特許第5956074号(P5956074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5956074医療用リードのための向上した低摩擦コーティングおよび製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956074
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月20日
(54)【発明の名称】医療用リードのための向上した低摩擦コーティングおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20160707BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20160707BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20160707BHJP
【FI】
   C23C14/06 E
   C23C16/42
   A61F2/02
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-525645(P2015-525645)
(86)(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公表番号】特表2015-524882(P2015-524882A)
(43)【公表日】2015年8月27日
(86)【国際出願番号】US2013054350
(87)【国際公開番号】WO2014035639
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2015年1月29日
(31)【優先権主張番号】61/694,594
(32)【優先日】2012年8月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505003528
【氏名又は名称】カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】バイロン、メアリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】マー、ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】ロール、ジェームズ ピー.
(72)【発明者】
【氏名】チャタム、フッド
(72)【発明者】
【氏名】デ フランチェスコ、フランク
【審査官】 伊藤 光貴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/159975(WO,A1)
【文献】 特表2009−511144(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0221390(US,A1)
【文献】 特開2008−259856(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0255417(US,A1)
【文献】 米国特許第06506457(US,B1)
【文献】 国際公開第2011/143329(WO,A2)
【文献】 特表2013−528117(JP,A)
【文献】 特表2012−501375(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0075018(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
A61F 2/02
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者への挿入または植え込みのための医療装置を形成する方法であって、
チャンバ内で、シリコーン基板をプラズマに曝すことと、
前記シリコーン基板をプラズマに曝した後に、200ミリトール(mtorr)(約26.6Pa)以下のチャンバ圧力で、環状シリコン含有化合物のプラズマ化学気相成長法(PECVD)によって、前記シリコーン基板上にコーティングを形成することであって、前記コーティングが、少なくとも20原子パーセントのシリコンを含み、その少なくとも30原子パーセントはシリカ酸化状態にあることと、
を具備する方法。
【請求項2】
前記シリコン含有化合物は、オクタメチルテトラシクロシロキサン(OMCTS)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PECVDは、20ミリトール(mtorr)(約266Pa)以下のチャンバ圧力で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記シリコーン基板上にコーティングを形成することは、前記シリコーン基板の内側面に前記コーティングを形成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
コーティングを形成することは、酸素、アルゴン、テトラフルオロメタン(CF)、三フッ化窒素(NF)およびこれらの組合せから成る群から選択された少なくとも1つの要素を含むガスからプラズマを生成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
コーティングを形成することは、20ミリトール(mtorr)(約266Pa)以下のチャンバ圧力で、前記シリコン含有化合物を前記シリコーン基板上にPECVD成長させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティングを施された基板は、前記シリコーン基板の動摩擦係数よりも少なくとも70%小さい動摩擦係数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティングが施されたシリコーン基板は、−30℃〜60℃の5つの温度サイクルの後で、前記シリコーン基板の動摩擦係数よりも少なくとも70%小さい動摩擦係数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記PECVDは、50マイクロメートル以下の厚さを有するコーティングを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記PECVDは、前記シリコーン基板の内側面にコンフォーマルコーティングを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
