(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ペロブスカイト酸化物は、前記銀粉末100質量部に対して、0.05質量部以上2.5質量部以下の割合で含まれている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペースト組成物。
【背景技術】
【0002】
太陽の光エネルギーを電力に変換する太陽電池の典型例として、例えば、シリコン(単結晶または多結晶)を半導体基板として利用する太陽電池、いわゆる結晶シリコン系太陽電池が知られている。そして、この結晶シリコン系太陽電池としては、例えば
図2に示すような、片面受光タイプの太陽電池110が汎用されている。
この太陽電池110は、p型シリコン基板(Siウエハ:p型結晶シリコンからなるp−Si層)111の受光面(
図2では上面)側にpn接合により形成されたn−Si層116を備え、n−Si層116上には窒化シリコンや酸化チタンから成る反射防止膜114と、銀(Ag)から成る表面電極(受光面電極)112とを備えている。一方、p型シリコン基板(p−Si層)111の裏面(
図2では下面)側には、受光面電極112と同様に銀(Ag)から成る裏面側外部接続用電極122と、いわゆる裏面電界(BSF;Back Surface Field)効果を奏するアルミニウム電極120とを備えている。
【0003】
かかる受光面電極112を形成する手法の一つに、ファイヤースルー(焼成貫通)法と呼ばれる手法がある。このファイヤースルー法では、例えば、シリコン基板111の表面のほぼ全面に反射防止膜114を形成し、この反射防止膜114上に受光面電極形成用のペースト組成物(以下、単に導電性ペーストという場合がある。)をスクリーン印刷法等の手法により所望の電極パターンに形成して焼成を行う。ここで用いる導電性ペーストは、例えば、主として、導電性粒子(典型的には銀粉末)と、ガラス粉末と、有機媒体とから構成されている。そして、この導電性ペースト中のガラス粉末が、焼成中に反射防止膜114を酸化し、ガラス中に取り込むことで、ペースト中の導電性粒子とn−Si層116とによる電気的接続(具体的には、オーミックコンタクト)を実現する。この手法によると、予め反射防止膜114の部分的除去を伴う電極形成手法等と比較して、工程数が削減できるとともに、反射防止膜114の除去部分と受光面電極112の形成位置との間に隙間や重なりが生まれる心配がない。そのため、受光面電極112の形成には、かかるファイヤースルー法が好ましく採用されている。
【0004】
このような太陽電池の受光面電極112の形成に際しては、良好な電気的接続(オーミックコンタクト)を実現することで受光面電極112とn−Si層116との間の接触抵抗を抑える等して、得られる太陽電池(単セル)の曲線因子(FF)やエネルギー変換効率等の特性を高める努力が為されている。例えば、導電性ペーストに対し、導電性粒子およびガラス粉末以外の成分を配合することで、これらの特性の改善を試みることがなされている(例えば、特許文献1〜8参照)。
【0005】
具体的には、例えば、特許文献1には、導電性ペーストに周期表第V族元素を添加することにより銀粉末およびガラス粉末を活性化し、反射防止膜に対する酸化還元作用を促進させて、形成される銀電極と拡散層との間のオーミックコンタクトを改善し得ることが開示されている。
特許文献2には、導電性ペーストに、塩化物、臭化物あるいはフッ化物を添加することで、銀粉末およびガラス粉末が反射防止膜を突き破る作用を補助し、オーミックコンタクトを改善できることが開示されている。
特許文献3には、銀電極用の電極材料にTi,Bi,Co,Zn,Zr,FeおよびCr成分のうちのいずれか1種または複数種を含有させることで、安定的なオーミックコンタクトが得られ、電極強度が高くなることが開示されている。
【0006】
特許文献4には、太陽電池の受光面電極を形成するために用いることができる、銀粉末と、粒径が7nmから100nm未満の範囲にあるZn含有添加剤と、軟化点が300〜600℃の範囲内のガラスフリットとが、有機溶媒中に分散されている厚膜導電性組成物が提案されており、このZn含有添加剤の添加により電気的性能とハンダ接着性との両方が改善されることが開示されている。
また、特許文献5には、太陽電池の受光面電極を形成するために用いることができる、銀粉末とMn含有添加剤と軟化点が300から600℃の範囲内にあるガラスフリットとが有機溶媒中に分散されている厚膜導電性組成物が提案されており、このMn含有添加剤の添加により電気的性能とハンダ接着性との両方が改善されることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のシリコン系太陽電池の受光面電極は、典型的には、線状のバスバー電極(接続用電極)と、該バスバーに接続する多数本の細線状のグリッド電極(集電用電極)とにより構成されている。そして、このような受光面電極は太陽電池の受光面に形成されるため、シャドウロス(遮光損失)が発生する。そのため、セルの単位面積あたりの受光面積を拡大し、セル単位面積あたりの出力、すなわち変換効率を向上させる目的で、受光面電極、とりわけ本数の多いグリッド電極の細線化(ファインライン化)を図ることが求められている。例えば、従来の太陽電池において130μm程度であったグリッド電極の幅を、110μm以下とすることが求められる。
ここで、グリッド電極の幅を細くすると、受光面電極とn層とのオーミックコンタクトが悪化して接触抵抗が高くなり、電流密度の低下が起こるため、単純には変換効率を高くすることができない。そのため、グリッド電極の幅を細くした場合において、上記の特許文献1〜5に記載された技術は、太陽電池の曲線因子やエネルギー変換効率等の特性を十分に高めるものとはなり得ていなかった。
【0009】
また、上記のような太陽電池の一般的な構成において、短波長の光は透過性が低いことからpn接合に到達して発電に寄与することなく、n−Si層に吸収されて熱に変わってしまっていた。そのため、より短波長の光をできる限り高い強度でpn接合部分に送り届け、より多くの電流を取り出すために、すなわち、光電変換効率を上げる目的で、n−Si層の厚さ(深さ)を薄くすることが試みられている。例えば、従来は300nm〜500nm程度の厚みであったn−Si層を、例えば250nm以下程度として薄層化することが提案されている。かかる構成によると、近紫外光(例えば、波長200〜380nm)付近の高エネルギーな光を発電に利用できるため、太陽電池の発電効率の向上が期待されている。しかしながら、n−Si層の厚さがこのように薄くなるとn−Si層自体が高抵抗化してシート抵抗が増大すること、また表面再結合を抑制するためにドーパント濃度を低下する必要があること等から、受光面電極とn−Si層との間に良好なオーミックコンタクトが得られ難く、接触抵抗が増大するという問題があった。また、受光面電極の形成に上記のファイヤースルー法を適用すると、電極ペーストがn−Si層に達するのみならずn−Si層を超えてpn接合界面近傍にまで浸食する可能性が生じ、焼成条件の厳格化が要求され、また、太陽電池の曲線因子(FF)やエネルギー変換効率に却って悪影響を与えるおそれがあった。
【0010】
本発明は、上記のとおりの事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、例えば、太陽電池の受光面電極を形成するに際して要求される多様な特性、例えば、細線化が可能で、かつ、良好な電気的接合を実現し得る、ペースト組成物を提供することを目的とする。また、かかるペースト組成物を用いて形成された受光面電極を備える、優れた電気特性(例えば、開放電圧、曲線因子やエネルギー変換効率)を備える太陽電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を実現するべく、本発明により提供されるペースト組成物は、太陽電池の受光面に配設される銀電極を形成するためのペースト組成物である。かかるペースト組成物は、銀粉末と、ペロブスカイト型酸化物粉末と、ガラス粉末とが有機媒体に分散されて構成されている。そして、このペロブスカイト型酸化物は、一般式(1):ABO
