特許第5955777号(P5955777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955777発光素子用微細構造体、当該微細構造体を用いた発光素子及び照明装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955777
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】発光素子用微細構造体、当該微細構造体を用いた発光素子及び照明装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20160707BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160707BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   G02B5/00 Z
   H05B33/14 A
   H05B33/02
【請求項の数】12
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-549837(P2012-549837)
(86)(22)【出願日】2011年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2011079546
(87)【国際公開番号】WO2012086651
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-284176(P2010-284176)
(32)【優先日】2010年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-284177(P2010-284177)
(32)【優先日】2010年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】特許業務法人 山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】餌取 英樹
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−123436(JP,A)
【文献】 特開2009−259805(JP,A)
【文献】 特開2010−212204(JP,A)
【文献】 特開2009−32463(JP,A)
【文献】 特開2008−140621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00
H01L 51/50
H05B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形の底面を有する微細な凸部を複数含んでなる発光素子用微細構造体であって、
前記凸部は、前記底面の中心の垂線上に頂点を持ち、頂点から底面の円周上に下ろした母線により画定されるものであり、
前記凸部の母線は、頂点から底面の円周上に至るまで高さを単調に減少してなり、
前記凸部の頂点の高さは、前記底面の半径の0.80〜1.15倍であり、
前記底面の中心から前記底面の半径の3/4の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.37〜0.53倍であり、
前記底面の中心から前記底面の半径の9/10の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.08〜0.22倍であることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の発光素子用微細構造体であって、
前記底面の中心から前記底面の半径の1/4の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.65〜1.08倍であり、
前記底面の中心から前記底面の半径の1/2の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.58〜0.91倍であることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項3】
円形の開口面を有する微細な凹部を複数含んでなる発光素子用微細構造体であって、前記凹部は、前記開口面の中心の垂線上に底を持ち、前記底と前記開口面の円周上を結んだ母線により画定されるものであり、
前記凹部の母線は、開口面の円周上から底に至るまで深さを単調に深くしてなり、
前記凹部の底の深さは、前記開口面の半径の0.78〜1.43倍であり、
前記開口面の中心から前記開口面の半径の3/4の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.34〜0.59倍であり、
前記開口面の中心から前記開口面の半径の9/10の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.07〜0.36倍であることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の発光素子用微細構造体であって、
前記開口面の中心から前記開口面の半径の1/4の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.64〜1.35倍であり、
前記開口面の中心から前記開口面の半径の1/2の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.58〜1.11倍であることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の発光素子用微細構造体であって、
微細構造体表面に占める凸部の底面又は凹部の開口面の充填率が70%以上であることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項6】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の発光素子用微細構造体であって、
微細構造体表面に占める凸部の底面又は凹部の開口面の充填率が80%以上であることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の発光素子用微細構造体であって、
前記凸部の底面と前記凸部の母線とが接する位置における、前記凸部の母線の接線と前記凸部の底面のなす角度、又は前記凹部の開口面と前記凹部の母線とが接する位置における、前記凹部の母線の接線と前記凹部の開口面のなす角度が、85°以下であることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の発光素子用微細構造体であって、
前記凸部又は凹部が形成された表面の上に、表面が平坦な部材が配置されてなることを特徴とする発光素子用微細構造体。
【請求項9】
反射部材と、発光部と、光透過性部材と、光取り出し部材とを順に備えた発光装置であって、
前記光取り出し部材として、請求項1ないし8の何れか一項に記載の発光素子用微細構造体を用いたことを特徴とする発光素子。
【請求項10】
透明な陽極と、発光部と、陰極とを順に備えてなるEL素子であって、
前記透明な陽極の、発光部が形成された側とは反対側に、請求項1ないし8の何れか一項に記載の発光素子用微細構造体を、前記凸部の頂点または前記凹部の開口面が光出射面側となるように配置してなることを特徴とするEL素子。
【請求項11】
請求項9記載の発光素子を光源として用いることを特徴とする照明装置。
【請求項12】
請求項10に記載のEL素子を光源として用いることを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EL(エレクトロ・ルミネッセンス)素子等の発光素子に用いられる微細構造体、当該微細構造体を用いた発光素子、及び当該発光素子を用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陽極(透明電極)と、発光部と、陰極(背面電極)とを順に備えてなるEL素子が、従来から知られている。EL素子は、陽極と陰極との間に直流電圧を印加して発光部に電子および正孔を注入し、それらの再結合によって励起子を生成し、この励起子が失活する際の光の放出を利用することで発光部を発光させるものである。当該EL素子は、軽量、薄型、低消費電力などの利点を有しているため、平面型照明装置や、電子看板装置、液晶ディスプレイのバックライト装置等として用いられている。
