特許第5955828号(P5955828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955828
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】抗VEGF抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20160707BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20160707BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   A61K39/395 DZNA
   A61K39/395 N
   A61P35/04
   A61P35/00
   A61P29/00
   A61P9/10
   A61P19/02
   A61P17/06
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】83
(21)【出願番号】特願2013-250791(P2013-250791)
(22)【出願日】2013年12月4日
(62)【分割の表示】特願2010-536020(P2010-536020)の分割
【原出願日】2008年12月1日
(65)【公開番号】特開2014-88392(P2014-88392A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2013年12月27日
(31)【優先権主張番号】60/991,302
(32)【優先日】2007年11月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】フー, ジャーメイン
(72)【発明者】
【氏名】リー, チンウェイ, ヴィー.
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−526756(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0020267(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/066086(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
A61K 49/00−49/22
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
PubMed
CAplus/BIOSIS(STN)
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖を阻害又は低減するための医薬であって、有効量の抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体を含み、抗VEGF抗体が、
(a)配列番号:1のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号:3のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号:4のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号:6のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号:7のアミノ酸配列を含むHVR−L3
から選択される6つのHVRを含む、医薬。
【請求項2】
患者において再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖を阻害又は低減するための医薬であって、有効量の抗VEGF抗体を含み、抗VEGF抗体が、
(a)配列番号:1のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号:3のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号:5のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号:6のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号:7のアミノ酸配列を含むHVR−L3
から選択される6つのHVRを含む、医薬。
【請求項3】
患者において再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖を阻害又は低減するための医薬であって、有効量の抗VEGF抗体を含み、抗VEGF抗体が配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと配列番号:44又は45のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインとを含んでなる、医薬。
【請求項4】
重鎖可変ドメインが配列番号:43のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインが配列番号:44のアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の医薬。
【請求項5】
重鎖可変ドメインが配列番号:43のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインが配列番号:45のアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の医薬。
【請求項6】
患者において非腫瘍性症状を治療するための医薬であって、有効量の抗VEGF抗体を含み、非腫瘍性症状がアテローム性動脈硬化、関節リウマチ及び乾癬からなる群から選択されるものであり、抗VEGF抗体が、
(a)配列番号:1のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号:3のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号:4のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号:6のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号:7のアミノ酸配列を含むHVR−L3
から選択される6つのHVRを含む、医薬。
【請求項7】
患者において非腫瘍性症状を治療するための医薬であって、有効量の抗VEGF抗体を含み、非腫瘍性症状がアテローム性動脈硬化、関節リウマチ及び乾癬からなる群から選択されるものであり、抗VEGF抗体が、
(a)配列番号:1のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(c)配列番号:3のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(d)配列番号:5のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(e)配列番号:6のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(f)配列番号:7のアミノ酸配列を含むHVR−L3
から選択される6つのHVRを含む、医薬。
【請求項8】
患者において非腫瘍性症状を治療するための医薬であって、有効量の抗VEGF抗体を含み、非腫瘍性症状がアテローム性動脈硬化、関節リウマチ及び乾癬からなる群から選択されるものであり、抗VEGF抗体が配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと配列番号:44又は45のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインとを含んでなる、医薬。
【請求項9】
重鎖可変ドメインが配列番号:43のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインが配列番号:44のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の医薬。
【請求項10】
重鎖可変ドメインが配列番号:43のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメインが配列番号:45のアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の医薬。
【請求項11】
抗VEGF抗体がモノクローナル抗体である請求項1から10の何れか一項に記載の医薬。
【請求項12】
抗VEGF抗体がヒト型である請求項1から10の何れか一項に記載の医薬。
【請求項13】
抗VEGF抗体がヒトコンセンサスフレームワーク配列を含む請求項1から10の何れか一項に記載の医薬。
【請求項14】
抗VEGF抗体が抗体断片である請求項1から13の何れか一項に記載の医薬。
【請求項15】
患者がヒトである請求項1から14の何れか一項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は一般に研究、治療及び診断目的に対して有益な性質を有する抗VEGF選択ポリペプチド配列及び抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
脈管系の発達は、多くの生理学的及び病理学的なプロセスに基本的に必要である。胚及び腫瘍のような活発に発達する組織は十分な血液供給を必要とする。これは、血管新生と一般に呼ばれるプロセスにより新規な血管形成及び維持を促すプロ血管新生因子を生産することによってこの必要性が満たされる。脈管形成は、以下の工程のすべて又は多数を伴う複雑であるが、規則正しい生物学的現象である:a)内皮細胞(EC)が既存のECから増殖するか又は始原細胞から分化する;b)ECが移動して合体し、索状構造を形成する;c)次いで脈管性索が管形成をして中央に内腔を有する脈管を形成する、d)既存の索又は脈管から出芽して二次脈管を形成する;e)原始脈管叢がさらに再造形及び再構築する;そして、f)周囲に内皮細胞が集まり、内皮管を覆い、脈管に維持及び調節的な機能を与える;このような細胞には、小毛細管のための周細胞、より大きな脈管のための平滑筋細胞及び心臓の心筋細胞が含まれる。Hanahan, D. Science 277:48-50 (1997);Hogan, B. L. 及びKolodziej, P. A. Nature Reviews Genetics. 3:513-23 (2002);Lubarsky, B. 及びKrasnow, M. A. Cell. 112:19-28 (2003)。
【0003】
血管新生が様々な疾患の病因に関係することは、現在証明されている。これらには、固形腫瘍及び転移、アテローム性動脈硬化、水晶体後線維増殖、血管腫、慢性炎症、増殖性網膜症などの眼内新生血管性疾患、例えば糖尿病性網膜症、加齢性黄斑変性(AMD)、新血管性緑内障、移植した角膜組織及び他の組織の免疫拒絶反応、関節リウマチ及び乾癬が含まれる。Folkman等, J. Biol. Chem., 267:10931-10934 (1992);Klagsbrun等, Annu. Rev. Physiol. 53:217-239 (1991);及びGarner A., &quot;Vascular diseases&quot;, In: Pathobiology of Ocular Disease. A Dynamic Approach, Garner A., Klintworth GK, eds., 2nd Edition (Marcel Dekker, NY, 1994), pp 1625-1710。
【0004】
腫瘍増殖の場合、血管新生は、過形成から腫瘍形成への変化に、そして、腫瘍の増殖及び転移のために栄養を提供するために重要であると思われる。Folkman等, Nature 339:58 (1989)。血管新生によって、腫瘍細胞は正常細胞よりも増殖優位性と増殖自立性を獲得しうる。通常、腫瘍は利用できる毛細管床から離れているため、数立方ミリメートルのサイズまでしか増殖できない単一の異常細胞として始まり、更なる増殖及び転移をせずに長期間「休止中の」ままで存在しうる。ついで、腫瘍細胞は血管新生の表現型に切り替わり、内皮細胞を活性化し、その内皮細胞が増殖して、新規な毛細血管の血管に成熟する。これらの新しく形成された血管は原発性腫瘍の連続した増殖を促すだけでなく、転移性腫瘍細胞の転移及び再コロニー形成化を促す。したがって、腫瘍切片の微小血管の密度と乳癌並びに多様な他の腫瘍における患者生存との間に相関性が観察されている。Weidner等, N. Engl. J. Med 324:1-6 (1991);Horak等, Lancet 340:1120-1124 (1992);Macchiarini等, Lancet 340:145-146 (1992)。血管新生の切り替わりを制御する正確なメカニズムは十分にわかっていないが、腫瘍質量の血管新生は多数の血管新生刺激因子及びインヒビターの正味バランスから生じる(Folkman, Nat Med 1(1): 27-31(1995))。
【0005】
血管性発達のプロセスは厳密に調節されている。今日まで、有意に多くの分子、主に周辺細胞によって産生される分泌因子が、索状構造におけるEC分化、増殖、移動及び合体を制御することが示されている。例えば、血管内皮性増殖因子(VEGF)は、血管新生を刺激する際及び、血管透過を誘導する際に伴う重要な因子として同定されている。Ferrara等, Endocr. Rev. 18: 4-25 (1997)。単一のVEGF対立遺伝子でさえ欠失すると胚性致死になるという発見は、この因子が血管系の発達及び分化において代替不可能な役割を果たしていることを示唆する。さらに、VEGFは、腫瘍及び眼内疾患と関係する血管新生の重要なメディエーターであることが示されている。上掲のFerrara等, Endocr. Rev. supra。VEGF mRNAは、調べた大多数のヒト腫瘍によって過剰発現される。Berkman等, J. Clin. Invest. 91:153-159 (1993);Brown等, Human Pathol. 26:86-91 (1995);Brown等, Cancer Res. 53: 4727-4735 (1993);Mattern等, Brit. J. Cancer 73:931-934 (1996);Dvorak等, Am. J. Pathol. 146:1029-1039 (1995)。
【0006】
また、眼体液中のVEGFの濃度レベルは、糖尿病患者及び他の虚血関連の網膜症患者における血管の活性な増殖の存在と非常に相関する。Aiello等, N. Engl. J. Med. 331: 1480-1487 (1994)。さらに、研究から、AMDに影響を受ける患者の脈絡叢新生血管膜中のVEGFの局在化が示された。Lopez等, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 37: 855-868 (1996)。
【0007】
抗VEGF中和抗体はヌードマウスの様々なヒト腫瘍細胞株の増殖を抑制し(Kim等, Nature 362:841-844 (1993);Warren等, J. Clin. Invest. 95:1789-1797 (1995);Borgstrom等, Cancer Res. 56: 4032-4039 (1996);Melnyk等, Cancer Res. 56: 921-924 (1996))、更に、虚血性網膜疾患のモデルの眼内血管新生も阻害する。Adamis等, Arch. Ophthalmol. 114:66-71 (1996)。したがって、VEGF作用の抗VEGFモノクローナル抗体又は他のインヒビターは、腫瘍及び様々な眼内新生血管性疾患の治療のための候補としての見込みがある。このような抗体は、例えば、1998年1月14日に公開の欧州特許出願公開第817648号;及び、1998年10月15日に公開の国際公開第98/45331号及び同第98/45332号に記載されている。抗VEGF抗体の一つであるベバシズマブは、転移性結腸直腸癌(CRC)及び非小細胞肺癌(NSCLC)を治療するために、化学療法投薬計画との併用使用のためにFDAの承認を得ている。そして、ベバシズマブは、様々な癌の徴候を治療するための多くの継続臨床試験において調査されている。
【0008】
他の抗VEGF抗体、抗Nrp1抗体及び抗Nrp2抗体もまた知られており、例えば、Liang等, J Mol Biol 366, 815-829 (2007)及びLiang等, J Biol Chem 281, 951-961 (2006)、PCT公開番号WO2007/056470及びPCT出願PCT/US2007/069179(これらの特許出願の内容は出典明示により明示的にここに援用される)に記載されている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は新規な抗VEGF抗体及びその用途を提供する。
多くの抗VEGF抗体が本発明において提供される。例えば、VEGF又はその断片に結合する抗体が提供され、ここで、該抗体は、
(i)X1X2RX3SLのアミノ酸配列を含み、次の位置の任意の組合せで1、2又は3つの置換を含むHVR−L1:X1がG又はAであり;X2がV又はIであり;及び/又はX3がT又はRである;
(ii)DASSLA(配列番号:6)のアミノ酸配列を含むHVR−L2;
(iii)SYKSPL(配列番号:7)のアミノ酸配列を含むHVR−L3;
(iv)SISGSWIF(配列番号:1)のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(v)GAIWPFGGYTH(配列番号:2)のアミノ酸配列を含むHVR−H2;及び
(vi)RWGHSTSPWAMDY(配列番号:3)のアミノ酸配列を含むHVR−H3
から選択される6つのHVRを含む。
【0010】
他の実施態様では、VEGF又はその断片に結合する抗体が提供され、該抗体は、
(1)配列番号:1のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(2)配列番号:2のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(3)配列番号:3のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(4)配列番号:4のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(5)配列番号:6のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(6)配列番号:7のアミノ酸配列を含むHVR−L3
を含む。
【0011】
他の実施態様では、VEGF又はその断片に結合する抗体が提供され、該抗体は、
(1)配列番号:1のアミノ酸配列を含むHVR−H1;
(2)配列番号:2のアミノ酸配列を含むHVR−H2;
(3)配列番号:3のアミノ酸配列を含むHVR−H3;
(4)配列番号:5のアミノ酸配列を含むHVR−L1;
(5)配列番号:6のアミノ酸配列を含むHVR−L2;及び
(6)配列番号:7のアミノ酸配列を含むHVR−L3
を含む。
【0012】
他の実施態様では、VEGF又はその断片に結合する抗体が提供され、そこでは、軽鎖可変ドメインは、配列番号:44又は 配列番号:45のアミノ酸配列を含む。
【0013】
他の実施態様では、VEGF又はその断片に結合する抗体が提供され、該抗VEGF抗体は、配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、軽鎖可変ドメインは配列番号:44又は45のアミノ酸配列を含む。また他の実施態様では、抗VEGF 抗体は、配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、軽鎖可変ドメインは配列番号:44のアミノ酸配列を含む。また他の実施態様では、抗VEGF抗体は、配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、軽鎖可変ドメインは配列番号:45のアミノ酸配列を含む。
【0014】
ある実施態様では、上記抗体の何れもモノクローナル抗体である。一実施態様では、抗体は、Fab、Fab’−SH、Fv、scFv、又は(Fab’)2断片から選択される抗体断片である。一実施態様では、抗体はヒト化されている。一実施態様では、抗体はヒトである。また他の実施態様では、フレームワーク配列の少なくとも一部はヒトコンセンサスフレームワーク配列である。
【0015】
上記抗体の何れかをコードするポリヌクレオチド、並びにポリヌクレオチドを含むベクター及び本発明のベクターを含む宿主細胞が提供される。一実施態様では、宿主細胞は真核生物である。他の実施態様では、宿主細胞はCHO細胞である。抗VEGF抗体を作製する方法がまた提供される。例えば、ある方法は、抗体をコードするポリヌクレオチドの発現に適した条件下で宿主細胞を培養し、抗体を単離することを含む。
【0016】
一態様では、生物学的試料中のVEGFの存在を検出する方法が提供され、該方法は、生物学的試料を本発明の抗体と、VEGFへの抗体の結合を許容する条件下で接触させ、抗体とVEGF間に複合体が形成されるかどうかを検出することを含む。一実施態様では、該方法は、生物学的試料中のVEGF−抗VEGF抗体複合体を検出することを含み、ここで、抗VEGF抗体のアミノ酸配列は配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと配列番号:44又は45のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。また他の実施態様では、該方法は、生物学的試料中のVEGF−抗VEGF抗体複合体を検出することを含み、ここで、抗VEGF抗体のアミノ酸配列は配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと配列番号:44のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。また他の実施態様では、該方法は、生物学的試料中のVEGF−抗VEGF抗体複合体を検出することを含み、ここで、抗VEGF抗体のアミノ酸配列は配列番号:43のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと配列番号:45のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。また他の実施態様では、抗VEGF抗体は検出可能に標識される。
【0017】
薬学的組成物並びに治療方法がまた提供される。一態様では、本発明の抗体と薬学的に許容可能な担体を含む薬学的組成物が提供される。他の態様では、癌の治療方法が提供され、例えば該方法は、上記抗体の何れかを含む薬学的組成物を個体に投与することを含む。本発明の方法によって治療される癌には、限定されるものではないが、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃癌、胃腸癌、消化管間質性癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、結腸癌、直腸結腸癌、子宮内膜又は子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓又は腎癌、肝臓癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝癌腫及び様々なタイプの頭頸部癌、黒色腫、表在拡大型黒色腫、悪性黒子由来黒色腫、末端黒子型黒色腫、結節性黒色腫、B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、母斑症に関連した異常な血管増殖、脳腫瘍に関連した浮腫、又はメイグス症候群が含まれる。ある実施態様では、腫瘍、癌又は細胞増殖性疾患が治療され、結腸癌、肺癌、乳癌又は神経膠芽腫が治療される。また他の実施態様では、治療される患者はヒトである。
【0018】
本発明は、例えば薬物又は細胞傷害性薬剤のような薬剤にコンジュゲートした抗体を含む免疫コンジュゲートを更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】抗VEGF抗体の重鎖及び軽鎖HVRループ配列。該図は、重鎖HVR 配列、H1、H2、及びH3と軽鎖HVR配列、L1、L2、及びL3を示す。配列番号付けは次の通りである:クローンB20−4.1.1(HVR−H1は配列番号:1;HVR−H2は配列番号:2;HVR−H3は配列番号:3;HVR−L1は配列番号:4;HVR−L2は配列番号:6;HVR−L3は配列番号:7);及びクローンB20−4.1.1RR(HVR−H1は配列番号:1;HVR−H2は配列番号:2;HVR−H3は配列番号:3;HVR−L1は配列番号:5;HVR−L2は配列番号:6;HVR−L3は配列番号:7)。アミノ酸位置は以下に記載するようにカバット番号付けシステムに従って番号を付した。
図2A】次の通り、本発明を実施する際に使用するための例示的なアクセプターヒトコンセンサスフレームワーク配列を示す:可変重鎖(VH)コンセンサスフレームワーク ;ヒトVHサブグループIコンセンサスフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:8);ヒトVHサブグループIコンセンサスフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:9−11);ヒトVHサブグループIIコンセンサスフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:12);ヒトVHサブグループIIコンセンサスフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:13−15);ヒトVHサブグループIIコンセンサスフレームワークマイナス伸展;ヒトVHサブグループIIIコンセンサスフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:16);ヒトVHサブグループIIIコンセンサスフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:17−19);ヒトVHアクセプターフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:20);ヒトVHアクセプターフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:21−22);ヒトVHアクセプター2フレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:23);ヒトVHアクセプター2フレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:24−26)。アミノ酸位置は以下に記載するようにカバット番号付けシステムに従って番号を付した。
図2B】次の通り、本発明を実施する際に使用するための例示的なアクセプターヒトコンセンサスフレームワーク配列を示す:可変重鎖(VH)コンセンサスフレームワーク;ヒトVHサブグループIコンセンサスフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:8);ヒトVHサブグループIコンセンサスフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:9−11);ヒトVHサブグループIIコンセンサスフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:12);ヒトVHサブグループIIコンセンサスフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:13−15);ヒトVHサブグループIIコンセンサスフレームワークマイナス伸展;ヒトVHサブグループIIIコンセンサスフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:16);ヒトVHサブグループIIIコンセンサスフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:17−19);ヒトVHアクセプターフレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:20);ヒトVHアクセプターフレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:21−22);ヒトVHアクセプター2フレームワークマイナスカバットCDR(配列番号:23);ヒトVHアクセプター2フレームワークマイナス伸展高頻度可変領域(配列番号:24−26)。アミノ酸位置は以下に記載するようにカバット番号付けシステムに従って番号を付した。
図3】配列アイデンティファイヤーを用いて本発明を実施する際に使用する例示的なアクセプターヒトコンセンサスフレームワーク配列を次の通り示す:可変軽鎖(VL)コンセンサスフレームワーク ;ヒトVLカッパサブグループIコンセンサスフレームワーク(配列番号:27);ヒトVLカッパサブグループIIコンセンサスフレームワーク(配列番号:28);ヒトVLカッパサブグループIIIコンセンサスフレームワーク(配列番号:29);ヒトVLカッパサブグループIVコンセンサスフレームワーク(配列番号:30)。
図4】huMAb4D5−8重鎖及び軽鎖のフレームワーク領域配列を示す。上付き/太字の数はカバットに従うアミノ酸位置を示す。
図5】huMAb4D5−8重鎖及び軽鎖の修飾/変異体フレームワーク領域配列を示す。上付き/太字の数はカバットに従うアミノ酸位置を示す。
図6】抗VEGF抗体 B20−4.1.1及び B20−4.1.1RRに対する軽鎖 HVR配列L1、L2及びL3のアミノ酸配列。
図7】抗VEGF抗体B20−4.1.1及びB20−4.1.1RRに対する重鎖HVR配列H1、H2及びH3のアミノ酸配列
図8】抗体クローンB20−4.1.1(配列番号:44)及びB20−4.1.1RR(配列番号:45)の軽鎖可変領域を示す。
図9】抗体クローンB20−4.1.1及びB20−4.1.1RR(配列番号:43)の重鎖可変領域を示す。
図10】ヒトVEGF及びマウスVEGFに対するB20変異体IgGsの動態的結合親和性測定値をまとめた表。ヒト又はマウスVEGFを固定化しておよそ60応答単位を達成した。
図11】ヒトVEGF及びマウスVEGFに対するB20変異体IgGsの動態的結合親和性測定値をまとめた表。ヒト又はマウスVEGFを固定化しておよそ1000応答単位を達成した。
図12】B20変異体がHUVEC細胞増殖を効果的に阻害できることを示しているHUVEC チミジン取り込みアッセイ。
図13】VEGF誘導BRME増殖に対するB20−4.1.1の効果を示す。
図14】治療日数にわたって腫瘍体積によって測定した異種移植ヒト腫瘍細胞(A549細胞)を持つヌードマウスにおける腫瘍増殖に対するB20−4.1.1の効果を示す。
図15】治療日数にわたって腫瘍体積によって測定した異種移植ヒト腫瘍細胞((MDA−MB231細胞)を持つヌードマウスにおける腫瘍増殖に対するB20−4.1.1の効果を示す。
図16】VEGF誘導BRME増殖に対するアバスチン抗体の効果を示す。mVEGFの阻害は1500nMまでの濃度のアバスチン抗体では観察されなかった。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明はVEGFに結合する単離された抗体とその用途をここに提供する。薬学的組成物並びに治療方法もまた提供される。
【0021】
発明は抗VEGF抗体の作製方法、及び抗VEGF抗体をコードするポリヌクレオチドを更に提供する。
【0022】
一般的技術
本願明細書中に記載又は引用される技術及び手順は、一般に十分に理解されるものであり、当業者によって従来の方法論を用いて共通して実施されるものである。その例として、以下の文献に記載される方法論が広く利用されている。Sambrook 等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3版(2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel, 等編集 (2003));the series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M. J. MacPherson, B. D. Hames 及び G. R. Taylor 編集 (1995))、Harlow and Lane編 (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, and ANIMAL CELL CULTURE (R. I. Freshney編 (1987));Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編 1984);Methods in Molecular Biology, Humana Press; Cell Biology: A Laboratory Notebook (J. E. Cellis編, 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R. I. Freshney)編, 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P. E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J. B. Griffiths, 及び D. G. Newell編, 1993-8) J. Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology (D. M. Weir 及び C. C. Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller 及び M. P. Calos編, 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis 等編, 1994);Current Protocols in Immunology (J. E. Coligan 等編, 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley 及び Sons, 1999);Immunobiology (C. A. Janeway 及び P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: a practical approach (D. Catty.編, IRL Press, 1988-1989);Monoclonal antibodies: a practical approach (P. Shepherd 及び C. Dean編, Oxford University Press, 2000);Using antibodies: a laboratory manual (E. Harlow 及び D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti 及び J. D. Capra編, Harwood Academic Publishers, 1995);及び Cancer: Principles and Practice of Oncology (V. T. DeVita 等編, J.B. Lippincott Company, 1993)。
【0023】
定義
この明細書を解釈する目的には、次の定義が適用され、適切な場合には、単数で使用される用語はまた複数を含み、その逆もある。以下に記載する定義が、ここに援用される何れかの文献と矛盾する場合には、以下の定義が優先する。
【0024】
「抗体」という用語は最も広義に使用され、モノクローナル抗体(完全長又は無傷のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片も含む。
【0025】
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、少量で存在しうる可能な変異、例えば天然に生じる変異を除いて、集団を構成する個々の抗体が同一である。よって、「モノクローナル」との修飾詞は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示すものである。ある実施態様では、そのようなモノクローナル抗体は典型的には標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、該標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列を選択することを含む方法によって得られている。例えば、選択方法は、ハイブリドーマクローンのプール、ファージクローン又は組換えDNAクローンのような複数のクローンから独特のクローンを選択することでありうる。選択された標的結合配列は、例えば標的への親和性を改善し、標的結合配列をヒト化し、細胞培養においてその生産を改善し、インビボでのその免疫原性を減少させ、多重特異的抗体を作り出す等々のために、更に改変することができ、改変された標的結合配列を含む抗体もまた本発明のモノクローナル抗体であることが理解されなければならない。異なった決定基(エピトープ)に対する異なった抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対する。その特異性に加えて、モノクローナル抗体調製物は、典型的には他の免疫グロブリンによって汚染されていない点で有利である。
【0026】
「モノクローナル」との修飾語句は、実質的に均一な抗体の集団から得たものとしての抗体の性質を表すものであり、抗体が何か特定の方法による生成を必要とするものであると考えてはならない。例えば、本発明で使用されるモノクローナル抗体は、例えばハイブリドーマ法(例えばKohler及びMilstein, Nature, 256:495 (1975);Hongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995);Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2版 1988);Hammerling等, Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681, (Elsevier, N.Y., 1981))、組換えDNA法(例えば米国特許第4816567号を参照)、ファージディスプレイ法(例えばClackson等, Nature, 352:624-628 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1992);Sidhu等, J. Mol. Biol. 338(2):299-310 (2004);Lee等, J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);及びLee等 J. Immunol. Methods 284(1-2):119-132 (2004)を参照)、及びヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座又は遺伝子の一部又は全てを有する動物においてヒト又はヒト様抗体を産生する技術(例えば国際公開第1998/24893号;同第1996/34096号;同第1996/33735号;同第1991/10741号;Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature, 362:255-258 (1993);Bruggemann等, Year in Immuno., 7:33 (1993);米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;及び同第5661016号;Marks等, Bio/Technology, 10: 779-783 (1992);Lonberg等, Nature, 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature, 368: 812-813 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnology, 14: 845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology, 14: 826 (1996);及びLonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol., 13: 65-93 (1995)を参照)を含む様々な技術によって作製することができる。
【0027】
ここに記載のモノクローナル抗体は、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種から由来するか、特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である一方、鎖の残りが、他の種から由来するか、他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びにそれらが所望の生物活性を示す限りはその抗体の断片を含む(例えば米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984)を参照)。キメラ抗体は、抗体の抗原結合領域が、例えば対象の抗原でマカクザルを免役することによって、生産された抗体から誘導されるプリマタイズ(PRIMATIZED(登録商標))抗体を含む。
