(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
コンピュータのポインティング・デバイスは、ユーザの移動操作に応じて画面に表示するマウス・ポインタ(マウス・カーソル)を移動させる移動信号を生成し、選択操作に応じてマウス・ポインタの位置に対する選択信号を生成する。ポインティング・デバイスには、マウスまたはタッチ・パッドなどの他にポインティング・スティックがある。ポインティング・スティックは、トラック・ポイント(登録商標)とも呼ばれキーボードのキーの間に設けられる。ポインティング・スティックは、指をホーム・ポジションに置いたまま操作できること、マウスのように操作スペースを必要としないこと、電車や自動車などで膝の上でコンピュータを保持しながら片手でも操作し易いことなどの理由で主としてノートブック型パーソナル・コンピュータ(ノートPC)に採用されている。
【0003】
ポインティング・スティックの検出原理として圧力センサ式と歪みゲージ式が知られている。歪みゲージ式のポインティング・スティックは、操作ポストをキーボードの面に水平な方向に押圧してマウス・カーソルを移動させるための力を加える。ポインティング・スティックにおける選択信号は、通常、マウス・ポインタと組み合わせてキーボードの手前に設けた機械式のマウス・スイッチで生成する。マウス・スイッチは、机上で移動させて使用するマウスに相当する2個または3個のスイッチを備えている。
【0004】
歪みゲージ式のポインティング・スティックの中には、操作ポストを垂直方向に押圧して選択信号を生成しているものがある。コントローラは、歪みゲージの抵抗の変化から生成した信号からポストに対する垂直方向の押圧を認識したときに、移動信号ではなく選択信号を生成する。特許文献1は、歪みセンサと圧力センサを備えるポインタを開示する。操作ツマミを画面上の目的のファイルに向けて傾斜させると、ポストの傾きを歪みセンサが検出して傾斜信号を生成する。
【0005】
操作ツマミを放すとポストは垂直方向の原点位置に復帰し、つぎに操作ツマミを下方向に押圧すると、操作辺の先端が押圧センサの第1接片を撓曲させて押圧信号を生成する。同文献には、第1接片の撓曲時にユーザが第1接片の凹む手応え(クリック感)を知覚することが記載されている。特許文献2は、垂直方向の操作力をX−Y平面方向のカーソル移動速度に反映させて操作性を向上させたポインティング・デバイスを開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
機械式のマウス・スイッチはクリック感があるため、ユーザは指の触覚で選択信号の生成を知覚できるが、操作ポストの押圧を歪みゲージの信号が検出するポインティング・スティックでは、ユーザが画面の変化をみないと選択信号が生成されたタイミングを認識できないことや、操作ポストを垂直に押圧する際に水平方向の力の成分が発生してマウス・カーソルが移動したりするためあまり使用されてない場合が多い。特許文献1のポインタは歪みゲージに加えて圧力センサが必要になるためコスト増の原因や薄型化の障害になったりする。
【0008】
また、このようなポインティング・スティックで選択信号と移動信号を同時に生成してドラック&ドロップ操作をするには、選択信号を出力しながら移動信号を生成する必要がある。操作ポストに対するこの操作は難しいため、ポインティング・デバイスが生成した選択信号を一旦システムが保持しておき、その間に生成された移動信号でマウス・ポインタが指示するオブジェクトを移動させる必要がある。
【0009】
この操作は慣れたユーザにとって手間がかかるため、機械式のマウス・ボタンを押下して選択操作をしながら操作ポストを操作してマウス・ポインタを移動させることも行われている。しかし、片手でマウス・ボタンと操作ポストを同時に操作することは初心者にとって容易ではない。マウス・ボタンと操作ポストを別々の手で操作する方法もあるが、一方の手で筐体を保持しながら片手で操作する場合はドラック&ドロップ操作ができなくなる。
【0010】
