(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、空気中に含まれる特定成分を吸着処理する装置が様々な分野で用いられている。
【0003】
例えば、工業的設備には、空気中に含まれる二酸化炭素を除去した低二酸化炭素濃度の空気供給を必要とする設備がある。低二酸化炭素濃度の空気供給を必要とする設備としては、例えば、ニッケル系正極材が用いられたリチウムイオン電池の製造設備が挙げられる。ニッケル系の正極材は、他の正極材(コバルト系やマンガン系の正極材)と比べて二酸化炭素を吸収しやすく、製造環境中の二酸化炭素の影響により正極材表面に炭酸リチウム等の不純物が生成されて電池の品質に悪影響を及ぼすと言われている(例えば、特許文献1−2を参照)。よって、二酸化炭素を除去した低二酸化炭素濃度の空気を、正極材を扱う環境に供給することにより、電池品質を安定化させることが可能である。
【0004】
なお、空気中に含まれる二酸化炭素の除去技術は、空調システムの省エネルギー化の実現にも適用することが可能である。例えば、一般居室内では、人の呼気によって室内の空気中の二酸化炭素濃度が高くなり、人の健康に害を及ぼす虞がある。そこで、外気を居室に導入し、換気を行う必要があるが、換気量を増やすと空調負荷が増大し、エネルギーの損失が生じる。居室内の二酸化炭素を除去することで、外気導入量を減らすことが可能となり、空調システムの省エネルギーを図ることができる。
【0005】
空気中に含まれる二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置として、例えば、吸着材を担持したハニカムロータを使用して空気中の二酸化炭素を除去する装置が提案されている(例えば、特許文献3−7及び非特許文献1を参照)。ハニカムロータには、二酸化炭素吸着能を有する吸着材が担持されている。また、ハニカムロータは、
図10に示すように、ロータの空気通過域が吸着領域と脱着領域とに分割されており、ロータが回転すると、ロータに担持されている吸着材が二酸化炭素の吸着と脱着とを繰り返す。これにより、二酸化炭素が除去された空気を連続的に供給することができる。
【0006】
なお、吸着材を担持したハニカムロータは、空気中の水分を除去する除湿目的に用いることもできる(例えば、特許文献8を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
二酸化炭素等の特定成分について吸着能を有する吸着材の例としては、親水性の合成ゼオライトが挙げられる。合成ゼオライトは、空気中の水分を優先的に吸着する特性がある。また、水分を吸着した状態の合成ゼオライトは、二酸化炭素を吸着しづらい。そこで、二酸化炭素等の特定成分をより吸着しやすい、炭酸カリウムやイオン交換樹脂といった吸着材を担持したロータを用いることも提案されている(例えば、特許文献7を参照)。しかしながら、二酸化炭素等の特定成分をより吸着しやすい吸着材が担持されたロータといえども、空気中の水分の影響によって特定成分の吸着は阻害される(例えば、非特許文献1を参照)ので、高湿度の空気中の特定成分を高効率で除去することは難しい。
【0010】
このような問題を解決する方法の一つとして、例えば、2つのロータを用いて除湿と二酸化炭素除去とを行う方法が提案されている(例えば、特許文献4及び非特許文献1を参照)。この方法は、例えば、
図11に示すように、二酸化炭素除去用の吸着ロータの吸着領域の上流側に水分を吸着する水分除去用の吸着ロータを設け、除湿された空気を二酸化炭素除去用の吸着ロータに通気するものである。この方法であれば、二酸化炭素除去用の吸着ロータに流入する空気中の水分が、水分除去用の吸着ロータにより予め吸着除去されるため、水分吸着による二酸化炭素吸着の阻害を防止可能である。このため、1つのロータで除湿と二酸化炭素除去とを行う場合と比較して、二酸化炭素の吸着率の向上が可能である。しかしながら、2つのロータを使用すると、装置構成が複雑になる上、設備コストの増大を招く。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、装置構成を複雑にすることなく、空気中の特定成分の吸着率を向上可能な吸着処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では、吸着ロータの特定の領域を通過した空気を、吸着ロータの他の領域へ案内する空気経路を設けることにした。また、当該他の領域には、移動途中で水分を脱着した吸着材を入域させることにした。
