【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段(手段1)としては、燃料電池セルを複数積層してなる燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックの積層方向における両端の少なくとも一方にさらに積層され、ガス流路を有する板状のエンドプレートと、前記積層方向に沿ってさらに前記エンドプレートの端面上に設置されるとともに、前記ガス流路に連通するガス通路を有するガス通路部材とを備える燃料電池であって、前記ガス通路部材は、前記ガス通路の少なくとも一部を構成し前記積層方向に貫通する第1の貫通孔を有し、かつ、前記第1の貫通孔に挿通され先端部が前記エンドプレートの穴部に固定されている棒状の固定部材を備え、
前記固定部材は、前記燃料電池スタック及び前記エンドプレートを積層方向に固定する部材とは別のものであり、前記ガス流路は前記第1の貫通孔に連通し、前記ガス流路の開口部は、前記積層方向から見て、前記穴部よりも外側において前記第1の貫通孔と重なり合うように配置されて
おり、前記エンドプレートと前記ガス通路部材との間に、厚さ方向に貫通して前記第1の貫通孔と前記ガス流路とを連通させる第2の貫通孔を有する絶縁スペーサが配置され、前記積層方向から見たときに、前記ガス流路の前記開口部が前記第2の貫通孔よりも内側に配置されていることを特徴とする燃料電池がある。
【0009】
手段1に記載の発明によると、固定部材は、エンドプレートに固定されるものであるため、燃料電池スタック及びエンドプレートを積層方向に固定する部材とは別のものとなっている。よって、固定部材の位置を決定する際に、燃料電池スタックを構成する部材との兼ね合いを考慮しなくても済むため、固定部材の先端部が固定される穴部の位置や、固定部材が挿通される第1の貫通孔を有するガス通路部材の位置を決定する際においても、燃料電池スタックを構成する部材との兼ね合いを考慮しなくても済む。しかも、ガス流路が穴部を兼ねる構造とはなっていないため、ガス流路の位置を決定する際に、穴部に固定される固定部材の位置を考慮しなくても済む。以上のことから、ガス通路部材、固定部材、穴部及びガス流路の設計の自由度が大きくなり、ひいては、燃料電池の設計の自由度が大きくなる。例えば、燃料電池セルが、電解質層と該電解質層との両側に配置された電極層とからなる場合、ガス通路部材を、積層方向から見て、電極層の周縁で規定される領域内に配置することができる。
【0010】
ここで、燃料電池としては、ZrO
2系セラミックなどを電解質とする固体酸化物形燃料電池(SOFC)、高分子電解質膜を電解質とする固体高分子形燃料電池(PEFC)、Li−Na/K系炭酸塩を電解質とする溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、リン酸を電解質とするリン酸形燃料電池(PAFC)などが挙げられる。なお、燃料電池の稼働温度(即ち、イオンが電解質中を移動可能となる温度)は、燃料電池の種類ごとに異なっている。具体的に言うと、SOFCの稼働温度は700℃〜1000℃程度、PEFCの稼働温度は常温〜90℃程度、MCFCの稼働温度は650℃〜700℃程度、PAFCの稼働温度は150℃〜200℃程度である。
【0011】
燃料電池が備える燃料電池スタックは、燃料電池セルを複数積層してなる。燃料電池がSOFCである場合、燃料電池セルは、固体酸化物からなる電解質層と、電解質層の両側に配置された電極層とを備えることがよい。燃料電池セルを構成する電解質層は、電極層に接する発電用ガスの一部がイオンとなって移動する性質(イオン電導性)を有している。なお、電解質層中を移動するイオンとしては、例えば酸素イオンや水素イオンなどが挙げられる。また、電極層は、電解質層の表面側に配置され発電用ガスである酸化剤ガスに接する空気極層、及び、電解質層の裏面側に配置され発電用ガスである燃料ガスに接する燃料極層であることがよい。
【0012】
電解質層(固体酸化物層)の形成材料としては、例えばZrO
2系セラミック、LaGaO
3系セラミック、BaCeO
3系セラミック、SrCeO
3系セラミック、SrZrO
3系セラミック、CaZrO
3系セラミックなどがある。
【0013】
また、燃料電池セルを構成する燃料極層は、例えば還元剤となる燃料ガスと電解質層内を移動してきた酸素イオンとを反応させる機能を有することにより、燃料電池セルにおける負電極として機能する。ここで、燃料極層の形成材料としては、例えば、希土類元素(Sc、Yなど)により安定化されたZrO
2系セラミック、及び、希土類元素(Sm、Gdなど)をドープしたCeO
2系セラミック等のうち、少なくとも1つのセラミック材料と、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh、Ni、Fe等の金属材料及びそれら金属材料の合金のうちの少なくとも1つと、を混合した金属セラミック材料の混合物(サーメット)を使用することができる。
【0014】
