(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の注射針組立体及び薬剤注射装置の実施形態例について、
図1〜
図5を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態例
1−1.注射針組立体及び薬剤注射装置の構成例
1−2.注射針組立体及び薬剤注射装置の使用方法
2.第2の実施の形態例
【0013】
<1.第1の実施の形態例>
1−1.注射針組立体及び薬剤注射装置の構成例
[薬剤注射装置]
まず、
図1及び
図2を参照して本発明の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる注射針組立体及び薬剤注射装置について説明する。
図1は本例の薬剤注射装置を示す側面図、
図2は本例の薬剤注射装置を示す分解図である。
【0014】
図1に示すように、薬剤注射装置1は、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入するために用いる。この薬剤注射装置1は、注射針組立体2と、この注射針組立体2が着脱可能に接続されるシリンジ3から構成されている。
【0015】
ここで、皮膚は、表皮と、真皮と、皮下組織の3部分から構成される。表皮は、皮膚表面から50〜200μm程度の層であり、真皮は、表皮から続く1.5〜3.5mm程度の層である。インフルエンザワクチンは、一般的に皮下投与もしくは筋肉内投与であるため、皮膚の下層部もしくはそれよりも深い部分に投与されている。
【0016】
一方、免疫担当細胞が多く存在する皮膚上層部を標的部位として、インフルエンザワクチンを投与することにより、ワクチンの投与量を減少させることが検討されている。なお、皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮と真皮を指す。
【0017】
図2に示すように、注射針組立体2は、針孔を有する中空の針管5と、針管5が固定される針ハブ6と、針ハブ6内に配置される弾性部材7とを備えている。また、針ハブ6は、針管5を保持する保持部である第1部材11と、シリンジ3が接続されるコネクタ部である第2部材12と、からなっている。
【0018】
次に、薬剤注射装置1の上述した各構成部品について、
図3を参照して説明する。
図3は、本例の薬剤注射装置1を示す断面図である。
【0019】
[注射針組立体]
注射針組立体2の針管5は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で22〜33ゲージのサイズ(外径0.2〜0.7mm)のものが使用できる。なお、皮膚上層部への投与に用いる場合には、26〜33ゲージのものを使用することができ、好ましくは30〜33ゲージのものが使用できる。
【0020】
針管5の一端には、刃面5aを有する針先5Aが設けられている。この針先5Aとは反対側である針管5の軸方向の他端は、以下、基端5Bという。刃面5aにおける針管5の軸方向の長さ(以下、「ベベル長B」という。)は、後述する皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、また、33ゲージの針管に短ベベルを形成したときのベベル長である約0.5mm以上であればよい。つまり、ベベル長Bは、0.5〜1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0021】
さらに、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下、すなわち、ベベル長Bが0.5〜0.9mmの範囲であればなおよい。なお、短ベベルとは、注射用針に一般的に用いられる、針の長手方向に対して18〜25°をなす刃面を指す。また、針管5の針先5Aの表面には、例えばシリコーン樹脂やフッ素系樹脂等からなるコーティング剤が施されるのが好ましい。これにより、針管5を生体に穿刺した際に、皮膚と針管との摩擦を低減することができ、穿刺時に伴う痛みを軽減させることが可能となる。
【0022】
針管5の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管5は、ストレート針だけでなく、少なくとも一部がテーパー構造となっているテーパー針を適用することができる。テーパー針としては、針先端部に比べて基端部が大きい径を有しており、その中間部分をテーパー構造とすればよい。また、針管5の断面形状は、円形だけでなく、三角形等の多角形であってもよい。そして、この針管5は、針ハブ6に固定されている。
【0023】
[針ハブ]
次に、針ハブ6について説明する。
針ハブ6の第1部材11と第2部材12は、別部材として形成されているが、一体に形成することもできる。これら第1部材11及び第2部材12の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0024】
