特許第5956228号(P5956228)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956228
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金の接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20160714BHJP
   B23K 20/16 20060101ALI20160714BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20160714BHJP
   C22C 21/12 20060101ALN20160714BHJP
   C22C 21/10 20060101ALN20160714BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20160714BHJP
   B23K 35/363 20060101ALN20160714BHJP
【FI】
   B23K20/00 310H
   B23K20/16
   !C22C21/02
   !C22C21/12
   !C22C21/10
   !C22C21/00 J
   !B23K35/363 H
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-91689(P2012-91689)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-220428(P2013-220428A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(72)【発明者】
【氏名】村瀬崇
(72)【発明者】
【氏名】藤田和子
(72)【発明者】
【氏名】新倉昭男
(72)【発明者】
【氏名】上野誠三
【審査官】 水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/152556(WO,A1)
【文献】 特開2012−040607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
B23K 20/16
B23K 35/363
C22C 21/00
C22C 21/02
C22C 21/10
C22C 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、アルミニウム合金材及び純アルミニウム材のいずれかを他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材のアルミニウム合金材は、Mg:0.5mass%(以下、mass%を単に%とする。)以下に規制されたアルミニウム合金からなり、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%を越えて65%以下となる温度において、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%以上である時間が10秒以上600秒以内であり、フラックスが接合部材間に塗布された状態で、非酸化性雰囲気中で接合することを特徴とするアルミニウム合金材の接合方法。
【請求項2】
アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、アルミニウム合金材及び純アルミニウム材のいずれかを他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材は、Mg:0.2%以上2.0%以下を含有するアルミニウム合金からなり、他方の被接合部材であるアルミニウム合金材はMg:2.0%以下を含有するアルミニウム合金からなり、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%以上65%以下となる温度において、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%以上である時間が10秒以上600秒以内であり、真空中又は非酸化性雰囲気中で接合することを特徴とするアルミニウム合金材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金とアルミニウムあるいは他のアルミニウム合金、さらにアルミニウム合金と他の金属との接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の部材の接合方法には、従来からさまざまな方法が取られている。非特許文献1によると、金属の接合は材質的接合、化学的接合、機械的接合に大きく分類される。アルミニウム合金の接合も、これらの方法のいずれかを用いてなされてきた。
