【実施例1】
【0017】
本発明の第1の実施例について説明する。まず初めに、本発明が適用される蒸気タービンの一例について説明する。
【0018】
図1は、タービン動翼を有する蒸気タービンの段落構造の例である。
図1において、1はダイアフラム外輪、2はダイアフラム内輪、3は静翼、4は動翼、5はロータ、6は動翼先端カバー、7はロータ5の中心軸、20で示した矢印は作動流体である蒸気の主流の流れ方向を各々示す。なお、方向の定義として、図面左から右に向かってロータ軸方向、下から上に向かってロータ径方向、手前から奥に向かってロータ周方向となっている。
【0019】
一般的な蒸気タービンは、円環状に組み立てられたダイアフラム外輪1とダイアフラム内輪2との間に、周方向に複数枚の静翼3を固定して環状流路を形成する静翼列と、静翼列の主流20の流れ方向下流側に、回転体であるロータ5のディスク部に周方向に複数枚の動翼4を固定して形成される動翼列とを一列ずつ組み合わせた段落が、軸流方向に複数並んだ構造となっている。なお、動翼4の翼部の外周側先端には、一般的に動翼先端カバー6が設けられており、隣接する翼同士が動翼先端カバー6により連結されている。
【0020】
静翼3は、静翼3の流れ方向上流側より流入する主流を整流し、圧力を速度に変換する役割を果たしており、静翼3を通過した主流のエネルギは、動翼4によって回転エネルギに変換され、ロータ5を回転させる。ロータ5は図示しない発電機に連結されており、発電機を回転させることによって発電する。
【0021】
図2は、一般的な蒸気タービンのタービン動翼に適用される動翼先端カバー構造を径方向から見た断面図の例である。なお、動翼先端カバーは各動翼4に備わっており、動翼先端カバーは各々の翼同士で別構造となっている。
【0022】
図2では、動翼先端カバーを周方向に隣り合う第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9の2つしか示していないが、実際にはタービン軸周りに配置された動翼4の数だけ動翼先端カバーも配置される。
【0023】
ここで、
図2で示している第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9は、同一形状であり、説明のため便宜的に番号をつけてある。実際は、第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9ともに
図1に示した動翼先端カバー6と同じ役割の構造物である。
【0024】
図2では、周方向に隣り合う第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9が、ロータ周方向側の側壁面のロータ軸方向中央部に形成された第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11で、軸方向を向いた面で互いに接触する構造となっている。
【0025】
また、動翼先端カバーのロータ周方向側の側壁面のうち、接触面を挟んでロータ軸方向両側に位置する、第1動翼先端カバー8の翼入口側の対向面12aと第2動翼先端カバー9の翼入口側の対向面13aの間、および第1動翼先端カバー8の翼出口側の対向面12bと第2動翼先端カバー9の翼出口側の対向面13bの間には、回転時および非回転時ともに隙間を有する構造となっている。なお、対向面12、13は周方向を向いた面であり、翼部形状に合わせてロータ周方向上の位置が異なり、段違いの形状となっている。
【0026】
つまり、隣り合う動翼4が周方向に異なる位相で変動する振動モードに対しては、第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9が異なる方向に振動するため、第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11の接触部で摩擦が生じ、摩擦減衰により共振振幅を減衰する構造となっている。
【0027】
以上のように、従来のタービン動翼の先端カバー形状では、隣り合う第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9を接触させることで、周方向の振動モードに対して摩擦減衰が生じて、共振振幅を低減させる構造になっている。
【0028】
