(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも心線と、プーリに係合又は接触するための圧縮ゴム層とを備えた摩擦伝動ベルトであって、前記圧縮ゴム層の表面が、圧縮ゴム層の加硫温度以下の融点又は軟化点を有する熱可塑性樹脂繊維で形成された布帛の溶融物であり、かつ繊維構造を有していないフィルム状であるスキン層で被覆されているとともに、前記熱可塑性樹脂繊維を形成する熱可塑性樹脂が架橋されていない摩擦伝動ベルト。
円筒状ドラムに心線を巻き付ける心線スピニング工程、巻き付けた心線の上に、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、巻き付けた未加硫ゴムシートの上に、さらに熱可塑性樹脂繊維で形成された布帛を巻き付けるスキン層巻付工程、前記心線及び布帛を巻き付けた未加硫ゴムシートを金型に押し付けて加硫成形し、得られた圧縮ゴム層の表面に前記布帛の溶融物であり、かつ繊維構造を有していないフィルム状であるスキン層を形成する加硫成形工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ゴム工業分野の中でも、自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車部品に用いられるゴム製品の中に動力伝動ベルトがあり、例えば、自動車のエアコンプレッサやオルタネータ等の補助駆動の動力伝動に広く用いられている。近年、住環境などの静粛化についての厳しい要求があり、特に自動車の駆動装置においてはエンジン音以外の音は異音とされるため、ベルトの発音対策が要請されている。
【0003】
動力伝動ベルトとして利用される摩擦伝動Vベルトは、製造方法によって、リブ部の形成を研磨で行う研磨ベルトと、リブ部の形成を金型で成形するベルト(金型成形ベルト)とに大別できる。金型成形ベルトは、金型に生ゴムを押し付けて加硫することにより得られるが、金型とゴムとの間にエアが介在すると、ベルト表面(プーリ係合又は接触面)に凹凸面が形成されて不均一となり、ベルト走行時にプーリのミスアライメントなどによる異音発生の原因となる。そのため、金型成形ベルトの製造方法では、金型からエアを抜くため、リブゴムの上にエア抜き材を付加することが必要である。一般的に、エア抜き材としては不織布が用いられ、不織布をベルト表面に巻き付けることによってエア溜まりを防止している。しかし、不織布を用いる方法でも、不織布を巻き付けた際に、隣接する不織布のジョイント部がオーバーラップ(積層)したり、突合せジョイント(隙間を形成)となり、このジョイント部で段差や凹凸面が発生する。さらに、摩擦伝動Vベルトでは、回転速度の変動や高負荷条件下で発生するスリップ音、粘着摩耗を起こした粘着ゴムがリブ間の溝底に付着して発生する騒音などを抑制するために、表面の摩擦係数を小さくする必要もある。
【0004】
特許第4251870号公報(特許文献1)には、弾性体を有し、長手方向に沿った抗張部材を有する本体を備え、前記本体が、所定の形状を有し、プーリに係合するプーリ係合面を有するプーリ係合領域であって、不規則に方向付けられた繊維が配置された不織布部材が、前記弾性体の材料の加硫により前記弾性体と前記不織布部材とのいずれもが前記プーリ係合面の全面に渡って存在するように、前記弾性体と混合された前記プーリ係合領域を有し、前記弾性体がプーリ係合領域の内側において繊維充填をさらに含むベルトが開示されている。この文献では、プーリ係合面で、セルロースで形成された不織布部材が、本体のゴムと明確な境界を備えないように混合されて存在している。さらに、前記不織布部材は、1又はそれ以上の層から形成されてもよく、成形工程で発生したガスを逃す利点を有すると記載されている。
【0005】
特開2010−101489号公報(特許文献2)には、エチレン−α−オレフィンエラストマー系のエラストマー歯を有する伝動ベルトであって、前記エラスマー歯が、熱可塑性材料からなるバリア層で覆われ、さらに前記バリア層が、織布又は不織布で形成された外側のカバーで覆われ、かつ前記エラスマー歯の少なくともフランク上にある前記外側のカバーが前記バリア層の厚みの一部分内に部分的に含まれている伝動ベルトが開示されている。この文献には、前記カバーを形成する織布又は不織布は、加硫後も繊維組織を保持するために、加硫温度よりも融点が高い材料をポリエチレンでコーティングした繊維で形成できることが記載されている。
【0006】
しかし、これらのベルトでは、プーリ係合面が不織布を用いるため、ジョイント部も不均一で段差を生じ、ベルト走行時に異音が発生する。
【0007】
特開2009−533606号公報(特許文献3)には、エチレン/α−オレフィンエラストマーベースのエラストマーから成る歯部を有するリブ付伝動ベルトであって、前記歯部の少なくとも側面が、分子量が50000g/mol〜200000g/molであり、少なくとも30%の少なくとも1つの低密度ポリエチレンを含有し、かつ少なくとも部分的に架橋されている熱可塑性樹脂からなるフィルムで覆われたリブ付伝動ベルトが開示されている。この文献では、未架橋又は部分的に架橋された状態で、熱可塑性樹脂をゴムの表面に塗布した後、ベルトの加硫工程で部分的に又は完全に架橋されることが記載されている。
【0008】
しかし、塗布により平滑な表面を形成するのが困難である上に、架橋工程が必要であり、生産性も低い。
【0009】
特開2007−170587号公報(特許文献4)には、伸張部とベルト周方向に延びる複数のリブ部からなる圧縮部とを有し、ベルト長手方向に沿って心線を伸張部と圧縮部との間に埋設したVリブドベルトであって、リブ部の内層がエチレン−α−オレフィンエラストマーからなるゴム組成物からなり、プーリと接触するリブ部の表面に、超高分子量ポリエチレン粉体が付着した摩擦伝動層が形成されているVリブドベルトが開示されている。この文献には、前記摩擦伝動層として、エチレン−α−オレフィンエラストマーに超高分子量ポリエチレン粉体を配合したゴム糊を加硫させた層が記載されている。
