【文献】
Kolosova AY et al.,Lateral-flow colloidal gold-based immunoassay for the rapid detection of deoxynivalenol with two indicator ranges,Anal Chim Acta,2008年 6月 2日,616(2),235-244
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を解決するためのものであって、ブロッキング処理後のコンジュゲート同士の凝集を抑制しつつ、抗体又は抗原が固定化された金属コロイドを用いて免疫学的測定を行う場合において、簡易な方法によって検出対象に応じて検出感度を調整し、また、測定範囲を拡大することである。また、同時に金属コロイド表面に夾雑物等が非特異的に吸着することを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を克服するため鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、抗体が固定化された金属コロイド粒子の表面をブロッキングする際に非生物由来成分を、生物由来成分と組み合わせて使用することによって、測定感度の調整および/又は測定範囲の拡大が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、これまで非生物由来成分を単独でブロッキング剤として使用した場合、金属コロイドが凝集してしまい、ブロッキング剤として使用できなかったところを、生物由来成分と組み合わせて使用することで、ブロッキング剤としての使用が可能になるばかりか、検出感度の調整および/または測定感度の調整という新たな効果を奏することを初めて見出したのである。
【0009】
具体的に、本発明は以下の構成を有する。
<1>金属コロイド表面に抗体又は抗原が感作されたコンジュゲートであって、前記金属コロイド表面が非生物由来成分及び生物由来成分でブロッキングされたコンジュゲート。
<2>生物由来成分が、BSA、Casein、セリシン、大腸菌由来の熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド、NEO PROTEIN SAVER、StartingBlock
TM(PBS)Blocking Buffer、およびStabil Coatからなる群から選択される1以上である前記<1>に記載のコンジュゲート。
<3>非生物由来成分が、メタクリル酸ポリオキシアルキレンエステル、NB4025、SN100、Stabil Guard、およびProtein−Free Blocking Bufferからなる群から選択される1以上である前記<1>または<2>に記載のコンジュゲート。
<4>メタクリル酸ポリオキシアルキレンエステルが、ポリオキシエチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート、オクチルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート、からなる群から選択される1以上である前記<1>〜<3>のいずれかに記載のコンジュゲート。
<5>金属コロイドが、白金コロイド又は金コロイドである前記<1>〜<4>のいずれかに記載のコンジュゲート。
<6>金属コロイド表面に抗体又は抗原が感作されたコンジュゲートと試料とを接触させて、試料中の検出対象物質を検出する方法であって、
該金属コロイド表面が非生物由来成分及び生物由来成分でブロッキングされている前記検出方法。
<7>コンジュゲートが、イムノクロマトグラフィー用テストストリップに保持されている前記<6>に記載の検出方法。
<8>生物由来成分が、BSA、Casein、セリシン、大腸菌由来の熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド、NEO PROTEIN SAVER、StartingBlock
TM(PBS)Blocking Buffer、Stabil Coatからなる群から選択される1以上である前記<6>または<7>に記載の検出方法。
<9>非生物由来成分が、メタクリル酸ポリオキシアルキレンエステル、NB4025、SN100、Stabil Guard、およびProtein−Free Blocking Bufferからなる群から選択される1以上である前記<6>〜<8>のいずれかに記載の検出方法。
<10>メタクリル酸ポリオキシアルキレンエステルが、ポリオキシエチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート、オクチルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート、からなる群から選択される1以上である前記<6>〜<9>のいずれかに記載の検出方法。
<11>検出対象物質が、多価抗原である前記<6>〜<10>のいずれかに記載の検出方法。
<12>検出対象物質が、D−ダイマーである前記<11>に記載の検出方法。
<13>金属コロイドが、白金コロイド又は金コロイドである前記<6>〜<12>のいずれかに記載の検出方法。
<14>以下の構成を含むイムノクロマトグラフィー用テストストリップ。
(1)金属コロイド表面に第一の抗体、又は抗原が感作されたコンジュゲートであって、前記金属コロイド表面が非生物由来成分及び生物由来成分でブロッキングされたコンジュゲート、が保持されたコンジュゲートパッド
(2)前記(1)のコンジュゲートパッドの下流に配置され、該コンジュゲートと検出対象物質との複合体と結合する第二の抗体を含む不溶性メンブレン
<15>金属コロイドが、白金コロイド又は金コロイドである前記<14>に記載のテストストリップ。
<16>前記<14>又は<15>に記載のイムノクロマトグラフィー用テストストリップおよびハウジングを含む検出デバイス。
<17>金属コロイドに抗体又は抗原が感作されたコンジュゲートの製造方法であって、以下の工程を含む製造方法。
(a)抗体又は抗原を金属コロイドに感作させてコンジュゲートを得る工程
(b)コンジュゲートと、非生物由来成分および生物由来成分とを接触させて金属コロイド表面をブロッキング処理する工程
(c)ブロッキング処理されたコンジュゲートを遠心分離し、濃縮する工程
<18>生物由来成分が、BSA、Casein、セリシン、大腸菌由来の熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチド、NEO PROTEIN SAVER、StartingBlock
TM(PBS)Blocking Buffer、およびStabil Coatからなる群から選択される1以上である前記<17>に記載のコンジュゲートの製造方法。
<19>非生物由来成分が、メタクリル酸ポリオキシアルキレンエステル、NB4025、SN100、Stabil Guard、およびProtein−Free Blocking Bufferからなる群から選択される1以上である前記<17>または<18>に記載のコンジュゲートの製造方法。
<20>(b)の工程が、コンジュゲートと、非生物由来成分を接触させた後、生物由来成分を接触させることにより金コロイド表面をブロッキング処理する工程である前記<17>に記載の製造方法。
