特許第5956223号(P5956223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5956223光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956223
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/21 20060101AFI20160714BHJP
   C03C 3/068 20060101ALI20160714BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20160714BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20160714BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20160714BHJP
   C03C 3/253 20060101ALI20160714BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   C03C3/21
   C03C3/068
   C03C3/066
   C03C3/064
   C03C3/062
   C03C3/253
   G02B1/00
【請求項の数】15
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-82738(P2012-82738)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-212935(P2013-212935A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】土淵 菜那
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−241103(JP,A)
【文献】 特開2011−219313(JP,A)
【文献】 特開2011−230991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
成分を15.0%以上40.0%以下、
Nb成分を22.0%以上60.0%以下、
WO成分を10.0%未満、
TiO成分を16.0%超30.0%以下
含有し、
成分の含有量が0.3%未満であり、
成分、BaO成分、LiO成分、NaO成分及びKO成分の含有量の和が9.0%未満であり、
質量比WO/Pが0.21以下であり、
17.38以下のアッベ数(ν)を有し、1.9605以上2.10以下の屈折率(n)を有し、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が460nm以下であり、ガラス転移点(Tg)と結晶化開始温度(Tx)との差ΔTが100℃以上である光学ガラス。
【請求項2】
成分、Nb成分及びWO成分の含有量の和が60.0%以上80.0%以下である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
質量%で、NaO成分を0%超含有する請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量比(P+Nb+WO)/(LiO+NaO+KO)が8.00以上15.00以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
TiO成分、Nb成分及びWO成分の含有量の和が40.0%以上80.0%以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
質量比TiO/(TiO+Nb+WO)が0.50以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
質量比(TiO+Nb+WO)/(P+NaO)が4.00以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
質量比WO/(P+NaO)が0.40以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
質量%で
MgO成分 0〜5.0%
CaO成分 0〜10.0%
SrO成分 0〜10.0%
である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の含有量の和が20.0%以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
質量%で
成分 0〜10.0%
La成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜10.0%
である請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
成分、La成分及びGd成分の含有量の和が15.0%以下である請求項1から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
質量%で
SiO成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
Bi成分 0〜15.0%
TeO成分 0〜15.0%
ZrO成分 0〜10.0%
ZnO成分 0〜10.0%
Al成分 0〜10.0%
Ta成分 0〜10.0%
Sb成分 0〜1.0%
である請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器をはじめ、各種光学機器に用いられるレンズ等の光学素子に対する高精度化、軽量、及び小型化の要求は、ますます強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、光学素子の軽量化及び小型化を図ることが可能な、1.70以上2.20以下の高い屈折率(n)を有しながらも、より低いアッベ数(ν)を有するガラスの需要が非常に高まっている。高い屈折率と低いアッベ数を有するガラスとしては、例えば屈折率(n)が1.81以上であり、23以下のアッベ数を有する光学ガラスとして、特許文献1〜5に代表されるようなガラスが知られている。また、屈折率(n)が1.92以上であり、概ね18前後のアッベ数を有する光学ガラスとして、特許文献6に代表されるようなガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−260745号公報
【特許文献2】特開2011−144063号公報
【特許文献3】特開2011−144064号公報
【特許文献4】特開2011−144065号公報
【特許文献5】特開2011−144066号公報
