特許第5956306号(P5956306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5956306
(24)【登録日】2016年6月24日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】ガス切断装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/10 20060101AFI20160714BHJP
   B23K 7/00 20060101ALI20160714BHJP
   F23Q 9/00 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
   B23K7/10 V
   B23K7/00 505C
   B23K7/10 G
   B23K7/00 501A
   F23Q9/00 N
   F23Q9/00 M
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-237780(P2012-237780)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-87808(P2014-87808A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】米本 臣吾
(72)【発明者】
【氏名】二宮 永伸
【審査官】 青木 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−110048(JP,A)
【文献】 実開平06−070964(JP,U)
【文献】 実開昭54−011922(JP,U)
【文献】 実開平05−078370(JP,U)
【文献】 実開昭61−102366(JP,U)
【文献】 特開平09−024464(JP,A)
【文献】 実開昭61−170869(JP,U)
【文献】 米国特許第4659068(US,A)
【文献】 国際公開第2004/082880(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/10
B23K 7/00
F23Q 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性ガスと酸素ガスと切断酸素ガスとをノズル先端から噴出させるガストーチと、このガストーチを保持するトーチホルダとを備えたガス切断装置において、
前記可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスから予熱炎を生成するために着火する着火機構と、
前記着火を前記予熱炎の燃焼熱を介して検知する着火検知機構と、
前記トーチホルダに固定された取付部材に装備され、前記着火機構が前記混合ガスに着火可能で且つ着火検知機構が前記着火を検知可能な進出位置と、前記着火機構と着火検知機構が前記進出位置からガストーチのノズル先端に対して遠ざかる方向へ退避させた退避位置とに亙って、前記着火機構及び着火検知機構を一体的に進退移動させる第1進退移動機構と、
を備えたことを特徴とするガス切断装置。
【請求項2】
前記ガス切断装置により切断される被切断部材に対するガストーチのノズル先端の位置を検知する為のセンシング機構と、
前記取付部材に装備され、前記センシング機構が前記ノズル先端の位置を検知可能な前進位置と、前記センシング機構が前記前進位置からガストーチのノズル先端に対して遠ざかる方向へ退避させた後退位置とに亙って、前記センシング機構を進退移動させる第2進退移動機構とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のガス切断装置。
【請求項3】
前記取付部材に開閉可能に装着され、前記後退位置にあるセンシング機構を前記予熱炎の燃焼熱から保護するように閉状態でカバーする熱保護カバーと、
前記センシング機構が前記後退位置から前進位置へ進出する際に熱保護カバーを開状態に切換えるとともに、前記前進位置から後退位置へ退避後に熱保護カバーを閉状態に切換えるように、前記第2進退移動機構によるセンシング機構の進退移動に連動して熱保護カバーを開閉させるカバー開閉機構とを備えたことを特徴とする請求項2に記載のガス切断装置。
【請求項4】
前記熱保護カバーが、前記取付部材に回動自在に支持され、
前記カバー開閉機構は、