【0013】
詳細には、空気中の特定成分を吸着する吸着処理装置であって、前記空気中の水分及び前記特定成分を吸着可能な吸着材を担持した吸着ロータと、前記吸着ロータの特定の領域を通過した空気を、前記特定の領域と異なる前記吸着ロータの他の領域であって、前記吸着ロータの回転により前記特定の領域内から退域し、移動途中で前記水分を脱着した吸着材が入域する他の領域へ案内する空気経路と、を備える。
【0014】
吸着ロータに空気を通過させることにより、当該空気から水分が除去される。水分が除去された空気を再び吸着ロータに通気させれば、空気中の水分に阻害されることなく、空気中の特定成分の吸着が行われる。そこで、上記吸着処理装置は、特定の区画を通過した空気について、他の区画を更に通過させることにより、空気中の特定成分の吸着を図っている。
【0015】
ここで、当該他の区画にある吸着材は、前記特定の領域内から退域し、当該他の区画へ移動する途中で、空気から除去した水分を脱着している。よって、当該他の区画へ入域する吸着材は、水分を吸着していない状態となっている。このため、当該他の区画を通過する空気中の特定成分が、当該他の区画へ入域した吸着材によって適正に吸着される。これにより、装置構成を複雑にすることなく、空気中の特定成分の吸着率の向上が図られる。
【0016】
なお、前記特定の領域は、前記水分を含む空気が通過する水分吸着領域であり、前記他の領域は、前記水分吸着領域の通過により前記水分が除去された空気が通過する特定成分吸着領域であってもよい。前記特定の領域に、水分を含む空気を通過させることにより、前記他の区画における特定成分の吸着を阻害することなく、処理対象の空気中に含まれる水分の吸着処理を図ることが可能である。
【0017】
また、前記吸着ロータは、自身の回転により、前記吸着材を、前記水分吸着領域、前記吸着材から前記水分を脱着する水分脱着領域、前記特定成分吸着領域、前記吸着材から前記特定成分を脱着する特定成分脱着領域の順に移動させるものであってもよい。吸着材が各領域をこのような順で移動することにより、水分吸着領域において空気中の水分が効率的に除去され、特定成分吸着領域における特定成分の吸着能力の維持を図ることが可能である。
【0018】
また、前記水分脱着領域は、前記特定成分吸着領域を通過した空気が通過するものであってもよい。水分吸着領域において吸着した水分を脱着する水分脱着領域に、水分吸着領域及び特定成分吸着領域の通過により水分と特定成分の両方が除去された空気を通過させることにより、水分は含みつつも特定成分のみが除去された空気を生成することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
装置構成を複雑にすることなく、空気中の特定成分の吸着率を向上することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る吸着処理装置の構成を
図1に示す。吸着処理装置1は、
図1に示すように、吸着ロータ2、ヒータ3,4、ファン7,8を備えており、空気中の特定成分を吸着する。また、吸着ロータ2に担持される吸着材の吸着性能は、空気の温度に左右されるため、吸着処理装置1は、空気を冷却するクーラ5,6を備える。吸着処理装置1が吸着する空気中の成分は、吸着ロータ2が担持する吸着材の種類に依存する。そこで、吸着ロータ2は、吸着処理装置1の設置目的に応じたものを適宜選定する。
【0022】
なお、以下においては、本実施形態に係る吸着処理装置1を、空気中に含まれる二酸化炭素を除去した低二酸化炭素濃度の空気供給を必要とする低二酸化炭素濃度室LCへ、当該低二酸化炭素濃度の空気供給を行う場合に適用することを前提に説明する。低二酸化炭素濃度の空気供給を必要とする設備としては、例えば、ニッケル系正極材が用いられたリチウムイオン電池の製造設備が挙げられる。しかし、本実施形態に係る吸着処理装置1は、このような低二酸化炭素濃度の空気供給を行う目的で適用する場合に限定されるもので
