特許第5955975号(P5955975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5955975ジトリメチロールプロパンを獲得するための蒸留方法
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  • 特許5955975-ジトリメチロールプロパンを獲得するための蒸留方法 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5955975
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】ジトリメチロールプロパンを獲得するための蒸留方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/42 20060101AFI20160707BHJP
   C07C 43/13 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C07C41/42
   C07C43/13 D
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-541552(P2014-541552)
(86)(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公表番号】特表2014-533664(P2014-533664A)
(43)【公表日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2012004439
(87)【国際公開番号】WO2013072007
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2015年6月10日
(31)【優先権主張番号】102011118953.3
(32)【優先日】2011年11月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507254975
【氏名又は名称】オクセア・ゲゼルシャフト・ミト・べシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】フライ・グイード・デー
(72)【発明者】
【氏名】ノーヴォトニー・ノルマン
(72)【発明者】
【氏名】シャラプスキー・クルト
(72)【発明者】
【氏名】シュトルッツ・ハインツ
【審査官】 中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−267904(JP,A)
【文献】 特開2002−047232(JP,A)
【文献】 特開2003−192620(JP,A)
【文献】 特開2000−302725(JP,A)
【文献】 特開2007−197466(JP,A)
【文献】 特開平06−321861(JP,A)
【文献】 特開2002−047224(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0033325(US,A1)
【文献】 特公昭49−024043(JP,B1)
【文献】 英国特許第01292405(GB,B)
【文献】 国際公開第2010/020561(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0010435(US,A1)
【文献】 特表平06−501470(JP,A)
【文献】 米国特許第05324863(US,A)
【文献】 国際公開第2012/033055(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0184497(US,A1)
【文献】 特表2013−536184(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0131391(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ジトリメチロールプロパンを含む溶液を、第1の蒸留機構で、ジトリメチロールプロパンよりも沸点の低い低沸点化合物を含む第1の塔頂留分と、塔底留分とに分け、
(b)工程a)に基づいて得られた塔底留分を、少なくとも5段の理論段を有する第2の蒸留機構に送り込み、前記第2の蒸留機構が、規則充填カラムを備えた薄膜蒸発器として形成され、ジトリメチロールプロパンよりも沸点が低い中間沸点(zwischensiedend)化合物を含む第2の塔頂留分を取り出し、塔底留分を抜き取り、かつ
(c)工程b)に基づいて得られた塔底留分を、少なくとも4段の理論段を有する第3の蒸留機構に送り込み、前記第3の蒸留機構が、規則充填カラムを備えた薄膜蒸発器として形成され、この機構ではジトリメチロールプロパンが第3の塔頂留分として収得され、高沸点物が塔底留分として除去される
ことを特徴とする、ジトリメチロールプロパンを含む溶液からジトリメチロールプロパンを収得するための蒸留方法。
【請求項2】
第2の蒸留機構が少なくとも8段の理論段を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の蒸留機構が、210〜280℃の温度および2〜10hPaの圧力で稼働される、請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
第2の蒸留機構が、2〜60秒の滞留時間で稼働される、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法
【請求項5】
第3の蒸留機構が、4〜20段の理論段を有する、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法
【請求項6】
第3の蒸留機構が、240〜280℃の温度および0.2〜5hPaの圧力で稼働される、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法
【請求項7】
第3の蒸留機構では、塔頂留分の滞留時間が1〜30秒である、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法