【0028】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。大部分においてヒト化抗体はレシピエントの高頻度可変領域からの残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び能力を有する霊長類などの非ヒト(ドナー抗体)の高頻度可変領域からの残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでもよい。これらの修飾は抗体の特性を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいはほとんど全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいはほとんど全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域又はドメイン(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部を含んでなる。更なる詳細については、Jones等, Nature 321:522-525 (1986); Riechmann等, Nature 332:323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。また例えば、Vaswani及びHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998); Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995); Hurle and Gross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);及び米国特許第6,982,321号及び同第7,087,409号を参照のこと。
【0029】
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に一致するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を製造するいずれかの技術を使用して製造されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含んでなるヒト化抗体を除く。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーを含むこの分野で知られた種々の方法を用いて作成することができる。Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol., 227:381 (1992);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。ヒトモノクローナル抗体の調製にまた利用できるものはCole等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);Boerner等, J. Immunol., 147(1):86-95 (1991)に記載された方法である。また van Dijk 及びvan de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001)を参照のこと。ヒト抗体は、抗原暴露に応答してかかる抗体を生産するように改変されているがその内因性遺伝子座が無能にされたトランスフェニック動物、例えば免疫化ゼノマウスに抗原を投与することによって調製されうる(XENOMOUSETM 技術に関しては例えば米国特許第6075181号及び同第6150584号を参照)。またヒトB細胞ハイブリドーマ法によって生産されるヒト抗体に関しては.Li等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006) を参照のこと。
【0030】
「種依存性抗体」は、二番目の哺乳動物種からの抗原の相同体に対して有している結合親和性よりも、一番目の哺乳動物種からの抗原に対してより強力な結合親和性を有するものである。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは約1×10−8以下、最も好ましくは約1×10−9M以下の結合親和性(Kd)値を有する)と「特異的に結合」するが、そのヒト抗原に対する結合親和性よりも、少なくとも約50倍、又は少なくとも約500倍、又は少なくとも約1000倍弱い、二番目の非ヒト哺乳動物種からの抗原の相同体に対する結合親和性を有する。種依存性抗体は、上で定義した種々の型の抗体のいずれでもあることが可能だが、好ましくはヒト化又はヒト抗体である。
【0031】
ここで用いる「抗体変異体」又は「抗体バリアント」は、種依存性の抗体のアミノ酸残基の一つ以上が変更された種依存性の抗体のアミノ酸配列変異体を指す。このような変異体は、必然的に種依存性の抗体と100%未満の配列同一性又は類似性がある。一実施態様では、抗体変異体は、種依存性の抗体の重鎖又は軽鎖の可変ドメインの何れかのアミノ酸配列と、少なくとも75%、他の実施態様では少なくとも80%、他の実施態様では少なくとも85%、他の実施態様では少なくとも90%、及び更に他の実施態様では少なくとも95%のアミノ酸配列同一性又は類似性があるアミノ酸配列を有する。ここでは、本配列に関する同一性又は類似性は、最大のパーセント配列同一性を得るために、種依存性の抗体残基と同一(すなわち同じ残基)又は類似(すなわち共通の側鎖の性質に基づく同じ群由来のアミノ酸残基、以下を参照)である候補配列配列を整列し、必要であれば間隙(ギャップ)を入れて、候補配列中のアミノ酸残基の割合として定義されたものである。可変ドメインの外側の抗体配列中へのN末端、C末端、又は内部伸展、欠失、又は挿入の何れも配列同一性又は類似性に影響を及ぼすとみなしてはならない。
【0032】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定され分離及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、その抗体の研究、診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれうる。ある実施態様では、抗体は、(1)例えばローリー法で測定して95重量%を越える抗体、ある実施態様では99重量%を越えるまで、(2)例えばスピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15残基のN末端又は内部アミノ酸配列を得るのに充分なほど、あるいは、(3)クーマシーブルー又は銀染色を用いた非還元又は還元条件下でのSDS-PAGEにより均一になるまで、精製される。単離された抗体には、抗体の自然環境の少なくとも一つの成分が存在しないため、組換え細胞内のインサイツの抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一つの精製工程により調製される。
【0033】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(VH)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、他端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
【0034】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを意味する。重鎖の可変ドメインは「VH」と呼ぶことができる。軽鎖の可変ドメインは「VL」と呼ぶことができる。これらのドメインは一般に抗体の最も可変の部分であり、抗原結合部位を含む。
【0035】
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、3つの高頻度可変領域により連結されたβシート配置を主にとる4つのFRをそれぞれ含んでいる。各鎖のHVRは、FR領域に近接して結合され、他の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat等, Sequence of Proteins ofImmunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, BEthesda, MD(1991))。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、種々のエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞性毒性への抗体の関与を示す。
【0036】
任意の脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる二つの明らかに異なる型の一方に分類できる。
【0037】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、抗体(免疫グロブリン)は異なるクラスに分類できる。免疫グロブリンの五つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、それらの幾つかは更にサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3,IgG4、IgA1及びIgA2に分類される。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配位はよく知られており、一般に例えばAbbas等, Cellular and Mol. Immunology, 4版 (W.B. Saunders, Co., 2000)に記載されている。抗体は、一又は複数の他のタンパク質又はペプチドとの抗体の共有又は非共有結合によって形成される大きな融合分子の一部であってもよい。
【0038】
「完全長抗体」、「インタクト抗体」及び「全抗体」という用語は、ここでは交換可能に使用され、その実質的にインタクトな形態の抗体を指し、以下に定義するような抗体断片は意味しない。この用語は、特にFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
【0039】
ここでの目的に対する「ネイキッド抗体」は、細胞障害性部分又は放射標識にコンジュゲートされない抗体である。
【0040】
「抗体断片」は、無傷の抗体の一部、好ましくは無傷の抗体の抗原結合又は可変領域を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ(diabodies);直鎖状抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。
【0041】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位を持ち、残りは容易に結晶化する能力を反映して「Fc」断片と命名される。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を持ち、抗原になお架橋できるF(ab')2断片を生じる。
【0042】
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む最小の抗体断片である。一実施態様では、二本鎖Fv種は強固な非共有結合の一つの重鎖可変ドメインと一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種では、一つの重鎖か編ドメインと一つの軽鎖可変ドメインが、軽鎖及び重鎖が二本鎖Fv種におけるものに類似した「二量体」構造で会合しうるように、可動性ペプチドリンカーによって共有的に連結されうる。各可変ドメインの3つのHVRが相互作用してVH−VL二量体の表面に抗原結合部位を形成するのはこの構造においてである。集団的には、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのHVRだけを含んでなるFvの半分)でさえ、結合部位全体よりは低い親和性でではあるが、抗原を認識しそれに結合する能力を有している。
【0043】
Fab断片は重鎖及び軽鎖可変ドメインを含み、また軽鎖野定常ドメインと遊鎖野第一定常ドメイン(CH1)を含んでいる。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に2,3の残基が付加される点でFab断片とは異なる。Fab’−SHは、ここでは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を担持しているFab’についての標記である。F(ab’)2抗体断片は、その間にヒンジシステインを有するFab’断片対として元々は生産された。抗体断片の他の化学的カップリングもまた知られている。
【0044】
「一本鎖Fv」又は「sFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。一般には、sFvポリペプチドは、scFVが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にするポリペプチドリンカーをVH及びVLドメイン間に更に含む。scFvの概説については、例えばPluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, (Springer-Verlag, New York, 1994), pp. 269-315を参照のこと。
【0045】
「ダイアボディ」なる用語は、二つの抗原結合部位を持ち、その断片が同一のポリペプチド鎖(VH−VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗体断片を指す。非常に短いために同一鎖上で二つのドメイン間での対形成を可能にするリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、二つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディは二価又は二重特異的でありうる。ダイアボディは、例えば欧州特許出願公開第404097号;国際公開第93/11161号;及びHudson等, Nat. Med. 9:129-134 (2003);及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993)に更に十分に記載されている。トリアボディ及びダイアボディはまたHudson等, Nat. Med. 9:129-134 (2003)に記載されている。
【0046】
ここで使用される「高頻度可変領域」、「HVR」又は「HV」なる用語は、配列において高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を意味する。一般に、抗体は6つのHVRを含む;つまり、VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)である。天然の抗体では、H3及び L3は6つのHVRの最大の多様性を示し、特にH3は抗体に微細な特異性を付与するのに独特の役割を果たすと考えられている。例えばXu等, Immunity 13:37-45 (2000);Johnson及びWu, Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo編, Human Press, Totowa, NJ, 2003)を参照。確かに、重鎖のみからなる天然に生じるラクダ抗体は軽鎖の不存在下で機能的で安定である。例えば、Hamers-Casterman等, Nature 363:446-448 (1993);Sheriff等, Nature Struct. Biol. 3:733-736 (1996)を参照。
【0047】
多数のHVRの描写が使用され、ここに含まれる。カバット相補性決定領域(CDR)は配列変化に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5版 Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。Chothiaは、代わりに構造的ループの位置に言及している(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM HVRは、カバット HVRとChothia構造的ループの間の妥協を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。「接触」HVRは、利用できる複合体結晶構造の分析に基づく。これらのHVRのそれぞれからの残基を以下に示す。
【0048】
カバットループ AbM Chothia 接触
−−−−−− −−− −−−− −−−−
L1 L24-L34 L24-L34 L26-L32 L30-L36
L2 L50-L56 L50-L56 L50-L52 L46-L55
L3 L89-L97 L89-L97 L91-L96 L89-L96
H1 H31-H35B H26-H35B H26-H32 H30-H35B
(カバット番号付け)
H1 H31-H35 H26-H35 H26-H32 H30-H35
(Chothia番号付け)
H2 H50-H65 H50-H58 H53-H55 H47-H58
H3 H95-H102 H95-H102 H96-H101 H93-H101
【0049】
HVRは次の通り「伸展HVR」を含みうる:VL中において24−36又は24−34(L1)、46−56又は50−56(L2)及び89−97又は89−96(L3)と、VH中において26−35(H1)、50−65又は49−65(H2)及び93−102、94−102、又は95−102(H3)。これらの定義の各々に対して上掲のカバット等に従って、可変ドメイン残基を番号付けした。
「フレームワーク」又は「FR」残基は、ここで定義するHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0050】
「カバットの可変ドメイン残基番号付け」又は「カバットのアミノ酸位番号付け」なる用語及びその異なる言い回しは、上掲のKabat 等の抗体の編集の重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインに用いられる番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを用いると、実際の線形アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVR内の短縮又は挿入に相当する2、3のアミノ酸又は付加的なアミノ酸を含みうる。例えば、重鎖可変ドメインには、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えばカバットによる残基82a、82b及び82cなど)と、H2の残基52の後に単一アミノ酸の挿入(カバットによる残基52a)を含んでもよい。残基のカバット番号は、「標準の」カバット番号付け配列によって抗体の配列の相同領域でアライメントすることによって与えられる抗体について決定してもよい。
【0051】
可変ドメイン(およそ軽鎖の残基1−107及び重鎖の残基1−113)中の残基に言及するとき、カバットの番号付けシステムが一般に使用される(例えばKabat等, Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。免疫グロブリン重鎖定常領域(およそ軽鎖の残基1−107及び重鎖の残基1−113)中の残基に言及するとき、「EU番号付けシステム」又は「EUインデックス」が一般に使用される(例えば上掲のKabat等に報告されているEUインデックス)。「カバットにおけるようなEUインデックス」はヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを意味する。ここで別の定義を述べない限り、抗体の可変ドメイン内の残基番号の参照は、カバット番号付けシステムによる残基番号付けを意味する。ここで別の定義を述べない限り、抗体の定常ドメイン内の残基番号の参照は、EU番号付けシステムによって番号付けした残基を意味する(例えば、米国特許仮出願番号60/640323号、EU番号付けについての図を参照)。
【0052】
「親和性成熟」抗体とは、一又は複数のHVRにおけるその変更を有しない親抗体と比較し、抗原に対する抗体の親和性に改善を生じせしめる抗体の一又は複数のHVRにおける一又は複数の変更を伴っている抗体である。一実施態様では、親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はピコモルの親和性を有する。親和性成熟抗体は、当該分野において知られるある種の手順を使用して生産されうる。例えば、Marks等 Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟について記載している。HVR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘発は、Barbas等, Proc Nat Acad. Sci, USA 91: 3809-3813(1994); Schier 等, Gene, 169:147-155(1995);Yelton等, J. Immunol., 155:1994-2004(1995);Jackson等, J. Immunol., 154(7):3310-9(1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol., 226:889-896(1992)に記載されている。
【0053】
「阻止(ブロック)」抗体又は「アンタゴニスト」抗体とは、結合する抗原の生物学的活性を阻害するか又は低下させる抗体である。ある種の阻止抗体又はアンタゴニスト抗体は、抗原の生物学的活性を、実質的に又は完全に阻害する。
ここで使用する「アゴニスト抗体」は、対象とするポリペプチドの機能活性の少なくとも一つを部分的に又は完全に模倣する抗体である。
「増殖阻害」抗体は、抗体が結合する抗原を発現している細胞の増殖を阻害又は低減するものである。
抗体「エフェクター機能」は抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰因するこれらの生物学的活性を意味する。抗体エフェクター機能の例は、Clq結合及び補体依存性細胞障害活性(CDC);抗体依存性細胞媒介細胞障害活性(ADCC);食作用;細胞表面レセプターのダウンレギュレーション(例えばB細胞レセプター);及びB細胞活性化を含む。
【0054】
ここでの「Fc領域」なる用語は、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化するかも知れないが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226の位置又はPro230からの位置のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端まで伸長すると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによれば残基447)は、例えば、抗体の産生又は精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組換え的に操作することによって取り除かれてもよい。従って、インタクト抗体の組成物は、全てのK447残基が除去された抗体群、K447残基が除去されていない抗体群、及びK447残基を有する抗体と有さない抗体の混合を含む抗体群を含みうる。
【0055】
「機能的なFc領域」は、天然配列のFc領域のエフェクター機能を保持する。例示的な「エフェクター機能」は、C1q結合;CDC、Fcレセプター結合;ADCC;貪食作用;細胞表面レセプター(すなわち、B細胞レセプター;BCR)の下方制御などである。このようなエフェクターの機能は、一般に、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体の可変ドメイン)に組み合わされることを必要としており、例えばここでの定義に開示された様々なアッセイを用いることで評価することが可能である。
「天然配列のFc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を包含する。天然配列のヒトFc領域には、天然配列のヒトIgG1Fc領域(非A-及びA-アロタイプ);天然配列のヒトIgG2Fc領域;天然配列のヒトIgG3Fc領域;及び天然配列のヒトIgG4Fc領域;並びにその自然に生じる変異体が含まれる。
【0056】
「変異体Fc領域」は、少なくとも一のアミノ酸修飾、好ましくは一又は複数のアミノ酸置換により、天然配列のFc領域とは異なるアミノ酸配列を包含するものである。好ましくは、変異体Fc領域は、天然配列のFc領域もしくは親ポリペプチドのFc領域と比較した場合、少なくとも一のアミノ酸置換、例えば、天然配列のFc領域又は親のポリペプチドのFC領域におよそ1からおよそ10のアミノ酸置換、好ましくはおよそ1からおよそ5のアミノ酸置換を有する。ここでの変異体Fc領域は、天然配列のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と好ましくは少なくともおよそ80%の相同性を有するか、最も好ましくは少なくともおよそ90%の相同性を、さらに好ましくは少なくともおよそ95%の相同性を有するものであろう。
【0057】
「Fcレセプター」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合するレセプターを表す。ある実施態様では、FcRは、天然配列ヒトFcRである。ある実施態様では、FcRは、IgG抗体(γレセプター)に結合し、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスのレセプターを含むものであり、これらのレセプターの対立遺伝子変異体及び選択的スプライシング型を含む。FcγRIIレセプターは、FcγRIIA(「活性化レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害レセプター」)を含み、それらは、主としてその細胞質ドメインにおいて異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化レセプターFcγRIIAは、その細胞質ドメインに、免疫レセプターチロシン−ベース活性化モチーフ(ITAM)を有する。阻害レセプターFcγRIIBは、その細胞質ドメインに、免疫レセプターチロシン−ベース阻害モチーフ(ITIM)を有する(Daeron, Annu. Rev. Immunol., 15:203-234(1997)参照)。FcRはRavetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel等, Immunomethods 4:25-34 (1994);及びde Haas等, J. Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995)において概説されている。将来同定されるものも含む他のFcRもここにおける「FcR」なる用語によって包含される。
【0058】
「Fcレセプター」又は「FcR」なる用語はまた胎児への母性IgGの移動(Guyer等, J. Immumol. 117:587 (1976)及びKim等, J. Immunol. 24:249 (1994))、免疫グロブリンのホメオスタシスの調節の原因である新生児レセプターFcRnもまた含む。FcRnへの結合の測定方法は知られている(例えばGhetie及びWard., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997);Ghetie等, Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997);Hinton等, J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004);国際公開第2004/92219号 (Hinton等)を参照)。
【0059】
ヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドのインビボでのヒトFcRnへの結合及び血清半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウス又は形質移入ヒト細胞株において、あるいは変異体Fc領域を持つポリペプチドが投与される霊長類においてアッセイすることができる。国際公開第2000/42072号(Presta)はFcRsへの改善された又は減少した結合性を有する抗体変異体を記載している。また例えばShields等, J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001)を参照のこと。
【0060】
「ヒトエフェクター細胞」とは、一又は複数のFcRsを発現し、エフェクター機能を実行する白血球のことである。ある実施態様では、その細胞が少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を実行する。ADCCを媒介するヒト白血球の例として、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球が含まれる。エフェクター細胞は例えば血液のような天然源から単離されうる。
【0061】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」は、ある種の細胞傷害性細胞(例えば、NK細胞、好中球、及びマクロファージ)上に存在するFcレセプター(FcR)に結合した分泌Igがこれらの細胞傷害性エフェクター細胞を抗原担持標的細胞に特異的に結合させ、ついで細胞毒で標的細胞を死滅せしめる細胞毒性の一形態を意味する。ADCCを媒介する一次細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血性細胞でのFcRの発現は、Ravetch及びKinet, Annu.Rev.Immunol., 9:457-92(1991)の464頁の表3に要約されている。対象分子のADCC活性を評価するためには、米国特許第5500362号又は第5821337号又は米国特許第6737056(Presta)に記載されているようなインビトロADCCアッセイが実施されうる。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞は、PBMC及びNK細胞を含む。あるいは、又は付加的に、対象分子のADCC活性は、例えばClynes等 PNAS(USA), 95:652-656(1998)に開示されたような動物モデルにおいて、インビボで評価されてもよい。
【0062】
「補体依存性細胞傷害」もしくは「CDC」は、補体の存在下で標的を溶解することを意味する。伝統的な補体経路の活性化は補体系(Clq)の第1成分が、同種抗原と結合した(適切なサブクラスの)抗体に結合することにより開始される。補体の活性化を評価するために、例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載されているようなCDCアッセイを実施することができる。改変されたFc領域アミノ酸配列を持ち、C1q結合能が増加又は減少したポリペプチド変異体(変異体Fc領域を持つポリペプチド)は、例えば米国特許第6194551B1号及び国際公開第1999/51642号に記載されている。また例えばIdusogie等, J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)を参照のこと。
【0063】
「Fc領域含有抗体」なる用語はFc領域を含む抗体を意味する。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムでは残基447)は、例えば抗体をコードする核酸の組換え操作によって又は抗体の精製中に取り除かれうる。従って、この発明に係るFc領域を有する抗体を含む組成物は、K447を持つ抗体、全てのK447が除かれたもの、又はK447残基を持つ抗体と持たない抗体の混合物を含みうる。
【0064】
一般的に「結合親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的な相互作用の合計の強度を意味する。特に明記しない限り、ここで使用される場合、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば抗体と抗原)間の1:1の相互作用を反映する内因性結合親和性を意味する。一般的に、分子XのそのパートナーYに対する親和性は、解離定数(Kd)によって表すことができる。親和性は、ここに記載のものを含む当該分野でありふれた方法によって測定することができる。低親和性抗体は一般に抗原にゆっくり結合して素早く解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は一般に抗原により速く結合しより長く結合したままとなる。結合親和性の様々な測定方法が当該分野で知られており、それらの何れかを本発明の目的に用いることができる。結合親和性を測定するための特定の例証的かつ例示的実施態様は次に記載する。
【0065】
一実施態様では、本発明の「Kd」又は「Kd値」は、以下のアッセイで示されるように、対象の抗体のFab型とその抗原を用いて実施される放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)で測定される。抗原に対するFabの溶液結合親和性は、段階的な力価の非標識抗原の存在下で、最小濃度の(125I)-標識抗原を用いてFabを平衡化した後、抗Fab抗体コートプレートで結合抗原を捕獲することによって測定される(例えばChen等, J. Mol Biol 293:865-881(1999))。アッセイの条件を決めるために、マイクロタイター(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を5μg/mlの捕獲抗Fab抗体(Cappel Labs)を含む50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)にて一晩コートし、その後2%(w/v)のウシ血清アルブミンを含むPBSにて室温(およそ23℃)で2〜5時間、ブロックする。非吸着プレート(Nunc #269620)に、100pM又は26pMの[125I]抗原を段階希釈した対象のFabと混合する(例えば、Presta等, (1997) Cancer Res. 57: 4593-4599の抗VEGF抗体、Fab-12の評価と一致する)。ついで対象のFabを一晩インキュベートする;しかし、インキュベーションは確実に平衡状態に達するまでに長時間(例えば65時間)かかるかもしれない。その後、混合物を捕獲プレートに移し、室温で(例えば1時間)インキュベートする。ついで、溶液を取り除き、プレートを0.1%のTween-20TMを含むPBSにて8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルの閃光物質(MicroScint-20TM; Packard)を加え、プレートをTopcountTMガンマカウンター(Packard)にて10分間計測する。最大結合の20%以下の濃度のFabを選択してそれぞれ競合結合測定に用いる。
【0066】
他の実施態様によると、〜10応答単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000(BIACORE, Inc., Piscataway, NJ)にて表面プラズモン共鳴アッセイを行ってKd又はKd値を測定する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)を、提供者の指示書に従ってN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化させる。抗原を10mMの酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(〜0.2μM)に希釈した後、結合したタンパク質の応答単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流量で注入する。抗原の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入する。動力学的な測定のために、2倍に段階希釈したFab(0.78nMから500nM)を25℃、およそ25μl/分の流量で0.05%Tween20TM(PBST)を含むPBSに注入する。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることにより単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model) (BIAcore(登録商標) Evaluationソフトウエアバージョン3.2)を用いて、会合速度(Kon)と解離速度(Koff)を算出する。平衡解離定数(Kd)をKoff/Kon比として算出する。例として、Chen, Y.等, J. Mol Biol 293:865-881(1999)を参照。上記の表面プラスモン共鳴アッセイによる結合速度が106M−1S−1を上回る場合、分光計、例えば、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow equipped spectrophometer)(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-AmincoTM分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下にて、PBS(pH7.2)、25℃の、20nMの抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)における増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて、結合速度を測定することができる。
【0067】
この発明に係る「結合速度」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」は、上に記載したように、BIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000(BIACORE, Inc., Piscataway, NJ)を使用してまた決定することができる。
【0068】
ここで用いる「実質的に類似」又は「実質的に同じ」なる用語は、当業者が2つの数値(例えば、本発明の抗体に関連するものと参照/比較抗体に関連する他のもの)の差異に、該値(例えばKd値)によって測定される生物学的性質上わずかに又は全く生物学的及び/又は統計学的有意差がないと認められるほど、2つの数値が十分に高く類似していることを意味する。前記2つの値間の差異は、参照/比較値の関数として例えば約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、及び/又は約10%未満である。
【0069】
ここで用いる「実質的に減弱した」、又は「実質的に異なる」という表現は、当業者が2つの数値(一般的には、本発明の抗体に関連するものと参照/対照抗体に関連する他のもの)の差異に、前記値(例えばKd値)によって測定される生物学的性質の上で統計学的に有意な差異を認める程度に、2つの数値の差が有意に大きいことを意味する。前記2つの値の差異は、参照/比較分子の値の関数として例えば約10%より大きく、約20%より大きく、約30%より大きく、約40%より大きく、及び/又は約50%より大きい。
【0070】
ここでの目的のための「アクセプターヒトフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークから得られるVL又はVHフレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「から得られる」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含むか、又は既存のアミノ酸配列変化を含んでいてもよい。既存のアミノ酸変化が存在する場合、好ましくは5つのみ、好ましくは4つ以下、又は3つ以下の既存のアミノ酸変化が存在する。ある実施態様では、既存のアミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下又は2以下である。既存のアミノ酸変化がVH中に存在する場合、好ましくは、それらの変化は位置71H、73H及び78Hの内の3つ、2つ又は1つのみである;例えば、それらの位置のアミノ酸残基は、71A、73T及び/又は78Aであってよい。一実施態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
【0071】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選別において、最も一般的に生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列は、可変ドメイン配列のサブグループから選別する。一般に、配列のサブグループは上掲のKabat等におけるようなサブグループである。一実施態様では、VLについて、サブグループはKabat等におけるようなサブグループκIである。一実施態様では、VHについて、サブグループはKabat等におけるようなサブグループIIIである。
【0072】
「VHサブグループIIIコンセンサスフレームワーク」は、Kabat等の可変重鎖サブグループIIIのアミノ酸配列から得られるコンセンサス配列を含む。一実施態様では、VHサブグループIIIコンセンサスフレームワークアミノ酸配列は次の各配列の少なくとも一部又は全部を含む:
