(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
機械本体と、前記機械本体の可動部に生じる摩擦を軽減するための潤滑油の劣化を検出するための潤滑油劣化センサーと、前記潤滑油劣化センサーに設置されておらず、前記潤滑油劣化センサーを清掃するための清掃部材とを備えた機械であって、
前記機械は、産業用ロボットであり、
前記機械本体は、前記産業用ロボットの第1アームと、前記産業用ロボットの第2アームと、前記第1アーム及び前記第2アームの関節部に使用される減速機とを備えており、
前記減速機は、前記第1アームに固定されるケースと、前記第2アームに固定され、軸受を介して前記ケースに対して回転可能に支持された支持体とを備え、
前記第1アームは、前記潤滑油劣化センサーが設置されるセンサー側部分であり、前記減速機の前記支持体は、前記センサー側部分に対して移動可能であって前記清掃部材が設置される清掃部材側部分であり、
前記潤滑油は、前記減速機の潤滑油であり、
前記潤滑油劣化センサーは、光を発する発光素子と、受けた光の色を検出するカラー受光素子と、前記潤滑油が侵入するための隙間である油用隙間が形成された隙間形成部材とを備えており、
前記隙間形成部材は、前記発光素子によって発せられる光を透過させ、
前記油用隙間は、前記発光素子から前記カラー受光素子までの光路上に配置されており、
前記清掃部材は、前記センサー側部分および前記清掃部材側部分が相対移動する場合に前記隙間形成部材のうち前記油用隙間を形成する面である隙間形成面に接触する位置に配置され、前記支持体の回転によって前記油用隙間に挿入されることを特徴とする機械。
前記潤滑油劣化センサーは、前記発光素子、前記カラー受光素子および前記隙間形成部材を支持する支持部材と、前記機械本体に固定されるための固定部材とを備えており、
前記固定部材は、前記支持部材が回転する場合に前記油用隙間の開口の方向が変化するように前記支持部材を回転可能に支持していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機械。
前記支持部材は、前記固定部材に対する回転の駆動力を接触力によって外部から受ける部分である回転駆動力受部を、前記固定部材が前記機械本体に固定された場合に前記潤滑油に触れない位置に備えていることを特徴とする請求項3に記載の機械。
前記潤滑油劣化センサーは、前記支持部材および前記固定部材の両方に接触することによって前記固定部材に対する前記支持部材の回転を防止する回転防止部材を備えており、
前記回転防止部材は、前記支持部材および前記固定部材の両方に接触するための駆動力を接触力によって外部から受ける部分である接触用駆動力受部を、前記固定部材が前記機械本体に固定された場合に前記潤滑油に触れない位置に備えていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の機械。
前記隙間形成部材は、前記光路を90度曲げる前記反射面がそれぞれ形成されている2つの直角プリズムを備えており、前記2つの直角プリズムの前記反射面によって前記光路を180度曲げ、
前記油用隙間は、前記2つの直角プリズムの間に形成されていることを特徴とする請求項8に記載の機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1、2に記載された技術は、機械から潤滑油を抜き取ってメンブランフィルタで濾過する必要があり、即時性に欠けるという問題がある。
【0007】
そこで、本願の発明者は、機械の潤滑油中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサーを開発した。この潤滑油劣化センサー(以下「新センサー」という。)は、機械に設置されて機械の潤滑油の劣化を検出するための潤滑油劣化センサーであって、光を発する発光素子と、受けた光の色を検出するカラー受光素子と、潤滑油が侵入するための隙間である油用隙間が形成された隙間形成部材とを備えており、隙間形成部材は、発光素子によって発せられる光を透過させ、油用隙間は、発光素子からカラー受光素子までの光路上に配置されているものである。
【0008】
しかしながら、新センサーが機械に設置されて使用され続けると、新センサーによる潤滑油中の汚染物質の種類および量の特定の正確性が低下すること、すなわち、新センサーの性能が低下することを本願の発明者は発見した。
【0009】
そして、本願の発明者は、新センサーの性能の低下の原因を調査した。その結果、本願の発明者は、潤滑油が劣化することによって発生するスラッジ(堆積物)が隙間形成部材に付着することが新センサーの性能の低下の原因であることを突き止めた。
【0010】
そこで、本発明は、潤滑油中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の機械は、機械本体と、前記機械本体の可動部に生じる摩擦を軽減するための潤滑油の劣化を検出するための潤滑油劣化センサーと、前記潤滑油劣化センサーを清掃するための清掃部材とを備えており、前記機械本体は、前記潤滑油劣化センサーが設置されるセンサー側部分と、前記センサー側部分に対して移動可能であって前記清掃部材が設置される清掃部材側部分とを備えており、前記潤滑油劣化センサーは、光を発する発光素子と、受けた光の色を検出するカラー受光素子と、前記潤滑油が侵入するための隙間である油用隙間が形成された隙間形成部材とを備えており、前記隙間形成部材は、前記発光素子によって発せられる光を透過させ、前記油用隙間は、前記発光素子から前記カラー受光素子までの光路上に配置されており、前記清掃部材は、前記センサー側部分および前記清掃部材側部分が相対移動する場合に前記隙間形成部材のうち前記油用隙間を形成する面である隙間形成面に接触する位置に配置されていることを特徴とする。
【0012】
この構成により、本発明の機械の潤滑油劣化センサーは、発光素子によって発せられた光のうち油用隙間において潤滑油中の鉄粉などの汚染物質によって吸収されなかった波長の光に対して、カラー受光素子によって色を検出するので、潤滑油中の汚染物質の色を即時に検出することができる。つまり、本発明の機械の潤滑油劣化センサーは、カラー受光素子によって検出した色に基づいて潤滑油中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる。
【0013】
また、本発明の機械は、センサー側部分および清掃部材側部分が相対移動する場合に、隙間形成部材の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを清掃部材が擦り取るので、潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。
【0014】
したがって、本発明の機械は、潤滑油中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。
【0015】
また、本発明の機械の前記清掃部材は、前記油用隙間に挿入される弾性を有する挿入部を複数備えており、前記油用隙間の間隔の方向における個々の前記挿入部の幅は、前記油用隙間の間隔より小さく、前記油用隙間の間隔の方向における複数の前記挿入部の全体の幅は、前記油用隙間の間隔より大きくても良い。
【0016】