シリコーン基板と、
前記シリコーン基板上の環状シリコン含有化合物を含むコーティングであって、前記コーティングが、前記シリコーン基板の摩擦係数を、少なくとも70%低減するコーティングと、
を具備し、
前記コーティングが、少なくとも20原子パーセントのシリコンを含み、その少なくとも30原子パーセントはシリカ酸化状態にある植え込み型または挿入可能な医療装置
【請求項12】
前記コーティングは、SiOの化学量論を満たし、ただし、xは、1.6〜1.8である、請求項11に記載の植え込み型または挿入可能な医療装置。
【請求項13】
前記環状シリコン含有化合物は、オクタメチルテトラシクロシロキサン(OMCTS)を含む、請求項11に記載の植え込み型または挿入可能な医療装置。
【請求項14】
前記コーティングは、500ナノメートル以下の厚さを有する、請求項11に記載の植え込み型または挿入可能な医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低減された摩擦係数を有する植え込み型または挿入可能な医療装置に関する。より具体的には、本発明は、プラズマ気相成長させたコーティングを有する装置およびその装置を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の命にかかわる不整脈を反転させるために、または、心臓の収縮を刺激するために、心臓の中または心臓の周囲に植え込まれた医療用導線が用いられている。例えば、そのリードは、電気エネルギーを心臓に加えて、心臓を通常のリズムに戻すことができる導体に接続された電極を含むことができる。また、リードは、心房および心室内を感知するとともに、ペーシングパルスを心房および心室に送るためにも用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リードは、該導体を電気的に絶縁し、および該電極のみを体内組織と接触させることを可能にするための外側絶縁体を含むことができる。その外側リード本体は、シリコーンから形成することができる。シリコーンは、フレキシブルで生体安定的な物質であるが、シリコーンは、高い摩擦係数を有する粘着性の表面を形成する可能性があり、そのことは、例えば、シリコーンを可動部材に近接して使用した場合に短所となる。また、高い摩擦係数は、リードの挿入時にも短所となる可能性がある。いくつかの実施形態において、該リードは、カテーテルシステムを介して該リードを送り込むことによって植え込むことができる。それらの実施形態においては、該リードは、突き刺すことなく、該カテーテルシステム内を円滑に通るのに十分な滑性であることが好ましい。胃内バルーン、膀胱装置および乳房インプラント等の他の植え込み型または挿入可能な医療装置は、低摩擦面によって恩恵を受けるであろうシリコーン基板を含んでもよい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施例1においては、患者への挿入または植え込みのための医療装置を形成する方法が提供される。該方法は、チャンバ内で、シリコーン基板をプラズマに曝すことと、環状シリコン含有化合物のプラズマ化学気相成長法(plasma−enhanced chemical vapor deposition:PECVD)によって、該シリコーン基板上にコーティングを形成することとを含む。PECVDは、約200ミリトール(mtorr)(約26.66kPa)以下のチャンバ圧力で行われる。該コーティングは、少なくとも約20原子パーセントのシリコンを含み、その少なくとも30原子パーセントは、シリカ酸化状態にある。
【0005】
実施例2では、実施例1の方法において、シリコン含有化合物は、オクタメチルテトラシクロシロキサン(octamethyltetracyclosiloxane:OMCTS)を含む。
【0006】
実施例3では、実施例1または実施例2のいずれかの方法において、PECVDは、約20ミリトール(mtorr)(約266Pa)以下のチャンバ圧力で行われる。
実施例4では、実施例1〜実施例3のいずれかによる方法において、該シリコーン基板上にコーティングを形成することは、該シリコーン基板の内側面にコーティングを形成することを含む。
【0007】
実施例5において、植え込み型または挿入可能な医療装置は、シリコーン基板と、該シリコーン基板上のプラズマ化学気相成長(PECVD)させたコーティングとを含む。そのPECVDで成長させたコーティングは、環状シリコン含有化合物を含み、および該シリコーン基板の動摩擦係数を、少なくとも70%低減する。
【0008】
実施例6では、実施例5の植え込み型または挿入可能な医療装置において、該コーティングは、少なくとも約20原子パーセントのシリコンを含み、その少なくとも30原子パーセントは、シリカ酸化状態にある。
【0009】
実施例7では、実施例5または実施例6のいずれかの植え込み型または挿入可能な医療装置において、該コーティングは、SiOの化学量論を満たし、ただし、xは、約1.6〜約1.8である。
【0010】
実施例8では、実施例5〜実施例7のいずれかによる植え込み型または挿入可能な医療装置において、環状シリコン含有化合物は、オクタメチルテトラシクロシロキサン(OMCTS)を含む。
【0011】
実施例9では、実施例5〜実施例8のいずれかによる植え込み型または挿入可能な医療装置において、該コーティングは、約500ナノメートル以下の厚さを有する。
