特許第5955657号(P5955657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955657
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】耐火被覆ユニット及び耐火被覆工法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   E04B1/94 D
   E04B1/94 R
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-134916(P2012-134916)
(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公開番号】特開2013-256844(P2013-256844A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 隆一
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 俊明
(72)【発明者】
【氏名】小西 健夫
(72)【発明者】
【氏名】横林 優
(72)【発明者】
【氏名】木下 昌己
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4137301(JP,B2)
【文献】 特開平09−041676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱の周囲の少なくとも二面に被せられる第1の被覆板と、前記鉄骨柱の周囲の残りの面に被せられる第2の被覆板と、これらの被覆板同士を結合する複数の結合板とを備える耐火被覆ユニットであって、
前記第1の被覆板及び第2の被覆板は、外面側を構成し耐火性能を有する金属板と、鉄骨柱に向けて配置される内面側を構成する熱膨張性耐火材との複合体でありそれぞれ正面板部と、前記正面板部に延設される側面板部とを有する溝形状に形成されてなり、
前記結合板は、折り曲げ可能な短冊板材からなり、該結合板の一端部は前記第1の被覆板の側面板部の外面に回動自在に取り付けられており
前記結合板は前記第1の被覆板の外面に沿って回動されて、前記第1の被覆板と第2の被覆板とに架け渡され、前記第2の被覆板の側面板部から正面板部に沿うように折り曲げられ、他端部が前記第2の被覆板の正面板部の外面に止着されることを特徴とする耐火被覆ユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の耐火被覆ユニットにおいて、
前記結合板は、前記第1の被覆板の左右両側縁部に高さ方向に均等配置されたことを特徴とする耐火被覆ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の耐火被覆ユニットであって、
前記結合板は、亜鉛メッキ鋼板、鉄板、又はステンレス板からなり、厚みが0.2〜1.0mmとされたことを特徴とする耐火被覆ユニット。
【請求項4】
壁面に沿って配置されたH型の鉄骨柱を耐火被覆ユニットにより被覆する耐火被覆工法であって、
前記耐火被覆ユニットは、溝形状に形成されて内面側に熱膨張性耐火材を備えた第1及び第2の被覆板と、これらの被覆板同士を結合する折り曲げ可能な短冊状の結合板とを有し、前記結合板の一端部が前記第1の被覆板の外側面に回動自在に取り付けられており、
前記鉄骨柱のフランジ外側面に沿ってケイ酸カルシウム板を配設するとともに、ウェブに沿ってロックウール材を配設する前工程と、
前記耐火被覆ユニットの第2の被覆板を、前記鉄骨柱の室内側に面するフランジのエッジ面及びロックウール材に被せ、左右のケイ酸カルシウム板に跨るように配置する工程と、
前記耐火被覆ユニットの第1の被覆板を、前記鉄骨柱と壁面との間に挿入し、前記鉄骨柱の室内と反対側に面するフランジのエッジ面及びロックウール材に被せ、左右のケイ酸カルシウム板に跨るように配置する工程と、
前記結合板を回動させて該結合板の他端部を前記第1の被覆板の室内側に引き出す工程と、
