特許第5955922号(P5955922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三洋化成工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955922
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/28 20060101AFI20160707BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20160707BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C08G18/28
   A61B6/00 390A
   A61K49/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-226592(P2014-226592)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2015-110770(P2015-110770A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-232966(P2013-232966)
(32)【優先日】2013年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河野 正一郎
(72)【発明者】
【氏名】乾 真也
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−310610(JP,A)
【文献】 特開2005−272501(JP,A)
【文献】 特開2007−143946(JP,A)
【文献】 特開平11−262487(JP,A)
【文献】 特開昭61−005834(JP,A)
【文献】 特開2006−117785(JP,A)
【文献】 特開2013−151517(JP,A)
【文献】 特開平10−170454(JP,A)
【文献】 特開平01−202683(JP,A)
【文献】 特開昭52−100785(JP,A)
【文献】 特開2010−017324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)および有機フィラー(c)を含有するポリウレタン樹脂形成性組成物を反応させてなるポリウレタン樹脂組成物であって、該(a)が、ひまし油および多価アルコールの炭素数2〜3のアルキレンオキサイド付加物であって、該(b)が、脂肪族ポリイソシアネート(b2)および/または脂環式ポリイソシアネート(b3)であって、電子密度(e)が3.20×1023〜3.50×1023個/cm3である水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂組成物(Q)。
【請求項2】
(c)がポリオレフィン樹脂微粒子である請求項1記載の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂組成物
【請求項3】
(a)、(b)および(c)の合計重量に基づく、各含有量が(a)が30〜65%、(b)が15〜45%、(c)が5〜50%である請求項1または2記載の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂組成物
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂組成物(Q)を成形してなる水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂組成物成形品(Z)。
【請求項5】
密度が、0.95〜1.05g/cm3である請求項4記載の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂組成物成形品。
【請求項6】
タイプDデューロメーターで測定される硬度が、40〜90である請求項4または5記載の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂組成物成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水等価ファンム材用ポリウレタン樹脂に関する。さらに詳細には、水に対して等価性が高く、切削加工性が良好で、取り扱いの容易な水等価ファントム材に関する。
【背景技術】
【0002】
人体体軟組織に最も類似した物理的特性(電子密度及び素材密度)を有するファントム材料として自然界で簡単に得られる物質は水であるが、液体であるため取り扱いに不便であるので、従来より種々の水等価な固体ファントム材料が開発されている。この種の固体ファントム材料としては例えば、パラフィンを主成分とする材料、エポキシ樹脂を主成分とする材料が知られている。また、エポキシ樹脂、炭酸カルシウムおよび、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体のマイクロバルーンからなる材料が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−202683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パラフィンを主成分とする材料は、高温下での使用に適さず、破損しやすいという問題点がある。また、エポキシ樹脂で構成されている材料は、樹脂の特性として固くて脆いので、切削加工時や取り扱い時に「欠け」が生じやすく、特に厚みの薄いファントムを使用する場合には、割れてしまうなど取り扱いに注意が必要であった。