【0010】
しかし、このベルトでは、加硫ゴムにより超高分子量ポリエチレンが表面に露出し難く、ベルト表面の摩擦係数の低下を向上できない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[摩擦伝動ベルト]
本発明の摩擦伝動ベルトは、少なくとも心線と、プーリに係合又は接触するための圧縮ゴム層とを備えた摩擦伝動ベルトであって、前記圧縮ゴム層の表面が、特定のスキン層で被覆されている。前記スキン層は、架橋されていない熱可塑性樹脂で形成されているため、摩擦係数が低下しすぎず、適度な摩擦係数を有している。このような特性を有するスキン層は、摩擦伝動ベルトとしての機能も損なわれることなく、スリップ音などの発生も抑制される。さらに、繊維構造を有する布帛を融解(溶融)してスキン層を製造すると、融解前の布帛がエア抜き材として作用し、エア溜まりによる凹凸構造の発生を抑制できるとともに、加硫後は溶融して均一なスキン層を形成し、表面の摩擦係数を低下させる。そのため、本発明では、金型を用いた成形法であっても、表面の摩擦係数が低い摩擦伝動ベルトを製造できる。
【0022】
図1は、本発明の摩擦伝動ベルト(Vリブドベルト)の一例を示す概略断面図であり、ベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【0023】
この例では、Vリブドベルト1は、ベルト本体の内周面に、ベルトの長手方向に沿って複数列で延びるリブ部7を有しており、このリブ部7の長手方向に対して直交する方向における断面形状は、ベルト外周側(リブ部を有さず、プーリと係合しない側)から内周側に向かって幅が小さくなる(先端に向かって先細る)台形状である。
【0024】
Vリブドベルト1は、積層構造を有しており、ベルト本体の外周側から内周側に向かって、短繊維4を含有するゴム組成物で形成された伸張層(伸張ゴム層)5、心線3、前記リブ部7を有する圧縮ゴム層6、熱可塑性樹脂で形成されたフィルム状のスキン層8が順次積層されている。
【0025】
詳しくは、前記心線3は、ベルト長手方向に沿って本体内に埋設されており、その一部が伸張層5に接するとともに、残部が圧縮ゴム層6に接している。前記伸張層5に含有される短繊維4はランダム方向に配向している。前記スキン層8は、繊維構造を有する布帛が部分的又は完全に融解して略均一な厚みで形成されている。
【0026】
図2は、本発明の摩擦伝動ベルト(Vリブドベルト)の他の例を示す概略斜視図である。
【0027】
この例では、Vリブドベルト1は、
図1に示すVリブドベルト1と積層構造が異なっており、ベルト本体の外周側から内周側に向かって、布帛で形成された伸張層5、心線3をベルト長手方向に沿って延びる複数の心線3を埋設した接着ゴム層2、リブ部7を有する圧縮ゴム層6、熱可塑性樹脂で形成されたフィルム状のスキン層8が順次積層されている。このVリブドベルト1では、伸張層5は、帆布などの布帛(補強布)で形成されており、外周側の表面(背面)に露出している。
【0028】
(スキン層)
スキン層は、熱可塑性樹脂で形成され、かつ圧縮ゴム層の表面を略均一な厚みで被覆することにより、ベルト表面の摩擦係数を低下し、走行時の異音や騒音の発生を抑制できる。
【0029】
熱可塑性樹脂は、圧縮ゴム層の加硫温度以下の融点(又は軟化点)を有するのが好ましく、例えば、前記加硫温度よりも0〜100℃、好ましくは3〜80℃、さらに好ましくは5〜70℃(特に10〜60℃)低い融点を有していてもよい。熱可塑性樹脂の融点が高すぎると、加硫工程で熱可塑性樹脂が融解せず、均一なスキン層の形成が困難となり、逆に低すぎると、スキン層の機械的特性が低下し、走行時の摩擦により破損し易くなる。圧縮ゴム層の加硫温度は150〜180℃程度である場合が多く、熱可塑性樹脂の融点は、例えば、165℃以下(例えば、80〜165℃)、好ましくは150℃以下(例えば、90〜150℃)、さらに好ましくは130℃以下(例えば、100〜130℃)程度であってもよい。
【0030】
さらに、本発明では、熱可塑性樹脂としては、圧縮ゴム層の加硫工程で融解して均一化されるとともに、適度な摩擦係数を確保できる点から、実質的に架橋されていない樹脂が使用される。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
これらの熱可塑性樹脂のうち、凹凸の少ない平滑な表面を形成し易く、摩擦係数を低減でき、かつ汎用性も高い点から、オレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0033】
(1)オレフィン系樹脂
オレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルペンテン、4−メチルペンテンなどのα−オレフィン(特に、エチレン、プロピレンなどのα−C
2−6オレフィン)を主要な重合成分とする重合体であってもよい。
【0034】
前記α−オレフィン以外の共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C