この構成により、本発明の機械は、油用隙間の間隔の方向における幅が油用隙間の間隔より大きい1つの挿入部のみによって清掃部材が構成されている場合と比較して、油用隙間に清掃部材が挿入されるときに清掃部材によって潤滑油劣化センサーに加えられる圧力を少なくすることができるので、清掃部材から潤滑油劣化センサーに加わる圧力による潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。また、本発明の機械は、隙間形成部材の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを清掃部材の複数の挿入部によって効果的に擦り取ることができる。
【0017】
また、本発明の機械の前記潤滑油劣化センサーは、前記発光素子、前記カラー受光素子および前記隙間形成部材を支持する支持部材と、前記機械本体に固定されるための固定部材とを備えており、前記固定部材は、前記支持部材が回転する場合に前記油用隙間の開口の方向が変化するように前記支持部材を回転可能に支持していても良い。
【0018】
この構成により、本発明の機械は、固定部材が機械本体に固定された場合に清掃部材による汚れの清掃の効果が高くなるように、固定部材が機械本体に固定された場合の油用隙間の開口の方向が調整されることができる。
【0019】
また、本発明の機械の前記支持部材は、前記固定部材に対する回転の駆動力を接触力によって外部から受ける部分である回転駆動力受部を、前記固定部材が前記機械本体に固定された場合に前記潤滑油に触れない位置に備えていても良い。
【0020】
この構成により、本発明の機械は、固定部材が機械本体に固定された後で、清掃部材による汚れの清掃の効果が高くなるように、固定部材が機械本体に固定された場合の油用隙間の開口の方向が調整されることができる。
【0021】
また、本発明の機械の前記潤滑油劣化センサーは、前記支持部材および前記固定部材の両方に接触することによって前記固定部材に対する前記支持部材の回転を防止する回転防止部材を備えており、前記回転防止部材は、前記支持部材および前記固定部材の両方に接触するための駆動力を接触力によって外部から受ける部分である接触用駆動力受部を、前記固定部材が前記機械本体に固定された場合に前記潤滑油に触れない位置に備えていても良い。
【0022】
この構成により、本発明の機械は、固定部材が機械本体に固定された後で、清掃部材による汚れの清掃の効果が高くなるように、固定部材が機械本体に固定された場合の油用隙間の開口の方向が固定されることができる。
【0023】
また、本発明の機械の前記潤滑油は、モリブデンを添加剤として含んでいなくても良い。
【0024】
この構成により、本発明の機械は、モリブデンがスラッジとなって隙間形成部材に付着することを防ぐことができるので、潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。
【0025】
また、本発明の機械の前記発光素子は、白色の光を発する白色LEDであっても良い。
【0026】
この構成により、本発明の機械は、発光素子が例えばLED以外のランプである構成と比較して、潤滑油劣化センサーを小型化することができる。したがって、本発明の機械は、小型化することができる。
【0027】
また、本発明の機械の前記隙間形成部材は、前記光路を曲げる反射面が形成されていても良い。
【0028】
この構成により、本発明の機械は、発光素子からカラー受光素子までの光路が一直線である構成と比較して、発光素子およびカラー受光素子を近くに配置して潤滑油劣化センサーを小型化することができる。また、本発明の機械は、隙間形成部材が油用隙間を形成する役割だけでなく、光路を曲げる役割も備えているので、隙間形成部材の代わりに光路を曲げる部材を別途備える構成と比較して、潤滑油劣化センサーの部品点数を減らすことができる。したがって、本発明の機械は、小型化することができるとともに、部品点数を減らすことができる。
【0029】
また、本発明の機械の前記隙間形成部材は、前記光路を90度曲げる前記反射面がそれぞれ形成されている2つの直角プリズムを備えており、前記2つの直角プリズムの前記反射面によって前記光路を180度曲げ、前記油用隙間は、前記2つの直角プリズムの間に形成されていても良い。
【0030】
この構成により、本発明の機械は、部品点数の少ない簡単な構成で潤滑油劣化センサーを小型化することができる。したがって、本発明の機械は、部品点数の少ない簡単な構成で小型化することができる。
【0031】
また、本発明の機械の前記支持部材は、前記光路の少なくとも一部を囲む光路囲み部を備えており、前記光路囲み部は、光の反射を防止する処理が表面に施されていても良い。
【0032】
この構成により、本発明の機械は、不要な反射光をカラー受光素子が受けることを防止するので、不要な反射光をカラー受光素子が受ける構成と比較して、潤滑油劣化センサーによる潤滑油中の汚染物質の色の検出精度を向上することができる。したがって、本発明の機械は、故障の予知の精度を向上することができる。
【0033】
また、本発明の機械の前記隙間形成面は、撥油処理が施されていても良い。
【0034】
この構成により、本発明の機械は、潤滑油に油用隙間を容易に流通させるので、潤滑油が油用隙間に滞り易い構成と比較して、潤滑油劣化センサーによる潤滑油中の汚染物質の色の検出精度を向上することができる。また、本発明の機械は、油用隙間を形成する面に撥油処理が施されている場合、油用隙間を形成する面に汚れが付着し難いので、潤滑油劣化センサーによる潤滑油中の汚染物質の色の検出精度が汚れの付着によって低下することを抑えることができる。したがって、本発明の機械は、故障の予知の精度を向上することができる。
【0035】
また、本発明の機械は、産業用ロボット用減速機であり、前記機械本体は、減速機本体であっても良い。
【0036】
この構成により、本発明の産業用ロボット用減速機は、潤滑油中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。したがって、本発明の産業用ロボット用減速機は、即時の故障の予知の正確性を長期間維持することができる。
【0037】
また、本発明の機械は、産業用ロボットであり、前記機械本体は、アームと、前記アームの関節部に使用される減速機とを備えており、前記潤滑油は、前記減速機の潤滑油であっても良い。
【0038】
この構成により、本発明の産業用ロボットは、潤滑油中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。したがって、本発明の産業用ロボットは、即時の故障の予知の正確性を長期間維持することができる。
【0039】
また、本発明の機械の前記アームは、前記センサー側部分であり、前記減速機は、前記清掃部材側部分であり、前記清掃部材は、前記減速機が回転する場合に前記隙間形成面に接触する位置に配置されていても良い。
【0040】
この構成により、本発明の産業用ロボットは、減速機によってアームが駆動される度に、清掃部材が潤滑油劣化センサーの隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを擦り取ることができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の機械は、潤滑油中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0044】
まず、本実施の形態に係る機械としての産業用ロボットの構成について説明する。
【0045】
図1は、本実施の形態に係る産業用ロボット100の側面図である。
