特許第5956063号(P5956063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956063
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】内部温度測定方法及び接触式内部温度計
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/00 20060101AFI20160707BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   G01K7/00 341P
   G01K7/00 361C
   G01K7/00 381G
   A61B5/00 101H
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-508512(P2015-508512)
(86)(22)【出願日】2014年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2014058185
(87)【国際公開番号】WO2014157138
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2015年5月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-70496(P2013-70496)
(32)【優先日】2013年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒山 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】北田 菜津子
(72)【発明者】
【氏名】松本 知子
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−237670(JP,A)
【文献】 特開2012−98037(JP,A)
【文献】 特開2011−27619(JP,A)
【文献】 特開2002−372464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
A61B 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の温度センサの放熱面における熱抵抗と第2の温度センサの放熱面における熱抵抗の1でない比Kを求める工程と、
前記第1の温度センサの吸熱面及び前記第2の温度センサの吸熱面を測定対象物の被測定面に熱的に接触させる工程と、
定常状態において前記第1の温度センサの温度である第1の温度Tと前記第2の温度センサの温度である第2の温度Tを測定する工程と、
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの周囲の温度である環境温度Tを測定する工程と、
定常状態における前記第1の温度T、前記第2の温度T、前記環境温度T及び前記比Kより前記測定対象物の内部温度Tを算出する工程と、を有する内部温度測定方法。
【請求項2】
前記内部温度Tを算出する工程は、次式
【数1】
により内部温度Tを算出する請求項1記載の内部温度測定方法。
【請求項3】
測定対象物の被測定面に接触する第1の接触面と熱的に結合される吸熱面と、周囲に熱を放散する放熱面を有する第1の温度センサと、
前記測定対象物の前記被測定面に接触する第2の接触面と熱的に結合される吸熱面と、周囲に熱を放散する放熱面を有し、放熱について
の熱抵抗が前記第1の温度センサと異なる第2の温度センサと、
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの周囲の温度である環境温度を測定する環境温度センサと、
前記第1の温度センサの放熱面における熱抵抗と第2の温度センサの放熱面における熱抵抗又はその比を記憶する熱抵抗比記憶部と、を有する接触式内部温度計。
【請求項4】
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方の放熱面には、凹凸構造、放熱板、放熱フィン、断熱材の少なくともいずれかが設けられる請求項3に記載の接触式内部温度計。
【請求項5】
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記吸熱面においてFPC(フレキシブルプリント基板)に実装され、前記FPCに設けられ、前記吸熱面の一部分を露出する開口に充填された伝熱性接着剤を介して前記第1の接触面及び前記第2の接触面のいずれかに熱的に結合される請求項3又は4に記載の接触式内部温度計。
【請求項6】
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記吸熱面と直交する面において当該面と平行に配置されたFPCに実装され、前記吸熱面は直接又は伝熱性接着剤を介して前記第1の接触面及び前記第2の接触面のいずれかに熱的に結合される請求項3又は4に記載の接触式内部温度計。
【請求項7】
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記吸熱面と平行に配置されたFPCに設けられた開口に挿入され、前記吸熱面と直交する面において前記FPCに実装され、前記吸熱面は直接又は伝熱性接着剤を介して前記第1の接触面及び前記第2の接触面のいずれかに熱的に結合される請求項3又は4に記載の接触式内部温度計。
【請求項8】
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記放熱面においてFPCに実装され、前記FPCには前記放熱面の一部分を露出する開口が設けられる請求項3又は4に記載の接触式内部温度計。
【請求項9】
前記第1の温度センサ、前記第2のセンサ及び前記環境温度センサは外光及び外部気流を遮蔽する共通の遮蔽空間内に配置され、
前記遮蔽空間を強制的に換気する換気機構を有する請求項3乃至8のいずれかに記載の接触式内部温度計。
【請求項10】
前記換気機構は、気流制御構造を含み、
前記気流制御構造は、前記第1の温度センサに作用する気流の量と前記第2の温度センサに作用する気流の量を異ならしめる構造である請求項9に記載の接触式内部温度計。
【請求項11】
さらに、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサを備えた接触式内部温度計の姿勢を検知する工程を有し、
前記測定対象物の内部温度Tを算出する工程は、さらに検知された前記姿勢に基いて内部温度Tを算出する請求項1又は2に記載の内部温度測定方法。
【請求項12】
前記比Kを求める工程は、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサを備えた前記接触式内部温度計の姿勢に応じた前記比Kの値又は前記比Kの値に対する係数を求める工程を含む請求項11に記載の内部温度測定方法。
【請求項13】
さらに、姿勢センサを有し、