<21>金属コロイドが、白金コロイド又は金コロイドである前記<17>〜<20>のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
金属コロイドに抗体又は抗原が固定化されたコンジュゲートを用いた免疫学的測定法において、従来、非生物由来ブロッキング剤のみでブロッキングした場合には、金属コロイド同士の凝集が起こり、コンジュゲートとして使用することができなかったところ、金属コロイド粒子の表面を、生物由来成分と非生物由来成分の両方でブロッキングすることにより、コンジュゲートとしての使用が可能になった。さらに、金属コロイド粒子の表面を、生物由来成分と非生物由来成分の両方でブロッキングすることにより、検出対象に応じた感度調整、または、測定範囲の拡大が可能になった。またさらに、金属コロイド粒子の表面を、生物由来成分と非生物由来成分の両方でブロッキングすることにより、濃度較正用の基準物質と検体中の検出対象物質の反応挙動を同一にすることができ、定量性や基準測定方法との相関性を向上させることが可能になった。
上記が可能になったことにより、例えば、検出機器の検出性能に合致するようテストストリップを自在に設計することできるようになり、また、濃度域の異なる二以上の検出対象物質を、一つの試料、一つのテストストリップで同時検出することが容易になる。さらに、従来よりも簡単な操作で、所望のコンジュゲートを製造することができるため、経済的である。本発明は、POC(ポイントオブケア)検査領域における広範なニーズにも応えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(コンジュゲート)
本発明のコンジュゲートは、試料中の検出対象物質と特異的に結合する物質、例えば、抗体又は抗原が金属コロイドに感作(固定化)されたコンジュゲートであって、金属コロイドの表面が非生物由来成分及び生物由来成分でブロッキングされていることを特徴とする。
本発明のコンジュゲートは、粒子表面に固定化した抗体又は抗原と、検体中の検出対象物質との抗原抗体反応に基づく測定方法、例えば、イムノクロマト法や免疫比濁法(TIA法)に用いることができる。以下、例として、抗体をメンブレンに固定化したイムノクロマト法を挙げて説明する。検出対象物質が抗体の場合には、抗体を捕捉しうる物質(抗原、もしくは検出対象となる抗体に対する抗体)を金属コロイドもしくは不溶性メンブレンに固定化すればよいことは、当業者が容易に理解しうる。以下、試料中の検出対象物質と特異的に結合する物質が抗体又は抗原の場合を例として説明する。
【0013】
(金属コロイド)
本発明に用いる金属コロイドは、抗体又は抗原を感作させてコンジュゲートを構成することができ、試料と接触させて試料中の検出対象物質(抗原又は抗体)を検出する方法において標識体としての役割を担うことができるものであればいずれでもよい。
金属コロイドとしては、例えば、金コロイドや白金コロイド、銀コロイド、パラジウムコロイド、銅コロイド、ニッケルコロイド、インジウムコロイド等または、これらの複合コロイドが考えられる。好適には、金コロイドや白金コロイドである。また、本明細書においては、ラテックス粒子やシリカ粒子など非金属の粒子をコア粒子とし、その表面を金で被覆した微粒子のように、表面を金属で加工した微粒子についても金属コロイドに含める。
以下、金属コロイドの代表例として金コロイドを挙げて本発明を説明する。金コロイドの粒径は、検出感度に大きく影響することが知られているが、例えば、イムノクロマトグラフィー用テストストリップにコンジュゲートを保持させて使用する場合、金コロイドの粒径としては、20〜60nmが好ましく、より好ましくは30〜50nmであり、特に30nmが好ましい。上記の金コロイドは一般に知られている方法、例えば、加熱したテトラクロロ金(III)酸水溶液にクエン酸三ナトリウム水溶液やクエン酸三アンモニウム水溶液を滴下攪拌することによって製造することができる。本明細書では金コロイドを金コロイド粒子ということもあるが、同義である。
【0014】
(金コロイドへの抗体又は抗原の固定化)
検出対象に対する抗体又は抗原の金コロイドへの固定化は、通常、金コロイドと抗体又は抗原を混合した溶液中で、物理吸着によって行う。抗体の固定化を例に説明すると、抗体濃度は1μg/mL〜5μg/mLに調製されるのが好ましく、緩衝液及びpHは、10mmol/Lリン酸緩衝液(pH6〜7)または10mmol/Lトリス酸緩衝液(pH7〜9)が好ましく、さらに好ましくは10mmol/Lトリス酸緩衝液(pH7.5)であるが、他の緩衝液の使用も含め、これに限定されるものではない。本明細書では、上記のような金コロイドに検出対象に対する抗体、あるいは抗原のほか、コントロール用抗体が固定化されたものも「コンジュゲート」という。
【0015】
(ブロッキング)
本発明のコンジュゲートは、金コロイドの表面のうち抗体が結合していない領域が、非生物由来成分と生物由来成分の両者によりブロッキングされていることを特徴とする。
従来、金コロイドのブロッキングには、もっぱらBSA、Casein、ゼラチンといった生物由来のタンパク質が一般に用いられ、ラテックス粒子などの他の担体に用いられるような非生物由来のブロッキング剤は、金コロイドには用いられてこなかった。これは、非生物由来のブロッキング剤を金コロイドのブロッキングに用いると、金コロイドの非特異的な凝集が起こることがあるためである。このような状況の下、本発明者らは、非生物由来成分と生物由来成分の両者を金コロイドのブロッキング剤として用い、金コロイド表面を非生物由来成分および生物由来成分でブロッキングすることにより、検出感度の調整と測定範囲の拡大に成功した。
すなわち、あらかじめ、検出対象ごとに、非生物由来成分と生物由来成分の各組み合わせについて、測定感度や測定範囲を調べておき、目的に応じて、前記組み合わせを選択することで、検出対象に応じた所望の測定が可能となる。
なお、本明細書において「検出感度の調整」とは、ある測定系においてある濃度の検出対象物質を通常の手法で測定した場合と比較して、測定値を上昇あるいは下降させることを言う。また、「測定範囲の拡大」とは、従来法と比較して、低濃度又は高濃度域において、検体中の検出対象物質を、濃度依存的に測定できる範囲を拡大することを言う。
特定の理論に拘るわけではないが、生物由来成分と非生物由来成分とでは、金属コロイドの表面への吸着傾向が異なるため、両成分が互いに隙間を埋めるような関係になっているかもしれない。また、表面に吸着した両成分は、金属表面に固定化した抗体や非特異的に吸着した種々の物質等の立体関係を制御していることも予想される。これらの一以上が機能することにより、各成分の組み合わせによって検出感度を調整したり、測定範囲を拡大したりすることが可能になると推測される。
【0016】
(非生物由来成分)