一方で、蒸気タービンの動翼では回避したい振動モードが複数存在するため、周方向モード以外のモードに対しても減衰効果を発揮する構造が望ましい。そこで、複数モードに対して減衰効果を発揮できる、本実施例に係るタービン動翼の構造について説明する。
【0029】
図3は、本実施例のタービン動翼構造を示す例である。
【0030】
図3に示すように、本実施例は周方向に隣り合う第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9間の、第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11の接触部を挟んで両側にある、第1動翼先端カバー対向面12と第2動翼先端カバー対向面13の間に、それぞれダンパー部材として粘弾性体14を設置する構造となっている。
【0031】
粘弾性体14の形状としては、本実施例では胴長の略直方体として形成されている。しかしながら、これに限定されるものではなく、対向する対向面に触接できる形状であれば良い。例えば略球形状であってもよい。
【0032】
なお、粘弾性体14の設置方法としては、
図3に示すように、第1動翼先端カバー対向面12a,b、第2動翼先端カバー対向面13a,bに設置溝15を形成することで、粘弾性体14を設置する構造とする。
【0033】
また、粘弾性体14は、第1動翼先端カバー8の設置溝15の周方向を向いた面および第2動翼先端カバー9の設置溝15の周方向を向いた面に固着させる方が望ましい。これは、粘弾性体14を両側の先端カバーに固着させることで、粘弾性体14の圧縮変形による粘弾性効果と粘弾性体14の伸び変形による粘弾性減衰の効果の両方が発揮できるためである。
【0034】
一方で、粘弾性体14を両側の先端カバーに固着させない場合でも、粘弾性体14の圧縮変形による粘弾性効果が発揮されるため、固着させなくても粘弾性効果はある。
【0035】
設置溝15の形状としては、回転中に遠心力で粘弾性体14が飛散しないように、溝15の第1動翼先端カバー8および第2動翼先端カバー9の外輪側は、塞がっている構造とする必要がある。溝構造によって粘弾性体14を設置する利点は、粘弾性体14を固着させない構造を採用する場合に、粘弾性体14が摩耗した際に交換しやすくなるため、メンテナンスの点で有利である。
【0036】
粘弾性体14は、第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11を挟んで、ロータ軸方向翼入口側および翼出口側の両側の対向面に設置する必要がある。これは、周方向振動モードで共振している場合に、片側の対向面にのみに粘弾性体14を設置している構造では、第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9間の片側の対向面にのみ粘弾性14からの荷重が作用してしまうため、第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9に偏った応力が作用してしまう可能性がある。
【0037】
また、両側の対向面に粘弾性体14を設置することで、ねじりモードに対して粘弾性減衰効果を生じるといった利点があるためである。よって、粘弾性体14は、第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11を挟んで、軸方向翼入口側および翼出口側の対向面に設置する必要がある。
【0038】
粘弾性体14の形状としては、本実施例のように溝構造を採用する場合は、粘弾性体14を設置溝15に設置する際に、設置溝15と粘弾性体14の間に部分的に隙間が生じる形状であることが望ましい。理由としては、粘弾性体14に圧縮荷重が作用した場合に、設置溝15と粘弾性体14の間に隙間が無い場合では、粘弾性体14が圧縮変形できずに、粘弾性効果が低下する可能性があるためである。
【0039】
また、粘弾性体14は、第1動翼先端カバー対向面12と第2動翼先端カバー対向面13の両側から荷重がかかった際に、第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11間で生じる摩擦減衰を妨げないように変形する必要があるが、柔らかすぎると粘弾性体14の粘弾性効果が小さくなるため、摩擦減衰と粘弾性減衰の両者の観点から最適な硬度が決定される。また粘弾性体14は、作動流体である蒸気の熱に耐えうる耐熱性を備えた部材であることが必要であり、例えばカーボンナノチューブで形成された部材などが考えられる。