そこで本発明の目的は、選択操作の操作性を向上したポインティング・デバイスを提供することにある。さらに本発明の目的は、選択信号の生成に対する操作感を指で知覚できるポインティング・デバイスを提供することにある。さらに本発明の目的は、1本の指で選択信号とマウス・ポインタの移動信号を同時に生成することができるポインティング・デバイスを提供することにある。さらに本発明の目的は、そのようなポインティング・デバイスを実装した携帯式コンピュータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ポインティング・デバイスは、第1の操作部と第1の操作部に対する押圧力により座屈する座屈部を備える操作キャップと、第1の操作部に加えられた押圧力を検出する複数の圧力検出部と、圧力検出部が検出した検出圧力に基づいて選択信号を生成する制御部とを有する。座屈部の座屈はユーザにキーボードのタクタイルに似た操作感を与えるため、ユーザは画面をみなくても選択信号が生成されたことを認識できる。操作キャップが第1の操作部と高さが異なる第2の操作部を有するときに、制御部は第2の操作部に対する押圧力を検出してマウス・カーソルの移動信号を生成するようにしてもよい。ユーザは高さの違いで第1の操作部と第2の操作部の操作を切り分けることができる。
【0012】
第1の操作部の周囲を囲うように第2の操作部を配置し、第1の操作部の操作位置を第2の操作部の操作位置よりも低くすることができる。座屈部はドーム状に構成することができる。制御部は、検出圧力が座屈部の座屈を示す圧力プロファイルを検出したときに選択信号を出力することができる。このとき制御部は、検出圧力の時間微分値から座屈部に座屈が発生したことを検出するようにしてもよい。制御部は、すべての圧力検出部の圧力が座屈部の座屈を示す圧力プロファイルを検出したときに選択信号を出力することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、選択操作の操作性を向上したポインティング・デバイスを提供することができた。さらに本発明により、選択信号の生成に対する操作感を指で知覚できるポインティング・デバイスを提供することができた。さらに本発明により、1本の指で選択信号とマウス・ポインタの移動信号を同時に生成することができるポインティング・デバイスを提供することができた。さらに本発明により、そのようなポインティング・デバイスを実装した携帯式コンピュータを提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1はノートPCに搭載する圧力センサ式のポインティング・デバイス200の概要を説明するための図である。
図1(A)は、ノートPCが実装するディスプレイ151と、キーボード・アセンブリ100だけを模式的に記載した図である。ディスプレイ151には、マウス・カーソル153が表示されている。
図1(B)はポインティング・デバイス200の周辺を示す側面図である。ポインティング・デバイス200は、キーボードのホーム・ポジションに指を置いて1本の人指し指で操作できるようにキーボード・アセンブリ100のほぼ中央に配置している。
【0016】
キーボード・アセンブリ100は平坦な金属プレート103の上面に各キーに対応するキー・スイッチが組み込まれたメンブレン・シート101が積層され、下面に防水シート105が貼り付けられている。金属プレート103には各キーが固定される。ポインティング・デバイス200は操作キャップ201、台座251、複数の圧力センサ圧力センサ231a〜231d(
図2)、および印刷回路基板(PCB)253を含む。台座251およびPCB253は金属プレート103に固定される。
【0017】
操作キャップ201の頂部は、キーの頂部とほぼ同じかそれらより低くすることができる。操作キャップ201は、周囲が3個のキーで囲まれており側面には指が入らないため頂部だけが押圧操作の操作面になる。以後、本明細書では、金属プレート103に平行な方向を水平方向といい、操作キャップ201がわずかに移動する上下方向を垂直方向ということにする。また、水平面にシャフト253(
図2)の中心を原点にしたX−Y座標を定義する。
【0018】
図2は、ポインティング・デバイス200の分解斜視図で、
図3は組み立てた状態の断面図である。
図3(A)は、圧力センサ231a、231cを含む位置においてシャフト253の中心を通る面で切断した断面図で、
図3(B)は圧力センサ231a〜231dを含まない位置においてシャフト253の中心を通る面で切断した断面図である。ポインティング・デバイス200は主として、操作キャップ201、ホルダー221、圧力センサ231a〜231dおよび台座251で構成している。
【0019】