3−δで表され、Aサイトにはランタノイド(Ln)から選択される少なくとも1種の元素およびストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca)ならびにバリウム(Ba)から選択される少なくとも1種の元素が、Bサイトには少なくともコバルト(Co)および鉄(Fe)が含まれていることを特徴としている。なお、式(1)中のδは酸素欠損量を示す。また、上記ガラス粉末は、少なくとも一部にテルル(Te)成分を含むことを特徴としている。
【0012】
本発明者らは、太陽電池の受光面に配設される銀電極を形成するためのペースト組成物の新たな機能性を探求した結果、かかるペースト組成物に、酸素イオン導電性と電子導電性とを備える酸素イオン−電子混合伝導体であって、例えば、LnSrMn系、LaNiFe系、LaSrCoFe系のペロブスカイト構造を有する酸化物を配合することで、太陽電池の電気特性を向上し得ることを既に見出している。そして、かかるペースト組成物の更なる改良を目的として鋭意研究を重ねた結果、上記のLaSrCoFe系のペロブスカイト構造を有する酸化物を用いた場合においては、ガラス粉末として、少なくとも一部にテルル(Te)成分を含むガラス粉末を用いることで、太陽電池の電気特性をより一段と向上し得ることを見出し、本願発明を完成するに至ったものである。特に、かかるペースト組成物により、変換効率がより一層向上され得る。
【0013】
ここに開示されるペースト組成物の好ましい一態様において、上記ガラス粉末は、次の(A)および(B)のうち少なくとも一つを含むことを特徴としている。
(A):テルル(Te)をネットワークフォーマー元素として含まないガラスを主成分とするガラス相と、テルル(Te)またはテルル化合物を主成分とするテルル含有相とを少なくとも有し、上記ガラス相と上記テルル含有相とが一体化されているガラス粉末。
(B):テルル(Te)をネットワークフォーマー元素として含むテルル含有ガラスからなるガラス粉末。
LaSrCoFe系のペロブスカイト構造を有する酸化物と同時に用いるガラス粉末としては、上記の(A)または(B)の構成を有するものであっても良い。すなわち、テルル成分は、ガラス粉末から遊離した成分としてではなく、ガラス粉末と共に含有されることが重要である。かかる構成によると、ガラス粉末からのテルルの遊離を効果的に抑制することができ、得られる太陽電池の電気特性をより確実に高めることが可能となる。
【0014】
ここに開示されるペースト組成物の好ましい一態様において、上記ペロブスカイト型酸化物は、以下の一般式(2):
(Ln
x,M
1−x)(Co
y,Fe
1−y)O
3−δ …(2)
で表される構造を有することを特徴としている。上記式(2)中、Lnはランタノイドから選択される少なくとも1種の元素を示し、MはSr,CaおよびBaから選択される少なくとも1種である。また、xおよびyは、0.2≦x≦0.8,0.1≦y≦0.7を満たし、δは酸素欠損量を示す。
かかるペロブスカイト型酸化物の組成を上記範囲とすることで、このペースト組成物を用いて製造される太陽電池の電気特性向上の効果をより高めることができる。
【0015】
ここに開示されるペースト組成物の好ましい一態様において、上記ペロブスカイト型酸化物は、上記銀粉末100質量部に対して、0.05質量部以上2.5質量部以下の割合で含まれていることを特徴としている。
本発明で用いられるLnMCoFe系のペロブスカイト型酸化物は、上記の割合でペースト組成物に配合されることで、形成される太陽電池の変換効率を好適に高めることができる。
【0016】
ここに開示されるペースト組成物の好ましい一態様においては、上記ガラス粉末が、上記ガラス粉末(A)を含み、上記ガラス粉末(A)におけるガラス相が、酸化物換算組成で、以下に示される成分を有するガラスL〜Nの少なくとも1種のガラスを含むことを特徴としている。
[ガラスL]
SiO
2: 9mol%以上53mol%以下
B
2O
3: 1mol%以上 7mol%以下
PbO : 46mol%以上57mol%以下
[ガラスM]
SiO
2: 20mol%以上65mol%以下
B
2O
3: 1mol%以上18mol%以下
PbO : 20mol%以上65mol%以下
Li
2O:0.6mol%以上18mol%以下
【0017】
[ガラスN]
Bi
2O
3:10mol%以上29mol%以下
B
2O
3 :20mol%以上33mol%以下
SiO
2 : 0mol%以上20mol%以下
ZnO :15mol%以上30mol%以下
Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計:8mol%以上21mol%以下
本発明のペースト組成物は、ガラスL、ガラスMおよびガラスNの何れかのガラス相にテルル含有相が一体化されたガラス粉末(以下、単にテルル担持ガラスという場合がある。)を用いたとき、太陽電池の電気特性を特に好適に向上させることができる。すなわち、ファイヤースルー効果を発現するテルル担持ガラスの担体としては、例えば、鉛含有ガラスであるガラスLおよびガラスMや、無鉛ガラスであるガラスNの何れを用いても、太陽電池の受光面電極の形成を好適に行うことが可能となる。
【0018】
ここに開示されるペースト組成物の好ましい一態様においては、上記ガラス粉末が、上記ガラス粉末(B)を含み、上記ガラス粉末(B)が、酸化物換算組成で、以下に示される成分を有するガラスL’〜N
’の少なくとも1種のガラスを含むことを特徴としている。
[ガラスL’]
SiO
2: 9mol%以上53mol%以下
B
2O
3: 1mol%以上 7mol%以下
PbO : 10mol%以上57mol%以下
TeO
2: 10mol%以上70mol%以下
[ガラスM’]
SiO
2: 9mol%以上65mol%以下
B
2O
3: 1mol%以上18mol%以下
PbO : 9mol%以上65mol%以下
Li
2O:0.6mol%以上18mol%以下
TeO
2: 10mol%以上70mol%以下
[ガラスN’]
Bi
2O
3:10mol%以上29mol%以下
B
2O
3 :10mol%以上33mol%以下
SiO
2 : 0mol%以上20mol%以下
ZnO :10mol%以上30mol%以下
TeO
2 : 10mol%以上60mol%以下
Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計:8mol%以上21mol%以下
本発明のペースト組成物は、ガラスL’、ガラスM’およびガラスN’の何れかを用いたとき、太陽電池の電気特性を特に好適に向上させることができる。すなわち、ファイヤースルー効果を発現するガラス粉末として、例えば、鉛含有ガラスであるガラスLおよびガラスMや、無鉛ガラスであるガラスNの何れを用いても、太陽電池の受光面電極の形成を好適に行うことが可能となる。
【0019】
ここに開示されるペースト組成物の好ましい一態様においては、上記ガラス粉末は、軟化点が300℃以上600℃以下の範囲であることを特徴としている。かかる温度範囲に軟化点を有するガラスを配合することで、ファイヤースルー法による受光面電極の形成をより好適に行うことができる。したがって、よりオーミックコンタクト性の良好な電極を形成することが可能となる。
【0020】
本発明が他の側面で提供する太陽電池は、上記いずれかのペースト組成物を用いて形成された銀電極を受光面に備えることを特徴としている。
かかる構成によると、太陽電池の受光面において、銀電極とn−Si相との間に良好な導電パスが形成されるとともに、耐熱性および耐還元性に優れた電極が実現されている。かかる特性は、例えば、受光面電極を細線化した場合や、n層を薄くした場合であっても維持され得る。これにより、電気特性、とりわけ変換効率に優れた太陽電池が提供されることになる。