前記熱抵抗比記憶部は、姿勢センサにより検出された姿勢の値に応じた前記熱抵抗比の値又は、前記熱抵抗比の値に対する係数を記憶する請求項3〜8のいずれかに記載の接触式内部温度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部温度測定方法及び接触式内部温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な状況において、測定対象物の表面温度ではなく、その内部温度を迅速・正確かつ簡便(すなわち、非侵襲)に測定したいとの要求が存在している。そのような要求の代表的なものとして、人体を含む生体の体温測定が挙げられる。しかしながら、生体の内部温度(深部体温などと称されることもある)、すなわち、血流により概ね恒温に保たれていると考えられる程度の生体内部の温度を測定するのは通常困難である。測定対象が人体の場合、一般的には、舌下や脇の下など熱が外部に逃げにくい場所に温度計を保持し、温度計と人体とが熱平衡状態となってからの温度計の読みを体温として採用することが多いが、熱平衡状態が得られるまでに5分から10分程度と長時間を要し、また得られる体温は必ずしもその内部温度と一致するとは限らない。このため、かかる方式は、乳幼児やある種の傷病患者等、長時間の体温測定が困難な対象への適用が困難な場合があり、また、精密な体温管理を行うに足る精度の高い体温を得るのは難しい。
【0003】
そこで、人体の内部温度を迅速・正確に測定するための温度計として、体表面に接触する第1の温度センサと、第1の温度センサに対し断熱材を挟んで配置される第2の温度センサからなるセンサの組を少なくとも二組備えた体温計が提案されている。このような体温計では、定常状態における各温度センサにおける温度測定結果から連立熱伝導方程式を解き、内部温度を求めるため、各組を通過する熱流束の大きさが異なるものとなるよう工夫されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、それぞれのセンサの組における断熱材の熱抵抗値を異なるものとした体温計が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、第2の温度センサ(中間センサ)と外気との間にさらに断熱材を配置し、かかる断熱材の熱抵抗値をセンサの組毎に異なるものとした体温計が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、第2の温度センサ(温度測定手段21,22)と外気との間にセンサの組毎に面積の異なる放熱板を配置した体温計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−212407号公報
【特許文献2】特許第4798280号公報
【特許文献3】特開2008−76144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の技術では、測定精度を十分なものとするためには、適宜の素材の断熱材を高精度に成形するとともに、かかる断熱材に正確に温度センサを取り付ける必要があり、製造上の手間やコストが増大する原因となる。
【0009】
さらに、上述の技術では、各センサの組が定常状態となるまで内部温度を求めることはできないが、断熱材を介して第2の温度センサに熱が十分に伝わり、定常状態となるまでには相当の時間、例えば数分程度を要するため、温度測定の高速性という点において十分とは言えない。そこで、定常状態となるまでの時間を短縮するため、各センサの組の熱容量を小さくする、すなわち、各温度センサに小型のものを用いると、各温度センサ間の温度差が小さくなるため測定精度が悪化する。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、簡易かつ低コストの構造を用いて、測定の高速性と精度を両立させ得る内部温度測定方法、及び、かかる内部温度測定方法を用いた接触式内部温度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下のとおりである。
【0012】
(1)第1の温度センサの放熱面における熱抵抗と第2の温度センサの放熱面における熱抵抗の1でない比Kを求める工程と、前記第1の温度センサの吸熱面及び前記第2の温度センサの吸熱面を測定対象物の被測定面に熱的に接触させる工程と、定常状態において前記第1の温度センサの温度である第1の温度Tと前記第2の温度センサの温度である第2の温度Tを測定する工程と、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの周囲の温度である環境温度Tを測定する工程と、定常状態における前記第1の温度T、前記第2の温度T、前記環境温度T及び前記比Kより前記測定対象物の内部温度Tを算出する工程と、を有する内部温度測定方法。
【0013】
(2)(1)において、前記内部温度Tを算出する工程は、次式
【0014】
【数1】
により内部温度Tを算出する内部温度測定方法。
【0015】
(3)測定対象物の被測定面に接触する第1の接触面と熱的に結合される吸熱面と、周囲に熱を放散する放熱面を有する第1の温度センサと、前記測定対象物の前記被測定面に接触する第2の接触面と熱的に結合される吸熱面と、周囲に熱を放散する放熱面を有し、放熱についての熱抵抗が前記第1の温度センサと異なる第2の温度センサと、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの周囲の温度である環境温度を測定する環境温度センサと、前記第1の温度センサの放熱面における熱抵抗と第2の温度センサの放熱面における熱抵抗又はその比を記憶する熱抵抗比記憶部と、を有する接触式内部温度計。
【0016】
(4)(3)において、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方の放熱面には、凹凸構造、放熱板、放熱フィン、断熱材の少なくともいずれかが設けられる接触式内部温度計。
【0017】
(5)(3)又は(4)において、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記吸熱面においてFPC(フレキシブルプリント基板)に実装され、前記FPCに設けられ、前記吸熱面の一部分を露出する開口に充填された伝熱性接着剤を介して前記第1の接触面及び前記第2の接触面のいずれかに熱的に結合される接触式内部温度計。
【0018】
(6)(3)又は(4)において、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記吸熱面と直交する面において当該面と平行に配置されたFPCに実装され、前記吸熱面は直接又は伝熱性接着剤を介して前記第1の接触面及び前記第2の接触面のいずれかに熱的に結合される接触式内部温度計。
【0019】
(7)(3)又は(4)において、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記吸熱面と平行に配置されたFPCに設けられた開口に挿入され、前記吸熱面と直交する面において前記FPCに実装され、前記吸熱面は直接又は伝熱性接着剤を介して前記第1の接触面及び前記第2の接触面のいずれかに熱的に結合される接触式内部温度計。
【0020】
