特許第5956260号(P5956260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956260
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】伝搬時間測定装置
(51)【国際特許分類】
   H04Q 9/00 20060101AFI20160714BHJP
   H03J 9/02 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   H04Q9/00 311H
   H03J9/02
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-152573(P2012-152573)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-17603(P2014-17603A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健一
(72)【発明者】
【氏名】河村 大輔
【審査官】 望月 章俊
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−530364(JP,A)
【文献】 特表2008−522181(JP,A)
【文献】 特開2012−52361(JP,A)
【文献】 特開2008−240315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04Q9/00
H03J9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基地局及び端末の間で信号を送受信し、当該信号が前記基地局から前記端末を経由して当該基地局に戻ってくるまでの伝搬時間を前記基地局が測定する伝搬時間測定装置において、
前記信号を複数の周波数帯域に分割して当該複数の周波数帯域で複数の狭帯域信号を送信させる信号処理手段を備え、
前記基地局は、前記複数の狭帯域信号のうちの1つを用いて前記伝搬時間を算出し、当該伝搬時間と閾値とを比較することにより、前記端末との間の通信が正しいか否かを判定する
ことを特徴とする伝搬時間測定装置。
【請求項2】
受信した前記信号に対し、周波数のスペクトル単位で処理を加えることにより、SNRを改善する改善手段を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項3】
前記改善手段は、受信部に設けられたフィルタである
ことを特徴とする請求項2に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項4】
前記信号において分割された周波数帯域は、等間隔及び同一形状に形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項5】
前記信号は、周期的な繰り返し信号である
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項6】
前記基地局及び前記端末の少なくとも一方のクロックのずれを算出するクロックずれ算出手段と、
当該クロックずれ算出手段の算出結果を基に、前記伝搬時間を補正する補正手段と
を備えたことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項7】
前記クロックずれ算出手段は、単一周波数の信号からなる参照信号を前記端末から前記基地局に送信させ、当該基地局において前記参照信号の周波数を基にクロックずれを算出する
ことを特徴とする請求項6に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記信号の受信波形に応じて、前記基地局に設けられた受信部のフィルタの形状を切り換える
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項9】
周期的に繰り返し送信される前記信号の信号波形を他の形状に切り換える信号波形切換手段を備えた
ことを特徴とする請求項5〜8のうちいずれか一項に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項10】
周期的に繰り返し送信される前記信号の繰り返し周期を他の値に切り換える信号周期切換手段を備えた
ことを特徴とする請求項5〜9のうちいずれか一項に記載の伝搬時間測定装置。
【請求項11】
前記端末は、前記基地局から受信した信号を、該信号に適切な変更を加えた上で前記基地局に送り返す