なお、本明細書において、ペーストとは、上記の構成成分が有機媒体に混合または分散されて、適度な流動性と粘性を備えているものを意味し、インクまたはスラリー等を包含する意味で用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペースト組成物の基板への供給方法や焼成方法、太陽電池の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0023】
[ペースト組成物]
ここに開示されるペースト組成物は、太陽電池の受光面に配設される銀電極を形成するためのペースト組成物である。より典型的には、結晶シリコン(単結晶あるいは多結晶シリコン)系の太陽電池の受光面電極の形成に好適に用いることができる。このペースト組成物は、本質的に、銀粉末と、ペロブスカイト型酸化物粉末と、テルル成分を含むガラス粉末とが、有機媒体に分散されることで構成されている。
【0024】
[銀粉末]
ここで開示されるペースト組成物には、主たる固形分として銀(Ag)粉末が含まれている。この銀粉末は、銀(Ag)を主体とする粒子の集合体であってよく、好適には、Ag単体からなる粒子の集合体である。しかし、この銀粉末がAg以外の不純物やAg主体の合金(固溶体、共晶および金属間化合物を含み得る。)を微量含むものであっても、全体としてAg主体の粒子の集合体であれば、ここでいう「銀粉末」に包含され得る。なお、かかる銀粉末は、従来公知の製造方法によって製造されたものでよく、特別な製造手段を要求するものではない。
【0025】
かかる銀粉末を構成する粒子の形状については特に限定されない。例えば、典型的には球状であってよく、いわゆる真球状のものに限られない。球状以外には、例えば、ロッド形状、フレーク形状や不規則形状のもの等を挙げることができ、銀粉末はこのような種々の形状の粒子から構成されていてもよい。かかる銀粉末が平均粒径の小さい(例えば、数μmサイズ)粒子から構成される場合には、該粒子(一次粒子)の70質量%以上が球状またはそれに類似する形状を有することが好ましい。例えば、かかる銀粉末を構成する粒子の70質量%以上のもののアスペクト比(すなわち、粒子の短径に対する長径の比)が1〜1.5であるような銀粉末が好ましい。
【0026】
なお、太陽電池を構成する基板(例えばSi基板)の一つの面(典型的には受光面であるが、裏面であっても良い)に受光面電極としての銀電極を形成する場合、所望の寸法(線幅、膜厚など)および形状を実現し得るようペースト組成物の塗布量および塗布形態等を考慮することができる。ここで、かかる太陽電池の受光面電極を形成するのに好適な銀粉末としては、特に制限されるものではないが、該粉末を構成する粒子の平均粒径が20μm以下であるものが適当であり、好ましくは0.01μm以上10μmであり、より好ましくは0.3μm以上5μm以下であり、例えば2μm±1μmである。なお、ここでいう平均粒径とは、レーザー回折散乱法に基づき測定される体積基準の粒度分布における累積体積50%時の粒径、すなわちD50(メジアン径)をいう。
例えば、平均粒径の差が互いに異なる複数の銀粉末(典型的には2種類)同士を混合し、混合粉末の平均粒径が上記範囲内にあるような銀(混合)粉末を用いることもできる。上記のような平均粒径の銀粉末を用いることにより、受光面電極として好適な緻密な銀電極を形成することができる。
【0027】
ここで開示されるペースト組成物中の上記銀粉末の含有量としては、ペースト組成物の供給方法(典型的には、塗布方法)にもよるため特に制限されないが、該ペースト組成物全体の合計を100質量%としたとき、その40質量%以上95質量%以下、より好ましくは60質量%以上90質量%以下、例えば70質量%以上80質量%以下が銀粉末となるように含有率を調整することが好ましい。製造されたペースト組成物中の銀粉末含有率が上記範囲内にあるような場合には、導電性が高く、緻密性がより向上した銀電極(膜)を好適に形成することができる。
【0028】
[ペロブスカイト型酸化物粉末]
次に、ここで開示されるペースト組成物を特徴づけるペロブスカイト型酸化物粉末について説明する。
ペロブスカイト型酸化物粉末は、上記ペースト組成物の固形分として含まれる必須の構成要素である。かかるペロブスカイト型酸化物粉末は、次の一般式(1):ABO
3−δで表されるもののうち、Aサイトに、ランタノイド(Ln)から選択される少なくとも1種の元素と、ストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca)ならびにバリウム(Ba)から選択される少なくとも1種の元素とを含み、かつ、Bサイトに、少なくともコバルト(Co)と鉄(Fe)とを含むものを考慮することができる。
【0029】
本発明におけるペロブスカイト型酸化物粉末において、Aサイトに位置するランタノイド(Ln)は、原子番号が57〜71の、すなわちランタン(Ln)からルテチウム(Lu)までの15種の元素を考慮することができ、これらの元素のうちいずれか1種を単独で、あるいは2種以上を複合して選択することができる。かかるランタノイドとしては、ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジム(Pr),ネオジム(Nd),サマリウム(Sm)等の比較的イオン半径の大きな元素を好ましく用いることができ、中でも安定した結晶構造を構成し得るランタン(La)を好ましく用いることができる。ランタノイドとしてLa以外の元素を含む場合には、かかるLaの割合が高いことが好ましい。
【0030】
また、上記Aサイトは、例えば、アルカリ土類金属元素をドープして置き換えることができる。かかるアルカリ土類金属元素としては、元素周期律表の2A族元素、すなわち、ベリリウム(Be)からラジウム(Ra)までの6種類の元素を考慮することができる。本発明においては、これらアルカリ土類金属元素のうちでも電荷とイオン半径とのバランスから、ストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca)ならびにバリウム(Ba)のうちいずれか1種を単独で、あるいは2種以上を複合して含むことを必須の要件としている。
【0031】
また、Bサイトには、例えば、典型的には、元素周期表の第3族から第11族に属する遷移金属元素が好適に配置し得るが、上記のとおり本発明においては、少なくともコバルト(Co)と鉄(Fe)との両方を含むことを必須の要件としてもいる。このBサイトにCoとFeとの特定の元素の組み合わせが存在することにより、このペロブスカイト型酸化物は半導体の性質を示すとともに、酸素イオン伝導度の高い材料となり得る。かかるペロブスカイト型酸化物の配合により、本発明のペースト組成物は、太陽電池基板(p
+層)とのオーミックコンタクト性が改善されるものと考えられる。
なお、上記の説明からも明らかなように、本発明のペロブスカイト型酸化物は、上記に挙げられた特定の金属元素の含有が必須とされているものの、本発明の目的を損なわない限りにおいて、その他の金属元素の含有が許容される。すなわち、Aサイトは、酸素12配位の各種の金属元素であってよく、Bサイトは酸素6配位の各種の金属元素であってよい。例えば一例として、Zn,In,V,Sn,Ge,Ce,Mg,Sc,Y等の他の元素が含まれていてもよい。これら任意の金属元素は、元素数を基準として、例えば、30%以下、より好ましくは10%以下の割合に抑えられていることが例示される。
【0032】
このようなペロブスカイト型酸化物の好ましい形態は、具体的には、例えば、以下の一般式(2)により示すことができる。
(Ln
x,M
1−x)(Co
y,Fe
1−y)O
3−δ …(2)
ここで、式(2)におけるLnは少なくとも1種のランタノイドであり、好ましくはLaである。また、Mは、Aサイトに好ましくドープされる、Sr,CaおよびBaから選択される少なくとも一種の元素であり、好ましくはSrである。すなわち、AサイトはLnとMにより実質的に占有され、BサイトはCoとFeとにより実質的に占有されているものが好ましい。