(8)(3)又は(4)において、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサの少なくとも一方は、前記放熱面においてFPCに実装され、前記FPCには前記放熱面の一部分を露出する開口が設けられる接触式内部温度計。
【0021】
(9)(3)乃至(8)のいずれかにおいて、前記第1の温度センサ、前記第2のセンサ及び前記環境温度センサは外気および外光を遮蔽する共通の遮蔽空間内に配置され、前記遮蔽空間を強制的に換気する換気機構を有す接触式内部温度計。
【0022】
(10)(9)において、前記換気機構は、気流制御構造を含み、前記気流制御構造は、前記第1の温度センサに作用する気流の量と前記第2の温度センサに作用する気流の量を異ならしめる構造である接触式内部温度計。
【0023】
(11)(1)又は(2)において、さらに、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサを備えた接触式内部温度計の姿勢を検知する工程を有し、前記測定対象物の内部温度Tを算出する工程は、さらに検知された前記姿勢に基いて内部温度Tを算出する内部温度測定方法。
【0024】
(12)(11)において、前記比Kを求める工程は、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサを備えた前記接触式内部温度計の姿勢に応じた前記比Kの値又は前記比Kの値に対する係数を求める工程を含む内部温度測定方法。
【0025】
(13)(3)〜(8)のいずれかにおいて、さらに、姿勢センサを有し、前記熱抵抗比記憶部は、姿勢センサにより検出された姿勢の値に応じた前記熱抵抗比の値又は、前記熱抵抗比の値に対する係数を記憶する接触式内部温度計。
【発明の効果】
【0026】
上記(1)又は(2)の側面によれば、簡易かつ低コストの構造を用いて、測定の高速性と精度を両立させつつ測定対象物の内部温度を測定できる。
【0027】
上記(3)又は(4)の側面によれば、簡易かつ低コストの構造を用いて、測定の高速性と精度を両立させつつ測定対象物の内部温度を測定できる接触式内部温度計が得られる。
【0028】
上記(5)の側面によれば、伝熱性接着剤の厚みを容易に一定に制御することができる。また、FPCにより温度センサを通過する熱流速が妨げられることがない。
【0029】
上記(6)乃至(8)のいずれかの側面によれば、FPCにより温度センサを通過する熱流速が妨げられることがない。
【0030】
上記(9)の側面によれば、外光や外部の気流による測定誤差を排除するとともに、連続測定時にも測定精度を維持することができる。
【0031】
上記(10)の側面によれば、換気により第1の温度センサと第2の温度センサの放熱についての熱抵抗を異なるものとすることができる。
【0032】
上記(11)又は(12)の側面によれば、測定対象物の内部温度を測定する際に、測定時の姿勢によらずに精度の高い測定ができる。
【0033】
上記(13)の側面によれば、測定時の接触式内部温度計の姿勢によらずに精度の高い測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1の実施形態に係る接触式内部温度計を背面側から見た外観図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る接触式内部温度計を測定面側から見た外観図である。
図3図1のIII−III線による接触式内部温度計の概略断面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る接触式内部温度計の測定ヘッドに設けられた測定部の等価熱回路を示す図である。
図5A】第1の温度センサの一例を示す外観斜視図である。
図5B】第1の温度センサの別の一例を示す外観斜視図である。
図5C】第1の温度センサのさらに別の一例を示す外観斜視図である。
図6A】第2の温度センサの一例を示す外観斜視図である。
図6B】第2の温度センサの別の一例を示す外観斜視図である。
図7A】第1の温度センサ又は第2の温度センサをFPCに実装している様子の一例を示す外観斜視図である。
図7B図7AのVIIB−VIIB線における断面図である。
図8A】第1の温度センサ又は第2の温度センサをFPCに実装している様子の他の一例を示す外観斜視図である。
図8B図8AのVIIIB−VIIIB線における断面図である。
図9A】第1の温度センサ又は第2の温度センサをFPCに実装している様子のさらに他の一例を示す外観斜視図である。
図9B図9AのIXB−IXB線における断面図である。
図10A】第1の温度センサ又は第2の温度センサをFPCに実装している様子のさらに他の一例を示す外観斜視図である。
図10B図10AのXB−XB線における断面図である。
図11】第1の温度センサと第2の温度センサの放熱面における熱抵抗を異なるものとする換気機構の一例を示す図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係る接触式内部温度計の概略断面図である。
図13A】接触式内部温度計の測定面の法線方向が鉛直下方向(重力方向)と一致している場合を示す図である。
図13B】接触式内部温度計の測定面の法線方向が水平方向となっている場合を示す図である。
図14】接触式内部温度計の姿勢を角度(θ、δ)により表す説明図である。
図15】角度(θ、δ)とKとの関係を示す2次元テーブルの例である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0036】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る接触式内部温度計100を背面側から見た外観図、図2は同実施形態に係る接触式内部温度計100を測定面側から見た外観図である。なお、本明細書にて接触式内部温度計とは、温度計であって、測定対象表面に接触させることにより内部温度を測定する温度計を意味している。また、内部温度とは、測定対象の表面温度でなく、その内部であって、実質的に恒温熱源と考えられる部位の温度を意味している。ここで、実質的に恒温熱源と考えられるとは、測定対象内部の熱容量が大きい場合や、測定対象内部に常に熱が供給される結果、接触式内部温度計による測定がその温度に実用上の影響を及ぼさないと考えられることを意味している。たとえば、測定対象が生体である場合には、血流により体幹より常に熱が供給されることとなるので、後者に該当する。
【0037】
本実施形態で示す接触式内部温度計100は、図示の通り携帯式であり、ケース1の先端に測定ヘッド2が取り付けられている。測定ヘッド2はケース1から突き出すように設けられており、その先端はおおむね平坦な測定面20となっている。そして、かかる測定面20を測定対象物の被測定面、例えば皮膚に押し付けることによりその内部温度を計測する。測定面20の表面には、略円形の第1のプローブ30及び第2のプローブ31が図2に示すように、接触式内部温度計100の長手方向に沿って直列に配置されている。なお、これら第1のプローブ30及び第2のプローブ31の配置は任意であり、その配置方向は必ずしも接触式内部温度計100の長手方向に沿ったものでなくともよい。
【0038】
