特許第5956215号(P5956215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦テナックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5956215-複合材料成形品の製造方法 図000004
  • 特許5956215-複合材料成形品の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956215
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】複合材料成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/52 20060101AFI20160714BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20160714BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20160714BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20160714BHJP
【FI】
   B29C43/52
   B29C43/18
   B29C43/36
   B29K105:08
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-76864(P2012-76864)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-203020(P2013-203020A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003090
【氏名又は名称】東邦テナックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 雄介
(72)【発明者】
【氏名】岡 航平
(72)【発明者】
【氏名】小栗 矛志
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−098514(JP,A)
【文献】 特開2010−201660(JP,A)
【文献】 特開2013−154625(JP,A)
【文献】 特開2013−154624(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/104129(WO,A1)
【文献】 特開2000−141392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形法により複合材料成形品を製造する方法であって、成形型が冷却機構を有する製品部型と、その背後に加熱機構を有する熱源盤からなり、上下の熱源盤にそれぞれ製品部型を据え付ける構造であり、製品部型内に冷却機構のみが付与され、加熱機構は熱源盤のみに存在し熱源盤の体積が製品部型の2倍以上であり、製品部型の冷却機構を作動させない状態で熱源体の加熱機構を作動させて成形し、その後冷却機構を作動させて固化させるとともに、熱源盤の温度が150℃〜400℃の範囲を保持し続けることを特徴とする複合材料成形品の製造方法。
【請求項2】
冷却機構が冷媒をパイプ内の流路を通過させる方式である請求項1記載の複合材料成形品の製造方法。
【請求項3】
冷却機構が水冷である請求項1または2記載の複合材料成形品の製造方法。
【請求項4】
複合材料成形品が、樹脂を繊維で補強した複合材料を成形したものである請求項1〜3のいずれか1項記載の複合材料成形品の製造方法。
【請求項5】
製品部型が凹形状のキャビティーと凸形状のコアを有する2種の形状からなる請求項1〜4のいずれか1項記載の複合材料成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維で強化したマトリックス樹脂である熱可塑樹脂系複合材料等の成形材料の成形法として、所望形状のキャビティとコアを有する金型を用いた成形方法が挙げられる。特に、熱可塑樹脂系複合材料の成形では、高温の金型で成形材料を溶融させ、金型を冷却して成形材料を固化させた後に、金型から成形品を取り出す手法が用いられている。このような成形方法において製造をハイサイクル化するためには、金型の加熱及び冷却を急速に繰り返し行うことが重要である。
【0003】
そこで例えば特許文献1では、金型を水冷冷却した後にエアーで水を抜き取り、すばやく昇温を行う方法が開示されている(請求項8など)。しかし昇温速度こそ若干向上するものの、冷却時には通常通りの大きな熱量交換が必要であり、成形サイクルにまだ長時間を有するという問題があった。
