特許第5956240号(P5956240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956240
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】めっき材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20160714BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20160714BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20160714BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   C25D7/00 H
   C25D5/50
   H01R13/03 D
   H01R43/16
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-104689(P2012-104689)
(22)【出願日】2012年5月1日
(65)【公開番号】特開2013-231223(P2013-231223A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】米澤 歴
(72)【発明者】
【氏名】村田 達則
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】菅原 章
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−179055(JP,A)
【文献】 特開2005−251762(JP,A)
【文献】 特開2010−090433(JP,A)
【文献】 特開2011−006760(JP,A)
【文献】 特開2003−293187(JP,A)
【文献】 特開2004−220871(JP,A)
【文献】 特開2002−226982(JP,A)
【文献】 特開2005−350774(JP,A)
【文献】 特開2009−052076(JP,A)
【文献】 特開2007−258156(JP,A)
【文献】 特開2007−177330(JP,A)
【文献】 特開2011−219822(JP,A)
【文献】 特開2002−298963(JP,A)
【文献】 特開2011−084796(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/119489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00−7/12
H01R 43/16
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる基材が、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する最表層で被覆されていることを特徴とする、めっき材。
【請求項2】
前記銅または銅合金からなる基材と、前記Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する最表層との間に、NiまたはNi−Cu合金層が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のめっき材。
【請求項3】
前記NiまたはNi−Cu合金層の厚さが1.5μm以下であることを特徴とする、請求項2に記載のめっき材。
【請求項4】
前記Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する最表層と、前記NiまたはNi−Cu合金層の合計の厚さが0.5〜3.0μmであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のめっき材。
【請求項5】
前記Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する最表層の表面の全面積に対する前記Cu−Ni−Sn合金相が占める面積の割合が15〜80面積%であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のめっき材。
【請求項6】
前記Cu−Ni−Sn合金相が、25〜60原子%のCuと、5〜50原子%のNiと、20〜40原子%のSnを含むことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のめっき材。
【請求項7】
前記Cu−Sn合金相が、50〜80原子%のCuと、20〜50原子%のSnを含むことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のめっき材。
【請求項8】
前記Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する最表層の表面の算術平均粗さRaが0.03〜0.50μmであることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載のめっき材。
【請求項9】
表面のビッカース硬度Hvが270以上であり、大気中において160℃で1000時間加熱処理した後の接触抵抗値が100mΩ以下であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載のめっき材。
【請求項10】