ことを特徴とする請求項1〜10のうちいずれか一項に記載の伝搬時間測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局及び端末間で信号を送受信して信号の伝搬時間を測定する伝搬時間測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基地局から端末に電波を送信し、その電波を受信した端末から電波を基地局に再送信させ、基地局が受信した信号から伝搬時間を推定する伝搬時間測定装置が周知である(特許文献1〜4等参照)。特許文献1〜4でも示されるように、この種の伝搬時間測定装置は、車両及び電子キー間で無線によりID照合を行う電子キーシステムへの適用が検討されている。これは、電子キーを中継器により車両に不正に接続して勝手にID照合を成立させてしまうことを防止する対策である。
【0003】
このような伝搬時間測定装置においては、図11に示すように、基地局から端末に送信する送信信号81として広帯域信号(インパルス)を使用することが検討されている。図12に、送信信号81の周波数帯域を狭い→広いに変えたときのSNR(信号対雑音比)の変化を示す。同図に示されるように、送信信号81の周波数帯域が広くなれば、送信信号81を基地局で受信した際の電力のピーク値が上がり、電力がノイズ波の電力レベルから極力離れることが分かる。よって、SNRが改善され、通信成立性が確保されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−170364号公報
【特許文献2】特開2003−13644号公報
【特許文献3】特表2006−512515号公報
【特許文献4】特表2008−515315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、送信信号81として広帯域信号を使用すると、帯域の広い受信回路が要求されることになる。しかし、帯域の広い受信回路を使用すると、例えばダウンコンバータやフィルタ等において使用帯域が広くなるので、使用する周波数にフラットな特性を持たせようとすると、その分だけ回路構成が複雑化したり、部品がコストアップしたりするなどの問題に繋がっていた。このため、送信信号81に広帯域信号を使用しない伝搬時間測定装置の開発ニーズがあった。
【0006】
本発明の目的は、簡素な構成で伝搬時間を測定することができる伝搬時間測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記問題点を解決するために、本発明では、基地局及び端末の間で信号を送受信し、当該信号が前記基地局から前記端末を経由して当該基地局に戻ってくるまでの伝搬時間を前記基地局が測定する伝搬時間測定装置において、前記信号を複数の周波数帯域に分割して当該複数の周波数帯域で複数の狭帯域信号を送信させる信号処理手段を備え、前記基地局は、前記複数の狭帯域信号のうちの1つを用いて前記伝搬時間を算出し、当該伝搬時間と閾値とを比較することにより、前記端末との間の通信が正しいか否かを判定することを要旨とする。
【0008】
本発明の構成によれば、基地局及び端末間で信号を送受信して信号の伝搬時間を測定する伝搬時間測定装置において、信号を複数の周波数帯域に分割して送信するので、信号において使用する周波数が制限される。これにより、制限した分だけ信号において熱等の雑音を低く抑えることが可能となるので、SNRの改善に効果が高くなる。よって、信号の周波数帯域を分割するという簡素な構成で済み、例えば回路構成の複雑化や部品のコストアップ等を招くことなく、SNRを改善することが可能となる。
【0009】
本発明では、受信した前記信号に対し、周波数のスペクトル単位で処理を加えることにより、SNRを改善する改善手段を備えたことを要旨とする。この構成によれば、信号を複数の周波数帯域に分割送信させるだけでなく、更に改善手段も設けたので、高いSNRの確保に効果が高くなる。
【0010】
本発明では、前記改善手段は、受信部に設けられたフィルタであることを要旨とする。この構成によれば、改善手段がフィルタという簡素な構成で済む。
本発明では、前記信号において分割された周波数帯域は、等間隔及び同一形状に形成されていることを要旨とする。この構成によれば、分割された複数の周波数帯域のフィルタが作り易くなる。
【0011】
本発明では、前記信号は、周期的な繰り返し信号であることを要旨とする。この構成によれば、複数の信号を使用して伝搬時間の測定が可能となるので、伝播時間の測定精度の確保に効果が高くなる。
【0012】