【0004】
また加熱時間を短くするための他の方法として、特許文献1では成形材料を他の設備で予備加熱しておき、加熱した成形材料を金型に投入し成形することで成形品を得るという方法が開示されている(請求項10など)。しかしこの方法では金型に投入した後の加熱時間こそ短縮されるものの、冷却段階での時間は短縮されるものではなく、成形サイクル短縮にはまだ不十分である。また、この方法では予熱工程に加えて材料を運搬する工程が必要となるために、初期の設備投資が大きくなるという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−245634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便な設備により成形サイクルが短縮する経済効率に優れた強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の複合材料成形品の製造方法は、プレス成形法により複合材料成形品を製造する方法であって、成形型が冷却機構を有する製品部型と、その背後に加熱機構を有する熱源盤からなり、上下の熱源盤にそれぞれ製品部型を据え付ける構造であり、製品部型内に冷却機構のみが付与され、加熱機構は熱源盤のみに存在し熱源盤の体積が製品部型の2倍以上であり、製品部型の冷却機構を作動させない状態で熱源体の加熱機構を作動させて成形し、その後冷却機構を作動させて固化させるとともに、熱源盤の温度が150℃〜400℃の範囲を保持し続けることを特徴とする。
【0008】
さらには、冷却機構が水冷であることが好ましい
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便な設備により成形サイクルが短縮する経済効率に優れた強化繊維と熱可塑性樹脂とからなる複合材料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】従来型の加熱及び冷却機構が一体の成形用金型の模式図である。
図2】本発明の加熱及び冷却機構を分離させた成形用金型の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合材料成形品の製造方法は、プレス成形法により複合材料成形品を製造する方法である。そして成形型が冷却機構を有する製品部型と、その背後に加熱機構を有する熱源盤からなり、製品部型の冷却機構を作動させない状態で熱源体の加熱機構を作動させて成形し、その後冷却機構を作動させて固化させることを必須とする方法である。
【0012】
ここで複合材料成形品とは、樹脂を繊維で補強した複合材料を成形したものであり、樹脂としては熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂の具体的な例としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリアセタール樹脂等が挙げられる。
【0013】
一方、複合材料成形品に用いられる補強用の繊維としては、樹脂と複合した際に強度を付与できればよいため、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの強化繊維が使用できる。これらは単独若しくは2種類以上を混在させて成形することも可能である。特に本発明においては、軽量化、強度、弾性率に効果が大きく、熱伝送率の高い炭素繊維が好ましい。また、繊維は短繊維状態でも良いが、長繊維であることが好ましく、織物であることが特に好ましい。
【0014】
本発明の複合材料成形品の製造方法は、上記のような複合材料を熱と圧力によりプレス成形するものであるが、このとき用いられる成形型には、冷却機構を有する製品部型と、その製品を成形する部分の背後に加熱機構を有する熱源盤が存在する。本発明においては、加熱及び冷却の機構を分離させた二つの金型を用いることを特徴としているのである。
【0015】
ここで製品部型とは、複合材料成形品の形状を決めるための金型であり、凹形状のキャビティーと、凸形状のコアを有する2種の形状からなり、キャビティー/コアを合わせたときの隙間に複合材料を配置し、熱と圧力をかけるプレス工程にて成形を行うものである。そして本発明の製品部型は、冷却機構を有していることが特徴である。さらには、キャビティとコアの存在する表面側に冷却機構を付与した製品部型であることが好ましい。ここで表面側とは、成形を行う型となる側であり、熱源盤が存在する裏側の反対側の面を意味する。本発明においてはこのような構造をとることにより、キャビティとコアの部分のみを速やかに冷却し、成形材料を迅速に固化させることが可能となる。