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAAS(配列番号:31)−H1−WVRQAPGKGLEWV(配列番号:32)−H2−RFTISADTSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYC(配列番号:33)−H3−WGQGTLVTVSS(配列番号:34)。図4を参照のこと。
【0073】
「VLサブグループIコンセンサスフレームワーク」は、Kabat等の可変軽鎖カッパサブグループIのアミノ酸配列から得られるコンセンサス配列を含む。一実施態様では、VHサブグループIコンセンサスフレームワークアミノ酸配列は次の各配列の少なくとも一部又は全部を含む:
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITC(配列番号:35)−L1−WYQQKPGKAPKLLIY(配列番号:36)−L2−GVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC(配列番号:37)−L3−FGQGTKVEIK (配列番号:38)。図5を参照のこと。
【0074】
ここで使用される場合、「コドンセット」は所望の変異体アミノ酸をコードするのに用いられる一組の異なるヌクレオチドトリプレット配列を指す。一組のオリゴヌクレオチドは、コドンセットによって提供されるヌクレオチドトリプレットの可能な組合せのすべてを表し、所望のアミノ酸群をコードする配列を含み、例えば固相法によって合成することができる。標準的なコドン指定形式はIUBコードのそれであり、それは当該分野で知られておりここに記載されている。コドンセットは、典型的には3つのイタリック大文字、例えばNNK、NNS、XYZ、DVKなどで表される。よって、ここで用いられる「非ランダムコドンセット」とは、ここに記載のアミノ酸選別の基準を部分的に、好ましくは完全に満たす選択アミノ酸をコードするコドンセットを意味する。ある位置の選択されたヌクレオチド「縮重」を有するオリゴヌクレオチドの合成は当該分野でよく知られており、例えば、TRIM手法が知られている(Knappek等, J.Mol.Biol.(1999), 296:57-86);Garrard及びHenner, Gene(1993), 128:103)。そのようなある種のコドンセットを有しているオリゴヌクレオチドのセットは、市販の核酸シンセサイザー(Applied Biosystems, Foster City, CAなどから入手可能)を使って合成することができ、又は市販品を入手することができる(例えば、Life Technologies, Rockville, MDから)。従って、特定のコドンセットを有する合成オリゴヌクレオチドセットは、典型的には、異なる配列の複数のオリゴヌクレオチドを含み、この相違は配列全体の中のコドンセットによるものである。本発明で使用される、オリゴヌクレオチドは、可変ドメイン核酸テンプレートへのハイブリダイゼーションを可能にする配列を有し、また、そうであるとは限らないが、例えばクローニングに役立つ制限酵素部位を含むこともできる。
【0075】
「線状抗体」との表現は、Zapata等(1995 Protein Eng, 8(10):1057-1062)に記載の抗体を意味する。簡単に言えば、これらの抗体は、相補的な軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する一対の直列のFdセグメント(VH−CH1−VH−CH1)を含む。線状抗体は二重特異性又は単一特異性でありうる。
【0076】
ここで用いられる場合、「ライブラリー」は、複数の抗体もしくは抗体断片配列(例えば、本発明のポリペプチド)、又はこれらの配列をコードする核酸を意味し、該配列は本発明の方法によってこれら配列内に導入される変異型アミノ酸の組合せにおいて異なっている。
【0077】
「ファージディスプレイ」は、変異体ポリペプチドをファージ、例えば繊維状ファージの粒子の表面でコートタンパク質の少なくとも一部と融合したタンパク質として提示する手法である。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化タンパク質変異体の大きなライブラリーから対象抗原と高親和性で結合する配列を迅速かつ効率的に選別できることにある。ファージ上のペプチド及びタンパク質ライブラリーの提示は、何百万ものポリペプチドから特異的結合特性を持つものをスクリーニングするために利用されてきた。多価ファージディスプレイ方法は、繊維状ファージの遺伝子III又は遺伝子VIIIとの融合体を通して小さなランダムペプチド及び小タンパク質を提示するために利用されてきた。Wells及びLowman (1992) Curr. Opin. Struct. Biol., 3: 355-362とその中の引用文献。一価のファージディスプレイでは、タンパク質又はペプチドのライブラリーが遺伝子III又はその一部に融合され、ファージ粒子が融合タンパク質の1個又は0個のコピーを提示するように野生型遺伝子IIIタンパク質の存在下で低レベルで発現される。アビディティー効果は多価のファージと比較して低下しているので、選別は内在性のリガンド親和性に基づいており、ファージミドベクターが使われるが、このベクターはDNA操作を単純化する。Lowman及びWells (1991) Methods: A companion to Methods in Enzymology 3:205-0216。
【0078】
「ファージミド」は、細菌の複製起点、例えばCo1E1及びバクテリオファージの遺伝子間領域のコピーを有するプラスミドベクターである。ファージミドはいかなる既知のバクテリオファージ、例えば繊維状バクテリオファージ及びラムドイドバクテリオファージでも使用できる。プラスミドは、一般に、抗生物質耐性の選択マーカーも含む。これらのベクターにクローニングされたDNAセグメントは、プラスミドとして増殖することができる。これらのベクターを備える細胞がファージ粒子の生産のために必要なすべての遺伝子を備えているとき、プラスミドの複製様式はローリングサークル複製に変化し、プラスミドDNAの1つの鎖のコピーとパッケージファージ粒子を生成する。ファージミドは感染性又は非感染性ファージ粒子を形成しうる。この用語は、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面で提示されるように遺伝子融合体として異種ポリペプチド遺伝子と結合したファージコートタンパク質遺伝子又はその断片を含むファージミドを含む。
【0079】
「ファージベクター」なる用語は、異種遺伝子を含んでいて複製ができるバクテリオファージの二本鎖複製型を意味する。ファージベクターは、ファージ複製及びファージ粒子形成を可能にするファージ複製起点を有する。ファージは好ましくは繊維状バクテリオファージ、例えばM13、f1、fd、Pf3ファージもしくはその誘導体、又はラムドイドファージ、例えばラムダ、21、ファイ80、ファイ81、82、424、434、その他もしくはその誘導体である。
【0080】
ここで使用される場合、「溶媒と接触しうる位置」は抗体源又は抗原結合断片の重鎖及び軽鎖の可変部のアミノ酸残基の位置を指し、これは、抗体又は抗原結合断片の構造、構造アンサンブル及び/又はモデル化された構造に基づき、溶媒露出が可能及び/又は抗体特異性抗原などの分子との接触が可能と判断されるものである。これらの位置は典型的にはCDRで、またタンパク質の外側に見られる。ここで定義されるように、抗体又は抗原結合断片の溶媒と接触しうる位置は、当該分野で知られている多くのアルゴリズムの何れかを使って決定できる。一実施態様では、溶媒と接触しうる位置は抗体の三次元モデルからの座標を使い、好ましくはInsightIIプログラム(Accelrys, San Diego, CA)のようなコンピュータプログラムを使って決定される。溶媒と接触しうる位置は、当該分野で知られているアルゴリズム(例えば、Lee及びRichards (1971) J. Mol. Biol. 55, 379 、及びConnolly (1983) J. Appl. Cryst. 16, 548)を使用しても決定することができる。溶媒と接触しうる位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェア及び抗体から得られる三次元構造情報を使って行うことができる。これらの目的のために利用できるソフトウェアには、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が含まれる。一般に、アルゴリズム(プログラム)がユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。また、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した溶媒と接触しうる領域の決定法が、Pacios (1994) Comput. Chem. 18(4): 377-386に記載されている。
【0081】
「血管新生因子又は作用剤」は、血管の発達を刺激する、例えば、血管新生、血管内皮細胞増殖、血管の安定化及び/又は脈管形成などを促進する増殖因子である。例えば、血管形成因子には、限定するものではないが、例としてVEGF及びVEGFファミリーのメンバー、PlGF、PDGFファミリー、線維芽細胞増殖因子ファミリー(FGF)、TIEリガンド(アンギオポイエチン)、エフリン、デルタ様リガンド4(DLL4)、Del-1、線維芽細胞増殖因子:酸性(aFGF)及び塩基性(bFGF)、フォリスタチン、顆粒性コロニー刺激因子(G-CSF)、肝細胞増殖因子(HGF)/散乱係数(SF)、インターロイキン-8(IL-8)、レプチン、ミドカイン、ニューロピリン、胎盤増殖因子、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)、血小板由来増殖因子、特にPDGF-BB又はPDGFR-β、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)(PTN)、プログラヌリン(Progranulin)、プロリフェリン(Proliferin)、トランスフォーミング増殖因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGFβ)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などが含まれる。また、創傷治癒を促進する因子、例として成長ホルモン、インスリン様増殖因子-I(IGF-I)、VIGF、上皮細胞増殖因子(EGF)、CTGF及びそのファミリーメンバー、及びTGF-α及びTGF-βが含まれる。例えば、Klagsbrun及びD'Amore (1991) Annu. Rev. Physiol. 53:217-39;Streit及びDetmar (2003) Oncogene 22:3172-3179;Ferrara 及びAlitalo (1999) Nature Medicine 5(12):1359-1364;Tonini等 (2003) Oncogene 22:6549-6556 (例えば、既知の血管形成因子を列挙している表1);及びSato (2003) Int. J. Clin. Oncol. 8:200-206を参照のこと。
【0082】
「抗血管新生剤」又は「血管新生(血管形成)インヒビター」は、直接的か間接的にの何れかで、血管新生、脈管形成又は望ましくない血管透過を阻害する小分子量の物質、ポリヌクレオチド、ポリペプチド(例えば、阻害性RNA(RNAi又はsiRNA)を含む)、単離したタンパク質、組換えタンパク質、抗体、又はそれらのコンジュゲート又は融合タンパク質を意味する。抗血管形成剤には、結合して血管形成因子又はそのレセプターの血管形成活性をブロックする作用剤が含まれることが理解されなければならない。例えば、抗血管形成剤は、上記に定義したように血管形成剤に対する抗体又は他のアンタゴニスト、例えば、VEGF-Aに対するか又はVEGF―Aレセプター(例えばKDRレセプター又はFlt-1レセプター)に対する抗体、GleevecTM(イマチニブメシレート)などの抗PDGFRインヒビター、VEGF レセプターシグナル伝達を阻止する小分子(例えばPTK787/ZK2284,SU6668,SUTENTR/SU11248(スミチニブマレート)、AMG706、又は例えば国際特許出願WO2004/113304に記載されたもの)である。また、抗血管新生剤には、天然の血管新生インヒビター、例えばアンジオスタチン、エンドスタチンなどが含まれる。Klagsbrun及びD'Amore (1991) Annu. Rev. Physiol. 53:217-39;Streit及びDetmar (2003) Oncogene 22:3172-3179(例えば、悪性黒色腫の抗血管形成治療を記載している表3);Ferrara 及びAlitalo (1999) Nature Medicine 5(12):1359-1364;Tonini等 (2003) Oncogene 22:6549-6556 (例えば、既知の抗血管新生因子を列挙している表2);及びSato (2003) Int. J. Clin. Oncol. 8:200-206(例えば、臨床試験で用いられる抗血管形成剤を列挙している表1)を参照。
【0083】
ここで使用される「VEGF」又は「VEGF-A」なる用語は、Leung等 (1989) Science, 246:1306 、及びHouck等 (1991) Mol. Endocrin., 5:1806 によって記載されているように、165アミノ酸のヒト血管内皮増殖因子と、関連した121-、189-、及び206-アミノ酸のヒト血管内皮増殖因子、並びにそれらの天然に生じる対立遺伝子型及びプロセシング型を意味する。また、「VEGF」なる用語は、非ヒト種、マウス、ラット又は霊長類由来のVEGFも意味する。特定の種由来のVEGFは、ヒトVEGFはhVEGF、マウスVEGFはmVEGFなどの用語で表されることが多い。また、「VEGF」なる用語は、165アミノ酸のヒト血管内皮増殖因子のアミノ酸8〜109、又は1〜109を含む切断型ポリペプチドを意味する。そのようなVEGF型を指すときは、本明細書では、例えば、「VEGF(8−109)」、「VEGF(1−109)」又は「VEGF165」と表す。「切断型の」天然のVEGFのアミノ酸位置は、天然のVEGF配列に示される数で示す。例えば、切断型の天然VEGFのアミノ酸位置17(メチオニン)は、天然のVEGF中の位置17(メチオニン)でもある。切断型の天然VEGFは天然のVEGFに匹敵するKDR及びFlt−1レセプター結合親和性を有する。
【0084】
「抗VEGF抗体」は、十分な親和性及び特異性をもってVEGFと結合する抗体である。一実施態様では、本発明の抗VEGF抗体は抗体B20−4.1.1である。また他の実施態様では、本発明の抗VEGF抗体は抗体B20−4.1.1RRである。また他の実施態様では、本発明の抗VEGF抗体は、VEGF活性が関与する疾患又は状態を標的として干渉する際の治療的薬剤として用いられうる。抗VEGF抗体は通常、VEGF−B又はVEGF−Cなどの他のVEGFホモログにも、PlGF、PDGF又はbFGFなどの他の増殖因子にも結合しないであろう。
【0085】
抗VEGF抗体である「rhuMAb VEGF」又は「Avastin(登録商標)」としても知られる「ベバシズマブ(BV)」は、Presta等 (1997) Cancer Res. 57: 4593-4599に従って生産された組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体である。それは、ヒトVEGFのそのレセプターへの結合を遮断するマウスの抗hVEGFモノクローナル抗体A.4.6.1の抗原結合性相補性決定領域と変異したヒトのIgG1フレームワーク領域とを含んでなる。大部分のフレームワーク領域を含むベバシズマブのアミノ酸配列のおよそ93%はヒトIgG1に由来し、配列のおよそ7%はマウス抗体A4.6.1に由来する。ベバシズマブは、約149000ダルトンの分子質量を有し、グリコシル化されている。
【0086】
ここで使用される「B20シリーズポリペプチド」なる用語は、VEGFに結合する抗体を含むポリペプチドを意味する。B20シリーズポリペプチドには、限定するものではないが、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたB20抗体又はB20誘導抗体の配列から誘導された抗体が含まれ、これらの特許出願の内容は出典明示により明示的にここに援用される。一実施態様では、B20シリーズポリペプチドは、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたB20−4.1である。
【0087】
ここで使用される「B20−4.1.1」なる用語は、VEGFに結合し、HVR−H1が配列番号:1;HVR−H2が配列番号:2;HVR−H3が配列番号:3;HVR−L1が配列番号:4;HVR−L2が配列番号:6;HVR−L3が配列番号:7である抗体を意味する。
【0088】
ここで使用される「B20−4.1.1RR」なる用語は、VEGFに結合し、HVR−H1が配列番号:1;HVR−H2が配列番号:2;HVR−H3が配列番号:3;HVR−L1が配列番号:5;HVR−L2が配列番号:6;HVR−L3が配列番号:7である抗体を意味する。
【0089】
ここで使用される「G6−31」なる用語は、米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載されたG−6シリーズのポリペプチドの一つである。米国特許出願公開第20060280747号、米国特許出願公開第20070141065号及び/又は米国特許出願公開第20070020267号に記載された他のG−6シリーズのポリペプチドは、限定しないが、G6−8及びG6−23を含む。
【0090】
VEGFポリペプチドに関する「生物学的な活性」及び「生物学的に活性」なる用語は、VEGFに関連する物理的/化学的性質及び生物学的機能を意味する。
【0091】
「VEGFアンタゴニスト」は、限定しないが、一又は複数のVEGFレセプターへの結合を含むVEGF活性を中和、遮断、阻害、抑止、低減又は干渉することができる分子を指す。VEGFアンタゴニストには、限定しないが、抗VEGF抗体及びその抗原結合性断片、レセプター分子及び一又は複数のレセプターへの結合を隔離することによってVEGFに特異的に結合する誘導体、抗VEGFレセプター抗体及びVEGFレセプターアンタゴニスト、例えばVEGFRチロシンキナーゼの小分子インヒビターが含まれる。ここで使用される「VEGFアンタゴニスト」なる用語は、VEGFに結合し、VEGF活性を中和、遮断、阻害、抑止、低減又は干渉することができる、抗体、抗体断片、他の結合ポリペプチド、ペプチド、及び非ペプチド小分子を含む分子を特に含む。よって、「VEGF活性」なる用語は特にVEGFのVEGF媒介生物学的活性(上で定義した通り)を含む。一実施態様では、VEGFアンタゴニストは抗VEGF抗体B20−4.1.1である。また他の実施態様では、VEGFアンタゴニストは抗VEGF抗体B20−4.1.1RRである。
【0092】
ここで使用される場合、「治療」(及び「治療する」又は「治療している」のような変形語)とは、治療される個体又は細胞の自然の経過を変化させる試みにおける臨床的介入を意味し、予防のため、又は臨床病理経過中に実施することができる。治療の所望する効果には、疾患の発症又は再発の予防、症状の緩和、疾病の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、疾病の進行速度の低減、病状の回復又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。ある実施態様では、本発明の抗体は、疾病又は疾患の発症を遅延させるため、又は疾病又は疾患の進行を遅延化させるために使用される。
【0093】
「慢性」投与とは、急性様式とは異なり連続的な様式での薬剤を投与し、初期の治療効果(活性)を長時間に渡って維持することを意味する。「間欠」投与とは、中断無く連続的になされるのではなく、むしろ本質的に周期的になされる処置である。
【0094】
「疾患」は、治療から利益を得る任意の症状である(例えば、異常な血管形成(過剰、不適切又は制御不能の血管形成)又は血管透過性に罹患しているか、又はそれらに対して予防する必要がある哺乳動物)。これには、哺乳動物の問題とする疾患の素因となる病的状態を含む慢性及び急性の疾患又は疾病を包含する。限定するものでなく、ここで治療する疾患の例には、悪性及び良性の腫瘍;非白血病及びリンパ系の悪性腫瘍;特に腫瘍(例えば癌)転移が含まれる。
【0095】
「細胞増殖性疾患」及び「増殖性疾患」という用語は、ある程度の異常な細胞増殖を伴う疾患を意味する。一実施態様では、細胞増殖性疾患は癌である。
【0096】
ここで用いられる「腫瘍」は、悪性又は良性に関わらず、全ての腫瘍形成細胞成長及び増殖、及び全ての前癌性及び癌性細胞及び組織を意味する。「癌」、「癌性」、「細胞増殖性疾患」、「増殖性疾患」及び「腫瘍」なる用語は、ここでの意味は相互に排他的ではない。
【0097】
「癌」及び「癌性」という用語は、典型的には調節されない細胞成長を特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指すか記述する。癌の例には、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれる。このような癌のより特定の例には、扁平細胞癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、及び肺の扁平癌腫(squamous carcinoma)を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃(gastric)又は腹部(stomach)癌(胃腸癌、消化管間質性癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸管癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓(kidney)又は腎(renal)癌、肝臓癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝臓癌及び様々なタイプの頭頸部癌、黒色腫、表在拡大型黒色腫、悪性黒子由来黒色腫、末端黒子型黒色腫、結節性黒色腫、並びにB細胞リンパ腫(低級/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球(SL)NHL;中級/濾胞性NHL;中級びまん性NHL;高級免疫芽細胞性NHL;高級リンパ芽球性NHL;高級小非分割細胞NHL;バルキー疾患NHL;外套細胞リンパ腫;エイズ関連リンパ腫;及びワルデンストロームのマクログロブリン病を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びに母斑症に関連した異常な血管増殖、浮腫(例えば脳腫瘍に関連したもの)、及びメイグス症候群が含まれる。
【0098】
「個体」、「被検者」又は「患者」は脊椎動物である。ある実施態様では、脊椎動物は哺乳動物である。哺乳動物には、限定しないが、家畜(例えばウシ)、スポーツ用動物、ペット(例えばネコ、イヌ及びウマ)、霊長類、マウス及びラットが含まれる。
【0099】
「薬学的製剤」なる用語は、活性成分の生物学的活性が効果的であることを可能にするような形態であり、製剤が投与される患者に毒性が許容されない更なる成分を含まない調製物を意味する。かかる製剤は無菌であってもよい。
【0100】
「無菌」製剤は無菌的又はあらゆる生きている微生物やその芽胞を含まない。
【0101】
「有効量」とは所望の治療又は予防結果を達成するために必要な用量及び時間での効果的な量を意味する。
【0102】
本発明の物質/分子の「治療的有効量」は、例えば個体の疾病状態、年齢、性別、及び体重、並びに個体に所望の応答を誘発する物質/分子の能力などの因子に従って変わりうる。治療的有効量は物質/分子の任意の毒性又は有害な効果よりも治療的に恩恵のある効果が上回るものである。「予防的有効量」とは所望の予防結果を達成するために必要な用量及び時間での効果的な量を意味する。典型的には、必ずではないが、予防的用量は疾患の初期の状態又はその前の患者に用いるので、予防的有効量は治療的有効量よりも少ないであろう。
【0103】
一又は複数の更なる治療剤との併用での投与は、同時(同時発生)及び任意の順序での連続的投与を含む。
【0104】
ここで用いられる「担体」は、用いられる服用量及び濃度でそれらに曝露される細胞又は哺乳動物に対して非毒性である製薬的に許容されうる担体、賦形剤、又は安定化剤を含む。生理学的に許容されうる担体は、水性pH緩衝溶液であることが多い。生理学的に許容されうる担体の例は、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸塩のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;疎水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン;グルコース、マンノース又はデキストランを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEENTM、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICSTMを含む。
【0105】
「リポソーム」は、種々の型の脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤からなる小胞体であり、哺乳動物への薬物(VEGFポリペプチド又はその抗体など)の輸送に有用である。リポソームの成分は、通常は生体膜の脂質配列に類似する二層形式に配列される。
「抗腫瘍性組成物」なる用語は、少なくとも一つの活性治療剤、例えば「抗癌剤」を含む、癌を治療する際に有効な組成物を指す。治療剤(抗癌剤)の例には、限定するものではないが、例えば、化学療法剤、増殖阻害剤、細胞障害性薬剤、放射線療法に用いられる作用剤、抗血管新生剤、アポトーシス剤、抗チュービュリン剤及び癌を治療するための他の薬剤、例えば、抗HER-2抗体、抗CD20抗体、表皮増殖因子レセプター(EGFR)アンタゴニスト(例えばチロシンキナーゼインヒビター)、HER1/EGFRインヒビター(例えばエルロチニブ(TarcevaTM)、血小板由来成長因子インヒビター(例えばGleevecTM(メシル酸イマチニブ))、COX-2インヒビター(例えばセレコキシブ)、インターフェロン、サイトカイン、以下の標的ErbB2、ErbB3、ErbB4、PDGFR−β、BlyS、APRIL、BCMA又はVEGFレセプタの一つ以上と結合するアンタゴニスト(例えば中和抗体)、TRAIL/Apo2及び他の生理活性的で有機化学的作用剤などが含まれる。また、その組合せは本発明に含まれる。
【0106】
ここで用いられる「細胞傷害剤」なる用語は、細胞の機能を阻害又は抑制し、及び/又は細胞死又は破壊を生じせしめる物質を意味する。該用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体)、化学療法剤(例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤、酵素及びその断片、例えば核溶解性酵素、抗生物質、及び毒素、例えばその断片及び/又は変異体を含む小分子毒素又は細菌、糸状菌、植物又は動物起源の酵素的に活性な毒素、並びに下記に開示する種々の抗腫瘍又は抗癌剤を含むことが意図されている。他の細胞傷害剤が下記に記載されている。殺腫瘍性剤は、腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
【0107】
「毒素」は細胞の成長又は増殖に致命的な効果を有しうる任意の物質である。
【0108】
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化学化合物である。化学療法剤の例には、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(登録商標));スルホン酸アルキル、例えばブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン(piposulfan);アジリジン類、例えばベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa);アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethylenethiophosphaoramide)及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類及びメチラメラミン類;アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);デルタ−9−テトラヒドロカナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標);βラパチョーネ;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトセシン(合成アナログトポテカン(HYCAMTIN(登録商標)、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン(scopolectin)及び9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;ドゥオカルマイシン(合成アナログ、KW-2189及びCB1-TM1を含む);エロイテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンギスタチン;クロランブシル、クロロナファジン(chlornaphazine)、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロスレアス(nitrosureas);抗生物質、例えばエネジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えばAgnew Chem Intl. Ed. Engl. 33:183-186(1994)参照);CDP323、経口α−4インテグリン阻害剤;ダイネマイシン(dynemicin)Aを含むダイネマイシン;エスペラマイシン;並びにネオカルチノスタチン発色団及び関連する色素タンパクエネジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン類、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorbicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標)、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射剤(DOXIL(登録商標)、リポソームドキソルビシンTLCD−99(MYOCET(登録商標))、ペグ化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標)、及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンCのようなマイトマイシン、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗剤、例えばメトトレキセート、ゲムシタビン(gemcitabine) (GEMZAR(登録商標))、テガフル(tegafur) (UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(capecitabine) (XELODA(登録商標))、エポチロン(epothilone)、及び5-フルオロウラシル(5-FU);コムブレタスタチン;葉酸アナログ、例えばデノプテリン(denopterin)、メトトレキセート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate);プリンアナログ、例えばフルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジンアナログ、例えばアンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine);アンドロゲン類、例えばカルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone);抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸リプレニッシャー(replenisher)、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エポチロン;エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);メイタンシン(maytansine)及びアンサマイトシン類(ansamitocins)のようなメイタンシノイド類(maytansinoids);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantron);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン(razoxane);リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(trichothecenes)(特に、T-2トキシン、ベラキュリンA(verracurin A)、ロリジンA(roridin A)及びアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標))、パクリタキセルのクレモフォー無添加アルブミン操作ナノ粒子製剤(ABRAXANETM)、及びドキセタキセル(TAXOTERE(登録商標));クロランブシル;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;プラチナ剤、例えばシスプラチン、オキサリプラチン(例えばELOXATIN(登録商標))及びカルボプラチン;ビンカ類でチューブリン重合の微小管形成を阻害するもの、例えばビンブラスチン(VELBAN(登録商標)、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))、及びビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトキサントロン;ロイコボビン(leucovovin);ノバントロン(novantrone);エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロナート(ibandronate);トポイソメラーゼ阻害薬RFS2000;ジフルオロメチロールニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド、例えば、ベキサロテン(TARGRETIN(登録商標));ビスホスホネート、例えばクロドロネート(例えばBONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、エチドロン酸(DIDROCAL(登録商標))、NE-58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロン酸(AREDIA(登録商標))、チルドロン酸(SKELID(登録商標))、又はリセドロン酸(ACTONEL(登録商標));トロキサシタビン(troxacitabine)(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖に結びつくシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-α、Raf、及びH-Ras、及び上皮増殖因子レセプター(EGF-R)(例えばエルロチニブ(TarcevaTM));細胞増殖を減少させるVEGF−A;THERATOPE(登録商標)ワクチン及び遺伝子治療ワクチン等のワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチン;トポイソメラーゼ1阻害薬(例えばLURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えばABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU-11248(スニチニブ、SUTENT(登録商標)、Pfizer);ペリフォシン(perifosine)、COX-2阻害剤(例えばセレコキシブ又はエトリコキシブ)、プロテオゾーム阻害剤(例えばPS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI-779;チピファルニブ(tipifarnib)(R11577);オラフィニブ(orafenib)、ABT510;BCL-2阻害剤、例えばオブリメルセンナトリウム(oblimersen sodium)(GENASENSE(登録商標));ピクサントロン;EGFR阻害剤;チロシンキナーゼ阻害剤;セリン−スレオニンキナーゼ阻害剤、例えばラパマイシン(シロリムス、RAPAMUNE(登録商標));ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、例えばロナファーニブ(SCH6636,SARASARTM); 及び上述したものの何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体:並びに上記のうち2以上の組み合わせ、例えば、シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニソロンの併用療法の略称であるCHOP;及び5−FU及びロイコボリンとオキサリプラチン(ELOXATINTM)を組み合わせた治療法の略称であるFOLFOX、及び上述したものの何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体;並びに上記のうち2以上の組み合わせが含まれる。
【0109】
ここで定義された化学療法剤には、癌の増殖を促進しうるホルモンの効果を調節、低減、ブロック、又は阻害するように働く「抗ホルモン剤」又は「内分泌治療剤」が含まれる。それらはそれ自体がホルモンであってもよく、限定するものではないが、抗エストロゲン及び選択的エストロゲン受容体調節物質(SERM)を含み、例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、ラロキシフェン(raloxifene)、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストーン(onapristone)、及びFARESTON(登録商標)トレミフェン;副腎のエストロゲン産生を調節する酵素アロマターゼを阻害するアロマターゼ阻害剤、例えば4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン、フォルメスタニー(formestanie)、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール、及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾール;及び抗アンドロゲン、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;並びにトロキサシタビン(troxacitabine)(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に接着細胞の増殖に結びつくシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC-α、Raf、及びH-Ras;リボザイム、例えばVEGF発現阻害剤(例えばANGIOZYME(登録商標)リボザイム)及びHER2発現阻害剤;遺伝子治療ワクチン等のワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチン;PROLEUKIN(登録商標)rIL−2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;ビノレルビン及びエスペラミシン(米国特許第4675187号を参照)、及び上記のものの何れかの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体;並びに上記のものの二以上の組合せを含む。
【0110】
ここで使用される「増殖阻害剤」なる用語は、インビトロ又はインビボの何れかにおいて、(VEGFを発現する細胞のような)細胞の増殖を阻害する化合物又は組成物を意味する。よって、増殖阻害剤とは、S期において、(VEGFを発現する細胞のような)細胞の割合を有意に低減させるものである。増殖阻害剤の例には、細胞分裂周期の進行をブロックする薬剤(S期以外の場所において)、例えばG1停止及びM期停止を誘発する薬剤が含まれる。伝統的なM期ブロッカーには、ビンカ(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン、及びトポIIインヒビター、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンが含まれる。G1を停止させる薬剤、例えばDNAアルキル化剤、例えばタモキシフェン、プレドニソン、ダカーバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びara-CがS期停止に溢流する。更なる情報は、Murakami等の「Cell cycle regulation, oncogenes, and antineoplastic drugs」と題されたThe Molecular Basis of Cancer、Mendelsohn及びIsrael編、第1章(WB Saunders;Philadelphia, 1995)、例えば13頁に見出すことができる。タキサン類(パクリタキセル及びドセタキセル)は、共にイチイに由来する抗癌剤である。ヨーロッパイチイに由来するドセタキセル(TAXOTERE(登録商標), Rhone-Poulenc Rorer)は、パクリタキセル(TAXOL(登録商標), Bristol-Myers Squibb)の半合成類似体である。パクリタキセル及びドセタキセルは、チューブリン二量体から微小管の集合を促進し、細胞の有糸分裂を阻害する結果となる脱重合を防ぐことによって微小管を安定化する。