前記第2進退移動機構によりセンシング機構と一体的に進退移動されるガイド部材であって、センシング機構の進退方向と平行方向へ延びる第1ガイド部と、この第1ガイド部の進出側端部に連なり且つ第1ガイド部に対して傾斜した第2ガイド部とを有するガイド部材と、
前記ガイド部材を挟持するように熱保護カバーに装着された1対のコロ部材とを有することを特徴とする請求項3に記載のガス切断装置。
【請求項5】
多関節ロボットのハンドに装着されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のガス切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガストーチの周辺機器を改良したガス切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス切断装置は、可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスと切断酸素ガスをノズル先端から噴出させるガストーチと、このガストーチを保持するトーチホルダとを備えている。ガス切断装置は、多関節ロボットのハンドや、レール上を走行する自動機等に装着され、ガストーチのノズル先端を被切断部材に接近させた状態で移動させ、そのノズル先端から噴出する混合ガスの燃焼熱により被切断部材を溶融し切断する。
【0003】
多関節ロボットのハンドに装着されるガス切断装置では、その多関節ロボットにより、ガストーチを自在に傾動させ、ガストーチのノズル先端が向く方向(即ち、ノズル先端からの混合ガスの噴出方向)を自在に変化させることができる。これにより、例えば、被切断部材の曲面部を切断できるようになり、また、鉄板等の被切断部材を開先を形成するように切断できるようになる。
【0004】
ガストーチの周辺機器としては、ガストーチのノズル先端から噴出する混合ガスに着火する着火機構、その着火を燃焼熱を介して検知する着火検知センサ、被切断部材に対するガストーチのノズル先端の位置を検知する為の位置検知センサ等が装備されている。
【0005】
ここで、着火機構、着火検知センサを、ガストーチから離れた(ガストーチと一体的に移動しない)場所に設置すると、それらの設置スペースが別途必要になるし、着火、着火検知の度に、ガストーチのノズル先端を、着火機構、着火検知センサの近傍の所定の着火位置に移動させ、着火、着火検知後は、その着火位置から切断作業位置に移動させる必要があるので、着火、着火検知による作業煩雑化等の課題が生じる。
【0006】
特許文献1のガス切断装置には、トーチホルダに固定されたアタッチメントに、着火機構(パイロットノズル及びイグナイタ)、着火検知センサ(赤外線センサ)、位置検知センサ(電気容量タイプの位置検出センサ)が装備されている。また、特許文献2のガス切断装置には、トーチホルダが固定的に設けられた器頭に、着火機構(パイロットノズル及びイグナイタ)が装備されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−24464号公報
【特許文献2】特開平9−285863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のガス切断装置においては、着火機構、着火検知センサが、アタッチメントに固定的に装備され、着火、着火検知を確実に行うために、ガストーチのノズル先端に比較的接近するように配置されている。従って、被切断部材の切断時、着火機構、着火検知センサ(或いは、着火機構、着火検知センサを取付ける構造;例えば、アタッチメント)が被切断部材と干渉(衝突)しないように、被切断部材に対するガストーチの傾動範囲が制限される。つまり、被切断部材の切断時、ガストーチを被切断部材に対して垂直となる姿勢から傾け得る角度を大きくすることができず、例えば、鉄板等の被切断部材を設定角度の開先を形成するように切断できない場合がある。
【0009】
また、位置検出センサも、アタッチメントに固定的に装備され、被切断部材の位置検知を確実に行うために、ガストーチのノズル先端に比較的接近するように配置されているため、被切断部材の切断時、位置検出センサ(或いは、位置検出センサを取付ける構造)が被切断部材と干渉しないように、上記同様の課題が生じる。しかも、位置検知センサが、何らカバーもされずに常に露出状態で前記配置となっているため、ガストーチのノズル先端から噴出する混合ガスの燃焼熱により損傷する虞が高くなる。
【0010】
特許文献2のガス切断装置においては、着火機構が器頭に固定的に装備されている。この着火機構は、パイロットノズルの先端から可燃性ガスと低圧の酸素ガスとの混合ガスを噴出させつつ燃焼させ、その燃焼熱により、ガストーチのノズル先端から噴出する混合ガスに着火するものである(特許文献1の着火装置もそうである)が、このパイロットノズルの先端は、ガストーチのノズル先端にそれ程接近するようには配置されていない。