【0003】
材質的接合は、部材同士を金属結合によって強固に接合するものである。適切に行えば、高い信頼性が得られる接合方法である。具体的には、溶融させて接合する溶接法、拡散接合・圧接・摩擦攪拌接合などの固相接合法、ろう接など液相−固相反応接合などがこの方法に分類される。材質的接合は、前述の通り金属結合によって強固な接合を実現するものである。その中でも、液相−固相反応接合であるろう接合は、炉中で全体を加熱して接合を行うので、同時に多点の接合が可能である。従って、自動車用熱交換器やヒートシンクなど、接合箇所が多く狭い間隔で接合される製品の接合に多く適用されている。
【0004】
化学的接合は、いわゆる接着剤を用いた方法である。材質的接合と違って、高温にする必要がなく、部材自体の変形もほぼ起こらないという利点がある。一方、金属結合のような強固な接合が得られないので、接合部の信頼性や熱伝導性は材質的接合と比べて劣る。
【0005】
機械的接合には、リベットやボルト締めなどがある。材質的接合や化学的接合より比較的簡単に接合ができ、材質的接合と同等以上の接合強度を得られ、方法によっては接合のやり直しが容易である。しかし、接合部の形状が限定される、密閉が必要な接合に不利、等の欠点がある。
【0006】
アルミニウム合金の接合には従来からハンダ付け法や溶接法、ろう付法等の接合方法が用いられている。溶接法は、接合部を電気あるいは炎により加熱して溶融、合金化し、接合を成す。接合部の隙間が大きい場合や、強度が必要な場合は、溶加材を接合時に同時に溶融させ隙間を充填する。いずれも、接合部分が溶融するため確実な接合がなされる。一方で、接合部を溶融して接合するため、接合部近傍の形状が大きく変形し、また金属組織が局所的に大きく変化することとなる。また、接合部のみを局所的に加熱していく必要がある為、同時に多点を接合するのは困難である。
【0007】
拡散接合法や摩擦接合法等の固相接合法は原則的に部材の溶融を伴わない接合法である。
【0008】
拡散接合は、母材を密着させ、基本的に母材の融点以下で、塑性変形を生じない程度に加圧し、接合面間に生じる原子の拡散を利用して接合する方法である。この接合は、同時多点接合や面接合が可能であり、部材の変形を伴わない。従って、微細な形状を持つ部材の接合に適用されている。一方で、拡散を利用する為、溶接やろう付などと比べて接合に時間が掛かる。通常、30分程度からそれ以上の時間、所定温度で保持が必要となる。更に、アルミニウム合金の場合、安定且つ強固な酸化皮膜が表面にある為、固相拡散接合を行うことが難しい。部材にMgを0.5〜1.0mass%(以下、mass%を単に%とする。)程度含むアルミニウム合金を用いる場合は、Mgの還元作用により酸化皮膜が破壊され接合が比較的容易に可能であるが、その他のアルミニウム合金の場合、接合面の酸化皮膜を除去する清浄化処理が必要となる。
【0009】
摩擦接合法のなかでアルミニウムに用いられる接合法である摩擦攪拌接合(FSW)は、全てのアルミニウム合金に適用可能であり、母材の溶融を伴わないため接合時の変形が小さい。一方で、接合部の形状は直線や緩曲線に限定され、複雑な形状の接合が困難である。また、接合ツールを接合部に直接当てるため、微細な形状の接合が困難であり、更に同時に多点を接合するのも困難である。更には、接合の終端部に接合ピンの痕が残ってしまう。
【0010】
ハンダ付け法やろう付法では、被接合材よりも融点の低いハンダ材やろう材を用いて、電気あるいは炎により加熱することで、これらハンダ材やろう材のみを溶融させ、接合部の隙間を充填させることにより接合を行う。点状や線状の接続部の接合に有利な接合方法であり、ろうやハンダは接合凝固時にフィレットと呼ばれる形状を成すことにより、強度や熱伝導性などの面で非常に信頼性の高い接合を得られる。母材を溶融させることなく短時間で強固な接合を得ることができる。特にノコロックろう付法や真空ろう付法など炉中ろう付法は、ろう材と被接合材であるアルミニウム合金をクラッドしたブレージングシートを用いることが特徴である。ブレージングシートをプレス加工し、中空構造を有する積層型熱交換器を組み立て、炉中で加熱することにより接合箇所が多く複雑な形状である熱交換器を製造することが出来る。
【0011】
一方で、ろう付やはんだ付では別途ろう材やハンダを用意する必要があった。これらを接合部に配置する場合、確実に接合部にろうを供給し、且つ一部分にろうが集中したりしないように設計と設置工程に細心の注意が必要であった。また、ブレージングシートはろうを容易に均一に供給ができる一方で、材料の製造が通常より複雑である点、さらにろう材面への切削加工が制限される点など欠点もあった。
【0012】