銅または銅合金からなる基材の表面に、Niめっき層と、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順で形成し、第1の加熱処理として、300〜900℃の温度で加熱処理を行って、Snめっき層を溶融して凝固させた後、第2の加熱処理として、230〜650℃の温度で1〜180分間加熱処理を行うことにより、基材の表面に、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する最表層を形成することを特徴とする、めっき材の製造方法。
【請求項11】
前記第1および第2の加熱処理を還元雰囲気中で行うことを特徴とする、請求項10に記載のめっき材の製造方法。
【請求項12】
前記第1および第2の加熱処理により、前記銅または銅合金からなる基材と、前記Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する最表層との間に、Ni−Cu合金からなる層を形成することを特徴とする、請求項10または11に記載のめっき材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき材およびその製造方法に関し、特に、挿抜可能な接続端子などの材料として使用されるめっき材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、挿抜可能な接続端子の材料として、銅や銅合金などの導電性基材の最外層にSnめっきを施したSnめっき材などのめっき材が使用されている。
【0003】
特に、Snめっき材は、接触抵抗が小さく、接触信頼性、耐食性、はんだ付け性、経済性などの観点から、自動車、携帯電話、パソコンなどの情報通信機器、ロボットなどの産業機器の制御基板、コネクタ、リードフレーム、リレー、スイッチなどの端子やバスバーの材料として使用されている。
【0004】
一般に、Snめっきは、電気めっきによって行われており、Snめっき材の内部応力を除去してウイスカの発生を抑制するために、電気めっきの後にリフロー処理(Sn溶融処理)が行われている。このようにSnめっき後にリフロー処理を行うと、Snの一部が素材や下地成分に拡散して化合物層を形成し、この化合物層の上に柔らかい溶融凝固組織になったSn層(以下「純Sn層」という)が形成される。
【0005】
しかし、純Sn層は軟質で変形し易いため、リフロー処理を施したSnめっき材を挿抜可能な接続端子などの材料として使用すると、接続端子の挿入時に表面が削れて摩擦係数が高くなって挿入力が高くなるという問題がある。また、電気自動車やハイブリッド自動車などの自動車用の接続端子では、端子の多極化が進んでおり、端子の数に比例して組立て時の挿入力が上昇し、作業負荷が問題になっている。さらに、近年のエレクトロニクスの発達により、自動車のエンジンルーム近傍などの高温環境下で電子部品が使用される機会が多くなり、高温環境下で長時間保持した後でも接触抵抗の増加が小さく、耐熱信頼性の高いめっき材料が求められている。
【0006】
リフロー処理を施しためっき材の製造方法として、銅または銅合金の表面に、厚さ0.05〜1.0μmのNiまたはNi合金めっきを施し、次いで、厚さ0.03〜1.0μmのCuめっきを施し、最表面に厚さ0.15〜3.0μmのSnまたはSn合金めっきを施した後、400〜900℃で少なくとも1回以上の加熱処理(リフロー処理)を行って、SnまたはSn合金が溶融してから凝固するまでの時間を0.05〜60秒とすることにより、銅または銅合金の表面に、厚さ0.05〜1.0μmのNiまたはNi合金層が形成され、最表面に厚さ0.05〜2.0μmのSnまたはSn合金層が形成され、これらのNiまたはNi合金層とSnまたはSn合金層の間に、CuとSnを主成分とする中間層(拡散層)またはCuとNiとSnを主成分とする中間層(拡散層)が1層以上形成され、これらの中間層のうち少なくとも1つの中間層が、厚さ0.2〜2.0μm、Cu含有量が50重量%以下であり且つNi含有量が20重量%以下である層を含む、めっきを施した銅または銅合金を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、Cu板条からなる母材の表面に、Niめっき層と、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順に形成した後、600℃以下の温度で3〜30秒間リフロー処理を行うことにより、Cu板条からなる母材の表面に、厚さ3.0μm以下のNi被覆層と、厚さ0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順で形成された接続部品用導電材料を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、銅または銅合金からなる素材、あるいはCuめっきした素材に、NiまたはNi合金めっき、Cuめっき、SnまたはSn合金めっきをこの順で行った後、300〜900℃の温度で1〜300秒間リフロー処理を行うことにより、銅または銅合金からなる素材、あるいはCuめっきした素材に、厚さ0.01〜1μmのNiまたはNi合金層、厚さ0.05〜2μmのCu−Snを主体とする金属間化合物を含む合金層、厚さ0.05〜2μmのSnまたはSn合金層がこの順で形成されためっき材を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
また、導電性基体上にNi層、Cu層、Sn層、Cu層をこの順でめっきしてめっき積層体を作製した後、実体温度232〜500℃(リフロー炉の温度500〜900℃)で0.1秒〜10分間以下リフロー処理を行うことにより、導電性基体上に、Niなどからなる下地層、Cuなどからなる銅系層、Cu−Sn金属間化合物からなる中間層、Snなどからなる錫系層、Cu−Sn金属間化合物からなる最外層がこの順で形成されためっき材料を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