実施例10において、患者への挿入または植え込みのための医療装置を形成する方法が提供される。該方法は、チャンバ内にシリコーン基板を配置することと、該シリコーン基板の表面の少なくとも一部にフリーラジカルを形成することと、シリコン含有化合物を、約200ミリトール(mtorr)(約26.6Pa)以下のチャンバ圧力で、該シリコーン基板上にプラズマ化学気相成長(PECVD)させて、コーティングを施した基板を形成することとを含む。
【0012】
実施例11では、実施例10による方法において、該シリコン含有化合物は、環状シリコン含有化合物である。
実施例12では、実施例10または実施例11による方法において、該シリコン含有化合物は、オクタメチルテトラシクロシロキサン(OMCTS)を含む。
【0013】
実施例13では、実施例10〜実施例12のいずれかによる方法において、該シリコーン基板上にフリーラジカルを形成することは、酸素、アルゴン、テトラフルオロメタン(CF)、三フッ化窒素(NF)およびそれらの組合せから成る群から選択された少なくとも1つの要素を含むガスからプラズマを生成することを含む。
【0014】
実施例14では、実施例10〜実施例13のいずれかによる方法において、そのPECVD成長ステップは、シリコン含有化合物を、約20ミリトール(mtorr)(約266Pa)以下のチャンバ圧力で該シリコーン基板上にPECVD成長させることを含む。
【0015】
実施例15では、実施例10〜実施例14のいずれかによる方法において、該コーティングが施された基板は、該シリコーン基板の動摩擦係数よりも、少なくとも約70%小さい動摩擦係数を有する。
【0016】
実施例16では、実施例10〜実施例15のいずれかによる方法において、該コーティングが施された基板は、該シリコーン基板の動摩擦係数よりも少なくとも約80%小さい動摩擦係数を有する。
【0017】
実施例17では、実施例10〜実施例16のいずれかによる方法において、−30℃〜60℃の5つの温度サイクルの後で、該コーティングが施されたシリコーン基板は、シリコーン基板の動摩擦係数よりも少なくとも約70%小さい動摩擦係数を有している。
【0018】
実施例18では、実施例10〜実施例17のいずれかによる方法において、PECVDは、約50マイクロメートル以下の厚さを有するコーティングを形成する。
実施例19では、実施例10〜実施例18のいずれかによる方法において、PECVDは、コーティングを形成し、そのコーティングは、少なくとも約20原子パーセントのシリコンを含み、その少なくとも約30原子パーセントはシリカ酸化状態にある。
【0019】
実施例20では、実施例10〜実施例19のいずれかによる方法において、PECVDは、該シリコーン基板の内側面にコンフォーマルコーティングを形成する。
多数の実施形態が開示されているが、当業者には、本発明のさらに他の実施形態は、本発明の例示的な実施形態を示しおよび説明する以下の詳細な説明から明らかになるであろう。したがって、図面および詳細な説明は、本質的に例示的であり、制限的ではないと見なすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】例示的な植え込み型医療装置を示す。
図2図1の植え込み型医療装置の例示的な断面図を示す。
図3図1の植え込み型医療装置の代替的で例示的な断面図を示す。
図4】本発明の実施形態に関連して用いることができる例示的なシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、さまざまな変更および代替的形態が可能であるが、具体的な実施形態は、図面に例として示されており、および以下に詳細に記載されている。しかし、その意図は、本発明を、記載されている特定の実施形態に限定することではない。それどころか、本発明は、添付クレームによって定義されている本発明の範囲内にあるすべての変更例、等価物および代替例をカバーすることが意図されている。
【0022】
本発明のより完璧な理解は、本発明の多数の態様および実施形態に関する以下の詳細な説明を参照することによって可能である。以下の本発明の詳細な説明は、本発明を限定することではなく、例示することが意図されている。
【0023】
医用電気機器、胃内バルーン、膀胱装置および乳房インプラント等の植え込み型または挿入可能な医療装置は、シリコーン基板を含んでもよい。本願明細書に記載されているように、低減された静止摩擦係数および動摩擦係数の両方を有する表面を与えるために、該シリコーン基板の少なくとも一部の上にコーティングを形成することができる。いくつかの実施形態において、該コーティングは、該シリコーン基板を完全に覆うか、または囲んでもよい。該コーティングは、プラズマ化学気相成長法(PECVD)によって形成することができる。プラズマは、その中のかなりの割合の原子または分子がイオン化されているガスである。プラズマは、2つの電極間での高周波(Radio Frequency:RF)または直流(DC)放電によって作り出すことができ、また、プラズマ化学気相成長法は、ガス状態(例えば、プラズマ)から薄膜を基板上に堆積させるのに用いることができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、医用電気機器は、(a)電子信号生成コンポーネントと、(b)1つ以上のリードとを含むことができる。該電子信号生成コンポーネントは、一般的に、電力源(例えば、バッテリー)と、電子回路パッケージとを含み、該パッケージは、人体(例えば、心臓、神経系等)内に送られる電気信号を生成する。リードは、少なくとも1つのフレキシブルで細長い導電性部材(例えば、ワイヤ、ケーブル等)を含むことができ、該導電性部材は、一般に、多くの場合、リード本体とも呼ばれる細長いポリマーコンポーネントによって、その長さの一部に沿って絶縁されている。該導電性部材は、該装置の該電子信号生成コンポーネントを、1つ以上の電極と電気的につなげて配置するように構成され、該電極は、患者の体との電気的接続を実行できる。したがって、リードは、電気信号を該電子信号生成コンポーネントから患者の体へ流すことができる。また、リードは、患者の体から該電子信号生成コンポーネントへ信号を伝達することもできる。