引き出した前記結合板の他端部を、前記第2の被覆板の外面に沿うように折り曲げて配置し、前記第2の被覆板及びケイ酸カルシウム板に止着具により固定する工程とを含むことを特徴とする耐火被覆工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨柱に設ける耐火被覆ユニット及びこの耐火被覆ユニットを用いた耐火被覆工法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の柱や壁等の部分は、構造耐力上支障のある変形等を生じないようにするため、所定の耐火性能を有する耐火構造又は防火構造とすることが要求される場合がある。例えば、鉄骨構造体を主要構造部とする建築物に耐火性能を付与する場合、鉄骨構造体の鉄骨柱や鉄骨梁を耐火被覆材によって被覆することにより、所定の耐火被覆構造を形成することとしている。
【0003】
また、鉄骨材の耐火被覆に関しては、仕様規定として耐火性能検証法の適用が広まる中で、耐火時間の緩和が認められる一方、確実な品質保証が必要とされている。鉄骨材の耐火被覆としては、乾式工法では、耐火ボードやケイ酸カルシウム板等を使用した耐火被覆構造とすることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鉄骨柱を耐火ボードで被覆する耐火被覆構造が開示されている。この耐火被覆構造では、厚み約20mmの強化石膏ボードからなる耐火ボードが鋼製ランナーにより位置決めされて、鉄骨柱との間に5mm前後の間隔を保って配置され、前記耐火ボードと鉄骨柱表面との隙間が接着剤で充填される構成とされている。これにより、鉄骨柱の二面又は三面が耐火ボードで被覆されている。
【0005】
しかし、この種の耐火被覆構造では、耐火ボードの厚みと接着剤の厚みとで耐火被覆に要する厚みが増し、鉄骨柱を納める壁体の厚みを増大させたり、鉄骨柱を室内側に張り出して納めたりしなければならないという問題点があった。
【0006】
これに対し、本出願人らは、特許文献2に示されるように、H型の鉄骨柱の周囲を被覆するための耐火被覆ユニットとして、鉄骨柱のフランジに接する二面にケイ酸カルシウム板を配置し、残りの二面に、亜鉛鋼板を配置する構成に係る提案を行っている。この耐火被覆ユニットは、亜鉛鋼板の両端が、ケイ酸カルシウム板に沿って鉄骨柱のウェブに蓋をするような形状に折り曲げられており、この亜鉛鋼板の内側には断熱膨張シートが配置される。亜鉛鋼板の内側であって鉄骨柱の中空部には、ロックウール板が配置される。また、2枚の亜鉛鋼板相互の目地上には、補強部材としての帯鋼を巻き付けて釘打ち固定し、ケイ酸カルシウム板を保持する構成とされている。かかる耐火被覆ユニットにより、現場での施工性を確保し、鉄骨柱のフランジ方向の厚みを大幅に増大させることなく耐火性能を付与することを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−100587号公報
【特許文献2】特許第4137301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記従来の耐火被覆ユニットにあっては、鉄骨柱の厚みを増大させないことから、設計の自由度が高められる一方、次に述べるような課題があり、未だ改良の余地があった。
【0009】
例えば、建築物における出隅部や開口部の側部などのように、外壁材とその室内側に配置される鉄骨柱とが近接した配置形態となることがある。このような場合、鉄骨柱の側部と外壁材の室内側の面との間には、数十mm程度の隙間しか設けられない。そうすると、外壁材と鉄骨柱との間の狭い空間に、作業者の手を差し入れることが困難であり、耐火被覆ユニットの亜鉛鋼板の上に帯鋼を巻き付けたり、帯鋼を釘打ちにより固定したりする作業を行うことができなかった。
【0010】