ケース1の測定面20の反対側の面である背面10には、ランプ11、表示部12、ブザー13が設けられている。以降、本明細書では、測定面20が向く方向を測定面側、その反対方向である背面10が向く方向を背面側と称する。また、ケース1は長く伸び丸みを帯びた形状をしており、使用者が手に持つグリップ14を形成している。図2に見られるように、ケース1のグリップ14の測定面側には電池蓋15が設けられ、内部に接触式内部温度計100の電源となる電池を収容するようになっている。また、ケース1の適宜の位置、ここでは図2に示した位置に吸気穴16が、測定ヘッド2の側面に排気穴21が設けられ、それぞれの内部空間が外気と連通するようになされている。ケース1と測定ヘッド2は、支持環3により接続されている。
【0039】
なお、図1及び図2に示した接触式内部温度計100のデザインは一例である。かかるデザインは、その主たる用途や市場性等を考慮の上適宜変更して差し支えない。また、各構成部品の配置は、その機能を損なわない範囲で任意に選択してよい。
【0040】
図3は、図1のIII−III線による接触式内部温度計100の概略断面図である。ケース1は、好ましくはABS樹脂等任意の合成樹脂製の中空の成形品であり、接触式内部温度計100を構成する各種部品をその内部に一体に収容する。グリップ14内には、電池4及び回路基板5が収容されている。回路基板5上には、その上にコントローラ50、不揮発性メモリ51を始めとする各種の電子部品が実装されており、電池4からの電力供給を受けて、電力を必要とする全ての部品への電力を供給するとともにその動作を制御している。電池4は、図示のものは市販の単4型(米国ではAAAと称される)乾電池であるが、その形式は任意のものであってよく、ボタン型、角型等の形状や、1次電池・2次電池の別も任意であってよい。なお、各部品と回路基板5とを電気的に接続する配線は、図示が煩雑となるため省略している。また、コントローラ50は、適宜の情報処理装置であり、CPU(Central Processing Unit)及びメモリ等からなるコンピュータやいわゆるマイクロコントローラ、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Prgrammable Gate Array)等のPLD(Programmable Logic Device)等を用いてよい。
【0041】
ランプ11は、好ましくは多色発光可能な発光ダイオードであり、接触式内部温度計100の状態を使用者に通知するために点灯するものである。表示部12は、本実施形態では液晶表示装置であり、接触式内部温度計100の測定結果を図1に示すような態様で使用者に通知するためのものである。もちろん、表示部12にはこのほかにも任意の情報、例えば、電池4の残量等を表示するようにしてよい。あるいは、接触式内部温度計100の状態を併せて表示するようにして、ランプ11を省略してもよい。ブザー13は、本実施形態では一般的な電子ブザーであり、ビープ音により接触式内部温度計100の状態を使用者に通知するためのものである。なお、ブザー13の形式も又任意であり、スピーカを備えるようにして、音声あるいはメロディ等による通知をするようにしてもよい。あるいは、ランプ11及び/又は表示部12による通知のみとして、ブザー13を省略してもよい。
【0042】
また、ケース1内部には隔壁18が設けられており、ケース1内部をグリップ空間19aとヘッド空間19bとに仕切っている。隔壁18には開口が設けられており、かかる開口を塞ぐようにブロア7が取り付けられている。ブロア7の機能については後述する。
【0043】
ケース1の先端部には、支持環3を介して測定ヘッド2が取り付けられる。支持環3は、好ましくはシリコンゴム或いはその発泡体等の弾力を有し且つ断熱性に優れた材料で形成され、測定ヘッド2のケース1に対する若干の動きを許容するとともに、測定ヘッド2からケース1への伝熱を遮断するようになっている。これは、測定面20を測定対象物に押し付ける際に、測定面20の特に第1のプローブ30及び第2のプローブ31が確実に測定対象物に密着するようにするためと、測定ヘッド2からケース1へと熱が流出することによる測定誤差の発生を防止するためである。しかしながら、支持環3は必須の構成でなく、測定面20と測定対象物との密着に問題がなく、また測定ヘッド2が十分に熱伝導率の低い材質であり実用上問題ない場合には、これを省略し、測定ヘッド2を直接ケース1に固定する又は両者を一体に形成するなどしてもよい。また、支持環3の形状も環状に限定されるものでなく、任意の形状のものを用いてよい。
【0044】
測定ヘッド2は、形状が安定しており、熱伝導率が低く、かつ比熱の小さい材質で形成することが好ましく、例えば、硬質発泡ウレタンや硬質発泡塩化ビニルが好適に用いられる。しかしながら、この点についても実用上の問題がなければ材質は特に限定されるものでなく、任意でよい。
【0045】
測定ヘッド2の測定面20には第1のプローブ30及び第2のプローブ31に対応する位置に開口が設けられており、各プローブが測定面20からわずかに突出するように取り付けられている。そのため、測定面20を被測定面に押し付けると、第1のプローブ30の測定面側の面である第1の接触面と、第2のプローブ31の測定面側の面である第2の接触面がそれぞれ被測定面に密着するように接触し、両者の間で熱の授受が行われる。なおここで、接触面とは、被測定面と接触して主として熱の授受を行う面を指すものとする。各プローブは、熱伝導率の高い材質であることが好ましく、本実施形態では金属製である。なお、第1のプローブ30及び第2のプローブ31の材質は耐腐食性を備えていることが好ましく、金属材料では、アルミニウムやステンレスが好適である。なお、上述の通り、測定ヘッド2自体は熱伝導率が低い材質から構成されるため、第1のプローブ30及び第2のプローブ31は、互いに熱的に隔離されることとなる。
【0046】
第1のプローブ30の背面側の面には、第1の温度センサ32が設けられており、両者は互いに熱的に結合している。また、第2のプローブ31の背面側の面には、第2の温度センサ33が設けられており、両者は互いに熱的に結合している。また、第1の温度センサ32、第2の温度センサ33から離れた背面側の任意の位置に、周囲の温度を測定する環境温度センサ34が設けられる。環境温度センサ34の支持構造は図3には示されていないが、これは任意の構造を用いてよい。例えば、測定ヘッド2又はケース1に梁などの適宜の構造を設け、環境温度センサ34を固定するようにしてもよいし、第1の温度センサ32及び/又は第2の温度センサ33が実装されるFPCの適宜の位置に環境温度センサ34を実装することにより、環境温度センサ34がヘッド空間19b内の適当な位置に配置されるようにしてもよい。ヘッド空間19bは、接触式内部温度計100の外部の光(外光)や気流(外部気流)を遮蔽する遮蔽空間であり、第1の温度センサ32、第2の温度センサ33及び環境温度センサ34は共通の遮蔽空間であるヘッド空間19b内に配置される。
【0047】