【0003】
当該EL素子は、上述した利点を有しているが、EL素子を構成する部材の屈折率は空気より高いため、発光した光がEL素子から出射するに際してEL素子と空気層との界面での全反射が起こり易く、発光した光の取り出し効率は発光部で発光した光の20%に満たず、大部分の光を取り出すことができず損失しているという問題が生じている。
【0004】
かかるEL素子の光の取り出し効率を向上させるため、EL素子の最表面に透光性基板を介して微細な凹凸パターンを形成する手法が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−310769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、凹凸パターンとして、具体的には、断面が三角形のストライプ状の凹凸及び断面が半円状のストライプ状の凹凸が記載され、凹凸パターンを形成しない場合と比較して正面方向の輝度が改善されたことが記載されている。
【0007】
特許文献1に記載された手法では、ストライプと平行な向きの光に対しては、取り出し効率が高まらない。また凹凸パターンがストライプ形状であることから光の拡散が異方性を帯び、凹凸パターンを反映した光のムラを生じる可能性がある。また特許文献1で採用されている断面が三角形或いは半円形の凸部は、光の取り出し効率という点で最適な形状とは言えず、更なる光の取り出し効率を追求した凹凸形状が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題に対し本発明者は、EL素子等の発光素子に用いる微細構造体として特定の形状からなる凸部又は凹部を複数含んだものとすることにより、従来の発光素子よりも光の取り出し効率を向上させることができることを見出し、本発明に至ったものである。なお本明細書において、微細構造体とは、表面に微細な凹凸構造を持つフィルム状或いは板状の部材を意味する。但し、それが使われた状態において、フィルム状或いは板状の部材が湾曲した状態である場合も含んでいる。また凹凸パターンとしては、部材の平坦な面を基準として、それから突出する凸部形状からなる凸部パターン(態様1)と、平坦な面から凹んだ凹部形状からなる凹部パターン(態様2)とがあるが、本発明はその両者を含む。以下の説明は、特に断らない場合は、態様1と態様2に共通する。
【0009】
即ち、本発明の態様1による発光素子用微細構造体は、凸部円形の底面を有する微細な凸部を複数含んでなるものであって、前記凸部は、前記底面の中心の垂線上に頂点を持ち、頂点から底面の円周上に下ろした母線により画定されるものであり、前記凸部の母線は、頂点から底面の円周上に至るまで高さを単調に減少してなり、前記凸部の頂点の高さは、前記底面の半径の0.67〜1.15倍であり、前記底面の中心から前記底面の半径の3/4の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.21〜0.65倍であり、前記底面の中心から前記底面の半径の9/10の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.04〜0.38倍であることを特徴とするものである。なお、かかる凸部の頂点の高さパラメータや、凸部の底面の中心から前記底面の半径の3/4及び9/10の位置における前記凸部の高さパラメータを、以下、総称して「条件1」という場合もある。
【0010】
また、本発明の態様1の発光素子用微細構造体は、好ましくは前記底面の中心から前記底面の半径の1/4の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.65〜1.08倍であり、前記底面の中心から前記底面の半径の1/2の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.58〜0.91倍であることを特徴とするものである。なお、かかる凸部の底面の中心から前記底面の半径の1/4及び1/2の位置における前記凸部の高さパラメータを、以下、総称して「条件2」という場合もある。
【0011】
さらに、本発明の態様2による発光素子用微細構造体は、円形の開口面を有する微細な凹部を複数含んでなるものであって、前記凹部は、前記開口面の中心の垂線上に底を持ち、前記底と前記開口面の円周上を結んだ母線により画定されるものであり、前記凹部の母線は、開口面の円周上から底に至るまで深さを単調に深くしてなり、前記凹部の底の深さは、前記開口面の半径の0.65〜1.43倍であり、前記開口面の中心から前記開口面の半径の3/4の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.16〜0.79倍であり、前記開口面の中心から前記開口面の半径の9/10の位置における前記凹部の深さは、前記口面の半径の0.03〜0.39倍であることを特徴とするものである。なお、かかる凹部の底の深さパラメータや、凹部の開口面の中心から前記開口面の半径の3/4及び9/10の位置における前記凹部の深さパラメータを、以下、総称して「条件3」という場合もある。
【0012】
また、本発明の態様2の発光素子用微細構造体は、好ましくは前記開口面の中心から前記開口面の半径の1/4の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.64〜1.35倍であり、前記開口面の中心から前記開口面の半径の1/2の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.58〜1.11倍であることを特徴とするものである。なお、かかる凹部の開口面の中心から前記開口面の半径の1/4及び1/2の位置における前記凹部の深さパラメータを、以下、総称して「条件4」という場合もある。
【0013】
また、本発明の発光素子用微細構造体は、好ましくは微細構造体表面に占める凸部の底面又は凹部の開口面の充填率が70%以上であることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の態様1の発光素子用微細構造体は、好ましくは前記凸部の底面と前記凸部の母線とが接する位置における、前記凸部の母線の接線と前記凸部の底面のなす角度が、85°以下であることを特徴とするものである。同様に、態様2の発光素子用微細構造体は、好ましくは前記凹部の開口面と前記凹部の母線とが接する位置における、前記凹部の母線の接線と前記凹部の開口面のなす角度が、85°以下であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の発光素子用微細構造体は、好ましくは前記凸部又は凹部の上に、表面が平坦な部材が配置されてなることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の発光素子は、透明な陽極と、発光部と、陰極とを順に備えてなるものであって、前記透明な陽極の、発光部が形成された側とは反対側に、本発明の発光素子用微細構造体を、凹凸パターン(凸部の頂点または凹部の開口面)が光出射面側となるように配置してなることを特徴とするものである。好ましくは、当該発光素子は、照明装置の光源として用いることもできる。
【発明の効果】
【0017】
上記発明によれば、発光素子に用いる微細構造体として特定の形状からなる凸部又は凹部を複数含んだものとすることにより、従来の発光素子よりも光の取り出し効率に優れたものとすることができる。凸部の場合には、特に光の取り出し効率が優れている。また凹部の場合には、耐久性に優れた微細構造体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の態様1の微細構造体を構成する凸部を説明する斜視図
図2】(a)は凸部の母線の形状を説明する図、(b)は凹部の母線の形状を説明する図
図3】(a)、(b)はそれぞれ本発明のシミュレーションに用いた発光素子の構造を示す図
図4】本発明の態様1の微細構造体の凸部の底面と凸部の母線とが接する位置における、凸部の母線の接線と凸部の底面のなす角度を示す説明図
図5】本発明の態様1の微細構造体の一つの実施形態を示す概略断面図