また、Ni−Sn−P系銅基合金素材の表面を厚さ0.5〜20μmのSnで被覆した後、100〜600℃で0.5〜24時間加熱処理することにより、素材の表面にCuとSnとの高硬度金属間化合物被膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0011】
また、1〜41重量%のZnを含有する銅基合金の母材の表面にSn表面処理皮膜を形成した後、100〜450℃の温度で0.5〜24時間熱処理することにより、母材とSn皮膜との界面を含む表層部にCuとSnを主体とする表面粗さRmaxが3μm以下の金属間化合物の表面被覆層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0012】
さらに、銅基合金の母材をSnで被覆した後、250℃で2時間リフロー処理を行うことにより、銅基合金の母材の表面にCu−Snを主体とする金属間化合物層を形成し、最表面に厚さ10〜1000nmの酸化皮膜層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−293187号公報(段落番号0015−0019)
【特許文献2】特開2007−258156号公報(段落番号0017−0034)
【特許文献3】特開2005−350774号公報(段落番号0018−0019)
【特許文献4】特開2007−277715号公報(段落番号0025−0032)
【特許文献5】特開平7−126779号公報(段落番号0006−0013)
【特許文献6】特開平10−25562号公報(段落番号0007)
【特許文献7】特開2000−212720号公報(段落番号0009、0016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1〜4の方法で製造しためっき材は、耐熱信頼性が良好である(高温環境下で長時間保持した後でも接触抵抗の増加が小さい)が、表面の硬度が低いために、挿入力が高く、耐磨耗性に劣っている。また、特許文献5の方法で製造しためっき材は、表面の硬度が高いために、挿入力が低く、耐摩耗性が良好であるが、耐熱信頼性に劣り、特許文献6の方法で製造しためっき材は、摩擦係数小さく、耐磨耗性が良好であるが、耐熱信頼性に劣り、特許文献7の方法で製造しためっき材は、硬度が低いために、挿入力が高く、耐磨耗性に劣っており、また、耐熱信頼性も劣っている。
【0015】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、硬度が高く且つ耐熱信頼性が良好なめっき材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、銅または銅合金からなる基材を、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層で被覆することにより、硬度が高く且つ耐熱信頼性が良好なめっき材を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明によるめっき材は、銅または銅合金からなる基材が、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層で被覆されていることを特徴とする。
【0018】
このめっき材において、銅または銅合金からなる基材と、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層との間に、NiまたはNi−Cu合金層が形成されているのが好ましい。この場合、NiまたはNi−Cu合金層の厚さが1.5μm以下であるのが好ましい。また、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層と、NiまたはNi−Cu合金層の合計の厚さが0.5〜3.0μmであるのが好ましい。また、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層の表面の全面積に対するCu−Ni−Sn合金相が占める面積の割合が15〜80面積%であるのが好ましい。また、Cu−Ni−Sn合金相が、25〜60原子%のCuと、5〜50原子%のNiと、20〜40原子%のSnを含むのが好ましく、Cu−Sn合金相が、50〜80原子%のCuと、20〜50原子%のSnを含むのが好ましい。さらに、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層の表面の算術平均粗さRaが0.03〜0.50μmであるのが好ましい。また、表面のビッカース硬度Hvが270以上であり、大気中において160℃で1000時間加熱処理した後の接触抵抗値が100mΩ以下であるのが好ましい。
【0019】
また、本発明によるめっき材の製造方法は、銅または銅合金からなる基材の表面に、Niめっき層と、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順で形成し、第1の加熱処理として、300〜900℃の温度で加熱処理を行って、Snめっき層を溶融して凝固させた後、第2の加熱処理として、230〜650℃の温度で1〜180分間加熱処理を行うことを特徴とする。
【0020】
このめっき材の製造方法において、第1および第2の加熱処理を還元雰囲気中で行うのが好ましい。また、第1および第2の加熱処理により、銅または銅合金からなる基材の表面に、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層を形成するのが好ましく、銅または銅合金からなる基材と、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層との間に、Ni−Cu合金層を形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、硬度が高く且つ耐熱信頼性が良好な(高温環境下で長時間保持した後でも接触抵抗の増加が小さい)めっき材およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明によるめっき材の実施の形態を示す断面図である。
