(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記検出器で検出された前記空間の温度及び湿度に基づいて前記閾値を選択し、前記供給手段から前記閾値に基づいて前記過酸化水素水を前記加熱器へ供給し、
前記過酸化水素水から気化した前記過酸化水素ガスを前記空間へ供給した後に、前記検出器で検出された前記空間の温度及び湿度に基づいて前記閾値を再び選択し、前記選択した前記閾値に基づいて前記供給手段を制御することを特徴とする請求項2に記載の殺菌装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る対象物100の殺菌装置1、殺菌方法及び飼料の製造方法について説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る殺菌装置1の構成を模式的に示す説明図である。
(殺菌装置1)
図1の殺菌装置1は、ガス発生器2と、処理槽3と、連通管4と、検出器5と、排気管6と、制御部7と、を備えている。殺菌装置1は、過酸化水素ガスをガス発生器2で生成し、生成された過酸化水素ガスを処理槽3に供給し、処理槽3に収容された対象物100を殺菌する。
【0015】
なお、本実施形態において、殺菌とは、除菌、滅菌の意味を含み、少なくとも対象物100に付着している殺菌対象となる菌を殺菌可能な意味である。また、菌とは、過酸化水素ガスにより殺菌することが可能な菌であって、細菌、微生物又はウィルスを含む。例えば、菌とは、サルモネラ菌である。
【0016】
また、本実施形態における対象物100は、例えば、殺菌処理において水分量の管理を必要とするものである。具体的には、対象物100は、乾燥物である。
【0017】
乾燥物とは、所定の水分量又は水分活性を有するものである。本実施形態においては、乾燥物とは、水分量が14%以下であって、水分活性(Aw)が0.75以下のものを指す。このような乾燥物である対象物100は、例えば、水分量14%であって、水分活性が0.75の飼料である。また、対象物100には、乾燥物に該当する食品が含まれる。上記以外では、例えば、対象物100は、食用のナッツ類、木材チップ等であってもよい。
【0018】
ガス発生器2は、筐体21と、タンク22と、供給器23と、供給手段24と、加熱器25と、圧送手段26と、チューブ27と、を備えている。
【0019】
筐体21は、タンク22と、供給器23と、供給手段24と、加熱器25と、圧送手段26と、チューブ27と、を内部に収容する。筐体21は、例えば、生成された過酸化水素ガスを内部に貯留する。筐体21は、過酸化水素ガスを貯留できる程度に密閉されていることが好ましいが、筐体21が処理槽3内に配置されている場合等には、必ずしも気密性を有さない構成であってもよい。また、筐体21は、過酸化水素ガスを処理槽3へ供給するための開口部28を有する。
【0020】
タンク22は、過酸化水素ガスを生成させるための過酸化水素水Lを貯留する。タンク22の大きさ、材質及び形状等については、ガス発生器2の大きさ等によって、適宜選択可能である。
【0021】
供給器23は、チューブ27を介してタンク22と連通する。供給器23は、タンク22から送られた過酸化水素水Lを、先端のノズル29から加熱器25へ供給する。
【0022】
供給手段24は、例えば、タンク22と供給器23を連通するチューブ27の途中に設けられる。供給手段24は、所定量の過酸化水素水Lの連続供給が可能なポンプである。なお、供給手段24は、タンク22から供給器23へ過酸化水素水Lを適量供給可能に形成されていれば、他の供給手段用いることも可能である。
【0023】
加熱器25は、ノズル29から供給された過酸化水素水Lを加熱し、気化可能に形成されている。例えば、加熱器25は、プレートヒータである。加熱器25は、ノズル29の下方に設けられる。なお、加熱器25は、ノズル29から供給された過酸化水素水Lを気化可能に形成されていれば、プレートヒータに限定されず、他の構成であってもよい。
【0024】
圧送手段26は、加熱器25で気化され、筐体21の内部に貯留される過酸化水素ガスを処理槽3へ圧送する。圧送手段26は、例えば、ブロワーである。
図1に示すように、例えば、圧送手段26は、筐体21の開口部28付近に配置される。
【0025】
処理槽3は、空間31に対象物100を収容し、ガス発生器2から供給された過酸化水素ガスを対象物100へ曝し、対象物100の殺菌処理が可能に形成されている。言い換えれば、処理槽3は、その内部に、過酸化水素ガスを用いて対象物100を殺菌する空間31を有する。
【0026】
処理槽3には、ガス発生器2からの過酸化水素ガスを供給するための連通管4及び、過酸化水素ガスを排出するための排気管6が接続される。
図1に示すように、処理槽3は、例えば、底面に連通管4の一端が接続される。また、処理槽3は、例えば、上面に排気管6が接続される。
【0027】
なお、処理槽3は、連通管4及び排気管6とそれぞれ接続される接続部に、処理槽3から対象物100が連通管4及び排気管6に移動することを防ぐネット、フィルタ又はガーゼ等を備えている。また、処理槽3は、過酸化水素ガスの濃度の低下を防ぐため、密閉性を有している。
【0028】
連通管4は、ガス発生器2の開口部28と処理槽3とを流体的に接続し、過酸化水素ガスの流路を形成する。連通管4の内径及び長さは、空間31へ供給される過酸化水素ガスの流速等により適宜選択される。
【0029】
排気管6は、処理槽3と外部空間とを流体的に接続し、空間31内の過酸化水素ガスを処理槽3の外へ排出する流路を形成する。排気管6は、例えば、処理槽3の空間31内の過酸化水素ガスの濃度を一定に保つため、空間31内への過酸化水素ガスの供給に合わせて、空間31内の過酸化水素ガスを排気する。
【0030】
検出器5は、例えば、空間31内の温度及び湿度を検出可能、且つ、処理槽3へ供給される過酸化水素ガスの濃度検出可能に形成されている。なお、湿度とは、相対湿度であり、以下、相対湿度を湿度として説明する。
検出器5は、本実施形態においては、連通管4の流路の途中に設置される。
【0031】
制御部7は、ガス発生器2の供給手段24を制御することで、過酸化水素水Lの供給、及び、停止を制御可能に形成される。制御部7は、圧送手段26の運転、及び、停止を制御可能に形成される。制御部7は、加熱器25の温度を制御可能に形成される。
【0032】