このため、かかる場合には、鉄骨柱の四周全面にわたって耐火被覆ユニットを配置することに代えて、外壁材に面しない鉄骨柱の側部を耐火被覆ユニットで被覆し、残りの面の耐火性能は外壁材の耐火性能により確保することとされていた。その結果、適用できる外壁材の種類が限定されてしまうことから、外壁材の耐火性能に依存せずとも所定の耐火被覆構造を実現し得る施工性に優れた耐火被覆ユニットが求められた。
【0011】
本発明は、かかる点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、耐火性能に優れるとともに、外壁材と鉄骨柱とが近接する場合にも、壁厚を厚くすることなく鉄骨柱に対して作業性よく設けることができ、現場での施工性が改善された鉄骨柱の耐火被覆ユニット及びその耐火被覆工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、鉄骨柱の周囲の少なくとも二面に被せられる第1の被覆板と、前記鉄骨柱の周囲の残りの面に被せられる第2の被覆板と、これらの被覆板同士を結合する複数の結合板とを備える耐火被覆ユニットに対し、前記第1の被覆板及び第2の被覆板を、耐火性能を有する外面側の金属板と、鉄骨柱に向けて配置される内面側の熱膨張性耐火材とを備えた複合体とし、それぞれ正面板部と、前記正面板部に延設される側面板部とを有する溝形状に形成する。また、前記結合板を、折り曲げ可能な短冊板材から形成し、該結合板の一端部を前記第1の被覆板の側面板部の外面に回動自在に取り付けた構成とする。そして、前記結合板を前記第1の被覆板の外面に沿って回動させ、前記第1の被覆板と第2の被覆板とに架け渡し、前記第2の被覆板の側面板部から正面板部に沿うように折り曲げ、該結合板の他端部を前記第2の被覆板の正面板部の外面に止着する構成としている。
【0013】
この特定事項により、鉄骨柱と外壁材との間に第1の被覆板を挿入して外壁材に近接する側面を被覆し、鉄骨柱の室内側の側面に第2の被覆板を配設して、結合板によりこれらの被覆板同士を一体に止め着けることができる。前記結合板は、第1の被覆板に対して回動自在であるので、該結合板の他端部を第1の被覆板から室内側に引き出し、止着具にて第2の被覆板に取り付ける作業を容易に行うことができる。また、前記結合板は、折り曲げ可能な短冊板材からなるので、第1の被覆板から第2の被覆板に架け渡し、第2の被覆板に沿って折り曲げて配置することもでき、施工性が高められる。前記第1の被覆板から第2の被覆板に結合板を架け渡して両者を結合する際、第2の被覆板の正面板部に結合板の他端部を巻き付けるように配置することができ、鉄骨柱の室内側から止着作業を行うことが可能となる。H型の鉄骨柱を耐火被覆する場合には、前記正面板部を左右のフランジ間に跨って配置させ、前記側面板部をフランジの外面側に配置する形態をとることができる。したがって、外壁材に近接して設けられた鉄骨柱に対し、作業空間に余裕のある室内側からの作業によって、所定の耐火性能を有する耐火被覆構造を備えさせることができ、施工性に優れたものとすることができる。また、これにより鉄骨柱を耐火被覆構造とすることができるので、近接する外壁材の種類が限定されず、設計の自由度を高めることも可能となる。
【0014】
前記耐火被覆ユニットのより具体的な構成として次のものが挙げられる。
【0015】
すなわち、前記耐火被覆ユニットにおいて、前記結合板を、前記第1の被覆板の左右両側縁部に高さ方向に均等配置させた構成とすることが好ましい。
【0016】
これにより、第1の被覆板と第2の被覆板とを安定的に結合して、鉄骨柱の外面に備えられる耐火断熱材等を脱落することなく保持させる構成とすることができる。
【0021】
また、前記耐火被覆ユニットにおいて、前記結合板を、亜鉛メッキ鋼板、鉄板、又はステンレス板から構成し、厚みを0.2〜1.0mmとすることが好ましい。
【0022】
これにより、結合板に耐火性能を付与しつつ結合板を折り曲げやすく形成することができ、作業者が手で容易に結合板を折り曲げることが可能となる。また、結合板に対して鉄釘等の簡易な止着具を打ち込むことが可能となるので、簡単な作業で結合板の他端部を第2の被覆板に止着することができ、施工性に優れたものとすることができる。
【0023】