また、燃料ガスとしては、例えば、水素ガス、炭化水素ガス、水素ガスと炭化水素ガスとの混合ガスなどが挙げられる。燃料ガスとして炭化水素ガスを選択した場合、炭化水素ガスの種類は特に限定されないが、例えば、天然ガス、ナフサ、石炭ガス等であることが好ましい。なお、水中にガス(水素ガス、炭化水素ガス、混合ガス)を通過させて加湿することによって得られる燃料ガスや、ガス(水素ガス、炭化水素ガス、混合ガス)に水蒸気を混合させることによって得られる燃料ガスを選択してもよい。また、1種類の燃料ガスのみを用いてもよいし、複数種類の燃料ガスを併用してもよい。さらに、燃料ガスは、窒素やアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。また、液体の原料を気化したものを燃料ガスとして使用したり、水素ガス以外のガスを改質して生成した水素ガスを燃料ガスとして使用したりすることもできる。
【0015】
燃料電池セルを構成する空気極層は、酸化剤となる酸化剤ガスと接触し、燃料電池セルにおける正電極として機能する。ここで、空気極層の形成材料としては、例えば、金属材料、金属の酸化物、金属の複合酸化物などを挙げることができる。金属材料の好適例としては、Pt、Au、Ag、Pd、Ir、Ru、Rh等やそれらの合金などがある。金属の酸化物の好適例としては、例えば、La、Sr、Ce、Co、Mn、Feの酸化物(La
2O
3、SrO、Ce
2O
3、Co
2O
3、MnO
2、FeO)などがある。金属の複合酸化物の好適例としては、例えば、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mnを含有する複合酸化物(La
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xFeO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3系複合酸化物、La
1−xSr
xMnO
3系複合酸化物、Pr
1−xBa
xCoO
3系複合酸化物、Sm
1−xSr
xCoO
3系複合酸化物)などがある。
【0016】
また、酸化剤ガスとしては、例えば、酸素と他の気体との混合ガスなどが挙げられる。この混合ガスは、窒素やアルゴン等の不活性ガスを含有していてもよい。なお、混合ガスは、安全で安価な空気であることが好ましい。
【0017】
さらに、エンドプレートには、ガス流路や、固定部材の先端部を固定する穴部が設けられる。ここで、ガス流路は、エンドプレートにおいて複数設けられ、複数のガス流路は、穴部を包囲するように配置されるとともに、穴部を中心として周方向に沿って配置されていることが好ましい。このようにすれば、複数のガス流路を均等に配置することができるため、ガス通路を通過するガスを、それぞれのガス流路に均等に分散させることができる。その結果、ガス流路及びガス通路を通過するガスの流れを安定させることができるため、高い信頼性を有する燃料電池を得ることができる。
【0018】
なお、複数のガス流路の数は特に限定されないが、例えば3個以上6個以下であることが好ましい。仮に、ガス流路の数が6個よりも多い場合、穴部を包囲するように全てのガス流路を開口させることが困難になる。また、エンドプレートの加工コストが高くなるという問題もある。一方、ガス流路の数が3個未満である場合、ガス流路を通過するガスが受ける抵抗が大きくなるため、ガス流路及びガス通路を通過するガスの流れが安定しなくなるおそれがある。
【0019】
さらに、複数のガス流路の内径dは特に限定されないが、例えば、内径dが1.0mm以上5.0mm以下に設定されることが好ましい。仮に、内径dが1.0mm未満になると、ガス流路を通過するガスが受ける抵抗が大きくなるため、ガス流路及びガス通路を通過するガスの流れが安定しなくなるおそれがある。一方、内径dが5.0mmよりも大きくなると、固定部材の先端部を穴部に螺着させた際に、ガス流路の存在が固定部材の軸力に悪影響を与える可能性がある。なお、エンドプレートの端面側開口におけるガス流路の内径d、及び、エンドプレートの裏面側開口におけるガス流路の内径dは、同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0020】
また、ガス流路の断面形状は特に限定されないが、例えば断面円形状をなすことが好ましい。このようにすれば、一般的なドリル加工等によってガス流路を形成できるため、加工コストを抑えることができる。さらに、ガス流路は、中心軸がエンドプレートの端面に対して垂直に配置されていてもよいし、エンドプレートの端面に対して傾斜した状態で配置されていてもよい。また、ガス流路は、中心軸線が穴部の中心軸と同心状に設定された仮想線の接線に対して傾斜した状態で配置されていてもよい。さらに、ガス流路の中心軸は、穴部の中心軸と平行に配置されていてもよいし、平行に配置されていなくてもよい。
【0021】
なお、エンドプレートとガス通路部材との間に
は、厚さ方向に貫通して第1の貫通孔とガス流路とを連通させる第2の貫通孔を有する絶縁スペーサが配置され、積層方向から見たときに、ガス流路の開口部が第2の貫通孔よりも内側に配置されてい