かかる構造では、測定面20を測定対象物に接触させると、測定対象物からの熱は第1のプローブ30の接触面及び第2のプローブ31の接触面に伝達され、さらにその熱は第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33に伝達され、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33を背面側へと通過した後、ヘッド空間19b内に放散されることになる。ここで、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の測定面20側の面を吸熱面と呼ぶこととすると、第1の温度センサ32の吸熱面は、第1のプローブ30と熱的に結合する結果、その接触面と熱的に結合することになる。また、第2の温度センサ33の吸熱面は、同様に、第2のプローブ31の接触面と熱的に結合することになる。それぞれの接触面に伝達された測定対象物の熱は、吸熱面から第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33へと流入する。また、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の背面側の面は、ヘッド空間19b内に熱を放散する面であるから、これらの面を放熱面と呼ぶこととする。
【0048】
なお、各温度センサにはどのようなものを用いてもよいが、本実施形態ではサーミスタである。それぞれの温度センサは、回路基板5に図示しない配線、本実施形態ではFPCにより接続されており、コントローラ50により各温度センサにおける温度を検知できるようになっている。
【0049】
ここで、第1の温度センサ32の放熱面における熱抵抗と、第2の温度センサ33の放熱面における熱抵抗は異なるものとなっている。したがって、この2つの熱抵抗の比の値は当然に1でない。第1の温度センサ32の放熱面における熱抵抗と、第2の温度センサ33の放熱面における熱抵抗を異ならしめる構造については後述する。なお、第1の温度センサ32と第2の温度センサ33の寸法や形状は同じものであってもよい。
【0050】
ここで、本実施形態の接触式内部温度計100による内部温度の測定原理を図4を参照して説明する。
【0051】
図4は、本実施形態に係る接触式内部温度計100の測定ヘッド2に設けられた測定部の等価熱回路を示す図である。同図を図4を参照しつつ説明すると、Tは測定対象の内部温度、Tは第1の温度センサ32の温度、Tは第2の温度センサ33の温度、Tは環境温度センサ34の温度である。また、熱抵抗Rは測定対象の内部の恒温熱源から第1のプローブ30及び第2のプローブ31、さらに第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の吸熱面を通って第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33に熱が伝わる際の熱抵抗である。また、Tは環境温度センサ34の温度であり、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の周囲の環境の温度を示している。熱抵抗Rは第1の温度センサ32の放熱面から周囲の環境へと熱が放散される際の熱抵抗、熱抵抗Rは第2の温度センサ33の放熱面から周囲の環境へと熱が放散される際の熱抵抗である。また、T>T>T及び、T>T>Tが成立している。
【0052】
ここで、図に示した系が定常状態にある場合を考えると、TよりTへと流れる熱流束は一定であるから、次式が成立する。
【0053】
【数2】
同様に、TよりTへと流れる熱流束を考えると、
【0054】
【数3】
が成立する。この数2及び数3をTについて解くと、
【0055】
【数4】
として求められる。ここで、Kは熱抵抗Rと熱抵抗Rの比であり、1でない定数となるので、あらかじめ実験等によりこれを求めておく。数4においては、比KはR/Rである。
【0056】
以上の方法により内部温度を測定する場合には、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33として断熱材を介して積層した構造物を用いる必要がないため、製造が容易でかつ低コストとなる。また、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33は温度センサとしての素子単体で良いことから熱容量も小さく、定常状態となるまでの時間は短いものとなる。さらに、後述する各種の構造を適用して第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の定常状態における温度差を容易に制御できるため、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33に小型のものを採用して計測の高速化を図った際にも計測精度を保ちやすい。
【0057】
続いて、本実施形態に係る接触式内部温度計100を用いて内部温度を測定する手順を説明する。
【0058】
手順1:熱抵抗Rと熱抵抗Rの比Kを求め、熱抵抗比記憶部である不揮発性メモリ51に記憶させる。比Kは、例えば恒温槽内で第1のプローブ30及び第2のプローブ31を温度のわかっている恒温熱源に接触させる等して、温度T、T及びTを実際に測定することにより、上述の式2及び式3より容易に求めることができる。なお、不揮発性メモリ51に記憶される値は、比Kそのものであっても、熱抵抗R及びRであってもよい。この手順は接触式内部温度計100の製造後1度だけ実施すればよいものなので、例えば出荷前に工場において実施しておくとよい。接触式内部温度計100の使用者は、個々の測定にあたってはこの手順1を実行する必要はなく、次の手順2以降を実行すればよい。
【0059】
手順2:接触式内部温度計100の測定面20を測定対象物に接触させ、測定を開始する。なお、この測定の開始は、第1の温度センサ32又は第2の温度センサ33により測定される温度の上昇を検知することにより自動的に行ってもよいし、図示しない押ボタン等のスイッチを使用者が操作することにより行ってもよい。このとき、コントローラ50はブザー13によるビープ音により測定を開始したことを使用者に通知する。同時に、ランプ11を任意の色、例えば赤色に点灯し、使用者に測定面20を測定対象物に接触させたまま維持するよう促す。
【0060】
手順3:ヘッド空間19bを換気する。コントローラ50は、測定開始後、ブロア7を作動させ、ヘッド空間19bの換気を行う。これは、測定対象物から伝わった熱により、第1の温度センサ32又は第2の温度センサ33の周囲の温度が局所的に上昇して互いに異なるものとなったり、環境感度センサの温度Tと異なるものとなったりすることにより誤差が生じるのを防止するためである。
【0061】
本実施形態では、ブロア7は図1のグリップ空間19aからヘッド空間19bへと流れる気流を強制的に発生させる。そのため、ブロア7により誘起される空気の流れは、図中矢印に示すように、吸気穴16から吸い込まれ、ブロア7を通過し、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の近傍を通過して排気穴21から排出されるものとなる。従って、本実施形態のブロア7、吸気穴16及び排気穴21は協働してヘッド空間19bを換気する換気機構を構成することになる。
【0062】