操作キャップ201は、それぞれ水平面への投影が円形の内輪部201aと外輪部201bで構成している。内輪部201aと外輪部201bの円の中心は、シャフト253の軸に一致させている。ただし、内輪部201aと外輪部201bの平面形状は円形に限定する必要はない。操作キャップ201は一例として全体をシリコンゴムで製作している。操作キャップ201は、内輪部201aを弾力性がある材料で形成し、外輪部201bをプラスチックのような剛性の高い材料で形成することもできる。
【0020】
ポインティング・デバイス200の押圧操作をする部位として、内輪部201aの頂部は内操作部203aを含み、外輪部201bの頂部は外操作部203bを含む。点線で示したそれぞれの頂部を通過する水平面281、283の差が示すように、内操作部203aは、外操作部203bより低くしている。外輪部201bは半径方向に厚みをもたせることで、外操作部203bが押圧されたときに圧力を下方向に伝達できる程度の剛性を有する。内輪部201aは、内部に空洞204を含むドーム状に形成することで、内操作部203aを下方向に押圧したときに指に適度な反力を与えながら徐々に変形して降伏点を超えると急激に変形する座屈特性を有する。
【0021】
内輪部201aが座屈したときは指が感じる反力も急激に低下する。このときの内輪部201aが指に与える反力は、パンタグラフ式のキーボードのラバードームの操作感に類似する。パンタグラフ式のキーボードでは、ラバードームが座屈して急激に反力が低下する位置を少し越えた位置までキーが沈下したときにキー・スイッチが動作するようにしている。結果として、ユーザは、触覚で知覚した反力の急激な低下により、キー・スイッチの動作を知る。このときの操作感をキーボードではタクタイルと称している。ドーム構造を採用した内輪部201aは、内操作部203aの押圧操作に対してキーボードのタクタイルに相当する操作感を与える。
【0022】
ホルダー221は、一例としてプラスチック材料またはアルミニウム合金で形成しており、操作キャップ201を固定する貫通口221a〜221dと台座251のシャフト253と係合する貫通口221dを備えている。
図3(B)に示すように操作キャップ201は嵌合部201d、201eを含む4個の嵌合部が、組立時に貫通口221a〜221dと嵌合して操作キャップ201を台座251に固定する。
【0023】
ホルダー221は内操作部203aまたは外操作部203bに加えられた押圧力を圧力センサ231a〜231dに伝達する。台座251は、シャフト253が貫通口221dに挿入されてホルダー221を摺動可能に支持する。ホルダー221は、操作キャップ201に対する押圧位置に応じた圧力を圧力センサ231a〜231dに伝達する。
【0024】
台座251には、一例として4個の圧力センサ231a〜231dがシャフト253の軸を中心にして放射状に配置されている。圧力センサは3個以上であれば特に限定する必要はないが、スペースおよびコストなどの点では3個〜5個の範囲で選択することが望ましい。4個の圧力センサ231a〜231dが検出する検出圧力は、移動操作のためにシャフト253の軸から離れた位置にある外操作部203bが押圧されたときは、選択操作のためにシャフト253の軸に近い位置にある内操作部203aが押圧されたときよりも検出圧力の相違の程度が大きい。
【0025】
具体的には、圧力センサ231aの真上に近い位置で外操作部203bが押圧されたときは、圧力センサ231aの検出圧力が最大になり、それに圧力センサ231b、231dの検出圧力が続き、圧力センサ231cの検出圧力が最小になる。圧力センサ231aと231bの間の真上に近い位置で外操作部203bが押圧されたときは、圧力センサ231a、231bの検出圧力が最大になり、圧力センサ231d、231cの検出圧力が最小になる。これに対して内操作部203aが押圧されたときの検出圧力は相互の差が少ない。言い換えると内操作部203aは、シャフト253の中心から外れた位置が押圧されても、4個の圧力センサ231a〜231dの検出圧力は相互に類似するといえる。
【0026】
各圧力センサ231a〜231dは、立方体の筐体の内部に圧電素子を備え、検出軸の方向に沿ってロッドに加えられた圧力に対応する電圧信号を出力する。圧力センサ231a〜231dはすべて同一の特性のものを採用する。本実施例では圧力センサ231a〜231dのロッドがシャフト253の軸に対して同じ中心角で放射状に配置されている。
【0027】
図4は、外操作部203bを人指し指の腹で押圧してマウス・カーソル153の移動操作をするときの様子を示す図である。