制御部7は、記憶部71を有している。記憶部71には、空間31の各温度条件及び各湿度条件において、対象物100の結露を防止可能であって、対象物100を殺菌できる殺菌効果が得られる複数の閾値及び当該閾値によって殺菌効果が得られる過酸化水素ガスを空間31に供給する所定の時間が予め記憶される。なお、所定の時間とは、閾値に基づいて予め設定され、例えば、本実施形態においては、15分である。
【0033】
閾値に用いられる温度条件としては、20℃以上であって、且つ、35℃以下とする。これは、温度を20℃以下とした空間31においては、結露の発生の虞が高く、また、35℃以上とすると、空間31内と外部環境との差が大きくなり、空間31から対象物100を取り出した後に、対象物100由来の水分が外部環境へ放出され、対象物100の表面を結露させる虞があるためである。また、閾値に用いられる湿度条件としては、80%以下とする。これは、上記温度条件を考慮すると、湿度が80%を超えた空間31においては、対象物100の結露を防止しつつ、殺菌効果を得られる過酸化水素ガスの濃度を維持するのが困難なためである。
【0034】
閾値に設定される空間31へ供給される過酸化水素ガスの濃度条件としては、下限値及び上限値は、80ppmから1200ppmである。下限値の80ppmとは、所定の時間の殺菌処理により、殺菌効果が認められる最小の値であり、上限値の1200ppmとは、温度を35℃、湿度を30%の条件下で殺菌処理中の結露の発生を防止できる上限の値である。
【0035】
また、サルモネラ菌を対象とする殺菌処理の場合においては、サルモネラ菌を所定の時間である15分で殺菌可能な300ppmが、過酸化水素ガスの濃度条件の下限となる。このように、対象菌に応じて、過酸化水素ガスの濃度条件を適宜設定することが可能である。
【0036】
これら複数の閾値は、対象物100に対して殺菌効果を有する空間31の過酸化水素ガスの濃度であって、且つ、空間31に含まれる蒸気量が飽和蒸気量未満となる過酸化水素ガスの濃度である。なお、蒸気量における蒸気とは、過酸化水素ガスのことであり、前記蒸気は、過酸化水素と水からなる。
【0037】
以下、記憶部71に記憶される閾値について以下に具体的に説明する。
【0038】
結露を防止可能な過酸化水素ガスの閾値とは、空間31へ供給された過酸化水素ガスにより対象物100を殺菌する空間31の蒸気量が飽和蒸気量を超えない過酸化水素ガスの濃度である。また、当該閾値は、対象物100に対して所定の時間で目的の殺菌効果を得られる空間31の過酸化水素ガスの濃度である。ここで、結露とは、ある温度における空間31の蒸気量が、当該温度における飽和蒸気量を超えたときに発生する。なお、飽和蒸気量とは、ある温度において、空気中に含むことができる単位体積当たりの最大の蒸気の質量である。
【0039】
閾値は、例えば、過酸化水素ガスの濃度、又は、過酸化水素ガスの濃度から求められる過酸化水素水Lの供給量、又は、過酸化水素ガスの濃度から求められる過酸化水素水Lの気化量として記憶部71に記憶される。
【0040】
このような閾値は、
図2に示した測定装置300を用いて予め求められる。当該閾値の導出方法の一例を以下に説明する。
[閾値の導出方法]
図2は、過酸化水素水の気化量と過酸化水素ガスの濃度の関係を測定するための測定装置300の模式図である。
【0041】
測定装置300は、過酸化水素ガスを生成させるガス発生器200と、ガス発生器200に温度及び湿度が調節された空気を導入する吸気管201と、過酸化水素ガスを排気する排気管202と、排気管202に設けられ、ガス発生器200から排出された過酸化水素ガスの濃度、温度及び湿度を検出する検出器500と、を備えている。
【0042】
以下、測定装置300を用いた閾値の導出手順の一例を説明する。
[導出手順]
1)まず、ガス発生器200において、過酸化水素水Lを気化させ、過酸化水素ガスを生成する。
2)吸気管201より、温度及び湿度が制御された空気をガス発生器200内へ供給する。
3)供給された空気と1)で生成した過酸化水素ガスを混合する。
4)次に、3)の過酸化水素ガスを排気管202へ送り、排気管202の流路内の過酸化水素ガス濃度、温度及び湿度を検出器500により検出する。
5)検出した過酸化水素ガスの濃度、温度及び湿度、並びに、過酸化水素水Lの気化量から、排気管202内の飽和蒸気量を求める。
6)求めた飽和蒸気量よりも低い蒸気量であって、且つ、所定の時間で対象物100の殺菌効果が得られる、所定の値を閾値に設定する。所定の値とは、過酸化水素ガスの濃度、過酸化水素水Lの気化量又は過酸化水素水Lの供給量である。
7)これら1)乃至6)の手順を、各温度条件及び各湿度条件に調整した空気でそれぞれ求め、各温度条件及び各湿度条件での複数の閾値を導出する。
【0043】
以下、各温度条件及び各湿度条件における、過酸化水素水Lの気化量と過酸化水素ガスの濃度の測定結果を
図3及び
図4に示す。
【0044】
(1)温度20℃、湿度30%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が3.1g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は460ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である460ppm未満の濃度となる。
【0045】
(2)温度20℃、湿度40%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が2.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は340ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である340ppm未満の濃度となる。
【0046】
(3)温度20℃、湿度50%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が2.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は290ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である290ppm未満の濃度となる。
【0047】