なお、換気機構の構成はどのようなものであってもよく、ブロア7、吸気穴16及び排気穴21の配置は任意である。また、吸排気の向きを逆にしてもよい。また、ブロア7の形式は特に限定されず、一般的なファンであってもよいし、圧電素子を利用したマイクロブロアであってもよい。あるいは、自然対流による換気により十分な測定精度が得られる場合や、さらには、ヘッド空間19bの熱容量に対して、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33を通して流入する熱量が十分小さく無視できる場合には、この換気機構そのものを廃し、手順3を省略しても差し支えない。
【0063】
手順4:コントローラ50は、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33が定常状態に達した後に測定対象物の内部温度Tを算出し、表示する。すなわち、コントローラ50は、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の出力を監視し、これら温度センサの温度変化があらかじめ定められた閾値以下となった時点における出力を用いて、上述の数4から内部温度Tを求める。数4より明らかなように、コントローラ50は、定常状態における第1の温度センサ32の温度T、第2の温度センサ33の温度T、環境温度センサ34の温度T、及び不揮発性メモリ51に記憶された比Kより測定対象の内部温度Tを算出する。算出された内部温度Tは、図1に示したように表示部12に表示される。また、ブザー13によるビープ音の発生、並びに、ランプ11を先ほどの色とは異なる任意の色、例えば緑色に点灯することにより、使用者に測定が終了したことを通知する。なお、算出された内部温度Tは、本実施形態では表示部12に表示することにより使用者に通知することとしているが、これに限られず、接触式内部温度計100に設けたメモリに蓄積したり、接触式内部温度計100の外部の機器に有線又は無線にて出力したりしてもよい。この場合には、表示部12は必ずしも必須の構成ではない。
【0064】
なお、以上の説明では、使用者への測定開始及び測定終了の各種通知をいずれもブザー13によるビープ音及びランプ11の点灯により行ったが、これらの通知の方法はここで例示したものに限定されない。特に、ビープ音についてはこれを省略し、或いは使用者の設定によりこれを発声しないこととしてもよい。音声を用いず、ランプ11の点灯のみにより使用者に各種の通知を行うようにすると、例えば測定対象が就寝中の乳児である場合に、乳児の睡眠を妨げることなく測定が可能である等好ましい場合がある。もちろん、ランプ11の点灯をどのようにするか、例えば発光色をどのように選択するかは任意である。また、発色光によらず、ランプ11を点滅させたり、発光光の強度を変化させたり、あるいはランプ11を複数設けておき、その点灯数や位置を違えることにより使用者に各種通知を行うようにしてもよい。さらに前述したように、ランプ11でなく、表示部12により使用者に各種通知を行ってもよい。
【0065】
続いて、本実施形態の第1の温度センサ32と第2の温度センサ33の放熱面における熱抵抗を異なるものとするための構造を説明する。以降の説明では、一例として、第1の温度センサ32における熱抵抗Rの方が、第2の温度センサ33における熱抵抗Rよりも小さいものとするが、これを逆にしても差し支えない。
【0066】
図5Aは、第1の温度センサ32の一例を示す外観斜視図である。図示の例では、第1の温度センサ32の底面が吸熱面36となっており、その反対側の上面が放熱面37となっている。また、対向する側面には端子35が設けられている。同図に示すように、第1の温度センサ32の放熱面37にはフィン状の凹凸構造が設けられており、放熱面37の表面積を増大させ、熱抵抗Rを小さいものとしている。このような凹凸構造は、第1の温度センサ32の一の面を例えばダイシングソーで切削する等により部分的に除去したり、グリーンシートを積層する等の第1の温度センサ32を製造する過程で作り込んだりすることにより得られる。また、凹凸構造は、ここで示したフィン状の形状に限定されず、他にも例えばピン状の構造等であってもよい。
【0067】
図5Bは、第1の温度センサ32の別の一例を示す外観斜視図である。図示の例では、第1の温度センサ32の放熱面37に、金属など熱伝導性の良い放熱板38が取り付けられている。このようにしても放熱面37の熱抵抗Rを小さくすることができる。
【0068】
図5Cは、第1の温度センサ32のさらに別の一例を示す外観斜視図である。図示の例では、第1の温度センサ32の放熱面37に、金属など熱伝導性の良い材質の放熱フィン39が取り付けられている。このようにしても放熱面37の熱抵抗Rを小さくすることができる。
【0069】
図6Aは、第2の温度センサ33の一例を示す外観斜視図である。図示の例では、第2の温度センサ33の底面が吸熱面36となっており、その反対側の上面が放熱面37となっている。また、対向する側面には端子35が設けられている。そして、第2の温度センサ33の放熱面37は適宜の断熱材40により覆われており、熱抵抗Rを増大させている。断熱材40の材質や厚みは、第2の温度センサ33を通過する熱流束を著しく妨げない程度のものとすることが好ましく、たとえば適宜のフォトレジスト材等の有機材料によるコーティングを行うとよい。
【0070】
図6Bは、第2の温度センサ33の別の一例を示す外観斜視図である。図示の例では、第2の温度センサ33の放熱面37に、部分的に断熱材41が設けられている。この場合、断熱材41は断熱性能の高い材料、例えば各種合成樹脂の発泡体を用いてよい。断熱材41の断熱性能が十分に高い場合には、熱抵抗Rの値を、放熱面37に占める断熱材41の被覆面積により制御することができる。大まかにいって、熱抵抗Rの値は、放熱面37の面積を断熱材41により覆う割合に反比例する。
【0071】
第1の温度センサ32、第2の温度センサ33は、そのいずれか一方または両方において、放熱面37に図5A乃至5C及び図6A及び図6Bに示した構造を適宜採用して、その熱抵抗の比Kを1でない値とすればよい。
【0072】
ところで、本実施形態では、第1の温度センサ32、第2の温度センサ33はサーミスタである。サーミスタのような小型の温度センサは、その外形が概ね扁平な直方体であり、対向する最も面積の小さい面が端子となっていることが多い。そして、本実施形態に係る接触式内部温度計100のように、温度センサの一の面を吸熱面として、また他の面を放熱面として用いる場合には、吸熱面、放熱面における熱抵抗が小さくなるよう、対向する最も面積の大きい面をそれぞれ吸熱面、放熱面として用いることが望ましい。
【0073】
すなわち、直方体形状の温度センサの相対する面の一方を第1のプローブ30又は第2のプローブ31に熱的に結合させ、相対する面の他方を大気へと熱を放散する放熱面とする必要がある。そのため、温度センサの最も面積の大きい面の一つを単純に用いてFPCに実装することができず、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33を実装するにあたっては若干の工夫が必要である。
【0074】