【0111】
疾患の「病理状態」には、患者の健康を損なうあらゆる現象が含まれる。癌の場合には、これに限定されるものではないが、異常又は制御不能な細胞成長、転移、隣接細胞の正常機能の阻害、サイトカイン又は他の分泌産物の異常なレベルでの放出、炎症又は免疫反応の抑制又は悪化等々が含まれる。
【0112】
この出願で用いられる「プロドラッグ」なる用語は、親薬剤に比較して腫瘍細胞に対する細胞傷害性が低く、酵素的に活性化又はより活性な親形態に変換される製薬的活性物質の前駆体又は誘導体形態を意味する。例えば、Wilman, 「Prodrugs in Cancer Chemotherapy」, Biochemical Society Transactions, 14, :375-382, 615th Meeting, Belfast (1986)、及びStella 等, 「Prodrugs: A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery」、Directed Drug Delivery, Borchardt等(編), 247-267項, Humana Press (1985)参照。本発明のプロドラッグは、限定するものではないが、ホスフェート含有プロドラッグ、チオホスフェート含有プロドラッグ、サルフェート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、D-アミノ酸修飾プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、β-ラクタム含有プロドラッグ、置換されていてもよいフェノキシアセトアミド含有プロドラッグ又は置換されていてもよいフェニルアセトアミド含有プロドラッグ、より活性のある細胞毒のない薬剤に転換可能な5-フルオロシトシン及び他の5-フルオロウリジンプロドラッグを含む。限定はしないが、本発明で使用されるプロドラッグ形態に誘導体化可能な細胞傷害性剤の例には、前記の化学療法剤が含まれる。
【0113】
「小分子」は約500ダルトン以下の分子量を有するものとここでは定義される。
【0114】
「精製された」よは、分子が試料中に少なくとも95重量%の濃度で、又はそれが含まれる思料の少なくとも98重量%で存在することを意味する。
【0115】
「単離された」核酸分子は、例えばその天然の環境において通常は付随している少なくとも一の他の汚染核酸分子から分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、該核酸分子を通常は発現する細胞に含まれる核酸分子を更に含むが、該核酸分子はその天然の染色体位置とは異なった染色体位置に又は染色体外に存在する。
【0116】
ここで使用される「ベクター」という用語は、それが連結しているその他の核酸を輸送することのできる核酸分子を指す。一つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、付加的なDNAセグメントをライゲーションすることができる環状二本鎖DNAを指す。他のタイプのベクターはファージベクターである。その他の型のベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントをウイルスゲノムへライゲーションすることができる。ある種のベクターは、それらが導入される宿主内において自己複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクター、及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入によって宿主細胞のゲノムに組み込まれ、宿主ゲノムと共に複製される。更に、ある種のベクターは、それらが作用可能に連結している遺伝子の発現を方向づけ得る。このようなベクターは、ここでは、「組換え発現ベクター」(あるいは単に「組換えベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術で利用する発現ベクターは、しばしばプラスミドの形をとる。本明細書では、プラスミドが最も広く使用されているベクターの形態であるので、「プラスミド」及び「ベクター」は相互交換可能に使用されうる。
【0117】
ここで交換可能に使用される「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを意味し、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド又は塩基、及び/又はそれらの類似体(アナログ)、又はDNAもしくはRNAポリメラーゼにより、もしくは合成反応によりポリマー中に取り込み可能な任意の基質とすることができる。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びそれらの類似体を含み得る。存在するならば、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの組み立ての前又は後になされ得る。ヌクレオチドの配列は非ヌクレオチド成分により中断されてもよい。ポリヌクレオチドは合成後に、例えば標識との結合により、さらに修飾されてもよい。他のタイプの修飾には、例えば「キャップ(caps)」、類似体との自然に生じたヌクレオチドの一又は複数の置換、ヌクレオチド間修飾、例えば非荷電連結(例えばホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマート等)及び荷電連結(ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート等)を有するもの、ペンダント部分、例えばタンパク質(例えばヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ply−L−リジン等)を含むもの、インターカレータ(intercalators)を有するもの(例えばアクリジン、ソラレン等)、キレート剤(例えば金属、放射性金属、ホウ素、酸化的金属等)を含むもの、アルキル化剤を含むもの、修飾された連結を含むもの(例えばアルファアノマー核酸等)、並びにポリヌクレオチド(類)の未修飾形態が含まれる。更に、糖類中に通常存在する任意のヒドロキシル基は、例えばホスホナート基、ホスファート基で置き換えられてもよく、標準的な保護基で保護されてもよく、又は付加的なヌクレオチドへのさらなる連結を調製するように活性化されてもよく、もしくは固体又は半固体担体に結合していてもよい。5'及び3'末端のOHはホスホリル化可能であり、又は1〜20の炭素原子を有する有機キャップ基部分又はアミンで置換することもできる。また他のヒドロキシルは標準的な保護基に誘導体化されてもよい。またポリヌクレオチドは当該分野で一般的に知られているリボース又はデオキシリボース糖類の類似形態のものをさらに含み得、これらには例えば2'-O-メチル-、2'-O-アリル、2'-フルオロ又は2'-アジド-リボース、炭素環式糖の類似体、アルファ-アノマー糖、エピマー糖、例えばアラビノース、キシロース類又はリキソース類、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式類似体、及び非塩基性ヌクレオシド類似体、例えばメチルリボシドが含まれる。一又は複数のホスホジエステル連結は代替の連結基で置き換えてもよい。これらの代替の連結基には、限定されるものではないが、ホスファートがP(O)S(「チオアート」)、P(S)S(「ジチオアート」)、「(O)NR2(「アミダート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO又はCH2(「ホルムアセタール」)と置き換えられた実施態様のものが含まれ、ここでそれぞれのR及びR'は独立して、H又は、エーテル(-O-)結合を含んでいてもよい置換もしくは未置換のアルキル(1-20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル又はアラルジル(araldyl)である。ポリヌクレオチド中の全ての結合が同一である必要はない。先の記述は、RNA及びDNAを含むここで引用される全てのポリヌクレオチドに適用される。
【0118】
ここで使用される「オリゴヌクレオチド」とは、短く、一般的に単鎖であり、また必ずしもそうではないが、一般的に約200未満のヌクレオチド長さの、一般的に合成のポリヌクレオチドを意味する。「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」なる用語は、相互に排他的なものではない。ポリヌクレオチドについての上述した記載はオリゴヌクレオチドと等しく、十分に適用可能である。
【0119】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる同類置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、特定のペプチド又はポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作成され、そのソースコードは米国著作権庁,ワシントン D.C.,20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087の下で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社、サウスサンフランシスコ, カリフォルニアから公的に入手可能であり、又はソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされなければならない。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。
【0120】
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bへの、それとの、又はそれに対する或る程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2のA及びBのプログラムアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なると認識されるであろう。特に断らない限りは、ここで使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを用いて直ぐ上の段落に記載されるようにして得られる。
【0121】
「コントロール配列」という表現は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
【0122】
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列あるいは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているなら、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合している;プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合している;又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合したDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターあるいはリンカーが使用される。
【0123】
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」という表現は相互に交換可能に用いられ、その全ての用語は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という語句は、最初の対象細胞及び何度培養が継代されたかに関わらず最初のものから誘導された培養を含む。また、全ての子孫が、意図的な変異あるいは意図しない変異の影響で、正確に同一のDNAを有するわけではないことも理解される。元々の形質転換細胞についてスクリーニングしたものと同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫が含まれる。命名を区別することが意図される場合は、文脈から明らかであろう。
【0124】
「同時」なる用語はここでは投与の少なくとも一部が時間的にオーバーラップする二又はそれ以上の治療剤の投与を意味するために使用される。従って、同時投与は、一又は複数の薬剤の投与が一又は複数の他の薬剤の投与を中断した後に続く場合の投薬計画を含む。
【0125】
ここでは「癌再発」は治療後に癌が再び現れることを意味する。一実施態様では、癌再発は乳房における癌の再発、並びに癌が乳房の外側で再発する遠隔再発を含む。
【0126】
本発明の組成物
本発明は単離された抗体とポリヌクレオチド実施態様を包含する。一実施態様では、抗VEGF抗体が精製される。
【0127】
この発明はまた抗VEGF抗体を含む薬学的組成物を含む組成物;及び抗VEGF抗体をコードする配列を含むポリヌクレオチドを包含する。ここで使用される場合、組成物はVEGFに結合する一又は複数の抗体、及び/又はVEGFに結合する一又は複数の抗体を含む一又は複数のポリヌクレオチドを含む。これらの組成物は、当該分野で翼知られているバッファーを含む薬学的に許容可能な賦形剤のような、適切な担体を更に含みうる。
【0128】
一実施態様では、本発明の抗VEGF抗体はモノクローナルである。また他の実施態様では、抗VEGF抗体はポリクローナルである。また本発明の範囲に包含されるものは、ここに提供された抗VEGF抗体のFab、Fab’、Fab’−SH及びF(ab’)2断片である。これらの抗体断片は、例えば酵素的消化のような伝統的な手段によって創製することができ、又は組換え法によって生産することができる。かかる抗体断片はキメラでもヒト化されてもよい。これらの断片は診断及び以下に記載する目的に対して有用である。一実施態様では、抗VEGF抗体はキメラ、ヒト化、又はヒト抗体である。
【0129】
モノクローナル抗体は、実質的に均一な抗体の集団から得られる。すなわち、少量で存在しうる可能な天然に生じる変異を除いて、集団を構成する個々の抗体が同一である。よって、「モノクローナル」との修飾詞は、別個の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。
【0130】
ファージライブラリーから得られた例示的モノクローナル抗体がここに提供され、実施例1に記載される。その抗体は B20−4.1.1及びB20−4.1.1RRと命名される。B20−4.1.1及びB20−4.1.1RRの重鎖及び軽鎖可変ドメインの配列は図1及び6−9に示している。
【0131】
対象の抗原上の特定のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするには、常套的な交差ブロックアッセイ、例えばAntibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow及びDavid Lane (1988)に記載されたものを実施することができる。あるいは、例えばChampe等(1995) J. Biol. Chem. 270:1388-1394に記載されたようなエピトープマッピングを実施して、抗体が興味あるエピトープに結合するかどうかを決定することができる。抗VEGF抗体の更なる例示的な実施態様は以下に提供する。
【0132】
抗VEGF抗体の特定の実施態様
一実施態様では、本発明は、
(i)配列番号:1の配列を含むHVR−H1配列;
(2)配列番号:2の配列を含むHVR−H2配列;
(3)配列番号:3の配列を含むHVR−H3配列;
(4)配列番号:4の配列を含むHVR−L1配列;
(5)配列番号:6の配列を含むHVR−L2配列;
(6)配列番号:7の配列を含むHVR−L3
を含む抗体を提供する。
【0133】
他の実施態様では、本発明は、
(1)配列番号:1の配列を含むHVR−H1配列;
(2)配列番号:2の配列を含むHVR−H2配列;
(3)配列番号:3の配列を含むHVR−H3配列;
(4)配列番号:5の配列を含むHVR−L1配列;
(5)配列番号:6の配列を含むHVR−L2配列;
(6)配列番号:7の酸配列を含むHVR−L3配列
を含む抗体を提供する。
【0134】
配列番号:1から7のアミノ酸配列は、図1に示すように、個々のHVR(つまり、H1、H2又はH3)に関して番号付けされている、番号付けはここに記載のカバット番号付けシステムに一致している。
【0135】
一態様では、本発明は図1に示される重鎖HVR配列を含む抗体を提供する。
【0136】
本発明の抗体のある実施態様は、以下の配列番号:39に示すように、ヒト化4D5抗体(huMAb4D5−8) (HERCEPTIN(登録商標), Genentech, Inc., South San Francisco, CA, USA) (米国特許第6407213号及びLee等, J. Mol. Biol. (2004), 340(5):1073-93も参照される) の軽鎖可変ドメインを含む。
【0137】
【0138】
一実施態様では、huMAb4D5−8 軽鎖可変ドメイン配列は、位置30、66及び91の一又は複数で修飾されている(Asn、Arg及びHisは上ではそれぞれ太字/イタリック体で示す)。一実施態様では、修飾されたhuMAb4D5−8配列は30位にSerを、66位にGlyを、及び/又は91位にSerを含む。従って、一実施態様では、本発明の抗体は、以下の配列番号:40に示した配列を含む軽鎖可変ドメインを含む:
【0139】
【0140】
huMAb4D5−8に関して置換された残基は上では太字/イタリック体で示される。
【0141】
本発明の抗体は、VEGFに対する結合活性が実質的に保持されている限り、任意の適したフレームワーク可変ドメイン配列を含む。例えば、ある実施態様では、本発明の抗体は、ヒトサブグループIII重鎖フレームワークコンセンサス配列を含む。これらの抗体の一実施態様では、フレームワークコンセンサス配列は71、73及び/又は78位に置換を含む。これらの抗体のある実施態様では、71位がAであり、73位がTであり、及び/又は78位がAである。一実施態様では、これらの抗体は、huMAb4D5−8 (HERCEPTIN(登録商標), Genentech, Inc., South San Francisco, CA, USA) (米国特許第6407213号及び5821337号及びLee等, J. Mol. Biol. (2004), 340(5):1073-93も参照される)の重鎖可変ドメインフレームワーク 配列を含む。一実施態様では、これらの抗体はヒトκI軽鎖フレームワークコンセンサス配列を更に含む。一実施態様では、これらの抗体は、米国特許第6407213号及び5821337号に記載されたhuMAb4D5−8の軽鎖HVR配列を含む。一実施態様では、これらの抗体は、huMAb4D5−8 (HERCEPTIN(登録商標), Genentech, Inc., South San Francisco, CA, USA) (米国特許第6407213号及び5821337号及びLee等, J. Mol. Biol. (2004), 340(5):1073-93も参照される)の軽鎖可変ドメイン 配列を含む。
【0142】
一実施態様では、本発明の抗体は重鎖可変ドメインを含み、ここで、フレームワーク配列が、配列番号:8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、及び/又は26(図2a及び2b)の配列を含み、HVR H1、H2及び H3 配列がそれぞれ配列番号:1、2及び/又は3である。一実施態様では、本発明の抗体は軽鎖可変ドメインを含み、ここで、フレームワーク配列が、配列番号:27、28、29及び/又は30(図3)の配列を含み、HVR L1配列が配列番号:4又は5であり、HVR L2配列が配列番号:6であり、HVR L3配列が配列番号:7である。
【0143】
一実施態様では、本発明の抗体は、配列番号:43の配列を含む重鎖可変ドメインを含む。一実施態様では、本発明の抗体は、配列番号:44又は45の配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。一実施態様では、本発明の抗体は、配列番号:43の配列を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:45の配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。また他の実施態様では、本発明の抗体は、配列番号:44の配列を含む重鎖可変ドメインと、配列番号:45の配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0144】
一態様では、本発明は、VEGFへの結合について上述の抗体の何れかと競合する抗体を提供する。一態様では、本発明は、上述の抗体の何れかと同じVEGF上のエピトープに結合する抗体を提供する。
【0145】
抗体断片
本発明は抗体断片を包含する。抗体断片は伝統的な手段、例えば酵素的消化によって、あるいは組換え法によって生産することができる。ある状況下では、抗体全体よりも、抗体断片を用いることに利点がある。より小さなサイズの断片によって迅速なクリアランスが可能となり、固形腫瘍への接近の改良につながり得る。ある種の抗体断片の概説については、Hudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134を参照のこと。
【0146】
抗体断片を産生するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化によって誘導された(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照のこと)。しかし、これらの断片は、現在は組換え宿主細胞により直接産生することができる。Fab、Fv及びScFv抗体断片は全て、大腸菌で発現させ分泌させることができ、従って、大量のこれら断片の産生が容易となった。抗体断片は、上で検討した抗体ファージライブラリーから単離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合させてF(ab')2断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')2断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。インビボ半減期が増した、サルベージレセプター結合性エピトープ残基を含むFab及びF(ab’)2が、米国特許第5869046号に記載されている。抗体断片を生成するのための他の方法は、当業者には明らかであろう。ある実施態様では、抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。国際公開93/16185号;米国特許第5571894号;及び米国特許第5587458号を参照のこと。Fv及びsFvは、定常領域を欠く無傷の連結部位を有する唯一の種である;従って、インビボで使用している間の減少した非特異的結合に適している。sFv融合タンパク質は、sFvのアミノ又はカルボキシ末端のどちらかで、エフェクタータンパク質の融合体が生成されるように構成されうる。上掲のAntibody Engineering, Borrebaeck編を参照のこと。また、抗体断片は、例えば米国特許第5641870号に記載されているような「線状抗体」であってもよい。そのような線状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であってもよい。
【0147】
ヒト化抗体
本発明は、ヒト化抗体を含む。非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法が従来技術に既知である。例えば、ヒト化抗体は、非ヒトのソースからそれに導入された一以上のアミノ酸残基を有することができる。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「移入」残基と呼ばれ、一般に「移入」可変ドメインに由来する。ヒト化は、基本的にヒト抗体の該当する配列を高頻度可変領域配列で置換することにより、Winter及び共同研究者(Jones等(1986)Nature 321:522-525;Riechmann等(1988)Nature, 332:323-327;Verhoeyen等(1988)Science 239:1534-1536)の方法に従って実施される。よって、このような「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は典型的には幾つかの高頻度可変領域残基が、及び場合によっては幾つかのFR残基が齧歯類抗体の類似する部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
【0148】
ヒト化抗体の作製に使用されるヒト可変ドメインの選択は、軽鎖及び重鎖いずれも、抗原性を減らすために重要である。いわゆる「最良に適合する(ベストフィット)」方法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。ついで、齧歯類の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワークとして受け入れる(Sims等(1993)J. Immunol. 151:2296; Chothia等(1987)J. Mol. Biol. 196:901)。別の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全ヒト抗体のコンセンサス配列から得られた特定のフレームワークを使用する。同じフレームワークを数種の異なるヒト化抗体に使用することができる(Carter等(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285; Presta等(1993)J. Immunol., 151:2623)。
【0149】
更には、抗体は、抗原に対する高い親和性及びその他の望ましい生物学的特性を保持してヒト化されることが一般に好ましい。この目的を達成するために、一方法では、親の配列及びヒト化配列の三次元モデルを用いて、親配列及び様々な概念上のヒト化産物を分析するプロセスにより、ヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般に利用可能であり、当業者に周知である。選択された候補免疫グロブリン配列の、ありそうな三次元立体配置的構造を図解し表示するコンピュータプログラムが利用可能である。このような表示を検査することにより、候補免疫グロブリン配列が機能する際に残基が果たすと思われる役割を分析することができ、つまり候補免疫グロブリンの、その抗原に対する結合能に影響する残基を分析することができる。このように、レシピエント及び重要な配列からFR残基を選択して組み合わせることにより、所望の抗体特性、例えば標的とする抗原に対する親和性の増大を達成することができる。一般に、高頻度可変領域残基は、抗原の結合に対する影響に、直接的に且つ最も実質的に関わっている。
【0150】
ヒト抗体
本発明のヒト抗体は、上記のように、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択したFvクローン可変ドメイン配列を既知のヒト定常ドメイン配列と組み合わせることによって構築することができる。あるいは、本発明のヒトモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体の生産のためのヒトミエローマ及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株は、例えば、Kozbor, J. Immunol. 133, 3001(1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner 等, J. Immunol., 147: 86 (1991)に記載されている。
【0151】
免疫化することで、内因性免疫グロブリンの生産なしに、ヒト抗体の完全なレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を生産することが現在は可能である。例えば、キメラ及び生殖細胞系変異体マウスでの抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合体欠失は、内因性抗体の生産の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖細胞系変異体マウスでのヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子配列の転移は、抗原の投与によってヒト抗体の生産を引き起こす。例えば、Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 2551-255(1993);Jakobovits等, Nature 362, 255-258(1993);Bruggermann等, Year in Immunol., 7: 33 (1993)を参照のこと。
【0152】
また、遺伝子シャフリングは、ヒト抗体が開始非ヒト、例えば齧歯類の抗体と類似した親和性及び特性を有している場合、非ヒト、例えば齧歯類の抗体からヒト抗体を得るために使用することもできる。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法により、上記のファージディスプレイ技術により得られた非ヒト抗体断片の重鎖又は軽鎖可変領域の何れかをヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置換し、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvないしFabキメラの集団を作成する。抗原を選択することにより、ヒト鎖が初めのファージディスプレイクローンにおいて一致した非ヒト鎖の除去により破壊された抗原結合部位を回復する、非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvないしFabが単離される、つまり、エピトープがヒト鎖パートナーの選択をつかさどる(インプリントする)。残りの非ヒト鎖を置換するためにこの工程を繰り返すと、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日公開のPCT特許出願WO93/06213を参照)。伝統的なCDR移植による非ヒト抗体のヒト化と異なり、この技術により、非ヒト起源のFR又はCDR残基を全く持たない完全なヒト抗体が得られる。
【0153】
二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある実施態様では、二重特異性抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。ある実施態様では、結合特異性の一つはVEGFに対するものであり、他方は任意の他の抗原に対するものである。ある実施態様では、二重特異性抗体は、VEGFの2つの異なるエピトープに結合しうる。ある実施態様では、二重特異性抗体はVEGFを発現する細胞に細胞傷害剤を局在化するためにも使用されうる。これらの抗体はVEGF結合アーム及び細胞傷害剤、例えば、サポリン(saporin)、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセート又は放射性同位体ハプテンと結合するアームを有する。二重特異性抗体は完全長抗体又は抗体断片(例えばF(ab')2二重特異性抗体)として調製することができる。
【0154】
二重特異性抗体を作製する方法は当該分野において既知である。二重特異性抗体の伝統的な組換え産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの重鎖は異なる特異性を持っている(Millstein及びCuello, Nature, 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が1993年5月13日に公開の国際公開第93/08829号及びTraunecker等, EMBO J. 10:3655-3659(1991)に開示されている。
【0155】
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は例えば、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。ある実施態様では、軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させる。免疫グロブリン重鎖の融合体と、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これにより、コンストラクトに使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、2又は3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0156】
このアプローチ法の一実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0157】
他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0158】
二特異性抗体は架橋又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの一方の抗体がアビジンと結合し、他方はビオチンと結合しうる。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせること(米国特許第4676980号)及びHIV感染の治療(国際公開第91/00360号、国際公開第92/00373号及び欧州特許出願公開第03089号)への用途が提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は任意の簡便な架橋方法によって作製できる。適切な架橋剤は当該分野において周知であり、多くの架橋法と共に米国特許第4676980号に記されている。
【0159】
抗体断片から二重特異性抗体を産生する技術もまた文献に記載されている。例えば、化学結合を使用して二重特異性抗体を調製することができる。Brennan等, Science, 229:81 (1985) はインタクトな抗体をタンパク分解性に切断してF(ab')2断片を産生する手順を記述している。これらの断片は、ジチオール錯体形成剤亜砒酸ナトリウムの存在下で還元して近接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルヒド形成を防止する。産生されたFab'断片はついでチオニトロベンゾアート(TNB)誘導体に転換される。Fab'-TNB誘導体の一つをついでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'-チオールに再転換し、他のFab'-TNB誘導体の等モル量と混合して二重特異性抗体を形成する。生産された二重特異性抗体は酵素の選択的固定化のための薬剤として使用することができる。
【0160】
最近の進歩により大腸菌からFab'-SH断片を直接回収することが容易となっており、これにより化学的にカップリングされて二重特異性抗体にを形成する。Shalaby 等, J. Exp. Med., 175: 217-225 (1992)は、完全なヒト化二重特異性抗体F(ab')2分子の産生について記述している。各々のFab'断片は大腸菌から別々に分泌されて、インビトロで化学的にカップリングされて、二重特異性抗体を形成する。従って、形成された二重特異性抗体は、HER2レセプターを過剰発現する細胞及び正常ヒトT細胞に結合するだけでなく、ヒト乳房腫瘍の標的に対するヒト細胞毒性リンパ球の溶解活性を引き起こすことができた。
【0161】
組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を作成し分離する様々な方法もまた記述されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して生産されている。Kostelny等, J.Immunol., 148(5):1547-1553 (1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを遺伝子融合により二つの異なった抗体のFab'部分に結合させた。抗体ホモダイマーはヒンジ領域で還元されてモノマーを形成し、ついで再酸化させて抗体ヘテロダイマーを形成する。この方法はまた抗体ホモダイマーの生産に対して使用することができる。Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作製する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするのに十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)を結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用する他の二重特異性抗体断片の製造方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol., 152:5368 (1994)を参照のこと。
【0162】
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
【0163】
多価抗体
多価抗体は、抗体が結合する抗原を発現する細胞により、二価抗体よりも早くインターナリゼーション(及び/又は異化)されうる。本発明の抗体は、3又はそれ以上の結合部位を有する多価抗体(IgMクラス以外のもの)であり得(例えば四価抗体)、抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現により容易に生成することができる。多価抗体は二量化ドメインと3又はそれ以上の抗原結合部位を有する。ある実施態様では、二量化ドメインはFc領域又はヒンジ領域を有する(又はそれらからなる)。このシナリオでは、抗体はFc領域と、Fc領域のアミノ末端に3又はそれ以上の抗原結合部位を有しているであろう。ある実施態様では、多価抗体は3から約8の抗原結合部位を有する(又はそれらからなる)。かかる一実施態様では、多価抗体は4つの抗原結合部位を有する(又はそれらからなる)。多価抗体は少なくとも1つのポリペプチド鎖(例えば2つのポリペプチド鎖)を有し、ポリペプチド鎖は2又はそれ以上の可変ドメインを有する。例えば、ポリペプチド鎖はVD1-(X1)n-VD2-(X2)n-Fcを有し、ここでVD1は第1の可変ドメインであり、VD2は第2の可変ドメインであり、FcはFc領域のポリペプチド鎖の一つであり、X1及びX2はアミノ酸又はポリペプチドを表し、nは0又は1である。例えば、ポリペプチド鎖は、VH-CH1-可動性リンカー-VH-CH1-Fc領域鎖;又はVH-CH1-VH-CH1-Fc領域鎖を有し得る。ここでの多価抗体は、少なくとも2つ(例えば4つ)の軽鎖可変ドメインポリペプチドをさらに有する。ここでの多価抗体は、例えば約2から約8の軽鎖可変ドメインポリペプチドを含む。ここで考えられる軽鎖可変ドメインポリペプチドは軽鎖可変ドメインを含み、場合によってはCLドメインを更に含む。
【0164】
単一ドメイン抗体
ある実施態様では、本発明の抗体は単一ドメイン抗体である。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む単一ポリペプチド鎖である。ある実施態様では、単一ドメイン抗体はヒト単一ドメイン抗体(Domantis, Inc., Waltham, MA; 例えば米国特許第6248516B1号を参照)。一実施態様では、単一ドメイン抗体は抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部からなる。
【0165】
抗体変異体
ある実施態様では、ここに記載された抗体のアミノ酸配列の修飾を考える。例えば、抗体の結合親和性及び/又は生物学的特性を向上することができれば望ましい。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体の核酸に適切なヌクレオチド変化を導入して、又はペプチド合成により調製されうる。そのような修飾は、抗体のアミノ酸配列内の残基の、例えば、欠失型、及び/又は挿入及び/又は置換を含む。最終構成物が所望する特徴を有していれば、欠失、挿入及び置換をどのように組合せてもよい。アミノ酸変化は、配列ができるときに被検体の抗体アミノ酸配列中に導入されうる。
【0166】
突然変異誘発に好ましい位置である抗体の特定の残基又は領域の同定に有益な方法は、Cunningham及びWells (1989) Science, 244:1081-1085に開示されているように「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここで、標的となる残基又は残基の組が同定され(例えば、Arg、Asp、His、Lys、及びGluなどの荷電した残基)、中性の、又は負に荷電したアミノ酸(例えばアラニン又はポリアラニン)で置換され、アミノ酸の抗原との相互作用に影響を与える。ついで、置換に対する機能的感受性を示しているそれらアミノ酸位置を、置換の部位において、又は置換の部位のために、更なる又は他の変異体を導入することにより精製する。このように、アミノ酸配列変異体を導入する部位は予め決定されるが、突然変異自体の性質は予め決定される必要はない。例えば、与えられた部位における突然変異のパーフォーマンスを分析するために、標的コドン又は領域においてalaスキャンニング又はランダム突然変異誘発を実施し、発現した免疫グロブリンを所望の活性についてスクリーニングする。