本発明のブロッキングに用いられる非生物由来成分は、生物に由来しない成分であって、ブロッキング作用を有する成分であればいずれでもよく、例えば、メタクリル酸ポリオキシアルキレンエステル、具体的には、ポリオキシエチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレンモノメタクリレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレート、オクチルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレートなどの合成高分子が挙げられる。具体的には、ブロッキング剤として市販されているN101(ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレンモノメタクリレートを主成分とする)、N102(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノメタクリレートを主成分とする)、SN100(以上、日油社製)、NB4025(コスモバイオ社製)、Stabil Guard(SurModics社製)、Protein−Free Blocking Buffer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が挙げられる。このうちでもN101、N102、NB4025が好ましい。
本発明に使用可能な非生物由来ブロッキング剤は、上記の例以外にも、後述する試験例1、試験例2に記載された試験方法により選抜することができる。
非生物由来成分の使用濃度としては、使用する成分により適宜決定すれば良い。例えば、1OD/mLに調整した金コロイド溶液に抗体液を加えて混合した後、該混合液に前記の市販品を、原液を100%とした場合に終濃度が0.1〜15%の範囲となるよう添加することによりブロッキングすることができる。さらに、下限としては0.1以上のほか、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1%以上が挙げられる。また、上限としては15%以下のほか、14、13、12、11、10%以下が挙げられる。また、その組み合わせとしては、前記上限と下限のあらゆる組み合わせが挙げられるが、例示すれば0.2〜14、0.3〜13、0.4〜12、0.5〜11、0.6〜10、0.7〜9、0.8〜8、0.9〜7、1〜6%などである。このうちでも終濃度が0.5〜10%の範囲が好ましく使用できる範囲である。
非生物由来成分は、化学合成によって得ることが可能であり、その構造に応じて適当な定量法、例えば、メタクリル酸ポリオキシアルキレンエステルであれば、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の滴定による定量、NMRによるビニル基の定量、MS、GPCによる分子量測定に基づく定量などが可能である。
【0017】
(生物由来成分)
本発明のブロッキングに用いられる生物由来成分は、生物に由来する成分であって、ブロッキング作用を有する成分であればいずれでもよく、たとえば動物性又は植物性タンパク質および動物性又は植物性タンパク質由来のペプチドが挙げられる。具体的には、牛血清アルブミンであるBSA、Casein、大腸菌由来の熱ショックタンパク質(HSP)であるDnaKのアミノ酸配列419番目から607番目のポリペプチドであるBlocking Peptide Fragment(BPF:TOYOBO製)、絹タンパク質由来(セリシンの加水分解物)であるNEO PROTEIN SAVER(TOYOBO製)、StartingBlock
TM(PBS)Blocking Buffer(PIERCE製)、Stabil Coat(SurModics社製)が挙げられる。
生物由来成分の濃度としては、使用する成分により適宜決定すれば良い。例えば、1 OD/mLに調整した金コロイド溶液に抗体液を加えて混合した後、該混合液に前記の生物由来成分を、終濃度が0.1〜10%の範囲で添加することによりブロッキングすることができる。さらに、下限としては0.1以上のほか、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1%以上が挙げられる。また、上限としては10%以下のほか、9、8、7、6、5、4、3、2%以下が挙げられる。また、その組み合わせとしては、前記上限と下限のあらゆる組み合わせが挙げられるが、例示すれば0.2〜9、0.3〜8、0.4〜7、0.5〜6、0.6〜5、0.7〜4、0.8〜3、0.9〜2、1〜1.5%などである。このうちでも終濃度が0.5〜5%の範囲が好ましく使用できる範囲である。
【0018】
(ブロッキング方法)
金コロイドの表面のうち抗体が結合していない領域を、非生物由来成分と生物由来成分の両成分によりブロッキングする方法としては、別途非生物由来成分と生物由来成分の混合物を調製し、当該混合物とコンジュゲートを混合して一度にブロッキングする方法のほか、いずれか一方の成分とコンジュゲートを混合し、次に、他の成分と混合することにより2段階でブロッキングする方法も本発明の範囲に含まれる。
前者の例としてはたとえば、以下の工程(1)〜(3)により行われる。
(1)抗体を金コロイドに感作させてコンジュゲートを得る工程
(2)非生物由来成分および生物由来成分を混合し、混合物を得る工程
(3)前記混合物とコンジュゲートとを混合し、金コロイド表面をブロッキング処理する工程
また、後者の例としてはたとえば、以下の工程(A)〜(C)または(a)〜(c)により行われる。
(A)抗体を金コロイドに感作させてコンジュゲートを得る工程
(B)非生物由来成分とコンジュゲートを混合し、金コロイド表面について第一のブロッキング処理をする工程
(C)(B)の第一のブロッキング処理物に生物由来成分を添加し、金コロイド表面について第二のブロッキング処理をする工程
(a)抗体を金コロイドに感作させてコンジュゲートを得る工程
(b)生物由来成分とコンジュゲートを混合し、金コロイド表面について第一のブロッキング処理をする工程
(c)(b)の第一のブロッキング処理物に非生物由来成分を添加し、金コロイド表面について第二のブロッキング処理をする工程
【0019】
(検出試薬)
本発明において、「検出試薬」とは具体的には少なくともコンジュゲートを含有する溶液である。
検出試薬は、コンジュゲートを安定な状態に保ち、試料と混合されたときにコンジュゲートに固定化された抗体が検出対象と特異的に反応するのを促進する、あるいはコンジュゲートを迅速かつ効果的に溶解、流動化する目的で、例えば1種類以上の安定化剤、溶解補助剤等を含み得る。該安定化剤、溶解補助剤等としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、スクロース、Casein、アミノ酸類などをあげることができる。
また、検出試薬は、検出感度の向上を目的とし必要に応じて、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポリビニルアルコール等の公知の増感剤を含み得る。
さらに検出試薬は、必要に応じてCa
2+イオン等の金属キレート剤であるEDTAやEGTAなども含み得る。
なお、本明細書において、「検出」又は「測定」という用語は、検出対象の存在の証明及び/又は定量などを含めて最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0020】
(本発明で用いられる抗体)