【請求項8】
極性溶剤中のジトリメチロールプロパン溶液を使用する、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法
【請求項9】
第1の蒸留機構の塔底留分中の極性溶剤の含有率が塔底留分に対して最大5000質量ppmである、請求項8に記載の方法
【請求項10】
第1の蒸留カラムの塔底留分中の極性溶剤の含有率が、塔底留分に対して最大1000質量ppmである、請求項9に記載の方法
【請求項11】
第1の蒸留カラムの塔底留分中の極性溶剤の含有率が、塔底留分に対して最大500質量ppmである、請求項10に記載の方法
【請求項12】
極性溶剤として、C〜C脂肪族アルコール、C〜C10ジアルキルエーテル、または水が使用される、請求項8〜11のいずれか一つに記載の方法
【請求項13】
ジトリメチロールプロパンを含む溶液が、水の添加下に、トリメチロールプロパン製造の残渣から製造される、請求項8〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
ジトリメチロールプロパンを収得するための蒸留方法において、イオン交換体で処理された、ジトリメチロールプロパンを含む溶液が使用される、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
イオン交換体処理が、任意の順番で塩基性イオン交換体と酸性イオン交換体の両方で行われる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジトリメチロールプロパンを獲得するための蒸留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリメチロールプロパンは、例えばアルキド樹脂のような塗料、ポリウレタン、およびポリエステルの製造に重要な三価アルコールである。トリメチロールプロパンは、様々な方式に基づき、n−ブチルアルデヒドとホルムアルデヒドの縮合反応により工業的に製造される。
【0003】
いわゆる水素化方法では、触媒量の第三級アミンの存在下で少なくとも2モルのホルムアルデヒドに1モルのn−ブチルアルデヒドを付加することで、中間段階のモノメチロールブチルアルデヒドを経てまずはジメチロールブチルアルデヒドに転換させ、続いてジメチロールブチルアルデヒドを水素化工程においてトリメチロールプロパンに転換させる。WO98/28253A1(特許文献1)に記載の方法によれば、ホルムアルデヒドは最大で8倍過剰なモル数で用いられる。アルドール付加工程から得られた反応混合物は、蒸留または相分離によって処理される。蒸留による処理では、未転換または部分転換の状態の出発化合物が揮発性成分として取り出されて反応段階に戻され、その一方で塔底生成物はさらに転換される。蒸留による処理の代わりに、反応混合物を相分離器内で水性相と有機相に分離する場合、有機相がアルドール付加に戻され、水性相がさらに処理される。モノメチロールブチルアルデヒドをジメチロールブチルアルデヒドに転換するため、触媒および/または熱による処理が続いて行われる。このとき生成された副生成物は蒸留により分離され、この蒸留の塔底生成物はその後、トリメチロールプロパンを獲得するため触媒により水素化される。次に、得られた粗トリメチロールプロパンに精製蒸留を施す。低沸点物および中沸点物の分離後、精製されたトリメチロールプロパンが中間留分として得られ、その一方で後留分または塔底留分として、当量のトリメチロールプロパンが結合されている比較的高沸点の縮合生成物が生じる。
【0004】
水素化方法だけでなく、いわゆるカニッツァーロ反応によってもトリメチロールプロパンが工業的に製造される。この場合、第1の反応段階では、n−ブチルアルデヒドとホルムアルデヒドを、化学量論量の塩基を添加してジメチロールブチルアルデヒドへと反応させ、次にこのジメチロールブチルアルデヒドを過剰なホルムアルデヒドによりトリメチロールプロパンへと還元し、そのとき同時に1当量のギ酸塩が生成される。通常は、塩基としてアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物の水溶液、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化カルシウムが使用される。カニッツァーロ方法では、1当量のアルカリ金属ギ酸塩またはアルカリ土類金属ギ酸塩が共生成物として生じるので、この方法形態の経済性は、この共生成物の商品化の機会にも左右される。ここで得られた、トリメチロールプロパンと、アルカリ金属ギ酸塩もしくはアルカリ土類金属ギ酸塩と、過剰な塩基とを含む水性反応溶液の処理は、一般的には抽出によって行われる。過剰な塩基を中和した後、水溶液を有機溶剤、例えば酢酸エチルで抽出する。アルカリ金属ギ酸塩またはアルカリ土類金属ギ酸塩を溶解して含んでいる水性相から有機相が分離され、抽出剤を除去した後に、蒸留によりトリメチロールプロパンが獲得される。得られたトリメチロールプロパンにさらなる精製方法を施すことができる。US5,603,835(特許文献2)によれば、まず、得られたトリメチロールプロパンから水溶液を生成し、この水溶液を再び、有機溶剤、例えばメチル−tert−ブチルエーテルで抽出する。得られた水溶液からは、色数が100APHA単位未満に改善されたトリメチロールプロパンが獲得される。
【0005】
US5,948,943(特許文献3)から知られている方法によれば、カニッツァーロ反応によって得られた水性の粗反応溶液を、液相だけが抽出容器から出てくる温度で、適切な有機溶剤により処理する。次いで抽出容器の外側を冷却すると、水性相が有機相から分離され、この水性相から、色数が100APHA未満のトリメチロールプロパンを単離することができる。
【0006】