【0033】
また、上記式(2)中のxおよびyは、0.2≦x≦0.8,0.1≦y≦0.7を満たす。xは、より好ましくは0.5≦x≦0.7であり、yは、より好ましくは0.2≦y≦0.5である。
また、式(2)に示されるように、いわゆるIII−III型ペロブスカイト構造におけるLn
3+の一部を同価でないM
2+で置換することで、Aサイトに欠陥が発生すると同時にBサイトの価数が増加し、Ti
3+,Ti
4+とFe
3+,Fe
4+とが共存し得る。また、結晶構造には酸素欠損が誘起され得る。結晶構造中の酸素欠損量は上記の式(1)(2)中においてδで示され、電子、正孔、酸素イオンなどの欠損(欠陥)の濃度が結晶全体として電気的中性を保つように各種の条件に応じて変化する。これにより、かかるペロブスカイト型酸化物は、電気的に導電性と誘電性とが共存した状態であり得る。
【0034】
以上の構成のペロブスカイト型酸化物粉末は、公知の各種の手法で製造したものを特に制限なく用いることができる。かかるペロブスカイト型酸化物粉末の製造方法としては、例えば、乾式法や、共沈法等が代表的なものとして知られている。乾式法とは、ペロブスカイト型酸化物の構成原料成分の化合物を乾式で混合し、仮焼する方法である。かかる構成原料成分の化合物は、A成分およびB成分の各元素の化合物(例えば、酸化物等)であってもよいし、複数の元素の化合物であってもよい。共沈法は、構成原料成分のすべての混合溶液を作り、これを沈澱形成液に添加して共沈させ、この共沈物を乾燥、仮焼させる方法である。共沈法において用いる原料化合物としては、A成分およびB成分それぞれの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、蓚酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、例えば、水またはアルコール溶液として調整して用いることができる。
【0035】
ペロブスカイト型酸化物粉末の形状等についても特に制限はなく、ペースト組成物中に均一に分散され得る範囲で任意のものであってよい。これらの粉末を構成する粒子の平均粒径としては、0.01μm以上10μm以下であるのが適当であり、好ましくは0.5μm以上10μm以下である。
【0036】
以上のペロブスカイト型酸化物粉末は、例えば、ペースト組成物中に含まれる銀粉末を100質量部としたとき、およそ0.05質量部以上2.5質量部以下(例えば、0.05質量部を超えて2.5質量部未満)の割合で含まれているのが好ましく、0.1質量部以上2質量部以下(例えば、0.1質量部を超えて2質量部未満)、典型的には0.5質量部以上1.5質量部以下の割合で含まれているのがより好ましい。ペロブスカイト型酸化物の粉末の含有量は極少量であっても得られる太陽電池の電気特性(例えば、開放電圧、曲線因子および変換効率)を高めるものとなり得、その含有量が増大するほどその効果も高まる。しかしながら、ペロブスカイト型酸化物粉末の大きすぎる含有は、形成される銀電極の抵抗を高めて電気特性を劣化させるために好ましくない。
なお、以上のペロブスカイト型酸化物粉末は、例えば、ペースト組成物全体の合計を100質量%としたとき、およそ0.05質量%以上1質量%以下(例えば、0.05質量%を超えて1質量%未満)の割合で含まれているのが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下(例えば、0.1質量%を超えて1質量%未満)の割合で含まれているのをより好適な例として把握し得る。
また、このようなペロブスカイト型酸化物粉末は、例えば、ペロブスカイト型酸化物粉末が有機媒体に分散されたペーストの形態でペースト組成物に供給されても良い。
【0037】
[ガラス粉末]
ここで開示されるペースト組成物中の固形分のうち、副成分として含まれるガラス粉末は、太陽電池の受光面電極としての銀電極をファイヤースルー法により反射防止膜の上から形成するために必須の成分であり、また、基板への接着強度を向上させる無機添加材(結着材)でもあり得る。そして、本発明において、ガラス粉末は、上記の通り少なくとも一部にテルル(Te)成分を含むことが要件である。
かかるテルル成分の含有形態については特に制限はなく、例えば、典型的には、以下の(A)(B)に示すような含有形態であるガラス粉末を好ましく用いることができる。
【0038】
A:テルル(Te)をネットワークフォーマー元素として含まないガラスを主成分とするガラス相と、テルル(Te)またはテルル化合物を主成分とするテルル含有相とを少なくとも有し、これらガラス相とテルル含有相とが一体化されているガラス粉末。本明細書では、かかる(A)に示される形態でテルルを含有するガラス粉末を、以下、単に、「テルル担持ガラス」という場合がある。
B:テルル(Te)をネットワークフォーマー元素として含むテルル含有ガラスからなるガラス粉末。
【0039】
[A:テルル担持ガラス]
かかるテルル担持ガラスにおいて、テルルまたはテルル化合物は、ガラスフリットと不可分一体的に結合された状態でありながら、ガラスを構成する成分としてではなく、結晶相として含まれている。例えば、具体的には、一個のフレーク状または粉末状のガラスフリットに対し、一個のあるいは複数個のテルル成分含有粒子が結合し、ガラスフリットに担持された状態であり得る。テルル化合物粒子を担持したガラスフリットが更に複数結合するなどしていても良い。ここで、ガラスフリットとテルル化合物粒子の相対的な大きさについては特に制限はなく、いずれの方が大きくても良く、また同程度の大きさであって良い。両者の相対的な位置関係が重要である。
【0040】
かかるテルル担持ガラスの構造に着目すると、テルル担持ガラスは、ガラス相と、結晶質のテルル化合物相とが界面を介して一体化された構造を有している。ここで、ガラス相は、テルル(Te)をガラスネットワークフォーマー元素として含まないガラスを主成分としている。すなわち、ガラス相はTeを含んでいても良いが、その場合のTeはガラスネットワークフォーマーとしてではなく、ネットワークモディファイアとして含み得る。また、テルル化合物相は、テルル化合物を主成分とする結晶質(結晶相を含み得る。)であり、ガラス相とは結晶構造を有する点で明瞭に区別することができる。ガラス相は、1種類のガラス相で構成されていても良いし、複数種のガラス相が存在していても良い。また、テルル化合物相は、1種類のテルル化合物相で構成されていても良いし、複数種のテルル化合物相が存在していても良い。例えば、一つのガラス相に、組成の異なる複数のテルル化合物相が一体化されていても良いし、組成の異なる複数のガラス相と組成の異なる複数のテルル化合物相とが一体化されていても良い。
【0041】
これらのガラス相とテルル化合物相とは、接合界面(その近傍を含む。)において互いの成分が拡散することもあり得るため、例えば、界面近傍においては互いの成分を含んでいても良い。典型的には、例えば、ガラス相は、Teをテルル化合物相との界面近傍に含み得るが、ガラス相の中心付近においてはTeを含まない形態であり得る。なお、ガラス相の大きさによっては中心付近においてTeを含む形態も考えられるが、かかる場合も、Teはガラスネットワークフォーマー(すなわちガラス骨格)としては存在しないと理解できる。
また、テルル化合物相は、ガラス相との界面近傍においてガラス相の構成成分を含み得る。この場合、ガラス相の構成成分は、テルル化合物の一構成成分として含まれると考えても良い。
すなわち、テルル担持ガラスにおいて、ガラス相とテルル化合物相は界面を介して接合し、界面近傍において互いの成分が拡散し得るものの、一方の相が他方の相に取り込まれることはなく、本質的には独立した異なる相として存在している。
【0042】