【0016】
冷却機構としては様々な方式が採用可能であるが、冷媒をパイプ内の流路を通過させる通常の方式が採用でき、コスト的には冷媒が水であることが好ましい。さらにこの冷媒の流路としては、成形を行う表面側から10mm〜20mmの範囲に配置されたものであることが好ましい。近すぎると製品が部分的に冷却され均一な製品を得にくくなる傾向に有り、逆に遠すぎると製品に対する冷却効果が低下する傾向にある。
【0017】
また、流路の体積としては製品部型の体積に対して20%以下の範囲であることが好ましい。さらには2%以下であることが好ましい。条件によっては0.002%程度でも効果を発揮できるが、0.02%以上であることが好ましい。流路が表面に近い場合は流路体積は小さくても良く、表面から遠い場合には流路体積が大きくなる傾向にある。
【0018】
また本発明で用いる成形型は、上記の製品部型と共に、その背後(裏面側)に熱源盤が存在するものである。そしてこの熱源盤は加熱機構を有していることを特徴とする。加熱機構としては様々な方式を採用しうるが、本発明では一般的に使用されている安価な棒ヒーターでも十分に効果が発揮される。
【0019】
このような本発明で用いられる成形型において熱源盤の体積は、製品部型の体積の2倍以上であることが好ましい。さらには熱源盤の体積:製品部型の体積が50:1〜2:1であることが好ましく、特には30:1〜5:1の比率であることが好ましい。
【0020】
本発明の複合材料成形品の製造方法は、上記のような製品部型と熱源盤から構成される2組の成形型を使用し、製品部型の冷却機構を作動させない状態で熱源体の加熱機構を作動させて成形し、その後冷却機構を作動させて固化させる複合材料成形品の製造方法である。本発明では、冷却機構を切った状態で複合材料を成形し、冷却機構を働かせた状態で固化させて複合材料成形品を製造するのである。
【0021】
製造時の熱源盤の温度は複合材料に使用しているマトリックス樹脂によっても変わってくるが、通常は成形可能な温度以上で、樹脂の熱分解温度未満で実施される。より具体的にはマトリックス樹脂が結晶性の熱可塑性樹脂の場合は融点(Tm)以上、樹脂の熱分解温度未満であり、非結晶性の熱可塑性樹脂の場合にはガラス転移温度(Tg)以上、樹脂の熱分解温度未満であることが通常の条件である。複合材料に使用されている樹脂のTm及びTg未満では金型への賦形が困難で有り、熱分解温度以上では樹脂が劣化して外観不良等の問題が一般的には生じる。そこで通常の金型温度としては、150℃〜400℃の範囲とすることが好ましい。特には樹脂のTmまたはTgより60〜80℃高い温度範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明に用いられる複合材料としては、先に述べた繊維と樹脂からなるものであるが、あらかじめ繊維と樹脂からなるシート形状としたものであることが好ましい。特にシートの厚さとしては0.1〜5mmの範囲にあることが好ましく、目付けとしては20〜2000g/mの範囲であることが好ましい。さらに薄いシートを2〜10枚重ねて一度に成形することにより、生産速度を高めることが可能であり、好ましい態様である。
プレス成形する際の、成形板への圧力条件は特に限定はないが、製品面に対して0.5〜20MPaの範囲であることが好ましい。
【0023】
そして本発明の複合材料成形品の製造方法では、上記のプレス成形を行う段階では製品部型の冷却機構を作動させない状態で熱源体の加熱機構を作動させて成形し、その後冷却機構を作動させて固化させることを特徴とする。さらにはこの工程の間、熱源体の温度が150℃〜400℃の範囲を保持し続けることが好ましく、特には一定温度を保持するものであることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法ではこのように複合材料の成形において、加熱及び冷却の機構を分離させた金型を用いることにより、加熱機構を付与した熱源盤より製品部型の温度を成形材料の溶融温度まで加熱し、製品部型のキャビティとコアに付与された冷却機構を用いることで、成形品に直に接するキャビティとコアのみの冷却が行われるため、熱源盤の温度をあまり低下させず一定範囲に保つことが可能となった。本発明の製造方法では、成形材料を固化させ、取り出した後、製品部型の冷却機構を止めるが、その際速やかに熱源盤より製品部型に熱が移動し、製品部型が急速に加熱されることになる。本発明の製造方法ではこれを繰り返すことで、きわめて早いサイクル(ハイサイクル)での生産が可能となり、生産効率よく製造することができるのである。本願の製造方法では従来困難と考えられてきた5分以内のハイサイクル生産も可能となったのである。