カニッツァーロ反応を、有機塩基、例えば第三級アミンを用いて実施することも知られている。WO97/17313A1(特許文献4)から知られている作業方式によれば、化学量論量の第三級アミンの存在下でホルムアルデヒドがn−ブチルアルデヒドによって生成され、その際、1当量のギ酸アンモニウムが生じる。次に粗混合物から水、過剰な第三級アミン、および過剰なホルムアルデヒドを分離し、後に残った混合物を加熱する。その際、ギ酸アンモニウムが第三級アミンとギ酸に分解され、第三級アミンとさらなる揮発性成分が分離され、そしてギ酸トリメチロールプロパンが生成される。分離された第三級アミンは、カニッツァーロ段階に戻されるか、または後続の反応におけるギ酸トリメチロールプロパンと添加された低級脂肪族アルコールのエステル交換のために触媒として使用される。その際に遊離したトリメチロールプロパンは、続いて粗生成物から単離される。
【0007】
トリメチロールプロパンの製造が、触媒量の第三級アミンを使用した水素化方法に基づいて行われるか、モル量の第三級アミンを用いたカニッツァーロ方法と、その後の生成されたギ酸トリメチロールプロパンのエステル交換に基づいて行われるか、またはモル量のアルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物を用いたカニッツァーロ方法と、アルカリ金属水酸化物もしくはアルカリ土類金属水酸化物の抽出による分離に基づいて行われるかにかかわらず、得られた粗トリメチロールプロパンには、1回または複数回の蒸留精製が施され、この蒸留精製は、沸点が高いので負圧で行われる。DE10058303A1(特許文献5)によれば、トリメチロールプロパンの蒸留処理をイオン交換体処理と組み合わせ、アルドール化生成物または水素化生成物を、蒸留処理の前に強塩基性イオン交換体と接触させる。
【0008】
蒸留精製では、トリメチロールプロパンより沸点の高い高沸点留分または残渣が生じ、この高沸点留分または残渣の中にはトリメチロールプロパンの誘導体が存在しており、この誘導体からは、例えばメタノール、ホルムアルデヒド、またはさらなる分子との反応により、前置の反応におけるトリメチロールプロパンが生じた。この誘導体の代表物は、特に、構造要素−O−CH−O−により特徴づけることができ、またホルマールとしても理解され得るホルムアルデヒド含有アセタールである。ホルマールとして、下記のトリメチロールプロパンの直鎖状および環式のホルマールの構造を示すことができる。
【0009】
トリメチロールプロパンの単環式ホルマール
【0010】
【化1】
【0011】
直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール
式II
[CC(CHOH)CHO]CH
【0012】
トリメチロールプロパンのメチル(単一直鎖状)ホルマール
式III
C(CHOH)CHOCHOCH
【0013】
トリメチロールプロパンのメチル(ビス直鎖状)ホルマール
式IV
C(CHOH)CHOCHOCHOCH
【0014】
これに関し、トリメチロールプロパンの単環式ホルマール(I)は、トリメチロールプロパン自体より低い温度で沸騰する。メタノールに由来するホルマール(III)および(IV)は、トリメチロールプロパンと同等の沸点を有しており、その一方で直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール(式II)は高沸点成分として存在する。それだけでなく蒸留残渣中にはジトリメチロールプロパンの環式ホルマールのような、さらなる直鎖状および環式の酸素含有化合物、
【0015】
【化2】
【0016】
が存在している。
【0017】
粗トリメチロールプロパンを蒸留処理した高沸点留分および残渣中には、ジトリメチロールプロパン[CC(CHOH)−CH−]−Oおよびトリメチロールプロパン自体もまだかなりの量で含まれている。それだけでなくメタノール、2−メチルブタノールまたは2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオールのような少量の低沸点成分、が存在している。
【0018】
トリメチロールプロパンを蒸留処理した高沸点留分および残渣中には、当量のトリメチロールプロパンが化学結合している誘導体がかなりの量で存在しているので、特に、ホルムアルデヒド含有アセタールを分解し、かつトリメチロールプロパンを遊離し、こうしてトリメチロールプロパン製造プロセス全体の収率を改善するための一連の方法が提案されている。WO2004/013074A1(特許文献6)によれば、トリメチロールプロパンを製造する際に得られる高沸点留分および蒸留残渣を酸で処理し、その際、反応出発原料中の水分含有率は20〜90質量%であるべきである。酸処理された生成物から蒸留によりトリメチロールプロパンを獲得することができ、または処理された生成物を、ジメチロールブチルアルデヒドをトリメチロールプロパンへと水素化する段階に戻すことができる。
【0019】
DE19840276A1(特許文献7)からは、不均一系の水素化触媒の存在下で、水溶液中の直鎖状または環式のアセタールを所望の多価アルコールへと水素化分解することが知られている。この方法は、特にカニッツァーロ方法に基づく作業の場合にまだ存在し得るギ酸塩による触媒の水素化性能への有害な影響を抑えるため、水素化温度を160℃超にする必要がある。触媒による水素化分解は、酸の存在下でも、例えば低級カルボン酸または酸性の反応を示す固体の存在下でも実施することができる。WO97/01523(特許文献8)によると、水素化温度を下げることができるが、その場合、ほどよい分解率(Spaltrate)を達成するためには、触媒活性のある金属の、環状ホルマールに対する高い質量比を調整する必要がある。
【0020】
トリメチロールプロパンを製造する際の蒸留処理による高沸点留分および残渣には、前述のホルムアルデヒド含有アセタールのほかに、かなりの量のジトリメチロールプロパンも含まれており、このジトリメチロールプロパンも、アルキド樹脂、軟化剤、および潤滑剤を製造するための有益な出発材料として工業的に重要である。この残渣からジトリメチロールプロパンを獲得し、こうして得られた生成物を必要の際にはさらに精製する方法が、従来技術から知られている。
【0021】
DE2058518A1(特許文献9)によれば、ジトリメチロールプロパン含有の蒸留残渣に、減圧下で、過熱させた水蒸気による水蒸気蒸留を施す。得られた水性留出物から、水の分離によりジトリメチロールプロパンが得られ、このジトリメチロールプロパンは必要に応じ、有機溶剤、例えばアセトンから再結晶化させることができる。