なく、例えば、空調システムの省エネルギー化を達成する目的で適用する場合や、高二酸化炭素濃度の空気供給を行う目的で適用する場合、二酸化炭素以外の特定成分を低濃度化或いは高濃度化した空気供給を行う目的で適用することも可能である。
【0023】
吸着ロータ2は、円筒状の部材の内部に合成ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ或いはイオン交換樹脂等の、水分及び二酸化炭素を吸着する能力を有する材料を主成分とする吸着材を担持しており、内部を軸方向に沿って気体が流れるように構成されている。吸着ロータ2の両端面には図示しないセクション分割カセットが配置されており、このカセットによって吸着ロータ2の空気通過域が少なくとも4つのセクションに区画される。各領域の分割角度は、通気風量比を勘案して適宜設定する。吸着ロータ2は、セクション分割カセットと相対的に回転可能なようになっており、このカセットにより、吸着ロータ2には水分吸着領域HK、水分脱着領域HS、二酸化炭素吸着領域CK、二酸化炭素脱着領域CSの少なくとも4領域が形成される。
【0024】
水分吸着領域HKでは、外部から電動式のファン7により吸引され、クーラ5により必要に応じて適当に温度調節された空気が通過する。ファン7から送気される空気に含まれる水分は、水分吸着領域HKを通過する過程で吸着材に吸着される。この結果、水分吸着領域HKを通過した空気は、水分が除去され、露点温度の低い空気となる。なお、水分吸着領域HKを通過する前の空気に含まれる水分は、クーラ5を通過する過程で一部が凝縮し、空気中から除去され得る。
【0025】
ところで、吸着ロータ2には、二酸化炭素の吸着に好適な吸着材が選定されている。よって、ファン7から送気される外気に含まれる二酸化炭素は、水分吸着領域HKを通過する過程で吸着材に吸着され得る。しかし、二酸化炭素の分極特性は水より相対的に劣るため、水分を含んだ空気が通気される水分吸着領域HKにおいては、二酸化炭素よりも水が優先的に吸着される。この結果、水分吸着領域HKを通過する空気中に含まれる二酸化炭素の多くは吸着材に吸着されないまま水分吸着領域HKを通過することになる。
【0026】
水分吸着領域HKを通過した空気は、クーラ6により必要に応じて適当に温度調節された後、二酸化炭素吸着領域CKへ通気される。二酸化炭素吸着領域CKでは、水分吸着領域HKから送られた空気中に含まれる二酸化炭素が吸着材に吸着される。この結果、二酸化炭素吸着領域CKを通過した空気は、二酸化炭素が除去され、二酸化炭素濃度の低い空気となる。二酸化炭素吸着領域CKを通過した低二酸化炭素濃度の空気は、低二酸化炭素濃度室LCへ供給される。
【0027】
二酸化炭素脱着領域CSでは、電動式のファン8により吸引され、ヒータ3によって加熱された高温の空気が通過する。なお、本実施形態に係る吸着処理装置1は、二酸化炭素脱着領域CSにおける二酸化炭素の脱着を効果的に実現するため、低二酸化炭素濃度室LC内からファン8で吸引した低二酸化炭素濃度の空気を二酸化炭素脱着領域CSに通気する。二酸化炭素脱着領域CSでは、ヒータ3によって加熱された高温空気により吸着材が加熱され、吸着材に吸着されている二酸化炭素が吸着材から脱着される。この結果、二酸化炭素脱着領域CSを通過した空気は、吸着材から脱着された二酸化炭素を含む空気となる。
【0028】
二酸化炭素脱着領域CSを通過した二酸化炭素を含む空気は、ヒータ4によって加熱された後、水分脱着領域HSへ通気される。水分脱着領域HSでは、ヒータ3によって加熱された高温空気により吸着材が加熱され、吸着材に吸着されている水が吸着材から脱着される。この結果、水分吸着領域HSを通過した空気は、吸着材から脱着された二酸化炭素と水とを含む空気となる。水分脱着領域HSを通過した空気は、外部へ排気される。
【0029】
空気の流路がこのように構成される吸着処理装置1の吸着ロータ2が
図1の矢印方向に回転すると、吸着ロータ2に担持されている吸着材が、水分吸着領域HKを通過する過程で水分吸着状態となり、水分脱着領域HSを通過する過程で水分脱着状態となり、二酸化炭素吸着領域CKを通過する過程で二酸化炭素吸着状態となり、二酸化炭素脱着領域CSを通過する過程で二酸化炭素脱着状態となるように状態遷移する。このため、水分吸着領域HKで水分を吸着した吸着材は、二酸化炭素吸着領域CKに入る前に、水分脱着領域HSで水分が脱着され、乾燥した状態になる。そして、二酸化炭素吸着領域CKに流入する空気中の水分は、水分吸着領域HKにより既に除去されている。よって、二酸化炭素吸着領域CKでは、流入する空気中に含まれる二酸化炭素の吸着が阻害されることなく、二酸化炭素が効果的に吸着されることになる。