る。その結果、エンドプレートとガス通路部材との間に絶縁スペーサが配置されることにより、エンドプレートとガス通路部材とが離間した状態に維持されるため、エンドプレートとガス通路部材とが確実に絶縁される。しかも、ガス流路の開口部が、第1の貫通孔とガス流路とを連通させる第2の貫通孔よりも内側に位置するため、第2の貫通孔を介して確実に第1の貫通孔及びガス流路を連通させることができる。その結果、第1の貫通孔及びガス流路の接続部分を流れるガスの流れを安定させることができる。以上のことから、高い信頼性を有する燃料電池を得ることができる。
【0022】
ここで、絶縁スペーサは、絶縁性、耐熱性、シール性等を考慮して適宜選択することができる。なお、絶縁スペーサは、例えば、絶縁性に優れたマイカなどによって形成されることが好ましく、特には、絶縁性に加えて耐熱性や加工性に優れたマイカセラミックによって形成されることが好ましい。また、絶縁スペーサは、マイカセラミックとは別のセラミック材料によって形成されていてもよい。マイカセラミックとは別のセラミック材料の好適例としては、例えば、アルミナ、ガラスセラミック、結晶化ガラス等の低温焼成材料、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素などが挙げられる。
【0023】
なお、ガス流路の内壁面と穴部の内壁面との間隔Aは1.0mm以上に設定され、ガス流路の内壁面と第2の貫通孔の内壁面との間隔Bは0.5mm以上に設定されていることが好ましい。仮に、ガス流路の内壁面と穴部の内壁面との間隔Aが1.0mm未満になると、ガス流路と穴部とが接近しすぎるため、一般的なドリル加工等によってガス流路及び穴部を形成することが困難になる。しかも、固定部材の先端部を穴部に螺着させた際に、ガス流路の存在が固定部材の軸力に悪影響を与える可能性がある。また、ガス流路の内壁面と第2の貫通孔の内壁面との間隔Bが0.5mm未満になると、絶縁スペーサが位置ずれした際に、絶縁スペーサがガス流路を塞ぐおそれがある。さらに、穴部及びガス流路は、ともにエンドプレートを厚さ方向に貫通する貫通孔であり、ガス流路の内壁面と穴部の内壁面との間隔Aと、ガス流路の内径dとが、A>0.3dの関係を有していることが好ましい。仮に、間隔Aと内径dとの関係がA≦0.3dになると、ガス流路と穴部とが接近しすぎるため、ガス流路及び穴部の強度が低下しやすくなる。
【0024】
また、エンドプレートに、絶縁スペーサを収容するスペーサ収容部が設けられ、絶縁スペーサは、厚さがスペーサ収容部の深さよりも大きく設定され、エンドプレートの端面から突出していることが好ましい。このようにすれば、絶縁スペーサの外周面に対してスペーサ収容部の内壁面が接触することにより、絶縁スペーサがエンドプレートに対して位置決めされる。その結果、第1の貫通孔とガス流路とを連通させる第2の貫通孔よりも内側にガス流路の開口部が確実に位置するようになるため、第2の貫通孔を介してより確実に第1の貫通孔及びガス流路を連通させることができる。また、絶縁スペーサは、スペーサ収容部に収容された際にエンドプレートの外表面から突出する。その結果、ガス通路部材の下端とスペーサ収容部の内側面とを離間させることができるため、エンドプレートとガス通路部材との間隔が一定に保持され、両者の接触が回避される。従って、エンドプレートとガス通路部材とがより確実に絶縁されるため、燃料電池の信頼性をよりいっそう高くすることができる。さらに、スペーサ収容部に絶縁スペーサが収容されることにより、エンドプレートは、絶縁スペーサの下端面に接触するだけでなく、絶縁スペーサの外周面にも接触するため、エンドプレートと絶縁スペーサとの接触面積が大きくなる。よって、エンドプレートと絶縁スペーサとのシール性が向上する。
【0025】
なお、燃料電池の構造は、目的に応じて適宜決定される。例えば、燃料電池スタックが、燃料電池セルの電極層の表面に対向して配置されるコネクタプレートと、燃料電池スタックの端部に位置するコネクタプレートとエンドプレートとの間に、コネクタプレート及びエンドプレートとともに内部空間を包囲して区画する枠体部とを有している場合、エンドプレートのガス流路が内部空間に連通し、コネクタプレートが、内部空間を流れるガスの圧力により、電極層側に変形可能に構成されていてもよい。このようにした場合、内部空間内に多くのガスが充填されると、コネクタプレートは、内部空間内のガスの圧力によって電極層側に膨らむように変形する。その結果、燃料電池の起動時には、コネクタプレートが電極層の表面に常時接触するようになるため、電極層とコネクタプレートとの導通を安定的に確保することができる。従って、燃料電池を確実に機能させることが可能になるため、燃料電池の信頼性を高くすることができる。
【0026】
また、燃料電池スタックの外周部に、ガスである発電用ガスを通過させるための発電用ガス流路を形成する貫通孔が、燃料電池スタックの厚さ方向に沿って燃料電池スタックを貫通するように設けられる場合、内部空間は、貫通孔に連通しており、貫通孔を介して燃料電池セル内に供給される発電用ガス、または、燃料電池セルから貫通孔を介して排出される発電用ガスが流れるものであってもよい。このようにした場合、内部空間内にある発電用ガスによって燃料電池スタックを加熱することができるため、燃料電池スタック内の温度バラツキを低減させることができる。