本発明に用いられる検出対象物質に対する抗体は、検出対象物質に対して特異的に反応する抗体であればよく、それらを作製する方法によって何ら限定されるものではない。また、該抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。一般的に当該抗体を産生するハイブリドーマは、KohlerとMilsteinの方法(Nature、第256巻495頁(1975年)参照)に準じ、検出対象物質である抗原で免疫した動物の脾臓細胞と同種のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを細胞融合して作製することができる。また、DNA免疫法によりモノクローナル抗体を作製することもでき、Nature 1992 Mar 12;356 152−154やJ.Immunol.Methods Mar 1;249 147−154を参考に作製することができる。
本発明に用いられる抗体としては、前記のように動物への免疫工程を経て得られた抗体、DNA免疫法で得られた抗体のほか、遺伝子組み換え技術を使用して得られた抗体(例えば、キメラ抗体)を用いることも可能であり、抗体分子全体のほかに抗原抗体反応活性を有する抗体の機能性断片を使用することも可能である。抗体の機能性断片としては、例えば、F(ab’)
2、Fab’などが挙げられ、これらの機能性断片は前記のようにして得られる抗体をタンパク質分解酵素(例えば、ペプシンやパパインなど)で処理することにより製造できる。
ここで、用いられる抗体がモノクローナル抗体の場合、コンジュゲート用抗体(第一の抗体)のエピトープが一価の場合は不溶性メンブレンに固定化された抗体(第二の抗体)のエピトープは第一の抗体と異なるものが用いられ、第一の抗体のエピトープが多価の場合は、第二の抗体のエピトープは第一の抗体と同じ抗体であってもよいし、第一の抗体と第二の抗体が同じ抗体であってもよい。
後述する実施例では抗Dダイマーモノクローナル抗体を使用している。本発明で使用した抗Dダイマーモノクローナル抗体の調製方法は次項に示すとおりであるが、本発明はこれに限らず、市販の抗Dダイマーモノクローナル抗体を用いてもよい。市販の抗Dダイマーモノクローナル抗体の例としては、Hytest社のclone#DD1〜#DD6等や、Fitzgerald社のclone#MO1102704などが挙げられる。また、American Diagnostica社製Clone# DD3B6も使用できる。なお、本明細書では、クローンの産生する抗体を便宜的にクローン番号または記号(clone#番号または記号)で示すことがある。
【0021】
(抗Dダイマーモノクローナル抗体の調製例)
(1)ハイブリドーマの調製
PBSに溶解したヒト精製フィブリノゲンにバトロキソビン処理を行い生成した可溶性フィブリンを免疫原とした。この免疫原を完全フロイントアジュバンド(GIBCO社製)と1対1で混和乳化し、0.1mg/0.1mL(エマルジョン)で6週齢の雌BALB/Cマウスの皮下に1週間間隔で6回投与後、最終免疫の3日後に脾臓を摘出した。摘出した脾臓から得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞SP2/O−Ag14とを6対1の割合で混合し、50%ポリエチレングリコール1540(和光純薬工業社製)存在下にて細胞融合させた。融合細胞は脾臓細胞として2.5×10
6/mLになるようにHAT培地に懸濁し、96穴培養プレート(CORNING社製)に0.2mLずつ分注した。これを5%CO
2インキュベーター中で37℃にて培養し、およそ2週間後に、ハイブリドーマの生育してきたウェルの培養上清について、ELISA法を用いてDD画分に反応する抗体を産生する細胞株を選択した。具体的には、マイクロプレート(NUNC社製)にヤギ抗マウスIgG(Fc)抗体(JACKSON社製)を介し、各培養上清中のIgGを固相化した後、DD画分を反応させた。さらにペルオキシダーゼ標識抗フィブリノゲン ウサギポリクローナル抗体(DAKO社製)を反応させた後、オルトフェニレンジアミン(東京化成社製)を含むペルオキシダーゼ基質溶液を加え発色させ、1.5N硫酸を加え発色を停止した後、マイクロプレートリーダー(Abs.492nm)で測定し、DD画分に対して高い反応性を示す株を選択した。このハイブリドーマを限界希釈法によるクローン化を行い、抗Dダイマーモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを2種樹立した。
【0022】
(2)モノクローナル抗体の調製
2週間前にプリスタン0.5mLを腹腔内に注射しておいた12週齢の雌BALB/Cマウスに、上記(1)で得られたハイブリドーマを細胞数0.5×10
6個の量で腹腔内に投与した。約2週間後に腹水を採取し、遠心処理して上清を得た。上清を等量の吸着用緩衝液(3mol/L NaCl−1.5mol/L Glycine−NaOH、pH8.5)と混和後、濾過した。この濾液を吸着用緩衝液で平衡化したプロテインAカラム(ファルマシア社製)に通して抗体をカラムに吸着させた後、0.1mol/Lクエン酸緩衝液(pH3.0)でカラムより溶出させ、抗Dダイマーモノクローナル抗体(Clone#672102、及びClone#672101)を精製した。
【0023】
(サンプルパッド)
本発明において、「サンプルパッド」とは、測定試料を受け入れる部位であり、パッドに成型された状態で液体の測定試料を吸収し、液体と検出対象の成分とが通り抜けることができる物質及び形態であればいずれのものをも含む。サンプルパッドに適した材料の具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。該サンプルパッドには、後述するコンジュゲートパッドの機能を併せ持たせることも出来る。また、サンプルパッドには、本発明の目的を逸脱せず、反応系に影響のない範囲において、必要に応じ通常使用されるブロッキング試薬を含ませることもできる。
【0024】
(コンジュゲートパッド)
本発明において、「コンジュゲートパッド」とは、検出対象物質と特異的に反応する検出試薬を後述のコンジュゲートパッドに適した材料に含浸させて乾燥させたものである。コンジュゲートパッドは、測定試料が該コンジュゲートパッドを通過する際、コンジュゲートと検出対象物質とが複合体を形成する機能を有する。該コンジュゲートパッドは、それ単独で抗検出対象物質抗体固定化メンブレンに接するように配置されていてもよい。あるいは、前記サンプルパッドと接触して配置され、毛細管流によってサンプルパッドを通過した試料を受入れ、引き続き該試料を毛細管流によって前記サンプルパッドとの接触面とは異なる面で接触する別のパッド(以後、「3rd Pad」と記す。)に移送するように配置してもよい。なお、サンプルパッド、コンジュゲートパッドの一種以上の部位の選択や、選択された部位を抗体固定化メンブレンにどのように配置するかは、適宜に変更可能である。
該コンジュゲートパッドに適した材料として、紙、セルロース混合物、ニトロセルロース、ポリエステル、アクリロニトリルコポリマー、ガラス繊維(グラスファイバー)またはレーヨンのような不織繊維が挙げられるが、これらに限定されない。好適には、グラスファイバー製パッドが用いられる。
該コンジュゲートパッドには、必要に応じて、イムノクロマトグラフィー法の信頼性を担保するための「コントロール試薬」、例えば、標識体で標識された試料成分と反応しない抗体や標識体で標識されたKLH(スカシ貝ヘモシアニン)などの高抗原性タンパク質などを含み得る。これらのコントロール試薬は、試料中に存在する可能性が考えられない成分(物質)であり、適宜に選択可能である。