以上のようなテルル担持ガラスの特徴的な構成は、例えば、ペースト組成物に含まれるガラス成分をX線回折分析することにより容易に確認することができる。すなわち、上記の通りの構成のテルル担持ガラスのX線回折パターンは、ガラス相に由来するハローパターンと呼ばれる特有の幅広のピークの中に、結晶性のピークが観測される。この結晶性のピークは、典型的には、ガラスフリットに担持されたテルル化合物に一致する。そして、テルル化合物相とガラス相との界面においてガラスフリットの構成成分がテルル化合物相に拡散している場合には、テルル化合物を構成する成分とガラスフリットを構成する成分とで形成される化合物(テルル含有化合物)のピークが検出される場合もある。例えば、一例として、ガラスフリットとして鉛系ガラスを用いた場合には、典型的には、TeO、Te
2O
5、TeO
3等のテルル酸化物に帰属するピークに加えて、Pb
3TeO
5等のテルル含有酸化物に帰属するピークが観測され得る。このように、テルル担持ガラスのX線回折パターンは、その特徴的な構造に由来して、典型的には、ガラスフリットの存在を示すハローパターンと、ガラスフリットに担持されるテルル化合物に帰属するピークと、ガラスフリット成分とテルル化合物成分とからなるテルル含有化合物に帰属するピークとを含むものであり得る。
かかるテルル担持ガラスの特徴的な構成は、X線回折分析以外にも、例えば、エネルギー分散型X線(EDX)分析を行うこと等でも確認することができる。
【0043】
以上のようなテルル担持ガラスは、代表的には、例えば、ガラスフリットとTe原料化合物とを混合し、当該ガラスフリットの融点をTm℃としたとき、(Tm−35)℃〜(Tm+20)℃の温度範囲で焼成してテルル担持ガラスフリットを用意することで用意することができる。
【0044】
[テルル担持ガラス粉末の用意]
かかるテルル担持ガラスにおいて、テルル含有相を担持するガラス相(ガラス粉末であり得る。以下同じ。)の形状については特に制限はなく、典型的には、ガラスを粉砕する等して得られる、フレーク状または粉末状のガラスフリットであって良い。また、組成についても特に制限はなく、従来よりペースト組成物として用いられているガラスと同様のものとすることができる。このようなガラスとしては、例えば、鉛系、鉛リチウム系、亜鉛系、ホウケイ酸系、アルカリ系のガラス、および酸化バリウムや酸化ビスマス等を含有するガラス、またはこれら2種以上の組合せ等からなるものが例示される。より具体的には、例えば、以下に示すような代表組成(酸化物換算組成;ガラス全体を100mol%とする。)を有するガラスが好ましいものとして例示される。なお、下記のガラスL〜Mは、下記に示されていない成分(例えば、Al
2O
3,TiO
2,ZnO,P
2O
5等)が含まれ得る。
【0045】
[ガラスL]鉛ガラス
SiO
2: 38mol%以上53mol%以下
B
2O
3: 1mol%以上 7mol%以下
PbO : 46mol%以上57mol%以下
【0046】
[ガラスM]鉛リチウムガラス
SiO
2: 20mol%以上65mol%以下
B
2O
3: 1mol%以上18mol%以下
PbO : 20mol%以上65mol%以下
Li
2O:0.6mol%以上18mol%以下
【0047】
[ガラスN]鉛フリーガラス
Bi
2O
3:10mol%以上29mol%以下
B
2O
3 :20mol%以上33mol%以下
SiO
2 : 0mol%以上20mol%以下
ZnO :15mol%以上30mol%以下
Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計:8mol%以上21mol%以下
【0048】
以上のガラス粉末は、例えば、軟化点が300℃以上600℃以下の範囲内にあるものとすることができ、ファイヤースルー法により、反射防止膜を破って銀電極を形成する場合に好適である。軟化点が300℃未満では、焼成時のペースト組成物の浸食性が強くなり過ぎるために基板への浸食が発生する可能性があるために好ましくない場合がある。一方、軟化点が600℃を越えると、反射防止膜を浸食する作用が不足し、電極と基板との電気的に良好な接合(オーミックコンタクト)が得られ難くなる点で好ましくない。
【0049】
なお、上記の組成は代表的なものであって、基板との良好な付着性や、電極膜の形成性、反射防止膜への浸食性、良好なオーミックコンタクトを得る目的等で、他の元素を含んだり調整されるなどしてよいことは言うまでもない。
【0050】
テルル(Te)またはテルル化合物としては、典型的には適切な雰囲気での焼成によりテルル化合物を形成あるいはテルル化合物を維持し得る各種の材料を用いることが好ましい。かかるテルル含有相の原料としては、各種のテルル化合物であってよい。より具体的には、例えば、テルル化亜鉛,テルル化カドミウム,テルル化水銀,テルル化鉛,テルル化ビスマス,テルル化銀等のテルル化金属、二酸化テルル,三酸化テルル等のテルル酸化物、オルトテルル酸,亜テルル酸,オルトテルル酸等のオキソ酸とその塩、水酸化テルル等の水酸化物、塩化テルル,四臭化テルル等のハロゲン化物、硫酸ジテルリル、リン酸テルル等の塩、テルル酸,メタテルル酸等とその塩に例示される無機化合物、および、ジアリールテルリド等のテルリド、ビス(4−メトキシフェニル)テルロキシド等のテルロキシド、メチルフェニルテルロン等のテルロン等に例示される有機化合物等、およびこれらの混合物あるいは複合化物であり得る。典型的には、一般式、TeO
2,Te
2O
3,Te
2O
5,TeO
3等で表されるテルル酸化物や、Te(OH)
6で示されるテルル酸およびH
2TeO
3で示される亜テルル酸とそれらの塩等を好適に用いることができる。
【0051】
これらは、略均一に混合した後、典型的には酸化雰囲気(例えば、大気雰囲気)において(Tm−35)℃〜(Tm+20)℃となる温度範囲で焼成する。焼成温度は、(Tm+20)℃を超過するとガラスフリットの溶融が進行し、テルルまたはテルル化合物がガラス相に取り込まれて(ガラス化して)しまうために好ましくない。焼成温度はより好ましくは(Tm+15)℃以下であり、更に好ましくはTm℃以下(すなわち、ガラスフリットの融点以下)である。また、焼成温度が(Tm−35)℃よりも低いとテルルまたはテルル化合物を確実に担持できない可能性が高まるために好ましくない。焼成温度は、好ましくは(Tm−30)℃以上であり、より好ましくは(Tm−20)℃以上である。例えばこのようにして、テルル担持ガラスを用意することができる。
【0052】
なお、焼成後に得られる焼成物としてのテルル担持ガラスは、全体が焼結して大きな凝集体を形成している場合もあり得る。このような場合には、かかる凝集体を解砕し、必要に応じてふるいにかけることで、ペースト組成物の調製に適した粒度のものを用いるようにしても良い。焼結による結合は吸着等による付着に比べて強固ではあるものの、ガラスフリットとテルル含有相の原料とは混合した状態のまま間隙を持って焼結されているため、この凝集体はボールミルや粉砕機等の特別な装置を用いることなく軽い解砕(例えば、手作業による圧潰や、乳鉢および乳棒等を用いた軽い混合)によって所望の粒度にまで容易に細粒化することができる。
【0053】
[B:テルル含有ガラス]
テルル含有ガラスは、上記のとおり、テルル(Te)をネットワークフォーマー元素として含んでいる。すなわち、テルルはガラス相中に含まれている。かかるテルル含有ガラスとしては、例えば、鉛テルル系、鉛リチウムテルル系、亜鉛テルル系、ホウケイ酸テルル系、アルカリテルル系のガラス、および酸化バリウムや酸化ビスマス等を含有するテルルガラス、またはこれら2種以上の組合せ等からなるものが例示される。より具体的には、例えば、以下に示すような代表組成(酸化物換算組成;ガラス全体を100mol%とする。)を有するガラスが好ましいものとして例示される。
【0054】
[ガラスL’]
SiO
2: 9mol%以上53mol%以下、
B
2O
3: 1mol%以上 7mol%以下、
PbO : 10mol%以上57mol%以下、
TeO
2: 10mol%以上70mol%以下、
[ガラスM’]
SiO
2: 9mol%以上65mol%以下、
B
2O
3: 1mol%以上18mol%以下、