【0025】
医用電気機器の実例は、例えば、特に脊髄電気刺激(spinal cord stimulation:SCS)システム、脳深部刺激(deep brain stimulation:DBS)システム、末梢神経刺激(peripheral nerve stimulation:PNS)システム、胃神経刺激システム、人口内耳システムおよび網膜移植システム等の神経刺激システムを含む植え込み型電気刺激システムと、特に植え込み型心調律管理(cardiac rhythm management:CRM)システム、植え込み型除細動器(implantable cardioverter−defibrillator:ICD)、心臓再同期および除細動(cardiac resynchronization and defibrillation:CRDT)装置、および皮下埋め込み型除細動器(subcutaneous implantable cardioverter−defibrillator:SICD)を含む心臓疾患用システムとを含む。
【0026】
図1は、心臓102を刺激するか、心臓102にショックを与えるか心臓102を感知するか少なくともいずれか一つを行うために、電気パルスまたは電気信号を送るか受け取るか少なくともいずれか一方を行うためのリードシステム100の概略図である。リードシステム100は、任意のパルス発生器105と、医用電気リード110とを含む。任意のパルス発生器105は、電力源と、電子回路部(図示せず)とを含む。いくつかの実施形態において、該電子回路は、処理または評価の少なくともいずれか一方の機能を実行でき、および異なるエネルギーレベルおよびタイミングの電気ショックまたはパルスを判断して送ることができる1つ以上のマイクロプロセッサを含むことができる。パルス発生器105は、神経刺激または心室除細動あるいは電気的除細動のためのさまざまな有効な治療の一部として用いることができる。また、該パルス発生器は、細動、心臓再同期、頻脈または徐脈を含む1つ以上の感知された心不整脈に応動して心臓をペーシングするのにも用いることができる。いくつかの実施形態において、パルス発生器105は、1つ以上のバッテリーによって駆動することができるが、何らかの他の内部または外部の電源を所定の用途に用いてもよい。いくつかの実施形態において、パルス発生器105は、心臓102の固有信号を感知して、決められたタイミングの一連の放電または電気パルスを発生させることができる。
【0027】
パルス発生器105は、一般に、胸壁に形成された皮下ポケットに埋め込むことができる。別法として、パルス発生器105は、腹部または他の箇所に形成された皮下ポケットに配置してもよい。医用電気リード110は、心臓に用いる場合について図示されているが、医用電気リード110は、他の電気刺激/検出形態にも同様に適していることに留意すべきである。
【0028】
医用電気リード110は、パルス発生器105に結合されている近位端112から、植え込まれたか、または、別の方法でそれと結合された場合に、心臓102の一部に結合される遠位端114まで延びている。外側絶縁リード本体は、概して医用電気リード110の近位端112から遠位端114まで延びている。該外側絶縁リード本体は、該医用電気リード110内の導電性コンポーネントを患者の周囲の組織から分離して絶縁する。
【0029】
また、医用電気リード110の少なくとも一部に沿って、例えば、医用電気リード110の遠位端114の近くで、少なくとも1つの電極116が設けられている。電極116は、医用電気リード110と心臓102とを電気的に結合して、パルス発生器105から標的組織または位置へ電気信号を送ることを可能にしている。少なくとも1つの導体(図示せず)が、該リード本体に設けられ、医用電気リード110の近位端112から、概して遠位端114まで延びている。該少なくとも1つの導体は、電極116と、医用電気リード110の近位端112とを電気的に結合している。該導体は、電流およびパルスを、パルス発生器105と電極116との間で伝達し、および心臓102へおよび心臓102から伝達する。一つの選択肢として、該少なくとも1つの導体は、コイル状の導体である。別の選択肢として、該少なくとも1つの導体は、1つ以上のケーブルを含む。そのようなリードのための通常の長さは、特に、約35センチメートル(cm)から40cm、50cm、60cm、70cm、80cm、90cm、100cm、110cm、120cmまでさまざまである。通常のリードの直径は、特に、約12ミリメートル(mm)から15mm、18mm、21mm、24mm、27mm(約4から5、6、7、8、9フレンチ)までさまざまである。
【0030】
リードシステム100は、医用電気リード110を患者の体内に固定するか、または取り付けることを可能にする1つ以上の形状構成を含むことができる。例えば、医用電気リード110は、1つ以上の歯等の受動的固定形状構成または固定らせん状構造等の能動的固定アセンブリの少なくともいずれか一方を含むことができる。
【0031】
図2は、リード本体120と、プラズマ化学気相成長させた(PECVD)コーティング122と、内腔部124とを含む例示的な医用電気リード110の断面図である。
リード本体120は、概してフレキシブルであるが、実質的には、その長さに沿って非圧縮性である。リード本体120は、適当などのような断面形状を有していてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、リード本体120は、実質的に円形の断面を有していてもよい。いくつかの実施形態において、リード本体120は、植え込みのための適当などのようなサイズから成っていてもよい。いくつかの実施形態において、リード本体120は、実質的に円形の断面を有していてもよい。
【0032】