【0167】
アミノ酸配列挿入には、1残基から100以上の残基を有するポリペプチドまでの長さに亘るアミノ末端融合及び/又はカルボキシ末端融合、並びに単一又は複数アミノ酸残基の配列内挿入を含む。端末挿入の例には、N末端メチオニル残基を持つ抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体には、抗体の血清半減期を増加させるポリペプチド又は(例えばADEPTのための)酵素への抗体のN末端又はC末端の融合が含まれる。
【0168】
ある実施態様では、本発明の抗体は、抗体がグリコシル化される度合いを増加又は減少させるために改変される。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合又はO結合の何れかである。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を意味する。アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(ここでXはプロリンを除く任意のアミノ酸)のトリペプチド配列は、アスパラギン側鎖への糖鎖部分の酵素的結合のための認識配列である。従って、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列の何れかが存在すると、潜在的なグリコシル化部位が作出される。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニンに、糖類N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つが結合することを意味するが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた用いることができる。
【0169】
抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、アミノ酸配列を、上述のトリペプチド配列(N結合グリコシル化部位のもの)の一又は複数が作製され又は取り除かれるように変化させることによって簡便に達成される。該変化はまた元の抗体の配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加、欠失、又は置換によってなされる(O-結合グリコシル化部位の場合)。
【0170】
抗体がFc領域を含む場合、それに結合する炭水化物を変更してもよい。哺乳動物細胞によって生産される天然の抗体は典型的にはFc領域のCH2ドメインのAsn297へのN結合によって一般に結合させられる分岐した二分岐オリゴ糖を含む。例えばWright等 (1997) TIBTECH 15:26-32を参照。オリゴ糖は様々な炭水化物、例えばマンノース、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸、並びに二分岐オリゴ糖構造の「ステム部」としてGlcNAcに結合したフコースを含みうる。ある実施態様では、本発明の抗体におけるオリゴ糖の修飾を、ある種の改善された性質を有する抗体を作り出すためになしてもよい。
【0171】
例えば、Fc領域に(直接的に又は間接的に)結合したフコースを欠く糖鎖構造を有する抗体変異体が提供される。かかる変異体は改善されたADCC機能を有しうる。例えば米国特許出願公開第2003/0157108号 (Presta, L.);米国特許出願公開第2004/0093621号(協和発酵工業)を参照のこと。「脱フコース化」又は「フコース欠失」抗体変異体に関する文献の例には以下のものが含まれる:米国特許出願公開第2003/0157108号;国際公開第2000/61739号;国際公開第2001/29246号;米国特許出願公開第2003/0115614号;米国特許出願公開第2002/0164328号;米国特許出願公開第2004/0093621号;米国特許出願公開第2004/0132140号;米国特許出願公開第2004/0110704号;米国特許出願公開第2004/0110282号;米国特許出願公開第2004/0109865号;国際公開第2003/085119;国際公開第2003/084570号;国際公開第2005/035586号;国際公開第2005/035778号;国際公開第2005/053742号;国際公開第2002/031140号;Okazaki 等 J. Mol. Biol. 336:1239-1249 (2004);Yamane-Ohnuki 等 Biotech. Bioeng.87: 614 (2004)。脱フコース化抗体を産生する細胞株の例として、タンパク質フコシル化欠損Lec13 CHO細胞 (Ripka 等 Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願公開2003/0157108号, Presta, L;及び国際公開第2004/056312号, Adams 等, 特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例としてα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8,ノックアウトCHO細胞 (Yamane-Ohnuki 等 Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004); Kanda, Y. 等, Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);及び国際公開第2003/085107号)などがある。
【0172】
例えば抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分された二分オリゴ糖を有する抗体変異体が更に提供される。かかる抗体変異体は低減したフコシル化及び/又は改善されたADCC機能を有しうる。かかる抗体変異体の例は、例えば、国際公開第2003/011878号(Jean-Mairet等);米国特許第6602684号(Umana等);及び米国特許出願公開第2005/0123546号(Umana等)に記載されている。Fc領域に結合したオリゴ糖内の少なくとも一のガラクトース残基を有する抗体もまた提供される。かかる抗体変異体は、例えば国際公開第97/30087号(Patel等);国際公開第98/58964号(Raju, S.);及び国際公開第99/22764号(Raju, S.)に記載されている。
【0173】
ある実施態様では、抗体変異体は、ADCCを更に改善する一又は複数のアミン酸置換を含むFc領域を含み、例えばFc領域の298、333、及び/又は334位(残基のEu番号付け)の置換である。かかる置換は上述の変異の何れかとの組合せで起こりうる。
【0174】
ある実施態様では、本発明は、これをインビボでの抗体の半減期が重要であるがある種のエフェクター機能(例えば補体及びADCC)が不必要であるか有害である多くの用途のための望ましい候補にする、エフェクター機能の全てではないが幾らかを有する抗体変異体を考慮する。ある実施態様では、所望の性質のみが維持されるようにする抗体のFc活性が測定される。インビトロ及び/又はインビボ細胞傷害性アッセイを実施して、CDC及び/又はADCC活性の減少/枯渇を確認できる。例えば、Fcレセプター(FcR)結合アッセイを実施して、抗体がFcγR結合を欠く(よってADCC活性を欠く可能性がある)が、FcRn結合能を保持していることを確認する。ADCCを媒介する一次細胞のNK細胞はFcγRIIIのみを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現がRavetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-92 (1991)の464頁の表3にまとめられている。興味ある分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5500362号(例えばHellstrom, I.等 Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)を参照)及び Hellstrom, I 等, Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985);第5821337号(Bruggemann, M. 等, J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を用いることができる(例えばフローサイトメトリーのためのACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ (Promega, Madison, WI)。このようなアッセイのために有用なエフェクター細胞は末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。あるいは、又は加えて、興味ある分子のADCC活性はインビボで、例えばClynes等 Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 95:652-656 (1998)に開示されているもののような動物モデルにおいて評価することができる。C1q結合アッセイをまた実施して、抗体がC1qに結合できず、よってCDC活性を欠くことを確認することができる。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施してもよい(例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163 (1996);Cragg, M.S. 等, Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg, M.S.及びM.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照のこと)。FcRn結合及びインビボクリアランス/半減期決定はまた当該分野で知られている方法を使用して実施することもできる(例えばPetkova, S.B. 等, Int’l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)を参照)。
【0175】
一又は複数のアミノ酸置換を有する他の抗体が提供される。置換突然変異について関心ある部位は高度可変領域を含むが、FR改変もまた考慮される。保存的置換は、「好ましい置換」と題して表1に示す。「例示的置換」と名前を付けたより実質的な変化が表1に提供され、又はアミノ酸クラスに関連して以下に更に記載される。アミノ酸置換を、興味有る抗体中に導入し、例えば所望される活性、例えば改善された抗原結合性、免疫原性の低減、改善されたADCC又はCDC等について生成物をスクリーニングできる。
【0176】
【0177】
抗体の生物学的性質における修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋配置、(b)標的部位の分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩に影響を及ぼす置換を選択することにより達成されうる。アミノ酸は、その側鎖の特性の類似性に従ってグループ化することができる(A. L. Lehninger, in Biochemistry, 2版, pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975)):
(1)無極性:Ala(A),Val(V),Leu(L),Ile(I),Pro(P),Phe(F),Trp(W),Met(M)
(2)無電荷極性:Gly(G),Ser(S),Thr(T),Cys(C),Tyr(Y),Asn(N),Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D),Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K),Arg(R),His(H)
別法では、天然に生じる残基は共通の側鎖特性に基づいて群に分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0178】
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。このような置換された残基も、保存的置換部位か、更に好ましくは残存する(非保存的)部位に、導入することができる。
【0179】
一つの種類の置換による変異体は、親抗体(例えばヒト化抗体又はヒト抗体)の一以上の高頻度可変領域残基を置換することを含む。一般に、更なる開発用に選択される得られた変異体は、それらが生産された親抗体に対して変更された(例えば改善された)生物学的特性を有しているであろう。例示的な置換変異体は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟法を使用して簡便に生産されうる親和性成熟抗体である。簡単に述べると、幾つかの高頻度可変領域部位(例えば6〜7の部位)を変異させることにより、各部位に可能な全てのアミノ酸置換を生じさせる。このようにして生成された抗体は、各粒子内にパッケージされたファージコートタンパク質(例えば、M13の遺伝子III産物)の少なくとも一部への融合物として、糸状のファージ粒子から表示される。ついで、ファージディスプレイされた変異体は、その生物的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングされる。修飾のための候補高頻度可変領域部位を同定するために、系統的変異導入法(例えばアラニンスキャニング)を行って、抗原結合に有意に貢献する高頻度可変領域残基を同定することができる。別法として、又は付加的に、抗原抗体複合体の結晶構造を分析することにより、抗体と抗原との接触点を同定することが有効である。このような接触残基及び隣接残基は、ここに説明するものを含む当該分野で知られている技術による置換の候補である。そのような変異体がひとたび生成されたら、ここに記載のものを含む当該分野で知られている技術を用いて変異体パネルのスクリーニングを行い、更なる開発のために一又は複数の関連アッセイで優れた特性を有する抗体を選択することができる。
【0180】
抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は当該分野で知られている様々な方法により調製される。これらの方法は、天然源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列変異体の場合)又はオリゴヌクレオチド媒介性(又は部位特異的)突然変異による調製、PCR突然変異誘発、及び前もって調製された変異体又は抗体の非変異型のカセット変異導入法を含むが、これらに限定されない。
【0181】
本発明の抗体のFc領域に一又は複数のアミノ酸修飾を導入することにより、Fc領域変異体を生成することが望ましい場合がある。Fc領域変異体は、ヒンジシステインのアミノ酸位置を含む一以上のアミノ酸位置に一のアミノ酸修飾(例えば置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のFc領域)を含みうる。
【0182】
本明細書及び従来技術の教示によれば、ある実施態様では、本発明の抗体は、対応する野生型の抗体と比較した場合、例えばFc領域内に、一又は複数の変更を有すると考えられる。それでも、これらの抗体は、その野生型の同等物と比較した場合、治療的有効性に必要なほぼ同一の特性を保持している。例えば、国際公開第99/51642号等に記載されているように、Fc領域に、C1q結合及び/又は補体依存性細胞傷害性(CDC)に変化(つまり効果の改善又は低減)をもたらす特定の変更を実施することが考慮される。Fc領域の変異体の他の例に関し、Ducan及びWinter, Nature 322:738-40 (1998);米国特許第5648260号;同第5624821号;及び国際公開第94/29351号も参照されたい。国際公開第00/42072号(Presta)及び国際公開第WO 2004/056312号(Lowman)はFcRへの結合が改善された又は低減された抗体変異体を記載している。これらの特許文献の内容は出典明示により特にここに援用される。またShields等, J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001)を参照のこと。増加した半減期と新生児型Fcレセプター(FcRn)への結合が改善された抗体は、母体IgGsの胎児への移動の原因であるが(Guyer等, J. Immunol. 117:587 (1976)及びKim等, J. Immunol. 24:249 (1994))、米国特許出願公開第2005/0014934A1号(Hinton等)に記載されている。これらの抗体はFcRnへのFc領域の結合を改善する一又は複数の置換を有するFc領域を含む。変更されたFc領域アミノ酸と増加又は減少したC1q結合能を有するポリペプチド変異体は、米国特許第6194551B1号、国際公開第99/51642号に記載されている。この特許文献の内容を出典明示により特にここに援用する。またIdusogie等, J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)も参照のこと。
【0183】
他の態様では、本発明は、Fc領域を含むFcポリペプチドの界面に修飾を含み、該修飾がヘテロ二量体化を容易にし及び/又は促進するむ抗体を提供する。これらの修飾は、第一のFcポリペプチド内に突部を、第二のFcポリペプチド内にキャビティを導入することを含み、ここで、第一及び第二Fcポリペプチドの複合体化を促進するように突部がキャビティに位置させ得る。これらの修飾を有する抗体の生産方法は当該分野で知られており、例えば米国特許第5731168号に記載されている。
【0184】
また他の態様では、抗体の一又は複数の残基がシステイン残基で置換されているシステイン操作抗体、例えば「thioMAbs」を作製することが望ましい場合がある。特定の実施態様では、置換される残基は抗体の接近可能部位で生じる。その残基をシステインで置換することによって、反応性チオール基が抗体の接近可能部位に位置させられ、ここで更に記載されるように、薬剤部分又はリンカー-薬剤部分のような他の部分に抗体をコンジュゲートさせるために使用されうる。ある実施態様では、次の残基の何れか一又は複数がシステインで置換されうる:軽鎖のV205(カバット番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。
【0185】
抗体誘導体
本発明の抗体は当該分野において知られ直ぐに利用できる更なる非タンパク質性部分を含むように更に修飾することができる。好ましくは、抗体の誘導体化に適した部分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例には、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーかランダムコポリマー)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物が含まれる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは水中におけるその安定性のために製造の際に有利であろう。ポリマーは任意の分子量であってよく、分枝状でも非分枝状でもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、一を超えるポリマーが結合する場合、それらは同じでも異なった分子でもよい。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、限定されるものではないが、その抗体誘導体が定まった条件下での治療に使用されるかどうか、改善される抗体の特定の性質又は機能を含む考慮事項に基づいて決定することができる。
【0186】
他の実施態様では、放射線への暴露によって選択的に加熱されうる非タンパク質様部分及び抗体のコンジュゲートが提供される。一実施態様では、非タンパク質様部分はカーボンナノチューブである(Kam等 , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線は任意の波長のものであってよく、限定するものではないが、通常の細胞に害を与えないが、抗体-非タンパク質様部分に近位の細胞が死滅させられる温度まで非タンパク質様部分を加熱する波長が含まれる。
【0187】
免疫コンジュゲート
本発明は、また化学療法剤、薬剤、成長阻害剤、毒素(例えば、細菌、糸状菌、植物又は動物由来の酵素活性性毒素、又はその断片)、又は放射性同位体(すなわち放射性コンジュゲート)などの一又は複数の細胞傷害剤にコンジュゲートした抗体を含んでなる、免疫コンジュゲート(交換可能に「抗体-薬剤コンジュゲート」又は「ADC」とも称される)を提供する。
【0188】
免疫コンジュゲートは、細胞傷害剤、すなわち癌治療において腫瘍細胞を殺す又は阻害するための薬剤の局所的デリバリーに使用されている(Lambert, J. (2005) Curr. Opinion in Pharmacology 5:543-549;Wu 等 (2005) Nature Biotechnology 23(9):1137-1146;Payne, G. (2003) i 3:207-212;Syrigos及びEpenetos (1999) Anticancer Research 19:605-614;Niculescu-Duvaz及びSpringer (1997) Adv. Drg Del. Rev. 26:151-172;米国特許第4975278号)。免疫コンジュゲートは、腫瘍への薬剤成分の標的とする運搬とそこでの細胞内集積を可能とするものであり、この非コンジュゲート薬物作用剤の全身性投与により正常細胞並びに除去しようとする腫瘍細胞への毒性が容認できないレベルとなりうる(Baldwin等, (1986) Lancet pp. (Mar. 15, 1986):603-05;Thorpe, (1985) 「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review,」 Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications, A. Pinchera等 (編), pp. 475-506)。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体はこの方策に有用であると報告されている(Rowland等, (1986) Cancer Immunol. Immunother., 21:183-87)。この方法に用いる薬物には、ダウノマイシン、ドキソルビジン、メトトレキサート及びビンデジンが含まれる(Rowland等, (1986)、上掲)。抗体-毒素コンジュゲートに用いる毒素には、ジフテリア毒素などの細菌性毒素、リシンのような植物毒素、ゲルダナマイシン(Mandler等(2000) Jour. of the Nat. Cancer Inst. 92(19):1573-1581;Mandler等(2000) Bioorganic & Med. Chem. Letters 10:1025-1028;Mandler等(2002) Bioconjugate Chem. 13:786-791)、メイタンシノイド(欧州特許出願公開第1391213号;Liu等, (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:8618-8623)、及びカリケアマイシン(Lode等 (1998) Cancer Res. 58:2928;Hinman等 (1993) Cancer Res. 53:3336-3342)などの小分子毒素が含まれる。該毒素は、チューブリン結合、DNA結合又はトポイソメラーゼ阻害を含む機能によりその細胞傷害性効果を奏しうる。ある種の細胞傷害性剤は、大きな抗体又はタンパク質レセプターリガンドにコンジュゲートした場合に、不活性又は活性が低減する傾向がある。
【0189】
ゼバリン(ZEVALIN)(登録商標)(イブリツモマブチウキセタン(ibritumomab tiuxetan), Biogen/Idec)は正常及び悪性のBリンパ球の細胞表面上にみられるCD20抗原に対するマウスIgG1κモノクローナル抗体と111In又は90Y放射性同位体とがチオウレアリンカーキレート剤にて結合した抗体-放射性同位体コンジュゲートである(Wiseman等 (2000) Eur. Jour. Nucl. Med. 27(7):766-77;Wiseman等 (2002) Blood 99(12):4336-42;Witzig等 (2002) J. Clin. Oncol. 20(10):2453-63;Witzig等 (2002) J. Clin. Oncol. 20(15):3262-69)。ゼバリンはB細胞非ホジキン性リンパ球(NHL)に対して活性を有するが、投与によってほとんどの患者に重症で長期の血球減少を引き起こす。カリケアマイシンに連結したhuCD33抗体からなる抗体薬剤コンジュゲートであるマイロターグ(MYLOTARG)(登録商標)(ゲムツズマブオゾガミシン(gemtuzumab ozogamicin), Wyeth Pharmaceuticals)は、急性骨髄性白血病の治療用注射剤として2000年に認可された(Drugs of the Future (2000) 25(7):686;米国特許第4970198号;同第5079233号;同第5585089号;同第5606040号;同第5693762号;同第5739116号;同第5767285号;同第5773001号)。ジスルフィドリンカーSPPを介してメイタンシノイド薬剤分子DM1と連結しているhuC242抗体からなる抗体薬剤コンジュゲートであるカンツズマブメルタンシン(Cantuzumab mertansine)(Immunogen, Inc.)を、CanAgを発現する癌、例として大腸、膵臓、胃などの治療について試験する第二相治験に入っている。メイタンシノイド薬剤分子DM1と連結している抗前立腺特異的膜抗原(PSMA)モノクローナル抗体からなる抗体薬剤コンジュゲートであるMLN-2704(Millennium Pharm., BZL Biologics, Immunogen Inc.)は、前立腺癌の潜在的治療用に開発中である。アウリスタチン(auristatin)ペプチド、アウリスタチンE(AE)及びモノメチルアウリスタチン(MMAE)、ドラスタチン(dolastatin)の合成類似体は、キメラモノクローナル抗体cBR96(癌細胞上のルイスYに特異的)及びcAC10(血液系悪性腫瘍上のCD30に特異的)(Doronina等 (2003) Nature Biotechnology 21(7):778-784)にコンジュゲートしており、治療薬開発段階にある。
【0190】
ある実施態様では、免疫コンジュゲートは抗体と化学療法剤又は他の毒素を含有する。免疫コンジュゲートの生成に有用な化学治療薬を本明細書中(上記)に記載した。用いることのできる酵素活性毒素及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、(緑膿菌からの)外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン、アレウリテス・フォーディ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、フィトラカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、モモルディカ・チャランチア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン(crotin)、サパオナリア・オフィシナリス(sapaonaria officinalis)インヒビター、ゲロニン(gelonin)、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)及びトリコテセン(tricothecene)が含まれる。例として1993年10月28日に公開の国際公開第93/21232号を参照のこと。放射性コンジュゲート抗体の生成には、様々な放射性ヌクレオチドが利用可能である。例としては、212Bi、131I、131In、90Y及び186Reが含まれる。抗体及び細胞傷害剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオナート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(ジメチルアジピミデートHCL等)、活性エステル(ジスクシンイミジルスベレート等)、アルデヒド(グルタルアルデヒド等)、ビス-アジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン等)、ジイソシアネート(トリエン2,6-ジイソシアネート等)、及びビス-活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン等)を用いて作製できる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta等, Science 238: 1098 (1987)に記載されているように調製することができる。カーボン-14-標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドの抗体への抱合のためのキレート剤の例である。国際公開94/11026参照。
【0191】
抗体と一又は複数の小分子毒素、例えばカリケアマイシン、メイタンシノイド、ドラスタチン、アウロスタチン、トリコセン及びCC1065のコンジュゲート、並びに毒素活性を有するこれら毒素の誘導体もまたここで検討される。
【0192】
メイタンシン及びメイタンシノイド
ある実施態様では、免疫コンジュゲートは、一又は複数のメイタンシノイド分子にコンジュゲートした抗体(完全長又は断片)を含んでなる。
【0193】
メイタンシノイドは、チューブリン重合を阻害することによって作用する分裂阻害剤である。メイタンシンは、最初、東アフリカシラブMaytenus serrataから単離されたものである(米国特許第3896111号)。その後、ある種の微生物がメイタンシノイド類、例えばメイタンシノール及びC-3メイタンシノールエステルを生成することが発見された(米国特許第4151042号)。合成メイタンシノール及びその誘導体及び類似体は、例えば米国特許第4137230号;同4248870号;同4256746号;同4260608号;同4265814号;同4294757号;同4307016号;同4308268号;同4308269号;同4309428号;同4313946号;同4315929号;同4317821号;同4322348号;同4331598号;同4361650号;同4364866号;同4424219号;同4450254号;同4362663号;及び同4371533号に開示されている。
【0194】
メイタンシノイド薬剤部分は、(i)発酵又は化学修飾、発酵産物の誘導体化によって調製するために相対的に利用可能である、(ii)抗体に対する非ジスルフィドリンカーによる共役に好適な官能基による誘導体化に従う、(iii)血漿中で安定、そして(iv)様々な腫瘍細胞株に対して有効であるため、抗体薬剤コンジュゲートの魅力的な薬剤部分である。
【0195】
メイタンシノイドを含む免疫コンジュゲート、その作製方法及びそれらの治療用途は、例えば米国特許第5208020号、同5416064号、欧州特許第0425235号B1に開示されており、その開示は出典を明示してここに援用される。Liu等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:8618-8623(1996)には、ヒト結腸直腸癌に対するモノクローナル抗体C242に結合するDM1と命名されたメイタンシノイドを含有する免疫コンジュゲートが記載されている。前記コンジュゲートは培養された結腸癌細胞に対して高い細胞傷害性を有することが見出されており、インビボ腫瘍成長アッセイにおいて抗腫瘍活性を示す。Chari等, Cancer Research, 52:127-131(1992)には、メイタンシノイドが、ジスルフィド結合を介して、ヒト結腸癌株化細胞の抗原に結合するマウス抗体A7、又はHER-2/neuオンコジーンに結合する他のマウスモノクローナル抗体TA.1に結合している免疫コンジュゲートが記載されている。TA.1-メイタンシノイドコンジュゲートの細胞傷害性は、細胞当たり3×105HER-2表面抗原を発現するヒト乳癌株化細胞SK-BR-3におけるインビトロで試験した。薬剤コンジュゲートにより、遊離のメイタンシノイド剤に類似した細胞傷害度が達成され、該細胞傷害度は、抗体分子当たりのメイタンシノイド分子の数を増加させることにより増加し得た。A7-メイタンシノイドコンジュゲートはマウスにおいては低い全身性細胞傷害性を示した。
【0196】
抗体-メイタンシノイドコンジュゲートは、抗体又はメイタンシノイド分子のいずれの生物学的活性もほとんど低減することなく、メイタンシノイド分子に抗体を化学的に結合させることにより調製される。例えば、米国特許第5208020号(この開示内容は出典明記により特別に組み込まれる)を参照。1分子の毒素/抗体は、裸抗体の使用において細胞傷害性を高めることが予期されているが、抗体分子当たり、平均3−4のメイタンシノイド分子が結合したものは、抗体の機能又は溶解性に悪影響を与えることなく、標的細胞に対する細胞傷害性を向上させるといった効力を示す。メイタンシノイドは当該技術分野でよく知られており、公知の技術で合成することも、天然源から単離することもできる。適切なメイタンシノイドは、例えば米国特許第5208020号、及び他の特許、及び上述した非特許刊行物に開示されている。好ましいメイタンシノイドは、メイタンシノール、及び種々のメイタンシノールエステル等の、メイタンシノール分子の芳香環又は他の位置が修飾されたメイタンシノール類似体である。
【0197】
例えば、米国特許第5208020号又は欧州特許第0425235号B1、Chari等, Cancer Research, 52:127-131(1992)、及び2004年10月8日に出願の米国特許出願第10/960602号(これらの開示内容は出典明記により明示的に援用される)に開示されているもの等を含め、抗体-メイタンシノイドコンジュゲートを作製するために、当該技術で公知の多くの結合基がある。リンカー成分SMCCを含んでなる抗体-メイタンシノイドコンジュゲートは、2004年10月8日に出願の米国特許出願第10/960602号に開示されるように調製されうる。結合基には、上述した特許に開示されているようなジスルフィド基、チオエーテル基、酸不安定性基、光不安定性基、ペプチターゼ不安定性基、又はエステラーゼ不安定性基が含まれるが、ジスルフィド及びチオエーテル基が好ましい。更なる結合基をここに記載し、例示する。
【0198】
抗体とメイタンシノイドとのコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン-2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。特に好ましいカップリング剤には、ジスルフィド結合により提供されるN-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルチオ)ペンタノアート(SPP)及びN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)(Carlsson等, Biochem. J. 173:723-737(1978))が含まれる。
【0199】
リンカーは結合の種類に応じて、種々の位置でメイタンシノイド分子に結合し得る。例えば、常套的なカップリング技術を使用してヒドロキシル基と反応させることによりエステル結合を形成することができる。反応はヒドロキシル基を有するC-3位、ヒドロキシメチルで修飾されたC-14位、ヒドロキシル基で修飾されたC-15位、及びヒドロキシル基を有するC-20位で生じる。好ましい実施態様において、結合はメイタンシノール又はメイタンシノール類似体のC-3位で形成される。
【0200】
アウリスタチン類及びドラスタチン類
ある実施態様では、免疫コンジュゲートは、ドラスタチン又はドロスタチンペプチジル類似体及び誘導体、アウリスタチン(auristatin) (米国特許第5635483号;同第5780588号)にコンジュゲートした抗体を含んでなる。ドラスタチン及びアウリスタチンは、微小管動態、GTP加水分解及び核と細胞の分割を妨げ(Woyke 等 (2001) Antimicrob. Agents and Chemother. 45(12): 3580-3584)、抗癌活性(米国特許第5663149号)及び抗真菌性活性(Pettit 等 (1998) Antimicrob. Agents Chemother. 42:2961-2965)を有することが示されている。ドラスタチン又はアウリスタチン薬剤成分は、ペプチジル薬剤分子のN(アミノ)末端又はC(カルボキシル)末端により抗体に接着しうる(国際公開第02/088172号)。
【0201】
例示的なアウリスタチンの実施態様は、N末端連結モノメチルアウリスタチン薬剤成分DE及びDFを含み、"Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands"、2004年11月5日に出願の米国特許出願公開第10/983340号に開示される。この開示内容は出典明記によってその全体が明示的に援用される。
【0202】
典型的には、ペプチドベースの薬剤成分は、2以上のアミノ酸及び/又はペプチド断片間でペプチド結合を形成することによって調製されうる。このようなペプチド結合は、例えば、ペプチド化学の分野において周知の液相合成方法に従って調製することができる(E. Schroder and K. Lubke, "The Peptides", volume 1, pp 76-136, 1965, Academic Pressを参照)。アウリスタチン/ドラスタチン薬剤成分は、米国特許第5635483号;米国特許第5780588号;Pettit 等 (1989) J. Am. Chem. Soc. 111: 5463-5465;Pettit 等 (1998) Anti-Cancer Drug Design 13:243-277;Pettit, G.R., 等 Synthesis, 1996, 719-725;及びPettit 等 (1996) J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1 5:859-863の方法に従って調製されうる。また、Doronina (2003) Nat Biotechnol 21(7): 778-784; "Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands"、2004年11月5日に出願の米国特許出願公開第10/983340号も参照のこと。これらは出典明示によってその全体がここに援用される(例えば、リンカー及びモノメチルバリン化合物、例えばMMAE及びリンカーにコンジュゲートしたMMAFの調製方法を開示している)。
【0203】
カリケアマイシン
他の実施態様では、免疫コンジュゲートは、一又は複数のカリケアマイシン分子と結合した抗体を含んでなる。抗生物質のカリケアマイシンファミリーはサブピコモル濃度で二重鎖DNA破壊を生じることができる。カリケアマイシンファミリーのコンジュゲートの調製については、米国特許第5712374号、同5714586号、同5739116号、同5767285号、同5770701号、同5770710号、同5773001号、同5877296号(全て、American Cyanamid Company)を参照のこと。使用可能なカリケアマイシンの構造類似体には、限定するものではないが、γ1I、α2I、α3I、N-アセチル-γ1I、PSAG及びθI1(Hinman等, Cancer Research, 53:3336-3342(1993)、Lode等 Cancer Research, 58:2925-2928(1998)及び上述したAmerican Cyanamidの米国特許)が含まれる。抗体が結合可能な他の抗腫瘍剤は、葉酸代謝拮抗薬であるQFAである。カリケアマイシン及びQFAは双方共、細胞内に作用部位を有し、原形質膜を容易に通過しない。よって、抗体媒介性インターナリゼーションによるこれらの薬剤の細胞への取込により、細胞傷害効果が大きく向上する。
【0204】
他の細胞傷害剤
抗体と結合可能な他の抗腫瘍剤には、BCNU、ストレプトゾイシン、ビンクリスチン及び5-フルオロウラシル、米国特許第5053394号、同5770710号に記載されており、集合的にLL-E33288複合体として知られている薬剤ファミリー、並びにエスペラマイシン(esperamicine)(米国特許第5877296号)が含まれる。
【0205】
使用可能な酵素活性毒及びその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa))、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファ-サルシン(sarcin)、アレウライツ・フォルディイ(Aleurites fordii)プロテイン、ジアンシン(dianthin)プロテイン、フィトラッカ・アメリカーナ(Phytolaca americana)プロテイン(PAPI、PAPII及びPAP-S)、モモルディカ・キャランティア(momordica charantia)インヒビター、クルシン(curcin)、クロチン、サパオナリア(sapaonaria)オフィシナリスインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコセセンス(tricothecenes)が含まれる。例えば、1993年10月28日公開の国際公開第93/21232号を参照のこと。
