても、少なくとも半導体ウェハーWの搬出時における窒素ガス流の流速変化は生じないため、搬出時にパーティクルが巻き上がることが防止され、そのようなパーティクルが半導体ウェハーWに付着するのを防止することができる。
【0093】
また、チャンバー6に供給する窒素ガスの流量変化は
図13に示すようなものであっても良い。
図13に示す例においては、チャンバー6への窒素ガスの供給を開始する時刻t0からフラッシュ光照射時に半導体ウェハーWの表面温度が裏面温度と等しくなる時刻t46まで、窒素ガスの供給流量を20リットル/分に維持している。そして、半導体ウェハーWの表面温度が最高温度である処理温度T2から降温して裏面温度と等しくなった時刻t46にチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に増加する。続いて、フラッシュ光が照射されてから半導体ウェハーWが搬出されるまでの間のいずれかの時点である時刻t49に、チャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を20リットル/分に減少し、半導体ウェハーWが搬出されるまで窒素ガスの供給流量を20リットル/分に維持している。
【0094】
このようにしても、上記実施形態と同様に、半導体ウェハーWの表面温度が注入された不純物の挙動に影響を与えない温度にまで降温してからチャンバー6内に供給する窒素ガスの流量を40リットル/分に増加しているため、面内温度分布が不均一となることに起因した悪影響を抑制しつつ、半導体ウェハーWに付着するパーティクルを低減することができる。また、半導体ウェハーWの搬出時における窒素ガス流の流速変化は生じないため、搬出時にパーティクルが巻き上がることが防止され、そのようなパーティクルが半導体ウェハーWに付着するのを防止することができる。もっとも、半導体ウェハーWの搬入・搬出時に、搬送開口部66からの外部雰囲気の巻き込みを確実に防止するためには、上記実施形態のように、搬入・搬出時に窒素ガスの供給流量を大流量としておく方が好ましい。
【0095】
また、上記実施形態においては、半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光を照射して熱処理を行うようにしていたが、半導体ウェハーWの裏面にフラッシュ光を照射するようにしても良い。具体的には、半導体ウェハーWの表裏を反転させて保持部7に保持(つまり、表面を下面として保持)させて上記実施形態と同様の処理を行うようにすれば良い。また、熱処理装置の構成をチャンバー6の上側にハロゲン加熱部4を配置するとともに、下側にフラッシュ加熱部5を配置し、その熱処理装置にてフラッシュ加熱処理を行うようにしても良い。
【0096】
また、上記各実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0097】
また、上記実施形態においては、チャンバー6に供給する窒素ガスの流量を20リットル/分と40リットル/分とに切り替えていたが、これに限定されるものではなく、増加後または減少後の窒素ガスの供給流量はチャンバー6の容積などに応じた適宜の値とすることができる。半導体ウェハーWの予備加熱処理およびフラッシュ加熱処理を行うときには、面内温度分布の均一性が維持される窒素ガスの流量とするのが好ましい。一方、フラッシュ光照射後に窒素ガスの流量を増加するときには、パーティクルが効果的にチャンバー6から排出される窒素ガスの流量とするのが好ましい。
【0098】
また、チャンバー6に供給するガスは、窒素ガスに限定されるものではなく、例えばアルゴンガス(Ar)やヘリウムガス(He)などのその他の不活性ガスであっても良い。もっとも、上記実施形態のように、窒素ガスを供給する方がコストを低く抑制することができる。
【0099】
また、上記実施形態においては、ハロゲンランプHLからのハロゲン光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱するようにしていたが、予備加熱の手法はこれに限定されるものではなく、ホットプレートに載置することによって半導体ウェハーWを予備加熱するようにしても良い。
【0100】
また、本発明に係る熱処理装置によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。また、本発明に係る技術は、金属とシリコンとの接合、或いはポリシリコンの結晶化に適用するようにしても良い。