リード本体120は、リード本体120の中を、リード本体120の近位端から遠位端まで軸方向に延びている1つ以上のチャネルまたは内腔部124を含むことができる。内腔部124は、リード本体120の内側面を形成している。内腔部124は、実質的に円形、矩形または三角形の断面形状等の適当などのような断面形状も有することができる。内腔部124は、実質的に均一な断面積を有することができ、または、その断面積は、内腔部124(または、リード本体120)の長さに沿って変化してもよい。
【0033】
いくつかの実施形態において、内腔部124は、導体内腔部であってもよく、また、リードワイヤが、リード本体120が該リードワイヤと周りの組織または環境を絶縁できるように、内腔部124を通って延びていてもよい。リード本体120のための適切な材料は、シリコーン、およびシリコーンを含む混合物および複合材料を含む。いくつかの実施形態において、リード本体120の組成は、その長さに沿って実質的に均一とすることができる。他の実施形態においては、リード本体120の組成は、その長さまたは厚さの少なくともいずれか一方を含むいずれかの方向において変えてもよい。
【0034】
PECVDコーティング122は、リード本体120の外側面の少なくとも一部に設けることができる。いくつかの実施形態において、PECVDコーティング122は、リード本体120および医用電気リード110の全長に沿って延びて、それら全体を取り囲んでいてもよい。例えば、PECVDコーティング122は、医用電気リード110の近位端112から遠位端114まで延びて、リード本体120全体を径方向に取り囲んでもよい。他の実施形態においては、PECVDコーティング122は、リード本体120の全体または一部を径方向に取り囲んでいてもよく、また、リード本体120の長さの少なくとも一部に沿って延びていてもよい。
【0035】
PECVDコーティング122は、リード本体120の外側面のコンフォーマルコーティングとすることができる。すなわち、PECVDコーティング122は、リード本体120の表面の形状に適合することが可能である。いくつかの実施形態において、PECVDコーティング122は、径方向または軸方向の少なくともいずれか一方向に均一な組成または厚さの少なくともいずれか一方を有することができる。リード本体120は、非対称的または不均一な形状構成を有していてもよい。例えば、リード本体120は、先細であってもよく、一様ではない、または可変の表面を有してもよく、または、他の不均一な形状構成を軸方向または径方向に有していてもよい。PECVDコーティング122の共形特性は、PECVDコーティング122が、一様ではない、または不均一な基板上に(すなわち、均一な厚さまたは組成の少なくともいずれか一方を有する)均一なコーティングを形成することを可能にしている。
【0036】
PECVDコーティング122は、酸化ケイ素ベースの要素を含むことができる。いくつかの実施形態において、適当な酸化ケイ素は、化学量論SiOを満たすことができ、ただし、xは、1.6〜1.8までの範囲である。PECVDコーティング122は、シリカのような要素を含むことができる。例えば、特定の実施形態において、PECVDコーティング122は、少なくとも約20,21,22または23原子パーセントのシリコンを含むことができ、X線光電子分光法(x−ray photoelectron spectroscopy:XPS)で測定した場合、およびSi2p結合エネルギーで測定した場合、その少なくとも約30,32または35原子パーセントはシリカ酸化状態にある。X線光電子分光法は、放出された光電子の光電離およびエネルギー分散分析を用いて、サンプルの表面の組成および電子状態を観察するものである。各元素は、光子エネルギーおよびそれぞれの結合エネルギーによって決まる運動エネルギーにおけるXPSスペクトルの特性ピークを有している。特定のエネルギーにおけるピークの存在は、特定の元素の存在を示し、該ピークの強度は、その元素の濃度に関係している。元素が異なる酸化状態にある場合、その対応するエネルギーレベルは異なることになる。このようにして、XPSは、元素の異なる化学状態または酸化状態、およびそれぞれの状態における濃度を検出する。
【0037】
PECVDコーティング122は、マイクロメートル単位の厚さを有することができる。例えば、該コーティングは、約50マイクロメートル以下、25マイクロメートル以下または15マイクロメートル以下であってもよい。別法として、PECVDコーティング122は、ナノメートル単位の厚さを有することができる。例えば、該コーティングは、最小で約10,25または50ナノメートルの厚さ、または、最大で約100,200または500ナノメートルの厚さを有することができ、あるいは、上記の値のうちのいずれかの組によって決まるいずれかの範囲内であってもよい。
【0038】
本願明細書においてさらに説明されているように、PECVDコーティング122は、医用電気リード110が患者内で移動されるか、または、カテーテルシステム等の医療システムを介した挿入時に移動されたときに受ける摩擦力を低減することができる。摩擦力は、動摩擦および静止摩擦を含む。動(または、運動)摩擦は、互いに対して動いている2つの物体間に生じ、静止摩擦は、互いに対して動いていない2つの物体間に生じる。いくつかの実施形態において、PECVDコーティング122は、リード本体120よりも低い動摩擦係数を有することができる。くわえて、または別法として、PECVDコーティング122は、リード本体120よりも低い静止摩擦係数を有してもよい。
【0039】
動摩擦係数および静止摩擦係数は、OakRiverから入手可能なDL1000摩擦テスター等の市販の摩擦テスターで測定することができる。摩擦テスターは、HanatekやHarland Medicalからも入手可能である。コーティングされた医用電気リード110の動摩擦係数および静止摩擦係数は、コーティングされていない医用電気リードと比較してもよい。いくつかの実施形態において、PECVDコーティング122を含む医用電気リード110は、PECVDコーティング122を含まない医用電気リードの動摩擦係数よりも少なくとも70%、75%または80%または85%小さい動摩擦係数を有することができる。さらなる実施形態においては、PECVDコーティング122を含む医用電気リード110は、PECVDコーティング122を含まない医用電気リードの静止摩擦係数よりも少なくとも70%、75%または80%または85%小さい静止摩擦係数を有することができる。図2に示すように、PECVDコーティング122は、リード本体120の外側面に形成することができ、および潤滑性を増加させることができ、およびリード本体120の外側面の摩擦係数を低下させることができる。