本発明では、前記基地局及び前記端末の少なくとも一方のクロックのずれを算出するクロックずれ算出手段と、当該クロックずれ算出手段の算出結果を基に、前記伝搬時間を補正する補正手段とを備えたことを要旨とする。この構成によれば、基地局及び端末の少なくとも一方のクロックずれを算出して伝搬時間を補正するので、伝搬時間の最適化が可能となる。
【0013】
本発明では、前記クロックずれ算出手段は、単一周波数の信号からなる参照信号を前記端末から前記基地局に送信させ、当該基地局において前記参照信号の周波数を基にクロックずれを算出することを要旨とする。この構成によれば、参照信号からクロックずれを割り出して伝搬時間を補正するので、伝搬時間を精度よく補正することが可能となる。
【0014】
本発明では、前記補正手段は、前記信号の受信波形に応じて、前記基地局に設けられた受信部のフィルタの形状を切り換えることを要旨とする。この構成によれば、信号の受信波形に応じてフィルタ形状を設定し直すので、信号を精度よく受信することが可能となる。また、信号が単一周波数であるため、クロックずれを簡単に算出可能にもなる。
【0015】
本発明では、周期的に繰り返し送信される前記信号の信号波形を他の形状に切り換える信号波形切換手段を備えたことを要旨とする。この構成によれば、周期的に繰り返し送信される信号の信号波形を他形状に切り換え可能としたので、仮に中継器に信号の波形を記憶しておいて中継器で基地局との通信を成立させようとしても、信号波形を切り換えれば、この中継器では通信を成立させることができなくなる。よって、不正通信に対するセキュリティ性を確保することが可能となる。
【0016】
本発明では、周期的に繰り返し送信される前記信号の繰り返し周期を他の値に切り換える信号周期切換手段を備えたことを要旨とする。この構成によれば、周期的に繰り返し送信される信号の繰り返し周期を他の値に切り換え可能としたので、仮に中継器に繰り返し周期を記憶しておいて中継器で基地局との通信を成立させようとしても、繰り返し周期を切り換えれば、この中継器では通信を成立させることができなくなる。よって、不正通信に対するセキュリティ性を確保することが可能となる。
【0017】
本発明では、前記端末は、前記基地局から受信した信号を、該信号に適切な変更を加えた上で前記基地局に送り返すことを要旨とする。この構成によれば、仮に中継器に信号の波形を記憶しておいて中継器で基地局との通信を成立させようとしても、この中継器では通信を成立させることができなくなる。よって、不正通信に対するセキュリティ性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、伝搬時間測定装置の構成を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態の伝搬時間測定装置のブロック図。
図2】送信信号の周波数スペクトル図。
図3】フィルタの周波数応答図。
図4】車両側通信機から送信信号がキー側通信機に送信される際の概念図。
図5】キー側通信機から送信信号が車両側通信機に返信される際の概念図。
図6】車両側通信機において受信する送信信号の波形図。
図7】(a)は正規通信の例示図、(b)は不正通信の例示図。
図8】帯域分割なし→ありにより改善されるSNRの変化を示す波形図。
図9】第2実施形態の伝搬時間測定装置の概略図。
図10】第3実施形態の伝搬時間測定装置の概略図。
図11】従来の送信信号の周波数スペクトル図。
図12】周波数帯域が狭い/広いという違いでどのようにSNRが変化するのかを示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した伝搬時間測定装置の第1実施形態を図1図8に従って説明する。
【0021】
図1に示すように、車両1には、電子キー2との間で無線通信によりキー照合を行う電子キーシステム3が設けられている。電子キーシステム3で無線通信によるID照合が成立すれば、例えば車両ドアの施解錠やエンジンの始動操作などが許可/実行される。電子キーシステム3には、例えば車両1からの通信を契機にID照合を行うキー操作フリーシステムや、電子キー2からの通信を契機にID照合を行うワイヤレスキーシステムなどがある。
【0022】
電子キーシステム3には、車両1から伝搬時間測定用の送信信号(インパルス)Strを電子キー2に送信し、その送信信号Strを電子キー2から車両1に送り返させ、この通信に要する伝搬時間Txを測定することにより、電子キー2の正当性を判定する伝搬時間測定装置4が設けられている。伝搬時間Txは車両1−電子キー2間の距離に相当し、伝搬時間Txが閾値Tk以上であれば、車両1及び電子キー2間に中継器5を配した不正通信(リレーアタック)である可能性が高い。よって、伝搬時間測定装置4は、伝搬時間Txを閾値Tkと比較することにより、いま通信が確立している電子キー2の正当性を判定する。