図2】本発明によるめっき材の実施の形態のCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層をCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相に分けて模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すように、本発明によるめっき材の実施の形態では、銅または銅合金からなる基材10の表面が、NiまたはNi−Cu合金層(下地層)12で被覆され、この下地層12が、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層(最表層)14で被覆されている。
【0024】
本発明によるめっき材の実施の形態を接続端子などの材料として使用する場合には、銅または銅合金からなる基材10は、Cu−Ni−Sn−P系合金、Cu−Zn系合金、Cu−Zn−Sn系合金、Cu−Ni−Si系合金などからなる板材であるのが好ましい。
【0025】
Cu−Ni−Sn合金相は、Cu−Sn合金相と比較して、硬度が高く、導電率が低いため、最表層がCu−Ni−Sn合金相のみからなる層であると、硬度が高いものの、接触抵抗が高くなる。一方、最表層がCu−Sn合金相のみからなる層であると、導電率が高いものの、硬度が低くなる。本発明によるめっき材の実施の形態のように、最表層をCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層にすれば、硬度が高く且つ接触抵抗値が低いめっき材にすることができる。
【0026】
すなわち、めっき材が最表層としてCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層を有し、Cu−Ni−Sn合金相が、銅または銅合金からなる基材の表面付近から最表面まで貫通して存在することにより、めっき材の骨格としての機能を果たし、めっき皮膜全体の硬度(強度)を高くして耐磨耗性を向上させるとともに、めっき材を端子材料として使用した場合に、端子の接触時の変形による接触面積の増大を防止して挿入力を低減させることができる。また、Cu−Ni−Sn合金相の骨格の間にCu−Sn合金相が存在し、最表面にCu−Sn合金相も露出しているため、めっき材を端子材料として使用した場合に、高い導電率のCu−Sn合金相が相手側の接点と接触して、端子の導電性能を維持することができる。さらに、Cu−Sn合金相は、高温環境下における接触抵抗の上昇や半田付け性の悪化を防止することができるため、めっき材を自動車用ワイヤーハーネスのコネクタやその他の摺動接点などの材料に使用した場合に、自動車の組み立て時の省力化や簡略化を図り、長時間経過後でも性能が劣化しない長期信頼性を向上させることができる。
【0027】
Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層(最表層)は、表面から観察したときに、Cu−Ni−Sn合金相が部分的に存在し、最表層の表面の全面積に対するCu−Ni−Sn金属相が占める面積の割合が15〜80面積%であるのが好ましい。Cu−Ni−Sn化合物相が80面積%を超えると、接触抵抗が高くなる場合があり、15面積%より小さいと、十分な硬度が得られないおそれがある。また、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層(最表層)の均一な特性を得るために、図2に模式的に示すように、表面から観察したときに、Cu−Sn合金相14a中にCu−Ni−Sn合金相14bが島状に点在しているのが好ましい。
【0028】
また、めっき材の硬度を高くするために、Cu−Ni−Sn合金相は、25〜60原子%のCuと、5〜50原子%のNiと、20〜40原子%のSnを含むのが好ましく、25〜60原子%のCuと、10〜50原子%のNiと、20〜40原子%のSnを含むのがさらに好ましく、Cu−Sn合金相は、50〜80原子%のCuと、20〜50原子%のSnを含むのが好ましい。
【0029】
また、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層の表面の算術平均粗さRaが0.03〜0.50μmであるのが好ましい。最表面の凹凸がこの範囲内であれば、挿入力を低減させることができる。
【0030】
また、銅または銅合金からなる基材からのCuなどの成分の過剰な拡散を防止し、高温環境下における接触抵抗の上昇を抑制するために、基材と、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層との間に、NiまたはNi−Cu合金層(下地層)を形成してもよい。このNiまたはNi−Cu合金層の厚さは、1.5μm以下であるのが好ましく、1.0μm以下であるのがさらに好ましい。この層が1.5μmよりも厚いと、曲げ加工性が劣化するおそれがある。また、NiまたはNi−Cu合金層は、15〜100原子%のNiと、0〜85原子%のCuを含む組成であるのが好ましい。
【0031】
また、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層と、NiまたはNi−Cu合金層の合計の厚さが0.5〜3.0μmであるのが好ましく、0.5〜2.0μmであるのがさらに好ましい。これらの層の厚さが0.5μmより薄いと、めっき材を端子材料に使用した場合に、摺動などにより磨耗したときの寿命が十分でなくなるおそれがあり、一方、3.0μmより厚いと、めっき材を曲げ加工などが必要な端子材料に使用した場合に、曲げ加工時に表面の皮膜に割れが生じるおそがある。