また、上述した各解決手段に係る耐火被覆ユニットを用いた耐火被覆工法も本発明の技術的思想の範疇である。つまり、壁面に沿って配置されたH型の鉄骨柱の周囲を被覆する耐火被覆工法を前提とする。また、耐火被覆ユニットとして、溝形状に形成されて内面側に熱膨張性耐火材を備えた第1及び第2の被覆板と、これらの被覆板同士を結合する短冊状の結合板とを有し、前記結合板の一端部が前記第1の被覆板の外側面に回動自在に取り付けられた構成のユニットを用いる。そして、耐火被覆工法として、前記鉄骨柱のフランジ外側面に沿ってケイ酸カルシウム板を配設するとともに、ウェブに沿ってロックウール材を配設する前工程と、前記耐火被覆ユニットの第2の被覆板を、前記鉄骨柱の室内側に面するフランジのエッジ面及びロックウール材に被せて、左右のケイ酸カルシウム板に跨るように配置する工程と、前記耐火被覆ユニットの第1の被覆板を、前記鉄骨柱と壁面との間に挿入し、前記鉄骨柱の室内と反対側に面するフランジのエッジ面及びロックウール材に被せて、左右のケイ酸カルシウム板に跨るように配置する工程と、前記結合板を回動させて該結合板の他端部を前記第1の被覆板の室内側に引き出す工程と、引き出した前記結合板の他端部を、前記第2の被覆板の外面に沿うように折り曲げて配置し、前記第2の被覆板及びケイ酸カルシウム板に止着具により固定する工程とを具備させた構成としている。
【0024】
このような耐火被覆工法により、外壁材に近接して設けられたH型の鉄骨柱に対し、作業空間に余裕のある室内側からの作業によって、所定の耐火性能を有する耐火被覆構造を容易に形成することができ、極めて施工性に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明では、耐火被覆ユニットとして、第1の被覆板及び第2の被覆板を、耐火性能を有する金属板から形成し、鉄骨柱に向けて配置される内面側に、熱膨張性耐火材を配設した構成とする。また、前記結合板を折り曲げ可能な短冊板材から形成し、該結合板の一端部を前記第1の被覆板の外面に回動自在に取り付け、結合板を第1の被覆板の外面に沿って回動させ、前記第1の被覆板と第2の被覆板とに架け渡し、他端部を前記第2の被覆板に止着する構成としている。このため、鉄骨柱の室内側からの作業により鉄骨柱の四周全面に耐火被覆構造を形成することができ、十分な耐火性能を備えさせるとともに、外壁材と鉄骨柱とが近接する場合にも、壁厚を厚くすることなく、鉄骨柱に対して作業性よく施工することができる。その結果、外壁材の耐火性能に依存せずとも所定の耐火被覆構造を実現し得て、設計の自由度も高められる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る耐火被覆ユニットの納まりの一例を示す断面図である。
図2図2(a)〜図2(c)は前記耐火被覆ユニットにおける第1被覆板を示し、図2(a)は上面図、図2(b)は正面図、図2(c)は右側面図である。
図3図3は、図2(b)におけるA−A断面図である。
図4図4は、図3に示す第1被覆板の部分拡大断面図である。
図5図5は、実施形態に係る耐火被覆工法の一工程を示す説明図である。
図6図6は、図5の次工程を示す説明図である。
図7図7は、図6の次工程を示す説明図である。
図8図8は、図7の次工程を示し、鉄骨柱に耐火被覆ユニットを施工した状態を示す説明図である。
図9図9は、実施の形態に係る耐火被覆ユニットの納まりの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態に係る耐火被覆ユニット及び耐火被覆工法について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1図4は本発明の一実施形態に係る耐火被覆ユニットを示し、図1は、外壁材7に近接する鉄骨柱6に対して耐火被覆ユニット1を施工した納まりの一例を示す断面図である。図2(a)〜図2(c)は、耐火被覆ユニット1における第1被覆板11を示し、図2(a)は上面図、図2(b)は正面図、図2(c)は右側面図である。図3は、図2(b)におけるA−A断面図であり、図4は、図3の部分拡大断面図である。
