特許第5956230号(P5956230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5956230-燃料電池 図000002
  • 特許5956230-燃料電池 図000003
  • 特許5956230-燃料電池 図000004
  • 特許5956230-燃料電池 図000005
  • 特許5956230-燃料電池 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956230
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/24 20160101AFI20160714BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20160714BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20160714BHJP
【FI】
   H01M8/24 R
   H01M8/24 Z
   H01M8/24 E
   H01M8/02 Y
   !H01M8/12
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-94381(P2012-94381)
(22)【出願日】2012年4月18日
(65)【公開番号】特開2013-222639(P2013-222639A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】尾関 敦史
(72)【発明者】
【氏名】宮端 健次
(72)【発明者】
【氏名】小野 達也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋介
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−251011(JP,A)
【文献】 特開2007−059147(JP,A)
【文献】 特開2008−053078(JP,A)
【文献】 特開2004−014130(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038869(WO,A1)
【文献】 特開平10−261426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルを複数積層してなる燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの積層方向における両端の少なくとも一方にさらに積層され、ガス流路を有する板状のエンドプレートと、
前記積層方向に沿ってさらに前記エンドプレートの端面上に設置されるとともに、前記ガス流路に連通するガス通路を有するガス通路部材と
を備える燃料電池であって、
前記ガス通路部材は、前記ガス通路の少なくとも一部を構成し前記積層方向に貫通する第1の貫通孔を有し、かつ、前記第1の貫通孔に挿通され先端部が前記エンドプレートの穴部に固定されている棒状の固定部材を備え、
前記固定部材は、前記燃料電池スタック及び前記エンドプレートを積層方向に固定する部材とは別のものであり、
前記ガス流路は前記第1の貫通孔に連通し、前記ガス流路の開口部は、前記積層方向から見て、前記穴部よりも外側において前記第1の貫通孔と重なり合うように配置されており、
前記エンドプレートと前記ガス通路部材との間に、厚さ方向に貫通して前記第1の貫通孔と前記ガス流路とを連通させる第2の貫通孔を有する絶縁スペーサが配置され、
前記積層方向から見たときに、前記ガス流路の前記開口部が前記第2の貫通孔よりも内側に配置されている
ことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記ガス流路の内壁面と前記穴部の内壁面との間隔Aが1.0mm以上に設定され、前記ガス流路の内壁面と前記第2の貫通孔の内壁面との間隔Bが0.5mm以上に設定されていることを特徴とする請求項に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記穴部及び前記ガス流路は、ともに前記エンドプレートを厚さ方向に貫通する貫通孔であり、
前記ガス流路の内壁面と前記穴部の内壁面との間隔Aと、前記ガス流路の内径dとが、A>0.3dの関係を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記ガス流路は、前記エンドプレートにおいて複数設けられ、
複数の前記ガス流路は、前記穴部を包囲するように配置されるとともに、前記穴部を中心として周方向に沿って配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記燃料電池セルは、電解質層と該電解質層の両側に配置された電極層とからなり、
前記ガス通路部材は、前記積層方向から見て、前記電極層の周縁で規定される領域内に配置されている
ことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料電池スタックは、
前記燃料電池セルの前記電極層の表面に対向して配置されるコネクタプレートと、
前記燃料電池スタックの端部に位置する前記コネクタプレートと前記エンドプレートとの間に、前記コネクタプレート及び前記エンドプレートとともに内部空間を包囲して区画する枠体部とを有し、
前記エンドプレートの前記ガス流路は前記内部空間に連通しており、
前記コネクタプレートは、前記内部空間を流れるガスの圧力により、前記電極層側に変形可能に構成されている
ことを特徴とする請求項に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池セルを複数積層してなる燃料電池スタックを備えた燃料電池関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池として、例えば固体電解質層(固体酸化物層)を備えた固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell ;SOFC)が知られている。このSOFCは、燃料電池セルを複数積層してなる燃料電池スタックを備えている。また、燃料電池セルは、燃料ガスに接する燃料極層と酸化剤ガスに接する空気極層とが固体電解質層の両側に配置された構造を有している。そして、燃料ガス中の水素と酸化剤ガス中の酸素とが固体電解質層を介して反応(発電反応)することにより、空気極層を正極、燃料極層を負極とする直流の電力が発生するようになる。
【0003】
なお、燃料電池は、燃料電池スタックと、燃料電池セルの積層方向における両端に積層されたエンドプレートとを備えている。そして、燃料電池を厚さ方向に貫通するボルトにナットを螺着させることにより、燃料電池スタック及びエンドプレートが固定されるようになる。また、燃料電池は、燃料電池スタックに対してガス(燃料ガスや酸化剤ガスなど)の導入または排出を行うためのガス孔を有している(例えば特許文献1参照)。
【0004】
