(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956237
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】藻類培養方法、藻類培養装置、藻類培養液及びその製造方法、並びに微細藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20160714BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12M1/00 E
【請求項の数】15
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-102633(P2012-102633)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-230091(P2013-230091A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 通代
(72)【発明者】
【氏名】柳 道男
【審査官】
松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−326023(JP,A)
【文献】
特開2010−179214(JP,A)
【文献】
特開2011−104584(JP,A)
【文献】
特開2012−024752(JP,A)
【文献】
特開2005−279445(JP,A)
【文献】
山本縁 他,微細藻類培養における各種有機系廃液の利用に関する基礎的検討,土木学会年次学術講演会講演概要集,2011年,第66回、第7部門,VII-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
C12N 1/00− 7/08
G21F 9/00− 9/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を有するめっき廃液により藻類を培養することを特徴とする藻類培養方法。
【請求項2】
前記めっき廃液として、無電解ニッケルめっき廃液を用いることを特徴とする請求項1に記載の藻類培養方法。
【請求項3】
前記めっき廃液として、重金属成分の量を低減した後のめっき廃液を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の藻類培養方法。
【請求項4】
前記めっき廃液として、めっき処理にて繰り返し使っためっき廃液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の藻類培養方法。
【請求項5】
前記めっき廃液として、ターン数の進行に応じてリン成分又は有機酸成分、あるいはその両方の成分補給を行って繰り返しめっき処理された1ターン以上のめっき廃液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の藻類培養方法。
【請求項6】
前記めっき廃液として、窒素又は無機塩類、あるいはその両方の成分を含む添加剤を含有するめっき廃液を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の藻類培養方法。
【請求項7】
前記めっき廃液として、窒素、無機塩類、硫酸、ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むめっき廃液を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の藻類培養方法。
【請求項8】
前記めっき廃液として、亜リン酸イオンの含有量が次亜リン酸イオンの含有量よりも多いめっき廃液を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の藻類培養方法。
【請求項9】
前記めっき廃液として、硫酸イオンの含有量が次亜リン酸の含有量よりも多いめっき廃液を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の藻類培養方法。
【請求項10】
前記めっき廃液を含有する液に、光合成する原生動物を入れて培養することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の藻類培養方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の藻類培養方法を、炭化水素を生産する微細藻類の培養に用いることを特徴とする炭化水素を生産する微細藻類の培養方法。
【請求項12】