【0206】
本発明は、抗体と核酸分解活性を有する化合物(例えばリボヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼ、例えばデオキシリボヌクレアーゼ;DNアーゼ)との間に形成される免疫コンジュゲートを更に考察する。
【0207】
腫瘍を選択的に破壊するため、抗体は高い放射性を有する原子を含有してよい。放射性コンジュゲートした抗体を生成するために、種々の放射性同位体が利用される。例には、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体が含まれる。コンジュゲートが検出に使用される場合、それはシンチグラフィー研究用の放射性原子、例えばtc99m又はI123、又は核磁気共鳴(NMR)映像(磁気共鳴映像、mriとしても知られている)用のスピン標識、例えばヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン又は鉄を含有し得る。
【0208】
放射又は他の標識が、既知の方法でコンジュゲートに導入される。例えば、ペプチドは生物合成されるか、又は水素の代わりにフッ素-19を含む適切なアミノ酸前駆体を使用する化学的なアミノ酸合成により合成される。標識、例えばtc99m又はI123、Re186、Re188及びIn111は、ペプチドのシステイン残基を介して結合可能である。イットリウム-90はリジン残基を介して結合可能である。IODOGEN法(Fraker等(1978) Biochem. Biophys. Res. Commun. 80:49-57)は、ヨウ素-123の導入に使用することができる。他の方法の詳細は、「Monoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy」(Chatal, CRC Press 1989)に記載されている。
【0209】
抗体と細胞傷害剤のコンジュゲートは、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステル類の二官能性誘導体(例えばジメチルアジピミダートHCL)、活性エステル類(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド類(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン-2,6-ジイソシアネート)、及び二活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)を使用して作製することができる。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta等, Science 238:1098(1987)に記載されているようにして調製することができる。炭素-14標識1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレン-トリアミン五酢酸(MX-DTPA)が抗体に放射性ヌクレオチドをコンジュゲートするためのキレート剤の例である。国際公開第94/11026号を参照されたい。リンカーは細胞中の細胞傷害剤の放出を容易にするための「切断可能リンカー」であってよい。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ過敏性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカーが使用され得る(Chari等, Cancer Research, 52:127-131(1992);米国特許第5208020号)。
【0210】
該化合物は、限定するものではないが、架橋剤:(例えば、Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL., U.S.Aより)市販されているBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、及びスルホ-SMPB、及びSVSB (スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)安息香酸塩)で調製されるADCが明示的に考えられる。2003-2004 Applications Handbook and Catalogの467−498頁を参照。
【0211】
抗体薬剤コンジュゲートの調製
抗体薬剤コンジュゲート(ADC)において、抗体(Ab)はリンカー(L)を介して、一又は複数の薬剤部分(D)、例えば1抗体につき約1から約20の薬剤部分にコンジュゲートされる。式IのADCは、(1)抗体の求核基を二価のリンカー試薬と反応させて共有結合を介してAb-Lを形成した後、薬剤部分Dと反応させること;及び(2)薬剤部分の求核基を二価のリンカー試薬と反応させて共有結合を介してD-Lを形成した後、抗体の求核基と反応させることを含み、当業者に知られている有機化学反応、状態及び試薬を用いる幾つかの手段によって調製されうる。ADCを調製するための更なる方法はここに記載される。
Ab−(L−D)p I
【0212】
リンカーは、一又は複数のリンカー成分から構成されてもよい。例示的なリンカー成分は、6-マレイミドカプロイル(「MC」)、マレイミドプロパノイル(「MP」)、バリン-シトルリン(「val−cit」)、アラニン-フェニルアラニン(「ala−phe」)、p-アミノベンジルオキシカルボンイル(「PAB」)、N-スクシンイミジル4(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(「SPP」)、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1カルボキシレート(「SMCC」)、及びN-スクシンイミジル(4-イオド-アセチル)アミノ安息香酸エステル(「SIAB」)を含む。更なるリンカー成分は当該分野で知られており、その幾つかはここに記載される。また、その内容の全体が出典明示によりここに援用される"Monomethylvaline Compounds Capable of Conjugation to Ligands"、2004年11月5日に出願された米国特許出願公開第10/983340号も参照のこと。
【0213】
ある実施態様では、リンカーはアミノ酸残基を含みうる。例示的なアミノ酸リンカー成分には、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド又はペンタペプチドがある。例示的なジペプチドは、バリン-シトルリン(vc又はval−cit)、アラニン-フェニルアラニン(af又はala−phe)を含む。例示的なトリペプチドは、グリシン-バリン-シトルリン(gly−val−cit)及びグリシン-グリシン-グリシン(gly−gly−gly)を含む。アミノ酸リンカー成分を含んでなるアミノ酸残基は、天然に生じるもの、並びに微量のアミノ酸及び非天然に生じるアミノ酸類似体、例えばシトルリンを含む。アミノ酸リンカー成分は設計され、特に酵素、例えば腫瘍関連プロテアーゼ、カテプシンB、C及びD又はプラスミンプロテアーゼによる酵素的切断の選択性で最適化できる。
【0214】
抗体上の求核基には、限定するものでなく、以下のものを含む:(i)N末端アミン基、(ii)側鎖アミン基、例えばリシン、(iii)側鎖チオール基、例えばシステイン、及び(iv) 抗体がグリコシル化される糖水酸基又はアミノ基。アミン、チオール及び水酸基は、求核であり、反応して、リンカー部分上の求電子性の群及びリンカー試薬により共有結合を形成することができる:(i)活性エステル、例えばNHSエステル、HOBtエステル、ハロギ酸及び酸ハロゲン化物;(ii) アルキル及びベンジルハライド、例えばハロアセトアミド;(iii)アルデヒド、ケトン、カルボキシル及びマレイミド群、が含まれる。特定の抗体は、還元しうる鎖間ジスルフィド、すなわちシステイン架橋を有する。抗体は、還元剤、例えばDTT(ジチオトレイトール)による処置によって、リンカー試薬を用いたコンジュゲート反応を行ってもよい。よって、各々のシステイン架橋は、理論的には2の反応性のチオール求核基を形成する。更なる求核基は、チオールにアミンを転換させる2-イミノチオラン(トラウトの試薬)を用いてリシンを反応させることによって抗体に導入することができる。反応性のチオール基は、1、2、3、4又はそれ以上のシステイン残基を導入する(例えば、一又は複数の非天然のシステインアミノ酸残基を含んでなる変異体抗体を調製する)ことによって抗体(又はその断片)に導入されうる。
【0215】
また、抗体薬剤コンジュゲートは、リンカー試薬又は薬剤上の求核置換基と反応しうる求電子性の部分を導入する抗体の修飾によって生産してもよい。グリコシル化された抗体の糖鎖を、例えば過ヨウ素酸塩酸化剤を用いて酸化して、リンカー試薬又は薬剤部分のアミン基と反応するアルデヒド又はケトン基を形成させてもよい。生じたイミンシッフ塩基群が安定結合を形成するか、又は例えば安定アミン結合を形成させるホウ化水素試薬によって、還元してもよい。一実施態様では、ガラクトースオキシダーゼ又はナトリウムメタ過ヨウ素酸塩の何れかによるグリコシル化抗体の炭水化物部分の反応により、薬剤(Hermanson, Bioconjugate Techniques)上の適当な基と反応することができるタンパク質のカルボニル(アルデヒド及びケトン)基が生じうる。他の実施態様では、N末端セリン又はスレオニン残基を含んでいるタンパク質はナトリウムメタ過ヨウ素酸塩と反応して、第一のアミノ酸の代わりにアルデヒドを生成する(Geoghegan及びStroh, (1992) Bioconjugate Chem. 3:138-146;US 5362852)。このようなアルデヒドは、薬剤部分又はリンカー求核基と反応させることができる。
【0216】
同様に、薬剤部分上の求核基には、限定するものではないが、以下のものを含む:アミン、チオール、ヒドロキシル、ヒドラジド、オキシム、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボン酸エステル及びアリールヒドラジド基で、リンカー部分上の求電子性の基及び(i)活性エステル(例えばNHSエステル、HOBtエステル、ハロギ酸及び酸ハロゲン化物);(ii)アルキル及びベンジルハライド、例えばハロアセトアミド;(iii)アルデヒド、ケトン、カルボキシル及びマレイミド基を含むリンカー試薬と反応して共有結合を形成可能なもの。
【0217】
別法として、抗体及び細胞傷害剤を含む融合タンパク質は、例えば組換え技術又はペプチド合成により作製されうる。DNAの長さは、コンジュゲートの所望する特性を破壊しないリンカーペプチドをコードする領域により離間しているか又は互いに隣接しているコンジュゲートの2つの部分をコードする領域をそれぞれ含みうる。
【0218】
また他の実施態様では、腫瘍の事前ターゲティングに利用するために、「レセプター」(例えばストレプトアビジン)に抗体をコンジュゲートしてもよく、ここで抗体-レセプターコンジュゲートを患者に投与した後、清澄剤を使用し、循環から未結合コンジュゲートを除去し、細胞傷害剤(例えば放射性ヌクレオチド)にコンジュゲートする「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0219】
所定の抗体作製方法
所定のハイブリドーマベース法
本発明のモノクローナル抗体は、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記述され、更に例えばHongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995), Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2版 1988); Hammerling等, Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681 (Elsevier, N.Y., 1981)、及びNi, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)でヒト-ヒトハイブリドーマに関するものた記載されたハイブリドーマ法を使用して作製することができる。更なる方法には、例えばハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒト天然IgM抗体の生産に関する米国特許第7189826号に記載されているものが含まれる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はVollmers及びBrandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005)並びに Vollmers及びBrandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載されている。
【0220】
様々な他のハイブリドーマ技術については、例えば、米国特許出願公開第2006/258841号;米国特許出願公開第2006/183887号(完全なヒト抗体)、米国特許出願公開第2006/059575号;米国特許出願公開第2005/287149号;米国特許出願公開第2005/100546号;米国特許出願公開第2005/026229号、及び米国特許第7078492号及び第7153507号を参照のこと。 ハイブリドーマ法を使用するモノクローナル抗体を製造するための例示的プロトコルは次のように記載されている。一実施態様では、マウス又は他の適切な宿主動物、例えばハムスターを免疫して、免疫化に使用されたタンパク質に特異的に結合する抗体を製造するか又は製造できるリンパ球を誘発する。VEGF又はその断片を含んでなるポリペプチドとアジュバント、例えばモノホスホリル脂質A(MPL)/ジクリノミコール酸トレハロース(TDM)(Ribi Immunochem. Research, Inc., Hamilton, MT)の複数回の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射によって抗体を動物中に産生させる。VEGF又はその断片を含んでなるポリペプチドは、当該分野で知られている方法、例えばその幾らかがここに更に記載されている組換え法を使用して調製することができる。免疫化した動物からの血清を抗VEGF抗体についてアッセイし、追加免疫を場合によっては行う。抗VEGF抗体を生産する動物からのリンパ球が単離される。あるいは、リンパ球をインビトロで免疫化してもよい。
【0221】
ついで、リンパ球は、ポリエチレングリコール等の適当な融合剤を使用してハイブリドーマ細胞と融合されてハイブリドーマ細胞が形成される。例えば、Goding,Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,pp.59-103 (Academic Press,1986)を参照のこと。効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高水準の抗体発現を支持し、かつHAT培地等の培地に感受性のミエローマ細胞を使用することができる。例示的なミエローマ細胞には、限定されないが、マウスミエローマ株、例えば
ソークインスティチュート細胞分譲センター(Salk Institute Cell Distribution Center)、San Diego,California,USAから入手可能なMOPC−21及びMPC−11マウス腫瘍から誘導されるもの、及びアメリカンタイプカルチャーコレクション、Rockville,Maryland USAから入手可能なSP−2又はX63−Ag8−65細胞等が含まれる。ヒトミエローマ及びマウス−ヒト異種ミエローマ細胞株もまたヒトモノクローナル抗体の産生に関して記載されている(Kozbor, J. Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0222】
このようにして調製されたハイブリドーマは、例えば非融合の親ミエローマ細胞の成長又は生存を妨げる一又は複数の物質を含む培地のような適切な培地に播種され増殖される。例えば、親ミエローマ細胞が、酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠く場合には、ハイブリドーマ用の培養培地は、典型的にはHGPRT欠損細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン(HAT培地)を含む。好ましくは、無血清ハイブリドーマ細胞培養法を用いて、例えばEven等, Trends in Biotechnology, 24(3), 105-108 (2006)に記載されているように、仔ウシ血清のような動物由来血清の使用を減じる。
【0223】
ハイブリドーマ細胞培養の生産性を改善するためのツールとしてオリゴペプチドがFranek, Trends in Monoclonal Antibody Research, 111-122 (2005)に記載されている。すなわち、標準培養培地にある種のアミノ酸(アラニン、セリン、アスパラギン、プロリン)を富ませ、又はタンパク加水分解産物画分を富ませ、3から6のアミノ酸残基からなる合成オリゴヌクレオチドによってアポトーシスを有意に抑制することができる。ペプチドはミリモル以上の濃度で存在する。
【0224】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培養培地について、VEGFに結合するモノクローナル抗体の生産をアッセイできる。ハイブリドーマ細胞によって生産されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降により、あるいはラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)等のインビトロ結合アッセイにより測定することができる。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えばスキャッチャード分析により決定することができる。例えば、Munson等, Anal. Biochem., 107:220 (1980)を参照のこと。
【0225】
所望の特異性、親和性及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後に、クローンが制限希釈法によりサブクローニングされ、標準的方法で増殖されうる。例えば上掲のGodingを参照。この目的のために好適な培養培地は、例えばD−MEM又はRPMI−1640培地を含む。また、ハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍としてインビボで増殖されうる。サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、培養培地、腹水、又は血清から、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティクロマトグラフィー等の慣用の免疫グロブリン精製方法により好適に分離される。ハイブリドーマ細胞からのタンパク質の単離のための一手順は米国特許出願公開第2005/176122号及び米国特許第6919436号に記載されている。該方法は、結合法においてリオトロピックな塩のような最小の塩を用いること、また好ましくは溶離法において少量の有機溶媒を用いることを含む。
【0226】
ある種のライブラリースクリーニング方法
本発明の抗体は、所望の活性又は活性群を持つ抗体をスクリーニングするためにコンビナトリアルライブラリーを使用することによって作製されうる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、所望される結合特性を有する抗体のためにかかるライブラリーをスクリーニングするために様々な方法が知られている。かかる方法は一般にHoogenboom等 Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O’Brien等編, Human Press, Totowa, NJ, 2001)に記載されている。例えば、興味ある抗体を生産する一方法は、Lee等, J. Mol. Biol. (2004), 340(5):1073-93に記載されたファージ抗体ライブラリーを使用することによる。
【0227】
原理的には、合成クローンが、ファージコートタンパク質に融合した抗体可変領域(Fv)の様々な断片を表示するファージを含むファージライブラリーをスクリーニングすることによって選択される。かかるファージライブラリーは、所望の抗原に対するアフィニティクロマトグラフィーによってパニングされる。所望の抗原に結合可能なFv断片を発現するクローンを抗原に吸着させ、よってライブラリー中の非結合クローンから分離させる。ついで、結合クローンを抗原から溶離させ、抗原吸着/溶離の更なるサイクルによって更に濃縮されうる。本発明の抗体の何れも、興味あるファージクローンを選択するために適切な抗原スクリーニング手法を設計し、続いて、興味あるファージクローンからのFv配列、及びKabat等, Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), 1-3巻に記載の適切な定常領域(Fc)配列を用いての完全長抗体クローンの構築によって得ることができる。
【0228】
ある実施態様では、抗体の抗原結合ドメインは、各一が軽(VL)鎖及び重(VH)鎖由来で双方が3つの超可変ループ又は相補鎖決定領域(CDRs)を提示する約110アミノ酸の2つの可変(V)領域から形成される。可変ドメインは、Winter等,Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455(1994)に記載のように、VH及びVLが短く可動性のペプチドを介して共有結合している一本鎖Fv(scFv)断片として、又はそれぞれ定常ドメインと融合して非共有的に相互作用しているFab断片として、ファージ上に機能的にディスプレイされ得る。ここで使用される場合、scFvをコードするファージクローン及びFabをコードするファージクローンは、総称して「Fvファージクローン」又は「Fvクローン」と呼ぶ。
【0229】
VH及びVL遺伝子のレパートリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別個にクローニングし、ファージライブラリーにおいてランダムに組換えることができ、これを、Winter等,Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455(1994)に記載のように抗原結合クローンについて探索することができる。免疫化源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要がなく、免疫原に対して高親和性抗体を提供する。あるいは、ナイーブレパートリーをクローニングして、Griffiths等,EMBO J, 12: 725-734(1993)に記載のように如何なる免疫化もせずに、幅広い非自己抗原及び自己抗原に対するヒト抗体の単一源を提供することが可能である。最終的には、ナイーブライブラリーは、また、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227: 381-388(1992)に記載のように、幹細胞からの再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダム配列を含むPCRプライマーを利用して高度可変CDR3領域をコードせしめ、インビトロでの再配列を達成させることによって合成的に作製することができる。
【0230】
ある実施態様では、繊維状ファージは、マイナーコートタンパク質pIIIへの融合によって、抗体断片をディスプレイするのに用いられる。該抗体断片は、例えば、Marks等,J. Mol. Biol. 222: 581-597(1991)に記載のように、VH及びVLドメインが可動性ポリペプチドスペーサーによって同じポリペプチド鎖上に連結されている一本鎖Fv断片として、あるいは、例えば、Hoogenboom等,Nucl. Acids. Res., 19: 4133-4137(1991)に記載のように、一つの鎖がpIIIと融合し、他方の鎖が、幾つかの野生型コートタンパク質を置換することによってファージ表面上にFabコートタンパク質構造のアセンブリがディスプレイされるようになる細菌宿主細胞のペリプラズムへ分泌されるFab断片として、ディスプレイされうる。
【0231】
一般に、抗体遺伝子断片をコードする核酸は、ヒト又は動物から収集した免疫細胞から得られる。抗VEGFクローンに有利になるように偏ったライブラリーが望ましい場合には、検体をVEGFで免疫化して抗体応答を生じさせ、脾臓細胞及び/又は他の末梢血リンパ球(PBLs)である循環B細胞を、ライブラリー構築のために回収する。好ましい実施態様では、VEGF免疫化により、VEGFに対するヒト抗体を産生するB細胞が生じるように、抗VEGFクローンに好ましいヒト抗体遺伝子断片ライブラリーは、機能的ヒト免疫グロブリン遺伝子アレイを有する(及び機能的な内因性抗体産生系を欠く)トランスジェニックマウス中で抗ヒトVEGF抗体応答を生じせしめることによって得られる。ヒト抗体産生トランスジェニックマウスの作製は以下に記載する。
【0232】
抗VEGF反応性細胞集団の更なる濃縮は、適切なスクリーニング手法を使用してVEGF特異的膜結合抗体を発現するB細胞を単離すること、例えば、VEGFアフィニティクロマトグラフィーによる細胞分離、又は蛍光色素標識VEGFへの細胞の吸着とその後の蛍光標示式細胞分取器(FACS)によって得ることができる。
【0233】
あるいは、非免疫化ドナーからの脾臓細胞及び/又はB細胞又は他のPBLの利用によって可能な抗体レパートリーのより良い提示が得られ、またVEGFが免疫原性ではない任意の動物(ヒト又は非ヒト)種を利用した抗体ライブラリーの構築が可能となる。インビトロの抗体遺伝子構築を取り込むライブラリーに関しては、幹細胞を被検体から収集して非再配列の抗体遺伝子セグメントをコードする核酸を提供する。興味ある免疫細胞は、様々な動物種、例えばヒト、マウス、ラット、ウサギ目、オオカミ、犬科、ネコ科、ブタ、ウシ、ウマ、及びトリ種等から得ることができる。
【0234】
抗体可変遺伝子セグメント(VH及びVLセグメントを含む)をコードする核酸を、興味ある細胞から回収して増幅する。再配列したVH及びVL遺伝子ライブラリーの場合、所望されるDNAは、Orlandi等,Proc. Natl. Acad. Sci. (USA), 86: 3833-3837 (1989)に記載されているように、リンパ球からのゲノムDNA又はmRNAを単離し、再配列したVH及びVL遺伝子の5’及び3’末端と一致するプライマーによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによって得ることが可能であり、これによって発現のための多様なV遺伝子レパートリーを作製することができる。該V遺伝子は、Orlandi等, (1989)及びWard等,Nature, 341: 544-546(1989)に記載のように、成熟Vドメインをコードするエクソンの5’末端のバックプライマーとJセグメントに基づいた順方向プライマーにより、cDNA及びゲノムDNAから増幅することが可能である。しかしながら、cDNAからの増幅のためには、バックプライマーは、また、Jones等,Biotechnol., 9:88-89(1991)に記載のようにリーダーエクソンに、順方向プライマーは、Sastry等,Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 86:5728-5732(1989)に記載のように定常領域内に基づくことが可能である。相補性を最大にするために、Orlandi等(1989)又はSastry等(1989)に記載のように、縮重をプライマーへ取り込むことが可能である。ある実施態様では、例えば、Marks等,J. Mol. Biol., 222: 581-597(1991)の方法に記載のように、又はOrum等,Nucleic Acids Res., 21: 4491-4498(1993)の方法に記載のように、免疫細胞の核酸試料に存在する全ての入手可能なVH及びVL配置を増幅するために、各V遺伝子ファミリーを標的にしたPCRプライマーを用いて、そのライブラリーの多様性を最大にする。発現ベクターへの増幅DNAのクローニングに関しては、希な制限部位を、Orlandi等(1989)に記載のようにPCRプライマー内の一端へタグとして導入することができ、又はClackson等,Nature, 352: 624-628(1991)に記載のようにタグプライマーを用いて更なるPCR増幅を行う。
【0235】
合成的に再配列したV遺伝子のレパートリーは、V遺伝子セグメントからインビボで誘導することができる。殆どのヒトVH遺伝子セグメントはクローニングされ配列決定され(Tomlinson等, J. Mol. Biol. 227: 776-798(1992)に報告されている)、マッピングがされている(Matsuda等,Nature Genet., 3: 88-94(1993));これらクローニングされたセグメント(H1及びH2ループの全ての主要なコンホメーションを含む)は、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227: 381-388(1992)に記載のように、多様な配列と長さのH3ループをコードするPCRプライマーによる多様なVH遺伝子レパートリーを作製するのに用いられる。VHレパートリーは、また、Barbas等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 4457-4461(1992)に記載されているように、単一の長さの長いH3ループに焦点を合わせた全ての配列多様性をともなって作製することができる。ヒトVκ及びVλセグメントはクローニング及び配列決定がなされており(Williams及びWinter, Eur. J. Immunol., 23: 1456-1461(1993))、合成軽鎖レパートリーを作製するのに利用することができる。VH及びVLフォールドの範囲及びL3及びH3の長さに基づく合成的V遺伝子レパートリーは、かなりの構造的多様性を有する抗体をコードする。DNAをコードするV遺伝子の増幅に続いて、生殖系のV遺伝子セグメントを、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol. 227: 381-388(1992)の方法に従ってインビトロで再配列することができる。
【0236】
抗体断片のレパートリーは、幾つかの方法でVH及びVL遺伝子レパートリーを共に組み合わせることによって構築することができる。各レパートリーを異なるベクターで作製し、そのベクターを、例えばHogrefe等, Gene, 128: 119-126(1993)に記載のようにインビトロで、又はコンビナトリアル・インフェクション、例えばWaterhouse等, Nucl. Acids Res., 21: 2265-2266(1993)に記載のloxP系によってインビボで作製することが可能である。このインビボの組換え手法では、大腸菌の形質転換効率によって強いられるライブラリーの大きさの限界を克服するために、二本鎖種のFabフラグメントが利用される。ナイーブVH及びVLレパートリーは、1つはファージミドへ、他方はファージベクターへと個別にクローニングされる。この2つのライブラリーは、その後、各細胞が異なる組み合わせを有し、そのライブラリーの大きさが、存在する細胞の数(約1012クローン)によってのみ限定されるように、ファージミド含有細菌のファージ感染によって組み合わせられる。双方のベクターは、VH及びVL遺伝子が単一のレプリコンへ組換えられ、ファージビリオンへ共にパッケージされるように、インビボの組換えシグナルを有する。これら巨大なライブラリーは、良好な親和性(約10−8MのKd−1)の多くの多様な抗体を提供する。
【0237】
別法として、該レパートリーは、例えばBarbas等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 7978-7982(1991)に記載のように同じベクターへ連続してクローニングし、又はClakson等, Nature, 352: 624-628(1991)に記載のようにPCRによってアセンブリした後にクローニングすることができる。PCRアセンブリは、また、可動ペプチドスペーサーをコードしているDNAとVH及びVL DNAを連結させて、単鎖のFv(scFv)レパートリーを形成することに利用することができる。更に他の技術では、「細胞内でのPCRアセンブリ」は、Embleton等, Nucl. Acids Res., 20: 3831-3837(1992)に記載のように、PCRによってリンパ球内のVH及びVL遺伝子を組み合わせて、その後、連結した遺伝子のレパートリーをクローニングするのに利用される。
【0238】
ナイーブライブラリー(天然又は合成のいずれか)によって産生された抗体は中程度の親和性(約106〜107M−1のKd−1)である可能性があるが、上掲のWinter等(1994)に記載のように二次ライブラリーから構築して再選択することによって、親和性成熟をもインビトロで模倣することが可能である。例えば、Hawkins等, J. Mol. Biol. 226: 889-896(1992)の方法、又はGram等, Proc. Natl. Acad. Sci USA, 89: 3576-3580(1992)の方法においてエラー・プローンポリメラーゼ(Leung等, Technique, 1:11-15(1989)で報告されている)を利用することによって、突然変異をインビトロでランダムに導入することができる。更には、一又は複数のCDRをランダムに変異させることによって、例えば、選択した個々のFvクローンにおいて、対象のCDRまで及ぶランダム配列を有するプライマーによるPCRを利用して、より高い親和性クローンをスクリーニングすることで親和性成熟を行うことが可能である。国際公開第9607754号(1996年3月14日に公開)は、免疫グロブリン軽鎖の相補性決定領域へ突然変異生成を誘導して軽鎖遺伝子のライブラリーを作製する方法を記載している。その他の有効な手法は、Marks等, Biotechnol. 10: 779-783(1992)に記載のように、非免疫化ドナーから得られた天然に生じるVドメイン変異体のレパートリーによるファージディスプレイによって選択されたVH又はVLドメインを組換えること、及び数回のチェーン・リシャッフリングにおいてより高い親和性についてスクリーニングすることである。この技術は、約10−9M又はそれ未満の親和性の抗体及び抗体断片の産生を可能にする。
【0239】
ライブラリーのスクリーニングは当該分野で知られている様々な技術によって達成することができる。例えば、VEGFを使用して吸着プレートのウェルをコーティングし、吸着プレートへ付着させた宿主細胞上で発現させるか又はセルソーティングで利用し、又はストレプトアビジンでコーティングしたビーズでの捕獲のためにビオチンにコンジュゲートさせ、又はファージディスプレイライブラリーをパニングするための任意の他の当該分野の方法において利用することが可能である。
【0240】
ファージ粒子の少なくとも一部分を吸着剤に結合させるのに適した条件下で、ファージライブラリーの試料を固定化VEGFと接触させる。通常は、pH、イオン強度、温度等を含む条件を選択して、生理学的条件を模倣する。固相と結合したファージを洗浄し、その後、例えばBarbas等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 7978-7982(1991)に記載されているように酸で、又は例えばMarks等, J. Mol. Biol. 222: 581-597(1991)に記載にされているようにアルカリで、又は例えばClackson等, Nature, 352: 624-628(1991)の抗原競合法に類似の手法であるVEGF抗原競合によって溶出させる。ファージは、1回目の選択で20〜1000倍に濃縮することが可能である。更に、この濃縮されたファージを細菌培養液で増殖させ、更なる回の選択に供することが可能である。
【0241】
選択の効率は、洗浄の間の解離の動力学、及び単一のファージ上の複数の抗体断片が同時に抗原と関われるかどうかを含む多くの要因に依存する。速い解離動態(及び弱い結合親和性)を有する抗体は、短い洗浄、多価ファージディスプレイ及び固相の抗原の高いコーティング密度の利用によって保持することが可能である。高い密度は、多価相互作用を介してファージを安定化するだけでなく、解離したファージの再結合に有利に作用する。遅い解離動態(及び良好な結合親和性)を有する抗体の選択は、Bass等, Proteins, 8: 309-314(1990)及び国際公開第92/09690号に記載されているような長い洗浄と一価ファージディスプレイの利用、及びMarks等, Biotechnol., 10: 779-783(1992)に記載されているような抗原の低コーティング密度によって促進することが可能である。
【0242】
親和性に僅かな違いがあったとしても、VEGFに対する異なる親和性のファージ抗体の中で選択することは可能である。しかしながら、選択した抗体のランダム変異(例えば、幾つかの親和性成熟の技術で行われているような)は、多くの変異体を生じやすく、その殆どが抗原と結合し、僅かがより高い親和性である。VEGFを限定すると、希な高い親和性のファージが競合して除かれることが可能である。全てのより高い親和性の変異体を保持するため、ファージを、過剰のビオチン化VEGFとインキュベートすることが可能であるが、VEGFの標的モル濃度親和定数よりも低いモル濃度のビオチン化VEGFと共にインキュベーションできる。ついで、高親和性結合ファージをストレプトアビジンでコーティングした常磁性体ビーズによって捕獲することが可能である。そのような「平衡捕獲」は、結合の親和性に従い、親和性の低い大過剰のファージから、僅かに2倍高い親和性の変異体クローンの単離を可能にする感度で抗体を選択することを可能にする。固相と結合したファージを洗浄するのに用いる条件を操作して、解離定数に基づいて識別することも可能である。
【0243】
抗VEGFクローンは活性に基づいて選択されうる。ある実施態様では、本発明はVEGFを天然に発現する生きている細胞に結合する抗VEGF抗体を提供する。一実施態様では、本発明は、VEGFリガンドとVEGFとの結合をブロックするが、VEGFリガンドと第二タンパク質との結合をブロックしない抗VEGF抗体を提供する。このような抗VEGF抗体に対応するFvクローンは、(1)上述のようなファージライブラリーから抗VEGFクローンを単離して、場合によって、好適な細菌宿主中で集団を増殖させることによって、ファージクローンの単離した集団を増幅する;(2)ブロック活性及び非ブロック活性がそれぞれ望まれる第二タンパク質とVEGFを選択する;(3)固定されたVEGFに抗VEGFファージクローンを吸着する;(4)過剰の第二タンパク質を用いて、第二タンパク質の結合決定基と共有するかオーバーラップするVEGF−結合決定基を認識する任意の望ましくないクローンを溶出する;そして、(5)工程(4)の後に吸着されたまま残ったクローンを溶出する、ことによって、選別できる。場合によっては、所望のブロック/非ブロック特性を有するクローンを、ここに記載の選別手順を一又は複数回繰り返すことによって、更に濃縮できる。
【0244】
ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体をコードするDNA又は本発明のファージディスプレイFvクローンは、常法を用いて(例えば、ハイブリドーマの対象の領域をコードする重鎖及び軽鎖又はファージDNA鋳型を特異的に増幅するように設計したオリゴヌクレオチドプライマーを用いることにより)即座に分離されて、配列決定される。ひとたび分離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、この状況以外では抗体タンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はミエローマ細胞のような宿主細胞中に形質移入し、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体をコードするDNAの細菌での組換え発現に関する概説論文には、Skerra等, Curr. Opinion in Immunol., 5:256-262(1993)及びPluckthun, Immunol. Revs. 130: 151-188(1992)が含まれる。
【0245】
本発明のFvクローンをコードするDNAは、重鎖及び/又は軽鎖定常領域をコードする既知のDNA配列(例えば好適なDNA配列は上掲のカバット等から得ることができる)と組み合わせて、完全長ないし部分長の重鎖及び/又は軽鎖をコードするクローンを形成できる。このために、何れかのアイソタイプの定常領域、例えばIgG、IgM、IgA、IgD及びIgE定常領域を用いることができ、このような定常領域は任意のヒト又は動物種から得ることができることが理解されるであろう。ある動物(例えばヒト)種の可変ドメインDNAから得て、ついで「ハイブリッド」である完全長重鎖及び/又は軽鎖のコード配列を形成するために他の動物種の定常領域DNAに融合したFvクローンは、ここで用いられる「キメラ」及び「ハイブリッド」抗体の定義に含まれる。ある実施態様では、ヒト可変DNAから得たFvクローンをヒト定常領域DNAに融合して、完全長又は部分長のヒト重鎖及び/又は軽鎖のコード配列を形成する。
