【実施例】
【0045】
以下、本発明によるめっき材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0046】
[実施例1]
まず、基材(被めっき材)として、Ni−Sn−P系のCu合金(DOWAメタルテック株式会社製のNB−109(商品名))の条材を用意し、前処理として、電解脱脂および酸洗を行って、基材の表面を活性化した。次に、電気めっきにより、基材の表面に厚さ0.3μmのNiめっき層を形成し、その上に厚さ0.3μmのCuめっき層を形成し、その上に厚さ0.7μm厚のSnめっき層を形成した後、第1の加熱処理として、700℃で10秒間加熱してリフロー処理し、その後、第2の加熱処理として、還元雰囲気(水素雰囲気)下において、300℃で30分間加熱した。
【0047】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0048】
全めっき層の厚さは、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSFT−3300)を使用して測定した。その結果、全めっき層の厚さは1.72μmであった。
【0049】
また、最表層の厚さを、電解式めっき厚さ測定器(株式会社中央製作所製のTH−11)を使用して測定したところ、1.06μmであった。この測定時の電位を比較することにより、各層の種類を判定することができるが、Snめっき層は検出されず、最表層をX線マイクロアナライザー(EPMA)で分析したところ、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層であることがわかった。
【0050】
また、EPMAで観察したCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層の表面の全面積に対するCu−Ni−Sn合金相が占める面積の割合を算出したところ、50面積%であった。なお、CuとSnは全面にわたって検出され、Cu−Ni−Sn合金相以外の部分をCu−Sn合金相と判定した。
【0051】
また、オージェ電子分光分析装置(JEOL社製)を使用して、オージェ電子分光法(AES)により、Cu−Ni−Sn合金相の組成を測定しところ、Cuが55原子%、Niが13原子%、Snが32原子%であった。なお、オージェ電子分光法による組成の測定は、分析面積を100μmφとし、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層のCu−Ni−Sn合金相に対応する部分を表面側からArスパッタによりエッチングし、各元素の検出強度を原子%に換算し、各元素の原子%を求めることによって行った。この方法では、Cu−Sn合金相に対応する部分でも5原子%未満のNiが検出される場合があるが、その場合でもCu−Sn合金相と判定した。
【0052】
次に、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層を除去して下地層を露出させた後、この下地層をオージェ電子分光法により分析したところ、Ni−Cu合金相からなる層であることがわかった。また、蛍光X線膜厚計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSFT−3300)を使用して、下地層の厚さを測定したところ、厚さ0.66μmであった。
【0053】
これらの結果から、本実施例のめっき材では、銅合金からなる基材の表面に、(下地層として)厚さ0.66μmのNi−Cu合金層が形成され、その上の最表面に(第1層として)厚さ1.06μmのCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層が形成されていることがわかった。なお、本実施例のめっき材の各層の厚さを、断面の観察により確認したところ、同様の厚さであった。
【0054】
めっき材のビッカース硬さは、マイクロビッカース硬度計(株式会社ミツトヨ製のHM−200)を使用し、測定荷重を1gfとして、JIS Z2244に準じて測定した。なお、この測定では、ビッカース圧子によってめっき材の表面につけられたくぼみの対角線の長さを硬度計で計測して、硬さ換算表からビッカース硬さに換算した。その結果、ビッカース硬さはHV323であった。なお、マイクロビッカース硬度計で使用するCCDカメラでは、めっき材の表面のCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相を区別することができないため、硬さの測定結果は、Cu−Ni−Sn相またはCu−Sn相の硬さを別個に示すものではない。
【0055】