【0023】
伝搬時間測定装置4は、車両1に配設された車両側通信機6と、電子キー2に配設されたキー側通信機7とが設けられている。なお、車両側通信機6が基地局に相当し、キー側通信機7が端末に相当する。
【0024】
車両側通信機6には、伝搬時間測定装置4において車両側通信機6の動作を制御する制御部8が設けられている。制御部8には、例えばLF(Low Frequency)帯の電波を送信する送信部9と、例えばUHF(Ultra High Frequency)帯の電波を受信する受信部10とが接続されている。送信部9には、送信データをD/A変換するD/A変換回路11と、D/A変換後の送信データを増幅するアップコンバータ12と、増幅後の送信データを電波として無線送信する送信アンテナ13とが設けられている。受信部10には、電波を受信する受信アンテナ14と、受信データを所定周波数(中間周波数等)に変換するダウンコンバータ15と、ダウンコンバート後の受信データをA/D変換するA/D変換回路16と、A/D変換後の受信データをフィルタリングするフィルタ17とが設けられている。フィルタ17は、例えばバンドパスフィルタが使用されている。なお、フィルタ17が改善手段に相当する。
【0025】
キー側通信機7には、伝搬時間測定装置4においてキー側通信機7の動作を制御する制御部18が設けられている。また、キー側通信機7には、車両側通信機6と同様の受信部19及び送信部20が設けられている。
【0026】
伝搬時間測定装置4は、伝搬時間測定用の送信信号Strとして広帯域信号を使用するのではなく、複数の分割された周波数帯域を有する信号として送信することにより、高いSNR(信号対雑音比)を確保する通信機能を備える。これは、背景技術でも述べたように、伝搬時間測定装置4において高いSNRを確保するには、例えば送信信号Strに広帯域信号を使用すればよいが、そうすると、受信部10,19において周波数帯域の広いダウンコンバータやフィルタを使用しなくてはならず、回路構成の複雑化や部品コスト増に繋がるので、その対策が必要とされたからである。
【0027】
車両側通信機6の制御部8には、伝搬時間測定用の送信信号Strを複数の狭帯域信号として送信する狭帯域信号生成出力部21が設けられている。狭帯域信号生成出力部21は、例えば電子キーシステム3の通信時(通信開始、通信途中又は通信後のいずれも可)、複数の狭帯域信号からなる送信信号Strを送信部9から電子キー2に無線送信する。狭帯域信号生成出力部21は、送信信号Strを複数回繰り返し無線送信する。即ち、本例の送信信号Strは、一定間隔で繰り返し出力される周期的な繰り返し信号である。なお、狭帯域信号生成出力部21が信号処理手段に相当する。
【0028】
図2に、送信信号Strの周波数スペクトルを示す。同図に示されるように、1つの送信信号Strは、複数(本例は5つ)の狭帯域信号周波数スペクトル22…から構築される。狭帯域信号周波数スペクトル22は、等間隔及び同一形状に形成されている。
【0029】
図1に示すように、キー側通信機7の制御部18には、車両側通信機6から送信された送信信号Strの受信時において応答動作を行う通信応答部23が設けられている。通信応答部23は、車両側通信機6から送信された送信信号Strを電子キー2において受信すると、この受信信号を返信信号Str’として車両側通信機6に返信する。このとき、通信応答部23は、受信信号に適切な変更を加えた上で返信信号Str’を車両1に送り返す。この適切な変更としては、車両1が波形変更後の信号を知っているとして、例えば通信の所定のタイミングにおいて受信信号の波形を他形状に変える処理などがある。このように、車両側通信機6及びキー側通信機7間で送信信号Strが送受信される。車両側通信機6は、キー側通信機7から送信された返信信号Str’を受信部10で受信する。
【0030】
図3に、フィルタ17のフィルタ形状(フィルタ係数)を示す。同図に示されるように、本例のフィルタ17は、返信信号Str’の各狭帯域信号の周波数を通すフィルタ形状に形成されている。フィルタ17は、キー側通信機7から送信された返信信号Str’を車両側通信機6において受信すると、この受信信号をフィルタリングする。
【0031】
図1に示すように、車両側通信機6の制御部8には、送信信号Strを車両側通信機6及びキー側通信機7間で送受信(やり取り)するのにかかる時間、つまり送信信号Strの伝搬時間Txを算出する伝搬時間算出部24が設けられている。伝搬時間算出部24は、車両側通信機6から送信された複数の送信信号Strのうち、ある所定番目の送信信号Strにおいて、キー側通信機7を経由して車両側通信機6に戻ってくるまでに要する時間をカウントすることにより、伝搬時間Txを算出する。
