【実施例】
【0063】
以下に、本発明の電極材料の実施例について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
PdCl
2とカーボンブラック(CB)を純水中に分散させ、60℃で30分間超音波処理を行った後、そのまま溶液をドライアップした。得られた試料を60℃で一晩乾燥させた後、350℃で水素還元した。得られた試料を、以下、Pd/CBと記す。熱重量分析より測定されたPd/CBにおけるPdの濃度は28wt%だった。
【0065】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
上記工程で得たPd/CBを純水中に分散させ、60℃で5分間超音波処理を行った。次に、トリエチルアミンで溶液のpHを約10にし、3−アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、60℃で30分間攪拌した。次に、テトラエトキシシランを添加し、60℃で180分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、60℃で一晩乾燥させた。得られた試料をH
2/Ar(H
2:10vol%)流通下、350℃で120分間焼成した。得られた試料を、以下、SiO
2/Pd/CBと記す。熱重量分析より測定されたSiO
2/Pd/CBの各構成要素の質量比は、SiO
2/Pd/CB/=25%/21%/54%だった。また、透過電子顕微鏡より、Pd/CBが、Pdを中心にSiO
2で被覆されていることが確認できた。また、平均被覆厚みは約3nmと見積もられた(
図5)。
【0066】
(3)多孔性無機材料の細孔表面を塩基性官能基で修飾する工程
上記工程で得たSiO
2/Pd/CBをトルエン中に分散させ、室温で5分間超音波処理を行った。次に、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(50wt%メタノール溶液)を添加し、室温で120分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、メタノール/水(メタノール:80vol%)中に分散させて、室温で30分間攪拌し、洗浄を行った。その後、再び遠心分離により試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。得られた試料をKOH水溶液(KOH:10mM)中に分散させ、室温で120分間攪拌し、第四級アンモニウム基の対イオンをヒドロキシイオンに置換した。その後、遠心分離により試料を回収し、純水中に分散させ、室温で120分間攪拌し、洗浄を行った。同様の洗浄をさらに2回繰り返した後、遠心分離で試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。これにより、SiO
2/Pd/CBのSiO
2細孔表面が、トリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基(TMPA)で修飾された電極材料を得た。熱重量分析より、SiO
2に対するトリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基(TMPA)の当量は、3.3meq/gと測定された。
【0067】
(実施例2)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
実施例1(1)の工程に準じ、Pd/CBを得た。
【0068】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
実施例1(2)の工程に準じ、SiO
2/Pd/CBを得た。
【0069】
(3)多孔性無機材料の細孔表面を塩基性官能基で修飾する工程
上記工程で得たSiO
2/Pd/CBをトルエン中に分散させ、室温で5分間超音波処理を行った。次に、3−アミノプロピルテトラエトキシシランを添加し、室温で120分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、メタノール/水(メタノール:80vol%)中に分散させて、室温で30分間攪拌し、洗浄を行った。その後、再び遠心分離により試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。これにより、SiO
2/Pd/CBのSiO
2細孔表面が、アミノプロピル基(AP)で修飾された電極材料を得た。熱重量分析より、SiO
2に対するアミノプロピル基(AP)の当量は、3.0meq/gと測定された。
【0070】
(比較例1)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
実施例1(1)の工程に準じ、Pd/CBを得た。
【0071】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
実施例1(2)の工程に準じ、SiO
2/Pd/CBを得た。
【0072】
(実施例3)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