【0022】
従来技術は、トリメチロールプロパン製造の副流からの、ジトリメチロールプロパンの蒸留精製に伴う困難をたびたび指摘している。一方では、蒸留残渣中のジトリメチロールプロパンの含有率は、著しく変動し得る。さらに、この蒸留残渣は、同様に高沸点の直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール(式II)も含み、これは分離できるものの非常に困難である。その上、ジトリメチロールプロパンの高い沸点は、非常に低い蒸留圧および高い蒸留温度の使用を要求するため、高い熱負荷により、分解反応を覚悟しなくてはならない。
【0023】
EP2204356A1(特許文献10)から公知の方法によると、反応混合物中におけるジトリメチロールプロパンの含有率を特異的に高めるというやり方で、この困難が回避される。まず、塩基の存在下に、1モルのn−ブチルアルデヒド当たり2.0〜3.5モルのホルムアルデヒドを反応させる。形成された2−エチルアクロレインを分留し、さらなるホルムアルデヒドと共に、トリメチロールプロパンを含む蒸留残渣に再び添加すると、ジトリメチロールプロパンとギ酸が形成する。中和後に、混合液から低沸点物を除去してから、蒸留または結晶化のいずれかにより処理する。EP1178030A2(特許文献11)によると、トリメチロールプロパン製造に由来する残渣を、抽出およびトリメチロールプロパン分離後に、ホルマールを分解する(spalten)ために、酸で処理する。続いて、流下膜式蒸発器を用いてジトリメチロールプロパンを分留し、結晶化により精製する。
【0024】
同様に、ジトリメチロールプロパンを獲得するための、トリメチロールプロパン製造に由来する蒸留残渣の、再結晶化による直接的な処理も記載される。DE2358297A1(特許文献12)は、蒸留残渣の水溶液の簡単な結晶化を扱っており、この場合、十分な純度でのジトリメチロールプロパンの析出を可能にするため、水溶液中の塩濃度が特別な比率に調整される。トリメチロールプロパンをカニッツァーロ方法に基づいて製造する場合、水中に溶解させた後、満足できる状態でジトリメチロールプロパン結晶が沈殿することを保証するために、既に蒸留残渣中の塩含有率、例えばアルカリ金属ギ酸塩含有率を十分に高くしておくことができる。場合によっては水溶液にさらなる塩、例えばアルカリ金属塩を添加することができる。
【0025】
US2004/0254405A1(特許文献13)は、有機溶剤、例えばアセトンまたはメチルエチルケトンの使用下での蒸留残渣の再結晶化方法を開示しており、この場合、結晶化温度、溶剤量、および蒸留残渣中のジトリメチロールプロパン含有率は特別なやり方で保たれ得る。DE102008038021A1(特許文献14)には、トリメチロールプロパン製造の蒸留残渣からジトリメチロールプロパンを単離するため、適切な溶剤および水から成る混合物を使用することが記載されている。最初に有機溶剤相および粘性残渣が得られ、これらの相を分離し、有機溶剤相を水で抽出する。水相を分離し、含まれている残留溶剤を除去する。後に残った水相からジトリメチロールプロパンが結晶化される。
【0026】
02010033844A1のドイツ特許出願(特許文献15)中でも同様に、トリメチロールプロパン製造の副流からジトリメチロールプロパンを獲得するための方法が扱われている。この場合、生じる高沸点留分および残渣を水中に溶解させ、この水溶液を酸性化合物の存在下で、ホルムアルデヒド含有アセタールを分解すると共に触媒により水素化する。続いてこの水性の水素化物を、固体の分離後、塩基性イオン交換体とも酸性イオン交換体とも接触させる。水性溶離物からトリメチロールプロパンが富化された生成物流が分留され、ジトリメチロールプロパンが蒸留残渣として後に残る。ジトリメチロールプロパンを十分な品質で蒸留残渣中に生じさせるためには、02010033844A1のドイツ特許出願(特許文献15)に記載のプロセスによると、水性の水素化物を、必ず塩基性イオン交換体と酸性イオン交換体の両方で処理する必要がある。
【0027】
最終的には、ジトリメチロールプロパンの特異的合成方法も、従来技術に記載される。EP0799815A1(特許文献16)によると、塩基性触媒の存在下で、トリメチロールプロパンを直接に2−エチルアクロレインおよびホルムアルデヒドと反応させる。揮発性成分を分離後、精製されたジトリメチロールプロパンが、再結晶化により水から得られる。WO92/05134A1(特許文献17)によると、既に単離されたトリメチロールプロパンを、酸性反応性化合物の存在下に加熱すると、エーテル化されつつジトリメチロールプロパンが形成される。トリメチロールプロパンの高級縮合生成物の形成を回避するためには、トリメチロールプロパンを最大限30%まで反応させる。得られた反応混合物から、揮発性成分を蒸留により分離する。ジトリメチロールプロパンも、まずは分留しさらに再結晶化により精製することが可能である。J.Org.Chem.、第37巻、第13号、1972年、2197〜2201ページ(非特許文献1)も同様に、ジトリメチロールプロパンの直接的製造を開示する。まず、2つの水酸基を保護するために、アセトンを加えてトリメチロールプロパンをケタールに変換する。続いて、なおも自由な水酸基をトシラート基またはメシラート基に変換し、これを、塩基の存在下でエーテル形成下に脱離させる。酸の添加により、ケタール保護基を除去し、ジトリメチロールプロパンを遊離し、これを水から再結晶化する。しかしながら、学術文献中に記載されるこの方法は手間がかかり、保護基の導入および脱離により、特殊な化学物質を必要とする。
【0028】
トリメチロールプロパンより高い沸点を有し、トリメチロールプロパン製造の枠内での蒸留処理の際またはジトリメチロールプロパンの特異的合成の際に生じる、高沸点の留分および残渣からジトリメチロールプロパンを獲得するための公知の方法は、手間のかかる再結晶化工程、または手間のかかる水蒸気蒸留とその後の水蒸気留出物からの水の除去のいずれかを必要とする。従来技術は、流下膜式蒸発器を使用する、ジトリメチロールプロパンの蒸留分離について言及するが、留出物をさらに精製するためには、再結晶化を推奨する。