図6】本発明の態様2の微細構造体を構成する凹部を説明する斜視図
図7】本発明の態様2の微細構造体の凹部の開口面と凹部の母線とが接する位置における、凹部の母線の接線と凹部の開口面のなす角度を示す説明図
図8】本発明の態様2の微細構造体の一つの実施形態を示す概略断面図
図9】本発明の態様1の微細構造体の他の実施形態を示す概略断面図
図10】本発明の態様2の微細構造体の他の実施形態を示す概略断面図
図11】(a)、(b)はそれぞれ本発明の発光素子の一実施形態を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の発光素子用微細構造体(以下、「微細構造体」という場合もある)の実施の形態ついて説明する。
【0020】
<凹凸パターン>
本発明の微細構造体の凹凸パターンには、2つの態様がある。一つは、微細構造体の平坦な面を基準として、その面から突出する凸部が複数形成されている凹凸パターン(態様1)、他の一つは、平坦な面から凹んだ凹部が複数形成されている凹凸パターン(態様2)である。以下、態様毎に凹凸パターンの特徴を説明する。
【0021】
<<態様1>>
態様1の発光素子用微細構造体は、円形の底面を有する微細な凸部を複数含んでなるものであって、前記凸部は、前記底面の中心の垂線上に頂点を持ち、頂点から底面の円周上に下ろした母線により画定されるものであり、前記凸部の母線は、頂点から底面の円周上に至るまで高さを単調に減少してなり、前記凸部の頂点の高さは、前記底面の半径の0.67〜1.15倍であり、前記底面の中心から前記底面の半径の3/4の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.21〜0.65倍であり、前記底面の中心から前記底面の半径の9/10の位置における前記凸部の高さは、前記底面の半径の0.04〜0.38倍となっている。
【0022】
態様1の発光素子用微細構造体は、上述した特殊な表面形状を有しているため、当該微細構造体を発光素子に用いることで、従来の発光素子よりも光の取り出し効率を向上させることができる。
【0023】
態様1の微細構造体を構成する複数の凸部aは、図1に示すとおり、円形の底面pを有するものであって、当該底面pの中心oの垂線上に頂点qを持ち、頂点qから底面pの円周上に下ろした母線により画定されるものである。当該凸部aの母線は、頂点qから底面pの円周上に至るまで高さを単調に減少してなる。
【0024】
態様1の微細構造体を構成する凸部の形状は、凸部の半径、高さ、母線形状等を多種多様に変化させた光学シミュレーションを行ない、好適な光の取り出し効率となる範囲を抽出することで得たものである。
【0025】
具体的には、図2(a)に示すように、凸部の半径rを1とし、種々の高さを持ち、母線形状の異なる回転体を仮想凸部として用いた。なお、母線形状は、回転体底面の中心oとそこからの距離が異なる4点p1(半径の1/4の位置)、p2(半径の1/2の位置)、p3(半径の3/4の位置)、p4(半径の9/10の位置)における高さ(それぞれh0、h1、h2、h3、h4とする)を3次スプライン曲線で結んだ形状とした。
【0026】
仮想凸部には、凸部の半径rを1.00として、h0〜h4を0.00〜2.00まで変化させた形状を想定した。はじめの段階では、h0〜h4のそれぞれのきざみ幅を0.50ずつ変化させて、光取り出し効率を算出した。この段階で、取り出し効率の高かったh0〜h4に関して、さらにきざみ幅を0.20、0.10と小さく変化させ、最終的に0.01きざみとして、光取り出し効率を算出した。
【0027】
取り出し効率を計算するために、発光素子として、図3(a)に示すような、ガラス31及び透明電極32とアルミ電極(鏡面反射層)34で発光層33を挟んだ構造を持ち、このガラス面(光取り出し面)に上記仮想凸部を凸部直径の周期を持つ格子点上に配置した微細構造体35を設けた発光素子30を想定した。発光層33は、全方向に同一強度の光を発する点光源の集まりであるものと想定した。
【0028】
シミュレーションは、点光源から全方向に進む光の進路を、光線追跡法を用いて計算し、上記想定した発光素子における一つの凸部から出射する光の割合を光取出し効率Eとして算定した。光線追跡法の計算において、発光層33、透明電極32、ガラス31及び微細構造体35の屈折率は、それぞれ、典型的な値として、発光層1.70、透明電極2.00、ガラス1.51、微細構造体1.58と仮定した。微細構造体35の代わりに光取り出し面が平滑である構造体を想定した場合の光取り出し効率E0を同様に算定し、凸部のある光取り出し面の光取り出し効率Eが、平滑な場合の光取り出し効率E0の2.26倍以上となる範囲を凸部形状の範囲とした。凸部形状が半球の場合は、平坦な場合に対し光取り出し効率が2.25倍向上する。それより光取り出し効率が向上する形状を本実施形態の形状とした。なお上述した屈折率を各要素の一般的な材料の範囲で変化させた場合にも同様の結果が得られた。
【0029】
以上のシミュレーションの結果、凸部の頂点の高さを、底面の半径の0.67〜1.15倍としたときに、平滑な場合の2.26倍以上の光取り出し効率の向上があった。より好ましい頂点の高さは、底面半径の0.70〜1.07倍、さらに好ましい頂点の高さは0.80〜1.00倍である。また、凸部に関し、底面の中心から底面の半径の3/4の位置における凸部の高さは、底面の半径の0.21〜0.65倍とし、好ましくは0.25〜0.63倍、より好ましくは0.37〜0.53倍とする。また、底面の中心から底面の半径の9/10の位置における凸部の高さは、底面の半径の0.04〜0.38倍とし、好ましくは0.05〜0.35倍、より好ましくは0.08〜0.20倍とする。
【0030】
当該凸部は、半球形状とは異なるものであり、当該凸部の各母線の各部の曲率半径は、半円のように一定とはなっていない。
なおシミュレーションは、一つの母線を、底面の中心に垂直な軸を中心として回転させた回転体である凸部について行ったが、凸部は上記条件を満たすものであれば、必ずしも回転体である必要はない。
【0031】
当該凸部形状に関してより好ましくは、底面の中心から底面の半径の1/4の位置における凸部の高さは、底面の半径の0.65〜1.08倍であり、好ましくは0.67〜1.04倍、より好ましくは0.77〜0.93倍である。また、底面の中心から底面の半径の1/2の位置における凸部の高さは、底面の半径の0.58〜0.91倍であり、好ましくは0.63〜0.88倍、より好ましくは0.66〜0.83倍である。
【0032】
凸部の底面と凸部の母線とが接する位置における、凸部の母線の接線と凸部の底面のなす角度は、85°以下であること、さらには80°以下であることが好ましい。なお、凸部が半球形状の場合における当該角度は、90°となる。図4に、凸部aの底面pと凸部aの母線rとが接する位置iにおける、凸部aの母線rの接線sと凸部aの底面pのなす角度αを示す。
【0033】
態様1の微細構造体表面に占める凸部の底面の充填率は、光取り出し効率向上の観点から70%以上であることが好ましい。さらに80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。なお、当該微細構造体中における凸部は、本発明で特定する形状の数値範囲を満たすものであれば、大きさや高さの異なるものであってもよい。
【0034】
また、凸部は、規則構造を持った他の部材を積層使用することにより発生しうるモアレを好適に防止する観点からは、ランダムに配列することが好ましい。一方、凸部の配列生成のし易さや同一半径の円での充填率向上の観点からは、規則的に配列することが好ましい。なお、規則的な配列としては、格子状、ハニカム状等が挙げられる。
【0035】
態様1の微細構造体の凸部の底面の直径は、1〜100μmが好ましく、3〜50μmであることがより好ましい。上限として100μm以下であることにより、凸部の配列パターンに起因した凸部の粒状感を無くし、均一な表面とすることができ、下限として1μm以上であることにより、光の取り出し効率が低下するのを防止することができる。
【0036】
態様1の微細構造体の凸部を支える基底部の厚みは、300μm以下が好ましく、100μm以下とすることがより好ましい。300μm以下であることにより、クラックやカールが発生するのを防止することができる。また基底部の厚みの下限は、1μm以上であることが好ましい。基底部の厚みを1μm以上とすることにより、干渉ムラが生じるのを防止することができる。なお、ここでいう「微細構造体の凸部を支える基底部の厚み」とは、図5に示すように、凸部aの底面が配置された面からその反対面までの厚みtを指す。