【0030】
本実施形態に係る吸着処理装置1であれば、水分を含む空気であっても、空気中に含まれる二酸化炭素の連続的な吸着除去を一つの吸着ロータ2で効率的に実現可能である。本実施形態に係る吸着処理装置1の二酸化炭素吸着性能の検証結果を以下に示す。
【0031】
本検証は、
図1に示す本実施形態に係る吸着処理装置1と、
図2に示す従来例に係る吸着処理装置101との比較に基づき、本実施形態に係る吸着処理装置1の二酸化炭素吸着性能を検証するものである。
【0032】
従来例に係る吸着処理装置101は、吸着処理装置1の吸着ロータ2と同様の吸着ロータ102を備えている。但し、吸着処理装置101のセクション分割カセットは、吸着処理装置1のように吸着ロータ102を4領域に分割するものではなく、2領域に分割している。吸着処理装置101の吸着ロータ102は、空気中の水分及び二酸化炭素の両方を吸着する水分二酸化炭素吸着領域Kと、吸着した水分及び二酸化炭素を脱着する水分二酸化炭素脱着領域Sの2つに分割される。クーラ103を経た後に水分二酸化炭素吸着領域Kを通過した空気は、低二酸化炭素濃度室LCに供給された後、ヒータ104を経て水分二酸化炭素脱着領域Sへ送られ、吸着物の脱着に利用される。水分二酸化炭素脱着領域Sを通過した空気は、外部へ排気される。
【0033】
検証の際の主要な運転条件は以下の表1に示す通りである。すなわち、検証の際の運転条件は、吸着ロータの分割数に起因する通気面風速の相違点以外、全て同じである。
【表1】
【0034】
本実施形態に係る吸着処理装置1の二酸化炭素吸着領域CKに流入する空気の温湿度、及び比較例に係る吸着処理装置101の水二酸化炭素吸着領域Kに流入する空気の温湿度
の計算値を、下記の表2に示す。
【表2】
【0035】
表2から明らかなように、本実施形態に係る吸着処理装置1の二酸化炭素吸着領域CKには、比較例に係る吸着処理装置101の水二酸化炭素吸着領域Kに流入する空気よりも低湿度の空気が流入することが判る。
【0036】
図3は、吸着ロータ2と吸着ロータ102のそれぞれについて、吸着ロータ内の水分吸着量の分布(計算値)を示したグラフである。
図3の各グラフに示されるように、本実施形態に係る吸着処理装置1の二酸化炭素吸着領域CKでは、従来例に係る吸着処理装置101の水二酸化炭素吸着領域Kに比べ、吸着材の水分吸着量が少なくなることが判る。この結果より、本実施形態に係る吸着処理装置1であれば、比較例に係る吸着処理装置101に比べ、二酸化炭素の吸着を阻害する要素が低減され、二酸化炭素を効率的に除去可能であり、且つ能力の向上により吸着ロータを薄型化できることが判る。
【0037】
なお、本実施形態に係る吸着処理装置1は、吸着ロータ2に担持されている吸着材が4つの状態に順番に遷移するが、吸着材はこのような状態遷移に限定されるものではない。例えば、吸着ロータ2に隣接して設けられているセクション分割カセットの領域数を更に1又は2以上増やし、水分脱着領域HSと二酸化炭素吸着領域CKとの間や、二酸化炭素脱着領域CSと水分吸着領域HKとの間に吸着材を冷却するパージ領域が形成されるようにしてもよい。また、ヒータ3,4の温熱やクーラ5,6の冷熱は、ヒートポンプサイクルにより生成してもよい。
【0038】
<吸着処理装置1の適用例の第1変形例>
図4は、吸着処理装置1の適用例の第1変形例を示した図である。本実施形態に係る吸着処理装置1は、二酸化炭素を濃縮した空気を供給する二酸化炭素濃縮装置として用いることも可能である。二酸化炭素濃度の高い空気の用途としては、例えば、植物工場が挙げられる。二酸化炭素濃度が1,000〜2,000ppm程度の環境では、大気(二酸化炭素濃度が400ppm程度)中と比較して植物の生育が促進される。植物の栽培環境に高二酸化炭素濃度空気を供給することで、収穫量を増やすことができる。吸着処理装置1を二酸化炭素濃縮装置として用い、高二酸化炭素濃度室HCに高二酸化炭素濃度空気を供給する場合の空気の経路は次のようになる。