【0032】
伝搬時間測定装置4には、車両側通信機6及びキー側通信機7間のクロックずれを要因とする伝搬時間Txの誤差を補正するクロックずれ補正機能が設けられている。この場合、車両側通信機6の制御部8には、クロックずれを算出して伝搬時間Txを補正する車両側クロック補正部25が設けられている。キー側通信機7の制御部18には、キー側通信機7においてクロックずれ算出に関わる動作を行うキー側クロック補正部26が設けられている。なお、車両側クロック補正部25及びキー側クロック補正部26がクロックずれ算出手段及び補正手段を構成する。
【0033】
キー側クロック補正部26は、送信信号Strの通信時、クロック補正に必要な参照信号Scmを所定周波数で車両側通信機6に送信する。参照信号Scmは、単一の周波数信号からなり、通信課程の途中において送信信号Strとは別の所定タイミングで別途送信される信号である。車両側クロック補正部25は、参照信号Scmを車両側通信機6において受信すると、参照信号Scmの周波数を算出し、この周波数と受信されるべき周波数との差異を算出する。そして、車両側クロック補正部25は、この差異に基づく補正値を算出し、この補正値を用いて伝搬時間Txを補正する。
【0034】
次に、本例の伝搬時間測定装置4の動作を、図4図8を用いて説明する。なお、本例の場合、送信信号Strの送信/受信の動作説明を、車両側通信機6側の動作で以て説明し、キー側通信機7側の信号の送受動作は車両側通信機6側と同様であるので、具体的説明を省略している。
【0035】
図4に示すように、車両側通信機6は、電子キーシステム3の通信過程において、複数の送信信号Strを、送信部9からキー側通信機7に送信する。このとき、狭帯域信号生成出力部21は、1つひとつの送信信号Strを、それぞれ複数の狭帯域信号として送信させる。
【0036】
図5に示すように、キー側通信機7の通信応答部23は、車両側通信機6から送信された送信信号Strを受信すると、その受信信号を返信信号Str’として車両側通信機6に再送信する。このとき、通信応答部23は、通信の所定タイミングにおいて、受信信号に適切な変更を加えて、この信号を車両1に返信する。例えば、通信応答部23は、車両側通信機6から送信された送信信号Strを、波形が異なる返信信号Str’に変更して車両側通信機6に返信する。
【0037】
車両側通信機6は、キー側通信機7から送信された返信信号Str’を、受信部10で受信する。このとき、車両側通信機6は、受信信号(即ち、キー側通信機7から送信された返信信号Str’)をフィルタ17によってフィルタ処理し、この受信信号に含まれる狭帯域信号のみを通過させる。
【0038】
続いて、図6に示すように、伝搬時間算出部24は、受信した複数の受信信号(インパルス)のうち、所定番目の受信信号において信号の電力(電圧)のピーク(インパルスのピーク)を探し、車両側通信機6及びキー側通信機7間で送信信号Strを送受信するのにかかる時間を伝搬時間Txとして算出する。図7(a)に示すように、車両1は、伝搬時間Txが閾値Tk未満であることを確認すると、現在の通信を正規通信とみなし、通信成立を許可する。一方、図7(b)に示すように、車両1は、伝搬時間Txが閾値Tk以上であることを確認すると、現在の通信を不正通信とみなし、通信成立を不許可とする。
【0039】
また、送信信号Strの通信時、キー側クロック補正部26は、あるタイミングにおいて参照信号Scmを車両1に無線送信する。キー側クロック補正部26は、この参照信号Scmを所定周波数(誤差を含む)で送信する。
【0040】
車両側通信機6は、この参照信号Scmを受信部10で受信する。そして、車両側クロック補正部25は、受信した参照信号Scmの周波数を算出し、算出した周波数(誤差を含む)と、受信されるべき周波数との差異を算出する。このとき、例えば参照信号Scmに+20Hzの差異があり、例えば車両側通信機6が+10Hzずれ、キー側通信機7が−10Hzずれていると判断したとする。車両側クロック補正部25は、判断した「ずれ値」に応じた補正値を算出し、この補正値を基に伝搬時間Txを補正する。
【0041】
車両側クロック補正部25は、キー側通信機7のクロックずれを補正する場合、次の通信時、この補正値の情報を送信信号Strとともにキー側通信機7に送信する。キー側クロック補正部26は、受信した送信信号Strの再送信を、この補正値に基づく時間だけ遅延したり、フィルタ形状を補正したりして、キー側通信機7における電波送信のタイミングの最適化や、受信信号の高精度化を行う。また、車両側クロック補正部25は、車両側通信機6のクロックずれを補正する場合、算出した伝搬時間Txに補正値を反映して算出し直したり、フィルタ形状を補正したりして、車両側通信機6の伝搬時間Txを補正する。