【0037】
<<態様2>>
次に、態様2の発光素子用微細構造体ついて説明する。態様2の発光素子用微細構造体は、円形の開口面を有する微細な凹部を複数含んでなるものであって、前記凹部は、前記開口面の中心の垂線上に底を持ち、前記底と前記開口面の円周上を結んだ母線により画定されるものであり、前記凹部の母線は、開口面の円周上から底に至るまで深さを単調に深くしてなり、前記凹部の底の深さは、前記開口面の半径の0.65〜1.43倍であり、前記開口面の中心から前記開口面の半径の3/4の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.16〜0.79倍であり、前記開口面の中心から前記開口面の半径の9/10の位置における前記凹部の深さは、前記開口面の半径の0.03〜0.39倍となっている。
【0038】
態様2の発光素子用微細構造体は、上述した特殊な表面形状を有しているため、当該微細構造体を発光素子に用いることで、従来の発光素子よりも光の取り出し効率を向上させることができる。
【0039】
態様2の微細構造体を構成する複数の凹部bは、図6に示すとおり、円形の開口面lを有するものであって、当該開口面lの中心oの垂線上に底mを持ち、底mと開口面lの円周上を結んだ母線により画定されるものである。当該凹部bの母線は、開口面lの円周上から底mに至るまで深さを単調に深くしてなる。
【0040】
態様2の微細構造体を構成する凹部の形状は、凹部の開口面の半径、底の深さ、母線形状等を多種多様に変化させた光学シミュレーションを行ない、好適な光の取り出し効率となる範囲を抽出することで得たものである。
【0041】
具体的には、図2(b)に示すように、凹部の開口面の半径を1とし、種々の深さを持ち、母線形状の異なる回転体を仮想凹部として用いた。なお、母線形状は、開口面の中心oとそこからの距離が異なる4点p5(半径の1/4の位置)、p6(半径の1/2の位置)、p7(半径の3/4の位置)、p8(半径の9/10の位置)における深さ(それぞれd0、d1、d2、d3、d4とする)を3次スプライン曲線で結んだ形状とした。
【0042】
仮想凹部には、凹部の開口面の半径を1.00として、d0〜d4を0.00〜2.00まで変化させた形状を想定した。はじめの段階では、d0〜d4のそれぞれのきざみ幅を0.50ずつ変化させて、光取り出し効率を算出した。この段階で、取り出し効率の高かったd0〜d4に関して、さらにきざみ幅を0.20、0.10と小さく変化させ、最終的に0.01きざみとして、光取り出し効率を算出した。
【0043】
取り出し効率を計算するために、発光素子30として、凸部をシミュレーションしたときと同様の構造の発光素子(図3(b))を想定し、そのガラス面(光取り出し面)31の上に仮想凹部を凹部直径の周期を持つ格子点上に配置した微細構造体36を配置し、凸部の場合と同様に、光線追跡法を用いたシミュレーションを行い、光取り出し面が平滑な場合の光取り出し効率に対し、凹部のある光取り出し面の光取り出し効率が2.25倍以上となる範囲を凹部形状の範囲とした。凹部形状が半球の場合は、平坦な場合に対し光取り出し効率が2.24倍向上する。半球の場合より光取り出し効率が向上する範囲を本実施形態の形状とした。
【0044】
以上のシミュレーションの結果、凹部の底の深さは、開口面の半径の0.65〜1.43倍のときに、平坦な場合の2.25倍以上の光取り出し効率の向上があった。凹部の底の深さは、好ましくは0.75〜1.38倍、より好ましくは0.81〜1.25倍である。また、当該凹部に関し、開口面の中心から開口面の半径の3/4の位置における凹部の深さは、開口面の半径の0.16〜0.79倍、好ましくは0.24〜0.58倍、より好ましくは0.34〜0.53倍である。また、開口面の中心から開口面の半径の9/10の位置における凹部の深さは、開口面の半径の0.03〜0.39倍、好ましくは0.04〜0.28倍、より好ましくは0.07〜0.23倍である。
【0045】
当該凹部の開口面と凹部の母線とから画定される空洞部の形状は、半球形状とは異なるものであり、各母線の各部の曲率半径は半円のように一定とはなっていない。
なおシミュレーションは、一つの母線を、底面の中心に垂直な軸を中心として回転させた回転体である凹部について行ったが、凹部は上記条件を満たすものであれば、必ずしも回転体である必要はない。
【0046】
凹部形状に関してより好ましくは、開口面の中心から開口面の半径の1/4の位置における凹部の深さは、開口面の半径の0.64〜1.35倍であり、好ましくは0.74〜1.25倍、より好ましくは0.78〜1.17倍である。また、開口面の中心から開口面の半径の1/2の位置における凹部の深さは、開口面の半径の0.58〜1.11倍であり、好ましくは0.65〜0.97倍、より好ましくは0.67〜0.95倍である。
【0047】
凹部の開口面と凹部の母線とが接する位置における、凹部の母線の接線と凹部の開口面のなす角度は、85°以下であること、さらには80°以下であることが好ましい。なお、凹部の空洞部が半球形状の場合における当該角度は、90°となる。図7に、凹部bの開口面lと凹部bの母線nとが接する位置uにおける、凹部bの母線nの接線sと凹部bの開口面lのなす角度βを示す。
【0048】
態様2の微細構造体の表面に占める凹部の開口面の充填率は、光取り出し効率向上の観点から70%以上であることが好ましい。さらに80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。なお、当該微細構造体中における凹部は、本発明で特定する形状の数値範囲を満たすものであれば、大きさや底の深さの異なるものであってもよい。
【0049】
また、当該凹部は、規則構造を持った他の部材を積層使用することにより発生しうるモアレを好適に防止する観点からは、ランダムに配列することが好ましい。一方、凹部の配列生成のし易さや同一半径の円での充填率向上の観点からは、規則的に配列することが好ましい。なお、規則的な配列としては、格子状、ハニカム状等が挙げられる。
【0050】
態様2の微細構造体の凹部の開口面の直径は、1〜100μmが好ましく、3〜50μmであることがより好ましい。上限として100μm以下であることにより、凹部の配列パターンに起因した凹部の粒状感を無くし、均一な表面とすることができ、下限として1μm以上であることにより、光の取り出し効率が低下するのを防止することができる。
【0051】
態様2の微細構造体の凹部を支える基底部の厚みは、300μm以下が好ましく、100μm以下であることがより好ましい。上限として300μm以下であることにより、クラックやカールが発生するのを防止することができる。また基底部の厚みの下限は、0.2μm以上であることが好ましい。基底部の厚みを0.2μm以上とすることにより、使用に十分耐える耐久性を得ることができる。なお、ここでいう「微細構造体の凹部を支える基底部の厚み」とは、図8に示すように凹部bの底が形成された面から反対面までの厚みtを指す。
【0052】
<微細構造体の材料>
次に上記態様1、2に共通する微細構造体の材料について説明する。本発明の微細構造体は、透明な高分子樹脂により構成されてなる。このような高分子樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0053】
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線(紫外線または電子線)の照射によって架橋硬化することができる光重合性プレポリマーを用いることができ、この光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等が使用できる。さらにこれらのアクリル系プレポリマーは単独でも使用可能であるが、架橋硬化性を向上させレンズ層の硬度をより向上させるために、光重合性モノマーを加えることが好ましい。
【0054】