【0046】
図1に示すように、産業用ロボット100は、床、天井などの設置部分900に取り付けられる取付部111と、アーム112〜116と、取付部111およびアーム112を接続する関節部120と、アーム112およびアーム113を接続する関節部130と、アーム113およびアーム114を接続する関節部140と、アーム114およびアーム115を接続する関節部150と、アーム115およびアーム116を接続する関節部160と、アーム116および図示していないハンドを接続する関節部170とを備えている。
【0047】
なお、産業用ロボット100のうち、潤滑油131aと、後述の潤滑油劣化センサー137、139などの潤滑油劣化センサーと、後述の清掃部材とを除いた部分は、産業用ロボット100が本発明の機械である場合に本発明の機械本体を構成している。
【0048】
図2は、関節部130の断面図である。なお、以下においては、関節部130について説明するが、関節部120、140〜170についても同様である。
【0049】
図2に示すように、関節部130は、アーム112およびアーム113を接続する減速機131と、歯車138aが出力軸に形成されていて図示していないボルトによってアーム112に固定されたモーター138と、減速機131の可動部に生じる摩擦を軽減するための潤滑油131aの劣化を検出するための潤滑油劣化センサー139とを備えている。
【0050】
減速機131は、減速機本体132と、減速機本体132の潤滑油131aの劣化を検出するための潤滑油劣化センサー137とを備えている。減速機本体132は、減速機131が本発明の機械である場合に本発明の機械本体を構成している。
【0051】
減速機本体132は、ボルト133aによってアーム112に固定されたケース133と、ボルト134aによってアーム113に固定された支持体134と、減速機131の中心軸の周りに等間隔に3個配置されていてモーター138の歯車138aと噛み合う歯車135aと、減速機131の中心軸の周りに等間隔に3個配置されていて歯車135aに固定されたクランク軸135bと、ケース133に設けられた内歯歯車133bと噛み合う2個の外歯歯車136とを備えている。
【0052】
支持体134は、2個の軸受133cを介してケース133に回転可能に支持されている。支持体134は、潤滑油131aの漏れを防止するためのシール部材134bを備えている。ケース133と、支持体134との間には、潤滑油131aの漏れを防止するためのシール部材133dが設けられている。支持体134には、潤滑油劣化センサー139を清掃するための清掃部材180が固定されている。
【0053】
クランク軸135bは、2個の軸受134cを介して支持体134に回転可能に支持されているとともに、軸受136aを介して外歯歯車136に回転可能に支持されている。クランク軸135bには、潤滑油劣化センサー137を清掃するための清掃部材190が固定されている。
【0054】
潤滑油劣化センサー137は、支持体134に固定されている。潤滑油劣化センサー139は、アーム112に固定されている。
【0055】
図3は、潤滑油劣化センサー139の正面図である。
図4は、アーム112に取り付けられた状態での潤滑油劣化センサー139の正面断面図である。
図5(a)は、潤滑油劣化センサー139の平面図である。
図5(b)は、潤滑油劣化センサー139の底面図である。なお、以下においては、潤滑油劣化センサー139について説明するが、潤滑油劣化センサー137など、潤滑油劣化センサー139以外の潤滑油劣化センサーについても同様である。
【0056】
図3〜
図5に示すように、潤滑油劣化センサー139は、潤滑油劣化センサー139の各部品を支持するアルミニウム合金製の筐体20と、後述の白色LED72、RGBセンサー73および隙間形成部材60を支持する支持部材30と、支持部材30に保持された隙間形成部材60と、白色LED72およびRGBセンサー73を備えている電子部品群70とを備えている。
【0057】
支持部材30は、筐体20に六角穴付ボルト12によって固定されている。支持部材30は、アルミニウム合金製のホルダー40と、ホルダー40に六角穴付ボルト13によって固定されたアルミニウム合金製のホルダーキャップ50とを備えている。
【0058】
隙間形成部材60は、2つのガラス製の直角プリズム61、62によって構成されており、潤滑油131aが侵入するための隙間である油用隙間60aが2つの直角プリズム61、62の間に形成されている。
【0059】
電子部品群70は、支持部材30にネジ11によって固定された回路基板71と、回路基板71に実装された白色LED72と、回路基板71に実装されたRGBセンサー73と、回路基板71に対して白色LED72およびRGBセンサー73側とは反対側に配置された回路基板74と、回路基板71および回路基板74を固定する複数本の柱75と、回路基板74に対して回路基板71側とは反対側に配置された回路基板76と、回路基板74および回路基板76を固定する複数本の柱77と、回路基板74側とは反対側に回路基板76に実装されたコネクタ78とを備えている。回路基板71、回路基板74および回路基板76は、複数の電子部品が実装されている。また、回路基板71、回路基板74および回路基板76は、互いに電気的に接続されている。
【0060】
潤滑油劣化センサー139は、筐体20およびアーム112の間からの潤滑油131aの漏れを防止するOリング14と、筐体20およびホルダー40の間からの潤滑油131aの漏れを防止するOリング15と、筐体20およびホルダーキャップ50の間に配置されたOリング16とを備えている。
【0061】
図6(a)は、筐体20の正面図である。
図6(b)は、筐体20の正面断面図である。
図7(a)は、筐体20の側面図である。
図7(b)は、筐体20の側面断面図である。
図8(a)は、筐体20の平面図である。
図8(b)は、筐体20の底面図である。
【0062】
図3〜
図8に示すように、筐体20は、アーム112のネジ穴112aに固定されるためのネジ部21と、アーム112のネジ穴112aに対してネジ部21が回転させられるときにスパナなどの工具によって掴まれるための工具接触部22と、ホルダー40が収納されるホルダー収納部23とを備えている。また、筐体20は、六角穴付ボルト12がねじ込まれるためのネジ穴24と、Oリング14が嵌る溝25と、Oリング16が嵌る溝26とが形成されている。筐体20は、産業用ロボット100のアーム112、すなわち、機械本体に固定されるようになっており、本発明の固定部材を構成している。
【0063】
なお、アーム112のネジ穴112aは、潤滑油劣化センサー139が取り外されている状態のときに、減速機131への潤滑油131aの供給と、減速機131からの潤滑油131aの廃棄とに利用されても良い。
【0064】
図9(a)は、ホルダー40の正面図である。
図9(b)は、ホルダー40の正面断面図である。
図10(a)は、ホルダー40の側面図である。
図10(b)は、ホルダー40の側面断面図である。
図11(a)は、ホルダー40の平面図である。
図11(b)は、ホルダー40の底面図である。
図12は、白色LED72からRGBセンサー73までの光路10aを示す図である。
【0065】
図3〜
図5および
図9〜