1−6アルキルエステルなど]、不飽和カルボン酸類(例えば、無水マレイン酸など)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ジエン類(ブタジエン、イソプレンなど)などが挙げられる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂[低、中又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−(4−メチルペンテン−1)共重合体など]、ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体など)などが挙げられる。オレフィン系樹脂の融点は、共重合性単量体を特定の割合で共重合させることにより制御してもよく、例えば、ポリプロピレン系樹脂にエチレンを共重合して融点を低下させてもよい。これらのオレフィン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0036】
これらのオレフィン系樹脂のうち、ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂が好ましく、加硫温度で容易に融解する点から、低密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂が特に好ましい。
【0037】
(2)熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。
【0038】
オレフィン系エラストマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンで形成されたハードセグメントと、オレフィン系ゴム、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、天然ゴムなどのゴム成分で形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが例示できる。
【0039】
スチレン系エラストマーとしては、ポリスチレンなどのスチレン系重合体で形成されたハードセグメントと、ポリブタジエン、ポリイソプロピレンなどのジエン系ゴム又はその水添物などのゴム成分で形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが例示できる。
【0040】
ポリエステル系エラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレートやポリブチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレートで形成されたハードセグメントと、脂肪族ポリエーテルや脂肪族ポリエステルなどで形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが例示できる。
【0041】
ポリアミド系エラストマーとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12などの脂肪族ポリアミドで形成されたハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族炭酸エステルなどで形成されたソフトセグメントとを有するエラストマーなどが例示できる。
【0042】
これらの熱可塑性エラストマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性エラストマーのうち、加硫温度で容易に融解する点から、ポリエチレンなどのポリオレフィンで形成されたハードセグメントと、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)などのオレフィン系ゴムで形成されたソフトセグメントとを有するオレフィン系エラストマーが好ましい。
【0043】
本発明では、成形時におけるエア溜まりによる凹凸の発生を抑制できる点から、スキン層は、熱可塑性樹脂繊維で形成された布帛の溶融物であるのが好ましい。
【0044】
布帛は、繊維構造を有していれば、特に限定されず、例えば、不織布、織布、編布などであってもよい。これらのうち、通気性が高く、エア溜まりの抑制効果が高い点から、不織布が好ましい。
【0045】
不織布の製造方法は、例えば、スパンボンド法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法などが挙げられる。これらの製造方法のうち、スパンボンド法が好ましい。スパンボンド法で得られたスパンボンド不織布は、構成繊維がフィラメントであるため、熱圧着して得られる不織布が引張強度、引裂強度が大きく、ベルト成形時の巻き付け工程において、寸法安定性が高く、作業性を向上できる。
【0046】
布帛(特に不織布)の目付は、10〜100g/m
2程度の範囲から選択でき、例えば、15〜80g/m
2、好ましくは18〜75g/m
2、さらに好ましくは20〜70g/m
2程度である。目付が小さすぎると、不織布の引張強度、引裂強度が小さくなり、また融解してもフィルムの厚みが不均一になり易い。一方、目付が大きすぎると、繊維量が多くなり、熱伝導率が低下して繊維の融解によるフィルム化が困難になる上に、通気性が低下し、エア溜まりが発生し易い。
【0047】
布帛(特に不織布)の平均厚みは、例えば、0.1〜1mm、好ましくは0.2〜0.6mm、さらに好ましくは0.3〜0.5mm程度である。
【0048】
本発明では、前記目付及び厚みを有する薄肉の布帛(不織布)を複数回(複数層)巻き付けて、スキン層の厚みが前記範囲になるように調整するのが好ましい。例えば、巻き付け回数は、例えば、2〜10回、好ましくは2〜6回、さらに好ましくは2〜4回程度であってもよい。
【0049】
布帛を構成する繊維の形状は、特に限定されず、横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、例えば、略円形状、楕円状、扁平状、多角形状などが挙げられる。これらの形状のうち、均一な厚みを有するフィルムを形成し易い点から、略円形状が好ましい。