光重合性モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート等の単官能アクリルモノマー、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート等の2官能アクリルモノマー、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート等の多官能アクリルモノマー等の1種若しくは2種以上が使用される。
【0055】
上述した光重合性プレポリマー及び光重合性モノマーの他、紫外線照射によって硬化させる場合には、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を用いることが好ましい。
【0056】
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α−アシルオキシムエステル、チオキサンソン類等が挙げられる。
【0057】
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合障害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等が挙げられる。
【0058】
熱硬化性樹脂としては、シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、フラン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、グアナミン系樹脂、ケトン系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。これらは単独でも使用可能であるが、架橋性、架橋硬化塗膜の硬度をより向上させるためには、硬化剤を加えることが望ましい。
【0059】
硬化剤としては、ポリイソシアネート、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、カルボン酸などの化合物を、適合する樹脂に合わせて適宜使用することができる。
【0060】
熱可塑性樹脂としては、ABS樹脂、ノルボルネン樹脂、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、スルフォン系樹脂、イミド系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ナイロン系樹脂、ゴム系樹脂、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0061】
なお、これら熱硬化性樹脂或いは熱可塑性樹脂のうち、微細構造体の塗膜強度や、良好な透明性が得られる観点から、アクリル系樹脂の熱硬化性樹脂或いは熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。また、これら熱硬化性樹脂或いは熱可塑性樹脂は、それぞれ熱硬化性樹脂どうし或いは熱可塑性樹脂どうしを複数種組み合わせた複合樹脂として用いることもできる。
【0062】
高分子樹脂としては、上述した樹脂以外の樹脂を併用することもできるが、上述した高分子樹脂とそれ以外の樹脂との含有割合としては、本発明の微細構造体を精度良く製造する観点から、後述するようにPhoto−Polymer法(2P法)により微細構造体を製造する場合には、電離放射線硬化性樹脂が全高分子樹脂成分中30〜90重量%程度含まれることが好ましい。一方、Thermal−Transformation法(2T法)やエンボス加工法により微細構造体を製造する場合では、熱硬化性樹脂或いは熱可塑性樹脂が全高分子樹脂成分中30〜90重量%程度含まれることが好ましい。
【0063】
なお、微細構造体には、上述した高分子樹脂の他、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、微粒子、滑剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、流動調整剤、消泡剤、分散剤、離型剤、架橋剤等の種々の添加剤を含ませることもできる。
微細構造体の屈折率は、1.40〜1.70が好ましく、1.50〜1.65がより好ましい。
【0064】
<変更例>
本発明の微細構造体は、図5及び図8に示す構造を基本として、部材の追加や置換等の種々の変更が可能である。以下、変更例を説明する。
【0065】
本発明の微細構造体の凹凸パターンを有する面には、表面が平坦な部材が配置されてなることが好ましい。態様1の微細構造体において、凸部の頂点側の面に平坦な部材が配置されることにより、凸部が保護され傷付きなどによる凸部の形状変化に起因した光の取り出し効率の低下や、凸部の欠落が発生するのを防止したり、表面に付着した異物を容易に除去することが可能となる。図9に、凸部aの頂点側の面に表面が平坦な部材10が配置されてなる本発明の微細構造体1を示す。
【0066】
また態様2の微細構造体において、凹部の開口面上に表面が平坦な部材が配置されることにより、異物などによる凹部の詰まりに起因した光の取り出し効率の低下や凹部の開口面に欠陥が発生するのを防止したり、表面に付着した異物を容易に除去することが可能となる。図10に、凹部bの開口面に表面が平坦な部材10が配置されてなる本発明の微細構造体1を示す。
【0067】
表面が平坦な部材としては、後述の支持体として挙げたものと同様のものが挙げられる。かかる表面が平坦な部材の厚みは、25〜500μmであることが好ましい。
【0068】
また、当該平坦な部材は、微細構造体との接着性を向上させるため、従来公知の接着剤により接着したものであっても良い。
【0069】
また、当該平坦な部材の、微細構造体へ配置する面とは反対面には、傷付き防止性や耐久性向上の観点から、ハードコート層を設けても良い。
【0070】
当該ハードコート層は、電離放射線硬化型樹脂や熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂により構成される。これらの中でも電離放射線硬化型樹脂は、ハードコート性を発揮させ易いことから好ましく用いられる。これらの樹脂は、上述した微細構造体として用いることができる電離放射線硬化型樹脂や熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の樹脂と同様のものにより構成することができる。
【0071】
ハードコート層の厚みは、好ましくは0.1μm〜30μm、より好ましくは0.5〜15μm、さらに好ましくは2μm〜10μmとする。ハードコート層の厚みを0.1μm以上にすることにより、ハードコート性を十分なものにすることができる。また、ハードコート層の厚みを30μm以下とすることにより、カールの発生や硬化不足となるのを防止することができる。
【0072】
ハードコート層は、鉛筆引っかき値(鉛筆硬度)が、H以上、より好ましくは、2H以上、さらに好ましくは3H以上に調整されていることが望ましい。鉛筆引っかき値が所定値以上に調整されていることにより、ハードコート層の表面が傷つくことを効果的に防止することができる。なお、鉛筆引っかき値は、JIS K5400:1990に準拠した方法で測定した値である。ハードコート層の擦傷性や硬度は、ハードコート層を構成する樹脂の種類や硬化の条件などにより調整することができる。
【0073】
ハードコート層は、平坦な部材上に、上述した電離放射線硬化型樹脂等の樹脂や、必要に応じ用いた添加剤および希釈溶媒などを混合してハードコート層用塗布液を調整し、従来公知のコーティング方法、例えば、バーコーター、ダイコーター、ブレードコーター、スピンコーター、ロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、スプレー、スクリーン印刷などによって塗布し、必要に応じて乾燥後、電離放射線の照射により電離放射線硬化型樹脂を硬化させることにより形成することができる。
【0074】
また、本発明の微細構造体は、支持体上に形成されたものであっても良い。
【0075】
支持体としては、ガラス板やプラスチックフィルム等の透明性の高いものを用いることができる。ガラス板としては、例えばケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス等の酸化ガラスを板ガラス化したものを使用することができ、特にケイ酸ガラス、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等のケイ酸塩ガラスを板ガラス化したものが好ましい。プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、アクリル、ポリ塩化ビニル、ノルボルネン化合物等が使用でき、延伸加工、特に二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れているために好適に使用される。このような支持体はプラズマ処理、コロナ放電処理、遠紫外線照射処理、下引き易接着層の形成等の易接着処理が施されたものを用いることが好ましい。
