特許第5955676号(P5955676)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955676
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】原料油の貯蔵用タンクへの送油方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 99/00 20060101AFI20160707BHJP
【FI】
   C10G99/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-162996(P2012-162996)
(22)【出願日】2012年7月23日
(65)【公開番号】特開2014-19855(P2014-19855A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502053100
【氏名又は名称】石油コンビナート高度統合運営技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】港谷 昌成
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−108200(JP,A)
【文献】 特開2003−200884(JP,A)
【文献】 特公昭56−021960(JP,B2)
【文献】 特開平05−118500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
F17D 3/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の異なる原料油を、同一の受入配管を用いて各原料油貯蔵用タンクへと順次送油する方法であって、
前記受入配管中に残存する先に投入した原料油と、前記受入配管中へ後に投入した原料油との混合油の硫黄分又は窒素分が、基準値以下となった後に前記各原料油貯蔵用タンクの切換えを行い、該混合油の硫黄分又は窒素分の基準値(D質量ppm)が、以下の式によって得られることを特徴とする原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
D=A×(0.001×C)+B×{1―(0.001×C)}
式中、A:先に投入した原料油中の硫黄分又は窒素分(質量ppm)、B:後に投入した原料油中の硫黄分又は窒素分(質量ppm)、A>B、C=4である。
【請求項2】
前記混合油の硫黄分又は窒素分の測定は、前記受入配管の各原料貯蔵用タンク側出口、前記原料油の流路を切り換えるためのバルブの入口又は前記先に投入した原料油の貯蔵用タンクの入口で行われることを特徴とする請求項に記載の原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
【請求項3】
前記後に投入する原料油は、10容量%留出温度が35〜80℃、95容量%留出温度が230〜400℃、97容量%留出温度が250〜450℃、の蒸留性状を有し、
前記後に投入する原料油中のナフサ留分の硫黄分を、前記後に投入する原料油の硫黄分で割った値が、0.1以上、1.5未満である炭化水素油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
【請求項4】
前記先に投入する原料油は、10容量%留出温度が75〜100℃、95容量%留出温度が620〜800℃、97容量%留出温度が650〜820℃、の蒸留性状を有し、
前記先に投入する原料油中のナフサ留分の硫黄分を、前記先に投入する原料油の硫黄分で割った値が、0.001以上、0.1未満である炭化水素油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料油の貯蔵用タンクへの送油方法に関し、特に、複数の原料油を同一の受入配管を用いて、原料油に応じた貯蔵用タンクへと順次送油する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製油所では、原料油を製油所内に受入れる際、原料油受入れるための受入配管を通じて原料油に応じた貯蔵用タンクへと送油を行い、貯蔵を行っている。例えば、タンカーにて運搬された原油を、ポンプで吸い上げ、原料油受入配管を通じて送油し、原油貯蔵用タンクに貯蔵している。
【0003】
原料油には複数の種類があり、原料油の貯蔵用タンクも原料油の種類に応じて複数備えている。そのため、原料油の種類や、原料油の貯蔵用タンクの種類に応じて、原料油受入配管を複数設けることも考えられるが、コスト及び設置スペースを考慮し、原料油の受入配管については共有し、配管の出口側(タンク側)にタンク切換バルブを設けることで、バルブを操作し、バルブから複数の原料油貯蔵用タンクに接続されたタンク用配管へと流路を切り換えることが一般的である。