RuCl
3・nH
2Oとカーボンブラック(CB)を純水中に分散させ、60℃で30分間超音波処理を行った。その後、KOH水溶液(KOH:10mM)を、溶液のpHが約9になるまで滴下し、60℃で120分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、純水中に分散させ、室温で120分間攪拌し、洗浄を行った。同様の洗浄をさらに2回繰り返した後、遠心分離で試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。得られた試料を、以下、RuO
2−x/CBと記す。熱重量分析より測定されたRuO
2−x/CBにおけるRuO
2−xの濃度は35wt%だった。
【0073】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
上記工程で得たRuO
2−x/CBを純水中に分散させ、60℃で5分間超音波処理を行った。次に、トリエチルアミンで溶液のpHを約10にし、3−アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、60℃で30分間攪拌した。次に、テトラエトキシシランを添加し、60℃で180分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、60℃で一晩乾燥させた。得られた試料をN
2流通下、350℃で120分間焼成した。得られた試料を、以下、SiO
2/RuO
2−x/CBと記す。熱重量分析より測定されたSiO
2/RuO
2−x/CBの各構成要素の質量比は、SiO
2/RuO
2−x/CB/=31%/24%/45%だった。
【0074】
(3)多孔性無機材料の細孔表面を塩基性官能基で修飾する工程
上記工程で得たSiO
2/RuO
2−x/CBをトルエン中に分散させ、室温で5分間超音波処理を行った。次に、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(50wt%メタノール溶液)を添加し、室温で120分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、メタノール/水(メタノール:80vol%)中に分散させて、室温で30分間攪拌し、洗浄を行った。その後、再び遠心分離により試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。得られた試料をKOH水溶液(KOH:10mM)中に分散させ、室温で120分間攪拌し、第四級アンモニウム基の対イオンをヒドロキシイオンに置換した。その後、遠心分離により試料を回収し、純水中に分散させ、室温で120分間攪拌し、洗浄を行った。同様の洗浄をさらに2回繰り返した後、遠心分離で試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。これにより、SiO
2/RuO
2−x/CBのSiO
2細孔表面が、トリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基(TMPA)で修飾された電極材料を得た。熱重量分析より、SiO
2に対するトリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基(TMPA)の当量は、2.9meq/gと測定された。
【0075】
(実施例4)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
実施例3(1)の工程に準じ、RuO
2−x/CBを得た。
【0076】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
実施例3(2)の工程に準じ、SiO
2/RuO
2−x/CBを得た。
【0077】
(3)多孔性無機材料の細孔表面を塩基性官能基で修飾する工程
上記工程で得たSiO
2/RuO
2−x/CBをトルエン中に分散させ、室温で5分間超音波処理を行った。次に、3−アミノプロピルテトラエトキシシランを添加し、室温で120分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、メタノール/水(メタノール:80vol%)中に分散させて、室温で30分間攪拌し、洗浄を行った。その後、再び遠心分離により試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。これにより、SiO
2/RuO
2−x/CBのSiO
2細孔表面が、アミノプロピル基(AP)で修飾された電極材料を得た。熱重量分析より、SiO
2に対するアミノプロピル基(AP)の当量は、3.1meq/gと測定された。
【0078】
(比較例2)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
実施例3(1)の工程に準じ、RuO
2−x/CBを得た。
【0079】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