【0076】
支持体の厚みとしては特に限定されず、適用される材料に対して適宜選択することができるが、一般に25〜500μmであり、好ましくは50〜300μmである。
【0077】
なお、上述した支持体には、微細構造体との接着性を向上させるために、フィルム表面に易接着層を設けたり、コロナ放電処理、プラズマ処理、遠赤外線処理などを行なっても良い。
【0078】
<製造方法>
以下、本発明の微細構造体の製造方法を説明する。
本発明の微細構造体は2P法、2T法やエンボス加工法等のような転写賦形技術により形成することができる。そのため、まず所望の凹凸パターンを形成するための型を用意する。型は、金属等の耐熱性のある材料に直接形状を作ることも可能であるし、電鋳によって作ることもできる。いずれの場合にも、まず半径が一定の円或いは半径が異なる複数種の円で平面を充填し、凸部の底面或いは凹部の開口面の位置を決める。なお円を所望の充填率で配置する手法については、例えば、再公表WO2009/116429に記載された方法を採用することができる。次に各円の半径を用いて、円を底面とする凸部の高さ或いは凹部の深さ及び母線の形状として条件1又は条件3を満たす数値を設定する。ここまでは計算機によって行うことができ、これにより凸部の形状が確定する。次いでフォトリソグラフィー、微細切削加工、エッチング等の微細加工技術により、設計された凹部を例えば型材料に形成する。フォトリソグラフィーにおいて形状を制御するには、例えば再公表WO2007/040138や再公表WO2007/116671に記載された技術を用いることができる。また微細切削加工についてはドリル先端形状を決定した母線の形状にすることで所望の凸部形状を作製することができる。
【0079】
態様1の微細構造体であれば、これにより凸部と相補的な形状を有する型が得られる。態様2の微細構造体であれば、この型をもとにそれと相補的な形状を有する型を作製する。
【0080】
次に、上述したような微細構造体を構成する高分子樹脂等を、上記のように作製した型内に充填し、形状パターンを転写賦形させた後、当該高分子樹脂等を硬化させ、型から剥離することで、複数の凸部又は凹部からなる微細構造が賦形された微細構造体が得られる。一方、支持体を用いる場合には、型内に高分子樹脂等を充填し、その上に支持体を重ね合わせた後、当該高分子樹脂等を硬化させ、型から剥離することで、支持体上に複数の凸部からなる微細構造が賦形された微細構造体が得られる。なお、2P法により微細構造体を形成する場合には、電離放射線硬化性樹脂を用い、2T法やエンボス加工法により微細構造体を形成する場合には、熱硬化性樹脂或いは熱可塑性樹脂を用いる。
【0081】
上述した転写賦形技術のうち微細構造体を比較的短時間で作製でき、加熱冷却が不要であるため構成部材の熱による変形を少なく抑えられる観点からは、2P法を採用することが好ましい。一方、微細構造体を構成する部材の材料選択性の自由度が高く、プロセスコストを削減可能な観点からは、2T法を採用することが好ましい。
【0082】
なお、高分子樹脂を硬化させる方法としては、高分子樹脂が電離放射線硬化性樹脂の場合には電離放射線を照射することで硬化させることができる。また、高分子樹脂が熱硬化性樹脂の場合には、熱を加えることで硬化させることができる。また、高分子樹脂が熱可塑性樹脂の場合には、冷却することで硬化させることができる。ここで、電離放射線としては、例えば超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプなどから発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線や、走査型・カーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を利用することができる。
【0083】
本発明の発光素子用微細構造体は、最適な発光効率が得られる凸形状或いは凹形状をシミュレーションすることによって決められた凹凸パターンを備えているので、発光素子に用いることで光の取り出し効率に優れたものとすることができる。
【0084】
次いで、本発明の発光素子について説明する。本発明の発光素子は、光透過性部材に発光部を形成したものである。より具体的には、発光部の光を反射する反射部材に、発光部と、光透過性部材と、光取り出し部材とを順に備える。このような構造の発光装置として、具体的にはEL素子、LED素子等が挙げられる。以下、EL素子に適用した実施形態を説明する。
【0085】
本発明のEL素子は、透明な陽極と、発光部と、陰極とを順に備えてなるものであって、前記透明な陽極の、発光部が形成された側とは反対側に、本発明の発光素子用微細構造体を、前記凸部の頂点(または凹部の開口面)が光出射面側となるように配置してなるものである。これら透明な陽極と陰極との間に直流電圧を印加して発光部に電子および正孔を注入し、それらの再結合によって励起子を生成し、この励起子の失活する際の光の放出を利用して発光部を発光させるようにしている。EL素子には更に、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層、ガラス基板などが設けられることもあるが、それらは周知のものであり、また必要に応じて適宜設ければよいので、ここでは説明を省略する。
【0086】
図11に、本発明のEL素子を示す。図11(a)は、態様1の微細構造体を用いた場合、図11(b)は、態様2の微細構造体を用いた場合である。本発明のEL素子2は、透明な陽極12と、発光部13と、陰極14とを順に備えてなるEL素子であって、前記透明な陽極12の、発光部13が形成された側とは反対側に、EL素子用微細構造体1を、前記凸部の頂点または凹部の開口面が光出射面側となるように配置してなるものである。なお、図11に示すように、EL素子2には透明な陽極12上にガラス基板11を設けてもよい。
【0087】
透明な陽極12は、発光部の両側のうちの光出射側に位置している電極であり、陰極は、発光部の両側のうちの透明な陽極とは反対側に位置している電極である。
【0088】
透明な陽極12は、例えば、ITO膜、IZO膜などを蒸着法やスパッタ法などのドライプロセスで成膜した層とすることができる。ただし、成膜材料はこれらに限定されず、透明であって電気伝導性を有する材料であればその他の材料も使用可能である。
【0089】
透明な陽極の厚みは、1μm以下とすることが望ましい。1μm以下とすることにより、局所的にスパイクが入るのを防止することができ、また全光線透過率が低下するのを併て防止することができる。当該局所的なスパイクは、その突起の高さが例えば100nmに達すると、その後の成膜工程に問題を生じるおそれがある。
【0090】
発光部13は、低分子系或いは高分子系のEL材料を成膜した層である。低分子系EL材料としては、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ポリメチン系、キサンテン系、クマリン系、シアニン系等の色素類、8−ヒドロキノリン及びその誘導体の金属錯体、芳香族アミン、テトラフェニルシクロペンタジエン誘導体等が挙げられる。高分子系のEL材料としては、例えば、PPV(ポリパラフェニレンビニレン)、PAT(ポリチオフェン)、PF(ポリフルオレン)、PPP(ポリパラフェニレン)等のπ共役系高分子材料が挙げられる。EL材料によって、白色発光層として形成することができ、或いは、青色、赤色、黄色、緑色などの発光層として形成することもでき、これらの層を積層したものであってもよい。
【0091】
陰極としては、例えば仕事関数の小さいAl(アルミニウム)、In(インジウム)、Mg(マグネシウム)、Ti(チタン)、Ag(銀)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)等の金属、あるいは、これらの金属の酸化物やフッ化物およびその合金、積層体等が用いられる。
【0092】