無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を有するめっき廃液を収容する培養槽と、前記培養槽内に藻類を供給する供給手段とを備え、前記培養槽内のめっき廃液を含有する液で藻類を培養することを特徴とする藻類培養装置。
【請求項13】
無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を有するめっき廃液を少なくとも含有することを特徴とする藻類培養液。
【請求項14】
めっき廃液から回収しためっき廃液由来の無機リン成分であって、無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を少なくとも含有することを特徴とする藻類培養液。
【請求項15】
めっき廃液から重金属成分の量を低減し、無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を少なくとも含有する液を得ることを特徴とする藻類培養液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、無電解ニッケルめっき等のめっき廃液を用いた藻類培養方法、藻類培養装置、藻類培養液及びその製造方法、並びに微細藻類の培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、藻類を培養し、回収した藻類を用いて新たなエネルギー源とする取り組みが注目されている。藻類を培養する方法としては、例えば、専用の液体培地(培養液)に藻類を入れて培養を行う方法が一般的である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−75555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の藻類培養方法では、所定の組成に調整された液体培地を用意していたため、手間とコストが掛かっていた。
【0005】
そこで、本発明は、めっき廃液を有効活用して藻類を培養する仕組みを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の藻類培養方法は、
無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を有するめっき廃液
により藻類を培養することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、上記藻類培養方法を、炭化水素を生産する微細藻類の培養に用いることを特徴とする炭化水素を生産する微細藻類の培養方法にも適用可能である。
【0008】
さらに、本発明に係る藻類培養装置は、
無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を有するめっき廃液を収容する培養槽と、前記培養槽内に藻類を供給する供給手段とを備え、前記培養槽内のめっき廃液を含有する液で藻類を培養することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る藻類培養液は、
無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を有するめっき廃液を少なくとも含有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明に係る藻類培養液は、めっき廃液から回収しためっき廃液由来のリン成分
であって、無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を少なくとも含有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、めっき廃液から重金属成分の量を低減し
、無電解めっきで用いる化学還元剤である無機リン酸及びその酸化物を含む無機リン成分を少なくとも含有する液を得ることを特徴とする藻類培養液の製造方法も対象に含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、めっき廃液を有効活用して、特に廃液中のリン成分、有機酸成分を藻類の栄養源として再利用することで藻類を効果的に培養することができる。したがって、藻類の培養液を調合する手間を低減でき、コスト削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る藻類培養装置の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の一例を挙げて詳細に説明する。