具体的に言うと、特許文献1に記載の燃料電池は、上側のエンドプレートと燃料電池スタックを構成する最上層の燃料電池セルとの間に、ガス孔に連通する内部空間を区画形成した構造を有している。この場合、発電に用いられるガスとは別系統のガスがガス孔を介して内部空間に導入され、内部空間に導入されたガスの圧力により、燃料電池セルの最上層に位置するコネクタプレートが下方(空気極層側)に押圧されるようになる。その結果、コネクタプレートの下側に取り付けられた空気極集電体が空気極層に常時接触するようになるため、空気極集電体と電極層との導通を安定的に確保することができる。ゆえに、燃料電池を確実に機能させることが可能になるため、燃料電池の信頼性が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/038869(図15等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の従来技術では、ガス孔が上記したボルト用のボルト孔を兼ねる構造となっている。また、ボルトは燃料電池を貫通しているため、ボルト孔及びガス孔も燃料電池を貫通するようになる。しかし、この場合には、ガス孔の位置が必然的にボルト孔と同じ箇所(具体的には、燃料電池スタックの外周部)に規定されてしまうため、設計の自由度が小さいという問題がある。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、設計の自由度を大きくすることができる燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段(手段1)としては、燃料電池セルを複数積層してなる燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックの積層方向における両端の少なくとも一方にさらに積層され、ガス流路を有する板状のエンドプレートと、前記積層方向に沿ってさらに前記エンドプレートの端面上に設置されるとともに、前記ガス流路に連通するガス通路を有するガス通路部材とを備える燃料電池であって、前記ガス通路部材は、前記ガス通路の少なくとも一部を構成し前記積層方向に貫通する第1の貫通孔を有し、かつ、前記第1の貫通孔に挿通され先端部が前記エンドプレートの穴部に固定されている棒状の固定部材を備え、前記固定部材は、前記燃料電池スタック及び前記エンドプレートを積層方向に固定する部材とは別のものであり、前記ガス流路は前記第1の貫通孔に連通し、前記ガス流路の開口部は、前記積層方向から見て、前記穴部よりも外側において前記第1の貫通孔と重なり合うように配置されており、前記エンドプレートと前記ガス通路部材との間に、厚さ方向に貫通して前記第1の貫通孔と前記ガス流路とを連通させる第2の貫通孔を有する絶縁スペーサが配置され、前記積層方向から見たときに、前記ガス流路の前記開口部が前記第2の貫通孔よりも内側に配置されていることを特徴とする燃料電池がある。
【0009】
手段1に記載の発明によると、固定部材は、エンドプレートに固定されるものであるため、燃料電池スタック及びエンドプレートを積層方向に固定する部材とは別のものとなっている。よって、固定部材の位置を決定する際に、燃料電池スタックを構成する部材との兼ね合いを考慮しなくても済むため、固定部材の先端部が固定される穴部の位置や、固定部材が挿通される第1の貫通孔を有するガス通路部材の位置を決定する際においても、燃料電池スタックを構成する部材との兼ね合いを考慮しなくても済む。しかも、ガス流路が穴部を兼ねる構造とはなっていないため、ガス流路の位置を決定する際に、穴部に固定される固定部材の位置を考慮しなくても済む。以上のことから、ガス通路部材、固定部材、穴部及びガス流路の設計の自由度が大きくなり、ひいては、燃料電池の設計の自由度が大きくなる。例えば、燃料電池セルが、電解質層と該電解質層との両側に配置された電極層とからなる場合、ガス通路部材を、積層方向から見て、電極層の周縁で規定される領域内に配置することができる。
【0010】
ここで、燃料電池としては、ZrO系セラミックなどを電解質とする固体酸化物形燃料電池(SOFC)、高分子電解質膜を電解質とする固体高分子形燃料電池(PEFC)、Li−Na/K系炭酸塩を電解質とする溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、リン酸を電解質とするリン酸形燃料電池(PAFC)などが挙げられる。なお、燃料電池の稼働温度(即ち、イオンが電解質中を移動可能となる温度)は、燃料電池の種類ごとに異なっている。具体的に言うと、SOFCの稼働温度は700℃〜1000℃程度、PEFCの稼働温度は常温〜90℃程度、MCFCの稼働温度は650℃〜700℃程度、PAFCの稼働温度は150℃〜200℃程度である。
【0011】
燃料電池が備える燃料電池スタックは、燃料電池セルを複数積層してなる。燃料電池がSOFCである場合、燃料電池セルは、固体酸化物からなる電解質層と、電解質層の両側に配置された電極層とを備えることがよい。燃料電池セルを構成する電解質層は、電極層に接する発電用ガスの一部がイオンとなって移動する性質(イオン電導性)を有している。なお、電解質層中を移動するイオンとしては、例えば酸素イオンや水素イオンなどが挙げられる。また、電極層は、電解質層の表面側に配置され発電用ガスである酸化剤ガスに接する空気極層、及び、電解質層の裏面側に配置され発電用ガスである燃料ガスに接する燃料極層であることがよい。
【0012】
電解質層(固体酸化物層)の形成材料としては、例えばZrO系セラミック、LaGaO系セラミック、BaCeO系セラミック、SrCeO系セラミック、SrZrO系セラミック、CaZrO系セラミックなどがある。
【0013】
また、燃料電池セルを構成する燃料極層は、例えば還元剤となる燃料ガスと電解質層内を移動してきた酸素イオンとを反応させる機能を有することにより、燃料電池セルにおける負電極として機能する。ここで、燃料極層の形成材料としては、例えば、希土類元素(Sc、Yなど)により安定化されたZrO系セラミック、及び、希土類元素(Sm、Gdなど)をドープしたCeO系セラミック等のうち、少なくとも1つのセラミック材料と、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni、Fe等の金属材料及びそれら金属材料の合金のうちの少なくとも1つと、を混合した金属セラミック材料の混合物(サーメット)を使用することができる。
【0014】
また、燃料ガスとしては、例えば、水素ガス、炭化水素ガス、水素ガスと炭化水素ガスとの混合ガスなどが挙げられる。燃料ガスとして炭化水素ガスを選択した場合、炭化水素ガスの種類は特に限定されないが、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス等であることが好ましい。なお、水中にガス(水素ガス、炭化水素ガス、混合ガス)を通過させて加湿することによって得られる燃料ガスや、ガス(水素ガス、炭化水素ガス、混合ガス)に水蒸気を混合させることによって得られる燃料ガスを選択してもよい。また、1種類の燃料ガスのみを用いてもよいし、複数種類の燃料ガスを併用してもよい。さらに、燃料ガスは、窒素やアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。また、液体の原料を気化したものを燃料ガスとして使用したり、水素ガス以外のガスを改質して生成した水素ガスを燃料ガスとして使用したりすることもできる。