第1部材11は、には、皮膚と対向及び/又は接触する皮膚接触部25が設けられている。皮膚接触部25は、第1部材11に針管5を取り付けた際に、針管5の周囲を覆うように配置される。この皮膚接触部25は、略円柱状のベース部15と、調整部16と、安定部17と、ガイド部18を有する。なお、ベース部15の軸方向の一側と調整部16が本発明の先端部を構成している。
【0025】
ベース部15は、軸方向に垂直な端面15a,15bを有している。調整部16は、ベース部15の軸方向の一端側の端面15aの中央部に設けられており、ベース部15の軸方向に突出する円柱状の凸部からなっている。この調整部16の軸心は、ベース部15の軸心と一致している。
【0026】
ベース部15及び調整部16の軸心には、針管5が貫通する貫通孔21が設けられている。そして、ベース部15には、貫通孔21に接着剤20(
図3参照)を注入するための注入穴22(
図2参照)が設けられている。この注入穴22は、ベース部15の外周面に開口されており、貫通孔21と略直交するようにして貫通孔21に連通している。すなわち、注入穴22から貫通孔21へ注入される接着剤20によって、針管5がベース部15に固着される。
【0027】
針管5の基端5B側は、ベース部15の軸方向の他端である端面15bから突出している。ベース部15は、端面15b側から第2部材12内に挿入され、針管5の基端5B側が弾性部材7の後述する挿通孔45に挿通される。そして、ベース部15の端面15bが弾性部材7の後述する端面41aに当接される。
【0028】
また、ベース部15の外周面には、接続片24が設けられている。この接続片24は、ベース部15の半径方向の外側に向けて突出するリング状のフランジとして形成されており、ベース部15の軸方向に対向する平面24a,24bを有している。接続片24の平面24bには、第2部材12が接続される。また、接続片24の先端部は、ガイド部18になっている。このガイド部18については、後で詳しく説明する。
【0029】
調整部16の端面は、針管5の針先5A側が突出する針突出面16aになっている。針突出面16aは、針管5の軸方向に直交する平面として形成されている。この針突出面16aは、針管5を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管5を穿刺する深さを規定する。つまり、針管5が皮膚上層部に穿刺される深さは、針突出面16aから突出する針管5の長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される。
【0030】
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5〜3.0mmの範囲内にある。そのため、針管5の突出長Lは、0.5〜3.0mmの範囲に設定することができる。
【0031】
ところで、ワクチンは一般的に上腕部に投与されるが、皮膚上層部への投与を考えた場合は皮膚が厚い肩周辺部、特に三角筋部がふさわしいと考えられる。そこで、小児19人と大人31人について、三角筋の皮膚上層部の厚みを測定した。この測定は、超音波測定装置(NP60R−UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影することで行った。なお、測定値が対数正規分布となっていたため、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。
【0032】
その結果、小児の三角筋における皮膚上層部の厚みは、0.9〜1.6mmであった。また、成人の三角筋における皮膚上層部の厚みは、遠位部で1.4〜2.6mm、中央部で1.4〜2.5mm、近位部で1.5〜2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。したがって、三角筋の皮膚上層部における注射において、針管5の突出長Lは、0.9〜1.4mmの範囲に設定することが好ましい。
【0033】
突出長Lをこのように設定することで、針先5Aの刃面5aを皮膚上層部に確実に位置させることが可能となる。その結果、刃面5aに開口する針孔(薬液排出口)は、刃面5a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に位置することが可能である。なお、薬液排出口が皮膚上層部に位置しても、針先5Aが皮膚上層部に深く刺されば、針先5A端部の側面と切開された皮膚との間から薬液が皮下に流れてしまうため、刃面5aが確実に皮膚上層部にあることが重要である。
【0034】
なお、皮膚上層部への投与に用いる場合には、26ゲージよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、針管5の突出長Lを好ましい範囲(0.9〜1.4mm)に設定するには、26ゲージよりも細い針管を使用することが好ましい。
【0035】