(4)温度20℃、湿度60%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が1.8g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は270ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である270ppm未満の濃度となる。
【0048】
(5)温度25℃、湿度30%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が5.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は780ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である780ppm未満の濃度となる。
【0049】
(6)温度25℃、湿度40%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が2.9g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は470ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である470ppm未満の濃度となる。
【0050】
(7)温度25℃、湿度50%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が2.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は360ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である360ppm未満の濃度となる。
【0051】
(8)温度30℃、湿度30%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が5.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は860ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である860ppm未満の濃度となる。
【0052】
(9)温度30℃、湿度40%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が5.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は650ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である650ppm未満の濃度となる。
【0053】
(10)温度30℃、湿度50%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が3.7g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は480ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である480ppm未満の濃度となる。
【0054】
(11)温度35℃、湿度30%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が8.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は1200ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である1200ppm未満の濃度となる。
【0055】
(12)温度35℃、湿度40%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が5.5g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は820ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である820ppm未満の濃度となる。
【0056】
(13)温度35℃、湿度50%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が3.7g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は520ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である520ppm未満の濃度となる。
【0057】
(14)温度35℃、湿度70%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が1.8g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は280ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である280ppm未満の濃度となる。
【0058】
(15)温度35℃、湿度80%の場合には、過酸化水素水Lの気化量が1.2g/m
3のときに測定空間の蒸気量が飽和蒸気量に達した。その時の過酸化水素ガス濃度は150ppmであった。このため、当該条件における閾値は、飽和蒸気量の過酸化水素ガス濃度である150ppm未満の濃度となる。
【0059】
これら導出された(1)乃至(15)の閾値が記憶部71に記憶される。
【0060】
また、制御部7は、以下の機能を有している。
(a)過酸化水素ガスを発生させて、空間31へ供給する機能。
(b)空間31へ供給する過酸化水素ガスの濃度を決定する機能。
【0061】
次に上記(a)、(b)の機能について説明する。
【0062】
機能(a)は、供給手段24及び加熱器25を制御して過酸化水素ガスを発生させるとともに、圧送手段26を駆動することで、空間31に過酸化水素ガスを発生させる機能である。具体的には、機能(a)は、加熱器25を制御して、加熱部を所定の温度に加熱する。また、機能(a)は、記憶部71に記憶される閾値に基づいて供給手段24を制御し、閾値に記憶された所定の時間の間、加熱器25に過酸化水素水Lを供給する。機能(a)は、加熱器25で気化された過酸化水素ガスを、圧送手段26を制御して空間31へ供給する。機能(a)は、これら、供給手段24、加熱器25及び圧送手段26を制御し、過酸化水素ガスを発生させて空間31に供給する機能である。なお、圧送手段26による空間31への過酸化水素ガスの供給は、所定の時間の間行われる。