【0050】
繊維は、単独の熱可塑性樹脂で形成された繊維に限定されず、複数種の熱可塑性樹脂を組み合わせた複合繊維であってもよい。複合繊維は、横断面構造の相違によって、例えば、芯鞘型、海島型、ブレンド型、並列型(多層貼合型)、放射型などに分類される。これらのうち、鞘部が低融点の熱可塑性樹脂で形成された芯鞘型複合繊維などであってもよいが、不織布が十分に融解して均一な厚みを有するスキン層を形成し易い点から、低融点の熱可塑性樹脂単独で形成された単相の繊維、又は低融点の熱可塑性樹脂同士の組み合わせで形成された複合繊維が特に好ましい。
【0051】
繊維の平均繊度は、例えば、5〜60dtex、好ましくは5〜40dtex、さらに好ましくは15〜30dtex程度である。繊度が小さすぎると、不織布の強度が低下し、取り扱い性が低下し、大きすぎると、均一なフィルムの形成が困難となる。
【0052】
本発明では、加硫前のスキン層が布帛で形成されていても、繊維を構成する熱可塑性樹脂が加硫温度で融解可能な融点を有しているため、成形工程では繊維構造によりエア溜まりを防止し、かつ成形後は熱可塑性樹脂の融解により繊維構造が部分的又は完全に消失し、略均一な厚みを有するフィルム状スキン層を形成できる。
【0053】
スキン層は、少なくともフィルム状部(非繊維部)を有しており、かつ略均一な厚みを有している。スキン層全体に対するフィルム状部の面積割合は、例えば、50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上(特に90%以上)であり、略全面がフィルム状(略100%)である層が特に好ましい。すなわち、スキン層は、繊維構造を有する布帛を融解して得られた層であっても、熱可塑性樹脂の融解により繊維形状が消失し、実質的に繊維構造を有していない層が特に好ましい。フィルム状部の割合が少ないと、ベルト表面の均一性が低下し、走行時に異音や騒音が発生し易くなる。
【0054】
なお、本発明では、スキン層全体に対するフィルム状部の面積割合は、フィルム表面を肉眼で観察し、フィルム状部(繊維状又は粒状表面を有さない平滑部)と、非フィルム状部(繊維状又は粒状表面を有する非平滑部)の面積比率を算出して求めることができ、フィルム内部に残存する繊維構造や粒状構造は考慮しない割合とする。
【0055】
スキン層の平均厚みは、例えば、0.01〜0.5mm、好ましくは0.03〜0.3mm、さらに好ましくは0.05〜0.15mm(特に0.06〜0.15mm)程度である。スキン層の厚みが薄すぎると、短時間で磨耗し、ベルト表面の摩擦係数が上昇する。スキン層の厚みが大きすぎると、スキン層の可撓性が低下し、圧縮ゴム層の表面からの剥離や、割れが発生し易くなる。
【0056】
(圧縮ゴム層)
圧縮ゴム層を形成するゴム組成物は、特に制限されないが、通常、ゴム成分と加硫剤又は架橋剤とを含むゴム組成物が使用される。本発明は、特に、硫黄や有機過酸化物を含むゴム組成物(特に有機過酸化物加硫型ゴム組成物)で未加硫ゴム層を形成し、未加硫ゴム層を加硫又は架橋するのに有用である。
【0057】
ゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0058】
これらのうち、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。さらに、エチレン−α−オレフィンエラストマーは、他のゴムに比べて水濡れ性が低いため、注水時の動力伝動性や静音性を著しく向上できる。
【0059】
エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)としては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムなどが挙げられる。
【0060】
α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α−C
3−12オレフィンなどが挙げられる。α−オレフィンは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。これらのα−オレフィンのうち、プロピレンなどのα−C
3−4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0061】
ジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0062】
代表的なエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム(エチレン−プロピレンゴム(EPR))、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDMなど))などが例示できる。好ましいエチレン−α−オレフィンエラストマーはEPDMである。
【0063】
エチレン−α−オレフィンゴムにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15(例えば、50/50〜82/18)、さらに好ましくは55/45〜80/20(例えば、55/45〜75/25)程度であってもよい。また、ジエンの割合は、4〜15質量%程度の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13質量%(例えば、4.3〜12質量%)、好ましくは4.4〜11.5質量%(例えば、4.5〜11質量%)程度であってもよい。なお、ジエン成分を含むエチレン−α−オレフィンゴムのヨウ素価は、例えば、3〜40(好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20)程度であってもよい。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の加硫が不十分になって磨耗や粘着が発生し易く、またヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