本発明の目的は、水等価性が高く、機械強度および柔軟性に優れる水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に到達した。すなわち、本発明は、ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)および有機フィラー(c)を含有するポリウレタン樹脂形成性組成物を反応させてなるポリウレタン樹脂であって、電子密度(e)が3.20×1023〜3.50×1023個/cm3である水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂(Q);該樹脂(Q)を成形してなる水等価ファントム材用成形品である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂は、下記の効果を奏する。
(1)基準組織(水)に対して等価性が高い。
(2)機械的強度および柔軟性に優れ、「割れ」や「欠け」が起こりにくく取り扱いが容易である。
(3)切削加工性が良好である。
なお、機械的強度は後述の衝撃強度で、柔軟性は後述の曲げ弾性率で、それぞれ評価できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[ポリオール(a)]
本発明におけるポリオール(a)は、下記の(a1)、(a2)およびこれらの混合物が挙げられる。
(a1)ポリオキシアルキレンポリオール
出発物質(例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコール、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トルエンジアミンなどのアミン、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の多価フェノール等およびそれらの混合物)に、アルキレンオキサイド(以下AOと略記する。)を付加した化合物であり、付加されるAOとしては炭素数2〜8のものが好ましく、プロピレンオキサイド(以下POと略記する)、エチレンオキサイド(以下EOと略記する)、ブチレンオキサイド(以下BOと略記する)等が挙げられ、2種以上用いてもよいが、好ましいものはPO、EO、およびPOとEOの混合である。AOの付加モル数は特に限定されないが、通常1〜20モル、好ましくは2〜10モルである。
【0008】
(a2)ポリエステルポリオール
前記の多価アルコール[とくに、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−または1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;前記ポリエーテルポリオール(とくにジオール);またはこれらとグリセリン、トリメチロールプロパン等の3価又はそれ以上の多価アルコールとの混合物]と、前記ポリカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体〔酸無水物、低級アルキル(アルキル基の炭素数:1〜4)エステル等〕(例えば、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テレフタル酸ジメチル)とのポリエステルポリオール、または前記カルボン酸無水物およびAOとの縮合反応物;それらのAO(EO、PO等)付加物;ポリラクトンポリオール、例えば前記多価アルコールを開始剤としてラクトン(ε−カプロラクトン等)を開環重合させることにより得られるもの;ポリカーボネートポリオール、例えば前記多価アルコールとアルキレンカーボネートとの反応物;等が挙げられる。そのほかに、天然由来のポリエステルポリオールとして、ひまし油、ひまし油誘導体、およびそれらの混合物を含むものがあげられる。ひまし油とは、トウダイグサ科トウゴマ)の種子から抽出された天然植物油のことを示すが、ウレタン反応の阻害や、副反応の発生を少なくするため工業原料用として精製されていることが好ましく、水分は0.1%以下、酸価は1.0以下であることが好ましい
また、ひまし油誘導体とは、ひまし油に他の化合物を反応させたひまし油誘導体のことであり、分子量は1,000〜1,500が好ましい。ひまし油誘導体としては、ひまし油に上記AOを付加した化合物が挙げられる。AOとしては炭素数2〜8のものが好ましく、上記EO、PO、BO等が挙げられ、2種以上用いてもよい。
【0009】
上記(a)のうち、電子密度を小とし、後述に規定する電子密度にし易いという観点からポリエステルポリオール(a2)の中でも脂肪酸のポリエステルポリオールであるひまし油およびひまし油誘導体を主に使用することが好ましい。
【0010】
ポリオール(a)の数平均分子量は、樹脂強度と柔軟性のバランスの観点から、通常200〜3,000、好ましくは250〜2,000、より好ましくは300〜1,500である。(a)の平均官能基数は、通常2〜8、好ましくは2〜6である。(a)の平均水酸基価は、通常56〜900、好ましくは150〜700である。
上記数平均分子量は、通常ポリオール(a)の水酸基価と、ポリオールの価数から算出される。本発明における水酸基価は、JIS K0070(1992年版)に規定の方法で測定される。
【0011】
[ポリイソシアネート(b)]