【0042】
図8に、送信信号Strが「帯域分割あり」のときと「帯域分割なし」のときとで、SNRがどのように変わるのかの比較結果を示す。同図において、横軸を時間軸とし、縦軸を車両側通信機6における送信信号Strの電力(電圧)の軸とする。また、SNRは、送信信号(インパルス)Strのピークとノイズの出力レベル(例えば平均値)との差に相当する。この図に示されるように、送信信号Strを「帯域分割なし」、つまり送信信号Strを1つの広帯域信号で送信した場合、ノイズの電力レベル(図8の一点鎖線で示すノイズ波形)が相対的に高くなってしまうことが分かる。
【0043】
一方、送信信号Str「帯域分割あり」、つまり複数の狭帯域信号で送信した場合、ノイズの電力レベル(図8の実線で示すノイズ波形)が、「帯域分割なし」のときと比較して、低く抑えられることが分かる。これは、送信信号Strで使用する周波数が制限(限定)されることになるので、この箇所における熱等の雑音が抑えられ、結果としてノイズの電力レベルが低くなると考察される。このように、ノイズの電力レベルが低く抑えられれば、SNRが確保されるので、通信成立性の確保に効果が高くなる。
【0044】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)車両側通信機6及びキー側通信機7間で送信信号Strを送受信して伝搬時間Txを測定する伝搬時間測定装置4において、送信信号Strを複数の狭帯域信号として送信するので、送信信号Strにおいて使用する周波数が制限される。これにより、制限した分だけ送信信号Strにおいて熱等の雑音(雑音電力)を低く抑えることが可能となるので、SNRの改善に効果が高くなる。よって、送信信号Strを複数の狭帯域信号に分割するという簡素な構成で済み、例えば受信部10,19において回路構成の複雑化や部品のコストアップ等を招くことなく、SNRを改善することができる。
【0045】
(2)車両側通信機6が返信信号Str’を受信する際、この受信信号を、複数の狭帯域信号に対応したフィルタ形状を有するフィルタ17でフィルタ処理するので、雑音電力の削減に効果が高くなる。よって、高いSNRの確保に一層寄与する。
【0046】
(3)フィルタ17を使用して送信信号StrのSNR改善を図るので、SNR改善のための構造が簡素で済む。
(4)送信信号Strを複数の狭帯域信号とするとき、送信信号Strの周波数スペクトル22を、等間隔及び同一形状となるように形成した。このため、複数の狭帯域信号からなる送信信号Strを簡単に作り出すことができる。
【0047】
(5)複数の狭帯域信号からなる送信信号Strを、複数の周期的な繰り返し信号とした。このため、複数の送信信号Strを使用して伝搬時間Txの測定が可能となるので、伝搬時間Txの測定精度の確保に効果が高くなる。
【0048】
(6)伝搬時間測定装置4にクロックずれ補正機能を設けたので、車両側通信機6及びキー側通信機7間のクロックずれを要因とする伝搬時間Txの誤差を補正することができる。よって、伝搬時間Txの測定精度の確保に効果が高くなる。
【0049】
(7)キー側通信機7から参照信号Scmを車両側通信機6に送信し、この参照信号Scmの周波数を確認することにより、キー側通信機7及び車両側通信機6間のクロックずれを起因とする伝搬時間Txの誤差を補正する。よって、キー側通信機7から送信された参照信号Scmにより、クロックずれを直に割り出して伝搬時間Txを補正するので、伝搬時間Txを精度よく求めることができる。
【0050】
(8)参照信号Scmを単一周波数とするので、周波数のずれ量の計算が簡単で済む。
(9)クロックずれを要因とする伝搬時間Txの補正時、フィルタ形状を補正するようにすれば、以降の通信において、信号を精度よく受信することができる。
【0051】
(10)電子キー2は、車両側通信機6から受信した信号を、適切な変更を加えた上で返信信号Str’として車両側通信機6に送り返す。このため、仮に中継器5に送信信号Strの信号波形を記憶しておいて、この中継器5で車両側通信機6との通信を成立させようとしても、電子キー2から車両側通信機6に返信される信号に適切な変更が加えられた以降、この中継器5では通信を成立させることができなくなる。よって、不正通信に対するセキュリティ性を確保することができる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図9に従って説明する。なお、第2実施形態は送信信号Strの送信態様に工夫を持たせた実施例であり、他の基本的な構成は第1実施形態と同様である。よって、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して詳しい説明を省略し、異なる部分についてのみ詳述する。