PbO : 9mol%以上65mol%以下、
Li
2O:0.6mol%以上18mol%以下、
TeO
2: 10mol%以上70mol%以下、
[ガラスN’]
Bi
2O
3:10mol%以上29mol%以下、
B
2O
3 :10mol%以上33mol%以下、
SiO
2 : 0mol%以上20mol%以下、
ZnO :10mol%以上30mol%以下、
TeO
2 : 10mol%以上60mol%以下
Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計:8mol%以上21mol%以下、
【0055】
以上のテルル含有ガラスは、例えば、軟化点が300℃以上600℃以下の範囲内にあるものとすることができ、ファイヤースルー法により、反射防止膜を破って銀電極を形成する場合に好適である。軟化点が300℃未満では、焼成時のペースト組成物の浸食性が強くなり過ぎるために基板への浸食が発生する可能性があるために好ましくない場合がある。一方、軟化点が600℃を越えると、反射防止膜を浸食する作用が不足し、電極と基板との電気的に良好な接合(オーミックコンタクト)が得られ難くなる点で好ましくない。
【0056】
なお、上記の組成は代表的なものであって、基板との良好な付着性や、電極膜の形成性、反射防止膜への浸食性、良好なオーミックコンタクトを得る目的等で、他の元素を含んだり調整されるなどしてよいことは言うまでもない。
【0057】
また、テルル担持ガラスは、従来の一般的なガラス材料の調製方法と同様に、所定の配合比でガラス原料を配合した後、溶融し、急冷(ガラス化)させることで得ることができる。かかるガラス材料は、典型的には、全体が一枚の板状ガラスとして製造され得る。このような場合には、かかる板状のガラスを粉砕し、必要に応じてふるいにかけることで、ペースト組成物の調製に適した粒度のテルル含有ガラス粉末とすることができる。
【0058】
このペースト組成物中に含まれる好適なガラス粉末としては、基板(例えばSi基板)上に付与したペースト組成物(塗布膜)を安定的に焼成し、固着させる(焼き付かせる)との観点から、その比表面積が、概ね0.1m
2/g以上10m
2/g以下程度であることが好ましい。また、平均粒径については、例えば、0.01μm以上10μm以下、より限定的には0.1μm以上5μm以下であるのが好ましい。
また、かかるガラス粉末の上記ペースト組成物中の含有量としては、特に限定されないが、該ペースト組成物全体のおよそ0.5質量%以上5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上3質量%以下、より好ましくは1質量%以上3質量%以下となる量が適当である。
なお、ガラス粉末は、例えば、銀粉末100質量部に対しての添加割合が0.5質量部以上15質量部以下程度(典型的には、0.5質量部以上10質量部以下程度、例えば、1質量部以上5質量部以下程度)であるのを、好適な例として把握することもできる。
【0059】
[有機媒体]
ここで開示されるペースト組成物は、固形分として上記の銀粉末、ペロブスカイト型酸化物粉末、ガラス粉末を含むとともに、その残部として、これらの固形分を分散させるための有機媒体(典型的にはビヒクルと、粘度調整のための有機溶媒)を含んでいる。かかる有機媒体としては、上記の固形分、とりわけ銀粉末を良好に分散させ得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、有機媒体を構成する溶剤として、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体(グリコールエーテル系溶剤)、トルエン、キシレン、ブチルカルビトール(BC)、ターピネオール等の高沸点有機溶剤を一種類または複数種組み合わせて使用することができる。
また、ビヒクルは、有機バインダとして種々の樹脂成分を含むことができる。かかる樹脂成分はペースト組成物に良好な粘性および塗膜形成能(例えば、印刷性や、基板に対する付着性等を含む。)を付与し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、セルロース系高分子、ポリビニルアルコール、ロジン樹脂等を主体とするものが挙げられる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が好ましい。
【0060】
かかる有機媒体がペースト組成物全体に占める割合は、5質量%以上60質量%以下であるのが適当であり、好ましくは7質量%以上50質量%以下、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。また、ビヒクルに含まれる有機バインダは、ペースト組成物全体の1質量%以上15質量%以下程度、好ましくは1質量%以上10質量%以下程度より好ましくは1質量%以上7質量%以下程度の割合で含まれるのがよい。かかる構成とすることで、基板上に銀電極(膜)として均一な厚さの塗膜を形成(塗布)し易く、取扱いが容易であり、また銀電極膜を焼成する前の乾燥に長時間を要することなく好適に乾燥させることができるために好ましい。
【0061】
以上の通り、ここに開示されるペースト組成物における上記の銀粉末、ペロブスカイト酸化物粉末およびガラス粉末と、有機媒体との好ましい配合は、ペースト組成物全体の合計を100質量%としたとき、例えば、以下の通りの配合を目安とすることで、好適に調製され得る。
銀粉末 :40質量%以上95質量%以下
ペロブスカイト型酸化物粉末:銀粉末100質量部に対して0.05質量部以上
2.5質量部以下
ガラス粉末 :1質量%以上10質量%以下
有機媒体 :1質量%以上50質量%以下
(ビヒクル :0.5質量%以上15質量%以下)
なお、ビヒクルは、有機媒体に包含されるものであるが、ペースト組成物全体に占める割合を示すと上記の範囲に収まるよう配合されているのが好ましい。
【0062】
ここで特徴的なことは、固形分に占める(ペースト全体に対する、と言ってもよい。)ペロブスカイト型酸化物粉末の割合は極めて少量ではあるが、かかる成分の存在が、例えば、銀電極を細線化した際の基板との抵抗を低く抑え、銀電極と基板との良好なオーミックコンタクトを実現するのに寄与している。また、ガラス粉末は、テルル成分を含有することで、かかるペロブスカイト型酸化物粉末の寄与をより一層高める効果を発揮する。とくに、太陽電池の変換効率を選択的に向上させることができる。すなわち、ペロブスカイト型酸化物粉末とテルル成分を含有するガラス粉末との組み合わせが、太陽電池の電気特性(とくに、変換効率)の改善に相乗的な効果を発揮するために欠かせない。
以上の各成分の含有率に係る上記数値範囲は厳密に解釈すべきでなく、本発明の目的を達成し得る限りにおいて、かかる範囲からの若干の逸脱を許容するものである。ここに開示されるペースト組成部には、上記の成分の他、必要に応じて種々の添加成分を加えることができる。例えば、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、重合禁止剤等の添加剤が挙げられる。
【0063】
以上の、ここに開示されるペースト組成物は、従来の太陽電池の電極形成用のペーストと同様に、典型的には上記の構成材料を混合することによって容易に調製することができる。例えば、三本ロールミルやその他の混練機等を用いて、所定の混合比の銀粉末、ペロブスカイト型酸化物粉末およびガラス粉末を有機媒体とともに所定の配合比で混合・撹拌するとよい。
なお、ペロブスカイト型酸化物粉末を他の構成材料(含有成分)と混合するにあたり、予め該粉末を、例えば水系溶媒やアルコール類等の液状媒体に分散させた分散液またはスラリー状組成物の形態で提供してもよい。
【0064】
かかるペースト組成物は、例えば、典型的には、太陽電池の受光面に供給して焼成することで、形成される銀電極と基板のp
+相との間に良好なオーミックコンタクトを形成し、その結果として太陽電池の電気特性を良好なものと為し得る。かかる効果は、ファイヤースルー法にてより細線化された電極を形成する場合においても、好適に得ることができる。