めっき材の最表層の表面粗さとして、超深度形状顕微鏡(株式会社キーエンス製のVK−8500)を使用して、対物レンズの倍率を50倍としてめっき材の表面を撮影した後、(表面粗さを表すパラメータである)算術平均粗さRaを算出した。その結果、算術平均粗さRaは0.12μmであった。
【0056】
めっき材の初期の接触信頼性の評価は、電気接点シミュレーター(株式会社山崎精機研究所製のCRS−1)を使用して、めっき材に加える測定荷重を100gfまで連続的に変化させながら、80gf(往)〜100gf(最大)〜80gf(復)の間の抵抗値を測定し、その平均値を接触抵抗値として算出することによって行った。その結果、めっき材の接触抵抗値は8.4mΩであった。
【0057】
めっき材の高温放置後の接触信頼性の評価は、めっき材を大気雰囲気下において160℃で1000時間保持した後に抵抗値を測定して、接触抵抗値を算出することによって行った。その結果、高温放置後の接触抵抗値の上昇はわずかであり、82.1mΩであった。
【0058】
[実施例2〜10]
第2の加熱処理を250℃で20分間(実施例2)、250℃で30分間(実施例3)、300℃で5分間(実施例4)、300℃で7.5分間(実施例5)、300℃で10分間(実施例6)、400℃で30分間(実施例7)、450℃で30分間(実施例8)、500℃で30分間(実施例9)、600℃で30分間(実施例10)行った以外は、実施例1と同様の方法により、加熱処理後のめっき材を作製した。
【0059】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、実施例1と同様の方法により、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0060】
その結果、実施例2〜10では、Snめっき層は検出されず、下地層(Ni−Cu合金層)上に形成された第1層(最表層)として、それぞれ厚さ0.77μm(実施例2)、0.86μm(実施例3)、0.91μm(実施例4)、0.97μm(実施例5)、1.01μm(実施例6)、1.06μm(実施例7)、0.94μm(実施例8)、0.77μm(実施例9)、0.63μm(実施例10)のCu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層が形成されていた。なお、実施例6では、実施例1と同様の方法により、Cu−Ni−Sn合金相とCu−Sn合金相が共存する層の表面の全面積に対するCu−Ni−Sn合金相が占める面積の割合を算出したところ、40面積%であった。また、実施例10では、実施例1と同様の方法により、下地層として形成されたNi−Cu合金層の厚さを測定したところ、0.9μmであり、Cu−Ni−Sn合金相の組成を測定したところ、Cuが32原子%、Niが45原子%、Snが23原子%であった。
【0061】
また、めっき材のビッカース硬さは、それぞれHV330(実施例2)、HV318(実施例3)、HV300(実施例4)、HV298(実施例5)、HV319(実施例6)、HV320(実施例7)、HV338(実施例8)、HV327(実施例9)、HV340(実施例10)であった。
【0062】
また、めっき材の最表層の表面の算術平均粗さRaは、それぞれ0.11(実施例2)、0.10(実施例3)、0.05(実施例4)、0.11(実施例5)、0.12(実施例6)、0.13(実施例9)、0.21(実施例10)であった。
【0063】
また、めっき材の初期の接触抵抗値は、それぞれ15.6mΩ(実施例2)、13.2mΩ(実施例3)、14.2mΩ(実施例4)、10.1mΩ(実施例5)、12.9mΩ(実施例6)、10.7mΩ(実施例7)、11.2mΩ(実施例8)、9.8mΩ(実施例9)、11.8mΩ(実施例10)であった。
【0064】
さらに、めっき材の高温放置後の接触抵抗値の上昇は、それぞれ92.3mΩ(実施例2)、87.5mΩ(実施例3)、92.1mΩ(実施例4)、79.9mΩ(実施例5)、86.1mΩ(実施例6)、85.4mΩ(実施例7)、90.2mΩ(実施例8)、78.6mΩ(実施例9)、98.1mΩ(実施例10)であった。
【0065】
[比較例1]
第2の加熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により、加熱処理後のめっき材を作製した。
【0066】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、実施例1と同様の方法により、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0067】
その結果、本比較例のめっき材は、銅合金からなる基材の表面に、(下地層として)厚さ0.3μmのNi層が形成され、その上に(第1層として)厚さ0.71μmのCu
6Sn