【0040】
図3は、例示的な医用電気リード110bの代替的な断面図であり、そのPECVDコーティング122bは、内腔部124に隣接して、リード本体120の内側面にある。PECVDコーティング122bは、リード本体120の内側面の潤滑性を向上させる(すなわち、その摩擦係数を低減する)ことができる。くわえて、または別法として、PECVDコーティング122bは、内腔部124を通って延びている、リードワイヤ等の1つ以上のワイヤにより、リード本体120の内側面での磨耗を低減することができる。
【0041】
いくつかの実施形態において、PECVDコーティング122bは、内腔部124の長さに沿って、実質的に均一な厚さまたは組成の少なくともいずれか一方を有している。内腔部124の長さは、最大で、内腔部124の直径の約1,2または3倍とすることができる。これまでは、実質的に均一な厚さまたは組成の少なくともいずれか一方を持つコーティングを、物体の内側面に沿って形成することは困難であった。例えば、これまでの成長法は、物体の端部近傍の内側面に沿って、物体の軸方向中央よりも厚いコーティングを生じさせた。本願明細書に記載されているように、本発明の方法は、リード本体120の内側面の軸方向の全長に沿って、実質的に均一な厚さを有するコーティングを形成することができる。
【0042】
図4は、PECVDチャンバ212と、モノマー源214と、酸素源216と、アルゴン源218と、高周波電源220と、高周波バイアス222と、ベント224と、流量調節弁226A,226Bおよび226Cと、気化器228と、ターボ真空ポンプ230と、低真空ポンプ232とを含む例示的なPECVDシステム210を示す略図である。気化器228は、モノマー源214とPECVDチャンバ212との間に接続されている。モノマー源214、酸素源216およびアルゴン源218は、PECVDチャンバ212へ供給することができ、これらの供給フローは、それぞれ流量調節弁226A,226Bおよび226Cによって制御することができる。
【0043】
使用時には、コーティングされる医療装置または医療装置の一部がPECVDチャンバ212内に配置される。該医療装置は、該医療装置へのコーティングの位置を制御するためにマスクしてもよい。コーティングは、PECVDチャンバ212の環境に露出された面のみに形成されることになる。コーティングは、該医療装置のマスクされた部分には形成されない。例えば、該医療装置が開口部を有している場合、コーティングがその開口部内に形成されるのを防ぐために、該開口部をマスクすることができる。該医療装置が内腔部を含む別の実施例においては、該内腔部の端部は、該医療装置の外側面のみがPECVDチャンバ212の環境に曝されるようにマスクしてもよい。代替的な実施例においては、該医療装置の外側面は、該内腔部によって画成された内側面が、PECVDチャンバ212の環境に曝されて、該医療装置の該内側面にコーティングが形成されるようにマスクしてもよい。適切なマスキング材料は、ポリテトラフルオロエチレン、高密度ポリエチレンおよびポリエーテルエーテルケトン(polyether ether ketone:PEEK)を含む。
【0044】
該医療装置が、一旦、PECVDチャンバ212内に配置されると、PECVDチャンバ212は、PECVDチャンバ212から汚染物質を取り除くためにパージされる。次に、酸素源216からの酸素がPECVDチャンバ212内に導入されて、高周波電源220および高周波バイアス222を用いてプラズマが生成される。より具体的には、プラズマは、誘電機体である酸素全体に電流を印加することによって生成される。酸素プラズマは、本願明細書に記載されているようなシリコーン基板を洗浄しまたは活性化させることができる。別法として、プラズマは、アルゴン、テトラフルオロメタン(CF4)、三フッ化窒素(NF3)ガス、または、酸素の代わりのそれらの組合せ、または酸素と組み合わせたそれらの組合せを用いて生成してもよい。
【0045】
洗浄または前処理ステップに続いて、PECVDチャンバ212内に超低圧を発生させるために、ターボ真空ポンプ230と低真空ポンプ232が一緒に用いられる。いくつかの実施形態において、PECVDチャンバ212は、200ミリトール(mtorr)(約26.6Pa)以下の圧力を有してもよい。PECVDチャンバ212は、最低で5ミリトール(mtorr)(約0.666Pa)、10ミリトール(mtorr)(約133Pa)、20ミリトール(mtorr)(約266Pa)または30ミリトール(mtorr)(約3996Pa)または最高で40ミリトール(mtorr)(約53289Pa)、50ミリトール(mtorr)(約666Pa)、75ミリトール(mtorr)(約9.999Pa)または100ミリトール(mtorr)(約13.3Pa)の圧力を有することができ、または、上記の値のいずれかの組によって決まるどのような範囲であってもよい。さらに他の実施形態においては、PECVDチャンバ212は、約20ミリトール(mtorr)(約266Pa)または約15ミリトール(mtorr)(約1.9998Pa)以下の圧力を有することができる。
【0046】