針突出面16aは、周縁から針管5の周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3〜1.4mmの範囲で形成する。この針突出面16aの周縁から針管5の周面までの距離Sは、皮膚上層部へ薬剤を投与することで形成される水疱に圧力が加わることを考慮して設定している。つまり、針突出面16aは、皮膚上層部に形成される水疱よりも十分に小さく、水疱の形成を妨げない大きさに設定している。その結果、針突出面16aが針管5の周囲の皮膚を押圧して、投与された薬剤が漏れるということを防止することができる。
【0036】
安定部17は、ベース部15に設けた接続片24の平面24aから突出する筒状に形成されている。安定部17の筒孔には、針管5及び調整部16が配置されている。つまり、安定部17は、針管5が貫通する調整部16の周囲を覆う筒状に形成されており、針管5の針先5Aから半径方向に離間して設けられている。
【0037】
図3に示すように、安定部17の端面17aは、調整部16の針突出面16aよりも針管5の基端5B側に位置している。針管5の針先5Aを生体に穿刺すると、まず、針突出面16aが皮膚の表面に接触し、その後、安定部17の端面17aに接触する。このとき、安定部17の端面17aが皮膚に接触することで薬剤注射装置1が安定し、針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。
【0038】
なお、安定部17の端面17aは、針突出面16aと同一平面上に位置させたり、また、針突出面16aよりも針管5の針先5A側に位置させたりしても、針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。なお、安定部17を皮膚に押し付けた際の皮膚の盛り上がりを考慮すると、安定部17の端面17aと針突出面16aにおける軸方向の距離は、1.3mm以下に設定することが好ましい。
【0039】
また、安定部17の内径dは、皮膚に形成される水疱の直径と同等であるか、それよりも大きい値に設定されている。具体的には、安定部17の内壁面から針突出面16aの周縁までの距離Tが4mm〜15mmの範囲となるように設定されている。これにより、安定部17の内壁面から水疱に圧力が印加されことによって水疱形成が阻害されることを防止することができる。
【0040】
安定部17の内壁面から調整部16の外周面までの最短距離Tは、4mm以上であれば、特に上限はない。しかしながら、距離Tを大きくすると、安定部17の外径が大きくなるため、小児のように細い腕に針管5を穿刺する場合に、安定部17の端面17a全体を皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、距離Tは、小児の腕の細さを考慮して15mmを最大と規定することが好ましい。
【0041】
また、針突出面16aの周縁から針管5の周面までの距離Sが0.3mm以上であれば、調整部16が皮膚に進入することはない。したがって、安定部17の内壁面から針突出面16aの周縁までの距離T(4mm以上)及び針突出面16aの直径(約0.3mm)を考慮すると、安定部17の内径dは9mm以上に設定することができる。
【0042】
なお、安定部17の形状は、円筒状に限定されるものではなく、例えば、中心に筒孔を有する四角柱や六角柱等の角筒状に形成してもよい。
【0043】
ガイド部18は、接続片24における安定部17よりも第1部材11における半径方向の外側に位置する先端側の部分である。このガイド部18は、皮膚と接触する接触面18aを有している。接触面18aは、接続片24における平面24aの一部であり、安定部17の端面17aと略平行をなす平面である。ガイド部18の接触面18aが皮膚に接触するまで安定部17を押し付けることにより、安定部17及び針管5が皮膚を押圧する力を常に所定値以上に確保することができる。これにより、針管5の針突出面16aから突出している部分(突出長Lに相当)が確実に皮膚内に穿刺される。
【0044】
ガイド部18の接触面18aから安定部17の端面17aまでの距離(以下、「ガイド部高さ」という。)Yは、針管5及び安定部17が適正な押圧力で皮膚を押圧し穿刺することができるようにその長さが設定されている。なお、針管5及び安定部17の適正な押圧力は、例えば、3〜20Nである。その結果、使用者に対して針管5及び安定部17による皮膚への押圧力をガイド部18が案内し、針管5の針先5A(刃面5a)を皮膚上層部に確実に位置させることができると共に、使用者に安心感を与えることができる。
【0045】
ガイド部高さYは、安定部17の内径dと、ガイド部18の先端面から安定部17の外周面までの長さ(以下、「ガイド部長さ」という。)Xに基づいて適宜決定される。例えば、安定部17の内径dが12mmであり、ガイド部長さXが3.0mmのとき、ガイド部高さYは、2.3〜6.6mmの範囲に設定される。
【0046】