【0039】
すなわち、
図4に示す変形例においては、高二酸化炭素濃度室HCの排気が、水分吸着領域HKへ通気される。高二酸化炭素濃度室HCから排気される高二酸化炭素濃度で且つ高湿度の空気は、水分吸着領域HKを通過することにより除湿される。
【0040】
水分吸着領域HKを通過した空気は、ヒータ6を経て二酸化炭素吸着領域CKへ通気される。水分吸着領域HKを通過した空気は、吸着材による水分の優先的な吸着作用により高二酸化炭素濃度で且つ低湿度の空気となっている。そして、水分吸着領域HKから送られた空気は、二酸化炭素吸着領域CKを通過する過程で二酸化炭素が除去される。二酸化
炭素吸着領域CKを通過した空気は、外部へ排気される。
【0041】
また、二酸化炭素脱着領域CSには、ファン8から送られ、ヒータ3に加熱された空気が送られる。二酸化炭素脱着領域CSに送られた加熱空気は、二酸化炭素脱着領域CSを通過する過程で、二酸化炭素脱着領域CSの吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱着する。これにより、二酸化炭素脱着領域CSを通過した空気は、高二酸化炭素濃度の空気となる。
【0042】
二酸化炭素脱着領域CSを通過した高二酸化炭素濃度の空気は、ヒータ4で加熱された後、水分脱着領域HSへ送られる。水分脱着領域HSに送られた加熱空気は、水分脱着領域HSを通過する過程で、水分脱着領域HSの吸着材に吸着されている水分を脱着する。これにより、水分脱着領域HSを通過した高二酸化炭素濃度の空気は、高湿度の空気となる。水分脱着領域HSを通過した高二酸化炭素濃度で且つ高湿度の空気は、高二酸化炭素濃度室HCへ給気される。
【0043】
本第一変形例によれば、高二酸化炭素濃度で且つ高湿度の空気を、1つの吸着ロータ2で装置構成を複雑にすることなく供給可能である。
【0044】
<吸着処理装置1の適用例の第2変形例>
図5は、吸着処理装置1の適用例の第2変形例を示した図である。本実施形態に係る吸着処理装置1は、上述した第1変形例と同様、二酸化炭素濃縮装置として用いるものであるが、第1変形例と異なり、高二酸化炭素濃度で且つ低湿度の空気を供給するものである。吸着処理装置1をこのように適用する場合、高二酸化炭素濃度室HCに高二酸化炭素濃度空気を供給する場合の空気の経路は次のようになる。
【0045】
すなわち、
図5に示す変形例においては、高二酸化炭素濃度室HCからファン7によって吸引され、クーラ5を経た空気が、水分吸着領域HKへ通気される。高二酸化炭素濃度室HCから排気される高二酸化炭素濃度で且つ水分を含んだ空気は、水分吸着領域HKを通過することにより除湿される。
【0046】
水分吸着領域HKを通過した空気は、クーラ6を経て二酸化炭素吸着領域CKへ通気される。水分吸着領域HKを通過した空気は、吸着材による水分の優先的な吸着作用により高二酸化炭素濃度で且つ低湿度の空気となっている。そして、水分吸着領域HKから送られた空気は、二酸化炭素吸着領域CKを通過する過程で二酸化炭素が除去される。二酸化炭素吸着領域CKを通過した空気は、外部へ排気される。
【0047】
また、水分脱着領域HSには、ヒータ4に加熱された空気が送られる。水分脱着領域HSに送られた加熱空気は、水分脱着領域HSを通過する過程で、水分脱着領域HSの吸着材に吸着されている水分を脱着する。これにより、水分脱着領域HSを通過した空気は、高湿度の空気となる。水分脱着領域HSを通過した高湿度の空気は、外部へ排気される。
【0048】
また、二酸化炭素脱着領域CSには、ヒータ3に加熱された空気が送られる。二酸化炭素脱着領域CSに送られた加熱空気は、二酸化炭素脱着領域CSを通過する過程で、二酸化炭素脱着領域CSの吸着材に吸着されている二酸化炭素を脱着する。これにより、二酸化炭素脱着領域CSを通過した空気は、高二酸化炭素濃度の空気となる。二酸化炭素脱着領域CSを通過した高二酸化炭素濃度で且つ水分を含んだ空気は、高二酸化炭素濃度室HCへ給気される。
【0049】
本第二変形例によれば、高二酸化炭素濃度で且つ、第一変形例の場合よりも低湿度の空気を供給することが可能である。
【0050】
<吸着処理装置1の第1変形例>