【0063】
機能(b)は、例えば、閾値が過酸化水素水Lの供給量として記憶部71に記憶されている場合には、検出器5で検出された空間31と同じ空間である連通管4の温度と湿度の値から、記憶部71に記憶されている各温度条件及び各湿度条件に基づいて閾値を選択し、過酸化水素水Lの供給量を決定する。なお、制御部7は、供給手段24を制御し、上記閾値で決定された供給量の過酸化水素水Lを加熱器25へ供給する。
(対象物100の殺菌方法)
次に、対象物100の殺菌方法について説明する。
【0064】
まず、殺菌する対象物100を殺菌装置1の空間31へ収容する。次に、制御部7は、加熱器25を制御し、加熱器25を所定の温度まで加熱する。
【0065】
制御部7は、例えば、閾値が過酸化水素水Lの供給量として記憶部71に記憶されている場合には、検出器5が検出した温度及び湿度のデータに基づいて、記憶部71に記憶されている複数の閾値から一つの閾値を選択し、過酸化水素水Lの供給量を決定する。
【0066】
次に、制御部7は、供給手段24を制御し、決定した過酸化水素水Lの供給量に基づいて、過酸化水素水Lを加熱器25へ供給する。
【0067】
過酸化水素水Lは、加熱器25で気化され、過酸化水素ガスが生成される。制御部7は、圧送手段26を駆動させ、生成された過酸化水素ガスを圧送する。これにより、過酸化水素ガスは、連通管4の流路を通り、処理槽3の空間31へ供給される。この供給によって、空間31内の空気又は過酸化水素ガスは、処理槽3から排気管6を介して排出される。対象物100は、空間31へ供給された過酸化水素ガスに暴露される。また、制御部7は、所定の時間の間、過酸化水素ガスを空間31に供給する。これにより、空間31内の過酸化水素ガスの濃度が一定に保たれた状態で、所定の時間の間、対象物100が殺菌される。
【0068】
制御部7は、所定の時間経過後、過酸化水素水Lの供給を停止する。制御部7は、圧送手段26の駆動を継続し、空間31に空気を供給し、空間31内の過酸化水素ガスを排気管6から排気し、殺菌を終了する。このように、対象物100は、所定の時間だけ空間31内で所定の濃度の過酸化水素ガスにより、水分量が制御された状態で殺菌が行われる。
(乾燥飼料の製造方法)
次に、乾燥飼料の製造方法について説明する。
なお、本実施形態において、水分量が14%以下であって、水分活性(Aw)が0.75以下の乾燥飼料とは、例えば、穀物を主原料とする採卵鶏用飼料の一種であるマッシュ飼料である。当該マッシュ飼料を用いて以下説明する。また、マッシュ飼料の殺菌対象の菌とは、例えば、サルモネラ菌である。マッシュ飼料とは、トウモロコシやマイロ等の穀類を混合し、鶏が食べやすい大きさに粉砕した乾燥飼料のことである。
【0069】
まず、一種類又は複数の種類の穀物から構成されるマッシュ飼料の原料を粉砕する。粉砕された原料は、ふるい分けされ、その後、予備配合等含む一次加工がされる。
【0070】
次に、一次加工がされたマッシュ飼料は殺菌工程へと移行し、殺菌処理が行われる。マッシュ飼料は、例えば、搬送手段としてコンベアを用いて空間31へ搬送する。なお、当該搬送工程においては、当該搬送が行われる空間の温度が35℃を超えない温度に設定される。
【0071】
殺菌工程として、先ず、制御部7は、加熱器25を制御し、加熱器25を所定の温度まで加熱する。制御部7は、例えば、閾値が過酸化水素水Lの供給量として記憶部71に記憶されている場合には、検出器5が検出した温度及び湿度のデータに基づいて、記憶部71に記憶されている複数の閾値から一つの閾値を選択し、過酸化水素水Lの供給量を決定する。
【0072】
次に、制御部7は、供給手段24を制御し、決定された過酸化水素水Lの供給量に基づき、過酸化水素水Lを加熱器25へ供給し、過酸化水素水Lを過酸化水素ガスに気化させる。次に、制御部7は、圧送手段26を制御し、当該過酸化水素ガスを空間31へ供給し、濃度が一定に保たれた過酸化水素ガスにマッシュ飼料を暴露させて、マッシュ飼料を殺菌する。
【0073】
所定の時間経過後、制御部7は、殺菌処理の終了を判断し、供給手段24を制御して、過酸化水素水Lの供給を停止する。制御部7は、圧送手段26の駆動を継続し、空間31に空気を供給し、空間31内の過酸化水素ガスを排気管6から排気し、殺菌処理を終了する。この殺菌処理により、マッシュ飼料は、水分量が制御された状態で、対象となるサルモネラ菌が滅菌される。
【0074】
過酸化水素ガスの排気処理後、殺菌処理後のマッシュ飼料をコンベアにより、処理槽3から次工程へ移送させる。殺菌処理後のマッシュ飼料は、次の工程として、例えば、計量され、一定量毎に袋詰めされる。このような製造工程を繰り返すことにより、水分量が制御され、乾燥物の条件を満たした状態で殺菌されたマッシュ飼料を製造することが可能となる。
【0075】
(殺菌装置1及び殺菌方法の評価)
次に、殺菌装置1及び殺菌方法を用いた殺菌について実施例1及び実施例2を用いた評価を以下で説明する。なお、実施例1は、閾値に基づいて空間31へ供給される過酸化水素ガスの殺菌効果を、過酸化水素ガスの濃度が異なる比較例1と比較し、殺菌効果を評価する。また、実施例2は、閾値に基づいて供給される過酸化水素ガスによる水分量の変化を、過酸化水素ガスの濃度が同一であって、且つ、当該過酸化水素ガスの濃度に対する閾値の温度及び湿度とは異なる温度条件及び湿度条件に空間31内が設定された比較例2と比較し、対象物100中の水分量の制御効果を評価する。
【0076】
なお、閾値の有効性の評価のため、実施例1及び実施例2は、殺菌処理時間15分で殺菌効果を有し、且つ、飽和蒸気量未満の濃度であることが、上述の閾値のデータから推測できる温度条件及び湿度条件を用いて評価した。
【0077】
まず、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2に用いられる殺菌装置、汚染飼料の作製、殺菌評価方法及び水分量の測定手順について説明する。
【0078】
[殺菌装置]
殺菌装置として、
図1に示した殺菌装置1を用い、処理槽3に、直径100mmの円筒形の容器を用いた。また、処理槽3の連通管4及び排気管6との接続部には、ガーゼを配置した。