【0011】
しかし、パイロットノズルの先端が、ガストーチのノズル先端から離れすぎると、ガストーチのノズル先端から噴出する混合ガスへの着火を確実に迅速に行うことが困難になり、つまり、ある程度は接近させる必要がある故、上記課題を改善するのに限界がある。また、着火機構の構成が制限され、ガストーチのノズル先端から噴出する混合ガスにダイレクトに放電して着火する簡単な構成の着火機構を採用することはできない。
【0012】
本発明の目的は、ガストーチのノズル先端から噴出する混合ガスから予熱炎を生成するための着火、及びその着火検知を自動化して簡単に且つ確実に行うこと、被切断部材の切断時、被切断部材に対するガストーチの傾動範囲が制限されるのを抑制すること、被切断部材に対するガストーチのノズル先端の位置を検知する為の機構が予熱炎の燃焼熱により損傷するのを防止すること、等を実現可能なガス切断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1のガス切断装置は、可燃性ガスと酸素ガスと切断酸素ガスとをノズル先端から噴出させるガストーチと、このガストーチを保持するトーチホルダとを備えたガス切断装置において、前記可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスから予熱炎を生成するために着火する着火機構と、前記着火を前記予熱炎の燃焼熱を介して検知する着火検知機構と、前記トーチホルダに固定された取付部材に装備され、前記着火機構が前記混合ガスに着火可能で且つ着火検知機構が前記着火を検知可能な進出位置と、前記着火機構と着火検知機構が前記進出位置からガストーチのノズル先端に対して遠ざかる方向へ退避させた退避位置とに亙って、前記着火機構及び着火検知機構を一体的に進退移動させる第1進退移動機構とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2のガス切断装置は、請求項1の発明において、前記ガス切断装置により切断される被切断部材に対するガストーチのノズル先端の位置を検知する為のセンシング機構と、前記取付部材に装備され、前記センシング機構が前記ノズル先端の位置を検知可能な前進位置と、前記センシング機構が前記前進位置からガストーチのノズル先端に対して遠ざかる方向へ退避させた後退位置とに亙って、前記センシング機構を進退移動させる第2進退移動機構とを備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項3のガス切断装置は、請求項2の発明において、前記取付部材に開閉可能に装着され、前記後退位置にあるセンシング機構を前記予熱炎の燃焼熱から保護するように閉状態でカバーする熱保護カバーと、前記センシング機構が前記後退位置から前進位置へ進出する際に熱保護カバーを開状態に切換えるとともに、前記前進位置から後退位置へ退避後に熱保護カバーを閉状態に切換えるように、前記第2進退移動機構によるセンシング機構の進退移動に連動して熱保護カバーを開閉させるカバー開閉機構とを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項4のガス切断装置は、請求項3の発明において、前記熱保護カバーが、前記取付部材に回動自在に支持され、前記カバー開閉機構は、前記第2進退移動機構によりセンシング機構と一体的に進退移動されるガイド部材であって、センシング機構の進退方向と平行方向へ延びる第1ガイド部と、この第1ガイド部の進出側端部に連なり且つ第1ガイド部に対して傾斜した第2ガイド部とを有するガイド部材と、前記ガイド部材を挟持するように熱保護カバーに装着された1対のコロ部材とを有することを特徴とする。
【0017】
請求項5のガス切断装置は、請求項1〜4の何れか1項の発明において、多関節ロボットのハンドに装着されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1のガス切断装置によれば、ガストーチと一体的に、着火機構、着火検知機構、第1進退移動機構を移動させる構成とし、第1進退移動機構により、着火機構及び着火検知機構を退避位置から進出位置へ移動させて、ガストーチのノズル先端から噴出する可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスから予熱炎を生成するための着火、及びその着火検知を自動化して簡単に且つ確実に、更に任意の場所で行うことができる。この着火、及び着火検知後は、第1進退移動機構により、着火機構及び着火検知機構を進出位置から退避位置へ移動させて、被切断部材の切断時、着火機構、着火検知機構が被切断部材と干渉(衝突)しないように、被切断部材に対するガストーチの傾動範囲が制限されるのを抑制することができる。つまり、被切断部材の切断時、ガストーチを被切断部材に対して垂直となる姿勢から傾け得る角度を大きくすることができる。