実施例3(2)の工程に準じ、SiO
2/RuO
2−x/CBを得た。
【0080】
(実施例5)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
AgNO
3とカーボンブラック(CB)を純水中に分散させ、60℃で30分間超音波処理を行った後、そのまま溶液をドライアップした。得られた試料を60℃で一晩乾燥させた後、400℃で水素還元した。得られた試料を、以下、Ag/CBと記す。熱重量分析より測定されたAg/CBにおけるAgの濃度は15wt%だった。
【0081】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
上記工程で得たAg/CBを純水中に分散させ、60℃で5分間超音波処理を行った。次に、トリエチルアミンで溶液のpHを約10にし、3−アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、60℃で30分間攪拌した。次に、テトラエトキシシランを添加し、60℃で180分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、60℃で一晩乾燥させた。得られた試料をH
2/Ar(H
2:10vol%)流通下、350℃で120分間焼成した。得られた試料を、以下、SiO
2/Ag/CBと記す。熱重量分析より測定されたSiO
2/Ag/CBの各構成要素の質量比は、SiO
2/Ag/CB/=40%/9%/51%だった。
【0082】
(3)多孔性無機材料の細孔表面を塩基性官能基で修飾する工程
上記工程で得たSiO
2/Ag/CBをトルエン中に分散させ、室温で5分間超音波処理を行った。次に、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド(50wt%メタノール溶液)を添加し、室温で120分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、メタノール/水(メタノール:80vol%)中に分散させて、室温で30分間攪拌し、洗浄を行った。その後、再び遠心分離により試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。得られた試料をKOH水溶液(KOH:10mM)中に分散させ、室温で120分間攪拌し、第四級アンモニウム基の対イオンをヒドロキシイオンに置換した。その後、遠心分離により試料を回収し、純水中に分散させ、室温で120分間攪拌し、洗浄を行った。同様の洗浄をさらに2回繰り返した後、遠心分離で試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。これにより、SiO
2/Ag/CBのSiO
2細孔表面が、トリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基(TMPA)で修飾された電極材料を得た。熱重量分析より、SiO
2に対するトリメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基(TMPA)の当量は、3.3meq/gと測定された。
【0083】
(実施例6)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
実施例5(1)の工程に準じ、Ag/CBを得た。
【0084】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
実施例5(2)の工程に準じ、SiO
2/Ag/CBを得た。
【0085】
(3)多孔性無機材料の細孔表面を塩基性官能基で修飾する工程
上記工程で得たSiO
2/Ag/CBをトルエン中に分散させ、室温で5分間超音波処理を行った。次に、3−アミノプロピルテトラエトキシシランを添加し、室温で120分間攪拌した。その後、遠心分離により試料を回収し、メタノール/水(メタノール:80vol%)中に分散させて、室温で30分間攪拌し、洗浄を行った。その後、再び遠心分離により試料を回収し、120℃で一晩乾燥した。これにより、SiO
2/Ag/CBのSiO
2細孔表面が、アミノプロピル基(AP)で修飾された電極材料を得た。熱重量分析より、SiO
2に対するアミノプロピル基(AP)の当量は、3.5meq/gと測定された。
【0086】
(比較例3)
(1)導電性担体上に活性触媒が担持された電極触媒を作製する工程
実施例5(1)の工程に準じ、Ag/CBを得た。
【0087】
(2)電極触媒の一部を多孔性無機材料で被覆する工程
実施例5(2)の工程に準じ、SiO
2/Ag/CBを得た。
【0088】
<カソード触媒スラリーの作製>
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた各電極材料につき、それぞれ、20wt%Nafion溶液(デュポン社製:登録商標)、水、及び1−プロパノールの混合溶液中に分散させ、室温で60分間超音波処理を行い、カソード触媒スラリーを作製した。ここで、各カソード触媒スラリーは、総体積が50ml、水と1−プロパノールの体積比が水/プロパノール=1/4、含まれる活性触媒が0.5g、カーボンブラックに対するNafionの質量比が1.0、となるようにした。
