【実施例】
【0023】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0024】
図において、符号1は、キャブオーバ型トラックの自動車で例示される車両で、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、上記前方に向かっての車両1の車体2の幅方向をいうものとする。
【0025】
上記車体2は、その下端部側を構成して車体2の前後方向に長く延び、この車体2の骨格部材とされる車体フレーム3と、車体2の前上部側を構成し、上記車体フレーム3の前部に支持される運転台4と、車体2の後上部側を構成して上記車体フレーム3の後部側に支持される荷台5と、上記車体フレーム3に支持されて車体2を走行路面上に支持する前、後車輪7,7とを備えている。
【0026】
上記運転台4の内部は運転室としての車室10とされ、上記運転台4は、上記車室10の下面を形成して上記車体フレーム3の前部上に支持されるフロアパネル11と、上記車室10の下部前面を形成するよう上記フロアパネル11の前端縁部から上方に延びるフロントパネル12と、上記車室10の上部前面を形成するよう上記フロントパネル12の上端縁部から上方に連設されるフロントウィンド13とを備えている。
【0027】
また、上記運転台4は、上記車室10の側面を形成する側壁14と、この側壁14に形成されて車室10の内外を連通させるドア開口15と、このドア開口15の前部開口縁部にヒンジ16により枢支されて車体2の外側方から上記ドア開口15を開閉可能に閉じるサイドドア17と、上記フロントパネル12の下部をその前方から覆うよう設けられるバンパ18とを備えている。
【0028】
上記フロアパネル11、フロントパネル12、および側壁14はそれぞれ板金製とされ、バンパ18は樹脂製とされている。また、上記ドア17は、その下部側に前後方向に長く延びる板金製のインパクトビーム21を有している。このインパクトビーム21は上記ドア開口15の前後方向における内側のほぼ全体にわたり設けられている。
【0029】
上記ドア開口15の前部開口縁部はフロントピラー23といわれるもので、このフロントピラー23は車体2の骨格部材を構成して、上記車体フレーム3と強固に互いに結合される。
【0030】
上記車室10の一側部(右側部)において、上記フロントパネル12の上部側から操向用ハンドル24が後上方に向けて突設され、このハンドル24の後方に運転者25が着座するシート26が設けられる。このシート26は上記フロアパネル11上に支持される。上記ハンドル24の軸心27は後上方に向かって延び、上記ハンドル24は上記運転者25に把持されて操向操作可能とされる。
【0031】
上記フロントパネル12の上部の後方近傍で車室10の前端部に、上記フロントパネル12に沿って車体2の幅方向に長く延びる車室10の換気用エアダクト29が設けられる。このエアダクト29は板金製で、車体2の前後方向で互いに対面する前、後ダクトパネル30,31を有し、これらパネル30,31は最中形状となるよう互いに接合される。このエアダクト29の長手方向の各部は中空閉断面構造とされる。上記エアダクト29の長手方向の各端部は上記各フロントピラー23の上下方向の中途部に支持される。
【0032】
上記フロントパネル12の上下方向の中途部の前方近傍で、このフロントパネル12の中途部と上記バンパ18の上端縁部との間に、上記フロントパネル12に沿って車体2の幅方向に長く延びるクロスメンバ34が設けられる。このクロスメンバ34は板金製で、その長手方向の各部断面は、その内部空間が後方に向かって開くハット形状とされて所定の剛性が確保される。上記クロスメンバ34の長手方向の各端部は、それぞれ板金製のクラッシュ体35を介して上記各フロントピラー23の上下方向の中途部に支持される。
【0033】
上記各フロントピラー23の長手方向の中途部の内部に板金製のバルクヘッド36が設けられる。上記車体2の各側部において、上記クロスメンバ34の端部、クラッシュ体35、フロントピラー23に内設されるバルクヘッド36、およびドア17内のインパクトビーム21がこの順序で車体2の後方に向かって列設される。
【0034】
上記フロントパネル12の上下方向の中途部の後方近傍で車室10の前端部に、上記フロントパネル12に沿って車体2の幅方向に長く延びる他のクロスメンバ39が設けられる。この他のクロスメンバ39は板金製で、その長手方向の各部断面は、その内部空間が前方に向かって開くハット形状とされて所定の剛性が確保される。上記他のクロスメンバ39は、上記エアダクト29の前ダクトパネル30の下端縁部に一体的に形成される。
【0035】
上記クロスメンバ34と他のクロスメンバ39とは上記フロアパネル11を挟んで車体2の前後方向で互いに対面し、これら34,39,11は上、下スポット溶接S1,S2により互いに強固に結合される。