図6は、実施形態に係る吸着処理装置1を変形した第1変形例に係る吸着処理装置1Aを適用した吸着処理システム10Aを示した図である。本第1変形例に係る吸着処理装置1Aは、実施形態に係る吸着処理装置1と構成要素は同様であるが、水分吸着領域HKを通過した空気が二酸化炭素吸着領域CKへ流入するという共通点を除き、空気の経路が異なっている。
【0051】
本吸着処理システム10Aは、高二酸化炭素濃度室HCに高二酸化炭素濃度の空気を供給し、低二酸化炭素濃度室LCに低二酸化炭素濃度の空気を供給する。高二酸化炭素濃度室HCの具体例としては、例えば、植物栽培の部屋等を挙げることができる。また、低二酸化炭素濃度室LCの具体例としては、例えば、リチウムイオン電池の製造設備を設けた部屋や、一般用の居室等を挙げることができる。
【0052】
本吸着処理システム10Aは、以下に示す3つの基本的な空気経路を有している。
【0053】
まず、本吸着処理システム10Aにおいて、第一の空気経路は、以下のような経路を辿る。すなわち、第一の空気経路は、ファン7からヒータ5を経由して水分吸着領域HKに流入した後、クーラ6を経由して二酸化炭素吸着領域CKに流入し、その後、低二酸化炭素濃度室LCへ流れる経路である。ファン7が吸引する空気は、外気であってもよいし、低二酸化炭素濃度室LCから排気される空気であってもよいし、或いはこれらの混合気であってもよい。このように構成される第一の空気経路においては、水分脱着領域HKにおいて水分が除去され、二酸化炭素吸着領域CKにおいて二酸化炭素が除去された、低二酸化炭素濃度で且つ低湿度の空気が低二酸化炭素濃度室LCへ送られる。
【0054】
また、本吸着処理システム10Aにおいて、第二の空気経路は、以下のような経路を辿る。すなわち、第二の空気経路は、ファン8からヒータ3を経由して二酸化炭素脱着領域CSに流入した後、高二酸化炭素濃度室HCへ流れる経路である。ファン8が吸引する空気は、外気であってもよいし、高二酸化炭素濃度室HCから排気される空気であってもよいし、或いはこれらの混合気であってもよい。このように構成される第一の空気経路においては、二酸化炭素脱着領域CSにおいて吸着材から脱着された二酸化炭素を含んだ、高二酸化炭素濃度の空気が高二酸化炭素濃度室HCへ送られる。
【0055】
また、本吸着処理システム10Aにおいて、第三の空気経路は、以下のような経路を辿る。すなわち、第三の空気経路は、ファン9からヒータ4を経由して水分脱着領域HSに流入した後、外部へ排気される経路である。このように構成される第三の空気経路においては、水分脱着領域HSにおいて吸着材から脱着された水分を含んだ、高湿度の空気が外部へ排気される。
【0056】
このように構成される吸着処理システム10Aにおいては、低二酸化炭素濃度室LCへ低二酸化炭素濃度の空気を供給するために吸着材が除去した二酸化炭素が、高二酸化炭素濃度室HCへ高二酸化炭素濃度の空気を供給するために利用される。また、吸着ロータ2の二酸化炭素吸着領域CKに流入する空気は、同じ吸着ロータ2の水分吸着領域HKにおいて湿分の除去された空気であるため、二酸化炭素吸着領域CKにおける吸着材の二酸化炭素吸着能力は十分に発揮される。このため、吸着ロータ2を複数設けることなく、二酸化炭素を十分に除去した低二酸化炭素濃度の空気を低二酸化炭素濃度室LCへ供給可能である共に、高二酸化炭素濃度の空気を高二酸化炭素濃度室HCへ供給することが可能となる。
【0057】
このように構成される吸着処理システム10Aは、外気や還気中の水分や二酸化炭素が
除去された空気が低二酸化炭素濃度室LCへ供給されるため、例えば、夏季の一般居室用の空調のように、除湿負荷がある場合に好適である。また、外気や還気中の二酸化炭素濃度が濃縮された空気が高二酸化炭素濃度室HCへ供給され、加湿が行われないので、高二酸化炭素濃度室HCに加湿の必要が無い場合に好適である。
【0058】
<吸着処理装置1の第2変形例>
図7は、実施形態に係る吸着処理装置1を変形した第2変形例に係る吸着処理装置1Bを適用した吸着処理システム10Bを示した図である。本第2変形例に係る吸着処理装置1Bは、第1変形例に係る吸着処理装置1Aと異なり、以下に示す2つの基本的な空気経路を有している。
【0059】