本発明は、めっき廃液の中でも、リン成分又は有機酸成分、或いはその両方を有するめっき廃液を用いるか、あるいはめっき廃液由来のリン成分又は有機成分、あるいはその両方を含有する液を用いて藻類を培養する点にある。特に、本発明は、めっき廃液中に含まれるリン成分又は有機酸成分に着目し、これら各成分が藻類の培養における栄養成分として活用する点にある。これにより、藻類の培養液を調合する手間を低減でき、コスト削減を図ることができる。また、本発明によれば、環境負荷が高いめっき廃液を有効活用できるため、産業廃棄物として処分するための処理に要する設備投資や処理剤などのコストを低減することができる。そもそも、めっき廃液は環境負荷の高いものであるので、専用の処理設備や各種の処理剤を用いて、環境負荷を低減するための処理を行う必要がある。例えば、従来の無電解ニッケルめっき廃液処理においては、ニッケル回収のための設備とリン回収のための設備をそれぞれ設けるための設備費や運転コスト、設備場所の確保等を要していた。本発明によれば、めっき廃液処理の対象となるめっき廃液の少なくとも一部を藻類の培養に使うことで、めっき処理負荷の低減だけでなく、めっき廃液の有効活用を図れるものである。
【0015】
ここで、炭化水素を生産するボトリオコッカス・ブラウニー等のような藻類を培養すれば、藻類を用いた自然エネルギー化の原料としても有効活用することができる。また、藻類としては、単細胞の藻類または微細藻類(特に、比較的サイズが小さい藻類)が挙げられる。さらに、本発明としては、光合成の有無を問わず、リン成分又は有機酸成分、或いはその両方を栄養源とする藻類を培養するのに適しているが、例えば、ボトリオコッカス・ブラウニー、ユーグレナ、オーランチオキトリウム等の炭化水素を生産する藻類についても好適に用いることができる。また、光合成を問わず生育できるクロレラ等の藻類も培養に適している。
【0016】
ここで、めっき廃液としては、培養液としてそのままで用いてもよいが重金属成分を低減又は除去した後のものを用いるのが好ましい。また、めっき廃液としては、リン成分及び有機酸成分を含有する無電解ニッケルめっき廃液を用いることが好ましい。また、藻類の培養液として無電解ニッケルめっき廃液を用いる場合には、そのまま用いてもよいが、重金属成分(ここではニッケル成分)を回収する処理、例えば、電気透析やイオン交換法等の低減処理又は除去を施した後の廃液を用いることが特に好ましい。その理由としては、ニッケル等の重金属成分を回収することで再利用できることに加え、めっき廃液中のリン成分又は有機酸成分、或いはその両方の成分を、めっき後廃液中よりも処理後廃液中の方がそれらの成分の比率を高くすることができるためである。このように重金属成分を除去した後のめっき廃液を培養液として用いれば、藻類の培養効率を高めることができる。
【0017】
なお、上記めっき廃液としては、リン成分(次亜リン酸、亜リン酸、亜リン酸ニッケル等のリン酸塩等)又は有機酸成分(クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸等)以外に、窒素(アンモニア等)、無機塩類、硫酸からなる群から選択される少なくとも1つの成分を含むめっき廃液を用いることが可能である。
【0018】
ここで、めっき廃液としては、めっき処理にて繰り返し使っためっき廃液を用いることが好ましい。めっき処理を繰り返し行った後のめっき廃液は、藻類の栄養成分であるリン成分や有機酸成分の濃度が相対的に高いためである。具体的には、めっき廃液として、ターン数の進行に応じてリン成分又は有機酸成分、あるいはその両方の成分補給を行って繰り返しめっき処理された1ターン以上のめっき廃液を用いることが好ましく、更に好ましくは3ターン以上、更に好ましくは5ターン以上のめっき廃液を用いれば有効である。
【0019】
下記表1には、無電解ニッケルめっき液1l(リットル)あたりの各ターンごとの成分含有量を示す。ここで、「ターン」とは、連続タイプのめっき液で、液の老化具合を知るときの指標であり、例えば、下記表1では建浴時に浴中に含まれるニッケルを(理論的に)全て使用した時点を1ターンとして表す。下記表1に示すように、ターン数が多くなるほど、1l(リットル)のめっき液(廃液)に含まれる硫酸イオン、亜リン酸イオン、各有機酸A〜Cの各成分の含有量が多くなる。すなわち、ターン数が多いめっき液ほど、藻類の培養液として栄養成分が多く、藻類を培養する上で非常に有利であることが分かる。ここで、ターン数が多いめっき液は、下記表1に示すように、亜リン酸イオンの含有量が次亜リン酸イオンの含有量よりも多く、硫酸イオンの含有量が次亜リン酸の含有量よりも多いことが分かる。なお、亜リン酸イオンについては、めっき処理に伴って次亜リン酸イオンの少なくとも一部が変化したものもが含まれる。このようにターン数が多いめっき液ほど藻類の栄養成分が多いため、これを培養液として用いれば、藻類の培養効率を高めることができる。なお、めっき廃液をそのまま培養液とすると、栄養成分が高濃度であるので、水や水道水などの希釈水により100倍〜1000倍に薄めたものを培養液とすることが好ましい。