【0029】
ジトリメチロールプロパンが蒸留残渣として生じる方法でも、ジトリメチロールプロパンが、できるだけ多くの工業的な用途で使用するために十分な品質で常に得られるわけではない。これに加え、蒸留残渣中の汚染物質の含有率をできるだけ少なく保つには、蒸留段階の前にイオン交換体による精製が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】WO98/28253A1
【特許文献2】US5,603,835
【特許文献3】US5,948,943
【特許文献4】WO97/17313A1
【特許文献5】DE10058303A1
【特許文献6】WO2004/013074A1
【特許文献7】DE19840276A1
【特許文献8】WO97/01523
【特許文献9】DE2058518A1
【特許文献10】EP2204356A1
【特許文献11】EP1178030A2
【特許文献12】DE2358297A1
【特許文献13】US2004/0254405A1
【特許文献14】DE102008038021A1
【特許文献15】102010033844.3のドイツ特許出願
【特許文献16】EP0799815A1
【特許文献17】WO92/05134A1
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】J.Org.Chem.、第37巻、第13号、1972年、2197〜2201ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
したがって、ジトリメチロールプロパンをできるだけ簡単かつ高純度で得る方法に対する需要が存在する。特に、直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール(式II)、およびジトリメチロールプロパンに類似する沸騰挙動を示す別の高沸点化合物の含有率を、許容可能な限度まで軽減するべきである。その際、手間のかかる再結晶化工程は回避されるべきである。さらに、この方法は、ジトリメチロールプロパンがトリメチロールプロパンを製造する際に副生成物として生じるかどうか、トリメチロールプロパン製造の際の副流が、酸処理、イオン交換体処理、もしくは酸存在下での、触媒による水素化のようなさらなる工程段階にさらされるかどうか、またはジトリメチロールプロパンが特異的合成によって製造されるかどうかにかかわらず、全般的に使用可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
したがって、本発明は、
(a)ジトリメチロールプロパンを含む溶液を、第1の蒸留機構で、ジトリメチロールプロパンよりも沸点の低い低沸点化合物を含む第1の塔頂留分と、塔底留分とに分け、
(b)工程a)に基づいて得られた塔底留分を、少なくとも5段の理論段を有する第2の蒸留機構に送り込み、前記第2の蒸留機構が、付属カラムを備えた薄膜蒸発器として形成され、ジトリメチロールプロパンよりも沸点が低い中間沸点(zwischensiedend)化合物を含む第2の塔頂留分を取り出し、塔底留分を抜き取り、かつ
(c)工程b)に基づいて得られた塔底留分を、少なくとも4段の理論段を有する第3の蒸留機構に送り込み、前記第3の蒸留機構が、付属カラムを備えた薄膜蒸発器として形成され、この機構ではジトリメチロールプロパンが第3の塔頂留分として獲得され、高沸点物が塔底留分として除去される
ことを特徴とする、ジトリメチロールプロパンを含む溶液からジトリメチロールプロパンを獲得するための蒸留方法に関する。
【0034】
本発明による蒸留方法のための投入流(Einsatzstrom)は、ある特定の製造方法には依存せずに生じる、ジトリメチロールプロパンを含む溶液である。例えば、この溶液は、アルカリ金属化合物もしくはアルカリ土類金属化合物を使用しながら行われるカニッツァーロ方法に基づくか、または触媒量のトリアルキルアミンの存在下での水素化方法に基づくか、または化学量論量のトリアルキルアミンを使用しながら行われるカニッツァーロ方法に基づくかのいずれかによりトリメチロールプロパンを製造する際に得られる。特に、この溶液は、トリメチロールプロパンを蒸留処理する際に、高沸点残渣として生じる。頻繁には、この高沸点残渣は、式I〜Vに基づくホルマールを分解するために、水に取り込まれ酸で処理されるか、または水素を含む水性溶液中で、酸性化合物および金属触媒の存在下に水素化される。
【0035】
本発明による方法のために適した溶液は、同様に、例えば、既に単離されたトリメチロールプロパンを、塩基性触媒の存在下で2−エチルアクロレインおよびホルムアルデヒドと反応させることによるか、または、まず2−エチルアクロレインが、トリメチロールプロパンを含む反応混合物から分留され、この第1ステップで形成されたトリメチロールプロパンをジトリメチロールプロパンに変換するために、2−エチルアクロレインがさらなるホルムアルデヒドと共に改めて反応混合物に添加されるような条件下において、塩基性触媒の存在下にn−ブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとを反応させることによって、ジトリメチロールプロパンが特異的に合成されるプロセスにおいても得られる。場合によっては残りの2つの水酸基用の保護基を導入した後にトリメチロールプロパンの1つの水酸基をエーテル化することによっても、適した、ジトリメチロールプロパンを含む溶液を獲得することができる。
【0036】
同様に、本発明による蒸留方法では、あらかじめの再結晶化により既に精製された、またはイオン交換体を用いた処理により前精製されたジトリメチロールプロパンを使用してもよい。イオン交換体処理には、例えば、通常の、市販で提供される酸性イオン交換体および塩基性イオン交換体が適している。ジトリメチロールプロパンを含む溶液は、塩基性イオン交換体もしくは酸性イオン交換体のみとか、または任意の組み合わせで接触させることが可能である。
【0037】