【0004】
例えば特許文献1には、原油を蒸留して基材留分を得る工程と、前記基材留分を精製して各種基材を得る工程と、前記各基材を切換バルブ等を用いて基材タンクに貯蔵する工程と、前記各基材をブレンドして石油製品を得る工程と、得られた製品をバルブ等を用いて製品タンクに貯蔵する工程とを連続的に行う石油製品の製造方法において、前記各工程を個別に制御するとともに、前記基材あるいはブレンドされた石油製品の性状に基づいて前記各工程を最適化制御することを特徴とする石油製品の製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記タンク切換バルブを操作して流路を切り換えることで、各原料油を対応した貯蔵用タンクに送油する場合、原料油の受入配管を共有しているため、先に受入配管へ投入した後、原料油の流路を次の原料油の貯蔵用タンクへと切り換えた際、該受入配管中に先に投入した原料油が残存し、後に投入する原料油の貯蔵用タンク内に混入するという問題があった。
【0006】
そして、上記のように原料油貯蔵用タンク中に異種の原料油が混入すると、それぞれの原料油の相溶性が悪い場合には貯蔵用タンク内にスラッジ等の不溶解分が発生したり、異種の原料油の混入により貯蔵安定性が悪化するという問題がある。生成油中の硫黄分の規格を満足させるべく、異種の原料油(先に投入した原料油)が混入した原料油(後に投入した原料油)を水素化精製処理するための反応温度を高くする必要が生じ、コストの増加を招く問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−225788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため本発明は、受入配管中に残存する原料油について適正な制御を行うことで、原料油貯蔵用タンク中に異種の原料油が混入することを抑制でき、貯蔵安定性及び経済性に優れた原料油の貯蔵用タンクへの送油方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、2種以上の異なる原料油を、同一の受入配管を用いて各原料油貯蔵用タンクへと順次送油する方法について、上記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた。その結果、前記受入配管中に残存する先に投入した原料油と、前記受入配管中へ後に投入した原料油との混合油の物性が、基準値以下となった後に、前記各原料油貯蔵用タンクの切換えを行うことで、前記後に投入した原料油の貯蔵用タンク中に異種の原料油(先に投入した原料油)が混入することの抑制を可能とし、優れた貯蔵安定性及び経済性を実現できることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)2種以上の異なる原料油を、同一の受入配管を用いて各原料油貯蔵用タンクへと順次送油する方法であって、
前記受入配管中に残存する先に投入した原料油と、前記受入配管中へ後に投入した原料油との混合油の硫黄分又は窒素分が、基準値以下となった後に前記各原料油貯蔵用タンクの切換えを行い、該混合油の硫黄分又は窒素分の基準値(D質量ppm)が、以下の式によって得られることを特徴とする原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
D=A×(0.001×C)+B×{1―(0.001×C)}
式中、A:先に投入した原料油中の硫黄分又は窒素分(質量ppm)、B:後に投入した原料油中の硫黄分又は窒素分(質量ppm)、A>B、C=4である。
【0014】
)前記混合油の硫黄分の測定は、前記受入配管の各原料貯蔵用タンク側出口、前記原料油の流路を切り換えるためのバルブの入口又は前記先に投入した原料油の貯蔵用タンクの入口で行われることを特徴とする上記(1)に記載の原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
【0015】
)前記後に投入する原料油は、10容量%留出温度が35〜80℃、95容量%留出温度が230〜400℃、97容量%留出温度が250〜450℃、の蒸留性状を有し、
前記後に投入する原料油中のナフサ留分の硫黄分を、前記後に投入する原料油の硫黄分で割った値が、0.1以上、1.5未満である炭化水素油であることを特徴とする請求項(1)又は(2)に記載の原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
【0016】