【0079】
本実施例及び比較例における、殺菌処理の所定の時間は15分とした。また、過酸化水素水Lに、35%過酸化水素水を用いた。また、加熱器25として、ヒートプレートを用い、プレート温度は、150℃に制御した。
[汚染飼料の作製]
対象物100は、乾燥飼料であり、マッシュ飼料を用いた。
【0080】
汚染飼料は、所定量のサルモネラ菌を100gのマッシュ飼料と混合し、10
2CFU/gサルモネラ菌汚染飼料を作製した。なお、サルモネラ菌は、マッシュ飼料の付着菌の一種であり、マッシュ飼料の殺菌の対象菌の一例として使用した。
【0081】
次に、汚染飼料の殺菌効果の評価手順について説明する。
【0082】
[汚染飼料の殺菌効果の評価手順]
殺菌開始時及び殺菌開始時から6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時に、処理槽3に収容された飼料を採取し試料中のサルモネラ菌の生残を測定することにより殺菌性能を評価する。サルモネラ菌の生残は、以下の(1)〜(4)の手順により測定する。なお、培養に使用した培地については、後に記載する。
(1)殺菌処理を行った飼料10gを所定時間経過毎に採取する。この飼料をBPW培地90mlに加え、混合し37℃で24時間の培養をする。
(2)(1)の培地を1ml採取する。この培地をハーナテトラチオン酸塩培地9mlに移植し、41.5℃で24時間の培養をする。
(3)(2)の培養液をDHL培地に画線し、37℃で24時間の培養をする。
(4)サルモネラ菌のコロニーが観察された培地を陽性(+)、観察されなかった培地を陰性(-)とする。
【0083】
[培地について]
まず、様々な菌を増菌培養するための培地としてBPW培地を用いる。BPW培地は、ペプトン10g、塩化ナトリウム5g、リン酸2水素カリウム1.5g、リン酸水素2ナトリウム10水和物9g、精製水1000mlを溶解後、オートクレーブ滅菌(121℃、15分)をしたものを用いる。
【0084】
次に、サルモネラ菌を選択的に培養するための選択培地として、ハーナテトラチオン酸塩培地を用いる。ハーナテトラチオン酸塩基基礎培地(栄研化学株式会社)は、付属の作製方法に従って作製する。
【0085】
選択培養後にサルモネラ菌に特有の黒色コロニーを確認するためDHL培地を用いて培養する。DHL寒天培地(日水製薬株式会社)は、付属の作製方法に従って作製する。
【0086】
次に、飼料中の水分量の測定手順について説明する。
[水分量の評価手順]
(1)ひょう量皿を、105℃の恒温器中で1時間乾燥し、ひょう量皿の質量を精秤する。
(2)(1)の乾燥後のひょう量皿をデシケータの中で60分間の放冷し精秤する。
(3)(1)の乾燥後のひょう量皿の質量と、(2)の放冷後のひょう量皿の質量との差が、いわゆる恒量に達する0.3mg以下になるまで、(1)及び(2)の手順を繰り返し、その質量をW0として記録する。
(4)上記手順により恒量となったひょう量皿に飼料を採取し精秤し、その質量をWとして記録する。
(5)(4)のひょう量皿を105℃の恒温器の中で1時間乾燥し、精秤する。
(6)(5)のひょう量皿をデシケータの中で60分間の放冷し、精秤する。
(7)(5)の乾燥後のひょう量皿の質量と、(6)の放冷後のひょう量皿の質量との差が、いわゆる恒量に達する0.3mg以下になるまで(5)及び(6)の手順を繰り返し、その質量(W1)を記録する。
(8)下記の計算式により水分量を算出する。
(W−(W1−W0))/W×100
(9)殺菌開始時及び殺菌開始時から3分経過、6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時に、水分量の所定の時間経過毎の変化から、水分量の制御効果について評価する。
【0087】
なお、上記手順中、精秤とは、ひょう量皿又は、飼料から蒸発した水分量が測定可能な程度の精度で測定することである。
【0088】
これら汚染飼料の殺菌効果の評価手順及び水分量の測定手順を用いて、実施例1及び比較例1において殺菌評価及び飼料中の水分量についての評価をし、実施例2及び比較例2において飼料中の水分量の評価をする。
【0089】
以下、実施例1及び比較例1の殺菌評価及び飼料中の水分量の制御の評価について説明する。
【0090】
実施例1及び比較例1は、供給される過酸化水素ガスの濃度を変えて、温度条件及び湿度条件を同じとした汚染飼料中の殺菌評価、及び、汚染飼料中の水分量を測定し、閾値の有効性を検討する。
【0091】
(実施例1)
空間31の温度を25℃に、相対湿度を45%に調整し、殺菌装置1のガス発生器2から供給される過酸化水素ガスの濃度を300ppmに調整する。当該過酸化水素ガスを空間31に供給し、空間31に収容した、10
2CFU/gのサルモネラ菌汚染飼料を殺菌処理する。なお、実施例1において空間31へ供給される300ppmの過酸化水素ガスの濃度は、殺菌処理時間15分で殺菌効果を有し、且つ、上述の温度25℃、相対湿度40%における飽和蒸気量の測定値と、温度25℃、相対湿度50%における飽和蒸気量の測定値から上記温度条件及び湿度条件において閾値と推測される濃度である。上述の殺菌効果の評価手順によりサルモネラ菌の生残の有無を評価する。サルモネラ菌の生残の有無の評価は、殺菌開始時及び殺菌処理の開始から、6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時で測定する。また、上述の水分量の評価手順に基づいて、殺菌開始時及び殺菌処理の開始から6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時に水分量を測定し、水分量の変化を評価する。
【0092】
(比較例1)
空間31の温度を25℃に、相対湿度を45%に調整し、殺菌装置1のガス発生器2から供給される過酸化水素ガスの濃度を150ppmに調整する。当該過酸化水素ガスを空間31に供給し、空間31に収容した10
2CFU/gのサルモネラ菌汚染飼料を殺菌処理する。比較例1において空間31へ供給される150ppmの過酸化水素ガスの濃度は、上記温度条件及び湿度条件における閾値の過酸化水素ガスの濃度以下である。この条件下において、上述の殺菌効果の評価手順によりサルモネラ菌の生残の有無を評価する。サルモネラ菌の生残の有無の評価は、殺菌開始時及び殺菌処理の開始から6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時で測定する。また、上述の水分量の評価手順に基づいて、殺菌開始時及び殺菌処理の開始から6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時に水分量を測定し、水分量の変化を評価する。