【0025】
(3rd Pad)
本発明において、3rd Padとは、試料や検出試薬中の成分のうち、検出対象物質の検出に不要な成分を除去し、反応に必要な成分が抗体固定化メンブレンをスムーズに展開できるようにすることを目的として配置させることができる。例えば、血球や不溶性の血球破砕物などは、検出に不要な成分として除去されることが望ましい。また、この3rd Padには、抗原抗体反応により生成する凝集体のうち、抗体固定化メンブレンに移動し、スムーズに展開できない位に大きくなった凝集体をあらかじめ除去するという付加的な効果を併せ持たせることも可能である。3rd Padとしては、液体と検出対象の成分とが通り抜けることができるどんな物質及び形態をも含む。具体例として、ガラス繊維(グラスファイバー)、アクリル繊維、親水性ポリエチレン材、乾燥紙、紙パルプ、織物等が含まれるが、これらに限定されない。好適には血球分離膜やそれに類する膜が用いられる。
【0026】
(抗体の不溶性メンブレンへの固定化)
本発明のイムノクロマト試薬における検出対象物質に対する抗体の不溶性メンブレンへの固定化は、一般に周知の方法で実施することができる。例えば、フロースルー式の場合、上記の抗体を所定の濃度に調製し、その液を一定量、点あるいは+など特定のシンボル状に、不溶性メンブレンに塗布する。またこの際、イムノクロマトグラフィー法の信頼性を担保するため、コンジュゲートと結合できるタンパク質あるいは化合物を、検出対象物に対する抗体とは異なる位置に固定化して「コントロールライン」とすることが一般的である。また、前記のコントロール試薬に対する抗体を検出対象物に対する抗体とは異なる位置に固定化して「コントロールライン」とすることもできる。
【0027】
ラテラルフロー式の場合には、上記の抗体を所定の濃度に調製し、その液をノズルから一定の速度で吐出しながら水平方向に移動させることのできる機構を有する装置などを用いて、ライン状に不溶性メンブレンに塗布することにより行われる。この際、抗体の濃度は0.1mg/mL〜5mg/mLが好ましく、0.5mg/mL〜2mg/mLがさらに好適である。また、抗体の不溶性メンブレンの固定化量は、フロースルー式の場合には不溶性メンブレンに滴下する塗付量を調節することによって最適化でき、ラテラルフロー式の場合には上記の装置のノズルからの吐出速度を調節することによって最適化できる。特に、ラテラルフロー式の場合、0.5μL/cm〜2μL/cmが好適である。なお、本発明において、「フロースルー式メンブレンアッセイ」という場合は、試料液等が不溶性メンブレンに対して垂直に通過するように展開する方式を指し、「ラテラルフロー式メンブレンアッセイ」という場合は、試料液等が不溶性メンブレンに対して並行方向に移動するように展開する方式を指す。
【0028】
また、本発明において、検出対象物質に対する抗体の不溶性メンブレンへの塗付位置については、ラテラルフロー式の場合、コンジュゲートパッドから試料液が毛細管現象によって展開し、検出対象物質に対する抗体とコントロール用抗体がそれぞれ塗付されたラインを順に通過するように配置されれば良い。好ましくは検出対象物質に対する抗体の塗付されたラインが上流にあり、コントロール抗体の塗付されたラインはその下流に位置するように配置するのが好ましい。この際、それぞれのライン間の距離は標識体のシグナル検出が可能であるように十分の距離をとることが望ましい。フロースルー式の場合にも、検出対象物質に対する抗体の塗付位置は標識体のシグナル検出が可能であるように配置されていれば良い。
【0029】
上記の不溶性メンブレンへ塗付する抗体液は、通常所定の緩衝液を用いて調製することができる。その緩衝液の種類としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液など通常使用される緩衝液を挙げることができる。緩衝液のpHは、6.0〜9.5の範囲が好ましく、使用する抗体の性質に応じ適宜設定すれば良い。例えば、後述の抗Dダイマーモノクローナル抗体ではpH9.0の緩衝液が使用できる。緩衝液には、さらにNaClなどの塩類、スクロースなどの安定化剤や保存剤、プロクリンなどの防腐剤等を含んでもよい。塩類はNaClなどのようにイオン強度の調整のために含ませるもののほか、水酸化ナトリウムなど緩衝液のpHを調整する工程で添加するようになるものも含まれる。不溶性メンブレンに抗体を固定化した後、さらに、通常使用されるブロッキング剤を溶液あるいは蒸気状にして抗体固定化部位以外を被覆し、ブロッキングを行うこともできる。本明細書では、上記のように抗体が固定化された不溶性メンブレンを「抗体固定化メンブレン」ということがある。
【0030】
(不溶性メンブレン)
本発明において、不溶性メンブレン(以下、単にメンブレンと記載することがある)としては、任意の材質のものが使用できる。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン類、ガラス繊維、セルロースやセルロース誘導体などの多糖類あるいはセラミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。具体的には、ミリポア社、東洋濾紙社、ワットマン社などより販売されているガラス繊維ろ紙やセルロースろ紙などをあげることができる。また、この不溶性メンブレンの孔径と構造を適宜選択することにより、金コロイド標識抗体と検出対象物質との免疫複合体がメンブレン中を流れる速度を制御することが可能である。メンブレン中を流れる速度の制御により、メンブレンに固定化された上記抗体に結合する標識抗体量を調節することができるため、メンブレンの孔径と構造は、本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップのほかの構成材料との組み合わせを考慮して最適化することが望ましい。
【0031】
(吸収パッド)
本発明において、吸収パッドとは、不溶性メンブレンを移動又は通過した測定試料を吸収することにより、測定試料の展開を制御する液体吸収性を有する部位である。ラテラルフロー式においては、ストリップ構成の最下流に設ければよく、フロースルー式においては、例えば抗体固定化メンブレンの下部に設ければよい。該吸収パッドとしては、例えば、ろ紙を用いることができるが、これに限定されない。好適には、Whatman社の740−E等が用いられる。
【0032】
(イムノクロマトグラフィー用テストストリップ)
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、少なくとも以下の構成を有する。
(1)金コロイド表面に第一の抗体が感作されたコンジュゲートが保持されたコンジュゲートパッドであって、前記金コロイド表面が非生物由来成分と生物由来成分の両成分によりでブロッキングされたコンジュゲートパッド
(2)コンジュゲートパッドの下流に配置され、コンジュゲートと検出対象物質との複合体と結合する第二の抗体を含む不溶性メンブレンイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、上記構成のほかに、サンプルパッド、吸収パッド、3rdパッドのいずれか一以上をさらに配置装着されたものも含む。該テストストリップは、通常、プラスチック製粘着シートのような固相支持体上に配列させる。該固相支持体を、測定試料の毛管流を妨げない物質で構成することはもとより、接着剤の成分を測定試料の毛管流を妨げない物質とすることは明らかである。なお、抗体固定化メンブレンの機械的強度を上げ且つアッセイ中の水分の蒸発(乾燥)を防ぐ目的でポリエステルフィルムなどをラミネート加工することも可能である。