)前記先に投入する原料油は、10容量%留出温度が75〜100℃、95容量%留出温度が620〜800℃、97容量%留出温度が650〜820℃、の蒸留性状を有し、
前記先に投入する原料油中のナフサ留分の硫黄分を、前記先に投入する原料油の硫黄分で割った値が、0.001以上、0.1未満である炭化水素油であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の原料油の貯蔵用タンクへの送油方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、原料油貯蔵用タンク中に異種の原料油が混入することを抑制でき、貯蔵安定性及び経済性に優れた原料油の貯蔵用タンクへの送油方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による原料油の貯蔵用タンクへの送油方法を説明するための図であって、原料油、受入配管及び貯蔵用タンクの一実施形態についての構成を示す。
図2】本発明による原料油の貯蔵用タンクへの送油方法を説明するための図であって、先に投入する原料油を、原料油受入配管を通じて、該先に投入する原料油用の貯蔵用タンクに送油する状態を示す。
図3】本発明による原料油の貯蔵用タンクへの送油方法を説明するための図であって、後に投入する原料油を原料油受入配管に投入し始め、前記先に投入する原料油と後に投入する原料油との混合油を、前記先に投入する原料油の貯蔵用タンクに送油している状態を示す。
図4】本発明による原料油の貯蔵用タンクへの送油方法を説明するための図であって、前記混合油の物性が基準値以下になった後、後に投入する原料油を後に投入する原料油の貯蔵用タンクに送油する状態を示す。
図5】本発明による原料油の貯蔵用タンクへの送油方法を説明するための図であって、後に投入する原料油を、図3とは別の貯蔵用タンクに送油する状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明ついて図面を用いて説明する。
本発明に従う原料油の貯蔵用タンクへの送油方法は、図1に示すように、2種以上の異なる原料油を、同一の受入配管1を用いて各原料油貯蔵用タンク10、11、12へと順次送油する方法である。
【0020】
そして本発明では、前記受入配管中に残存する先に投入した原料油と、前記受入配管中へ後に投入した原料油との混合油の物性が基準値以下となった後に、前記各原料油貯蔵用タンクの切換えを行うことを特徴とする。
【0021】
上記構成を具備することで、前記先に投入した原料油と前記後に投入した原料油との間で、性状や硫黄分、窒素分の物性がより近いほうの原料油貯蔵用タンクへ前記混合油を投入することが可能となるため、原料油貯蔵用タンク中に異種の原料油が混入することを有効に抑制できる。その結果、原料油の貯蔵について、安定性及び経済性を向上することができる。
【0022】
従来の送油方法は、前記受入配管へ新たな原料油(後に投入された原料油)の投入が開始されると、後に投入された原料油の貯蔵用タンクへとバルブが切り替わるため、前記受入配管中に残存する先に投入された原料油が後に投入された原料油の貯蔵用タンクへと混入することとなる。その結果、原料油の性状等が大きく変動する場合があり、原料油の貯蔵安定性及び前記後に投入した原料油の水素化精製処理時の装置運転条件の過酷度の悪化、強いては経済性に影響を及ぼすことになる。
【0023】
(配管)
本発明の送油方法では、図1に示すように、受入配管1を用いて原料油を原料油貯蔵用タンク10、11、12へと送油する。受入配管1の構成については、特に限定はされず、製油所において通常用いられる受入配管を用いればよい。
【0024】
本発明の送油方法では、前記受入配管から投入される原料油の貯蔵用タンクの切換えについて、前記受入配管中に残存する先に投入した原料油と、前記受入配管中へ後に投入した原料油との混合油の物性が基準値以下になるか否かに基づいて判断される。基準値以下になるか否かで切換が行われることで、安定した送油が行えるとともに、送油の自動的な制御が可能となる。
例えば、まず、図2に示すようにして、先に投入する原料油を、先に投入する原料油用の貯蔵用タンクに送油する。次に、図3に示すように、先に投入した原料油の送油後に、後に投入する原料油の送油を開始した場合、原料油受入配管内の混合油の物性(例えば、硫黄分)が基準値以下になるまでは、先に投入した原料油用の貯蔵用タンク10a、10b・・・へ、混合油の送油を続ける。そして、図4に示すように前記混合油の硫黄分が基準値以下になった後、原料油貯蔵用タンクを先に投入した原料油用の貯蔵用タンク10a(あるいは10b、10c・・・)から、後に投入した原料油用の貯蔵用タンク11に切り替えて、後に投入した原料油の送油を継続する。