図7Aは、第1の温度センサ32又は第2の温度センサ33をFPC42に実装している様子の一例を示す外観斜視図である。なお、同図に示す温度センサは第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33のいずれでもよいが、以降の説明では第1の温度センサ32により代表して説明することとする。また、この図では放熱面37における適宜の放熱構造や断熱構造は図示を省略している。この例では、第1の温度センサ32は、吸熱面36がFPC42に接するように実装されており、端子35の吸熱面36側の辺において半田43によりFPC42と電気的な接続がとられている。FPC42は、吸熱面36と平行に配置される。
【0075】
図7Bは、図7AのVIIB−VIIB線における断面図である。同図に表れているように、FPC42の吸熱面36に対向する面には、吸熱面36よりもやや小さい開口42aが設けられており、吸熱面36の一部分、この場合は大部分が測定面側に露出するようになっている。そして、吸熱面36と第1のプローブ30(又は第2のプローブ31。以降は第1のプローブ30で代表する)の間には伝熱性接着材44が充填され、かかる伝熱性接着材44を介して吸熱面36と第1のプローブ30は熱的に結合される。
【0076】
このように、FPC42に開口42aを設け、吸熱面36を部分的に覆い、その一部分を露出するようにすることで、FPC42が吸熱面36における熱流束を妨げることがないような構成とすることができる。さらに、FPC42が吸熱面36と第1のプローブ30の背面との間隙を決定するスペーサとして働くため、伝熱性接着材44の厚さを容易に一定に保つことができる。
【0077】
図8Aは、第1の温度センサ32(又は第2の温度センサ33)をFPC42に実装している様子の他の一例を示す外観斜視図である。この図においても放熱面37における適宜の放熱構造や断熱構造は図示を省略している。この例では、第1の温度センサ32は、FPC42に設けられた開口42aに挿入され、吸熱面36と直交する面に設けられた端子35とは、その面の中途において半田43によりFPC42と電気的な接続がとられている。FPC42は、吸熱面36と平行に配置される。
【0078】
図8Bは、図8AのVIIIB−VIIIB線における断面図である。同図に表れているように、FPC42に設けられた開口42aは第1の温度センサ32の外径よりやや大きくなっている。また、吸熱面36と第1のプローブ30(又は第2のプローブ31)の間には伝熱性接着材44が充填され、かかる伝熱性接着材44を介して吸熱面36と第1のプローブ30は熱的に結合される。このようにしても、FPC42が吸熱面36における熱流束を妨げることがないような構成とすることができる。
【0079】
図9Aは、第1の温度センサ32(又は第2の温度センサ33)をFPC42に実装している様子のさらに他の一例を示す外観斜視図である。この図においても放熱面37における適宜の放熱構造や断熱構造は図示を省略している。この例では、第1の温度センサ32は、吸熱面36に直交する面がFPC42に接するように実装されており、端子35の吸熱面36と直交する辺(図中奥側の辺)において半田43によりFPC42と電気的な接続がとられている。
【0080】
図9Bは、図9AのIXB−IXB線における断面図である。同図に表れているように、FPC42は放熱面37、吸熱面36に直交しており、第1のプローブ30(又は第2のプローブ31)に突き当たることがないような配置となっている。また、吸熱面36と第1のプローブ30の間には伝熱性接着材44が充填され、かかる伝熱性接着材44を介して吸熱面36と第1のプローブ30は熱的に結合される。このようにしても、FPC42が吸熱面36における熱流束を妨げることがないような構成とすることができる。
【0081】
図10Aは、第1の温度センサ32(又は第2の温度センサ33)をFPC42に実装している様子のさらに他の一例を示す外観斜視図である。この図においても放熱面37における適宜の放熱構造や断熱構造は図示を省略している。この例では、第1の温度センサ32は、放熱面37がFPC42に接するように実装されている。端子35とFPC42との電気的な接続は、FPC42の測定面側の面においてなされる。また、FPC42の放熱面37に対向する面には、放熱面37よりもやや小さい開口42aが設けられており、放熱面37の一部分、この場合は大部分が背面側に露出するようになっている。FPC42は、放熱面37と平行に配置される。
【0082】
図10Bは、図10AのXB−XB線における断面図である。同図に表れているように、FPC42はその背面側において、端子35と半田43により電気的に接続されている。また、吸熱面36と第1のプローブ30(又は第2のプローブ31)の間には伝熱性接着材44が充填され、かかる伝熱性接着材44を介して吸熱面36と第1のプローブ30は熱的に結合される。このような構造では、FPC42が放熱面37における熱流束を妨げることがないような構成とすることができる。
【0083】
以上の説明では、第1の温度センサ32と第2の温度センサ33の放熱面における熱抵抗を異なるものとする方法として、それぞれの温度センサの両方若しくは一方に図5A乃至5C及び図6A及び図6Bに示した構造等を用いるものとした。しかしながら、かかる構造に換えて、或いはかかる構造に加えて、前述した換気機構を用いて第1の温度センサ32と第2の温度センサ33の放熱面における熱抵抗を異なるものとすることも可能である。
【0084】
図11は、第1の温度センサ32と第2の温度センサ33の放熱面における熱抵抗を異なるものとする換気機構の一例を示す図である。同図は、すでに説明した図3に対応する接触式内部温度計100の断面図であり、同図中付された符号番号は、すでに説明したものと同じものを示している。
【0085】
図11に示した例における換気機構においては、測定ヘッド2に設けられた排気穴21の数が第1の温度センサ32側と、第2の温度センサ33側とで異なっている。図示の通りだと、第1の温度センサ32側には排気穴21が3列設けられているのに対し、第2の温度センサ33側では排気穴21が1列のみとなっている。そのため、ブロア7による強制換気を行った際に、図中太矢印で示したように、気流は第1の温度センサ32側に多く流れ、第2の温度センサ33側は気流が比較的少なくなる。なお、図中の太矢印の太さは、気流の量を模式的に示している。このような状況においては、第1の温度センサ32側において強制対流熱伝達が強く起るため、放熱面における熱伝達率がより増大する結果、その熱抵抗は第2の温度センサ33における熱抵抗よりも小さくなる。
【0086】
以上のように、換気機構を用いることによっても、第1の温度センサ32と第2の温度センサ33の放熱面における熱抵抗を異なるものとすることができる。より具体的には、換気機構に、第1の温度センサ32側へと向かう気流と第2の温度センサ33側へと向かう気流の量を制御するための気流制御構造を設け、第1の温度センサ32側に作用する気流の量と第2の温度センサ33に作用する気流の量を異ならしめればよい。図11に示した例では、第1の温度センサ32側と第2の温度センサ33側とで非対称に設けられた排気穴21が気流制御構造に相当しているが、これ以外にも、ルーバーを設けたり、第1の温度センサ32側と第2の温度センサ33側に向かう気流流路の圧損を異なるものとするなど種々の気流制御構造を用いてよい。
【0087】