【0020】
<表1> 無電解ニッケルめっき液の主な組成例
【0021】
また、本発明においては、めっき廃液として、窒素又は無機塩類、あるいはその両方の成分を含む添加剤を含有するめっき廃液を用いることが好ましい。めっき処理において窒素成分や無機塩類等の成分が添加されている場合には、そのままのめっき廃液を用いてもよいし、めっき廃液に窒素成分や無機塩類等の成分が不足していれば、それらを別途、添加剤として加えて本発明の藻類培養液とすることも可能である。これにより、藻類の培養効率を更に向上することができる。
【0022】
ここで、本発明においては、めっき廃液中には、めっき廃液中に含まれる成分を栄養素とできる藻類を選択し、且つ光合成に適した培養環境を整えることにより、光合成を行いながら増殖する原生動物の培養も可能である。
【0023】
光合成を行う藻類及び原生動物を培養する場合は、LED照明、メタルハラルド灯、高圧ナトリウム灯、白色蛍光灯、白熱灯等を培養槽内の上部及び下部に各々設置することで、培養槽内の撹拌機構と相成って培養槽内の藻類及び原生生物全体に光照射が可能となる。また、その際の培養槽の深さは、例えば、培養槽の底側にいる藻類に対しても適度に光が届く範囲であることが好ましいが、必要に応じて攪拌機構など設ければよく、これに限定されない。また、植物は呼吸と光合成を交互に行うことを想定し、光照射時間は適宜調整すればよい。また、このような培養装置としては、培養環境条件の一つとして、外気(空気)や二酸化炭素等を適宜供給する設備を有する。
【0024】
また、上述したような本発明の藻類培養方法は、例えば、リン成分又は有機酸成分、或いはその両方を有するめっき廃液を収容するタンクと、藻類を培養する撹拌機構を備えた培養槽と、この培養槽内にめっき廃液及び藻類を供給する供給手段とを備え、培養槽内のめっき廃液を用いて藻類を培養する藻類培養装置により効率的に実施することができる。
【0025】
ここで、
図1を参照して、本発明の藻類培養装置の一実施形態例を説明する。
図1は、本発明に係る藻類培養装置の一例を示す概略構成図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の藻類培養装置1は、廃液貯留タンク11と希釈液貯留タンク12とが個別の配管11a,12aを介して藻類の培養槽13にそれぞれ接続されている。また、廃液貯留タンク11及び希釈液貯留タンク12と培養槽13とを接続する配管11a,12aのそれぞれには、不純物等を取り除くフィルタ装置11b,12bが配置されている。培養槽13には、図示しないが、外部から藻類が適宜投入可能な投入口が設けられている。また、培養槽13の底側には、外気(空気)を取り入れるノズル14と、培養槽13内から培養液を排出する排出配管15とが接続されている。なお、この排出配管15には、バルブ16を介して藻類の回収装置(例えば、ろ過装置等)17が接続され、この回収装置17を経由して藻類回収済みの培養液を再び培養槽14に戻す循環配管18が接続されている。なお、上述した各配管11a,12a,15,18には、それぞれ送液用のポンプが接続され、流量が制御可能となっている。培養槽13内で培養した藻類は、培養槽13から直接回収してもよいし、回収装置17から回収してもよい。前者の場合には、回収装置17が培養槽13からの回収時に残った藻類を回収する役目を担う。
【0027】
このような構成の藻類培養装置1は、廃液貯留タンク11に所定のめっき廃液(高濃度の原液)を入れておき、高濃度のめっき廃液を希釈液(例えば水等)と共に培養槽13内に供給する。培養槽13では、高濃度のめっき廃液が希釈水によって所定の濃度となるように調整され、この状態で藻類が投入され、ノズル14から適度に空気を供給されて、藻類の培養を行うようになっている。なお、培養槽13内に攪拌手段を設けて、必要に応じて槽内攪拌を行うようにしてもよい。希釈水としては、純水でもよいし水道水等でもよい。また、培養槽13から培養後の溶液を排出した後の培養液は、藻類の回収装置17を通って再び培養槽13に戻されるが、次の培養のために、めっき廃液と希釈水とを適量供給して、培養槽13内の培養液を調合する。このような調合処理においては、培養槽13内の藻類の栄養成分が所定量となるように調整すべく、図示しない制御部によって送液用の各ポンプの駆動を制御することにより、めっき廃液等の各供給量や排出量が調整される。
【0028】
なお、本実施形態の藻類培養装置1は、藻類を投入する投入口を設けたが、本発明はこれに限定されず、例えば、培養槽に対して藻類を自動的に供給する手段を接続してもよい。また、