【0065】
[銀電極の作製]
以上のようにして得られるペースト組成物は、例えば、従来より基板上に受光面電極としての銀電極を形成するのに用いられてきた銀ペースト等と同様に取り扱うことができる。すなわち、ここに開示されるペースト組成物による銀電極の形成には、従来公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、
図1に示した太陽電池10における銀電極(受光面電極12)を、ファイヤースルー法により形成する場合には、従来と同様に基板11の受光面にリン(P)の熱拡散等によりn層(n−Si層)16を形成し、さらにその上にCVD等により反射防止膜14を形成する。そしてその後に、ここに開示されるペースト組成物を反射防止膜14の上に所望する膜厚(例えば20μm程度)や所望の塗膜パターンとなるように供給(塗布)する。ペースト組成物の供給は、典型的には、スクリーン印刷法、ディスペンサー塗布法、ディップ塗布法等によって行うことができる。なお、かかる基板としては、シリコン(Si)製基板11が好適であり、典型的にはSiウエハである。かかる基板11の厚さとしては、所望する太陽電池のサイズや、該基板11上に形成される銀電極12,裏面電極20,反射防止膜14等の膜厚、該基板11の強度(例えば破壊強度)等を考慮して設定することができ、一般的には100μm以上300μm以下とされ、150μm以上250μm以下が好ましい。なお、上記のn層16の厚みとしては、従来より一般的なシリコン系太陽電池では300〜500nm程度であり得るが、本ペースト組成物は、n層16がこれより薄く、ドーパント濃度の低いシャローエミッタ構造を有する基板11に対しても適用することができる。かかるn層16の厚みとしては、例えば、500nm以下とすることができる。
【0066】
なお、ファイヤースルー法を採用しない場合には、基板11の受光面にn層16や反射防止膜14を形成した後に、この反射防止膜14を所望の銀電極パターンで剥離し、かかる剥離部分に銀電極形成用ペースト組成物を所望する膜厚で供給することが挙げられる。
次いで、ペースト塗布物を適当な温度(例えば室温以上であり、典型的には100℃程度)で乾燥させる。乾燥後、適当な焼成炉(例えば、高速焼成炉)中で適切な加熱条件(例えば600℃以上900℃以下、好ましくは700℃以上800℃以下)で所定時間加熱することによって、乾燥塗膜の焼成を行う。これにより、上記ペースト塗布物が基板11上に焼き付けられ、
図1に示すような銀電極12が形成される。
【0067】
ここで開示されるペースト組成物は、上述したように、固形分として上記の特定の組成のペロブスカイト型酸化物粉末(すなわち、Ln−M−Co−Fe系)と、テルル成分を含有するガラス粉末とを含んでいる。このペースト組成物は、例えば、かかるペロブスカイト型酸化物粉末(例えば、Ln−M−Co−Fe系)を含むペースト組成物を単独で用いたペースト組成物を用いた場合に比べ、基板との接続が良好で、変換効率の高い発電性能に優れた太陽電池を実現することができる。このようにして形成される銀電極は、たとえ細線化されていた場合であっても、基板との接触抵抗が低いため、結果としてエネルギー変換効率の高い太陽電池の製造を可能とする。したがって、かかるペースト組成物によると、耐久性および品質に優れた受光面電極の形成が可能とされる。
【0068】
[太陽電池の作製]
なお、ここで開示されるペースト組成物を使用して太陽電池の銀電極(典型的には、受光面電極)を形成すること以外の太陽電池製造のための材料やプロセスは、従来と全く同様でよい。そして、特別な処理をすることなく、当該ペースト組成物によって形成された銀電極を備えた太陽電池(典型的には結晶シリコン系太陽電池)を製造することができる。かかる結晶シリコン系太陽電池の構成の一典型例としては、上述の
図1に示される構成が挙げられる。
銀電極形成以外のプロセスとしては、裏面電極20としてのアルミニウム電極20の形成が挙げられる。かかるアルミニウム電極20の形成の手順は以下のとおりである。例えば、先ず、上記の通り受光面に受光面電極12を形成するためにここで開示されるペースト組成物を印刷し、裏面にも銀ペースト(ここで開示されるペースト組成物であってもよい。)を所望の領域に印刷し、乾燥させる。その後、裏面の銀ペースト形成領域の一部に重なるようにアルミニウム電極ペースト材料を印刷・乾燥し、全ての塗膜の焼成を行う。通常、アルミニウム電極20が焼成されるとともに、P
+層(BSF層)24も形成され得る。すなわち、焼成によって裏面電極となるアルミニウム電極20がp型シリコン基板11上に形成されるとともに、アルミニウム原子が該基板11中に拡散することで、アルミニウムを不純物として含むp
+層24が形成されることとなる。このようにして、ここに開示されるペースト組成物を用いて形成された銀電極を受光面に備える太陽電池(セル)10が作製される。
【0069】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
(実施形態1)
[ペースト組成物の用意]
太陽電池の受光面電極形成用のペースト組成物を作製した。ペースト原料としては、以下のものを用意した。
すなわち、(1)銀粉末として、平均粒径が1.6μmの銀粉末を用意した。
【0070】
(2)ペロブスカイト型酸化物粉末としては、一般式:La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3−δで表される組成のLa−Sr−Co−Fe系酸化物を作製し、粉末状に調製して用いた。このペロブスカイト型酸化物粉末は以下の手順で作製した。すなわち、まず、La−Sr−Co−Fe系酸化物粉末については、市販の酸化ランタン(La
2O
3)粉末(平均粒径約2μm)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)粉末(平均粒径約2μm)、酸化コバルト(CoO
2)粉末(平均粒径約1μm)および酸化鉄(Fe
2O
3)粉末(平均粒径約2μm)を、目的とする組成の化学量論比で配合し、ボールミルを用いて混合した。次いで、この混合粉末を1200℃の温度で6時間焼成し、得られた焼成物を湿式ボールミルにより平均粒径が0.7μmとなるよう粉砕した。
【0071】
(3)ガラス粉末としては、下記の表1に示す割合で各成分を含むガラス(A)(A’)およびガラス(B)の2通りを作製し、それぞれ粒径が0.5〜1μmとなるよう調整して用いた。なお、表1のガラス粉末の組成において、各成分は酸化物に換算した値で表示してある。
【0073】
具体的には、まず、ガラスA’は、表1に示されたガラス構成成分を上記所定の割合で調合してガラス原料とし、これを1450℃で1時間溶融したのち、急冷することでガラス化させた。そして、このガラスを0.5〜1μm程度に粉砕することで用意した。
そして、ガラスAは、表1中のTeO
2以外の成分からなるガラス粉末の表面にTeO
2相が担持されたテルル担持ガラスである。すなわち、このガラスAは、上記の通り調合したガラスA’の粉末100質量部(100モル)に対して、粒径が5μmのテルル酸粉末を40質量部(25モル)の割合で混合し、バットに広げて、450℃で30分程度の焼成を行った。このようにして得た焼成物を軽く解砕し、#150のふるいを通過したものを、テルル担持ガラス(ガラスA)として用いた。
【0074】
ガラスBは、表1に示したTeO
2成分を含むすべての成分をガラス構成成分としてガラス相中に含むテルル含有ガラスである。このガラスBは、表1に示された組成を有するように調合したガラス原料を1450℃で1時間溶融したのち、急冷し、0.5〜1μm程度に粉砕して得られたものを用いた。
【0075】
(4)有機媒体としては、バインダ(エチルセルロース)と有機溶剤(ターピネオール)とを混合して調製した有機ビヒクルと、ペーストの粘度調整のために用いる有機溶剤(有機ビヒクルに用いたのと同じターピネオール)を用意した。