【0019】
請求項2のガス切断装置によれば、更に、ガストーチと一体的に、センシング機構、第2進退移動機構を移動させる構成とし、第2進退移動機構により、センシング機構を後退位置から前進位置へ移動させて、被切断部材に対するガストーチのノズル先端の位置検知を自動化して確実に行うことができる。このガストーチのノズル先端の位置検知後は、第2進退移動機構により、センシング機構を前進位置から後退位置へ移動させて、被切断部材の切断時、センシング機構が被切断部材と干渉しないように、被切断部材に対するガストーチの傾動範囲が制限されるのを抑制することができ、つまり、請求項1と同様の効果が得られる。しかも、センシング機構を前進位置から後退位置へ移動させることで、このセンシング機構が、予熱炎の燃焼熱により損傷するのを防止することができる。
【0020】
請求項3のガス切断装置によれば、閉状態の開閉カバーにより後退位置にあるセンシング機構を予熱炎の燃焼熱から保護するようにカバーし、センシング機構が予熱炎の燃焼熱、更には可燃性ガスと切断酸素ガスとの混合ガスの切断炎の燃焼熱により損傷するのを防止することができる。カバー開閉機構により、センシング機構が後退位置から前進位置へ進出する際に熱保護カバーを開状態に切換えて、センシング機構の進退移動に支障がないようにし、センシング機構が前進位置から後退位置へ退避後に熱保護カバーを閉状態に切換えて、再度、その閉状態の開閉カバーによりセンシング機構をカバーすることができる。カバー開閉機構は、第2進退移動機構によるセンシング機構の進退移動に連動して熱保護カバーを開閉させるので、熱保護カバーを開閉する為のアクチュエータを別途設ける必要もなく、前記の熱保護カバーの開状態、閉状態への切換えを確実に行うことができる。
【0021】
請求項4のガス切断装置によれば、カバー開閉機構の第1,第2ガイド部を有するガイド部材、1対のコロ部材により、前記の熱保護カバーの開状態、閉状態への切換えを、センシング機構の進退移動に連動して確実に行うことができ、しかも、熱保護カバーの開状態、閉状態への切換え後の同状態での保持を確実に行うことができる。
【0022】
請求項5のガス切断装置によれば、多関節ロボットのハンドに装着されることで、その多関節ロボットにより、ガストーチを自在に傾動させることができるが、そこで、請求項1〜4の発明の効果が有効になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例に係るガス切断装置の正面図である。
図2】ガス切断装置の左側面図である。
図3図2のIII-III 線断面図である。
図4】後退位置のセンシング機構と閉状態の熱保護カバー等の正面図である。
図5】前進位置のセンシング機構と開状態の熱保護カバー等の正面図である。
図6】ガス切断装置の制御系のブロック図である。
図7】切断準備処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。尚、適宜、図1図5に矢印で示す上方、左方、前方を、上方、左方、前方として説明する。
【実施例】
【0025】
図1図2に示すように、ガス切断装置1は、可燃性ガスと酸素ガスと切断酸素ガスとをノズル先端2a(火口2a)から噴出させるガストーチ2と、ガストーチ2を保持するトーチホルダ3とを備え、アタッチメントAを介して多関節ロボットRのハンドRaに装着されている。
【0026】
ガストーチ2は、その上部がトーチホルダ3に内嵌状に固定されて、トーチホルダ3よりも下方へ突出している。トーチホルダ3は連結ブラケット4に抱かれるように固定され、トーチホルダ3の右側において、この連結ブラケット4にアタッチメントAが連結されている。トーチホルダ3の上端部に3本のガスチューブ5a,5b,5cが接続され、これらガスチューブ5a,5b,5cからトーチホルダ3を介して、可燃性ガス、低圧の酸素ガス、高圧の切断酸素ガスがガストーチ2に供給される。
【0027】