EL素子を構成する上記要素の屈折率は、特に限定されるものではないが、一例として、微細構造体を構成する層が1.40〜1.70、ガラスが1.45〜1.80、透明電極が1.90〜2.20、発光部が1.50〜1.90である。
【0093】
以上のように、本発明のEL素子は、透明な陽極と、発光部と、陰極とを順に備えてなるものであって、前記透明な陽極の、発光部が形成された側とは反対側に、本発明の発光素子用微細構造体を、凹凸パターン(凸部の頂点或いは凹部の開口部)が光出射面側となるように配置してなるものであるため、従来のEL素子と比較して光の取り出し効率に優れるものとすることができる。
【0094】
また、本発明のEL素子を光源として用いた照明装置とすることもできる。本発明のEL素子を照明装置の光源として用いることで、従来に比べ光の取り出し効率に優れた照明することができる。
【0095】
以上、本発明の発光素子用微細構造体をEL素子に適用した実施形態を説明したが、本発明の微細構造体はEL素子以外の発光素子、例えば、LEDを蛍光体含有樹脂や透明樹脂で覆った構造のLED素子についても、樹脂の表面に配置することにより同様に適用でき、光の取り出し効率を向上させることができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り重量基準とする。
【0097】
1.微細構造体の作製
<凹型金型の作製>
微細穴開け加工技術により形成された特定の凹凸形状を賦形転写することができる金型a〜i(縦×横のサイズが10mm×10mm)を用意した。この金型の凹凸形状は、開口の半径が25μm、深さが20μm程度の凹部を所定の充填率(別掲)で密着し作製したものであり、金型によって凹部の母線の形状を異ならせて、母線の回転体である凹部を作製した。
【0098】
[実施例1]
金型aへ、紫外線硬化型樹脂としてアクリルモノマー(メタクリル酸メチル:和光純薬社)50部及び多官能性アクリルモノマー(NKエステルA-TMPT-3EO:新中村化学工業社)45部、光重合開始剤(イルガキュア184:チバ・ジャパン社)5部からなる混合液を滴下し、この上に厚み100μmのポリエステルフィルム(コスモシャインA4300:東洋紡績社)を密着させた。この状態のままポリエステルフィルム側からメタルハライドランプにより1500mJ/cm2の紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂を硬化させたのちポリエステルフィルム及び樹脂を金型から剥離することで、金型の形状を忠実に転写させた実施例1の微細構造体を作製した。この微細構造体は、ポリエステルフィルム金型の凹凸との間に約10μmの基底部(図5の厚みtに相当)が形成されていた。実施例1の微細構造体の構造を、レーザ顕微鏡(キーエンス社:VK−9500)を用いて測定した結果を表1に示す。
【0099】
[実施例2〜6、比較例1〜3]
実施例1で用いた金型aに替えて、金型b〜iを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2〜6及び比較例1〜3の微細構造体を作製した。実施例2〜6及び比較例1〜3の微細構造体の構造について表1に示す。なお、比較例1の微細構造体の凸部は、半球形となっている。
【0100】
【表1】
【0101】
なお、表1中における、「凸部の頂点の高さ」とは、凸部の底面の半径に対する凸部の頂点の高さの割合を示す。また、「3/4の位置の凸部の高さ」、「9/10の位置の凸部の高さ」、「1/4の位置の凸部の高さ」、「1/2の位置の凸部の高さ」とは、凸部の底面の中心から当該凸部の底面の半径のそれぞれ3/4、9/10、1/4、1/2の位置における、当該凸部の底面の半径に対する凸部の高さの割合を示す。また、「凸部の充填率」とは、微細構造体表面に占める凸部の底面の充填率を示す。また、「凸部端部の角度」とは、凸部の底面と凸部の母線とが接する位置における、凸部の母線の接線と前記凸部の底面のなす角度(図4のα)を示す。
【0102】
[実施例7]
実施例1の微細構造体の凸面上に、ハードコート層とポリエステルフィルムからなるハードコートフィルム(KBフィルムN05S:きもと社)のポリエステルフィルム側を接着剤を介して貼合し、実施例7の微細構造体を得た。
【0103】
<凸型金型の作製>
凹型金型の作製と同様にして、微細穴開け加工技術により形成された特定の凹凸形状を有する基板を作製した。基板の凹凸形状は、開口の半径が25μm、深さが20μm程度の凹部を所定の充填率(別掲)で密着し作製したものであり、基板によって凹部の母線の形状を異ならせて、母線の回転体である凹部を作製した。次いで電鋳加工して該特定の凹凸形状を反転させ、かかる形状を賦形転写することができる金型j〜r(縦×横のサイズが10mm×10mm)を用意した。
【0104】
[実施例8]
金型jへ、紫外線硬化型樹脂としてアクリルモノマー(メタクリル酸メチル:和光純薬社)50部及び多官能性アクリルモノマー(NKエステルA-TMPT-3EO:新中村化学工業社)45部、光重合開始剤(イルガキュア184:チバ・ジャパン社)5部からなる混合液を滴下し、この上に厚み100μmのポリエステルフィルム(コスモシャインA4300:東洋紡績社)を密着させた。この状態のままポリエステルフィルム側からメタルハライドランプにより1500mJ/cm2の紫外線を照射し、紫外線硬化型樹脂を硬化させたのちポリエステルフィルム及び樹脂を金型から剥離することで、金型の形状を忠実に転写させた実施例8の微細構造体を作製した。この微細構造体は、金型により転写された凹部の底からポリエステルフィルム面まで約10μmの基底部(図8の厚みtに相当)が形成されていた。実施例8の微細構造体の構造を、レーザ顕微鏡(キーエンス社:VK−9500)を用いて測定した結果を表2に示す。
【0105】
[実施例9〜13、比較例4〜6]
実施例8で用いた金型jに替えて、実施例8と同様の手法により凹凸形状を変化させて作製した金型k〜rを用いた以外は実施例8と同様にして、実施例9〜13及び比較例4〜6の微細構造体を作製した。実施例9〜13及び比較例4〜6の微細構造体の構造を、レーザ顕微鏡(キーエンス社:VK−9500)を用いて測定した結果を表2に示す。なお、比較例4の微細構造体の凹部の空洞部は、半球形となっている。
【0106】
【表2】
【0107】
なお、表2中における、「凹部の底の深さ」とは、凹部の開口面の半径に対する凹部の底の深さの割合を示す。また、「3/4の位置の凹部の深さ」、「9/10の位置の凹部の深さ」、「1/4の位置の凹部の深さ」、「1/2の位置の凹部の深さ」とは、凹部の開口面の中心から当該凹部の開口面の半径のそれぞれ3/4、9/10、1/4、1/2の位置における、当該凹部の開口面の半径に対する凹部の深さの割合を示す。また、「凹部の充填率」とは、微細構造体表面に占める凹部の開口面の充填率を示す。また、「凹部空洞部端部の角度」とは、凹部の開口面と凹部の母線とが接する位置における、凹部の母線と凹部の開口面のなす角度(図7のβ)を示す。
【0108】
[実施例14]
実施例8の微細構造体の凹部の開口面上に、ハードコート層とポリエステルフィルムからなるハードコートフィルム(KBフィルムN05S:きもと社)のポリエステルフィルム側を接着剤を介して貼合し、実施例14の微細構造体を得た。
【0109】
2.評価
実施例1〜6(態様1)、8〜13(態様2)及び比較例1〜6の微細構造体を、OSRAM社製の有機EL発光装置の光出射面上に貼り付け、有機EL発光装置を得た。次いで、かかる有機EL発光装置について、3.5V、120mAの電圧・電流を印加して発光させることで、全光束を測定し、電力効率を求めた。態様1の微細構造体を評価するため、比較例1の微細構造体の電力効率に対する、実施例1〜6及び比較例2〜3の微細構造体の電力効率の変化割合(効率変化率(%))を求めた。結果を表3に示す。また態様2の微細構造体を評価するため、比較例4の微細構造体の電力効率に対する、実施例8〜13及び比較例4〜6の微細構造体の電力効率の変化割合(効率変化率(%))を求めた。結果を表4に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
態様1の微細構造体を用いた有機EL発光装置については、表1及び表3に示すように、実施例1〜6の微細構造体が本発明で規定する特殊な凸部を含むものであるため、比較例1の微細構造体に比べて光の取り出し効率に優れるものとなった。