図12に示すように、ホルダー40は、直角プリズム61が収納されるプリズム収納部41と、直角プリズム62が収納されるプリズム収納部42と、白色LED72が収納されるLED収納部43と、RGBセンサー73が収納されるRGBセンサー収納部44とを備えている。また、ホルダー40は、プリズム収納部41およびLED収納部43を連通する穴45と、プリズム収納部42およびRGBセンサー収納部44を連通する穴46と、ネジ11がねじ込まれるためのネジ穴47と、六角穴付ボルト13がねじ込まれるためのネジ穴48と、Oリング15が嵌る溝49とが形成されている。
【0066】
プリズム収納部41は、直角プリズム61を挟み込む2つの壁41aを備えており、壁41aにおいて接着剤によって直角プリズム61を固定している。プリズム収納部42は、直角プリズム62を挟み込む2つの壁42aを備えており、壁42aにおいて接着剤によって直角プリズム62を固定している。
【0067】
ホルダー40は、LED収納部43、穴45、プリズム収納部41、プリズム収納部42、穴46およびRGBセンサー収納部44によって、白色LED72からRGBセンサー73までの光路10aの少なくとも一部を囲んでおり、本発明の光路囲み部を構成している。
【0068】
ホルダー40は、例えば艶消しの黒アルマイト処理のように、光の反射を防止する処理が表面に施されている。
【0069】
なお、ホルダー40は、回路基板71を介して白色LED72およびRGBセンサー73を支持している。また、ホルダー40は、隙間形成部材60を直接支持している。
【0070】
図12に示すように、隙間形成部材60の油用隙間60aは、白色LED72からRGBセンサー73までの光路10a上に配置されている。
【0071】
直角プリズム61、62は、白色LED72によって発せられる光を透過させる。直角プリズム61は、白色LED72によって発せられる光が入射する入射面61aと、入射面61aから入射した光を反射して光の進行方向を90度曲げる反射面61bと、反射面61bで反射した光が出射する出射面61cとが形成されている。直角プリズム62は、直角プリズム61の出射面61cから出射した光が入射する入射面62aと、入射面62aから入射した光を反射して光の進行方向を90度曲げる反射面62bと、反射面62bで反射した光が出射する出射面62cとが形成されている。
【0072】
直角プリズム61の出射面61cと、直角プリズム62の入射面62aとは、油用隙間60aを形成する面である隙間形成面を構成している。
【0073】
直角プリズム61の入射面61a、反射面61bおよび出射面61cと、直角プリズム62の入射面62a、反射面62bおよび出射面62cとは、光学研磨されている。また、直角プリズム61の反射面61bと、直角プリズム62の反射面62bとは、アルミ蒸着膜が施されている。そして、硬度や密着力が弱いアルミ蒸着膜を保護するために、SiO2膜がアルミ蒸着膜上に更に施されている。
【0074】
光路10aは、直角プリズム61の反射面61bで90度曲げられていて、直角プリズム62の反射面62bでも90度曲げられている。すなわち、光路10aは、隙間形成部材60によって180度曲げられている。
【0075】
直角プリズム61の出射面61cと、直角プリズム62の入射面62aとの距離、すなわち、油用隙間60aの間隔は、例えば1mmである。油用隙間60aの間隔が短過ぎる場合、潤滑油131a中の汚染物質が油用隙間60aを適切に流通し難いので、潤滑油131a中の汚染物質の色の検出精度が落ちる。一方、油用隙間60aの間隔が長過ぎる場合、白色LED72から発せられた光が油用隙間60a内の潤滑油131a中の汚染物質によって吸収され過ぎてRGBセンサー73まで届き難いので、やはり潤滑油131a中の汚染物質の色の検出精度が落ちる。したがって、油用隙間60aの間隔は、潤滑油131a中の汚染物質の色の検出精度が高くなるように、適切に設定されることが好ましい。
【0076】
白色LED72は、白色の光を発する電子部品であり、本発明の発光素子を構成している。白色LED72として、例えば、日亜化学工業株式会社製のNSPW500GS-K1が使用されても良い。
【0077】
RGBセンサー73は、受けた光の色を検出する電子部品であり、本発明のカラー受光素子を構成している。RGBセンサー73として、例えば、浜松ホトニクス株式会社製のS9032-02が使用されても良い。
【0078】
図4に示すように、コネクタ78は、潤滑油劣化センサー139の外部の装置のコネクタ95が接続されて、外部の装置からコネクタ95を介して電力が供給されるとともに、潤滑油劣化センサー139の検出結果を電気信号としてコネクタ95を介して外部の装置に出力するようになっている。
【0079】
図13(a)は、ホルダーキャップ50の正面図である。
図13(b)は、ホルダーキャップ50の正面断面図である。
図14(a)は、ホルダーキャップ50の平面図である。
図14(b)は、ホルダーキャップ50の底面図である。
【0080】
図3〜
図5、
図13および
図14に示すように、ホルダーキャップ50は、筐体20に対して支持部材30が回転させられるときに六角レンチなどの工具と接触するための工具接触部51を備えている。工具接触部51は、筐体20に対する支持部材30の回転の駆動力を接触力によって外部から受ける部分であり、本発明の回転駆動力受部を構成している。工具接触部51は、筐体20がアーム112に固定された場合に潤滑油131aに触れない位置に配置されている。また、ホルダーキャップ50は、コネクタ78が挿入される穴52と、六角穴付ボルト13が挿入されるための穴53とが形成されている。
【0081】
ホルダーキャップ50は、例えば艶消しの黒アルマイト処理のように、光の反射を防止する処理が表面に施されている。
【0082】
図3および
図4に示すように、六角穴付ボルト12は、支持部材30および筐体20の両方に接触することによって筐体20に対する支持部材30の回転を防止するようになっており、本発明の回転防止部材を構成している。六角穴付ボルト12は、六角レンチなどの工具と接触するための工具接触部12aを備えている。工具接触部12aは、支持部材30および筐体20の両方に接触するための駆動力を接触力によって外部から受ける部分であり、本発明の接触用駆動力受部を構成している。工具接触部12aは、筐体20がアーム112に固定された場合に潤滑油131aに触れない位置に配置されている。
【0083】
図15は、支持体134のうち清掃部材180が固定されている部品の平面図である。
【0084】
図2および
図15に示すように、清掃部材180は、潤滑油劣化センサー139が設置される本発明のセンサー側部分としてのアーム112と、清掃部材180が設置される本発明の清掃部材側部分としての支持体134とが相対移動する場合に直角プリズム61の出射面61cと、直角プリズム62の入射面62aとに接触する位置に配置されている。清掃部材180は、3個ずつの纏まりが減速機131の中心軸の周りに等間隔に3個配置されていることによって、減速機131の中心軸の周りに合計9個配置されている。
【0085】
図16(a)は、清掃部材180の一例の平面図である。
図16(b)は、
図16(a)とは異なる例の清掃部材180の平面図である。
【0086】
図16に示すように、清掃部材180の形状としては、様々な形状が採用されることができる。清掃部材180は、潤滑油劣化センサー139の油用隙間60aに挿入される弾性を有する挿入部181を複数備えている。
【0087】
図17(a)は、
図16(a)に示す清掃部材180の一部が油用隙間60aに挿入されている場合の清掃部材180の平面図である。