【0076】
上記のペースト原料を配合することで、サンプル1〜9のペースト組成物を調製した。すなわち、(1)銀粉末89.9質量%、(3)ガラス粉末4質量%に対して、(2)ペロブスカイト型酸化物粉末が表2に示す配合量(0質量%〜0.20質量%)、残部(6.1質量%〜5.9質量%)を(4)有機媒体(有機ビヒクル)が占めるように秤量し、撹拌機等を用いて混合した後、例えば3本ロールミルで分散処理を行うことでペースト組成物を得た。本実施形態では、これらのペースト組成物による印刷時の印刷性が同等となるように、粘度が160〜180Pa・s(20rpm、25℃)になるよう有機溶剤の量を調整した。
なお、各ペースト組成物における(2)ペロブスカイト型酸化物粉末の配合量は、銀粉末100質量部に対して0質量部〜0.22質量部の割合となっている。また、各ペースト組成物に用いた(3)ガラス粉末の種類は、下記の表2に示した通りである。
【0077】
[評価用の太陽電池セルの作製]
上記で調製したサンプル1〜9のペースト組成物を銀電極形成用のペースト組成物として用い、以下の手順で評価用の太陽電池セル(
図1参照)を作製した。
すなわち、先ず、市販の156mm四方の大きさの太陽電池用p型単結晶シリコン基板(板厚180μm)を用意し、その表面を、フッ酸と硝酸とを混合した混酸を用いて酸エッチング処理した。次いで、上記エッチング処理で微細な凹凸構造(
図1には示していない。)が形成されたシリコン基板の受光面にリン含有溶液を塗布し、熱処理を行なうことによって当該シリコン基板の受光面に厚さが約0.5μmであるn−Si層(n
+層)を形成した。このn−Si層上に、プラズマCVD(PECVD)法によって厚みが80nm程度の反射防止膜(窒化シリコン膜)を形成した。
【0078】
次に、上記で用意したサンプル1〜9のペースト組成物を用い、反射防止膜上にスクリーン印刷法によって受光面電極(銀電極)となる櫛型の電極パターンを形成した。スクリーン印刷には、線径が23μmのステンレス(SUS325)からなるメッシュに、乳剤を20μmの膜厚でコーティングした製版を用いた。また、電極パターンにおけるグリッド電極の焼成幅が100μm、膜厚が約55μmとなるように、印刷条件を設定した。
【0079】
引き続き、同様にして、裏面電極(銀電極)となる塗膜をパターン状に形成した。これらの塗膜は85℃で乾燥させて次工程に供した。
その後、所定の裏面電極用アルミニウムペーストを、シリコン基板の裏面側の銀電極パターンの一部に重なるようにスクリーン印刷により印刷(塗布)し、膜厚が約55μmの塗布膜を形成した。
次いで、このシリコン基板を焼成することで、ファイヤースルー法により銀電極(受光面電極)を形成した。焼成は、近赤外線高速焼成炉を用い、大気雰囲気中で、およそ700℃以上800℃以下の焼成温度で行った。これにより、評価用の太陽電池セルを得た。
以下、サンプル1〜9のペースト組成物を用いて作製した太陽電池をそれぞれサンプル1〜9の太陽電池等のように対応させて呼ぶ。
【0080】
[評価]
ソーラーシミュレータ(Beger社製、PSS10)を用いて、サンプル1〜9の太陽電池のI−V特性を測定し、得られたI−V曲線から、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF:fill factor)および変換効率(η)を求めた。これら開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)および変換効率(η)は、JIS
C8913に規定される「結晶系太陽電池セル出力測定方法」に基づき算出した。その結果を表2に示した。
【0082】
表2に示されたように、受光面電極の形成に用いたペースト組成物1〜9は、概ねサンプルナンバーが大きいほうがLa−Sr−Co−Fe系酸化物の配合量が多くなる。
サンプル1のペースト組成物は、テルル成分を含有するガラス粉末は含んでいるものの、La−Sr−Co−Fe系酸化物が配合されていない。そのため、サンプル1の太陽電池については、開放電圧、曲線因子および変換効率のいずれもが、この実施形態で作製した太陽電池の中で一番低い値であった。
サンプル2〜4、6〜9のペースト組成物は、テルル成分を含有するガラス粉末とLa−Sr−Co−Fe系酸化物との両方を含むものである。このとき得られた太陽電池は、サンプル1に比べて開放電圧、曲線因子および変換効率のいずれもが大きく上昇しており、各特性はLa−Sr−Co−Fe系酸化物の配合量が増えるにつれて向上する傾向があることが確認できた。
【0083】
なお、サンプル5のペースト組成物は、La−Sr−Co−Fe系酸化物については配合されているものの、ガラス粉末にテルル成分が含まれていない(ガラスA’)。このような場合に得られるサンプル5の太陽電池は、サンプル1の太陽電池と比較して解放電圧はほぼ変わらないものの、曲線因子と変換効率については向上されていることがわかる。
しかしながら、La−Sr−Co−Fe系酸化物の配合量が等しいサンプル5〜7の比較では、テルル成分を含まないガラス粉末A’を用いた場合よりも、テルル成分を含むガラス粉末AまたはBを用いた方が、開放電圧、曲線因子および変換効率ともに、一段と大きく高められることが確認された。
【0084】
なお、サンプル6〜9の比較からは、ガラスAとガラスBとの間で太陽電池の特性に及ぼす影響に大きな違いはなく、ガラス粉末にテルル成分が含まれていることが重要であることがわかった。
本実施形態には具体的に示していないが、(2)ペロブスカイト型酸化物粉末の配合量は、(1)銀粉末100質量部に対して概ね2.5質量部程度まで増やしても、上記と同等の開放電圧、曲線因子および変換効率の改善効果が確認されている。
【0085】
(実施形態2)
[ペースト組成物の用意]
(2)ペロブスカイト型酸化物粉末として、組成が、一般式:La
xSr
(1-x)Co
yFe
(1-y)O
3−δで表されるLa−Sr−Co−Fe系酸化物におけるAサイトおよびBサイトの各金属元素の割合(x、y)を、表3に示す通り変化させたものを用意した。
(3)ガラス粉末としては、実施形態1で作製したガラス粉末A、BおよびA’を用意した。
【0086】
その他の条件は実施形態1と同様にして、(1)銀粉末が89.9質量%、(2)ペロブスカイト型酸化物粉末が0.1質量%(すなわち、銀粉末100質量部に対して0.11質量部)、(3)ガラス粉末が4質量%、および(4)有機媒体(有機ビヒクル)が6質量%となる割合で秤量し、撹拌機等を用いて混合した後、例えば3本ロールミルで分散処理を行うことで、サンプル10〜28のペースト組成物を得た。本実施形態では、これらのペースト組成物による印刷時の印刷性が同等となるように、粘度が160〜180Pa・s(20rpm、25℃)になるよう有機溶剤の量を若干調整するようにした。
【0087】
[評価用の太陽電池セルの作製]
上記で用意したペースト組成物10〜28を用いて受光面の銀電極を形成し、その他の条件は実施形態1と同様にして、太陽電池10〜28を作製した。
【0088】
[評価]
作製した太陽電池10〜28について、実施形態1と同様にして、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)、変換効率(η)の評価を行った。その結果を、表3に併せて示した。
【0090】
太陽電池の開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)、変換効率(η)等の特性は、供試体の作製状況や試験状況等の影響を受けて微妙に値が変化する傾向がある。しかしながら、本実施形態においては、上記の一般式で示されるLa−Sr−Co−Fe系酸化物におけるAサイトおよびBサイトの各金属元素の割合(x、y)が、0.2≦x≦0.8,0.1≦y≦0.7となる範囲で、太陽電池の上記性能を向上させる効果が安定して得られることが確認できた。
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。