【0029】
なお、図1においては図面を見やすくするため、鉄骨柱6以外の構成部材は、断面を示すハッチングを省略して示している。また、第1被覆板11は、底面図が図2(a)の上面図と、左側面図が図2(c)の右側面図とそれぞれ対称に表れるものである。
【0030】
耐火被覆ユニット1は、鉄骨柱6の周囲の少なくとも二面に被せられる第1被覆板11と、鉄骨柱6の周囲の残りの面に被せられる第2被覆板12と、これらの第1被覆板11と第2被覆板12とを結合する複数の結合板13とを備えている。
【0031】
図1に示す形態では、鉄骨柱6はウェブ61とフランジ62とを有するH型鋼材からなる。これに対し、耐火被覆ユニット1は、第1被覆板11及び第2被覆板12が、断面略コ字状の共通の溝形状により形成されている。これらの第1被覆板11と第2被覆板12とは、鉄骨柱6の周囲に配置される一組のユニットとして対をなす。
【0032】
第1被覆板11及び第2被覆板12の溝形状は、図1及び図2に示すように、鉄骨柱6のウェブ61と平行に配置される正面板部31と、フランジ62と平行に配置される側面板部32とにより構成されている。側面板部32は、正面板部31の左右側縁部に対し直角に延設されている。正面板部31は、鉄骨柱6のウェブ61の幅よりも大きい幅で形成され、側面板部32は、フランジ62の幅よりも狭い幅で形成されている。
【0033】
なお、図1に示す鉄骨柱6には、耐火被覆ユニット1を配設する前段階で、第1被覆板11と鉄骨柱6との間、及び第2被覆板12と鉄骨柱6との間に、ケイ酸カルシウム板81若しくはロックウール材82等の耐火断熱材が介装されている。耐火被覆ユニット1を用いた鉄骨柱6の耐火被覆工法の手順については後述する。
【0034】
図2図4に示すように、第1被覆板11は、外面側を構成し耐火性能を有する金属板21と、内面側を構成する熱膨張性耐火材22との複合体とされている。第1被覆板11は、内面側の熱膨張性耐火材22を、鉄骨柱6に対向するように配置される。
【0035】
第1被覆板11の外面側を構成する金属板21としては、例えば、亜鉛メッキ鋼板、鉄板、又はステンレス板が挙げられる。中でも、高温時の降伏点強度が高い亜鉛メッキ鋼板は、金属板21として特に好ましい。
【0036】
また、第1被覆板11における金属板21の厚みは、0.2〜0.6mmとされることが好ましい。0.2mm未満では、耐火効果を十分にあげることができず、0.6mmを超えても耐火効果はそれほど変わらず、経済的に不利となるからである。
【0037】
第1被覆板11に係るこれらの構成は、第1被覆板11と対をなす第2被覆板12においても共通とされている。
【0038】
金属板21の内面側の熱膨張性耐火材22は、火災の際に加熱されて膨張することにより断熱層を形成し、この断熱層によって鉄骨柱6へ熱が伝わるのを防止する。このため、熱膨張性耐火材22による断熱層は、少なくとも鉄骨柱6のフランジ62のエッジ面に接するように形成される必要がある。図3に示す形態では、熱膨張性耐火材22は、金属板21の内側の全面に配置されているが、熱膨張性耐火材22の体積膨張倍率(初期厚みに対する膨張後の厚みの比)によっては、必ずしも金属板21の内側の全面に渡って配置されなくてもよい。
【0039】
第1被覆板11及び第2被覆板12に設けられる熱膨張性耐火材22は、これを例えば約30分間加熱して膨張を飽和させたとき、体積膨張倍率が2〜20倍であれば要求性能を満たすとされる。すなわち、熱膨張性耐火材としては、JIS A1304に規定される2時間耐火の性能基準を満たし、加熱時の体積膨張倍率が2〜20倍とされるシート状の成形体を用いることが好ましい。また、熱膨張性耐火材22には、ブチルゴム等の熱可塑性樹脂、熱膨張性黒鉛等の熱膨張性無機化合物、及び無機充填剤を含有させて構成することが好ましい。
【0040】
前記シート状成形体としては、例えば、積水化学工業社製フィブロック(商品名。ポリオレフィン系樹脂若しくは合成ゴム系樹脂成分を含有し、熱膨張性黒鉛、無機充填材等を混合した熱膨張性樹脂組成物からなるシート状成形物。)等を挙げることができる。