図17(b)は、
図16(b)に示す清掃部材180の一部が油用隙間60aに挿入されている場合の清掃部材180の平面図である。
【0088】
図17に示すように、潤滑油劣化センサー139の油用隙間60aの間隔の方向における個々の挿入部181の幅181aは、油用隙間60aの間隔より小さく、油用隙間60aの間隔の方向における複数の挿入部181の全体の幅181bは、油用隙間60aの間隔より大きい。
【0089】
図18は、挿入部181がブラシである場合の清掃部材180の斜視図である。
【0090】
挿入部181は、例えばゴム製のワイパーであっても良いし、
図18に示すようにブラシであっても良い。
【0091】
以上においては、清掃部材180について説明しているが、清掃部材190についても同様である。清掃部材190は、潤滑油劣化センサー137が設置される本発明のセンサー側部分としての支持体134と、清掃部材190が設置される本発明の清掃部材側部分としてのクランク軸135bとが相対移動する場合に潤滑油劣化センサー137の隙間形成面に接触する位置に配置されている。
【0092】
次に、潤滑油劣化センサー139の組立方法について説明する。なお、以下においては、潤滑油劣化センサー139について説明するが、潤滑油劣化センサー137など、潤滑油劣化センサー139以外の潤滑油劣化センサーについても同様である。
【0093】
まず、ホルダー40のプリズム収納部41のうち直角プリズム61の入射面61aと接触する面と、直角プリズム61の面のうちプリズム収納部41の2つの壁41aとそれぞれ接触する2つの面とに接着剤が塗られ、その接着剤によってプリズム収納部41に直角プリズム61が固定される。また、ホルダー40のプリズム収納部42のうち直角プリズム62の出射面62cと接触する面と、直角プリズム62の面のうちプリズム収納部42の2つの壁42aとそれぞれ接触する2つの面とに接着剤が塗られ、その接着剤によってプリズム収納部42に直角プリズム62が固定される。また、ホルダー40のLED収納部43に白色LED72が接着剤によって固定される。
【0094】
次いで、RGBセンサー73が実装された回路基板71がホルダー40にネジ11によって固定され、白色LED72が回路基板71にハンダによって固定される。更に、コネクタ78など、各種の電子部品が組み上げられて電子部品群70がホルダー40に支持される。
【0095】
次いで、ホルダーキャップ50がホルダー40に六角穴付ボルト13によって固定される。
【0096】
最後に、Oリング15が取り付けられたホルダー40が、Oリング14およびOリング16が取り付けられた筐体20のホルダー収納部23に六角穴付ボルト12によって固定される。
【0097】
次に、アーム112への潤滑油劣化センサー139の設置方法について説明する。なお、以下においては、潤滑油劣化センサー139について説明するが、潤滑油劣化センサー137など、潤滑油劣化センサー139以外の潤滑油劣化センサーについても同様である。
【0098】
まず、筐体20の工具接触部22が工具によって掴まれて、アーム112のネジ穴112aに筐体20のネジ部21がねじ込まれることによって、アーム112に潤滑油劣化センサー139が固定される。
【0099】
そして、潤滑油劣化センサー139の外部の装置のコネクタ95がコネクタ78に接続される。
【0100】
次に、産業用ロボット100の動作について説明する。
【0101】
まず、関節部130の動作について説明する。なお、以下においては、関節部130について説明するが、関節部120、140〜170についても同様である。
【0102】
関節部130のモーター138の出力軸が回転すると、モーター138の回転力は、減速機131によって減速されて、減速機131のケース133に固定されたアーム112に対して、減速機131の支持体134に固定されたアーム113を動かす。
【0103】
このとき、アーム112と、減速機131の支持体134との相対移動に伴って、アーム112に設置された潤滑油劣化センサー139の油用隙間60aに、支持体134に設置された清掃部材180が
図17に示すように挿入される。そして、潤滑油劣化センサー139の油用隙間60aに挿入された清掃部材180によって、潤滑油劣化センサー139の隙間形成面、すなわち、直角プリズム61の出射面61cと、直角プリズム62の入射面62aとに付着したスラッジなどの汚れが擦り取られる。
【0104】
同様に、減速機131の支持体134およびクランク軸135bの相対移動に伴って、支持体134に設置された潤滑油劣化センサー137の油用隙間に、クランク軸135bに設置された清掃部材190が挿入される。そして、潤滑油劣化センサー137の油用隙間に挿入された清掃部材190によって、潤滑油劣化センサー137の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れが擦り取られる。
【0105】
次に、潤滑油劣化センサー139の動作について説明する。なお、以下においては、潤滑油劣化センサー139について説明するが、潤滑油劣化センサー137など、潤滑油劣化センサー139以外の潤滑油劣化センサーについても同様である。
【0106】
潤滑油劣化センサー139は、コネクタ78を介して外部の装置から供給される電力によって白色LED72から白色の光を発する。
【0107】
そして、潤滑油劣化センサー139は、RGBセンサー73によって受けた光のRGBの各色の光量を電気信号としてコネクタ78を介して外部の装置に出力する。
【0108】
なお、潤滑油劣化センサー139は、RGBセンサー73以外のセンサーを別途搭載していても良い。例えば、潤滑油劣化センサー139は、潤滑油131aの温度を検出する温度センサーが電子部品群70に含まれている場合には、温度センサーによって検出された温度も電気信号としてコネクタ78を介して外部の装置に出力することができる。
【0109】
次に、潤滑油劣化センサー139の油用隙間60aの開口60b(
図5(b)参照。)の方向の調整方法について説明する。なお、以下においては、潤滑油劣化センサー139について説明するが、潤滑油劣化センサー137など、潤滑油劣化センサー139以外の潤滑油劣化センサーについても同様である。
【0110】
まず、筐体20に対して支持部材30が回転可能となるように、工具接触部12aに差し込まれた工具によって六角穴付ボルト12が緩められる。
【0111】
次いで、筐体20の工具接触部22が工具によって掴まれることによってアーム112に対する筐体20の回転が防止された状態で、工具接触部51に挿し込まれた工具によって筐体20に対して支持部材30が回転させられる。油用隙間60aの開口60bの方向は、筐体20に対する支持部材30の回転によって変化する。
【0112】
最後に、筐体20に対して支持部材30が回転不可能となるように、工具接触部12aに差し込まれた工具によって六角穴付ボルト12が締められる。
【0113】
以上に説明したように、潤滑油劣化センサー139などの各潤滑油劣化センサーは、白色LED72によって発せられた白色の光のうち油用隙間60aにおいて潤滑油131a中の汚染物質によって吸収されなかった波長の光に対して、RGBセンサー73によって色を検出するので、減速機131の潤滑油131a中の汚染物質の色を即時に検出することができる。つまり、各潤滑油劣化センサーは、RGBセンサー73によって検出した色に基づいて減速機131の潤滑油131a中の汚染物質の種類および量をコンピューターなどの外部の装置によって即時に特定可能にすることができる。なお、各潤滑油劣化センサーは、RGBセンサー73によって検出した色に基づいて潤滑油中の汚染物質の種類および量を特定する電子部品が電子部品群70に含まれていても良い。