【0246】
また、本発明のハイブリドーマ由来の抗VEGF抗体をコードするDNAは、例えば、ハイブリドーマクローン由来の相同的マウス配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を置換すること(例えばMorrison等, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 81:6851(1984)の方法)によって修飾することができる。ハイブリドーマ又はFvクローン由来の抗体又は断片をコードするDNAは、免疫グロブリンコード化配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード化配列の全て又は一部を共有結合させることによってさらに修飾することができる。このようにして、本発明のFvクローン又はハイブリドーマクローン由来の抗体の結合特異性を有する「キメラ」又は「ハイブリッド」抗体が調製される。
【0247】
ベクター、宿主細胞及び組換え方法
抗体はまた組換え法を使用して生産することができる。抗VEGF抗体の組換え生産のために、抗体をコードする核酸が単離され、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター中に挿入される。抗体をコードするDNAは直ぐに単離され、常套的な手法を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドを使用することによって)配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分には、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列である。
【0248】
シグナル配列成分
本発明の抗体は直接的に組換え手法によって生産されるだけではなく、シグナル配列あるいは成熟タンパク質あるいはポリペプチドのN末端に特異的切断部位を有する他のポリペプチドである異種性ポリペプチドとの融合ペプチドとしても生産される。好ましく選択された異種シグナル配列は宿主細胞によって認識され加工される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。天然抗体シグナル配列を認識せずプロセシングしない原核生物宿主細胞に対して、シグナル配列は、例えばアルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppあるいは熱安定なエンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物シグナル配列により置換される。酵母での分泌に対して、天然シグナル配列は、例えば酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダー(酵母菌属(Saccharomyces)及びクルイベロマイシス(Kluyveromyces)α因子リーダーを含む)、又は酸ホスフォターゼリーダー、白体(C.albicans)グルコアミラーゼリーダー、又は国際公開第90/13646号に記載されているシグナルにより置換されうる。哺乳動物細胞での発現においては、哺乳動物のシグナル配列並びにウイルス分泌リーダー、例えば単純ヘルペスgDシグナルが利用できる。
【0249】
複製起点成分
発現及びクローニングベクターは共に一又は複数の選択された宿主細胞においてベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。一般に、クローニングベクターにおいて、この配列は宿主染色体DNAとは独立にベクターが複製することを可能にするものであり、複製開始点又は自律的複製配列を含む。そのような配列は多くの細菌、酵母及びウイルスに対してよく知られている。プラスミドpBR322に由来する複製開始点は大部分のグラム陰性細菌に好適であり、2μプラスミド開始点は酵母に適しており、様々なウイルス開始点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSV又はBPV)は哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般には、哺乳動物の発現ベクターには複製開始点成分は不要である(SV40開始点が典型的にはただ初期プロモーターを有しているために用いられる)。
【0250】
選択遺伝子成分
発現及びクローニングベクターは、典型的には、選択可能マーカーとも称される選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートあるいはテトラサイクリンのような抗生物質あるいは他の毒素に耐性を与え、(b)栄養要求性欠陥を補い、又は(c)例えばバシリに対する遺伝子コードD-アラニンラセマーゼのような、複合培地から得られない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。
【0251】
選択方法の一例では、宿主細胞の成長を抑止する薬物が用いられる。異種性遺伝子で首尾よく形質転換した細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を生産し、よって選択工程を生存する。このような優性選択の例は、薬剤ネオマイシン、ミコフェノール酸及びハイグロマイシンを使用する。
【0252】
哺乳動物細胞に適切な選択可能なマーカーの他の例は、抗体核酸を捕捉することのできる細胞成分を同定することを可能にするもの、例えばDHFR、グルタミンシンテターゼ(GS)、チミジンキナーゼ、メタロチオネインI及びII、好ましくは、霊長類メタロチオネイン遺伝子、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ等々である。
【0253】
例えば、DHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞は、DHFRの競合的アンタゴニストであるメトトリキセート(Mtx)を含む培地において形質転換物を培養することで同定される。これらの条件下で、DHFR遺伝子は任意の他の同時形質転換された核酸と共に増幅される。内因性DHFR活性が欠損したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)株化細胞(例えばATCC CRL−9096)を使用することができる。
【0254】
あるいは、GS遺伝子で形質転換された細胞は、GSの阻害剤であるL−メチオニンスルホキシイミン(Msx)を含む培養培地中で形質転換体を培養することによって同定される。これらの条件下で、GS遺伝子は任意の他の同時形質転換された核酸と共に増幅される。GS選択/増幅系は、上述のDHFR選択/増幅系と組み合わせて使用することができる。
【0255】
あるいは、興味ある抗体をコードするDNA配列、野生型DHFR遺伝子、及びアミノグリコシド3'-ホスホトランスフェラーゼ(APH)のような他の選択可能マーカーと共に形質転換あるいは同時形質転換した宿主細胞(特に、内在性DHFRを含む野生型宿主)は、カナマイシン、ネオマイシンあるいはG418のようなアミノグリコシド抗生物質のような選択可能マーカーの選択剤を含む培地中での細胞増殖により選択することができる。米国特許第4965199号を参照のこと。
【0256】
酵母中での使用に好適な選択遺伝子は酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb等, Nature, 282:39(1979))。trp1遺伝子は、例えば、ATCC第44076号あるいはPEP4-1のようなトリプトファン内で増殖する能力に欠ける酵母の突然変異株に対する選択マーカーを提供する。Jones, Genetics, 85:12 (1977)。酵母宿主細胞ゲノムにtrp1破壊が存在することは、ついでトリプトファンの不存在下における増殖による形質転換を検出するための有効な環境を提供する。同様に、Leu2欠陥酵母株(ATCC20622あるいは38626)は、Leu2遺伝子を有する既知のプラスミドによって補完される。
【0257】
また、1.6μmの円形プラスミドpKD1由来のベクターは、クルイヴェロマイシス(Kluyveromyces)酵母の形質転換に用いることができる。あるいは、組換え仔ウシのキモシンの大規模生産のための発現系がK.ラクティス(lactis)に対して報告されている。Van den Berg, Bio/Technology, 8:135 (1990)。クルイヴェロマイシスの工業的な菌株による、組換え体成熟ヒト血清アルブミンの分泌のための安定した複数コピー発現ベクターもまた開示されている。Fleer 等, Bio/Technology,9:968-975 (1991)。
【0258】
プロモーター成分
発現及びクローニングベクターは一般に宿主生物体によって認識され抗体核酸に作用可能に結合しているプロモーターを含む。原核生物宿主での使用に好適なプロモーターは、phoAプロモーター、βラクタマーゼ及びラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、及びハイブリッドプロモーター、例えばtacプロモーターを含む。しかし、他の既知の細菌プロモーターも好適である。細菌系で使用するプロモータもまた抗体をコードするDNAと作用可能に結合したシャイン・ダルガーノ(S.D.)配列を含むであろう。
【0259】
真核生物に対してもプロモーター配列が知られている。実質的に全ての真核生物の遺伝子が、転写開始部位からおよそ25から30塩基上流に見出されるATリッチ領域を有している。多数の遺伝子の転写開始位置から70から80塩基上流に見出される他の配列は、Nが任意のヌクレオチドであるCNCAAT領域である。大部分の真核生物遺伝子の3'末端には、コード配列の3'末端へのポリA尾部の付加に対するシグナルであるAATAAA配列がある。これらの配列は全て真核生物の発現ベクターに適切に挿入される。
【0260】
酵母宿主と共に用いて好適なプロモーター配列の例としては、3-ホスホグリセラートキナーゼ又は他の糖分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセレートムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオセリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼが含まれる。
【0261】
他の酵母プロモーターは、増殖条件によって転写が制御される付加的効果を有する誘発的プロモーターであり、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロムC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、及びマルトース及びガラクトースの利用を支配する酵素のプロモーター領域である。酵母の発現に好適に用いられるベクターとプロモータは欧州特許出願公開第73657号に更に記載されている。また酵母エンハンサーも酵母プロモーターと共に好適に用いられる。
【0262】
哺乳動物の宿主細胞におけるベクターからの抗体の転写は、例えば、ポリオーマウィルス、伝染性上皮腫ウィルス、アデノウィルス(例えばアデノウィルス2)、ウシ乳頭腫ウィルス、トリ肉腫ウィルス、サイトメガロウィルス、レトロウィルス、B型肝炎ウィルス、サルウィルス40(SV40)のようなウィルスのゲノムから得られるプロモーター、又は異種性哺乳動物プロモーター、例えばアクチンプロモーター又は免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターによって、このようなプロモーターが宿主細胞系に適合し得る限り、調節されうる。
【0263】
SV40ウィルスの初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点を更に含むSV40制限断片として簡便に得られる。ヒトサイトメガロウィルスの最初期プロモーターは、HindIIIE制限断片として簡便に得られる。ベクターとしてウシ乳頭腫ウィルスを用いて哺乳動物宿主中でDNAを発現させる系が、米国特許第4419446号に開示されている。この系の変形例は米国特許第4601978号に開示されている。また、単純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの調節下でのマウス細胞中でのヒトβインターフェロンcDNAの発現について、Reyes等, Nature, 297:598-601(1982)を参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウィルス長末端反復をプロモーターとして使用することができる。
【0264】
エンハンサーエレメント成分
より高等の真核生物によるこの発明の抗体をコードしているDNAの転写は、ベクター中にエンハンサー配列を挿入することによってしばしば増強される。哺乳動物遺伝子由来の多くのエンハンサー配列が現在知られている(グロビン、エラスターゼ、アルブミン、α-フェトプロテイン及びインスリン)。しかしながら、典型的には、真核細胞ウィルス由来のエンハンサーが用いられるであろう。例としては、複製起点の後期側のSV40エンハンサー(100−270塩基対)、サイトメガロウィルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー及びアデノウィルスエンハンサーが含まれる。真核生物プロモーターの活性化のための増強要素については、Yaniv, Nature, 297:17-18 (1982)もまた参照のこと。エンハンサーは、抗体コード配列の5'又は3'位でベクター中にスプライシングされうるが、好ましくはプロモーターから5'位に位置している。
【0265】
転写終結成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、又は他の多細胞生物由来の有核細胞)に用いられる発現ベクターは、また転写の終結及びmRNAの安定化に必要な配列を含む。このような配列は、真核生物又はウィルスのDNA又はcDNAの5'、時には3'の非翻訳領域から一般に取得できる。これらの領域は、抗体をコードしているmRNAの非翻訳部分にポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含む。一つの有用な転写終結成分はウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。国際公開第94/11026号とそこに開示された発現ベクターを参照のこと。
【0266】
宿主細胞の選択及び形質転換
ここに記載のベクター中のDNAをクローニングあるいは発現させるために適切な宿主細胞は、上述の原核生物、酵母、又は高等真核生物細胞である。この目的にとって適切な原核生物は、限定するものではないが、真正細菌、例えばグラム陰性又はグラム陽性生物体、例えばエシェリチアのような腸内菌科、例えば大腸菌、エンテロバクター、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ、例えばネズミチフス菌、セラチア属、例えばセラチア・マルセスキャンス及び赤痢菌属、並びに桿菌、例えば枯草菌及びバシリ・リチェフォルミス(licheniformis)(例えば、1989年4月12日に公開されたDD266710に開示されたバシリ・リチェニフォルミス41P)、シュードモナス属、例えば緑膿菌及びストレプトマイセス属を含む。一つの好適な大腸菌クローニング宿主は大腸菌294(ATCC31446)であるが、他の大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC31537)及び大腸菌W3110(ATCC27325)のような株も好適である。これらの例は限定するものではなく例示的なものである。
【0267】
完全長抗体、抗体融合タンパク質、及び抗体断片は、治療用の抗体が細胞傷害剤(例えば、毒素)と結合し、それ自身が腫瘍細胞の破壊において効果を示す場合など、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要ない場合に、細菌で産生させることができる。完全長抗体は、循環中でより長い半減期を有する。大腸菌での産生が、より迅速でより費用効率的である。細菌での抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5648237号(Carter等)、米国特許第5789199号(Joly等)、及び翻訳開始部位(TIR)及び発現と分泌を最適化するシグナル配列を記載している米国特許第5840523号(Simmons等)を参照のこと。また大腸菌中での抗体断片の発現について記載しているCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo編, Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 245-254を参照のこと。発現の後、抗体は、大腸菌細胞ペーストから可溶性分画へ分離し、例えば、アイソタイプに応じてプロテインA又はGカラムを介して精製することができる。最終精製は、例えば、CHO細胞で発現させた抗体を精製するための工程と同じようにして行うことができる。
【0268】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母菌のような真核微生物は、抗体をコードするベクターのための適切なクローニング又は発現宿主である。サッカロミセス・セレヴィシア、又は一般的なパン酵母は下等真核生物宿主微生物のなかで最も一般的に用いられる。しかしながら、多数の他の属、種及び菌株も、一般的に入手可能でここで使用でき、例えば、シゾサッカロマイセスポンベ;クルイベロマイセス宿主、例えばK.ラクティス、K.フラギリス(ATCC12424)、K.ブルガリカス(ATCC16045)、K.ウィッケラミイ(ATCC24178)、K.ワルチイ(ATCC56500)、K.ドロソフィラルム(ATCC36906)、K.サーモトレランス、及びK.マルキシアナス;ヤローウィア(EP402226);ピチアパストリス(EP183070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(EP244234);アカパンカビ;シュワニオマイセス、例えばシュワニオマイセスオクシデンタリス;及び糸状真菌、例えばパンカビ属、アオカビ属、トリポクラジウム、及びコウジカビ属宿主、例えば偽巣性コウジ菌及びクロカビが使用できる。治療用タンパク質の生産のための酵母及び糸状真菌の使用を検討している概説には、例えばGerngross, Nat. Biotech. 22:1409-1414 (2004)を参照のこと。
【0269】
グリコシル化経路が「ヒト化」されており、部分的又は完全なヒトグリコシル化パターンを持つ抗体の生産を生じるある種の真菌及び酵母株を選択することができる。例えば、Li等., Nat. Biotech. 24:210-215 (2006) (ピキア・パストリスにおけるグリコシル化経路のヒト化を記載);及び上掲のGerngross等を参照のこと。
【0270】
グリコシル化抗体の発現に適切な宿主細胞はまた多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)から誘導される。無脊椎動物細胞の例としては植物及び昆虫細胞が含まれる。多数のバキュロウィルス株及び変異体及び対応する許容可能な昆虫宿主細胞、例えばスポドプテラ・フルギペルダ(毛虫)、アエデス・アエジプティ(蚊)、アエデス・アルボピクトゥス(蚊)、ドゥロソフィラ・メラノガスター(ショウジョウバエ)、及びボンビクス・モリが同定されている。トランスフェクションのための種々のウィルス株、例えば、オートグラファ・カリフォルニカNPVのL-1変異体とボンビクス・モリ NPVのBm-5株が公に利用でき、そのようなウィルスは本発明においてここに記載したウィルスとして使用でき、特にスポドプテラ・フルギペルダ細胞の形質転換に使用できる。
【0271】
綿花、コーン、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマト、ウキクサ(Lemnaceae)、アルファルファ(M. truncatula)、及びタバコのような植物細胞培養を宿主として利用することもできる。例えば米国特許第5959177号、第6040498号、第6420548号、第7125978号及び第6417429号(トランスジェニック植物中で抗体を生産するためのPLANTIBODIESTMを記載)を参照のこと。
【0272】
脊椎動物細胞を宿主として使用することができ、培養(組織培養)中での脊椎動物細胞の増殖は常套的な手順になっている。有用な哺乳動物宿主株化細胞の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株 (COS-7, ATCC CRL1651);ヒト胚腎臓株(293又は懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Graham等, J. Gen Virol., 36:59 (1977));ハムスター乳児腎細胞(BHK, ATCC CCL10);マウスのセルトリ細胞(TM4, Mather, Biol. Reprod., 23:243-251 (1980));サルの腎細胞 (CV1 ATCC CCL70);アフリカミドリザルの腎細胞(VERO-76, ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞 (HELA, ATCC CCL2);イヌ腎細胞 (MDCK, ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞 (BRL3A, ATCC CRL1442);ヒト肺細胞 (W138, ATCC CCL75);ヒト肝細胞 (Hep G2, HB8065);マウス乳房腫瘍細胞 (MMT060562, ATCC CCL51);TRI細胞(Mather等, Annals N.Y. Acad. Sci., 383:44-68 (1982));MRC5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(HepG2)である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFR−CHO細胞(Urlaub等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞;及びNS0及びSp2/0のようなミエローマ細胞株が含まれる。抗体生産に適したある種の哺乳動物宿主細胞株については、例えば、Yazaki及びWu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo編, Humana Press, Totowa, NJ, 2003), pp. 255-268を参照のこと。
【0273】
宿主細胞を抗体生産のための上述の発現又はクローニングベクターで形質転換し、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅させるために適切に変性された常套的な栄養培地中で培養する。
【0274】
宿主細胞の培養
この発明の抗体を産生するために用いられる宿主細胞は種々の培地において培養することができる。市販培地の例としては、ハム(Ham)のF10(シグマ)、最小必須培地((MEM),(シグマ)、RPMI-1640(シグマ)及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM),シグマ)が宿主細胞の培養に好適である。また、Ham等, Meth. Enz. 58:44 (1979), Barnes等, Anal. Biochem. 102:255 (1980), 米国特許第4767704号;同4657866号;同4927762号;同4560655号;又は同5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許第30985号に記載された何れの培地も宿主細胞に対する培地として使用できる。これらの培地には何れもホルモン及び/又は他の増殖因子(例えばインシュリン、トランスフェリン、又は表皮成長因子)、塩類(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩)、バッファー(例えばHEPES)、ヌクレオチド(例えばアデノシン及びチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM薬)、微量元素(最終濃度がマイクロモル範囲で通常存在する無機化合物として定義される)及びグルコース又は等価なエネルギー源を必要に応じて補充することができる。任意の他の必要な補充物質もまた当業者に知られている適当な濃度で含むことができる。培養条件、例えば温度、pH等々は、発現のために選ばれた宿主細胞について過去に用いられているものであり、当業者には明らかであろう。
【0275】
抗体の精製
組換え技術を用いる場合、抗体は細胞内、細胞膜周辺腔に生産され、又は培地内に直接分泌される。抗体が細胞内に生産された場合、第1の工程として、宿主細胞か溶解された断片の何れにしても、粒子状の細片が、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。Carter等, Bio/Technology 10: 163-167 (1992)は、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌された抗体の単離方法を記載している。簡単に述べると、細胞ペーストを、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分間解凍する。細胞細片は遠心分離で除去できる。抗体が培地に分泌された場合は、そのような発現系からの上清を、一般的には先ず市販のタンパク質濃縮フィルター、例えばAmicon又はPelliconの限外濾過装置を用いて濃縮する。PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を上記の任意の工程に含めて、タンパク質分解を阻害してもよく、また抗生物質を含めて外来性の汚染物の増殖を防止してもよい。
【0276】
細胞から調製した抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製でき、アフィニティクロマトグラフィーが典型的には好ましい精製工程である。アフィニティーリガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体中に存在する免疫グロブリンFc領域の種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体の精製に用いることができる(Lindmark等, J. immunol. Meth. 62: 1-13 (1983))。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプ及びヒトγ3に推奨されている(Guss等, EMBO J. 5: 16571575 (1986))。アフィニティーリガンドが結合されるマトリクスはアガロースであることが最も多いが、他の材料も使用可能である。孔制御ガラスやポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定なマトリクスは、アガロースで達成できるものより早い流量及び短い処理時間を可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂(J.T. Baker, Phillipsburg, NJ)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンでのクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂上でのSEPHAROSETMクロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラム)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿法も、回収される抗体に応じて利用可能である。
【0277】
予備的精製工程に続いて、目的の抗体及び混入物を含む混合液に、pH約2.5−4.5、好ましくは低塩濃度(例として、約0−0.25M塩)の溶出緩衝液を用いて低pH疎水性作用クロマトグラフィーを施すことができる。
【0278】
一般に、研究、試験及び臨床に使用される抗体を調製するための様々な方法は、当該分野で十分に確立されており、上述の方法と一致し、及び/又は対象の特定の抗体に対して当業者が適切と考えるものである。
【0279】
薬学的製剤及び投薬量
抗体組成物は、良好な医療実務に合致した形で製剤され、用量決定され、投与される。この点で考慮される要因には、治療されている特定の疾患、治療されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療実務家に既知の他の要因が含まれる。投与される抗体の「治療的に有効な量」はかかる考慮によって支配され、疾病又は疾患を予防し、寛解させ、又は治療するのに必要な最少量である。抗体は、必要ではないが、場合によっては、問題の疾患を防止又は治療するために現在使用されている一又は複数の薬剤と共に製剤される。そのような他の薬剤の有効量は製剤中に存在する抗体の量、疾患又は治療のタイプ、及び上で検討した他の因子に依存する。これらは一般に又上述のものと同じ用量及び投与経路で、あるいはこれまで用いられた用量の約1ないし99%で使用される。一般に、疾患又は疾病の寛解又は治療は、疾患又は疾病と関連する一つ以上の症状又は医学的な問題を少なくすることを伴う。癌の場合、薬剤の治療上の有効量により、以下の一つ又は組合せを達成することができる:癌細胞の数を減少する;腫瘍サイズを減少する;末梢器官への癌細胞浸潤を阻害する(すなわち、ある程度減退させ及び/又は停止する);腫瘍転移を阻害する;ある程度腫瘍増殖を阻害する;及び/又は、ある程度、癌と関連する一以上の症状を取り除く。薬剤が、既存の癌細胞の成長を予防したり、及び/又は殺すのであれば、細胞増殖抑止剤及び/又は細胞障害能がありうる。ある態様では、この発明の組成物は、患者又は哺乳動物の疾患又は疾病の発症又は再発を予防するために用いることができる。
【0280】
疾患の予防又は治療のために、(単独で又は一又は複数の他の更なる治療剤と組み合わせて使用される場合の)本発明の抗体の適切な用量は、治療する疾患のタイプ、疾患の重症度及び経過、抗体を予防目的で投与するか治療目的で投与するか、以前の治療法、患者の病歴及び抗体への応答性、及び担当医師の判断に依存するであろう。抗体は一度に又は一連の治療にわたって適切に患者に投与される。
【0281】
ある実施態様では、疾患のタイプ及び重症度に応じて、約1μg/kg〜50mg/kg(例えば0.1〜20mg/kg)の抗体が、例えば一以上の分割投与又は連続注入による患者投与の初期候補用量である。他の実施態様では、約1μg/kg〜15mg/kg(例えば0.1mg/kg〜10mg/kg)の抗体が、患者投与の初期候補用量である。ある典型的な1日量は、上記の要因に応じて、約1μg/kg〜約100mg/kg以上の範囲であろう。症状に応じて、数日間以上にわたる繰り返し投与は、所望の疾患症状の抑制が得られるまで持続する。
【0282】
抗体の例示的な一投薬量は、約0.05mg/kgから約15mg/kgの範囲であろう。よって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg又は15mg/kg(又は任意のその組合せ)を患者に投与することができる。このような用量は、間欠的に、例えば毎日、3日ごと、毎週又は2週又は3週ごとに投与してもよい(例えば患者に約2から約20、例えば約6用量の抗体が投与される)。一実施態様では、約10mg/kgの用量が3日毎に投与される。初期のより高い負荷投与量の後、一以上のより低い用量を投与してもよい。一実施態様では、例示的用量療法は、約4mg/kgの初期負荷投与量の後、約2mg/kgの毎週の維持用量抗体を投与することを含む。しかしながら、他の投与計画も有用であり得る。
【0283】
ある実施態様では、ここで検討した投薬計画は、転移性結腸直腸癌を治療するための第一線療法として、化学療法投薬計画と組み合わせて使われる。ある態様では、化学療法投薬計画は、従来の高用量間欠投与が含まれる。幾つかの他の態様では、化学療法剤は、定期的に中断することなく、よりわずかでより頻繁な用量を用いて投与される(「メトロノーム的化学療法」)。
【0284】
本発明の治療法の経過は、常套的な技術及びアッセイによって容易にモニターされる。
【0285】
本発明の抗体(及び任意の更なる治療剤又はアジュバント)は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、及び鼻腔内を含む任意の適した手段によって、所望されるならば局所治療、病巣内投与のために投与することができる。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を含む。また、抗体は、特に減少用量で、抗体をパルス注入することによって好適に投与される。投薬量は、任意の適した経路、例えば投与が一時的か又は慢性かに部分的に応じて、例えば、静脈内又は皮下注射のような注射によってなされうる。
【0286】
ここでの薬学的製剤はまた治療されている特定の適応症に必要な一を越える活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を持つものを含みうる。そのような分子は、好適には、意図される目的に効果的な量で組み合わせて存在する。
【0287】
本発明の抗体を含有する薬学的製剤は、所望の純度を持つ抗体と、任意成分の生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤を混合することにより(Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20版(2000))、水溶液製剤、凍結乾燥又は他の乾燥製剤の形態に調製されて保存される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる用量と濃度でレシピエントに非毒性であり、ホスフェート、シトレート、ヒスチジン及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンズエトニウムクロリド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0288】
また活性成分は、例えばコアセルベーション技術あるいは界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ-粒子及びナノカプセル)に、あるいはマクロエマルションに捕捉させてもよい。このような技術は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20版(2000)に開示されている。
【0289】
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
【0290】
徐放性調合物を調製してもよい。徐放性調合物の好ましい例は、本発明の免疫グロブリンを含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリクスは成形物、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシブチル酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーは、分子を100日以上かけて放出することを可能にするが、ある種のヒドロゲルはタンパク質をより短い時間で放出する。カプセル化された抗体が体内に長時間残ると、37℃の水分に暴露された結果として変性又は凝集し、生物活性を喪失させ免疫原性を変化させるおそれがある。合理的な戦略を、関与するメカニズムに応じて安定化のために案出することができる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが見いだされた場合、安定化はスルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含有量を制御し、適当な添加剤を使用し、また特定のポリマーマトリクス組成物を開発することによって達成されうる。
【0291】
方法
治療方法
本発明の抗体は、例えばインビトロ、エキソビボ、及びインビボの治療方法で使用することができる。
一態様では、本発明は、有効量の抗VEGF抗体を、治療を必要とする患者に投与することを含む、腫瘍、癌、及び/又は細胞増殖性疾患(例えば、VEGFの発現及び/又は活性の増加に関連した疾患)を治療又は予防する方法を提供する。
一態様では、本発明は、腫瘍又は癌の増殖を減少させ、阻害し、ブロックし、又は予防する方法であって、有効量の抗VEGF抗体をかかる治療を必要とする患者に投与することを含む方法を提供する。
【0292】
一態様では、本発明は、有効量の抗VEGF抗体を、治療を必要とする患者に投与することを含む血管新生を阻害するための方法を提供する。
一態様では、本発明は、有効量の抗VEGF抗体を、治療を必要とする患者に投与することを含む血管透過性を阻害するための方法を提供する。
【0293】
一態様では、本発明は有効量の抗VEGF抗体を、治療を必要とする患者に投与することを含む、血管新生に関連する病理状態を治療するための方法を提供する。あす実施態様では、血管新生に関連する病理状態は、腫瘍、癌、及び/又は細胞増殖性疾患である。
【0294】
本発明の抗体は治療目的でヒトに投与することができる。一実施態様では、本発明の抗体は、VEGFの発現及び/又は活性の増加に関連した疾患に罹患している個体においてVEGFを結合させる方法に使用され、該方法は、個体中のVEGFが結合するように個体に抗体を投与することを含む。一実施態様では、VEGFはヒトVEGFであり、個体はヒト個体である。あるいは、個体は、本発明の抗体が結合するVEGFを発現する哺乳動物でありうる。また更に、個体はVEGFが導入された(例えばVEGFの投与により、又はVEGFをコードする導入遺伝子の発現により)哺乳動物でありうる。
【0295】
一態様では、本発明の抗体の少なくとも幾つかはヒト以外の種由来のVEGFに結合しうる。従って、本発明の抗体は、ヒト患者又は本発明の抗体が交差反応する抗原を有する他の哺乳動物患者(例えば、チンパンジー、ヒヒ、マーモセット、カニクイザル、及び アカゲザル、ブタ又はマウス)において、例えば抗原を含む細胞培養において特異的抗癌活性を結合させるために使用できる。一実施態様では、本発明の抗体は、抗原活性が阻害されるように抗原に抗体を接触させることによって抗原活性を阻害するために使用することができる。好ましくは、抗原はヒトタンパク質分子である。
【0296】
更に、本発明の抗体は、獣医目的又はヒト疾患の動物モデルとして、抗体が交差反応するVEGFを発現する非ヒト哺乳動物(例えば、霊長類、ブタ、ラット、又はマウス)に投与できる。後者に関して、かかる動物モデルは本発明の抗体の治療的効能(例えば、投薬量及び投与の時間過程の試験)を評価するために有用でありうる。
【0297】
本発明の抗体は、一又は複数の抗原分子の発現及び/又は活性に関連した疾病、疾患又は症状を治療し、阻害し、その進行を遅らせ、その再発を予防/遅延させ、寛解し、又は予防するために使用することができる。
【0298】
本発明は、腫瘍転移の予防及び治療及び抗血管新生癌療法、腫瘍増殖を支援するための栄養分を提供するために必要とされる腫瘍血管の発生を阻害することを狙った新規な癌治療方策を包含する。本発明は特に原発部位での腫瘍の新生物増殖の阻害、並びに続発部位での腫瘍の転移の予防及び/又は治療を含み、よって他の治療薬による腫瘍の攻撃を可能にする。治療される(予防を含む)癌の例には、限定されるものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれる。このような癌のより特定の例には、扁平細胞癌(例えば、上皮扁平細胞癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、及び肺の扁平癌腫(squamous carcinoma)を含む肺癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌、消化管間質性癌を含む胃(gastric)又は腹部(stomach)癌、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸管癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路癌、肝癌、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓(kidney)又は腎(renal)癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝臓癌及び癌腫、陰茎癌、黒色腫、表在拡大型黒色腫、悪性黒子由来黒色腫、末端黒子型黒色腫、結節性黒色腫、多発性骨髄腫及びB細胞リンパ腫(低級/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球(SL)NHL;中級/濾胞性NHL;中級びまん性NHL;高級免疫芽細胞性NHL;高級リンパ芽球性NHL;高級小非分割細胞NHL;バルキー疾患NHL;外套細胞リンパ腫;エイズ関連リンパ腫;及びワルデンストロームのマクログロブリン病を含む);慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びに母斑症に関連した異常な血管増殖、浮腫(例えば脳腫瘍に関連したもの)、メイグス症候群、脳、並びに頭頸部癌及び関連した転移が含まれる。ある実施態様では、本発明の抗体による治療に受け入れられる癌には、乳癌、結腸直腸癌、直腸癌、非小細胞癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、カルチノイド癌腫、頭頸部癌、卵巣癌、 中皮腫、及び多発性骨髄腫が含まれる。ある実施態様では、癌は小細胞肺癌、神経芽細胞腫、黒色腫、乳癌、胃癌、結腸直腸癌(CRC)、及び肝細胞癌からなる群から選択される。また、ある実施態様では、癌は、非小細胞肺癌、結腸直腸癌及び乳癌で、これら癌の転移型を含むものからなる群から選択される。