図1図5に示すように、ガス切断装置1は、ガストーチ2のノズル先端2aから噴出する可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスから予熱炎を生成するために着火する着火機構6と、その着火を予熱炎の燃焼熱を介して検知する着火検知機構7と、着火機構6及び着火検知機構7を一体的に進退移動させる第1進退移動機構8と、被切断部材Wに対するガストーチ2のノズル先端2aの位置を検知する為のセンシング機構9と、センシング機構9を進退移動させる第2進退移動機構10とを備えている。
【0028】
図1図2に示すように、連結ブラケット4に取付部材11が固定され、即ち、取付部材11が連結ブラケット4を介してトーチホルダ3に固定され、この取付部材11に第1,第2進退移動機構8,10が装備されている。取付部材11は、上下方向に長い前後1対の側板12と、1対の側板12の上端部に固定された上板13とを有するとともに、この取付部材11には、その左端側に前後1対の側板部と左側板部とを有する横断面コ字状のカバー部材14が固定的に設けられている。1対の側板12の下端部が、連結ブラケット4に固定され、上板13は、トーチホルダ3の上端から上方へ、ガストーチ2及びトーチホルダ3の上下長程度離隔した高さに位置する。
【0029】
着火機構6、着火検知機構7、第1進退移動機構8について詳しく説明する。
図3に示すように、着火機構6はイグナイタ20を有し、そのイグナイタ20は導電性の細長いスパーク部材21及びアース部材22を有する。これら両部材21,22は、取付部材11の後側に配設され、夫々、上下方向に延びるストレート部21a,22aと、ストレート部21a,22aの下端から下方ほどガストーチ2の中心線に接近するように延びる傾斜部21b,22bとを有する。
【0030】
図2図3に示すように、着火検知機構7は熱電対30を有し、その熱電対30は熱電対本体を被覆材で被覆して細長く形成されている。熱電対30は、スパーク部材21と同様、上下方向に延びるストレート部30aと、ストレート部30aの下端から下方ほどガストーチ2の中心線に接近するように延びる傾斜部30bとを有する。熱電対30のセンサ部となる下端が、イグナイタ20の下端と略同じ高さに位置する。
【0031】
図2図3に示すように、第1進退移動機構8は、着火機構6及び着火検知機構7を支持して、着火機構6がガストーチ2のノズル先端2aの近傍に位置してノズル先端2aから噴出する可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスに着火可能で且つ着火検知機構7がノズル先端2aの近傍に位置して前記着火を検知可能な図2図3に仮想線で示す進出位置と、着火機構6と着火検知機構7が進出位置からガストーチ2のノズル先端2aに対して遠ざかる方向(上方)へ退避させた図2図3に実線で示す退避位置とに亙って、着火機構6及び着火検知機構7を上下方向へ進退移動させる。
【0032】
第1進退移動機構8は単動エアシリンダ40を有し、このエアシリンダ40に復帰バネ(図示略)が内蔵されている。エアシリンダ40は取付部材11の後側に倒立状に配設され、そのシリンダ部材40aの下端部が、取付部材11の後側の側板12に固定されたシリンダブラケット15に取付けられている。シリンダ部材40aから下方へ延びるピストンロッド40bの先端部(下端部)に取付ブロック41が連結され、この取付ブロック41に、スパーク部材21、アース部材22、熱電対30のストレート部21a,22a,30aが固定支持されている。但し、スパーク部材21は絶縁管21cを介して取付ブロック41に固定されている。
【0033】
ここで、スパーク部材21に制御装置70(図6参照)から延びる電力線が接続され、このスパーク部材21に所定電圧が印加されると、スパーク部材21とアース部材22の両先端間で放電が行われる。また、熱電対30にはそのセンサ部の温度を判定可能な温度判定器31が設けられ、この温度判定器31に制御装置70から延びる信号線が接続されている。熱電対30の温度判定器31によりセンサ部の温度が所定高温に達したと判定されると、その高温検知信号が制御装置70に出力される。
【0034】
センシング機構9、第2進退移動機構10について詳しく説明する。
図1図2図4図5に示すように、センシング機構9はタッチセンサ90を有し、そのタッチセンサ90は、その先端部が被切断部材Wに接触し、内蔵されたリミットSWがONになることで、被切断部材Wに対するガストーチ2のノズル先端2aの位置を検出する。タッチセンサ90には制御装置70から延びる信号線が接続されている。
【0035】