【0015】
燃料電池セルを構成する空気極層は、酸化剤となる酸化剤ガスと接触し、燃料電池セルにおける正電極として機能する。ここで、空気極層の形成材料としては、例えば、金属材料、金属の酸化物、金属の複合酸化物などを挙げることができる。金属材料の好適例としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh等やそれらの合金などがある。金属の酸化物の好適例としては、例えば、La、Sr、Ce、Co、Mn、Feの酸化物(La、SrO、Ce、Co、MnO、FeO)などがある。金属の複合酸化物の好適例としては、例えば、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mnを含有する複合酸化物(La1−xSrCoO系複合酸化物、La1−xSrFeO系複合酸化物、La1−xSrCo1−yFe系複合酸化物、La1−xSrMnO系複合酸化物、Pr1−xBaCoO系複合酸化物、Sm1−xSrCoO系複合酸化物)などがある。
【0016】
また、酸化剤ガスとしては、例えば、酸素と他の気体との混合ガスなどが挙げられる。この混合ガスは、窒素やアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。なお、混合ガスは、安全で安価な空気であることが好ましい。
【0017】
さらに、エンドプレートには、ガス流路や、固定部材の先端部を固定する穴部が設けられる。ここで、ガス流路は、エンドプレートにおいて複数設けられ、複数のガス流路は、穴部を包囲するように配置されるとともに、穴部を中心として周方向に沿って配置されていることが好ましい。このようにすれば、複数のガス流路を均等に配置することができるため、ガス通路を通過するガスを、それぞれのガス流路に均等に分散させることができる。その結果、ガス流路及びガス通路を通過するガスの流れを安定させることができるため、高い信頼性を有する燃料電池を得ることができる。
【0018】
なお、複数のガス流路の数は特に限定されないが、例えば3個以上6個以下であることが好ましい。仮に、ガス流路の数が6個よりも多い場合、穴部を包囲するように全てのガス流路を開口させることが困難になる。また、エンドプレートの加工コストが高くなるという問題もある。一方、ガス流路の数が3個未満である場合、ガス流路を通過するガスが受ける抵抗が大きくなるため、ガス流路及びガス通路を通過するガスの流れが安定しなくなるおそれがある。
【0019】
さらに、複数のガス流路の内径dは特に限定されないが、例えば、内径dが1.0mm以上5.0mm以下に設定されることが好ましい。仮に、内径dが1.0mm未満になると、ガス流路を通過するガスが受ける抵抗が大きくなるため、ガス流路及びガス通路を通過するガスの流れが安定しなくなるおそれがある。一方、内径dが5.0mmよりも大きくなると、固定部材の先端部を穴部に螺着させた際に、ガス流路の存在が固定部材の軸力に悪影響を与える可能性がある。なお、エンドプレートの端面側開口におけるガス流路の内径d、及び、エンドプレートの裏面側開口におけるガス流路の内径dは、同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
また、ガス流路の断面形状は特に限定されないが、例えば断面円形状をなすことが好ましい。このようにすれば、一般的なドリル加工等によってガス流路を形成できるため、加工コストを抑えることができる。さらに、ガス流路は、中心軸がエンドプレートの端面に対して垂直に配置されていてもよいし、エンドプレートの端面に対して傾斜した状態で配置されていてもよい。また、ガス流路は、中心軸線が穴部の中心軸と同心状に設定された仮想線の接線に対して傾斜した状態で配置されていてもよい。さらに、ガス流路の中心軸は、穴部の中心軸と平行に配置されていてもよいし、平行に配置されていなくてもよい。
【0021】
なお、エンドプレートとガス通路部材との間に、厚さ方向に貫通して第1の貫通孔とガス流路とを連通させる第2の貫通孔を有する絶縁スペーサが配置され、積層方向から見たときに、ガス流路の開口部が第2の貫通孔よりも内側に配置されている。その結果、エンドプレートとガス通路部材との間に絶縁スペーサが配置されることにより、エンドプレートとガス通路部材とが離間した状態に維持されるため、エンドプレートとガス通路部材とが確実に絶縁される。しかも、ガス流路の開口部が、第1の貫通孔とガス流路とを連通させる第2の貫通孔よりも内側に位置するため、第2の貫通孔を介して確実に第1の貫通孔及びガス流路を連通させることができる。その結果、第1の貫通孔及びガス流路の接続部分を流れるガスの流れを安定させることができる。以上のことから、高い信頼性を有する燃料電池を得ることができる。
【0022】
ここで、絶縁スペーサは、絶縁性、耐熱性、シール性等を考慮して適宜選択することができる。なお、絶縁スペーサは、例えば、絶縁性に優れたマイカなどによって形成されることが好ましく、特には、絶縁性に加えて耐熱性や加工性に優れたマイカセラミックによって形成されることが好ましい。また、絶縁スペーサは、マイカセラミックとは別のセラミック材料によって形成されていてもよい。マイカセラミックとは別のセラミック材料の好適例としては、例えば、アルミナ、ガラスセラミック、結晶化ガラス等の低温焼成材料、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素などが挙げられる。
【0023】
なお、ガス流路の内壁面と穴部の内壁面との間隔Aは1.0mm以上に設定され、ガス流路の内壁面と第2の貫通孔の内壁面との間隔Bは0.5mm以上に設定されていることが好ましい。仮に、ガス流路の内壁面と穴部の内壁面との間隔Aが1.0mm未満になると、ガス流路と穴部とが接近しすぎるため、一般的なドリル加工等によってガス流路及び穴部を形成することが困難になる。しかも、固定部材の先端部を穴部に螺着させた際に、ガス流路の存在が固定部材の軸力に悪影響を与える可能性がある。また、ガス流路の内壁面と第2の貫通孔の内壁面との間隔Bが0.5mm未満になると、絶縁スペーサが位置ずれした際に、絶縁スペーサがガス流路を塞ぐおそれがある。さらに、穴部及びガス流路は、ともにエンドプレートを厚さ方向に貫通する貫通孔であり、ガス流路の内壁面と穴部の内壁面との間隔Aと、ガス流路の内径dとが、A>0.3dの関係を有していることが好ましい。仮に、間隔Aと内径dとの関係がA≦0.3dになると、ガス流路と穴部とが接近しすぎるため、ガス流路及び穴部の強度が低下しやすくなる。
【0024】