【0299】
ある実施態様では、一又は複数の細胞傷害剤とコンジュゲートされた抗体を含む免疫コンジュゲートが患者に投与される。ある実施態様では、それが結合する免疫コンジュゲート及び/又は抗原は細胞によってインターナライズされ、それが結合する標的細胞を死滅させる細胞傷害剤の治療効果を増大させる。一実施態様では、細胞傷害剤が標的細胞における核酸を標的とし又はそれに干渉する。一実施態様では、細胞傷害剤は微小管重合を標的とし又はそれに干渉する。そのような細胞傷害剤の例には、ここに記載された化学療法剤(例えばメイタンシノイド、オーリスタチン、ドラスタチン、又はカリケアマイシン)、放射性同位元素、又はリボヌクレアーゼ又はDNAエンドヌクレアーゼの何れかが含まれる。
【0300】
抗体の結合標的が脳に位置している場合、本発明のある実施態様は、血液脳関門を横切る抗体を提供する。限定するものではないが、物理的方法、脂質ベースの方法、幹細胞ベースの方法、及びレセプター及びチャンネルベースの方法を含み、血液脳関門を横切って分子を輸送するための幾つかの当該分野で知られているアプローチ法が存在する。
【0301】
血液脳関門を横切る抗体輸送の物理的方法は、限定されるものではないが、血液脳関門を完全に回避すること、又は血液脳関門に開口部をつくることを含む。回避方法は、限定されるものではないが、脳への直接の注射 (例えば、Papanastassiou等, Gene Therapy 9: 398-406 (2002)を参照)、間質注入/対流亢進デリバリー(例えば、Bobo等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 2076-2080 (1994)を参照)、及び脳内にデリバリー装置を移植すること (例えば、Gill等, Nature Med. 9: 589-595 (2003);及びGliadel WafersTM, Guildford Pharmaceuticalを参照)を含む。障壁内に開口部をつくる方法は、限定されるものではないが、超音波(例えば、米国特許出願公開第2002/0038086号を参照)、浸透圧(例えば、高張マンニトールの投与(Neuwelt, E. A., Implication of the Blood-Brain Barrier and its Manipulation, Vols 1 & 2, Plenum Press, N.Y. (1989))、例えばブラジキニン又は透過剤A−7による透過(例えば、米国特許第5112596号、第5268164号、第5506206号及び第5686416号を参照)、及び抗体をコードする遺伝子を含むベクターで血液脳関門をまたがるニューロンを形質移入すること(例えば、米国特許出願公開第2003/0083299号を参照)を含む。
【0302】
血液脳関門にわたって抗体を輸送する脂質ベースの方法は、限定されるものではないが、血液脳関門の血管内皮上のレセプターに結合する抗体結合断片にカップリングしたリポソームで抗体をカプセル化すること(例えば、米国特許出願公開第20020025313号を参照)、及び低密度リポタンパク質粒子(例えば、米国特許出願公開第20040204354号を参照)又はアポリポタンパク質E(例えば、米国特許出願公開第20040131692号を参照)での抗体の被覆を含む。
【0303】
血液脳関門にわたって抗体を輸送する幹細胞ベースの方法は、神経前駆細胞(NPC)を遺伝子操作して興味ある抗体を発現させ、ついで治療される個体の脳内に幹細胞を移植することを必要とする。(神経栄養因子GDNFを発現するように遺伝子操作されたNPCが齧歯類及び霊長類モデルの脳内に移植されるとパーキンソン病の徴候を減じたことを報告している)Behrstock等(2005) Gene Ther. 15 Dec. 2005アドバンストオンライン刊行物を参照のこと。
【0304】
血液脳関門にわたって抗体を輸送するレセプター及びチャンネルベースの方法は、限定されるものではないが、血液脳関門の透過性を増大させるためにグルココルチコイドブロッカーを使用すること(例えば、米国特許出願公開第2002/0065259号、第2003/0162695号、及び第2005/0124533号を参照);カリウムチャンネルの活性化(例えば、米国特許出願公開第2005/0089473号を参照)、ABC薬トランスポーターの阻害(例えば、米国特許出願公開第2003/0073713号を参照);抗体をトランスフェリンで被覆し、一又は複数のトランスフェリンレセプターの活性を調節すること(例えば、米国特許出願公開第2003/0129186号を参照)、及び抗体をカチオン化すること(例えば、米国特許第5004697号を参照)を含む。
【0305】
上記治療方法の何れも抗VEGF抗体の代わりに又はそれに加えて本発明の免疫コンジュゲートを使用して実施することができることが理解される。
【0306】
併用療法
本発明の抗体は単独で又は治療において他の組成物との併用で使用することができる。例えば、本発明の抗体は、他の抗体、化学療法剤(化学療法剤のカクテル剤を含む)、他の細胞傷害剤、抗血管新生剤、サイトカイン、及び/又は増殖阻害剤と同時投与されうる。本発明の抗体が腫瘍増殖を阻害する場合、腫瘍増殖をまた阻害する一又は複数の治療剤、例えば抗血管新生剤及び/又は化学療法剤とそれを組み合わせることが特に望ましい。あるいは、又は加えて、患者は併用して放射線療法(例えば外部放射線照射又は抗体のような放射性標識剤を用いた療法)を受けてもよい。上述のかかる併用療法には、併用投与(二以上の薬剤が同一又は別個の製剤中に含まれる場合)、及び本発明の抗体の投与が、補助治療の投与の前、及び/又は後に、本発明の抗体の投与がなされうる別個の投与が含まれる。
【0307】
一実施態様では、本発明の抗体は、少なくとも一種の更なる治療剤及び/又はアジュバントと同時投与されうる。例えば、抗VEGF抗体は、様々な腫瘍性又は非腫瘍性症状を治療するための抗癌治療剤又は抗血管新生治療剤との併用で使用される。一実施態様では、腫瘍性又は非腫瘍性症状は、異常な又は望まれない血管新生に関連した病理疾患によって特徴付けられる。抗VEGF抗体は、連続的に又は同じ組成物においてか又は別個の組成物として、その目的に対して効果的な他の薬剤と連続して又は併用して、投与することができる。あるいは、又は加えて、複数のVEGF阻害剤を投与することができる。
【0308】
典型的には、抗VEGF抗体及び抗癌剤は、腫瘍、癌又は細胞増殖性疾患のような病理疾患をブロックし又は減じるために同じ又は類似の疾患に適している。一実施態様では、抗癌剤は抗血管新生剤である。
【0309】
例えば「定義」として、また、例えば、Carmeliet及びJain, Nature 407:249-257 (2000);Ferrara等, Nature Reviews: Drug Discovery, 3:391-400 (2004);及びSato Int. J. Clin. Oncol., 8:200-206 (2003)により列挙されたものなど、ここに列挙されたものを含む多くの抗血管新生剤が同定されており、当該分野で知られている。また米国特許出願公開第20030055006号を参照のこと。
【0310】
一実施態様では、本発明の抗VEGFは、一又は複数の抗VEGF中和抗体(又は断片)、他のVEGFファミリー(例えば、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、胎盤増殖因子(PLGF))に対するアンタゴニスト又はVEGFレセプターアンタゴニストで、限定するものではないが可溶型VEGFレセプター(例えば、VEGFR−1、VEGFR−2、VEGFR−3、ニューロピリン(例えば、NRP1、NRP2))断片、VEGF又はVEGFRをブロック可能なアプタマー、中和抗VEGFR抗体、VEGFRチロシンキナーゼ(RTK)の低分子量阻害剤、VEGFのアンチセンス方策、VEGF又はVEGFレセプターに対するリボザイム、VEGFのアンタゴニスト変異体;及びその任意の組合せを含むものとの併用で使用される。
【0311】
他の実施態様では、本発明の抗VEGF抗体は、VEGFレセプター、FGFレセプター、EGFレセプター及びPDGFレセプターなどの一又は複数のチロシンキナーゼレセプターを標的とする小分子レセプターチロシンキナーゼ阻害剤(RTKI)と組み合わせて使用されうる。多くの治療用小分子RTKIが当該分野で知られており、限定するものではないが、バタラニブ(vatalanib)(PTK787)、エルロチニブ(erlotinib)(TARCEVA(登録商標))、OSI-7904、ZD6474(ZACTIMA(登録商標))、ZD6126(ANG453)、ZD1839、スニチニブ(sunitinib)(SUTENT(登録商標))、セマキサニブ(semaxanib)(SU5416)、AMG706、AG013736、イマチニブ(Imatinib)(GLEEVEC(登録商標))、MLN-518、CEP-701、PKC-412、ラパチニブ(Lapatinib)(GSK572016)、VELCADE(登録商標)、AZD2171、ソラフェニブ(sorafenib)(NEXAVAR(登録商標))、XL880及びCHIR-265が含まれる。
【0312】
本発明の抗体を用いた併用腫瘍治療に対して有用な他の治療剤には、EGFR、ErbB2(またHer2としても知られている)、ErbB3、ErbB4、又はTNFのような、腫瘍増殖に関与する他の因子のアンタゴニストが含まれる。
【0313】
ある実施態様では、VEGFアンタゴニスト及び他の薬剤に加えて、二以上の血管新生阻害剤が場合によっては患者に同時投与されうる。また他の実施態様では、一又は複数の更なる治療剤、例えば、抗癌剤が、本発明の抗VEGF抗体、他のVEGFファミリーに対するアンタゴニスト、及び/又は抗血管新生剤と併用されて投与されうる。
【0314】
本発明のある態様では、抗VEGF抗体での腫瘍併用治療に有用な他の治療剤は、他の癌療法(例えば、外科手術、放射線学的治療(例えば、放射性物質の照射又は投与を含む)、化学療法、ここに列挙され当該分野で知られている抗癌剤での治療、又はその組合せを含む。考えられる化学療法剤の例示的な非限定的リストは、「定義」の元でここに提供されている。
【0315】
あるいは、又は付加的に、ここに開示された同一の又は二以上の異なった抗原に結合する二以上の抗体を患者に同時投与することができる。しばしば、患者に一又は複数のサイトカインを投与することもまた有益でありうる。
【0316】
抗VEGF抗体との併用で投与される治療剤の有効量は、医師又は獣医の裁量による。投薬量の管理及び調節が、治療される症状の最大の管理を達成するためになされる。用量はまた使用される治療剤のタイプ及び治療される特定の患者のような因子に依存する。抗癌剤の適切な用量は現在使用されているものであり、抗癌剤と抗VEGF抗体の併用作用(相乗効果)のために低減させることができる。ある実施態様では、阻害剤の併用は単一の阻害剤の効能を増強する。「増強する」なる用語は、その通用の又は承認された用量での治療剤の効果の改善を意味する。またここで薬学的製剤及び投薬量と題したセクションを参照のこと。
【0317】
化学療法剤
一態様では、本発明は、有効量の抗VEGF抗体及び/又は血管新生阻害剤及び一又は複数の化学療法剤を投与することにより疾患(例えば腫瘍、癌又は細胞増殖性疾患)を治療する方法を提供する。様々な化学療法剤を本発明の併用治療法において使用することができる。考えられる化学療法剤の例示的な非限定的リストは「定義」の元でここに提供される。抗VEGF抗体及び化学療法剤の投与は、例えば単一組成物として、又は同じ又は異なった投与経路を使用して二以上の区別される組成物として、同時になすことができる。あるいは、又は加えて、投与は、任意の順序で連続的に行うことができる。あるいは、又は加えて、工程は、任意の順序での、連続的と同時の組合せで実施することができる。ある実施態様では、分から日数、週から月の範囲の間隔が、二以上の組成物の投与間に存在しうる。例えば、化学療法剤を最初に、抗VEGF抗体をその後に投与することができる。しかしながら、同時投与又は最初の抗VEGF抗体の投与もまた考えられる。従って、一態様では、本発明は、抗VEGF抗体(例えばB20−4.1.1抗体又はB20−4.1.1RR抗体)の投与の後に化学療法剤の投与を含む方法を提供する。ある実施態様では、分から日数、週から月の範囲の間隔が、二以上の組成物の投与間に存在しうる。
【0318】
当業者によって理解されるように、化学療法剤の適切な用量は、化学療法剤が単独で又は他の化学療法剤との併用で投与される臨床治療において既に用いられているものと略同量である。投薬量における変動は治療される症状に応じて生じる可能性がある。治療を管理する医師が個々の患者に対して適した用量を決定することができるであろう。
【0319】
再発腫瘍増殖
本発明はまた再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖を阻害し又は予防するための方法及び組成物を提供する。再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖は、一又は複数の現在利用可能な治療法(例えば、癌療法、例えば化学療法、放射線療法、外科手術、ホルモン療法及び/又は生物学的療法/免疫療法、抗VEGF抗体療法、特に特定の癌に対する標準的な治療計画)を受けるか又はそれで治療される患者が、患者を治療するのに臨床的に十分ではないか、又は患者が有益な効果をもはや受けずこれらの患者が更なる効果的な治療を必要とする症状を記載するために使用される。ここで使用される場合、該語句は、例えば、治療に応答するが、副作用を被る、耐性を発現する、治療に応答しない、治療には満足に応答しない等の患者を記述する「非反応性/難治性」の患者の症状をまた意味する。様々な実施態様では、癌は、癌細胞の数が有意には減少しないか、又は増加したか、又は腫瘍サイズが有意には減少しないか、又は増加し、又は癌細胞のサイズ又は数において更なる低減に失敗した再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖である。癌細胞が再発腫瘍増殖か又は再発癌細胞増殖であるかどうかの決定は、「再発」又は「難治性」又は「非反応性」の当該分野で受け入れられている意味を使用して、癌細胞についての治療効果をアッセイするための当該分野で知られている任意の方法によってインビボ又はインビトロの何れかで行うことができる。抗VEGF治療に対して耐性の腫瘍は再発腫瘍増殖の例である。
【0320】
本発明は、本発明の一又は複数の抗VEGF抗体を投与して患者においてブロックし又は減少させることにより、患者における再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖をブロックし又は減少させるために方法を提供する。ある実施態様では、抗体は癌治療に続いて投与されうる。ある実施態様では、抗VEGF抗体は癌治療と同時に投与される。あるいは、又は加えて、抗VEGF抗体療法は、他の癌療法と交互になされ、これは任意の順で実施されうる。本発明は癌になりやすい患者における癌の発症又は再発を防止するために一又は複数の阻害抗体を投与するための方法をまた包含する。一般に、患者は癌療法を同時に受けたか受けている。一実施態様では、癌療法は、抗血管新生剤、例えばVEGF−Cアンタゴニストでの治療である。抗血管新生剤には、限定されないが、当該分野で知られているものとここでの「定義」の元に見出されるものが含まれる。一実施態様では、抗血管新生剤は抗VEGF中和抗体又は断片(例えば、ヒト化A4.6.1,AVASTIN(登録商標)(Genentech, South San Francisco, CA)、Y0317、M4、G6、B20、2C3等)である。例えば、米国特許第6582959号、第6884879号、第6703020号;国際公開第98/45332号;国際公開第96/30046号;国際公開第94/10202号;欧州特許第0666868B1号;米国特許出願公開第20030206899号、第20030190317号、第20030203409号、及び第20050112126号;Popkov等, Journal of Immunological Methods 288:149-164 (2004);及び国際公開第2005012359号を参照のこと。更なる薬剤は、再発腫瘍増殖又は再発癌細胞増殖をブロックし又は減少させるために更なる薬剤を抗VEGF抗体との併用で投与することができ、例えば、ここで併用療法と題された項を参照のこと。
【0321】
診断方法及び検出方法
一態様では、本発明はVEGFの発現増加に関係した疾患を診断する方法を提供する。ある実施態様では、該方法は、試験細胞を抗VEGF抗体に接触させ; VEGFに対する抗VEGF抗体の結合を検出することによって試験細胞によるVEGFの発現レベルを決定(定量的にか定性的に)し;試験細胞によるVEGFの発現レベルをコントロール細胞(例えば、試験細胞と同じ組織由来の正常細胞又はそのような正常細胞に匹敵するレベルでVEGFを発現する細胞)によるVEGFの発現レベルと比較することを含み、コントロール細胞と比較した試験細胞によるVEGFのより高い発現レベルがVEGFの発現増加に関係した疾患の存在を示している。ある実施態様では、試験細胞は、VEGFの発現増加に関係した疾患を有することが疑われる個体から得られる。ある実施態様では、疾患は腫瘍、癌、及び/又は細胞増殖性疾患である。
【0322】
本発明の抗体を使用して診断されうる例示的な疾患は、限定されるものではないが、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃癌、胃腸癌、消化管間質性癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、結腸癌、直腸結腸癌、子宮内膜又は子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓又は腎癌、肝臓癌、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、肝癌腫及び様々なタイプの頭頸部癌、黒色腫、表在拡大型黒色腫、悪性黒子由来黒色腫、末端黒子型黒色腫、結節性黒色腫、B細胞リンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、母斑症に関連した異常な血管増殖、脳腫瘍に関連した浮腫、又はメイグス症候群が含まれる。
【0323】
他の態様では、本発明はここに記載の抗VEGF抗体の何れかとVEGFの複合体を提供する。ある実施態様では、複合体はインビボ又はインビトロである。ある実施態様では、複合体は癌細胞を含む。
【0324】
他の態様では、本発明は生物学的試料中においてVEGFの存在を検出する方法を提供する。ここで使用される「検出する」なる用語は定量的又は定性的検出を包含する。
【0325】
ある実施態様では、該方法は、生物学的試料を抗VEGF抗体に、VEGFへの抗VEGF抗体の結合を許容する条件下で接触させ、抗VEGF抗体とVEGFとの間に複合体が形成されるかどうかを検出することを含む。
【0326】
抗VEGF抗体は、多くの良く知られた検出アッセイ法の何れか一において、VEGFの検出に利用することができる。例えば、所望する起源から試料を得て、抗体が混合物に存在する任意のVEGFと抗体/VEGF複合体を形成するように試料を抗VEGF抗体と混合し、混合物に存在する任意の抗体/VEGF複合体を検出することによって、VEGFに関して生物学的試料をアッセイすることができる。特定の試料に適した当該分野で知られた方法によって、アッセイのために生物学的試料を調製することができる。用いられるアッセイの型によって、抗体と試料を混合させる方法、及び抗体/VEGF複合体を検出する方法を選択する。
【0327】
VEGFについての分析法では、全て、次の試薬の一又は複数を使用する:標識VEGFアナログ、固定化VEGFアナログ、標識抗VEGF抗体、固定化抗VEGF抗体及び/又は立体コンジュゲート。標識試薬は「トレーサー」としても知られている。
【0328】
ある実施態様では、抗VEGF抗体は検出可能に標識される。利用される標識は、VEGFと抗VEGF抗体の結合を妨害しない任意の検出可能な官能性である。標識には、限定されるものではないが、直接検出される標識又は部分(例えば蛍光色素、発色団、電子密度、化学発光剤、及び放射性標識)、並びに例えば酵素反応又は分子相互作用を通して間接的に検出される酵素又はリガンドのような部分が含まれる。標識の例には、限定されるものではないが、放射性同位体32P、14C、125I、3H、及び131I、フルオロフォア、例えば希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシェフェラーゼ、例えばホタルルシェフェラーゼ及び細菌ルシェフェラーゼ(米国特許第4737456号)、ルシェフェリン、2,3−ジヒドロフタルジネジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘテロサイクリックオキシダーゼ、例えばウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼであり、色素前駆体、例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定なフリーラジカルなどを酸化する過酸化水素を利用する酵素とカップリングさせたものを含む。
【0329】
これら標識を共有的にタンパク質又はポリペプチドと結合させるために、常套的方法が利用可能である。例えば、カップリング剤、例えばジアルデヒド、カルボジイミド、ジマレイミド、ビス-イミデート、ビス-ジアゾ化ベンジジン等が、上記の蛍光剤、化学発光剤、及び酵素標識で抗体をタグ化するのに利用することが可能である。例えば、米国特許第3940475号(蛍光定量)及び第3645090号(酵素);Hunter等, Nature, 144: 945(1962); David等, Biochemistry, 13: 1014-1021(1974);Pain等, J. Immunol. Methods, 40: 219-230(1981);及びNygren, J. Histochem. and Cytochem., 30: 407-412(1982)を参照のこと。ここでの好ましい標識は、西洋ワサビペルオキシダーゼ及びアルカリフォスファターゼ等の酵素である。抗体への酵素を含むそのような標識のコンジュゲーションは、免疫アッセイ技術において当業者に標準的な操作法である。例えば、O'Sullivan等, "Methods for Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for Use in Enzyme Immunoassay," Methods in Enzymology, J. J. Langone及びH. Van Vunakis編, 73巻(Academic Press, ニューヨーク, ニューヨーク, 1981), 147-166頁を参照のこと。
【0330】
ある実施態様では、抗体は不溶性基質に固定される。固定化は、溶液で遊離に存在するあらゆるVEGFから抗VEGF抗体を分離することを伴う。これは、常套的には、水不溶性基質又は表面への吸着による(Bennich等, 米国特許第3720760号)か、又は共有結合により(例えば、グルタルアルデヒド架橋を利用して)アッセイ手順前に抗VEGF抗体を不溶化するか、あるいは例えば免疫沈降による抗VEGF抗体とVEGFの間の複合体の形成後に抗VEGF抗体を不溶化することによって、達成される。
【0331】
VEGFへの抗VEGF抗体の結合を検出するため使用されるアッセイには、限定するものではないが、当該分野でよく知られている抗原結合アッセイ、例えばウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、競合及び「サンドウイッチ」アッセイ、免疫沈降アッセイ、蛍光免疫アッセイ、プロテインA免疫アッセイ、免疫組織化学(IHC)及び立体阻害アッセイが含まれる。
【0332】
一実施態様では、試料におけるタンパク質の発現は、免疫組織化学及び染色プロトコールを用いて試験しうる。組織切片の免疫組織化学染色は、試料中のタンパク質の存在を評価ないしは検出するための確実な方法であることが示されている。免疫組織学法(「IHC」)技術は、抗体を用いて、一般的には発色性又は蛍光性方法によって、インサイツで細胞性抗原を探索して視覚化する。試料の調製では、哺乳動物(典型的にはヒト患者)の組織又は細胞試料を用いることができる。試料の例として、大腸、乳房、前立腺、卵巣、肺、胃、膵臓、リンパ系及び白血球などの癌細胞が含まれるが、これらに限定するものではない。該試料は、限定するものではないが、外科的切除、吸引又は生検を含む当該分野で知られている様々な手順によって得ることができる。組織は新鮮なものでも凍結したものでもよい。一実施態様では、試料は固定され、パラフィンなどに包埋される。組織試料は常套的な方法によって固定(すなわち保存)されうる。当業者であれば、組織学的染色ないしは他の分析に供する試料の目的に応じて固定液の選択をなすことは分かるであろう。また、当業者であれば、組織試料の大きさ及び用いる固定液に応じて固定の長さを決定することも理解するであろう。
【0333】
IHCは、形態学的染色及び/又は蛍光発光インサイツハイブリダイゼーションなどの付加的な技術と組み合わせて実施されうる。IHCの直接アッセイ及び間接アッセイの2つの一般的な方法が利用できる。第一のアッセイでは、標的抗原(例えばVEGF)に対する抗体の結合は、直接的に測定される。この直接アッセイは、更なる抗体相互作用を必要とせずに可視化されうる蛍光タグ又は酵素標識一次抗体などの標識された試薬を用いる。典型的な間接アッセイでは、コンジュゲートしていない一次抗体が抗原と結合し、ついで標識された二次抗体が一次抗体と結合する。二次抗体が酵素標識にコンジュゲートされる場合、抗原を視覚化させるために発色性又は蛍光発生基質が加えられる。二次抗体の中には一次抗体上の異なるエピトープと反応するものもあるので、シグナルの増幅が起こる。典型的には、免疫組織化学に使用する一次及び/又は二次抗体は、検出可能な部分で標識される。
【0334】
上で検討した試料調製手順以外に、IHC前、IHCの間又はIHC後に組織切片の更なる処置が所望されうる。例えば、クエン酸塩バッファー中で組織サンプルを加熱するなどのエピトープ検索方法が実施されうる(例として、Leong 等 Appl. Immunohistochem. 4(3): 201 (1996)を参照)。
【0335】
場合によって行うブロック処置の後に、一次抗体が組織試料中の標的タンパク質抗原と結合するような好適な条件下と十分な時間、組織切片を一次抗体に曝露させる。これを達成するための好適な条件は常套的な実験によって決定できる。試料に対する抗体の結合の度合いは、上で検討した検出可能な標識の何れか一つを用いて決定される。好ましくは、標識は、3,3’−ジアミノベンジジンクロモゲンなどの発色性基質の化学変化を触媒する酵素標識(例えばHRPO)である。好ましくは、酵素標識は、一次抗体に特異的に結合する抗体にコンジュゲートさせる(例えば、一次抗体はウサギポリクローナル抗体であり、二次抗体はヤギ抗ウサギ抗体である)。
【0336】
このようにして調製される検査材料をマウントし、カバーグラスをかけてもよい。その後、例えば顕微鏡を使用してスライドの評価を行い、当該分野で常套的に使用されている染色強度判定基準を用いることができる。染色強度判定基準は以下の通りに評価されうる:
【0337】
【0338】
典型的には、IHCアッセイの約2+以上の染色パターンスコアは診断及び/又は予後を予測するものである。ある実施態様では、約1+以上の染色パターンスコアは診断及び/又は予後を予測するものである。他の実施態様では、約3以上の染色パターンスコアは診断及び/又は予後を予測するものである。腫瘍又は結腸腺腫の細胞及び/又は組織をIHCを用いて試験する場合、一般的に、染色は(試料中に存在しうる間質性又は周辺組織とは対照的に)腫瘍細胞及び/又は組織内で決定され又は評価されることが理解される。
【0339】
競合アッセイ又はサンドイッチアッセイとして知られている他のアッセイ方法も十分に確立されており、市販の診断法産業において広く使われている。
【0340】
競合アッセイは、限られた数の抗VEGF抗体抗原結合部位について試験試料VEGFと競合するトレーサーVEGF類似体の能力に依存する。一般的に、抗VEGF抗体は、競合の前又は競合の後に不溶化し、ついで抗VEGF抗体に結合したトレーサーとVEGFを結合していないトレーサーとVEGFから分離する。この分離は、デカント(結合パートナーが予め不溶化された場合)か、又は遠心分離する(結合パートナーが競合反応の後で沈殿した場合)ことにより達成される。試験試料VEGFの量は、マーカー物質の量で測定される結合トレーサーの量に反比例する。VEGFの既知量による用量反応曲線を作成して、試験結果と比較して、試験試料に存在するVEGFの量を定量的に決定する。検出可能なマーカーとして酵素が用いられる場合、これらのアッセイはELISA系と呼ばれる。
【0341】
「均質な」アッセイと呼ばれる競合アッセイの他の種類は、相分離を必要としない。ここで、VEGFと酵素とのコンジュゲートが調製され、抗VEGF抗体がVEGFに結合する場合に抗VEGF抗体の存在により酵素活性が修飾されるように用いられる。この場合、VEGF又はその免疫学的に活性な断片が、二官能性有機架橋によって、ペルオキシダーゼなどの酵素にコンジュゲートされる。抗VEGF抗体の結合が標識の酵素活性を阻害するか又は強化するために、抗VEGF抗体との使用のためにコンジュゲートが選別される。この方法自体は、EMITという名前で広く実施されている。
【0342】
立体的コンジュゲートは、均質なアッセイの立体障害方法で用いられる。ハプテンに対する抗体は抗VEGF抗体と同時にコンジュゲートを結合することが実質的にできないので、これらのコンジュゲートは低分子量のハプテンを小さいVEGF断片に共有的に結合させることにより合成される。このアッセイ手順で、試験試料に存在するVEGFが抗VEGF抗体を結合し、それによって、抗ハプテンがコンジュゲートを結合でき、その結果、コンジュゲートハプテンの性質の変化、例えばハプテンが蛍光体である場合の蛍光の変化が生じる。
【0343】
サンドイッチアッセイは、VEGF又は抗VEGF抗体の測定のために特に有用である。一連のサンドイッチアッセイでは、固定された抗VEGF抗体を用いて、試験試料VEGFを吸着し、洗浄によって試験試料を除去し、結合したVEGFを用いて第二の標識した抗VEGF抗体を吸着して、結合した材料をついで残留するトレーサーから分離する。結合したトレーサーの量は、試験試料VEGFに正比例する。「同時の」サンドイッチアッセイでは、試験試料は、標識した抗VEGFを加える前には分離されない。一抗体として抗VEGFモノクローナル抗体を、他方の抗体としてポリクローナル抗VEGF抗体を用いる一連のサンドイッチアッセイは、試料をVEGFについて試験する際に有用である。
【0344】
前記のものはVEGFのための単に例示的な検出アッセイである。VEGFの決定のために抗VEGF抗体を使用する現在又はこれから開発される他の方法もこの範囲内に含められる。
【0345】
診断又は検出の上記実施態様の何れかは、抗VEGF抗体の代わりに又はそれに加えて本発明の免疫コンジュゲートを使用して実施することができる。
【0346】
製造品
本発明の他の態様では、上述の疾患の治療、予防及び/又は診断に有用な物質を含む製造品が提供される。該製造品は容器と該容器の又は該容器に付随するラベル又はパッケージ挿入物を具備する。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジ等々が含まれる。容器は、様々な材料、例えばガラス又はプラスチックから形成されうる。容器は、それのみによって又は他の組成物と組み合わせて症状を治療、予防及び/又は診断するのに有効な組成物を収容し、滅菌アクセスポートを有しうる(例えば、容器は皮下注射針が貫通可能なストッパーを有するバイアル又は静脈内投与溶液バッグでありうる)。組成物中の少なくとも一つの活性剤は本発明の抗体又は免疫コンジュゲートである。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が選択した症状の治療に使用されることを示す。更に、製造品は、(a)組成物を中に収容し、その組成物が本発明の抗体又は免疫コンジュゲートを含む第一の容器と;(b)組成物を中に収容し、その組成物が更なる細胞傷害剤又は他の治療剤を含む第二の容器とを含みうる。本発明のこの実施態様における製造品は、組成物を特定の症状の治療に使用することができることを示しているパッケージ挿入物を更に含む。あるいは、もしくは付加的に、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びデキストロース溶液を含む第二の(又は第三の)容器を更に具備してもよい。更に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジを含む、商業上及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
【0347】
次の実施例は本発明の実施を単に例証するためのものであり限定するものではない。ここで引用される全ての特許及び科学文献の開示はその全体が出典明示により明示的にここに援用される。
【実施例】
【0348】
実施例1
抗VEGF抗体の生産と特徴付け
合成ファージ抗体ライブラリーを、重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)内に多様性を導入することにより(Lee, C. V.等 J Mol Biol 340, 1073-93 (2004))単一フレームワーク(ヒト化抗ErbB2抗体,4D5)に構築した。簡単に言うと、ファージディスプレイ合成抗体ライブラリーを、重鎖相補性決定領域(CDR)内の溶媒暴露位置に合成多様性を導入することによって単一ヒトフレームワークに構築した。ライブラリー性能を改善するために、一価及び二価抗原結合断片(Fab)ライブラリーを構築し、アミノ酸組成及びCDR長を変化させることによって異なったCDR−H3多様性を探索した。ついで、ライブラリーを、CDR−H3長の変動性を増大させ、天然のCDR−H3 配列のアミノ酸組成を模倣したオーダーメイドのコドンを使用して拡張した。単一のスキャフォールドにディスプレイした完全に合成のCDRを持つこれらライブラリーを使用して、高親和性抗体を産生した。単一の鋳型を持つ合成抗体を生産するための方策及び方法の更なる詳細については、その全体の開示を出典明示によりここに明示的に援用する2005年2月10日に公開された国際公開第2005/012359号を参照のこと。
【0349】
ナイーブライブラリーを持つ溶液相パンニングを溶液中のビオチン化マウスVEGFに対して実施し、ついでMaxiSorpTMイムノプレートに固定した5ug/mlのニュートラアビジンによって捕捉した。ビオチン化マウスVEGFの減少濃度での3回の選択後、クローンを無作為に拾い、特異的バインダーを、ファージELISAを使用して同定した。各陽性ファージクローンに対して、重鎖及び軽鎖の可変領域を、完全長IgG鎖を発現するように操作されたpRK発現ベクター中にサブクローン化した。重鎖及び軽鎖コンストラクトを293又はCHO細胞中に同時形質移入し、発現された抗体を、プロテインAアフィニティカラムを使用して無血清培地から精製した。親和性成熟のためには、興味ある初期クローンから誘導されたCDRループの異なった組合せ(CDR−H1及びH2、CDR−L1、L2及びL3)を持つファージライブラリーを、ソフトな無作為化方策によって構築し、各々選択された位置を非野生型残基に変異させ、又は約50:50の頻度で野生型として維持した。ついで、高親和性クローンを、記載されたようにビオチン化ヒトVEGFに対する4回の溶液相パンニングを通じて同定した。減少したビオチン化抗原濃度はパンニングにおけるより高いストリンジェンシーを可能にした。
【0350】
実施例2
抗VEGF抗体結合親和性
抗VEGF IgGの結合親和性を決定するために、BIAcoreTM−3000機器を用いた表面プラズモン共鳴(SRP)測定を使用した。カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)を、供給者の指示に従って、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化した。ヒト又はマウスVEGFを固定して、およそ60反応単位(RU)の結合タンパク質を達成した。図10を参照のこと。動態測定では、2倍連続希釈の抗VEGF IgG(7.8nMから500nM)を、25ml/分の流量で37℃にてPBTバッファー(0.05%(v/v)のTween20を含むPBS)中で別個に注射した。会合速度(kon)及び解離速度(koff)を、二価結合モデル(BIAcore評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して計算した。平衡解離定数(KD)を比koff/konとして計算した。
【0351】
B20.4.1の測定できない解離速度のため、IgGsを固定化しておよそ1000反応単位(RU)の結合タンパク質を達成した。図11を参照のこと。2倍連続希釈のヒト又はマウスVEGF(7.8nMから500nM)を、25ml/分の流量で37℃にてPBTバッファー(0.05%(v/v)のTween20を含むPBS)中で注射した。会合速度(kon)及び解離速度(koff)を、単純なものから一つのラングミュア結合モデル(BIAcore評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して計算し、平衡解離定数(KD)を得た。
【0352】
実施例3
HUVECチミジン取り込みアッセイ
VEGF誘導細胞増殖を阻害することにより抗VEGF抗体の機能を研究するために、HUVECチミジン取り込みアッセイを実施した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC) (Clontech, Mountain View, CA)を、記載されているようにして増殖させ、アッセイした。およそ3000のHUVECを、96ウェル細胞培養プレートの各ウェルに播種し、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)/1.5%(v/v)仔ウシ血清を補填したF12培地(アッセイ培地)中で18時間インキュベートした。固定量のヒトVEGF(0.1nMの最終濃度)を含む新鮮なアッセイ培地を、準最大のDNA合成を刺激することができるVEGFを最初に用量決定することによって決定し、増加濃度の抗VEGF IgGをついで細胞に加えた。37℃で18時間のインキュベーション後、細胞を0.5mCi/ウェルの[3H]チミジンで24時間パルス処理し、収集し、記載されたようにTopCount Microplate シンチレーションカウンターを用いて計数した。
HUVECチミジン取り込みアッセイは、B20変異体が効果的にHUVEC細胞増殖を阻害できることを示している。図12は、B20−4.1.1及びB20−4.1.1RRがG6−31と同様の阻害性を有していることを示している。
【0353】
実施例4
内皮細胞細胞増殖アッセイ
B20−4.1.1の結合特異性及びブロック活性を決定するために、ウシ網膜微小血管内皮細胞(BRME)を使用する細胞ベースアッセイを実施し、ここで、抗体を、ヒト又はマウスVEGF誘導細胞増殖をブロックするその能力について試験した。増殖培地(10%のウシ血清、2mMのグルタミン、及び抗生物質を補填した低グルコースDMEM)中の96ウェルプレートに500細胞/ウェルの密度でBRMEを播種した。阻害アッセイに対しては、B20−4.1.1を三通りのウェルに示された濃度(ng/ml)で加えた(図13)。0.5時間後、ヒトVEGF−A(hVEGF)又はマウスVEGF−A(mVEGF)を最終濃度6ng/mlまで加えた。6から7日後に、細胞増殖をアラマーブルー(BioSource; Invitrogen)によって決定した。蛍光は530nmの励起波長及び590nmの発光波長でモニターした。
図13に示されるように、B20−4.1.1はhVEGF及びmVEGF双方のBRME増殖を促進する能力を減少させた。図16に示されるように、アバスチン抗体はBRME増殖を促進するhVEGFの能力を減少させた。1500nMまでのアバスチン抗体濃度でmVEGFの阻害が観察されなかったので、アバスチン抗体は、mVEGF誘導増殖を阻害しなかった。
【0354】
実施例5
腫瘍阻害インビボ実験
A549細胞(ヒト肺癌細胞)及びMDA−MB231細胞 (ヒト乳癌細胞)を細胞培養で増殖させ、〜5×106細胞/マウスの細胞密度で8から12週齢のベージュのヌードマウスに皮下注射した。腫瘍細胞接種の48時間後、又は腫瘍がおよそ200mm3のサイズに達したときに、マウス(n=10)に5mg/kgの濃度のB20−4.1.1又はビヒクルバッファーを腹腔内注射した。その後、抗体を毎週2回投与した。示された時点で腫瘍体積をノギスで測定した。
図14及び15に示されるように、B20−4.1.1は、A549細胞(図14)又はMDA−MB231細胞(図15)の何れかが注射されたマウスの腫瘍体積を効果的に減少させた。
【0355】
上記明細書において、本発明は所定の実施態様を参照して説明したが、それに限定されるものではない。確かに、ここに示され記載されたものに加えて本発明の様々な変更が上記明細書から当業者には明らかであり、添付の特許請求の範囲に入るであろう。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]