【特許文献6】特開2011−057509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうしたガラスを用いて光学素子を作製する場合には、ガラスを加熱軟化してプレス成形(リヒートプレス成形)して得られたガラス成形品を研削研磨する方法や、ゴブ又はガラスブロックを切断し研磨したプリフォーム材、若しくは公知の浮上成形等により成形されたプリフォーム材を加熱軟化して、高精度な成形面を持つ金型でプレス成形する方法(精密プレス成形)が用いられている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜5で開示されたガラスでは、アッベ数(ν)が十分に低いとはいえないため、よりアッベ数が低く結像特性等を高めることが可能な光学ガラスが求められていた。一方で、特許文献6で開示されたガラスでは、特許文献1〜5よりも低いアッベ数を有しているものの、可視光の短波長側の光に対する透過率が高いため、ガラスが黄色や橙色に着色している。そのため、特許文献6で開示されたガラスは、可視領域の光を透過させる用途には適さない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高い屈折率(n)を有する光学ガラスにおいて、より低いアッベ数(ν)を有しながらも、高い可視光透過率を有する光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、P成分及びNb成分を併用し、他の成分の含有量を調整することで、ガラスのアッベ数がより低くなりながらも、ガラスの可視光に対する透明性が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 質量%で、P成分を5.0%以上40.0%以下、Nb成分を10.0%以上60.0%以下含有し、20以下のアッベ数(ν)を有し、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である光学ガラス。
【0010】
(2) 質量%で、TiO成分の含有量が0%超30.0%以下である(1)記載の光学ガラス。
【0011】
(3) 質量比TiO/Nbが0.10以上2.00以下である(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【0012】
(4) 質量%で、WO成分の含有量が35.0%以下である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0013】
(5) 質量比WO/Pが0.60以下である(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(6) P成分、Nb成分及びWO成分の含有量の和が60.0%以上80.0%以下である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(7) 質量%で、
LiO成分 0〜5.0%
NaO成分 0〜15.0%
O成分 0〜15.0%
である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0016】
(8) 質量%で、NaO成分を0%超含有する(7)記載の光学ガラス。
【0017】
(9) LiO成分、NaO成分及びKO成分の含有量の和が20.0%以下である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(10) 質量比(P+Nb+WO)/(LiO+NaO+KO)が8.00以上15.00以下である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0019】
(11) TiO成分、Nb成分及びWO成分の含有量の和が30.0%以上80.0%以下である(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(12) 質量比TiO/(TiO+Nb+WO)が0.50以下である(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(13) 質量比(TiO+Nb+WO)/(P+NaO)が4.00以下である(1)から(12)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(14) 質量比WO/(P+NaO)が0.40以下である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(15) 質量%で、BaO成分の含有量が20.0%以下である(1)から(14)のいずれか記載の光学ガラス。
【0024】
(16) 質量%で、B成分の含有量が10.0%以下である(1)から(15)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(17) B成分、BaO成分、LiO成分、NaO成分及びKO成分の含有量の和が20.0%以下である(1)から(16)のいずれか記載の光学ガラス。
【0026】
(18) 質量%で
MgO成分 0〜5.0%
CaO成分 0〜10.0%
SrO成分 0〜10.0%
である(1)から(17)のいずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(19) MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の含有量の和が20.0%以下である(1)から(18)のいずれか記載の光学ガラス。
【0028】
(20) 質量%で
成分 0〜10.0%
La成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜10.0%
である(1)から(19)のいずれか記載の光学ガラス。
【0029】
(21) Y成分、La成分及びGd成分の含有量の和が15.0%以下である(1)から(20)のいずれか記載の光学ガラス。
【0030】
(22) 質量%で
SiO成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
Bi成分 0〜15.0%
TeO成分 0〜15.0%
ZrO成分 0〜10.0%
ZnO成分 0〜10.0%
Al成分 0〜10.0%
Ta成分 0〜10.0%
Sb成分 0〜1.0%
である(1)から(21)のいずれか記載の光学ガラス。
【0031】
(23) 1.70以上2.20以下の屈折率(n)を有する(1)から(22)のいずれか記載の光学ガラス。
【0032】
(24) ガラス転移点(Tg)と結晶化開始温度(Tx)との差ΔTが100℃以上である(1)から(23)のいずれか記載の光学ガラス。
【0033】
(25) (1)から(24)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0034】
(26) (1)から(24)のいずれか記載の光学ガラスからなるレンズプリフォーム。
【0035】
(27) (1)から(24)のいずれか記載の光学ガラスからなるモールドプレス成形用のレンズプリフォーム。
【0036】