皮膚接触部25の調整部16と安定部17によって凹部19が形成される。この凹部19には排水部26が設けられている。この排水部26は潤滑剤を凹部19にコーティングすることで構成される。これにより、空気抜きを行う際に針管5から排出された薬剤は、排水部26に落下すると凹部19に付着することなく撥水されるため、皮膚接触部25を傾けたりすることで、使用者が容易に排水作業を行うことできる。さらに、針管5から排出され凹部19にたまった薬剤が使用者に付着することを防止することができる。なお、排水部26を構成する潤滑剤としては、シリコーン、フッ素コート等を挙げることができる。
【0047】
次に、第2部材12について説明する。第2部材12は、略筒状に形成されている。この第2部材12の軸方向の一端部は、第1部材11のベース部15を挿入する挿入部31になっており、他端部は、シリンジ3の後述する排出部52を嵌入する嵌入部32になっている。挿入部31の筒孔31aは、第1部材11のベース部15に対応した大きさに設定されている。
【0048】
挿入部31には、第1部材11の接続片24に接続される固定片34が設けられている。この固定片34は、挿入部31の先端に連続して半径外方向に突出するリング状のフランジとして形成されている。固定片34には、第1部材11に設けた接続片24の平面24bが当接し、固着される。固定片34と接続片24の固着方法としては、例えば、接着剤、超音波溶着、レーザ溶着、固定ねじ等を挙げることができる。
【0049】
嵌入部32の筒孔32aは、シリンジ3の排出部52に対応した大きさに設定されており、挿入部31側に至るにつれて連続的に径が小さくなっている。嵌入部32の内面には、シリンジ3の排出部52を螺合させるためのねじ溝35が形成されている。
【0050】
挿入部31と嵌入部32との間には、弾性部材7が係合する係合部37が設けられている。この係合部37は、第2部材12の内面から半径内方向に突出する段部として形成されており、第2部材12の軸方向に略直交する係合面37a,37bを有している。係合部37の係合面37aには、弾性部材7の後述するフランジ部42が係合され、係合面37bには、弾性部材7のストッパ突部43が係合される。
【0051】
[弾性部材]
次に、弾性部材7について説明する。弾性部材7は、針ハブ6の第2部材12内に配置され、第1部材11とシリンジ3との間に介在される。この弾性部材7は、本体部41と、この本体部41の軸方向の一端に設けられたフランジ部42と、本体部41の他端に設けられたストッパ突部43を有している。
【0052】
本体部41は、略円柱状に形成されており、軸方向に垂直な端面41a,41bを有している。本体部41の端面41aには、第1部材11のベース部15の端面15bが当接し、端面41bには、シリンジ3に設けられた排出部52の先端が液密に当接する。つまり、端面41bは、排出部52の先端が液密に当接する当接面になっている。
【0053】
本体部41には、ベース部15の端面15bから突出した針管5の基端5B側が挿通される挿通孔45が設けられている。この挿通孔45は、本体部41の軸方向に延びており、端面41a,41bに開口されている。本体部41の内面は、端面側離間部46と、当接面側離間部47と、密着部48から形成されている。
【0054】
端面側離間部46は、端面41aにおける挿通孔45の開口を形成している。この端面側離間部46は、針管5の外周面から離間しており、端面41aに向かうにつれて挿通孔45の径が連続的に大きくなるようなテーパー状に形成されている。これにより、ベース部15の端面15bから突出した針管5の基端5B側を挿通孔45に容易に挿通することができる。なお、挿通孔45における端面側離間部46の形状は、針管5が挿通孔45に挿通し易い形状であれば、テーパー状に限定されるものではない。
【0055】
当接面側離間部47は、端面41bにおける挿通孔45の開口を形成する。この当接面側離間部47は、針管5の外周面から離間しており、端面41bに向かうにつれて挿通孔45の径が連続的に大きくなるようなテーパー状に形成されている。弾性部材7に当接面側離間部47を設けることにより、本体部41の端面41b側が弾性変形して針管5の基端5Bを覆い、針孔を塞ぐことを防止することができる。
【0056】
また、挿通孔45における当接面側離間部47は、テーパー状に形成したものに限定されるものではなく、例えば密着部48の径よりも大きく針管5の外周面から離間するような凹部であってもよい。すなわち、挿通孔45における当接面側離間部47の形状は、本体部41の端面41b側が弾性変形して針管5の基端5Bを覆い、針孔を塞ぐことが防止できる形状であればよい。
【0057】
密着部48は、端面側離間部46と当接面側離間部47との間に形成されている。この密着部48は、針管5の外周面に液密に密着する。これにより、シリンジ3内の薬剤は、針管5と弾性部材7との間から針ハブ6の第1部材11側へ浸透しないようにすることができる。
【0058】