【0033】
(検出デバイス)
本発明のイムノクロマトグラフィー用テストストリップは、ストリップの大きさや、測定試料の添加方法・位置、抗体固定化メンブレンにおける抗体の固定化位置、シグナルの検出方法などを考慮した適当な容器(ハウジング)に格納・搭載して使用することができ、このように格納・搭載された状態を「デバイス」という。
【0034】
(その他)
本明細書において、「不溶性メンブレン」を「固相」、抗原や抗体を不溶性メンブレンに物理的あるいは化学的に担持させることあるいは担持させた状態を「固定」、「固定化」、「固相化」、「感作」、「吸着」あるいは、「保持」と表現することがある。
【0035】
(試料)
本発明の検出方法において検出対象物質を含む「試料」としては、血液、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、膵臓抽出液、涙液、耳漏又は前立腺液などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。一般的には、全血、血清、血漿が好ましい。本明細書では、「検体」も「試料」と同義に使用される。
【0036】
(検出対象物)
本発明の検出対象物は、血液、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、膵臓抽出液、涙液、耳漏又は前立腺液などに存在する物質で、例えば、CRP(C反応性蛋白)、IgA、IgG、IgMなどの炎症関係マーカー、フィブリン分解産物(例えばDダイマー)、可溶性フィブリン、TAT(トロンビン−アンチトロンビン複合体)、PIC(プラスミン−プラスミンインヒビター複合体)、PLG(プラスミノゲン)などの凝固・線溶マーカー、酸化LDL、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、Lp(a)(リポ蛋白(a))などの循環関連マーカー、アディポネクチン、HbA1c(ヘモグロビンA1c)などの代謝関連マーカー、CEA(癌胎児性抗原)、AFP(α−フェトプロテイン)、CA19−9、CA125、PSA(前立腺特異抗原)などの腫瘍マーカー、HBV(B型肝炎ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)、クラミジアトラコマティス、淋菌などの感染症関連マーカー、アレルゲン特異IgE(免疫グロブリンE)、ホルモン、薬物などが例示される。中でも、Dダイマー、CRP、Lp(a)、PLGなどの多価抗原やBNPなどの微量成分がより好ましい。
【0037】
(希釈液)
本発明において、試料中の検出対象物の濃度に応じて、試料の希釈が必要な場合は、希釈液を用いることがある。希釈液は、抗原抗体反応を著しく阻害したり、または反対に著しく反応を促進して標識体が過凝集するために毛細管現象による展開不良を起こしたり、抗原濃度に応じた抗原抗体反応のシグナル検出が不可能にさえならなければ、いずれの組成の希釈液を用いても良い。このような作用を有する希釈液としては、例えば、精製水、生理食塩水、pH6.0〜10.0の低濃度の緩衝液、例えば10mmol/L〜20mmol/Lリン酸緩衝液や10mmol/L〜20mmol/L Tris−HCl緩衝液、10mmol/L〜20mmol/LグリシンーHCl緩衝液が挙げられる。また、試料液のストリップでの展開速度を制御する目的で、これらの希釈液に界面活性剤を添加することも可能である。
【0038】
(測定)
金コロイドに由来するシグナルを定量する方法としては、公知の方法に従って行えばよく、吸光度あるいは反射光強度を測定すればよい。この吸光度もしくは反射光強度の変化量を既知濃度の試料の検量線に外挿して、検出対象物質の濃度を測定することもできる。
【実施例】
【0039】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
〔試験例1〕ブロッキング剤についての検討1
抗体感作後の金コロイドに対して、生物由来または非生物由来の市販のブロッキング剤により金コロイド表面のブロッキング処理を行った。
(1)試験材料
(i)金コロイド溶液
65℃に加温した500mLの精製水に、クエン酸三アンモニウムとクエン酸三ナトリウム二水和物をともに7%(w/v)の割合で溶解せしめた水溶液を0.7mL添加し、攪拌混合した。続いて、7%(w/v)テトラクロロ金(III)水溶液を1mL添加し、攪拌しながら10分間反応させた後、反応液を沸騰させた。この後、氷水中で冷却することにより、平均粒子径が30nmの金コロイド溶液を調製した。この平均粒子径が30nmの金コロイド溶液を、20mmol/Lトリス緩衝液(pH7.5)にて1 OD/mLに調製した。
【0041】
(ii)試験対象のブロッキング剤
非生物由来成分
・N101(日油社製)
・N102(日油社製)
・SN100(日油社製)
・NB4025(コスモバイオ社製)
・Stabil Guard(SurModics社製)
・Protein−Free Blocking Buffer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
生物由来成分
・BSA(Desert Biologicals社製)
・Blocking Peptide Fragment(TOYOBO社製)
・Neo Protein Saver(TOYOBO社製)
・StartingBlock
TM(PBS)Blocking Buffer(PIERCE製)
・Casein(VWR International社製)
【0042】
(2)試験方法
1 OD/mLの金コロイド溶液(pH7.5)20mLに対し、10mmol/Lトリス酸緩衝液(pH7.5)で調製した抗Dダイマーモノクローナル抗体(Clone#672102)を1mL添加し、室温で10分間撹拌した。これらの金コロイドと抗体との混合液に対し、上記「非生物由来」のブロッキング剤については、原液を下記量、添加した。また、「生物由来」のブロッキング剤については、20mmol/Lトリス緩衝液に溶解し、10%(w/v)に調製した後に2mLを上記金コロイドと抗体との混合液に添加し、5分間撹拌した後に10℃にて、11900×gで45分間遠心した。
上清を除去した後、得られた沈渣に、20mmol/Lトリス緩衝液(pH7.2)を800μL添加し、それぞれのコンジュゲートを懸濁し、最大吸収波長(λmax)における吸光度と波長600nmにおける吸光度を測定し、その比(A
600nm/Aλ
max)を算出した。
<非生物由来のブロッキング剤の添加量>
N101、N102、Stabil Guard、Protein−Free Blocking Buffer ・・・2mL
SN100、NB4025、Protein−Free Blocking Buffer・・・0.2mL
【0043】
(3)試験結果および考察