5合金相からなる層が形成され、その上の最表面に(第2層として)厚さ0.35μmのSn層が形成されていた。また、めっき材のビッカース硬さはHV75.6と非常に低く、めっき材の最表層の表面の算術平均粗さRaは0.05μmであった。さらに、めっき材の初期の接触抵抗値は3.4mΩであり、高温放置後の接触抵抗値の上昇は36.2mΩと低かった。
【0068】
[比較例2〜15]
いずれ比較例もNiめっきとCuめっきを施さず、それぞれ第2の加熱処理を250℃で15分間(比較例2)、250℃で20分間(比較例3)、250℃で30分間(比較例4)、300℃で5分間(比較例5)、300℃で7.5分間(比較例6)、300℃で10分間(比較例7)、300℃で30分間(比較例8)、400℃で30分間(比較例9)、450℃で30分間(比較例10)、450℃で60分間(比較例11)、450℃で120分間(比較例12)、450℃で180分間(比較例13)、500℃で30分間(比較例14)、600℃で30分間(比較例15)行った以外は、実施例1と同様の方法により、加熱処理後のめっき材を作製した。
【0069】
このようにして作製した加熱処理後のめっき材について、実施例1と同様の方法により、めっき層の厚さおよびビッカース硬さを測定し、最表層の表面粗さ、初期の接触信頼性および高温放置後の接触信頼性を評価した。
【0070】
その結果、比較例2、3、5および6では、下地層上に(第1層として)それぞれ厚さ0.07μm(比較例2)、0.15μm(比較例3)、0.03μm(比較例5)、0.23μm(比較例6)のCu
3Sn合金相からなる層が形成され、その上に(第2層として)それぞれ厚さ1.02μm(比較例2)、1.20μm(比較例3)、1.17μm(比較例5)、1.20μm(比較例6)のCu
6Sn
5合金相からなる層が形成され、その上の最表面に(第3層として)それぞれ厚さ0.29μm(比較例2)、0.16μm(比較例3)、0.51μm(比較例5)、0.04μm(比較例6)のSn層が形成されていた。
【0071】
また、比較例4および7〜15では、下地層上に(第1層として)それぞれ厚さ0.47μm(比較例4)、0.32μm(比較例7)、0.64μm(比較例8)、0.65μm(比較例9)、0.87μm(比較例10)、0.89μm(比較例11)、0.93μm(比較例12)、0.96μm(比較例13)、1.06μm(比較例14)、1.04μm(比較例15)のCu
3Sn合金相からなる層が形成され、その上の最表面に(第2層として)それぞれ厚さ0.73μm(比較例4)、1.05μm(比較例7)、0.69μm(比較例8)、0.52μm(比較例9)、0.44μm(比較例10)、0.32μm(比較例11)、0.15μm(比較例12)、0.07μm(比較例13)、0.26μm(比較例14)、0.15μm(比較例15)のCu
6Sn
5合金相からなる層が形成されていた。
【0072】
また、めっき材のビッカース硬さは、それぞれHV324(比較例2)、HV349(比較例3)、HV321(比較例4)、HV322(比較例5)、HV344(比較例6)、HV343(比較例7)、HV398(比較例8)、HV356(比較例9)、HV366(比較例10)、HV351(比較例11)、HV388(比較例12)、HV407(比較例13)、HV410(比較例14)、HV396(比較例15)であった。
【0073】
また、めっき材の最表層の表面の算術平均粗さRaは、それぞれ0.07(比較例2)、0.07(比較例3)、0.14(比較例4)、0.07(比較例5)、0.19(比較例6)、0.20(比較例7)、0.26(比較例8)、0.17(比較例10)、0.13(比較例14)、0.21(比較例15)であった。
【0074】
また、めっき材の初期の接触抵抗値は、それぞれ19.7mΩ(比較例2)、17.9mΩ(比較例3)、14.4mΩ(比較例4)、18.5mΩ(比較例5)、15.9mΩ(比較例6)、17.3mΩ(比較例7)、15.4mΩ(比較例8)、13.4mΩ(比較例9)、13.5mΩ(比較例10)、18.5mΩ(比較例11)、16.9mΩ(比較例12)、15.4mΩ(比較例13)、18.4mΩ(比較例14)、18.8mΩ(比較例15)であった。
【0075】
さらに、めっき材の高温放置後の接触抵抗値の上昇は、いずれも測定可能範囲の262.5mΩ以上であった。
【0076】
これらの実施例および比較例のめっき材の製造条件および特性を表1〜表3に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表1〜表3からわかるように、実施例1〜10のめっき材は、硬度が高く且つ耐熱信頼性が良好な(高温環境下で長時間保持した後でも接触抵抗の増加が小さい)めっき材であるが、比較例1のめっき材は、硬度が非常に低く、比較例2〜15のめっき材は、耐熱信頼性が非常に悪くなっている。