【0040】
図4は、本実施例の第1の作用について説明した図である。
【0041】
図4は動翼4が周方向振動モードで共振した場合の、動翼先端カバー6の挙動を示している。なお、
図4では隣り合う動翼4が逆位相で振動した場合の動翼先端カバー6の挙動を示している。
【0042】
図4に示すように、隣り合う動翼4が逆位相で周方向に振動した場合、動翼4は21で示した矢印のように変動する。その際に、
図2および
図3で前述したように、従来の動翼先端カバー形状では、各動翼4の動翼先端カバー6は中央付近で接触しているため、接触面で摩擦減衰力22が作用して、共振振幅を減衰できる構造となっている。
【0043】
加えて、本実施例のように粘弾性体14を用いた構造では、粘弾性体14を両側から押さえつけるように動翼先端カバー6が変位した場合は、粘弾性体14が圧縮変形して23で示す矢印の方向に粘弾性減衰力が作用するため、共振振幅を減衰させるように力が作用する。
【0044】
また、粘弾性体14を両側から引っ張るように動翼先端カバー6が変位した場合は、粘弾性体14が伸び変形して24で示す矢印の方向に粘弾性減衰力が作用するため、共振振幅を減衰させるように力が作用する。
【0045】
つまり、従来の動翼先端カバー形状の摩擦減衰力22に加えて、圧縮変形による粘弾性力23と伸び変形による粘弾性力24が作用するため、本実施例のように粘弾性体14を設置することで、周方向振動モードの減衰力を高めることができるといった作用がある。
【0046】
なお、
図4は隣り合う動翼4が逆位相で振動した場合について示しているが、必ずしも逆位相の振動モードを対象にしているわけでなく、同位相以外のモードであれば減衰力が作用する。
【0047】
また、粘弾性体14が第1動翼先端カバー8または第2動翼先端カバー9に固着されていない場合は、
図4で示した伸び変形による粘弾性力24は作用しないため、圧縮変形による粘弾性力23の効果のみとなる。
【0048】
図5は、本実施例の第2の作用について説明した図である。
【0049】
図5は動翼4がねじり振動モードで共振した場合の、動翼先端カバー6の挙動を示している。なお、
図5では隣り合う動翼4が逆位相で振動した場合の動翼先端カバー6の挙動を示している。
【0050】
図5に示すように、隣り合う動翼4が逆位相で振動した場合、動翼は21に示した矢印の方向に変動する。その際に、
図5に示すように、隣り合う翼先端カバー6の対向面間の隙間は、小さくなる部分と大きくなる部分が生じる。
【0051】
本実施例のように、隣り合う動翼先端カバー6の間に粘弾性体14を用いた構造では、隣り合う翼先端カバー6の対向面間の隙間が小さくなる方向に変動した場合に、粘弾性体14を両側から押さえつけられるため、粘弾性体14が圧縮変形して23で示す矢印の方向に粘弾性減衰力が作用するため、共振振幅を減衰させるように力が作用する。
【0052】
また、隣り合う翼先端カバー6の対向面間の隙間が大きく方向に変動した場合に、粘弾性体14は両側から引っ張られるため、粘弾性体14が伸び変形して24で示す矢印の方向に粘弾性減衰力が作用するため、共振振幅を減衰させるように力が作用する。
【0053】
つまり、
図4で示した周方向振動モードの減衰力を高めること作用に加えて、ねじり振動モードに対しても減衰力が作用する。
【0054】
なお、粘弾性体14が第1動翼先端カバー8または第2動翼先端カバー9に固着されていない場合は、
図5で示した伸び変形による粘弾性力24は作用しないため、圧縮変形による粘弾性力23の効果のみとなる。
よって、本実施例により、周方向振動モードの減衰力が高まるだけでなく、ねじり振動モードに対しても減衰力が作用するため、同一構造で複数の振動モードに対して減衰効果を発揮でき、共振振幅を低減できるといった効果がある。
【実施例2】
【0055】
次に本発明の第2の実施例について説明する。
【0056】
図6は、粘弾性体をシート形状として設置した例を示す図である。ここで、先に第1の実施例で説明した構成と同等の構成については同一の符号を付して説明を省略し、先に説明した実施例と異なる箇所について説明をする。
【0057】
図6では、実施例1と同様に、周方向に隣り合う第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9が、ロータ軸方向中央部にある第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11の接触部で、軸方向を向いた面で互いに接触する構造を対象としている。