【0041】
熱膨張性耐火材22の厚みは、使用する樹脂材料や体積膨張倍率により設定されるが、本実施形態では、0.3〜5.0mmとされることが好ましい。これにより、火災時には、金属板21の内面側に十分な厚さの断熱層を形成することができる。
【0042】
図1及び図2に示すように、第1被覆板11の左右の側面板部32の外面には、複数の結合板13が設けられている。これに対し、第2被覆板12の側面板部32には、結合板13が設けられない構成とされている。
【0043】
具体的に、図2(b)及び図2(c)に示すように、結合板13は、第1被覆板11の左右の側面板部32に設けられ、それぞれ高さ方向にほぼ均等配置されている。例示の形態では、高さ1250mmの第1被覆板11に対し、側面板部32の上段、中段、及び下段の3箇所に、ほぼ均等間隔で配置されている。
【0044】
各結合板13は、図2(c)及び図4に示すように、一端部が、第1被覆板11の側面板部32の外面に、打込リベット等の接合具41により接合されている。これにより、各結合板13は、側面板部32の外面に沿って回動自在となされている。複数設けられる結合板13のうち、側面板部32の上段と中段とに配設される結合板13は、他端部を下にして垂れさがった状態で取り付けられている。下段に配設される結合板13は、他端部を上にして跳ね上げられた状態で取り付けられている。
【0045】
また、結合板13は、亜鉛メッキ鋼板、鉄板、又はステンレス板からなり、厚みが0.2〜1.0mmとされることが好ましい。これにより、結合板13を、作業者が手で折り曲げやすく形成することができ、耐火性能を有する折り曲げ可能な短冊板材とすることができる。
【0046】
結合板13は、図1に示す鉄骨柱6に対して、第2被覆板12が、左右のケイ酸カルシウム板81をともに保持するように配置される。また、第2被覆板12により、室内側のロックウール材82、フランジ62のエッジ面、及び左右のケイ酸カルシウム板81の隅角部が覆われる。
【0047】
また、第1被覆板11は、左右のケイ酸カルシウム板81の反対側(外壁側)を保持するように配置される。また、第1被覆板11により、外壁側のロックウール材82、フランジ62のエッジ面、及び左右のケイ酸カルシウム板81の隅角部が覆われる。
【0048】
第1被覆板11の側面板部32に設けられた各結合板13は、この第1被覆板11の側面板部32に沿って回動されて、第1被覆板11から第2被覆板12に対して架け渡されている。結合板13の他端部は、第2被覆板12の外面に沿うように折り曲げ変形される。結合板13の他端部は、第2被覆板12及びケイ酸カルシウム板81に止着具42により固定されている。
【0049】
これにより、図1に示すような外壁材7と鉄骨柱6とが近接して配置された部分にあっても、その鉄骨柱6の四周全面に耐火被覆構造を良好に形成することができる。
【0050】
なお、本発明に係る耐火被覆ユニット1は、前記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。例えば、鉄骨柱6はH型鋼材であるに限らず、I型鋼材であっても、また角形鋼管であってもよい。また、耐火被覆ユニット1は、鉄骨柱6の周囲の隣接する二面に被せられる第1被覆板11と、鉄骨柱6の周囲の残りの面に被せられる第2被覆板12とが、略L字状をなすように構成されて、鉄骨柱6の四周を抱き合わせるように配置されてもよい。
【0051】
また、一つの結合板13の長さは、鉄骨柱6の大きさやケイ酸カルシウム板81の板厚により設定されるが、室内側に引き出された結合板13の先端部が第2被覆板12の外面から20mm程度、張り出すことが好ましい。また、結合板13の幅は、第1被覆板11の側面板部32の幅に納まる幅であれば任意の大きさで形成することができる。加えて、第1被覆材11及び第2被覆材12の高さや幅等の大きさも、前記の実施形態に限定されず、鉄骨柱6の高さ方向に一組又は複数組の耐火被覆ユニット1がどのように配設される構成とされてもよい。
【0052】