第2進退移動機構10は、センシング機構9が被切断部材Wに対するガストーチ2のノズル先端2aの位置を検知可能な図1(仮想線)、図5に示す前進位置と、センシング機構9が前進位置からガストーチ2のノズル先端2aに対して遠ざかる方向(上方)へ退避させた図1(実線)、図2図4に示す後退位置とに亙って、センシング機構9を上下方向へ進退移動させる。
【0036】
第2進退移動機構10は復動エアシリンダ50を有し、このエアシリンダ50は取付部材11の左端側のカバー部材14の上側に倒立状に配設され、そのシリンダ部材50aの下端部が、取付部材11の上板13に設けられたシリンダブラケット16に取付けられている。カバー部材14の内部において、シリンダ部材50aから下方へ延びるピストンロッド50bの先端部(下端部)に、正面視逆L字形のナックルブラケット51の上端部が連結され、このナックルブラケット51の下端部に取付けられたホルダ部材52にタッチセンサ90が保持されている。ナックルブラケット51は、取付部材11に対してガイド機構(図示略の所謂LMガイド)により上下方向へ移動自在にガイドされている。
【0037】
図1図2図4図5に示すように、ガス切断装置1は、取付部材11に固定的に装着された固定カバー60と、取付部材11に開閉可能に装着され、後退位置にあるセンシング機構9をガストーチ2のノズル先端2aから噴出する混合ガスの予熱炎の燃焼熱、更には切断炎の燃焼熱から保護するように、固定カバー60と協働して図1(実線)、図5に示す閉状態でカバーする熱保護カバー61(防熱カバー61)と、熱保護カバー61を開閉させるカバー開閉機構65とを備えている。
【0038】
固定カバー60は、鉛直平板状に形成され、カバー部材14の右端下側において面を左右方向に向けて配設され、取付部材11(カバー部材14)に固定されている。熱保護カバー61は、固定カバー60に左側から対向するように配設され、その上端部に設けられたリンク部材62の左端部が、取付部材11のカバー部材14の左端下部に前後方向の支軸63を介して回動自在に支持されている。
【0039】
カバー開閉機構65は、センシング機構9が後退位置から前進位置へ進出する際に熱保護カバー61を図5に示す開状態に切換えるとともに、前進位置から後退位置へ退避後に熱保護カバー61を図4に示す閉状態に切換えるように、第2進退移動機構10によるセンシング機構9の進退移動に連動して熱保護カバー61を開閉させる。
【0040】
カバー開閉機構65は、第2進退移動機構10によりセンシング機構9と一体的に進退移動されるガイド部材66と、このガイド部材66を挟持するように熱保護カバー61に装着された1対のコロ部材67とを有し、このガイド部材66と1対のコロ部材67により直動カム機構を構成している。1対のコロ部材67は、熱保護カバー61のリンク部材62の右部に夫々前後方向の軸67aを介して回転自在に支持されている。
【0041】
ガイド部材66は、ナックルブラケット51に固定されており、このガイド部材66は上下方向(センシング機構9の進退方向と平行方向)へ延びる第1ガイド部66aと、この第1ガイド部66aの下端部(進出側端部)に連なり且つ下方程右方へ移行するように第1ガイド部66aに対して傾斜した第2ガイド部66bと、第2ガイド部66bの下端部に連なり且つ上下方向へ延びる第3ガイド部66cとを有する。第1ガイド部66aはセンシング機構9の進退ストロークより少し長い上下長を有し、第2,第3ガイド部66b,66cは夫々第1ガイド部66aの1/5程度の上下長を有する。
【0042】
図4に示すように、センシング機構9が後退位置にあるとき、1対のコロ部材67が第3ガイド部66c(若しくは、第2ガイド部66bの下端部)を挟持して、熱保護カバー61が閉状態に保持される。センシング機構9が後退位置から前進位置へ進出移動(下降)されると、先ず、後退位置から少し下降される迄の間に、1対のコロ部材67が第2ガイド部66bを挟持し、その第2ガイド部66bにガイドされて、支軸63を中心に正面視にて時計回り回動し、つまり熱保護カバー61が開動作する。
【0043】
その後、1対のコロ部材67が第1ガイド部66aを挟持すると、熱保護カバー61が開状態に切換えられて保持され、そのままの状態で、センシング機構9が前進位置まで下降される。センシング機構9が前進位置から後退位置へ退避移動(上昇)されると、熱保護カバー61は前記とは逆に作動する。即ち、センサリング機構9が後退位置から大部分上昇される迄、熱保護カバー61は開状態に保持され、その後、後退位置へ上昇される迄の間に閉動作し、センサリング機構9が後退位置に上昇されると、熱保護カバー61は閉状態に切換えられて保持される。
【0044】