【0058】
なお、第1動翼先端カバーの対向面12と第2動翼先端カバーの対向面13は、回転時および非回転時ともに接触しない構造となっている。
【0059】
図6では、中央付近にある第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11で、軸方向を向いた面で互いに接触するため、先に説明した実施例と同様に周方向振動モードに対して、従来の翼先端カバー形状の摩擦減衰効果を保持できる。
【0060】
実施例1と異なる点は、粘弾性体14の形状と設置方法である。本実施例では、粘弾性体14の形状はシート形状で、設置方法は第1動翼先端カバーの対向面12および第2動翼先端カバーの対向面13に貼付して固着させる構造となっている。
【0061】
一方で、粘弾性体14は第1動翼先端カバーの対向面12か第2動翼先端カバーの対向面13のどちらか片方に固着させる構造でも構わない。これは、先に示した実施例と同様で、粘弾性体14の伸び変形による粘弾性効果を考慮するかしないかの差である。
【0062】
実施例1では、粘弾性体14の設置方法は、第1動翼先端カバーの対向面12および第2動翼先端カバーの対向面13に、溝15を設置する構造としたが、本実施例では、溝15を加工せず、直接第1動翼先端カバーの対向面12または第2動翼先端カバーの対向面14に粘弾性体14を固着させる方法で設置させているため、溝15を加工する必要はなく、実施例1に比較して、製造コストが低減できるといった利点がある。
【0063】
また、周方向およびねじり振動モードで、動翼4が振動した場合に、第1動翼先端カバーの対向面12と第2動翼先端カバーの対向面13で粘弾性体14が接触する面が増加するため、より広い面積で粘弾性体14に力が作用するため、減衰力が大きくなるといった利点がある。
【実施例3】
【0064】
次に本発明の第3の実施例について説明する。
【0065】
図7は、本発明の第3の実施例に係るタービン動翼構造を示す図である。ここで、先に第1の実施例で説明した構成と同等の構成については同一の符号を付して説明を省略し、先に説明した実施例と異なる箇所について説明をする。
【0066】
図7では、実施例1と同様に、周方向に隣り合う第1動翼先端カバー8と第2動翼先端カバー9が、軸方向中央付近にある第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11の接触部で、軸方向を向いた面で互いに接触する構造を対象としている。
【0067】
なお、第1動翼先端カバーの対向面12と第2動翼先端カバーの対向面13は、回転時および非回転時ともに接触しない構造となっている。
【0068】
実施例1と異なる点は、粘弾性体14の設置方法である。本実施例では、粘弾性体14を、溝15の軸方向を向いた面に固着させる構造となっている。粘弾性体14を溝15の軸方向を向いた面で固着させることで、第1動翼先端カバー接触面10と第2動翼先端カバー接触面11に隙間が生じる方向(軸方向)に振動した場合に、粘弾性体14がせん断変形して、せん断変形による粘弾性力によって減衰力が生じるといった効果がある。
【0069】
また、粘弾性体14は、必ずしも第1動翼先端カバー8の溝15と第2動翼先端カバー9の溝15の全ての軸方向を向いた面に固着させる必要はなく、第1動翼先端カバー8の溝15の軸方向上流側を向いた面と第2動翼先端カバー9の溝15の軸方向下流側を向いた面のみを固着させても、粘弾性体14がせん断変形するため、同様の効果を発揮する。
【0070】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施例1の
図3では、軸方向を向いた対向面で接触している翼先端カバー形状を対象としているが、本発明は必ずしも軸方向を向いた対向面で接触している翼先端カバー形状だけを対象としていない。例えば、接触面が周方向や斜め方向を向いている翼先端カバー形状でも構わない。要は接触面を挟んで両端に粘弾性体を設置することができれば問題ない。
【0071】
また、本発明の実施例では、ダイアフラム構造の蒸気タービンを例として説明したが、本発明はダイアフラム構造の蒸気タービンに限定されるものではなく、例えば組み立て式静翼の構造でも同様の効果が得られる。