【0093】
上記の条件下における実施例1及び比較例1の評価結果を、以下に
図5を用いて、説明する。なお、
図5においては、殺菌開始時を0分として示している。
【0094】
(実施例1)
図5に示すように、サルモネラ菌は、殺菌処理の開始から6分までは、陽性であったが9分以降は、陰性の反応であった。
したがって、実施例1において、閾値に基づいて供給した過酸化水素ガスを汚染飼料中のサルモネラ菌に曝すことで、殺菌効果を得られた。
また、殺菌処理の開始から15分経過時までの各測定点における水分量は13.0%であり、水分量の変化が見られなかった。
【0095】
したがって、上記温度条件及び湿度条件において用いられた過酸化水素ガスの濃度は飽和蒸気量未満であり、15分間でサルモネラ菌を殺菌可能な過酸化水素ガスの濃度であった。これにより、上記により導出された過酸化水素ガスの濃度は、閾値として有効であることが認められた。
【0096】
このように、閾値を用いて殺菌処理を行うことで、汚染飼料への水分の付着による水分量の増加が起こることなく、サルモネラ菌を殺菌することが可能となり、水分量の制御及び殺菌効果を得ることが可能であることが示された。
【0097】
(比較例1)
図5に示すように、サルモネラ菌は、殺菌処理の開始から15分経過時までの各測定点において全て陽性の反応であった。
【0098】
したがって、比較例1においては、過酸化水素ガスの濃度を150ppmに調整された過酸化水素ガスの濃度では、所定の時間(15分)の間で汚染飼料中のサルモネラ菌に対する殺菌効果が認められなかった。
【0099】
また、殺菌処理の開始から15分経過時までの各測定点における汚染飼料中の水分量は13.0%であり、水分量の変化が見られなかった。
【0100】
このように、閾値の半分の濃度である比較例1では、水分量の制御は可能であるが、サルモネラ菌の殺菌効果が得られないことが示された。
【0101】
(実施例1及び比較例1の比較)
閾値に基づき濃度が300ppmに調整された過酸化水素ガスを用いた実施例1の殺菌処理においては、9分以上の殺菌処理を行うことにより、汚染飼料中のサルモネラ菌が殺菌された。
【0102】
これに対して、閾値から外れる濃度である150ppmに調整された過酸化水素ガスの濃度を用いた比較例1の殺菌処理においては、殺菌処理時間15分経過後においても、生残評価において陽性であり、サルモネラ菌に対する殺菌効果は認められなかった。
【0103】
なお、実施例1及び比較例1のガス発生器2から空間31へ供給される過酸化水素ガスの濃度は、300ppm又は150ppmであり、温度が25℃で湿度が45%の空間31への15分間の供給においては、飽和蒸気量に達することがないため、共に汚染飼料中の水分量の増加は認められなかった。
【0104】
これらの結果より、過酸化水素ガスによる殺菌処理において、水分量の制御を可能とし、且つ、所定の殺菌効果を有するために、規定された閾値を用いることが有効であることが示された。また、閾値よりも低い濃度とすることで、殺菌効果は得られないが、水分量の制御が可能であることが示された。
【0105】
以下、実施例2及び比較例2の水分量の制御の評価について説明する。
【0106】
実施例2及び比較例2は、供給される過酸化水素ガスの濃度は同一の濃度とし、異なる温度条件及び湿度条件とした汚染飼料中の水分量を測定し、閾値の有効性を検討する。
【0107】
(実施例2)
空間31の温度を25℃に、相対湿度を45%に調整し、殺菌装置1のガス発生器2から供給される過酸化水素ガスの濃度を300ppmに調整する。当該過酸化水素ガスを空間31に供給し、空間31に収容した、10
2CFU/gのサルモネラ菌汚染飼料を殺菌処理する。なお、実施例2において空間31へ供給される300ppmの過酸化水素ガスの濃度は、殺菌処理時間15分で殺菌効果を有し、且つ、上述の温度25℃、相対湿度40%における飽和蒸気量の測定値と、温度25℃、相対湿度50%における飽和蒸気量の測定値から上記温度条件及び湿度条件において閾値と推測される濃度である。
【0108】
上述の水分量の評価手順に基づいて、殺菌開始時及び殺菌処理の開始から3分経過、6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時に水分量を測定し、水分量の変化を評価する。
【0109】
(比較例2)
空間31の温度を20℃に、相対湿度を60%に調整し、殺菌装置1のガス発生器2から供給される過酸化水素ガスの濃度を300ppmに調整する。当該過酸化水素ガスを空間31に供給し、空間31に収容した、10
2CFU/gのサルモネラ菌汚染飼料を殺菌処理する。なお、比較例2において空間31へ供給される300ppmの過酸化水素ガスの濃度は、上記温度条件及び湿度条件における閾値よりも高い過酸化水素ガスの濃度である。
【0110】
上述の水分量の評価手順に基づいて、殺菌開始時及び殺菌処理の開始から3分経過、6分経過、9分経過、12分経過、15分経過時に水分量を測定し、水分量の変化を評価する。
【0111】
上記条件下における、実施例2及び比較例2の水分量を比較した結果を以下に
図6を用いて説明する。なお、
図6においては、殺菌開始時を0分として示している。
【0112】
(実施例2)
図6に示すように、試験開始から15分経過時の全ての測定点における水分量は、13.0%であり、水分量の変化が見られなかった。
【0113】
したがって、上記温度条件及び湿度条件において用いられた過酸化水素ガスの濃度は飽和蒸気量未満であった。これにより、上記により導出された過酸化水素ガスの濃度は、閾値として有効であることが認められた。
【0114】
このように、閾値を用いて殺菌処理を行うことで、汚染飼料への水分の付着による水分量の増加がおこることがなく、飼料の水分量の制御を行うことが可能であることが示された。
【0115】
(比較例2)
図6に示すように、汚染飼料中の水分量は、殺菌処理開始時は、13.0%であった。また、3分経過時において14.2%、6分経過時において14.4%、9分経過時において14.4%、12分経過時において14.3%、15分経過時において14.9%であり、殺菌処理の時間が経過するにつれて、漸次水分量が増加した。