本発明による方法は、特に、ジトリメチロールプロパンを極性溶剤中に溶解して含む溶液を蒸留処理する際、特に、水性溶液、または低級C〜C−脂肪族アルコールもしくはC〜C10−ジアルキルエーテル、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、もしくはジエチルエーテル中の溶液を蒸留処理する際に適している。そのようなアルコール性および特に水性溶液は、特に、トリメチロールプロパン製造に由来する残渣を酸性処理する際に生じ、この酸性処理は、付加的にさらに水素中で、水素化触媒の存在下で行われてもよい。
【0038】
トリメチロールプロパン製造に由来するこの残渣は、主成分として、なおも物理的に混入しているトリメチロールプロパンを総投入質量に対して一般的に5〜30質量%の範囲内で、ジトリメチロールプロパンを一般的に10〜35質量%の範囲内で、ならびに直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール(式II)を25〜70質量%の範囲内で含んでいる。同定されたさらなる生成物は、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、およびトリメチロールプロパンの単環式ホルマール(式I)であり、これらはその比較的低い沸点に基づき、もはや少量しか存在しておらず、通常は最高で3質量%しか存在していない。トリメチロールプロパンのメチル(単一直鎖状)ホルマール(式III)、トリメチロールプロパンのメチル(ビス直鎖状)ホルマール(式IV)、ならびにジトリメチロールプロパンの環式ホルマール(式V)、または場合によっては前置された水素化においてメチルエーテルから遊離する、トリメチロールプロパンのホルマール:
C(CHOH)CHOCHOH 式VI、CAS番号 482619−74−9
C(CHOH)(CHOCHOH) 式VII、
【0039】
【化3】
【0040】
に加えて、さらに一連の、さらなる直鎖状または環状の、ジトリメチロールプロパンのホルマール:
C(CHOH)CHOCHC(C)(CHOH)(CHOCHOH) 式IX、CAS番号 97416−99−4
【0041】
【化4】
【0042】
【化5】
【0043】
ならびに直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール(式II)に由来する単環式ホルマール
【0044】
【化6】
【0045】
が存在する。
【0046】
トリメチロールプロパン製造に由来するこの残渣に、極性溶剤、好ましくは水を混合して溶液を形成する。溶液は一般的に、総質量に対する極性溶剤を考慮しない有機成分の含有率が30〜90質量%、好ましくは50〜80質量%で生成される。有機成分の含有率がこれより少ない場合は溶剤の割合が高いので有用ではなく、含有率が高すぎると、特に室温の際に、溶液中での不均一性または固体の沈殿が予想され得る。溶液は50℃超の温度で生成されるのが有用である。溶液、特に水溶液の温度範囲は60〜80℃で調整できることが好ましい。
【0047】
場合によっては、得られた溶液を、昇温および加圧して、触媒および酸性化合物の存在下で水素により処理してもよい。酸性媒体中での水素化により、存在するホルマールが分解し、遊離したホルムアルデヒドがメタノールに変換される。場合によっては、得られた溶液を、さらに1つのイオン交換体と、または組み合わせて、酸性イオン交換体および塩基性イオン交換体と接触させてもよい。
【0048】
製造プロセスにかかわらず、ジトリメチロールプロパンを含む溶液は、本発明による方法に基づくと、3段階の蒸留機構において処理される。例えば、再結晶化プロセスに由来する既に精製されたジトリメチロールプロパンを含む溶液も、ジトリメチロールプロパンを含む溶液と理解され、その溶液中では、ジトリメチロールプロパンと類似する沸点を有する不純物の含有率が既に貧化されている。ジトリメチロールプロパンと類似する沸点を有するそのような不純物は、例えば、直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール(式II)、直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマールに由来する単環式ホルマール(式XII)、ジトリメチロールプロパンの単一直鎖状ホルマール(式IX)、またはジトリメチロールプロパンの環状ホルマールの単一直鎖状ホルマール(式XI)である。既に精製されたジトリメチロールプロパン用の溶剤としては、水、ならびに低級C〜C−脂肪族アルコール、例えばメタノール、エタノール、またはプロパノールが適している。既に単離された、固体ジトリメチロールプロパンもまた、溶解後には、本発明の主旨での、ジトリメチロールプロパンを含む溶液と見なされる。
【0049】
ジトリメチロールプロパンを含む溶液は、3段階の蒸留機構において処理される。まず、第1の蒸留機構において低沸点物を、第1の塔頂留分として分離する。低沸点物分離には、リボイラーを備えた例えば2〜40段の理論段を有する蒸留カラム、薄膜蒸発器、ショートパス蒸発器、または蒸発容器のような通常の蒸留機構が適しており、これらの蒸留機構は通常は100〜180℃の塔底温度および標準的な圧力で、または有用には最大70hPaの負圧で稼働される。第1の蒸留機構への流入物は室温で送り込むことができ、ただし有利には流入物の温度は50〜130℃、特に80〜120℃である。ジトリメチロールプロパン溶融体が送り込まれる場合には、上昇させた温度が必要である。既に温度を上昇させた流入物を送り込むことにより、分離すべき低沸点物を一気に蒸発させ、第1の塔頂留分を通じて放出させることができる。
【0050】
極性溶剤中のジトリメチロールプロパン溶液が使用される場合、第1の蒸留機構が、極性溶剤およびさらなる低沸点物、例えば、メタノール、2−メチルブタノール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、または揮発性ホルマールを分離するために利用される。この場合、第1の蒸留機構は、トリメチロールプロパンおよびジトリメチロールプロパンを含む塔底留分中での極性溶剤の含有率が塔底留分の質量に対して最大5000質量ppm、好ましくは最大1000質量ppm、特に最大500質量ppmとなるように稼働される。塔底留分中の溶剤含有率の上限を遵守することが、その後の蒸留精製に有利に影響を及ぼす。極性溶剤としては、低級C〜C−脂肪族アルコール、またはC〜C10−ジアルキルエーテル、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、またはジエチルエーテル、または特に水が適している。