本発明におけるポリイソシアネート(b)としては、イソシアネート基を分子内に2個以上有する化合物であればとくに限定されない。(b)としては、芳香族ポリイソシアネート(b1)、脂肪族ポリイソシアネート(b2)、脂環式ポリイソシアネート(b3)、芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)およびこれらの変性物(b5)(例えば、ウレタン基、カルボジイミド基、アロファネート基、ウレア基、ビューレット基、イソシヌアレート基、またはオキサゾリドン基含有変性物など)が挙げられる。(b)は1種でも、2種以上を併用してもよい。
【0012】
芳香族ポリイソシアネート(b1)としては、炭素数(NCO基中の炭素を除く;以下のイソシアネートも同様)6〜16の芳香族ジイソシアネート、炭素数6〜20の芳香族トリイソシアネートおよびこれらのイソシアネートの粗製物などが挙げられる。具体例としては、1,3−および/または1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−および/または2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4’−および/または4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(粗製MDI、またはポリメリックMDI)、などが挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネート(b2)としては、炭素数6〜10の脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。具体例としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどが挙げられる。
脂環式ポリイソシアネート(b3)としては、炭素数6〜16の脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。具体例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
芳香脂肪族ポリイソシアネート(b4)としては、炭素数8〜12の芳香脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。具体例としては、キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。変性ポリイソシアネートの具体例としては、ウレタン変性MDI、カルボジイミド変性MDIなどが挙げられる。
【0013】
上記(b)のうち、電子密度を小とし、後述に規定する電子密度にし易いという観点から脂肪族ポリイソシアネート(b2)、脂環式ポリイソシアネート(b3)を使用することが好ましい。ポリイソシアネート(b)中のイソシアネート基含有率は、10〜40重量%が好ましい。
【0014】
[有機フィラー(c)]
本発明における有機フィラー(c)は一般的に使用されている有機フィラーに用いられるものであればすべて使用でき、具体的にはポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の合成有機物微粒子、木材粉、竹粉、おが粉、紙パルプ、紙パルプから得られる木質精製セルロース粉末等の天然有機物微粒子が挙げられる。
上記(c)のうち、電子密度を小とし、後述に規定する電子密度にし易いという観点から、好ましいのはポリエチレンおよびポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂微粒子、さらに好ましいのはポリプロピレン微粒子である。
(c)の体積平均粒子径(レーザー回折式粒度分析計による測定値)については特に限定されないが、好ましくは0.1〜500μm、さらに好ましくは1〜300μm、とくに好ましくは5〜100μmである。(c)の粒子径が0.1〜500μmであると、粒子が成形品の外面に位置しても表面外観を損ねることがなく、また粉体取り扱い時や製品切削時に微細粉塵の舞い上がりが少ないため作業環境上好ましい。
【0015】
[ポリウレタン樹脂形成性組成物]
本発明におけるポリウレタン形成性組成物は、前記ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)および有機フィラー(c)を含有してなる。(a)、(b)および(c)の合計重量に基づく、各含有量は、水等価性(電子密度)、機械的強度の観点から、
(a)は好ましくは30〜65%、さらに好ましくは35〜60%;(b)は好ましくは15〜45%、さらに好ましくは20〜40%;(c)は好ましくは5〜50%、さらに好ましくは10〜45%である。
水等価(後述に規定する電子密度)にするためには、有機フィラー(c)の電子密度を考慮して、(c)の種類、量により適宜調整できる。また、後述の成形品の密度についても有機フィラー(c)の種類、量により適宜調整できる。
【0016】
前記ポリウレタン樹脂形成性組成物には本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、一般的にウレタン樹脂製造に用いられる、ウレタン化触媒(F)、添加剤(G)等を含有してもよい。
【0017】
[ウレタン化触媒(F)]