【0064】
有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期が150〜250℃(例えば、175〜225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0065】
加硫剤又は架橋剤(特に有機過酸化物)の割合は、ゴム成分(エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)100質量部に対して、固形分換算で、1〜10質量部、好ましくは1.2〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部(例えば、2〜5質量部)程度である。
【0066】
ゴム組成物は、さらに加硫促進剤を含んでいてもよい。加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤、チアゾ−ル系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、ビスマレイミド系促進剤、ウレア系促進剤などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜5質量部程度である。
【0067】
ゴム組成物は、架橋度を高め、粘着摩耗などを防止するために、さらに共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤)を含んでいてもよい。共架橋剤としては、慣用の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類(N−N’−m−フェニレンビスマレイミドなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。架橋助剤の割合(複数種を組み合わせる場合は合計量)は、固形分換算で、ゴム100質量部に対して、例えば、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜8質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部程度である。
【0068】
ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、増強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止材、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0069】
これらの添加剤の割合は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、ゴム成分100質量部に対して増強剤(カーボンブラック、シリカなど)の割合は10〜200質量部(特に20〜150質量部)程度であってもよく、金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は1〜15質量部(特に2〜10質量部)程度であってもよく、軟化剤(パラフィンオイルなどのオイル類)の割合は1〜30質量部(特に5〜25質量部)程度であってもよく、加工剤(ステアリン酸など)の割合は0.1〜5質量部(特に0.5〜3質量部)程度であってもよい。
【0070】
本発明では、圧縮ゴム層のゴム組成物(特にリブ部を形成するゴム組成物)は、短繊維などの繊維を実質的に含まないのが好ましい。一般的には、圧縮ゴム層のリブ部には短繊維を含有させることが多いが、本発明では、スキン層を形成することにより、圧縮ゴム層表面の摩擦係数を低下できる。そのため、短繊維の配合が不要であり、圧縮ゴム層のリブ部が短繊維を含まないため、ベルト寿命を向上できる。
【0071】
圧縮ゴム層の厚みは、例えば、2〜25mm、好ましくは3〜16mm、さらに好ましくは4〜12mm程度である。
【0072】
(接着ゴム層)
摩擦伝動ベルトが
図2に示すベルトのように心線を埋設させるための接着ゴム層を有する場合、接着ゴム層にも前記圧縮ゴム層と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのゴム成分を含むゴム組成物)が使用できる。接着ゴム層のゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、前記圧縮ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。接着ゴム層のゴム組成物は、さらに接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂など)を含んでいてもよい。
【0073】
接着ゴム層の厚みは、例えば、0.4〜3.0mm、好ましくは0.6〜2.2mm、さらに好ましくは0.8〜1.4mm程度である。
【0074】
(心線)
心線は、ベルト本体中において、ベルト長手方向に延びて埋設され、通常、複数本の心線が、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設されており、隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.8〜1.5mm、さらに好ましくは1〜1.3mm程度である。