PECVDチャンバ212内に超低圧が設定された後、モノマー源214が導入されて、PECVDチャンバ212内にプラズマ場が点火される。該モノマーは、該基板上に付着してコーティングを形成する。一実施形態において、該モノマーは、シロキサンまたはシリコン含有化合物である。例示的なモノマーは、直鎖シロキサンまたはシリコン含有化合物および環状シロキサンまたはシリコン含有化合物を含む。適切な直鎖シロキサンまたはシリコン含有化合物は、ヘキサメチルジシロキサン(hexamethyldisiloxane:HMDSO)およびペンタメチルシロキサン(pentamethylsiloxane:PMDSO)を含む。適切な環状シロキサンまたはシリコン含有化合物は、オクタメチルテトラシクロシロキサン(octamethyltetracyclosiloxane:OMCTS)およびヘキサメチル環状ジシロキサン(hexamethyl cyclic disiloxane:HMCDS)を含む。いくつかの実施形態において、該モノマーは、PECVDチャンバ212内への導入前に加熱することによって気化される液状モノマーであってもよい。例えば、OMCTSモノマーは、PECVDチャンバ212内への導入前に、気化器228内で約80℃まで加熱することができる。酸素源216からの酸素は、該モノマー付着ステップ中にPECVDチャンバ212へ流し続けてプラズマ場を生成することができる。いくつかの実施形態においては、アルゴン、窒素またはヘリウムあるいはこれらの組合せを、酸素の代わりに、または酸素とともに用いてもよい。
【0047】
モノマーの付着の後、PECVDチャンバ212は、アルゴンまたは窒素等の希ガスによってパージして大気へ排気することができる。希ガスまたは窒素によるパージングは、水蒸気等の汚染物質がPECVDシステム210内に入ること、およびコーティングを汚染することを防ぐことができる。コーティングされた医療装置または該医療装置の一部は、PECVDチャンバ212から取り除かれる。医療装置の一部がPECVDチャンバ212内でコーティングされると、該装置は、PECVDチャンバ212から取り除かれた後に組み立てることができる。
【0048】
本願明細書に記載されているプロセスは、2つのステップ、すなわち、モノマーの存在しないプラズマを伴う洗浄または前処理ステップと、モノマーのPECVDを伴うモノマー付着ステップとを含む。該洗浄/前処理ステップのプラズマは、標的面にフリーラジカルを形成することによって該シリコーン基板を洗浄または活性化させることができる。
【0049】
該モノマー付着ステップの間、該モノマーは、該活性化された面と反応し、重合してコーティングを形成する。本願明細書に記載されているように、シロキサンまたは有機シリコン含有モノマーは、標的シリコーン基板上に付着してコーティングを形成する。一実施例において、該コーティングは、化学量論SiOを満たす酸化ケイ素であり、ただし、xは、約1.6〜1.8の範囲内にある。該コーティングは、該シリコーン基板全体を覆うか、または、該シリコーン基板の少なくとも一部を覆うことができる。一実施形態において、該コーティングは、該シリコーン基板の少なくとも大部分を覆っている。
【0050】
本願明細書に記載されているように、該コーティングは、まず、該シリコーン基板をプラズマで改質または活性化させることによって形成することができ、その後、シロキサンまたは有機シリコン含有モノマーの付着が続く。理論に縛られるものではないが、該モノマーは、本願明細書に記載されているように、活性化されたシリコーン基板に共有結合すると思われている。いくつかの実施形態において、該コーティングの最上層は、該コーティングが厚すぎる場合、剥がれるか、または分離する可能性がある。例えば、該コーティングは、モノマーが該シリコーン基板ではなく、別のモノマーに付着した場合、剥がれる可能性がある。該コーティングの剥離または分離は、好ましくない可能性がある。特定の実施形態においては、コーティングは、剥離を呈しない50ミクロン以下、25ミクロン以下、または10ミクロン以下の厚さを有する。
【0051】
モノマーの付着は、200ミリトール(mtorr)(約26.6Pa)以下等の超低圧下で行うことができる。いくつかの実施形態において、超低圧は、該モノマーがシリカ含有コーティングを形成する結果をもたらす可能性がある。例えば、超低圧は、該モノマーがシリカ様コーティングを形成する結果をもたらす可能性がある。本願明細書に記載されているように、該コーティングは、XPSによって分析することができ、シロキサン酸化状態およびシリカ酸化状態におけるシリコン元素の割合は、Si2p結合エネルギーによって測定することができる。特定の実施形態においては、シリカ含有コーティングは、少なくとも20,21,22または23原子パーセントのシリコンを含むことができ、その少なくとも30,32または35原子パーセントはシリカ酸化状態にある。いくつかの実施形態において、シリカ含有コーティングは、いくつかのシロキサン非晶質コーティングと比較して改善された低摩擦特性を有することができる。例えば、シリカ含有コーティングは、いくつかのシロキサン非晶質コーティングよりも低い動摩擦係数を有することができる。
【0052】
現在のプロセスは、バッチプロセスとして実行してもよい。バッチプロセスにおいては、部材を、コーティングプロセスの前にPECVDチャンバ212内に配置して、該コーティングプロセスの後に取り除くことができる。該部材は、該コーティングプロセス中は動かされない。一旦、部材がPECVDチャンバ212内に配置されると、該部材は、該コーティングプロセスが完了した後、該部材がPECVDチャンバ212から取り除かれるまで、押したり引いたり、または他の方法で移動されたりしない。本願明細書に記載されているコーティングプロセスは、該部材を移動させないため、該プロセスは、該部材を延ばしたり、該部材のいずれかのコンポーネントまたは該部材の少なくともいずれか一方の寸法に悪い影響を与えないであろう。例えば、該部材が、導体および電極を含む可能性があるリードアセンブリである場合、該部材は、該アセンブリ内の導体(例えば、ワイヤ)を引っ張ったり引き伸ばしたりするリスクを伴うことなく、PECVDチャンバ212内でコーティングすることができる。別法として、該プロセスは、連続法(リールトゥリールシステムとも呼ばれる)で実施してもよい。
【0053】