本発明におけるウレタン化触媒(F)としては、ウレタン化反応を促進する通常のウレタン化触媒はすべて使用でき、例として、トリエチレンジアミン、ビス(N,N−ジメチルアミノ−2−エチル)エーテル、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンのPO付加物などの3級アミンおよびそのカルボン酸塩、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、スタナスオクトエート等のカルボン酸金属塩、ジブチルチンジラウレート等の有機金属化合物が挙げられる。
上記ウレタン化触媒(F)の添加量は、ポリウレタン樹脂形成性組成物の重量に基づいて、通常3%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
【0018】
[添加剤(G)]
本発明における添加剤(G)としては、脱水剤(G1)、滑剤(G2)、可塑剤(G3)、チクソ性付与剤(G4)、発泡剤(G5)、紫外線吸収剤(G6)、老化防止剤(G7)、抗酸化剤(G8)、着色剤(G9)、難燃剤(G10)、防黴剤(G11)、抗菌剤(G12)、分散剤(沈降防止剤)(G13)、消泡剤(G14)、界面活性剤(G15)からなる群から選ばれる1種または2種以上の添加剤が挙げられ、各種(G)の合計添加量はポリウレタン樹脂形成性組成物の重量に基づいて通常5%以下、好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0019】
[水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂(Q)]
本発明の水等価ファントム用ウレタン樹脂(Q)は、前記ポリオール(a)、ポリイソシアネート(b)および有機フィラー(c)を含有するポリウレタン樹脂形成性組成物を反応させてなるポリウレタン樹脂であって、電子密度(e)が、3.20×1023〜3.50×1023個/cm3、さらに好ましくは3.31×1023〜3.41×1023個/cm3である。該(e)が範囲外であると、(Q)の水等価性が劣るものとなる。本発明において電子密度(e)は次式により求められる。

電子密度(e)=(N)×(X)×[樹脂の密度(d)]/(Y)
但し、
(N):アボガドロ定数、6.02×1023、(単位:/mol)
(X):電子数、[(Q)中の各原子の電子数×(Q)中の各原子の割合]の総和、
(単位:個)
(Y):原子量、[(Q)中の各原子の原子量×(Q)中の各原子の割合]の総和、
(単位:g/mol)
【0020】
上記ポリウレタン樹脂(Q)の製造方法としては、とくに限定されないが、例えば、ポリオール(a)を含有してなるポリオール成分と、ポリイソシアネート(b)を含有してなるポリイソシアネート成分とを混合して混合液を得て、必要により加熱(例えば100℃)することにより、反応、硬化させて(Q)を得る方法が挙げられる。該製造方法においては、有機フィラー(c)は、ポリオール成分、ポリイソシアネート成分、それぞれに含有させることが好ましく、またウレタン化触媒(F)はポリオール成分に含有させることが好ましい。
【0021】
また、ポリウレタン樹脂(Q)の製造条件は特に制限されず、公知の条件が適用される。ポリウレタン樹脂の製造に際してのイソシアネート指数[(NCO基/活性水素原子含有基)の当量比×100](NCOインデックス)は、好ましくは70〜125、さらに好ましくは75〜120、とくに好ましくは85〜115である。
【0022】
本発明のポリウレタン樹脂(Q)の製造法の具体的な一例を示せば、下記の通りである。まず、ポリオール(a)に有機フィラー(c)、ウレタン化触媒(E)、添加剤(G)等を配合する。同時に、ポリイソシアネート(b)に有機フィラー(c)、添加剤(G)等を配合する。次いでポリウレタン発泡機または混合機を使用し、ポリオール配合液とポリイソシアネート配合液とを高速混合し、その混合液を反応・硬化させて、必要により加熱(例えば100℃)することによりポリウレタン樹脂(Q)を得る。
【0023】
[水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂成形品(Z)]
本発明の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂成形品(Z)は前記ポリウレタン樹脂(Q)を成形してなる。
すなわち、該(Q)を、必要により切削、切断、裁断、研摩等の加工を行うことにより、水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂成形品(Z)が得られる。また、前記製造方法におけるポリオール成分、ポリイソシアネート成分からなる混合液を金型等に注型し、その混合液を反応・硬化させて必要により加熱することによりポリウレタン樹脂(Q)を得て、これを水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂成形品(Z)としてもよい。
【0024】
ポリウレタン樹脂成形品(Z)の密度(単位:g/cm3)は、水の25℃における密度が1.00であるため、水等価性の観点から好ましくは0.95〜1.05である。
また、ポリウレタン樹脂成形品(Z)のタイプDデューロメーターによる硬度は、成形品の寸法精度の観点および切削加工性の観点から、好ましくは40〜90、さらに好ましくは50〜85、とくに好ましくは60〜80である。硬度が40以上であれば、切削加工時および取り扱い時の成形品の変形が少なく成形品の寸法精度を保つことができ、90以下であれば、切削抵抗が小さいので切削速度を上げることができ、切削加工性が良好である。
【0025】