また、これらの接合を行う部材は、接合前もしくは接合後に所定の形状に加工され、接合中は加工がおこなわれないのが通常であった。しかし、工程簡略化の希求により接合と加工を同時に行う方法も発明されている。
【0013】
特許文献1は、鉄などの材料を金属合金部材同士を、少なくとも片方が液相率10〜70%となる状態で鍛造型内に挿入し、鍛造して一体化する半溶融鍛造方法である。この方法では、鍛造による加圧加工中に部材同士の接合が同時になされる。
【特許文献1】特許第4261705号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来のアルミニウム合金の接合では、炉中で部材全体を加熱して接合する方法が、均質なものを作りやすく、また、同時に多数の箇所を接合する上で優れていた。しかし、炉中での接合が可能なろう付・はんだ付では、構造部材となる材料のほかにろう材を別途接合部付近に配置するか、構造部材にろう材をクラッドしたブレージングシートを使う必要があった。いずれの場合も、材料のコストアップが生じ、またろう材の存在から切削等の加工の自由度が低いという問題があった。
【0015】
また、同様に炉中での接合が可能な拡散接合は、加圧が必要であり製造装置が大掛かりになるという問題や、接合に時間が掛かるという問題があった。
【0016】
更に、アルミニウムの構造部材を接合する場合、接合前、もしくは接合後に加工を行うが、生産性の向上や製造コストの低減のために加工工程を省略したいという希求があった。
【0017】
特許文献1では、加工と同時に接合を成すものであるが、アルミニウ合金の場合は高温での酸化皮膜の成長が著しく、酸素濃度が高い状態でこのような接合を実施することが難しかった。また、成形に大きな加圧が必要であり、大規模な装置を必要とした。更には、接合が面接合に限られるという欠点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上記問題に鑑み、鋭意検討の結果、被接合部材であるアルミニウム合金を加熱する際に生じる液相を利用して接合する方法を見出した。更に、接合過程中に簡易な方法で同時に加工成形を行う方法を見出した。
【0019】
すなわち、請求項1に係る第1の発明は、アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、アルミニウム合金材及び純アルミニウム材のいずれかを他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材のアルミニウム合金材は、Mg:0.5mass%(以下、mass%を単に%とする。)以下に規制されたアルミニウム合金からなり、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%を越えて65%以下となる温度において、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%以上である時間が10秒以上600秒以内であり、フラックスが接合部材間に塗布された状態で、非酸化性雰囲気中で接合することを特徴とするアルミニウム合金材の接合方法である。
【0020】
すなわち、請求項2に係る第2の発明は、アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、アルミニウム合金材及び純アルミニウム材のいずれかを他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材は、Mg:0.2%以上2.0%以下を含有するアルミニウム合金からなり、他方の被接合部材であるアルミニウム合金材はMg:2.0%以下を含有するアルミニウム合金からなり、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%以上65%以下となる温度において、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が35%以上である時間が10秒以上600秒以内であり、真空中又は非酸化性雰囲気中で接合することを特徴とするアルミニウム合金材の接合方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の接合方法は、接合するアルミニウム合金内部に生じる液相を利用して接合を行う。本発明は、アルミニウム合金同士の接合はもちろん、アルミニウム合金とアルミニウムあるいは他のアルミニウム合金、さらにアルミニウム合金と他の金属との接合を、信頼性の高い金属結合によってなすことが可能である。また、本発明の接合方法では、構造部材全体を加熱し、母材自体から液相が接合部に供給され接合をなす。従って、クラッド材を用いたり、別途ろう材を配置したりする必要がない。更に、接合の際に加圧は特にしなくても良く、ろう付と同等の接合時間で十分な接合を得られる。それでいて、ろう付、はんだ付、もしくは拡散接合と同様に同時多点接合が可能である。