【0075】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度である。
【0076】
心線を構成する繊維としては、例えば、天然繊維(綿、麻など)、再生繊維(レーヨン、アセテートなど)、合成繊維(ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、ポリスチレンなどのスチレン系繊維、ポリフルオロエチレンなどのフッ素系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、全芳香族ポリエステル繊維、アラミド繊維など)、無機繊維(炭素繊維、ガラス繊維など)などが挙げられる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC
2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維[ポリエチレンテレフタレート系繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート系繊維(PEN繊維)、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)]、アラミド繊維が好ましい。ポリエステル繊維は、熱による収縮があるため、ベルトの張力維持性に優れている。一方、アラミド繊維は、ポリエステル繊維よりも引張強度が高いため、高張力、高負荷の要求に対して、ポリエステル繊維では実現できない部分を補うことができる。
【0077】
繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば、2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度であってもよい。
【0078】
ゴムとの接着性を改善するため、心線には接着処理を施してもよい。接着処理では、一般的に、繊維をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形成することが行うことができる。なお、この接着処理に限らず、心線の繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。RFL液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物(プレポリマー)をラテックスに混合した組成物である。ラテックスとしては、例えば、クロロプレン、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、NBRなどが例示できる。
【0079】
(伸張層)
(1)伸張ゴム層
摩擦伝動ベルトが
図1に示すベルトのように伸張層が伸張ゴム層で形成されている場合、伸張ゴム層にも前記圧縮ゴム層と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのゴム成分を含むゴム組成物)が使用できる。伸張ゴム層のゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、前記圧縮ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
【0080】
伸張ゴム層では、背面駆動時に背面ゴムの粘着により発生する異音を抑制するために、さらに短繊維を含有していてもよい。短繊維としては、前記心線の項で例示した繊維と同様の繊維を使用できる。これらの短繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維のうち、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)などが汎用される。
【0081】
短繊維は、ゴム組成物中での分散性や接着性を向上させるため、慣用の接着処理(又は表面処理)、例えば、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液などで処理してもよい。
【0082】
短繊維の平均繊維長は、例えば、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、さらに好ましくは3〜10mm程度であってもよい。短繊維の平均繊維径は、例えば、5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜30μm程度である。短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは10〜35質量部程度である。
【0083】
伸張ゴム層中での短繊維の配向方向は、特に限定されず、ランダムな方向に配向してもよく、ベルト方向などの所定の方向に配向してもよい。これらのうち、多方向からの裂きや亀裂の発生を抑制できる点から、ランダムな方向に配向するのが好ましい。さらに、短繊維をランダムな方向に配向させ、かつ短繊維として屈曲部を有する短繊維(例えば、ミルドファイバー)を用いると、より多方向から作用する力に対して耐性を発現できる。さらに、
図1に示すように、接着ゴム層を形成しない場合、心線は伸張ゴム層と圧縮ゴム層との境界領域でベルト本体に埋設されるため、心線とベルト本体との接着性を考慮すると、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のいずれか一方(特に圧縮ゴム層)は、短繊維を含有しないゴム組成物で構成するのが好ましい。
【0084】
さらに、背面駆動時の異音を抑制するために、伸張ゴム層の表面(ベルトの背表面)に凹凸パターンを設けてもよい。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターンなどが挙げられる。これらのパターンのうち、織物パターンが好ましい。