また、図5に示すように、原料油受入配管等の配管内の油が後に投入した原料油に適切に置き換わった状態の配管を用いて送油を行う場合には、さらに別の、後に投入する原料油用の貯蔵用タンク12に切り換えて送油を継続することもできる。
なお、原料油の種類によらず共用する配管である原料油受入配管等以外の配管で、目的とする原料油用の貯蔵用タンクに直結したタンク用配管等は、普段から目的とする原料油しか通過していない。
【0025】
ここで、前記混合油の物性については、先に投入した原料油と後に投入した原料油との区別を行える値であれば特に限定はされず、例えば、硫黄分、窒素分、密度、蒸留性状から算出される重質分の比率等が挙げられる。
【0026】
前記物性については、その中でも、前記物性は硫黄分又は窒素分であることを要し、硫黄分と窒素分を併用することもできる。硫黄分と窒素分は、原料油によって含有量が異なるため、原料油が入れ替わるタイミングを把握し易い。また、例えば硫黄分あるいは窒素分が多い原料油が原料貯蔵用タンクに混入した場合、規格を満たすべく水素化精製処理を必要とし、経済性の悪化を招くため、硫黄分の値を基準に判断することで、優れた経済性を確保できるからである。
【0027】
また、前記混合油の硫黄分の基準値は、前記混合油の硫黄分の基準値(D質量ppm)として、以下の式によって得られる
D=A×(0.001×C)+B×{1―(0.001×C)}
ここで、Aは、先に投入した原料油中の硫黄分(質量ppm)であり、Bは、後に投入した原料油中の硫黄分(質量ppm)であり、A>B、C=4である。
Cの値を4としたのは、Cが4を超える場合、先に投入した原料油と後に投入した原料油との物性及び性状が大きく異なるため、それぞれの原料油が混入した場合の貯蔵安定性や前記混合油を一括水素化精製処理(脱硫)装置に供給した時に、例えば水素化精製処理油中の物性(硫黄分等)を一定に維持するために反応温度を高くする必要性が生じるおそれがあり、反応温度の上昇により触媒の劣化が促進されて触媒の寿命が短くなることや、反応温度を高くすることによって、運転コストの面で経済性の悪化を招くおそれがあるからである。
【0028】
貯蔵安定性の一つの指標としては、前記先に投入した原料油と、前記後に投入した原料油との相溶性の指標であるアスファルテンの数値が挙げられる。この数値が上昇するということは、二つの原料油を混合することにより、油中から析出物が多く発生するということであり、原料油の処理時に装置の汚れ、詰まりなどを発生させる原因となる。後に投入した原料油に先に投入した原料油が一定以上混入すると、前記アスファルテンの数値が上昇する。
一方、後に投入した原料油と先に投入した原料油との混合油の物性が基準値以下となってからタンク配管と貯蔵用タンクを切り換えて、後に投入した原料油を、該後に投入した原料油用の貯蔵用タンクに送油していくと、共用受入配管内になお残存する先に投入した原料油及びその成分は、後に投入した原料油中に徐々に長い時間をかけて混入し続け、後に投入した原料油用の貯蔵用タンク内に混入していく。通常の製油所で使用する原料油用の貯蔵用タンクの容量を考慮して、上記タンク切り換え後に送油が完了した貯蔵用タンク内の原料油の貯蔵量に対する、上記共用受入配管内の先に投入した原料油及びその成分の混入量の割合が、上記貯蔵安定性が大幅に悪化しない程度以下に、及び、当該原料油を水素化精製(脱硫)処理装置に供給したときに処理条件(反応温度等)に多大な影響が出ない程度以下になるよう、上記の基準値を決める。
ここで、送油中の貯蔵用タンク内の原料油ではなく、上記配管及びタンクの切り換えをする直前の共用受入配管内の混合油が、最も上記混入量の割合が高いので、このときの混合油の物性について基準値を定めることで、上記貯蔵安定性及び処理条件に大きな影響が発生することを未然に防止できる。前記未然に防止するためには、前記基準値Dを算定する際に、上記Cの値は、上記A>B、C=4とすることが好ましい。例えば、C=4のときの基準値Dの物性(例えば硫黄分)を持つ原料油を、当該原料油と同じ油種の原料油を処理中の水素化精製装置に、原料油貯蔵用タンクを切り換えて供給したときに、処理油の物性(例えば硫黄分)を一定にコントロールして処理を継続するための反応温度の上昇度合いが10℃以下であれば処理条件に大きな影響は発生しないとする。前記反応温度の上昇度合いが10℃を超えると、触媒の劣化が促進されて触媒の寿命が短くなる恐れや、触媒交換頻度増大、及び、反応温度を上昇することに伴う運転コスト上昇により、水素化精製処理の経済性が悪化するおそれがあるからである。
また、前記混合油の物性を硫黄分から窒素分に変更した場合にも、前記と同様な式において基準値を定めることが可能である。
【0029】