【0053】
図9に示すように、車両側通信機6の制御部8には、周期的な繰り返し信号である送信信号Strの内容を途中で切り換える信号波形切換部31が設けられている。信号波形切換部31は、複数の送信信号Strを車両側通信機6からキー側通信機7に送信する際、ある特定のタイミング(通信開始又は通信途中の何れも可)において、送信信号Strの波形を他形状に切り換える。ちなみに、送信信号Strの波形切り換えは、1段のみ(1種類のみ変更可)でもよいし、複数段(図9は複数段を図示)切り換え可能(複数種類に変更可)としてもよい。なお、信号波形切換部31が信号波形切換手段に相当する。
【0054】
さて、中継器5を使用した不正通信としては、例えば送信信号Strの波形を中継器5に覚えさせておく行為が想定される。この場合、まず車両側通信機6から送信された送信信号Strを中継器5に受信させ、送信信号Strの波形を中継器5に記憶させておく。そして、以降の通信において、車両側通信機6からの送信信号Strを中継器5が受信すると、所定の返信タイミングにおいて中継器5から送信信号Strを、中継器5に記憶させておいた波形で送信させることにより、通信を不正成立させる。
【0055】
ところで、本例の場合は、車両側通信機6から周期的に複数送信される送信信号Strを、途中で波形を切り換えて送信する。よって、送信信号Strの波形を切り換えた際には、車両側通信機6が送信した送信信号Strの波形と、中継器5から受信する送信信号Strの波形とが異なるので、車両側通信機6は正規通信でないことを認識する。よって、このときの通信が不許可として処理されるので、通信を不正に成立させずに済む。
【0056】
本実施形態の構成によれば、第1実施形態の(1)〜(10)に加え、以下に記載の効果を得ることができる。
(11)周期的に繰り返し送信される送信信号Strの信号波形を他形状に切り換え可能としたので、仮に中継器5に送信信号Strの信号波形を記憶しておいて、この中継器5で車両側通信機6との通信を成立させようとしても、送信信号Strの波形を、あるタイミングにおいて切り換えれば、以降、この中継器5では通信を成立させることができなくなる。よって、不正通信に対するセキュリティ性を確保することができる。
【0057】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態を図10に従って説明する。なお、第3実施形態も送信信号Strの送信態様に工夫を持たせた実施例であり、第1実施形態と異なる部分についてのみ詳述する。
【0058】
図10に示すように、車両側通信機6の制御部8には、複数送信(周期的に繰り返し送信)する送信信号Strの周期を他周期に切り換える信号周期切換部32が設けられている。信号周期切換部32は、複数の送信信号Strを車両側通信機6からキー側通信機7に送信する際、ある特定のタイミング(通信開始又は通信途中の何れも可)において、送信信号Strの繰り返し周期を他周期に切り換える。例えば、これまで送信信号Strを1秒/sで送信していたものを、1.2秒/s等に切り換える。なお、信号周期切換部32が信号周期切換手段に相当する。
【0059】
さて、中継器5を使用した不正通信としては、例えば送信信号Strの繰り返し周期を中継器5に覚えさせておく行為が想定される。この場合、車両側通信機6から繰り返し送信される送信信号Strを中継器5で受信させ、送信信号Strの受信間隔を計測することにより、繰り返し周期を割り出して記憶させておく。そして、以降の通信において、車両側通信機6からの送信信号Strを中継器5が受信すると、記憶した繰り返し周期から決まる返信タイミングで、中継器5から車両側通信機6に送信信号Strを送信することにより、通信を不正成立させる。
【0060】
ところで、本例の場合は、車両側通信機6から周期的に複数送信される送信信号Strの繰り返し周期を、通信のある特定タイミングにおいて、他の周波数に切り換える。よって、送信信号Strの繰り返し周期を切り換えた際には、車両側通信機6が認識している送信信号Strの繰り返し周期とは異なるタイミングで、車両側通信機6は送信信号Strの返信を受け付けるので、正規通信でないことを認識する。よって、このときの通信が不許可として処理されるので、通信を不正に成立させずに済む。