【0036】
上記車室10の前端部の一側部(右側部)に配置され、上記フロントパネル12側から車室10内部の後方に向かって突出するよう上記フロントパネル12側に取り付けられるブラケット41が設けられる。このブラケット41は板金製で、その上部側を構成し、上記エアダクト29の後ダクトパネル31に締結具42により締結されるブラケット本体41aと、このブラケット本体41aの下端部から前下方に向かって一体的に突出する左右脚部41b,41cとを有している。上記ブラケット本体41aの後面は車体2の幅方向に延び、上記各脚部41b,41cの各下端部は座板43を介してそれぞれ他の締結具44により上記フロントパネル12に締結される。なお、上記座板43は設けなくてもよいが、上記座板43を上記ブラケット41の構成部品として、このブラケット41が有するものとしてもよい。
【0037】
上記ブラケット41の下部に、上記運転者25により踏動可能となるよう枢支軸46によりブレーキペダル47が枢支される。また、上記ブラケット41のブラケット本体41aの後面に、上記ブレーキペダル47への操作力を助長するよう連動して不図示のブレーキ装置にブレーキ作動用圧油を供給するブレーキブースター48が支持される。このブレーキブースター48は、上記ブラケット41のブラケット本体41aの後面に締結具51により締結されるブースター本体52と、このブースター本体52から後方に向かって突出する油圧シリンダ53とを有している。上記ブースター本体52は円板形状をなし、これらブースター本体52と油圧シリンダ53とは同一の軸心54上に位置している。この軸心54は上記ブラケット本体41aの後面に直交して、車体2の前後方向に延び、かつ、わずかに後上方の傾斜方向に向かって延びている。
【0038】
上記の場合、ブラケット41、ブレーキブースター48、および軸心54は、全体的に上記ハンドル24の軸心27よりも車体2の外側方がわ(右側方がわ)に偏って配置される。また、上記ブレーキブースター48の油圧シリンダ53は、上記ブラケット41およびブースター本体52側から上記シート26に着座した運転者25の車体2の外側方がわ(右側方がわ)の右側下肢に向かって突出している。この場合、上記ブレーキブースター48の油圧シリンダ53の後方近傍に上記運転者25の右側下肢が位置している。
【0039】
車体2の平面視(
図3)で、上記クロスメンバ34は車体2の前方に向かって凸の円弧形状となるよう大きい半径で屈曲させられている。このため、上記クロスメンバ34の側部は、車体2の内側方に向かうに従い前方に向かって延びるよう傾斜している。そして、この傾斜した分、上記ブラケット41の左右脚部41b,41cのうち、車体2の内側方がわの左脚部41bの方が右脚部41cよりも長く形成される。
【0040】
車体2の正面視(
図4)で、上記フロントパネル12側への上記ブラケット41の下端部の取り付け部は上記クロスメンバ34の上記側部に近接配置されている。具体的には、上記フロントパネル12に締結により取り付けられる上記ブラケット41の各脚部41b,41cの各下端部は上記クロスメンバ34の上記側部の下方近傍に配置される。また、上記座板43の上端部は上記フロントパネル12、クロスメンバ34の下端縁部、他のクロスメンバ39の下端縁部と共に前記下スポット溶接S2により互いに重ねられて一体的に結合される。
【0041】
そして、上記車両1の走行中に、この車両1がその前方の何らかの物体58に衝突(前突)したときには、上記クロスメンバ34はその前方から衝撃力Fを与えられて後方に向け変位する。この場合、この衝撃力Fは、上記クラッシュ体35、フロントピラー23、バルクヘッド36、およびドア17のインパクトビーム21により支持されるが、これらのうち、上記クラッシュ体35は上記衝撃力Fにより直ちに塑性変形して上記衝撃力Fが緩和される。一方、上記フロントピラー23、バルクヘッド36、およびドア17のインパクトビーム21は上記衝撃力Fを強固に支持することから、上記フロントピラー23やドア17が上記衝撃力Fにより大きく変形することは防止される。
【0042】
また、車体2の平面視(
図3)で、上記クロスメンバ34は前方に凸の円弧形状をしているため、このクロスメンバ34がその前方から上記衝撃力Fを与えられたとき、このクロスメンバ34にはその長手方向に圧縮応力が生じて上記衝撃力Fに強固に対抗する。しかし、この衝撃力Fにより、上記クロスメンバ34の長手方向の中途部が大きく後方に変位して、このクロスメンバ34に生じる圧縮応力が引張応力に転換するときには、このクロスメンバ34の上記側部は、このクロスメンバ34の端部周りで車体2の後外側方に向かって円滑に回動Rするよう屈曲変形する。
【0043】
このため、