現在のバッチプロセスは、外側被覆したサブアセンブリをコーティングするのに用いてもよい。例えば、現在のバッチプロセスは、完全に組み立てられたか、または一部が組み立てられたリードアセンブリに対して用いてもよい。一実施形態において、医療インプラントは、電極とともにシリコーン製リード本体を含むリードアセンブリの一部とすることができる。導体は、該シリコーン製リード本体内に形成された内腔部を通して延ばすことができる。該電極および該導体は、そのモノマーの付着を防ぐためにマスクすることができ、そのリード部は、PECVDチャンバ212内に配置することができる。本願明細書に記載されているコーティングプロセスは、マスクされていないか、または露出されたリード部上にコンフォーマルコーティングを付着させるのに用いることができる。すなわち、均一な厚さおよび組成を有するコーティングを、該シリコーン製リード本体のマスクされていない部分に付着または形成することができる。本願明細書に記載されているバッチプロセスは、リードの少なくとも一部を、該コーティングプロセスの前に組み立てることを可能にする。くわえて、本願明細書に記載されているバッチプロセスは、該リードアセンブリの選択した部分を、それに対するコーティングの付着を防ぐためにマスクすることを可能にする。例えば、リードアセンブリの端部は、該アセンブリ内の導体を含む、該アセンブリの内側面への該モノマーの付着を防ぐためにマスクしてもよい。
【0054】
医療装置は、滅菌や温度サイクルにさらされる可能性がある。特定の実施形態において、該コーティングは、滅菌プロセスまたは温度サイクルの影響をあまり受けない。いくつかの実施形態において、該医療装置は、エチレンオキシドへの曝露によって滅菌することができる。また、該医療装置は、最大で1時間の最小ドウェル時間内で、−30℃〜60℃の温度サイクルにさらされてもよい。いくつかの実施形態においては、5つの温度サイクルを実行してもよい。すなわち、該医療装置は、最低で1時間、−30℃に曝すことができ、その後、温度を60℃に上昇させることができ、該医療装置は、1つの温度サイクルを完了させるために、少なくとも1時間、この温度に曝すことができる。このプロセスは、例えば、全体で5つの温度サイクルについて、最大で追加的に4回まで繰り返すことができる。滅菌および温度サイクルは、コーティングされた基板の潤滑性および摩擦係数に影響を及ぼす可能性がある。いくつかの実施形態において、該コーティングされた基板は、コーティングされていない基板と比較して、改善された潤滑性、動摩擦係数または静止摩擦係数の少なくともいずれか一つを有している。いくつかの実施形態においては、少なくとも3度の滅菌プロセスおよび3度の温度サイクルの後で、該コーティングされた基板は、コーティングのない基板と比較して低減された動摩擦係数または静止摩擦係数の少なくともいずれか一方を有することができる。例えば、少なくとも3度の滅菌プロセスおよび3度の温度サイクルの後で、該コーティングされた基板は、コーティングのない基板の摩擦係数と比較して、少なくとも40%、少なくとも50%または少なくとも60%低減されている動摩擦係数または静止摩擦係数の少なくともいずれか一方を有することができる。
(実験に関するセクション)
(コーティング組成−サンプル1〜3)
サンプル1〜3は、本願明細書に開示されているPECVDコーティングを有するシリコーンチューブと、市販のシリコンコーティングを有するシリコーンチューブおよびコーティングされていないシリコーンチューブと比較したものである。これらのサンプルを、滅菌および温度サイクルプロセスの前後で比較して、該コーティングに対する熱の影響を測定した。
【0055】
サンプル1は、本願明細書に記載されているようなPECVDコーティングを外側面に有するシリコーンチューブである。該コーティングは、酸素プラズマを10〜15ミリトール(mtorr)(約133Pa〜1.999Pa)で用いたOMCTSのPECVDによって形成した。該コーティングの厚さは、約90〜100ナノメートルであった。
【0056】
サンプル2は、市販のシリコンコーティングを有するシリコーンチューブである。該コーティングは、市販のシロキサン含有コーティングを、シリコーンチューブの外側面に施すことによって形成された。
【0057】
サンプル3は、コーティングされていないシリコーンチューブである。
サンプル1および2を滅菌のためにエチレンオキシドに曝した。滅菌後、サンプル1および2を、最大で1時間という最小ドウェル時間で、−30℃〜60℃の5度の温度サイクルに曝した。滅菌および温度サイクル後のサンプルをサンプル1Sおよびサンプル2Sとする。
【0058】
各サンプルの表面における炭素、窒素、酸素およびケイ素の原子組成を、表Aの条件を用いてX線光電子分光法(XPS)によって分析した。
【0059】
【表A】
子パーセントの結果を表1に示す。その値は、検出された原子の100%に正規化されている。XPSは、水素またはヘリウムは検出しない。
【0060】
【表1】
滅菌の前後のサンプル1および2の原子組成は、あまり異なっておらず、サンプル1および2のコーティングは、滅菌条件下で安定していることを示している。
【0061】
また、これらのサンプルのシリコン酸化状態もXPSで測定し、その結果を表2に示す。表2の値は、表1に示すシリコーン含有量の総原子濃度である。
【0062】
【表2】
表2は、サンプル1(本願明細書に記載されているPECVDコーティングの一実施形態)が、より多くの量のシリカを含んでいたことを実証している。
【0063】
論じた例示的な実施形態に対しては、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および追加を実行することができる。例えば、上述した実施形態は、特定の形状構成に言及しているが、この発明の範囲は、記載されている形状構成のすべてを含まない形状構成および実施形態の異なる組合せを有する実施形態も含んでいる。したがって、本発明の範囲は、クレームの範囲内にあるすべてのそのような代替例、変更例および変形例と、それらのすべての等価物とを含むことが意図されている。
図1
図2
図3
図4