【0061】
本実施形態の構成によれば、第1実施形態の(1)〜(10)に加え、以下に記載の効果を得ることができる。
(12)周期的に繰り返し送信される送信信号Strの繰り返し周期を他の値(周期)に切り換え可能としたので、仮に中継器5に送信信号Strの繰り返し周期を記憶しておいて、この中継器5で車両側通信機6との通信を成立させようとしても、送信信号Strの繰り返し周期を、あるタイミングにおいて切り換えれば、以降、この中継器5では通信を成立させることができなくなる。よって、不正通信に対するセキュリティ性を確保することができる。
【0062】
なお、実施形態はこれまでに述べた構成によらず、以下の態様に変更してもよい。
・第2実施形態において、送信信号Strをどのような波形形状に切り換えるのかは、実施形態に述べた例に限定されず適宜変更可能である。また、波形形状の切り換えタイミングも他に変更可能である。
【0063】
・第3実施形態において、送信信号Strをどのような繰り返し周期に切り換えるのかは、実施形態に述べた例に限定されず適宜変更可能である。また、周期の切り換えタイミングも他に変更可能である。
【0064】
・各実施形態において、クロックずれを要因とする伝搬時間Txの補正方法は、参照信号Scmを使用した方式に限定されない。要は、クロックずれを算出できて伝搬時間Txを補正できるのであれば、他の方式に適宜変更可能である。
【0065】
・各実施形態において、クロックずれ補正機能は、車両側通信機6及びキー側通信機7の両方に機能部が設けられることに限定されず、一方にのみ設けられた機能部から構成されてもよい。
【0066】
・各実施形態において、1つの送信信号Strを構築する複数の狭帯域信号の周波数スペクトル22…は、等間隔及び同一形状に限定されず、間隔や形状を異ならせてもよい。
・各実施形態において、複数の送信信号Strは、一定の繰り返し周期をとることに限定されず、周期が違ってもよい。
【0067】
・各実施形態において、複数の送信信号Strは、同じ形状の信号が繰り返し送信される信号に限定されず、形状が違ってもよい。
・各実施形態において、送信信号Strは、複数送信される信号に限定されず、1つのみの信号でもよい。
【0068】
・各実施形態において、改善手段はフィルタ17に限定されない。例えば、信号受信時において、取り込んだ複数の周波数スペクトル22…を足し合わせる処理を施すことにより、雑音電力を抑制してもよい。
【0069】
・各実施形態において、伝搬時間測定装置4は、フィルタ17が省略されてもよい。この構成であっても、本発明の作用効果は同様に得ることができる。
・各実施形態において、電子キーシステム3は、例えばRFID(Radio Frequency IDentification)やNFC(Near Field Communication)などを使用した近距離無線通信システムでもよい。電子キーシステム3で使用する電波の周波数は、LFやUHFに限らず、他の周波数に変更してもよい。キー操作フリーシステムは、双方向通信の往路/復路で周波数が異なることに限らず、同じとしてもよい。キー操作フリーシステムは、車両1の各送信機(例えば、車体右部、車体左部、ラッゲージ等に設置された送信機)からの通信に対する電子キー2の応答組み合わせを確認することにより、電子キー2の位置(車内/車外や車内外の細部位置)を判定するものでもよい。
【0070】
・各実施形態において、伝搬時間測定装置4は、電子キーシステム3に適用されることに限定されず、他の通信システムに適用可能である。また、伝搬時間測定装置4は、車両1に使用されることに限らず、他の機器や装置にも適用可能である。
【0071】
・各実施形態において、車両1は、化石燃料を燃焼して動力に変換する車に限定されず、例えばハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料自動車等でもよい。
【符号の説明】
【0072】
4…伝搬時間測定装置、6…基地局としての車両側通信機、7…端末としてのキー側通信機、10…受信部、17…改善手段としてのフィルタ、19…受信部、21…信号処理手段としての狭帯域信号生成出力部、22…周波数スペクトル、25…クロックずれ算出手段及び補正手段を構成する車両側クロック補正部、26…クロックずれ算出手段及び補正手段を構成するキー側クロック補正部、31…信号波形切換手段としての信号波形切換部、32…信号周期切換手段としての信号周期切換部、Str…信号としての送信信号、Str’…返信信号、Tx…伝搬時間、Scm…参照信号。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図12