ガス切断装置1の制御系について説明する。
図6に示すように、ガス切断装置1の制御装置70は、多関節ロボットR(ロボット制御盤)と接続されており、このロボットRからの制御信号、及び、イグナイタ20及び熱電対30の進出位置と退避位置を検出するSW71,72、タッチセンサ90の前進位置と後退位置を検出するSW73,74、前記の温度判定器31、タッチセンサ90からの信号を受けて、前記のガストーチ2、第1,第2エアシリンダ40,50、イグナイタ20を制御する。尚、SW71,72は第1エアシリンダ40に組付けられた近接SWからなり、SW71,72は第2エアシリンダ50に組付けられた近接SWからなる。
【0045】
ガストーチ2においては、可燃性ガス制御弁80、低圧酸素ガス制御弁81、高圧酸素ガス制御弁82が制御されて、イグナイタ20により着火する際には、可燃性ガスと低圧の酸素ガスとが予熱炎を生成するためにガストーチ2に供給され、その後、被切断部材Wを切断する際には、可燃性ガスと高圧の切断酸素ガスとが切断炎を生成するためにガストーチ2に供給される。
【0046】
第1エアシリンダ40においては、第1電磁制御切換弁83が制御されて、イグナイタ20及び熱電対30を進出させる際に、第1エアシリンダ40に進出用加圧エアが供給されて、ピストンロッド40bが進出駆動され、その後、イグナイタ20及び熱電対30を退避させる際に、第1エアシリンダ40から進出用加圧エアが排出されて、エアシリンダ40に内蔵の復帰バネにより、ピストンロッド40bが退入駆動される。第2エアシリンダ50においては、第2電磁制御切換弁84が制御されて、タッチセンサ90を進出させる際に、第2エアシリンダ50に進出用加圧エアが供給されて、ピストンロッド50bが進出駆動され、その後、タッチセンサ90を退避させる際に、第2エアシリンダ50に退避用加圧エアが供給されて、ピストンロッド50bが退入駆動される。
【0047】
制御装置70が実行する切断準備処理について、図7のフローチャートに基づいて説明する。この処理では、先ず、被切断部材Wに対してガストーチ2のノズル先端2aを適正距離離した位置にして、第1エアシリンダ40によりタッチセンサ90を後退位置から前進位置へ移動させる(S2)。その後、多関節ロボットRにより、ガストーチ2(即ち、タッチセンサ90)を移動させて、被切断部材Wをセンシングし、被切断部材Wに対するガストーチ2のノズル先端2aの1又は複数の位置を検知する(S2)。
【0048】
被切断部材Wのセンシングが終了すると(S3;Yes )、第1エアシリンダ40によりタッチセンサ90を前進位置から後退位置へ移動させ(S4)、次に、第2エアシリンダ50によりイグナイタ20及び熱電対30を退避位置から進出位置へ移動させる(S5)。その後、ガストーチ2に可燃性ガスと酸素ガスを供給し(S6)、イグナイタ20のスパーク部材21に所定電圧を印加し、スパーク部材21とアース部材22の両先端間で放電を行わせる(S7)。
【0049】
こうして、ガストーチ2のノズル先端2aから噴出する可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスから予熱炎を生成するために着火が行われるが、次に、その着火が検知されたか否か判定される(S8)。ここで、熱電対30の温度判定器31によりセンサ部の温度が所定高温に達したと判定されると出力される高温検知信号を受けて、着火検知と判定され(S8;Yes )、その後、第2エアシリンダ50によりイグナイタ20及び熱電対30を進出位置から退避位置へ移動させ(S9)、この切断準備処理が終了する。
【0050】
本発明のガス切断装置1によれば、次の効果を奏する。
ガストーチ2と一体的に、着火機構6、着火検知機構7、第1進退移動機構8を移動させる構成とし、第1進退移動機構8により、着火機構6及び着火検知機構7を退避位置から進出位置へ移動させて、ガストーチ2のノズル先端2aから噴出する可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスから予熱炎を生成するための着火、及びその着火検知を自動化して簡単に且つ確実に、更に任意の場所で行うことができる。
【0051】
この着火、及び着火検知後は、第1進退移動機構8により、着火機構6及び着火検知機構7を進出位置から退避位置へ移動させて、被切断部材Wの切断時、着火機構6、着火検知機構7が被切断部材Wと干渉(衝突)しないように、被切断部材Wに対するガストーチ2の傾動範囲が制限されるのを抑制することができる。
【0052】