また、エンドプレートに、絶縁スペーサを収容するスペーサ収容部が設けられ、絶縁スペーサは、厚さがスペーサ収容部の深さよりも大きく設定され、エンドプレートの端面から突出していることが好ましい。このようにすれば、絶縁スペーサの外周面に対してスペーサ収容部の内壁面が接触することにより、絶縁スペーサがエンドプレートに対して位置決めされる。その結果、第1の貫通孔とガス流路とを連通させる第2の貫通孔よりも内側にガス流路の開口部が確実に位置するようになるため、第2の貫通孔を介してより確実に第1の貫通孔及びガス流路を連通させることができる。また、絶縁スペーサは、スペーサ収容部に収容された際にエンドプレートの外表面から突出する。その結果、ガス通路部材の下端とスペーサ収容部の内側面とを離間させることができるため、エンドプレートとガス通路部材との間隔が一定に保持され、両者の接触が回避される。従って、エンドプレートとガス通路部材とがより確実に絶縁されるため、燃料電池の信頼性をよりいっそう高くすることができる。さらに、スペーサ収容部に絶縁スペーサが収容されることにより、エンドプレートは、絶縁スペーサの下端面に接触するだけでなく、絶縁スペーサの外周面にも接触するため、エンドプレートと絶縁スペーサとの接触面積が大きくなる。よって、エンドプレートと絶縁スペーサとのシール性が向上する。
【0025】
なお、燃料電池の構造は、目的に応じて適宜決定される。例えば、燃料電池スタックが、燃料電池セルの電極層の表面に対向して配置されるコネクタプレートと、燃料電池スタックの端部に位置するコネクタプレートとエンドプレートとの間に、コネクタプレート及びエンドプレートとともに内部空間を包囲して区画する枠体部とを有している場合、エンドプレートのガス流路が内部空間に連通し、コネクタプレートが、内部空間を流れるガスの圧力により、電極層側に変形可能に構成されていてもよい。このようにした場合、内部空間内に多くのガスが充填されると、コネクタプレートは、内部空間内のガスの圧力によって電極層側に膨らむように変形する。その結果、燃料電池の起動時には、コネクタプレートが電極層の表面に常時接触するようになるため、電極層とコネクタプレートとの導通を安定的に確保することができる。従って、燃料電池を確実に機能させることが可能になるため、燃料電池の信頼性を高くすることができる。
【0026】
また、燃料電池スタックの外周部に、ガスである発電用ガスを通過させるための発電用ガス流路を形成する貫通孔が、燃料電池スタックの厚さ方向に沿って燃料電池スタックを貫通するように設けられる場合、内部空間は、貫通孔に連通しており、貫通孔を介して燃料電池セル内に供給される発電用ガス、または、燃料電池セルから貫通孔を介して排出される発電用ガスが流れるものであってもよい。このようにした場合、内部空間内にある発電用ガスによって燃料電池スタックを加熱することができるため、燃料電池スタック内の温度バラツキを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態における燃料電池を示す概略斜視図。
図2】同じく、図1のA−A線断面図。
図3】同じく、上側エンドプレート、ガス通路部材及びボルト等の構造を示す概略断面図。
図4】同じく、上側エンドプレートのネジ穴、上側エンドプレートのガス流路及び絶縁スペーサの第2の貫通孔の位置関係を示す概略平面図。
図5】第2実施形態における燃料電池を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0029】
図1図2に示されるように、本実施形態の燃料電池1は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。燃料電池1は、燃料電池スタック10、エンドプレート12,13、ガス通路部材21及びボルト45(固定部材)を備えている。燃料電池スタック10は、縦180mm×横180mm×高さ80mmの略直方体状をなし、発電反応により電力を発生するようになっている。また、燃料電池スタック10の外周部には、内径14mmの8個の貫通孔40が、燃料電池スタック10の厚さ方向に沿って燃料電池スタック10を貫通するように設けられている。なお、燃料電池スタック10の四隅にある4つの貫通孔40にボルト41を挿通させ、燃料電池スタック10の下方に突出するボルト41の下端部分にナット(図示略)を螺着させる。また、残り4つの貫通孔40にボルト44を挿通させ、燃料電池スタック10の上方及び下方に突出するボルト44の両端部分にナット42を螺着させる。その結果、燃料電池スタック10及びエンドプレート12,13が固定されるようになっている。
【0030】
図1図2に示されるように、燃料電池スタック10は、発電の最小単位である略矩形板状の燃料電池セル11を複数積層してなるものである。燃料電池セル11は、空気極フレーム52、上側絶縁フレーム53、セパレータ54、空気極層55(電極層)、固体電解質層56(固体酸化物層)、燃料極層57(電極層)、下側絶縁フレーム58及び燃料極フレーム59を順番に積層することによって構成されている。また、燃料電池セル11の上端部及び下端部には、コネクタプレート51,60が配置されている。
【0031】
コネクタプレート51,60は、耐熱性及び導電性に優れたステンレスなどの金属材料によって略矩形板状に形成されている。コネクタプレート51,60は、燃料電池セル11内にガスの流路を形成するとともに、隣接する燃料電池セル11同士を導通させるようになっている。詳述すると、コネクタプレート51は空気極層55の表面に対向して配置され、コネクタプレート60は燃料極層57の表面に対向して配置されている。そして、隣接する燃料電池セル11同士の間に位置するコネクタプレート51,60は、いわゆるインターコネクタとなり、隣接する燃料電池セル11同士を区画するようになっている。なお、本実施形態のコネクタプレート60は、下側に隣接する燃料電池セル11のコネクタプレート51を兼ねている。また、燃料電池スタック10の積層方向における上端にさらに配置されたコネクタプレート、具体的には、最上層の燃料電池セル11を構成するコネクタプレート51よりも上方に配置されたコネクタプレート61は、上側エンドプレート12となっている。一方、燃料電池スタック10の積層方向における下端にさらに配置されたコネクタプレート、具体的には、最下層の燃料電池セル11を構成するコネクタプレート60は、下側エンドプレート13となっている。両エンドプレート12,13は、燃料電池スタック10を挟持しており、燃料電池スタック10から出力される電流の出力端子となっている。なお、エンドプレート12,13となるコネクタプレート60,61は、インターコネクタとなるコネクタプレート51,60よりも肉厚になっている。
【0032】