フランジ部42は、本体部41の外周面から半径外方向に突出するリング状に形成されている。このフランジ部42の外径は、第1部材11のベース部15の外径と略等しくなっている。そのため、フランジ部42の一方の平面は、第2部材12に設けた係合部37の係合面37aと当接し、他方の平面は、第1部材11のベース部15の端面15bと当接する。弾性部材7は、第2部材12の係合部37と第1部材11のベース部15によってフランジ部42が挟持されることにより、針ハブ6に取り付けられている。
【0059】
ストッパ突部43は、フランジ部42と同様に、本体部41の外周面から半径外方向に突出するリング状に形成されている。このストッパ突部43は、第2部材12に設けた係合部37の係合面37bに係合する。弾性部材7は、フランジ部42及びストッパ突部43が第2部材12の係合部37に係合することにより、軸方向への移動が係止されている。
【0060】
弾性部材7の材質としては、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー、或いはそれらの混合物等の弾性材料が挙げられる。
【0061】
[シリンジ]
シリンジ3は、シリンジ本体51と、このシリンジ本体51に連続する排出部52を備えている。シリンジ本体51は、円形の筒体からなっている。排出部52は、シリンジ本体51の軸方向の一端から突出しており、シリンジ本体51よりも小さい外径の円形の筒体からなっている。この排出部52は、先端に向かうにつれて径が連続的に小さくなるようなテーパー状に形成されている。排出部52の先端となる端面52aは、軸方向に直交する平面であり、弾性部材7の端面41bに液密に当接する。また、排出部52の外周面には、針ハブ6の第2部材12に螺合させるためのねじ部53が設けられている。
【0062】
シリンジ本体51内には、ガスケット(不図示)が収納されている。シリンジ本体51内の空間は、ガスケットにより仕切られており、排出部52に連通する一方の空間は、排出部52内の空間と共に液室56を形成している。シリンジ本体51内の他方の空間には、プランジャ(不図示)が配置される。プランジャは、ガスケットに接続されており、シリンジ本体51の他端の開口から突出している。このプランジャを操作することにより、ガスケットがシリンジ本体51内で軸方向に移動され、液室56への薬剤の吸引と、液室56に充填された薬剤の排出が行われる。
【0063】
シリンジ本体51及び排出部52の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を用いてもよく、また、ステンレス、アルミニウム等の金属を用いてもよい。
【0064】
1−2.注射針組立体及び薬剤注射装置の使用方法
次に、薬剤注射装置1の使用方法について説明する。
図4は本発明の薬剤注射装置の第1の実施の形態例における薬剤が排水される過程を示す断面図である。
図4Aは薬剤が皮膚接触部における排水部にたまる状態を示す断面図であり、
図4Bは皮膚接触部における排水部にためられた薬剤が排水される状態を示す断面図である。
まず、使用者は組み立てられた薬剤注射装置1のシリンジ内に含まれる空気を排出する、いわゆる空気抜きを行う。すると、
図4Aに示すように、空気抜きの際に薬剤Mが針管5の針先5Aから排出される。針先5Aから排出された薬剤Mは調整部16と安定部17によって形成された凹部19に落下して排水部26にたまる。ここで、排水部26は、潤滑剤から構成されているため、針先5Aから排出された薬剤Mが凹部19に付着することなく撥水される。よって、
図4Bに示すように、使用者は、薬剤注射装置1を傾けることで排水部26にたまった薬剤Mを容易に排水することができる。
【0065】
その後、針管5の針先5Aを生体に穿刺するために、安定部17の端面17aを皮膚に対向させる。これにより、針管5の針先5Aが、穿刺する皮膚に対向される。次に、薬剤注射装置1を皮膚に対して略垂直に移動させ、針先5Aを皮膚に穿刺すると共に安定部17の端面17aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面16aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させることができ、針管5の針先5A側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0066】
次に、ガイド部18の接触面18aが皮膚に接触するまで安定部17の端面17aを押し付ける。ここで、ガイド部高さYは、針管5及び安定部17が適正な押圧力で皮膚に穿刺することができるようにその長さが設定されている。そのため、安定部17によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。
【0067】
その結果、安定部17の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、針管5の針先5A及び刃面5aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。このように、ガイド部18が安定部17の適正な押圧力を認識させる目印となることで、使用者が安心して薬剤注射装置1を使用することができる。
