特許第5956145号(P5956145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956145
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】炭酸感付与剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20160714BHJP
【FI】
   A23L2/00 A
   A23L2/00 T
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-270116(P2011-270116)
(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-121323(P2013-121323A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204181
【氏名又は名称】太陽化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】大村 賢治
(72)【発明者】
【氏名】森 直哉
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4699562(JP,B2)
【文献】 特開2011−182665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸飲料の炭酸感を改善する成分として、メジアン径で200μm以下の増粘安定剤の微細なゲルを含有することを特徴とする炭酸感付与剤。
【請求項2】
請求項1記載の増粘安定剤がゼラチン、寒天、カラギナン、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、グァガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、アラビアガム、カラヤガム、アルギン酸、アルギン酸エステル、プルラン、カードラン、トラガントガム、ガッティガム、アラビノガラクタン、セルロース、カルボキシメチルセルロース及び大豆水溶性多糖類からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の多糖類であることを特徴とする請求項1記載の炭酸感付与剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の炭酸感付与剤を0.1〜5重量%含有することを特徴とする炭酸飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭酸飲料の炭酸感に関し、増粘安定剤の微細なゲルを添加することで飲用時に持続性のある炭酸感を持ち、開封後も炭酸の抜けにくい炭酸飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料は爽快感を有する代表的な清涼飲料であり、その爽快感を形成する要素として、他の清涼飲料にはない特有の炭酸感があり、炭酸ガスの刺激と他のフレーバーによってかもし出される清涼感がそのもっとも大きな特徴である。しかし、この炭酸による刺激の強弱は飲料に含まれる炭酸ガスの量により制御されるため、炭酸ガス量が少なければ感じられる炭酸感が小さく爽快感が薄れ、炭酸ガス量を多くすれば生じる炭酸の泡は多くなるが大きく荒いものとなり、飲料そのものの爽快感や嗜好性が劣るものとなってしまう、また高圧のガスを含有させても開栓後は急激に炭酸ガスが放逸し、吹き込んだ圧力にみあう強い炭酸感を得られないという問題があった。
【0003】
炭酸飲料についてはこれまでに植物成分と炭酸ガスを比較的多く含みながら植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスの爽快感を兼ね備えた炭酸飲料(例えば、特許文献1参照。)が提案されているが植物性成分などを多く含まない代表的な止喝性の高い炭酸飲料には不適であり、また2価の金属塩を含有させることにより泡感の改善された炭酸飲料(例えば、特許文献2参照。)が提案されているが、金属塩を溶解させることで金属塩の味が出ることや、他成分との反応からフレーバー等に影響を与えることが懸念され、一般の炭酸飲料について広く炭酸感を増強する効果のあるものは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2002/67702号公報
【特許文献2】特開2006−246771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、低炭酸含量の炭酸飲料での炭酸感の不足、あるいは高炭酸含量の炭酸飲料での炭酸感の急速な低下である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは炭酸飲料の炭酸感を増強維持する素材を検討した結果、口中で知覚できない程度の微細な増粘安定剤のゲルを添加することで、炭酸飲料の味やフレーバーそのものを変化させずに、炭酸飲料において炭酸感を増強し、また口中において炭酸ガスの刺激が持続することを見出した。また、本発明品の添加により、炭酸飲料のびんを開封し、コップ等に注いだ後も炭酸の放逸が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
上記構成からなる本発明の炭酸感付与剤を炭酸飲料に添加することで同ガス圧の無添加の炭酸飲料と比較して、より強く持続性のある炭酸感を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明に用いる増粘安定剤は、通常食品に使用されるものであって、ゲル化剤と増粘剤から選ばれる少なくとも1種以上を組み合わせて用いることにより、食品にかたさやまとまりを付与したり、それらの食感を改良したりするものであればよい。
【0010】
本発明における微細なゲルの大きさは300μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以下が好ましい。300μm以上であると口中でゲルを違和感として感じ、また外観もゲルとして知覚されるため透明飲料等への使用に好ましくない。
【0011】
本発明においての炭酸飲料とは製造工程中で二酸化炭素を導入し、含有させる工程のある清涼飲料、及びアルコール性炭酸飲料を意味する。