図4(A)は断面図で、
図4(B)は平面図である。ユーザは、マウス・カーソル153を移動させる際には、外操作部203bのマウス・カーソル153の移動を意図する方向の部位を押圧する。人指し指を水平に近くなるように操作キャップ201の上に置くと、指の腹が円環状の外操作部203bの全体に触れる。内操作部203aは、外操作部203bよりも低くなっているため指の腹は内操作部203aには当たらない。この状態で、人指し指をX−Y平面上の任意の方向に傾斜させるように力を加えると、剛性の高い外輪部201bは、ホルダー221を介在して押圧された位置に応じた異なる圧力を各圧力センサ231a〜231dに伝達する。
【0028】
図5は、内操作部203aを人指し指の指先で押圧して選択操作をするときの様子を示す断面図である。
図5(A)は内輪部201aが座屈する前の状態を示し、
図5(B)は内輪部201aが座屈した後の状態を示している。内操作部203aを押圧するときは、人指し指の指先を垂直に近くなるように傾ける。このとき、指先が外操作部203bに当たらないような内径および形状で外操作部203bを製作しておく。内輪部201aは、押圧に応じて徐々に変形する。内輪部201aは指に変形の程度に応じた大きさの反力を伝える。
図5(B)のように内輪部201aが座屈したときに指が圧力の急激な変化を知覚する。このとき圧力センサ231a〜231dは内輪部201aの変形に応じた圧力の変化を検出する。
【0029】
内輪部201aは、外輪部201bに比べて半径が小さいため、内操作部203aに対する力点の位置が原点からずれたとしても4個の圧力センサ231a〜231dが検出する圧力の差は小さい。この特質と内輪部201aの座屈を利用して、本実施の形態では、移動操作および選択操作のいずれも圧力センサ231a〜231dが検出した圧力で行うことができる。座屈した内輪部201aは内操作部203aの圧力を解放すると元の形状に復元する。
【0030】
図6は、内操作部203aを押圧したときに圧力センサ231a〜231dが検出する圧力のプロファイルを示している。横軸は内操作部203aの沈下距離Lを示し、縦軸は検出圧力Pを示している。検出圧力Pは沈下距離Lが長くなるにしたがって大きくなり、座屈する降伏点の圧力Pmaxを過ぎると急激に低下する。その後さらに指を押し続けると圧力Pはさらに上昇する。最低圧力Pminは、内操作部203aまたは外操作部203bに対する意図する押圧操作があったことを示す圧力であるとともに、移動操作および選択操作が終了したことを判断するための圧力である。通常の選択操作では沈下距離Lを、押圧を開始してからの経過時間tに置き換えることができる。
【0031】
図7は、圧力センサ231a〜231dとPCB253が実装するロジック回路で構成した入力システム300の一例を説明するための機能ブロック図である。圧力計算部301は、各圧力センサ231a〜231dが出力するアナログの電圧信号からディジタルの圧力データを生成する。選択操作判定部303は、4個の圧力センサ231a〜231dの圧力データからユーザが移動操作をしていると判断したときは圧力データを移動信号生成部305に送り、選択操作をしていると判断したときは圧力データを選択信号生成部307に送る。
【0032】
選択操作判定部303は、すべての圧力センサ231a〜231dの検出圧力が最低圧力Pminより小さくなったときに、移動信号生成部305への圧力データの点号を停止し、選択信号生成部に解除信号を送る。移動信号生成部305は、選択操作判定部303から受け取った圧力データからマウス・カーソル153を移動させるためのカーソル移動信号を生成してシステム309に出力する。選択信号生成部307は選択操作判定部303から受け取った圧力データから選択信号を生成してシステム309に出力する。選択信号生成部307は選択操作判定部303から受け取った解除信号で選択信号の出力を停止する。システム309は、CPU、システム・メモリ、デバイス・ドライバ、およびオペレーティング・システムなどのノートPCのハードウェアおよびソフトウェア資源で構成する。なお、入力システム300の動作の詳細は、
図8のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
図8は、入力システム300の動作を説明するためのフローチャートである。ブロック401は押圧操作をしていない待機状態である。ブロック403で外操作部203bまたは内操作部203aの一方が押圧されたときに、圧力計算部301がいずれかの圧力センサ231a〜231dによる最低圧力Pmin(