本発明の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂(Q)、および該(Q)を成形してなる水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂成形品(Z)は、基準組織(水)に対して等価性が高く、強度と柔軟性を併せ持つウレタン樹脂成形品であるため、切削加工時・取り扱い時の「欠け」、「割れ」が少なく、切削加工性が良好で、取り扱いの容易な水等価ファントム材であり、とりわけ放射線治療用水等価ファントム材に最適である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において部は重量部を表す。なお、以下において、実施例7は参考例1とする。
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において部は重量部を表す。なお、以下において、実施例7は参考例1とする。
【0028】
<ポリイソシアネート(b)>
ポリイソシアネート(b−1):
イソホロンジイソシアネート[「VESTANAT IPDI」、
EVONIC(株)製、イソシアネート基含有率37.6重量%、比重1.06]
ポリイソシアネ−ト(b−2):
ポリメリックMDIイソシアネート[「ルプラネートM−20S」、
BASFジャパン(株)製、イソシアネートイソシアネート基含有率31重量%、
比重1.24]
【0029】
<有機フィラー(c)>
有機フィラー(c−1):
ポリプロピレン粉末[「セラフラワー915」ビックケミージャパン(株)製、
体積平均粒子径約34μm、真比重0.90]
有機フィラー(c−2):
ポリエチレン粉末[「フロービーズ LE−1080」、住友精化(株)製、
体積平均粒子径約11μm、真比重0.92]
有機フィラー(c−3):
セルロース粉末[「W300G」、日本製紙ケミカル(株)製、
平均繊維長約20μm、真比重1.50]
【0030】
<ウレタン化触媒(F)>
ウレタン化触媒(F−1):
2−エチルヘキサン酸ビスマス塩[「ネオスタン U−600」、日東化成(株)製]
<添加剤(G)>
脱水剤(G−1):
モレキュラーシーブ[「モレキュラーシーブ3A−Bパウダー」、
ユニオン昭和(株)製]
【0031】
実施例1〜7および比較例1〜4
市販の真空攪拌脱泡機を用いて、表1に示す重量部のポリオール成分とポリイソシアネート成分とを真空下にて混合/攪拌した。装置の回転数は300rpm、攪拌時間は15分であった。混合液を、タテ300mm×ヨコ300mm×高さ100mmの大きさの金型に注入し、硬化炉にて、100℃、10時間硬化させることにより、当該ポリウレタン樹脂成形品を得た。
なお、比較例1では市販の水等価ファントム材用エポキシ樹脂成形品を用いた。
【0032】
得られたポリウレタン樹脂成形品について、下記に示す測定方法で物性を測定した。ウレタン反応に用いた各実施例と評価結果について表1に示した。
<試験方法>
(1)密度(g/cm3
直方体形状の成形品から心部から、200mm×100mm×30mmの試験片を切り出し、25℃に温調された室内で試験片の重量を、3辺の長さの積より算出した体積で除して密度とした。
(2)硬度
直方体形状の成形品をJIS K6253に従い、タイプDデュロメーターで5回測定して平均値を求め、これを硬度とした。
【0033】
(3)曲げ弾性率(MPa)
200mm×100mm×30mmの試験片から80mm×10mm×4mmに切断して、曲げ弾性率評価用の試験片とし、JIS K6911(1995年版)に準じて、島津製作所(株)製「インストロン型万能試験機」を用いて25℃に温調された室内で曲げ弾性率を測定した。
(4)切削抵抗(N)
200mm×100mm×30mmの試験片から80mm×30mm×10mmに切断し切削抵抗評価用試験片とし、25℃に温調された室内でNCマシンで切削(切削刃:超硬スロウアウェイチップ、1枚刃、16mmφ、回転数:5,000rpm、送り速度:3,000mm/分、切り込み深さ:3mm)したときに、切削刃が刃物送り方向から受ける抵抗力を4成分動力計[KISTLER(株)製「9272型」、増幅器:KISTLER(株)製「チャージアンプ5011型」、記録計:グラフテック(株)製「WR7700」]で測定した。切削抵抗の数値は小さいほど切削加工性が良好であることを示す。
(5)衝撃強度(KJ/m2
JIS K6911に準じて、東洋精機製作所製「アイゾット衝撃試験器」を用いて測定した(ノッチ無し)。
【0034】
【表1】
【0035】
表1の結果より、実施例1〜7の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂成形品は、比較のものに比べ、水等価性が高く、かつ、良好な物性を実現できていることがわかった。
とりわけ、実施例と比較例1(市販の水等価エポキシ樹脂)の比較において、水等価性が高く、かつ、衝撃強度が高く、曲げ弾性率が低いという結果が確認できた。これは、機械強度および柔軟性に優れることを示しており、高強度でありながら「欠け」や「割れ」の発生しにくい特性を示すものである。さらに、切削加工性の指標である切削抵抗も低く、切削加工性が良好であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂(Q)、および該(Q)を成形してなる水等価ファントム材用ポリウレタン樹脂成形品(Z)は、基準組織(水)に対して等価性が高く、切削加工時・取り扱い時の欠けや割れが少なく、切削加工性が良好で、取り扱いが容易であることから、粒子線治療や放射線治療、CT画像診断などの放射線診断、核医学といった放射線医療分野における水等価材料として広く有用に使用できる。