図1では、藻類の培養槽13を1つ設けた例を説明しているが、培養槽13を複数設ける場合には、各培養槽にめっき廃液や希釈水を供給可能とすればよい。さらに、藻類の回収装置17と培養槽13とをつなぐ循環配管(管路)18に藻類回収後の溶液を一時的に貯留する貯留タンクを設けてもよい。いずれにしても、本発明は、上述した藻類培養装置1の具体的な構成に限定されるものではない。
【0029】
ここで、本発明は、リン成分又は有機酸成分、或いはその両方を有するめっき廃液を少なくとも含有する藻類培養液にも適用可能である。このような本発明の藻類培養液は、めっき廃液だけを用いても実現できるが、水などで適宜希釈してもよいし、藻類の培養を更に促進させるため、窒素成分(硝酸、硝酸塩、アンモニア等)、無機塩類(硫酸カリウム、硝酸カリウム等)等の藻類の培養に適した成分を適宜調整して混合することが更に好ましい。
【0030】
ところで、金属イオンを含む水溶液から金属を析出させる方法には、外部からの電流を用いる電気めっき法と、電気を作用させる必要のない無電解めっき法とがあり、後者には、化学的還元を利用した化学めっき法等がある。化学めっき法では、例えば、ニッケル、コバルト、銀、金、銅、及び高合金鋼を含む金属類によって固体表面に金属皮膜を形成することができる。特に、無電解ニッケルめっきは、耐蝕性や硬度が高く、光沢が得られることから、電子部品、家電製品、自動車部品、化学装置、工業設備等あらゆる金属素材、プラスチック、セラミック等の表面処理に使用されている。
【0031】
無電解ニッケルめっき廃液には、ニッケル塩、化学還元剤である次亜リン酸及びその酸化物である亜リン酸等の無機リン成分、水酸化ニッケル及び亜リン酸ニッケルの沈殿防止のための錯化剤やpH緩衝剤として有機酸などの有機系添加物を含んでおり、更にpH調製剤として硫酸や水酸化ナトリウム、アンモニア等も含まれている。
【0032】
ここで、このような無電解ニッケルめっき廃液中からニッケルを回収する方法としては、陰イオン交換膜にニッケルイオンを取り込ませて回収する電気透析、イオン交換法、溶媒抽出法、置換析出法等がある。これらの方法により、無電解ニッケルめっき廃液中からニッケル成分を選択的に除去した廃液、すなわち、本発明に係る一つの藻類培養液を効率よく製造することができる。
【0033】
また、リンの回収方法としては、次亜リン酸イオンを紫外線照射下で過酸化水素と反応させ、正リン酸イオンに酸化した後、不溶性の塩として廃液中から除去する方法、次亜リン酸を過硫酸塩と反応させる事により亜リン酸又は正リン酸とし、不溶性の塩として廃液中から除去する処理方法、亜リン酸ニッケル又はニッケル以外の金属化合物を触媒として次亜リン酸を亜リン酸に酸化した後に、次亜塩素酸系酸化剤にて正リン酸に酸化した後に不溶性の塩として廃液中から除去する方法等を用いることができる。これにより、めっき廃液中からリン成分を選択的に抽出でき、このようなめっき廃液由来のリン成分を藻類の培養成分として有効に再利用することができる。すなわち、めっき廃液由来のリン成分をそのまま培養成分としてもよいし、既存にある培養液に、めっき廃液由来のリン成分を藻類培養液用の添加剤として加えて、本発明の藻類培養液とすることも可能である。つまり、本発明は、めっき廃液由来のリン成分からなる培養成分、あるいはこのような培養成分を含む藻類培養液用添加剤についても適用対象の範囲に含まれる。なお、めっき廃液由来のリン成分(めっき廃液から抽出した培養成分)を、めっき廃液に添加し、当該めっき廃液中のリン成分の濃度を高濃度に調整した廃液を藻類の培養液とすれば、藻類培養効率を高めることができる。「めっき廃液由来のリン成分又は有機酸成分」とは、めっき廃液から回収したリン成分又は有機酸成分を示すものであり、これに、めっき廃液の成分を含有している場合を含む。
【0034】
ここで、上述した本実施形態では、藻類培養装置として、めっき廃液及び希釈水を培養槽に供給する構造を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上述したリン成分を回収する機能を備えたリン成分回収部、有機酸成分を回収する機能を備えた有機酸成分回収部、又はこれら各回収部で回収した各成分を培養槽へ供給する有効成分供給部、あるいは、各種添加剤を供給する添加剤供給部を設け、各供給量をめっき廃液や希釈水の供給と共に調整する調整機能(調整部)を設けることにより、藻類の栄養成分濃度を調整可能な藻類培養装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 藻類培養装置
11 廃液貯留タンク
12 希釈液貯留タンク
13 培養槽
14 ノズル
15 排出配管
16 バルブ
17 回収装置
18 循環配管
19 フィルタ装置