ところで、前述したように、換気機構を省略し、ヘッド空間19bを閉鎖空間又は半閉鎖空間とし、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33からヘッド空間19b内への熱の流入を自然対流にて行う場合を考えると、一般に自然対流の場合は暖められた空気が鉛直上方に流動することによる熱交換が行われるため、接触式内部温度計100の姿勢が測定精度に影響を与える可能性がある。すなわち、接触式内部温度計100による温度測定時の姿勢によって、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33から立ち上る気流の相対的な向きが変化するため、ヘッド空間19b内における対流の様相が異なるものとなるため、前述の数4におけるKの値に姿勢(すなわち、角度)依存性が生じるのである。
【0088】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る接触式内部温度計200の概略断面図である。同図は、先の実施形態における図3に対応する断面を示したものであり、また、接触式内部温度計200の外観は先の実施形態のものと同じであるため、図1及び図2は本実施形態に係るものとしてこれを援用する。また、接触式内部温度計200における内部温度の測定原理も先の実施形態のものと同様である。また、接触式内部温度計200を構成する部材において、先の実施形態と同様のものについては同符号を付し、その重複する説明は省略するものとする。
【0089】
同図に示すように、接触式内部温度計200では、隔壁18はグリップ空間19aとヘッド空間19bを完全に区画するものとなっており、また、先の実施形態にみられた排気穴、吸気穴及びブロアは設けられていないため、ヘッド空間19bは閉鎖空間となっている。
【0090】
なお、ここで閉鎖空間とは、当該空間内部の気体が外気との交換が実質的に不可能となるように外部空間から区画された空間をいう。また、半閉鎖空間とは、当該空間内部の気体と外気との交換は行われるものの、当該空間内部の気体の挙動が外気の流動の影響を受けることが無く、内部気体の熱対流によるものに支配されるように外部空間から区画された空間をいう。半閉鎖空間は、例えば、外気と流通する換気用の開口を小径のものとしたり、多孔質体を挿入したり、或いはいわゆるラビリンス構造としたりすることによって、外気との間の流動抵抗を大きなものとすることにより容易に実現できる。本実施形態のヘッド空間19bは閉鎖空間であるが、これを半閉鎖空間としてもよい。
【0091】
また、回路基板5上には、姿勢センサ52が設けられている。この姿勢センサ52は、接触式内部温度200の鉛直方向に対する傾きを検出するものである。姿勢センサ52として用いるセンサの種類については特に限定はないが、例えば加速度センサを用いて重力加速度方向を検出することにより、あるいは地磁気センサを用いて地磁気方向を検出することにより接触式内部温度200の鉛直方向に対する傾きを検出することができる。また、姿勢センサ52を設ける位置についても必ずしも回路基板5上でなくともよく、接触式内部温度200の任意の位置であってよい。
【0092】
ここで、図13Aに示すように、接触式内部温度計200の測定面20の法線方向が鉛直下方向(重力方向)と一致している場合には、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33から立ち上る気流は図中太矢で示したように流動し、互いに殆ど干渉し合うことはない。これに対し、図13Bに示すように、接触式内部温度計200の測定面20の法線方向が水平方向となっている場合には、第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33から立ち上る気流は図中太矢で示したように流動すると考えられる。同図で示した例では、第2の温度センサ33から立ち上る気流が第1の温度センサ32の近傍へと流動する結果、第1の温度センサ32から立ち上る気流の流動を妨げる等するため、第1の温度センサ32から外気への熱伝達率が低下し、図4における熱抵抗Rの見かけの値が増大し、数4におけるKの実効値が変化するのである。
【0093】
この第1の温度センサ32から外気への熱伝達率及び第2の温度センサ33から外気への熱伝達率の変化、すなわち、Kの値の変化は、ヘッド空間19bが閉鎖空間又は半閉鎖空間であり、熱対流のみを考慮すればよいことから、接触式内部温度計200の姿勢に依存すると考えられる。しかしながら、このKの値の変化は、ヘッド空間19bの形状や第1の温度センサ32及び第2の温度センサ33の配置に依存するため、かかる変化を一般式等を用いて事前に予測することは通常困難である。
【0094】
そこで、接触式内部温度計200では、あらかじめ、接触式内部温度計200の姿勢とKの値との関係を測定しておき、当該特定値をテーブルとして不揮発性メモリ51に記憶させておく。そして、コントローラ50は、先の実施形態における手順4にて、数4から内部温度Tを求める際に、姿勢センサ52に接触式内部温度計200の姿勢を検出させ、検出された姿勢に対応するKの値を不揮発性メモリ51より読み出し、かかるKを用いて内部温度Tを求める。このようにすることで、接触式内部温度計200の姿勢の変化による測定誤差を補正し、いかなる姿勢においてもより正確な内部温度Tの測定ができるのである。
【0095】
なお、姿勢センサ52により検出される姿勢は、一般に2つの角度の値からなるベクトルとして表現できる。例えば、接触式内部温度計200の姿勢を重力加速度方向に対する角度として検出する場合を考え、接触式内部温度計200に依存する直交座標をX,Y,Z方向としてとり、検出された重力加速度方向をg方向とし、Z方向を測定面20の法線方向に採った場合には、図14に示すように、接触式内部温度計200の姿勢はg方向を示す角度(θ、δ)により表すことができる。ここで、θはベクトルgをXY平面に投影した際のX軸との間の角度、δはベクトルgとXY平面との角度である。
【0096】
そこで、接触式内部温度計200の姿勢とKの値との関係は、この2つの角度の値(θ、δ)に対するK(又は、第1の温度センサ32から外気への熱伝達率及び第2の温度センサ33から外気への熱伝達率)の値を示す2次元テーブルとして表現することができる。そのような表の一例を図15に示した。かかる表中、Kθ,δとして表されているのは、当該姿勢におけるKの実測値である。また、θ、δの単位は度となっている。なお、図15に示した表において、θ、δの測定間隔は5°となっているが、これをどのようにするかは任意である。また、表中に記憶する値は、Kθ,δの直接の値ではなく、任意のK、例えば、θ=δ=0°におけるKの値に対する係数であってもよい。この場合、コントローラ50は、かかる係数の値を不揮発性メモリ51から読み出し、Kの値に乗じて内部温度Tを求めることになる。
【0097】
以上説明した実施形態に示した具体的な構成は例示として示したものであり、本明細書にて開示される発明をこれら具体例の構成そのものに限定するものではない。当業者はこれら開示された実施形態に種々の変形、例えば、各部材あるいはその部分の形状や数、配置等を適宜変更してもよく、本明細書にて開示される発明の技術的範囲は、そのようになされた変形をも含むものと理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15