図2に示される空気極フレーム52及び燃料極フレーム59は、ステンレスなどの導電性材料によって形成されている。また、絶縁フレーム53,58は、厚さ0.5mmのマイカシートによって形成されている。空気極フレーム52は、同空気極フレーム52を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部を中央部に有する枠状をなし、燃料極フレーム59は、同燃料極フレーム59を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部を中央部に有する枠状をなしている。また、上側絶縁フレーム53は、同上側絶縁フレーム53を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部を中央部に有する枠状をなし、下側絶縁フレーム58は、同下側絶縁フレーム58を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部を中央部に有する枠状をなしている。さらに、セパレータ54は、ステンレスなどの導電性材料によって略矩形枠状に形成されている。よって、セパレータ54の中央部には、同セパレータ54を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部が設けられている。
【0033】
図2に示されるように、固体電解質層56は、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などのセラミック材料によって形成され、厚さ0.01mmの矩形板状をなしている。固体電解質層56は、セパレータ54の下面に固定されるとともに、セパレータ54の開口部を塞ぐように配置されている。固体電解質層56は、酸素イオン伝導性固体電解質体として機能するようになっている。また、固体電解質層56の上面には、燃料電池スタック10に供給された空気(発電用ガス)に接する空気極層55が貼付され、固体電解質層56の下面には、同じく燃料電池スタック10に供給された燃料ガス(発電用ガス)に接する燃料極層57が貼付されている。即ち、空気極層55及び燃料極層57は、固体電解質層56の両側に配置されている。また、空気極層55は、セパレータ54の開口部内に配置され、セパレータ54と接触しないようになっている。なお、空気極層55は、金属の複合酸化物によって矩形板状に形成され、燃料極層57は、金属材料とセラミック材料との混合物(本実施形態ではサーメット)によって同じく矩形板状に形成されている。
【0034】
図2に示されるように、本実施形態の燃料電池セル11では、下側絶縁フレーム58の開口部、燃料極フレーム59の開口部、及びコネクタプレート60等により、セパレータ54の下方に燃料室S1が形成されるようになっている。なお、燃料室S1内には、固体電解質層56、燃料極層57及び燃料極集電体67が収容されている。燃料極集電体67は、コネクタプレート60に電気的に接続されるとともに、コネクタプレート60と燃料極層57との間に配置され、燃料極層57の表面に接触可能な金属集電体である。
【0035】
また、本実施形態の燃料電池セル11では、コネクタプレート51、空気極フレーム52の開口部、及び、上側絶縁フレーム53の開口部等により、セパレータ54の上方に空気室S2が形成されるようになっている。そして、空気極層55及びコネクタプレート51は、空気極集電体66によって電気的に接続されている。空気極集電体66は、コネクタプレート51に電気的に接続されるとともに、コネクタプレート51と空気極層55との間に配置され、空気極層55の表面に接触可能な金属集電体である。よって、絶縁フレーム53,58は、各燃料電池セル11内に配置して積層されるとともに、燃料室S1と空気室S2とのシール部材を兼ねている。
【0036】
また、図2に示されるように、燃料電池スタック10は、各燃料電池セル11の燃料室S1に燃料ガスを供給するための発電用ガス流路である燃料供給流路70と、燃料室S1から燃料ガスを排出するための発電用ガス流路である燃料排出流路80とを備えている。燃料供給流路70は、貫通孔40である断面円形状の燃料供給孔71と、燃料供給孔71と燃料室S1とを連通させる燃料供給横孔72とによって形成されている。また、燃料排出流路80は、同じく貫通孔40である断面円形状の燃料排出孔81と、燃料排出孔81と燃料室S1とを連通させる燃料排出横孔82とによって形成されている。よって、燃料ガスは、燃料供給孔71及び燃料供給横孔72を順番に通過して燃料室S1に供給され、燃料排出横孔82及び燃料排出孔81を順番に通過して燃料室S1から排出される。
【0037】
さらに、燃料電池スタック10は、各燃料電池セル11の空気室S2に空気を供給するための発電用ガス流路である空気供給流路(図示略)と、空気室S2から空気を排出するための発電用ガス流路である空気排出流路(図示略)とを備えている。空気供給流路は、燃料供給流路70と略同様の構造を有しており、貫通孔40である断面円形状の空気供給孔(図示略)と、空気供給孔と空気室S2とを連通させる空気供給横孔(図示略)とによって形成されている。また、空気排出流路は、燃料排出流路80と略同様の構造を有しており、貫通孔40である断面円形状の空気排出孔(図示略)と、空気排出孔と空気室S2とを連通させる空気排出横孔(図示略)とによって形成されている。よって、空気は、空気供給孔及び空気供給横孔を順番に通過して空気室S2に供給され、空気排出横孔及び空気排出孔を順番に通過して空気室S2から排出される。
【0038】
例えば、燃料電池1を稼働温度に加熱した状態で、燃料供給流路70から燃料室S1に燃料ガスを導入するとともに、空気供給流路から空気室S2に空気を導入する。その結果、燃料ガス中の水素と空気中の酸素とが固体電解質層56を介して反応(発電反応)し、空気極層55を正極、燃料極層57を負極とする直流の電力が発生する。なお、本実施形態の燃料電池スタック10は、燃料電池セル11を複数積層して直列に接続しているため、空気極層55に電気的に接続される上側エンドプレート12が正極となり、燃料極層57に電気的に接続される下側エンドプレート13が負極となる。
【0039】
また、図2図3に示されるように、燃料電池スタック10の上端部に位置するコネクタプレート51(即ち、最上層の燃料電池セル11を構成するコネクタプレート51)と上側エンドプレート12との間には、枠体部62が設けられている。枠体部62は、コネクタプレート51及び上側エンドプレート12とともに、ガス(本実施形態では空気)が流れる内部空間S3を包囲して区画するようになっている。なお、枠体部62は、ステンレスなどの導電性材料によって形成されている。枠体部62は、同枠体部62を厚さ方向に貫通する矩形状の開口部を中央部に有する枠状をなしている。また、コネクタプレート51は、内部空間S3を流れる空気の圧力により、空気極層55側に変形可能に構成されている。
【0040】
図1図4に示されるように、上側エンドプレート12は、縦180mm×横180mm×高さ10mmの略矩形板状をなしている。上側エンドプレート12には、同上側エンドプレート12の端面15の中央部にて開口するスペーサ収容部16が設けられている。スペーサ収容部16は、内径24mm×深さ0.5mmの断面円形状をなしている。
【0041】
また、上側エンドプレート12の中央部には、スペーサ収容部16の底面にて開口するとともに燃料電池スタック10内の内部空間S3に連通するネジ穴17(穴部)が厚さ方向に沿って貫通形成されている。本実施形態のネジ穴17は、断面円形状をなし、内径が10mmに設定されている。
【0042】