【0026】
更に、本発明では、接合加熱過程において、液相を供給する構造部材を自重や毛細管力、あるいは簡易な冶具を利用して容易に成形させることも可能である。従って、適切な冶具と型を用いれば、非常に簡便な方法で、接合工程と同時に部材の成形加工を施せる。
【0027】
以上のように、本発明は従来にはない新しい接合方法を提案するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る金属材料の接合方法における、液相の生成メカニズムを示す説明図である。
図2】本発明に係る金属材料の接合方法における、液相率が多い場合の液相の生成メカニズムを示す説明図である。
図3】本発明における任意形状に変形する一例。
図4】本発明における任意形状に変形する一例。
図5】接合率、ならびに、接合による変形率を測定するための試料を示す斜視図である。
図6】接合率、ならびに、接合による変形率の測定方法の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の接合方法はアルミニウム合金の質量に対する該アルミニウム合金内に生じた液相の質量の比(以下、液相率という。)が35%を越えて65%以下となる温度で接合を行う。これにより、構造部材自体から接合部に液相が供給され、接合が成される。
【0030】
本発明における材料中から接合部への液相の供給過程を図1に示す。固相線温度に達すると、まず、粒界付近で溶融が始まる(図1b)。そして、マトリックス中でも球状に液相が生成しはじめる(図1c)。この際、Al−Si系合金やAl−Cu合金など共晶系の合金では、添加元素の粒子の周りで液相が生成する。これら発生した液相は、表面張力によりマトリックスに再固溶し、固相拡散により粒界や表面に集まる(図1d)。そして、接合部の毛細管作用により、表面や粒界の液相が接合部に流動する。このような液相の供給過程では、マトリックスが元の結晶粒から大幅に小さくなることなく保たれるため、部材は変形するものの崩れてしまうことはない。従って、適切な冶具や型を使えば形状を制御することが可能である。
【0031】
しかし、液相率が多くなるにつれて、図2に示すようにマトリックス中に発生した液相同士が直接繋がり(図2c)、結晶粒を壊して表面へ流動するようになる(図2d)。そして、液相率が65%を越えると、図2に示すような液相供給過程が支配的になり、部材が変形するのみならず大きく崩れてしまい、形状を制御することが困難になってしまう。
【0032】
一方、発生する液相が少ないと、接合中に成形させることが難しくなる。
【0033】
本発明では、液相率は35%を超えて65%以下であることが好ましい。
なお、本発明の接合で、規定の液相率になるアルミニウム合金は、接合する構造部材のうち成形させる方の部材であり、それは接合する構造部材のどちらか一方でも、双方でもかまわない。
【0034】
アルミニウム合金材の表層には酸化皮膜が形成されており、これによって接合が阻害される。従って、接合においては酸化皮膜を破壊する必要がある。本発明に係るしみ出し接合では、酸化被膜を破壊するために以下のA−1又はA−2に示すいずれかの方法が採用される。
A−1.フラックスによる酸化皮膜の破壊
【0035】
この方法では、酸化皮膜を破壊する為に少なくとも接合部にフラックスを塗布する。フラックスはアルミニウム合金のろう付で用いるKAlF、KAlF、KAlF・HO、KAlF、AlF、KZnF、KSiF等のフッ化物系フラックスや、CsAlF、CsAlF・2HO、CsAlF・HO等のセシウム系フラックス、又はKClやNaCl、LiCl、ZnCl等の塩化物系フラックスが用いられる。これらフラックスは、しみ出し接合において液相が溶融する前に又は接合温度に至る前に溶融し、酸化皮膜と反応して酸化皮膜を破壊する。
【0036】
更にこの方法では、酸化皮膜の形成を抑制するために、窒素ガスやアルゴンガスなどの非酸化性雰囲気中で接合する。特にフッ化物系のフラックスを用いる場合は、酸素濃度を250ppm以下に抑え、露点を−25℃以下に抑えた非酸化性ガス雰囲気中で接合するのが好ましい。
【0037】
また、フッ化物系のフラックスを用いる場合、一方及び他方の被接合部材のアルミニウム合金材においてアルミニウム合金中にMgが0.5%を超えて含有されると、フラックスとMgが反応してフラックスの酸化皮膜破壊作用が損なわれる。従って、請求項1に規定するように、両被接合部材がアルミニウム合金材の場合は、これら被接合部材のいずれもが0.5%以下のMgを含有するアルミニウム合金からなるものとする。なお、Mg含有量が0.5%以下の条件を満たせば、アルミニウム合金に含有される他の元素の種類や含有量には制限はない。