【0068】
また、安定部17が皮膚に当接することで、薬剤注射装置1の姿勢が安定し、針管5を皮膚に対して真っ直ぐに穿刺することができる。また、穿刺後に針管5に生じるブレを防止することができ、薬剤の安定した投与を行うことができる。また、例えば0.5mm程度のごく短い突出長の針管では、針先を皮膚に当接させても皮膚に刺さらない場合がある。しかし、安定部17に押し付けられた皮膚が垂直方向に押し下げられることにより、安定部17の内側の皮膚が引っ張られて皮膚に張力が加わった状態となる。そのため、針管5の針先5Aに対して皮膚が逃げ難くなる。したがって、安定部17を設けることにより、皮膚に針先5Aをより刺さり易くするという効果を得ることもできる。
【0069】
針管5の針先5A側を皮膚に穿刺した後、プランジャ(不図示)を押してガスケット(不図示)を排出部52側に移動させる。これにより、シリンジ3の液室56に充填された薬剤は、排出部52から押し出され、針管5の針孔を通って針先5Aから皮膚上層部に注入される。このとき、排出部52の先端と針管5の基端5Bとの間に空間が形成されていないため、薬剤の残存量を少なくすることができる。
【0070】
<2.第2の実施の形態例>
[注射針組立体]
次に、本発明の注射針組立体の第2の実施の形態例について説明する。
第2の実施の形態例に係る注射針組立体62は、第1の実施の形態例における注射針組立体2と同様な構成を有している。この第2の実施の形態例に係る注射針組立体62が第1の実施の形態例の注射針組立体2と異なる点は、排水部66のみである。そのため、ここでは、排水部66について説明し、注射針組立体2と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0071】
図5は本発明の薬剤注射装置の第2の実施の形態例を示す断面図である。
図5に示すように、皮膚接触部25における調整部16と安定部17によって形成される凹部19には排水部66が設けられている。排水部66には、針ハブ6の挿入部31側へ曲面状に窪んだ排水用凹部67が形成されている。
【0072】
この排水用凹部67における調整部16と安定部17の中間点が最も窪んでおり、この中間点が排水用凹部67の底部67aとなる。この底部67aから調整部16及び安定部17にかけて連続してせり上がり、排水用凹部67が形成されている。そのため、排水用凹部67の底部67aから皮膚接触部25の縁部である安定部17にかけて傾斜する斜面67bが形成されている。
【0073】
なお、調整部16と安定部17によって形成されている凹部19に設けられているため、排水部66の大きさは、凹部19の大きさに対応した大きさに設定される。また、排水部66の曲面状の構造を有する部材の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0074】
排水部66を曲面状に形成したため、この排水用凹部67の底部67aに空気抜きの際に排出された薬剤がたまる。そして、この排水部66には角部がないため、使用者は薬剤注射装置61を傾けて、排水部66にたまった薬剤を斜面67bに沿わせることで容易に排水することができる。これにより、空気抜きの際に排出された薬剤が使用者に付着することを防止することができる。
【0075】
また、第2の実施の形態例では、排水部66と皮膚接触部25を別部材として構成した例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第1部材11の成形時に、排水部66を一体に成形してもよい。
【0076】
なお、第2の実施の形態例における排水部66の曲面に潤滑剤を塗布してもよい。これにより、撥水効果の向上を得ることができ、排水部66にたまった薬剤を排水しやくすることができる。
【0077】
その他の構成は、上述した第1の実施の形態例にかかる注射針組立体2と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成を有する注射針組立体72によっても、上述した第1の実施の形態例にかかる注射針組立体2と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0078】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、上述した実施の形態例では、第1部材と第2部材との間に弾性部材を設けた例を説明したが、弾性部材を設けずに注射針組立体を構成してもよく、また、第2部材と弾性部材を一体に形成してもよい。
【0079】
なお、本発明の薬剤注射装置は、皮内注射に適用されるものであるが、これに限定されるものではない。例えば、薬剤注射装置の突出長を調整することで、皮下注射や筋肉注射にも適用できる。