【0032】
また、めっき材を端子材料として使用するために、表面のビッカース硬度Hvが270以上であり、大気中において160℃で1000時間加熱処理した後の接触抵抗値が100mΩ以下であるのが好ましい。
【0033】
上述しためっき材の実施の形態は、本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態によって製造することができる。
【0034】
本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態では、銅または銅合金からなる基材の表面に、Niめっき層と、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順で形成し、第1の加熱処理として、300〜900℃の温度で加熱処理(リフロー処理)を行って、Snめっき層を溶融して凝固させた後、第2の加熱処理として、230〜650℃の温度で1〜180分間加熱処理を行う。第1および第2の加熱処理は、還元雰囲気中で行うのが好ましい。第1および第2の加熱処理により、銅または銅合金からなる基材の表面に、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層(最表層)を形成することができるとともに、銅または銅合金からなる基材と、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層との間に、NiまたはNi−Cu合金層(下地層)を形成することができる。
【0035】
このめっき材の製造方法において、銅または銅合金からなる基材の表面にめっき層を形成する前に、基材を電解脱脂および酸洗により処理して、基材の表面の洗浄および活性化処理を行うのが好ましい。
【0036】
次に、電気めっきにより、銅または銅合金からなる基材の表面にNiめっき層と、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順で形成する。これらのめっき層は、製造コスト面から、電気めっきにより形成するのが好ましいが、無電解めっきなどの方法により形成してもよい。
【0037】
Niめっき層は、基材からのCuなどの拡散を防止するとともに、Cu−Ni−Sn合金相のNi供給源としての役割を果たす。Niめっき層の厚さは、0.2〜1.0μmであるのが好ましい。Niめっき層の厚さが0.2μm未満であると、基材からのCuなどの拡散を防止する効果が得られなくなるとともに、Cu−Sn層へのNiの供給が不足して、めっき材の最表層までCu−Ni−Sn合金を形成することができなくなる。一方、Niめっき層の厚さが1.0μmより厚いと、第2の加熱処理時にNi成分が供給過多になり、めっき材の最表層がCu−Ni−Sn合金のみで覆われて、接触抵抗が上昇するおそれがある。
【0038】
Cuめっき層の厚さは0.1〜0.5μmであるのが好ましい。Cuめっき層の厚さが0.1μm未満であると、第1の加熱処理であるリフロー処理時にCu−Sn合金(化合物)相を十分に形成することができず、その後の第2の加熱処理でもCu−Ni−Sn合金相を形成することができなくなる。一方、Cuめっき層の厚さが0.5μmより厚いと、第1の加熱処理時にNiめっき層とCu−Sn合金相の間に厚い純Cuめっき層が残り、Ni成分がCu−Sn合金(化合物)相に拡散するのを阻害して、Cu−Ni−Sn合金相を形成するのを阻害する。
【0039】
Snめっき層の厚さは0.5〜1.0μmであるのが好ましい。Snめっき層の厚さが0.5μm未満であると、第1の加熱処理であるリフロー処理時に最表層にCuめっき層が露出して、高温環境下における性能が低下する。一方、Snめっき層の厚さが1.0μmより厚いと、最表層に純Snめっき層が残って、めっき材を端子材料に使用した場合に、挿入力を低減することができなくなるおそれがある。
【0040】
上記のめっき層で被覆された銅または銅合金からなる基材を、第1の加熱処理として、300〜900℃の温度で加熱処理(リフロー処理)することにより、Snめっき層を加熱して溶融させた後に冷却して凝固させ、銅または銅合金からなる基材の表面に、Niめっき層、Cu−Sn合金層(拡散層)、Snめっき層がこの順に形成された皮膜を作製する。この加熱処理により、Snめっき層のSnとCuめっき層のCuが拡散して、Cu−Sn合金相からなるCu−Sn合金層を形成する。この拡散により、Cuめっき層が消失するのが好ましい。
【0041】
次に、第2の加熱処理として、230〜650℃の温度で1〜180分間加熱処理を行うことにより、Niめっき層のNi成分をCu−Sn合金相に拡散させて、Cu−Ni−Sn合金相を形成する。このとき、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が同一層内に共存する状態となる。なお、この第2の加熱処理では、特別な装置を必要としないため、製造コストの上昇を抑制できる。
【0042】
なお、第1の加熱処理の温度が300℃未満であると、Cu−Sn合金相の形成が不足して、厚いCuめっき層がNiめっき層とCu−Sn合金層の間に残留するため、リフロー処理後の第2の加熱処理においてNiがほとんど拡散せず、Cu−Ni−Sn合金相が形成されないおそれがある。一方、第1の加熱処理の温度が900℃より高いと、銅または銅合金からなる基材からのCu成分の拡散を防止するためのNiめっき層が消失するおそれがあり、最表層にCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層以外の(Cu層などの)層が形成されて高温環境下における性能が低下するおそれがある。この第1の加熱処理の時間は3秒〜10分程度であるのが好ましい。