【0112】
特に、実施例1〜3及び5〜6の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、当該微細構造体が条件1だけでなく条件2をも満たすことから、光の取り出し効率により優れるものとなった。なお、実施例6に関しては、比較例1に対する効率変化率は小さいが、本発明で規定する特殊な凸部を含むものであるため、実施例では示していない同じ充填率からなる、本発明で規定する特殊な凸部以外の形状からなるものと比較すれば、光の取り出し効率に優れるものとなる。
【0113】
さらに、実施例1〜2の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、微細構造体表面に占める凸部の底面の充填率が85%以上であることに加えて、当該微細構造体が条件1及び条件2の好適な範囲である、凸部の頂点の高さが凸部の底面の半径の0.70〜1.07倍であり、当該凸部の底面の中心から当該底面の半径のそれぞれ3/4、9/10、1/4及び1/2の位置における当該凸部の高さが当該底面の半径の0.25〜0.63倍、0.05〜0.35倍、0.67〜1.04倍及び0.63〜0.88倍であることから、光の取り出し効率により優れるものとなった。
【0114】
さらに、実施例1の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、微細構造体表面に占める凸部の底面の充填率が85%以上であることに加えて、当該微細構造体が条件1及び条件2のさらに好適な範囲である、凸部の頂点の高さが凸部の底面の半径の0.80〜1.00倍であり、当該凸部の底面の中心から当該底面の半径のそれぞれ3/4、9/10、1/4及び1/2の位置における当該凸部の高さが当該底面の半径の0.37〜0.53倍、0.08〜0.20倍、0.77〜0.93倍及び0.66〜0.83倍であることから、光の取り出し効率により優れるものとなった。
【0115】
一方、比較例1の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、微細構造体表面に占める凸部の形状が本発明で規定するものとは異なり、半球形であったため、実施例1〜6の微細構造体を用いた有機EL発光装置に比べて光の取り出し効率に劣るものとなった。なお、比較例1の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、実施例6のものと略同程度の電力効率であったが、これは凸部の充填率の差によるものであり、同じ充填率である実施例1〜4のものと比較すれば、光の取り出し効率に劣ることが分かる。
【0116】
また、比較例2及び3の微細構造体を用いた有機EL発光装置に関しても、微細構造体表面に占める凸部の形状が本発明で規定するものとは異なるものであったため、実施例1〜6の微細構造体を用いた有機EL発光装置に比べて光の取り出し効率に劣るものとなった。
【0117】
【表4】
【0118】
態様2の微細構造体を用いた有機EL発光装置については、表2及び4に示すように、実施例8〜13の微細構造体は、本発明で規定する特殊な凹部を含むものであるため、比較例4の微細構造体に比べて光の取り出し効率に優れるものとなった。
【0119】
特に、実施例8〜10及び12〜13の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、当該微細構造体が条件3だけでなく条件4をも満たすことから、光の取り出し効率により優れるものとなった。なお、実施例13に関しては、比較例4に対する効率変化率は小さいが、本発明で規定する特殊な凹部を含むものであるため、実施例では示していない同じ充填率からなる、本発明で規定する特殊な凹部以外の形状からなるものと比較すれば、光の取り出し効率に優れるものとなる。
【0120】
さらに、実施例8〜9の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、微細構造体表面に占める凹部の開口面の充填率が85%以上であることに加えて、当該微細構造体が条件3及び条件4の好適な範囲である、凹部の底の深さが凹部の開口面の半径の0.75〜1.38倍であり、当該凹部の開口面の中心から当該開口面の半径のそれぞれ3/4、9/10、1/4及び1/2の位置における当該凹部の深さが当該開口面の半径の0.24〜0.58倍、0.04〜0.28倍、0.74〜1.25倍及び0.65〜0.97倍であることから、光の取り出し効率により優れるものとなった。
【0121】
さらに、実施例8の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、微細構造体表面に占める凹部の開口面の充填率が85%以上であることに加えて、当該微細構造体が条件3及び条件4のさらに好適な範囲である、凹部の底の深さが凹部の開口面の半径の0.81〜1.25倍であり、当該凹部の開口面の中心から当該開口面の半径のそれぞれ3/4、9/10、1/4及び1/2の位置における当該凹部の深さが当該開口面の半径の0.34〜0.53倍、0.07〜0.23倍、0.78〜1.17倍及び0.67〜0.95倍であることから、光の取り出し効率により優れるものとなった。
【0122】
一方、比較例4の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、微細構造体表面に占める凹部の形状が本発明で規定するものとは異なり、半球形の空洞部からなるものであったため、実施例8〜13の微細構造体を用いた有機EL発光装置に比べて光の取り出し効率に劣るものとなった。なお、比較例4の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、実施例13のものと略同程度の電力効率であったが、これは凹部の充填率の差によるものであり、同じ充填率である実施例8〜11のものと比較すれば、光の取り出し効率に劣ることが分かる。
【0123】
また、比較例5及び6の微細構造体を用いた有機EL発光装置に関しても、微細構造体表面に占める凹部の形状が本発明で規定するものとは異なるものであったため、実施例8〜13の微細構造体を用いた有機EL発光装置に比べて光の取り出し効率に劣るものとなった。
実施例8〜13の微細構造体について、その表面を爪で擦ってみたが、微細構造体が破壊されることがなく、表面が傷付き難いものであることが確認された。
【0124】
3.実施例7及び実施例14の評価
上述と同様に、実施例7及び実施例14の微細構造体を、それぞれ、OSRAM社製の有機EL発光装置の光出射面上に貼り付け、有機EL発光装置を得た。次いで、かかる有機EL発光装置について、3.5V、120mAの電圧・電流を印加して発光させることで、全光束を測定し、電力効率を求めた。比較例1の微細構造体の電力効率に対する、実施例7の微細構造体の電力効率の変化割合(効率変化率(%))を求めたところ、2.62%であった。また比較例4の微細構造体の電力効率に対する、実施例14の微細構造体の電力効率の変化割合(効率変化率(%))を求めたところ、1.51%であった。
【0125】
上記の測定結果に示すように、実施例7の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、本発明で規定する特殊な凸部を含むものであるため、光の取り出し効率に優れるものであった。また実施例14の微細構造体を用いた有機EL発光装置は、本発明で特定する特殊な凹部を含むものであるため、光の取り出し効率に優れるものとなった。
【0126】
また、実施例7及び実施例14の微細構造体の凸部が形成された側の最表面を、JIS K5400:1990に基づいた鉛筆引っかき試験に準じ、ヘイドン−14(新東科学社)を使用して鉛筆硬度を測定したところ2Hであり、傷付き防止性に優れることが確認された。また、実施例7及び実施例14の微細構造体の凸部が形成された側の最表面に付着していたホコリや指紋は、当該最表面をウェスで拭くことにより、表面を傷付けることなく簡単に取り除くことができた。
【符号の説明】
【0127】
1・・・・本発明の微細構造体
2・・・・本発明のEL素子
10・・・平坦な部材
11・・・ガラス基板
12・・・透明な陽極
13・・・発光部
14・・・陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11