(28) (26)又は(27)記載のレンズプリフォームを成形してなる光学素子。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、高い屈折率(n)を有する光学ガラスにおいて、より低いアッベ数(ν)を有しながらも、高い可視光透過率を有する光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の光学ガラスは、質量%で、P成分を5.0%以上40.0%以下、Nb成分を10.0%以上60.0%以下含有し、20以下のアッベ数(ν)を有し、且つ、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が500nm以下である。P成分及びNb成分を併用し、他の成分の含有量を調整することで、ガラスのアッベ数がより低くなりながらも、ガラスの熔解温度が低くなって着色が低減すること等により、ガラスの可視光透過率が高められる。このため、高い屈折率(n)を有する光学ガラスにおいて、より低いアッベ数(ν)を有しながらも、可視光透過率の高い光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【0039】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0040】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0041】
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス形成成分であり、ガラスのアッベ数を低くするのに有効な必須成分である。特に、P成分を5.0%以上含有することで、ガラスの可視光透過率を高め、且つ耐失透性を高めることができる。従って、P成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは20.0%、さらに好ましくは23.0%を下限とする。
一方で、P成分の含有量を40.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられる。従って、P成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは30.0%を上限とする。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることができる。
【0042】
Nb成分は、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低くする必須成分である。特に、Nb成分を10.0%以上含有することで、所望の高屈折率を得ながらも、アッベ数を低くすることができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは22.0%、さらに好ましくは30.0%、さらに好ましくは36.0%を下限とする。
一方で、Nb成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの熔融性が高められ、熔解温度が低くなることでガラスへの着色を低減できる。また、これによりガラスの耐失透性を高められる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、さらに好ましくは47.5%、さらに好ましくは45.0%を上限とする。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0043】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低くし、且つ化学的耐久性を高められる任意成分である。そのため、TiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは5.0%超、さらに好ましくは10.0%超、さらに好ましくは15.0%超、さらに好ましくは16.0%超、さらに好ましくは16.2%超、さらに好ましくは17.5%超、さらに好ましくは18.7%超としてもよい。
一方で、TiO成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの可視光透過率を高められ、且つ、ガラスの熱的安定性を高められる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは23.0%を上限とする。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0044】
Nb成分の含有量に対するTiO成分の含有量の比率(質量比)は、0.10以上2.00以下が好ましい。
特に、この比率を0.10以上にすることで、ガラスのアッベ数をより低くできる。従って、質量比TiO/Nbは、好ましくは0.10、より好ましくは0.18、さらに好ましくは0.25、さらに好ましくは0.33を下限とする。
一方で、この比率を2.00以下にすることで、ガラスの着色を低減することで可視光透過率を高められる。従って、質量比TiO/Nbは、好ましくは2.00、より好ましくは1.50、さらに好ましくは1.00、さらに好ましくは0.60を上限とする。
【0045】
WO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、ガラスのアッベ数を低くできる任意成分である。
特に、WO成分の含有量を35.0%以下にすることで、ガラス転移点を低くでき、且つ、ガラスの可視光透過率や熱的安定性を高められる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは35.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは10.0%未満とし、さらに好ましくは8.0%、さらに好ましくは7.0%、さらに好ましくは5.1%を上限とする。特に、Nb成分の含有量を低減しつつ、WO成分の含有量を低減することで、より可視光透過率の高いガラスを得ることができる。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0046】
成分の含有量に対するWO成分の含有量の比率(質量比)は、0.60以下が好ましい。これにより、ガラスの可視光透過率を高めて着色を低減でき、且つ、ガラスの熱的安定性を高められる。従って、質量比WO/Pは、好ましくは0.60、より好ましくは0.40、さらに好ましくは0.33、さらに好ましくは0.30、さらに好ましくは0.25、さらに好ましくは0.21を上限とする。
一方で、この比率は0であってもよいが、0より大きくすることで、所望の低いアッベ数を得易くできる。従って、質量比WO/Pは、好ましくは0超、より好ましくは0.05超、さらに好ましくは0.10超とする。
【0047】
成分、Nb成分及びWO成分の合計含有量(質量和)は、60.0%以上80.0%以下が好ましい。
特に、この合計量を60.0%以上にすることで、ガラスのアッベ数を低くできる。従って、質量和(P+Nb+WO)は、好ましくは60.0%、より好ましくは65.0%、さらに好ましくは66.5%を下限とする。
一方で、この合計量を80.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、質量和(P+Nb+WO)は、好ましくは80.0%、より好ましくは78.0%、さらに好ましくは76.0%を上限とする。
【0048】
LiO成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点を低くできる任意成分である。