【0114】
一般的に、産業用ロボットは、関節部に使用されている減速機の性能によってアームの軌跡の精度などが大きく左右される。したがって、産業用ロボット用の減速機は、性能が落ちた場合に適切に交換されることが大切である。しかしながら、産業用ロボット用の減速機が交換される場合、その減速機を備えている産業用ロボットや、その産業用ロボットが設置されている生産ラインが停止されなければならない。そこで、産業用ロボット用の減速機の交換時期を把握するために、産業用ロボット用の減速機の故障が適切に予知されることは非常に重要である。ここで、産業用ロボット100の各潤滑油劣化センサーは、上述したように、RGBセンサー73によって検出した色に基づいて減速機131の潤滑油131a中の汚染物質の種類および量をコンピューターなどの外部の装置によって即時に特定可能にすることができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、即時の故障の予知を可能にすることができる。
【0115】
潤滑油131aには、摩擦面の摩擦を低減するためのMoDTC、MoDTPなどの有機モリブデンなどの摩擦低減剤、摩擦面の焼き付きを抑える性能である極圧性を向上するためのSP系添加剤などの極圧添加剤、スラッジの発生や付着を抑えるためのCaスルフォネートなどの分散剤など、各種の添加剤が添加される場合がある。これらの添加剤は、潤滑油131aの劣化とともに、例えば、産業用ロボット100および減速機の金属表面に付着、結合したり、沈降したりして潤滑油131aから分離される。各潤滑油劣化センサーは、潤滑油131a中の鉄粉の量だけでなく、潤滑油131aに添加されている各種の添加剤の減少に伴う基油の劣化度やスラッジ等の汚染物質の増加を、検出した色に基づいて特定することができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、鉄粉濃度のみに基づいて減速機の故障を予知する技術と比較して、故障の予知の精度を向上することができる。
【0116】
なお、本願の発明者は、スラッジの発生の原因を突き止めるために、隙間形成部材に付着したスラッジを分析した。その結果、本願の発明者は、隙間形成部材に付着したスラッジにモリブデン(Mo)が含まれていることを突き止めた。
【0117】
そこで、本願の発明者は、添加剤として潤滑油131aに含まれているモリブデンが潤滑油劣化センサーの性能の低下の原因であるか否かを調査するために、モリブデンを添加剤として含んでいる潤滑油131aと、モリブデンを添加剤として含んでいない潤滑油131aとで、潤滑油劣化センサーの性能の低下の比較実験を行った。この実験は、関節部130の構成と同等な構成で作成された実験用の装置に、最大出力回転数が15rpmであり、最大負荷トルクが減速機131の定格トルクの2.5倍であり、負荷モーメントが減速機131の定格モーメントであるという条件において、ケース133に対して支持体134を正方向に45°回転させた後、逆方向に45°回転させるという往復回転運動を継続させるという実験である。ただし、この実験用の装置においては、隙間形成部材に付着したスラッジを擦り取ることがないように、本発明の清掃部材を備えていない構成が採用されている。モリブデンを添加剤として含んでいる潤滑油131aとしてこの実験において使用された潤滑油は、摩擦低減剤としての有機モリブデンと、極圧添加剤と、分散剤と、酸化防止剤とを添加剤としてそれぞれ0.1%〜10%含んでいる。モリブデンを添加剤として含んでいない潤滑油131aとしてこの実験において使用された潤滑油は、モリブデンを添加剤として含んでいる潤滑油131aとしてこの実験において使用された潤滑油と比較して、摩擦低減剤としての有機モリブデンを含んでいないことのみが異なる。この実験の結果は、
図19および
図20に示されている。
【0118】
図19(a)は、潤滑油131aがモリブデンを添加剤として含んでいる場合の色差ΔEの時間変化の実験結果を示す表である。
図19(b)は、
図19(a)に示す実験結果のグラフである。
図20(a)は、潤滑油131aがモリブデンを添加剤として含んでいない場合の色差ΔEの時間変化の実験結果を示す表である。
図20(b)は、
図20(a)に示す実験結果のグラフである。
【0119】
ここで、色差ΔEとは、RGBセンサー73によって検出された色の黒色に対する色差ΔEである。RGBセンサー73によって検出された色の黒色に対する色差ΔEは、RGBセンサー73によって検出された色のR、G、Bの各値を使用して、次の数1で示す式で計算することができる。
【数1】
【0120】
図19および
図20において、定格換算時間とは、実験用の装置が実際に駆動させられた場合の減速機131の出力回転数および負荷トルクに基づいて、実験用の装置が実際に駆動させられた時間を、出力回転数が15rpmであり、負荷トルクが減速機131の定格トルクである場合の時間に換算したものである。なお、減速機131の寿命時間は、出力回転数が15rpmであり、負荷トルクが減速機131の定格トルクであるという条件において減速機131が連続駆動された場合に6000時間であると定義されている。また、サンプリング測定とは、測定の度に実験用の装置から潤滑油131aを抜き取って、実験用の装置から抜き取った潤滑油131aの色の黒色に対する色差ΔEを、潤滑油劣化センサー139と同様の潤滑油劣化センサーによって測定することである。また、リアルタイム測定とは、実験用の装置内の潤滑油131aの色の黒色に対する色差ΔEを、実験用の装置に取り付けられている潤滑油劣化センサー139によって測定することである。
【0121】
サンプリング測定に使用される潤滑油劣化センサーの隙間形成部材の直角プリズムは、測定時のみ潤滑油131aに接触するので、潤滑油131aが劣化することによって発生するスラッジが付着しない。そのため、サンプリング測定の実験結果は、潤滑油131aの状態を非常に正確に表している。
【0122】
一方、リアルタイム測定に使用される潤滑油劣化センサー139の隙間形成部材60の直角プリズム61、62は、常に潤滑油131aに接触しているので、潤滑油131aが劣化することによって発生するスラッジが付着する。そのため、リアルタイム測定の実験結果は、直角プリズム61、62に付着したスラッジの影響を受けている。
【0123】
したがって、サンプリング測定の実験結果と、リアルタイム測定の実験結果との差は、直角プリズム61、62に付着したスラッジの影響の程度を表している。
【0124】
図19および
図20に示すように、潤滑油131aがモリブデンを添加剤として含んでいない場合は、潤滑油131aがモリブデンを添加剤として含んでいる場合と比較して、同等の試験時間であっても、サンプリング測定の実験結果と、リアルタイム測定の実験結果との差が少ない、すなわち、直角プリズム61、62に付着したスラッジの影響が少ないということが明らかである。したがって、本願の発明者は、添加剤として潤滑油に含まれているモリブデンが潤滑油劣化センサー139の性能の低下の原因の少なくとも1つであると結論付けた。
【0125】