【0043】
また、第2の加熱処理の温度が230℃未満であると、Niめっき層とCu−Sn合金層との間の拡散が遅く、Cu−Ni−Sn合金相が形成されないおそれがある。また、第1の加熱処理後にCuめっき層が残留していた場合に、Cuめっき層とCu−Sn合金層またはSn層との間の拡散が進まず、Cuめっき層として残り、Cuめっき層の存在によりNiが拡散せず、Cu−Ni−Sn合金相が形成できなくなる。一方、第2の加熱処理の温度が650℃より高いと、Cu−Sn合金層へのNiの拡散が進み過ぎ、最表層がCu−Ni−Sn合金相で覆われて、接触抵抗が上昇するおそれがある。また、Cu−Ni−Sn合金相を形成するためには、第2の加熱処理の温度が240〜630℃であるのが好ましい。
【0044】
なお、銅または銅合金からなる基材の表面にNiめっき層と、Cuめっき層と、Snめっき層をこの順で形成した後に、加熱処理として1回のリフロー処理を行うだけであると、Cuめっき層とSnめっき層の間で金属の拡散が容易に進んで、Cu−Sn化合物層を形成するが、Niめっき層とCuめっき層の間では金属の拡散はほとんど行われない。すなわち、加熱処理として1回のリフロー処理を行うだけであると、Niめっき層上のCuめっき層が加熱処理の終了間際まで存在するため、Niの拡散開始が遅くなり、Cu−Sn合金相中にNiがほとんど拡散できず、Cu−Ni−Sn合金を形成できないと考えられる。リフロー処理の温度を上昇させることによって、Cuめっき層を早期にCu−Sn合金に転化させることは可能であるが、その場合、上述したように、銅または銅合金からなる基材からのCu成分の拡散を防止することができず、Cu成分が供給過多となり、最表層にCuが露出してしまうため、高温環境下における接触抵抗などの性能を維持することができなくなる。本発明によるめっき材の製造方法の実施の形態では、第1の加熱処理として、300〜900℃の温度で加熱処理(リフロー処理)を行って、Snめっき層を溶融して凝固させた後に、第2の加熱処理として、230〜650℃の温度で1〜180分間加熱処理を行うことにより、Cu−Sn合金相へのNiの拡散が容易に進み、銅または銅合金からなる基材からのCu成分の拡散を抑制することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明によるめっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0046】
[実施例1]
まず、基材(被めっき材)として、Ni−Sn−P系のCu合金(DOWAメタルテック株式会社製のNB−109(商品名))の条材を用意し、前処理として、電解脱脂および酸洗を行って、基材の表面を活性化した。次に、電気めっきにより、基材の表面に厚さ0.3μmのNiめっき層を形成し、その上に厚さ0.3μmのCuめっき層を形成し、その上に厚さ0.7μm厚のSnめっき層を形成した後、第1の加熱処理として、700℃で10秒間加熱してリフロー処理し、その後、第2の加熱処理として、還元雰囲気(水素雰囲気)下において、300℃で30分間加熱した。
【0047】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0048】
全めっき層の厚さは、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSFT−3300)を使用して測定した。その結果、全めっき層の厚さは1.72μmであった。
【0049】
また、最表層の厚さを、電解式めっき厚さ測定器(株式会社中央製作所製のTH−11)を使用して測定したところ、1.06μmであった。この測定時の電位を比較することにより、各層の種類を判定することができるが、Snめっき層は検出されず、最表層をX線マイクロアナライザー(EPMA)で分析したところ、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層であることがわかった。
【0050】
また、EPMAで観察したCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層の表面の全面積に対するCu−Ni−Sn合金相が占める面積の割合を算出したところ、50面積%であった。なお、CuとSnは全面にわたって検出され、Cu−Ni−Sn合金相以外の部分をCu−Sn合金相と判定した。
【0051】
また、オージェ電子分光分析装置(JEOL社製)を使用して、オージェ電子分光法(AES)により、Cu−Ni−Sn合金相の組成を測定しところ、Cuが55原子%、Niが13原子%、Snが32原子%であった。なお、オージェ電子分光法による組成の測定は、分析面積を100μmφとし、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層のCu−Ni−Sn合金相に対応する部分を表面側からArスパッタによりエッチングし、各元素の検出強度を原子%に換算し、各元素の原子%を求めることによって行った。この方法では、Cu−Sn合金相に対応する部分でも5原子%未満のNiが検出される場合があるが、その場合でもCu−Sn合金相と判定した。
【0052】
次に、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層を除去して下地層を露出させた後、この下地層をオージェ電子分光法により分析したところ、Ni−Cu合金相からなる層であることがわかった。また、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSFT−3300)を使用して、下地層の厚さを測定したところ、厚さ0.66μmであった。