本発明においての炭酸感とは炭酸飲料を飲用時に口中で感じられる炭酸ガスの刺激をさす。本発明において感じられる良好な炭酸感は通常の炭酸飲料において高ガス圧で得られる強い感覚に加え、口中を通過後も口中及びのどに炭酸の爽快感が持続するものである。
【0012】
以下に増粘安定剤の微細なゲルを含有した炭酸飲料の実施例を挙げ、本発明を詳しく説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
実施例1
以下の処方に従い増粘安定剤の微細なゲルを作成した。
アルギン酸Na粉末 20g
水 980g
グルコノデルタラクトン 25g
水 475g
炭酸カルシウム粉末 2.5g
水 597.5g
【0014】
アルギン酸Na20gを980gの水に攪拌添加し、溶解させ、2%アルギン酸Na溶液を1000g作成した。
炭酸カルシウム2.5gを597.5gの水に分散させ、0.5%炭酸カルシウム分散液を作成した。
グルコノデルタラクトン25gを水475gに溶解し5%グルコノデルタラクトン溶液を作成した。
2%アルギン酸ナトリウム溶液に0.5%炭酸カルシウム溶液を添加し攪拌混合した後、調整直後の5%グルコノデルタラクトン溶液を添加し、攪拌混合した。その後6時間静置し、ゲル化させ、出来上がったゲルをミキサーで破砕した後、ホモミキサーで粉砕してアルギン酸Caの微細なゲル(本発明品1)を得た。
得られたゲルを粒度分布測定装置(Beckman coulter社製)にて測定したところメジアン径で75.68μmであった。
【0015】
比較例1
下記配合にてアルギン酸Naを水に攪拌溶解し、アルギン酸Na1%溶液を作成して、これを比較品として用いた。(比較品1)
アルギン酸Na 1g
水 99g
【0016】
試験例1
ブドウ糖果糖液糖(Bx75°)1.25kgに水8.75kgを加えて溶解し、飲料原液を作成した。
上記飲料原液に対し、実施例1及び比較例1で調製した本発明品1、及び比較品1を無添加、0.1%、0.3%、0.5%、1.0%、3.0%添加したものを作成し、さらにそれぞれの調整液をペットボトルに入れて炭酸ガスを圧入し、ボトル内の圧力を5℃において1kg/cm、2kg/cmにて密封し、炭酸飲料を製造した。
調製した炭酸飲料の炭酸感について、熟練したパネル5名により官能評価を行った。
評価基準は炭酸感の強さ及び口中での持続性について行い、無添加を基準(評点0)として、−3〜+3の7段階の評価とた。評価点の平均を表1に示す。
【0017】
(評点基準)
非常に強く感じる:3点
強く感じる :2点
若干強く感じる :1点
変わらない :0点
若干弱く感じる :−1点
弱く感じる :−2点
非常に弱く感じる:−3点
【0018】
【表1】
【0019】
表1の結果より明らかなように官能評価においてすべての添加量で本願発明品を添加したものはパネラーにより炭酸を強く持続して感じると評価されたが、比較品を添加したものについては炭酸を強く又は持続して感じるという評価は、得られなかった。
【0020】
試験例2
水に本願発明品1を1.0%添加したもの、及び無添加のものを作成し、さらにそれぞれの調製液をペットボトルに入れて炭酸ガスを圧入し、ボトル内の圧力を5℃において3kg/cmにて密封し、炭酸水を製造した。
上記炭酸水を開封し、200mlビーカーに100ml静かに注ぎ、35℃の恒温槽に静置した。ビーカーに加えた直後、及び30分後、60分後にピペットを用いて5ml炭酸水を採取し、6N−NaOH0.3mlの入ったチューブに静かに加えて、チューブを静かに振盪した。これにより炭酸ガスを炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムに変換し、フェノールフタレインとメチルオレンジを用いて塩酸による2段階滴定にて溶存炭酸ガス含有量を求めた。測定結果を表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
表2より明らかなように本発明品を加えた炭酸水は無添加品に比べ、時間経過後もより多くの二酸化炭素を含んでいた。すなわち本発明品を含有する炭酸飲料は溶存二酸化炭素の保持能力が含有しない炭酸飲料より優れていることがわかった。
【0023】
実施例2
以下の処方に従い増粘安定剤の微細なゲルを含有した炭酸飲料を調製した。
脱アシル型ジェランガム 5g
乳酸カルシウム 1.5g
水 493.5g
コーン油 499.5g
乳化剤 0.5g
【0024】
水に脱アシル型ジェランガムを分散し90℃5分加熱して溶解した後、70℃で保温した。
乳酸カルシウムを水に分散し90度まで加温して溶解し、70℃で保温した。
コーン油にW/O型乳化剤を分散し、70度まで加温した。
上記コーン油をホモミキサーで攪拌しながら徐々に脱アシル型ジェランガム溶液を添加し乳化した。乳化液に対して乳酸カルシウムを徐々に加えて再び乳化した。
上記で作成した乳化液を30℃以下まで冷却し乳化液の水部をゲル化させ後に遠心分離して微細なゲル(本発明品2)を得た。
得られたゲルを粒度分布測定装置(Beckman coulter社製)にて測定したところメジアン径で147.5μmであった。
【0025】
比較例2
下記配合にて脱アシル型ジェランガムの1%溶液を作成し、これを比較品2として用いた。
脱アシル型ジェランガム 1g
水 99g
上記を加熱溶解し、冷却する
【0026】
試験例3
ブドウ糖果糖液糖(Bx75°)1.25kgに水8.75kgを加えて溶解し、飲料原液を調製した。
上記飲料原液に本発明品2及び比較品2を無添加、0.1%、0.3%、0.5%、1.0%添加したものを作成し、さらにそれぞれの調整液をペットボトルに入れて炭酸ガスを圧入し、ボトル内の圧力を5℃において2kg/cmにて密封し、炭酸飲料を製造した。
上記にて作成した炭酸飲料の炭酸感について、熟練したパネル5名により官能評価を行った。評価基準は炭酸感の強さ及び口中での持続性について行い、無添加を基準(評点0)として、−3〜+3の7段階の評価とた。評価点の平均を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
表3の結果から明らかなように官能評価においてすべての添加量で本発明品を添加したものはパネラーにより炭酸を強く感じると評価されたが、比較品を添加したものについては炭酸を強く又は持続して感じるという評価は、得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の炭酸感付与剤により、従来の技術で困難であった、炭酸を持続して強く口中で感じる炭酸飲料の製造が可能となり、産業上貢献大である。