試験結果を表1に示す。本結果より、抗体感作金コロイドをN101、N102でブロッキング処理後、遠心分離して抗体感作金コロイドを回収し、20mmol/Lトリス緩衝液(pH7.2)に再懸濁しようとした場合は、金コロイドが凝集して、再懸濁できず、吸光度測定ができなかった。また、NB4025、SN100、Stabil Guard、Protein−Freeで処理した場合は、上述の2種類よりは弱いものの、同様に遠心分離後の再懸濁が不良であり、吸光度も高い数値を示した。一方、BSA、Blocking Peptide Fragment、Neo Protein Saver、Starting Block、Caseinの生物由来成分で処理した場合は、いずれも金コロイドが凝集せずに、再懸濁することができ、吸光度も低い数値を示した。
以上より、生物由来成分で金コロイドをブロッキング処理したものは、抗体感作金コロイドを遠心分離後に再懸濁した際の分散性に優れコンジュゲートとして使用可能なものであった。一方、非生物由来成分でブロッキング処理したものは、抗体感作金コロイドが遠心分離で凝集してしまい、再懸濁できないか、あるいは著しく安定性に欠けるという問題があった。
【0044】
【表1】
【0045】
〔試験例2〕ブロッキング剤の検討2
試験例1の非生物由来成分によるブロッキング処理後、生物由来成分による追加ブロッキング処理を行い、処理された金コロイドの分散性について検討した。
(1)試験方法
1 OD/mLの金コロイド溶液(pH7.5)20mLに対し、10mMトリス酸緩衝液(pH7.5)で調製した抗Dダイマーモノクローナル抗体(Clone#672102)を1mL添加し、室温で10分間撹拌した。これらの金コロイドと抗体との混合液に対し、非生物由来の成分であるN101を1mL(処方2)、N102を1mL(処方3)、NB4025を0.2mL(処方4)、SN100を0.2mL(処方5)、Stabil Guardを2mL(処方6)、Protein−Free Blocking Bufferを2mL(処方7)それぞれ添加した後、室温にて5分間攪拌し、さらに生物由来のブロッキング剤であるBSA(10%(w/v)、20mMトリス緩衝液(pH7.5)を1mL添加し、室温で5分間攪拌した。その後、10℃にて、11900×gで45分間遠心した。上清を除去した後、得られた沈渣に、20mM トリス緩衝液(pH7.2)を800μL添加し、それぞれのコンジュゲートを懸濁し、最大吸収波長における吸光度と600nmの波長における吸光度を測定した。また、試験例1の方法に従い、BSAのみでブロッキングしたコンジュゲートを調製し(処方1)、対照とした。
【0046】
(2)試験結果および考察
結果を表2に示す。試験例1では表1に示すように非生物由来成分ブロッキング処理単独では金コロイドの遠心分離後の再懸濁の状態が不良であった。しかし、本試験のように非生物由来成分のブロッキング処理に生物由来成分によるブロッキング処理を追加することにより、金コロイドの再懸濁時の分散性が良好となり、抗体感作金コロイドを回収することができた。また、吸光度測定値もBSA単独でブロッキングした場合と同程度に低い値を示した。
したがって、これまで抗体感作金コロイドのブロッキング剤として使用できなかった非生物由来成分によるブロッキング処理が可能となり、ブロッキング剤の種類による測定感度のコントロールが可能であることが示された。
【0047】
【表2】
【0048】
〔実施例1〕本発明のコンジュゲートを用いた測定1
生物由来成分と非生物由来成分の両成分により金コロイド表面のブロッキング処理をした場合の感度ならびに測定レンジについて検討した。
1.本発明のイムノクロマトデバイスの作製例
(1)金コロイド標識抗Dダイマー抗体(コンジュゲート)
試験例2で得た処方1から処方7の抗Dダイマー抗体感作コンジュゲートを使用した。
【0049】
(2)コンジュゲートパッドの作製
上記1)で調製した抗Dダイマーモノクローナル抗体感作コンジュゲートを4.1 OD/mLとなるように、2.4%ラクトース溶液を含む20mmol/Lトリス緩衝液(pH7.2)と混合し、コンジュゲート溶液を作製し、一定体積のグラスファイバー製パッド(日本ポール社、No.8964)に該パッド体積の1.2倍容量滲みこませた。ドライオーブン内で70℃、40分間加温することにより乾燥させ、コンジュゲートパッドとした。また、必要に応じ、増感剤などの添加剤を添加する場合には、前記コンジュゲート溶液に必要量を添加した後、同様の操作を行えばよい。
【0050】
(3)抗Dダイマー抗体固定化メンブレンの作製
抗Dダイマーモノクローナル抗体(Clone# DD3B6、Sekisui Diagnostics社製)を1.5mg/mLとなるように2.5%スクロースを含む10mmol/Lトリス緩衝液(pH9.0)として調製し、また、コントロールラインの発色を目的として、フィブリン分解物を3mg/mLとなるように、2.5%スクロースを含む10mmol/Lトリス酸緩衝液(pH7.2)にて希釈調製し、ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、HF180)の短辺の一端の内側の位置に抗Dダイマーモノクローナル抗体、約5mmの間隔をあけてフィブリン分解物をイムノクロマト用ディスペンサー「XYZ3050」(BIO DOT社)を用いて0.8μL/cmとなるよう設定し、ライン状に塗布した。ドライオーブン内で40℃、45分乾燥し、抗体固定化メンブレンとした。なお、「フィブリン分解物」とは安定化フィブリンをプラスミンによる加水分解で調製され、抗Dダイマーモノクローナル抗体を感作したコンジュゲートがフィブリン分解物と結合することで発色し、イムノクロマト試薬の性能を担保するためのコントロールラインを呈する。
【0051】
(4)サンプルパッドの作製
グラスファイバー製パッド(Lydall社)を適宜必要な大きさにカットして使用した。
【0052】
(5)イムノクロマトグラフィー用テストストリップの作製
プラスチック製粘着シート(a)に上記抗体固定化メンブレン(b)を貼り、展開上流部側に抗D−ダイマー抗体(c)、次いでフィブリン分解物(d)の順に塗布部を配置し、さらに3rd Pad(e)を装着した。次いで、上記2)で作製したコンジュゲートパッド(f)を配置装着し、さらにこのコンジュゲートパッドに重なるように上記4)で作製したサンプルパッド(g)を配置装着し、反対側の端には吸収パッド(h)を配置装着した。このように各構成要素を重ね合わせた構造物に切断してイムノクロマトグラフィー用テストストリップを作製した。該テストストリップは、アッセイの際、プラスチック性の専用のハウジング(サンプル添加窓部及び検出窓部を有する、
図1中図示せず)に格納・搭載し、イムノクロマトテストデバイスの形態にした。
図1にイムノクロマトグラフィー用テストストリップの模式構成図を示した。
【0053】
(6)測定感度ならびに測定範囲の検討
上記の7処方のコンジュゲートを用いた各イムノクロマトグラフィー用テストストリップにより、D−ダイマーの測定範囲を検討した。検体は、フィブリン分解物を市販ヒトクエン酸血漿に添加し、0.6、1.5、 5.3、10.7、および21.8μg/mLの各濃度水準の検体を調製した。各検体について120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA−1000(浜松ホトニクス社)を用いて10分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した。
(7)試験結果及び考察
結果を