一方で、LiO成分の含有量を5.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑え、且つLiO成分の含有による失透を低減できる。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.7%、さらに好ましくは0.4%を上限とし、さらに好ましくは0.3%未満とし、さらに好ましくは含有しない。LiO成分は、原料として例えばLiCO、LiNO、LiF等を用いてガラス内に含有できる。
【0049】
NaO成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点を低くでき、耐失透性を高められ、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。そのため、NaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは0.8%超としてもよい。
一方で、NaO成分の含有量を15.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑え、且つNaO成分の過剰な含有による失透を低減できる。また、これによりガラスの熱的安定性を高められる。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.8%、さらに好ましくは4.4%、さらに好ましくは3.6%を上限とし、さらに好ましくは2.9%未満とする。
NaO成分は、原料としてNaCO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いることができる。
【0050】
O成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点を低くでき、且つ耐失透性を高められる任意成分である。また、KO成分はガラスの熱的安定性を高められる成分でもある。そのため、KO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは3.0%超としてもよい。
一方で、KO成分の含有量を15.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑え、且つKO成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、KO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは6.0%を上限とする。
O成分は、原料としてKCO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いることができる。
【0051】
LiO成分、NaO成分及びKO成分の合計含有量(質量和)は、20.0%以下が好ましい。
特に、この合計量を20.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。また、ガラスの耐失透性も高められる。従って、質量和(LiO+NaO+KO)は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.35%を上限とする。特に、上述のP成分、Nb成分及びWO成分の合計含有量を増やしつつ、LiO成分、NaO成分及びKO成分の合計含有量を低減することで、よりアッベ数の小さいガラスを得ることができる。
一方で、この合計量は0%超にしてもよい。これにより、ガラス転移点(Tg)を下げ、且つガラスの耐水性を高められる。従って、質量和(LiO+NaO+KO)は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは5.0%を下限とする。
【0052】
LiO成分、NaO成分及びKO成分の合計含有量に対する、P成分、Nb成分及びWO成分の合計含有量の比率(質量比)は、8.00以上15.00以下が好ましい。
特に、この比率を8.00以上にすることで、ガラスのアッベ数をより低くできる。従って、質量比(P+Nb+WO)/(LiO+NaO+KO)は、好ましくは8.00、より好ましくは8.20、さらに好ましくは9.00、さらに好ましくは9.50を下限とする。
一方で、この比率を15.00以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、質量比(P+Nb+WO)/(LiO+NaO+KO)は、好ましくは15.00、より好ましくは14.00、さらに好ましくは13.50を上限とする。
【0053】
TiO成分、Nb成分及びWO成分の合計含有量(質量和)は、30.0%以上80.0%以下が好ましい。
特に、この合計量を30.0%以上にすることで、ガラスの屈折率を高められ、且つアッベ数を低くできる。従って、質量和(TiO+Nb+WO)は、好ましくは30.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは51.0%、さらに好ましくは63.0%を下限とする。
一方で、この合計量を80.0%以下にすることで、ガラスの可視光透過率を高めて着色を低減できる。従って、質量和(TiO+Nb+WO)は、好ましくは80.0%、より好ましくは75.0%、さらに好ましくは70.0%、さらに好ましくは69.0%を上限とする。
【0054】
TiO成分、Nb成分及びWO成分の合計含有量に対する、TiO成分の含有量の比率(質量比)は、0.50以下が好ましい。これにより、所望の高屈折率と低いアッベ数を得られながらも、ガラスの可視光透過率を高めて着色を低減できる。従って、質量比TiO/(TiO+Nb+WO)は、好ましくは0.50、より好ましくは0.40、さらに好ましくは0.35を上限とする。
一方で、この比率の下限は、ガラスの屈折率を高め、アッベ数をより低くし、耐失透性の低下を抑える観点から、好ましくは0.10、より好ましくは0.15、さらに好ましくは0.20、さらに好ましくは0.245を下限としてもよい。
【0055】
成分及びNaO成分の合計含有量に対する、TiO成分、Nb成分及びWO成分の合計含有量の比率(質量比)は、4.00以下が好ましい。これにより、ガラスの可視光透過率を高めて着色を低減できる。従って、質量比(TiO+Nb+WO)/(P+NaO)は、好ましくは4.00、より好ましくは3.50、さらに好ましくは3.00、さらに好ましくは2.70を上限とする。
一方で、この比率の下限は、ガラスの耐失透性の低下を抑える観点から、好ましくは0.50、より好ましくは1.00、さらに好ましくは1.50、さらに好ましくは2.00を下限としてもよい。
【0056】
成分及びNaO成分の合計含有量に対する、WO成分の含有量の比率(質量比)は、0.40以下が好ましい。これにより、ガラスの可視光透過率を高めて着色を低減できる。従って、質量比WO/(P+NaO)は、好ましくは0.40、より好ましくは0.30、さらに好ましくは0.23、さらに好ましくは0.19を上限とする。
一方で、この比率の下限は0であってもよいが、ガラスの耐失透性の低下を抑える観点から、好ましくは0.01、より好ましくは0.03、さらに好ましくは0.05を下限としてもよい。
【0057】
BaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、BaO成分の含有量を20.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑え、且つ、耐失透性や化学的耐久性の低下を抑えられる。また、これによりガラスの熱的安定性を高められる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とし、さらに好ましくは2.0%未満、さらに好ましくは0.7%未満とする。
BaO成分は、原料としてBaCO、Ba(NO、BaF等を用いることができる。
【0058】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、B成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。また、これによりガラスの熱的安定性を高められる。従って、B成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.4%を上限とし、さらに好ましくは0.3%未満とし、さらに好ましくは含有しない。
成分は、原料としてHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0059】
成分、BaO成分、LiO成分、NaO成分及びKO成分の合計含有量(質量和)は、20.0%以下が好ましい。この合計量を低減させることで、これらの成分の過剰な含有によるアッベ数の上昇を抑えられる。従って、質量和(B+BaO+LiO+NaO+KO)は、好ましくは12.0%を上限とし、より好ましくは10.5%未満、さらに好ましくは9.5%未満とし、さらに好ましくは9.0%を上限とする。
【0060】
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、MgO成分の含有量を5.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。従って、MgO成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%を上限とする。
また、CaO成分及びSrO成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられ、これらの成分の過剰な含有による耐失透性や化学的耐久性の低下も抑えられ、且つガラスの熱的安定性も高められる。従って、CaO成分及びSrO成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、原料としてMgCO、MgF、CaCO、CaF、Sr(NO、SrF等を用いることができる。
【0061】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の合計含有量(質量和)は、20.0%以下が好ましい。これにより、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。従って、質量和(MgO+CaO+SrO+BaO)は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
【0062】
成分、La成分及びGd成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ化学的耐久性を向上できる任意成分である。
一方で、Y成分、La成分及びGd成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスのアッベ数の上昇を抑え、且つ耐失透性を高めることができる。従って、Y成分、La成分及びGd成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
成分、La成分及びGd成分は、原料としてY、YF、La、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF等を用いることができる。
【0063】
成分、La成分及びGd成分の含有量の和(質量和)は、15.0%以下が好ましい。これにより、これらの成分によるアッベ数の上昇を抑えられる。従って、質量和(Y+La+Gd)は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
【0064】
SiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高め、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる任意成分である。
一方で、SiO成分の含有量を10.0%以下にすることで、屈折率の低下を抑えられる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0065】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。
しかしながら、GeOは原料価格が高いため、その量が多いと材料コストが高くなる。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0066】
Bi成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つアッベ数を低くする任意成分である。
一方で、Bi成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.3%を上限とする。
Bi成分は、原料としてBi等を用いることができる。
【0067】
TeO成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高められ、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
一方で、TeO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
TeO成分は、原料としてTeO等を用いることができる。
【0068】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、ZrO成分を10.0%以下にすることで、ZrO成分の過剰な含有によるガラスの屈折率の低下を抑えられる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0069】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げることで耐失透性を高められる任意成分である。
一方で、ZnO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
ZnO成分は、原料としてZnO、ZnF等を用いることができる。
【0070】
Al成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を高められ、且つガラス溶融時の粘度を高められる任意成分である。
一方で、Al成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの失透傾向を弱め、且つアッベ数の低下を抑えられる。従って、Al成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