また、第1進退移動機構8により、着火機構6をガストーチ2のノズル先端2aに接近させることができるため、着火機構6として、ノズル先端2aから噴出する混合ガスにダイレクトに放電して着火する簡単な構成のイグナイタ20を採用することができる。
【0053】
更に、ガストーチ2と一体的に、センシング機構9、第2進退移動機構10を移動させる構成とし、第2進退移動機構10により、センシング機構9を後退位置から前進位置へ移動させて、被切断部材Wに対するガストーチ2のノズル先端2aの位置検知を自動化して確実に行うことができる。
【0054】
このガストーチ2のノズル先端2aの位置検知後は、第2進退移動機構10により、センシング機構9を前進位置から後退位置へ移動させて、被切断部材Wの切断時、センシング機構9が被切断部材Wと干渉(衝突)しないように、被切断部材Wに対するガストーチ2の傾動範囲が制限されるのを抑制することができる。
【0055】
ここで、ガストーチ2が被切断部材Wに接近した切断作業位置において、図1に示す角度θ(例えば、約65度)は、ガストーチ2を鉛直姿勢からセンシング構9側(左側)へ傾け得る角度を示し、図2に示す角度θ(例えば、約65度)は、ガストーチ2を鉛直姿勢から着火機構6及び着火検知機構7側(後側)へ傾け得る角度を示している。特許文献1のようなガス切断装置では、ガストーチを切断作業位置において鉛直姿勢から傾け得る角度を、図2図3に示す角度θのように大きくすることはできない。
【0056】
このように、第1,第2進退移動機構8,10により、前記の切断準備処理を自動化して能率良く行うことができるうえ、被切断部材Wの切断時、被切断部材Wに対するガストーチ2の傾動範囲が制限されるのを抑制し、つまり、ガストーチ2を被切断部材Wに対して垂直となる姿勢から傾け得る角度を大きくすることができ、例えば、鉄板等の被切断部材Wを設定角度の開先を形成するように切断できるようになる。
【0057】
また、開閉カバー61を被切断部材Wの切断に支障がない位置にコンパクトに設け、その閉状態の開閉カバー61により後退位置にあるセンシング機構9を、ガストーチ2のノズル先端2aから噴出する可燃性ガスと酸素ガスとの混合ガスの予熱炎の燃焼熱から保護するようにカバーして、センシング機構9が、その予熱炎の燃焼熱、更にはガストーチ2のノズル先端2aから噴出する可燃性ガスと切断酸素ガスとの混合ガスの切断炎の燃焼熱により損傷するのを防止することができる。
【0058】
カバー開閉機構10により、センシング機構9が後退位置から前進位置へ進出する際に熱保護カバー61を開状態に切換えて、センシング機構9の進退移動に支障がないようにし、センシング機構9が前進位置から後退位置へ退避後に熱保護カバー61を閉状態に切換えて、再度、その閉状態の開閉カバー61によりセンシング機構9をカバーすることができる。カバー開閉機構65は、第2進退移動機構10によるセンシング機構9の進退移動に連動して熱保護カバー61を開閉させるので、熱保護カバー61を開閉する為のアクチュエータを別途設ける必要もなく、前記の熱保護カバー61の開状態、閉状態への切換えを確実に行うことができる。
【0059】
カバー開閉機構65の第1,第2ガイド部66a,66bを有するガイド部材66、1対のコロ部材67により、熱保護カバー61の開状態、閉状態への切換えを、センシング機構9の進退移動に連動して確実に行うことができ、しかも、熱保護カバー61の開状態、閉状態への切換え後の同状態での保持を確実に行うことができる。ガス切断装置1が、多関節ロボットWのハンドWaに装着されることで、その多関節ロボットWにより、ガストーチ2を自在に傾動させることができ、そこで、前記効果が有効になる。
【0060】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前記開示事項以外の種々の変更を付加して実施可能である。例えば、着火検知機構7においては、熱電対30の代わりに、赤外線センサを採用可能である。また、着火検知機構7は、前進位置或いは後退位置において、前記予備炎の失火、更には、前記切断炎の失火を検知可能に構成してもよい。
【符号の説明】
【0061】
R 多関節ロボット
Ra ハンド
W 被切断部材
1 ガス切断装置
2 ガストーチ
2a ノズル先端
3 トーチホルダ
6 着火機構
7 着火検知機構
8 第1進退移動機構
9 センシング機構
10 第2進退移動機構
11 取付部材
61 熱保護カバー
65 カバー開閉機構
66 ガイド部材
66a 第1ガイド部
66b 第2ガイド部
67 コロ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7