【0053】
これらの結果から、本実施例のめっき材では、銅合金からなる基材の表面に、(下地層として)厚さ0.66μmのNi−Cu合金層が形成され、その上の最表面に(第1層として)厚さ1.06μmのCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層が形成されていることがわかった。なお、本実施例のめっき材の各層の厚さを、断面の観察により確認したところ、同様の厚さであった。
【0054】
めっき材のビッカース硬さは、マイクロビッカース硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM−200)を使用し、測定荷重を1gfとして、JIS Z2244に準じて測定した。なお、この測定では、ビッカース圧子によってめっき材の表面につけられたくぼみの対角線の長さを硬度計で計測して、硬さ換算表からビッカース硬さに換算した。その結果、ビッカース硬さはHV323であった。なお、マイクロビッカース硬度計で使用するCCDカメラでは、めっき材の表面のCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相を区別することができないため、硬さの測定結果は、Cu−Ni−Sn相またはCu−Sn相の硬さを別個に示すものではない。
【0055】
めっき材の最表層の表面粗さとして、超深度形状顕微鏡(株式会社キーエンス製のVK−8500)を使用して、対物レンズの倍率を50倍としてめっき材の表面を撮影した後、(表面粗さを表すパラメータである)算術平均粗さRaを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.12μmであった。
【0056】
めっき材の初期の接触信頼性の評価は、電気接点シミュレーター(株式会社山崎精機研究所製のCRS−1)を使用して、めっき材に加える測定荷重を100gfまで連続的に変化させながら、80gf(往)〜100gf(最大)〜80gf(復)の間の抵抗値を測定し、その平均値を接触抵抗値として算出することによって行った。その結果、めっき材の接触抵抗値は8.4mΩであった。
【0057】
めっき材の高温放置後の接触信頼性の評価は、めっき材を大気雰囲気下において160℃で1000時間保持した後に抵抗値を測定して、接触抵抗値を算出することによって行った。その結果、高温放置後の接触抵抗値の上昇はわずかであり、82.1mΩであった。
【0058】
[実施例2〜10]
第2の加熱処理を250℃で20分間(実施例2)、250℃で30分間(実施例3)、300℃で5分間(実施例4)、300℃で7.5分間(実施例5)、300℃で10分間(実施例6)、400℃で30分間(実施例7)、450℃で30分間(実施例8)、500℃で30分間(実施例9)、600℃で30分間(実施例10)行った以外は、実施例1と同様の方法により、加熱処理後のめっき材を作製した。
【0059】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、実施例1と同様の方法により、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0060】
その結果、実施例2〜10では、Snめっき層は検出されず、下地層(Ni−Cu合金層)上に形成された第1層(最表層)として、それぞれ厚さ0.77μm(実施例2)、0.86μm(実施例3)、0.91μm(実施例4)、0.97μm(実施例5)、1.01μm(実施例6)、1.06μm(実施例7)、0.94μm(実施例8)、0.77μm(実施例9)、0.63μm(実施例10)のCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層が形成されていた。なお、実施例6では、実施例1と同様の方法により、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層の表面の全面積に対するCu−Ni−Sn合金相が占める面積の割合を算出したところ、40面積%であった。また、実施例10では、実施例1と同様の方法により、下地層として形成されたNi−Cu合金層の厚さを測定したところ、0.9μmであり、Cu−Ni−Sn合金相の組成を測定したところ、Cuが32原子%、Niが45原子%、Snが23原子%であった。
【0061】
また、めっき材のビッカース硬さは、それぞれHV330(実施例2)、HV318(実施例3)、HV300(実施例4)、HV298(実施例5)、HV319(実施例6)、HV320(実施例7)、HV338(実施例8)、HV327(実施例9)、HV340(実施例10)であった。
【0062】
また、めっき材の最表層の表面の算術平均粗さRaは、それぞれ0.11(実施例2)、0.10(実施例3)、0.05(実施例4)、0.11(実施例5)、0.12(実施例6)、0.13(実施例9)、0.21(実施例10)であった。
【0063】
また、めっき材の初期の接触抵抗値は、それぞれ15.6mΩ(実施例2)、13.2mΩ(実施例3)、14.2mΩ(実施例4)、10.1mΩ(実施例5)、12.9mΩ(実施例6)、10.7mΩ(実施例7)、11.2mΩ(実施例8)、9.8mΩ(実施例9)、11.8mΩ(実施例10)であった。
【0064】
さらに、めっき材の高温放置後の接触抵抗値の上昇は、それぞれ92.3mΩ(実施例2)、87.5mΩ(実施例3)、92.1mΩ(実施例4)、79.9mΩ(実施例5)、86.1mΩ(実施例6)、85.4mΩ(実施例7)、90.2mΩ(実施例8)、78.6mΩ(実施例9)、98.1mΩ(実施例10)であった。
【0065】
[比較例1]
第2の加熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、加熱処理後のめっき材を作製した。