【0116】
これは、空間31内が飽和蒸気量となり、飼料に結露が発生し、飼料に付着した水分によって飼料中の水分量が増加したためである。このように、閾値以上の過酸化水素ガスを用いて殺菌処理を行うことで、飼料の水分量が増加することが示された。
【0117】
(実施例2及び比較例2の比較)
空間31の温度条件及び湿度条件から選択される閾値に基づき濃度が調整された過酸化水素ガスを用いた実施例2の殺菌処理においては、飼料中の水分量の増加を防止し、水分量の制御が可能であった。
【0118】
これに対し、閾値を超える濃度に調整された過酸化水素ガスを用いた比較例2の殺菌処理においては、殺菌処理の時間が経過する毎に、飼料の水分量が増加した。
【0119】
これらの結果より、過酸化水素ガスによる殺菌処理において、水分量の制御を可能とするために、規定された閾値を用いることが有効であることが示された。
【0120】
また、本実施の形態に係る殺菌装置1は、実施例1及び実施例2より、採卵鶏用のマッシュ飼料に付着しているサルモネラ菌に対して、マッシュ飼料中の水分量を増加させることなく殺菌可能である。このため、マッシュ飼料の製造方法の一部に、上記殺菌工程を用いることにより、乾燥飼料としての水分量を維持した状態でのサルモネラ菌を殺菌したマッシュ飼料の製造が可能である。そして、上記殺菌処理は、乾燥飼料中の水分量が増加することがない。このため、殺菌工程において、乾燥飼料を再度乾燥処理する設備を設ける必要が無く製造コストを低減することができる。
【0121】
このように構成された殺菌装置1及び殺菌方法によれば、空間31の飽和蒸気量未満となる、対象物100の殺菌効果となる過酸化水素ガスの濃度である閾値を用いて対象物100の殺菌処理を行うことで、対象物100の水分量を増加させずに容易に殺菌を行うことが可能となる。これにより、殺菌処理を行った対象物100を、その後の工程で乾燥させる必要がない。このため、殺菌装置1及び殺菌方法は、水分量の管理が必要な乾燥物の殺菌に適した殺菌を提供することが可能となる。
【0122】
このように、閾値を20℃以上、35℃以下の範囲に設定することにより、殺菌処理後における対象物100の表面の外部環境由来または対象物100由来の水分による結露の発生を防止することができる。
【0123】
また、対象物100に結露が発生することがないから、対象物100に過酸化水素水が直接付着することを防止できるため、対象物100への過酸化水素水の残存を防止可能である。結果、飼料や食料品への過酸化水素水の付着による影響を防止できる。また、金属等の対象物100の殺菌においては、過酸化水素水の付着により対象物100が腐食することを防止できる。
【0124】
また、殺菌装置1及び殺菌方法に用いられる閾値は、供給手段24により供給する過酸化水素水Lの供給量であることから、制御部7は、当該閾値に基づいて供給手段24を駆動すればよく、簡単な制御で空間31の過酸化水素ガスの濃度を管理することが可能となる。
【0125】
また、閾値は、記憶部71に記憶される所定の時間だけ殺菌処理を行うことで、対象物100の殺菌効果が得られる値に設定されることから、殺菌時間は、当該所定の時間だけ行うことで、所定の殺菌効果が得られる。このため、殺菌時間の管理が容易となる。また、殺菌時間に併せて閾値を設定することで、殺菌効果を確保したまま殺菌時間を管理できることから、殺菌時間の短縮をすることが可能となる。
【0126】
また、殺菌装置1及び殺菌方法は、予め記憶部71に記憶された複数の閾値から、検出器5で検出された温度及び湿度に基づいて、一の閾値を選択する構成である。このため、殺菌処理を行う空間31の温度条件及び湿度条件が一定でない環境下においても、殺菌時の空間31の温度条件及び湿度条件下で水分量が制御でき、且つ、所定の殺菌効果を得られる殺菌処理を容易に行うことが可能となる。
【0127】
また、当該殺菌装置1及び殺菌方法を飼料の製造方法に用いることで、飼料の水分量の増加を防止可能なため、後工程において、飼料の水分量を管理する必要がない。このため、飼料の製造方法は、乾燥物である飼料の殺菌処理後に、飼料の乾燥工程を必要とせず、飼料の製造コストを増加させることがない。また、飼料の水分量の増加を防止可能となることから、製造した飼料のその後の変敗を防止することができる。
【0128】
また、実施例1及び実施例2でも示されるように、採卵鶏用飼料に用いられるマッシュ飼料の殺菌においても、当該マッシュ飼料において問題となるサルモネラ菌の殺菌が可能であって、且つ、水分量の制御が可能となる。このため、製造したマッシュ飼料を採卵鶏に与えても、その後に鶏、卵及び鶏の加工品にサルモネラ菌による影響を与えることがない。このため、安全性の高い採卵鶏用飼料を製造することが可能となる。
【0129】
上述したように本実施形態の殺菌装置1は、空間31の温度及び湿度に基づいて定められた閾値を用いて空間31の過酸化水素ガスの濃度を制御することで、殺菌効果を有し、且つ、対象物100の水分量の制御が可能となる。
【0130】
本発明の一実施形態に係る殺菌装置1、殺菌方法、及び、飼料の製造方法によれば、十分な殺菌性能を有し、且つ、対象物100の水分量を制御し、所定の時間の殺菌処理を実施することが可能である。
【0131】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した例では、ガス発生器2は、処理槽3と連通管4を介して接続されているが、これに限られず、例えば、処理槽3の一部にガス発生器2を含むように形成することも可能である。
【0132】
また、上述した例では、検出器5は、連通管4の流路上に配置されているが、検出器5は、空間31の温度及び湿度を検出可能であれば、これに限られない。例えば、検出器5は、処理槽3に配置することも可能である。
【0133】
また、上述した例では、過酸化水素水Lとして、35%過酸化水素水を用いているが、過酸化水素水Lの濃度は、これに限られず、入手可能な過酸化水素水の濃度により適宜調整される。
【0134】
また、上述した例では、閾値として、本実施形態においては、空間31に含まれる蒸気量が飽和蒸気量よりも所定の値だけ低く、且つ、対象物100に対して殺菌効果を有する過酸化水素ガスの濃度とする説明をしたがこれに限定されない。例えば、閾値は、空間31に含まれる蒸気量が飽和蒸気量未満であって、殺菌効果を有する範囲で、上限及び下限が設定された過酸化水素ガスの濃度であってもよい。