【0051】
第1の蒸留機構に由来するこの塔底留分は放出され、第2の蒸留機構に送り込まれる。
【0052】
第2の蒸留機構では、第2の塔頂留分として中間沸点生成物流が獲得され、この生成物流中には、第1の塔頂留分において分離された低沸点物よりも沸点が高いものの、ジトリメチロールプロパンよりは沸点が低い化合物が存在する。トリメチロールプロパンとジトリメチロールプロパンとを含む混合物が処理されると、第2の塔頂留分は、本質的にはトリメチロールプロパンを、その上さらに中留、ならびに極性溶剤および低沸点物の残りを含んでいる。中間沸点の塔頂留分中には、例えば、トリメチロールプロパンの単一直鎖状ホルマール(式VI)、トリメチロールプロパンのビス直鎖状ホルマール(式VII)、トリメチロールプロパンの環状ホルマールの単一直鎖状ホルマール(式VIII)、ならびにジトリメチロールプロパンの単環式ホルマール(式V)、およびジトリメチロールプロパンのビス環状ホルマール(式X)がさらに含まれている。これらの酸素含有化合物は、中留Iとまとめることもできる。第2の塔頂留分は、次いで、有用にはトリメチロールプロパン製造のためのプロセス全体の精製段階に、有利にはトリメチロールプロパンを獲得するための精製蒸留に戻すことができる。
【0053】
第2の塔頂留分の分離は、少なくとも5段の理論段、好ましくは少なくとも8段の理論段、特に8〜20段の理論段を有する蒸留機構で行われる。同様に第2の蒸留機構では熱負荷をできるだけ小さく保つべきであり、これは滞留時間ができるだけ短い場合に生じ得る。これに関し第2の蒸留機構での、つまりこの蒸留装置全体での滞留時間は、一般的に2〜60秒、好ましくは10〜30秒である。設備接続としては、必要最低数の理論段を有する付属カラムを備えた薄膜蒸発器が使用されることが分かった。付属カラムとしては、従来の不規則充填カラムまたは規則充填カラム、好ましくは構造化充填カラムが適している。このような規則充填物は、例えばモンツパッキンまたはスルザーパッキンとして市販されている。本発明による方法で使用すべき薄膜蒸発器も、この分野で通常の市販されているユニットである。付属カラムを備えたリボイラーまたはショートパス蒸発器は適さない。なぜならこの構成では、蒸留機構での滞留時間が長すぎるか、または分離能力が不十分だからである。第2の蒸留機構は、一般的に210〜280℃の塔底温度および2〜10hPaの圧力で稼働される。第2の蒸留機構からの塔底留分は、続いて第3の蒸留機構に送り込まれる。
【0054】
第3の蒸留機構は、後留分離機構とみなすこともでき、十分な品質のジトリメチロールプロパンを獲得するために用いられる。ジトリメチロールプロパンは第3の塔頂留分として分離され、高沸点物が塔底留分として第3の蒸留機構から除去される。高沸点物中には、例えば、直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマールの単環式ホルマール(式XII)、およびジトリメチロールプロパンの環状ホルマール(式XI)、ならびにジトリメチロールプロパンの単一直鎖状ホルマール(式IX)が含まれている。これらの酸素含有化合物を、中留IIとまとめることもできる。十分な品質のジトリメチロールプロパンを得るために、第3の蒸留機構は少なくとも4段の理論段、特に4〜20段の理論段を有さなければならない。同様に第3の蒸留カラムでも熱負荷をできるだけ小さく保つべきであり、これは滞留時間ができるだけ短い場合に生じ得る。これに関し第3の蒸留機構での塔頂留分の滞留時間は、一般的に1〜30秒、好ましくは5〜20秒である。設備接続としては、同様に必要最低数の理論段を有する付属カラムを備えた薄膜蒸発器が使用されることが分かった。付属カラムとしては、従来の不規則充填カラムまたは規則充填カラム、好ましくは構造化充填カラムが適している。このような規則充填物は、例えばモンツパッキンまたはスルザーパッキンとして市販されている。本発明による方法で使用すべき薄膜蒸発器も、この分野で通常の市販されているユニットである。付属カラムを備えたリボイラーまたはショートパス蒸発器は適さない。なぜならこの構成では、蒸留機構での塔頂生成物の滞留時間が長すぎるか、または分離能力が不十分だからである。第3の蒸留機構は、一般的に240〜280℃の塔底温度および0.2〜5hPaの圧力で稼働される。ジトリメチロールプロパンの分解が強くなりすぎるのを回避するため、最高280℃の塔底温度を上回らないことが望ましい。
【0055】
塔頂留分を通じて放出されるジトリメチロールプロパンは、工業的な用途のために十分な品質で生じ、98質量%超のガスクロマトグラフィにより確定される有価生成物含有率を得ることができる。本発明の蒸留方法によると、ジトリメチロールプロパンと同等に高い沸点を有する高沸点不純物、例えば、直鎖状ビストリメチロールプロパンホルマール(式II)、または、トリメチロールプロパンよりも高沸点であるもののジトリメチロールプロパンと同等に沸騰する化合物、例えば、中留Iとまとめられた化合物が、有効に分離され得る。試料の焼却後および赤熱前の硫酸添加の修正を加えたDIN51575に基づいて決定される、蒸留精製されたジトリメチロールプロパンにおける100ppm未満、一般的には15〜80ppmの間の硫酸塩灰分含有率も達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】ジトリメチロールプロパンを含む溶液の蒸留処理に関する原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1は、ジトリメチロールプロパンを含む溶液の蒸留処理に関する原理図を示している。導管(1)を介して導かれ好ましくは加熱された溶液が第1の蒸留機構(2)に送り込まれ、第1の蒸留機構の塔頂では、極性溶剤および低沸点物、例えば水またはメタノールを含む第1の塔頂留分が導管(3)を介して除去される。第1の蒸留機構(2)の塔底を介し、導管(4)により塔底留分が放出される。