A−2.Mgのゲッター作用による酸化皮膜の破壊
【0038】
アルミニウム合金材にMgが所定量添加されている場合は、接合部にフラックスを塗布しなくても、酸化被膜が破壊されて接合が可能になる。この場合、真空フラックスレスろう付と同様に、アルミニウム合金が溶融し液相が表層に出てくるときに、アルミニウム合金中より蒸発するMgのゲッター作用によって酸化皮膜が破壊される。
【0039】
Mgのゲッター作用により酸化皮膜を破壊する場合、酸化皮膜の形成を抑制するために、真空中又は上記の非酸化性雰囲気中で接合する。なお、面接合や閉塞空間での接合の場合は乾燥した大気であっても接合可能な場合がある。非酸化性雰囲気中や乾燥大気中での接合の場合は、露点を−25℃以下に抑えることが好ましい。
【0040】
Mgのゲッター作用により酸化皮膜を破壊する為には、請求項2に規定するように、一方の被接合部材であるアルミニウム合金材が、0.2%以上2.0%以下のMgを含有するアルミニウム合金からなるものとする。0.2%未満では、十分なゲッター作用が得られず良好な接合が達成されない。一方、2.0%を超えると、表面でMgが雰囲気中の酸素と反応して酸化物MgOが多く生成され接合が阻害される。なお、一方の被接合部材についてのみMg含有量を0.2%以上2.0%以下としたのは、一方の被接合部材によるMgのゲッター作用が得られれば足りるためである。他方の被接合部材であるアルミニウム合金材においては、アルミニウム合金中のMg含有量が0.2%以上に限定されないが、MgOが多く生成されると接合が阻害されるので、Mg含有量は2.0%以下とした。また、一方の被接合部材において、Mg含有量が0.2%以上2.0%以下の条件が満たされれば、アルミニウム合金に含有される他の元素の種類や含有量には制限はない。
【0041】
本発明の接合での加熱は、基本的に炉中にて行う。炉の形状に、特に制限はなく、例えば1室構造のバッチ炉、自動車用熱交換器の製造などに用いられる連続炉などで行えばよい。
【0042】
本発明では、上記接合過程で同時に成形加工が容易にできる。接合過程では、図1に示すように、粒界が優先的に溶融し、液相が集まってくるため、粒界すべりが非常に容易に発生する。一方で、固相のマトリックスが形を保っている為、崩れてしまうことがない。したがって、例えば図3(a)のように溶融する一方のアルミニウム合金を31、32とし、他方のアルミニウム合金である部材33、34を溶融しないものとする。これらを加熱した場合、図3(b)のようにアルミニウム合金31、32は部材33、34に沿って変形し、任意の形状を得ることができる。また、図4(a)のように被接合部材であるアルミニウム合金41、42の双方とも溶融させて接合をなす場合は、43に示すような型や冶具を適切に設置すれば、図4(b)のように任意の形状を得ることができる。自重や表面張力でも変形が可能である為、プレス等の設備を炉内に設置することなく、非常に簡便に成形をすることができる。
【0043】
本発明の接合において、接合部で酸化皮膜が破壊された後、両被接合部材の間に液相が充填され接合がなされ、更に毛細管力や自重、冶具の押さえにより所定の形状への整形および接合がなされる場合、整形と接合が十分に行われるには、液相率が35%以上である時間が10秒以上であるのが好ましい。より好ましくは、液相率35%以上の時間が30秒以上であると、特に整形後に触れて接合される場合でも確実に接合がなされる。なお、液相率が35%になる前段の昇温過程で既に液相が生成し接合部に供給される為、液相率が35%以上となる時間が一瞬(限りなく0秒に近い時間)でもあれば接合が達成される。
【0044】
本発明において、液相を生じる一方の被接合部材であるアルミニウム合金材における液相率が35%以上である時間は、600秒以内であるのが好ましい。600秒を超えると、液相率が65%以下であっても被接合部材が現形状を維持できないほどに崩れてしまうおそれがある。なお、他方の被接合部材であるアルミニウム合金材中においても液相が生成する場合も、ここでの液相率が35%以上である時間は600秒以内であるのが好ましい。
【0045】
接合に用いるアルミニウム合金は、固相線温度と液相線温度の差が10℃以上である合金を用いることが望ましい。固相線温度を超えると液相の生成が始まるが、固相線温度と液相線温度の差が小さいと、固体と液体が共存する温度範囲が小さくなり、発生する液相の量を制御するのが難しくなる。従って、製品の製造性の面から、接合に用いるアルミニウム合金の固相線温度と液相線温度の差は10℃以上が望ましい。例えば、この条件を満たす組成を有する二元系の合金はAl−Si系合金、Al−Cu系合金、Al−Mg系合金、Al−Zn系合金、Al−Ni系合金などが挙げられる。この条件を満たすには、前述のような共晶型合金が固液共存領域を大きく持っており有利であるが、他の全率固溶型、包晶型、偏晶型などの合金であっても固相線温度と液相線温度の差を所定以上取れれば問題なく接合が行える。また、上記の2元系合金は主添加元素以外の添加元素を含むことができ、実質的には3元系や4元系合金、更に多元系の合金も含まれる。例としては、Al−Si−Mg系やAl−Si−Cu系、Al−Si−Zn系、Al−Si−Mn系、Al−Si−Cu−Mg系、Al−Si−Cu−Mn系などである。