さらに、前記混合油の硫黄分の測定については、後述する、前記受入配管の各原料貯蔵用タンク側出口、原料油の流路を切り換えるためのバルブの入口、又は、先に投入した原料油の貯蔵用タンクの入口で行われることが好ましい。前記貯蔵用タンクの前で行うことによって、異種の原料油が混入することを事前に抑制できるからである。
【0030】
また、図1に示すように、前記受入配管1と各原料油貯蔵用タンク10、11、12とを接続する配管として、タンク用配管2が設けられる。該タンク用配管2を設けることで、複数の原料油の送油を1つの受入配管を用いて行うことができる。
【0031】
さらに、図1に示すように、前記受入配管1と前記各タンク用配管2との間にタンク切換バルブ3を設けることができる。タンク切換バルブを操作し、前記受入配管1中の原料油を目的のタンク用配管2へ通し、貯蔵用タンク10、11、12へと送油することができる。ただし、本発明では、タンク切換バルブと同様に、前記受入配管1中の原料油が各貯蔵用タンク10、11、12へ向かうように流路を切り換えることができる機能を有する手段であれば、タンク切換用バルブ3を用いなくとも良い。
【0032】
(原料油貯蔵用タンク)
原料油貯蔵用タンクについては、原料油を格納することができれば特に限定はされないが、浮き屋根式タンクが、貯蔵油の蒸発損失を少なくし、蒸気相を無くして安全性を保つことから当該原料油の貯蔵用として多く使用される。
【0033】
また、原料油貯蔵用タンクは、原料油ごとに1つの格納用タンクを備えることもできるし、格納用タンクの中をいくつかに分割して、複数の原料油を格納することも可能である。
【0034】
(原料油)
本発明では、2種類以上の原料油を貯蔵用タンクへと送油する。原料油の種類については、特に限定はせず、種々の原料油を用いることが可能である。
本発明では、2種類以上の原料油を貯蔵用タンクへと送油する場合、前記受入配管中に先に投入された原料油を「先に投入された(する)原料油」、先の原料油の受入配管への投入後、次の原料油を受入配管中に投入した場合、その原料油を「後に投入された(する)原料油」と呼んでいる。
【0035】
また、前記後に投入した原料油と先に投入した原料油との混合油が、後に投入する原料油を一括水素化精製処理するための原料油貯蔵用タンクに混入した場合、該原料油貯蔵用タンク内の原料油の貯蔵安定性、及び、一括水素化精製処理(脱硫)装置の運転への影響が大きい。
例えば、前記一括水素化精製処理後の製品の硫黄分を一定にした運転を行う場合に反応温度が急激に上昇したり、前記貯蔵用タンク内や配管内、一括水素化精製処理装置内などで、析出物が発生して閉塞等のトラブルになるおそれがある。そのため、上記の貯蔵安定性や運転への影響が大きくなり易く、本発明の効果が顕著に発揮されるという理由から、本発明の対象とする後に投入する原料油は、10容量%留出温度が35〜80℃であることが好ましく、より好ましくは36〜72℃であり、95容量%留出温度が230〜400℃であることが好ましく、より好ましくは250〜350℃であり、97容量%留出温度が250〜450℃であることが好ましく、より好ましくは250〜400℃の蒸留性状を有する。さらに、前記常圧蒸留して得られるナフサ留分の硫黄分を、原料油の硫黄分で割った数値が0.1以上、1.5未満である炭化水素油を用いることが好ましい。ただし、各留分の使用用途等により上記の数値範囲を逸脱しない範囲で適宜調整することができる。
【0036】
なお、本発明において、ナフサ留分の硫黄分を原料油の硫黄分で割った値とは、ナフサ留分として蒸留装置(液体混合物を沸点の差を利用して分離する装置であって、常温・常圧で液体又は固体の混合物でも温度と圧力の調節により液体混合物として蒸留により分離できる装置)を用いて、炭素数が5の常温常圧で液体の炭化水素から沸点150℃にて分留を行った後の、当該ナフサ留分の硫黄分と、原料油の硫黄分の比率を意味する。また、一般的に、ナフサ留分は沸点範囲30〜200℃程度のものである。
【0037】
本発明では、前記後に投入する原料油中のナフサ留分の硫黄分を、前記後に投入する原料油の硫黄分で割った値が0.1以上、1.5未満が好ましく、より好ましくは0.5以上、1.2未満である。なお、前記後に投入する原料油中のナフサ留分の硫黄分は200〜8000wtppmの範囲が好ましく、前記後に投入する原料油の硫黄分は10〜3000wtppmの範囲が好ましい。本発明における一括水素化精製処理(脱硫)は、原料の炭化水素油から少なくとも軽質ガス及びLPガスを除いた留分を一括して水素化精製処理することから、各留分に含有される硫黄分の脱硫反応性の違いにより、より軽質留分の脱硫反応性が高くなる。そのため、ナフサ留分の硫黄分が高い(あるいは、灯油留分、軽油留分などの他の留分それぞれの硫黄分よりも、ナフサ留分の硫黄分が高い)原料油を使用することにより、灯油留分や軽油留分の脱硫率に着目して、反応温度を設定することができる。