【0135】
このように、所定の範囲が設定された過酸化水素ガスの濃度を閾値として用いることで、閾値の温度条件及び湿度条件と検出器5から得られた温度及び湿度の差に基づいて、閾値の範囲内でさらに濃度を設定することが可能となる。例えば、温度条件が25℃であって、且つ、湿度条件が35%の閾値に対して、検出器5で検出された温度が24.9℃であって、且つ、湿度が38%である場合等においては、閾値の下限側に近い過酸化水素ガスの濃度となるように過酸化水素ガスの濃度となる過酸化水素水Lの供給量とすることができる。また、閾値は、殺菌対象となる菌に応じて、閾値を設定する構成であってもよい。
【0136】
また、上述した例では、検出器5により殺菌処理開始前に検出した温度及び湿度に基づいて閾値を選択する構成を説明したがこれに限定されない。例えば、閾値を選択し、当該閾値に基づいて過酸化水素ガスを空間31に供給した後に、当該空間31の温度及び湿度から再び閾値を選択し、過酸化水素水Lの供給量を決定することも可能である。
【0137】
また、殺菌方法の他の実施形態として、過酸化水素ガスの供給を殺菌処理中の連通管4の温度及び湿度の変化や、過酸化水素ガスの濃度の変化に応じて制御するフィードバック制御を制御部7が行う構成であってもよい。
【0138】
具体的には、制御部7は、所定時間毎に検出器5で検出された温度及び湿度に基づいて記憶部71に記憶されている複数の閾値から一の閾値を選択し、当該閾値に基づいて空間31に過酸化水素ガスを供給する。
【0139】
また、制御部7は、検出器5で検出された温度及び湿度を監視し、空間31内の温度及び湿度が変化した場合に、当該温度及び湿度に基づいて閾値を再び選択し、当該選択した閾値に基づいて空間31に供給する過酸化水素ガスの濃度を変更する。このように、空間31内の過酸化水素ガスの濃度が最適となるように、過酸化水素水Lの供給量を常時制御することも可能である。
【0140】
このようなフィードバック制御を用いて殺菌処理を行うことにより、制御部7は、効率的に過酸化水素ガスを空間31へ供給することができる。このため、当該制御部7を含む殺菌装置1は、処理槽3の温度及び湿度が変化しやすい環境においても、対象物100への結露の発生を防ぐことができる。
この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能であるのは勿論である。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 過酸化水素水を過酸化水素ガスに気化させる加熱器と、
前記加熱器へ前記過酸化水素水を供給する供給手段と、
前記加熱器で気化された前記過酸化水素ガスを用いて対象物を殺菌する空間を有する処理槽と、
前記空間の前記過酸化水素ガスの濃度を、前記対象物に対して殺菌効果を有する濃度以
上であって、且つ、前記空間に含まれる蒸気量が飽和蒸気量未満となる前記過酸化水素ガスの濃度に制御する制御部と、
を備えることを特徴とする殺菌装置。
[2] 前記対象物に対して殺菌効果を有し、且つ、前記空間に含まれる前記蒸気量が前記飽和蒸気量未満となる前記過酸化水素ガスの濃度である閾値を記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、前記閾値に基づいて前記供給手段を制御して前記過酸化水素水を前記加
熱器に供給することを特徴とする[1]に記載の殺菌装置。
[3] 前記空間の温度及び湿度を検出する検出器をさらに備え、
前記記憶部には、前記空間の各温度条件及び各湿度条件の前記閾値が複数記憶され、
前記制御部は、前記検出器で検出された前記空間の温度及び湿度に基づいて前記記憶部に記憶された前記閾値の一つを選択し、選択された前記閾値に基づいて、前記供給手段を制御することを特徴とする[2]に記載の殺菌装置。
[4] 前記記憶部は、前記閾値に基づいて供給される前記過酸化水素ガスにより前記空間の前記対象物が前記殺菌効果を得られる所定の時間を記憶し、
前記制御部は、前記所定の時間の間、前記閾値に基づいて、前記供給手段を制御することを特徴とする[2]に記載の殺菌装置。
[5] 前記閾値は、前記供給手段により前記加熱器に供給される前記過酸化水素水の供給量であることを特徴とする[2]に記載の殺菌装置。
[6] 前記制御部は、前記検出器で検出された前記空間の温度及び湿度に基づいて前記閾値を選択し、前記供給手段から前記閾値に基づいて前記過酸化水素水を前記加熱器へ供給し、前記過酸化水素水から気化した前記過酸化水素ガスを前記空間へ供給した後に、前記検出器で検出された前記空間の温度及び湿度に基づいて前記閾値を再び選択し、前記選択した前記閾値に基づいて前記供給手段を制御することを特徴とする[3]に記載の殺菌装置。
[7] 前記対象物は、水分量が14%以下、水分活性が0.75以下の乾燥物であることを特徴とする[1]に記載の殺菌装置。
[8] 過酸化水素水を過酸化水素ガスに気化させる加熱器に、前記過酸化水素ガスを用いて対象物を殺菌する空間の前記過酸化水素ガスの濃度が、前記対象物に対して殺菌効果を有する濃度以上であって、且つ、前記空間に含まれる蒸気量が飽和蒸気量未満となる前記過酸化水素水を供給手段により供給し、
前記加熱器で気化された前記過酸化水素ガスを前記空間へ供給することを特徴とする殺菌方法。
[9] 飼料を殺菌する空間を備える処理槽に前記飼料を収容し、
過酸化水素水を過酸化水素ガスに気化する加熱器に、前記過酸化水素ガスを用いて飼料を殺菌する前記空間の前記過酸化水素ガスの濃度が、前記飼料に対して殺菌効果を有する濃度以上であって、且つ、前記空間に含まれる蒸気量が飽和蒸気量未満となる前記過酸化水素水を供給手段により供給し、
前記加熱器で気化された前記過酸化水素ガスを、前記空間へ供給することを特徴とする飼料の製造方法。
【解決手段】過酸化水素水を過酸化水素ガスに気化させる加熱器25と、加熱器25へ過酸化水素水Lを供給する供給手段24と、加熱器25で気化された過酸化水素ガスを用いて対象物100を殺菌する空間31を有する処理槽3と、空間31の過酸化水素ガスの濃度を、対象物100に対して殺菌効果を有する濃度以上であって、且つ、空間31に含まれる蒸気量が飽和蒸気量未満となる過酸化水素ガスの濃度に制御する制御部7と、を備える。