図6)以上の圧力を検出する。圧力計算部301は、4個の圧力センサ231a〜231dの出力から計算した圧力データを選択操作判定部303に送る。
【0034】
最低圧力Pminは、マウス・カーソル153をゆっくりと移動させて微調整する場合の操作に支障をきたさないように十分に小さい値にする。ブロック405で選択操作判定部303は、圧力計算部301から受け取った圧力データから、今回の操作が外操作部203bに対する移動操作と内操作部203aに対する選択操作のいずれかを判断する。移動操作のために外操作部203bが押圧されたときの4個の圧力データは、2〜3個の圧力データが残り1個の圧力データに比べて大きかったり、2個の圧力データが他の2個の圧力データより大きかったりするいわゆる非類似性を示す。この場合は移動操作と判断してブロック451に移行する。
【0035】
内操作部203aが押圧されたときの圧力データは、4個の圧力センサの圧力プロファイルが
図6に示すように時間とともに上昇して相互に類似するいわゆる類似性を示す。選択操作判定部303は、圧力計算部301から受け取った4個の圧力データのそれぞれについて、所定のサンプリング間隔で検出圧力の時間微分値(ΔP/Δt)を計算する。つづいて、選択操作判定部303は4個の時間微分値(ΔP/Δt)を比較して、相互の圧力プロファイルの類似性を判断する。圧力プロファイルが類似しているときは選択操作と判断してブロック407に移行する。圧力プロファイルの類似性は、サンプリング時間ごとに4個の圧力データの絶対値を相互に比較して判断してもよい。
【0036】
移動操作と判断した選択操作判定部303は、ブロック451で4個の圧力データを移動信号生成部305に送る。移動信号生成部305は、4個の圧力データからシステム309がマウス・カーソル153の移動方向を決定するための信号と、単位時間当たりの移動量(移動速度)を決定するための移動信号を生成する。移動信号生成部305は、
図9に示すように、たとえば圧力センサ231a、231b、231c、231dがそれぞれ圧力P1、P2、P3、P4を検出したときに、各圧力センサ231a〜231dの座標と圧力データから合成ベクトルPsを計算する。
【0037】
移動信号生成部305は、合成ベクトルPsの方向からマウス・カーソル153の移動方向を示す信号を生成し、合成ベクトルPsの大きさから移動量(移動速度)を示す信号を生成することができる。移動量を示す信号は、単位時間当たりのパルス数として生成することもできる。移動信号生成部305は、移動方向を示す信号と移動量を示す信号をマウス・カーソル153の移動信号としてシステム309に出力する。
【0038】
選択操作と判断した選択操作判定部303は、ブロック407で4個の圧力データを選択信号生成部307に送る。選択信号生成部307は、4個の圧力データのそれぞれについて
図6に示すように所定のサンプリング間隔で検出圧力の時間微分値(ΔP/Δt)を計算する。時間微分値(ΔP/Δt)は、検出圧力Pが降伏点Pmaxに近付くに従って小さくなり、降伏点でゼロになり、その後マイナス値になる。選択信号生成部307は、複数の圧力センサの圧力データまたはすべての圧力センサの圧力データから計算した検出圧力の時間微分値(ΔP/Δt)がゼロまたはマイナスの所定値になったときに、選択条件が成立したと判断する。
【0039】
選択条件の成立は、内輪部201aが座屈したことに相当する。ブロック409で選択信号生成部307は、システム309に選択信号を出力する。選択信号生成部307は、選択操作判定部303から解除信号を受け取るまで選択信号を出力する。選択操作判定部303が、ブロック405で誤って選択操作と判断する可能性も残る。しかし、通常のマウス・カーソル153の移動操作において、すべての検出圧力の時間微分値(ΔP/Δt)がほぼ同じタイミングでゼロまたはマイナスの所定値を示すように外操作部203bを押圧することはほとんどないと考えてよい。
【0040】
したがって、選択信号生成部307は外操作部203bに対する移動操作が行われたときに誤って選択信号を出力する可能性は低い。このように選択信号は、内操作部203aの押圧操作だけによって生成することができるとともに、ユーザは内輪部201aの座屈を反力の変化としてタクタイルを指で知覚して、ポインティング・デバイス200が選択信号を生成したことを認識する。ユーザは、ディスプレイ151をみて選択信号が生成されたことを認識する必要がない。