【0085】
伸長ゴム層の厚みは、例えば、0.8〜10.0mm、好ましくは1.2〜6.5mm、さらに好ましくは1.6〜5.2mm程度である。
【0086】
(2)布帛(補強布)で形成された伸張層
摩擦伝動ベルトが
図2で示す摩擦伝動ベルトのように、伸張層が布帛(補強布)で形成されている場合、補強布としては、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布や、経糸と緯糸との交差角が90〜120°程度の広角度帆布や編布などが好ましい。
【0087】
補強布を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維を利用できる。補強布は、前記レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)で処理(浸漬処理など)した後、ゴム組成物を擦り込むフリクション・コーティング又は積層してゴム付帆布を形成してもよい。
【0088】
[摩擦伝動ベルトの製造方法]
本発明の摩擦伝動ベルトの製造方法は、円筒状ドラムに心線を巻き付ける心線スピニング工程、巻き付けた心線の上に、圧縮ゴム層を形成するための未加硫ゴムシートを巻き付ける圧縮ゴム層巻付工程、巻き付けた未加硫ゴムシートの上に、さらに熱可塑性樹脂繊維で形成された布帛を巻き付けるスキン層巻付工程、前記心線及び布帛を巻き付けた未加硫(未架橋)ゴムシートを金型に押し付けて(金型で押圧して)加硫(又は架橋)成形し、得られた圧縮ゴム層の表面に前記布帛を溶融してフィルム状部を有するスキン層を形成する加硫成形工程を含む方法であり、研磨することなく、金型で成形する方法であれば、特に限定されず、スキン層巻付工程以外の工程は慣用の方法を利用できる。
【0089】
具体的には、本発明の製造方法では、心線スピニング工程の前工程として、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケット(ブラダー)の上に、伸張層(短繊維を含むゴムシート又は補強布)を構成する部材、必要に応じて接着ゴム層を形成するゴムシートを巻き付ける工程を含んでいてもよく、巻き付けた部材の上さらに心線を螺旋状にスピニングしてもよい。
【0090】
前記圧縮ゴム層巻付工程では、通常、前記工程でスピニングした心線の上に圧縮ゴム層(リブゴム層)を形成するためのゴムシートを巻き付ける。
【0091】
さらに、本発明では、スキン層巻付工程において、リブゴム層を形成するためのゴムシートの表面にベルトの加硫温度で融解する融点を有する熱可塑性樹脂繊維で形成された布帛(例えば、不織布)を巻き付ける。スキン層巻付工程では、前述のように、布帛は複数層巻き付けるのが好ましい。
【0092】
また、布帛は、円筒状の成形ドラムの周方向に対して斜め方向に巻き付けるのが好ましい。具体的には、巻き付ける布帛のジョイント部(オーバーラップ部)と、円筒状の成形ドラムの周方向との角度が、例えば、10〜80°、好ましくは20〜70°、さらに好ましくは30〜60°(特に40〜50°)程度となるように、布帛を巻き付けるのが好ましい。布帛を斜め方向に巻き付けることにより、布帛の融解後に若干の段差が生じた場合であっても、走行時の異音の発生を抑制できる。
【0093】
加硫成形工程では、前記可撓性ジャケットを膨張させて、未加硫スリーブをリブ部に対応した溝状刻印を有する外型に押圧しながら、例えば、120〜200℃(特に150〜180℃)程度の温度で加硫成形する。このとき、リブ部の表面では、布帛が加硫温度で融解し、ソリッドで段差のない均一な厚みのフィルム状のスキン層が形成される。
【0094】
このようにしてリブ部を成形した加硫スリーブが得られ、その後加硫スリーブを所定幅に輪切りして切断することにより、個々のベルト(Vリブドベルトなど)に仕上げることができる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、各物性における測定方法又は評価方法、実施例に用いた原料を以下に示す。なお、特にことわりのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0096】
(1)リブ部表面の外観
作製したVリブドベルトをベルト幅方向に切断し、その断面をマイクロスコープによって撮影してスキン層の融解状態、平均厚みを観察した。
【0097】
(2)耐発音性
耐発音性はミスアライメント発音試験で評価した。評価に用いた試験機は、駆動プーリ(直径120mm)、従動プーリ(直径120mm)、テンションプーリ(直径70mm)を配置して構成され、駆動プーリと従動プーリの間で1.86°の角度でミスアライメントを設定した。そして各プーリ間にVリブドベルトを懸架し、室温条件下で、駆動プーリの回転数1000rpmで走行させた。このときベルト張力が6kgf/リブになるように駆動プーリに荷重を付与し、また従動プーリに負荷2.1Nm/リブを加えた。そして、このようにVリブドベルトを走行させたときの発音レベルを下記の5段階で評価した。「5」は、最も発音レベルが低い状態を示し、「3」以上は、発音が気にならないレベルである。なお、この耐発音性の試験は、乾燥時(DRY)と、60ml/分で水を注水した注水時(WET)との2種類の条件で行なった。
【0098】
5:全く発音が聞こえない
4:聴診器で発音が聞こえる
3:僅かに発音が聞こえる
2:発音が聞こえる
1:発音がはっきり聞こえる。
【0099】
(3)摩擦性
摩擦性の試験は、Vリブドベルトを所定長さに切断して、案内ローラ(直径60mm)に巻き付け角度が90°になるようにこのVリブドベルトを掛け、Vリブドベルトの一端を固定すると共に、他端に1.75kgf/リブのウェイトを垂下させ、案内ローラを43rpmで回転させることによって行ない、このときのロードセルの値を検出することによって、Vリブドベルトの前記の一端の張り側の張力T