さらに、結合板13の他端部には、指を引っ掛けることができる程度の小さい切欠部が形成されていてもよい。これにより、第1被覆板11から結合板13を室内側へ引き出しやすく構成することができる。
【0053】
(鉄骨柱の耐火被覆工法)
次に、耐火被覆ユニット1を用いた鉄骨柱6の耐火被覆工法について、図面を参照しつつ説明する。
【0054】
図5図8は、前記耐火被覆ユニット1を鉄骨柱6に被覆する工程を段階的に示す説明図であり、図9は、外壁材7に近接する鉄骨柱6に対して耐火被覆ユニット1を施工した他の納まり例を示す断面図である。
【0055】
なお、図5〜8においては、鉄骨柱6を部分的に表して説明し、図中手前側を室内側として示している。また、図9においては図面を見やすくするため、鉄骨柱6以外の構成部材は、断面を示すハッチングを省略して示している。
【0056】
鉄骨柱6の耐火被覆は、建築物の柱梁等の主要構造部を立ち上げ、外壁及び屋根を形成した後、室内側からの作業によって行う。
【0057】
図5に示すように、鉄骨柱6には、フランジ62の外側面に沿って、それぞれケイ酸カルシウム板81を配設する。ケイ酸カルシウム板81は、約25mmの厚みを有し、フランジ62の外側面の全体を覆うものとされる。これにより、フランジ62の外方からの加熱を遮断する。ケイ酸カルシウム板81は、後工程で耐火被覆ユニット1により鉄骨柱6に保持されるので、フランジ62に押し当てて配置するだけで足りるが、接着剤により固定し又は仮固定する構成であってもよい。
【0058】
次いで、一定の強度を有し、所定の耐火性能を有するロックウール材82を鉄骨柱6のウェブ61に沿って、室内側及び外壁側の両面に配設する。ロックウール材82としては、ロックウール成形板やロックウールブランケットを用いることができる。ロックウール材82として、ロックウール成形板を配設する場合には、ロックウール成形板自体に自立強度を有するので、左右のフランジ62の間の空間部に充填するように配置するだけでよい。かかるロックウール材82により、鉄骨柱6に対する断熱性能を補強する。
【0059】
次いで、図6に示すように、鉄骨柱6の室内側に耐火被覆ユニット1の第2被覆板12を配置する。第2被覆板12は、左右のケイ酸カルシウム板81に跨るように配置する。この第2被覆板12により、ロックウール材82、フランジ62のエッジ面、及び左右のケイ酸カルシウム板81の隅角部を覆う。第2被覆板12の側面板部32は、左右のケイ酸カルシウム板81の外面側を部分的に覆う配置とされる。
【0060】
次いで、第2被覆板12の正面板部31に止着具42を打ち込み、第2被覆板12をケイ酸カルシウム板81の板傍に固定する。止着具42には、鉄丸釘を用いることができ、鉄骨柱6の室内側から簡単に打ち込むことができる。止着具42は正面板部31に対して均等に配置することが好ましく、例えば高さ1250mmの第2被覆板12であれば、釘打ちのピッチを約200mmとすることが望ましい。
【0061】
次いで、鉄骨柱6の反対側に第1被覆板11を配置する。この場合、鉄骨柱6と壁面との間に第1被覆板11を挿入して、左右のケイ酸カルシウム板81に跨るように配置する。図7に示すように、第1被覆板11により、壁面側のロックウール材82、フランジ62のエッジ面、及び左右のケイ酸カルシウム板81の板傍を覆う。鉄骨柱6と壁面との隙間が狭く、手を差し入れにくい場合には、第1被覆板11を多少曲げながら、挿入してもよい。
【0062】
次いで、第1被覆板11の結合板13を側面板部32に沿って回動させ(図2(c)参照)、結合板13の他端部を第1被覆板11の室内側に引き出す。このとき、鉄骨柱6と壁面との間に手を少し挿入し、指を結合板13の他端部に引っ掛けて動かすだけで、結合板13を容易に回動させて室内側へ引き出すことができる。室内側へは、第1被覆板11に設けられた全ての結合板13を引き出す。これにより、結合板13の他端部が第2被覆板12の側面板部32に沿って突出する。また、結合板13を、第1被覆板11と第2被覆板12とに略水平方向に架け渡した形態に変位させて配置することができる。