第1の蒸留機構は例えば2〜40段の理論段を有する通常のカラムである。水性またはアルコール性溶液を処理する場合、第1の蒸留機構は、導管(4)を介して放出された塔底留分中の水またはアルコールの含有率が塔底留分の質量に対して最大5000質量ppmとなるように稼働される。第1の蒸留機構(2)からの塔底留分は第2の蒸留機構(5)に送り込まれ、この第2の蒸留機構は少なくとも5段の理論段を有しており、付属カラムを備えた薄膜蒸発器として形成されている。導管(6)を介して、例えばトリメチロールプロパン、中留Iとまとめられた中間沸点化合物のような中留、ならびに極性溶剤および低沸点物の残りを含む第2の塔頂留分が抜き取られる。第2の塔頂留分中でのトリメチロールプロパンの含有率が十分に高い場合には、この生成物流が、トリメチロールプロパン製造のためのプロセスに戻されることが有用である。第2の蒸留機構(5)からの塔底留分は導管(7)を介して放出され、第3の蒸留機構(8)に送り込まれる。この第3の蒸留機構または後留分離機構も少なくとも4段、例えば5段の理論段を有しており、付属カラムを備えた薄膜蒸発器として形成されている。導管(9)を介してジトリメチロールプロパンが塔頂留分として高い品質で放出され、その一方で本方法に基づく高沸点物が導管(10)を介して排出される。
【0058】
本発明による方法は、ジトリメチロールプロパンを含む溶液の蒸留処理、ならびに中留IおよびIIとまとめられる化合物のような、ジトリメチロールプロパンと同等の沸点を有する高沸点不純物の有効な分離を可能にする。ジトリメチロールプロパンは、一般的に、98質量%超の、ガスクロマトグラフィにより確定される高有価生成物含有率で得ることができる。さらには、修正されたDIN51575に基づいて決定される、100ppm未満という硫酸塩灰分含有率も達成することができる。
【0059】
本発明による方法において、ジトリメチロールプロパンを含む溶液として、トリメチロールプロパン製造に由来する残渣が使用されると、同時にトリメチロールプロパン富化された生成物流を分離しトリメチロールプロパン製造プロセスに戻すことができるため、全体として設備効率およびトリメチロールプロパンの収率を改善することができる。
【0060】
以下の例において本発明による方法をより詳しく説明する。もちろん示した実施形態に制限されるものではない。
【0061】
例1
蒸留処理するために、水40質量%および有機成分60質量%を含む水溶液が用いられ、この有機成分は、ガスクロマトグラフィにより確定された下記の組成(%)を有した。
【0062】
【表1】
【0063】
例1a(1):水除去、初留除去
第1の蒸留において、リボイラーを備えた20段のカラムで、96℃の塔底温度および73hPaの圧力で、水および低沸点物が留出物として除去された。得られた蒸留残渣は水を約800質量ppm含んでおり、ガスクロマトグラフィにより確定された下記の組成(%)を有した。
【0064】
【表2】
【0065】
例1a(2):低沸点物除去、トリメチロールプロパン貧化
例1a(1)に基づく塔底生成物に、リボイラーを備えた20段のカラムでさらなる蒸留を施した。規定された圧力は255℃の塔底温度で3hPaであった。1:1の還流比率が調整された。得られた塔底生成物は、ガスクロマトグラフィにより確定された下記の組成(%)を有した。
【0066】
【表3】
【0067】
例1b:トリメチロールプロパンが富化された生成物流の除去
例1a(1)に基づく第1の蒸留からの塔底生成物(70/30混合物)が第2の蒸留のために用いられた。第2の蒸留は、ジトリメチロールプロパンと同等の沸点を有する、蒸留残渣(Destillationssumpf)中の中留分IおよびIIができるだけ貧化されるように形成された。第2の蒸留に関する異なる実施形態が表1にまとめられている。投入物の組成(%)および蒸留残渣の組成は、ガスクロマトグラフィにより分析されている。
【0068】
【表4】
【0069】
例1b(2)が示すように、規則充填カラム、例えば直径40mmのモンツパッキンで形成されたカラムの使用により、塔底での中留Iを貧化することができる。例1b(3)では比較的長い滞留時間で作業しなければならず、したがって蒸留温度が高い場合、揮発性化合物が生成される分解が引き起こされ、同型のカラムで作業する例1b(2)に比べ、蒸留中に比較的高い差圧が観察される。それにもかかわらず、第2の蒸留のこの形態の場合もジトリメチロールプロパン含有率97.5%の塔底生成物が得られる。
【0070】
もっとも、不規則充填カラムより、分離段階数が比較的大きい規則充填カラムの使用が優先されるべきである。
【0071】
下記の蒸留試験1b(4)〜1b(6)には、例1a(2)に基づく低沸点物分離およびトリメチロールプロパン貧化からの塔底生成物(93%の製品)が使用された。第2の蒸留の条件および塔底生成物のガスクロマトグラフィによる分析(%)が下の表2にまとめられている。
【0072】
【表5】
【0073】
比較例1b(6)が示すように、付属カラムなしでショートパス蒸発器だけで作業する場合、第2の蒸留の塔底生成物中の中留Iの貧化は成功しない。例1b(4)に基づき、中留Iの貧化には、蒸留投入物のジトリメチロールプロパン含有率が既に高い場合でさえ5段の理論段を有する付属カラムが必要である。
【0074】
例1c:後留分離
例1b(3)に基づいて得られた塔底生成物が、後留分離のための第3の蒸留のために用いられた。望ましいジトリメチロールプロパンが塔頂生成物として十分な品質で得られた。蒸留条件および留出物のガスクロマトグラフィによる分析(%)を表3に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
例1c(7)および例1c(9)と、比較例1c(8)との比較が示すように、ジトリメチロールプロパンを塔頂生成物として十分な品質で得るには、付属カラムを備えた薄膜蒸発器の使用が必要である。付属カラムを備えたリボイラーから成る蒸留機構は後留分離に適していない。なぜならこの構成では、高い温度および長い滞留時間のゆえに分解が増大するからであり、この分解の増大は、明らかな初留生成およびジトリメチロールプロパン含有率の低下として表れている。
図1