1と、前記の他端の緩み側の張力T
2とを測定し、張力比(T
1/T
2)から摩擦係数(μ=(1/2π)ln(T
1/T
2))を求めた。なお、この摩擦性の試験も、乾燥時(DRY)と、60ml/分で水を注水した注水時(WET)との2種類の条件で行なった。
【0100】
(4)耐熱耐久性
耐熱耐久性の試験に用いた走行試験機は、駆動プーリ(直径120mm)、アイドラープーリ(直径85mm)、従動プーリ(直径120mm)、テンションプーリ(直径45mm)を配置して構成される。そして、テンションプーリへの巻き付け角度が90°、アイドラープーリへの巻き付け角度が120°になるように各プーリにVリブドベルトを懸架し、雰囲気温度120℃、駆動プーリの回転数4900rpmの条件でVリブドベルトを走行させた。このとき、ベルト張力40kgf/リブとなるように駆動プーリに荷重を付与し、従動プーリに負荷8.8kWを与えた。そして、このようにVリブドベルトを、400時間を打ち切りとして走行させ、心線に達する亀裂が6個発生するまでの時間を測定した。
【0101】
(5)原料
EPDMポリマー:デュポン・ダウエラスマージャパン(株)製「IP3640」、ムーニー粘度40(100℃)
カーボンHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
ナイロンミルドファイバー:ナイロン66、繊維長約0.5mm
有機過酸化物:化薬アクゾ(株)製「パーカドックス14RP」
エーテルエスエル系可塑剤:(株)アデカ製「RS−700」、SP値8.5、粘度30cps(20℃)
固体潤滑剤:人造黒鉛粉「ATNo.20」、平均粒径8μm
LDPE不織布:低密度ポリエチレン繊維、出光ユニテック(株)製「ストラテックLL」、融点約110℃
PP不織布:ポリプロピレン繊維、金星製紙(株)製「WJ55P100」、融点約165℃
TPO不織布:オレフィンエラストマー繊維、出光ユニテック(株)製「ストラフレックス」、融点約100℃
PP/LDPE不織布:芯部がポリプロピレンで形成され、鞘部が低密度ポリエチレンで形成された芯鞘複合繊維、融点約165℃
PET不織布:シンワ(株)製「ハイボン」、融点260℃
ナイロン不織布:ユニチカ(株)製「ナイエース」、融点250℃
心線:1,000デニールのPET繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で緒撚りしたトータルデニール6,000のコードを接着処理した繊維。
【0102】
実施例1〜4及び比較例1
(伸張ゴム層を形成するためのゴムシート)
表1に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、伸張層を形成するためのゴムシートを0.8mmの厚みで作製した。
【0103】
【表1】
【0104】
(圧縮ゴム層を形成するためのゴムシート)
表2に示すゴム組成物をバンバリーミキサーで混練し、カレンダーロールによって圧延することによって、圧縮ゴム層を形成するためのゴムシートを2.5mmの厚みで作製した。
【0105】
【表2】
【0106】
(ベルトの製造)
図3に示すように、エアー供給口23及び天板22aを備えた金型14のブラダー15の外周に、伸張ゴム層を形成するためのゴムシート16aを巻き付け、このゴムシート16aの外周面に心線4をスパイラル状に巻き付けた後、さらにこの心線4の上に圧縮ゴム層を形成するためのゴムシート16bを巻き付けた。さらに、このゴムシート16bの外周面に表3に示す不織布を用いて、ジョイント部をベルト周方向に対して約45°の角度で斜め方向になるように、所定回数巻き付け、金型14にベルトスリーブ17を装着した。
【0107】
【表3】
【0108】
さらに、
図4に示すように、ベルトスリーブ17を巻き付けた前記金型14を加硫型18内にセットし、加熱・冷却媒体導入口36,37を備えた加熱・冷却ジャケット35で加熱しながら、
図5に示すようにブラダー15を膨張させ、ベルトスリーブ17を加硫型18の内周面に押し付けて加圧することによって加硫した。加硫の条件は160℃、1MPa、20分間に設定した。このとき、加硫型18の成形用凹凸部41がベルトスリーブ17に外周から食い込む込むことによって、ベルトスリーブ17の外周に溝26が成形された。
【0109】
次に、加硫型18から金型14を抜き出し、加硫型18内に残る加硫ベルトスリーブを加熱・冷却ジャケット35で冷却した後、加硫ベルトスリーブを加硫型18から取り出した。そして、この加硫ベルトスリーブをカッターにより輪切りするように切断することによって、
図1に示す構造のVリブドベルトを得た。得られたVリブドベルトのリブ部表面では、不織布の低融点繊維が加硫温度で完全に融解してソリッドで段差のない均一な厚みのフィルム状のスキン層が形成されていた。実施例1で得られたVリブドベルトのリブ部断面のマイクロスコープ写真を
図6に示す。
図6から明らかなように、実施例1のVリブドベルトのリブ部表面には、均一な厚みのスキン層(3層のLDPE不織布から形成された均一で薄肉の層)が形成されていた。
【0110】
(ベルトの評価)
作製したVリブドベルトのリブ部表面の外観、耐発音性、摩擦性、耐熱耐久性の評価は表4に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
表4の結果から明らかなように、実施例のベルトは、耐発音性及び耐熱耐久性が良好であるのに対して、比較例のベルトは、不織布の状態が維持されているため、不織布のジョイント部に段差が発生し、段差による異音が発生した。