【0063】
次いで、引き出した結合板13の他端部を、図8に示すように第2被覆板12の角部に沿って折り曲げる。これにより、結合板13の他端部を第2被覆板12の正面板部31の外面に沿うように屈曲させて配置することができる。鉄骨柱8の大きさや配置形態によっては、結合板13を折り曲げることなく第2被覆板12上に配置してもよい。
【0064】
次いで、結合板13の他端部に止着具42を打ち込み、結合板13を第2被覆板12とケイ酸カルシウム板81に固定する。この場合にも止着具42には鉄丸釘を用いることができる。このように、第2被覆板12の止め着け作業も、鉄骨柱6の室内側から容易に行うことができる。
【0065】
これにより、第1被覆板11及び第2被覆板12は、鉄骨柱6に沿って設けたケイ酸カルシウム板81及びロックウール材82を保持し、鉄骨柱6のウェブ61に蓋をするような形態で抱き合わせて固定される。したがって、ケイ酸カルシウム板81が鉄骨柱6から脱落するおそれがなく、安定的に耐火被覆構造を維持することができる。
【0066】
また、第1被覆板11及び第2被覆板12の内面側の熱膨張性耐火材22は、加熱されたときに膨張するので、結合板13により第1被覆板11及び第2被覆板12を強固に結合する必要はない。つまり、熱膨張性耐火材22を十分に膨張させ、発泡体を形成させることによって、火炎による熱を遮断する所期の耐火性能を発現させることが好ましい。したがって、耐火被覆ユニット1の固定は、結合板13を第1被覆板11の外面に沿って回動させ、第1被覆板11と第2被覆板12とに架け渡し、結合板13の他端部を第2被覆板12に止着するという、極めて簡単な作業だけで、十分にその耐火性能を発揮しうる耐火被覆構造を形成することができる。
【0067】
前記各工程を鉄骨柱6の高さ方向全体にわたって複数回行い、鉄骨柱6の全面に対し耐火被覆構造を備えさせる。第1被覆板11同士及び第2被覆板12同士の目地は突き付けとし、隙間を生じないように配置する。
【0068】
以上のような鉄骨柱6の耐火被覆工法によれば、例えば、図1に示す建築物の出隅部において、鉄骨柱6の二面に外壁材7が近接して配置されていても、鉄骨柱6の四周全面に対して十分な耐火被覆構造を形成することができる。そのため、外壁材7の種類が制限されず、設計の自由度を高めることが可能となる。かかる耐火被覆を施した鉄骨柱6の周囲では、梁等の他の構造材の耐火被覆作業を行い、断熱材51や内壁材52等を配設して壁面を形成する。
【0069】
また、図9に示すように、開口部9の側部に設けられる外壁材7に、鉄骨柱6が近接して配置される場合にも、本耐火被覆工法を好適に実施することができる。すなわち、鉄骨柱6と外壁材7とが近接し、開口部9に設けるサッシと鉄骨柱6との間が狭い場合であっても、鉄骨柱6の四周全面に対して耐火被覆ユニット1を配置し、十分な耐火性能を具備させることができる。これにより、開口部9の側部で鉄骨柱6を納める壁体の厚みを増大させることなく、良好に耐火被覆構造を形成することができる。
【0070】
なお、本発明において、耐火被覆ユニット1は、前記のように鉄骨柱6に外壁材7が近接して配置される部分に限らず、建築物の耐火性能が要求される部分であれば、間仕切壁等のどのような壁体に近接する鉄骨柱6に対しても適用することができ、壁厚を厚くすることなく作業性よく所望の耐火被覆構造を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、壁面に沿って設けられた鉄骨柱を耐火被覆構造とするのに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 耐火被覆ユニット
11 第1被覆板
12 第2被覆板
13 結合板
21 金属板
22 熱膨張性耐火材
31 正面板部
32 側面板部
41 接合具
42 止着具
6 鉄骨柱
61 ウェブ
62 フランジ
7 外壁材
81 ケイ酸カルシウム板
82 ロックウール材
9 開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9