以上に説明したように、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、潤滑油131aがモリブデンを添加剤として含んでいない場合、モリブデンがスラッジとなって隙間形成部材の直角プリズムに付着することを防ぐことができるので、隙間形成部材の直角プリズムへのスラッジの付着の発生を抑えることができ、潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、潤滑油131a中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサーの性能の低下を抑えることができる。
【0126】
また、産業用ロボット100は、減速機131が回転する場合に潤滑油劣化センサー139の隙間形成面、すなわち、直角プリズム61の出射面61cと、直角プリズム62の入射面62aとに接触する位置に清掃部材180が配置されているので、減速機131によってアーム112が駆動される度に、清掃部材180が潤滑油劣化センサー139の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを擦り取ることができる。産業用ロボット100は、センサー側部分としてのアーム112と、清掃部材側部分としての支持体134とが相対移動する場合に、潤滑油劣化センサー139の隙間形成部材60の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを清掃部材180が擦り取るので、潤滑油劣化センサー139の性能の低下を抑えることができる。したがって、産業用ロボット100は、潤滑油131a中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサー139の性能の低下を抑えることができる。
【0127】
同様に、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、減速機131が回転する場合に潤滑油劣化センサー137の隙間形成面に接触する位置に清掃部材190が配置されているので、減速機131が回転する度に、清掃部材190が潤滑油劣化センサー137の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを擦り取ることができる。産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、センサー側部分としての支持体134と、清掃部材側部分としてのクランク軸135bとが相対移動する場合に、潤滑油劣化センサー137の隙間形成部材の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを清掃部材190が擦り取るので、潤滑油劣化センサー137の性能の低下を抑えることができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、潤滑油131a中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサー137の性能の低下を抑えることができる。
【0128】
また、産業用ロボット100は、上述したように、潤滑油131a中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサー137、139の性能の低下を抑えることができるので、即時の故障の予知の正確性を長期間維持することができる。
【0129】
また、産業用ロボット用減速機、すなわち、産業用ロボット100の各減速機は、上述したように、潤滑油131a中の汚染物質の種類および量を即時に特定可能にすることができる潤滑油劣化センサー137の性能の低下を抑えることができるので、即時の故障の予知の正確性を長期間維持することができる。
【0130】
上述したように、潤滑油劣化センサー139の油用隙間60aの間隔の方向における清掃部材180の個々の挿入部181の幅181aは、油用隙間60aの間隔より小さく、油用隙間60aの間隔の方向における清掃部材180の複数の挿入部181の全体の幅181bは、油用隙間60aの間隔より大きい。したがって、産業用ロボット100は、油用隙間60aの間隔の方向における幅が油用隙間60aの間隔より大きい1つの挿入部のみによって清掃部材180が構成されている場合と比較して、油用隙間60aに清掃部材180が挿入されるときに清掃部材180によって潤滑油劣化センサー139に加えられる圧力を少なくすることができるので、清掃部材180から潤滑油劣化センサー139に加わる圧力による潤滑油劣化センサー139の性能の低下を抑えることができる。また、産業用ロボット100は、潤滑油劣化センサー139の隙間形成部材60の隙間形成面、すなわち、直角プリズム61の出射面61cと、直角プリズム62の入射面62aとに付着したスラッジなどの汚れを清掃部材180の複数の挿入部181によって効果的に擦り取ることができる。
【0131】
同様に、潤滑油劣化センサー137の油用隙間の間隔の方向における清掃部材190の個々の挿入部の幅は、潤滑油劣化センサー137の油用隙間の間隔より小さく、潤滑油劣化センサー137の油用隙間の間隔の方向における清掃部材190の複数の挿入部の全体の幅は、潤滑油劣化センサー137の油用隙間の間隔より大きい。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、潤滑油劣化センサー137の油用隙間の間隔の方向における幅が潤滑油劣化センサー137の油用隙間の間隔より大きい1つの挿入部のみによって清掃部材190が構成されている場合と比較して、潤滑油劣化センサー137の油用隙間に清掃部材190が挿入されるときに清掃部材190によって潤滑油劣化センサー137に加えられる圧力を少なくすることができるので、清掃部材190から潤滑油劣化センサー137に加わる圧力による潤滑油劣化センサー137の性能の低下を抑えることができる。また、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、潤滑油劣化センサー137の隙間形成部材の隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを清掃部材190の複数の挿入部によって効果的に擦り取ることができる。
【0132】
なお、潤滑油劣化センサー139は、隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを擦り取る清掃部材180を外部に備えているので、隙間形成面に付着したスラッジなどの汚れを擦り取る構造を潤滑油劣化センサー自身に備えている場合と比較して、小型化することができる。潤滑油劣化センサー139について説明したが、潤滑油劣化センサー137についても同様である。
【0133】
また、潤滑油劣化センサー139などの各潤滑油劣化センサーは、支持部材30が回転する場合に油用隙間60aの開口60bの方向が変化するように支持部材30を回転可能に筐体20が支持しているので、筐体20が産業用ロボット100に固定された場合に清掃部材180、190による汚れの清掃の効果が高くなるように、筐体20が産業用ロボット100に固定された場合の油用隙間60aの開口60bの方向が調整されることができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、精度の高い故障の予知を可能にすることができる。
【0134】