【0025】
このような本発明について、図を用いてさらに具体的に説明する。
図1は、従来技術である加熱及び冷却機構が一体となった成形用金型を模式的に示したものである。プレス機の上下面盤11及び12に成形型17及び18を据え付けられている。成形型17及び18内にそれぞれ設けたキャビティ14とコア13に加熱機構15及び冷却機構16の双方が付与されている。
【0026】
まずプレス機に複合材料の基材をセットし、成形型17及び18を加熱機構15により加熱した後、冷却機構16により冷却をする。この際、基材10の溶融温度まで加熱された成形型17及び18は、固化するために金型全体を冷却しなければならないため、冷却に時間がかかる。さらに新たなサイクルに入るためには金型全体を再度加熱しなければならないため、製造のハイサイクル化は極めて困難である。
【0027】
一方図2は、本発明で用いられる加熱・冷却機構を分離させた成形用金型を模式的に示したものである。製品部型27及び28内にそれぞれ設けたキャビティ24とコア25に冷却機構26のみが付与されている。加熱機構25は製品部型には存在せず、製品部型と分離した熱源盤29のみに存在する。上下の熱源盤29に製品部型27及び28を据え付ける構造とし、上下の熱源盤29はプレス機の上下面盤21及び22にそれぞれ据え付ける構成としている。
【0028】
まず予め熱源盤29は加熱機構25により基材20の溶融温度まで加熱をしている。そしてプレス機に複合材料の基材(シート)を複数枚セットし、加熱された熱源盤に接している製品部型によって基材は加熱プレスされる。その後、冷却機構26により製品部型を冷却する際にキャビティ24とコア23のみが冷却される。このとき製品部型の背後にある熱源盤29の温度は下げる必要性は無く、実際あまり著しくは下がらない。
【0029】
製品部型の冷却機構26を止め、複合材料成形品を離脱させた後は、速やかに熱源盤29より製品部型に熱移動がなされ、キャビティ24とコア23は急速に加熱される。そしてハイサイクル生産が可能になるのである。本発明では、この工程を繰り返すことにより、5分以内のハイサイクル生産も可能となった。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0031】
[実施例1]
炭素繊維からなる綾織織物(2/2Twill、東邦テナックス株式会社製「W3161」、目付け;200g/m、厚さ;0.25mm、使用炭素繊維;東邦テナックス株式会社製「HTS40−3K」)に、ポリエーテルイミド(溶融温度:247℃)を含浸させ、厚さ0.6mmの基材(熱可塑樹脂系複合材料成形板)を作製した。
【0032】
図2の金型を設置したプレス機を用い、熱源盤及び製品部型の温度を330℃まで上昇させておいた(1.金型加熱工程)。次に熱可塑性樹脂を含浸させた基材20を3枚重ねて製品部型内に配置し、その基材20が330℃に昇温されるまで保持した(2.材料加熱工程)。その後、14.7MPaの条件で加圧し、冷却を行い、樹脂を固化させた(3.金型冷却工程)。複合材料成形品を製品金型から取り出した後、再度温度を330℃まで上昇させ次のサイクルを開始した(4.再加熱工程)。
これらの工程フローは下記のとおりである。
1→(2→3→4)→(2→3→4)→(2→・・・ 以降繰り返し
【0033】
なお、使用した金型はそれぞれの体積が、熱源盤;23940cm、製品部型;2110cm、製品部型内の冷却水路;120cmのものであった。
定常運転に入ってからの2〜4のサイクルは4.5分と非常に短いハイサイクル加工が可能であった。表1に各工程の温度・圧力・所要時間を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
[比較例1]
図2の金型を設置したプレス機を用いる代わりに、従来の図1の金型を用いた外は、実施例1と同様にして複合材料成形品を作成し、サイクル生産を行った。
定常運転に入ってからの2〜4のサイクルも30.5分と、初回生産の50.5分よりは短いものの不十分な加工速度であった。表2に各工程の温度・圧力・所要時間を示す。
ちなみに3.金型冷却工程にて、実施例1と同じ1分の条件で試してみたところ、冷却が不足し成形板が固化されておらず、脱型することもできなかった。
【0036】
【表2】
【符号の説明】
【0037】
10,20:基材
11,21:上盤プレス
12,22:下盤プレス
13,23:コア
14,24:キャビティ
15,25:加熱機構
16,26:冷却機構
17:成形型(上)
18:成形型(下)
27:製品部型(上)
28:製品部型(下)
29:熱源盤(上下)
図1
図2