【0046】
本発明では、接合時に、成形の為の変形などに伴い板厚減少が生じる。その際、接合前後での板厚減少率の最大値は70%以下とすることが好ましい。70%を超えると変形が顕著に進み、形状の制御が難しくなる。
【0047】
なお、冶具などで大きな外力を掛けなければ、接合時の最大液相率が65%以下であり、液相率が600秒以内であれば確実に板厚減少率は70%以下となる。
【実施例】
【0048】
以下に、この発明の実施例を比較例と対比して説明する。
【0049】
本発明において、接合が可能である液相率を調査する為に、Al−Si系合金で接合実験を行った。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に接合に用いたAl−Si合金の組成を示す(3.0〜6.0%Si)。なお、平衡液相率はThermo−Calcによって合金組成から求めた。これらの合金鋳塊を作成した後、熱間圧延及び冷間圧延により、厚さ1mmの圧延板を得た。この板を切り出し、端面をフライスにより平滑にしたものを組み合わせて、図5に示すような接合試験片とした。図5の上板を評価材とし、表2に用いた合金を記載した。下板には合金A18を用いた。
【0052】
【表2】
【0053】
この接合試験片の接合面には、フッ化カリウム系又はフッ化セシウム系の非腐食性フラックスを塗布するか、或いは、フラックスを塗布しなかった。フラックス塗布の有無と種類を表2に示す。これらの表において、「F」はフッ化カリウム系非腐食性フラックス(KAlF)を、「Cs」はフッ化セシウム系の非腐食性フラックス(CsAlF)を、「−」はフラックスを塗布しなかった場合を示す。また、試験片の上下には図5に示すようなステンレス板を配し、その上からステンレス線によって試験片を縛って固定した。ステンレス板の厚さは、上板の上にあるものが1mm、下板の下にあるものが2mm、更に下にあるものが1mmとした。
【0054】
接合の為の加熱は、窒素雰囲気中で所定の温度(580〜640℃)まで昇温後、それぞれ表2に示した時間保持した後、冷却した。なお、昇温速度は、520℃以上で10℃/分とした。
【0055】
加熱終了後のサンプルについて、接合率、板厚減少率、および形状追従性を図6に示すように定義し、それぞれ測定した。結果をそれぞれ表2に示した。接合率は、断面観察を実施し、接合部の長さに対する接合がなされている部分の長さの割合で求め、接合率90%以上を○、80%以上90%未満を△、80%未満を×と判定した。板厚減少率は、断面観察結果より最も板厚が減少していた部位を測定し求めた。板厚変化率が10%未満のものを◎、10%を超え20%未満のものを○、20%を超え70%未満のものを△、70%を超えるものを×と判定した。形状追従性は、図6に示した下の冶具板に接するまでの距離aが1mm未満のものを◎、3mm未満のものを○、5mm未満を△、5mmを超えるもの及び接さなかったものを×と判定した。
【0056】
以上の結果より、各評価の判定に対して◎を5点、○を3点、△を1点、×を−8点と点数をつけ、合計点が10点以上を◎、1点以上9点以下を○、0点以下を×と総合判定した。
【0057】
この発明の実施例1〜21では、接合加熱時のアルミ合金中の液相率が適正な範囲であったため、適正に接合がなされると同時に自重で変形し、追従性の良い加工ができた。
【0058】
それに対し、比較例22、24〜27は生成した液相が多すぎた為、形が大きく崩れ板厚減少が70%を超え板の原形状が保たれなかった。特に比較例25は完全に流動し形状の追従についての評価も困難であった。
【0059】
比較例29はフラックスがアルミニウム中のマグネシウムと反応し無効化され、酸化皮膜が破壊できず接合が十分にはなされなかった。
【0060】
比較例30はフラックスなしにも関わらずMg量が少なすぎた為、酸化皮膜が破壊できず接合が十分にはなされなかった。
【0061】
比較例31は合金に含有されるMg量が多すぎために、MgOが成長し過ぎて接合が十分になされなかった。
【符号の説明】
【0062】
31、32 本発明に係るアルミニウム合金
33、34 溶融しないアルミニウム合金部材
41、42 被接合部材であるアルミニウム合金
43 冶具
図1
図2
図3
図4
図5
図6