また、潤滑油劣化センサー139などの各潤滑油劣化センサーにおいて、支持部材30は、筐体20に対する回転の駆動力を接触力によって外部から受ける部分である工具接触部51を、筐体20が産業用ロボット100に固定された場合に潤滑油131aに触れない位置に備えている。したがって、各潤滑油劣化センサーは、筐体20が産業用ロボット100に固定された後で、清掃部材180、190による汚れの清掃の効果が高くなるように、筐体20が産業用ロボット100に固定された場合の油用隙間60aの開口60bの方向が調整されることができる。
【0135】
また、潤滑油劣化センサー139などの各潤滑油劣化センサーにおいて、支持部材30および筐体20の両方に接触することによって筐体20に対する支持部材30の回転を防止する六角穴付ボルト12は、支持部材30および筐体20の両方に接触するための駆動力を接触力によって外部から受ける部分である工具接触部12aを、筐体20が産業用ロボット100に固定された場合に潤滑油131aに触れない位置に備えている。したがって、各潤滑油劣化センサーは、筐体20が産業用ロボット100に固定された後で、清掃部材180、190による汚れの清掃の効果が高くなるように、筐体20が産業用ロボット100に固定された場合の油用隙間60aの開口60bの方向が固定されることができる。
【0136】
なお、潤滑油劣化センサー137は、
図2に示すように、清掃部材190の回転の軸の延在方向に清掃部材190に対して配置されている。同様に、潤滑油劣化センサー139は、
図2に示すように、清掃部材180の回転の軸の延在方向に清掃部材180に対して配置されている。しかしながら、潤滑油劣化センサーと、清掃部材との配置は、これら以外の配置であっても良い。例えば、潤滑油劣化センサー139は、
図21に示すように、清掃部材180の回転の軸の延在方向と直交する方向に清掃部材180に対して配置されていても良い。
【0137】
また、各潤滑油劣化センサーは、発光素子が白色の光を発する白色LEDであるので、発光素子が例えばLED以外のランプである構成と比較して、小型化することができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、小型化することができる。なお、本発明の発光素子は、白色LED以外のものであっても良い。例えば、発光素子は、LED以外のランプであっても良い。また、発光素子は、赤色のLED、あるいは、LED以外の赤色のランプと、緑色のLED、あるいは、LED以外の緑色のランプと、青色のLED、あるいは、LED以外の青色のランプとを備えており、それらのLED、あるいは、LED以外のランプから発せられる各色の光を合成して白色の光を発するものであっても良い。
【0138】
また、各潤滑油劣化センサーは、隙間形成部材60に光路10aを曲げる反射面61b、62bが形成されているので、白色LED72からRGBセンサー73までの光路10aが一直線である構成と比較して、白色LED72およびRGBセンサー73を近くに配置して全体を小型化することができる。また、各潤滑油劣化センサーは、隙間形成部材60が油用隙間60aを形成する役割だけでなく、光路10aを曲げる役割も備えているので、隙間形成部材60の代わりに光路10aを曲げる部材を別途備える構成と比較して、部品点数を減らすことができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、小型化することができるとともに、部品点数を減らすことができる。
【0139】
特に、各潤滑油劣化センサーは、光路10aを90度曲げる反射面61b、62bがそれぞれ形成されている2つの直角プリズム61、62によって隙間形成部材60が構成されており、2つの直角プリズム61、62の反射面61b、62bによって光路10aを180度曲げ、2つの直角プリズム61、62の間に油用隙間60aが形成されている構成であるので、部品点数の少ない簡単な構成で小型化することができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、部品点数の少ない簡単な構成で小型化することができる。
【0140】
また、各潤滑油劣化センサーは、光路10aの少なくとも一部を囲むホルダー40を備えており、光の反射を防止する処理がホルダー40の表面に施されている構成であるので、不要な反射光をRGBセンサー73が受けることを防止することができる。そのため、各潤滑油劣化センサーは、不要な反射光をRGBセンサー73が受ける構成と比較して、潤滑油131a中の汚染物質の色の検出精度を向上することができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、故障の予知の精度を向上することができる。
【0141】
また、各潤滑油劣化センサーは、隙間形成部材60のうち油用隙間60aを形成する面、すなわち、直角プリズム61の出射面61cおよび直角プリズム62の入射面62aに撥油処理が施されていても良い。各潤滑油劣化センサーは、直角プリズム61の出射面61cおよび直角プリズム62の入射面62aに撥油処理が施されている場合、潤滑油131aに油用隙間60aを容易に流通させるので、潤滑油131aが油用隙間60aに滞り易い構成と比較して、潤滑油131a中の汚染物質の色の検出精度を向上することができる。また、各潤滑油劣化センサーは、直角プリズム61の出射面61cおよび直角プリズム62の入射面62aに撥油処理が施されている場合、直角プリズム61の出射面61cおよび直角プリズム62の入射面62aに汚れが付着し難いので、潤滑油131a中の汚染物質の色の検出精度が汚れの付着によって低下することを抑えることができる。したがって、産業用ロボット100および産業用ロボット100の各減速機は、故障の予知の精度を向上することができる。
【0142】
減速機の故障の予知の精度は、本発明の潤滑油劣化センサーと、潤滑油の温度を測定する温度センサーやモーターの電流値等のモニタリング機構などとが併用されることによって、向上させられることができる。
【0143】
なお、隙間形成部材60の直角プリズム61、62は、本実施の形態においてガラス製であるが、例えばシリコン樹脂など、ガラス以外の材質で形成されていても良い。シリコン樹脂でプリズム61、62を形成することにより、油用隙間60aを形成する面に汚れが付着し難くすることができる。
【0144】
また、隙間形成部材60は、本実施の形態において2つの直角プリズム61、62によって構成されているが、3つ以上のプリズムによって構成されていても良い。
【0145】
なお、各潤滑油劣化センサーは、白色LED72およびRGBセンサー73の配置が本実施の形態において説明した配置以外の配置であっても良い。例えば、各潤滑油劣化センサーは、白色LED72からRGBセンサー73までの光路10aが一直線であっても良い。
【0146】
また、各潤滑油劣化センサーは、直角プリズム以外の構成によって、光路10aを曲げるようになっていても良い。
【0147】
また、各潤滑油劣化センサーは、電力の供給手段として、例えば、電池などのバッテリーを使用し、外部の装置への検出結果の出力手段として、例えば、ワイヤレス通信を使用しても良い。
【0148】
また、各潤滑油劣化センサーの設置位置は、本実施の形態において示した位置に限らず、産業用ロボット100の用途などに合わせて適宜設定されることが好ましい。
【0149】
なお、本発明の機械は、本実施の形態において産業用ロボット用減速機または産業用ロボットであるが、これら以外の機械であっても良い。