例えば、サルファーフリー軽油(硫黄分10質量ppm以下)の精製に反応条件を設定した場合には、軽油留分より軽質な留分はより硫黄分が少なくなり、軽質ナフサ、重質ナフサのように、品質上軽油より硫黄分が少ないものについても、所望の品質が確保された製品を得ることができる。
【0038】
前記原料炭化水素油として、具体的には、天然ガスコンデンセートを挙げることができる。天然ガスコンデンセートとは、天然ガス田より天然ガスの採取、精製を行う過程で得られる常温、常圧で液体の炭化水素のことであり、油田から得られる一般の原油に比べて極めて軽質でナフサに近い性状である。前記天然ガスコンデンセートは、石油類の比重として欧米諸国で広く使われているAPI比重で50以上の軽質油で、かつ硫黄分が少ないことから、API比重20〜50で硫黄分0〜3%程度である原油よりもガソリンなどの軽質の石油製品を多く精製できる原料油である。天然ガスコンデンセートとしては、例えば、中東産のサウスパースコンデンセート、ノースフィールドコンデンセートを例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、前記原料炭化水素油としては、異なる性状を有する複数の炭化水素油を混合して、上記の蒸留性状及び硫黄分を有する炭化水素油としたものを用いることも可能である。
【0039】
一方、前記先に投入する原料油については、例えば、前記先に投入した原料油と後に投入した原料油との混合油が、前記先に投入する原料油を水素化精製するための原料油貯蔵用タンクに混入しても、該原料油貯蔵用タンク内の原料油の貯蔵安定性や該原料油貯蔵用タンク内の原料油が運転に与える影響は小さい傾向にある。ただし、その場合でも後に投入する原料油と先に投入する原料油の混合油が引き起こす貯蔵安定性や運転への影響が大きくなり易く、本発明の効果が顕著に発揮されるという理由から、本発明が対象としている先に投入する原料油は、10容量%留出温度が75〜100℃であることが好ましく、より好ましくは75〜90℃であり、95容量%留出温度が620〜800℃であることが好ましく、より好ましくは620〜750℃であり、97容量%留出温度が650〜820℃であることが好ましく、より好ましくは650〜800℃である、蒸留性状を有する。さらに、常圧蒸留して得られるナフサ留分の硫黄分を原料油中の硫黄分で割った値が0.001以上、0.1未満の炭化水素油を用いることが好ましい。ただし、各留分の使用用途等により上記の数値範囲を逸脱しない範囲で適宜調整することができる。
【0040】
なお、上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲の記載内容に応じて種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
なお、実施例及び比較例において、蒸留性状、密度、硫黄分は、以下の方法に従って行った。
・蒸留性状:JIS K 2254に規定する「石油製品―蒸留試験方法」
・密度:15℃における密度は、JIS K 2249に規定する「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表(抜粋)」の「振動式密度試験方法」に準拠して測定されるものである。
・硫黄分:JIS K 2541―1992に規定する「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定される。
・窒素分:JIS K 2609―1998に規定する「原油及び石油製品―窒素分試験方法」の「化学発光法」または「微量電量滴定法」に準拠して測定される。
【0043】
(実施例1)
図1に示すように、2種の異なる原料油を、同一の受入配管を用いて各原料油貯蔵用タンクへと順次送油した。受入配管中に先に投入した原料油は、サウジアラビア産のアラビアンヘビー原油であり、その性状を表1に、各留分の収率及び性状を表2に示す。受入配管中に後に投入した原料油は、カタールのノースフィールドガス田から得られたコンデンセート(ラスガスコンデンセート)であり、その性状を表3、各留分の収率及び性状を表4に示す。
なお、各原料油貯蔵用タンクの切換えは、前記受入配管中に残存する先に投入した原料油と、前記受入配管中へ後に投入した原料油との混合油の硫黄分(質量ppm)が、前記先に投入した原料油の硫黄分をA(質量ppm)、前記後に投入した原料油の硫黄分をB(質量ppm)、としたとき、D=A×(0.001×C)+B×{1―(0.001×C)}の式で算出され、C=4の時の基準値D以下になった際に実施した。前記混合油の硫黄分及び窒素分は、前記受入配管における前記後に投入した原料油(ラスガスコンデンセート)の貯蔵用タンク側の出口に設けたノズル(図示せず)から必要量採取したサンプルを用いて測定した。