さらに、上側エンドプレート12の中央部には、スペーサ収容部16の底面にて開口するとともに内部空間S3に連通するガス流路18が厚さ方向に沿って貫通形成されている。本実施形態のガス流路18は、上側エンドプレート12において3箇所に設けられている。また、各ガス流路18の開口部は、燃料電池セル11の積層方向から見てネジ穴17よりも外側に配置されている。詳述すると、各ガス流路18は、ネジ穴17の中心軸C1と同心状に設定された仮想円C2(図4参照)上において、ネジ穴17を包囲するように配置されている。また、各ガス流路18は、中心軸C1を基準として等角度(120°)間隔に配置されている。なお、本実施形態のガス流路18は、断面円形状をなし、内径dが3.0mmに設定されている。また、ガス流路18は、上側エンドプレート12の端面15に対して垂直に配置され、かつ、ネジ穴17と平行に配置されている。なお、ガス流路18の内壁面とネジ穴17の内壁面との間隔A(最短距離)は、1.0mm以上(本実施形態では1.0mm)に設定されている。即ち、間隔A及び内径dは、1.0d>A>0.3dの関係を有している。
【0043】
図2図3に示されるように、ガス通路部材21は、燃料電池セル11の積層方向に沿ってさらに上側エンドプレート12の端面15上に設置されている。ガス通路部材21は、例えばSUS304等の金属材料によって形成され、本体部22と、同本体部22から径方向外側に延びる分岐管23とを備えている。本体部22は外径24mmの略円筒状をなし、分岐管23は外径12.7mmの円筒状をなしている。また、ガス通路部材21には、上側エンドプレート12のガス流路18を介して内部空間S3に連通するガス通路24が形成されている。ガス通路24には、外部から燃料電池スタック10内に導入されるガス(本実施形態では空気)が流れるようになっている。なお、ガス通路24は、本体部22を燃料電池セル11の積層方向と同一方向に貫通し、ガス流路18に連通する断面円形状の第1の貫通孔25と、分岐管23を積層方向とは直交する方向に貫通し、第1の貫通孔25に連通する断面円形状の分岐孔26とによって構成されている。第1の貫通孔25は、燃料電池セル11の積層方向から見て、各ガス流路18の開口部と重なり合うように配置されている。なお、本実施形態において、第1の貫通孔25の内径は14mmに設定されている。また、分岐孔26の内径は、第1の貫通孔25の内径よりも小さくなっており、本実施形態では10mmに設定されている。
【0044】
また、図2図4に示されるように、上側エンドプレート12とガス通路部材21との間には絶縁スペーサ31が配置されている。絶縁スペーサ31は、上側エンドプレート12側のスペーサ収容部16に収容されるようになっている。絶縁スペーサ31は、マイカシートによって形成されており、外径24mm×内径18mm×厚さ2mmの円環状をなしている。即ち、絶縁スペーサ31の外径は、スペーサ収容部16の内径及び本体部22の外径と同一に設定されている。また、絶縁スペーサ31の厚さは、スペーサ収容部16の深さ(0.5mm)よりも大きく設定されている。よって、絶縁スペーサ31は、上側エンドプレート12の端面15から突出するようになる。そして、絶縁スペーサ31は、下端面32がスペーサ収容部16の底面に接触し、上端面33がガス通路部材21の下端面に接触するようになっている。つまり、絶縁スペーサ31は、上側エンドプレート12とガス通路部材21とを離間させることにより、両者を電気的に絶縁する機能を有している。また、絶縁スペーサ31の外周面34は、スペーサ収容部16の内壁面に接触するようになっている。
【0045】
図3図4に示されるように、絶縁スペーサ31は、同絶縁スペーサ31を厚さ方向に貫通する断面円形状の第2の貫通孔35を有している。そして、燃料電池セル11の積層方向から見たときに、第2の貫通孔35よりも内側には、ネジ穴17の端面15側開口及びガス流路18の端面15側開口(開口部)が配置されるようになっている。即ち、第2の貫通孔35は、ガス通路部材21側の第1の貫通孔25と上側エンドプレート12側のガス流路18とを連通させる機能を有している。また、第2の貫通孔35の内壁面とガス流路18の内壁面との間隔B(最短距離)は0.5mm以上(本実施形態では0.5mm)に設定され、第2の貫通孔35の内壁面とネジ穴17の内壁面との間隔(最短距離)は4.5mmに設定されている。なお、第2の貫通孔35は、ネジ穴17と同一軸線上に配置される一方、ガス流路18とは同一軸線上に配置されないようになっている。
【0046】
図2図3に示されるように、ボルト45は、棒状をなし、第1の貫通孔25及び第2の貫通孔35を挿通するとともに、先端部(下端部)がネジ穴17に螺着されるようになっている。よって、ボルト45の外径は、ネジ穴17の内径と等しくなっており、本実施形態では10mmに設定されている。また、ボルト45の長さは、燃料電池スタック10に到達しない長さに設定されており、本実施形態では50mmに設定されている。即ち、ボルト45の先端面(下端面)は、ネジ穴17の中間地点に位置しており、上側エンドプレート12の裏面側開口に到達しないようになっている。よって、ボルト45の先端面、及び、燃料電池スタック10の上端面(具体的には、最上層の燃料電池セル11を構成するコネクタプレート51の上端面)は、互いに離間している。そして、ガス通路部材21の上端面からのボルト45の突出部分には、ナット46(固定部材)が螺着されている。なお、ガス通路部材21、ボルト45、ネジ穴17及びガス流路18は、燃料電池セル11の積層方向から見て、燃料電池セル11の燃料極層57の周縁で規定される領域内に配置されている(図2参照)。
【0047】
また、ガス通路部材21とナット46との間には、両者を互いに電気的に絶縁するための絶縁スペーサ43が配置されている。絶縁スペーサ43は、本体部22の第1の貫通孔25の上端側開口部に形成された凹部29内に収容されている。絶縁スペーサ43は、マイカシートによって形成されており、外径16mm×内径10mm×厚さ1mmの円環状をなしている。即ち、絶縁スペーサ43の内径はボルト45の外径と同一に設定されている。つまり、絶縁スペーサ43は、同絶縁スペーサ43を挿通するボルト45の外周面に接触することにより、ボルト45を位置決めする機能も有している。
【0048】
よって、燃料電池1を稼働温度に加熱した状態で、ガス通路部材21から内部空間S3に圧力調整用のガス(空気)を供給すると、空気は、ガス通路部材21の分岐孔26から第1の貫通孔25に導入された後、絶縁スペーサ31の第2の貫通孔35及び上側エンドプレート12のガス流路18を通過して内部空間S3に供給される。そして、内部空間S3内に多くの空気が充填されると、最上層の燃料電池セル11を構成するコネクタプレート51は、内部空間S3内の空気の圧力によって空気極集電体66側及び空気極層55側に膨らむように変形する。その結果、空気極集電体66が下方に移動し、空気極集電体66と空気極層55との接触圧が上昇する。この場合、燃料電池スタック10内での電気抵抗の低減が可能となる。
【0049】
次に、燃料電池1の製造方法を説明する。
【0050】