【0041】
システム309は選択信号を、たとえば、マウス・カーソル153が指示するオブジェクトの選択、オブジェクトの移動(ドラッグ&ドロップ)、画面のスクロール、または拡大縮小などのいずれに利用するかをあらかじめ定義してことができる。入力システム300が選択信号と移動信号を同時に生成して画面のスクロールやドラッグ&ドロップをする場合は、選択信号生成部307が選択信号を出力し続けながら外操作部203bが押圧されたことに応じて移動信号生成部305が移動信号を出力することができる。
【0042】
選択信号を出力しながら、移動信号を出力するために、ユーザはタクタイルを知覚したあとに一旦内操作部203aから指を放して、
図4のように外操作部203bを押圧する。このとき、検出圧力が最低圧力Pminより低下して選択条件が解除されないように選択操作判定部303は指の姿勢の変化に必要な極短時間だけ解除信号の転送を遅らせることができる。あるいは、選択信号が解除されないようにユーザが指の腹で外操作部203bの一部を押圧しながら
図4の位置まで指を移動させるようにしてもよい。このとき指の移動の際に移動信号が生成されないように選択操作判定部303は移動信号生成部305に対する圧力データの転送を遅らせることができる。
【0043】
ブロック411で選択操作判定部303がブロック405と同じ手順で移動操作があったことを判断したときはブロック453に移行する。ブロック453で選択操作判定部303は、4個の圧力データを移動信号生成部305に送る。移動信号生成部305はシステム309に移動信号を出力する。選択信号生成部307は、選択条件が解除されないかぎり選択信号の出力を継続するため、システム309は移動信号と選択信号を同時に受け取ってブロック413に移行する。
【0044】
ブロック413で、ユーザが内操作部203aおよび外操作部203bに対する押圧を停止すると、すべての圧力センサ231a〜231dの圧力が最低圧力Pminよりも小さくなる。選択操作判定部303は、すべての圧力センサの圧力データが最低圧力Pminよりも小さくなったときに移動信号生成部305に対する圧力データの転送を停止し、かつ、選択信号生成部307に選択条件が解除されたことを示す解除信号を送る。解除信号を受け取った選択信号生成部307は、ブロック415で選択信号の出力を停止してブロック403に戻る。ブロック413で選択操作および移動操作が停止されない間はブロック409に戻って選択信号生成部307は選択信号の出力を継続し、ブロック453で移動信号生成部305は移動信号の出力を継続する。
【0045】
図10は、歪みゲージ式のポインティング・デバイス600に本発明を適用する例を説明するための図である。
図10(A)は斜視図で
図10(B)は断面図である。セラミック製の操作ポスト601には、中間部材603を介してゴム製のキャップ605が嵌め込まれている。操作ポスト601は、センサPCB607に接着剤で貼り付けられている。センサPCB607は、中央に開口部が形成されたスペーサ611を介在してシールド・カバー609に取り付けられている。センサPCB607の裏側には直交するように4個の歪みゲージ621が貼り付けられている。
【0046】
スペーサ611により形成された空間により、キャップ605を通じて操作ポスト601に水平方向に加えられた力でセンサPCB607が歪み、歪みゲージ621の電気抵抗が変化する。歪みゲージ621はセンサPCB607の裏側に形成された端子パターン623に接続される。シールド・カバー609は、キーボード・アセンブリ100の底面を構成する金属プレート103(
図1)に取り付けられる。スペーサ611が形成する空間には、金属のプレートでドーム状に形成されたドーム・プレート631を配置している。
【0047】
ドーム・プレート631はキャップ605を通じて垂直方向に押圧された操作ポスト601から力を受けて変形しながら指に反力を伝える。ドーム・プレート631は、押圧力が所定値を超えると座屈し指を放すと復元する。このとき変化する4個の歪みゲージ621が検出する電気抵抗の特徴から選択信号を生成する。このとき、ユーザはドーム・プレート631の座屈による圧力の変化を指で知覚して選択信号が生成されたことを認識する。
【0048】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。