Al成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF等を用いることができる。
【0071】
Ta成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。
一方で、Ta成分を10.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減でき、且つガラスを失透し難くできる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%を上限とする。
Ta成分は、原料としてTa等を用いることができる。
【0072】
Sb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの可視光透過率を高め、且つ熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
一方で、Sb量が多すぎると、Sb成分が溶解設備(特にPt等の貴金属)と合金化することで金型に不純物が付着するため、ガラス成形体の表面に凹凸や曇りが形成され易くなる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.7%、さらに好ましくは0.5%を上限とする。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0073】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0074】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0075】
上述されていない他の成分を、本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じることで、本願発明の可視光透過率を高める効果を減殺する性質があるため、特に可視領域の波長を透過させる光学ガラスでは、実質的に含まないことが好ましい。
【0076】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0077】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、使用した場合には、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要になる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0078】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表されているため直接的にモル%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分のモル%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
成分 5.0〜40.0mol%及び
Nb成分 5.0〜50.0mol%、
並びに
TiO成分 0〜50.0mol%
WO成分 0〜25.0mol%
LiO成分 0〜50.0mol%
NaO成分 0〜40.0mol%
O成分 0〜25.0mol%
BaO成分 0〜20.0mol%
成分 0〜20.0mol%
MgO成分 0〜20.0mol%
CaO成分 0〜25.0mol%
SrO成分 0〜15.0mol%
成分 0〜7.0mol%
La成分 0〜5.0mol%
Gd成分 0〜5.0mol%
SiO成分 0〜25.0mol%
GeO成分 0〜15.0mol%
Bi成分 0〜5.0mol%
TeO成分 0〜15.0mol%
ZrO成分 0〜15.0mol%
ZnO成分 0〜20.0mol%
Al成分 0〜15.0mol%
Ta成分 0〜3.0mol%
Sb成分 0〜1.0mol%
【0079】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1000〜1300℃の温度範囲で2〜10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
【0080】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高い屈折率を有しながらも、より高い分散(低いアッベ数)を有する。
本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは20、より好ましくは19、さらに好ましくは18を上限とし、さらに好ましくは17.2未満とする。このアッベ数の下限は、好ましくは10、より好ましくは12、さらに好ましくは15であってもよい。このような低いアッベ数を有することで、例えば高いアッベ数を有する光学素子と組み合わせた場合に、高い結像特性等を図ることができる。
また、本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.70、より好ましくは1.80、さらに好ましくは1.90を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは2.20、より好ましくは2.15、さらに好ましくは2.10であってもよい。このような高い屈折率を有することで、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
従って、このような高屈折率高分散の光学ガラスを、例えば光学素子の用途に用いることで、高い結像特性等を図りながらも、光学設計の自由度を広げることができる。
【0081】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスでは、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ)は、好ましくは450nm、より好ましくは430nm、さらに好ましくは400nmを上限とする。また、本発明の光学ガラスでは、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す最も短い波長(λ70)は、好ましくは500nm、より好ましくは480nm、さらに好ましくは460nmを上限とする。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域やその近傍に位置するようになり、可視域の特に短波長側の光に対するガラスの透明性がより高められることで、ガラスの黄色や橙色への着色が低減されるため、この光学ガラスをレンズ等の可視光を透過させる光学素子の材料に好ましく用いることができる。
なお、本発明の光学ガラスでは、例えばNb成分の含有量が少ないこと等によって原料の熔解性が高められるため、低い熔解温度でも原料を熔解できることが、可視光透過率を高められる一因であると考えられる。
【0082】
本発明の光学ガラスは、高い熱的安定性を有することが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスにおける、ガラス転移点(Tg)と結晶化開始温度(Tx)との差ΔTは、好ましくは100℃、より好ましくは110℃、さらに好ましくは120℃を下限とする。これにより、ガラスをガラス転移点以上に加熱した際に、ガラス内部での結晶核の発生や結晶の成長が起こり難くなるため、ガラスの熱的安定性が高まる。そのため、光学ガラスをモールドプレス成形する際の、ガラスの結晶化による乳白化及び失透をはじめとした、光学素子の光学特性への悪影響を低減できる。