まず、ステンレス板を打ち抜くことにより、コネクタプレート51,60,61、空気極フレーム52、セパレータ54、燃料極フレーム59及び枠体部62を形成する。また、マイカシートを所定形状に形成することにより、絶縁フレーム53,58を形成する。具体的には、市販のマイカシート(マイカと成形用樹脂との複合体からなるシート)を他の部材(コネクタプレート51,60,61、空気極フレーム52、セパレータ54、燃料極フレーム59及び枠体部62など)とほぼ同じ形状に形成する。なお、マイカシートに含まれている樹脂成分は、他の部材とともに積層された後に行われる熱処理によって蒸発する。さらに、マイカシートは、各燃料電池セル11を積層方向にボルト締めした際に他の部材に挟まれることによって、各部材をシールするようになっている。
【0051】
次に、燃料電池セル11を、従来周知の手法に従って形成する。具体的には、燃料極層57となるグリーンシート上に固体電解質層56となるグリーンシートを積層し、焼成する。さらに、固体電解質層56上に空気極層55の形成材料を印刷した後、焼成する(この時点で、SOFCの単セルが得られる)。なお、固体電解質層56は、ロウ付けによってセパレータ54に対して固定される。そして、コネクタプレート51,60、空気極フレーム52、絶縁フレーム53,58、(SOFCの単セルがロウ付けによって固定された)セパレータ54及び燃料極フレーム59などを積層して一体化する。その結果、燃料電池セル11が形成される。
【0052】
次に、各燃料電池セル11を積層して一体化することにより、燃料電池スタック10を形成する。次に、燃料電池スタック10の上端に枠体部62及び上側エンドプレート12を順番に積層するとともに、燃料電池スタック10の下端に下側エンドプレート13を積層する。さらに、上側エンドプレート12の上端部に絶縁スペーサ31及びガス通路部材21を順番に積層する。そして、燃料電池スタック10の四隅にある4つの貫通孔40、及び、上側エンドプレート12の四隅にある4つの上側ボルト孔(図示略)、及び、下側エンドプレート13の四隅にある4つの下側ボルト孔(図示略)にボルト41を挿通させ、下側エンドプレート13の外表面(下面)から突出するボルト41の下端部分にナット(図示略)を螺着させる。また、残り4つの貫通孔40、上側エンドプレート12にある4つの貫通孔47(図2参照)、及び、下側エンドプレート13にある4つの貫通孔48(図2参照)にボルト44を挿通させる。そして、上側エンドプレート12の上面(端面15)から突出するボルト44の上端部分、及び、下側エンドプレート13の下面から突出するボルト44の下端部分にナット42を螺着させる。その結果、燃料電池スタック10及びエンドプレート12,13が積層方向に固定される。さらに、ガス通路部材21にある第1の貫通孔25にボルト45を挿通させ、上側エンドプレート12の中央部分にあるネジ穴17にボルト45の下端部分を螺着させる。そして、ガス通路部材21の上端面から突出するボルト45の上端部分にナット46を螺着させる。その結果、上側エンドプレート12及びガス通路部材21が積層方向に固定され、燃料電池1が完成する。
【0053】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0054】
(1)本実施形態の燃料電池1では、上側エンドプレート12に対するガス通路部材21の固定に用いられるボルト45が、上側エンドプレート12に固定されるものであり、燃料電池スタック10及びエンドプレート12,13を積層方向に固定するボルト41,44とは別のものとなっている。よって、ボルト45の位置を決定する際に、燃料電池スタック10を構成する部材との兼ね合いを考慮しなくても済むため、ボルト45の先端部が螺着されるネジ穴17の位置や、ボルト45が挿通される第1の貫通孔25を有するガス通路部材21の位置を決定する際においても、燃料電池スタック10を構成する部材との兼ね合いを考慮しなくても済む。具体的に言うと、ボルト45は、先端部がネジ穴17に螺着されることによって燃料電池スタック10に到達しなくなるため、燃料電池スタック10の中央部に位置する部材(例えば、空気極層55、固体電解質層56、燃料極層57など)と接触しないようにボルト45を配置するなどの配慮が不要になる。しかも、ガス流路18がネジ穴17を兼ねる構造とはなっていないため、ガス流路18の位置を決定する際に、ネジ穴17に螺着されるボルト45の位置を考慮しなくても済む。以上のことから、ガス通路部材21、ボルト45、ネジ穴17及びガス流路18の設計の自由度が大きくなり、ひいては、燃料電池1の設計の自由度が大きくなる。
【0055】
(2)本実施形態では、最上層の燃料電池セル11を構成するコネクタプレート51が、内部空間S3を流れる空気の圧力により、空気極層55側に変形可能に構成されている。よって、内部空間S3内に多くの空気が充填されると、コネクタプレート51は、内部空間S3内の空気の圧力によって空気極集電体66側及び空気極層55側に膨らむように変形する。その結果、燃料電池1の起動時には、コネクタプレート51が空気極集電体66を介して空気極層55の表面に常時接触するようになるため、空気極層55とコネクタプレート51との導通を安定的に確保することができる。従って、燃料電池1を確実に機能させることが可能になるため、燃料電池1の信頼性を高くすることができる。しかも、本実施形態では、発電に用いられる空気とは別系統の空気を内部空間S3に供給しているため、内部空間S3内の空気の圧力を調整する際に、発電に用いられる空気の供給量を考慮しなくても済む。よって、内部空間S3内の空気の圧力の調整幅を広くすることができる。
【0056】
(3)ところで、上側エンドプレート12にガス流路18を設ける代わりに、ボルト45内にガス流路を軸方向に沿って形成することが考えられる。しかし、この場合、ガス流路の内径dをボルト45の外径よりも大きくすることは不可能であるため、ガス流路を流れるガスの流量が制限されやすくなるという問題がある。また、ボルト45の一部を加工することによってボルト45の軸力が低下するため、ボルト45の先端部を上側エンドプレート12に螺着させたとしても、ガス通路部材21と上側エンドプレート12とを強い力で固定できなくなる。その結果、ガス通路部材21と上側エンドプレート12とのシール性が低下するという問題がある。一方、本実施形態では、ボルト45とは別の箇所にガス流路18を設け、かつ、ガス流路18を複数設けているため、上記の問題を解決することができる。
【0057】
(4)本実施形態では、上側エンドプレート12とガス通路部材21とが絶縁スペーサ31によって互いに電気的に絶縁されるのに加えて、ガス通路部材21とナット46(及びボルト45)とが絶縁スペーサ43によって互いに電気的に絶縁されるようになっている。その結果、燃料電池スタック10とガス通路部材21との間のショートや漏電が防止できるのに加えて、ガス通路部材21とナット46(及びボルト45)との間のショートや漏電も防止することができる。以上のことから、よりいっそう高い信頼性を有する燃料電池1を得ることができる。
【0058】