図2に示す。BSAと非生物由来成分を用いてブロッキングした処方2〜処方7では、いずれもBSAのみを用いてブロッキングした処方1と同等あるいはそれ以上の感度を示した。
特に、処方2及び処方3においては、処方1に比べて顕著に高い感度を示した。また、処方4においては処方1に比べてより高いDダイマー濃度まで吸光度の増加が認められ、明らかに広い測定範囲を得ることができた。
詳細に述べると、処方6〜7では、高濃度域(20μg/mL)において処方1とほぼ同等の成績を示したが、低濃度域での吸光度の変化量(Δ吸光度)が小さくなっていた。この結果より、いずれの処方も条件を最適化することによって、低値側にも測定感度を調整することが可能であると推察する。
処方2〜処方7のいずれの処方も、それぞれ異なる感度と測定範囲となるのは、抗体感作後の金コロイド表面に吸着した各非生物由来成分の違いに起因すると考えられる。
非生物由来成分は、コンジュゲートの凝集を引き起こすため(試験例1)、従来ブロッキング剤としての使用には不向きであると考えられていたが、発明者らは、非生物由来成分が持つ感度調整および測定範囲拡大の作用を新たに見出し、免疫学的測定法に好適に使用可能であることを示した。
【0054】
〔実施例2〕本発明のコンジュゲートを用いた測定2
生物由来成分と非生物由来成分の両成分で金コロイド表面をブロッキングした場合の感度ならびに測定レンジについて検討した。
1.本発明のイムノクロマトデバイスの作製
(1)試験方法
(i)抗Dダイマー抗体感作コンジュゲートの調製
1 OD/mLの金コロイド溶液(pH7.5)20mLに対し、10mMトリス酸緩衝液(pH7.5)で80μg/mLに調製した抗Dダイマーモノクローナル抗体(Clone#672102)を1mL添加し、室温で10分間撹拌した。これらの金コロイドと抗体との混合液に対し、非生物由来の成分であるブロッキング剤を1mL添加した後、室温にて5分間攪拌した。さらに生物由来のブロッキング剤を1mLまたは2mL添加した後、室温にて5分間攪拌した。この際添加したブロッキング剤の組み合わせと添加量を表3に示した。攪拌後、10℃にて、11900×gで45分間遠心した。上清を除去した後、得られた沈渣に、20mM トリス緩衝液(pH7.2)を800μL添加し、それぞれのコンジュゲートを懸濁し、抗Dダイマー抗体感作コンジュゲートとした。
【0055】
【表3】
【0056】
(ii)イムノクロマトデバイスの作製
(i)で作成した抗Dダイマー抗体感作コンジュゲートをそれぞれ用いて、実施例1の記載と同様の方法にてイムノクロマトデバイスを作製した。
(iii)測定感度ならびに測定範囲の検討
(ii)の12処方の各イムノクロマトデバイスにより、Dダイマーの測定感度ならびに測定範囲を検討した。検体は、フィブリン分解物を市販ヒトクエン酸血漿に添加し、0.75、 1.4、 5.0、8.5、および16.0μg/mLの各濃度水準の検体を調製した。各検体について120μLをテストデバイスのサンプルパッド窓部に添加し、イムノクロマトリーダーICA−1000(浜松ホトニクス社)を用いて10分後のテストデバイスの検出窓部の反射光強度を測定した。
(2)試験結果及び考察
結果を
図3に示す。N102と各生物由来成分を用いてブロッキングした処方9〜処方14では、いずれもBPFのみを用いてブロッキングした処方8と同等あるいはそれ以上の感度を示した。また、各非生物由来成分とBPFを用いてブロッキングした処方15〜19でも、いずれもBPFのみを用いてブロッキングした処方8と同等あるいはそれ以上の感度を示した。
特に、処方12及び処方16においては、処方8に比べて顕著に高い感度を示した。また、処方8と比較して、処方11,12及び処方15〜19では、高濃度域においても吸光度の変化量(Δ吸光度)の増加が認められ、明らかに広い測定範囲を得ることができた。
詳細に述べると、処方11〜12では、全濃度域において処方8より高い測定値示した。この結果より、条件を最適化することによって、高値側にも測定感度を調整することが可能であると推察する。
処方9〜処方19のいずれの処方も、それぞれ異なる感度と測定範囲となるのは、抗体感作後の金コロイド表面に吸着した各非生物由来成分の違いに起因すると考えられる。
【0057】
〔実施例3〕ブロッキングの順序
非生物由来成分によるブロッキング剤ならびに生物由来成分によるブロッキング剤の添加順による影響について検討した。
・ 試験方法
抗Dダイマー抗体感作コンジュゲートの調製における各ブロッキング剤の添加順を、表4の組み合わせとした3処方のイムノクロマトデバイスを作製した。ブロッキング方法以外は実施例2と同様の方法に従った。その後、測定感度ならびに測定範囲について、実施例2と同様に検討した。
【0058】
【表4】
【0059】
(2)試験結果及び考察
結果を
図4に示す。各処方はいずれも同等の感度を示した。本発明の効果はブロッキングの順序に係らず得られるものである。当業者であれば、アッセイに用いる他の構成要素との組み合わせによって、適切な添加順を選択することができる。
【0060】
〔実施例4〕使用可能濃度範囲
各ブロッキング剤の使用可能な濃度範囲を検討した。
(1)試験方法
抗Dダイマー抗体感作コンジュゲートの調製における各ブロッキング剤の添加量(添加後濃度)の組み合わせを表5に従った以外は、実施例2と同様の方法で測定を行った。
【0061】
【表5】
【0062】
(2)試験結果及び考察
図5に示すように、各ブロッキング剤は、非生物由来成分0.1〜15.0%、生物由来成分0.1〜10%の範囲で使用可能であることがわかった。
また、生物由来成分に対する非生物由来成分の比率に着目すれば、当該比率を上げることによって、感度を低くできることがわかる。具体的には、当該比率は処方24が最も低く(1/10)、処方23(1倍)、処方26(1.5倍)、処方25(150倍)の順に高くなる。そして、この順序のとおりに、感度の低下がみられた。このように、上記結果と実施例1から、非生物由来成分の種類の選択と、非生物由来成分物と生物由来成分との比率の選択をすることでは、測定感度の調整をすることができることがわかる。
【0063】
〔実施例5〕対照法との相関性
Dダイマーの測定方法として既に確立されているラテックス凝集免疫比濁法(LTIA法)を対照法とし、相関性を検討した。
(1)試験方法
実施例2における処方8ならびに処方9のイムノクロトデバイスを用い、29例のヒト由来クエン酸血漿を実施例2と同様の方法で測定した。対照法はナノピアDダイマー(積水メディカル社製)を用い、7170形自動分析装置(日立ハイテクノロジー社製)により各クエン酸血漿中のDダイマーの濃度を測定した。処方8ならびに処方9における測定値と対照法における測定値との関係について、それぞれスピアマンの順位和検定により統計処理して相関係数を求めた。すなわち、対照法、処方8そして処方9の測定値に、それぞれ小さい順に順位をつけ、対照法の順位と各処方の順位との相関係数を算出した。
(2)試験結果及び考察
結果を表6に示す。各処方と対照法の測定値の挙動(順位)は、処方8のイムノクロマトデバイスと比較して、処方9のイムノクロマトデバイスの方が良好な相関を示した。すなわち、本発明の方法で作製したイムノクロマトデバイスを用いれば、測定感度の調整と測定範囲の拡大が可能なだけでなく、より精度の高い測定が可能であることが示された。
【0064】
【表6】