なお、本発明の光学ガラスでは、例えばNb成分の含有量が少ないこと等によって、ガラス転移点が低くなり、且つ結晶化開始温度が高められるため、上述のΔTの数値を大きくできることが、熱的安定性を高められる一因であると考えられる。
【0083】
本発明の光学ガラスは、720℃以下のガラス転移点を有する。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをモールドプレス成形できる。また、モールドプレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは720℃、より好ましくは710℃、さらに好ましくは700℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点の下限は特に限定されないが、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは100℃、より好ましくは200℃、さらに好ましくは300℃を下限としてもよい。
【0084】
本発明の光学ガラスは、ガラス作製時における耐失透性(明細書中では、単に「耐失透性」という場合がある。)が高いことが好ましい。これにより、ガラス作製時におけるガラスの結晶化等による透過率の低下が抑えられるため、この光学ガラスをレンズ等の可視光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。なお、ガラス作製時における耐失透性が高いことを示す尺度としては、例えば液相温度が低いことが挙げられる。
【0085】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0086】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用である。特に、本発明の光学ガラスから、精密プレス成形等の手段を用いて、レンズやプリズム、ミラー等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、カメラやプロジェクタ等のような光学素子に可視光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性等を実現しつつ、これら光学機器における光学系の小型化を図ることができる。
【実施例】
【0087】
本発明の実施例(No.1〜No.20)及び比較例(No.A)のガラスの組成、屈折率(n)、アッベ数(ν)、分光透過率が70%及び5%を示す波長(λ70、λ)、ガラス転移点(Tg)、結晶化開始温度(Tx)、並びに、ガラス転移点及び結晶化開始温度の差(ΔT)を表1〜表3に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0088】
これら実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1〜表3に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1000〜1300℃の温度範囲で2〜10時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1250℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0089】
ここで、実施例及び比較例のガラスの屈折率及びアッベ数は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01−2003に基づいて測定した。なお、本測定に用いたガラスとしては、徐冷降下速度−25℃/hrのアニール条件で、徐冷炉で処理したものを用いた。
【0090】
また、実施例及び比較例のガラスの可視光透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの可視光透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ(透過率5%時の波長)及びλ70(透過率70%時の波長)を求めた。
【0091】
また、実施例及び比較例のガラスのガラス転移点(Tg)及び結晶化開始温度(Tx)は、窒素雰囲気中で示差熱測定装置(ネッチゲレテバウ社製 STA 409 CD)を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプル粒度は425〜600μmとし、100℃から800℃まで5℃/minの昇温速度で昇温した。そして、ガラス転移点(Tg)と結晶化開始温度(Tx)との差からΔTを求めた。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
表1〜表3に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が20以下、より詳細には18以下であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、低いアッベ数(ν)を有していることが明らかになった。
【0096】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ70(透過率70%時の波長)が500nm以下、より詳細には460nm以下であり、所望の範囲内であった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ(透過率5%時の波長)が450nm以下、より詳細には401nm以下であり、所望の範囲内であった。
一方で、比較例のガラスは失透しており、可視光を透過しなかった。
そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも可視光に対する高い透過率を有していることが明らかになった。
【0097】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.70以上、より詳細には1.95以上である一方で、この屈折率(n)は2.20以下であるため、所望の範囲内であった。
【0098】
本発明の実施例の光学ガラスは、ガラス転移点(Tg)と結晶化開始温度(Tx)との差ΔTが100℃以上、より詳細には130℃以上であるため、所望の範囲内であった。
【0099】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、高い屈折率(n)を有しながらも、より低いアッベ数(ν)を有しており、且つ、可視光に対する高い透過率を有しており、ガラスを再加熱した際における失透も低減されていることが明らかになった。
【0100】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いてレンズプリフォームを形成し、このレンズプリフォームに対してモールドプレス成形したところ、安定に様々なレンズ形状に加工することができた。
【0101】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。