(5)本実施形態では、ガス通路部材21とナット46(及びボルト45)とを絶縁する機能と、ガス通路部材21とボルト45とを位置決めする機能とを、1つの部品(絶縁スペーサ43)に持たせている。つまり、絶縁機能を有する部品と位置決め機能を有する部品とを別々に準備しなくても済むため、燃料電池1の製造コストを低減させることができる。
【0059】
[第2実施形態]
以下、本発明を具体化した第2実施形態を図面に基づき説明する。ここでは、第1実施形態と相違する部分を中心に説明し、共通する部分については同じ部材番号を付す代わりに説明を省略する。
【0060】
本実施形態では、内部空間などの構造が上記第1実施形態とは異なっている。詳述すると、図5に示される燃料電池101では、内部空間S4が、発電用ガス流路である燃料排出流路180を形成する貫通孔140に連通している。
【0061】
この場合、燃料室S5に導入されて発電反応に用いられた燃料ガスは、燃料排出流路180を構成する燃料排出横孔182及び燃料排出孔181を順番に通過して、燃料室S5から燃料電池101の外部に排出される。そして、燃料排出孔181を通過する燃料ガスの一部が、燃料導入横孔183を通過して内部空間S4に供給される。即ち、内部空間S4には、燃料電池セル111から貫通孔140を介して排出される燃料ガスが流れるようになっている。そして、内部空間S4内に多くの燃料ガスが充填されると、内部空間S4内にある燃料ガスによって燃料電池スタック110を加熱することができる。その後、内部空間S4内の燃料ガスは、上側エンドプレート112のガス流路118及び絶縁スペーサ131の第2の貫通孔135を順番に通過してガス通路部材121の第1の貫通孔125に導入された後、ガス通路部材121の分岐孔126から燃料電池101の外部に排出される。
【0062】
従って、本実施形態によれば、内部空間S4内にある燃料ガスによって燃料電池スタック110を加熱することができるため、燃料電池スタック110内の温度バラツキを低減させることができる。また、内部空間S4内に供給される燃料ガスは、発電反応に用いられることによって発電反応前よりも高温になった燃料ガスであるため、燃料電池スタック110をより効果的に加熱することができる。
【0063】
なお、本実施形態を以下のように変更してもよい。
【0064】
上記第1実施形態では、空気がガス通路部材21を介して内部空間S3に供給され、内部空間S3内の空気の圧力によってコネクタプレート51が空気極層55側に変形するようになっていた。しかし、空気の代わりに燃料ガスを内部空間S3に供給し、内部空間S3内の燃料ガスの圧力によってコネクタプレート51を空気極層55側に変形させるようにしてもよい。
【0065】
上記第2実施形態の内部空間S4は、燃料排出流路180を形成する貫通孔140に連通し、燃料電池セル111から貫通孔140を介して排出される燃料ガスが流れるものであった。しかし、内部空間S4は、燃料供給経路70を形成する貫通孔140に連通し、貫通孔140を介して燃料電池セル111内に供給される燃料ガスが流れるものであってもよい。この場合、燃料ガスは、ガス通路部材121の分岐孔126を介して第1の貫通孔125に導入された後、絶縁スペーサ131の第2の貫通孔135及び上側エンドプレート112のガス流路118を順番に通過して内部空間S4に供給される。そして、内部空間S4内に多くの燃料ガスが充填されると、内部空間S4内にある燃料ガスによって燃料電池スタック110が加熱されるようになる。なお、内部空間S4内の燃料ガスの一部は、燃料供給経路70を形成する燃料供給孔71(貫通孔140)に導かれた後、燃料供給孔71及び燃料供給横孔72を順番に通過して燃料室S5に導入され、発電に用いられる。
【0066】
上記実施形態では、上側エンドプレート12,112のスペーサ収容部16に絶縁スペーサ31を収容し、絶縁スペーサ31の外周面34をスペーサ収容部16の内壁面に接触させることにより、絶縁スペーサ31を上側エンドプレート12,112に対して位置決めしていた。しかし、絶縁スペーサ31の位置決め構造を変更してもよい。例えば、上側エンドプレート12,112の端面15に断面円形状の段差部を突設し、絶縁スペーサ31の第2の貫通孔35の内周面を段差部の外周面に接触させることにより、絶縁スペーサ31を上側エンドプレート12,112に対して位置決めするようにしてもよい。この場合、段差部の先端面(上端面)に、ネジ穴17の端面15側開口及びガス流路18,118の外表面15側開口が位置するようになる。
【0067】
上記実施形態では、ガス通路部材21,121の第1の貫通孔25,125を挿通したボルト45の下端部分を上側エンドプレート12,112のネジ穴17に螺着させるとともに、ガス通路部材21,121の上端面から突出するボルト45の上端部分にナット46を螺着させることにより、上側エンドプレート12,112に対して絶縁スペーサ31及びガス通路部材21,121を積層方向に固定していた。しかし、ガス通路部材21,121の上端面側から第1の貫通孔25,125に対して頭部を有するボルトを挿通させ、ガス通路部材21,121の下端面から突出するボルトの下端部分をネジ穴17に螺着させるようにしてもよい。このようにすれば、ボルトの上端部分に螺着させるナットが不要になるため、燃料電池の製造コストを低減させることができる。
【0068】
上記実施形態の絶縁スペーサ31は、断面円形状の第2の貫通孔35を有し、全体として円環状をなしていた(図4参照)。しかし、絶縁スペーサ31の形状は適宜変更されていてもよい。例えば、断面円形状の貫通孔を有し、全体として略矩形状をなす絶縁スペーサであってもよい。
【0069】
上記実施形態では、上側エンドプレート12,112の端面15上にガス通路部材21,121が設置されていたが、下側エンドプレート13の端面(下端面)上にガス通路部材21を設置するようにしてもよい。また、上側エンドプレート12の端面15上及び下側エンドプレート13の端面上の両方に、ガス通路部材21を設置するようにしてもよい。
【0070】
上記実施形態では、上側エンドプレート12,112と最上層の燃料電池セル11との間のみに内部空間S3,S4が区画されていた。しかし、コネクタプレート60と中間層の燃料電池セル11との間や、下側エンドプレート13と最下層の燃料電池セル11との間にも、内部空間が区画されていてもよい。即ち、内部空間は複数設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,101…燃料電池
10,110…燃料電池スタック
11,111…燃料電池セル
12,112…エンドプレートとしての上側エンドプレート
13…エンドプレートとしての下側エンドプレート
15…エンドプレートの端面
17…穴部としてのネジ穴
18,118…ガス流路
21,121…ガス通路部材
24…ガス通路
25,125…第1の貫通孔
31,131…絶縁スペーサ
35,135…第2の貫通孔
45…固定部材としてのボルト
51,60…コネクタプレート
55…電極層としての空気極層
56…電解質層としての固体電解質層
57…電極層としての燃料極層
62…枠体部
S3…内部空間
図1
図2
図3
図4
図5