まず、本吸着処理システム10Bにおいて、第一の空気経路は、第1変形例に係る吸着処理装置1Aと同様、ファン7からヒータ5を経由して水分吸着領域HKに流入した後、クーラ6を経由して二酸化炭素吸着領域CKに流入し、その後、低二酸化炭素濃度室LCへ流れる経路である。このように構成される第一の空気経路においては、二酸化炭素吸着領域CKにおいて二酸化炭素が吸着されることにより、低二酸化炭素濃度となった空気が低二酸化炭素濃度室LCへ送られる。
【0060】
また、本吸着処理システム10Bにおいて、第二の空気経路は、以下のような経路を辿る。すなわち、第二の空気経路は、ファン8からヒータ3を経由して二酸化炭素脱着領域CSに流入した後、ヒータ4を経由して水分脱着領域HSに流入し、高二酸化炭素濃度室HCへ流れる経路である。ファン8が吸引する空気は、外気であってもよいし、高二酸化炭素濃度室HCから排気される空気であってもよいし、或いはこれらの混合気であってもよい。このように構成される第二の空気経路においては、二酸化炭素脱着領域CSにおいて吸着材から脱着された二酸化炭素を含んだ、高二酸化炭素濃度の空気が高二酸化炭素濃度室HCへ送られる。
【0061】
このように構成される吸着処理システム10Bにおいても、吸着処理システム10Aと同様、吸着ロータ2を複数設けることなく、二酸化炭素を十分に除去した低二酸化炭素濃度の空気を低二酸化炭素濃度室LCへ供給可能である共に、高二酸化炭素濃度の空気を高二酸化炭素濃度室HCへ供給することが可能となる。
【0062】
このように構成される吸着処理システム10Bは、外気や還気中の水分や二酸化炭素が除去された空気が低二酸化炭素濃度室LCへ供給されるため、例えば、夏季の一般居室用の空調のように、除湿負荷がある場合に好適である。また、外気や還気中の二酸化炭素濃度が濃縮され、且つ加湿された空気が高二酸化炭素濃度室HCへ供給されるので、高二酸化炭素濃度室HCに加湿が必要な場合に好適である。
【0063】
<吸着処理装置1の第3変形例>
図8は、実施形態に係る吸着処理装置1を変形した第3変形例に係る吸着処理装置1Cを適用した吸着処理システム10Cを示した図である。本第3変形例に係る吸着処理装置1Cは、第2変形例に係る吸着処理装置1Bと同様、2つの基本的な空気経路を有しているが、その経路が異なっている。
【0064】
まず、本吸着処理システム10Cにおいて、第一の空気経路は、ファン7からヒータ5を経由して水分吸着領域HKに流入した後、クーラ6を経由して二酸化炭素吸着領域CKに流入し、その後、ヒータ4を経由して水分脱着領域HSを通過し、低二酸化炭素濃度室LCへ流れる経路である。このように構成される第一の空気経路においては、水分吸着領域HKを通過することにより低湿度となった後、二酸化炭素吸着領域CKを通過することにより低二酸化炭素濃度となった空気が、水分脱着領域HSを通過することにより再び加
湿され、低二酸化炭素濃度室LCへ送られる。このため、空気中に含まれる二酸化炭素が吸着除去されることにより低二酸化炭素濃度となっているにも関わらず、湿度はある程度一定に保たれたままの状態の空気が低二酸化炭素濃度室LCへ供給されることになる。
【0065】
また、本吸着処理システム10Cにおいて、第二の空気経路は、以下のような経路を辿る。すなわち、第二の空気経路は、ファン8からヒータ3を経由して二酸化炭素脱着領域CSに流入した後、高二酸化炭素濃度室HCへ流れる経路である。このように構成される第二の空気経路においては、二酸化炭素脱着領域CSにおいて吸着材から脱着された二酸化炭素を含んだ、高二酸化炭素濃度の空気が高二酸化炭素濃度室HCへ送られる。
【0066】
このように構成される吸着処理システム10Cにおいても、吸着処理システム10A,10Bと同様、吸着ロータ2を複数設けることなく、高二酸化炭素濃度の空気を高二酸化炭素濃度室HCへ供給可能であると共に、二酸化炭素を十分に除去することで低二酸化炭素濃度としていながら、湿度をある程度一定に保った状態の空気を低二酸化炭素濃度室LCへ供給することが可能となる。
【0067】
このように構成される吸着処理システム10Cは、外気や還気中の二酸化炭素が除去され且つ除湿されない空気が低二酸化炭素濃度室LCへ供給されるため、例えば、冬季の一般居室用の空調のように、除湿を必要としない場合に好適である。また、外気や還気中の二酸化炭素濃度が濃縮され且つ加湿されない空気が高二酸化炭素濃度室HCへ供給されるため、高二酸化炭素濃度室HCが加湿を必要としない場合に好適である。
【0068】