【0089】
<カソードの作製>
面積5cm
2のガス拡散基材(カーボンペーパー)に、上記カソード触媒スラリーを塗布してカソード触媒層を形成した後、一晩乾燥させた。なお、それぞれ活性触媒の量が0.5mg/cm
2となるようにした。
【0090】
<アノード触媒スラリーの作製>
白金担持カーボンブラック(TEC10E50E、田中貴金属工業株式会社)を、20wt%Nafion溶液(デュポン社製:登録商標)、水、及び1−プロパノールの混合溶液中に分散させ、室温で60分間超音波処理を行い、カソード触媒スラリーを作製した。ここで、各カソード触媒スラリーは、総体積が50ml、水と1−プロパノールの体積比が水/プロパノール=1/4、含まれる活性触媒(白金)が0.5g、カーボンブラックに対するNafionの質量比が1.0、となるようにした。
【0091】
<アノードの作製>
面積5cm
2のガス拡散基材(カーボンペーパー)に、上記アノード触媒スラリーを塗布してアノード触媒層を形成した後、一晩乾燥させた。なお、それぞれ活性触媒(白金)の量が0.5mg/cm
2となるようにした。
【0092】
<膜電極接合体の作製>
上記アノードと上記カソードとの間に電解質膜を狭持した状態でホットプレスを行い、膜電極接合体を作製した。ここで、電解質膜としてNafion212(デュポン社製:登録商標)を用いた。また、ホットプレスの条件は、120℃、5MPa、160秒とした。
【0093】
<燃料電池の作製>
上記膜電極接合体のアノード面、カソード面に、それぞれ、燃料流路が設けられたセパレータ、酸化剤流路が設けられたセパレータを配設し、燃料電池を作製した。電極の有効面積は5cm
2で、燃料流路及び酸化剤流路は、ともに1流路のサーペンタイン型流路であり、燃料流路および酸化剤流路は並行流とした。
【0094】
<発電試験>
実施例1〜6及び比較例1〜3の燃料電池について、それぞれ下記条件で発電試験を行った。発電試験は、初期及び後述の電位サイクル試験後に行った。
アノードガス:H
2、流量100ml/min
カソードガス:O
2、流量100ml/min
セル温度:70℃
アノードガス用バブラー温度:70℃
カソードガス用バブラー温度:70℃
【0095】
<サイクリックボルタモグラフ(CV)測定>
実施例1〜6及び比較例1〜3の燃料電池について、各活性触媒の耐溶出性を評価するため、それぞれ下記条件でCV測定を行った。CV測定で観測された各活性触媒の酸化−還元電荷量を、各活性触媒の有効表面積を表す指標とした。CV測定は、初期及び後述の電位サイクル試験後に行った。
アノードガス:H
2、流量100ml/min
カソードガス:N
2、流量100ml/min
セル温度:70℃
アノードガス用バブラー温度:70℃
カソードガス用バブラー温度:70℃
電位走査範囲:0.05V〜1.2V(vs RHE)
電位走査速度:0.05V/s
【0096】
<電位サイクル試験>
実施例1〜6及び比較例1〜3の燃料電池について、劣化加速試験として、それぞれ下記条件で電位サイクル試験を行った。
アノードガス:H
2、流量100ml/min
カソードガス:N
2、流量100ml/min
セル温度:70℃
アノードガス用バブラー温度:70℃
カソードガス用バブラー温度:70℃
電位走査範囲:0.05V〜1.2V(vs RHE)
電位走査速度:0.5V/s
電位サイクル数:10000回
【0097】
実施例1及び比較例1の燃料電池について、初期及び電位サイクル試験後の発電試験結果を
図6に示す。比較例1の燃料電池は、電位サイクル試験後に発電性能の低下が見られたのに対し、実施例1の燃料電池は、電位サイクル試験後も初期とほぼ同等の発電性能を示した。また、初期においても、実施例1の方が高い発電性能を示した。
【0098】
実施例1及び比較例1の燃料電池について、初期及び電位サイクル試験後のCV測定結果を、それぞれ
図7、
図8に示す。比較例1の燃料電池は、電位サイクル試験後に活性触媒(Pd)の酸化−還元電荷量に低下が見られた。すなわち、活性触媒(Pd)の有効表面積が低下した。一方、実施例1の燃料電池は、電位サイクル試験後も初期とほぼ同等の活性触媒(Pd)の酸化−還元電荷量を示した。すなわち、活性触媒(Pd)の有効表面積がほぼ低下しなかった。
【0099】
実施例1〜6及び比較例1〜3の燃料電池について、それぞれ、初期における300mA/cm
2発電時の電圧、電位サイクル後の電圧の低下量、及び電位サイクル後の各活性触媒の有効表面積の維持率(酸化−還元電荷量の維持率)を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
以上から、電極触媒を被覆する多孔性無機材料の細孔表面を塩基性官能基で修飾し、活性触媒近傍を塩基性雰囲気とすることで、幅広い活性触媒について、その溶出を抑制し、かつ、従来より高い発電性能を維持できることがわかった。
【0102】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれ得るものである。