図3中一点鎖線で示すように、車両1の前突時には、上記したクロスメンバ34の上記側部の回動Rに伴い上記ブラケット41と共に上記ブレーキブースター48も車体2の後外側方に向かって回動Rする。よって、上記ブレーキブースター48の後方近傍に位置していた運転者25の下肢と上記ブレーキブースター48とが上記前突に伴い車体2の前後方向で互いに接近するとしても、このブレーキブースター48が運転者25の下肢に衝突することは防止されて、運転者25の保護が、より確実に達成される。
【0044】
ここで、前記エアダクト29は、その内部空間を通し空気を円滑に流動させるためのものであって断面積が大きいものであると共に、強度部材ではないことから、上記クロスメンバ34などに比べ板厚は薄くされている。このため、上記エアダクト29の各部剛性は低いものとなっている。よって、上記した前突時にクロスメンバ34の上記側部が回動Rするよう屈曲変形する際、上記ブラケット41を介し上記クロスメンバ34と互いに結合されている上記エアダクト29の後ダクトパネル31は大きな抵抗なく上記クロスメンバ34の上記側部の屈曲変形に伴って後方に屈曲変形する。つまり、前突時における上記クロスメンバ34の上記側部の回動Rが上記エアダクト29により強度的に邪魔されることは防止され、上記クロスメンバ34の上記側部に円滑な回動Rが確保される。
【0045】
また、上記車両1は軽トラックであって、フロントパネル12から運転者25までの距離が短い構造のものであるが、上記したように前突時の衝撃力Fによりクロスメンバ34の上記側部は上記ブラケット41およびブレーキブースター48と共に後外側方に向かって回動Rして運転者25との衝突が防止されるため、運転者25の保護が、より確実に達成されることとなって有益である。
【0046】
また、上記した前突時における運転者25の保護は、前突時に、上記クロスメンバ34の上記側部の回動Rにより運転者25に対し上記ブラケット41やブレーキブースター48を車体2の外側方に向かうよう逸らせる、というものであるため、車体2の前後方向でのスペースを小さく抑制しつつ運転者25の保護が達成されることから、車体2の前部が大型になることは防止される。よって、その分、車体2の形成が煩雑になったり、質量が増加したりして、車体2の生産性が低下することは防止され、この生産性が良好に維持される。
【0047】
また、前記したように、クロスメンバ34の上記側部を車体2の内側方に向かうに従い前方に向かって延びるよう傾斜させている。
【0048】
このため、前突時に、上記クロスメンバ34の上記側部が後外側方に向かって回動Rするとき、この回動Rの当初において、上記したようにクロスメンバ34の上記側部は斜め前方に傾斜していることから、その分、上記クロスメンバ34の上記側部の後外側方への回動Rはより確実に得られると共に、この回動Rの回動量(回動角)を、より大きくできる。よって、前突時には、上記クロスメンバ34の上記側部と共にブラケット41とブレーキブースター48とを車体2の外側方に向かって、より大きく回動Rさせることができる。この結果、運転者25に対し上記ブレーキブースター48を車体2の外側方に向けて大きく逸らせることができ、これにより、運転者25の保護が更に確実に達成される。
【0049】
なお、図示した上記車両1の前突は、車体2の一側部に偏った部分が上記物体58に衝突する場合を示したが、車体2の幅方向の中央部分が上記物体58に衝突する場合でも、前記したものと同様の作用効果が得られる。
【0050】
また、図示しないが、上記クロスメンバ34とブラケット41とで上記フロントパネル12を挟み込むようこれらを互いに締結してもよく、この場合、車体2の正面視で、上記フロントパネル12側への上記ブラケット41の取り付け部は上記クロスメンバ34の上記側部に重なった状態として近接させられる。また、上記他のクロスメンバ39は設けなくてもよい。また、上記クロスメンバ34はフロントパネル12の後方近傍の車室10の前端部に配置してもよく、この場合、上記ブラケット41は上記クロスメンバ34に直接取り付けてもよく、つまり、このクロスメンバ34を介し上記ブラケット41を上記フロントパネル12に取り付けてもよい。
【0051】
また、上記クロスメンバ34は、車体2の平面視で、前方に向かって凸の山形状をなすものであってもよい。また、上記クロスメンバ34は、車体2の幅方向に直線的に延びるものであってもよく、この場合には、上記ブラケット41の左右脚部41b,41cは互いに同じ長さにすることができる。
【0052】
また、上記他のクロスメンバ39のダクトパネル31にブラケット41のブラケット本体41aを締結するための締結具42は、上記ブラケット本体41aの左右幅方向の中央部に単一のみ設けてもよい。このようにすれば、前突時における上記クロスメンバ34の上記側部の回動Rが上記ブラケット41を介し上記エアダクト29により邪魔されることは、より確実に防止される。