なお、下記に示す表3は、各吸着処理システム10A〜Cに関して上述した特性を整理した表である。
【表3】
【0069】
<統合システム>
ところで、上記各吸着処理システム10A〜Cは、それぞれ独立して構成されるものに限定されるものではない。
図9は、上記各吸着処理システム10A〜Cの何れのシステム構成についても1つのシステムで実現可能な統合システム11の構成図である。統合システム11は、上述した各吸着処理システム10A〜Cが有している空気経路を全て備えており、更に、ダンパを多数有している。なお、
図9に示すダンパD1〜D5のうち、同一の符号を付したダンパについては同一の開閉状態になるものとする。下記に示す表4は、各吸着処理システム10A〜Cのシステム構成を実現する場合の各ダンパの開閉状態を示した表である。
【表4】
【0070】
まず、吸着処理システム10Aを実現する場合の空気経路について説明する。ダンパD1〜D5が上記表4の「システムA」に示す開閉状態の通りに設定された場合、吸着処理システム10Aにおける上記第一から第三までの各空気経路は、以下のような経路を辿る。
【0071】
すなわち、上記第一の空気経路は、ファン7からヒータ5を経由して水分吸着領域HKに流入した後、クーラ6を経由して二酸化炭素吸着領域CKに流入し、その後、ダンパD2を通過して低二酸化炭素濃度室LCへ流れる経路である。また、上記第二の空気経路は、ファン8からヒータ3を経由して二酸化炭素脱着領域CSに流入した後、ダンパD5を経由して高二酸化炭素濃度室HCへ流れる経路である。また、上記第三の空気経路は、ファン9からヒータ4を経由して水分脱着領域HSに流入した後、ダンパD1(2)を通過して外部へ排気される経路である。
【0072】
次に、吸着処理システム10Bを実現する場合の空気経路について説明する。ダンパD1〜D5が上記表4の「システムB」に示す開閉状態の通りに設定された場合、吸着処理システム10Bにおける上記第一及び第二の各空気経路は、以下のような経路を辿る。
【0073】
すなわち、上記第一の空気経路は、ファン7からヒータ5を経由して水分吸着領域HKに流入した後、クーラ6を経由して二酸化炭素吸着領域CKに流入し、その後、ダンパD2を通過して低二酸化炭素濃度室LCへ流れる経路である。また、上記第二の空気経路は、ファン8からヒータ3を経由して二酸化炭素脱着領域CSに流入した後、ダンパD4(1)を通過し、ファン9及びヒータ4を経由して水分脱着領域HSに流入し、その後、ダンパD4(2)を通過して高二酸化炭素濃度室HCへ流れる経路である。
【0074】
次に、吸着処理システム10Cを実現する場合の空気経路について説明する。ダンパD1〜D5が上記表4の「システムC」に示す開閉状態の通りに設定された場合、吸着処理システム10Cにおける上記第一及び第二の各空気経路は、以下のような経路を辿る。
【0075】
すなわち、上記第一の空気経路は、ファン7からヒータ5を経由して水分吸着領域HKに流入した後、クーラ6を経由して二酸化炭素吸着領域CKに流入し、その後、ダンパD3(1)、ファン9及びヒータ4を経由して水分脱着領域HSを通過した後、ダンパD3(2)を通過して低二酸化炭素濃度室LCへ流れる経路である。また、上記第二の空気経路は、ファン8からヒータ3を経由して二酸化炭素脱着領域CSに流入した後、ダンパD5を通過して高二酸化炭素濃度室HCへ流れる経路である。
【0076】
以上に述べたように、本統合システム11であれば、上記各吸着処理システム10A〜Cの何れのシステム構成についても実現可能である。よって、吸着ロータ2を複数設けることなく、二酸化炭素濃度や湿度を適宜調整した空気を高二酸化炭素濃度室HCや低二酸化炭素濃度室LCへ適宜供給可能である。
【0077】
なお、本統合システム11の各ダンパD1〜5は、季節変動や各種のプロセス値に基づいて手動操作により開閉を行うものであってもよいし、空気経路に設けたセンサ類の指示値に基づいて自動制御により開閉を行うものであってもよい。
【0078】
また、
図9の破線で示す線に空気経路を設け、高二酸化炭素濃度室HCや低二酸化炭素濃度室の排気の有効利用を図るようにしてもよい。また、本統合システム11は、高二酸化炭素濃度室HC及び低二酸化炭素濃度室LCのうち何れか一方が省略されており、何れか他方にのみ空気を供給するものであってもよい。