つまり、先に投入した原料油(アラビアンヘビー原油)の硫黄分が28100質量ppmであり、後に投入した原料油(ラスガスコンデンセート)の硫黄分が2280質量ppmであったため、受入配管中の混合油の硫黄分が、これらの値とC=4で算定した前記混合油の硫黄分D(質量ppm)が2383質量ppm以下になったことを確認し、タンク切換バルブを操作して、原料油貯蔵用タンクの切換を行った。
また、この時の先に投入した原料油(アラビアンヘビー原油)の窒素分は1270質量ppm、後に投入した原料油(ラスガスコンデンセート)の窒素分は9.6質量ppmであり、これらの値とC=4で算定した前記混合油の窒素分の基準値D’(質量ppm)は、14.6質量ppmであるが、上記のタンク切換えバルブを操作したときの前記混合油の窒素分は、前記の14.6質量ppm以下になっていた。
その結果、上記のタンク切換えバルブを操作したときの一括水素化精製(脱硫)装置の反応温度の変動は10℃以下であった。また、前記混合油のアスファルテン分の値についても、前記後に投入した原料油の値と遜色無い値であり、タンク内の貯蔵安定性や、析出物の発生による閉塞等のトラブルも生じなかった。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
(実施例2)
上記のラスガスコンデンセートとアラビアンヘビー原油を、アラビアンヘビー原油の硫黄分をA(質量ppm)とし、ラスガスコンデンセートの硫黄分をB(質量ppm)としたとき、両者を混合した原料油中の硫黄分Dが、C=0〜4の数値範囲で、D=A×(0.001×C)+B×{1―(0.001×C)}の関係式を満たすよう混合した原料油から、常圧蒸留により軽質ガス及びLPガスを除いた軽質ナフサからの連続留分を(炭素数が5以上の常温常圧で、液体の炭化水素の全留分を)原料油とした。
その後、原料油を内径10mm×長さ500mmの反応器に入れ、市販のCo−Mo系触媒を15cc添加した下向並流式反応器を用い、水素純度:100%、圧力:5MPa、H2/油比:160Nm3/kL、LHSV:2.0h-1の反応条件で、軽質ナフサから軽油までの連続留分を一括して水素化精製処理した。
反応温度については、水素化処理後の精製油を分留器に移して常圧蒸留し、軽油留分(250℃〜350℃の留分)を分離し、この留分の残留硫黄濃度が10質量ppmになるように調整を行った。
その結果、前記定数Cの値が0の場合に軽油中の残留硫黄が10質量ppmとなるときの反応温度は300℃であった。また、前記定数Cの値が4の場合の反応温度は310℃であった。その結果、前記定数Cが0〜4の範囲では、反応温度の上昇を10℃以下に抑えられ、装置に与える影響も小さく、経済的にも良好な結果を示すことがわかった。
【0049】
(比較例1)
実施例2において、アラビアンヘビー原油の硫黄分をA(質量ppm)とし、ラスガスコンデンセートの硫黄分をB(質量ppm)としたとき、Cの値が4を超えて関係式を満たすように、D(質量ppm)の範囲で混合した原料油から、常圧蒸留により軽質ガス及びLPガスを除いた軽質ナフサからの連続留分(炭素数が5以上の常温常圧で、液体の炭化水素の全留分)を原料油とした。
その後、原料油を内径10mm×長さ500mmの反応器に入れ、市販のCo−Mo系触媒を15cc添加した下向並流式反応器を用い、水素純度:100%、圧力:5MPa、H2/油比:160Nm3/kL、LHSV:2.0h-1の反応条件で、軽質ナフサから軽油までの連続留分を一括して水素化精製処理した。
反応温度については、水素化処理後の精製油を分留器に移して常圧蒸留し、軽油留分(250℃〜350℃の留分)を分離し、この留分の残留硫黄濃度が10質量ppmになるように調整を行った。
その結果、前記定数Cの値が7の場合に軽油中の残留硫黄が10質量ppmになるときの反応温度は320℃であった。また、定数Cの値が15の場合の反応温度は370℃であった。その結果、Cの値が4を超える値の場合は、反応温度は10℃を超え、装置に与える影響が大きいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、原料油貯蔵用タンク中に異種の原料油が混入することを抑制でき、貯蔵安定性及び経済性に優れた原料油の貯蔵用タンクへの送油が可能となる。その結果、高純度の原料油を安定して回収することができる点で、産業上有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 受入配管
10 先に投入した原料油用の原料油貯蔵用タンク
11 後に投入した原料油用の原料油貯蔵用タンク
12 後に投入した原料油用の原料油貯蔵用タンク
図1
図2
図3
図4
図5