【0066】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、実施例1と同様の方法により、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0067】
その結果、本比較例のめっき材は、銅合金からなる基材の表面に、(下地層として)厚さ0.3μmのNi層が形成され、その上に(第1層として)厚さ0.71μmのCuSn合金相からなる層が形成され、その上の最表面に(第2層として)厚さ0.35μmのSn層が形成されていた。また、めっき材のビッカース硬さはHV75.6と非常に低く、めっき材の最表層の表面の算術平均粗さRaは0.05μmであった。さらに、めっき材の初期の接触抵抗値は3.4mΩであり、高温放置後の接触抵抗値の上昇は36.2mΩと低かった。
【0068】
[比較例2〜15]
いずれ比較例もNiめっきとCuめっきを施さず、それぞれ第2の加熱処理を250℃で15分間(比較例2)、250℃で20分間(比較例3)、250℃で30分間(比較例4)、300℃で5分間(比較例5)、300℃で7.5分間(比較例6)、300℃で10分間(比較例7)、300℃で30分間(比較例8)、400℃で30分間(比較例9)、450℃で30分間(比較例10)、450℃で60分間(比較例11)、450℃で120分間(比較例12)、450℃で180分間(比較例13)、500℃で30分間(比較例14)、600℃で30分間(比較例15)行った以外は、実施例1と同様の方法により、加熱処理後のめっき材を作製した。
【0069】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、実施例1と同様の方法により、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0070】
その結果、比較例2、3、5および6では、下地層上に(第1層として)それぞれ厚さ0.07μm(比較例2)、0.15μm(比較例3)、0.03μm(比較例5)、0.23μm(比較例6)のCuSn合金相からなる層が形成され、その上に(第2層として)それぞれ厚さ1.02μm(比較例2)、1.20μm(比較例3)、1.17μm(比較例5)、1.20μm(比較例6)のCuSn合金相からなる層が形成され、その上の最表面に(第3層として)それぞれ厚さ0.29μm(比較例2)、0.16μm(比較例3)、0.51μm(比較例5)、0.04μm(比較例6)のSn層が形成されていた。
【0071】
また、比較例4および7〜15では、下地層上に(第1層として)それぞれ厚さ0.47μm(比較例4)、0.32μm(比較例7)、0.64μm(比較例8)、0.65μm(比較例9)、0.87μm(比較例10)、0.89μm(比較例11)、0.93μm(比較例12)、0.96μm(比較例13)、1.06μm(比較例14)、1.04μm(比較例15)のCuSn合金相からなる層が形成され、その上の最表面に(第2層として)それぞれ厚さ0.73μm(比較例4)、1.05μm(比較例7)、0.69μm(比較例8)、0.52μm(比較例9)、0.44μm(比較例10)、0.32μm(比較例11)、0.15μm(比較例12)、0.07μm(比較例13)、0.26μm(比較例14)、0.15μm(比較例15)のCuSn合金相からなる層が形成されていた。
【0072】
また、めっき材のビッカース硬さは、それぞれHV324(比較例2)、HV349(比較例3)、HV321(比較例4)、HV322(比較例5)、HV344(比較例6)、HV343(比較例7)、HV398(比較例8)、HV356(比較例9)、HV366(比較例10)、HV351(比較例11)、HV388(比較例12)、HV407(比較例13)、HV410(比較例14)、HV396(比較例15)であった。
【0073】
また、めっき材の最表層の表面の算術平均粗さRaは、それぞれ0.07(比較例2)、0.07(比較例3)、0.14(比較例4)、0.07(比較例5)、0.19(比較例6)、0.20(比較例7)、0.26(比較例8)、0.17(比較例10)、0.13(比較例14)、0.21(比較例15)であった。
【0074】
また、めっき材の初期の接触抵抗値は、それぞれ19.7mΩ(比較例2)、17.9mΩ(比較例3)、14.4mΩ(比較例4)、18.5mΩ(比較例5)、15.9mΩ(比較例6)、17.3mΩ(比較例7)、15.4mΩ(比較例8)、13.4mΩ(比較例9)、13.5mΩ(比較例10)、18.5mΩ(比較例11)、16.9mΩ(比較例12)、15.4mΩ(比較例13)、18.4mΩ(比較例14)、18.8mΩ(比較例15)であった。
【0075】
さらに、めっき材の高温放置後の接触抵抗値の上昇は、いずれも測定可能範囲の262.5mΩ以上であった。
【0076】
これらの実施例および比較例のめっき材の製造条件および特性を表1〜表3に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表1〜表3からわかるように、実施例1〜10のめっき材は、硬度が高く且つ耐熱信頼性が良好な(高温環境下で長時間保持した後でも接触抵抗の増加が小さい)めっき材であるが、比較例1のめっき材は、硬度が非常に低く、比較例2〜15のめっき材は、耐熱信頼性が非常に悪くなっている。
【符号の説明】
【0081】
10 銅または銅合金からなる基材
12 NiまたはNi−Cu合金層(下地層)
14 Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層(最表層)
14a Cu−Sn合金相
14b Cu−Ni−Sn合金相
図1
図2